JPWO2003094639A1 - ニトロソアミンを低減する微生物および該微生物を利用したニトロソアミンを低減する方法 - Google Patents

ニトロソアミンを低減する微生物および該微生物を利用したニトロソアミンを低減する方法 Download PDF

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Abstract

葉タバコに対して、スフィンゴモナス・パウシモビリス種およびシュードモナス・フルオレッセンス種に属する微生物からなる群より選択されるTSNAを低減する微生物を処理することを特徴する葉タバコのTSNA含量を低減する方法。

Description

技術分野
本発明は、収穫した葉タバコの乾燥中および貯蔵中に生成されるニトロソアミンを分解する微生物と、該微生物を利用した葉タバコ乾燥および/または貯蔵中に生成するニトロソアミンの低減方法に関する。
背景技術
葉タバコに含まれるニトロソアミン(Tobacco Specific Nitrosamine;以下、TSNAと記す)は、収穫直後の葉タバコ(即ち、緑の生葉)には存在しないが、乾燥期間とその後の貯蔵期間中に、葉タバコ中のアルカロイドと亜硝酸態窒素の反応によって生成される。この亜硝酸は、葉タバコ表面に生存する硝酸還元能を有する微生物により生成される。
また、この乾燥およびその後の貯蔵過程において生成されるTSNAの主成分は、N’−ニトロソノルニコチン(以下「NNN」という)、4−(N’−ニトロソメチルアミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノン)(以下「NNK」という)、N’−ニトロソアナタビン(以下「NAT」という)およびN’−ニトロソアナバシン(以下「NAB」という)等である。
葉タバコ中のTSNA含量を低減する方法として従来から知られる方法には(1)TSNAの生成を抑制する方法、(2)生成されたTSNAを除去する方法がある。
TSNAの生成を抑制する方法としては、例えば、窒素肥料を低減することによって葉タバコ中のアルカロイド含有量を低くする方法、直熱方式に換えて間熱方式の乾燥機を用いることによって乾燥中に生成するTSNAを低減する方法(これは主に黄色種に用いられる)、アルカロイド含量の低い品種を開発するなどの育種技術の向上により得られる方法などがある。
また最近では、マイクロ波を照射して葉タバコを乾燥することにより、TSNAの生成を抑制する方法も報告されている(特表2001−503247)。しかし、マイクロ波処理のような急激な脱水・乾燥を行うと、本来乾燥中に生ずる内容成分の変化が充分に行われないことになり、従来の方法で乾燥したものより、急乾に仕上がり、喫味に問題が残ってしまう。
一方、生成されたTSNAを葉タバコから除去する方法は、TSNAの生成を抑制する方法に比べてその例は少なく、例えば、超臨界抽出によって葉タバコからTSNAを除去する方法(WO01/65954)が知られている。しかしながら、この方法はコストの面から実用化には至っていない。
以上の状況から、葉タバコの乾燥および貯蔵中に生成すると認識されているTSNAの含量を低減することが望まれている。
併せて、たばこ(シガレット)の原料である葉タバコとして消費に適した喫味を維持したものでTSNA含量の少ないものが求められている。
従って、本発明は、現在行われている乾燥および貯蔵形態の中において、乾燥および貯蔵中に生成したTSNAの含量を低減する方法を提供するものである。
また、従来、ニトロソアミンを分解するものとして、醤油もろみ中から分離した糸状菌であるアスペルギルス属微生物が知られている(特開平10−276681号)が、アスペルギルス属微生物は生存に高水分を必要とすること、そして葉タバコの品質、特に香喫味に悪影響を及ぼす恐れがあり、葉たばこの処理に用いることについては問題が指摘されている。
発明の開示
本発明の第1の態様に従うと、葉タバコに対して、スフィンゴモナス・パウシモビリス種およびシュードモナス・フルオレッセンス種に属し、TSNAを低減する能力を有する微生物からなる群より選択される微生物を処理することを特徴する葉タバコのTSNA含量を低減する方法が提供される。
