JPH1111292A - 車輪挙動量サーボ制御装置及び限界判定装置 - Google Patents

車輪挙動量サーボ制御装置及び限界判定装置

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JPH1111292A
JPH1111292A JP9164800A JP16480097A JPH1111292A JP H1111292 A JPH1111292 A JP H1111292A JP 9164800 A JP9164800 A JP 9164800A JP 16480097 A JP16480097 A JP 16480097A JP H1111292 A JPH1111292 A JP H1111292A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】制動トルク勾配が急激に変化する路面でも車輪
ロックを防止する。 【解決手段】 車輪減速度及びブレーキトルクに基づい
て制動トルク特性の限界を判定する限界判定装置10a
と、限界判定結果に応じて、目標減速度を演算する目標
減速度演算部16と、車輪減速度が目標減速度に追従す
るようにABSアクチュエータ22を制御する減速度サ
ーボ演算部20と、から構成する。限界判定装置では、
制動トルク特性の飽和点で、検出されたブレーキトルク
がスリップ速度一定の平衡状態を仮定して得られるブレ
ーキトルクより小さくなることを用いて限界を判定し、
目標減速度演算部が、限界判定時点の制動トルクに追従
するべき目標減速度を演算する。これにより、きわめて
正確に限界を判定でき、路面に係わらず車輪ロックを生
じることなくピークμ追従制御が可能となる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車輪減速度、スリ
ップ率、スリップ速度などの車輪挙動量の目標値追従制
御を行う車輪挙動量サーボ制御装置及び車輪と路面との
間の制動トルク特性の限界を判定する限界判定装置に係
り、より詳しくは、制動トルク特性の限界判定に基づい
て、さらに良好な制御を可能とした車輪挙動量サーボ制
御装置及び車輪減速度とブレーキトルクとから制動トル
ク特性の限界を判定する限界判定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、車輪と路面との間の摩擦係数
μがピーク値を超えて車輪がロック状態に移行する直前
に、車輪に作用するブレーキトルクを低下させることに
よって、車輪のロックを防止し最大値に近い制動トルク
(路面から反力として車輪に作用するトルク)に追従制
御するアンチロックブレーキ制御装置が提案されてい
る。
【0003】このような制動トルクの最大値追従制御の
1例として、特願平8−218828号公報には、以下
のような技術が開示されている。
【0004】すなわち、この従来技術は、ブレーキトル
クの制動時に車輪速の時系列データに基づいて、制動ト
ルクのスリップ速度に対する勾配(以下、「制動トルク
勾配」という)を推定し、この推定された制動トルク勾
配を目標値(摩擦係数μのピーク追従の場合は0)に追
従させる制御を行うことにより車輪のロックを防止して
いる。
【0005】ここで、スリップ速度に対する制動トルク
の変化特性(制動トルク特性)を図5(a)に示す。な
お、同図では、あるスリップ速度での制動トルク勾配
は、このスリップ速度における接線lの傾きとして表さ
れる。
【0006】図5(a)に示すように、最大の制動トル
クTm を与えるスリップ速度Sm より小さいスリップ速
度の領域では、制動トルク勾配が正の値となる(A1の
領域)。このA1の領域では、タイヤが路面にグリップ
した状態となっている。
【0007】また、スリップ速度Sm の近傍のスリップ
速度の領域(A2の領域)では、制動トルク勾配が0に
一致又は略一致した状態となり、最大の制動トルク(摩
擦係数μのピーク)が得られる。従って、従来技術のよ
うに制動トルク勾配をフィードバックして0に追従させ
ることにより、ピークμ追従が実現でき、最も効率的な
ブレーキ制動ができることがわかる。
【0008】しかし、一般に略ピークμを超えてブレー
キ制動されると、制動トルク勾配が負となるA3の領域
に瞬時に遷移してタイヤがロックする。従って、A2の
領域が制動トルク特性の限界領域であり、この限界領域
を超えないようにブレーキ制動しなければならないこと
がわかる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従
来技術によれば、制動トルク勾配のみをフィードバック
するため、図5(b)に示すように、制動トルクが最大
となるスリップ速度Sm付近を挟んで制動トルク勾配が
急激に変化する路面に対しては良好な制御が困難になる
という問題がある。
【0010】すなわち、図5(b)では、スリップ速度
m より少しだけ小さいスリップ速度でも大きな制動ト
ルク勾配となる一方、スリップ速度Sm 以上の領域では
制動トルク特性が飽和し、ブレーキ力を増大させると急
激に車輪減速度が増大するので、A2の領域に収めるた
めのブレーキ制御が困難となり、最悪の場合、A3の領
域に遷移して車輪ロックに陥る可能性がある。
【0011】なお、制動トルク勾配が急激に変化する路
面において制動トルクの最大値追従制御が良好に機能し
ないという問題は、制動トルク勾配の追従制御のみなら
ず、車輪減速度、スリップ率、スリップ速度などの車輪
挙動量の目標値追従制御を行う車輪挙動量サーボ制御装
置において共通に発生する。
【0012】本発明は、上記事実に鑑みて成されたもの
で、制動トルク勾配が急激に変化する路面であるか否か
に係わらず良好な目標値追従制御を行うことができる車
輪挙動量サーボ制御装置及び制動トルク特性の限界を判
定することにより車輪挙動量サーボ制御装置の良好な制
御を可能とする限界判定装置を提供することを目的とす
る。
【0013】
【課題を解決するための手段】
(請求項1の発明)上記目的を達成するために請求項1
の発明は、車輪運動に関連した物理量である車輪挙動量
を検出する車輪挙動量検出手段と、車輪運動に関連した
物理量に基づいて、スリップ速度に対する制動トルクの
勾配である制動トルク勾配又は該制動トルク勾配と車輪
運動を介して関連する物理量を限界判定量として演算
し、該限界判定量に基づいて車輪と路面との間の制動ト
ルク特性の限界を判定する限界判定手段と、前記限界判
定手段の限界判定結果に応じて、前記限界判定量を前記
制動トルク特性の限界を超えない範囲に収めるべき車輪
挙動量の目標値を演算する目標挙動量演算手段と、前記
車輪挙動量検出手段により検出された車輪挙動量を前記
目標挙動量演算手段により演算された車輪挙動量の目標
値に追従させるように車輪運動を制御するサーボ制御手
段と、を含んで構成したものである。
【0014】ここで、車輪挙動量として、例えば、車輪
減速度、スリップ速度、スリップ率などがあり、本発明
は、このような車輪挙動量の目標値追従制御を行うもの
である。
【0015】請求項1の発明では、限界判定手段が、車
輪運動に関連した物理量に基づいて、スリップ速度に対
する制動トルクの勾配である制動トルク勾配又は該制動
トルク勾配と車輪運動を介して関連する物理量を限界判
定量として演算する。なお、制動トルク勾配(図5
(a)、(b)参照)と車輪運動を介して関連する物理
量には、制動トルク勾配と等価な物理量の他、車輪運動
の方程式(以下の(1) 〜(3) 式参照)によって制動トル
ク勾配と互いに関連付けられた各種の物理量などが含ま
れる。
【0016】そして、限界判定手段は、演算された限界
判定量に基づいて、制動トルク特性の限界を判定する。
すなわち、現在の運動状態が制動トルク特性の限界に達
しているか否かを判定する。なお、制動トルク特性と
は、図5(a)、(b)によって表されたように、車輪
と路面との間に発生する制動トルクのスリップ速度等に
応じた変化特性をいう。また、制動トルク特性の限界と
は、制動トルク特性が異なる特性に移行する際の現特性
の限界をいい、例えば、車輪のロック直前の状態に移行
する際の限界(制動トルクが略ピークとなる領域)など
がある。従って、制動トルク特性が飽和し、制御が不安
定化する飽和領域も、この限界の範囲内に含まれる。
【0017】このような限界の領域では、その前後で制
