JP4998304B2 - 電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲット - Google Patents

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本発明は、チップ、ドリル、タップ、エンドミル、ホブ、ブローチ等の切削工具の耐摩耗性を向上させた電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットに関する。
従来、超硬合金、サーメットまたは高速度工具鋼を基材とする切削工具の耐摩耗性を向上させることを目的に、TiNやTiCN、TiAlN等の硬質皮膜をコーティングすることが行われている。特に、TiとAlの複合窒化皮膜(以下、TiAlNと記す)が、優れた耐摩耗性を示すことから、前記チタンの窒化物や炭化物、炭窒化物等からなる皮膜に代わって高速切削や焼き入れ鋼等の高硬度材切削用の切削工具に適用されてきた。前記TiAlN皮膜は、Alを添加することによって膜の硬度が上昇し、耐摩耗性が向上することが知られている。
特許第2644710号 請求項1、〔0014〕、図3 特開2003−71610号公報 請求項1、請求項15 特表平11−502775報 第5頁第10〜23行目 特願2003−187564号公報(未公開) 請求項1
特許文献3には二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を硬質皮膜の表面に被覆し、硬質皮膜に潤滑膜を形成する方法が開示されている。さらに、出願人が出願中で未公開の特許文献4には、少なくとも2種類以上の金属もしくは金属間化合物を含む合金を蒸発原料とし、電界または磁界により収束されたプラズマを用いて原料を単一のルツボ又はハースから溶解・蒸発させる多元系皮膜の製造装置において、蒸発原料を蒸発させる際に原料を溶解するために用いる電力供給装置は、前記蒸発原料を蒸発させるに必要な最初の電力供給と、所定時間を置いて前記最初の電力より順次増大した電力を加えた電力の供給を、必要な最大の電力供給に至るまで繰り返して増大させて供給して、未溶融部位を順次溶解させるようにした逐次増大電力供給装置を有し、同時に、前記蒸発原料を蒸発させる際に、プラズマを収束させるために用いる電界または磁界を制御するプラズマ制御装置は、前記蒸発原料を蒸発させるに必要な最初のプラズマ領域にプラズマを収束させるために用いるプラズマ制御と、前記最初のプラズマ領域よりプラズマを順次移動・拡大せしめて最大のプラズマ領域に至るまで連続的に順次移動・拡大させるプラズマ制御を行い、未溶融部位を順次溶解させるようにしたプラズマ制御装置を有することを特徴とする溶融蒸発型イオンプレーティング法により作製する多元系皮膜の製造装置及び製造方法が開示されている。
特許文献1には、TiAlNを(Al、Ti1−X)Nと表現した場合のAlの組成比xが0.7以上でZnS型の軟質AlNが析出していることが示されている。また同特許には「Al量(x)が0.75を超える場合は、硬質皮膜がAlNに近似してくる結果、皮膜の軟質化を招き、十分な硬度が得られなくなり、フランク摩耗を容易に引き起こす」ことが記述されている。更に同特許の図3には、Al組成比と膜硬度の関係が示され、Al組成が0.6を超えた付近から硬度が低下しているが、これはAl組成比xが0.6〜0.7の間でZnS型のAlNが析出し始め、Alの組成比増加とともにZnS型AlNの析出が増加して、膜硬度が低下することを示唆している。加えて同特許には、耐酸化性について、Al組成比xが0.56以上で酸化開始温度が800℃以上となり、前記x値の増加に伴い酸化開始温度も上昇していく傾向が示されているが、硬度を考慮して規定しているAl組成比の上限:0.75においては850℃程度である。また、特許文献2では、請求項15でTi、AlおよびCrからなり、且つ相対密度が95%の硬質皮膜形成用ターゲットが開示され、さらに、特許文献2では、TiAlNにCrを添加することで岩塩構造型AlNの割合を増加させて硬度を高め、且つ耐酸化性も向上させることができると記載されているが、ここでのAl組成比の上限は0.8にとどまっている。即ち従来の方法では、Alの組成比を増加させて硬度を高めるにも限界があるため硬度と耐酸化性を同時に高めていくことができず、結果として耐摩耗性の向上にも限界があった。しかしながら、近年では、切削工具の使用条件としてより高速化・高能率化が要求されており、この様な切削工具を実現するため、更に優れた耐熱性と耐摩耗性を発揮する切削工具用硬質皮膜が求められる。
