JP4626085B2 - トルク勾配推定装置及びアンチロックブレーキ制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トルク勾配推定装置及びアンチロックブレーキ制御装置に係り、より詳しくは、車輪速の時系列データからスリップ速度に対するトルクの勾配を推定するトルク勾配推定装置及びトルクの勾配に基づいて車輪に作用するブレーキ力を制御するアンチロックブレーキ制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、制動トルク勾配(制動トルクのスリップ速度に対する勾配)を推定するための技術として、特開平10−114263号公報や、特開2000−118375号公報等に記載の技術があった。
【0003】
このうち、特開2000−118375号公報に記載の技術では、車輪速度の時系列データをハイパスフィルタ処理したもの、及び車輪の運動モデルと、制動トルクがスリップ速度に対し制動トルク勾配に応じて一次関数的に変化する勾配モデルと、を用い、過去のデータを取り除く度合いを示す忘却係数を用いたオンラインのシステム同定手法を適用することによって制動トルク勾配、或いは駆動トルク勾配を推定していた。なお、このように推定されたトルク勾配は、車輪のロック傾向や、スリップ傾向を検出するために用いられる。
【0004】
ここで、上記忘却係数は過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータであることから、この値を小さくするにしたがってトルク勾配推定の応答性が上がる反面、外乱に対するロバスト性が低下する。このため、忘却係数を、むやみに小さくすることはできず、従来は忘却係数を一定値としていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開2000−118375号公報に記載の技術では、前述のようにオンラインのシステム同定手法において用いられる忘却係数を一定値としていたので、短時間での検出が要求される車輪のロック傾向及びスリップ傾向の検出速度を高速化することが困難であると共に、悪路走行時やチェーンを装着した状態での走行時等におけるトルク勾配の推定値を安定化させることが困難である、という問題点があった。
【0006】
特に、制動トルク勾配の推定値をアンチロックブレーキ制御装置に利用することによって当該装置の性能の向上を図る場合は、制動力の確保、或いは横力確保のために車輪のロック傾向の検出はより速いことが求められており、又、駆動時においても同様であり、トラクションコントロールに利用するような場合には、スリップ傾向はより速く検出することが求められているのに対し、悪路走行時のような車輪速信号に大きな振動成分が重畳するような走行シーンでは、トルク勾配の安定した推定が求められているため、上記問題点は深刻な問題である。
【0007】
ところで、図22に示すように、車輪がロック傾向にあることを検出してホイールシリンダの油圧を減圧し、その後に徐々に増圧するパターンを繰り返すアンチロックブレーキ制御装置では、車輪がロック傾向にあるときの車輪速度の振動は大きくなる。
【0008】
このようなアンチロックブレーキ制御装置に対し、上記特開2000−118375号公報に記載の技術のようにオンラインのシステム同定手法を適用してトルク勾配を推定する技術を用いた場合、車輪速度の振動振幅が大きいほど車輪速度の重みが大きくなり、後のトルク勾配の推定値に大きな影響を及ぼすこととなる。
【0009】
このため、ホイールシリンダ油圧の減圧直後の車輪速度が復帰したグリップ状態においても、過去の状態であるスリップ状態時の車輪速度が反映され、トルク勾配の推定値が実際より小さくなる場合がある、という問題点があった。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消するために成されたものであり、車輪のロック傾向及びスリップ傾向の検出速度の高速化及びトルク勾配の推定値の安定化の双方を実現することができるトルク勾配推定装置を提供することを第1の目的とし、トルク勾配の推定精度を向上することができるトルク勾配推定装置を提供することを第2の目的とし、的確にアンチロックブレーキ制御を行うことができるアンチロックブレーキ制御装置を提供することを第3の目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記第1の目的を達成するために、請求項1記載のトルク勾配推定装置は、所定のサンプル時間毎に車輪速度を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された車輪速度の時系列データに対してハイパスフィルタ処理する処理手段と、過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータの値を車両の走行状態に応じて設定する設定手段と、前記処理手段によってハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データ、車輪の運動モデル、及び制動トルク又は駆動トルクがスリップ速度に対しトルクの勾配を傾きとして一次関数的に変化する勾配モデルを用い、前記パラメータを用いたオンラインのシステム同定手法を適用することによってトルクの勾配を推定するトルク勾配推定手段と、を備えている。
【0012】
請求項1に記載のトルク勾配推定装置によれば、所定のサンプル時間毎に車輪速度を検出する検出手段により検出された車輪速度の時系列データに対し、処理手段によってハイパスフィルタ処理される。
【0013】
ここで、請求項1に記載の発明では、過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータ(前述の忘却係数に相当)の値が設定手段によって車両の走行状態に応じて設定され、トルク勾配推定手段により、上記処理手段によってハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データ、車輪の運動モデル、及び制動トルク又は駆動トルクがスリップ速度に対しトルクの勾配を傾きとして一次関数的に変化する勾配モデルが用いられ、上記パラメータを用いたオンラインのシステム同定手法が適用されてトルクの勾配が推定される。
【0014】
すなわち、本発明では、過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータの値を設定手段によって車両の走行状態に応じて設定するようにしており、これによって悪路走行時やチェーンを装着した状態での走行時等の車輪速信号に大きな振動成分が重畳するような走行シーンと、車輪のロック傾向やスリップ傾向の検出を高速化したい走行シーンとで、上記パラメータの値を適宜切り換えることができるようになり、この結果として、車輪のロック傾向及びスリップ傾向の検出速度の高速化及びトルク勾配の推定値の安定化の双方を実現することが可能となる。
【0015】
このように、請求項1に記載のトルク勾配推定装置によれば、所定のサンプル時間毎に車輪速度を検出する検出手段により検出された車輪速度の時系列データに対してハイパスフィルタ処理すると共に、過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータの値を車両の走行状態に応じて設定し、ハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データ、車輪の運動モデル、及び制動トルク又は駆動トルクがスリップ速度に対しトルクの勾配を傾きとして一次関数的に変化する勾配モデルを用い、上記パラメータを用いたオンラインのシステム同定手法を適用することによってトルクの勾配を推定しているので、悪路走行時やチェーンを装着した状態での走行時等の車輪速信号に大きな振動成分が重畳するような走行シーンと、車輪のロック傾向やスリップ傾向の検出を高速化したい走行シーンとで、上記パラメータの値を適宜切り換えることができるようになり、この結果として、車輪のロック傾向及びスリップ傾向の検出速度の高速化及びトルク勾配の推定値の安定化の双方を実現することが可能となる。
【0016】
ところで、トルク勾配は、車輪がロック傾向又はスリップ傾向となっている場合は減少する側に変化し、逆にグリップ傾向となっている場合には増加する側に変化する特性がある。
【0017】
また、車輪がロック傾向又はスリップ傾向となっていることを速く検出することは、車両の安定性向上やABSの減圧制御の適正化による消費油量低減化に関連することから、より速い検出が望まれる。
【0018】
そこで、請求項2記載のトルク勾配推定装置は、請求項1記載の発明において、前記設定手段が、前記トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が増加する側に変化する場合は前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、前記トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が減少する側に変化する場合は前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定するものである。
【0019】
請求項2に記載のトルク勾配推定装置によれば、設定手段により、トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が増加する側に変化する場合は上記パラメータの値が当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が減少する側に変化する場合は上記パラメータの値が当該パラメータの値として許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定される。
【0020】
パラメータの値を小さくする場合、過去のデータを取り除く度合いが大きくなる結果、より速い推定が可能となり、また、パラメータの値を大きくする場合、過去のデータを取り除く度合いは小さくなる結果、推定値が安定し、より正確な推定が可能となる。
【0021】
このように、請求項2に記載のトルク勾配推定装置によれば、推定されたトルク勾配が増加する側に変化する場合、すなわちタイヤがグリップ傾向となっている場合は、過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、推定されたトルク勾配が減少する側に変化する場合、すなわち車輪がロック傾向又はスリップ傾向となっている場合は、上記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定することにより、走行シーンに応じて上記パラメータを適宜切り換えているので、車輪のロック傾向及びスリップ傾向の検出速度の高速化及びトルク勾配の推定値の安定化の双方を実現することができ、車両安定性やABS消費油量の低減化に効果のある車輪のロック傾向又はスリップ傾向の判定の高速化が実現できる。
