JPH0969554A - 静電チャック部材およびその製造方法 - Google Patents

静電チャック部材およびその製造方法

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JPH0969554A JP22314995A JP22314995A JPH0969554A JP H0969554 A JPH0969554 A JP H0969554A JP 22314995 A JP22314995 A JP 22314995A JP 22314995 A JP22314995 A JP 22314995A JP H0969554 A JPH0969554 A JP H0969554A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 体積固有抵抗が小さくかつ吸着力が小さいこ
と、および表面平滑性が悪いと共に、基板との密着性が
悪く、また生産性が低いこと。 【解決手段】 金属基板上に、金属質溶射被覆のアンダ
ーコートを有し、かつその上にTin O2n-1 型化合物を含
有するAl2O3 ・TiO2系セラミック溶射被覆を有する静電
チャック部材、および、上記セラミック溶射材料を、30
〜750 hpa の圧力に調整されたArガスもしくは空気雰囲
気中で、水素ガスを含むプラズマ溶射法によって、前記
溶射材料中のTiO2のすべてまたはその一部をTin O2n-1
で表される結晶型化合物に変化させる静電チャック部材
の製造方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、導電性部材, 半導
電性部材, 絶縁性部材を静電気によって吸着保持すると
きに用いられる静電チャック部材に関するものであり、
とくに、半導体や液晶の製造プロセスにおいて使用され
るドライエッチング装置、イオン注入装置、CVD装置
あるいはPVD装置などに組み込まれて用いられるもの
である。
【0002】
【従来の技術】最近、半導体や液晶の製造プロセス、例
えば半導体製造装置では、それの一部を構成しているド
ライエッチング, イオン注入, CVD, PVDなどの処
理が、自動化ならびに公害防止の立場から、湿式法から
乾式法による処理へと変化している。その乾式法による
処理の大部分は、真空雰囲気下で行われるのが普通であ
る。
【0003】こうした乾式処理において重要なことは、
例えば、基板として用いられているシリコンウェハーや
ガラス板などについては、最近、回路の高集積化や微細
加工化の観点から、パターニング時の位置決め精度を向
上させることにある。こうした要請に応えるために従
来、基板の搬送や吸着固定に際して、真空チャックや機
械チャックを採用していた。しかしながら、真空チャッ
クは、真空下での処理になることから、圧力差が小さい
ため吸着効果が少なく、たとえ吸着できたとしても吸着
部分が局部的となるため、基板に歪が生じるという欠点
があった。その上、ウエハー処理の高温化に伴うガス冷
却ができないため、最近の高性能半導体製造プロセスに
適用できないという不便があった。一方、機械チャック
の場合、装置が複雑となるうえ、保守点検に時間を要す
るなどの欠点があった。
【0004】このような従来技術の欠点を補うため最
近、静電気力を利用した静電チャックが開発され、広く
採用されている。しかし、この技術も、次のような問題
点が指摘されている。それは、かかる静電チャックによ
って基板を吸着保持した場合、印加電圧を切ったのち
も、基板と静電チャックとの間に電荷が残留(吸着力が
働き)するので、完全に除電した後でなければ基板の取
外しができないという問題があった。
【0005】その対策として、従来、該静電チャックに
使用する絶縁性誘電体材質を改良することが試みられて
いる。例えば、 特開平6−8089号公報…高絶縁物として窒化アルミ
粉末と窒化チタン粉末の混合物の焼結体またはその溶射
皮膜を用いる。 特開平6−302677号公報…高絶縁物に酸化チタンを
被覆した後、その上にアルミを被覆し、Si+SiCプレー
トを接触させる。 特公平6−36583 号公報…高絶縁体( 酸化アルミニ
ウム) を使用する。 特開平4−304942号公報, 特開平5−235152号公
報, 特開平6−8089号公報…酸化アルミニウム, 窒化ア
ルミニウム, 酸化亜鉛, 石英, 窒化硼素, サイアロンな
どを使用する。 そして、さらに大きな静電力を必要とする場合、高
絶縁体に誘電率の高いTiO2(チタニア)を添加して体積
固有抵抗値を下げて静電力を向上させる方法が、特開昭
62−94953 号公報, 特開平2−206147号公報, 特開平3
−147843号公報, 特開平3−204924号公報などで提案さ