動トルク勾配が変化するので、制動トルク勾配又はこれ
に関連する限界判定量に基づいて、図5(a)、(b)
のいずれの路面においても、きわめて正確な限界判定を
行うことができる。
【0018】次に、目標挙動量演算手段が、限界判定手
段の限界判定結果に応じて、限界判定量を制動トルク特
性の限界を超えない範囲に収めるべき車輪挙動量の目標
値を演算する。
【0019】本発明では、この目標挙動量演算手段の演
算を例えば次のようにして行っても良い。制動トルク特
性が限界でないと判定された限界判定結果の場合、車輪
挙動量の通常の目標値をマスタシリンダ圧などに基づい
て演算する。或いは、制御の安定性を重視し、限界判定
量(制動トルク勾配)を基準値(制動トルク最大値追従
の場合は0)に一致させるための車輪挙動量の目標値を
演算する。
【0020】これに対し、制動トルク特性が限界を超え
たと判定された限界判定結果の場合、速やかに限界を超
えない範囲に戻す必要があるため、通常の目標値を変更
する演算を行う。例えば、通常の目標値から限界判定量
と基準値との偏差に応じた値を減じることにより目標値
を演算する。また、限界判定量を限界近傍の基準値(制
動トルク最大値追従の場合は0)に一致させるための車
輪挙動量の目標値を演算しても良い。
【0021】そして、サーボ制御手段が、車輪挙動量検
出手段により検出された車輪挙動量を目標挙動量演算手
段により演算された車輪挙動量の目標値に追従させるよ
うに車輪運動を制御する。例えばホイールシリンダ圧の
増圧減圧時間を制御することにより車輪に作用するブレ
ーキ力を制御し、これにより、車輪挙動量を目標値に追
従させる制御を行う。
【0022】このように本発明では、上記従来技術のよ
うに制動トルク勾配のみをフィードバックするのではな
く、制動トルク勾配に関連した限界判定量により制動ト
ルク特性の限界を路面状況に係わらず正確に判定し、限
界を超えたと判定したときには、限界判定量が限界を超
えないように車輪挙動量の目標値を変更するなどの演算
を行うので、制動トルク特性が限界領域から大きく変化
する路面においても安定な制御が可能となり、車輪のロ
ックを確実に防止することができる。 (請求項2及び請求項3の発明)また、請求項2の限界
判定装置に関する発明は、検出されたブレーキトルク及
び検出された車輪減速度のいずれかに基づいて、車輪運
動でスリップ速度一定の平衡状態を仮定して得られる車
輪減速度及びブレーキトルクのいずれかを限界判定量と
して演算し、該限界判定量と実際に検出された車輪減速
度との比較、又は該限界判定量と実際に検出されたブレ
ーキトルクとの比較に基づいて車輪と路面との間の制動
トルク特性の限界を判定する限界判定手段、を有するこ
とを特徴とする。
【0023】さらに、請求項3の発明は、請求項1記載
の車輪挙動量サーボ制御装置において、前記車輪挙動量
検出手段が、前記車輪挙動量として車輪減速度を演算す
ると共に、前記限界判定手段が、検出されたブレーキト
ルク及び検出された車輪減速度のいずれかに基づいて、
車輪運動でスリップ速度一定の平衡状態を仮定して得ら
れる車輪減速度及びブレーキトルクのいずれかを限界判
定量として演算し、該限界判定量と実際に検出された車
輪減速度との比較、又は該限界判定量と実際に検出され
たブレーキトルクとの比較に基づいて車輪と路面との間
の制動トルク特性の限界を判定することを特徴とする。
【0024】以下に、請求項2及び請求項3の発明に係
る限界判定手段の判定原理を説明する。
【0025】(請求項2及び請求項3の限界判定原理)
路面から各車輪に制動トルクが作用した場合、車輪及び
車体の運動において次式の運動方程式が成立する。な
お、以下の説明では、車輪数を4輪とするが、本発明
は、この車輪数に限定されるものではない。
【0026】
【数1】
【0027】ただし、 M : 車両質量 J : 車輪慣性 Rc : 車輪の有効半径 ωi : 車輪速度(第i輪,i=1,2,3,4 ) ωv : 車体速度(角速度相当) ωv −ωi : スリップ速度(第i輪) Fi : 制動トルク(第i輪) Tbi : ブレーキトルク(第i輪) yi : 車輪減速度(第i輪) である。上記運動方程式において、制動トルクFi はス
リップ速度(ωv −ωi)の関数として表されている
(実際には非線形関数)。また、・は時間に関する1階
微分を示す。
【0028】なお、本発明では、ブレーキトルクを操作
量とするが、ブレーキトルクに関連した他の物理量、例
えばホイールシリンダ圧を操作量として置き換えること
もできる。
【0029】ここで、第i輪のスリップ速度(ωv −ω
i )をxi に置き換えて、(1) 〜(3) 式を整理すると、
【0030】
【数2】
【0031】となる。ところで、実際に検出された第i
輪の車輪減速度が目標となる車輪減速度(目標減速度)
に漸近していく平衡状態においては、第i輪のスリップ
速度が略一定となると考えられるので、
【0032】
【数3】
【0033】と近似できる。(6) 式を(4) 、(5) 式に代
入して整理すると、Iを単位行列として、
【0034】
【数4】
【0035】が成立する。ただし、
【0036】
【数5】
【0037】である。また、 xi0 : 第i輪の平衡状態でのスリップ速度 Fi (xi0) : 第i輪の平衡状態での制動トルク Tbi0 : 第i輪の平衡状態でのブレーキトル
ク yi0 : 第i輪の平衡状態での車輪減速度 である。
【0038】ここで、車輪減速度サーボ制御における車
輪減速度とブレーキトルクとの関係を図6に示す。な
お、図5(a)、(b)において制動トルク最大となる
限界点は、図6では飽和点として表されている。同図に
示すように、飽和点での車輪減速度以下の車輪減速度の
領域では、制動トルク特性に余裕があるので、速やかに
車輪減速度が目標減速度に漸近しスリップ速度一定の平
衡状態となる。従って、この領域における車輪減速度の
定常値はブレーキトルクに対し一定の増加率で増大する
(8) 式の関係が成り立っていることがわかる(直線
L)。
【0039】これに対し、飽和点を超えた車輪減速度の
領域では、制動トルク特性が飽和するので、(8) 式の関
係が成立しなくなり、直線Lと比べて、増加率が減少す
る(直線L’)。なお、この領域では、ブレーキトルク
を僅かでも大きくすると車輪減速度が急激に増大するの
で、車輪減速度の安定な追従制御が困難となり、車輪の
ロックの危険性が大きいことがわかる。
【0040】そこで、本発明の限界判定手段では、車輪
運動でスリップ速度一定の平衡状態を仮定して得られる
(8) 式に、実際に検出されたブレーキトルクTb0を代入
して得られる車輪減速度y0 を限界判定量として演算す
る。そして、この車輪減速度y0 に基づいて制動トルク
特性の限界(飽和点)の判定を行う。
【0041】例えば、車輪減速度の定常値y0 と実際に
検出された車輪減速度yとを比較し、この車輪減速度y
が車輪減速度の定常値y0 より大きいか否かを判定す
る。この判定で、車輪減速度yが定常値y0 より大きい
場合、(8) 式の関係が成立していないので、制動トルク
特性が飽和点を超えたと判定し、車輪減速度yが定常値
0 より大きくない場合、(8) 式の関係が成立している
とみなして制動トルク特性が飽和点を超えていないと判
定する。
【0042】このように本発明では、上記限界判定量に
基づいて、制動トルク特性が限界(飽和点)を超えてい
るか否かをきわめて正確に判定することができる。
【0043】なお、上記のように車輪減速度を用いて
(8) 式が成立しているか否かを判定する方法は、車輪減
速度を目標値に追従させるサーボ制御系の応答性を良好
にできるという優れた利点があるが、(8) 式と同様にス
リップ速度一定の平衡状態を仮定して得られる(9) 式
に、実際に検出された車輪減速度y0 を代入して得られ
るブレーキトルクの定常値Tb0を限界判定量として演算
することもできる。この場合、ブレーキトルクの定常値
b0と実際に検出されたブレーキトルクTb とを比較
し、このブレーキトルクTb がブレーキトルクの定常値
b0より小さいか否かで制動トルク特性が飽和点を越え
たか否かを判定する。
【0044】次に、請求項3の発明に係る目標挙動量演
算手段の演算原理を説明する。 (請求項3の目標挙動量の演算原理)上記限界判定手段
によって、4輪のうち少なくとも1輪が限界(飽和点)