【0022】
ところで、前述のように、悪路走行時やチェーンを装着した状態での走行時には車輪速信号に大きな振動成分が重畳する。
【0023】
そこで、請求項3記載のトルク勾配推定装置は、請求項1記載の発明において、前記設定手段が、前記検出手段により検出された車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定するものである。
【0024】
請求項3に記載のトルク勾配推定装置によれば、設定手段により、検出手段によって検出された車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は上記パラメータの値が当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定される。なお、上記所定レベルとしては、当該レベルによって示される値以上に上記振動レベルがなったときに、悪路走行時又はチェーンを装着した状態での走行時であると見なすことができる値として、実験やコンピュータ・シミュレーションで予め得られた値等を適用することができる。
【0025】
このように、請求項3に記載のトルク勾配推定装置によれば、車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は、過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定しているので、悪路走行時やチェーンを装着した状態での走行時等におけるトルク勾配の推定値の安定化を実現することができる。
【0026】
更に、請求項4記載のトルク勾配推定装置は、請求項1記載の発明において、前記設定手段が、前記検出手段により検出された車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定し、前記振動レベルが前記所定レベル未満である場合は、前記トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が増加する側に変化するときは前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、前記トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が減少する側に変化するときは前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定するものである。
【0027】
請求項4に記載のトルク勾配推定装置によれば、設定手段により、検出手段によって検出された車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は上記パラメータの値が当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定され、上記振動レベルが上記所定レベル未満である場合は、トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が増加する側に変化するときは上記パラメータの値が当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が減少する側に変化するときは上記パラメータの値が当該パラメータの値として許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定される。
【0028】
このように、請求項4に記載のトルク勾配推定装置によれば、車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定し、上記振動レベルが上記所定レベル未満である場合は、推定されたトルク勾配が増加する側に変化するときは上記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、推定されたトルク勾配が減少する側に変化するときは上記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定することにより、走行シーンに応じて上記パラメータを適宜切り換えているので、車輪のロック傾向及びスリップ傾向の検出速度の高速化及びトルク勾配の推定値の安定化の双方を実現することができる。
【0029】
一方、上記第2の目的を達成するために、請求項5記載のトルク勾配推定装置は、所定のサンプル時間毎に車輪速度を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された車輪速度の時系列データに対してハイパスフィルタ処理する処理手段と、前記処理手段によってハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データ、車輪の運動モデル、及び制動トルク又は駆動トルクがスリップ速度に対しトルクの勾配を傾きとして一次関数的に変化する勾配モデルを用い、過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータを用いたオンラインのシステム同定手法を適用することによってトルクの勾配を推定するトルク勾配推定手段と、車輪のロック状態を判断する状態判断手段と、前記状態判断手段による判断結果に基づいて前記トルク勾配推定手段によるトルク勾配の推定動作を制御する推定制御手段と、を備えている。
【0030】
請求項5に記載のトルク勾配推定装置によれば、所定のサンプル時間毎に車輪速度を検出する検出手段により検出された車輪速度の時系列データに対し、処理手段によってハイパスフィルタ処理され、当該ハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データ、車輪の運動モデル、及び制動トルク又は駆動トルクがスリップ速度に対しトルクの勾配を傾きとして一次関数的に変化する勾配モデルを用い、過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータを用いたオンラインのシステム同定手法を適用することによってトルク勾配推定手段によりトルクの勾配が推定される。
【0031】
ここで、請求項5に記載の発明では、状態判断手段によって車輪のロック状態が判断され、この判断結果に基づいてトルク勾配推定手段によるトルク勾配の推定動作が推定制御手段によって制御される。
【0032】
すなわち、本発明では、車輪のロック状態に応じてトルク勾配推定手段によるトルク勾配の推定動作を制御しているので、車輪がロック傾向にある状態から開放された際に、過去の状態であるロック状態時の車輪速度のトルク勾配推定値に対する影響が小さくなるようにトルク勾配の推定動作を制御することによって、トルク勾配の推定精度を向上することができる。
【0033】
このように、請求項5に記載のトルク勾配推定装置によれば、車輪のロック状態の判断結果に基づいてトルク勾配推定手段によるトルク勾配の推定動作を制御しているので、車輪がロック傾向にある状態から開放された際に、過去の状態であるロック状態時の車輪速度のトルク勾配推定値に対する影響が小さくなるようにトルク勾配の推定動作を制御することによって、トルク勾配の推定精度を向上することができる。
【0034】
また、請求項6記載のトルク勾配推定装置は、請求項5記載の発明において、前記推定制御手段が、前記状態判断手段によって車輪がロック傾向にあると判断された場合に前記トルク勾配推定手段によるトルクの勾配の推定を中断し、前記ロック傾向から開放されたと判断された時点で前記トルク勾配推定手段によるトルクの勾配の推定を再開するように前記トルク勾配推定手段による推定動作を制御するか、又は前記状態判断手段によって車輪がロック傾向にあると判断された場合はロック状態から開放された時点から所定期間だけ前記パラメータの値をロック傾向にないと判断された場合の値より小さな値となるように制御するものである。
【0035】
請求項6に記載のトルク勾配推定装置によれば、推定制御手段により、状態判断手段によって車輪がロック傾向にあると判断された場合にトルク勾配推定手段によるトルクの勾配の推定が中断され、ロック傾向から開放されたと判断された時点でトルク勾配推定手段によるトルクの勾配の推定が再開されるようにトルク勾配推定手段による推定動作が制御されるか、又は状態判断手段によって車輪がロック傾向にあると判断された場合はロック状態から開放された時点から所定期間だけ上記パラメータの値がロック傾向にないと判断された場合の値より小さな値となるように制御される。
【0036】
このように、請求項6に記載のトルク勾配推定装置によれば、車輪がロック傾向にあると判断された場合にトルクの勾配の推定を中断し、ロック傾向から開放されたと判断された時点でトルクの勾配の推定を再開するように推定動作を制御するか、又は車輪がロック傾向にあると判断された場合はロック状態から開放された時点から所定期間だけ過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータの値をロック傾向にないと判断された場合の値より小さな値となるように制御しているので、過去の状態であるロック状態時の車輪速度のトルク勾配推定値に対する影響が小さくなるようにすることができ、これによってトルク勾配の推定精度を向上することができる。
【0037】
一方、上記第3の目的を達成するために、請求項7記載のアンチロックブレーキ制御装置は、請求項1乃至請求項6の何れか1項記載のトルク勾配推定装置と、前記トルク勾配推定装置によって推定された制動トルクの勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御する制御手段と、を備えている。
【0038】
請求項7に記載のアンチロックブレーキ制御装置によれば、請求項1乃至請求項6の何れか1項記載のトルク勾配推定装置によってトルクの勾配が推定され、推定された制動トルクの勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力が制御手段によって制御される。
【0039】
このように、請求項7に記載のアンチロックブレーキ制御装置によれば、本発明に係るトルク勾配推定装置を備えると共に、当該トルク勾配推定装置によって推定された制動トルクの勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御しているので、的確にアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0040】
