【発明の詳細な説明】
特定のアセチル化度を有するキトサンポリマー
発明の分野
本発明は特定のアセチル化度及び特定の分子量を有するキトサンポリマーを含
有する新しい医薬処方物、キトサンポリマー自体、及びこのキトサンポリマーの
使用に関する。
発明の背景
キチン及びその誘導体は、例えば食品成分又は水精製助剤のような多くの有利
な用途の可能性を有することが多年にわたって知られている(Chitin and chito
san,G.Skjak-Braek,T.Anthonsen及びP.Sandford編集,Elsevier,Amsterdam,
1989年刊)。キチンは例えばカニ及びエビの殻、昆虫及び茸などに天然に豊富に
存在する。キチンの主要な単位は2−デオキシ−2−アセチルアミノグルコース
単位であり、このものは(1,4)グリコシド結合により内部ポリマーに結合し
ている。キチンのN−デアセチル化により高分子量カチオン性多糖のキトサンを
生じる。N−アセチル化の程度はキトサンの重要な特性であり、それが分子の陽
電荷及びその極性を決定するからである。キトサンは種々な程度のアセチル化並
び分子量で製造することができる(Anthonsen等,Carbohydrate Polymers,22巻
,1993年,193〜201頁)。
キトサンは認められている低い毒性及び生物分解性のために生物適合性のある
巨大分子と考えられている。それらはリゾチーム及び関連する酵素例えばN−ア
セチル−D−グルコサミニダーゼにより分解される。ポリマーのリゾチームによ
る分解性はN−アセチル化度と共に増加する(Aiba,Int.J.Biol.Macromol.,14
巻,1992年,225〜228頁;Bourbouze等,Clin.Chim.Acta,199巻,1991年,185
〜194頁)。その生物適合性
の故に、多くの医学的適用についてこの化合物の評価が始められており、例えば
JP 0509295 A;Nishimura等,Mol.Biother.,2巻,1990年,115〜12頁;Segal
等,Mycopathologia,102巻,1988年,157〜163頁; Nishimura等,Vaccine,2巻
,1984年,93〜99頁; Lida等,Vaccine,5巻,1987年,270〜274頁;及びJP 541
4809 Aに記述されている。それらは又JP 04264023 A及びEP 460921-Aに開示され
ているように薬物の徐放性又は制御された放出用担体としても有用である。
Azuma等による特許US 4873 092にはキトサンは生理的活性物質例えばアドリア
マイシン及びテストステロンのこれら物質の担体からの緩やかな放出及びそれに
より長期間にわたって薬物の一定の治療的(しかし無毒の)血中濃度を得るため
の担体として使用している。そのような徐放性担体として使用することができる
キトサンは0〜100%のN−アセチル化度と10000〜23000の分子量を有すると述
べている。Imai等による報告書、Int.J.Pharm.,67巻,1991年,11〜20頁はイン
ドメタシンの経口吸収用担体として低分子量(<25,000)で中間(10〜34%)の
アセチル化度のキトサンの使用を記述している。これらのキトサンはインビトロ
において酸性薬物の溶解性を増す。水溶性の不十分なインドメタシンの溶解性は
その経口吸収にとって速度制限的であるから、溶解性の増加は薬物の経口吸収の
増加を生じる。
キトサンは粘膜接着特性を有することが見出だされており、そしてその粘膜上
皮への密着により薬物の粘膜吸収部位例えば小腸又は大腸及び直腸粘膜への送達
に有用であることが証明されるであろう(EP 514008-A1; Lehr等,Int.J.Pharm.
