JPWO2005001154A1 - 多元系被膜の製造安定化装置と方法および多元系膜被覆工具 - Google Patents
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Abstract
製造安定化装置および方法は、TiAlN等の融点の大きく異なる金属成分を持つ多元系被膜を、単一のルツボ(3)と収束プラズマ(7)とを用いて、高原料利用効率で、膜質良く作製する。この時、原料(4)を蒸発させるに必要な電力を最初に供給し、その後、最初の電力より順次増大した電力を、必要な最大電力に至るまで繰り返して供給する。或いは、原料を蒸発させるに必要な最初の領域にプラズマ(7)を収束させるためのプラズマ制御を行い、続いて、最初のプラズマ領域より最大のプラズマ領域に至るまでプラズマを連続的に順次移動・拡大せしめるプラズマ制御を行い、原料の未溶融部位(4b)を順次溶解させる。原料は、焼結体または圧粉成型体(4)とする。
Description
本発明は、TiAlNなどの2元素以上の金属成分をもつ窒化物、炭化物、硼化物、酸化物又は珪化物を従来技術よりも容易に製造することができる製造安定化装置と方法、ならびに同方法を用いて被膜形成した被覆工具に関する。
耐摩耗性、耐酸化性、耐食性あるいは外の何らかの機能を施すために製品表面を被覆する方法として、PVD(Physical Vapor Deposition)法が知られている。
PVD法の一形態として使用される、真空蒸着法の一部とスパッタリングプロセスを組み合わせたイオンプレーティング法は、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物等の金属化合物、又はこれらの複合物の被膜を形成する表面処理法である。この方法は、現在では、特に摺動部材および切削工具等の表面被覆法として重要である。
PVD法の一形態として使用される、真空蒸着法の一部とスパッタリングプロセスを組み合わせたイオンプレーティング法は、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物等の金属化合物、又はこれらの複合物の被膜を形成する表面処理法である。この方法は、現在では、特に摺動部材および切削工具等の表面被覆法として重要である。
従来、TiAlN膜などの金属成分を2元素以上有する窒化物などは、もっぱらアーク法もしくはスパッタリング法により製造されている。
しかし、これらの方法では、蒸発材となる合金ターゲットが高価であり、目的の膜組成に応じた組成のターゲットを用意する必要がある。また、電磁場やターゲット保持の関係から、原料の全体を使用することは困難である。加えて、アーク法においては、不可避な未反応金属ドロップレットの付着があり、膜質がよいとは言えない。スパッタリング法は、非常に平滑な被膜を作成できる反面、一般的に成膜速度が遅い。
しかし、これらの方法では、蒸発材となる合金ターゲットが高価であり、目的の膜組成に応じた組成のターゲットを用意する必要がある。また、電磁場やターゲット保持の関係から、原料の全体を使用することは困難である。加えて、アーク法においては、不可避な未反応金属ドロップレットの付着があり、膜質がよいとは言えない。スパッタリング法は、非常に平滑な被膜を作成できる反面、一般的に成膜速度が遅い。
これに対して、溶融蒸発型イオンプレーティング法(以後、溶解法と略記する)は、投入原料のほとんどを蒸発させることができ、原料金属の利用率が高いという利点がある。このため、原料単価の高い金属や、加工が困難な金属を原料にした場合に特に有利である。しかしながら、従来の溶解法は、融点の著しく異なる2種類以上の金属原料を均一に蒸発させることが困難であった。
例えばTiとAlのように、融点が大きく異なる2種類以上の金属元素を従来の方法で同一のるつぼ中で溶融させた場合、融点の低いAlが優先的に溶融蒸発し、次いでTiが蒸発する。そのため、得られる被膜の組成は融点の差に依存して、母材側の被膜は低融点金属の割合が多く、表層に向かって高融点金属の割合が多い膜となる。