れている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、以下に列
挙するような、従来の Al2O3・TiO2系(アルミナ−チタ
ニア系)溶射被覆が有する欠点を解決課題とするもので
ある。 (1) 静電吸着機能を持つ溶射被覆として、TiO2を混合し
たAl2O3 を用いるものは、体積固有抵抗が小さく、微少
電流が流れるため、ジョンセン・ラーベック効果によっ
て静電力の向上が期待できる。しかしながら、そのTiO2
(チタニア)は半導体物質であることから、電荷の移動
速度が遅く、電圧の印加を止めたときの応答特性(飽和
吸着力到達時間, 吸着力消滅時間)が劣る。この特性
は、低温環境では一層顕著となる。さらに、体積固有抵
抗値を、例えば実用状態の1×109 Ω・cmにするために
は、チタニアを25重量%程度混合する必要があるが、半
導体製造プロセスにおいては、チタニアの大量流入は不
純物の混在を意味することになり、品質の低下を招くと
共に、作業環境を汚染する原因となる。その上、吸着す
る半導体ウェハーが室温以上の場合には、体積固有抵抗
が低すぎるため、大きなリーク電流が流れてウェハー回
路が破壊される可能性が高い。
【0007】(2) Al2O3・TiO2系溶射被覆は、溶射法に
よって施工されるが、この方法で得られる該被覆は、体
積固有抵抗および吸着力のバラツキが大きく、生産性が
低いため、コストアップの原因となっている。
【0008】(3) Al2O3・TiO2系溶射被覆は、多孔質で
あることから、高度な表面仕上げができないだけでな
く、異物が付着残留することが多い。また、基板との密
着性が低いために、使用環境下、特に熱変化時に基板と
被覆が剥離するという問題点があった。
【0009】この発明の主たる目的は、体積固有抵抗が
大きくかつそのバラツキも小さく、品質の安定した静電
チャック部材を提供することにある。この発明の他の目
的は、吸着力が強く、一方で電圧の印加を止めたときの
応答性能(リリース特性)に優れた静電チャック部材を
提供することにある。この発明の他の目的は、基板との
密着性に優れる他、緻密で表面平滑性にも優れる静電チ
ャック部材を提供することにある。また、この発明のさ
らに他の目的は、上掲の特性を有する静電チャック部材
を高い生産性の下に有利に製造する技術を確立すること
にある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、上述のような
課題を抱えている静電チャック部材, とくに基板上に形
成する Al2O3・TiO2系溶射被覆を有する部材につき鋭意
検討した結果なされたものであって、以下に示す知見に
基づくものである。 発明者らの研究によると、従来の Al2O3・TiO2系溶
射被覆が抱えている問題点は、その原因が主として、Ti
O2( チタニア) にあることを実験によって確認した。そ
して、このTiO2をTin O2n-1 (n=1〜9)に結晶型を変化さ
せれば、その原因は克服できることを発見した。 そして、このようなTin O2n-1 (n=1〜9)を含む Al2
O3・TiO2系溶射被覆を確実に得る手段としては、以下の
ような方法が有効であるとの知見を得た。 a.酸素分圧の低い雰囲気下で、 Al2O3・TiO2材料を溶
射することによって、TiO2から酸素を遊離させてTin O
2n-1 (n=1〜9)に変化させる方法。このように、TiO2をT
in O2n-1 (n=1〜9)へ変化させることによって、従来技
術で問題となっていた応答特性が改善され、また、体積
抵抗値のバラツキが小さくなり、品質および生産性が向
上するようになる。 b.Tin O2n-1 (n=1〜9)を含む溶射被覆は、実質的に酸
素を含まない雰囲気や大気圧より低い圧力に制御できる
空気雰囲気中において、水素を含むプラズマを熱源とし
て溶射することによって得られる。この点、大気圧より
低い圧力下で溶射すると、熱源中を飛行する溶射粒子
は、気体による抵抗が小さいため、基板への衝突力が強
くなり、緻密で密着力のよい被覆が形成される。なお、
このような緻密な溶射被覆は、高度な表面仕上げが可能
となるほか、体積抵抗値のバラツキを小さくする効果が
ある。 c.さらに溶射熱源としてのプラズマに、還元作用の強
い水素ガスを用いることによって、TiO2からTin O2n-1
(n=1〜9)の変化が速やかに進行し、前記a,bの作用機
構を一層効果的に促進することができるようになる。
【0011】本発明は、上述した知見に基づいて開発し
たものであり、以下にその要旨構成を示す。 (1) 金属基板上に、金属質溶射被覆のアンダーコートを
有し、かつ、その上にTin O2n-1 (n=1〜9)型化合物を含