,78巻,1992年,43〜48頁)。
種々の親水性薬物例えば抗生物質、ペプチド及びタンパク質においては、薬物
の溶解度は吸収過程において速度制限的ではない。しかしなが
ら、これらの化合物の多くは大量の酵素的分解及び不十分な上皮透過性のため経
口投与後不十分にしか吸収されない。薬物吸収を妨げる物理的障壁を克服するた
めにはいわゆる吸収増強剤を同時投与することがしばしば不可避である。本特許
出願に使用する吸収増強剤とはこの化合物と粘膜上皮との間の相互作用によって
薬物吸収が増加する化合物を指す。それらは薬物自身との相互作用により薬物吸
収が増加する化合物を含まない。多くの種類の化合物が親水性で高分子量の化合
物の腸吸収を改善すると説明されている。そのような吸収増強性化合物には界面
活性剤、胆汁酸塩、キレート剤、及び脂肪酸が含まれる(Lee等,Crit.Rev.Ther
apeut.Drug Carrier Syst.,8巻,1991年,91〜192頁)。しかしながら、多くの
そのような吸収増強剤の使用に関連する大きな懸念は上皮の完全性、形態及び機
能に対して起こり得る悪影響である(Swenson及びCuratolo,Adv.Drug Delivery
Rev.,8巻,1992年,39〜92頁)。その上、吸収部位において、再現性のある投
薬が実現されるため有効量の増強剤及び薬物の送達が必要であるが、これを達成
することは困難である。加えて、増強剤の作用の開始及びその活性の持続は吸収
部位における薬物の存在及びその吸収に必要な時間と一致しなければならない(D
e Boer and Breimer(Drug absorption enhancement,De Boer編集,Harwood Ac
.Publ.,Chur,1994年刊),155〜175頁)。最適の吸収増強特性を有する化合物
は、従って上皮透過性に対する強力な効果、作用の早い開始、及び低い毒性を示
さなければならない。
最近、キトサンは、親水性で高分子量の薬物が粘膜組織を通過する吸収を促進
する可能性のある吸収増強性化合物として研究されている。キトサンは小モデル
ペプチドであるインスリン、及び親水性モデルマーカー分子の粘膜吸収を増強す
ることが見出だされた。Illum等による公開
された特許出願(WO 9009780-A)には、キトサンSeacure及びSeacure+はヒツジ
及びラットの鼻粘膜を通過するインスリンの吸収を大幅に改善したと記述されて
いる。この研究で使用したキトサンの濃度は0.1〜0.5%(w/v)である。Seacur
e+は低粘度(Seacure+)又は中間粘度(Seacure+ 210)のいずれかである水溶性
のキトサンのグルタミン酸塩と説明されている。キトサンのアセチル化度又は分
子量については明確に説明されていない。しかしながら、有効なポリマーは分子
量が10,000〜500,000の範囲のキトサンであると述べられている。
同じ水溶性キトサン(Seacure+ 210)を使用してCaco-2細胞単層に対するキト
サンの影響が研究された(Artursson等,Pharm.Res.,11巻,1994年,1358〜13
61頁)。Caco-2はヒト腸上皮のモデルとして通常使用されるヒト上皮細胞系であ
る。Seacure+キトサンは親水性モデル化合物の上皮を通過する輸送により測定す
ると上皮の透過性を5〜10倍増加する。Seacure+は0.1〜0.5%(w/v)の濃度、
そして溶液pH4.0〜6.0の範囲で使用される。
中間粘度の Seacure+ 210は別の研究において、インビトロで腸組織を通過す
る小ペプチドの輸送を改善することが見出された(Rentel等,Proc.Intern.Sy
mp.Control.Rel.Bioact.Mater.,20巻,1993年,446〜447 頁)。同じ研究
において、異なるキトサンについても試験を行った。Daichitosan VH(DA=15〜