このように、従来の方法では、2種類以上の金属元素で被膜形成する場合、その組成分布はもっぱら融点に依存して、膜厚方向に対して被膜の組成を制御することは難しい。母材側の被膜に対して高融点金属の割合を多くして、かつ、表面側の被膜に対して低融点金属の割合を多くするという制御は、ほとんど不可能であった。
このように、従来の方法では、2種類以上の金属元素で被膜形成する場合、その組成分布はもっぱら融点に依存して、膜厚方向に対して被膜の組成を制御することは難しい。母材側の被膜に対して高融点金属の割合を多くして、かつ、表面側の被膜に対して低融点金属の割合を多くするという制御は、ほとんど不可能であった。
特に合金製溶解材料を出発原料とした場合、厚い被膜を得るためには十分な未溶融部位が必要であり、面積の広い原料を用いることになるが、溶融部位が未溶融部位に重なって蒸発面積が少なく、溶融部位を移動させるための制御装置も大がかりなものが必要となる。
そのような状況を図3に示す。図3は、従来の合金製溶解材料を使用したTiAlN被膜の成膜状態を示している。溶解原料の合金104は、広い面積に形成され、水冷110式のルツボ103に載置されている。合金蒸気は、収束プラズマ107によってイオン化される。合金の溶融部位104aが、未溶融部位104bに大きく重なっている。
そのような状況を図3に示す。図3は、従来の合金製溶解材料を使用したTiAlN被膜の成膜状態を示している。溶解原料の合金104は、広い面積に形成され、水冷110式のルツボ103に載置されている。合金蒸気は、収束プラズマ107によってイオン化される。合金の溶融部位104aが、未溶融部位104bに大きく重なっている。
かかる課題を克服するため、例えば実開平6−33956号公報(図1)に見られるように、イオンプーイティング装置に複数の蒸発源を装着するなどの方法が採られてきた。
しかしながら、複数の蒸発源を設けるには、電源装置の追加などが必要である。また、溶解法における成膜速度は被蒸着物に対する蒸発源の距離や位置関係などに依存するが、複数の蒸発源を使用する場合、被蒸着物と複数の蒸発源との位置関係を均一にすることは難しい。そのため、組成の均一な被膜を得ることはほとんど不可能である。
しかしながら、複数の蒸発源を設けるには、電源装置の追加などが必要である。また、溶解法における成膜速度は被蒸着物に対する蒸発源の距離や位置関係などに依存するが、複数の蒸発源を使用する場合、被蒸着物と複数の蒸発源との位置関係を均一にすることは難しい。そのため、組成の均一な被膜を得ることはほとんど不可能である。
従って、TiAlNなどの融点の大きく異なる金属成分を持つ多元系被膜を、異なる金属の各成分が全膜厚にわたって所望の割合で分布するなど膜質良く形成することが望まれる。また、目的の膜組成に厳密に一致させる必要がなく、目的の膜組成にほぼ近い金属成分を持つ原材料合金を使用して、ほぼその全体を有効に使用できる、原料利用効率の高い被膜形成が好ましい。
本発明は、そのような多元系被膜形成を実現する製造安定化装置および方法、ならびに同方法を用いて被膜形成した工具を提供することを目的とする。
本発明は、そのような多元系被膜形成を実現する製造安定化装置および方法、ならびに同方法を用いて被膜形成した工具を提供することを目的とする。
本発明による製造安定化装置および方法では、少なくとも2種類以上の金属、合金もしくは金属間化合物を含む蒸発原料を単一のルツボ又はハースで溶解・蒸発させ、電界または磁界により収束されたプラズマを用いて、多元系被膜を形成する。この時、原料の一部を溶融、蒸発させ、次いで原料の未溶融部位を順次溶融、蒸発させる。
原料の未溶融部位の順次溶融、蒸発は、原料を蒸発させるに必要な最初の電力を供給し、所定時間を置いて最初の電力より順次増大した電力を、必要な最大の電力供給に至るまで繰り返し供給すること、或いは、原料を蒸発させるに必要な最初のプラズマ領域にプラズマを収束させ、次いで最初のプラズマ領域よりプラズマを順次移動・拡大せしめて最大のプラズマ領域に至るまで連続的に順次移動・拡大させて行うことが好ましい。