有する Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆を有すること
を特徴とする静電チャック部材。 (2) 上記静電チャック部材は、金属質溶射被覆の厚さが
30〜150 μmで、Tin O2 n-1 (n=1〜9)型化合物を含有す
る Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆の厚さが50〜500
μmである。 (3) 上記静電チャック部材は、Tin O2n-1 (n=1〜9)型化
合物を含有する Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆の気
孔率が、0.4 〜〜3.0 %で、表面粗さRaが 0.1〜2.0 μ
mの範囲内のものである。 (4) 上記Tin O2n-1 (n=1〜9)型化合物を含有する Al2O3
・TiO2系セラミック溶射被覆は、その表面に、有機系も
しくは無機系珪素化合物の封孔処理層を有し、かつ体積
固有抵抗の値が1×109 〜1×1011Ω・cmの範囲にあ
る。 (5) 上記金属質アンダーコート溶射被覆は、Ni, Al, C
r, Co, Moおよびこれらの金属元素を1種以上含む合金
のうちから選ばれるいずれか1種以上を素材とする層で
ある。 (6) 上記 Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆は、この被
覆中に含まれるTin O2n- 1 (n=1〜9)型で表される結晶型
化合物が、Ti3O5, Ti2O3, TiO, Ti4O7, Ti5O9,Ti6O11,
Ti8O15, Ti7O13, Ti9O17 のうちから選ばれるいずれか
1種以上の化合物である。
【0012】上記静電チャック部材は、下記の各方法の
採用によって製造することができる。 (7) 金属基板をブラスト処理した後その表面に、金属質
溶射被覆であるアンダーコートを形成し、さらにその上
に、TiO2を2〜30wt%を含む Al2O3・TiO2系セラミック
溶射材料を、30〜750 hPa の圧力に調整されたArガスも
しくは空気雰囲気中で、水素ガスを含むプラズマ溶射法
によって、前記溶射材料中のTiO2のすべてまたはその一
部をTin O2n-1 (n=1〜9)で表される結晶型化合物に変化
させたトップコート溶射被覆を形成することを特徴とす
る静電チャック部材の製造方法。 (8) 金属基板をブラスト処理した後その表面に、金属質
溶射被覆であるアンダーコートを形成し、さらにその上
にトップコートとして、TiO2を2〜30wt%を含む Al2O3
・TiO2溶射材料を、30〜750 hPa の圧力に調整されたAr
ガスもしくは空気雰囲気中で、水素ガスを含むプラズマ
溶射法によって、前記溶射材料中のTiO2のすべてまたは
その一部をTin O2n-1 (n=1〜9)で表される結晶型化合物
に変化させたセラミック溶射被覆を形成し、その後、セ
ラミック溶射被覆の表面粗さをRa 0.1〜2.0 μmに研磨
仕上げすることを特徴とする静電チャック部材の製造方
法。 (9) 金属基板をブラスト処理した後その表面に、金属質
アンダーコート溶射被覆を形成し、さらにその上に、Ti
O2を2〜30wt%を含む Al2O3・TiO2溶射材料を、30〜75
0 hPa の圧力に調整されたArガスもしくは空気雰囲気中
で、水素ガスを含むプラズマ溶射法によって、前記溶射
材料中のTiO2のすべてまたはその一部をTin O2n-1 (n=1
〜9)で表される結晶型化合物に変化させたセラミック溶
射被覆を形成し、その後、セラミック溶射被覆の表面粗
さをRa 0.1〜2.0 μmに研磨仕上げし、次いでその研磨
仕上げ面を珪素化合物によって封孔処理することを特徴
とする静電チャック部材の製造方法。 (10) なお、上記封孔処理は、セラミック溶射被覆の表
面に有機系もしくは無機系の珪素化合物を塗布したの
ち、 120〜350 ℃で1〜5時間加熱することによって行
うことを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明の特徴は、基板上に形成す
る Al2O3・TiO2系溶射被覆の成分を、Tin O2 n-1 (n=1〜
9)で表される結晶型化合物を含むものにした点の構成に
ある。以下に、本発明にかかる静電チャック部材のかか
る構成につき、 Al2O3・TiO2溶射被覆を作製する方法と
その作用機構の説明にあわせ、製造工程順に述べる。
【0014】(1) 金属基板上へのアンダーコートの施工 本発明にかかる静電チャック部材は、Al, Mo, Wおよび
Cなどを基板とし、先ずその金属基板の表面に、Al2O3