本発明の第2の態様に従うと、葉タバコに対して、スフィンゴモナス・パウシモビリスLG5菌株およびシュードモナス・フルオレッセンスLG38菌株からなる群より選択される微生物を処理することを特徴する葉タバコのTSNA含量を低減する方法が提供される。
本発明の第3の態様に従うと、スフィンゴモナス・パウシモビリスまたはシュードモナス・フルオレッセンスに属し、葉タバコの乾燥および貯蔵中に生成するN’−ニトロソノルニコチン、4−(N’−ニトロソメチルアミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノン)、N’−ニトロソアナタビンおよびN’−ニトロソアナバシンからなる群より選択される少なくとも1成分の葉タバコ中の含量を低減する能力を有する微生物が提供される。
本発明の第4の発明に従うと、葉タバコ中のTSNA含量を低減するスフィンゴモナス・パウシモビリスLG5菌株(FERM BP−7830)が提供される。
本発明の第5の発明に従うと、葉タバコ中のTSNA含量を低減するシュードモナス・フルオレッセンスLG38菌株(FERM BP−7831)が提供される。
発明を実施するための最良の形態
本発明者らは、鋭意研究の結果、葉タバコ乾燥中および貯蔵中におけるTSNAの生成過程を解明している中において、葉タバコ表面に存在する微生物にTSNAを分解する微生物が存在することを見いだし、発明を完成した。
本発明者は、乾燥中の葉タバコにおけるTSNAの生成過程を解明する過程において、葉タバコ表面に存する微生物から、生成したTSNAを分解する微生物を分離した。更に、乾燥中の葉タバコおよび/または乾燥が終了し貯蔵に供される葉タバコに対して該微生物を処理することによって、葉たばこ中のTSNAの含量を低減できることを見い出した。
それらの微生物のうち特に活性の高い2種類の微生物が、その菌学的性質から、それぞれスフィンゴモナス・パウシモビリス(Sphingomonas paucimobilis)、およびシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)に属する微生物と同定された。これらの微生物について、本発明者らは、スフィンゴモナス・パウシモビリス菌株をLG5(以下「LG5」または「LG5菌株」という)と、シュードモナス・フルオレッセンス菌株をLG38(以下「LG38」または「LG38菌株」という)と命名した。LG5は受託番号FERM BP−7830として、LG38は受託番号FERM BP−7831として2001年12月18日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託された。
これらの微生物は乾燥および/または貯蔵中の葉タバコ品質に悪影響を及ぼさないものであり、且つTSNAを低減する効能を有するものである。
さらに、本発明に従う方法は、現在の葉タバコ乾燥法を何ら変更することなく、微生物を処理し達成できるものであることから、現行の葉タバコの品質および喫味を維持できるものである。
これらの菌株の活性は、次の通りである。
LG5は、TSNAの成分うち、NNKを特異的に分解する活性を有する。また、LG38は、主な成分であるNNN、NNK、NATおよびNABを分解する活性を有している。
本発明に従って処理される葉タバコは、通常の乾燥操作を行うものであれば何れの品種であってもよく、具体的には自然乾燥される品種であるバーレー種および在来種、装置乾燥される黄色種をあげることができる。しかしながら、これに限定されるものではない。
本発明に従う微生物を処理する時期は、葉たばこ中にTSNAが生成される直前からシガレットに加工されるまでの間であればいつでもよいが、葉タバコの乾燥期間および/または貯蔵期間が好ましい。特に乾燥での処理する時期としては、TSNAの生成する時期以前である乾燥過程での収穫直後から黄変期および褐変期に処理するのが好ましいが、乾燥過程中であれば何れの時期も可能である。貯蔵期間での処理は、貯蔵期間中であればいつでもよいが、乾燥後の貯蔵開始時に処理するのが好ましい。基本的には、実施者が、乾燥開始時から貯蔵期間中において任意に選択することができる。