本発明の課題は、従来のTiAlNよりも高速・高能率切削が可能な、耐熱性および耐摩耗性に優れた電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットを提供することにある。
このため本発明は、(Tix、Aly、Mz)からなる電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットであって、0.5≦x≦0.8、0.2≦y≦0.5、z≦0.1、x+y+z=1、(Mは1種または2種以上の金属又は半金属元素であり、x、y、zはそれぞれTi、Al、Mの原子比を示す。以下同じ)の組成であり、且つ相対密度即ち製品完全固体に対する原料体積比が50%以上70%以下であることを特徴とする電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットを提供するものである。
特許文献2では請求項15でTi、AlおよびCrからなり、且つ相対密度が95%の硬質皮膜形成用ターゲットが開示されているが、相対密度が80%以上のものでは、溶解初期に全体が溶けて、融点の低いAlが先に蒸発して基材表面に蒸着し、融点の高いTi、Mがその上に蒸着し、表層に向かって高融点金属の割合が多い膜となるが、本発明の電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットは、相対密度が50%以上70%以下と低いので、溶解領域を順次広げることで、均一な各元素金属の割合の膜を基材表面に形成することができる電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットとなり、硬度と耐酸化性を同時に高めた硬質皮膜を形成することができるのもとなった。
なお、前記硬質皮膜の前記基材と逆側に、NiO又はDLCの潤滑機能皮膜を形成しすることにより、切削時の摩擦を減少させ、好ましい切削性能を得ることができる。
本発明の硬質皮膜形成用ターゲットの実施形態を図1を参照して説明する。図1は本発明の電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットの実施形態のTi60Al35Cr5at%の圧粉整形体を用いて高速度工具鋼角材にTiAlCrNを被覆した硬質皮膜被覆工具のX線解析写真であり、図1の横軸は回折角度で20°〜90°の範囲を示す。
本発明を実施するための最良の形態は、(Ti、Aly、M)からなる電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットであって、0.5≦x≦0.8、0.2≦y≦0.5、z≦0.1、x+y+z=1、(Mは1種または2種以上の金属又は半金属元素であり、x、y、zはそれぞれTi、Al、Mの原子比を示す。以下同じ)の組成であり、且つ相対密度即ち製品完全固体に対する原料体積比が50%以上70%以下であることを特徴とする電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットである。
図1の本発明の電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットを使用した硬質皮膜被覆工具のX線解析写真に示すように、本発明の電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットを使用した硬質皮膜被覆工具は、ZnS型の軟質AlNも含むが、岩塩構造型AlNを主体とする結晶構造を有し、硬度と耐酸化性を同時に高めた硬質皮膜被覆工具を提供するものとなった。TiAlMN皮膜の膜厚が0.5μm以上1.4μm以下であることがのぞましい。膜厚が0.5μm以上ないと効果が少なく、1.4μmを超えると割れやすくなる。
本発明の電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットを使用した硬質皮膜被覆工具は、HCDガン(Hollow Cathode Gun:ホロー陰極ガン)を使用したホローカソード放電による電子ビームを用いてターゲットを構成する金属を蒸発およびイオン化して被処理体上に本発明で規定する皮膜を形成する溶融蒸発型イオンプレーティング法において未溶融部位を順次溶解させるようにして成膜する。尚、この場合に前記被処理体に印加するバイアス電位は、アース電位に対して−50V〜−300Vとすることが好ましい。また、成膜時の被処理体温度(以下、基板温度ということがある)は300℃以上で800℃以下の範囲内とすることが望ましく、成膜時の反応ガスの分圧または全圧を0.1Pa以上2Pa以下とすることが望ましい。尚、上記反応ガスとは、窒素ガス、メタンガス、エチレン、アセチレン、アンモニア、水素、またはこれら2種以上を混合させた皮膜の成分組成に必要な元素を含むガスをいい、これら以外に用いられるArなどの様な希ガス等をアシストガスといい、これらをあわせて成膜ガスということとする。