粒子(#60) を吹付けて、均一に粗面化するとともに清
浄化する。次いで、その上に、Ni, Al, Cr, Co, Moなど
の金属またはこれら金属の合金を溶射材料として、アー
ク溶射法もしくはプラズマ溶射法によって、厚さ30〜15
0μmのアンダーコートとしての金属質溶射被覆を施工
する。この金属質溶射被覆の役割は、基板との密着力は
もとより、トップコートとして施工する Al2O3・TiO2
セラミック溶射皮膜との密着性をも考慮したものであ
る。この被覆の厚みが30μmより薄い場合は、アンダー
コートとしての機能が低く、また 150μm以上厚くして
も格別の効果が得られないうえ、施工に長時間を要し得
策でない。
【0015】(2) トップコートの施工 上記アンダーコートである金属質溶射被覆を施工後、そ
の上にトップコートとして、 Al2O3・TiO2系セラミック
溶射被覆を施工する。以下に、このセラミック溶射被覆
について詳しく説明する。
【0016】さて、市販の Al2O3・TiO2系セラミック溶
射材料をプラズマ溶射して得られる被覆は、これをX線
回折すると、Al2O3 とTiO2のピークが強く検出され、溶
射材料の成分がそのまま被覆成分となっている。ただ
し、このような結晶成分からなる被覆は、上述したよう
に、応答速度が遅く、またリーク電流が大きくなるなど
の問題点があった。
【0017】そこで、発明者らは、市販の同じ Al2O3
TiO2系セラミック溶射材料を用い、実質的に空気(酸
素)が存在しないArガス雰囲気中、もしくは多少空気
が残存する雰囲気中において、とくにプラズマ作動ガス
として還元作用の強い水素ガスを用いて溶射した。この
場合には、TiO2の一部が酸素を放出するために、一般式
Tin O2n-1 (n=1〜9)で表される結晶型化合物に変化する
ことを知見した。
【0018】このように、 Al2O3・TiO2系セラミック溶
射材料を、水素ガスを用いてプラズマ溶射をした場合
に、TiO2か酸素を放出してTin O2n-1 (n=1〜9)型化合物
を生成する理由は、Ar, He, H2などは、溶射熱源として
のプラズマ中ではイオンと電子に解離し、プラズマ全体
としては電気的に中性であるが、局部的に電子密度の高
い領域を構成する。このとき、ここをTiO2溶射粒子が通
過すると酸素を放出するので、Tin O2n-1 (n=1〜9)型化
合物の形に変化するものと考えられる。この現象は、溶
射雰囲気中に水素が存在し、酸素がない条件下でプラズ
マ溶射した場合に、一層顕著に反応する。
【0019】発明者らの実験によると、かかるTin O
2n-1 (n=1〜9)型結晶化合物としては、Ti3O5, Ti2O3, T
iO, Ti4O7, Ti5O9, Ti6O11, Ti7O13, Ti8O15, Ti9O17,
Ti10O19などが発見されているが、なかでも Ti3O5, Ti2
O3 が効果的であった。
【0020】本発明においてTin O2n-1 (n=1〜9)を含む
Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆をトップコートとし
て施工するに際し、酸素を含まない大気圧以下の雰囲気
中で成膜すると、熱源中を飛行する溶射粒子に対する気
体の抵抗が減少するため、溶射粒子の基板への衝突エネ
ルギーが大きくなり、これに伴って粒子の堆積密度が大
きくなり、被覆の気孔率は著しく小さくなる利点も得ら
れるので、この方法は好適であると言える。例えば、図
1は市販の85wt%Al2O3 -15 wt%TiO2溶射材料を用いて
得られたプラズマ溶射被覆の気孔率と溶射雰囲気圧力と
の関係を示したものである。この結果から明らかなよう
に、低気圧下で形成される被覆ほど気孔率が小さくなっ
ている。
【0021】本発明の上記トップコート溶射被覆は、気
孔率3%以下のものを用いる必要があることから、この
条件を満足する溶射雰囲気圧力は、図に示すところから
明らかなように、750 hPa 以下で溶射すればよいことが
わかる。その理由は、気孔率3%以下のTin O2n-1 (n=1
〜9)を含む Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆は、体積
固有抵抗のバラツキが小さく、また高度な表面仕上げが
可能となるなど、静電チャック用被覆として好適な特性
を発揮するからである。とくに、気孔率が3%より高い
被覆は、体積固有抵抗のバラツキが大きく、不良品の発
生率が高くなるうえ、平滑な研磨仕上げ面が得られない
などの欠点がある。
【0022】本発明のセラミック溶射被覆は、平均表面
粗さRaを 0.1〜2.0 μmの範囲に仕上げることが必要で