(請求項1〜請求項6記載の発明のトルク勾配の推定原理)
ここで、請求項1〜請求項6記載の発明におけるトルク勾配の推定原理について説明する。
【0041】
各車輪の車輪運動及び車体運動は次式の運動方程式によって記述される。
【0042】
【数1】
【0043】
ただし、Fi’は、第i輪に発生した制動力、Tbiは踏力に対応して第i輪に加えられたブレーキトルク、Mは車両質量、Rcは車輪の有効半径、Jは車輪慣性、vは車体速度である(図20参照)。なお、・は時間に関する微分を示す。(1)式、(2)式において、Fi’はスリップ速度(v/Rc−ωi)の関数として示されている。
【0044】
ここで、車体速度を等価的な車体の角速度ωvで表すと共に、制動トルクRcFi’をスリップ速度の1次関数(傾きki、y切片Ti)として記述する。すなわち、図2に示すように、制動トルクRcFi’がスリップ速度(ωv−ωi)に対し制動トルク勾配kiを傾きとして一次関数的に変化する勾配モデルを適用する。
【0045】
v = Rcωv (3)
RcFi’(ωv−ωi)=ki×(ωv−ωi)+Ti (4)
さらに、(3)、(4)式を(1)、(2)式へ代入し、車輪速度ωi及び車体速度ωvをサンプル時間τ毎に離散化された時系列データωi[k]、ωv[k](kはサンプル時間τを単位とするサンプル時刻、k=1,2,.....)として表すと次式を得る。
【0046】
【数2】
【0047】
ここで、(5)、(6)式を連立し、車体の等価角速度ωvを消去すると、
【0048】
【数3】
【0049】
を得る。
【0050】
ところで、スリップ速度3rad/sという条件下でRcMg/4(gは重力加速度)の最大制動トルクの発生を仮定すると、
【0051】
【数4】
【0052】
を得る。ここで、具体的な定数として、τ=0.005(sec)、Rc=0.3(m)、M=1000(kg)を考慮すると、max(ki)=245となる。従って、
【0053】
【数5】
【0054】
となり、(7)式は(8)式のように近似することができる。
【0055】
【数6】
【0056】
このように整理することにより、(8)式は未知係数ki、fiに関し、線形の形で記述することが可能となる。即ち、(8)式は、制動トルクをスリップ速度の一次関数で近似した車輪及び車体運動方程式となる。そして、(8)式にオンラインのパラメータ同定手法を適用することにより、スリップ速度に対する制動トルク勾配kiを推定することもできる。
【0057】
ところで、上記(8)式を、車輪の加速度に着目して整理すると、
【0058】
【数7】
【0059】
となる。(9)式からkiとfiの同定は、車輪加速度の特性根−ki/jとオフセット−fi/τを推定すると解釈することもできる。
【0060】
ところで、車輪速信号を、車輪の加速度の定常成分が除去されるように処理すると、即ち、車輪速信号をハイパスフィルタに入れる(ハイパスフィルタ処理)と、オフセット項(−fi/τ)を0にすることができる。例えば、減速度一定で制動しているときには一次以上のハイパスフィルタ(車輪の加速度の定常的な値がオフセット値とみなすことの可能なハイパスフィルタ)を入れることによりオフセット項を省略することができる。従って、車輪速信号をハイパスフィルタに入れることによりfi=0と仮定することが可能となる。よって、車輪速信号をハイパスフィルタに入れて、トルク勾配を推定する場合には、(8)式は、次のように変形することができる。即ち、車輪及び車体各々の運動方程式から得られかつ車輪の加速度を用いた運動方程式から車輪加速度の定常項を省略して得られるトルク勾配を未知数として含む関係式に変形することができる。
【0061】
【数8】
【0062】
ただし、ωhi[k]はハイパスフィルタ処理後の車輪速度である。
【0063】
そして、以下のステップ1及びステップ2を繰り返すことにより、検出された車輪速度の時系列データωi[k]から制動トルク勾配の時系列データを推定することができる。
【0064】
【数9】
【0065】
とおく。なお、(10)式のφi[k]は、1サンプル時間での車輪速度の変化に関する物理量であり、(12)式は、1サンプル時間の車輪速度の変化の1サンプル時間での変化に関する物理量である。
【0066】
【数10】
【0067】
という漸化式からθの推定値
【0068】
【数11】
【0069】
即ち、制動トルクの勾配を推定する。ただし、λは過去のデータを取り除く度合いを示す忘却係数であり、“T”は行列の転置を示す。
【0070】
なお、(13)式の左辺は、車輪速度の変化に関する物理量の履歴及び車輪速度の変化の変化に関する物理量の履歴を表す物理量である。
【0071】
ここで、請求項1〜請求項4記載のトルク勾配推定装置では、車両の走行状態に応じて過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータである忘却係数λを設定しており、これによって、車輪のロック傾向及びスリップ傾向の検出速度の高速化及びトルク勾配の推定値の安定化の双方を実現するようにしている。
【0072】
また、請求項5及び請求項6記載のトルク勾配推定装置では、車輪のロック状態を判断する状態判断手段による判断結果に基づいてトルク勾配の推定動作を制御しており、これによって、トルク勾配の推定精度の向上を実現している。
【0073】
以上のように、制動トルク勾配を推定するために従来必要であった未知係数fiを省略することができるので、制動トルク勾配の推定のための演算量を少なくすることができる。よって、制動トルク勾配の推定精度が向上することが期待できる。なお、制動トルクに代えて駆動トルクを適用することもできる。ここに示した推定法は最小自乗法を適用したものであるが、補助変数法など他のオンライン同定法を用いることも可能である。
【0074】
(請求項7記載の発明のABS制御の原理)
ブレーキ力は、路面と接するタイヤのトレッドの表面を介して路面に作用するが、実際には、このブレーキ力は路面と車輪との間の摩擦力を媒介として路面からの反力(制動トルク)として車体に作用する。車体がある速度で走行している時、ブレーキ力をかけていくと車輪と路面との間にスリップが生じるが、このときに路面からの反力として作用する制動トルクは、次式で表されるスリップ速度ωs(角速度換算)に対して図2のように変化する。
【0075】
ωs = ωv − ωi
ただし、ωvは車体速度(等価的に角速度で表現したもの)、ωiは第i輪(iは車輪番号、i=1,2,3,4 ・・・(4輪車であれば、i=1,2,3,4 (以下、4輪車を例にとる))の角速度に換算した車輪速度である。
【0076】
図2に示すように、制動トルクは、最初はスリップ速度の増大と共に増加し、スリップ速度ω0時に最大値fi0に達し、ω0より大きいスリップ速度ではスリップ速度の増大と共に減少する。なお、スリップ速度ω0は車輪と路面との間の摩擦係数が最大値の時のスリップ速度に相当する。
【0077】
従って、図2から明らかなように、スリップ速度に対する制動トルクの勾配(以下「制動トルク勾配」という)は、ωs<ω0で正(>0)、ωs=ω0で0、ωs>ω0で負(<0)となる。すなわち、制動トルク勾配が正の時は車輪が路面にグリップしている状態、制動トルク勾配が0の時はピークμの状態、制動トルク勾配が負の時は車輪がロックされている状態、というように制動トルク勾配に応じて車輪運動の動特性が変化する。
【0078】
そして、請求項7記載の発明では、車体速度を推定せず、車輪速度の時系列データのみから現時点の制動トルク勾配を上記のように推定し、推定した制動トルク勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御する。これによって、基準値を含む所定範囲の制動トルク勾配に対応した車輪運動の状態を保持できる。また、基準値をピークμに対応する0に設定すれば、車両の走行する路面状態によりピークμとなるスリップ速度が変化したとしても、ピークμで制動トルク勾配が0となることは変わらないので、制動トルク勾配を0にするように制御すれば完全にピークμ追従が可能となる。また、車体速度推定部が不要となるのでブレーキ力の増減を繰り返す必要がなく安定な走行が可能となる。
【0079】
制御トルク勾配をフィードバック制御する制御系は、PID制御等により各車輪ごとに設計してもよいが、現代制御理論の適用により全輪の統合系としてシステマティックに設計することも可能である。この場合、全輪の干渉等も設計に考慮されるためよりきめ細かい制御が実現できる。
【0080】
ところで、ABS制御系はタイヤの特性の強い非線形特性を有するシステムであり、単純に現代制御理論を適用することはできない。そこで、この非線形特性は見かけ上等価的なプラント変動としてみなすことができる点に着眼し、このプラント変動を許容するような制御系設計を現代制御理論の一つであるロバスト制御理論の適用により達成し、4輪の干渉等も設計に考慮したきめ細かな制御系設計を行った。以下に制御系設計の詳細を記す。
【0081】
各車輪の車輪運動および車体運動は次式の運動方程式によって記述される。
【0082】
【数12】
【0083】
ただし、Fiは第i輪に発生した制動トルクでスリップ速度(ωv−ωi)の関数として示されている。また、Tbi’はブレーキペダルを車輪ロック直前まで踏み込んだ場合の踏力に対応したブレーキトルク、ubiは該ブレーキトルクが作用した状態で車輪がロック状態に陥らずにピークμ追従を行うように車輪に作用されるブレーキトルク(操作量)である。また、Mは車両質量、Rcは車輪の有効半径、ωvは車体速度(等価的に角速度で表現したもの)である。そして、(16)式は各車輪の制動トルク勾配kiは、スリップ速度の関数であることを示す出力方程式である。
【0084】
ところで、Fi、Giは図3(a)、図3(b)に各々示すようにωοでそれぞれピークおよび0となるスリップ速度の非線形関数であり、これらは実線によって示した直線20、23と所定範囲以内の変動という形式によって表すことができる。ここで、スリップ速度のωοからの擾乱をxiとすると
Fi=(fi+Wfi△fi)xi+fi0 (17)
Gi=(gi+Wgi△gi)xi (18)
と表すことができる。
【0085】
ここで、fiは図3(a)の直線20の傾き、giは図3(b)の直線23の傾きを示す。また、Wfi、Wgiは変動を基準化するための重み係数であり、図3(a)の破線21、破線22及び図3(b)の破線24、25は非線形変動の上下限を各々表しており、△fi、△giを±1とすることに対応している。
【0086】
すなわち、(17)式は平衡点ω0周りの攪乱xiに対する各車輪の制動トルクの非線形変動を、図3(a)の直線20を含む破線21から破線22の範囲以内の変動で表した線形モデルである。また、(18)式は平衡点ω0周りの攪乱xiに対する各車輪の制動トルク勾配の非線形変動を、図3(b)の直線23を含む破線24から破線25の範囲以内の変動で表した線形モデルである。
