【発明の詳細な説明】
細菌感染の治療および予防のための化合物および医薬組成物
本発明は、補助金番号R01AI29549(S.J.H.)およびトレーニン
グ補助金AI07172(ともにNIHから与えられた)による米国政府の援助
により行われた。
発明の分野
本発明は、組織付着性繊毛形成細菌により引き起こされる、繊毛サブユニット
とペリプラズムチャペロンとの間の結合との相互作用による疾患の治療および/
または予防方法に関する。さらに本発明は、ペリプラズムチャペロンと相互作用
しうる物質を同定/設計する方法、およびペリプラズムチャペロンにおける結合
部位を同定する方法に関する。結局、本発明は、ペリプラズムチャペロンと相互
作用しうる新規物質ならびにペリプラズムチャペロンと相互作用しうる物質から
なる医薬調製物に関する。
発明の背景
病原性グラム陰性細菌は、菌血症、細菌関連下痢、髄膜炎および(非常によく
あることだが)尿路感染、例えば、腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎等のごとき多くの
病理学的状態を引き起こす。
尿路感染は女性の罹患率の主な原因の1つである。女性における尿路感染の総
体的な重要性にもかかわらず、これらの疾患の治療および/または予防するため
にほんの少ししか努力がされていない。通常には、慣用的な抗生物質を用いてこ
れらの感染症が治療されており、例えば、ペニシリン、セファロスポリン、アミ
ノグリコシド、スルホンアミドおよびテトラサイクリンを用いる治療が用いられ
ている。尿路感染の特別な場合において、ニトロフラントインおよびナリジキシ
ン酸のごとき尿防腐剤も用いられている。しかしながら、抗生物質耐性の出現は
、将来的に尿路感染をうまく治療する能力が妨げられるであろう。これらの尿路
病原体における多重抗生物質耐性が増大している。尿路感染症の女性の評価およ
び治療の年間費用は10億ドルを超える。さらに、病院での感染に当てられる1
年間の40億ドル費用の約4分の1が尿路感染症の結果である。尿路感染の発生
原因のうち、グラム陰性細菌の中ではエシェリシア・コリ(Escherichia coli)
が明らかに目立っている。
病原性グラム陰性細菌、特にエシェリシア・コリ、ヘモフィルス・インフルエ
ンザエ(Haemophilus influenzae)、サルモネラ・エンテリディテイス(Salmon
alla enteriditis)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonalla typhimurium
)、ボルデテラ・ペルツシス(Bordetella pertussis)、イェルシニア・ペスチ
ス(Yersinia pestis)、イェルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enteroco
litica)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter Pylori)およびクレブシエ
ラ・ニューモニアエ(Klabsiella pneumoniae)は、種々の上皮組織への付着能
にその感染性の原因がある。よって、例えば、イー・コリは、腎臓からの1方向
の尿の流れの流出効果にもかかわらず、上部尿路における上皮細胞に付着する。
上に示したように、上記細菌は種々の疾患に関連している。尿路感染(イー・
コリ)、急性下痢(イー・コリ、ワイ・エンテロコリチカおよびサルモネラsp
p)、髄膜炎(イー・コリおよびエイチ・インフルエンザエ)、痙攣性の咳(ビ
ー・ペルツシス)、ペストおよび他の呼吸管感染(ケイ・ニューモニアエ、エイ
チ・インフルエンザエ)および消化性潰瘍(エイチ・ピロリ)。
上記のごとき多くの細菌感染症の開始および継続は、細胞外コロニー形成、内
部移行または他の細胞応答が起こるかどうかを指令する結合イベントを促進する
、近接可能な配置となった微生物の表面上への付着素の提供が必要であると考え
られる。付着素は、しばしば、繊毛、ふさ、または原線維(これら3つの用語を
本明細書においては入れ替えて用いる)として知られる長い、薄い、フィラメン
ト
状の、ヘテロポリマー性蛋白付属物の構成成分である。細菌付着イベントは、し
ばしば、繊毛に存在することの多い付着素と、しばしば膜結合複合糖質における
炭水化物構造からなる宿主細胞上の特異的受容体構造との間の立体化学的適合の
結果である。
イー・コリの尿路感染症の病原菌株は、尿路上皮細胞に存在する受容体に結合
するPおよび1型繊毛を発現する。P繊毛の先端に存在する付着素PapG(ポ
リペプチドGに結合した繊毛)は、糖脂質のグロボシリーズ(globoseries)に
存在するGalα(1−4)Gal部分に結合するが、1型付着素FimHは、
糖脂質および糖蛋白に存在するD−マンノースに結合する。付着性P繊毛は、イ
ー・コリの腎盂腎症株に関連した発病力の決定因子であり、1型繊毛は、膀胱炎
を引き起こすイー・コリにおいてよりありふれている。少なくとも11個の遺伝
子が機能的P繊毛の生合成および発現に関与している。全ギャップ遺伝子クラス
ターのDNA配列が決定されている。P繊毛は、繊毛ロッド(rods)に末端どう
しで結合している柔軟性のある付着性原線維からなる混成ヘテロポリマー線維で
ある。繊毛ロッドは右巻きヘリカルシリンダー(helical cylinder)となるよう
配列されたPapA蛋白サブユニットの連続からなる。各繊毛ロッドの遠位末端
から伸長する先端原線維は、大部分がオープンヘリカルコンホーメーション(op
en helical conformation)となるよう配列されたPapEサブユニットの連続
からなることが見いだされた。PapG付着素は先端原線維の遠位末端に局在化
しており、その位置は真核細胞上の糖脂質受容体を認識するその能力を最大にす
ると考えられる。2種の主要でない繊毛成分PapFおよびPapKは先端原線
維に見いだされる特殊化されたアダプター蛋白である。PapFは付着素部分を
原線維に結合させるが、papKは原線維を繊毛ロッドに結合させる。P繊毛線
維の混成構造は、PapG付着素を真核細胞受容体に提供するために尿路感染病
原性イー・コリにより用いられる戦略を明らかにする。堅固なPapAロッドは
、LPSおよび細菌細胞表面における他の成分により引き起こされる妨害から遠
ざけて付着素を伸長させるが、柔軟性のある原線維はPapGを立体的に自由に
して尿路上皮上のジガラクトシド部分を認識しこれに結合するようにする。
少しの例外があるが、1型繊毛の構造上の組織化はP繊毛について記載されたも
のと非常に類似している。1型繊毛において、マンノース結合原線維先端はFi
mHとして知られている
グラム陰性病原体の発病性に関連した繊毛の集合はペリプラズムチャペロンの
機能を必要とする。分子チャペロンはすべての細胞(原核および真核)の活性成
分である。チャペロン(Chaperon)は、種々の細胞コンパートメントにおける蛋
白の折り畳み、輸送および排出をはじめとする種々の細胞機能に役立っている(
ゲシング(Gething)および(Sambrook),1992年)。よって、ペリプラズ
ムチャペロンは、その作用を細菌のペリプラズム空間において果たしている分子
チャペロンである。
PapDおよびFimCは、それぞれ、Pおよび1型繊毛の集合を媒介するペ
リプラズムチャペロンである。詳細な構造分析は、PapDがグラム陰性細菌に
おけるペリプラズムチャペロンの保存されたファミリーのプロトタイプメンバー
であることを明らかにした。これらのチャペロンは、ペリプラズム空間中へ輸送
され集合可能な複合体となる相互作用サブユニットにキャップおよび隔離をする
ために細菌により用いられる一般的戦略の一部である機能を有しており、非生産
性相互作用を不利なものとしている。papDの3次元構造の決定は、それがブ
ーメラン型に配向された2個の免疫グロブリン様ドメインからなり、裂け目を形
成していることを明らかにした。PapDは各繊毛サブユニット型が原形質膜か
ら出て来た場合にこれらに結合し、集合可能でネイティブ様コンホーメーション
となっているこれらに伴って、原形質膜からPapCからなる外膜集合部位へと
移行する。PapCは、チャペロン−サブユニット複合体を受け取り、サブユニ
ットを取り込むか、またはチャペロン複合体から一定の方向に成長中の繊毛中へ
と移行させるため、分子の案内係と呼ばれている。
タイプIVクラスの繊毛の例外があるが、すべての他の遺伝学的に十分に特徴づ
けられたグラム陰性原核細胞の繊毛システムはPapDに対する遺伝子アナログ
を含んでいる(ノーマーク(Normark)ら,1986年;フルトグレン(Hultgre
n)ら,1991年)(さらに表A参照)。FanE、faeE、sfaE、
ClpEおよびf17−Dが配列決定されており(リンターマンス(Lintermans)
,1990年;シュモール(Schmoll)ら,1990年;バーチン・ワイ(Bertin
Y)ら,1993年;バッカー(Bakker)ら,1991年)、イー・コリにおいて
、それぞれK99、K88、SおよびF17繊毛の集合に必要な繊毛チャペロン
をコードしている。クレブシエラ・ニューモニアエの3型繊毛およびヘモフィル
ス・インフルエンザエのb型繊毛の集合は、それぞれ、mrkBおよびhifB
遺伝子産物を必要とする(ゲルラッハ(Gerlach)ら,1989年;アレン(Alle
n)ら,1991年)。これらのチャペロンすべての構造−機能相関関係が、それ
らのアミノ酸配列およびPapD結晶構造からの情報を用いて分析された(アン
ダース・ホルムグレン(Anders Holmgren)ら,1992年)。その結果は、この
クラスの蛋白において進化的に保存されている分子の複雑さへの洞察を提供し、
免疫グロブリンに対する有意な構造上の類似性を示唆した。
よって、PapDは、細菌繊毛の正しい超分子集合に必要なペリプラズムチャ
ペロン蛋白のファミリーのプロトタイプメンバーである。イー・コリにおけるP
apDのごときチャペロンは、ペリプラズム空間中へと輸送される上記繊毛蛋白
に結合し、それらを集合可能な複合体中に隔離し、ペリプラズムにおけるサブユ
ニットの非生産性凝集を防止するのに必要である(ドッドソン(Dodson)ら,1
993年)。
チャペロンとの相互作用がない場合、繊毛サブユニットは凝集し、蛋白分解的
に分解される(キューン(Huehn)、ノーマーク(Normark)およびフルトグレン
(Hultgren),1991年)。DegPプロテアーゼがチャペロン不存在下の繊
毛サブユニットの分解に大いにかかわっていることが最近になって見いだされた
(シュトラウフ(Strauch)、ジョンソン(Johnson)およびベックウィズ(Beck
with),1989年)。この知見は、標準的方法により調製された原形質膜、外
膜およびペリプラズムの蛋白のウェスタンブロッティングにおいて単一特異性抗
血清を用いての、チャペロンの存在または不存在において発現された繊毛サブユ
ニットの運命の探求を可能にした。チャペロン不存在下のdegP41株(De
gP-のイー・コリ株)におけるpapGまたはpapAの発現は、原形
質膜におけるこれらの蛋白の蓄積のため、細菌に対して毒性があり、チャペロン
はペリプラズム空間中へのサブユニットの輸送に必要であることが示唆された。
増殖欠損の重大性は繊毛サブユニットの発現レベルに関連しており、一般的には
、PapAよりもPapGに劇的に関連している。誘導可能なアラビノースプロ
モーターの調節下でのPapDの同時発現は、degP41株におけるサブユニ
ット発現に関連した増殖欠損を救助し、ペリプラズム中へのPapGの輸送を可
能にする。
現在にいたるまで、チャペロンの分子認識モチーフについてはほとんど研究さ
れていなかった。SecB、GroELおよびDNaKのごとき細胞質チャペロ
ンは、配列に依存した様式で、折り畳まれていない蛋白の多様なグループに結合
する(ゲシング(Gething)およびサムブルック(Sambrook),1992年)。最
近、DNaKは主に標的のペプチド骨格を介して結合し(ランドリー(Landry)
ら,1992年)、GroELは側鎖の疎水性および標的配列が両親媒性α−ヘ
リックスを形成する能力により依存しうること(ランドリー(Landry)およびギ
ーラッシュ(Gierasch),1991年)が示唆された。しかしながら、PapD
は、折り畳まれたコンホーメーションのその標的蛋白に結合すると思われるとい
う点で異なっている(キューン(Kuehn)ら,1991年)。
PapDの3次元構造は以前に解明されている(ホルムグレン(Holmgren)お
メイン間に亀裂を有するブーメランに似ているように配置された2個の球状ドメ
インからPapDがなっていることを示す。各ドメインは、2個の逆へ移行β−
プリーテッドシート(β-pleated sheets)により形成されるβ−バーレル(β-
barrel)構造であり、免疫グロブリンの折り畳みのトポロジーに類似のトポロジ
ーを有している。PapDのN末端ドメインはIg可変ドメインに最も似ている
が、PapDのC末端ドメインはCD4(ワング(Wang)ら,1990年、リュ
ー(Ryu)ら,1990年)およびヒト・成長ホルモン受容体(デ・フォス(De V
os)ら,1992年)に似ている。
PapDおよび類似の免疫グロフリン様構造を有すると予想されるいくつかの
ペリプラズムチャペロンの構造比較は、この蛋白ファミリー中の一定不変の、高
度に保存された、および種々な残基を同定した(ホルムグレン(Holmgren)ら,
1992年)。もっとも保存的な残基は全体の構造およびドメイン相互配向の維
持に関与していると思われる。しかしながら、2個の保存的な残基Arg−8お
よびLys−112は表面に露出しており、ドメイン間の亀裂に向かって配向し
ている。Arg−8アミノ酸の部位特異的突然変異は、それが少なくとも繊毛サ
ブユニット結合ポケットの一部を形成していることを示した(ホルムグレン(Ho
lmgren)ら,1992年;キューン(Kuehn)ら,1993年)。
多くの上記繊毛サブユニット蛋白の配列分析により、それらがC末端における
相同性をはじめとする多くの共通した特徴を有することが示された(実施例2参
照)。配列におけるこれらの類似点は、そのペリプラズムチャペロンへの結合の
ごときすべての繊毛蛋白に共通したいくつかの機能に関与していると考えられる
。実際、p−繊毛付着素PapGのC末端領域は、インビボにおけるPapDへ
の結合において重要であることがすでに示されている(フルトグレン(Hultgren
)ら,1989年)。表Aは16種のペリプラズム蛋白を掲載しており、すべて
のものが病原性細菌における細胞表面構造の集合に関与し、すべてがPapDと
有意な相同性を有している。
要約すると、PapDの3次元構造ならびにPapDと他のペリプラズムチャ
ペロンの機能は知られているが、PapDと繊毛サブユニットとの間の結合の正
確なモチーフは現在まで知られていなかった。
発明の開示
本発明によれば、PapDおよび他の関連チャペロンの上記特性は、それらを
、繊毛により付着する細菌の病原性を主として減じるように設計された薬剤の興
味深い標的としている。例えば、チャペロンと繊毛サブユニットとの間の結合を
ブロックする薬剤(それによりインタクトな繊毛の集合を妨害する)は、インタ
クトな繊毛の形成を妨害し、それにより宿主上皮に付着する細菌の能力を減じる
であろう。
かかる薬剤を設計するために、チャペロンと繊毛蛋白の間の結合モチーフを詳
細に知って、この結合をブロックしうる化合物を効率的に同定する方法を開発す
ることは大いに価値がある。
本発明の1の態様は、繊毛形成細菌における少なくとも1つのタイプの繊毛サ
ブユニットと少なくとも1つのタイプの分子チャペロンとの間の結合を防止、阻
害または促進し、ペリプラズム空間を通るこれらの繊毛サブユニットの輸送の間
および/またはインタクトな繊毛の集合過程の間に分子チャペロンが繊毛サブユ
ニットに結合することを特徴とする、組織付着性繊毛を形成する細菌により引き
起こされる疾患の治療および/または予防方法に関する。
本明細書の用語「繊毛」、「フィムブリア」、または「原線維」は、多くの組
織付着性病原性細菌、すなわち、グラム陰性細菌の外膜に埋め込まれた原線維の
ヘテロポリマー構造に関する。本明細書においては、用語「繊毛」、「フィムブ
リア」、または「原線維」を互いに入れ替えて使用する。上で説明したように、
繊毛は、インタクトな繊毛の固有の機能的部分を構成している多くの「繊毛サブ
ユニット」からなる。非常に重要な繊毛サブユニットは「付着素」であり、繊毛
サブユニットは細菌の組織結合能に関与している。
用語「分子チャペロン」は、生細胞においてペプチドへの結合に関与して多く
の方法でペプチドを成熟させる分子を意味する。多くの分子チャペロンはペプチ
ドのネイティブなコンホーメーションへの折り畳みプセスに関与しているが、他
のチャペロンは細胞中への、あるいは細胞中からのペプチドの輸送に関与してい
る。特殊化された分子チャペロンは「ペリプラズムチャペロン」であり、それは
「ペリプラズム空間」(細菌内膜と外膜との間の空間)においてその主な作用を
行う細菌の分子チャペロンである。ペリプラズムチャペロンはインタクトな繊毛
の正しい集合プロセスに関与している。本明細書の簡単な用語「チャペロン」は
、断らないかぎり、分子チャペロン、ペリプラズムチャペロンを意味する。
語句「1のタイプの」を用いる場合、問題としている繊毛サブユニットまたは
チャペロンが独特な種であることを意味する。しかしながら、異なる種のペリプ
ラズム分子チャペロン間において非常に相同性があるという事実は、例えば化合
物を用いる1のタイプのチャペロンの妨害は、他のチャペロンの妨害においても
当該化合物を使用することを可能にする。
語句「繊毛形成細菌において繊毛サブユニットと少なくとも1の分子チャペロ
ンとの間の結合を防止、阻害または促進する」は、チャペロンとその本来のリガ
ンド、すなわち繊毛サブユニットとの間の正常な相互作用が、完全にまたは実質
的に完全に妨害され、あるいは阻害され、あるいは別の様式で表現され、チャペ
ロンへの繊毛サブユニットの結合が測定可能に低いという程度まで低下している
ことを示す。同様に、チャペロンと繊毛サブユニットとの間の結合促進は、ペリ
プラズム空間におけるネイティブな条件と実質的に同じ条件(pH、イオンおよ
び他の分子の濃度)においてチャペロンが繊毛サブユニットと相互作用する場合
よりもチャペロンへの繊毛サブユニットの結合が測定可能に高いものであるべき
である。結合の程度の測定値は、当業者に知られた方法(微小熱量測定、ラジオ
イムノアッセイ、酵素によるイムノアッセイ等)によりインビトロにおいて決定
されうる。
上記によれば、繊毛サブユニットとチャペロンとの間の正常な相互作用の防止
または阻害は、繊毛の集合に対する実質的な制限効果を有するであろう。しかし
ながら、繊毛サブユニットとチャペロンとの間の結合の促進は、細菌に対して破
壊的なものでもありうる。実施例2からわかるように、異なる繊毛サブユニット
は異なるアフィニティーでPapDに結合し、この狭くバランスしたシステムに
影響し、さらに繊毛の集合速度および効率を制限するかもしれない。
繊毛サブユニットとチャペロンとの間の穏やかな変化でさえも繊毛の集合に対
して劇的な衝撃を有し、よって細菌の付着能に劇的な衝撃を有する可能性がある
と考えられる。例えば、チャペロンと1の繊毛サブユニットとの間の結合におけ
る変化が、チャペロンと通常は該チャペロンに結合する繊毛サブユニットとの間
の正常なオーダーのアフィニティーが変化するようなものである場合、繊毛の集
合のオーダーは繊毛サブユニットとチャペロンとの間のアフィニティーに依存し
ているので、繊毛の正常な集合は混乱させられるはずである。チャペロンに対し
て高アフィニティーを有する繊毛サブユニットは、より低いアフィニティーを有
する他の繊毛サブユニットに先立って結合するかもしれない。
よって、繊毛サブユニットとペリプラズム分子チャペロンとの間の結合の防止
、阻害または促進は、繊毛の集合を損なう効果を有し、それにより通常は繊毛を
発現している微生物の感染性が減じられる。繊毛サブユニット間の結合の防止、
阻害または促進を多くの方法で行うことができる。組織付着性繊毛形成細菌によ
り引き起こされる疾患の治療および/または予防の本発明による好ましい方法は
、ペリプラズム空間を通るこれらの繊毛サブユニットの輸送の間および/または
インタクトな繊毛の集合プロセスの間に、分子チャペロンへの繊毛サブユニット
の結合を防止、阻害または促進する様式で、繊毛サブユニットに結合する少なく
とも1のタイプの分子チャペロンと相互作用することができる有効量の物質を、
それを必要とする対象に投与することである。
該物質は、チャペロンと繊毛サブユニットとの間の相互作用、それゆえ繊毛の
集合に対して上記効果の1つを有するいずれの化合物であってもよい。特に興味
深い物質は、チャペロンの繊毛サブユニット結合部分と相互作用する可能性のあ
る物質であるが、チャペロンの他の部位との相互作用も繊毛サブユニットとチャ
ペロンとの間の結合を防止、阻害または促進するかもしれない。これは、サブユ
ニットとチャペロンとの間の正常な結合に対する直接的な立体的ブロッキングの