また、収穫直前にほ場で処理後、収穫し、乾燥に供することでも可能である。
また、本発明に従って行われる微生物の処理は、1回に限るものではなく、期間中一定期間ごとに連続的に行ってもよい。
なお、本発明の処理は、乾燥および/または貯蔵中の処理に限るものではなく、製品化の過程において処理を行うことも可能である。
本発明に従う処理とは、微生物を懸濁した液の噴霧、微生物の菌体を含む粉末の塗布等、それ自体公知の何れの方法によって行ってもよく、実施者が適宜な方法を選択してよい。また、微生物を含む液体に葉タバコを浸漬してもよい。
上述したとおり、本発明に好ましく使用される微生物は、LG5菌株およびLG38菌株である。しかしながら、本発明はこれらの菌株に限定されるものではなく、スフィンゴモナス・パウシモビリス種およびシュードモナス・フルオレッセンス種に属し、TSNAを低減する能力を有する微生物であれば本発明の範疇である。
ここで使用される「低減」するとは、葉タバコ中のTSNAの含量を低減することを意味し、たとえば、葉タバコの乾燥および貯蔵中に生成したTSNA各成分を分解するものであればよい。
本発明に使用する微生物を培養する培地としては、微生物培養用としての公知の各種培地を用いることができる。
本発明に使用する微生物を培養する培養条件としては、温度が25〜35℃の範囲、pHが6.0〜8.0の範囲にあればよく、好ましくは温度が28〜32℃、pHが7.0前後範囲である。
本発明の微生物は、一定期間培養した後で、これを遠心分離することにより集菌する。
集菌した菌体は、緩衝液に懸濁して使用してもよく、凍結乾燥等により粉末状にして使用してもよい。
集菌した菌体を特定の緩衝液に懸濁して菌液を作成する場合には、緩衝液として例えば、滅菌蒸留水およびリン酸緩衝液等を使用できる。
本菌体を緩衝液に懸濁する割合としては、緩衝液1ml当たり、10〜1012個、好ましくは10〜1010個である。そのような濃度に菌体を懸濁して用いることが好ましい。
本発明に従うと、上記により得た菌体を用いて葉たばこの処理を行えばよい。
必要な菌量を含有した上記菌液に滅菌蒸留水を加えて接種液を作成し、この接種液を葉タバコに均一に噴霧する。この処理は、乾燥から貯蔵の期間であれはどの時期でも可能である。自然乾燥種の場合は、乾燥期間全般および乾燥終了後の貯蔵時期、装置乾燥種の場合は、乾燥初期の黄変期および乾燥終了後の貯蔵時期に処理する。好ましくは、乾燥過程における黄変期さらに自然乾燥の場合には、褐変期に処理するのがよい。
散布量は、上記により作成した液量を葉タバコ1枚あたり、収穫直後および乾燥初期では2〜10ml、乾燥中期以降では0.5〜3mlである。
処理回数は、乾燥および/または貯蔵期間中に少なくとも1回であればよく、乾燥および/または貯蔵期間中に間隔をおいて2〜3回処理することが好ましい。
本発明の態様に従うと、当該微生物を処理すること以外、乾燥条件の大きな変化はないので、本来の味に影響を与えることなくTSNA含量を低減することが可能である。
実施例
実施例1
例1.葉タバコ表面からの微生物の分離
栃木県小山市のタバコ畑の収穫時から乾燥期間中の葉タバコから微生物を採取した。
菌の採取は、葉タバコの収穫直後、乾燥3日目(即ち、黄変終了)および8日目(即ち、褐変終了)の3回行った。
バーレー種であるみちのく1号の本葉を収穫し、収穫した葉タバコの葉肉部分の一部を切り取りサンプルとした。得られたサンプルを5mm角に細断し、その約10gを300mlの三角フラスコに採取した。200mlの10mMリン酸緩衝液(pH:7.0)を添加し、これをホモジナイザーで粉砕した。得られた懸濁液を、収穫時の葉タバコからの微生物を含む収穫時懸濁液とした。
乾燥期間中(即ち、黄変終了:乾燥3日目、褐変終了:乾燥8日目)の葉タバコからの微生物採取は、前記の収穫した葉タバコの乾燥中の葉タバコを用いて、収穫時葉タバコと同様に行った。即ち、前述の収穫されたみちのく1号の本葉をパイプハウスにつり込み後、3日および8日経過した葉タバコの葉肉部分の一部を切り取りサンプルとした。得られたサンプルを5mm角に細断し、その約10gを300mlの三角フラスコに採取した。200mlの10mMリン酸緩衝液(pH:7.0)を添加し、これをホモジナイザーで粉砕した。得られた懸濁液を乾燥期間中の葉タバコからの微生物を含む乾燥時懸濁液とした。