ある。特に、Ra:0.1 〜1.0 μmの範囲内がより好適で
ある。それは、Ra:0.1 μm未満の仕上げ面は、研磨工
数が大きいため経済的でないうえ、ウエハーに対する残
留吸着力が大きくなる。また、表面粗さRaが2.0 μmを
超える場合は、体積固有抵抗のバラツキが大きくなる原
因となると共に、静電チャックとして使用中にあって
は、シリコンウエハーの固定誤差を大きくするという欠
点があるので好ましくない。
【0023】本発明の目的に用いる Al2O3・TiO2系セラ
ミック溶射材料中に含まれるTiO2量は、2wt%〜30wt
%、特に5wt%〜15wt%の範囲が好適である。TiO2量が
2wt%より少ない場合は溶射被覆の体積固有抵抗値が高
すぎ、また、TiO2量が30wt%より多い場合には固有抵抗
値が低すぎるため、大きなリーク電流が流れるので適当
でない。
【0024】なお、トップコート溶射被覆の被覆厚は50
〜500 μmの範囲内のものがよく、特に 100〜300 μm
の厚さを有するものが好適に使用できる。それは、50μ
mより薄いと、トップコートとしての機能を十分に果た
すことができないだけでなく、耐電圧も低く不適であ
る。 500μmより厚い場合は施工に長時間を要すること
から、生産性が劣り経済的でなく、そのうえ熱衝撃によ
って剥離しやすくなる。
【0025】(3) 研磨面の封孔処理 所定の粗さに研磨した、本発明にかかるTin O2n-1 (n=1
〜9)型化合物を含有する Al2O3・TiO2系セラミック溶射
被覆には、必要に応じ有機系珪素化合物(市販の有機珪
素樹脂)もしくは無機系珪素化合物(市販の珪素アルコ
キシド化合物)を塗布したのち、120 〜350 ℃, 1時間
〜5時間加熱する。この操作は、溶射被覆中に残存して
いる微細な気孔部に珪素化合物を充填することにより、
異物が付着, 残留することを防ぐものである。一般に、
本発明のTin O2n-1 (n=1〜9)型化合物を含有する Al2O3
・TiO2系セラミック溶射被覆の気孔率は3%以下と非常
に低いため、封孔処理は必須工程ではないが、静電チャ
ックとして工業的に使用する際の異物の付着を防ぐ作用
もあるので、封孔処理しておく方が好ましいと言える。
本発明で使用する珪素質封孔剤として、前述の珪素アル
コキシド化合物以外にポリメチルシロキサンおよびその
重合体なども用いられる。
【0026】
【実施例】
実施例1 この実施例では、 Al2O3・TiO2系溶射材料を用いてプラ
ズマ溶射した場合の雰囲気ガスの種類と膜厚が及ぼす溶
射被覆中のTin O2n-1 (n=1〜9)の生成状況を調査したも
のである。 (1) 供試基板:純アルミニウム板(寸法:幅50mm×長さ
100mm×厚8mm) (2) アンダーコート溶射被覆:90wt%Ni−10wt%Alを大
気中でプラズマ溶射法によって100 μm厚に施工 (3) トップコート溶射被覆:アンダーコートの上に Al2
O3−15wt%TiO2溶射材料を用いて各種の圧力およびガス
種の雰囲気下でプラズマ溶射法により300 μm厚に施工 (4) 溶射雰囲気およびその気圧: Arガス:30〜1000 hPa 空気 :30〜1000 hPa (5) プラズマ作動ガス:ArとH2の混合ガスを使用 (6) 評価方法:前記条件で施工した各種の溶射被覆は、
その断面を切断後研磨して、光学顕微鏡によって観察し
気孔率を求める一方、被覆の一部を採取しこれをX線回
折装置によってTiO2の結晶系の変化について調査した。
【0027】(7) 試験結果:この試験の結果を要約し表
1に示す。この表1に示す結果から明らかなように、A
r, 空気の雰囲気とも、30〜750 hPa の条件下では、被
覆の気孔率が 0.4〜3.0 %の範囲にあるとともに、被覆
を構成する90wt%Al2O3 -10 wt%TiO2中のTiO2の一部が
Ti3O5, Ti2O3およびその他のTin O2n-1 型の結晶系に変
化していることが確認された。特にAr雰囲気中30〜200
hPa の条件下では (試験No.1, 2)TiO2のピークがほぼ完
全に消失し、大部分がより酸素量の少ないTin O2n- 1 (n
=1〜9)型に変化していた。
【0028】
【表1】
【0029】実施例2 この実施例では、実施例1の被覆を用いて研磨仕上げの
限界を求めるとともに、熱衝撃試験を行い、被覆の密着
性と熱衝撃による被覆の機械的抵抗性を調査した。 (1) 供試基板: 実施例1に同じ (2) アンダーコート溶射被覆: 実施例1に同じ (3) トップコート溶射被覆: 実施例1に同じ (4) 溶射雰囲気およびその気圧: Arガス: 60, 200, 750, 900, 1000 hPa (5) プラズマ作動ガス: 実施例1に同じ (6) 評価方法:上記の要領で作製した被覆を研磨して、