効果でありうるが、チャペロンのコンホーメーション変換の効果でもありうる。
本発明方法に使用する物質の同定方法を以下に示す。
物質とチャペロンとの間の相互作用は、物質のチャペロンへの共有結合であっ
ても、また非共有結合であってもよい。
用語「それを必要とする対象」は、本明細書の文脈においては、ヒトをはじめ
とするいかなる動物であってよく、該動物は病原性であると考えられる組織付着
性繊毛形成細菌に感染している、あるいは感染している可能性がある動物である
。
用語「有効量の」は、大部分の患者において、病原性細菌により引き起こされ
た疾患が治癒する効果、あるいは物質が予防的に与えられた場合に疾患が明らか
となることを防止する効果のいずれかを有する、問題としている物質の量を意味
する。さらに、用語「有効量」は、投与された対象において穏やかな副作用しか
引き起こさないかまたは副作用を起こさない量で物質を与えること、あるいは物
質が与えられた疾患の重さに関する医学的および薬理学的観点からみると副作用
が耐えられるものであることを意味する。
物質の投与経路は投与に関するいずれの慣用的経路、すなわち、経口、静脈内
、筋肉内、皮内、皮下等であってよい。経口経路が好ましい。
かかる物質の用量は、患者または動物に抗細菌剤を投与する場合に通常用いる
用量すなわち、1日につき体重1kgあたり1μg〜1000μgであると考え
られる。用量は、一部には、物質の投与経路に依存するであろう。経口経路を用
いる場合、物質の吸収は重要な因子である。低い吸収性は、胃腸消化管における
高い濃度が必要であり、よって高用量が必要である。中枢神経系(CNS)の感
染を治療する場合のかかる物質の用量は、物質の脳関門透過性に依存するであろ
う。ペニシリンを用いる細菌性髄膜炎の治療においてよく知られているように、
CNSにおける有効濃度を得るためには非常に高用量が必要である。物質の適当
な用量は、適当かつ許容される動物モデルにおいて有効用量レベル(例えば、E
D50)および毒性用量レベル(例えば、TD50)ならびに致死用量レベル(例え
ば、LD50またはLD10)が確立されている動物モデル試験を行うことにより
適当に評価されるであろう。さらに、かかる動物試験において物質が有効である
と判明した場合、対象を用いる臨床試験を行うべきである。グッド・クリニカル
・プラクティス(Good Clinical Practice)の標準的方法に基づいてかかる臨床
試験を行うべきであることはいうまでもない。
繊毛サブユニットとチャペロンとの間の結合を防止、阻害または促進する好ま
しい方法は、チャペロンに対して上記効果を有する物質を投与することであるが
、他の方法も可能である。例えば、同じ理由のため、1のタイプの繊毛サブユニ
ットと相互作用する物質が上記効果を有する可能性もある。しかしながら、チャ
ペロンとの相互作用は、インタクトな繊毛を構成しているすべてではないにして
も大部分の繊毛サブユニットが繊毛中に集合することに対して影響する可能性が
あるので、チャペロンとの相互作用が細菌の感染性を抑制することに関して最も
効果的となるであろうと考えられる。
下記実施例から明らかなように、チャペロンと繊毛サブユニットとの間の結合
に関する大部分のデータを、イー・コリ由来のPapDチャペロンとの間の相互
作用を研究することにより得た。しかしながら、多くの組織付着性細菌は、その
C末端部分における相同性を実質的に共有している繊毛を発現することがわかっ
ているので、さらに現在までに単離された種々のペリプラズムチャペロン間にお
いて実質的な相同性が示されているので(表A参照)、いくつかの物質および物
質のクラスが存在するペリプラズムチャペロンの大部分と相互作用する可能性が
あり、よって、物質が細菌感染した患者に投与される場合、これらのチャペロン
を有する細菌により引き起こされる疾患の治療および/または予防において有用
であろうと考えることは正当である。
よって、治療および/または予防のための本発明方法は、特に、ヘモフィルス
spp(Haemophilus spp)、ヘリコバクター spp(Helicobacter spp)
、シュードモナス・アエルギノザ(Pseudomonas aeruginosa)、マイコプラズマ
spp(Mycoplasma spp)、およびエシャリシア spp(Escherichia spp
)、サルモネラ spp(Salmonella spp)、ボルデテラ spp(Bordetella
spp)、イェルシニア spp(Yersinia spp)、プロテウス spp(Proteu
s spp)
ならびにクレブシエラ spp(Klebsialla spp)を含むすべての腸内細菌科の
メンバーからなる群より選択される細菌により感染された患者において使用する
ことが意図される。この点について、特に、イー・コリ(E.coli)、ワイ・ペス
チス(Y.pestis)、ワイ・エンテロコリチカ(Y.enterocolitica)、ビー・ペル
ツシス(B.pertussis)、ケイ・ニューモニアエ(K.pneumoniae)、エス・ティ
フィムリウム(S.typhimurium)、エス・ティフィ(S.typhi)、エス・パラティ
フィ(S.paratyphii)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、プ
ロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)およびヘモフィルス・インフルエ
ンザエ(Haemophilus influenzae)からなる群より選択される細菌は、本発明方
法の使用により治療および/または予防されうる感染を引き起こす感染物である
と見なされる。
したがって、本発明の重要な態様において、PapD、FimC、SfaE、
FaeE、FanE、Cs3−1、F17D、C1pE、EcpD、Mrkb、
FimB、SefB、HifB、MyfB、PsaB、PefD、YehC、M
rpD、CssC、NfaE、AggDおよびCaf1Mからなる群から選択さ
れるチャペロンへの繊毛サブユニットの結合が防止、阻害または促進される。
上述のごとく、本発明の好ましい具体例において、ペリプラズムを通る繊毛サ
ブユニットの輸送の間および/または繊毛の集合のプロセスの間において繊毛サ
ブユニットへの結合に通常は関与している分子チャペロン中の結合部位との相互
作用を行うことにより、結合の防止、阻害または促進を行う。
説明したように、本発明に関して、papDと、繊毛サブユニットPapGの
C末端の19個のアミノ酸(G1'〜19')を構成しているペプチドとの間の結
合モチーフが決定された。本明細書に詳細に記載されているように、他のチャペ
ロンはこの結合部位においてPapDと実質的は相同性を共有している。よって
、かかる結合部位は、ペリプラズムチャペロンと相互作用することが意図された
薬剤の標的として大いに興味深い。それゆえ、上記本発明方法の好ましい具体例
において、影響を受ける結合部位はG1'〜19'に結合する部位である。
よって、本発明の重要な態様は、上記方法であって、該方法において結合部位
は、繊毛サブユニットのカルボキシル末端部分が結合しうる部位であり、該部位
は、PapDにおける不変残基Arg−8およびLys−112と実質的に同じ
部位ポイントおよび繊毛サブユニットのカルボキシル末端のβ−ストランドと相
互作用しうるポリペプチドフラグメントからなり、該相互作用により結合部位の
Arg−8およびLys−112部位ポイントにおいて該サブユニットの結合が
安定化される。本発明の特に好ましい態様は上記方法であって、該方法において
、結合部位は本明細書記載のPapDのG蛋白結合部位である。
用語「部位ポイント」は、十分に知られている、他のかかる化学基に対するサ
イズ、電荷、疎水性/親水性、極性、水素結合の方向ならびに3次元位置(距離
および角度)のごとき物理/化学的特性を有する化学基をいう。よって、Arg
−8およびLys−112と「実質的に同じ」である部位ポイントは、これら2
つのアミノ酸と同じ十分に知られた物理/化学特性を実質的に共有している化学
基である。
用語「不変残基」は、アミノ酸の正しいタイプに関していかなる変化もなく、
さらに蛋白におけるその機能においても実質的に何ら変化がない多くの蛋白に見
いだされうるアミノ酸残基をいう。大多数の関連蛋白における不変残基の存在は
、通常、かかる残基の生物学的重要性を示唆するものである。なぜなら、これら
の残基を欠く変異は、明らかにインタクトな蛋白の機能を欠くものでもあるから
である。本明細書に記載のごとく、すべてのペリプラズム分子チャペロンは、A
rg−8およびLys−112と等価なアミノ酸残基を共有している。それゆえ
、これら2つの残基は繊毛形成細菌にとりかなり重要であると考えられる。
「繊毛サブユニットのカルボキシ末端部分のβ−ストランドと相互作用しうる
ポリペプチドフラグメント」は、チャペロンの一部(結合部位の一部でもある)
が繊毛サブユニットのβ−ストランドと相互作用しうることを示す。この相互作
用は、繊毛サブユニットとチャペロンとの間の結合における安定化因子として役
立ち、チャペロンと繊毛サブユニットとの間の結合の全モチーフの非常に重要な
一部分と見なされる。さらに、β−ストランドが繊毛サブユニットの正しい折り
畳みのための鋳型として役立つことが、最近、本発明者らにより予想された(実
施例10参照)。
本明細書で説明するように、すべてではないが多くの既知繊毛サブユニットの
C末端部分は、実質的な相同性を共有しており、そのことは、結合が起こり安定
化するための繊毛サブユニットならびにチャペロンの3次元構造の重要性に関す
るもう1つの示唆である。
実施例から明らかなように、PapDのドメイン2に存在するもう1つの結合
部位が同定された。この結合部位は、融合蛋白MBP−G1'〜140'ならびに
PapGのC末端アミノ酸残基125'〜140'から構成される短鎖ペプチドと
相互作用する。よって、さらにこの結合部位は、ペリプラズムチャペロンと相互
作用することを意図された薬剤の標的として大いに興味深い。それゆえ、上記本
発明方法の好ましい具体例は、影響を受けた結合部位が2つの上記ペプチドのい
ずれかに結合する方法である。
疾患の治療および/または予防において物質を投与することからなる上記方法
は、繊毛サブユニットとペリプラズム分子チャペロンとの間の相互作用の防止、
阻害または促進を導く効果を奏することのできる物質の同定またはデノボ設計に
依存することが理解されよう。さらに、これらの物質が治療上有効であるチャン
スは多いことが重要である。
よって、本発明の1の態様は、ペリプラズム分子チャペロンと相互作用しうる
潜在的に治療上有用な物質を同定する方法であって、それにより、ペリプラズム
分子チャペロンと繊毛サブユニットとの間の相互作用を防止、阻害または促進す
る方法であり、該方法は以下の工程の少なくとも1つからなる:
1)物質によるペリプラズム分子チャペロンと繊毛サブユニットとの間の相互作
用の可能性な防止、阻害または促進が、
a)固定化された形態のペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログおよ
び可溶化形態の繊毛サブユニットまたはその等価物からなる系に該物質を添加し
、該物質の添加により生じる繊毛サブユニットまたはその等価物とペリプラズム
分
子チャペロンまたはそのアナログとの間の結合の変化を調べること、または
b)固定化された形態の繊毛サブユニットまたはその等価物および可溶化形態
のペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログからなる系に該物質を添加し
、該物質の添加により生じる繊毛サブユニットまたはその等価物とペリプラズム
分子チャペロンまたはそのアナログとの間の結合の変化を調べること、または
c)可溶化形態の繊毛サブユニットまたはその等価物およびペリプラズム分子
チャペロンまたはそのアナログからなる系に該物質を添加し、該物質の添加によ
り生じる繊毛サブユニットまたはその等価物とペリプラズム分子チャペロンまた
はそのアナログとの間の結合の変化を調べること、または
d)可溶化形態の繊毛サブユニットまたはその等価物およびペリプラズム分子
チャペロンまたはそのアナログからなる系に該物質を添加し、該物質の添加によ
り生じる結合エネルギーの変化を測定し、次いで、繊毛サブユニットまたはその
等価物とペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログとの間の結合エネルギ
ーの変化が観察される場合に該物質を潜在的に治療上有用であると同定すること
により調べられるアッセイにおいて候補物質を試験し、繊毛サブユニットまたは
その等価物とペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログとの間の結合また
は結合エネルギーの変化が観察される場合に該物質を潜在的に治療上有用である
と同定する。
2)ペリプラズム分子チャペロンと繊毛サブユニットとの間の相互作用に対する
可能な防止、阻害または促進が、
生組織付着性繊毛形成細菌からなる系に物質を添加し、次いで、該細菌の増殖
速度を調べ、該物質が添加されなかった対応系と比較した場合の増殖速度の低下
がペリプラズム分子チャペロンと繊毛サブユニットとの間の結合の防止、阻害ま
たは促進を示すこと、または
生組織付着性繊毛形成細菌からなる系に物質を添加し、次いで、該細菌の組織
付着を調べ、該物質が添加されなかった対応系と比較した場合の組織付着の減少
がペリプラズム分子チャペロンと繊毛サブユニットとの間の結合の防止、阻害ま
たは促進を示すこと
により調べられるアッセイにおいて候補物質を試験し、該物質の添加後に増殖速
度または組織付着の低下・減少が観察される場合に該物質を潜在的に治療上有用
であると同定する。
3)インビトロにおいてペリプラズム分子チャペロンと繊毛サブユニットとの間
の相互作用を防止、阻害または促進することが確認された物質を実験動物に投与
し、該物質の投与の前に、同時に、または後に組織付着性繊毛形成細菌を実験動
物に接種し、次いで、該細菌により引き起こされる疾患を予防および/または治
療および/または改善する物質をペリプラズム分子チャペロンと適当に相互作用
しうる物質として選択する
用語「繊毛サブユニットの等価物」は、例えば、繊毛サブユニットとその等価
物がチャペロンへの結合に関して競争することを示すことにより、繊毛サブユニ
ットがチャペロンに結合するのと同等の様式でチャペロンに結合することが確認
されている化合物を意味する。繊毛サブユニットの好ましい等価物はG1'〜1
9'WT、MBP−G1'〜140'およびG125'〜140'であり、それらす
べてが本明細書に詳細に記載されている。
「チャペロンのアナログ」は、該チャペロンの繊毛サブユニットへの結合に対
応する様式で少なくとも1つの繊毛サブユニットに結合する能力を有するすべて
の物質をいう。チャペロンのかかるアナログは、インタクトなチャペロンの切断
形態(例えば、PapDの2個のドメインの1つ)であってもよく、あるいは、
例えばプローブ、マーカーまたは別の部分に結合したチャペロンの修飾形態であ
ってもよい。最終的には、チャペロンのアナログを単離することができるが、チ
ャペロンの結合部位の全機能の一部の機能を有するものであるか、またはかかる
結
合部位を模倣する合成物質である。
上記固定化方法は、付着表面または宿主または抗体のごとき受容体分子への非
共有結合、あるいはポリマーまたはペプチドのごときスペーサー分子への共有結
合であってよい。
上記工程1a)において、例えば、繊毛サブユニットまたはその等価物を標識
すること、あるいは繊毛サブユニットまたはその等価物と反応しうる標識リガン
ド(抗体のごとき)の手段、あるいはPharmacia BiaCoreRアッセイのごとき結合
程度の決定による屈折率の手段のような、多くの方法により、ペリプラズム分子
チャペロンまたはそのアナログに結合する繊毛サブユニットまたはその等価物を
検出することができる。
したがって、工程1b)において、例えば、ペリプラズム分子チャペロンまた
はそのアナログを標識すること、あるいはペリプラズム分子チャペロンまたはそ
のアナログと反応しうる標識リガンド(抗体のごとき)の手段、あるいはPharma
cia BiaCoreRアッセイのごとき結合程度の決定による屈折率の手段のような、多
くの方法により、繊毛サブユニットまたはその等価物に結合するペリプラズム分
子チャペロンまたはそのアナログを検出することができる。
工程1c)において、繊毛サブユニット/チャオン複合体を分離することによ
り(超遠心、限界濾過、サイズ排除クロマトグラフィーのごとき液体クロマトグ
ラフィー、または電気泳動により)、繊毛サブユニットまたはその等価物に結合
するペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログを検出してもよい。短いP
apGフラグメントがPapDに結合した場合の、このフラグメントの蛍光の変
化による方法を下に記載する。この方法は本発明方法における好ましいアッセイ
である。
工程1c)における結合エネルギーの決定を、好ましくは、よく知られた微小
熱量測定法を用いる微小熱量系において行う。
上に示した工程は3つの目的に役立つ。工程1)におけるアッセイのタイプは
、候補物質がチャペロンと相互作用する能力に注目するものである。標識された
物質、チャペロンまたは抗体を用いる場合において、標識は放射性標識、蛍光ま
た
は吸光性標識、セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼのごとき酵素、ビオチンのご
ときリガンド、あるいは当業者に知られた他のすべての慣用的な標識系であって
よい。液体シンチレーションカウンター、ガンマカウンター、または放射活性用
の他のすべての慣用的な検出系において放射性標識を測定することができる。酵
素に対する特異的基質の存在または不存在(光学密度の測定、残存基質または生
成物の化学反応性等)により酵素標識を検出する。蛍光顕微鏡または蛍光エミッ
ションの簡単な測定により蛍光標識を検出することができる。特定波長の光の吸
収を測定することにより光吸収性標識を検出することができる。ストレプトアビ
ジンへの結合によりビオチンを検出してもよい。
1)における超遠心または限界濾過による高分子複合体の分離を、上記のごと
く標識されている複合体の1成分により検出することができる。よって、繊毛サ
ブユニット/等価物の結合および非結合の割合を知ることができるが、該検出工
程は、複合体の1成分への抗体の結合およびこの抗体のその後の検出にも依存す
るかもしれない。いずれの慣用的クロマトグラフィー法(HPLC、FPLC、
サイズ排除等)を用いてもよい。電気泳動による分離を、例えば、キャピラリー
電気泳動により行ってもよい。
工程2)におけるアッセイはすべて、インビトロにおける細菌活性に対する候
補物質の影響に関連している。アッセイの過程において細菌の増殖速度の低下を
示すことまたは細胞もしくは合成表面への付着の減少を示すことはチャペロンと
の相互作用の影響には寄与しないが、この種のデモンストレーションはかかる化
合物の潜在的治療上有用性の評価を提供する。
細菌を画線した固体寒天プレート上のコロニーを計数することにより、液体増
殖培地中の細菌密度を計測することにより(OD600の測定)、細菌細胞にのみ
含まれているNAD(P)H、ATP、またはアミノ酸のごとき物質の蛍光を測定
することにより、あるいは当業者に知られた他のすべての慣用的な検出系により
、増殖速度の測定を行うことができる。付着性細菌を単離した後、同様の方法で
細菌の付着の測定を行うことができる。好ましくは、赤血球細胞または受容体で
被覆したラテックスビーズを凝集させる細菌の能力を測定することにより、受容
体
を被覆したマイクロタイタープレートへの細菌の付着を測定することにより、あ
るいは他の合成表面への細菌の付着を測定することにより、付着の測定を行う。
上記方法の好ましい具体例において、生きている組織付着性繊毛形成細菌はプ
ロテアーゼ欠損株であり、該プロテアーゼは、少なくとも部分的に繊毛サブユニ
ットの分解に関与するものである。1の特に好ましいタイプの株はイー・コリの
degP41株である。本明細書に記載したように、degP41株は、Pap
Dにより繊毛サブユニットがペリプラズム空間中に解放されない場合にイー・コ
リの繊毛サブユニットの分解に関与するDegPプロテアーゼの活性を欠いてお
り、かくして、繊毛サブユニットの蓄積が細胞にとり有毒である場合にdegP
41株はPapDの有効性の変化に感受性がある。等価なプロテアーゼが他の繊
毛発現細菌中に存在すると考えられる。
工程3)における動物試験を行ってインビボにおける候補物質の潜在的治療上
有用性を示す。さらに、上記のごとく、かかる動物実験は、ヒトにおけるコント
ロールされた臨床試験において候補物質が最終的に試験される前の、有効量およ
び毒性の関する前もっての値を確認するものでもある。さらに、動物モデルから
物質の吸収に関するデータならびに物質の代謝および排泄に関するデータを得る
ことができるので、動物実験は、医薬調製物中の物質の慣用的な処方ならびに好