何れの時期に採取した葉タバコについてのホモジナイザーによる粉砕も、サンプリングから2時間以内に行った。
収穫時懸濁液と乾燥期懸濁液を、それぞれ、微生物が分離できる濃度(即ち、10〜10倍)に上述と同様のリン酸緩衝液を用いて希釈した。得られた希釈液をYG寒天平板培地(組成は、以下の通りである;1.0gの酵母エキス、1.0gのグルコース、0.3gのKHPO、0.2gのKHPO、0.2gのMgSO・7HO、15.0gの寒天、蒸留水で1000mlに調製する。pH6.8)に0.1mlずつ滴下して塗抹し、これを30℃で7日間培養した。培養後、生育したコロニーを新しいYG寒天平板培地を用いて単一コロニーに分離した。分離された微生物は使用時まで−80℃で保存した。
このようにして、収穫時葉タバコからは87菌株、褐変期葉タバコから176菌株の微生物を分離した。これらの分離菌株から、コロニー形態の異なる菌株を選択して以後の実験に用いた。
例2.TSNA分解微生物の一次選抜
上記例1で分離した葉面由来の菌株のうち、収穫期の葉タバコから分離した14菌株と乾燥期葉タバコから分離した37菌株の合計51菌株を一次選抜の候補菌株として選抜した。
(1)培地の選択
TSNA分解微生物を選抜するための培地の検討を行った。
前記例1において選抜された菌株を用いて、TSNAの各成分(NNN、NNK、NATおよびNAB)を含む培地について、菌株の増殖に関する検討を行った結果、1/10TS液体培地を基礎培地とした場合が最も良好な結果を得られた。従って、以後の培養には、1/10TS液体培地を基礎培地として用いた。以下に、まず1/10TS液体培地組成を示し、続いて、培養に用いた1/10TS液体培地と微生物とを含む培地の組成を記載する。
Figure 2003094639
上記の選抜用培地は次の方法により調製した。各1000ppmのNNN、NAT、NAB及びNNKを含むジクロロメタン溶解液を150μlずつ三角フラスコに添加し、ジクロロメタンを完全に揮発させた。次に1/10TS液体培地を添加して、NNN、NAT、NABおよびNNKの濃度を各々5ppm/10mlとなるように調製した。NNN、NAT、NABおよびNNKを溶解した後、30mlずつ50mlの三角フラスコに分注した。次に、接種用微生物懸濁液を5ml添加して、最終容量が35mlの選抜用培地を得た。これらを24時間、30℃で振とう培養した。
(2)TSNA分解微生物の一次選抜
上記で選抜された培地を用いて、TSNA分解微生物の一次選抜を行った。
一次選抜の候補菌株を、それぞれ1/10TS液体培地中で振とう培養し、その後遠心集菌した。各菌体を滅菌蒸留水で2回洗浄した後、再度滅菌蒸留水に懸濁した。次に、菌濃度が10〜1010cfu/mlとなるように、滅菌蒸留水を用いて各懸濁液を調製した。
得られた微生物懸濁液を、由来毎に5〜10菌株ずつ混合して7グループの選抜用懸濁液を調製した。
TSNA分解菌選抜用培地には、上記の1/10TS液体培地を用い、前記7グループの微生物懸濁液を用いる以外は、上記例1と同様の方法によって調製した。
コントロールには微生物懸濁液に代えて滅菌蒸留水を5ml添加した。
これらの7グループの微生物懸濁混合処理区とコントロール区を30℃で24時間の振とう培養を行った。
その後、TSNA各成分の含量を定量した。
TSNA各成分の定量は次の方法により行った。即ち、それぞれの培地から得られた試料に含まれるNNN、NAT、TABおよびNNKを、改良されたSpiegelhalderの方法に準じたガスクロマトグラフィによって定量した(Spiegelhalder B.,Kubacki S.and Fischer S.(1989)Beitr.Tabakforsch.Int.,14(3),135−143,Fisher S.and Spiegelhalder B.(1989)Beitr.Tabakforsh.Int.,14(3),145−153)。