上記構成によると、被覆処理中に溶融部位を拡大させて、融点の低い金属を補うことができる。
その為、出発原料の組成と未溶融部位の溶解速度を制御することにより、TiAlN等の融点の大きく異なる金属の各成分が全膜厚にわたって所望の膜組成分布を持った膜質の良い被膜を得ることが可能である。蒸発原料は、目的の膜組成に厳密に一致させる必要はなく、目的の膜組成にほぼ近い、金属成分を持つ原材料合金を使用することができる。
その為、出発原料の組成と未溶融部位の溶解速度を制御することにより、TiAlN等の融点の大きく異なる金属の各成分が全膜厚にわたって所望の膜組成分布を持った膜質の良い被膜を得ることが可能である。蒸発原料は、目的の膜組成に厳密に一致させる必要はなく、目的の膜組成にほぼ近い、金属成分を持つ原材料合金を使用することができる。
原料は、焼結体または圧粉成型体にすることが好ましい。
焼結体または圧粉成型体を用いることにより、溶融部位を未溶融部位から分断できる。その為、原料は、未溶融部位を順次溶解し蒸発させて、ほぼその全体を有効に使用できるので、原料利用効率が高い。
焼結体または圧粉成型体を用いることにより、溶融部位を未溶融部位から分断できる。その為、原料は、未溶融部位を順次溶解し蒸発させて、ほぼその全体を有効に使用できるので、原料利用効率が高い。
本発明による被膜工具は、高速度工具鋼、ダイス鋼、超硬合金およびサーメット等を切削工具基材とし、この基材上に、上記発明方法により、複数の金属元素を含む窒化物、炭化物、硼化物、酸化物または珪化物被膜を形成する。
このようにして、所望の膜組成分布を持つ優れた被膜を有する被覆工具を得ることができる。
このようにして、所望の膜組成分布を持つ優れた被膜を有する被覆工具を得ることができる。
続いて、本発明を、実施例に基づいて詳細に説明する。先ず、本発明に至る経緯を述べる。
発明者らは、溶解原料として50gのTiAl合金を用いて、一般的なTiN被膜を得る条件で、TiAlN膜の形成を試みた。この時、TiAl合金は、溶融開始から数分以内に全体が溶融した。その結果得られた被膜は、母材側でAlが多く、表層にいくにしたがってTiの割合が多い組成であった。これは、Alの方がTiよりも融点が低く、優先的に溶解原料から蒸発するためである。こうして得られた被膜は、TiN膜と比較して被膜硬度が低く、密着性も悪い膜であった。
発明者らは、溶解原料として50gのTiAl合金を用いて、一般的なTiN被膜を得る条件で、TiAlN膜の形成を試みた。この時、TiAl合金は、溶融開始から数分以内に全体が溶融した。その結果得られた被膜は、母材側でAlが多く、表層にいくにしたがってTiの割合が多い組成であった。これは、Alの方がTiよりも融点が低く、優先的に溶解原料から蒸発するためである。こうして得られた被膜は、TiN膜と比較して被膜硬度が低く、密着性も悪い膜であった。
TiAl合金の重量を増やして溶融部位を原料の一部とした場合においても、融点の低いAlが優先的に蒸発して、同様な結果となった。
そこで、発明者らは、蒸発によって枯渇するAlを補給することを考えて、溶解中の溶融部位へのAlの追加投入実験などを行ってきた。しかし、溶融蒸発とAl補給のバランスを取ることが難しく、満足する結果は得られなかった。
そこで、発明者らは、蒸発によって枯渇するAlを補給することを考えて、溶解中の溶融部位へのAlの追加投入実験などを行ってきた。しかし、溶融蒸発とAl補給のバランスを取ることが難しく、満足する結果は得られなかった。
従来技術では、原料を溶解するために使用する電力は、溶解の開始時を除いて、最初に最適と選択されたほぼ一定の電力で制御するのが一般的である。
発明者らは、この電力を、溶解中に、所定時間を置いて段階的に増大させることで、未溶融部位が新たに溶融し始めて、未溶融部位に含まれる低融点金属を被膜に補充することができるのではないかと推論し、幾多の実験を重ねた結果、このことを実証できた。