ましい投与経路を提供する。好ましくは、実験動物はマウス、ラット、ネコ、イ
ヌ、サル、ウマ、ウシ、ブタ、またはニワトリである。
用語「分子チャペロンと適当に相互作用しうる」は、分子チャペロンと相互作
用しうることとは別に、物質がインビボ系において効果を奏することができるこ
と、すなわち、その結合能のほかに、物質が生物学的な系、特に患者に適合性を
示すことを意味する。
上記インビボにおける研究、特に動物モデルにおける実験は、チャペロンと繊
毛サブユニットとの間の結合の防止、阻害または促進における物質の潜在的な治
療上の有効性に関する最良のインジケーターであるが、治療能力を有する化合物
の開発に際して上述のインビトロにおけるアッセイは重要な先鞭として役立つこ
とを忘れてはならない。インビボアッセイにのみ頼るならば、おそらく実際にチ
ャ
ペロン/繊毛サブユニット相互作用に対する所望の効果を示す化合物がインビボ
アッセイによるスクリーニングから漏れるであろう。なぜなら、これらの化合物
は、例えば、生物学的膜を透過する能力を欠いている可能性があるからである。
インビトロアッセイを用いる場合、先導化合物を見いだすさらに大きなチャンス
が残っている。
本明細書記載のインビトロアッセイにおいて試験される物質の効果の評価(こ
の点において、特に実施例参照)は、多くの因子に依存している。小型分子はむ
しろ高いモル濃度で添加されてチャペロン/繊毛サブユニット相互作用に対して
影響を及ぼすことができる(小型分子はやはり興味ある先導化合物である)が、
大型分子はむしろ低いモル濃度においてさえも著しい効果を示しうることが当業
者により理解されるであろう。一般的に、本明細書記載のいずれのインビトロア
ッセイも、候補物質を試験する場合、ポジティブな結果が得られると考えられ(
すなわち、試験された物質が「有意な」効果を示す)、以下の条件が満足される
はずである: 化合物は繊毛サブユニット/チャペロン相互作用(または繊毛サ
ブユニット/チャペロン相互作用と十分相関のある等価な系における相互作用)
に対して有意な効果を示すべきであり、該有意な効果は疑いもなく物質とチャペ
ロンとの間の相互作用によるものであり、チャペロンと物質との間の非特異的相
互作用(例えば、物質が添加された場合、物理的および化学的環境の急激な変化
によるもの)でない。奏された効果について非特異的相互作用を排除する1の方
法は、化学的に同等な物質(分子量、電荷/極性および大まかな3次元コンホー
メーション(球状、繊維状)等に関して)である少なくとも1の対照を使用する
ことである。対照がアッセイにおいて実質的に物質と同じ効果を生じない場合、
物質をアッセイ陽性物質であると見なさなければならない。
実施例に記載したアッセイはすべて、上記本発明方法における試験系として役
立ちうるアッセイのタイプの良い例である。しかしながら、蛍光標識した繊毛サ
ブユニット変異体を用いる実施例10において記載されている方法を工程1c)
に用いるのが好ましい。このアッセイを以下に簡単に説明する:
−ペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログからなる第1の系に物質を添
加し、
−次いで、環境的に感受性のある蛍光プローブで標識された繊毛サブユニットま
たはその等価物を添加し、
−ペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログと繊毛サブユニットまたはそ
の等価物との間の結合量を示す特定の波長における蛍光エミッションを測定し、
次いで、
−実質的に同じ濃度の該分子チャペロンまたはそのアナログおよび該繊毛サブユ
ニットまたはその等価物を含むが、実質的に該物質を含んでいない対応する第2
の系において測定される蛍光エミッションと、該測定された蛍光エミッションと
を比較する。
第1および第2の系の間の蛍光エミッションの有意差はペリプラズム分子チャ
ペロンまたはそのアナログと物質との間の相互作用を示すものである。
このアッセイの利点は、それを、チャペロン/繊毛サブユニット系に対する試
験物質び影響の定量的測定のために使用できることである。このアッセイを用い
て本発明者らは、例えば、PapGアナログとPapDとの間の結合定数を決定
した。第2の系において繊毛サブユニットまたはその等価物とペリプラズムチャ
ペロンならびにその等価物との間のモル比を変化させて蛍光エミッション測定を
複数回行うことにより、定量的測定を行うことができ、それにより、測定した蛍
光エミッションのデータから、繊毛サブユニットまたはその等価物とペリプラズ
ム分子チャペロンまたはそのアナログとの間の結合定数を評価する。このように
して得られたデータから、実施例11にある並行したやり方で物質の結合定数を
決定することも可能である。
潜在的に治療上有用な物質を同定するための上に示した方法は、物質の実際の
存在のしかたに左右されることが理解されよう。通常は、上記方法に供する前に
候補物質を精製もしくは合成することが必要である。しかしながら、チャペロン
と適当に相互作用しうる物質が同定される前に多くのかかる候補物質が試験され
る可能性があるので、上記方法に供される前にかかる物質を同定することは興味
深いことであり、そのことにより、精製および/または合成工程における供給源
の消費が減少する。
それゆえ、さらに本発明は、前以て決定されたしきい値に等しいかまたはそれ
より良好な推定結合エネルギーを用いて、チャペロンと相互作用しうる(例えば
、チャペロンに結合する)物質Xを同定および/または設計する方法であって、
1)潜在的にチャペロン中の部位と相互作用しうる物質Aを選択し、次いで、そ
の3次元構造画像を得て、
2)物質Aとチャペロン中の部位との間の結合自由エネルギーを推定し、
3)物質Aとチャペロン中の部位との間の推定結合自由エネルギーが前以て決定
されたしきい値に等しいかまたはそれより良好である場合には、物質Aを物質X
と同定し、
4)物質Aとチャペロン中の部位との間の推定結合自由エネルギーが前以て決定
されたしきい値と等しくないかまたはそれより良好でない場合には、3次元構造
画像を修飾し、次いで、かくして修飾された物質Bとチャペロン中の部位との間
の結合自由エネルギーを推定し、
5)得られる物質Xとチャペロン中の部位との間で決定される推定結合自由エネ
ルギーが前以て決定されたしきい値に等しいかまたはそれより良好になるまで工
程4を繰り返す
からなる方法に関する。
上記方法にさらに2つの工程を加えることが可能である。ここで、実際の結合
自由エネルギーを決定して実験上の結合自由エネルギーが前以て決定されたしき
い値よりも良好であることを確認する。以下の2つの工程を用いる:
6)化学物質Xの試料およびチャペロンの試料を用意し、化学物質Xとチャペロ
ンとの間の結合自由エネルギーを測定し(例えば、上記微小熱量測定法による)
、
次いで、化学物質Xとチャペロンとの間の測定された結合自由エネルギーが前以
て決定されたしきい値に等しいかまたはそれより良好であることを確認し、次い
で、所望により、
7)チャペロンと適当に相互作用しうる物質を同定するための上記方法に物質X
を供して、物質Xがチャペロンと相互作用しうる潜在的に治療上有用な物質であ
ることを証明する。
かくして、候補物質とチャペロンとの間の結合自由エネルギーが前以て決定さ
れたしきい値よりも実際に良好であることが証明される。さらに工程7)により
、候補物質が治療上有用である十分なチャンスを有していることが確認される。
語句「結合自由エネルギーを推定する」は、結合自由エネルギーを、実際の結
合自由エネルギーを決定する実験を行うよりもむしろ計算により決定することを
意味する。結合自由エネルギーを決定する1の(理論的な)方法は、相互作用し
ている物質の関する自由エネルギー摂動(FEP)計算を行うことによるが、膨
大な計算のために、かかるアプローチは、結果として、下記の経験的な近似法を
用いることが好ましいこととなる。
用語「よりも良好」は、結合自由エネルギーが、しきい値として選択された結
合自由エネルギーよりも高い値を有することを意味する。そのことは、ΔGが、
選択されたしきい値よりも数値的に高いことを意味する。あるいは、言い換える
と、その用語は、物質とチャペロンとの間の結合が、溶液中で物質とチャペロン
が別個に懸濁されているよりもエネルギー的に好ましいことを意味する。
上で示した本発明方法において結合エネルギーを推定するためには、以下の方
法を用いるのが特に好ましい:
<Vel X-s>B−<Vel X-s>A、すなわち2つの状態における物質Xとその周囲
(sと表示)との間のポテンシャルエネルギーに対する極性相互作用からの寄与
間であると定義される平均エネルギー変化<ΔVel X-s>を評価する。1の状態
(A)は、化学物質が溶媒に取り囲まれている状態であり、他の状態(B)は、
ペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログに結合した化学物質が溶媒に取
り囲まれている状態である。
<Vvdw X-s>B−<Vvdw X-s>A、すなわち2つの状態における物質Xとその周
囲(sと表示)との間のポテンシャルエネルギーに対する非極性相互作用からの
寄与間であると定義される平均エネルギー変化<ΔVvdw X-s>を評価する。1の
状態(A)は、化学物質が溶媒に取り囲まれている状態であり、他の状態(B)
は、ペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログに結合した化学物質が溶媒
に取り囲まれている状態である。
次いで、上記2つの平均エネルギー変化の修正された組み合わせとしての絶対
結合自由エネルギーを計算する。
本明細書の数式において、シンボル<>は分子力学平均を意味する。インデッ
クスX−sは、化合物−溶媒(または化合物−周囲)を意味し、文字「X」は化
学物質Xを示す。通常は、物質Xはペリプラズムチャペロンと繊毛サブユニット
との間の結合の阻害剤として機能するであろうが、本明細書で議論するように、
繊毛サブユニットとチャペロンとの間の結合が促進されるような様式で化合物ま
たは薬剤がチャペロンに影響することもありうる。上段の「el」は極性または
静電気的エネルギーを意味するが、上段の「vdw」は「ファン・デル・ワール
ス」を示し、これは非極性相互作用に関するもう1つの命名である。シンボルΔ
は、状態Aにおける量が状態Bにおける量から減じられることを示す。
この意味からすると、用語「ペリプラズム分子チャペロンのアナログ」は、ペ
リプラズム分子チャペロンの興味ある部分を模倣(結合特性に関して)するすべ
ての物質であると広い意味で理解されるはずであり、アナログと化学物質または
基または複数の化学物質(例えば、薬剤候補)との相互作用が研究される。よっ
て、簡単には、アナログとは、インビボにおけるチャペロンと繊毛サブユニット
との間の結合を模倣する様式で化学物質と相互作用しうると見なされる他のすべ
ての化合物であるが、最も頻繁には、アナログは比較的大型の分子であり、言い
換えると、蛋白またはオリゴヌクレオチドのごとき高分子であり、化学物質と比
較して大型である。しかしながら、もちろん、アナログと相互作用する化学物質
はそれ自体高分子である。この意味において、ペリプラズム分子チャペロンまた
はそのアナログは、好ましくは、繊毛の集合に関連した少なくとも1つの興味深
い結合特性を示すペリプラズムチャペロンまたはそのアナログである。
結語自由エネルギーを決定するための上に示したアプローチに関する根拠を以
下に説明する。
結果として極性溶液に関して電荷の生成に応答した2次自由エネルギー関数が
得られる静電気力についての線形応答近似を出発点として採用する。これは、例
えば、電子移動反応に関するマーカス(Marcus)の理論(マーカス,1964年
)から得られる良く知られた結果である。2つの状態AおよびBを用いる系につ
いて、2つのポテンシャルエネルギー関数VAおよびVBにより、等しい曲率の調
和自由エネルギー関数の近似の範囲内で以下の関係式(リー(Lee)ら,1992
年およびそこに引用された文献参照):
[式中、ΔGABはBとAとの間の自由エネルギー差、λは対応する再構成エネル
ギー、<>iはポテンシャルiの最小値近傍で評価された平均値を示す]が得ら
れる。よって、式:
[式中、ΔVはエネルギー差VB−VAを示す]である。単一イオンの水和を考慮
する場合、この式はΔGel sol=1/2<Vel X-s>、すなわち、溶媒和エネルギー
に対する静電気的寄与が対応イオン溶媒相互作用の半分に等しいことを示すこと
ができる(ワーシェル(Warshel)およびラッセル(Russell),1984年;ル
ー(Roux)ら,1990年)。さて、結合の問題に戻ると、この結果を以下のよ
うに利用することができる:各溶媒和プロセス、すなわち、水中および蛋白内部
における溶媒和について、2つの状態を、第1の状態が真空中および与えられた
環境においてすでに形成された無極性空洞中(例えば、レナード−ジョーンズ(
L
ennard-Jones)ポテンシャルにより形成される)における物質を有するものであ
ると考えることができる。第2の状態は水または水和蛋白により囲まれたインタ
クトな物質に対応する。次いで、線形応答近似は、再度、ΔGel bind≒1/2<Ve l X-s
>[式中、Vel X-sは溶質−溶媒静電気項である]を与える。ゆえに、結合
自由エネルギーに対する静電気的寄与を、ΔGel bind≒1/2<Vel X-s>(Δは蛋
白と水との間の差を意味する)により近似することができ、かくして、溶媒和さ
れた物質および物質−蛋白複合体に関する2つのMDシミュレーションから得る
ことができる。
線形応答近似の結果の正当性は、イオン溶媒和の場合おいて、例えば、ルー(
Roux)ら(1990年)の研究において確認されている。等式bの近似を確実に
する単純な系についていくつかのさらなる計算を行った。球状の水系(オクビス
ト(Aqvist),1990年)におけるNa+およびCa2+イオンを荷電させること
に対するFEP/MD刺激から得た自由エネルギーを75ps MD軌道からの
対応する<Vel X-s>と比較することによりこれらの試験を行った。これにより
、<Vel X-s>をΔGel solを関連づける得られた因子はNa+に関しては0.49
、Ca2+に関しては0.52の値が得られ、両方の値は1/2という推定結果に近か
った。水中のOPLSポテンシャル(ヨルゲンセン(Jorgensen),1986年)
により行われるメタノール分子の荷電についての同様の試験は、ΔGel sol/<
Vel X-s>比0.43を示した。
重要な問題は、いかにして無極性相互作用および結合自由エネルギーに対する
疎水性効果(ΔGvdw bindという)を説明するかである。理想的な場合、無極性
(またはファン・デル・ワールス)相互作用エネルギーからのこの寄与を評価す
ることは可能なはずである。シャンドラー(Chandler)および共同研究者(シャ
ンドラーら,1983年;プラット(Pratt)およびシャンドラー,1977年)
の液体理論をうまく用いて疎水性効果を分析し、いくつかの無極性分子に関する
転移エネルギー(プラットおよびシャンドラー,1977年)を計算したが、蛋
白の活性部位のごとき不均一な環境における溶媒和についてその種の分析処理が
可能であると思われる。しかしながら、種々の炭化水素化合物に関する実験上の
溶媒和自由エネルギーは、それ自身の液体中ならびに水中における炭素鎖の長さ
にほぼ直線的に依存する(ベン−ネイム(Ben-Naim)およびマーカス(Marcus)
,1984年)。H2Oおよび無極性ファン・デル・ワールス溶媒に溶媒和された
n−アルカンのMDシミュレーションを行い、平均溶質−溶媒相互作用エネルギ
ーが鎖中の炭素数に伴ってほぼ直線的に変化することも示された(もちろん、異
なる溶媒中では関係が異なる)。よって、<ΔGvdw bind>からのΔGvdw bindの
単純な直線的近似により無極性結合寄与を説明することが可能であると思われる
。例えば、σを溶媒のサイズのいくつかの適当な測定値であると考え、溶質−溶
媒ファン・デル・ワールス相互作用エネルギーおよび対応する無極性自由エネル
ギー寄与(水中および蛋白中の双方での)がσに直線的に依存する場合には、
次いで、
が得られる。純粋に理論的な考え方から確実な方法で該2つの量を関係づける因
子を導出することは困難であると思われるので、アプローチ法として、実験的な
結合のデータを再現できるかかる関係を決定するための経験的な試行を採用する
。よって、
によって近似される結合自由エネルギーは本発明の1の具体例であり、パラメー
ターαは経験的キャリブレーションにより決定される。
上で議論したように、<Vel X-s>に関する係数についての理論的推定値は1/2
であるが、この係数を経験的パラメーターとして取り扱うことも実際上有用であ
りうる。このことは、
[式中、両パラメーターαおよびβは経験的キャリブレーションにより決定され
る]によって近似される結合自由エネルギーを導く。
最終的に、いくつかの場合には、さらなる定数項を等式1に加えて、等式を:
[式中、cは、化学物質のゼロサイズへの外挿を反映する定数であり、すなわち
、化学物質のゼロサイズに向けて移動させた場合、回帰線は明確に原点から派生
する]とすることが適当であると思われる。さらにパラメーターcを用いて、例
えば、誘導される分極の無視、生じ得るカフィールドの欠損等により発生しうる
系のエラーを修正してもよい。これらの場合、通常は、cは−10ないし10k
cal/mol、典型的には−3ないし3kcal/mol、例えば−2ないし
2kcal/mol、さらに例えば、−1ないし1kcal/molの値と仮定
されよう。しかしながら、多くの場合において、逸脱の程度が予想値の有用性に
対してあまり重要でないので、cを適当にゼロにセットすることができると予想
される。
さらに静電気的係数iを経験的パラメーターとして取り扱う場合、結合自由エ
ネルギーの近似は、その最も一般的な形態、すなわち:
[式中、α、βおよびcはいずれも経験的キャリブレーションにより決定されう
る]であると仮定される。
上記方法に用いられる溶媒は、適当には、そして最もしばしば、水のような水
性溶媒であるが、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル
、クロロホルム、ヘキサン等、またはそれらの混合物、あるいはかかる溶媒また
はそれらの混合物の水との組み合わせのような他の適当な溶媒を出発点として採
用することは本発明の範囲内である。溶媒が受容体分子および物質を溶解または
溶
媒和しうるものである限り(この意味において、このことは、十分量のペリプラ
ズム分子チャペロンまたはそのアナログが沈殿を生成せずに溶媒と混合でき、い
くつかの適当な方法による結語自由エネルギーの決定を可能にすることを意味す
る)、溶媒の選択は予想値に対してあまり重要でないが、物質と受容体分子との
相互作用が起こりうる溶媒環境を変化させること(例えば、イオン強度を変化さ
せることにより)が有利な場合がありうる。薬剤のごとき化学物質とペリプラズ
ム分子チャペロンまたはそのアナログとの間の相互作用が実際の薬剤の使用にお
いて起こりうる環境が人体である場合には、例えば、溶媒としてヒト・血漿を模
倣することは特に適当である可能性がある。
2分子間の結合自由エネルギーを決定するための上記方法についてのすべての
議論は、国際特許出願PCT/IB94/00257およびオクビストら,19
94年において見いだされる。これ2つの文献を参照により本明細書に記載され
ているものと見なす。
結合自由エネルギーを決定するための上の参照方法を実施例3に用いて、Pa
pDの結合部位に結合するチャンスの多い化合物を同定する。このことは、化合
物を実際に合成する前に、最後の理論的段階として上記計算を行ったことを意味
する。チャペロンと相互作用しうる物質を同定するための上記方法は、結合部位
が繊毛の集合に関与することが知られている場合に潜在的に薬理学的価値を有す
る物質を同定することにおいて特に有効であることが理解されよう。
それゆえ、物質が潜在的に相互作用することができ、結合自由エネルギーが予
想される部位が分子チャペロンの繊毛サブユニット結合部分、例えば、papD
、FimC、SfaE、FaeE、FanE、Cs3−27、F17D、C1p
E、EcpD、Mrkb、FimB、SefB、HifB、MyfB、PsaB
、PefD、YehC、MrpD、CssC、NfaE、AggDおよびCaf
1M、またはかかる繊毛サブユニット結合部位のアナログよりなる群から選択さ
れる分子チャペロンの繊毛サブユニット結合部位であることが好ましい。なぜな
ら、これらのチャペロンにおける繊毛サブユニット結合部位は非常に相同性を示
すからである。結合部位がPapDまたはそのアナログの繊毛サブユニッ
トであることが特に好ましい。
実施例から明らかなように、チャペロン結合モチーフの重要部分が見いだされ
、このモチーフに対応するペプチドが合成されPapDとともに結晶化されてP
apDの作用機構に関する構造的根拠が得られている。PapD−付着素認識界
面の分子の詳細は、サブユニット結合および毒性決定因子を病原性細菌表面に移
行させることにおける全繊毛チャペロンスーパーファミリーにおける保存された