を超えたと判定された場合、判定された時点で検出され
た車輪減速度とブレーキトルクを、”T ”を行列の転置
として、 ysat =[ysat1sat2sat3sat4Tbsat=[Tbsat1 bsat2 bsat3 bsat4
T とすると、このときの制動トルク Fsat =[Fsat1sat2sat3sat4T は、 Fsat = −J・ysat +Tbsat (10) で表される。
【0045】そこで、目標挙動量演算手段では、この制
動トルクFsat でスリップ速度一定の平衡状態を保つた
めに以下のように目標挙動量(本発明では目標減速度)
を演算する。
【0046】制動トルクFsat でスリップ速度一定の平
衡状態を保つためには、(7) 式より、ブレーキトルクを Tbopt = A・Fsat (11) とする必要がある。さらに、このブレーキトルクTbopt
を実現するための目標減速度を、(8) 式のブレーキトル
クT0 に、(11)式のブレーキトルクを代入することによ
り、
【0047】
【数6】
【0048】と演算する。そして、サーボ制御手段は、
検出された車輪減速度を目標挙動量演算手段により演算
された(12)式の目標減速度y0optに追従させるように車
輪運動を制御する。この目標値追従制御により制動トル
クFsat が維持される。
【0049】なお、制動トルクFsat は、飽和点を超え
たと判定された直後の制動トルクであるが、図5
(a)、(b)に参照されるように、制動トルクのピー
ク点を含むA2の限界領域では、制動トルク勾配が0に
略一致しているので、制動トルクF sat を略ピーク値と
みなすことができ、よって本発明において制動トルクの
ピークμ追従制御が実現され、車輪のロックを確実に防
止することができる。 (請求項4の発明)また、請求項4の発明は、請求項1
記載の前記限界判定手段が、ブレーキトルクの時系列デ
ータ及び車輪減速度の時系列データに基づいて限界判定
量である制動トルク勾配を演算し、該限界判定量に基づ
いて制動トルク特性の限界を判定することを特徴とす
る。
【0050】以下に、請求項4の発明の制動トルク勾配
の演算原理を説明する。 (請求項4の制動トルク勾配の演算原理)各車輪の制動
トルクは、スリップ速度の非線形関数であると仮定し、
あるスリップ速度xi 近傍の制動トルクF(xi )を次
式のように直線で近似する。
【0051】 F(xi ) = ki i +μi (13) ここで、スリップ速度の時系列データをxi [j]、ブ
レーキトルクの時系列データをTb [j]、車輪減速度
の時系列データをy[j]とする(j=0,1,2,....)。
但し、各時系列データは、所定のサンプリング時間τ毎
にサンプリングされたものとする。
【0052】サンプリング時間τ毎に(4) 、(5) 式を離
散化し、上記時系列データで表すと、
【0053】
【数7】
【0054】となる。ここで、(14)、(15)式を整理する
と、 K・φ = f (16) となる。ただし、
【0055】
【数8】
【0056】である。なお、fは制動トルクの時間的変
化に関連した物理量、φはスリップ速度の時間的変化に
関連した物理量となる。
【0057】さらに、(16)式は各車輪毎に、 ki ・φi =fi (17) と表すことができる。ただし、 f=[f1 2 3 4 T ,φ=[φ1 φ2
φ3 φ4 T である。
【0058】ここにおいて、本発明の限界判定手段は、
第i輪の車輪減速度の時系列データyi [j]及び第i
輪のブレーキトルクの時系列データTbi[j]に基づい
て第i輪のfi 、φi を演算し、演算されたfi 、φi
を(17)式に代入することにより得られた各データに、例
えばオンラインのシステム同定手法を適用することによ
り第i輪の制動トルク勾配ki を推定演算する。
【0059】そして、限界判定手段は、以上のように推
定演算された制動トルク勾配に基づいて制動トルク特性
の限界を例えば次のようにして判定する。すなわち、制
動トルク勾配がある基準値以下となった場合、制動トル
ク特性が限界であると判定し、制動トルク勾配が基準値
を超えている場合には限界ではないと判定する。
【0060】制動トルク特性の限界付近で制動トルク勾
配が小さくなるため、本発明の限界判定方法によりきわ
めて正確に限界を判定することができる。 (請求項5の発明)また、請求項5の発明は、請求項1
記載の前記限界判定手段が、車輪速度の時系列データに
基づいて限界判定量である制動トルク勾配を演算し、該
限界判定量に基づいて制動トルク特性の限界を判定する
ことを特徴とする。
【0061】以下に、請求項5の発明の制動トルク勾配
の演算原理を説明する。 (請求項5の制動トルク勾配の演算原理)(1) 、(2) 式
の車輪及び車体の運動方程式を、第i輪に発生した制動
力Fi ’を用いて表すと以下のように記述される。
【0062】
【数9】
【0063】ただし、vは車体速度である。(18)式、(1
9)式において、Fi ’はスリップ速度(v/Rc
ωi )の関数として示されている。
【0064】ここで、車体速度を等価的な車体の角速度
ωv で表すと共に、制動トルクRci ’をスリップ速
度の1次関数(傾きki 、y切片Ti )として記述す
る。
【0065】 v = Rc ωv (20) Rc i ’(ωv −ωi )=ki ×(ωv −ωi )+Ti (21) さらに、(20)、(21)式を(18)、(19)式へ代入し、車輪速
度ωi 及び車体速度ω v をサンプル時間τ毎に離散化さ
れた時系列データωi [k] 、ωv [k] (kはサンプル時
間τを単位とするサンプル時刻、k=1,2,.....)として
表すと次式を得る。
【0066】
【数10】
【0067】ここで、(22)、(23)式を連立し、車体の等
価角速度ωv を消去すると、
【0068】
【数11】
【0069】を得る。ところで、スリップ速度3rad/s
という条件下でRc Mg/4(gは重力加速度)の最大
制動トルクの発生を仮定すると、
【0070】
【数12】
【0071】を得る。ここで、具体的な定数として、τ
=0.005 (sec) 、Rc =0.3 (m) 、M=1000(kg)を考慮
すると、max(ki ) =245 となる。従って、
【0072】
【数13】
【0073】となり、(24)式は次式のように近似するこ
とができる。
【0074】
【数14】
【0075】である。このように整理することにより、
(25)式は未知係数ki 、fi に関し、線形の形で記述す
ることが可能となり、(25)式にオンラインのパラメータ
同定手法を適用することにより、スリップ速度に対する
制動トルク勾配ki を推定することができる。
【0076】すなわち、以下のステップ1及びステップ
2を繰り返すことにより、検出された車輪速度の時系列
データωi [k] から制動トルク勾配の時系列データを推
定することができる。
【0077】ステップ1:
【0078】
【数15】
【0079】おく。なお、(26)式の行列φi [k] の第1
要素は、1サンプル時間での車輪速度の変化に関する物
理量であり、(27)式は、1サンプル時間の車輪速度の変
化の1サンプル時間での変化に関する物理量である。
【0080】ステップ2:
【0081】
【数16】
【0082】^ ^という漸化式からθi
演算し、θi の行列の第一要素を推定された制動トルク
の勾配として抽出する。ただし、λは過去のデータを取
り除く度合いを示す忘却係数(例えばλ=0.98)で
あり、”T ”は行列の転置を示す。
【0083】なお、(28)式の左辺は、車輪速度の変化に
関する物理量の履歴及び車輪速度の変化の変化に関する
物理量の履歴を表す物理量である。 (請求項6の発明)また、請求項6の発明は、請求項1
記載の発明において、車体と車輪と路面とから構成され
る振動系の共振周波数でブレーキ圧を微小励振する微小
励振手段と、をさらに含んで構成され、前記限界判定手
段が、前記微小励振手段によりブレーキ圧を微小に励振
した場合のブレーキ圧の微小振幅に対する車輪速度の共
振周波数成分の微小振幅の比である微小ゲインを限界判
定量として演算し、該限界判定量に基づいて制動トルク
特性の限界を判定することを特徴とする。
【0084】(請求項6の発明の原理)重量Wv の車体
を備えた車両が車体速度ωv で走行している時の車輪で
の振動現象、すなわち車体と車輪と路面とによって構成