【0087】
さらに、(17)、(18)式を(14)、(15)、(16)式に代入し、平衡点(ω0)周りの状態方程式として記述すると、次式を得る。
【0088】
【数13】
【0089】
ただし、
【0090】
【数14】
【0091】
また、
【0092】
【数15】
【0093】
である。ここで、xはω0周りの各車輪のスリップ速度攪乱、yはω0周りの各車輪の制動トルク勾配、uはω0周りの各車輪の操作量((14)式のubiに相当)を表している。
【0094】
ここで、(21)式の構造をもつ任意の△(−1≦△fi、△gi≦1)を許容する制御系設計を行うことにより、4輪の干渉を考慮に入れたABS制御系の設計ができる。この設計は、ロバスト制御の一手法であるμ設計法の適用により容易に行うことが可能である。
【0095】
すなわち、(21)式の構造を持つ任意のΔ(−1≦△fi、△gi≦1)を許容する制御系をいわゆるμ設計法を用いて設計することにより、以下のコントローラを導出する。
【0096】
【数16】
【0097】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係るABS制御装置を詳細に説明する。
【0098】
〔第1実施形態〕
本実施の形態に係るABS制御装置の構成を図1に示す。
【0099】
図1に示すように、本実施の形態に係るABS制御装置は、所定のサンプル時間τ毎に車輪速度を検出する車輪速検出手段10と、該車輪速検出手段10により検出された車輪速度を、車輪の加速度との定常成分が除去されるように処理(ハイパスフィルタ処理)する処理手段(1次以上(本実施の形態では1次)のハイパスフィルタ)11と、トルク勾配推定値の増減に応じて忘却係数λの値を設定するトルク勾配増減判断手段12Aと、トルク勾配増減判断手段12Aによって設定された忘却係数λ及び処理手段11によりハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データに基づいて制動トルク勾配を推定するトルク勾配推定手段13と、該トルク勾配推定手段13で推定された制動トルク勾配に基づいてABS制御のための各車輪毎の操作信号を演算するABS制御手段14と、該ABS制御手段14により演算された操作信号に基づいて各車輪毎にブレーキ圧を操作することによりABS制御を行うABS制御弁16と、から構成される。
【0100】
図1の車輪速検出手段10は、例えば、図4(a)の構成により実現できる。
図4(a)に示すように、車輪速検出手段10は、所定数の歯が等間隔に切られかつ車輪と共に回転するように取り付けられたシグナルロータ30と、車体に固定されたピックアップコイル32と、該ピックアップコイル32の内部に磁束を貫通させるように配置された永久磁石34と、ピックアップコイル32に接続されると共にサンプル時間τ毎に該ピックアップコイル32に発生した交流電圧の周波数を検出して出力する周波数検出器36と、から構成される。
【0101】
車輪の回転と共にシグナルロータ30が回転すると、シグナルロータ30とピックアップコイル32の間のエアギャップが回転速度に応じた周期で変化する。
このため、ピックアップコイル32を貫通する永久磁石34の磁束が変化しピックアップコイル32に交流電圧が発生する。ここで、ピックアップコイル32に発生した交流電圧の時間的変化を図4(b)に示す。
【0102】
図4(b)に示すように、ピックアップコイル32に発生した交流電圧は、シグナルロータ30の回転速度が低速時には周波数が低くなりシグナルロータ30の回転速度が高速時には周波数が高くなる。この交流電圧の周波数はシグナルロータ30の回転速度、すなわち車輪速度に比例するため、周波数検出器36の出力信号は、サンプル時間τ毎の車輪速度に比例する。
【0103】
なお、図4(a)の車輪速検出手段10は第1輪〜第4輪のすべてに取り付けられ、各車輪毎に周波数検出器36の出力信号から第i輪(iは車輪番号、i=1,2,3,4 )の車輪速度の時系列データωi[k](kはサンプル時刻;k=1、2、..... ) が検出される。
【0104】
次に、ABS制御弁16の構成を図5を用いて説明する。
【0105】
図5に示すように、ABS制御弁16は、右前輪用の制御ソレノイドバルブ132(以下、「バルブSFR」)と、左前輪用の制御ソレノイドバルブ134(以下、「バルブSFL」)と、右後輪用の制御ソレノイドバルブ140(以下、「バルブSRR」)と、左後輪用の制御ソレノイドバルブ142(以下、「バルブSRL」)と、を含んで構成される。
【0106】
バルブSFR、バルブSFL、バルブSRR、バルブSRLは、各々、増圧側バルブ132a、134a、140a、142a及び減圧側バルブ132b、134b、140b、142bを備えると共に、それぞれフロントホイールシリンダ144、146、及びリヤホイールシリンダ148、150に接続されている。
【0107】
増圧側バルブ132a、134a、140a、142a及び減圧側バルブ132b、134b、140b、142bは、それぞれバルブの開閉を制御するSFRコントローラ131、SFLコントローラ133、SRRコントローラ139、SRLコントローラ141に接続されている。
【0108】
SFRコントローラ131、SFLコントローラ133、SRRコントローラ139、SRLコントローラ141は、ABS制御手段14から送られてきた各車輪毎の操作信号に基づいて、各制御ソレノイドバルブの増圧側バルブと減圧側バルブの開閉を制御する。
【0109】
ここで、ABS制御弁16を含むシステム油圧回路の構成を図6を用いて詳細に説明する。
【0110】
図6に示すように、システム油圧回路には、マスターシリンダー系及びパワーサプライ系のブレーキフルードを蓄えるリザーバー100が設けられている。このリザーバー100には、内部に蓄えられたブレーキフルードの液面低下を検出するレベルウォーニングスイッチ102と、パワーサプライ系の異常高圧時にブレーキフルードをリザーバー100へリリーフするためのリリーフバルブ104が設けられている。
【0111】
また、リザーバー100のリリーフバルブ104側から配設された配管には、リザーバー100からブレーキフルードを汲み上げ、高油圧のフルードを吐出するポンプ106が設けられ、さらにフルード吐出側には、該ポンプで発生させた油圧(パワーサプライ系)を蓄圧するアキュームレーター108と該アキュームレータ108の油圧を検出する圧力センサー110とが設けられている。この圧力センサー110は、アキュームレーター108の油圧に基づいてポンプ106の制御信号を出力し、低圧時にはウォーニング信号(ABS、TRC制御の禁止信号)を出力する。
【0112】
また、アキュームレータ108の高油圧側の配管には、アキュームレーター108の油圧低圧時にポンプ106の制御信号を出力すると共に油圧低圧時のウォーニング信号(ABS、TRC制御の禁止信号)を出力する圧力スイッチ112が設けられている。
【0113】
また、リザーバー100から延設された他の配管には、ブレーキペダル118にかかった踏力に応じた油圧を発生させるマスターシリンダー114が接続されている。このマスターシリンダー114とブレーキペダル118との間には、アキュームレーター108の高油圧を踏力に応じた油圧に調圧・導入しブレーキの助勢力を発生させるブレーキブースター116が配置されている。
【0114】
このブレーキブースター116には、アキュームレーターの高油圧側の配管とリザーバー100から直接延設された配管とが接続されており、ブレーキペダル118の踏み込み量が一定値以下の場合、リザーバー100からの通常の油圧が導入され、踏み込み量が一定値を越えるとアキュームレーター108からの高油圧が導入される。
【0115】
また、マスターシリンダー114からは該マスターシリンダーの油圧(マスタ圧)を前後輪に各々供給するためのフロント用マスタ圧配管164及びリヤ用マスタ圧配管166が設けられている。そして、フロント用マスタ圧配管164及びリヤ用マスタ圧配管166には、前後輪で適正な制動力の配分となるようにリヤ系統のブレーキ油圧を調圧するP&Bバルブ120が介在されている。なお、P&Bバルブ120は、フロント系統欠損時にはリヤ系統の調圧を中止する。
【0116】
また、P&Bバルブ120から延びたフロント用マスタ圧配管164には、パワーサプライ系の油圧が低下した場合にフロントホイールシリンダー油圧を増圧して高い制動力を確保するための増圧装置122が設けられている。この増圧装置122には、ブレーキブースター116のブースター室に接続されたブースター配管168が接続されており、このブースター配管168と増圧装置122との間には、圧力リミッター124及び差圧スイッチ126が介在されている。
【0117】
圧力リミッター124は、システム正常時にブレーキブースター116の助勢力限界以上の入力付加に対し、増圧装置122及び差圧スイッチ126を作動させないようにブースター室との経路を閉じる。また、差圧スイッチ126はマスターシリンダー114とブースター室との油圧差を検出する。
【0118】
このブースター配管168には、上述した右前輪用の制御ソレノイドバルブ132(「バルブSFR」)の増圧側バルブ132aと、左前輪用の制御ソレノイドバルブ134(「バルブSFL」)の増圧側バルブ134aが接続されている。さらにバルブSFRの減圧側バルブ132b及びバルブSFLの減圧側バルブ134bには、リザーバー100から直接延設された低圧配管162が接続されている。
【0119】
バルブSFR及びバルブSFLの圧力供給側の配管には、切り換えソレノイドバルブ136(以下、「バルブSA1」)及び切り換えソレノイドバルブ138(以下、「バルブSA2」)が各々接続されており、このバルブSA1及びバルブSA2には、さらに増圧装置122の増圧側配管が接続されている。そして、バルブSA1の圧力供給側の配管は、左前輪のブレーキディスク152にブレーキ圧を加えるフロントホイールシリンダー144に接続されており、バルブSA2は、右前輪のブレーキディスク154にブレーキ圧を加えるフロントホイールシリンダー146に接続されている。
【0120】
バルブSA1及びバルブSA2は、通常のブレーキモード時には、増圧装置122からの圧力が、各々フロントホイールシリンダー144、146にかかるように弁を切り換え、ABS制御モード時には、バルブSFR及びバルブSFLからの圧力が各々フロントホイールシリンダー144、146にかかるように弁を切り換える。すなわち、前輪では、通常ブレーキモードとABS制御モードとの切り換えは左右輪毎に独立して行うことが可能となっている。
【0121】