発明者らは、この電力を、溶解中に、所定時間を置いて段階的に増大させることで、未溶融部位が新たに溶融し始めて、未溶融部位に含まれる低融点金属を被膜に補充することができるのではないかと推論し、幾多の実験を重ねた結果、このことを実証できた。
さらに、従来技術では、プラズマを収束させている電界または磁界を制御して未溶融部位を溶解することでも、原料を溶解するために使用するプラズマ領域は、溶解開始をのぞけば、最初に最適と選択されたほぼ一定プラズマ領域で制御するのが一般的である。
発明者らは、このプラズマ領域を、プラズマを順次移動・拡大せしめて、最初の領域より最大のプラズマ領域に至るまで連続的に移動・拡大させるプラズマ制御を行うことにより、同様の効果を得ることができるのではないかと推論し、幾多の実験を重ねた結果、このことを実証できた。
発明者らは、このプラズマ領域を、プラズマを順次移動・拡大せしめて、最初の領域より最大のプラズマ領域に至るまで連続的に移動・拡大させるプラズマ制御を行うことにより、同様の効果を得ることができるのではないかと推論し、幾多の実験を重ねた結果、このことを実証できた。
本発明は、このような発明者らの知見に基づいている。
本発明の実施例による製造安定化装置は、少なくとも2種類以上の金属もしくは金属間化合物を含む焼結体または圧粉成型体を蒸発原料とし、この原料を溶解・蒸発させて、多元系被膜を形成する。製造安定化装置は、図1に示すように、被覆する部材すなわちワーク2を収容する真空容器1と、この容器内に設けた、原料の圧粉成型体4を入れる単一のルツボないしハース3とを有する。装置にはさらに、ルツボへ電力を供給してアーク放電を行わせ、その熱とプラズマ7により原料を蒸発化・イオン化するための、HCD(Hollow Cathode Gun:ホロー陰極ガン)ガン5を含む電力供給装置6と、原料を蒸発させる際にプラズマを収束させる磁界を制御する電磁コイル8を含んだプラズマ制御装置9とが設けられている。
本発明の実施例による製造安定化装置は、少なくとも2種類以上の金属もしくは金属間化合物を含む焼結体または圧粉成型体を蒸発原料とし、この原料を溶解・蒸発させて、多元系被膜を形成する。製造安定化装置は、図1に示すように、被覆する部材すなわちワーク2を収容する真空容器1と、この容器内に設けた、原料の圧粉成型体4を入れる単一のルツボないしハース3とを有する。装置にはさらに、ルツボへ電力を供給してアーク放電を行わせ、その熱とプラズマ7により原料を蒸発化・イオン化するための、HCD(Hollow Cathode Gun:ホロー陰極ガン)ガン5を含む電力供給装置6と、原料を蒸発させる際にプラズマを収束させる磁界を制御する電磁コイル8を含んだプラズマ制御装置9とが設けられている。
本実施例の製造安定化装置は、電力供給装置6とプラズマ制御装置9を除いて、溶融蒸発型イオンプレーティング法による従来装置と同様な構成でよく、同様な構成部分はこれ以上の説明を省略する。
電力供給装置6は、供給する電力を次第に増大させて、原料の未溶融部位を順次に溶解させる順次増大電力供給が可能な構成である。
本実施例の電力供給装置6は、順次増大電力供給を行う場合、原料を蒸発させるに必要な3000Wの電力を最初に供給する。装置はその後、直前に供給した電力より500W増大した電力を、1分の所定時間を置いて供給する。こうして、500Wずつ増大した電力が、必要な最大電力8000Wに至るまで繰り返して供給され、未溶融部位を順次溶解させる。
電力供給装置6は、供給する電力を次第に増大させて、原料の未溶融部位を順次に溶解させる順次増大電力供給が可能な構成である。
本実施例の電力供給装置6は、順次増大電力供給を行う場合、原料を蒸発させるに必要な3000Wの電力を最初に供給する。装置はその後、直前に供給した電力より500W増大した電力を、1分の所定時間を置いて供給する。こうして、500Wずつ増大した電力が、必要な最大電力8000Wに至るまで繰り返して供給され、未溶融部位を順次溶解させる。
プラズマ制御装置9も同様に、原料を蒸発させる際にプラズマを収束させるための磁界の制御を変え得る構成である。