される振動系の振動現象を、車輪回転軸で等価的にモデ
ル化した図7に示すモデルを参照して考察する。
【0085】図7のモデルにおいて、ブレーキ力は、路
面と接するタイヤのトレッド115の表面を介して路面
に作用するが、このブレーキ力は実際には路面からの反
作用(制動力)として車体に作用するため、車体重量の
回転軸換算の等価モデル117はタイヤのトレッドと路
面との間の摩擦要素116(路面μ)を介して車輪11
3と反対側に連結したものとなる。これは、シャシーダ
イナモ装置のように、車輪下の大きな慣性、すなわち車
輪と反対側の質量で車体の重量を模擬することができる
ことと同様である。
【0086】図7でタイヤリムを含んだ車輪113の慣
性をJw 、リムとトレッド115との間のばね要素11
4のばね定数をK、車輪半径をR、トレッド115の慣
性をJt 、トレッド115と路面との間の摩擦要素11
6の摩擦係数をμ、車体の重量Wv の回転軸換算の等価
モデル117の慣性をJV とすると、ホイールシリンダ
圧により生じるブレーキトルクTb ’から車輪速ωw
での伝達特性は、車輪運動の方程式より、
【0087】
【数17】
【0088】となる。なお、sはラプラス変換の演算子
である。タイヤが路面にグリップしている時は、トレッ
ド115と車体等価モデル117とが直結されていると
考えると、車体等価モデル117とトレッド115との
和の慣性と、車輪113の慣性とが共振する。すなわ
ち、この振動系は、車輪と車体と路面とから構成された
車輪共振系とみなすことができる。このときの車輪共振
系の共振周波数ω∞は、(29)式の伝達特性において、 ω∞=√{(Jw +Jt +Jv )K/Jw (Jt +Jv )}/2π (30) となる。この状態は図5(a)、(b)上では、限界領
域に移行する前の領域A1に対応する。
【0089】逆に、タイヤの摩擦係数μがピークμに近
づく場合には、タイヤ表面の摩擦係数μがスリップ率に
対して変化し難くなり、トレッド115の慣性の振動に
伴う成分は車体等価モデル117に影響しなくなる。つ
まり等価的にトレッド115と車体等価モデル117と
が分離され、トレッド115と車輪113とが共振を起
こすことになる。このときの車輪共振系は、車輪と路面
とから構成されているとみなすことができ、その共振周
波数ω∞’は、(30)式において、車体等価慣性Jv を0
とおいたものと等しくなる。すなわち、 ω∞' =√{(Jw +Jt )K/Jw t )}/2π (31) となる。この状態は、図5(a)、(b)の制動トルク
のピーク値を挟む限界領域A2に対応する。
【0090】(30)と(31)式とを比較し、車体等価慣性J
v が車輪慣性Jw 、トレッド慣性J t より大きいと仮定
すると、(31)式の場合の車輪共振系の共振周波数ω∞’
は(30)式よりもω∞よりも高周波数側にシフトすること
になる。従って、車輪共振系の共振周波数の変化を反映
する物理量に基づいて、制動トルク特性の限界を判定す
ることが可能となる。
【0091】そこで、本発明では、このような共振周波
数の変化を反映する物理量として、以下のような微小ゲ
インGd を限界判定量として導入する。
【0092】まず、微小励振手段が、車輪と車体と路面
とからなる振動系の共振周波数ω∞((30)式) でブレー
キ圧Pb を微小励振すると、車輪速度ωw も平均的な車
輪速度の回りに共振周波数ω∞で微小振動する。ここ
で、本発明の限界判定手段は、このときのブレーキ圧P
b の共振周波数ω∞の微小振幅をPv 、車輪速度の共振
周波数ω∞の微小振幅をωwvとした場合、微小ゲインG
d を Gd =ωwv/Pv (32) のように演算する。なお、この微小ゲインGd を、ブレ
ーキ圧Pb に対する車輪速ωw の比(ωw /Pb )の共
振周波数ω∞の振動成分とみなし、 Gd =((ωw /Pb )|s=jω∞) (33) と表すこともできる。
【0093】この微小ゲインGd は、(33)式に示すよう
に(ωw /Pb )の共振周波数ω∞の振動成分であるの
で、車輪運動が制動トルク特性の限界領域A2に至った
とき、共振周波数がω∞’にシフトするため急激に減少
する。よって、微小ゲインG d が限界領域A2に移行し
たときの値として予め設定された基準ゲインGs と微小
ゲインGd とを比較し、微小ゲインGd が基準ゲインG
s 以下となったときを制動トルク特性の限界と判定する
ことができる。
【0094】次に、微小ゲインGd が制動トルク勾配と
等価な物理量であることを説明する。
【0095】図8に示すように、スリップ速度Δωと、
車輪−路面間の摩擦係数μとの間には、あるスリップ率
で摩擦係数μがピークをとる関数関係が成立することが
知られている。なお、図8の摩擦特性は、図5の制動ト
ルク特性に対応するものである。
【0096】ところで、微小励振手段によりブレーキ圧
を微小励振すると、車輪速度が微小励振するので、スリ
ップ率もあるスリップ率の回りで微小振動する。ここ
で、図8の特性を有する路面において、あるスリップ率
の回りで微小振動したときの摩擦係数μのスリップ速度
Δωに対する変化を考える。
【0097】このとき、路面の摩擦係数μは、 μ = μ0 +αRΔω (34) と近似できる。すなわち、微小振動によるスリップ速度
の変化が小さいため、傾きαRの直線で近似できる。
【0098】ここで、タイヤと路面間の摩擦係数μによ
り生じる制動トルクTb =μWRに(34)式を代入する
と、 Tb = μWR = μ0 WR+αR2 ΔωW (35) となる。ここで、Wは輪荷重である。(35)式の両辺をΔ
ωで1階微分すると、
【0099】
【数18】
【0100】を得る。よって、(36)式により、制動トル
ク勾配(dTb /Δω)が、αR2 Wに等しいことが示
された。
【0101】一方、ブレーキトルクTb ’がブレーキ圧
b と比例関係にあることから、微小ゲインGd は、ブ
レーキトルクTb ’に対する車輪速度ωw の比(ωw
b’)の共振周波数ω∞の振動成分と比例関係にあ
る。従って、(29)式の伝達特性により、微小ゲインGd
は次式によって表される。
【0102】
【数19】
【0103】一般に、(39)式において、 |A| = 0.012 << |B| = 0.1 (40) となることから、(36)、(37)式より、
【0104】
【数20】
【0105】を得る。すなわち、スリップ速度Δωに対
する制動トルクTb の勾配は微小ゲインGd に比例す
る。
【0106】以上により、微小ゲインGd が制動トルク
勾配と等価な物理量であることが示され、この微小ゲイ
ンGd に基づいて制動トルク特性の限界を精度良く判定
できることがわかる。
【0107】
【発明の実施の形態】以下、本発明の車輪挙動量サーボ
制御装置の各実施の形態を図面に基づいて詳細に説明す
る。なお、この車輪挙動量サーボ制御装置は、車両に適
用され、車輪挙動量の目標値追従制御を行うことによ
り、制動トルクの最大値追従制御を可能としたサーボ制
御装置として構成されたものである。 (第1の実施の形態)図1には、本発明の車輪挙動量サ
ーボ制御装置を、車輪減速度サーボ制御装置に適用した
場合の構成ブロック図が示されている。
【0108】同図に示すように、第1の実施の形態に係
る車輪減速度サーボ制御装置は、車輪の速度(以下、
「車輪速」という)から車輪減速度を検出する車輪減速
度検出部12と、車輪に作用するブレーキトルクを検出
するブレーキトルク検出部14と、検出された車輪減速
度及びブレーキトルクに基づいて車輪と路面との間の制
動トルク特性における限界を判定する限界判定装置10
aと、車輪減速度の通常の目標値(目標減速度)を設定
すると共に限界判定装置10aにより限界点が判定され
た場合には制動トルクの最大値追従を実現させるための
目標減速度を変更するための演算を行う目標減速度演算
部16と、演算された目標減速度から検出された車輪減
速度を減算した偏差を演算する偏差器18と、偏差器1
8により演算された偏差を0に一致させるための操作量
(ABS操作量)を演算する減速度サーボ演算部20
と、減速度サーボ演算部20により演算されたABS操
作量を実現するように制御バルブ23を動作させるAB
Sアクチュエータ22と、から構成されており、それら
は図示しない制御部により一定周期の制御ステップ毎に
制御される。