可能な限り鏡面に仕上げた後、大気中で 300℃×10分間
加熱した後これを放冷して室温まで冷却する操作を10回
繰返し、被覆の外観変化(平均粗さRa) を調査した。な
お、この試験には、珪素アルコキシド化合物を3回塗布
後 200℃×30分の乾燥処理を施した被覆についてもその
効果を調べた。
【0030】(7) 試験結果:この試験の結果を表2に示
した。表2に示すとおり、低圧力(60〜750hpa) で溶射
成膜したものほど気孔率が小さくかつ研磨仕上げ面が平
滑である。ただし、溶射雰囲気の圧力が 900hpa, 1000h
paで得られる被覆では、平滑な研磨面は得られない結果
となった。この原因は、低圧力 (30〜750 hpa)で形成さ
れる被覆は、気孔率が低いため研磨面はRa:0.1 〜2.5
μmの範囲に収まるが、気孔率の高い被覆(900〜1000hp
a)では、気孔部がピット状となって露出するため、表面
粗さは必然的に大きくなったものと考えられる。一方、
これらの被覆の熱衝撃抵抗は封孔剤の有無にかかわら
ず、本試験条件下では比較的良好な性能を発揮した。わ
ずかに、封孔剤のない被覆( No.4, 5)のみに、8回の繰
返し試験後に微少な割れの発生が認められたのみであっ
た。以上の結果から、本発明の被覆は緻密であるため、
平滑な研磨が可能であるうえ、本実施例の条件では封孔
剤の有無にかかわらず良好な耐熱衝撃抵抗性を有してい
ることが確認された。
【0031】
【表2】
【0032】実施例3 本発明にかかる Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆の
体積固有抵抗を測定し、そのバラツキを従来の溶射法に
よって得られた被覆と比較した。 (1) 供試基板: 実施例1に同じ (2) アンダーコート溶射被覆: 実施例1に同じ (3) トップコート溶射被覆:Al2O5 −15wt%TiO2材料を
用いて各種の圧力およびガス種の雰囲気下でプラズマ溶
射法によって 250μmと500 μm厚に施工 (4) 溶射雰囲気およびその気圧 Arガス 60, 750, 1000 hPa 空気 60, 750, 1000 hPa (5) プラズマ作動ガス:ArとH2の混合ガスを使用 (6) 評価方法 溶射被覆の表面にドータイトを塗布してこれを電極と
し、基板のアルミニウムとの間に直流 500Vを印加した
ときの抵抗値から、次の式を用いて体積固有抵抗率を測
定した。 体積固有抵抗率ρ=RA/d(Ω・cm) A:電極面積(cm2) d:皮膜厚さ(cm) R:抵抗値(Ω) 測定は、供試被覆一枚当たり5個所とするとともに、珪
素アルコキシド化合物(塗布後 200℃×30分乾燥, 3回
繰返し)封孔処理の効果についても調査した。
【0033】(7) 試験結果 測定結果を表3に示した。表3に示す結果から明らかな
ように、比較例の溶射雰囲気1000hPa 下で成膜した被覆
(No.5, 6, 11, 12)は、Ar, 空気中とも体積固有抵抗の
バラツキが大きく、封孔処理の効果もあまり明確でなか
った。これに対し、本発明の被覆( No.1〜4, 7〜10)
は、気孔率が小さく、緻密な性状を有するとともに、溶
射材料中のTiO2の一部がTin O2n-1 (n=1〜9)に変化して
いるため、測定値のバラツキが少なく、本発明の静電チ
ャックが必要とする体積固有抵抗値:1×109 〜1011Ω
・cmの範囲にあり、品質管理が極めて容易であることが
確認された。
【0034】
【表3】
【0035】実施例4 本発明にかかる Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆を施
工した静電チャックの、シリコンウエハーの吸着力およ
び残留吸着力の減衰速度を測定した。 (1) 静電チャック基板:厚さ40mm, 直径200 mmの円板状
のアルミ合金製の基板とし、これをアルミナでブラスト
した後、90wt%Ni−10wt%Alをアンダーコートとして 1
00μm厚に大気プラズマ溶射法によって施工した。その
後、このアンダーコートの上に実施例1の要領で Al2O3
−8wt%TiO2被覆を300 μm厚に施工した。その後、ポ
リメチル・シクロキサン重合体を塗布後、 250℃×1時
間の封孔処理を行ったものも供試した。なお、比較例と
して、Al2O3 −8wt%TiO2を大気中で 300μm厚に施工
したものを試験した。 (2) 評価方法:図2は、本発明の溶射被覆を用いてシリ
コンウエハの吸着力と残留吸着力の減衰速度を測定する
装置の概要を示したものである。この装置は、真空容器
1の中に、アルミ合金製の静電チャック基板2を介し、
その中央部に溶射被覆3を固着し、そしてこの溶射被覆