本実施例では、可変のプラズマ制御を行う場合、プラズマ制御装置9は、先ず、原料を蒸発させるに必要な最初のプラズマ領域、例えば圧粉成型体4のほぼ中心の直径10mmの領域、にプラズマを収束させる。装置はその後、直前のプラズマ領域よりプラズマを順次移動・拡大させる制御を行う。こうして、プラズマは、圧粉成型体のほぼ全部にわたる直径40mmの最大プラズマ領域に至るまで、連続的に順次移動・拡大して、未溶融部位を順次溶解させる。
本実施例では、可変のプラズマ制御を行う場合、プラズマ制御装置9は、先ず、原料を蒸発させるに必要な最初のプラズマ領域、例えば圧粉成型体4のほぼ中心の直径10mmの領域、にプラズマを収束させる。装置はその後、直前のプラズマ領域よりプラズマを順次移動・拡大させる制御を行う。こうして、プラズマは、圧粉成型体のほぼ全部にわたる直径40mmの最大プラズマ領域に至るまで、連続的に順次移動・拡大して、未溶融部位を順次溶解させる。
本発明の方法により被膜形成した工具の例を、次に示す。
〔例1〕
目的の膜組成にほぼ近い金属成分を持つTiおよびAlの混合粉末30gを、2GPaにて直径40mmの円筒形に金型成型して、蒸発原料とした。この圧粉成型体をルツボ(ハースでもよい)に入れ、加熱およびクリーニングを行った後に、約1Paのアルゴン窒素混合雰囲気中で溶融蒸発させた。この時、圧粉成型体上面のプラズマビーム径が10mm程度となるよう収束させたHCDガンを用い、プラズマ出力は8000Wまで毎分500Wずつ上昇させた。
〔例1〕
目的の膜組成にほぼ近い金属成分を持つTiおよびAlの混合粉末30gを、2GPaにて直径40mmの円筒形に金型成型して、蒸発原料とした。この圧粉成型体をルツボ(ハースでもよい)に入れ、加熱およびクリーニングを行った後に、約1Paのアルゴン窒素混合雰囲気中で溶融蒸発させた。この時、圧粉成型体上面のプラズマビーム径が10mm程度となるよう収束させたHCDガンを用い、プラズマ出力は8000Wまで毎分500Wずつ上昇させた。
同時に、プラズマビーム径を、圧粉成型体のほぼ中心の直径10mmの領域から、ほぼ直径40mmの圧粉成型体全体を覆うように、連続的に順次移動、拡大させるプラズマ制御を行い、未溶融部位を順次溶解させた。
こうして得た原料蒸気により、予め下地としてTiCNコーティングを施してあるハイスドリルおよび超硬エンドミルにTiAlN被膜を成膜した。
こうして得た原料蒸気により、予め下地としてTiCNコーティングを施してあるハイスドリルおよび超硬エンドミルにTiAlN被膜を成膜した。
得られたハイスドリルによる切削試験の結果を表1(項目:ドリル寿命)に示す。この試験は、ハイスドリルを折損寿命まで切削に用いたものである。
(ハイスドリル切削条件)
工具:φ6ハイスドリル
切削方法:穴あけ加工、各5本切削
被削材:S50C(硬さ210HB)
切削速度:40m/min、送り:0.1mm/rev
切削長さ:20m(貫通穴)、潤滑剤:乾式(無し)
(ハイスドリル切削条件)
工具:φ6ハイスドリル
切削方法:穴あけ加工、各5本切削
被削材:S50C(硬さ210HB)
切削速度:40m/min、送り:0.1mm/rev
切削長さ:20m(貫通穴)、潤滑剤:乾式(無し)
表1から明らかなように、本発明による硬質被膜ハイスドリルは、従来例と比較してほぼ倍と、寿命が非常に長くなった。これは、溶解法ではドロップレットの生成がほとんどなく、表面粗さが小さいためである。
本発明では、TiAlN等の融点の大きく異なる金属成分を持つ多元系被膜は、異なる金属の各成分が全膜厚にわたり所望の被膜分布となるなど膜質の良いものとなった。また、蒸発原料は、目的の膜組成に厳密に一致させる必要がなく、目的の膜組成にほぼ近い金属成分を持つ原材料合金を使用して、ほぼその全体を有効に使用できるので、原料利用効率が高い。
本発明では、TiAlN等の融点の大きく異なる金属成分を持つ多元系被膜は、異なる金属の各成分が全膜厚にわたり所望の被膜分布となるなど膜質の良いものとなった。また、蒸発原料は、目的の膜組成に厳密に一致させる必要がなく、目的の膜組成にほぼ近い金属成分を持つ原材料合金を使用して、ほぼその全体を有効に使用できるので、原料利用効率が高い。