また、ブースター配管168には、切り換えソレノイドバルブ130(以下、「SA3」)を介して、上述した右後輪用の制御ソレノイドバルブ140(「バルブSRR」)の増圧側バルブ140aと、左後輪用の制御ソレノイドバルブ142(「バルブSRL」)の増圧側バルブ142aが接続されている。さらにバルブSRRの減圧側バルブ140b及びバルブSRLの減圧側バルブ142bには、リザーバー100から直接延設された低圧配管162が接続されている。
【0122】
バルブSRRの圧力供給側の配管は、右後輪のブレーキディスク156にブレーキ圧を加えるリヤホイールシリンダー148に接続されており、バルブSRLは、左後輪のブレーキディスク158にブレーキ圧を加えるリヤホイールシリンダー150に接続されている。
【0123】
バルブSA3は、通常のブレーキモード時には、リヤ用マスタ圧配管166からのマスタ圧が、バルブSRL及びバルブSRRにかかるように弁を切り換え、ABS制御モード時には、ブースター配管168の高油圧がバルブSRL及びバルブSRRにかかるように弁を切り換える。すなわち、後輪では、通常ブレーキモードとABS制御モードとの切り換えは左右まとめて行われる。トルク勾配増減判断手段12Aが本発明の設定手段(特に請求項2記載の発明における設定手段)に相当する。
【0124】
次に、本実施の形態の作用を説明する。なお、ABSモード時には、図6のバルブSA1及びバルブSA2が増圧装置122側の弁を閉じバルブSFR及びバルブSFL側の弁を開ける。また、バルブSA3がリヤ用マスタ圧配管166側の弁を閉じブースター配管168側の弁を開ける。
【0125】
まず、車輪速検出手段10が、各輪各々についてサンプル時間τ毎に車輪速を検出し、各車輪毎の車輪速度の時系列データωi[k]を出力する。処理手段11は、各車輪毎の車輪速度の時系列データωi[k]をハイパスフィルタ処理する。
【0126】
次に、トルク勾配推定手段13が、上記ステップ1において、ハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データωhi[k]に基づき(10)式、(12)式を計算し、次に上記ステップ2において(13)式の漸化式から制動トルク勾配を推定する。このステップ1及びステップ2を順次繰り返すことにより、推定された制動トルク勾配の時系列データを得る。
【0127】
ここで、本実施の形態に係るトルク勾配推定手段13では、制動トルク勾配を最初に推定する際には、忘却係数λを所定の基準値λ0(例えば、λ0=0.98)として推定し、2回目以降の推定の際には、トルク勾配増減判断手段12Aによって設定された忘却係数λを適用して推定する。
【0128】
本第1実施形態に係るトルク勾配増減判断手段12Aは、図7に示されるフローチャートの流れに従って忘却係数λを設定する。
【0129】
すなわち、まず、1サンプル時間前の制動トルク勾配の推定値をトルク勾配推定手段13から取得し(ステップ300)、取得した制動トルク勾配の推定値と処理手段11によるハイパスフィルタ処理後の車輪速信号とに基づき、次の(25)式によって判断値Gを算出する(ステップ302)。
【0130】
【数17】
【0131】
次に、以上によって得られた判断値Gが0より大きいか否かを判定し(ステップ304)、判断値Gが0より大きい場合(ステップ304肯定判定)、忘却係数λに忘却係数として許容される値の最大値又は最大値近傍の所定値λB(例えば、λB=0.99)を設定する(ステップ306)。
【0132】
一方、判断値Gが0より大きくない場合、すなわち判断値Gが0以下である場合(ステップ304否定判定)、判断値Gが0より小さいか否かを判定し(ステップ308)、判断値Gが0より小さい場合(ステップ308肯定判定)、忘却係数λに忘却係数として許容される値の最小値又は最小値近傍の所定値λS(例えば、λS=0.95)を設定する(ステップ310)。
【0133】
更に判断値Gが0より小さくない場合、すなわち判断値Gが0と等しい場合(ステップ308否定判定)、忘却係数λに基準値λ0を設定する(ステップ312)。なお、以上のような忘却係数λの設定は、各サンプル時刻毎に行われる。
【0134】
そして、ABS制御手段14が、以上の処理によって設定された忘却係数λを用いてトルク勾配推定手段13により推定された制動トルク勾配を適用して図8のフローチャートの流れで処理を行う。
【0135】
図8に示すように、ABS制御手段14は、トルク勾配推定手段13が推定した各サンプル時刻の制動トルク勾配を用いて各サンプル時刻における各車輪の操作量u(ui:i=1、2、3、4)を演算する(ステップ200)。
【0136】
すなわち、(14)式〜(18)式から(19)式、(20)式の状態方程式を導出し、(19)式、(20)式で現れる(21)式の構造を持つ任意のΔ(−1≦△fi、△gi≦1)を許容する制御系をいわゆるμ設計法を用いて設計することにより、(23)式、(24)式のコントローラを導出する。そして、(24)式のxcにコントローラの状態値を、同式のyにトルク勾配推定手段13が推定した制動トルク勾配の値を代入することによりABS制御弁16の操作量uを得る。
【0137】
次に、車輪番号iを1に設定し(ステップ202)、第i輪の操作量uiが正の基準値+eより大きいか否かを判定する(ステップ204)。操作量uiが正の基準値+eより大きい場合(ステップ204肯定判定)、第i輪のABS制御弁の操作信号を、増圧信号に設定する(ステップ206)。
【0138】
操作量uiが正の基準値+eより大きくない場合(ステップ204否定判定)、操作量uiが負の基準値−eより小さいか否かを判定する(ステップ208)。操作量uiが負の基準値−eより小さい場合(ステップ208肯定判定)、第i輪のABS制御弁の操作信号を、減圧信号に設定する(ステップ210)。
【0139】
操作量uiが負の基準値−eより小さくない場合(ステップ208否定判定)、すなわち、操作量uiが負の基準値−e以上であってかつ正の基準値+e以下の場合には、第i輪のABS制御弁の操作信号を、保持信号に設定する(ステップ212)。
【0140】
このように第1輪の操作量u1についての操作信号を設定すると、車輪番号iを1だけインクリメントし(ステップ214)、次にiが4を越えているか否かを判定する(ステップ216)。iが4を越えていない場合(ステップ216否定判定)、ステップ204に戻り、同様にしてインクリメントした車輪番号iの操作量uiについて操作信号の設定を行う。
【0141】
車輪番号iが4を越えた場合(ステップ216肯定判定)、すなわち、第1輪〜第4輪すべてのABS制御弁の操作信号が設定されると、設定された操作信号をABS制御弁16へ送出する(ステップ218)。なお、以上のような操作信号の設定及び操作信号の送出は、各サンプル時刻毎に行われる。
【0142】
このように各車輪毎の操作信号が送出されると、ABS制御弁16では、図5のSFRコントローラ131、SFLコントローラ133、SRRコントローラ139、SRLコントローラ141が、各操作信号に応じてバルブSFR、バルブSFL、バルブSRR、バルブSRLの開閉の制御を行う。
【0143】
すなわち、増圧信号のときは増圧側バルブを開き、減圧側バルブを閉じる。これによって、図6のブースター配管168の高油圧が対応するホイールシリンダに加えられて制動力が増加する。逆に、減圧信号のときは増圧側バルブを閉じ、減圧側バルブを開く。これによって、図6の低圧配管162の低油圧が対応するホイールシリンダに加えられて制動力が減少する。また、保持信号のときは増圧側バルブ及び減圧側バルブを同時に閉じる。これによって、対応するホイールシリンダに加えられた油圧が保持されて制動力が保持される。
【0144】
(実施例)
図9には、アンチロックブレーキ作動中における制動トルク勾配の推定結果が示されている。なお、同図の上側に示したグラフは、ここで適用した車輪速の変化を示すものであり、同図の下側に示したグラフにおける破線で示したものが従来の技術により推定した制動トルク勾配、すなわち、忘却係数λを一定として推定した制動トルク勾配の推移を示すものであり、実線で示したものが本実施の形態のトルク勾配推定手段13により推定した制動トルク勾配、すなわち、制動トルク勾配が増加する側に変化するときは忘却係数λを許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定し、制動トルク勾配が減少する側に変化するときは忘却係数λを許容される値の最小値又は最小値近傍の値に設定することによって推定した制動トルク勾配の推移を示すものである。また、ここでの制動トルク勾配の推定値の演算に際しては、車輪速信号の高周波の振動成分を除去するため、処理手段11によるハイパスフィルタ処理の後にローパスフィルタによる処理も行っている。
【0145】
同図に示すように、本実施の形態にかかるトルク勾配推定手法は、従来手法に比較して推定の応答性が向上しており、車輪のロック傾向の検出速度を従来より高速化することができることが分かる。
【0146】
一方、図10には、本実施の形態にかかるトルク勾配推定手法をアンチロックブレーキ制御装置に適用した場合の、車輪速、ブレーキ圧、及び制動トルク勾配推定値の推移が示されている。
【0147】
同図に示すように、本実施の形態で示したトルク勾配推定手法による制動トルク勾配推定値をアンチロックブレーキ制御装置に適用した場合、車輪のロック傾向を素早く検出できる(ここでは、制動トルク勾配推定値が0近傍の所定値以下となったことを以ってロック傾向であると判断)ことから、限界に近づいた場合には不必要に増圧を行うことなく保持状態にする、或いはごく短い時間の減圧を行うことが可能となる。
【0148】
同図において破線で示したものは、ごく短い時間の減圧を行った場合のイメージ図であり、減圧によってブレーキ圧を下げることにより、車輪速度の落ち込みを減少できることが期待できる。そのため、制動力の確保、或いは横力の確保ができる。また、減圧時にホイールシリンダから引く油量を少なくすることができ、リザーバーの小型化によるアクチュエータの小型化が期待できる。
【0149】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るABS制御装置では、トルク勾配推定手段13によって推定されたトルク勾配が増加する側に変化する場合、すなわちタイヤがグリップ傾向となっている場合は、忘却係数λの値を許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、推定されたトルク勾配が減少する側に変化する場合、すなわち車輪がロック傾向又はスリップ傾向となっている場合は、忘却係数λの値を許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定することにより、走行シーンに応じて忘却係数λを適宜切り換えているので、車輪のロック傾向の検出速度の高速化及びトルク勾配の推定値の安定化の双方を実現することができる。