まず、カラムクロマトグラフィを用いて以下のようにそれぞれの培地を精製した。最初に、ろ紙(ADVANTEC、No.5C)を用い全ての培地を濾過した。各濾液の10mlを、キーゼルグール(粒径60−160mm、MERCK社製)およびアスコルビン酸を充填したカラムに添加した。ジクロロメタンを用いて必要な画分を転溶して分取した。これをガスクロマトグラフィ用の試料とした。得られた試料について、カラムDB−17(J&W社)、検出器TEA−543(Thermedics社)を装備したガスクロマトグラフィHP6890(Hewlett Packard社製)を用いて分析した。
上記の7グループの処理区とコントロール区のTSNA各成分含量の定量結果を表1に示す。
Figure 2003094639
なお、表中のグループ1および2は、収穫直後の葉タバコ表面から採取した菌株の混合懸濁液、グループ3、4および5は、乾燥初期の黄変期(3日目の葉タバコ表面から採取した菌株)、グループ6および7は褐変期(8日目の葉タバコ表面から採取した菌株)からの混合処理区である。表中の%は、コントロール区を100%とした場合の各処理区におけるTSNA各成分の含量%を示すものである。
表1から明かであるように、いずれの微生物混合処理区のTSNA含量も、コントロール区のTSNA含量と比較して減少した。特に、総TSNA量については、グループ1および2は、それぞれコントロール区に比較してそれぞれ47.87%および64.95%にまで減少した(表1)。
これらの結果から、葉面微生物から有用なTSNA分解微生物が複数分離されたことが明らかになった。
例3.TSNA分解微生物の二次選抜
上述の例2の結果から、TSNA分解能に優れていたグループ1と2について更に二次選抜試験を行った。
グループ1と2に含まれる14菌株の微生物個々についてのTSNA各成分の分解能を調査した。
1/10TS液体培地に混合する微生物懸濁液に含まれる微生物の数を上記例1で採取した微生物1菌株とした以外は、上記例2に記載の方法と同様な方法を用いて各菌株のTSNA各成分の分解能を調査した。
なお、各定量は2回の反復の平均で行った。
得られた結果を表2に示す。
Figure 2003094639
表2から明らかなようにLG38菌株、LG48菌株、LG51菌株およびLG43菌株はTSNAの主4成分、即ち、NNN、NAT、NABおよびNNKを分解する能力を有し、特にLG38菌株は、NNN、NAT、NABおよびNNK成分をそれぞれ67.43%、75.40%、66.66%および60.63%まで低減し、トータルでも68.00%までTSNA含量を低減することができた。
また、LG2菌株、LG5菌株およびLG77菌株はTSNA成分のうちNNKを特異的に分解する能力を有し、特にLG5菌株はNNK含量を3.24%までに低減する能力を有している菌株であった。
これらの結果から、NNKを特異的に分解するLG5菌株とTSNA各成分を特異的に分解するLG38菌株を選抜した。
これらの微生物を用いることにより、葉タバコのTSNAを低減することが可能であると示唆された。また、これらの微生物はたばこの葉から分離されたため、葉タバコに対する定着性に優れており、従って、葉タバコにおけるTSNA分解活性が安定して得られると考えられる。
例4.微生物の同定
上記で選抜したLG5およびLG38菌株についての菌学的性質を表3、表4に示す。
Figure 2003094639
Figure 2003094639
これらの結果から、LG5菌株はスフィンゴモナス・パウシモビリ(Sphingomonas paucimobilis)に属し、LG38菌株はシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)に属するものであると同定された。
なお、上記の菌の同定は日本食品分析センターに依頼して行った。
また、LG5は、特許生物寄託センターに寄託を行い、2001年12月18日受託された(受託番号:FERM BP−7830号)。同様にLG38は、特許生物寄託センターに寄託を行い、2001年12月18日に受託された(受託番号:FERM BP−7831号)。
実施例2:LG38菌株による乾燥期間中のTSNA含量低減
1/10TS液体培地にLG38菌株を接種し、30℃で72時間培養した。培養後、この菌体を含む培地を5,000rpmで遠心し、菌体を分離および集積した。菌体を滅菌蒸留水で2回洗浄した後で、再度滅菌蒸留水に懸濁した。懸濁液の菌体濃度を滅菌蒸留水で希釈し、10〜1010cfu/mlに調整した。