亀裂の機能を明確に示す。本質的には、PapDペプチド結晶構造は細菌の病原
性における基本的なプロセスの「スナップ写真」、すなわち、微生物表面上への
付着素の提供に不可欠なチャペロンとの付着素の相互作用を示す。
かくして、本発明者らは、X線結晶回折法により、PapDと繊毛サブユニッ
トPapGとの間の結合機構を調べ、それにより、繊毛とそのペリプラズムチャ
ペロンとの間の結合に関与する決定された結合部位の不可欠な部分を同定し、か
くして、抗細菌化合物を阻害するチャペロンのドラッグデザインを可能にする方
法を提供した。
上記の疎外的リガンドに対する有望な結合部位の位置を決定し(詳細には実施
例1および2参照)、コンピュータープログラム「PLIM」および「PLIM
_DBS」(シンビコンAB(Symbicon AB)により開発された)を用いて結合
部位に結合することのできる化合物のファミリーに対する鋳型を見いだした。
PLIMは、熱力学的判断基準を用いて蛋白に対する推定上のリガンドを構築
する蛋白リガンド相互作用モデラーである。該プログラムは、蛋白と、分子の周
囲の規則的な格子上の異なる点に連続的に置かれる試料プローブとの間の相互作
用エネルギーを計算する。各位置および方向について、プローブと蛋白の原子と
の間の相互作用エネルギーが計算される。エネルギー値が保存され、特定のプロ
ーブに関する最適位置が書き出される(基本的な計算はグッドフィールド(Good
field)(1985年)およびボーバイヤー(Boobbyer)(1989年)により
記載されており、市販プロクラムGRIDにおいて実行される。PLIM実行は
、エネルギー値が化学プローブに関連した個々の点に変換され、例えばデータベ
ース検索プログラムへの簡単な出力を可能にするという点でいくぶん異な
る)。次いで、選択したプローブ原子を格子上のエネルギー最小位置に取り込む
ことにより該プログラムはリガンドを構築する。使用者は、いずれの原子および
基をプローブとして使用すべきか、そして、いずれの判断基準を用いてリガンド
中に取り込まれる原子および基を決定すべきかを選択する。エネルギーは、本明
細書記載の静電気、ファン・デル・ワールス、および水素結合の寄与の合計とし
て計算される。
PLIMは実行されて、結合部位近傍領域における好ましい化学基の多くの示
唆された位置および方向を生じる。電荷、水素結合による方向づけ、および拡張
された原子半径のような物理学的特性を有するこれらの基を、以後、「部位ポイ
ント」という。
次いで、PLIM_DESを用いて部位ポイントのこれらの基の位置に合致す
る既知分子構造に関するデータベースを検索することにより、潜在的なリガンド
の検索を行う。
PILM_DESのコアはサブグラフの同形性(ウルマン(Ullman)(197
6年)およびブリント(Brint)(1987年)参照)に関するアルゴリズムで
ある。該アルゴリズムにおいて、3つの部位ポイントが距離マトリックス(「パ
ターンマトリックス」)として表される。該プログラムは、データベース中の各
記載事項から形成される距離マトリックス中の距離パターンを探す。該パターン
が見いだされたならば、記載事項を部位ポイント上に重ね、対応原子タイプが記
載事項に合致したならば、その方向をヒットリスト(hit-list)に保存する。こ
の基本的なスキームに加えて、表面の相補性に関する多くのオプションを用いる
ことができ、すなわち、疎水性および立体的性質に関して蛋白表面に合致する記
載事項のみをセーブする。
よって、PLIM_DBSは、3次元分子コーディネートセットを集め、ある
原子パターンを含む記載事項を探すことにより検索を行うデータベースサーチャ
ーである。このパターンは、原子タイプ、および空間位置ならびに方向に関して
細分される。例えば、sp2酸素から4.2オングストロームであって該酸素か
ら5.6オングストロームのヒドロキシル基から5.1オングストロームである
sp3炭素原子を含む化合物を求めて検索が行われる。該検索の厳密性を、距離
の判断基準についての耐性および合致する原子のタイプを変化させ、例えば、酸
素から4.2オングストロームより少し遠いsp2炭素をヒットと見なすことに
より、使用者が調整することができる。次いで、見いだされたそれらのヒットを
、どれほどうまく標的原子が実際の分子に重なるか、さらには化合物の分子表面
が蛋白の結合ポケットの分子表面に対してどれほど相補的であるかランク付けす
る。
PLIM_DBS検索からの結果により、部位ポイント上に重なる分子構造お
よびそれらの原子コーディネートの一覧、および一定のスコア(「適合の良好さ」)
が検索される。
該手順は構造のポジショニングを最適化しようとするものではなく、さらに分
子機構または力学の計算を行うものでもない。蛋白および抽出される構造の両方
は堅固なボディーとして取り扱われる。
データベース検索からの構造は、蛋白およびその表面に関して、通常に使用さ
れる分子モデリングパッケージを用いてグラフィックスシステム上に示される。
通常には、構造は、蛋白に関するいくつかの好ましくない相互作用を示すか、ま
たは空間を満たすための基、例えば疎水性ポケットを欠いている。それゆえ、デ
ータベース検索からの構造は、有機化学者により修飾され改良されるべき鋳型で
あると見なされる。さらにこのプロセスは、合成が容易であって合成キャパシテ
ィーが限られる場合に特に興味深い化合物を選択することを包含する。
かくして、これらのデータベースのヒットのうちの最良のものは、コンピュー
ター−グラフィックモデリングシステムを用いて視覚的に試験され、これらのう
ちで最も有望なものが物理化学的理由の多さに応じて選択される。
小型分子3Dビルダー(マクミミック(MacMimic))を用いて鋳型を修飾する
。各鋳型は、例えば、「hdo」と記された化合物のクラスのもととなる。シム
ビコム(Symbicom)により開発されたプログラムARVS_JAKTを用いて、
特定の番号(例えば、hdo_3)を割り当てられた各修飾物およびその座標な
らびに説明が、ツリー構造(tree structure)中に蓄えられる。蛋白構造の専門
家と有機化学者との間の連携で設計を行って実際に化合物を合成する科学者にと
り
利用可能な最良の道具を得る。
蛋白−リガンド複合体の安定性を研究するために本明細書に記載された分子力
学的自由エネルギー計算(オクビストら,1994年;オクビストおよびメディ
ナ(Medina),1993年を用いてこれらの修飾の有効性を最終的に評価する。
分子チャペロンと相互作用しうる物質の同定/設計のための上記方法の有効性
を最大にするためには、物質Aが、選択された結合部位に結合しうる物質である
可能性があることが好ましい。
papDのようなチャペロンと相互作用すべき物質を選択するための上記方法
の観点からすると、以下の工程を行うことにより物質Aが選択される場合に、本
発明によってこれが行われうる。
−ペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログを、ペリプラズム分子チャ
ペロンまたはそのアナログにおける部位と相互作用しうるリガンドと同時結晶化
させ、相互作用する場合にはX線結晶回折法によりペリプラズム分子チャペロン
またはそのアナログおよびリガンドの3次元コンホーメーションを確立し、
−上で確立されたペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログのコンホー
メーションを用いて、結合の間にリガンドと相互作用するペリプラズム分子チャ
ペロンまたはそのアナログにおける部位の3次元的画像を確立し、
−多数の個々の化学基、X1を選択し、化学基と、リガンドと相互作用するチ
ャペロンまたはそのアナログにおける部位との間の結合自由エネルギーX1化学
基の可能な空間分配を決定し、
−分子の3次元的画像からなるデータベースから、上記可能な空間的分配にお
いてX1化学基を有する分子を抽出し、
−所望によりデータベースから抽出した分子の3次元的画像を修飾し、次いで
、
所望により修飾された分子を物質Aとして同定する。
本発明によれば、リガンドが、通常には、ペリプラズム空間を通る繊毛サブユ
ニットの輸送中および/または繊毛の集合中にチャペロンと相互作用する繊毛サ
ブユニットまたはその一部である場合に上記工程は特に好ましい。
ペリプラズムチャペロンと相互作用しうる物質を同定するための上述の方法を
用いることにより、設計段階において有望であることがわかったいくつかのクラ
スの物質が同定された。
PapDに対する阻害剤/エンハンサーを設計するためのドラッグデザインは
の努力は、G−ペプチドが結合することが観察される分子の領域に対して集中さ
せられてきた。現在は、推定上の阻害剤(bpy_9、下記参照)をリファレン
ス構造として用いてこの領域は詳細に記載されるであろう。
中央の荷電したArg−8およびLys−112の側鎖により結合部位は支配
されており、bpy_9のサルフェート部分に結合する。Ile−154、Il
e−194およびThr−7の側鎖により形成される小さく、狭い疎水性ポケッ
ト(ポケット1)がこれに隣接しており、それに対してbpy_9の2−エチル
基か詰まっている。糖位置2に結合しており、Thr−7から水素結合を受け取
るかまたは与えることのできる、あるいは198番の骨格カルボニルに水素結合
を与えることのできる存在可能な置換基を伴ったフェニル環と同じほどの大きさ
の基をここに供することができる。
残基Leu−4、Ile−111、Thr−7およびThr−109からなる
さらに大型のポケット(ポケット2)が存在し、その中にbpy_9のフェニル
環が入っている。このサブ−サイトを満たすための足場となる炭化水素の6−位
においてナフタレンと同じほどの大きさの基を、Thr−109、または残基L
eu−4、Arg−6もしくはLys−110の極性骨格原子のいずれかと水素
結合を形成しうる置換基で置換することができる。次いで、糖の3位において置
換されている2−フェナンスリルのごとき3環式のシステムを供することのでき
る、−87およびLys−110ならびにLys−112の脂肪族領域を含む長
く、短いパッチ(パッチ3)が存在する。Tyr−87またはLys−110の
骨格に対する水素結合に対する置換基を、Lys−110およびLys−112
の側鎖を補うための負に荷電した基と同様に考えることができる。Tyr−87
は、ニトロアリールのごとき電子欠乏π−システムへの潜在的な電荷転移
ドナーである。
いくつかの同種のチャペロン(SfaB、MrkB、HifBおよびFimC
)のモデルを、PapD構造から作ることができ、モデル構造間の相違は阻害剤
の設計を反映し、提案されたリガンドは注目されるすべての構造に結合するはず
である。例えば、Arg−200の荷電側鎖をリガンドの酸性基で補うことが考
えられるが、他の構造の2つがAspをこの位置に有するために、該残基は良い
候補とは考えられない。Lys−112、Thr−7およびIle−11と同様
にArg−8は十分に保存されている。Tyr−87は3つの構造においてTr
pとなるが、このことによってはパッチ3の全体としての性質は変化しない。実
際、PapDは、109−110におけるそのThr−Lys配列に関しては独
自であり、他の4つの構造はここにSer−Argがあるが、さらに、これらの
保存的変化は設計の基準を有意に変更するものではない。
G蛋白との結合に関与する結合部位と相互作用する物質は、ペリプラズムチャ
ペロンの阻害剤/エンハンサーとしての明白な候補であるが、ペリプラズムチャ
ペロンの他の部位と相互作用しうる分子はこの点に関して興味深いことも理解さ
れよう。すなわち、PapDにおける1のG蛋白結合部位以外の部位との相互作
用が、PapDのペリプラズムチャペロンとしての作用を防止、阻害または促進
する可能性がある。
上記のごとく、1のファミリーの物質(本明細書ではbpyファミリーと呼ぶ
)は本発明の重要な態様である。よって、本発明は、一般式:
[式中、V1はO、S、SO、SO2、CH2、C(OH)H、COまたはCS;
W1はO、S、SO2、SO3、CH2またはNH;
R1はH;C1〜24アルキル、C1〜24アルケニルまたはC1〜24アルキニル(ア
ルキル、アルケニルおよびアルキニルはOH、−CONH2、−CSNH2、−C
ONHOH、−CSNHOH、−NHCHO、−NHCONH2、−NHCSN
H2、−NHSO2NH2および−SO2NH2から独立して選択される1個または
それ以上の置換基で置換されていてもよい);アシル;または−(CH2CH2O)s
−H(ここにs=1、2、3);
R2は式:
(式中、Aは−CH−(CH2)n−、または−CH=CH−(CH2)n-1−(n>0
)
Bは−(CH2)m−または=CH−(CH2)m-1−(m>0);
X2はN、CHまたはC(Bが=CH−(CH2)m-1−である場合)
Y2はO、S、NH、H2またはH(n=1);
4>m+n>0、n<3、m<3)で示される基あるか、
あるいはR2は式:
(式中、Aは−CH−(CH2)n−、または−CH=CH−(CH2)n-1−(n>0
)
Bは−(CH2)m−または=CH−(CH2)m-1−(m>0);
X'2はO、NH、CH2またはS(p=0の場合);NまたはCH(p=1)
;あるいはC(p=1でBが=CH−(CH2)m-1−の場合);
V2、Z2およびW2は独立してH、OH、−CONH2、−CSNH2、−CO
NHOH、−CSNHOH、−NHCHO、−NHCONH2、−NHCSNH2
、−NHSO2NH2、−SO2NH2であるか、またはV2およびZ2、またはZ2
およびW2は一緒になって−NHC(O)NH−、−C(O)NHC(O)−、−NH
S(O2)NH−、−C(O)NHO、−C(S)NHO−、−S(O2)NHO−、また
は−S(O2)NHC(O)−;
4>m+n>0、n<3、m<3)で示される基であるか、
あるいはR2は基−W5−(C1〜5アルキルまたはC2〜5アルケニルまたはC2 〜5
アルキニル)、ここにW5は結合であるかまたは−O−、−S−、−SO2−
、および−NHC(O)−から選択され、C1〜5アルキル、C2〜5アルケニルまた
はC2〜5アルキニル部分はOH、−CONH2、−CSNH2、−CONHOH、
−CSNHOH、−NHCHO、−NHCONH2、−NHCSNH2、−NHS
O2NH2および−SO2NH2から独立して選択される3個までの基で置換されて
いてもよく;
−Z1−R3は−SO2(OH)、−PO(OH)2、−OSO2(OH)、−NHSO2
(OH)、−NH−CO−COOH、−SPO(OH)2、−CH2COOH、テトラ
ゾール−5−イルもしくはテトラゾール−5−イルメチル、またはその塩である
か;
あるいはZ1は−O−、−S−、−NH−、または−CH2−であり、R3は式:
(式中、Dは−CH2−、−CO−、−SO2−、−NH−SO2−、−NH−C
O−、−O−PO(OH)−またはその塩;
Z3はH、OH、−CONH2、−CSNH2、−CONHOH、−CSNHO
H、−NHCHO、−NHCONH2、−NHCSNH2、−NHSO2NH2、−
SO2NH2、−SO2(OH)、−PO(OH)2、−OSO2(OH)、−NHSO2(
OH)、−COOH、テトラゾリル−5−イルもしくはテトラゾリル−5−イル
メチルまたはその塩(ただし、Dが−CH2−、−CO−、−SO2−、−NHS
O2−または−NHCO−である場合にはZ3は−SO2(OH)、−PO(OH)2、
−OSO2(OH)、−NHSO2(OH)、−COOH、テトラゾリル−5−イルも
しくはテトラゾリル−5−イルメチルまたはその塩);
X3およびY3は独立してH、NO2、SO2NH2、CONH2、CONH2、C
F3またはF;
U4−W4は−CHCH−、CH2CH2−、−C(OH)CH−、−CHC(OH)
−、−CH(OH)CH2−、−CH2CH(OH)−、−CH(OH)CH(OH)−、
−C(O)NH−、NHC(O)−を意味する)
で示される基;
Y1は−O−または−S−;
R4はHであるか、またはY1がSの場合はS(CH2)qN(R9)3 +であり、qは
2〜4の数、ここにR9はHまたはCH3;
R5はH;C1〜6アルキル、C2〜6アルケニルまたはC2〜6アルキニルであり
、C1〜6アルキル、C2〜6アルケニルまたはC2〜6アルキニル部分はOH、−C
ONH2、−CSNH2、−CONHOH、−CSNHOH、−NHCHO、−N
HCONH2、−NHCSNH2、−NHSO2NH2または−SO2NH2で置換さ
れていてもよく;あるいはR5は所望によりアリールまたはヘテロサイクリル部
分においてOH、F、Cl、NH2、CONH2、NHCOHおよびSO2NH2か
ら独立して選択される1個、2個または3個の置換基で置換されていてもよいア
リール、アリール(C1〜2)アルキル、ヘテロサイクリルまたはヘテロサイクリル
(C1〜2)アルキル;
X1は−O−、−S−または−NH−;
R6はHであるか、あるいはX1がNHである場合にはアシル、HOCNH−V
al−Met−、HOCNH−Ile−(S,S)−ジオキソ−メチオニルまたは
HOCNH−Val−(ピラン−4−オン−2−イル)−アラニルを意味する]
で示される新規化合物またはかかる化合物の塩に関する。
hdo−ファミリーと呼ばれるもう1つの物質のファミリーも合成した。それ
ゆえ、本発明は一般式:
[式中、XはO、P、P(O)、S、SO、SO2、CH2、C(OH)Hであるか、
または基NQ11(ここにQ11はH、OH、C1〜24アシルまたはC1〜24アルキル)
;
Z11は結合、O、CH2、S、SO、SO2であるか、または基NQ12(ここに
Q12はH、C1〜24アシルまたはC1〜24アルキル);
R11はH;−OH、−COOH、−F、−Cl、−CONH2、−CSNH2、
−CONHOH、−CSNHOH、−NHCHO、−NHCONH2、−NHC
SNH2、−NHSO3NH2および−SO2NH2から独立して選択される1個ま
たはそれ以上の置換基で置換されていてもよいC1〜24アルキル、C2〜24アルケ
ニル;アシル;または−(CH2CH2O)s−H(ここにs=1、2、3)である
か;
あるいはR11はCH=CH−(CH2)n,−Q13または−(CH2)n,−Q13(ここ
にQ13は−OH、−COOH、−F、−Cl、−CONH2、−CSNH2、−C
ONHOH、−CSNHOH、−NHCHO、−NHCONH2、−NHCSN
H2、−NHSO3NH2および−SO2NH2で置換されているアリールまたはヘ
テロアリール基であり、n'≧0);
R12およびR13は独立してOH、H、F、Cl、OW11またはO(CO)W11(
ここにW11はC1〜24アルキル、C2〜24アルケニルまたはC2〜24アルキニル)
であるか、あるいは−OH、−COOH、−F、−Cl、−CONH2、−CS
NH2、−CONHOH、−CSNHOH、−NHCHO、−NHCONH2、−
NHCSNH2、−NHSO3NH2および−SO2NH2で置換されているアリー
ルまたはヘテロアリール基;
Z12は結合、O、S、またはCH2;
R14は−(CH2)n,,−Q14(ここにQ14は−OH、−COOH、−F、−Cl
、−CONH2、−CSNH2、−CONHOH、−CSNHOH、−NHCHO
、−NHCONH2、−NHCSNH2、−NHSO3NH2および−SO2NH2で
置換されているアリール基またはヘテロアリール基であり、n''は0、1、2、
または3);
Z13は結合、O、CH2、S、SO、SO2、NQ14Q15(ここにQ14はH、C1〜24
アシルまたはC1〜24アルキル、Q15はCOまたは−C(O)W12、ここに
W12はOまたはNW13、ここにW13はH、OH、C1〜24アシルまたはC1〜24ア
ルキル);
R15はH;C1〜24アルキル、C2〜24アルケニルまたはC2〜24アルキニル(
アルキル、アルケニルおよびアルキニルは−OH、−COOH、−F、−Cl、
−CONH2、−CSNH2、−CONHOH、−CSNHOH、−NHCHO、
−NHCONH2、−NHCSNH2、−NHSO3NH2および−SO2NH2から
独立して選択される1個またはそれ以上の置換基で置換されていてもよい);ア
シルまたは−(CH2CH2O)s−H(ここにs=1、2または3)であるか、
あるいはR15はCH=CH−(CH2)n,−Q13または−(CH2)n,−Q13(ここ
にQ3は前記定義に同じ、n'≧0)]
で示される新規化合物またはかかる化合物の塩に関する。
本文脈において、「C1-5、C1-6およびC1-24アルキル」なる語は、直鎖また
は分枝状または環状であってもよいそれぞれ1〜5個、1〜6個および1〜24
個の炭素原子を有するアルキル基を意味し、例えばメチル、エチル、プロピル、
イソプロピル、ブチル、イソブチル、tertブチル、ヘキシル、オクチル、ドデシ
ル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。
また、本明細書において「C2-5、C2-6およびC2-24アルケニル」なる語は、
直鎖または分枝状または環状であってもよく該鎖または環内のいずれの位置に二
重結合が存在していてもよい、それぞれ2〜5および2〜24個の炭素原子を有
するモノまたはポリ不飽和アルキル基を意味し、例えばビニル、1−プロペニル