20%;Mw=500000〜800000)と称するこのキトサンは1%(w/v)の濃度で腸粘
膜を通過する小ペプチドの輸送に対して同様の改善を示した。
提示したすべての研究は、キトサンを種々の濃度(0.1〜2%(w/v))及び種
々のpH値で使用して行ったヒツジ及びラットを含む数種の動物種において腸管の
みならず鼻の粘膜上皮透過性の改善を示しているが、そ
れらは吸収増強作用に対するキトサンの二つの重要な特性、すなわちアセチル化
度及び分子量の影響について解明していない。実際、開示された報告書に極めて
明細に記述されたパラメータは皆無である。
発明の概要
本発明により、意外なことに、中間で高くないアセチル化度、すなわち20〜45
%のアセチル化度、及び高分子量、すなわち75,000を超える分子量のキトサンが
上皮透過性増加のため、早い吸収増強の開始及び増強剤の低い毒性を実現するた
めに必要であることが見出された。
発明の詳述
親水性薬物のモデルとしてマーカー分子マンニトールの輸送の研究(Anderberg
等,Pharm.Res.,10巻,1993年,857〜864頁)、及びCaco-2細胞単層を通過する
心臓血管薬、アテノロールの輸送の研究において、低位ないし中間のアセチル化
度及び/又は高分子量のキトサンが透過性を増強するために必要であることが見
出された。すなわち、アセチル化度1%(DA=1%)で低分子量(Mw=31000)
又は高分子量(170000)のいずれかのキトサンはマンニトール輸送に対して顕著
な濃度依存性の効果を示す。50μg/ml(0.005%(w/v))の低濃度において両者
共マンニトール輸送を10〜15倍増加する。250μg/mlの濃度では透過性の増加は
50倍である。中間(DA=35%)又は高い(DA=49%)アセチル化度で高分子量(
それぞれ、Mw=170000及び98000)のキトサンもマンニトール輸送を改善する。50
及び250μg/ml(それぞれ0.005及び0.025%(w/v))の濃度はCaco-2細胞単層のマ
ンニトール透過性の10〜15倍増加を実現するのに必要である。後者キトサンによ
るマンニトール透過性の増加には低いアセチル化度(DA=1%)の前者キトサン
に認められたような浸漬濃度/効果相関はない。一方、中間又は高いアセチル化
度で低分子量の
キトサン(キトサン(DA=35%、Mw=5300)、キトサン(DA=35%、Mw=12000)、
キトサン(DA=49%、Mw=22000))はマンニトール輸送に全く効果を示さない。2
50μg/ml(0.025%(w/v))までの濃度はCaco-2細胞単層を通過するマンニトー
ルの透過性を実質的に変化させない。
アセチル化度1%で分子量31000及び170000のキトサン、並びにアセチル化度3
5%で分子量170000のキトサンのそれぞれ50μg/mlの濃度、及びアセチル化度49
%で分子量98000のキトサンの250μg/mlの濃度においては、Caco-2細胞単層を
通過するマンニトール透過性にすべて同様な増強が認められたが、それらの上皮
細胞に対する害作用は意外なことに著しく異なっている。細胞内脱水素酵素活性
を測定し、傷害を受けた細胞が示す減少した脱水素酵素代謝の観察に基づく毒性
分析において、中間及び高いアセチル化度で高分子量のキトサン(キトサン(DA
=35%、Mw=170000)、キトサン(DA=49%、Mw=98000))より低いアセチル化度
のキトサン(キトサン(DA=1%、Mw=31000又は170000))により強い毒性が観察
された。これらの発見は透過型電子顕微鏡検査による上皮Caco-2細胞単層に対す
るキトサンの害作用の視覚化により確認されたが、この検査は中間及び高いアセ
チル化度で高分子量のキトサン(キトサン(DA=35%、Mw=170000)、キトサン(DA
=49%、Mw=98000))への露出後における形態変化は小さいことを示したが、一
方1%のみのアセチル化度のキトサンに露出した後においては明瞭な変化が観察