所要の菌数に調整した懸濁液を、収穫して乾燥に供したバーレー種(きたかみ1号)の葉タバコに対して処理した。処理時期は、収穫直後、収穫後3日目、および収穫後8日目の3回で、葉タバコ1枚当たり10mlになるように葉タバコの表裏に噴霧器を使用して噴霧処理した。
葉タバコの乾燥はパイプハウスを使用して行った。乾燥10日目と、21日目に処理葉を採取した。採取した葉タバコを葉肉(ラミナ)と中骨(ステム)に分離した後、これらをミキサーを使用して粉砕した。TSNA含量の定量には葉肉を使用した。
TSNA4成分量(NNN、NNK、NATおよびNAB)の定量は、例2に記載した方法と同様により行った。
なお、総TSNA量は4成分(NNN、NNK、NATおよびNAB)の合計値で示した。結果を表5に示す。
Figure 2003094639
表5の水処理区とは、処理に際し、菌体を含有しない緩衝液のみで処理したものである。
表5から、TSNA含量は各区とも日数の経過と共に増加し、特に水処理区の増加が著しいことが分かった。LG38菌株区は無処理区と比較して、21日目には無処理区よりもTSNA含量が低下していた。
これらの結果から、LG38菌株はTSNA含量を低減させる能力を有することが示唆された。
また.亜硝酸態窒素含量におけるLG38の影響を調べた。
前述のように処理した葉タバコでの亜硝酸態窒素含量の定量を行った。定量の方法は次に示す。
まず、各区の葉タバコの葉肉0.5gを50ml溶遠沈管に採取した。次に、下記に示す抽出液25mlを添加し、30分間振とうして、亜硝酸態窒素を抽出した。抽出液をろ紙(ADVANTEC、No.1)を用いて濾過した後、濾液10mlを採取し、そこに活性炭0.5gを添加して15分間振とうした。その後、ろ紙(ADVANTEC、No.5C)を用いて濾過し、活性炭を除去した。得られた濾液を亜硝酸態窒素定量用試料として用いた。
Figure 2003094639
抽出液中の亜硝酸態窒素の定量には、オートアナライザー(BRAN+LUEBBE社製、AACSII)を使用し、550nmのフィルターの透過率から亜硝酸態窒素の含量を換算した。尚、亜硝酸態窒素の発色には、1%のスルファニルアミドと0.1%のN−ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩を使用した。結果を表6に示す。
Figure 2003094639
表6から明らかであるように、TSNA生成の原因物質である亜硝酸態窒素の含量は、乾燥10日目において、水処理区では著しく増加しているが、それに比較して、LG38菌株区では無処理区よりも僅かではあるが亜硝酸態窒素の含量が低下していた。
LG38菌株は、菌学的性質からは硝酸還元能を有する菌株であると同定されたが、上記の結果から、無処理区よりは、硝酸態窒素から亜硝酸態窒素への還元を抑制していることが示唆された。
実施例3:LG5菌株によるNNK低減効果
実施例2の5の方法において使用した微生物をLG5に代えた以外は、実施例2に記載の方法と同様にしてNNK含量を定量した。
結果を表7に示す。
Figure 2003094639
表7より明らかであるように、NNK含量は、無処理区では21日までは増加していたが、32日目(乾燥終了時)には、21日目よりも低下していた。水処理区、LG5菌株区ともに21日目までは高い含量を示していたが、無処理区と同様に32日目には21日目の含量よりも低下していた。LG5菌株区の32日目含量は、無処理区の含量より僅かではあるが低下していた。これらの結果から、LG5菌株はNNK含量を低減する能力を有していることが示唆された。
ここで引用される文献は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
更なる利益および変更が当業者によって容易に想到されるであろう。従って、そのようなより広い範囲を有する本発明は、ここに示し且つ記載された詳細且つ代表的な態様によって限定されるものではない。従って、添付された請求の範囲およびそれらの等価物によって限定されるような全般的な発明の思想の精神および範囲から逸脱することなく種々の変更が可能である。