3の上にシリコンウエハ4を静置して構成されている。
また、静電チャック基板2には、冷却用の冷媒を流す空
孔5が設けられているとともに、真空容器1外に設けら
れている電源6に接続されている。また、シリコンウエ
ハには、アース線7が取付けられ、静電チャック上部に
は絶縁用セラミックス8が配設されている。
【0036】(3) 試験結果:電圧印加時のシリコンウエ
ハに対する静電吸着力と印加電圧切断後の残留吸着力の
減衰状況を表4に示す。この表4に示す結果から明らか
なように、比較例の溶射被覆の吸着力は、印加電圧 250
Vで24〜30 gf/cm2, 500Vで30〜150 gf/cm2程度である
のに対し、本発明の溶射被覆は前者の条件で100 gf/cm2
前後、後者の条件で 300〜350 gf/cm2に達する吸着力を
示した。また、吸着力減衰速度は、比較例の溶射被覆が
電圧切断60秒後でも3〜10gf/cm2の残留が認められるの
に対し、本発明の溶射被覆は電流切断1秒以内に完全に
吸着力が消失していた。
【0037】
【表4】
【0038】実施例5 この実施例では、アンダーコート溶射被覆の有無による
本発明にかかるAl2O3・TiO2系セラミック溶射被覆の密
着性について調査した。 (1) 供試基板:市販のAl, Mo, W材料を幅50mm×長さ 1
00mm×厚さ8mmに切断したものを基板とした。 (2) アンダーコート被覆:実施例1と同じ溶射材料を用
い、大気中でプラズマ溶射法によって基板上に30μm,
100 μm, 150 μm厚に施工した。 (3) トップコート被覆:実施例1の溶射材料を用い、60
hpaのAr中で、水素ガスとArガスの混合プラズマフレー
ムを用い、300 μm厚に施工した。なお、比較例とし
て、上記アンダーコート被覆を施工せず、基板上に直接
トップコート溶射被覆を 300μm厚に処理した試験片を
作製して試験した。 (4) 評価方法:上記のようにして作製した被覆試験片を
用いて、大気中で 300℃×10分間の加熱を行った後、こ
れに室温の空気を吹付けて冷却する操作を1サイクルと
して10回繰返し、トップコート溶射被覆の割れや剥離の
有無を調べた。
【0039】(5) 試験結果:試験結果を表5に要約し
た。この結果から明らかなように、アンダーコート溶射
被覆のないトップコート溶射被覆(No.10, 11, 12)は、
基板材料の種類に関係なく2〜3回の熱衝撃試験の繰返
しによって割れが発生するとともに、被覆の30〜50%が
剥離した。これに対し、本発明にかかるアンダーコート
溶射被覆を有するトップコート溶射被覆( No.1〜9)は、
基板材料の種類に関係なく良好な密着性を示し、10回の
熱衝撃試験の繰返しにおいても全く異常は認められなか
った。
【0040】
【表5】
【0041】
【発明の効果】上述した説明ならびに実施例の結果から
明らかなように、本発明の、Al2O3 と共存するTiO2の一
部もしくはその全部をTin O2n-1 (n=1〜9)の一般式で表
される結晶型化合物に変化したセラミック溶射被覆は、
シリコンウエハー等の吸着力が強く、一方で残留吸着力
の減衰速度が速く、静電チャックとしての基本的な特性
に極めて優れている。しかも、アンダーコート, トップ
コートとも基板や下層との密着性や緻密度も優れ、品質
が安定している。また、体積固有抵抗率のバラツキが小
さいので、品質管理が容易で生産性が高いなどの特徴が
あり、静電チャックを使用する産業分野の発展に大きく
貢献する。
【図面の簡単な説明】
【図1】Al2O3・TiO2系溶射材料を用いてプラズマ溶射
した際の雰囲気圧力と得られた被覆の気孔率の関係を示
したグラフ。
【図2】プラズマ溶射法によって施工した Al2O3・TiO2
系被覆形成静電チャックの体積抵抗率測定装置の概要図
である。
【符号の説明】
1 真空容器 2 静電チャック基板 3 溶射被覆 4 シリコンウエハ 5 冷媒を流す空孔 6 交流電源 7 アース線 8 絶縁用セラミックス
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 H01L 21/3065 H02N 13/00 D H02N 13/00 H01L 21/203 Z // H01L 21/203 21/302 B

Claims (10)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 金属基板上に、金属質溶射被覆のアンダ
    ーコートを有し、かつその上にはTin O2n-1 (n=1〜9)型
    化合物を含有する Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆を