された。これらの変化には微絨毛の非連続性と数の減少及び破壊された線維網構
造が含まれる。
その上、上皮透過性増加の作用の開始は低いアセチル化度で低分子量又は高分
子量のキトサン(DA=1%、Mw=31000又は170000)の場合より、中間のアセチル
化度(35%)及び高分子量(170000)のキトサンの場合
においていっそう早かった。この結果より後者キトサンはより制御性及び信頼性
の高い吸収増強特性を与えるのである。
低分子量のキトサンは酸性薬物の溶解性を増加するために必要であることを見
出したImai等(Int.J.Pharm.,67巻,1991年,11〜20頁)の発見と対照的に、
親水性薬物の上皮透過性の増加により薬物吸収を改善するためには、高分子量で
中間のアセチル化度のキトサンが改善された透過性、作用の早い開始、及び低い
毒性に関連して好ましいことを見出した。
本発明はヒトの治療剤の粘膜投与、特に経口及び/又は直腸送達に適する形態
及び組成の医薬処方物を提供する。経口経路とは、例えば口腔、胃内及び腸内を
意味する。この製剤は治療的活性剤、並びに吸収増強剤として下記の特性を有す
るキトサンを含有する。
本発明は最適な吸収増強特性を有するキトサン、すなわち上皮透過性に対する
強い効果、低い毒性、そして作用の早い開始を有するキトサンを選択することが
可能であるという観察に基づく。そのようなキトサンは、本発明によれば20〜45
%、そして好ましくは30〜40%のアセチル化度を有し、一方その分子量は75,000
を超え、より好ましくは約75,000〜250,000、そしてもっとも好ましくは約98,00
0〜200,000でなければならない。
治療的活性の薬剤は薬物、ワクチン、タンパク質、ペプチド及びそれらの断片
を含む。本発明の医薬処方物は次の表の薬物と一緒に使用することができる。
下表のような主として準細胞経路(paracellular route)で吸収される低い膜
透過性及び生物学的利用能の親水性薬物を含有する医薬処方物;
−親水性ACE阻害剤及びβ−ブロッカーのような血圧降下剤
−トロンビン阻害剤ヘパリン及び低分子量ヘパリンのような抗凝固剤
−DDAVP、AVPなどのような抗利尿薬及びバソプレシン類似化合物
−インスリン、カルシトニン、生長ホルモン、PTHのようなペプチドホルモ
ン
−ペニシリン及びペニシリン誘導体、テトラサイクリン、及びマクロライドの
ような抗生物質
−ベクロメタソーム及びブデソニドのようなステロイド性抗炎症剤
−ジクロフェナック、インドメタシン、イブプロフェン、ナプロキセンのよう
な非ステロイド性抗炎症剤
−VIII因子のような凝固因子
−ポリオワクチンのようなワクチン及び抗原
−ホスカルネットのような抗ウイルス薬
−クロドロネート及びその他のビスホスホネートのような骨代謝作用性化合物
−オピオイドペプチド、デキストロプロポキシフェン及びペンタゾシンのよう
な鎮痛薬
−リドカイン、ブピバカイン及びロピバカインのような抗炎症性を有する局所
麻酔薬
−ブピバカイン及びロピバカインのような鎮痛性を有する局所麻酔薬
−サイクロスポリンAのような免疫調節剤
−クロモグリク酸ナトリウムのような抗アレルギー薬
本発明の医薬処方物は実際に薬理学的に活性の量の治療剤を含有する。キトサ
ンの量に関しては処方物は存在する活性剤の吸収を増強する量を含有する。この
点に関して、インビトロの細胞培養試験及び動物実験からヒトの治療的状況に対
応する吸収増強剤の用量を計ることが必要である。そのような用量の計算は当業
者にとって通常のことである。一回量としてキトサン5μg〜1000mgが可能であ
る。50μg〜500mgが一回量として好ましい。
所望により他の吸収増強剤を本発明の医薬処方物に含有させてよい。そのよう
な増強剤に、吸収前代謝される薬物の量を減らすための酵素的分解の阻害剤があ
る。粘膜上皮及び胃腸管腔において薬物を安定化するために使用される酵素阻害