、2−プロペニル、ヘキセニル、デセニル、1,3−ヘプタジエニル、シクロヘ
キセニルなどが挙げられる。該置換基のいくつかはシスおよびトランスの両配置
にて存在する。本発明の範囲はシスおよびトランスの両形態を含む。
本文脈において、「C2-5、C2-6およびC2-24アルキニル」なる語は、それぞ
れ2〜5個および2〜24個の炭素原子を有する1以上の三重結合を含む直鎖ま
たは分枝状アルキル基を意味し、例えばエチニル、1−プロペニル、2−プロピ
ニル、2−ブチニル、1,6−ヘプタジイニルなどが挙げられる。
「C1-6およびC1-24アルコキシ」なる語は、オキシ官能基を含む上記と同意
義のアルキル基を示す。
本文脈において、「アリール」なる語はフェニルおよびナフチルを意味する。
「ヘテロアリール」なる語は、少なくとも1個の非炭素原子がπ結合系に寄与す
る環状芳香環系を意味する。
置換アリール基としては、例えば、3−ニトロフェニル、3−ヒドロキシフェ
ニル、4−ヒドロキシフェニル、3,4−ジヒドロキシフェニル、3−カルボキ
サミドフェニル、3−ホルムアミジルフェニル、3−アセトアミジルフェニル、
3−フルオロナフタ−2−イル、7−フルオロナフチル、3,7−ジフルオロナ
フチル、3−ヒドロキシナフチル、7−ヒドロナフチル、3,7−ジヒドロキシ
ナフチル、3−フルオロ−7−ヒドロキシナフチル、7−フルオロ−3−ヒドロ
キシナフチル、4−フルオロナフタ−2−イル、6−フルオロナフタ−イル、8
−フルオロナフタ−2−イル、4,6−ジフルオロナフタ−2−イルなどが挙げ
られる。
ヘテロ環およびヘテロアリール基としては、例えば、ピロリル、フラニル、2
,3−ジヒドロフラニル、テトラヒドロフラニル、チエニル、2,3−ジヒドロチ
エニル、テトラヒドロチエニル、イミダゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、ピ
ラゾリル、インドリル、ピラジニル、ジオキソラニル、ジオキサニル、1,3,5
−チオキサニル、テトラヒドロチアピラニル、ジチオラニル、ピラゾリジニル、
イミナゾリジニル、sym−トリアジニル、sym−テトラジニル、キナゾリニル、プ
テリジニル、イソインドリル、1,2,4−トリアゾリル、1,2,3−トリアゾリ
ル、ベンズイミダゾリル、インダゾリル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル
、ベンゾチオフェニル、チエノチオフェニル、イソキサゾリル、1,2,5−オキ
サジアゾリル、イソチアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、ベンゾキサゾリル
、ベンゾチアゾリル、アザインドリル、オキソインドリル、ヒドロキシインドリ
ル、N−オキシイソキノリルなどが挙げられる。
本文脈において、「アシル」なる語(例、C1-24アシル)は、カルボニルまた
はスルホニル基および有機部よりなるカルボン酸またはスルホン酸部のアシル残
基を示す意である。アシル基としては、例えば、C1-24アルカノイル(例、ホル
ミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレ
リル、ピバロイルおよびヘキサノイル)、C1-24アルケノイル(例、アクリロイ
ル、メタクリロイル、クロトノイル、イソクロトノイル、2−ペンテノイル、3
−ペンテノイル、2−メチルペンテノイル、3−ペンテノイル、3−フェニルプ
ロペノイル、2−フェニル−トランス−プロペノイル、2,4−ヘキサジエノイ
ル)、C1-24アルキノイル(例、プロピオニル、2−ブチノイル、3−ブチノイ
ル、2−メチル−3−ブチノイル、2,2−ジメチルブチノイル、2−ペンチノ
イル、3−ペンチノイル、2−ペンチン−4−トランス−エノイル)、C1-24ア
ルコキシカルボニル(例、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキ
シカルボニル、ブトキシカルボニルおよびt−ブトキシカルボニル)、C1-24ア
ルケニルオキシカルボニル(例、シス−2−ブテニルオキシカルボニル、1−メ
チル−2−プロペニルオキシカルボニル、1,1−ジメチル−2−プロペニルオ
キシカルボニル、トランス−2−ブテニルオキシカルボニル)、アロイル(例、
ベンゾイル)、ヘテロ環状カルボニル(例、2−フロイル、3−フロイル、2−
フラノイル、3−フラノイル、2−ピロールカルボキシル、3−ピロールカルボ
キシル、2−テノイル、3−テノイル、2−インドールカルボキシル、3−イン
ドールカルボキシル、1−ナフタノイルおよび2−ナフタノイル)などが挙げら
れる。
「塩」なる語は、例えば有機酸付加塩(例、酢酸塩、吉草酸塩、サリチル酸塩
、ガラクツロン酸塩、グルコン酸塩、タンニン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレ
イン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ギ酸塩、チ
オシアン酸塩およびトルエンスルホン酸塩)、無機酸付加塩(例、塩酸塩、臭化
水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、二塩酸塩、二臭化水素酸塩、二ヨウ化水素酸塩、硫
酸塩、硫酸水素塩、ハロ硫酸塩(例、ヨードスルファート)、硝酸塩、リン酸塩
および炭酸塩)のような塩、またはアミノ酸(例、アルギニン、アスパラギン酸
およびグルタミン酸)との塩、またはアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩および
カリウム塩)およびアルカリ土類金属塩(例、カルシウム塩およびマグネシウム
塩)のような金属塩、アンモニウム塩、有機アルカリ塩(例、トリメチルアミン
塩、
トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩およ
びN,N'−ジベンジルエチレンジアミン塩)、およびその水和物よりなる意であ
る。
置換基R5がヘテロシクリル(heterocyclyl)を示す場合、該置換基は好まし
くは式
[式中、1Xは−CH−、−CH2−、−O−、−N−、−S−、−S→O、−N
→Oまたは−CO−、Yは−CH−または−NH−、およびZは−CH−、−C
H2−、−O−、−S−、−N−、−CO−、−S→O−または−N→O]で表さ
れるヘテロシクリル基を示し、特にインデン−7−イル、ベンゾフラン−4−イ
ル、イソベンゾフラン−4−イル、チオナフテン−4−イル、イソチオナフテン
−4−イル、2−オキソ−インデン−7−イル、2−オキソ−インデン−4−イ
ル、インデン−4−イル、ベンゾフラン−7−イル、イソベンゾフラン−7−イ
ル、チオナフテン−7−イル、イソチオナフテン−7−イル、1−オキソチオナ
フテン−4−イル、1−オキソ−チオナフテン−7−イル、アンスラン−4−イ
ル、アンスラン−7−イル、チオアンスラン−4−イル、チオアンスラン−7−
イル、ベンズチオゾール−4−イル、ベンゾチオゾール−7−イル、2H−2−
イソベンゾ−1,3−ジオン−7−イル、イソベンゾフラン−5−イル、イソベ
ンゾフラン−6−イル、3H−2−オキソ−ベンゾフラン−5−イル、3H−2
−オキソ−ベンゾフラン−6−イル、3H−2−オキソチオナフテン−5−イル
、3H−2−オキソチオナフテン−6−イル、インドール−5−イル、インドー
ル−6−イル、3H−2−オキソインドール−5−イル、3H−2−オキソイン
ドール−6−イル、3H−2−オキソベンゾキサゾール−5−イル、3H−2−
オキソベンゾキサゾール−6−イル、ベンゾチアゾール−5−イル、ベンゾ
チアゾール−6−イル、2−オキソベンゾ−1,3−ジチオール−5−イル、2
−オキソベンゾ−1,3−ジチオール−6−イル、3H−2−オキソベンズイミ
ダゾール−5−イル、3H−2−オキソベンズイミダゾール−6−イル、ベンゾ
キサチオール−5−イル、ベンゾキサチオール−6−イル、3H−2−オキソベ
ンズチアゾール−5−イルおよび3H−2−オキソベンズチオゾール−6−イル
よりなる群から選ばれる基である。
また、置換基R5は、好ましくは、式
で表される基、または式
で表される基である。
ヘテロシクリルである置換基R2は、特に好ましくは、イソベンゾフラン−5
−イル、イソベンゾフラン−6−イル、3H−2−オキソ−ベンゾフラン−5−
イル、3H−2−オキソ−ベンゾフラン−6−イル、3H−2−オキソチオナフ
テン−5−イル、3H−2−オキソチオナフテン−6−イル、インドール−5−
イル、インドール−6−イル、3H−2−オキソインドール−5−イル、3H−
2−オキソインドール−6−イル、3H−2−オキソベンゾキサゾール−5−イ
ル、3H−2−オキソベンゾキサゾール−6−イル、ベンゾチアゾール−5−イ
ル、ベンゾチアゾール−6−イル、2−オキソベンゾ−1,3−ジチオール−5
−イル、2−オキソベンゾ−1,3−ジチオール−6−イル、3H−2−オキソ
ベンズイミダゾール−5−イル、3H−2−オキソベンズイミダゾール−6−イ
ル、ベンゾキサチオール−5−イル、ベンゾキサチオール−6−イル、3H−2
−オキソベンズチアゾール−5−イルおよび3H−2−オキソベンズチオゾール
−6−イルよりなる群より選ばれる。
アルキル、アルケニルまたはアルキニル部R1に存在する置換基の正確な数は
、炭素鎖の長さに依存し、例えばPapD−リガンド複合体のようなチャペロン−リ
ガンド−複合体ではR1は周囲の水性媒体中に伸張するため、該置換基の目的は
基R1全体を水に適合させることである。したがって、例えば炭素数4個以下の
ようなかなり短い炭素鎖の場合、特に該置換基が末端に位置する場合は上記極性
置換基の1つで十分であるが、より長い鎖の場合は例えば炭素原子1つおきに存
在するようなより多数の置換基が必要であり得ると考えられる。
4,6−O−(4'−メトキシ)フェニルメチリデン−α−D−グルコヘキソピラ
ノシドまたは4,6−O−(4'−メトキシ)フェニルメチリデン−β−D−グルコ
ヘキソピラノシドグリコシド:
(ここでは好ましい例として用いるが、他のアリールメチリデンまたはビニリデ
ンアセタール類を用いてもよい)は、以下のとおり製造することができる。ペル
(過)アシル化グルコースを例えば酢酸またはジクロロメタンのような適当な溶
媒中、例えば臭化水素または塩化水素と反応させてペル−O−アシル化グリコシ
ルブロミドまたはクロリドを形成させる(O−アシル化およびグリコシルハライ
ド合成:エム・エル・ウォルフロム(M.L.Wolfrom)およびエイ・トンプソン(A
.Thompson),Methods in Carbohydrate Chemistry,Vol.2,211-215,R.L.Whi
stler and L.Wolfrom編,Academic Press,New York,1963; ジー・ヘウィット
(G.Hewit)およびジー・フレッチャー・ジュニアー(G.Fletcher Jr.),同書,
226-268; およびアール・ユー・レミオクス(R.U.Lemieux),同書,223-224)。
必要ならば適当に保護されたアグリコンアルコールまたはチオール(H-W1R1-PG1
またはH-W1R1)(保護基:プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・
シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis),T.W.Greeneおよび
P.G.M.Wuts編,John Wiley & Sons,Inc.,New York,1991)を、例えばボロ
ントリフルオリドエーテラート(アール・ジェイ・フェリアー(R.J.Ferrier)
およびアール・エイチ・ファーネオクス(R.H.Furneaux),Carbohydr.
マグヌソン(G.Magnusson)およびジー・ノオリ(G.Noori),Carbohydr.Res 116
(1983)303-307)またはトリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート(
ティー・オガワ(T.Ogawa),ケイ・ベップ(K.Beppu),エス・ナカバヤシ(S.Na
kabayashi),Carbohydr.Res.,93(1981)C6-C9)のようなルイス酸をプロモー
ターとして用いて、該ペル−O−アシル化グルコースと反応させる。反応は、例
えばクロロホルム、ジクロロメタンまたはトルエンのような適当な溶媒中で行う
。問題の該単糖誘導体がペル−O−アシル化グリコシルブロミドまたはクロリド
である場合、例えば銀トリフルオロメタンスルホナートまたは水銀(II)塩(エ
イチ・ポールセン(H.Paulsen),Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,21(1982)155-1
73)のようなプロモーターを使用することができ、該反応は例えばジクロロメタ
ンまたはトルエンのような適当な溶媒中で行う。メタノール中、または例えばジ
クロロメタンまたはテトラヒドロフランのような共溶媒を含有するメタノール中
でナトリウムメトキシドを用いて脱O−アシル化(エイ・トンプソン(A.Thomps
on),エム・エル・ウォルフロム(M.L.Wolfrom)およびイー・パスキュ(E.Pasc
u),215〜220頁,Methods in Carbohydrate Chemistry,Vol II,R.L.Whistle
rおよびM.L.,E.Wolfrom編,Academic Press,New York,1963)した後、グル
コースW1R1またはW1R1PG1-グリコシドを得る。
ついで、例えばジメチルホルムアミド、アセトニトリルまたはテトラヒドルフ
ランのような極性非プロトン性溶媒中、4−メトキシベンズアルデヒドジメチ
ルアセタールおよび酸を反応させることにより(ジェイ・ジェイ・パットロニ(J
,J,Patroni)ら,Aust.J.Chem.1988,(41),91-102; アセタール形成の他の
方法については、エイ・エヌ・デベルダー(A.N.de Belder),1979,adv.Carb
ohydr.Chem.Biochem.,34,179およびそこで引用されている参照文献を参照さ
れたし)、4,6−(4'−メトキシ)ベンジリデンアセタールを得る。
ついで、スルホン酸エステルを経由してエポキシドB1またはB2
を得る。すなわち、マンノエポキシドB1は、グルコシド誘導体Aをジメチルホ
ルムアミド中、水素化ナトリウムおよびp−トルエンスルホニルイミダゾールと
反応させることにより(ディー・ヒックス(D.Hicks)およびビー・フレイザー−
ライド(B.Fraser-Reid); Synthesis 1974,203)、またはテトラヒドロフラン
中、水素化ナトリウムおよびp−トルエンスロホニルクロリドと反応させること
により(ブイ・エス・マルシー(V.S.Murthy)ら、Synthetic Commun.1993,23
(3),285-289)得ることができる。
アロエポキシドB2は、グルコシド誘導体Aをピリジン中、メチルスルホニル
またはp−トルエンスルホニルクロリドと反応させ、得られたメチルスルホン酸
ジエステルをエタノール中、ナトリウムエトキシドで処理することにより製造す
ることができる(ワイ・アリ(Y.Ali)、エイ・シー・リチャードソン(A.C.Ric
hardson),Carbohydrate Res.1967,5,441-448; エヌ・リヒトマイヤー(N.Ri
chtmeyer),Methods in Carbohydrate Chemistry,Vol 1,107)。
エポキシドB1またはB2を適当な求核剤と反応させて、ジアキシアル置換ア
ロヘキソピラノシドC1およびC2
を得ることができる(エポキシドの使用に関する一般的文献としては、例えばジ
ェイ・ゴルジンスキー・スミス(J.Gorzynski Smith),Synthesis,1984,8,62
9-656,マサムネ・エス(Masamune S.),チョイ・ダブリュー(Choy W.),ピータ
ーセン・ジェイ・エス(Petersen J S)およびシタ・エル・アール(Sita L R),An
gew,Chem.Int.Ed.Engl.,1985,24,1-76; エイ・エス・ラオ(A.S.Rao)ら
,Tetrahedron Lett.,1983,39,2323を参照されたし)。
所望の最終生成物の炭化水素部に結合したR2およびZ1(上記の定義のとおり
)の最初の原子が窒素(=求核原子)である場合、好ましい求核体Nu1またはNu2
はアジド(N3-)である。該エポキシドを沸騰2−メトキシエタノール中、ナト
リウムアジドおよび塩化アンモニウムで処理する(アール・ディー・グスリー(R
.D.Guthrie)およびディー・マルフィー(D.Murphy); J.Chem.Soc.1963,52
88-5294)。
該求核原子が酸素または硫黄の場合、エポキシド開裂の好ましい一般的方法は
、エーテル中、中性アルミナの存在下での適当に保護されたアルコールまたはチ
オールによる処理を含む(ジー・エイチ・ポズナー(G.H.Posner)およびディー
・ズィー・ロジャース(D.Z.Rogers),J.Am.Chem.Soc.1977,99,8208; ジ
ー・エイチ・ポズナー(G.H.Posner),ディー・ズィー・ロジャース(D.Z.Rog
ers)およびエイ・ロメロ(A.Romero),Isr.J.Chem.1979,18,259; およびジ
ー・エイチ・ポズナー(G.H.Posner),エム・ヒュルス(M.Hulce)およびアール
・ケイ・ローズ(R.K.Rose),Synth.Commun.1981,11,737)。
該求核原子が炭素の場合、最も一般的に使用される試薬は、有機マグネシウム
、有機リチウム、有機銅、有機アルミニウムおよび有機ホウ素化合物である(ジ
ェイ・ゴルジンスキー・スミス(J.Gorzynski Smith),Synthesis,1984,8,62
9-
656およびそこに引用されている文献)。
生成物がアロヘキソピラノシドC1である場合、2−ヒドロキシ官能基は、後
の工程でR2官能基の導入を可能にする保護基で保護するか(図には示していな
いが、R2がエステルの場合が好ましい)、あるいは必要ならば適当に保護され
た官能基R2を導入してD1
を得る。例えば以下を参照されたし:OH基からエーテルまたはエステルへ(プ
ロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Gro
ups in Organic Synthesis),T.W.GreeneおよびP.G.M.Wuts編,John Wile
y & Sons,Inc.,New York,1991);OH基からカーボナートへ(ジェイ・マー
チ(J.March),Advanced Organic Chemistry-Reaction Mechanisms,and Struct
ure,3rd Edn.John Wiley & Sons,New York,347(1985)およびそこで引用され
ている文献);OH基からカルバマートへ(ジェイ・マーチ(J.March),Advanc
ed Organic Chemistry-Reaction Mechanisms,and Structure,3rd Edn.John W
iley & Sons,New York,791-792(1985)およびそこで引用されている文献);エ
キソメチレン誘導体を経由しついで水素化し、または他の経路を経由してOH基
からアルキル基へ(エイチ・オウ・エイチ・ハウス(H.O.H.House),Modern S
ynthetic Reactions,2nd Edn.W.A.Benjamin,Inc.,Menlo Park,C.A.,1-1
30(1972)およびそこで引用されている文献;ジェイ・ヨシムラ(J.Yoshimura),
Adv.Carbohydr.Chem.Biochem.,42(1984)69-134);および種々の経路による
OH基のヘテロ環基との交換(エイ・アール・カトリツキー(A.R.Katritzky)
,Handbook of Heterocyclic Chemistry,Pergamon Press,Oxford,1985)。
生成物がアロヘキソピラノシドC2の場合、該3−ヒドロキシ官能基を、後の
工程でZ1-R3官能基の導入を可能にする保護基で保護して型D2
で表される中間体を得る(プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・
シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis),T.W.Greeneおよび
P.G.M.Wuts編,John Wiley & Sons,Inc.,New York,1991)か、またはマン
ノヘキソピラノシド中間体D3
[式中、Nu1は官能基Z1-OH基を以下のように保護またはマスクした形態である
:OH基をエーテルまたはエステルに(プロテクティブ・グループス・イン・オ
ーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis),T.W.