【0109】このうち、ABSアクチュエータ22を構
成する各車輪の制御バルブ23は、増圧側バルブ25を
介してマスタシリンダ27に各々接続されると共に、減
圧側バルブ26を介して低圧源としてのリザーバー28
に各々接続されている。また、制御バルブ23には、該
制御バルブによって供給されたブレーキ圧を各車輪のブ
レーキディスクに加えるための各車輪毎のホイールシリ
ンダ24が各々接続されている。ABSアクチュエータ
22は、ABS操作量に基づいて各制御バルブ23の増
圧側バルブ25及び減圧側バルブ26の開閉を動作させ
る。
【0110】この制御バルブ23が増圧側バルブ25の
みを開くように制御されると、ホイールシリンダ24の
油圧(ホイールシリンダ圧)は、ドライバがペダルを踏
み込むことによって得られる圧力に比例したマスタシリ
ンダ27の油圧(マスタシリンダ圧)まで上昇する。逆
に減圧側バルブ26のみを開くように制御されると、ホ
イールシリンダ圧は、ほぼ大気圧のリザーバ28の圧力
(リザーバ圧)まで減少する。また、両方のバルブを閉
じるように制御されると、ホイールシリンダ圧は保持さ
れる。
【0111】ホイールシリンダ24によりブレーキディ
スクに加えられる平均的なブレーキ力(ホイールシリン
ダ圧に相当)は、マスタシリンダ27の高油圧が供給さ
れる増圧時間、リザーバー28の低油圧が供給される減
圧時間、及び供給油圧が保持される保持時間の比率と、
圧力センサ等により検出されたマスタシリンダ圧及びリ
ザーバー28の圧力値とから求められる。
【0112】従って、ABSアクチュエータ22は、制
御バルブ23の増減圧時間をマスタシリンダ圧に応じて
制御することにより、ABS操作量に対応するブレーキ
トルク(ホイールシリンダ圧)を実現することができ
る。
【0113】また、車輪減速度検出部12は、各車輪に
取り付けられている車輪速センサ30によって検出され
た第i輪(i=1,2,3,4)の車輪速度信号ωi に次式の処
理を施すことによって第i輪の車輪減速度yi を導出す
るフィルタとして実現できる。
【0114】
【数21】
【0115】ただし、sはラプラス変換の演算子であ
る。なお、車輪減速度検出部12を、車輪速に依らずに
直接、車輪減速度を検出する車輪減速度センサを用いて
構成することもできる。
【0116】また、ブレーキトルク検出部14は、各車
輪のホイールシリンダ圧を検出し、検出されたホイール
シリンダ圧に所定の定数を乗じることにより各車輪のブ
レーキトルクを演算出力する。
【0117】また、減速度サーボ演算部20は、演算さ
れた目標減速度と検出された車輪減速度との偏差が0に
一致するようなABS操作量、すなわち車輪減速度を目
標減速度に追従させるための各車輪毎のABS操作量を
演算出力する所謂PI制御器として実現することができ
る。
【0118】次に、第1の実施の形態の作用を説明す
る。まず、本実施の形態の車輪減速度サーボ制御装置が
適用された車両が、図6に示すような制動トルク特性を
有する路面を走行している状況を想定する。
【0119】限界判定装置10aは、車輪減速度検出部
12により検出された車輪減速度が基準値(例えば、4
0rad/s2 )を超えたと判定したとき、各車輪につ
いて次式が成立しているか否かを判定する。
【0120】 y > y0 (43) ただし、yは、車輪減速度検出部12により検出された
現時点での車輪減速度である。また、y0 は、車輪減速
度が目標値に漸近した平衡状態ではスリップ速度が一定
であると仮定して得られる上記(8) 式に、ブレーキトル
ク検出部14により検出されたブレーキトルクTb0を代
入することにより演算された車輪減速度である。
【0121】(43)式が成立している場合、すなわち、
(8) 式が成立していない場合、図6では飽和点を超えた
領域であるので、制動トルク特性が限界であると判定す
る。(43)式が成立していなかった場合、すなわち(8) 式
が成立していると考えられる場合は制動トルク特性が限
界でない( 図6の飽和点を超えていない) と判定する。
そして、各車輪についての限界判定結果を目標減速度演
算部16に出力する。
【0122】なお、図6のような飽和点を境とした制動
トルク特性の変化は、図5(a)及び図5(b)の制動
トルク特性のいずれにおいても成立しているので、路面
の状況に係わらず(43)式により精度良く制動トルク特性
の限界を判定できる。
【0123】次に、目標減速度演算部16は、限界判定
装置10aにより制動トルク特性が飽和していないと判
定された車輪について、ドライバの操作量(ブレーキ踏
み込み量)に対応するマスタシリンダ圧に応じた通常の
目標減速度を演算し、この演算結果を目標減速度として
出力する。この目標減速度は、例えば、マスタシリンダ
圧に略比例する車輪減速度とすることができる。
【0124】そして、減速度サーボ演算部20が、検出
された車輪減速度と目標減速度との偏差が0に一致する
ようなブレーキトルクを演算し、該ブレーキトルクを実
現するようにABSアクチュエータ22が制御バルブ2
3の増減圧時間を制御する。この目標追従制御により、
ドライバの操作量であるマスタシリンダ圧に応じて車輪
減速度が変化するように制御され、ドライバの感覚に則
した減速度制御が可能となる。
【0125】これに対し、限界判定装置10aにより少
なくとも1つの車輪(以下、第i輪とする)について制
動トルク特性が飽和していると判定された場合、目標減
速度演算部16は、設定すべき目標減速度を以下のよう
に演算する。
【0126】なお、制動トルク特性が限界であると判定
された現時点で実際に検出された第i輪のブレーキトル
クをTbsati 、検出された第i輪の車輪減速度をysati
とすると、この時点の制動トルク特性は、図6のA点で
表される。このA点での車輪減速度ysatiは、A点のブ
レーキトルクTbsati を(8) 式に代入して得られる(直
線Lの点線部での)車輪減速度ymiより大きく、よって
(43)式が成立していることがわかる。
【0127】まず、目標減速度演算部16は、A点にお
ける第i輪の制動トルクFsatiを、(10)式を用いて次式
のように演算する。
【0128】 Fsati = −J・ysati+Tbsati (44) 次に、演算された制動トルクFsatiでスリップ速度を平
衡状態(dxi /dt=0)に保つための第i輪の目標
減速度y0opti を、(12)式を用いて
【0129】
【数22】
【0130】に設定する。なお、このとき、第i輪のブ
レーキトルクTbopti は、(11)式により、 Tbopti = A・Fsati (46) となる。
【0131】ここで、目標減速度演算部16では、目標
減速度y0opti を設定する際に、例えば、現時点におけ
るマスタシリンダ圧に応じた通常の目標減速度から、検
出されたブレーキトルクTbsati と(46)式によるT
bopti の偏差に応じた値を一定周期の制御ステップ毎に
減じることにより、ブレーキトルクがTbopti に一致す
るまで目標減速度を減少させるようにしても良い。この
結果、最終的に目標減速度y0opti が設定される。これ
により、第i輪の車輪減速度がy0opti に追従される。
なお、飽和点を超えていないと判定された他の車輪につ
いては、通常の目標減速度の追従制御が行われる。
【0132】図6のA点は少し飽和点を超えているが、
図5(a)、(b)の制動トルク特性に示すように、飽
和点(図5(a)、(b)ではA2領域内の点)を若干
超えても制動トルクは略一定に保たれているので、A点
における(44)式の制動トルクFsatiは、制動トルクの略
最大値とみなすことができる。よって、図6に示すよう
に、飽和点の車輪減速度を(45)式によるy0opti 、飽和
点のブレーキトルクを(46)式によるTbopti とみなすこ
とができ、第i輪の制動トルク最大値追従制御が可能と
なる。
【0133】このように本実施の形態では、路面の状況
に係わらず制動トルク特性の限界を(42)式により精度良
く判定でき、かつ限界をこえたと判定したときには制動
トルクの最大値追従制御を行うので、制動トルク特性が
飽和点で大きく変化するような路面においても安定な制
御が可能となり、車輪のロックを確実に防止することが
できる。 (第2の実施の形態)次に、本発明の第2の実施の形態
に係る車輪挙動量サーボ制御装置の構成を図2を用いて