実施例4:TSNA分解菌処理による葉タバコ粉末中のTSNA含量への影響
1/10TS液体培地に、LG5菌株およびLG38菌株を各々接種し、30℃で72時間培養した培養後、これら菌体を含む培地を5,000rpmで遠心し、菌体を集めた。菌体を減菌蒸留水で2回洗浄後、再度、滅菌蒸留水に懸濁した。菌体濃度を10〜10cfu/mlに調整した微生物懸濁液を接種源とした。
LG5菌株の実験には、栃木県小山市日本たばこ産業(株)葉たばこ研究所で栽培した乾燥タバコ(品種:きたかみ1号)の合葉着位の凍結乾燥粉末を、LG38菌株の実験には本葉着位の凍結乾燥粉末を供試した。
各々のタバコ粉末を乳鉢に量り取り、所定の水分含量になるように微生物懸濁液を添加した。乳棒で粉末中の水分含量が均一になるように混合した。接種粉末を三角フラスコに量り入れ、所定の温度で静置した。
分析は、処理前に採取した試料と静置後4週間後に採取した試料について分析した。各々の試料の5gを200ml容三角フラスコに量り取り、0.01MNaOH溶液(Thimerosal:100μg/ml含有)を100ml加え、振とう機により室温で2時間抽出した。その後、ろ紙(ADVANTEC社、No.5C)を用いて抽出液をろ過した。
ついでTSNAの4成分量(NNN、NNK、NAT及びNAB)を実施例1に記載の方法で分析した。
処理前と静置後4週間後のTSNA含量を表8および表9に示す。
Figure 2003094639
Figure 2003094639
上記の実験より、LG5菌株はTSNAの4成分の中でNNKを特異的に分解し、LG38菌株は、TSNAの4成分全てを分解した。
LG5菌株を処理した合葉粉末の4週間後のNNK含量は、処理前より減少していた。LG38菌株を処理した本葉の4週間後のNNNおよびNAT含量を処理前と比較すると、2成分ともいずれの処理区でも減少していた。タバコ粉末を供試した実験においても、前述の実験と同様にLG5菌株はNNKを分解し、LG38菌株はNNNおよびNATを分解した。
実施例5:TSNA分解菌処理による貯蔵葉たばこ中のTSNA含量への影響
LG38菌株を1/10TS液体培地に接種し、30℃で72時間培養した。培養後、菌体を含む培地を5,000rpmで遠心し、菌体を集めた。菌体を滅菌蒸留水で2回洗浄後、再度滅菌蒸留水に懸濁した。菌体濃度を10〜10cfu/mlに調整した微生物懸濁液を接種源とした。
微生物懸濁液を、パイプハウスで乾燥中のバーレー種の葉タバコ(中骨乾乾燥末期、乾燥29日目、品種:きたかみ1号)の表裏に1枚当たり10mlずつ、噴霧器を使用して処理した。処理した葉タバコを3日間パイプハウスで乾燥した後、貯蔵試験に供試した。
分析試料の採取:貯蔵を開始する前に、パイプハウスから取降ろした葉タバコ乾棄の半葉葉肉を採取し、処理前サンプルとした。残りの中骨が付いた半葉葉肉について貯蔵した。貯蔵は、一定の条件に設定した恒温恒湿を使用した。貯蔵の条件として、温度20℃湿度70%、温度20℃湿度80%、温度30℃湿度80%の三区を設定した。貯蔵後一ヶ月、三ヶ月後にサンプリングした。微生物を処理せずに上記と同様の条件で貯蔵した乾葉を対照区とした。採取した葉タバコを、葉肉と中骨に分離した後、凍結乾燥した葉肉のサンプルを、ミキサーを使用して粉砕した。TSNA含量の定量には葉肉のサンプルのみを使用した。
前述の処理をした各区の葉肉サンプル約5gを200ml容三角フラスコにはかり取り、0.01MNaOH溶液(Thimerosal:100μg/ml含有)を100ml加え、振とう機により室温で2時間抽出した。その後、ろ紙(ADVANTEC社、No.5C)を用いて抽出液をろ過した。
TSNAの4成分量(NNN、NNK、NAT及びNAB)の定量は、実施例1に記載の方法により分析した。
結果を、表10に示す。
Figure 2003094639
無処理区の貯蔵1ヶ月後では、20℃、70%区および30℃、70%区で増加した。特に、3ヵ月後で30℃、70%および30℃、80%区で大きく増加した。LG38菌株処理区では、1ヶ月、3ヶ月後に減少する傾向が見られた。特に、貯蔵1ヶ月後では大きく減少していた。