特許文献2では請求項15でTi、AlおよびCrからなり、且つ相対密度が95%の硬質皮膜形成用ターゲットが開示されているが、従来の相対密度が80%以上のものでは、溶解初期に全体が溶けて、融点の低いAlが先に蒸発して基材表面に蒸着し、融点の高いTi、Mがその上に蒸着し、表層に向かって高融点金属の割合が多い膜となるが、本発明の電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットは、相対密度が50%以上70%以下と低いので、溶解領域を順次広げることで、均一な各元素金属の割合の膜を形成することができる電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットとなり、硬度と耐酸化性を同時に高めた硬質皮膜を形成することができるのもとなった。
本発明の実施形態では、超硬合金、サーメットまたは高速度工具鋼を基材とする切削工具の基材上に、本発明の電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットを蒸発原料とし、電界または磁界により収束されたプラズマを用いて原料を単一のルツボ又はハースから溶解・蒸発させる溶融蒸発型イオンプレーティング装置を使用し、前記電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットを蒸発させる際に原料を溶解するために用いる電力供給装置は、前記電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットを蒸発させるに必要な最初の電力供給と、所定時間を置いて前記最初の電力より順次増大した電力を加えた電力の供給を、必要な最大の電力供給に至るまで繰り返して増大させて供給して、未溶融部位を順次溶解させるようにし、又は、代わりに、前記電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットを蒸発させる際に、プラズマを収束させるために用いる電界または磁界を制御するプラズマ制御装置は、前記電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットを蒸発させるに必要な最初のプラズマ領域にプラズマを収束させるために用いるプラズマ制御と、前記最初のプラズマ領域よりプラズマを順次移動・拡大せしめて最大のプラズマ領域に至るまで連続的に順次移動・拡大させるプラズマ制御を行い、未溶融部位を順次溶解させるようにし、TiAlM(CN)からなる硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆した硬質皮膜被覆工具とすることができる。
かかる構成により、溶融原料を溶解するために使用する電力を所定時間を置いてステップさせて溶解中に増大させることで未溶融部位が新たに溶融しはじめ、未溶融部位に含まれる低融点金属を補充することができる。また、代わりに、プラズマを収束させている電界または磁界を制御して未溶融部位を溶解するために使用するプラズマ領域を最初のプラズマ領域よりプラズマを順次移動・拡大せしめて最大のプラズマ領域に至るまで連続的に順次移動・拡大させるプラズマ制御を行い、同様の効果を得ることができた。上記した構成により、被覆処理中に未溶融部位を拡大させることにより、融点の低い金属を補充することが可能となり、出発原料の組成と未溶融部位の溶解速度を制御することで所望の膜組成分布を持った皮膜を得ることが可能となった。これにより、TiAlMN等の融点の大きく異なる金属成分を持つ多元系皮膜を、目的の膜組成に厳密に一致させる必要はなく目的の膜組成にほぼ近い、金属成分を持つ原材料合金を使用して、ほぼその全体を有効に使用できるので原料利用効率が高く、異なる金属の各成分が全膜厚にわたり所望の皮膜分布が得られるなど膜質の良い硬質皮膜被覆工具とすることができる。