剤は胆汁酸塩、バチトラシン、アミノボロン酸誘導体、ベスタチン、FK−448
、大豆トリプシン阻害剤、及びアプロチンを含む(Muranishi及びYamamoto(Drug
absorption enhancement,De Boer編集,Harwood Ac.Publ.,Chur,1994年刊),
67〜100頁)。
薬物の小腸又は大腸への送達に適する処方物はコートした固体投与形態又は腸
溶系を利用することができ、これらは小腸に達すると局所pH条件下でコーティ
ングポリマーの溶解によりそれらのコーティングがばらばらにされる。大腸特定
送達系は典型的には大腸細菌叢により分解されるポリマーコーティングを使用す
ることができる。コーティングが崩壊するとこれらの送達系は薬物と添加物を放
出する(Friend,Advanced Drug Delivery Reviews,7巻,1991年,149〜201頁
)。そのようなポリマーコーティングは例えばアゾポリマー(Saffran等,Scienc
e,233巻,1986年,1081〜1084頁)、及び多糖類例えばペクチン酸カルシウム(Ru
binstein,Pharm.Res.,10巻,1993年,258〜265頁)を含有してよい。
別法として、時間依存大腸薬物送達系を使用することができる。
もちろん、本発明の処方物は粘膜薬物送達に通常使用される一つ又はそれより
多くの添加物、例えば保存料、安定化剤、不活性付形剤などを含有させることが
できる。これらの及びその他の目的に適する物質は粘膜薬物送達において関連す
る技術分野において、当業者に知られている。処方物の製造
キトサン及び治療的活性剤を含有する処方物は中性pH、すなわちpH6.5〜7.5
の緩衝剤加塩類溶液で製造することができる。キトサンをより溶解しやすくする
ため、上述の緩衝剤又は異なる緩衝剤系にHClを添加してより低いpHとするこ
とができる。当業者は1.0〜11.0、そして好ましくは4.0〜7.5でありうる最適p
Hを決定することが可能である。
キトサン及び治療剤処方物は経口又は直腸送達のような粘膜送達に適する任意
の形態、例えば錠剤(例えば直接放出錠剤、腸溶コーティング錠剤、遅延放出錠
剤)、ゼラチンカプセル、坐剤、マイクロスフェア、ゲル、溶液、懸濁剤などと
して製造することができる。
本発明は以下の実施例により例証するが、ただしこれにより限定するものでは
ない。
実施例 実施例1:Caco-2細胞における脱水素酵素活性定量法により評価したキ
トサンの毒性 種々の分子量及びアセチル化度のキトサンの調製
キトサンの調製及び特徴把握はAnthonsen等,Carbohydrate Polymers,22巻,1
993年,193〜201頁に記述された方法により行った。実施例に使用したキトサン
を表1に示す。
キトサン溶液の調製
キトサン溶液は25mMの2Nモルホリノエタンスルホン酸でpH5.5に緩衝化した
ハンクスの平衡塩類溶液(HBSS pH=5.5)にそれらを0.5及び1.0mg/mlの濃度
に溶解して調製した。これらのpH値は小腸微小環境のpHに匹敵し、キトサン
の溶解を容易にする。HBSSは細胞培養実験に通常使用される緩衝液である。リン
酸緩衝食塩水(PBS)及び同様の生理的緩衝液も溶媒として使用することができ
る。キトサンは24〜48時間激しく振盪して溶解した。実験の直前キトサン溶液を
HBSS pH=5.5を使用して適当な濃度に希釈した。脱水素酵素活性定量法
American Type Culture Collection,Rockville,USAから入手したCaco-2細胞
をこれらの試験に使用した。継代数93−105の細胞を一貫して使用した。細胞を9
6槽の組織培養板(Flow Laboratories,Irvine,UK)に接種した。24時間後それ
らを種々の濃度のキトサンに空気中、37℃で60分間露出した。その後、細胞内脱
水素酵素活性をAnderberg等,Pharm.