【0150】
また、本実施の形態に係るABS制御装置では、本実施の形態に係るトルク勾配推定手段13によって推定された制動トルクの勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御しているので、的確にアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0151】
〔第2実施形態〕
上記第1実施形態では、トルク勾配推定手段13によって推定されたトルク勾配が増加する側に変化する場合は忘却係数λを許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、推定されたトルク勾配が減少する側に変化する場合は忘却係数λを許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定する場合の実施の形態、すなわち、請求項2記載の発明の形態例について説明したが、本第2実施形態では、車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は忘却係数λを許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定する場合の実施の形態、すなわち、請求項3記載の発明の形態例について説明する。
【0152】
まず、図11を参照して、本第2実施形態に係るABS制御装置の構成を説明する。なお、同図における図1と同様の処理を行う部分については図1と同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0153】
図11に示すように、本第2実施形態に係るABS制御装置は、トルク勾配増減判断手段12Aに代えて、車輪速度の振動レベルに応じて忘却係数λの値を設定する車輪速振動レベル判断手段12Bが適用されている点のみが、第1実施形態に係るABS制御装置と異なっている。なお、この部分以外の構成については、上記第1実施形態に示したABS制御装置と同様であるので、ここでの説明は省略する。車輪速振動レベル判断手段12Bが本発明の設定手段(特に請求項3記載の発明における設定手段)に相当する。
【0154】
次に、本実施の形態の作用を説明する。なお、車輪速振動レベル判断手段12B以外の部分の作用は第1実施形態に係るABS制御装置と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0155】
本第2実施形態に係る車輪速振動レベル判断手段12Bは、図12に示されるフローチャートの流れに従って忘却係数λを設定する。
【0156】
すなわち、まず、処理手段11によるハイパスフィルタ処理後の車輪速信号に基づいて車輪速度の振動レベルGNを算出する(ステップ400)。なお、本実施の形態では、処理手段11から入力された車輪速信号によって示される値の2乗値を振動レベルGNとして算出している。
【0157】
次に、振動レベルGNが所定閾値TH1より大きいか否かを判定し(ステップ402)、振動レベルGNが所定閾値TH1より大きい場合(ステップ402肯定判定)、忘却係数λに忘却係数として許容される値の最大値又は最大値近傍の所定値λB(例えば、λB=0.99)を設定する(ステップ404)。
【0158】
一方、振動レベルGNが所定閾値TH1より大きくない場合、すなわち振動レベルGNが所定閾値TH1以下である場合(ステップ402否定判定)、忘却係数λに基準値λ0を設定する(ステップ406)。なお、所定閾値TH1は、この値を振動レベルGNが越えたときに、悪路走行時又はチェーンを装着した状態での走行時であると見なすことができる値として、実験やコンピュータ・シミュレーションで予め得られた値等を適用することができる。
【0159】
なお、以上のような忘却係数λの設定は、各サンプル時刻毎に行われる。
【0160】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るABS制御装置では、車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は、忘却係数λの値を許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定しているので、悪路走行時やチェーンを装着した状態での走行時等におけるトルク勾配の推定値の安定化を実現することができる。
【0161】
また、本実施の形態に係るABS制御装置では、本実施の形態に係るトルク勾配推定手段13によって推定された制動トルクの勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御しているので、的確にアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0162】
〔第3実施形態〕
本第3実施形態では、車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は忘却係数λの値を許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定し、上記振動レベルが上記所定レベル未満である場合は、トルク勾配推定手段13によって推定されたトルク勾配が増加する側に変化するときは忘却係数λの値を許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、トルク勾配が減少する側に変化するときは忘却係数λの値を許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定する場合の実施の形態、すなわち、請求項4記載の発明の形態例について説明する。
【0163】
まず、図13を参照して、本第3実施形態に係るABS制御装置の構成を説明する。なお、同図における図1と同様の処理を行う部分については図1と同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0164】
図13に示すように、本第3実施形態に係るABS制御装置は、処理手段11とトルク勾配増減判断手段12Aとの間に、第2実施形態と同様の車輪速振動レベル判断手段12Bが配置されている点のみが、第1実施形態に係るABS制御装置と異なっている。なお、この部分以外の構成については、上記第1実施形態に示したABS制御装置と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0165】
本実施の形態におけるトルク勾配増減判断手段12A及び車輪速振動レベル判断手段12Bが本発明の設定手段(特に請求項4記載の発明における設定手段)に相当する。
【0166】
次に、本実施の形態の作用を説明する。なお、車輪速振動レベル判断手段12B以外の部分の作用は第1実施形態に係るABS制御装置と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0167】
本第3実施形態に係る車輪速振動レベル判断手段12Bは、図14に示されるフローチャートの流れに従って処理を行う。なお、図14における図12と同様の処理を行うステップについては図12と同一のステップ番号を付して、その説明を省略する。
【0168】
車輪速度の振動レベルGNが所定閾値TH1より大きくない場合、すなわち振動レベルGNが所定閾値TH1以下である場合(ステップ402否定判定)、トルク勾配増減判断手段12Aに対してトルク勾配増減判断処理(図7参照)の実行を指示する。これに応じて、トルク勾配増減判断手段12Aは、第1実施形態と同様にトルク勾配増減判断処理を実行することによって、トルク勾配推定値の増減状況に応じて忘却係数λの値を設定する。
【0169】
なお、以上のような忘却係数λの設定は、各サンプル時刻毎に行われる。
【0170】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るABS制御装置では、車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は忘却係数λの値を許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定し、上記振動レベルが上記所定レベル未満である場合は、推定されたトルク勾配が増加する側に変化するときは忘却係数λの値を許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、推定されたトルク勾配が減少する側に変化するときは忘却係数λの値を許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定することにより、走行シーンに応じて忘却係数λの値を適宜切り換えているので、車輪のロック傾向の検出速度の高速化及びトルク勾配の推定値の安定化の双方を実現することができる。
【0171】
また、本実施の形態に係るABS制御装置では、本実施の形態に係るトルク勾配推定手段13によって推定された制動トルクの勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御しているので、的確にアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0172】
なお、上記第1、第2、第3実施形態では、車輪速度の時系列データに基づいて車両の制動時における制動トルク勾配を推定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、車輪速度の時系列データに基づいて車両の駆動時における駆動トルク勾配を推定する形態とすることもできる。この場合も、上記各実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0173】
〔第4実施形態〕
本第4実施形態では、車輪がロック傾向にあると判断された場合はロック状態が開放された時点から所定期間だけ忘却係数λの値をロック傾向にないと判断された場合の値より小さな値となるように制御する場合の実施の形態、すなわち、請求項6記載の発明の形態例について説明する。
【0174】
まず、図15を参照して、本第4実施形態に係るABS制御装置の構成を説明する。なお、同図における図1と同様の処理を行う部分については図1と同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0175】
図15に示すように、本第4実施形態に係るABS制御装置は、車輪のロック状態を判断する状態判断手段12Cと、当該状態判断手段12Cによる判断結果に基づいてトルク勾配推定手段13によるトルク勾配の推定動作を制御する推定制御手段12Dと、が追加されており、かつトルク勾配増減判断手段12Aが除かれている点のみが第1実施形態に係るABS制御装置と異なっている。