Claims (15)

  1. 葉タバコに対して、スフィンゴモナス・パウシモビリス種およびシュードモナス・フルオレッセンス種に属し、TSNAを低減する能力を有する微生物からなる群より選択される微生物を処理することを特徴する葉タバコのTSNA含量を低減する方法。
  2. 前記TSNAを低減する微生物を処理することが、葉タバコの収穫直前および/または乾燥期の開始時から貯蔵期の終了時までの間に行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 前記TSNAを低減する微生物を処理することが、懸濁液または乾燥菌体の何れかの状態にある前記微生物の菌体を、散布または塗布の何れかの方法によって行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  4. 前記TSNAを低減する微生物を処理することが、懸濁液または乾燥菌体の何れかの状態にある前記微生物の菌体を、散布または塗布の何れかの方法によって行われることを特徴とする請求項2に記載の方法。
  5. 前記TSNAが、N’−ニトロソノルニコチン、4−(N’−ニトロソメチルアミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノン)、N’−ニトロソアナタビンおよびN’−ニトロソアナバシンからなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  6. 前記葉タバコが、在来種およびバーレー種からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の葉タバコのTSNA含量を低減する方法。
  7. 葉タバコに対して、スフィンゴモナス・パウシモビリスLG5菌株およびシュードモナス・フルオレッセンスLG38菌株からなる群より選択されるTSNAを低減する微生物を処理することを特徴する葉タバコのTSNA含量を低減する方法。
  8. 前記TSNAを低減する微生物を処理することが、葉タバコの収穫直前および/または乾燥期の開始時から貯蔵期の終了時までの間に行われることを特徴とする請求項7に記載の方法。
  9. 前記TSNAを低減する微生物を処理することが、懸濁液または乾燥菌体の何れかの状態にある前記微生物の菌体を、散布または塗布の何れかの方法によって行われることを特徴とする請求項7に記載の方法。
  10. 前記TSNAが、N’−ニトロソノルニコチン、4−(N’−ニトロソメチルアミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノン)、N’−ニトロソアナタビンおよびN’−ニトロソアナバシンからなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
  11. 前記葉タバコが、在来種およびバーレー種からなる群より選択されることを特徴とする請求項7に記載の葉タバコのTSNA含量を低減する方法。
  12. スフィンゴモナス・パウシモビリスまたはシュードモナス・フルオレッセンスに属し、葉タバコの乾燥および貯蔵中に生成するN’−ニトロソノルニコチン、4−(N’−ニトロソメチルアミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノン)、N’−ニトロソアナタビンおよびN’−ニトロソアナバシンからなる群より選択される少なくとも1成分の葉タバコ中の含量を低減する能力を有する微生物。
  13. 葉タバコ中のTSNA含量を低減するスフィンゴモナス・パウシモビリスLG5菌株(FERM BP−7830)。
  14. 葉タバコ中のTSNA含量を低減するシュードモナス・フルオレッセンスLG38菌株(FERM BP−7831)。
  15. 葉タバコに対して、スフィンゴモナス・パウシモビリス種およびシュードモナス・フルオレッセンス種に属し、TSNAを分解する能力を有する微生物からなる群より選択される微生物を処理することを特徴する葉タバコのTSNA含量を低減する方法。
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