説明する。なお、第2の実施の形態の構成部のうち第1
の実施の形態と同様の構成部については、同一の符号を
付して詳細な説明を省略する。
【0134】図2に示すように、第2の実施の形態の車
輪挙動量サーボ制御装置は、各車輪の車輪挙動量を検出
する車輪挙動量検出部32と、ブレーキトルク検出部1
4により検出されたブレーキトルクの時系列データ及び
車輪減速度検出部12により検出された車輪減速度の時
系列データに基づいて制動トルク勾配を推定演算する制
動トルク勾配演算部40と、該制動トルク勾配に基づい
て制動トルク特性の限界点を判定する判定部42と、車
輪挙動量の通常の目標値(目標挙動量)を演算すると共
に判定部42により限界点が判定された場合には、演算
された制動トルク勾配を目標値に追従させるべき目標挙
動量を演算する目標挙動量演算部34と、演算された目
標挙動量と検出された車輪挙動量との偏差を0に一致さ
せるためのABS操作量を演算する挙動量サーボ演算部
36と、挙動量サーボ演算部36により演算されたAB
S操作量を実現するように制御バルブ(図1の23)を
動作させるABSアクチュエータ22と、から構成され
ており、それらは一定周期の制御ステップ毎に制御され
る。
【0135】このうち車輪挙動量検出部32が検出する
車輪挙動量として、第1の実施の形態と同様の車輪減速
度の他、例えば、スリップ率及びスリップ速度を用いる
ことができる。このスリップ率及びスリップ速度は、次
のように演算される。
【0136】
【数23】
【0137】但し、κi :第i輪のスリップ率 Δωi :第i輪のスリップ速度 ωv :車体速度(角速度相当) ωi :第i輪の車輪速度 である。
【0138】なお、制動トルク勾配演算部40及び判定
部42により限界判定装置10bが構成される。また、
車輪挙動量検出部32が車輪挙動量として車輪減速度を
検出する場合、車輪挙動量検出部32と車輪減速度検出
部12とを1つの構成部とする。
【0139】次に、第2の実施の形態の作用を説明す
る。第2の実施の形態に係る制動トルク勾配演算部40
は、所定のサンプリング時間τ毎にサンプリングされた
ブレーキトルクの時系列データTb [j]及び同様にτ
毎にサンプリングされた車輪減速度の時系列データy
[j](j=0,1,2,.....)を、上記(17)式
に適用する。そして、(17)式の各データにオンラインの
システム同定手法を適用することによって第i輪の制動
トルク勾配kiを推定演算し、判定部42に出力する。
【0140】次に、判定部42は、推定された第i輪の
制動トルク勾配ki と予め定められた制動トルク勾配基
準値(例えば、100Nms/m)との比較により制動
トルク特性の限界の判定を行う。例えば、制動トルク勾
配ki が制動トルク勾配基準値以上の場合、制動トルク
特性が限界でないと判定し、制動トルク勾配ki が制動
トルク勾配基準値より小さくなった場合、制動トルク特
性が限界であると判定する。
【0141】ここで、制動トルク特性が図5(b)のよ
うに限界点を超えたときに制動トルク勾配が大きく変化
するような路面の場合、限界点付近で急激に制動トルク
勾配ki が小さくなり、制動トルク勾配基準値より小さ
くなるので、限界点の判定を精度良く行うことができ
る。また、図5(a)のように通常の制動トルク特性を
有する路面の場合でも、限界点付近で制動トルク勾配が
小さくなるので、同様に限界点の判定を精度良く行うこ
とができる。
【0142】第i輪の制動トルク特性が限界であると判
定された場合、目標挙動量演算部34は、推定された第
i輪の制動トルク勾配ki を目標値(ピーク追従の場合
は0)に追従させるべき第i輪の車輪挙動量の目標挙動
量を演算する。特に、制動トルク勾配が負となる場合に
は、速やかに正の領域に戻す必要があるため、設定され
た目標減速度を制御ステップ毎に現在の値から制動トル
ク勾配と制動トルク勾配基準値との偏差に応じた比較的
大きな値を減じていく。また、制動トルク勾配が正の領
域では、安定性を重視するために、例えばPI制御等に
より制動トルク勾配を基準値に一致させるための目標減
速度を演算する。
【0143】そして、挙動量サーボ演算部36が、演算
された目標挙動量と検出された車輪挙動量との偏差を0
に一致させるためのABS操作量を演算し、ABSアク
チュエータ22が演算されたABS操作量を実現するよ
うに制御バルブを動作させる。これにより、制動トルク
のピーク追従制御が実現される。
【0144】これに対し、制動トルク特性が限界でない
と判定された場合、目標挙動量演算部34が、ドライバ
の操作量であるマスタシリンダ圧に応じた通常の目標挙
動量を演算する。これにより、ドライバの意思に則した
目標値追従制御が実現される。
【0145】このように本実施の形態では、路面の状況
に係わらず制動トルク特性の限界を精度良く判定でき、
かつ限界をこえたと判定したときには制動トルクの最大
値追従制御を行うので、制動トルク特性が限界点から大
きく変化するような路面においても安定な制御が可能と
なり、車輪のロックを確実に防止することができる。 (第3の実施の形態)次に、本発明の第3の実施の形態
に係る車輪挙動量サーボ制御装置の構成を図3を用いて
説明する。なお、第3の実施の形態の構成部のうち第1
及び第2の実施の形態と同様の構成部については、同一
の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0146】図3に示すように、第3の実施の形態の車
輪挙動量サーボ制御装置では、各車輪の車輪速センサ3
0が限界判定装置10cの制動トルク勾配演算部41に
接続されており、この制動トルク勾配演算部41は、車
輪速センサ30により所定のサンプリング時間τ毎に検
出された各車輪の車輪速度の時系列データに基づいて制
動トルク勾配を推定する。制動トルク勾配演算部41に
は、判定部42が接続されており、この判定部は推定さ
れた制動トルク勾配に基づいて制動トルク特性の限界を
判定する。他の構成は、第2の実施の形態と同様であ
る。
【0147】次に、第3の実施の形態の作用を説明す
る。第3の実施の形態に係る制動トルク勾配演算部41
は、サンプリング時間τ毎に検出された車輪速度の時系
列データωi [j](j=0,1,2,....)を用
いて、上記(26)〜(28)式のステップ1及びステップ2を
繰り返し演算することにより、第i輪の制動トルク勾配
i の時系列データを推定演算する。
【0148】次に、判定部42は、推定された第i輪の
制動トルク勾配ki と予め定められた制動トルク勾配基
準値(例えば、100Nms/m)との比較により制動
トルク特性の限界の判定を行う。これ以降の処理は、第
2の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0149】このように本実施の形態でも、制動トルク
勾配を推定し、該制動トルク勾配に基づいて制動トルク
特性の限界を精度良く判定するので、第2の実施形態と
同様の効果を奏することができる。 (第4の実施の形態)次に、本発明の第4の実施の形態
に係る車輪挙動量サーボ制御装置の構成を図4を用いて
説明する。なお、第4の実施の形態の構成部のうち第1
〜第3の実施の形態と同様の構成部については、同一の
符号を付して詳細な説明を省略する。
【0150】図4に示すように、第4の実施の形態の車
輪挙動量サーボ制御装置のABSアクチュエータ22に
は、ブレーキ力の微小励振指令を与える微小励振指令部
58が接続されている。この微小励振指令部58は、ブ
レーキペダルが踏み込まれ、かつ車輪減速度がある基準
値を超えたときに、平均的なブレーキ力(ホイールシリ
ンダ圧)の回りに、車体と車輪と路面とからなる振動系
の共振周波数ω∞((30)式)のブレーキ力微小振幅Pv
を印加する指令をABSアクチュエータ22に出力す
る。
【0151】このブレーキ力の微小励振は、平均ブレー
キ力を実現する制御バルブ23の増減圧制御と同時に共
振周波数に対応した周期で増圧減圧制御を行うことによ
り可能となる。具体的な制御の内容として、図9に示す
ように、微小励振の周期(例えば24[ms])の半周
期T/2毎に増圧と減圧のそれぞれのモードを切り替
え、バルブへの増減圧指令は、モード切り替えの瞬間か
ら増圧時間ti 、減圧時間tr のそれぞれの時間分だけ
増圧・減圧指令を出力し、残りの時間は、保持指令を出