本発明者らは、より優れた耐熱性を発揮する切削工具用硬質皮膜の実現を目指して鋭意研究を進めた結果、1原子当たりのプラズマエネルギーを高くすることにより、Al比率が0.8を超える皮膜においても硬度が低下しないことを見出した。そして、その手段として溶融蒸発型イオンプレーティング法に着目して研究を進めた結果、上記電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットを用いることによって得たAl比率0.8〜0.95の皮膜は硬度および耐酸化性が向上し、結果として耐摩耗性が飛躍的に向上することを突き止め、前記ターゲット成分比および相対密度、ならびにプラズマエネルギの制御について更に研究を重ねた結果、上記硬質皮膜被覆工具の製造方法に想到したのである。
Ti65Al35at%の混合粉末30gを直径40mmの円筒形金型を用いて2GPaにて成形した。この圧粉成型体をるつぼに入れ、加熱およびクリーニングを行った後に約1Paのアルゴン窒素混合雰囲気中で、圧粉成形体上面のプラズマビーム直径が10mm程度となるよう収束させたHCDガンを用いて溶融蒸発させ、予め下地としてTiCNコーティングを施してある超硬エンドミルにTiAlN皮膜を成膜した(TiCN+TiAlN)。この時のプラズマ出力は3000Wから8000Wまで毎分500Wずつ上昇させ、未溶融部位を順次溶解させ(又は、代わりに、プラズマビーム径を、ほぼ直径40mmのTiAl合金板を全部を覆うまでに至るように、20分にわたり連続的に順次移動・拡大させるプラズマ制御を行い、未溶融部位を順次溶解させてもよい)、得られた超硬エンドミルによる切削試験結果を表1に示す。同様にTi60Al35Ni5at%、Ti60Al35Cr5at%の圧粉整形体を用いてTiCNコーティングを施してある超硬エンドミルにTiAlNiN、TiAlCrN皮膜を成膜し、得られた超硬エンドミルによる切削試験結果を表1に示す。超硬エンドミルは切削長20m時での逃げ面摩耗幅を測定した。切削諸元を次に示す。超硬エンドミルではアーク法により成膜したTiAlN膜と比較して耐摩耗性が飛躍的に向上した。
(超硬エンドミル切削条件)
工具:φ10超硬6枚刃スクェアエンドミル
切削方法:側面切削ダウンカット
被削材:SKD61(硬さ53HRC)
切り込み:軸方向10mm、径方向0.2mm
切削速度:785m/min、送り:0.07mm/刃
切削長:20m、潤滑剤:無し(エアーブロー)
Figure 0004998304
実施例1と同様にTi60Al35Cr5at%の圧粉整形体を用いて高速度工具鋼角材にTiAlCrN皮膜を成膜した。得られたTiAlCrN皮膜を成膜した角材のX線回折像を図1に示し、その測定条件を表2に示す。図1の横軸は回折角度で20°〜90°の範囲を示す。図1のX線回折像から判るように、本発明の硬質皮膜被覆工具はZnS型の軟質AlNも含むが、岩塩構造型AlNを主体とする結晶構造を有し、硬度と耐酸化性を同時に高めた硬質皮膜被覆工具となっている。
Figure 0004998304
実施例1と同様にTi60Al35Cr5at%の圧粉整形体を用いてTiCNコーティングを施してある超硬エンドミルにTiAlCrN皮膜を成膜した。基材と逆側にTiAlCrN皮膜の上に、DLCの潤滑機能皮膜を形成し、実施例1と同様な超硬エンドミルよる切削試験を行ったところ、表1のTiCN+TiAlCrNの本発明品より、エンドミル逃げ面摩耗は約3%少なかった。
本発明の電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットの実施形態のTi60Al35Cr5at%の圧粉整形体を用いて高速度工具鋼角材にTiAlCrNを被覆した硬質皮膜被覆工具のX線解析写真であり、図1の横軸は回折角度で20°〜90°の範囲を示す。
○ AlN(NaCl構造)、△AlN(ZnS構造)

Claims (1)

  1. (Tix、Aly、Mz)からなる電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲットであって、0.5≦x≦0.8、0.2≦y≦0.5、z≦0.1、x+y+z=1、(Mは1種または2種以上の金属又は半金属元素であり、x、y、zはそれぞれTi、Al、Mの原子比を示す。以下同じ)の組成であり、且つ相対密度即ち製品完全固体に対する原料体積比が50%以上70%以下であることを特徴とする電子ビームを用いた溶解法による硬質皮膜形成用ターゲット。
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