図2は、この製造安定化装置における原料の圧粉成型体4の溶融状態を示している。
圧粉成型体4は、円筒状であり、水冷10式のルツボ3に載置される。真空容器内のルツボ3上はプラズマ化され、プラズマ7は原料上に収束するように制御されている。圧粉成型体4の中央部分がプラズマを生成する際の熱によって溶解して蒸発し、その蒸気はイオン化される。
出発原料に焼結体または圧粉成型体を用いた場合、原料は加熱によって見かけ上の体積が膨張し、焼結体内部または粉体の間に空隙が生じる。空隙のある焼結体または圧粉成型体は、合金材料などと比較して断熱作用が大きく、且つ、溶解した場合には体積が減少する。その為、溶融部位と未溶融部位を容易に分断することができる。
圧粉成型体4は、円筒状であり、水冷10式のルツボ3に載置される。真空容器内のルツボ3上はプラズマ化され、プラズマ7は原料上に収束するように制御されている。圧粉成型体4の中央部分がプラズマを生成する際の熱によって溶解して蒸発し、その蒸気はイオン化される。
出発原料に焼結体または圧粉成型体を用いた場合、原料は加熱によって見かけ上の体積が膨張し、焼結体内部または粉体の間に空隙が生じる。空隙のある焼結体または圧粉成型体は、合金材料などと比較して断熱作用が大きく、且つ、溶解した場合には体積が減少する。その為、溶融部位と未溶融部位を容易に分断することができる。
〔例2〕
例1の条件で超硬インサート(A30)上にコーティング処理を施し、大気中で900℃に1時間加熱保持した。このインサートの表面酸化層の厚さを測定した結果を、表1中に併記した(項目:酸化厚さ)。アーク法(従来例)と比較してドロップレットなどの被膜欠陥が少ないために、酸化の進行が遅く、酸化層の厚さも薄くなる(耐酸化性が向上する)ことがわかる。
例1の条件で超硬インサート(A30)上にコーティング処理を施し、大気中で900℃に1時間加熱保持した。このインサートの表面酸化層の厚さを測定した結果を、表1中に併記した(項目:酸化厚さ)。アーク法(従来例)と比較してドロップレットなどの被膜欠陥が少ないために、酸化の進行が遅く、酸化層の厚さも薄くなる(耐酸化性が向上する)ことがわかる。
〔例3〕
例1の条件であらかじめTiCN膜を被覆処理した超硬エンドミルに、TiAlN被膜を被覆した。超硬エンドミルは切削長60m時での逃げ面摩耗幅を測定した(表1の項目:エンドミル逃げ面摩耗)。切削諸元を次に示す。
(超硬エンドミル切削条件)
工具:φ10超硬2枚刃スクェアエンドミル
切削方法:側面切削ダウンカット
被削材:SKD61(硬さ53HRC)
切り込み:軸方向10mm、径方向0.2mm
切削速度:314m/min、送り:0.07mm/刃
切削長:60m、潤滑剤:無し(エアーブロー)
超硬エンドミルではアーク法により成膜したTiAlN膜と同等もしくは若干優れた耐摩耗性を示した。被膜の成分自体は同等であるため、ドロップレットの低減による耐酸化性の向上が寄与していると考えられる。
例1の条件であらかじめTiCN膜を被覆処理した超硬エンドミルに、TiAlN被膜を被覆した。超硬エンドミルは切削長60m時での逃げ面摩耗幅を測定した(表1の項目:エンドミル逃げ面摩耗)。切削諸元を次に示す。
(超硬エンドミル切削条件)
工具:φ10超硬2枚刃スクェアエンドミル
切削方法:側面切削ダウンカット
被削材:SKD61(硬さ53HRC)
切り込み:軸方向10mm、径方向0.2mm
切削速度:314m/min、送り:0.07mm/刃
切削長:60m、潤滑剤:無し(エアーブロー)
超硬エンドミルではアーク法により成膜したTiAlN膜と同等もしくは若干優れた耐摩耗性を示した。被膜の成分自体は同等であるため、ドロップレットの低減による耐酸化性の向上が寄与していると考えられる。