力する。平均ブレーキ力は、マスタシリンダ圧に応じた
増圧時間ti と減圧時間tr との比によって定まると共
に、共振周波数に対応した半周期T/2毎の増圧・減圧
モードの切り替えによって、平均ブレーキ力の回りに微
小振動が印加される。
【0152】また、第4の実施の形態の車輪挙動量サー
ボ制御装置には、ブレーキ力の微小励振により生じた車
輪速微小振動の振幅値ωwvを検出する車輪速微小振幅検
出部50、及びブレーキ圧微小振幅Pv を検出するブレ
ーキ圧微小振幅検出部52が備えられている。
【0153】このうち車輪速微小振幅検出部50は、共
振周波数ω∞の振動成分を抽出するフィルタ処理を行う
演算部として実現できる。例えば、この振動系の共振周
波数ω∞が40[Hz]程度であるので、制御性を考慮
して1周期を24[ms]、約41.7[Hz]に取
り、この周波数を中心周波数とするバンドパスフィルタ
を設け、このフィルタ出力を全波整流、直流平滑化する
ことにより車輪速微小振幅検出部50を構成することが
できる。また、周期の整数倍、例えば1周期の24[m
s]、2周期の48[ms]の時系列データを連続的に
取り込み、41.7[Hz]の単位正弦波、単位余弦波
との相関を求めることによっても実現できる。
【0154】また、ブレーキ圧微小振幅Pv は、マスタ
シリンダ圧、図9に示したバルブの増圧時間ti の長
さ、及び減圧時間tr の長さによって所定の関係で定ま
るので、ブレーキ圧微小振幅検出部52は、マスタシリ
ンダ圧、増圧時間ti 及び減圧時間tr からブレーキ圧
微小振幅Pv を出力するテーブルとして構成することが
できる。
【0155】さらに、第4の実施の形態に係る限界判定
装置10dは、検出された車輪速微小振幅ωwvと、ブレ
ーキ圧微小振幅Pv とに基づいて微小ゲインGd を演算
する微小ゲイン演算部54と、演算された微小ゲインG
d と基準ゲインGs とを比較することにより、制動トル
ク特性の限界を判定する判定部56と、から構成され
る。このうち微小ゲイン演算部54は、(32)式を演算す
る除算器として構成することができる。
【0156】なお、本実施の形態の目標挙動量演算部3
5は、判定部56の限界判定結果に応じて、微小ゲイン
d を目標値に追従させるべき車輪挙動量の目標値(目
標挙動量)を演算する。
【0157】次に、第4の実施の形態の作用を説明す
る。微小ゲイン演算部54により微小ゲインGd が演算
されると、判定部56は、微小ゲインGd と基準ゲイン
s との比較により制動トルク特性の限界の判定を行
う。例えば、微小ゲインGd が基準ゲインGs より大き
い場合、制動トルク特性が限界でないと判定し、微小ゲ
インGd が基準ゲインGs 以下となった場合、制動トル
ク特性が限界であると判定する。
【0158】ここで、制動トルク特性が図5(b)のよ
うに限界点を超えたときに制動トルク勾配が大きく変化
するような路面の場合、限界点付近で急激に微小ゲイン
dが小さくなり、基準ゲインGs より小さくなるの
で、限界点の判定を精度良く行うことができる。また、
図5(a)のように通常の制動トルク特性を有する路面
の場合でも、限界点付近で微小ゲインGd が小さくなる
ので、同様に限界点の判定を精度良く行うことができ
る。
【0159】第i輪の制動トルク特性が限界であると判
定された場合、目標挙動量演算部34は、推定された第
i輪の微小ゲインGd を目標値(ピーク追従の場合は
0)に追従させるべき第i輪の車輪挙動量の目標挙動量
を演算する。例えば、設定された目標減速度を制御ステ
ップ毎に現在の値から微小ゲインGd と基準ゲインGs
との偏差に応じた比較的大きな値を減じていく。
【0160】そして、挙動量サーボ演算部36が、演算
された目標挙動量と検出された車輪挙動量との偏差を0
に一致させるためのABS操作量を演算し、ABSアク
チュエータ22が演算されたABS操作量を実現するよ
うに制御バルブを動作させる。これにより、制動トルク
のピーク追従制御が実現される。
【0161】これに対し、制動トルク特性が限界でない
と判定された場合、目標挙動量演算部34が、ドライバ
の操作量であるマスタシリンダ圧に応じた通常の目標挙
動量を演算する。これにより、ドライバの意思に則した
目標値追従制御が実現される。
【0162】このように本実施の形態では、路面の状況
に係わらず制動トルク特性の限界を精度良く判定でき、
かつ限界をこえたと判定したときには制動トルクの最大
値追従制御を行うので、制動トルク特性が限界点から大
きく変化するような路面においても安定な制御が可能と
なり、車輪のロックを確実に防止することができる。
【0163】特に、第4の実施の形態では、制動トルク
特性の限界領域で急激に減少する微小ゲインGd を用い
ているため、制動トルク特性の限界をきわめて精度良く
判定することができる。
【0164】以上が本発明の各実施の形態であるが、本
発明は、上記例にのみ限定されず、その要旨を逸脱しな
い範囲内において任意好適に変更可能である。
【0165】例えば、第1の実施の形態において、(43)
式を用いた飽和点の判定を、次式により行っても良い。
【0166】 Tb <Tb0 (49) ただし、Tb は、図1のブレーキトルク検出部14によ
り検出された現時点でのブレーキトルクである。また、
b0は、車輪減速度が目標値に漸近した平衡状態ではス
リップ速度が一定であると仮定して得られる上記(9) 式
に、車輪減速度検出部12により検出された車輪減速度
0 を代入することにより演算されたブレーキトルクで
ある。
【0167】また、第4の実施の形態では、ブレーキ圧
の微小励振手段を、制御バルブへの増圧減圧時間の調整
により実現したが、本発明は、これに限定されるもので
はなく、微小励振指令に応じて伸縮する圧電アクチュエ
ータによりブレーキディスクに直接、ブレーキ圧を加え
る手段を用いることもできる。
【0168】
【実施例】以下に、第1及び第2の実施の形態を具体的
な条件で動作させたときの実施例を説明する。 (第1の実施例)第1の実施の形態に係る車輪減速度サ
ーボ制御装置が、低μ路で急制動して目標減速度追従制
御した場合のシミュレーション結果を図10を用いて説
明する。
【0169】図10(a)には、車輪速度(実線)と車
体速度(破線)の時間的変化が示されている。同図に示
すように、ブレーキ制動開始時刻(1s)から、車輪速
度が車体速度と一致しなくなっている。しかし、ブレー
キ制動開始時刻の直後を除き、車輪速度が0に一致する
まで、車輪速度と車体速度との差(スリップ速度)が一
定に保たれ、車輪減速度が目標減速度に漸近的に一致す
るスリップ速度一定の平衡状態が実現されていることが
わかる。
【0170】また、図10(b)には、検出された車輪
減速度(実線)と演算された目標減速度(破線)との時
間的変化が示されている。同図に示すように、ブレーキ
制動開始時刻(1s)から時刻1.4s付近までの時間
帯において、車輪減速度と目標減速度との間に若干のず
れが認められるものの、その差は小さく、また車輪減速
度が目標減速度に追従する傾向があるので、車輪減速度
が目標減速度にほぼ一致しているといって良い。そし
て、時刻1.4s以降では、ほぼ完全に車輪減速度が目
標減速度が一致し、ブレーキ急制動時において目標追従
制御が良好に機能していることがわかる。
【0171】さらに、図10(c)には、検出されたブ
レーキトルクTb (実線)と、検出された車輪減速度を
用いて(8) 式により演算されたブレーキトルクTb0(破
線)との時間的変化が示されている。同図に示すよう
に、ブレーキ制動開始時刻(1s)から時刻1.6s付
近までの間において、Tb がTb0より小さくなってい
る。これは(43)式が成立することと同値((49)式と同
じ) であるので、図1の限界判定装置10aは、この時
間帯で制動トルク特性が飽和していると判定する。ここ
で、目標減速度演算部16では、Tb がTb0に略一致す
るまで制御ステップ毎にTb0を減少させ、このTb0から
(8) 式に基づき目標減速度y0 を演算している。
【0172】このように制動トルク特性が飽和した時間
帯でも、図10(b)で説明したように、車輪減速度が
目標減速度にほぼ一致しているので、制動トルク特性が
限界を超えず、目標値追従制御が良好に機能しているこ
とがわかる。さらに、図10(c)において、時刻1.