Sci.,81巻,1992年,879〜887頁に記述されたMTT法により測定した。MTTはテト
ラゾリウム塩であり、生細胞ではミトコンドリア脱水素酵素により分解されるが
、死滅細胞では分解されず暗青色生成物を生じる。MTT添加後、細胞をさらに60
分間インキュベートした。発色した色を多槽走査分光光度計で測定した。脱水素
酵素活性は96槽板中の溶液の対照を100%としてこれと比較した590nmにおける相
対的吸収として評価した。
図1は細胞内脱水素酵活性に対するキトサンの効果を示す。データは3回の実
験の平均を示す。一般に個々のデータ点の間の差異は25%より小さい。図1の曲
線は、それぞれ(■)キトサン(DA=1%、Mw=31000)、(●)キトサン(DA=1%、
Mw=170000)、(◇)キトサン(DA=15%、Mw=4700)、(▼)キトサン(DA=15%、Mw
=190000)、(▲)キトサン(DA=35%、Mw=12000)、(◆)キトサン(DA=35%、Mw
=170000)、(□)キトサン(DA=49%、Mw=22000)、(○)キトサン(DA=49%、Mw
=98000)、(△)キトサン(DA=35%、Mw=5300)に関する。低いアセチル化度のキ
トサンであるキトサン(DA=1%、Mw=31000)、キトサン(DA=1%、Mw=170000
)、キトサン(DA=15%、Mw=4700)、及びキトサン(DA=15%、Mw=190000)の場
合、細胞内脱水素酵素活性に対する用量依存的効果が認められる。中間のアセチ
ル化度で高分子量のキトサン(キトサン(DA=35%、Mw=170000))は高濃度の場合
にのみ酵素活性が減少する。キトサン(DA=35%、Mw=5300)、キトサン(DA=35
%、Mw=12000)、キトサン(DA=49%、Mw=22000)、及びキトサン(DA=49%、Mw
=98000)は試験した範囲の濃度では効果を示さなかった。実施例2:上皮細胞形態に対する影響により評価されるキトサンの毒性
Caco-2細胞は American Type Culture Collection,Rockville,USAから入手
した。細胞は Artursson,Pharm.Sci.,79巻,1990年,476〜
482ページの記述に従ってポリカーボネートフィルター(Transwell cellculture
inserts,Costar,Cambridge)上で培養した。継代数93−105の細胞を一貫して
使用した。細胞は接種後21〜35日に実験に使用した。単層をHBSS pH=5.5で潅頂
によりそして25mMのHepesでpH=7.4に緩衝化したハンクの平衡塩類溶液(HBSS p
H=7.4)で基底外側を洗浄した後、キトサンを潅頂により添加し、一方基底外側
溶液は新しいHBSS pH=7.4に置き換えた。実施例1に記載のキトサンを実施例1
に記載の貯蔵溶液から希釈した。すべてのキトサンは50μg/mlの濃度で添加し
、但しキトサン(DA=49%、Mw=98000)のみは250μg/mlで使用した。種々のキ
トサン溶液への空気中、37℃で60分間の露出に続いて、細胞単層をPBSで2回す
すぎ、1.5%グルタルアルデヒド及び1%四酸化オスミウムで固定し、そして1
%酢酸ウラニルに浸漬した。薄い断片をPhilips420電子顕微鏡を使用して60kVで
鏡検した。
50μg/mlのキトサン(DA=1%、Mw=31000)及びキトサン(DA=1%、Mw=170
000)で処理した単層では微絨毛の非連続性及び数の減少が認められ、一方線維網
構造は無秩序なパターンを示した。密着結合(tightjunction)は影響を受けてい
ないようであった。50μg/mlのキトサン(DA=35%、Mw=170000)及び250μg/m
lのキトサン(DA=49%、Mw=98000)で処理した後、その構造変化は明白なもので
はなかった。微絨毛と線維網構造は正常に見えた。図2に示すa)対照細胞(倍
率1950×)、b)50μg/mlのキトサン(DA=1%、Mw=31000)で60分間処理した
細胞(倍率2500×)、及びc)50μg/mlのキトサン(DA=35%、Mw=170000)で60