【0176】
本第4実施形態に係るABS制御装置では、車輪速検出手段10の出力端が2つに分岐されて、一方が処理手段11に、他方が状態判断手段12Cの入力端に接続されている。また、状態判断手段12Cの出力端は推定制御手段12Dの入力端に接続されており、推定制御手段12Dの出力端はトルク勾配推定手段13に接続されている。
【0177】
次に、本実施の形態の作用を説明する。なお、状態判断手段12C及び推定制御手段12D以外の部分の作用は第1実施形態に係るABS制御装置と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0178】
状態判断手段12Cでは、次のように車輪のロック状態を判断する。
【0179】
すなわち、まず、図16に示すように、ブレーキ力の増減を繰り返した際の車輪速度の推移を検出し、当該推移より求めた速度vwの谷を一定勾配で接続することによって車体速度vvを推定する。なお、この車体速度vvの推定法は周知であるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0180】
次に、推定した車体速度vvから車輪速度を減算することによってスリップ速度を算出し、算出したスリップ速度が所定値以上となった場合に車輪がロック傾向に陥ったものと判断し、その後、算出したスリップ速度が上記所定値未満となった時点でロック状態から開放されたものと判断する。なお、上記所定値は、当該値以上にスリップ速度がなったときにロック傾向となったと見なすことができる値として、実験やコンピュータ・シミュレーションで予め得られた値等を適用することができる。
【0181】
一方、本第4実施形態に係る推定制御手段12Dは、図17に示されるフローチャートの流れに従って処理を行う。
【0182】
まず、状態判断手段12Cによる判断結果に基づいて車輪がロック傾向に陥ったか否かを判断し(ステップ500)、ロック傾向に陥った場合(ステップ500肯定判定)、状態判断手段12Cによる判断結果に基づいて車輪のロック状態からの開放待ちを行い(ステップ502)、忘却係数λに忘却係数として許容される値の最小値又は最小値近傍の所定値λS(例えば、λS=0.95)を設定する(ステップ504)。なお、ここで設定した忘却係数λはトルク勾配推定手段13に出力され、トルク勾配推定手段13では、入力された忘却係数λを用いてトルク勾配を推定する。
【0183】
推定制御手段12Dは、次に所定時間の経過待ちを行い(ステップ506)、その後に忘却係数λに所定の基準値λ0(例えば、λ0=0.98)を設定する(ステップ508)。なお、ここで設定した忘却係数λはトルク勾配推定手段13に出力され、トルク勾配推定手段13では、入力された忘却係数λを用いてトルク勾配を推定する。
【0184】
一方、ステップ500において車輪がロック傾向に陥っていないと判断された場合(否定判定の場合)は、上記ステップ502〜ステップ508の処理は行わない。
【0185】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るABS制御装置では、車輪がロック傾向にあると判断された場合はロック状態から開放された時点から所定期間だけ忘却係数λの値をロック傾向にないと判断された場合の値より小さな値となるように制御しているので、過去の状態であるロック状態時の車輪速度のトルク勾配推定値に対する影響が小さくなるようにすることができ、これによってトルク勾配の推定精度を向上することができる。
【0186】
また、本実施の形態に係るABS制御装置では、本実施の形態に係るトルク勾配推定手段13によって推定された制動トルクの勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御しているので、的確にアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0187】
なお、本実施の形態では、車輪がロック状態から開放された後の所定期間の間、忘却係数λを通常の値より小さな一定値に設定した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、車輪がロック状態から開放された後の所定期間の間、忘却係数λを通常の値より小さな所定値から徐々に通常の値に近づけるように設定する形態とすることもできる。この場合も、本実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0188】
〔第5実施形態〕
本第5実施形態では、車輪がロック傾向にあると判断された場合にトルク勾配推定手段13によるトルクの勾配の推定を中断し、ロック傾向から開放されたと判断された時点でトルク勾配推定手段13によるトルクの勾配の推定を再開するようにトルク勾配推定手段13による推定動作を制御する場合の実施の形態、すなわち、請求項6記載の発明の他の形態例について説明する。
【0189】
まず、図18を参照して、本第5実施形態に係るABS制御装置の構成を説明する。なお、同図における図15と同様の処理を行う部分については図15と同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0190】
図18に示すように、本第5実施形態に係るABS制御装置は、推定制御手段12Dに代えて、車輪がロック傾向にあると判断された場合にトルク勾配推定手段13によるトルクの勾配の推定を中断し、ロック傾向から開放されたと判断された時点でトルク勾配推定手段13によるトルクの勾配の推定を再開するようにトルク勾配推定手段13による推定動作を制御する推定制御手段12D’が設けられている点のみが第4実施形態に係るABS制御装置と異なっている。
【0191】
次に、本実施の形態の作用を説明する。なお、推定制御手段12D’以外の部分の作用は第4実施形態に係るABS制御装置と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0192】
本第5実施形態に係る推定制御手段12D’は、図19に示されるフローチャートの流れに従って処理を行う。
【0193】
まず、状態判断手段12Cによる判断結果に基づいて車輪がロック傾向に陥ったか否かを判断し(ステップ600)、ロック傾向に陥った場合(ステップ600肯定判定)、トルク勾配推定手段13に対してトルク勾配の推定の中断を指示する(ステップ602)。これによって、トルク勾配推定手段13では、トルク勾配の推定動作を中断する。
【0194】
次に、状態判断手段12Cによる判断結果に基づいて車輪のロック状態からの開放待ちを行い(ステップ604)、トルク勾配推定手段13に対してトルク勾配の推定の再開を指示する(ステップ606)。これによって、トルク勾配推定手段13では、トルク勾配の推定動作を再開する。
【0195】
一方、ステップ600において車輪がロック傾向に陥っていないと判断された場合(否定判定の場合)は、上記ステップ602〜ステップ606の処理は行わない。
【0196】
なお、トルク勾配推定手段13によるトルク勾配の推定動作が中断している間にABS制御手段14では、車輪がロック傾向にあることを検出した時点でホイールシリンダ油圧を減圧し、その後に徐々に増圧するように制御する。
【0197】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るABS制御装置では、車輪がロック傾向にあると判断された場合にトルクの勾配の推定を中断し、ロック傾向から開放されたと判断された時点でトルクの勾配の推定を再開するように推定動作を制御しているので、過去の状態であるロック状態時の車輪速度のトルク勾配推定値に対する影響が小さくなるようにすることができ、これによってトルク勾配の推定精度を向上することができる。
【0198】
また、本実施の形態に係るABS制御装置では、本実施の形態に係るトルク勾配推定手段13によって推定された制動トルクの勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御しているので、的確にアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0199】
なお、上記第4実施形態及び第5実施形態では、状態判断手段12Cにおいて、車体速度の推定値から車輪速度を減算して得られたスリップ速度に基づき、車輪がロック傾向に陥ったこと及びロック状態から開放されたことを判断する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、以下に示す判断法を適用することもできる。
(ロック傾向判断の例)
・トルク勾配推定手段によって得られたトルク勾配推定値が所定値以下となった場合。なお、ここでの所定値は、当該値以下にトルク勾配推定値がなったときにロック傾向になったと見なすことができる値として、実験やコンピュータ・シミュレーションで予め得られた値等を適用することができる。
・車輪減速度(減速側を正とする)が所定値以上となった場合。なお、ここでの所定値は、当該値以上に車輪減速度がなったときにロック傾向になったと見なすことができる値として、実験やコンピュータ・シミュレーションで予め得られた値等を適用することができる。
・トルク勾配の推定に用いられるハイパスフィルタ処理後の車輪速信号が所定値以下(絶対値が大きい)となった場合。なお、ここでの所定値は、当該値以下に車輪速信号がなったときにロック傾向になったと見なすことができる値として、実験やコンピュータ・シミュレーションで予め得られた値等を適用することができる。
(ロック開放判断の例)
・トルク勾配の推定に用いられるハイパスフィルタ処理後の車輪速信号が所定値以上となり、かつその信号が減少した場合。なお、ここでの所定値は、当該値以上に車輪速信号がなり、かつ当該信号が減少したときにロック傾向になったと見なすことができる値として、実験やコンピュータ・シミュレーションで予め得られた値等を適用することができる。
【0200】
これらの判断法を適用した場合も、上記第4実施形態及び第5実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0201】