6s以降では、Tb がTb0に略一致しているので、図6
の飽和点でのピークμ追従制御が車輪ロックを生じるこ
となく良好に機能していることが示されている。
【0173】次に、第1の実施の形態に係る車輪減速度
サーボ制御装置が、高μ路で急制動して目標減速度追従
制御した場合のシミュレーション結果を図11を用いて
説明する。
【0174】図11(a)〜(c)に示すように、高μ
路においても図10の低μ路の場合と同様に目標値追従
制御が良好に機能している結果が得られていることがわ
かる。なお、高μ路であるため、車輪が停止するまでの
時間が短く、また、図11(c)に示すように、制動ト
ルク特性が飽和していると判定される時間帯(1s〜
1.5s)も図10と比較して短くなっている。
【0175】以上のシミュレーション結果より、本発明
の第1の実施例に係る車輪減速度サーボ制御装置によれ
ば、低μ路、高μ路であるか否かに係わらず、車輪ロッ
クを生じることなく安定な目標値追従が実現できること
が示された。 (第2の実施例)第2の実施の形態に係る車輪減速度サ
ーボ制御装置が、低μ路で急制動して目標減速度追従制
御した場合のシミュレーション結果を図12を用いて説
明する。
【0176】図12(a)には、車輪速度(実線)と車
体速度(破線)の時間的変化が示されている。同図に示
すように、ブレーキ制動開始時刻(1s)から車輪速度
が車体速度と一致しなくなっているが、車輪速度と車体
速度との差(スリップ速度)は車両の停止まで僅かな差
となっており、このことは、車輪ロックが発生しなかっ
たことを示している。
【0177】また、図12(b)には、検出された車輪
減速度(実線)と演算された目標減速度(破線)との時
間的変化が示されている。同図に示すように、ブレーキ
制動開始時刻(1s)から時刻1.2s付近までの時間
帯において、車輪減速度と目標減速度との間に若干のず
れが認められるものの、その差は小さく、また車輪減速
度が目標減速度に追従する傾向があるので、車輪減速度
が目標減速度にほぼ一致しているといって良い。そし
て、時刻1.2s以降では、ほぼ完全に車輪減速度が目
標減速度が一致し、ブレーキ急制動時において目標追従
制御が良好に機能していることがわかる。
【0178】さらに、図12(c)には、演算推定され
た制動トルク勾配の時間的変化が示されている。同図に
示すように、制動トルク勾配は、ブレーキ制動開始時刻
(1s)から急激に減少し、その後、車両が停止するま
で、一定値以下の値を維持している。すなわち、ピーク
μ付近の小さな値が保持され、目標値追従制御が車輪ロ
ックを生じることなく良好に機能していることが示され
ている。
【0179】次に、第2の実施の形態に係る車輪減速度
サーボ制御装置が、高μ路で急制動して目標減速度追従
制御した場合のシミュレーション結果を図13を用いて
説明する。
【0180】図13(a)〜(c)に示すように、高μ
路においても図12の低μ路の場合と同様に目標値追従
制御が良好に機能している結果が得られていることがわ
かる。
【0181】以上のシミュレーション結果より、本発明
の第2の実施例に係る車輪減速度サーボ制御装置によれ
ば、路面の状況に係わらず、車輪ロックを生じることな
く安定な目標値追従が実現できることが示された。
【0182】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1、及び請
求項3〜請求項6の発明によれば、スリップ速度に対す
る制動トルクの勾配である制動トルク勾配又は該制動ト
ルク勾配と車輪運動を介して関連する物理量を限界判定
量として演算し、該限界判定量に基づく制動トルク特性
の限界判定結果に応じて、限界判定量を制動トルク特性
の限界を超えない範囲に収めるべき車輪挙動量の目標値
を演算するようにしたので、単に1つの物理量をフィー
ドバックして目標値追従制御を行う場合と比べて、制動
トルク勾配が急激に変化する路面であるか否かに係わら
ず、より良好な目標値追従制御を行うことができる、と
いう優れた効果が得られる。また、請求項2の発明によ
れば、検出された車輪減速度に基づいて、車輪運動でス
リップ速度一定の平衡状態を仮定して得られるブレーキ
トルクに基づいて制動トルク特性の限界を判定するよう
にしたので、きわめて正確に制動トルク特性の限界を判
定できる、という優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る車輪減速度サー
ボ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第2実施の形態に係る車輪挙動量サー
ボ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第3実施の形態に係る車輪挙動量サー
ボ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第4実施の形態に係る車輪挙動量サー
ボ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】スリップ速度に対する制動トルクの変化特性
(制動トルク特性)を示すための図であって、(a)は
ピークμの前後で制動トルク勾配が緩やかに変化する路
面の制動トルク特性、(b)は、ピークμの前後で制動
トルク勾配が急激に変化する路面の制動トルク特性を示
す。
【図6】車輪減速度サーボ制御を構成した場合の車輪減
速度とブレーキトルクとの関係を示す図である。
【図7】車輪と車体と路面とから構成される振動系の等
価モデルを示す図である。
【図8】スリップ速度に対する摩擦係数μの変化特性を
示すと共に、微小ゲインが制動トルク勾配と等価である
ことを説明するため、微小振動の中心の回りのμの変化
が直線で近似できることを示す図である。
【図9】ブレーキ圧の微小励振と平均ブレーキ力の制御
を同時に行う場合の制御バルブへの指令を示す図であ
る。
【図10】本発明の第1の実施例に係る車輪減速度サー
ボ制御装置を、低μ路でブレーキ急制動したときのシミ
ュレーション結果である。
【図11】本発明の第1の実施例に係る車輪減速度サー
ボ制御装置を、高μ路でブレーキ急制動したときのシミ
ュレーション結果である。
【図12】本発明の第2の実施例に係る車輪挙動量サー
ボ制御装置を、低μ路でブレーキ急制動したときのシミ
ュレーション結果である。
【図13】本発明の第2の実施例に係る車輪挙動両サー
ボ制御装置を、高μ路でブレーキ急制動したときのシミ
ュレーション結果である。
【符号の説明】
10a 限界判定装置 10b 限界判定装置 10c 限界判定装置 10d 限界判定装置 12 車輪減速度検出部 14 ブレーキトルク検出部 16 目標減速度演算部 18 偏差演算部 20 減速度サーボ演算部 22 ABSアクチュエータ 23 制御バルブ 30 車輪速センサ 32 車輪挙動量検出部 40 制動トルク勾配演算部 42 判定部 34 目標挙動量演算部 36 挙動量サーボ演算部 50 車輪速微小振幅検出部 52 ブレーキ圧微小振幅検出部 54 微小ゲイン演算部 58 微小励振指令部
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 梅野 孝治 愛知県愛知郡長久手町大字長湫字横道41番 地の1株式会社豊田中央研究所内 (72)発明者 山口 裕之 愛知県愛知郡長久手町大字長湫字横道41番 地の1株式会社豊田中央研究所内 (72)発明者 菅井 賢 愛知県愛知郡長久手町大字長湫字横道41番 地の1株式会社豊田中央研究所内

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 車輪運動に関連した物理量である車輪挙
    動量を検出する車輪挙動量検出手段と、 車輪運動に関連した物理量に基づいて、スリップ速度に
    対する制動トルクの勾配である制動トルク勾配又は該制
    動トルク勾配と車輪運動を介して関連する物理量を限界
    判定量として演算し、該限界判定量に基づいて車輪と路
    面との間の制動トルク特性の限界を判定する限界判定手
    段と、 前記限界判定手段の限界判定結果に応じて、前記限界判
    定量を前記制動トルク特性の限界を超えない範囲に収め
    るべき車輪挙動量の目標値を演算する目標挙動量演算手
    段と、 前記車輪挙動量検出手段により検出された車輪挙動量を
    前記目標挙動量演算手段により演算された車輪挙動量の
    目標値に追従させるように車輪運動を制御するサーボ制
    御手段と、 を含む車輪挙動量サーボ制御装置。
  2. 【請求項2】 検出されたブレーキトルク及び検出され
    た車輪減速度のいずれかに基づいて、車輪運動でスリッ
    プ速度一定の平衡状態を仮定して得られる車輪減速度及
    びブレーキトルクのいずれかを限界判定量として演算
    し、該限界判定量と実際に検出された車輪減速度との比
    較、又は該限界判定量と実際に検出されたブレーキトル
    クとの比較に基づいて車輪と路面との間の制動トルク特
    性の限界を判定する限界判定手段、 を有することを特徴とする限界判定装置。
  3. 【請求項3】 前記車輪挙動量検出手段は、前記車輪挙
    動量として車輪減速度を演算すると共に、 前記限界判定手段は、 検出されたブレーキトルク及び検出された車輪減速度の
    いずれかに基づいて、車輪運動でスリップ速度一定の平
    衡状態を仮定して得られる車輪減速度及びブレーキトル
    クのいずれかを限界判定量として演算し、該限界判定量
    と実際に検出された車輪減速度との比較、又は該限界判
    定量と実際に検出されたブレーキトルクとの比較に基づ
    いて車輪と路面との間の制動トルク特性の限界を判定す
    ることを特徴とする請求項1記載の車輪挙動量サーボ制
    御装置。
  4. 【請求項4】 前記限界判定手段は、 ブレーキトルクの時系列データ及び車輪減速度の時系列
    データに基づいて限界判定量である制動トルク勾配を演
    算し、該限界判定量に基づいて制動トルク特性の限界を
    判定することを特徴とする請求項1記載の車輪挙動量サ
    ーボ制御手段。
  5. 【請求項5】 前記限界判定手段は、 車輪速度の時系列データに基づいて限界判定量である制
    動トルク勾配を演算し、該限界判定量に基づいて制動ト
    ルク特性の限界を判定することを特徴とする請求項1記
    載の車輪挙動量サーボ制御手段。
  6. 【請求項6】 車体と車輪と路面とから構成される振動
    系の共振周波数でブレーキ圧を微小励振する微小励振手
    段と、 をさらに含み、 前記限界判定手段は、 前記微小励振手段によりブレーキ圧を微小に励振した場
    合のブレーキ圧の微小振幅に対する車輪速度の共振周波
    数成分の微小振幅の比である微小ゲインを限界判定量と
    して演算し、該限界判定量に基づいて制動トルク特性の
    限界を判定することを特徴とする請求項1記載の車輪挙
    動量サーボ制御手段。
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