分間処理した細胞(倍率2500×)の透過型電子顕微鏡写真を参照されたい。キト
サン(DA=35%、Mw=5300)、キトサン(DA=35%、Mw=12000)、キトサン(DA=49
%、Mw=22000)への露出は明瞭な構造変化を生じなか
った。実施例3:キトサンの吸収増強−上皮透過性に対する効果
Caco-2細胞単層を粘膜及び特に腸上皮のモデルとして使用した。Caco-2細胞単
層を通過する薬物輸送はインビボの人間の腸薬物吸収と優れて相関することが過
去において証明されている。吸収増強剤の存在において、インビトロの細胞培養
実験及びインビボの薬物吸収の間においても、時々スケールアップによる適用さ
れた用量の必要な補正をした上で相関が確立されている。粘膜上皮を通過する低
いそして不完全な吸収を示すマンニトールを親水性薬物のモデル化合物として使
用した。Caco-2細胞単層のマンニトールの通過は、分子量が100〜500の範囲の控
えめに吸収される薬物の輸送と相関することが以前に示されている。すべての輸
送実験はHBSS中で実行した。実験に先立ち、細胞をHBSS pH=5.5で潅頂により、
そしてHBSS pH=7.4で基底外側を洗浄した。実験直前、実施例1に記載のキトサ
ンを貯蔵溶液からHBSS pH=5.5を用いて実施例1に記載のように適当な濃度に希
釈した。続いて14C−マンニトールを添加した。実験は潅頂のブランクHBSS pH=
5.5培地を14C−マンニトール/キトサン溶液に置き換えそして基底横方向溶液を
新鮮なHBSS pH=7.4に置き換えて開始した。輸送試験を37℃、関係湿度95%の空
気中で120分間実行した。試料を規則的な時間間隔で基底外側から採取し、液体
シンチレーションカウンター(Tricarb,1900CA)で計数した。見掛けの透過度(Pap
p)を次の式を用いて算出した。
Papp=dQ/dt×1/(A×Co)
式中、dQ/dtは基底外側におけるマンニトールの出現の速度であり、Co
は頂部側の始発のマンニトール濃度であり、そしてAは単層の表面積である。
Caco-2細胞単層のマンニトール透過性は試験したキトサンの全てではないがそ
のいくつかにより改善された。表2は50μg/mlのキトサン溶液に露出の120分間
における平均透過度を示す。キトサンの効果はポリマーのアセチル化度及び分子
量の両方に依存する。50μg/mlの濃度において、低いアセチル化度のキトサン
はマンニトール輸送に対して明らかな効果を示した。キトサン(DA=1%、Mw=3
1000)、キトサン(DA=1%、Mw=170000)、キトサン(DA=15%、Mw=4700)、キ
トサン(DA=15%、Mw=190000)は0〜120分の平均Pappを示し、これは対照と比
較して5.5〜16.1倍の増加であった。高いアセチル化度で低分子量又は中間の分
子量のキトサン、例えばキトサン(DA=35%、Mw=5300)、キトサン(DA=35%、M
w=12000)、及びキトサン(DA=49%、Mw=22000)は50μg/mlの濃度でマンニト
ール輸送に実質的な影響を与えなかった。しかしながら、高分子量で中間のアセ
チル化度のキトサン(DA=35%、Mw=170000)はマンニトールのPappを顕著に増加
した。極めて高いアセチル化度、しかしまた高分子量のキトサン(DA=49%、Mw
=98000)は50μg/mlでマンニトール輸送に対して小さいが有意な増加をもたら
した。
実施例4:キトサンの吸収増強−濃度依存性
マンニトール輸送実験は種々のキトサンの濃度について吸収増強効果の濃度依
存性を研究するために実行した。実験に使用したキトサンは実施例1に記載のも
のである。10,50及び250μg/mlの濃度の溶液を実施例1により調製した。輸送
実験は実施例3と同様に実行した。
マンニトール輸送に対するキトサンの効果は濃度依存的であった。Caco-2細胞
単層を通過するマンニトールのPappに対する3つの異なる濃度10,50及び250μg
/mlにおけるキトサンの効果を表3に示す。Pappは実験の120分の期間における
平均Pappとして計算した。データは3〜4回の実験の平均値±標準偏差で示す。