また、上記第4実施形態では、車輪がロック傾向にあると判断された場合はロック状態が開放された時点から所定期間だけ忘却係数λの値をロック傾向にないと判断された場合の値より小さな値となるように制御する場合の形態例を、第5実施形態では、車輪がロック傾向にあると判断された場合にトルク勾配推定手段13によるトルクの勾配の推定を中断し、ロック傾向から開放されたと判断された時点でトルク勾配推定手段13によるトルクの勾配の推定を再開するようにトルク勾配推定手段13による推定動作を制御する場合の形態例を、各々説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、これらの形態を組み合わせた形態、すなわち、車輪がロック傾向にあることを検出した時点でトルク勾配推定手段13によるトルク勾配の推定動作を中断し、ロック状態から開放された時点でトルク勾配の推定動作を再開すると共に、この時点から所定期間の間、忘却係数λの値を通常の値より小さな値としてトルク勾配を推定する形態とすることもできる。この場合、推定再開後の推定速度の向上が期待できる。
【0202】
図21には、この形態におけるトルク勾配推定値の推移が示されている。同図に示すように、この形態によれば、ホイールシリンダ油圧の減圧直後の車輪速度が復帰したグリップ状態においても過去の状態であるスリップ状態時の車輪速度が反映されてトルク勾配の推定値が実際より小さくなるという従来技術の問題点を解消して、より高精度にトルク勾配の推定を行うことができる。
【0203】
【発明の効果】
請求項1乃至請求項4記載のトルク勾配推定装置によれば、所定のサンプル時間毎に車輪速度を検出する検出手段により検出された車輪速度の時系列データに対してハイパスフィルタ処理すると共に、過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータの値を車両の走行状態に応じて設定し、ハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データ、車輪の運動モデル、及び制動トルク又は駆動トルクがスリップ速度に対しトルクの勾配を傾きとして一次関数的に変化する勾配モデルを用い、上記パラメータを用いたオンラインのシステム同定手法を適用することによってトルクの勾配を推定しているので、悪路走行時やチェーンを装着した状態での走行時等の車輪速信号に大きな振動成分が重畳するような走行シーンと、車輪のロック傾向やスリップ傾向の検出を高速化したい走行シーンとで、上記パラメータの値を適宜切り換えることができるようになり、この結果として、車輪のロック傾向及びスリップ傾向の検出速度の高速化及びトルク勾配の推定値の安定化の双方を実現することが可能となる、という効果が得られる。
【0204】
また、請求項5及び請求項6記載のトルク勾配推定装置によれば、車輪のロック状態の判断結果に基づいてトルク勾配推定手段によるトルク勾配の推定動作を制御しているので、車輪がロック傾向にある状態から開放された際に、過去の状態であるロック状態時の車輪速度のトルク勾配推定値に対する影響が小さくなるようにトルク勾配の推定動作を制御することによって、トルク勾配の推定精度を向上することができる、という効果が得られる。
【0205】
更に、請求項7記載のアンチロックブレーキ制御装置によれば、本発明に係るトルク勾配推定装置を備えると共に、当該トルク勾配推定装置によって推定された制動トルクの勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御しているので、的確にアンチロックブレーキ制御を行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態に係るアンチロックブレーキ制御装置の構成を示す図である。
【図2】スリップ速度と、制動トルク及び制動トルク勾配との関係を示す図である。
【図3】スリップ速度の関数としての制動トルクFi及び制動トルク勾配Giの変化を示す図であって、(a)は制動トルクFiの変動の上限下限を、(b)は制動トルク勾配Giの変動の上限下限を示す図である。
【図4】実施の形態に係る車輪速検出手段の構成を説明するための図であって、(a)は車輪速検出手段の構成図、(b)はピックアップコイルに発生する交流電圧の時間的変化を示す図である。
【図5】実施の形態に係るABS制御弁の構成を示す図である。
【図6】実施の形態に係るABS制御弁を含むシステム油圧回路の構成を示す図である。
【図7】実施の形態に係るトルク勾配増減判断処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】実施の形態に係るABS制御の流れを示すフローチャートである。
【図9】第1実施形態における制動トルク勾配の推定結果を示すグラフである。
【図10】第1実施形態に係るトルク勾配推定手法をアンチロックブレーキ制御装置に適用した場合の、車輪速、ブレーキ圧、及び制動トルク勾配推定値の推移を示すグラフである。
【図11】第2実施形態に係るアンチロックブレーキ制御装置の構成を示す図である。
【図12】第2実施形態に係る車輪速振動レベル判断処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】第3実施形態に係るアンチロックブレーキ制御装置の構成を示す図である。
【図14】第3実施形態に係る車輪速振動レベル判断処理の流れを示すフローチャートである。
【図15】第4実施形態に係るアンチロックブレーキ制御装置の構成を示す図である。
【図16】車体速度の推定方法の説明に供するグラフである。
【図17】第4実施形態に係る推定制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図18】第5実施形態に係るアンチロックブレーキ制御装置の構成を示す図である。
【図19】第5実施形態に係る推定制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図20】実施の形態に係るABS制御が適用される車両の力学モデルを示す図である。
【図21】第4実施形態で説明したトルク勾配推定手法と第5実施形態で説明したトルク勾配推定手法とを組み合わせた場合のトルク勾配推定値の推移を示すグラフである。
【図22】従来技術の問題点の説明に供するグラフである。
【符号の説明】
10 車輪速検出手段
11 処理手段
12A トルク勾配増減判断手段(設定手段)
12B 車輪速振動レベル判断手段(設定手段)
12C 状態判断手段
12D、12D’ 推定制御手段
13 トルク勾配推定手段
14 ABS制御手段
16 ABS制御弁
Claims (7)
- 所定のサンプル時間毎に車輪速度を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された車輪速度の時系列データに対してハイパスフィルタ処理する処理手段と、
過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータの値を車両の走行状態に応じて設定する設定手段と、
前記処理手段によってハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データ、車輪の運動モデル、及び制動トルク又は駆動トルクがスリップ速度に対しトルクの勾配を傾きとして一次関数的に変化する勾配モデルを用い、前記パラメータを用いたオンラインのシステム同定手法を適用することによってトルクの勾配を推定するトルク勾配推定手段と、
を備えたトルク勾配推定装置。 - 前記設定手段は、前記トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が増加する側に変化する場合は前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、前記トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が減少する側に変化する場合は前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定する
請求項1記載のトルク勾配推定装置。 - 前記設定手段は、前記検出手段により検出された車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定する
請求項1記載のトルク勾配推定装置。 - 前記設定手段は、前記検出手段により検出された車輪速度の振動レベルが所定レベル以上である場合は前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に設定し、前記振動レベルが前記所定レベル未満である場合は、前記トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が増加する側に変化するときは前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最大値又は最大値近傍の値に、前記トルク勾配推定手段によって推定されたトルク勾配が減少する側に変化するときは前記パラメータの値を当該パラメータの値として許容される値の最小値又は最小値近傍の値に、各々設定する
請求項1記載のトルク勾配推定装置。 - 所定のサンプル時間毎に車輪速度を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された車輪速度の時系列データに対してハイパスフィルタ処理する処理手段と、
前記処理手段によってハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データ、車輪の運動モデル、及び制動トルク又は駆動トルクがスリップ速度に対しトルクの勾配を傾きとして一次関数的に変化する勾配モデルを用い、過去のデータを取り除く度合いを示すパラメータを用いたオンラインのシステム同定手法を適用することによってトルクの勾配を推定するトルク勾配推定手段と、
車輪のロック状態を判断する状態判断手段と、
前記状態判断手段による判断結果に基づいて前記トルク勾配推定手段によるトルク勾配の推定動作を制御する推定制御手段と、
を備えたトルク勾配推定装置。 - 前記推定制御手段は、前記状態判断手段によって車輪がロック傾向にあると判断された場合に前記トルク勾配推定手段によるトルクの勾配の推定を中断し、前記ロック傾向から開放されたと判断された時点で前記トルク勾配推定手段によるトルクの勾配の推定を再開するように前記トルク勾配推定手段による推定動作を制御するか、又は前記状態判断手段によって車輪がロック傾向にあると判断された場合はロック状態から開放された時点から所定期間だけ前記パラメータの値をロック傾向にないと判断された場合の値より小さな値となるように制御する
請求項5記載のトルク勾配推定装置。 - 請求項1乃至請求項6の何れか1項記載のトルク勾配推定装置と、
前記トルク勾配推定装置によって推定された制動トルクの勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御する制御手段と、
を備えたアンチロックブレーキ制御装置。
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