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明はこの特定の形態のみに限定されるものでなく、添付の請求の範囲内で、説明した形態を種々に変更することができ、或いは本発明が別の形態を採ることも可能である。
例えば、実施例はプラズマ化によって原料の溶融、蒸発とイオン化を行っているが、加熱領域を変更し得る加熱装置を用いて、原料の溶融、蒸発とイオン化とを別個に行ってもよい。また、実施例ではプラズマの収束制御に磁界を利用しているが、電界を用いても良いことは云うまでもない。
さらに、例1では、電力供給制御とプラズマ制御を併用して被膜形成を行っているが、いずれか一方の制御のみでも良い。
例えば、実施例はプラズマ化によって原料の溶融、蒸発とイオン化を行っているが、加熱領域を変更し得る加熱装置を用いて、原料の溶融、蒸発とイオン化とを別個に行ってもよい。また、実施例ではプラズマの収束制御に磁界を利用しているが、電界を用いても良いことは云うまでもない。
さらに、例1では、電力供給制御とプラズマ制御を併用して被膜形成を行っているが、いずれか一方の制御のみでも良い。
Claims (8)
- 少なくとも2種類以上の金属、合金もしくは金属間化合物を含む蒸発原料(4)を単一のルツボ又はハース(3)で溶融、蒸発させ、電界または磁界により収束されたプラズマ(7)を用いて多元系被膜を形成する製造安定化装置であって、前記原料を溶解・蒸発させるための電力供給装置(6)と、前記電界または磁界を制御するプラズマ制御装置(9)とを有する製造安定化装置において、
前記原料(4)の一部を溶融、蒸発させ、次いで原料の未溶融部位(4b)を順次溶融、蒸発させる手段を有することを特徴とする、製造安定化装置。 - 請求項1による装置において、前記手段は、前記原料(3)を蒸発させるに必要な最初の電力を供給し、所定時間を置いて前記最初の電力より順次増大した電力を、必要な最大の電力供給に至るまで繰り返し供給して、未溶融部位(4b)を順次溶解させるようにした逐次増大電力供給装置(6)である、製造安定化装置。
- 請求項1による装置において、前記手段は、前記原料(4)を蒸発させるに必要な最初のプラズマ領域にプラズマ(7)を収束させるためのプラズマ制御と、前記最初のプラズマ領域よりプラズマを順次移動・拡大せしめて最大のプラズマ領域に至るまで連続的に順次移動・拡大させるプラズマ制御を行い、未溶融部位(4b)を順次溶解させるようにしたプラズマ制御装置(9)である、製造安定化装置。
- 少なくとも2種類以上の金属もしくは金属間化合物を含む蒸発原料(4)を単一のルツボ又はハース(3)で溶解・蒸発させ、電界または磁界により収束されたプラズマ(7)を用いて多元系被膜を形成する製造安定化方法において、
前記原料(4)の一部を溶融、蒸発させ、次いで原料の未溶融部位(4b)を順次溶融、蒸発させることを特徴とする、製造安定化方法。 - 請求項4による方法において、前記原料(4)の未溶融部位を順次溶融、蒸発させることは、前記原料を蒸発させるに必要な最初の電力を供給し、所定時間を置いて前記最初の電力より順次増大した電力を、必要な最大の電力供給に至るまで繰り返し供給して、未溶融部位(4b)を順次溶解させることを含む、製造安定化方法。
- 請求項4による方法において、前記原料(4)の未溶融部位を順次溶融、蒸発させることは、前記原料を蒸発させるに必要な最初のプラズマ領域にプラズマ(7)を収束させ、次いで前記最初のプラズマ領域よりプラズマを順次移動・拡大せしめて最大のプラズマ領域に至るまで連続的に順次移動・拡大させて、未溶融部位(4b)を順次溶解させることを含む、製造安定化方法。
- 請求項4から6までのいずれかによる方法であって、さらに前記原料に焼結体または圧粉成型体(4)を用いることを含む、製造安定化方法。
- 高速度工具鋼、ダイス鋼、超硬合金およびサーメット等の切削工具基材と、請求項4の方法により前記基材上に形成された、複数の金属元素を含む窒化物、炭化物、硼化物、酸化物または珪化物被膜とを有する被覆工具。
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