GreeneおよびP.G.M.Wuts編,John Wiley & Sons,Inc.,New York,1991);
OH基をアジド基に(ジェイ・マーチ(J.March),Advanced Organic Chemistry
-Reaction Mechanisms,and Structure,3rd Edn.John Wiley & Sons,New Yor
k,380(1985)およびそこで引用されている文献;エイチ・エイチ・バエア(H.H
.Baer),Pure Appl.Chem.,61(7)(1989)1217-1234およびそこで引用されて
いる文献);アジド経由または他の経路でOH基をアミノ基に(マーチ(March)
,Advanced Organic Chemistry-Reaction Mechanisms,and Structure,3rd Edn
.John Wiley & Sons,New York,1106,798-800(1985)およびそこで引用されて
いる文献;エイチ・エイチ・バエア(H.H.Baer),Pure Appl.Chem.,61(7)(1
989)1217-1234およびそこで引用されている文献)]へ変換する。
ついで、4,6−O−アセタール官能基を還元的に開いて、R6がエーテルの場
合に官能基R6を、または6位にヒドロキシ官能基を有する中間体F1、F2ま
たはF3を得る(アセタールの還元的開裂、ガレッグ・ピー・ジェイ(Garegg P
J)およびハルトバーグ・エイチ(Hultberg H),Carbohydr.Res.1981,93,c10
-11; ガレッグ・ピー・ジェイ(Garegg P J),ハルトバーグ・エイチ(Hultberg H
)およびワリン・エス(Wallin S),Carbohydr.Res.1982,108,97-101; リプタ
ック・エイ(Liptak A),ジョダル・アイ(Jodal I),ナナシ・ピー(Nanasi P),C
arbohydr.Res.1975,44,1-11; ベイカー・ディー・シー(Baker D C),ホート
ン・ディー(Horton D),ティンダル・シー・ジー(Tindall C G),Methods in Ca
rbohydr.Chem.,1976 Vol 6,3-6; ミカミ・ティー(Mikami T),アサノ・エイ
チ(Asano H),ミツノブ・オウ(Mitsunobu O),Chem.Lett.1987,10,2033-203
6; イー・ケイ・エム,ガレッグ・ピー・ジェイ(Ek M,Garegg P J),ハルトバ
ーグ・エイチ(Hultberg H),オスカーソン・エス・ジェイ(Oscarsson S.J.)Car
bohyd.Chem.1983,2,305-311; ハンター・アール(Hunter R),バーテルズ・ビ
ー(Bartels B),マイケル・ジェイ・ピー(Michael J P),Tetrahedron Lett.19
91,32,1095-1098; ラオ・エス・ピー(Rao S P),グリンドレー・ティー・ビー(G
rindley T B)Carbohyd.Res.1991,218,83-93; ハンター・アール(Hunter,R)
,バーテルズ,ビー・ジェイ(Bartels,B.J.)J.Chem.Soc.Chem.Commun.19
91,2887-2888)。
例えば、型D1、D2またはD3の中間体をアセトニトリル中でシアン化水素
化ホウ素ナトリウムおよびクロロトリスメチルシランで(アール・ジョハンソン
(R.Johansson))およびビー・サミュエルソン(B.Samuelsson),J.Chem.So
c.Perkin Trans.1,1984,2371-2374)またはホウ素−トリメチルアミン複合
体およびアルミニウムトリクロリドで処理する。該反応の位置化学的な結果は、
しばしば溶媒依存的であった(イー・ケイ・エム,ガレッグ・ピー・ジェイ(Ek
M,Garegg P J),ハルトバーグ・エイチ(Hultberg H),オスカーソン・エス・ジ
ェイ(Oscarsson S.J.)Carbohyd.Chem.1983,2,305-311)。
型D1、D2またはD3の対応する6−アルコール中間体の酸化により、好ま
しくはスワン法により(マンクソ・エイ・ジェイ(Mancuso A J),スワン・ディ
ー(Swern D)Synthesis,1981,165-185; ティッドウェル・ティー(Tidwell T)Sy
nthesis,1990,857-870; 他の酸化法についてはエイ・エイチ・ハインズ(A.H
.Haines),1988,Methods for the Oxidation of Organic Compounds,Chapter
2,Academic Press,San Diegoおよびそこで引用されている参照文献を参照さ
れたし)、型G1、G2またはG3のアルデヒド中間体
を得る。
つぎの工程で、型G1、G2またはG3の中間体のアルデヒド官能基に炭素求
核体を付加する。好ましくは、適当に保護されたアルキルリチウムまたはアリー
ルリチウム試薬またはグリニャール試薬をエーテルまたは炭化水素溶媒中、該ア
ルデヒドに加えて2級アルコールH1、H2およびH3
を得る。
アルデヒドと有機リチウムおよび有機マグネシウム化合物との反応に関しては
、ジェイ・マーチ(J.March),Advanced Organic Chemistry-Reaction Mechanis
ms,and Structure,3rd Edn.John Wiley & Sons,New York,347(1985)および
そこで引用されている参照文献を参照されたし。
アルデヒドと有機リチウムおよび有機マグネシウムおよび他の炭素求核体との
反応に関しては、エバンス・ディー・エイ(Evans D A),Aldrichim.Acta,1982
,
15,23およびそこで引用されている参照文献を参照されたし。
アリール置換フェニルリチウムおよびグリニャール試薬の使用および調製の具
体例に関しては、アメス・エム・エム(Ames M M),カスタグノリ・ジュニアー・
エヌ、ジェイ(Castagnoli Jr.N,J.),Labelled Compd.,1974,10(2)、195-205
; DE3807910 A1; ミルズ・アール・ジェイ(Mills R J),スニークス・ブイ(Snie
ckus V)Polynucl.Aromat.Hydrocarbons,[Pap.Int.Symp.],8th Meeting 19
83,913-24,Cooke MおよびDennis A J編,Battelle Press 1985:Columbus,Ohi
o; イリイェ・アール(Iriye R),フルカワ・ケイ(Furukawa K),ニシダ・アール
(Nishida R),キム・シー(Kim C),フカミ・エイチ(Fukami H)Biosci.Biotechn
ol.Biochem.1992,56(11),1773-5; Comber M F,Sargent M V U,J.Chem.So
c.,Chem.Commun.,1991,(3),190-2; ヒライ・ティー(Hirai T),ヨシザワ・
エイ(Yoshizawa A),ニシヤマ・アイ(Nishiyama I),フクマサ・エム(Fukumasa
M),シラトリ・エヌ(Shiratori N),ヨコヤマ・エイ(Yokoyama A),EP341686A2;
リーソン・ピー・ディー(Leeson P D),エメット・ジェイ・シー(Emmett J C)
,シャー・ブイ・ピー(Shah V P),ショウェル・ジー・エイ,ノベリ・アール(N
ovelli R),プレイン・エイチ・ディー(Prain H D),ベンソン・エム・ジー(Ben
son M G),エリス・ディー(Ellis D),ピアース・エヌ・ジェイ(Pearce N J),
アンダーウッド・エイ・エイチ(Underwood A H),J.Med,Chem.1989,32(2)、
320-36); メルツァー・ピー・シー(Meltzer P C),リアング・エイ・ワイ(Liang
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Elmaleh D R),マドラス・ビー・ケイ(Madras B K),J.Med.Chem.,36(7)、85
5-62; ウィラード・エイ・ケイ(Willard A K),ノベロ・エフ・シー(Novello F
C),ホフマン・ダブリュー・エフ(Hoffman W F),クラゴエ・ジュニアー・イー
・ジェイ(Cragoe Jr E J.)米国特許第4,459,423号を参照されたし。
さらにヘテロ環化合物へ合成できる置換フェニルリチウム試薬に関しては、ラ
ング・エイチ・ジェイ(Lang H J),マスチャウェック・アール(Muschaweck R),
AU514406 B2; ラング・エイチ・ジェイ(Lang H J),マスチャウェック・アール(
M
uschaweck R),ロポット・エム(Hropot M),HU19761; ラング・エイチ・ジェイ(
Lang H J),マスチャウェック・アール(Muschaweck R),ロポート・エム(Hropot
M),DE2737195を参照されたし。
ヘテロ芳香族アリールリチウムおよびグリニャール試薬に関しては、ヤング・
ワイ(Yang Y),マーティン・エイ・アール(Martin A R),ネルソン・ディー・エ
ル(Nelson D L),レーガン・ジェイ(Regan J),Heterocycles,1992,34(6),11
69-75を参照されたし。
アルデヒドからの2級アルコールの立体選択的合成のための他の有機金属試薬
の例としては、以下のものが挙げられる。
クロチルモリブデン複合体によるホモアリルアルコール:フォーラー・ジェイ
・ダブリュー(Faller J W),ジョン・ジェイ・エイ(John J A),マジーリ・エム
・アール(Mazzieri M R),Tetrahedron Lett.1989,30,1769-1772;
チタン複合体によるホモアリルアルコール:リーディカー・エム(Riediker M)
,ドゥサラー・アール・オウ(Duthaler R O),Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1
989,28,494-495;
シリル保護3−リチオピロールによる3−ピロリルアルコール:ブレイ・ビー
・エル(Bray B L),マシーズ・ピー・エイチ(Mathies P H),ネフ・アール(Naef
R),ソラス・ディー・アール(Solas D R),ティッドウェル・ティー・ティー(T
idwell T T),アーティス・ディー・アール(Artis D R),ムチョウスキー・ジェ
イ・エム(Muchowski J M),J.Org.Chem.,1990,55,6317-6328;
E−ビニルアランによるアリルアルコール:エイ・ピー・コジコウスキー(A P
Kozikowski)およびジアン−ピン・ウ(Jiang-Ping Wu),Tetrahedron Lett.199
0,30,4309-4312およびそこで引用されている参照文献;
ビニルスタンナンによるトランス−アリルジオール:コーリー・イー・ジェイ
(Corey E J),ウォレンバーグ・アール・エイチ(Wollenberg R H),J.Org.Che
m.,1975,40,2265-2266;
α−リチオピロリジンアミジンによるピロリジンカルビノール:サンナー・エ
ム・エイ(Sanner M A)Tetrahedron Lett.1989,30,1909-1912;
590およびそこで引用されている参照文献を参照されたし。
ついで、負に荷電した官能基であるZ1-D-Rを導入するために3位の置換基(Nu1
またはOPG1)を求核体に変換する。
まず、2級6−アルコールH1、H2およびH3を保護し(プロテクティブ・
グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic
Synthesis),T.W.GreeneおよびP.G.M.Wuts編,John Wiley & Sons,Inc.
,New York,1991)、またはアミノ官能基に変換する(X1-R6がペプチド官能基
を形成する場合)(OH基からアジドを経由して、または他の経路でアミノ基へ:
例えばマーチ(March),Advanced Organic Chemistry-Reaction Mechanisms,and
Structure,3rd Edn.John Wiley & Sons,New York,1106,798-800(1985)お
よびそこで引用されている参照文献; エイチ・エイチ・バエア(H.H.Baer),Pu
re Appl.Chem.,61(7)(1989)1217-1234およびそこで引用されている参照文献を
参照されたし)。
ペプチド合成に関しては、グロス(Gross)およびマイエンホファー(Meienhofer
),The Peptides,3vol.,Academic Press,New York,1979-1981; グラント・
ジー・エイ(Grant G A)ら,Synthetic Peptides,A Users Guide,1992,W.A.
Freeman and Company,New Yorkおよびそこで引用されている参照文献を参照さ
れたし。
該3位を脱保護してアルコール、チオールまたはアミン中間体11、12また
は13
にする(プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス
(Protective Groups in Organic Synthesis),T.W.GreeneおよびP.G.M.w
uts編,John Wiley & Sons,Inc.,New York,1991およびそこで引用されている
参照文献)。
例えば、R2-PG1がエーテル官能基の組み合わせでありQ1がアジドであるI1を
ピリジンおよび水中にて硫化水素ガスで処理する(ティー・アダシ(T.Adashi)
,ワイ・ヤマダ(Y.Yamada),アイ・イノウエ(I.Inoue)およびエム・サネヨシ(
M.Saneyoshi),Synthesis,1977,45)。アジド還元の他の方法に関しては、プ
ーペイコ・エヌ・イー(Poopeiko N E),プリコタ・ティー・アイ(Prikota T I)
,ミクハイロプロ・アイ・エイ(Mikhailopulo I A),Synlett,1991,5,342; サ
マノ・エム・シー(Samano M C),ロビンズ・エム・ジェイ(Robins M J)Tetrahed
ron Lett.1991,32,6293-6296; ラコトマノマナ・エヌ(Rakotomanomana N),
ラコンベ・ジェイ−エム(Lacombe J-M),パビア・エイ(Pavia A),Carbohydr.R
es.,1990,197,318-323; マリック・エイ・エイ(Malik A A),プレストン・エ
ス・ビー(Preston S B),アーチボールド・ティー・ジー(Archibald T G),コー
エン・エム・ピー(Cohen M P),バウム・ケイ(Baum K),Synthesis,1989,450-
451; マイチ・エス(Maiti S),スペバック・ピー(Spevak P),レディー・エヌ(R
eddy N),Synt.Commun.1988,18,1201-1206; ベイリー・エイチ(Bayley H),
スタンドリング・ディー・エヌ(Standring D N),ノウレス・ジェイ・アール(Kn
owles J R),Tetrahedron Lett.,1978,39,3633-3634を参照されたし。
中間体11、12または13を、三酸化硫黄−ピリジンまたは−トリエチルア
ミン複合体で硫酸化して中間体J2、J4およびJ6
を得る(例えば、ジェイ・バステン(J.Basten),ジー・ジャウランド(G.Jaura
nd),ビー・オルデ−ハンター(B.Olde-Hanter),エム・ペティトウ(M.Petitou
)およびシー・エイ・エイ・バン・ベーケル(C.A.A.van Boeckel),Bioorg.Med
.Chem.Lett,1992,2(9),901-904およびそこで引用されている参照文献;ジ
ェイ・バステン(J.Basten),ジー・ジャウランド(G.Jaurand),ビー・オルデ
−ハンター(B.Olde-Hanter),ピー・ドゥチャウソイ(P.Duchaussoy),エム・
ペティトウ(M.Petitou)およびシー・エイ・エイ・バン・ベーケル(C.A.A.van
Boeckel),Bioorg.Med.Chem.Lett,1992,2(9),905-910およびそこ
ティー・ケイ(Lindhorst,TK),チエム・ジェイ(Thiem,J.),ビル・ブイ(Vill
,V),Carbohydr.Res.1992,230,245-256を参照されたし)、またはカップリ
ングさせてホスホエステル中間体J1、J3およびJ5
を形成させる。
リン−窒素結合は酸に不安定であることが知られているため、ホスホジエステ
ル最終生成物につながる中間体が好ましい(エム・セリム(M.Selim)およびティ
ー・エヌ・タン(T.N.Thanh),C.R.Seances Acad.Sci,1960,2377)。
例えば、アルコール中間体11、12または13を、クロロホルムおよびピリ
ジン中、2,2,2−トリクロロエチル2−クロロフェニルホスホクロリダートで
処理してリン酸トリエステルを形成させる。亜鉛粉末で処理することにより該2
,2,2−トリクロロエチル基を除去し、得られたリン酸ジエステルを3−ニトロ
−1−(2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルホニル)−1,2,4−トリアゾ
ールで活性化し、アルコールR3-OHでカップリングして中間体J1、J3およ
びJ5を形成させる。湿ったピリジン中、ピリジン−2−アルドキシムおよびN
,N,N,N−テトラメチルグアニジンで処理することにより該2−クロロフェニ
ル基を除去する(例えば、ピー・ジェイ・ガレッグ(P.J.Garegg),アール・ジ
ョハンソン(R.Johansson),アイ・リンド(I.Lindh)およびビー・サミュエルソ
ン(B.Samuelson),Carbohydr.Res.1986,150,285-289を参照されたし)。
あるいは、亜リン酸トリエステルアプローチにより、アルコール中間体11、
12または13を、アセトニトリル中、フェニルクロロ−N,N−ジイソプロピ
ルホスホラミダイトで処理して、炭水化物ホスホアミダイトを形成させる。クロ
マトグラフィーにより精製した後、これらを例えばピリジニウムp−トルエンス
ルホナートのような弱酸の存在下にてアルコールR3-OHにさらし、tert−ブチル
ヒドロペルオキシドで処理してリン酸ジエステルJ1、J3およびJ5(PG3=H
)を形成させる(エイチ・エヌ・カロ(H.N.Caro),エム・マーティン−ロマス
(M.
240,119-131およびそこで引用されている参照文献)。
DNA合成におけるホスホジエステルを検討するためには、ナラング・エス(
Narang S),Tetrahedron,1983,39,1-22およびディー・ダブリュー・ヒュッ
チンソン(D.W.Hutchinson),1991,Chemistry of Nucleosides and Nucleos
ides and Nucleotides中,Chapter 3,vol 2,B.Townsend編,Plenum Press,N
ew Yorkおよびそこで引用されている参照文献を参照されたし。炭水化物ホスホ
ジエステル合成についての他の例に関しては、例えばイチカワ・ワイ(Ichikawa
Y),シム・エム・エム(Sim M M),ウォング・シー・エイチ(Wong C H),J.
Org.Chem.1992,57,2943-2946およびシュミット・アール・アール(Schmidt R
R),ブラウン・エイチ(Braun H),ジャング・ケイ−エイチ(Jung K-H),Tetrah
edron Lett.1992,33,1585-1588を参照されたし。修飾ホスホジエステル結合
の合成に関しては、アール・エス・バルマ(R.S.Varma),1993,Synlett,621-
636およびそこで引用されている参照文献を参照されたし。
アリールホスホン酸エステルおよびアミドJ1、J3およびJ5(ここでR3は
アルキルまたは芳香族基である)を得るためには、アリールホスホン酸R3-PO3H2
を、例えばカルボジイミド試薬でアルコール中間体11、12または13にカッ
プリングする、またはピリジン中、ホスホン酸ジクロリドをアルコール中間体1
1、12または13で処理する(ティー・エイチ・シッダール(T.H.Siddal II
I)およびシー・エイ・プロハスカ(C.A.Prohaska),J.Am.Chem.1962,84,3
467)。
トリアルキルホスファイトおよびアルキルハライドからアルブゾフ反応により
該アルキルホスホン酸トリエステルを形成させる(アルブゾフ(Arbuzov),Pure
Appl.Chem.1964,9,307-335,ジェイ・マーチ(J.March),Advanced Organic
Chemistry-Reaction Mechanisms,and Structure,3rd Edn.John Wiley & Son
s,New York,347(1985)およびそこで引用されている参照文献)。
三塩化リンを経由するアリールホスホン酸トリエステルの製造に関しては、例
えばケイ・サッセ(K.Sasse),Methoden der Organichen Chemie(Houben-Weyl
),4th ed.Vol.12/1,Georg Thieme,Stuttgart,1963,p.314およびp.392
およびそこで引用されている参照文献;ジー・エム・コソラポフ(G.M.Kosolap
off),Org.React.6,273(1951)およびそこで引用されている参照文献;エル・
ディー・フリードマン(L.D.Freedman)およびジー・オウ・ドーク(G.O.Doak)
,Chem.Rev.1957,57,479およびそこで引用されている参照文献を参照されたし
。
有機マグネシウムまたは有機リチウム試薬を経由するアリールホスホン酸トリ
エステルの製造に関しては、例えば、ケイ・サッセ(K.Sasse),Methoden der
Organichen Chemie(Houben-Weyl),4th ed.Vol.12/1,Georg Thieme,Stuttg
art,1963,p.372およびそこで引用されている参照文献;ジー・エム・コソラ
ポフ(G.M.Kosolapoff),Org.React.6,273(1951)およびそこで引用されてい
る参照文献を参照されたし。
中間体J1、J2、J3、J4、J5およびJ6を脱保護して最終生成物を得
(プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective
Groups in Organic Synthesis),T.W.GreeneおよびP.G.M.Wuts編,John
Wiley & Sons,Inc.,New York,1991)、それらのナトリウムまたはカリウム塩
に変換する。
上記化合物はPapDおよび他のペリプラズムチャペロン中の部位と相互作用する
能力を有すると仮定することが正当化される。これが真実であることを確認する
ためには、実施例に記載するような検定を行うべきである。
したがって、本発明の好ましい化合物は、G1'-19'WTのPapDに対する結合の防
止、阻害または促進を起こす、および/またはPapDに対する融合ペプチドMBP-G1
'-140の結合の防止、阻害または促進、および/またはPapDに対するペプチドG12
5'-140'(これは配列番号20の配列を有する)の結合の防止、阻害または促進
を起こす、および/または接近PapDの付加により通常生じるPapD-PapG複合体の
回復を阻害する能力を有する、上記のような化合物である。
ある物質が上記作用のうちの1つを示すことを確認するために用いる検定は、
好ましくは、本明細書の実施例に記載されている検定のうちの1つである。該化
合物が実際に繊毛集合を阻害する能力を有することを確認するために、勿論、本
発明の方法における上記の他の検定を使用することもできる。
検定を行う際に考慮すべき1つの重要な点は、該チャペロンがインビボで果た
している役割である。該チャペロンは既にサブユニットの細胞膜を通って輸送中
である繊毛サブユニットに結合する。したがって、チャペロンに結合する場合、