(■)キトサン(DA=1%、Mw=31000)、(●)キトサン(DA=1%、Mw=170000)、(
◇)キトサン(DA=15%、Mw
=4700)、(▼)キトサン(DA=15%、Mw=190000)、(▲)キトサン(DA=35%、Mw=
12000)、(◆)キトサン(DA=35%、Mw=170000)、(□)キトサン(DA=49%、Mw=2
2000)、(○)キトサン(DA=49%、Mw=98000)、(△)キトサン(DA=35%、Mw=530
0)。
使用量10μg/mlで、キトサン(DA=1%、Mw=31000)、キトサン(DA=1%、M
w=170000)、及びキトサン(DA=15%、Mw=190000)はマンニトール輸送に僅かな
増加を与えたが、他のすべてのキトサンはこの濃度で効果を示さなかった。250
μg/mlでは、キトサン(DA=1%、Mw=31000)、キトサン(DA=1%、Mw=17000
0)、キトサン(DA=15%、Mw=4700)及びキトサン(DA=15%、Mw=190000)は透
過性を対照値の約50〜60倍に増加した。キトサン(DA=35%、Mw=170000)の場合
、250μg/mlでの平均Pappは50μg/mlで得られたPappと実質的に異ならなかっ
た。キトサン(DA=49%、Mw=98000)は250μg/mlでPappを約10倍に増加した。実施例5:キトサンの吸収増強−上皮透過性増加の作用の開始
実施例3に記述したのと同様な輸送実験を、キトサンの透過性増加の作用の開
始を研究するために行った。実験に使用したキトサン及び種々の溶液の調製は実
施例1に記載した通りである。
上皮透過性を増加するキトサンの作用の開始はキトサン毎に同じではない。12
0分間に測定した平均Pappは、50μg/mlの濃度におけるキトサン(DA=1%、Mw
=31000)、キトサン(DA=1%、Mw=170000)、キトサン(DA=15%、Mw=190000)
、及び250μg/mlの濃度におけるキトサン(DA=49%、Mw=98000)で同様であっ
たが、実験開始後20分の透過性は著しく異なっていた。20分におけるPapp値を表
3に示す。中間のアセチル化度及び高分子量のキトサン(DA=35%、Mw=170000
)への露出はす
べての他のキトサンより20分後の透過性のいっそう顕著な増加を示した(図3及
び表2を表3と比較せよ)。
実施例6:キトサンの吸収増強−アテノロールの上皮透過性に対する効
果
実験開始の直前、実施例1に記載のキトサン(DA=1%、Mw=31000)及びキト
サン(DA=35%、Mw=170000)を実施例1に記載のように貯蔵溶液からHBSS pH=5
.5を用いて50μg/mlの濃度に希釈した。その後Caco-2細胞輸送実験を実施例3
に記載のように実行した。UV検出器に接続したRP Ultrasphere ODS 5μmカラ
ム(4.6mm×25cm)からなるHPLCを使用してアテノロール濃度を測定した。270nm
における吸収を測定した。移動相は90:10の比のリン酸緩衝液(pH=3)及びア
セトニトリルから
なっていた。
図4は50μg/mlのキトサン溶液に露出した際のアテノロールのPappを示す。
データは4回の実験の平均値±標準偏差である。図4の曲線はそれぞれ(×)対照
、(■)キトサン(DA=1%、Mw=31000)、及び(◆)キトサン(DA=35%、Mw=1700
00)に関する。Caco-2細胞単層の透過性は低かった(0.5〜1.0×10-7)。しかしな
がら、キトサン(DA=1%、Mw=31000)及びキトサン(DA=35%、Mw=170000)の
場合は透過性が改善された。同様に、マンニトール透過性で観察されたようにキ
トサン(DA=35%、Mw=170000)の効果はキトサン(DA=1%、Mw=31000)の効
果より実験の初期段階において大きかった。キトサン(DA=35%、Mw=170000)の
場合、アテノロール透過性は20分間の露出後さらに増加せず、一方キトサン(DA
=1%、Mw=31000)の場合は実験の最後までアテノロール透過性が増加し続けた
。
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