    有することを特徴とする静電チャック部材。
  2. 【請求項2】 金属質溶射被覆の厚さが30〜150 μm、
    Tin O2n-1 (n=1〜9)型化合物を含有する Al2O3・TiO2
    セラミック溶射被覆の厚さが50〜500 μmである、請求
    項1に記載の静電チャック部材。
  3. 【請求項3】 上記Tin O2n-1 (n=1〜9)型化合物を含有
    する Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆は、気孔率が
    0.4〜3.0 %で、表面粗さRaが 0.1〜2.0 μmの範囲内
    のものである、請求項1に記載の静電チャック部材。
  4. 【請求項4】 上記Tin O2n-1 (n=1〜9)型化合物を含有
    する Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆は、その表面
    に、有機系もしくは無機系珪素化合物の封孔処理層を有
    し、かつ体積固有抵抗値が1×109 〜1×1011Ω・cmの
    範囲にある、請求項1に記載の静電チャック部材。
  5. 【請求項5】 上記金属質溶射被覆は、Ni, Al, Cr, C
    o, Moおよびこれらの金属元素を1種以上含む合金のう
    ちから選ばれるいずれか1種以上を素材とする層であ
    る、請求項1または2に記載の静電チャック部材。
  6. 【請求項6】 上記 Al2O3・TiO2系セラミック溶射被覆
    は、この被覆中に含まれるTin O2n-1 (n=1〜9)で表され
    る結晶型化合物が、Ti3O5, Ti2O3, TiO , Ti 4O7, Ti
    5O9, Ti6O11, Ti7O13, Ti8O15, Ti9O17のうちから選ば
    れるいずれか1種以上の化合物である、請求項1または
    4に記載の静電チャック部材。
  7. 【請求項7】 金属基板をブラスト処理した後その表面
    に、金属質溶射被覆であるアンダーコートを形成し、さ
    らにその上に、TiO2を2〜30wt%を含む Al2O3・TiO2
    セラミック溶射材料を、30〜750 hPa の圧力に調整され
    たArガスもしくは空気雰囲気中で、水素ガスを含むプラ
    ズマ溶射法によって、前記溶射材料中のTiO2のすべてま
    たはその一部をTin O2n-1 (n=1〜9)で表される結晶型化
    合物に変化させたトップコート溶射被覆を形成すること
    を特徴とする静電チャック部材の製造方法。
  8. 【請求項8】 金属基板をブラスト処理した後その表面
    に、アンダーコートとして金属質溶射被覆を形成し、さ
    らにその上にトップコートとして、TiO2を2〜30wt%を
    含む Al2O3・TiO2溶射材料を、30〜750 hPa の圧力に調
    整されたArガスもしくは空気雰囲気中で、水素ガスを含
    むプラズマ溶射法によって、前記溶射材料中のTiO2のす
    べてまたはその一部をTin O2n-1 (n=1〜9)で表される結
    晶型化合物に変化させたセラミック溶射被覆を形成し、
    その後、セラミック溶射被覆の表面粗さをRa 0.1〜2.0
    μmに研磨仕上げすることを特徴とする静電チャック部
    材の製造方法。
  9. 【請求項9】 金属基板をブラスト処理した後その表面
    に、アンダーコートとして金属質溶射被覆を形成し、さ
    らにその上にトップコートとして、TiO2を2〜30wt%を
    含む Al2O3・TiO2溶射材料を、30〜750 hPa の圧力に調
    整されたArガスもしくは空気雰囲気中で、水素ガスを含
    むプラズマ溶射法によって、前記溶射材料中のTiO2のす
    べてまたはその一部をTin O2n-1 (n=1〜9)で表される結
    晶型化合物に変化させたセラミック溶射被覆を形成し、
    その後、セラミック溶射被覆の表面粗さをRa 0.1〜2.0
    μmに研磨仕上げし、次いでその研磨仕上げ面を珪素化
    合物によって封孔処理することを特徴とする静電チャッ
    ク部材の製造方法。
  10. 【請求項10】 上記封孔処理は、セラミック溶射被覆
    の表面に有機系もしくは無機系の珪素化合物を塗布した
    のち、 120〜350 ℃で1〜5時間加熱することによって
    行うことを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
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