繊毛サブユニットはいくぶん開いている(すなわち、その最終的な折りたたまれ
たコンホメーションではない)と考えられる。繊毛集合の過程はインビボで比較
的速いことが知られているが、完全に折りたたまれた繊毛サブユニット(または
そのアナログ)とチャペロンPapDとの間の結合の速度論は遅い過程であることが
本発明者らにより観察された。インビトロでのチャペロン/繊毛サブユニット複
合体の集合の速度を上げるためには、検定の前にいくぶん苛酷な変性条件を繊毛
サブユニット(またはそのアナログ)に課すことが考えられる。かかる変性は、
繊毛サブユニットを物理的ストレス(例、温度上昇、圧力変化、放射線照射など
)または化学的環境の変化(例、イオン強度の変化、pHの変化、変性剤または
ジスルフィド還元化合物の添加)に付すことにより得ることができるであろう。
「変性剤」という表現は、ポリペプチド分子よりなる液相中に溶質の1つとし
て存在する場合、該ポリペプチド分子の折りたたまれた状態を不安定化して、該
ポリペプチド鎖が部分的にまたは完全に開いた状態にする化合物を意味する。変
性剤により奏された変性作用は、溶液中の変性剤の濃度の増加につれて増大する
が、さらに溶液中の他の溶質の存在により、または物理学的パラメーター、例え
ば温度または圧力の変化により増強されたり緩和されたりし得る。
用いる適当な変性剤としては、例えば、尿素、グアニジン−HCl、例えばジ
メチルホルムアミドのようなジ−C1-6アルキルホルムアミドおよびジ−C1-6-ア
ルキルスルホンが挙げられる。
ジスルフィド還元化合物としては、例えば、グルタチオニル−2−チオピリジ
ルジスルフィド、2−チオコリル−2−チオピリジルジスルフィド、2−メルカ
プトエタノール−2−チオピリジルジスルフィドおよびメルカプトアセタート−
2−チオピリジルジスルフィドが挙げられる。
一連の観察により、チャペロンに結合する間に繊毛サブユニットがいくぶん開
くという仮定が立証される。クエーン(Kuehn)ら,1991に記載されているとおり
、接近PapDを加えて変性させた後、PapD-PapG複合体を回復させることが可能で
ある。さらに、毛管電気泳動により得られた予備結果の示すところによれば、融
合蛋白MBP-G1'-140'の変性は単一形態の融合蛋白を与えるが、変性前の毛管電気
泳動においては2形態の融合蛋白(PapDと相互作用できない1つの主要物、およ
びPapDと相互作用できる1つの少量物)が観察される。したがって、非変性形態
の融合蛋白の場合と同様、該変性融合蛋白は本明細書に記載されている異なる競
合検定において優位の基質として作用すると考えられる。
したがって、本発明の好ましい具体例において、本発明の化合物は、PapDに対
する繊毛サブユニットまたはそのアナログのいずれかの変性形態の結合の防止、
阻害または促進を起こし、および/またはPapDに対するMBP-G1'-140'の変性形態
の結合の防止、阻害または促進を起こし、および/またはPapDに対するG125'-14
0'の変性形態の結合の防止、阻害または促進を起こす。
実施例に示すとおり、PapDおよび他のチャペロンと相互作用し得るはずの化合
物は、既に同定され合成されている。また、すべてピラノシドであるこれらの化
合物も本発明の重要な部分である。
エチル2,3−O−ジベンゾイル−4−O−ベンジル−1−チオ−β−D−グ
ルコヘキソピラノシド;
エチル6−O−アセチル−2,3−O−ジベンゾイル−4−O−ベンジル−1
−チオ−β−D−グルコヘキソピラノシド;
メチルグリコリル6−O−アセチル−2,3−O−ジベンゾイル−4−O−ベ
ンジル−β−D−グルコヘキソピラノシド;
2−(ヒドロキシ)エチル4−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシド;
ナトリウム グリコリル4−O−ベンジル−β−D−グルコヘキソピラノシド
メチル2−O−エチル−4,6−O−(4'−メトキシ)フェニルメチレン−α−
D−マンノヘキソピラノシド;
メチル2−O−エチル−3−O−ジメチル−t−ブチルシリル-4,6−O−(4
'−メトキシ)フェニルメチレン−α−D−マンノヘキソピラノシド;
メチル2−O−エチル−3−O−ジメチル−t−ブチルシリル−4,−O−(4'
−メトキシ)ベンジル−α−D−マンノヘキソピラノシド;
メチル2−O−エチル−3−O−ジメチル−t−ブチルシリル−6−O−(4'
−メトキシ)ベンジル−α−D−マンノヘキソピラノシド;
メチル2−O−エチル−3−O−ジメチル−t−ブチルシリル−4,−O−(4'
−メトキシ)ベンジル−6(S)−フェニル−α−D−マンノヘキソピラノシド;
メチル2,3−アンヒドロ−4,6−O−p−メトキシベンジリデン−α−D−
マンノピラノシド;
メチル3−アジド−4,6−O−p−メトキシベンジリデン−α−D−アルトロ
ピラノシド;
メチル3−アジド−2−O−エチル−4,6−O−p−メトキシベンジリデン−
α−D−アルトロピラノシド;
メチル3−アジド−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メトキシベ
ンジル−α−D−アルトロピラノシド;
メチル3−アジド−6−O−ベンゾイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4
−O−p−メトキシベンジル−α−D−アルトロピラノシド;
メチル6−O−ベンゾイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メ
トキシベンジル−3−スルファミノ−α−D−アルトロピラノシドナトリウム塩
;
メチル6−O−ベンゾイル−3−デオキシ−2−O−エチル−3−スルファミ
ノ−α−D−アルトロピラノシドアンモニウム塩;
メチル3−アジド−6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4
−O−p−メトキシベンジル−α−D−アルトロピラノシド;
メチル6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メ
トキシベンジル−3−スルファミノ−α−D−アルトロピラノシドナトリウム塩
;
メチル6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−3−スルファミ
ノ−α−D−アルトロピラノシド アンモニウム塩;
メチル6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メ
トキシベンジル−3−tブチルオキサミド−α−D−アルトロピラノシド;
メチル6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−3−オキサミド
−α−D−アルトロピラノシド アンモニウム塩;
メチル3−アジド−6−O−ピロール−3'−イルカルボキシル−3−デオキ
シ−2−O−エチル−4−O−p−メトキシベンジル−α−D−アルトロピラノ
シド;および
メチル6−O−ピロール−3'−イルカルボキシル−3−デオキシ−2−O−
エチル−3−スルファミノ−α−D−アルトロピラノシド アンモニウム塩。
勿論、他の化合物も、チャペロン中の部位との相互作用剤となし得る。実施例
7から明らかなとおり、修飾ペプチドも本発明の方法において有用であることわ
かるだろう。
上記から明らかなとおり、繊毛集合体と相互作用するように影響され得るチャ
ペロン中の部位の同定は、ペリプラズムチャペロンと相互作用する能力を有する
化合物の同定、単離および合成のための本明細書に記載の方法における重要な出
発点である。
したがって、本発明はまた、
ペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログを、該ペリプラズム分子チャ
ペロンまたはそのアナログに結合するリガンドと共に共結晶化し、
該チャペロン/リガンド相互作用の三次元構造を分析し、それにより該リガン
ドに結合した場合の該ペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログの三次元
構造を分析し、
該ペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログと該リガンドとの間の分子
間相互作用に関与する部位ポイントを決定し、および
ペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログのこのようにして決定された
部位ポイントを該ペリプラズム分子チャペロンまたはそのアナログ中の結合部位
として同定することを特徴とする分子チャペロン中の結合部位を同定する方法に
関する。
本明細書中で用いる「リガンド」なる語は、宿主または受容体分子(この場合
はチャペロン)に結合する基質を意味する。該結合は非特異的相互作用ではなく
、これはリガンドと宿主または受容体分子との間の結合モチーフが存在すること
を意味する。すなわち、該リガンドの試料と該宿主または受容体分子の試料とを
互いに接触させる場合、該リガンドと該宿主または受容体分子との間に形成され
る複合体は、実質的にすべて、同じ分子間相互作用を示すであろう。
上記のとおり、本発明の1つの具体例は、繊毛サブユニットと分子チャペロン
との間の結合を防止、阻害または促進する能力を有する物質を投与することであ
る。
したがって、本発明は、ペリプラズム分子チャペロンに対する繊毛サブユニッ
トの結合が防止、阻害または促進されるように、ペリプラズム間隙を通しての繊
毛サブユニットの輸送の間および/またはインタクトな繊毛の集合過程の間に繊
毛サブユニットに結合する少なくとも1つのタイプのペリプラズム分子チャペロ
ンと相互作用する能力を有する物質を活性化合物として含んでなり、少なくとも
1種の医薬上許容される担体または賦形剤を組み合わせてなる医薬組成物に関す
る。好ましくは、かかる物質は、本発明による物質または本発明の方法により同
定/設計される物質である。
したがって、本発明においては、該医薬および本明細書に記載の医薬は、本発
明の治療方法で記載したものと同じ細菌種により起こった同じ状態の治療および
/または予防のためである。
したがって、本発明の治療方法で用いる物質、本発明の物質または本発明の方
法により同定される物質を活性化合物として含んでなり、少なくとも1種の医薬
上許容される担体または賦形剤を組み合わせてなる医薬組成物は、本発明の一部
である。
また、本発明のかかる医薬組成物は、本発明の物質または本発明により同定さ
れる物質により奏される医薬作用を増強し得る少なくとも1種の追加的医薬物質
を含んでいてもよい。
追加的医薬物質は、ステロイドホルモン、消毒剤、解熱剤などであってもよい
。好ましくは、かかる追加的物質は、抗菌剤である。
かかる抗菌剤は、ペニシリン、セファロスポリン、アミノグリコシド、スルホ
ンアミド、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ポリミキシン、抗マイコ
バクテリア薬および尿防腐剤よりなる群より便宜に選択される。
また、本発明は、医薬として使用するための、本発明の方法で用いる物質なら
びに本発明の物質および本発明の方法により同定された物質に関する。該医薬は
抗菌的治療および/または予防、特に組織−接着繊毛形成細菌により起こる疾患
の治療および/または予防用であることが好ましく、該医薬は尿道感染症の治療
および/または予防用である場合が特に好ましい。
最後に、本発明は、本発明の方法に用いる物質ならびに本発明の物質および本
発明の方法により同定された物質の、細菌感染症の治療および/または予防用医
薬組成物の製造のための使用に関する。
図面の説明
図1:PapDは、ELISAマイクロタイタープレート中および溶液中で被覆された
繊毛サブユニット関連ペプチドに結合する。本研究で使用する精製された合成ペ
プチドの配列は、フレンマー・ケイ(Flemmer K)、ウォールス・ビー(Walse B)、
ロイ・エス(Roy S)およびキールバーグ・ジェイ(Kihlberg J)の調製中の原稿に
独立して記載されている。AおよびB:マイクロタイターウェル上で表1からの
ペプチドを被覆し、実施例2に記載のELISA検定におけるPapDに対するその結合
能に関して試験した。この検定においてPapDに対するG1'-19'WTの結合に影響を
及ぼさない2.5%酢酸(AA)に水不溶性ペプチドを溶解した。各グラフは、二
重ウェルの平均を表す。
図2:繊毛サブユニット関連ペプチドの結合は、酵素的蛋白分解に対する保護
を与え、PapGに対するPapDの結合を妨害する。
A上方:PapD(15μg)をPBS(レーンD)と、または1.5μgのトリプシン
(レーンDおよびTr)と37℃で20分間インキュベートし、20%SDS-PAGEに
付した。全長PapD(PapD)、トリプシン(Tr、PapD(N)のNH2末端断片および残基100
(C)から始まるPapDのCOOH末端断片が示される)に対応する帯がクーマシーブルー
により染色された。
A下方:PapDのトリプシン切断の速度は、G1'-19'WT、G1'-16'WTまたはK1'-19
'WTペプチドとの前インキュベーションに際して減少したが、G2'-21'アミドペプ
チドは全く影響を及ぼさなかった。50μgの精製PapDを20倍モル過剰のG1'-1
9'WT、G1'-16'WT、K1'-19'WTまたはG2'-21'アミドペプチド(これらのペプチド
中のいずれのトリプシン切断部位も、それらがPapDに干渉しないと予想されたそ
れらのアミノ末端に生じる)、または等容量の水と共に25℃で15分間前イン
キュベートした。ついで、各試料を3.2μgのトリプシンと共に37℃でインキ
ュベートした。0、5、10、20、30および40分後にアリコートを除去し
、消化を停止させるためにSDS-PAGE試料緩衝液中で煮沸した。該試料を15%SD
S-PAGEゲルに付し、示されている全長PapDに対応するクーマシーブルー染色帯の
デンシトメトリーにより全長PapDの残存量を測定した。
B:G1'-19'WT、G1'-16'WT、K1'-19'WTおよびG2'-21'アミドと共にインキュベ
ートしたPapDを、還元され変性されたPapD-PapGに加え、各試料中の回復したPap
D-PapG複合体の量を実施例2に記載されているとおりに定量した。%阻害は、無
処理PapDで回復したPapD-PapG複合体の量と比較した場合の、ペプチド処理PapD
で回復したPapD-PapG複合体の量を示す。グラフは、4個の実験の平均を示す。P
apDおよびPapD-PapG複合体はエフ・リンドバーグ(F.Lindberg)ら、J.Bacterio
l.171,6052(1989)およびエス・ジェイ・ハルトグレン(S.J.Hultgren)ら、Pr
oc.Natl.Acad.Sci.USA 86,4357(1989)の記載のとおりに調製した。
図3:3.0Åの分解能まで測定した、G1-19WTペプチドと共に共結晶化された
PapDの三次元構造の立体像。該ペプチドは、PapDの裂け目中のG1 β鎖に沿って
伸張コンホメーションで結合し、末端カルボキレート基はPapDの残基Arg-8およ
びLys-112と水素結合を形成している。
図4:G1-19WTペプチドCOOH末端および隣接PapD残基の3.0Å分解能電子密度
の立体像であり、精密化された(refined)構造と重なり合う。係数(2|Fo|-|Fc
|)を用いて電子密度地図を算出し、1σで等高線を付けた。
図5:二重の非結晶学的関連複合体との相互作用を示すPapD-ペプチド複合体
の立体像。
図6:天然PapD(太線)およい複合PapD(細線)のCOOH末端ドメインの重ね合
わせであり、この2個の構造はヒンジ曲がり角において13°の差異を示す。該
構造は、LSQオプションザプログラムO(LSQ option the program O)を用いて重
ね合わせた。該COOH末端ドメインの98個のCa原子に関して得られた二乗平均は
0.66Åであった。
図7:インビトロでPapD Arg-8、Lys-112およびThr-7突然変異体がPapGに結合
しPapD-PapG複合体を回復させる能力。図2Bに記載されているとおりに0.4μ
gのPapD-PapG複合体を還元し変性させた。ついで、変性されたPapD-PapG複合体
を0〜630ngの精製野生型(WT)または突然変異体PapDで希釈した。試料中で回
復したPapD-PapGの量を図2Bのとおりに測定し、回復したPapD-PapGの最大量の
割合としてグラフ化した。グラフ化された値は、3個の実験の平均を示す。野
生型および突然変異体PapDおよびPapD-PapG複合体は、エフ・リンドバーグ(F.L
indberg)ら、J.Bacteriol.171,6052(1989)およびエス・ジェイ・ハルトグレ
ン(S.J.Hultgren)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,4357(1989)の記載の
とおりに精製した。
図8:6−ヒドロキシドーパミン、hdo_O、およびhdoファミリーの他の群。Pa
pDの結合部位に結合するよう意図された化合物のファミリーの構築の出発点とし
てhdo_Oを使用した。hdo_4:「アリール(aryl)」は3,4−ジヒドロキシフェニ
ルを示す。hdo_6:「アリール」は3,4−ジヒドロキシフェニル基である。
hdo_7:「アリール」は3−ヒドロキシフェニル基である。
hdo_8:「アリール」は3−ニトロフェニル基である。
hdo_9:「アリール」はフェニル基である。
図9:hdoファミリーおよびそのPapDとの相互作用。
A:「アリール」はフェニル基、ヘテロ芳香環、または一方の側で蛋白との疎水
的接触を、他方で溶媒水との相互作用を得るために非対称に極性置換基を有する
置換フェニル基である。
B:Rが水素またはアルキルである「アリール」の例;「X」は酸素原子、硫黄
原子またはアミノ基、および「CG」は負に荷電した基、例えばカルボキシル基
、テトラゾイル基、ホスファート基、ホスファートエステルまたはスルファート
基である。
C:基CGの例。
図10:種々の群のhdoファミリーの製造のための一般的反応スキーム。
図11:種々の群のbpyファミリーの製造のための一般的反応スキーム。
図12:種々の群のbpyファミリーの製造のための一般的反応スキーム。
図13:種々の群のbpyファミリーの製造のための一般的反応スキーム。
図14:種々の群のbpyファミリーの製造のための一般的反応スキーム。
図15:種々の群のbpyファミリーの製造のための一般的反応スキーム。
図16:種々の群のbpyファミリーの製造のための一般的反応スキーム。
図17:種々の長さのPapGのC末端ペプチド断片の、PapDと融合蛋白
MBP-G1'-140'との間の結合に対する阻害作用に関するグラフ。
G1'-8'断片は、より短いG1'-6'およびG1'-7'断片より有意に高い該結合に対す
る阻害作用を示す。
図18:G1'-8'(ここで8個のアミノ酸残基が同時に一回セリン(S)またはア
ラニン(A)で置換されている)の種々のアナログの、PapDと融合蛋白MBP-G1'-140
'との間の結合に対する阻害作用に関するグラフ。
G1'-8'中の残基4'、5'および6'の置換効果は、これらの残基の置換により
より弱い阻害ペプチドとなるため、これらの残基がPapDとの相互作用において重
要であることを示す。
図19:G1'-8'(ここで該8個のアミノ酸残基は、同時に一回、N末端セリン
の付加と同時に欠失している)の種々のアナログの、PapDと融合蛋白MBP-G1'-14
0'との間の結合に対する阻害作用に関するグラフ。
この実験でもまた、アミノ酸残基4'、5'および6'の重要性が強調される。
これらの位置の欠失のためにより弱い阻害ペプチドになるからである。
図20:実施例10で使用するMBP/G融合構築物、PapG-切頭体および合成ペプ
チド。空白の箱はPapGの一次配列を示す。4個のCys残基の位置が示される。線
影をつけた棒はMBPを示す。各融合体につき、MBPのCOOH末端に融合したPapGの出
発および終了残基を示す。また、各PapG-切頭体の終結残基をも示す。MBP/G融合
蛋白の名称を挙げてある。図の下部には、黒色の箱がPapD相互作用部位に局在し
、該実施例で使用する4個のペプチドの配列が挙げてある(配列番号19〜22
をも参照されたし)。
図21:インビボでのPapD-MBP/G相互作用。
PapDおよび各MBP/G融合体を含有するペリプラズム抽出物をアミロースアフィ
ニティークロマトグラフィーに付した。該溶出物を、A)12.5%クーマシー
ブルー染色SDSポリアクリルアミドゲル;B)抗−PapD抗血清を用いるウエス
タンブロット;またはC)銀染色IEFゲル上で分析した。図21A、Bおよび
Cでは、PapDおよびMBP(レーン1)、PapDおよびMBP-G1'-19'(レーン2)、PapDお
よびMBP-G1'-81'(レーン3)、PapDおよびMBP-G1'-140'(レーン4)を含有するペ
リプラズム抽出物から試料を精製した。共精製されたPapDの位置が示されている
。また、MBP単独およびMBP/G融合切頭体をもMBP/G融合体と共に共精製する。SDS
-PAGE上で最も移動の遅い帯の分子量は、それぞれの全長MBP/G融合蛋白に対応す
る。同じ理由から、IEFゲル(C)上にはいくつかの帯が見られるであろう。図
2C、レーン4においてpI5.2の唯一の帯が検出された。この帯を切り出し、
SDS試料緩衝液中で煮沸し、抗−PapDおよび抗−MBP抗血清によるウエスタン
ブロットにより分析した。それは、MBP-G1'-140'およびPapDの両方からなってい
た(図2D、レーン1)。
図22:インビボでのMBP/G融合体の発現によるチャペロン機能の阻害。
pFJ22(papDJKEFGA)およびMBP/G融合体をコードするプラスミドを担持する株を
1mM IPTGで誘導した。繊毛サブユニットおよびMBP(レーン1)、またはMBP-G1'-
19'(レーン2)、またはMBP-G1'-81'(レーン3)、またはMBP-G1'-140'(レーン4)
を含有するペリプラズム抽出物を、抗−PapA抗血清(A)または抗−PapD-PapG抗血
清(B)または抗−tipフィビリラム抗血清(C)を用いるウエスタンブロットにより
分析した。この検定において、サブユニットはチャペロンの相互作用の非存在下
では分解するため、該サブユニットの存在はチャペロンサブユニット相互作用が
生じたことを示す。PapA、PapGおよびPapFサブユニットの存在は、MBP-G1'-140'
と共発現された場合に著しく減少することに注目すべきである。
図23:インビトロでのMBP/G融合蛋白に対するPapDの結合。
(A)PapDを1μgのアミロースアフィニティー精製MBP(レーン)、MBP-G1'
-19'(レーン2)、MBP-G1'-81'(レーン3)、またはMBP-G1'-140'(レーン4)と共
にインキュベートし、銀染色IEFゲル上で複合体形成を評価した。MBP/G融合体、
PapDおよびPapD-MBP-G1'-140'複合体の位置を示す。
(B)アミロースアフィニティー精製MBP/G融合蛋白をマイクロタイタープレ
ートのウェルへ被覆した。ウェル中のMBP/G蛋白の濃度を示す。固定化蛋白に対
する50pmol/50mlのPapDの結合を、抗−PapD抗血清を用いるELISAにより定
量した。
図24:酸性天然ゲル電気泳動によるPapD-PapG2切頭複合体の同定。
PapDおよびPapG、PapG2またはPapG3(それぞれレーン2、3および4)を含有
するペリプラズムをガルα(1-4)ガルクロマトグラフィーに付し、酸性天然ゲル
電気泳動、ついで抗−PapD(A)および抗−PapG(B)抗血清を用いるウエスタンブ
ロット上で溶出物を分析した。精製されたPapD-PapG複合体をレーン1中にロー
ディングした。
図25:PapDにより認識されるPapG上の第2部位の特徴付け。
残基156'から120'のPapG領域で重複する4個の合成ペプチド(図20に
示す)をマイクロタイタープレートのウェルに被覆した。ウェル中の各ペプチド
の濃度を示す。固定化ペプチドに対する200pmol/50mlのPapDの結合を、抗
−PapD抗血清を用いるELISAにより定量した。
実施例
実施例1
PapDとG1'-19'WTとの間の結合のモチーフの同定
材料および方法
エィ・ホルムグレン(A.Holmgren)ら、J.Mol.Biol.203,279(1988)の記載
のとおりにPapDを調製し、ワシントン大学医学部分子微生物部門(Department o
f Molecular Microbiology,Washington University School of Medicine,St.
Louis,USA)から入手した。
Fmoc固相合成、ついで逆相HPLCによる精製によりペプチドG1'-19'WTを調製し
た。該ペプチドはルンド大学化学部(Department of Chemistry,University of
Lund,Lund,Sweden)から入手した。表1は、本出願の結合検定で使用される
ペプチドを示す。
本出願においては、PapD以外のペプチド由来(例、PapG由来またはPapK由来)の
アミノ酸残基またはペプチド断片を’を付けて、例えば「GI'-19'WT」または「
プロ(pro)−1'」のように表示して、かかる残基をPapDのアミノ酸残基から区別
する。さらに、番号付けは、非PapDペプチドのC末端からである。すなわち、G1
'-19'は、PapGの19個のC末端アミノ酸残基を示す。
PapD−ペプチド複合体の結晶化
20%PEG8000、0.1Mカコジラート緩衝液(pH5.0)および0.2
M酢酸カルシウムに対する蒸気拡散によりPapD−ペプチド複合体の結晶を得た。
該結晶ドロップは、等容量の容器および蛋白溶液を含有していた。該蛋白溶液(
17mg/ml)は、1:1モル比のPapDおよびペプチドを20mM MES(2−[N−モ
ルホリノ]エタンスルホン酸)(pH6.5)および1.0%β−オクチルグルコシ
ド中に含有していた。
X線結晶学
PapDと該蛋白との複合体の得られた結晶を密封石英−ガラス毛細管内にすえ付
け、まず、それをX線プレセッションカメラ上で精査し、それにより結晶の逆格
子の空間的に非歪曲な像を表す写真フィルム上にX線回折パターンの像を得るこ
とにより特徴づけした。この像の標準的分析により、該結晶が、格子寸法:a=
130.7Å、b=83.5Å、c=59.2Åおよびβ=117.2°の単斜晶空間
群C2および不斉単位中の2個の分子を有し、回転陽極およびCu Kα標的を有
する実験室X線源上で2.9Åの分解能まで分解することが確かめられた。
実験データの収集および加工
X線結晶学により分子の原子構造を分解するためには、回折極大の位置および
強度を測定しなければならない。フオング−ハムリン・マルチワイアー・エリア
−デテクター・システム(Huong-Hamlin multiwire area-detector system)(Xuon
gら、1995)上、PapD−ペプチド結晶に関する強度データを収集した。単一の結晶
からすべてのデータを入手し、最初にマドネス・ソフトウェア・パッケージ(MAD
NES software package)(Messerschmit and Pflugrath、1987)を用いて加工を行
った。該データのマージングおよびスケーリングは、CCP4パッケージからのロタ
バタ(ROTAVATA)およびアグロバタ(AGROVATA)を用いて行った(CCP4,The SERC(U
K)Collaborative Project No.4,A Suite of Programs for Prptein Crystallo
graphy,Darebury Laboratory,UK)。最終データセットは、20.0〜3.0Å
分解能のデータに関して、6.8%のRsymを有する9592個の独立し
(式中、IhiおよびIhはそれぞれ個々のおよび平均の構造因子の強度である)]。
三次元構造の分解
分子置換の標準法を行うプログラムXPLORを用いてPapD-ペプチド複合体の構造
を分解した。用いた探索モデルは、PapDの精密化された(refined)2.0Åの分解
構造であった。8.0Å〜4.0Å分解能のデータを用いることにより、自己回転
機能は、はっきりした非結晶学的な二回軸を与え、交差回転の最大の2個のピー
クは、パターソン相関(PC)精密化(refinement)により正確な分解を与えた。また
、並進機能(translation function)における最大ピークからも正確な分解が得ら
れ、R−因子は8.0〜4.0Å分解データについて39.0%であった(R−
と定義される)。精密化は、不斉単位中の2個のPapD分子の全4個のドメインを
独立に精密化して同じデータに関して36.4%のR−因子になる後続の剛体に
より得た。
グラフィックスプログラムOを用いてこの段階の|Fo|-|Fc|電子密度地図を検
討することにより、PapDの裂け目中のペプチドに対応し該蛋白の表面に沿って走
るはっきりとした密度が示された。該ペプチドの配向は該電子密度から簡単に決
定されたが、始めは、該ペプチドの最後の10個のC末端アミノ酸を密度にモデ
ル化することができた。
構造の精密化(refinement)および分析
XPLORによる疑似アニール精密化(simulated annealing refinement)をこの段
階で開始した。8.0〜3.0Å分解能データに関して18.2%の電流モデルの
ためのR因子を得るためにさらに4個のペプチドアミノ酸を加えて、モデル構築
および精密化のいくつかの追加的循環を行った。現段階での精密化モデル(これ
は水分子を全く含まず、該ペプチドの最初の5N末端のアミノ酸を含まない)は
、0.020の結合長および4.2°の結合角についての理想的幾何からの二乗平
均(rms)偏差を有する。
該ペプチドは、ドメイン間の裂け目内で固定されているC末端pro-1'および提
唱されている(6)サブユニット結合部位と伸長コンホメーションにて結合するこ
とが見いだされている。該ペプチドカルボキシ末端とPapDの2個の不変的な正に
荷電した残基Arg-8およびLys-112との間に水素結合が形成される。今回、部位特
異的突然変異誘発により、Arg-8およびLys-112がインビトロおよびインビボ(実
施例2)参照)両方の繊毛サブユニットの結合に必須であることが確認された。P
ro-1'側鎖は、この裂け目中でPapDの両ドメインからの残基:Thr-7,Thr-152,I
le-152,Thr-170およびIle-194とファンデルワールス的接触をつくる。隣接ペプ
チド残基Phe-2'は、N末端ドメインの2個のβシート間に形成された浅いポケッ
ト中にあり、Leu-4,Thr-7,Thr-109およびIle-111と疎水的相互作用をする。つ
いで該ペプチドはN末端ドメインの表面に沿って走り、鎖G1と平行なβ鎖相互
作用を形成する。このようにして、該ペプチドのMet-8'からPhe-2'とPapDのGln-
104からLys-110との間に7個の主鎖水素結合が形成され、該ペプチドヘpapDのβ
シートを伸張させる。
C末端残基Phe-2'およびPro-1'を除けば、該ペプチドの側鎖とPapDとの間の接
触は相対的にほとんどない。鎖G1への主鎖水素結合により主要な相互作用が提
供される。しかしながら、該βシート内、特に該ペプチドのMet-8'およびMet-6'
と鎖G1のLeu-103,Ile-105およびLeu-107との間にはいくつかの疎水的相互作
用がある。
計算により、残基2'、4'、6'および8'の4個の疎水ペプチド側鎖が、該ペ
プチドと該蛋白との間の全埋表面積(total buried surface area)(582Å2)の
20%に寄与することが示された。したがって、たとえ該複合体の主要安定化が
水素結合により提供されるのであっても、疎水相互作用は無意味なものではなく
、繊毛関連ペプチドおよびサブユニットに対するPapDの特異性を説明するものの
一部分と考えられている。この説は、G1'-19'WTペプチドと比べてペプチドG2'-2
1'アミドに対するPapDの結合の減少により実験的に支持される(図1Bおよび表
C)。PapDのArg-8およびLys-112に対するG2'-21'アミド(これはPro-1'を欠く)
のCOOH末端の水素結合は主鎖水素結合を許容するが、該ペプチド中の4個の疎水
性側鎖をそのPapD中のサブサイトから移動させ、その結果、結合強度が減少する
。
該結晶内で、第1のPapD−ペプチド複合体に隣接する第2の該複合体を配置す
る非結晶学的二回対称の結果、該PapD−ペプチドβシートはさらに伸張されてそ
の2個のペプチド鎖が逆平行β鎖として相互作用するようになる。本モデルでは
、その2個のペプチドの間に8個の主鎖水素結合が形成される。以下の表を参照
されたし。
このように、混合βシートがその2個の複合体の間につくられ、10個のβ鎖
へ伸張する(図5)。その2個の非結晶学的に関連したPapD分子自体の間の接触
は全く観察されず、それらは共に、該結晶内の同様の環境中に位置し、同様の数
の分子間接触を有していた。その2個の非結晶学的に関連しているペプチドの間
の算出された埋表面積は520Å2であり、これは該蛋白とペプチドとの間に埋
もれた表面積と同様の値であった。すべての証拠は、PapDが溶液中でペプチドま
たは天然PapGと単量体の複合体を形成することを示すため、この「二量化」は結
晶パッキング(crystal packing)の結果のようである。
PapDと該ペプチドとの間の水素結合パターンはSer-9'で壊れるが、該ペプチド
がF1-G1ループを超えて走るSer-11'まで、該ペプチドは依然としてPapDとファン
デルワールス的接触を保持するが、Glu-13'まで該非結晶学的関連ペプチドに対
する水素結合を保持する(表B)。該ペプチドの最後に分解されたアミノ酸は、該
非結晶学的関連PapDの結合裂け目の近くに位置するGly-14'である。3個の正に
荷電した残基を含む最初の5個のアミノ末端アミノ酸は密度を有さず、したがっ
て該結晶構造中で乱されたに違いない。これと合致して、該ペプチドのアミノ末
端は、溶液中のPapDへの結合には重要でない。なぜなら、アミノ末端の12個の
アミノ酸を欠くG1'-7'WTペプチドは、固定化G1'-19'WTペプチドに対するPapD結
合の有効な阻害剤であることが判明しているからである(表Cおよび実施例2))
。
該ペプチド複合体中の個々のPapDドメインの構造は、天然PapDのものと同じで
ら、お互いに関して該ドメインの有意な移動があり、13°のジョークロージン
グ(jaw-closing)またはヒンジ屈曲(hinge bending)の動きがPapDブーメランの角
をより鋭くする(図6)。このコンホメーション変化がペプチドの結合またはそ
の2個の結晶構造の異なる結晶パッキングの結果であるか否かは明らかでない。
天然のPapD構造では、長いF1-G1ループについて得られた電子密度は残基96
および102の間で低く、これは、それが結晶中でやや柔軟であり乱されている
ことを示唆する。しかしながら、該ペプチド複合体においてはこのループはより
良く分解されており、これは該ペプチドの結合がこのループをより堅固にするこ
とを示すものである。天然PapDおよび該ペプチド複合体のNH2-末端ドメインを重
ね合わすことにより、その2個の構造の間にF1-G1ループ位中の有意な差がある
ことが示される(110NH2末端Cα原子のrmsは1.84Åであり、Leu-103に関し
て約9Åの最大主鎖移動がある)。該ペプチド複合体では、該ループは一方の末
端でNH2末端ドメインのβバレルからねじれることが観察され、これにより鎖G
1と該ペプチドとの間のより広範な接触を促進する。その2個のドメインのヒン
ジベンディングに関しては、このループ移動がペプチド結合または結晶パッキン
グの結果であるかどうかを確信を持って言うことは未だできない。F1-G1ループ
のやや開いたコンホメーションは、それが主に後者であることを示唆する。それ
でも、PapDとペプチドまたは繊毛サブユニットとの間の同様の相互作用が溶液中
で起こる証拠は、天然PapGおよびG1'-19'WTペプチドの両方の結合によりPapDのF
1-G1ループがトリプシン切断から保護された後、プロテアーゼ保護実験により提
供される(実施例2および図A)。
実施例2
PapDと他のPapペプチドのカルボキシル末端との間の結合
P繊毛サブユニット蛋白PapG、PapE、PapF、PapKおよびPapHの19カルボキシ
ル末端残基にそれぞれ対応するG1'-19'WT、E1'-19'WT、F1'-19'WT、K1'-19'WTお
よびH1'-19'WTペプチド(表1を参照されたし)を合成した(グラント(Grant)ら
、1992およびそので引用されている参照文献を参照されたし)。
該ペプチド中の残基は、カルボキシル末端残基を1とし、アミノ末端残基で終
結するように番号付けした。また、長さ(G1'-16'WT,G1'-11'WT,G1'-7'WT)ま
たは配列(G2'-21'アミド,G1'-19'SV,G1'-19'NH2)において野生型のPapGカル
ボキシル末端配列から逸脱するペプチドも合成した。本発明者らは、酵素結合イ
ムノソルベント検定法(ELISA)を用いて、マイクロタイタープレートのウェル上
で被覆された各ペプチドに結合するPapDの能力を調べた。
水または50%酢酸中のペプチドの5mg/ml保存溶液を、PBS中の2.5pmol
/50μlの濃度まで希釈した。該ペプチド溶液の50μlをマイクロタイターウ
ェル(ヌンク−イムノ・プレート・マキシソープ(Nunc-Immuno P1ate Maxisorp))
上へ4℃で一夜被覆した。平板中の溶液を捨て、該ウェルをPBS(120mMNaC
1/2.7mM KC1/10mM リン酸緩衝液塩,pH7.4)中の200μlの3%牛血清アルブ
ミン(BSA,Sigma)で25℃で2時間ブロックした。平板をPBSで激しく
3度洗浄し、50μlの指示量の精製PapDでインキュベートした(リンドバーグ(L
indberg)ら、1989)。PBSで3回洗浄した後、該ウェルを3%BSA/PBS
中の1:500希釈の抗−PapDウサギ抗血清(リンドバーグ(Lindberg)ら、 1989
)と共に25℃で45分間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、3%
BSA/PBS中のアルカリ性ホスファターゼ(シグマ)に共役させた1:10
00希釈のヤギ抗−ウサギIgGと共に該ウェルを25℃で45分間インキュベ
ートした。PBSで3回、展開緩衝液(10mMジエタノールアミンpH9.5,0.
5mM MgCl2)で3回洗浄後、展開緩衝液(10mg/ml)中の50μlの濾過された
p-ニトロフェニルホスフェート基質(シグマ)を加えた。暗室中、25℃で60
分間インキュベートした後、405nmの吸光度を読み取った。
さらに、ペプチドコンホメーションがプラスチックマイクロタイタープレート
への結合により影響されていた可能性があるため、可溶性阻害ELISAにおいて水
溶性ペプチドがG1'-19'WT被覆ウェルに対するPapD結合を阻害する能力を調べた
。
マイクロタイターウェルを2.5pmol/50μlのG1'-19'WTペプチドの50μl
により4℃で一夜被覆した。該ウェルをPBSで洗浄し、3%牛血清アルブミン
(BSA)でブロックした。25倍過剰モルの各試験ペプチドを100pmolのPa
pDと共に30分間前インキュベートし、ついで該PapD-ペプチド溶液を被覆ウェ
ルに加え、3%BSA/PBSの存在下、25℃で45分間インキュベートした
。これに続く一次抗体、二次抗体および展開工程は上記のとおりである。G1'-19
'WTに対するPapDの結合を該ペプチドが阻害する能力は、ペプチド存在下のPapD
結合量を水存在下のPapD結合量で割ることにより算出した。0%阻害は、H2Oで
前インキュベートされたPapDの結合より結合が大きい値を含む。
野生型、変異体および異なる長さのペプチドに対するPapD結合の結果を図1A
、BおよびCに示す。
これに示されるとおり、該ペプチドはPapGペプチドに対しては良く結合し、Pa
pE、PapFおよびPapKに対しては中程度であるが、PapHおよび無作為の疎水性ペプ
チドMSに対しては全く結合しなかった(図1A)。これらの結果は、該チャペロ
ンが部分的にこれらのサブユニットのカルボキシル末端に結合することにより
PapG、PapE、PapFおよびPapKを認識することを示唆する。PapDがPapHペプチドと
相互作用しないことは、PapHに対してPapDが異なって結合することを示す。これ
は、おそらくPapHの重合ターミネーターとしての機能によるものであろう(バガ
(Baga)ら、1987)。一般に、固定化G1'-19'WTに対するPapD結合を阻害するペプ
チドの能力は、PapDが個々の固定化ペプチドについて有する親和性に対応した(
図1、%阻害)が、これは、可溶性および固定化ペプチドとのPapDの相互作用が
同様であることを示すものである。
実施例1から示されるとおり、PapDのG1'-19'WTペプチドとの共結晶化により
、PapD-ペプチド相互作用の分子的基礎について研究した。要約すると、19ア
ミノ酸ペプチドがチャペロン裂け目中に該ペプチドのカルボキシ末端とすべての
ペリプラズムチャペロン中で不変である(ホルムグレン(Holmgren)ら、1992)Ar
g-8およびLys-112との間の水素結合により固定されている。該ペプチドは、平行
β鎖としてPapDのG1鎖に結合し、少なくとも10個のバックボーン水素結合を形
成し、F1からG1ループへの指令となる。
PapGペプチド上のカルボキシル末端プロリンのアミド(G2'-21'アミド)による
置換は、溶液中のPapDに対する結合を壊し、固定化ペプチドに対するPapDの結合
を約75%減少させた(図1B)。これに対して、カルボキシレート基のみをア
ミドで置換してG1'-19'NH2ペプチドを作ることは、固定化または可溶阻害ELISA
検定のいずれにおいても、PapDに対する結合に影響を及ぼさなかった(図1B)
。これらの結果は、不変的なArg-8およびLys-112裂け目残基と水素結合を形成す
るようにカルボキラート基を配置させるのに末端プロリンがおそらく必要であろ
うことを示す。
また、PapDは、固定化されたより短いペプチドであるG1'-16'WTおよびG1'-11'
WTに結合し、G1'-16WTおよびG1'-7'WTペプチドは、溶液中の固定化されたG1'-19
'WTペプチドに対するPapDの結合を阻害した。表Cは、G1'-19'WT被覆ウェルに対
する100pmol/ウェルのPapDの結合を阻害する25倍過剰モルの水溶性ペプチ
ドの能力を示す。%阻害は、該ペプチド存在下で結合するPapDの水存在下の場合
と比較したパーセントを示し、重複して行った2個の実験の平均である。
PapDは、固定化G1'-7'WTペプチドには結合しない。これはおそらく、このペプ
チドが短すぎてマイクロタイターウェルおよびPapDに結合しないためであろう。
したがって、ペプチドのPapD結合にはわずか7個のカルボキシル末端残基が必要
なようである。全体的にこれらの結果は、PapD-ペプチド複合体形成の間にPapD
のG1鎖に沿って該ペプチドを「ジッパーリング」させるのに、PapD裂け目中のカ
ルボキラート基の固定化相互作用に加えて7個のカルボキシル末端残基が必要で
あるモデルを支持する。
保存残基であるカルボキシル末端からの2位および14位のフェニルアラニン
およびグリシン残基を、それぞれ、セリンおよびバリンで置換してペプチドG1'-
19'SVを作りPapDに対する結合を36%減少させた。これはマイクロタイタープ
レート中のそれほど効率的でない被覆または提示によるものであろう。なぜなら
、G1'-19'SVが、ペプチドG1'-19'WTと同程度に効率的な可溶性PapD阻害剤である
からである(図1B)。これらの残基は繊毛へのPapGの取り込みに非常に重要であ
るため、インビボのPapDサブユニット相互作用の場合と比べて、それらはサブユ
ニット間重合相互作用および繊毛集合においてより重要であると考えられている
。
トリプシンによる部分消化は、F1-G1ループ中のPapDをそれぞれ残基Leu-103お
よびLys-99で切断する。
4.5μgのトリプシンまたは0.45μgのキモトリプシンのいずれかと37℃
で20時間インキュベーションすることにより、400μgのPapDを部分消化し
た。該PapD消化物をC-18 HPLCカラム(ベックマン(Beckaman))に付し、0.01%
トリフルオロ酢酸中の0〜100%のアセトニトリル勾配で2個の主要断片を溶
出した。SDS-PAGE上の分子量およびアミノ末端配列により該PapD断片を同定した
。約14kDaのトリプシンおよびキモトリプシン断片のN末端アミノ酸配列を、L
ys-99(トリプシンについて)およびLeu-103(キモトリプシンについて)の後の
切断に対応するPapDのそれぞれ残基100〜108および104〜109として
同定した。該消化物中の11および12kDaの帯のN末端配列はPapDのN末端配
列と同一であった。
G1'-19'WT、G1'-16'WTおよびK1'-19'WTペプチド(しかしG2'-21'アミドペプチ
ドは違う)は、PapDのトリプシン切断速度を時間とともに減少させた(図2A)
。これらのデータは、ペプチドに対するPapDの結合がループに対する接触を改変
し、それにより保護を改変して切断を形成したことを示す。この効果は、PapD−
ペプチド結晶構造中で観察されるPapDのF1-G1ループの指令に関連している可能
性があり、溶液中で、両ペプチドがG1β−鎖に沿って伸張し、PapDのF1-G1ルー
プと相互作用することを示唆する。
キューン(Kuehn)ら、プロシーディングズ・オブ・ナショナル・アカデミー
・オブ・サイエンシズ・イン・ユー・エス・エイ(Proc.Natl.Acad.Sci.
USA),10586(1991)に記載されているように、ネガティブPapDは、還元・
変性されたPapGに結合し、インビトロでPapD-PapG複合体を復原すること
ができる。この再構築のアッセイは、インビトロでPapD活性を阻害するペプチ
ドの能力を決定するために用いた。G1'-7'WTペプチドの溶解度が限られて
いることから、かかるアッセイにおいて、このペプチドの試験が妨げられている
。G1'-19'WT、G1'-16'WTおよびK1'-19'WTペプチドの量が増
大すると、PapDによるPapD-PapG複合体の復原が阻害されるのが、G2'-
21'アミドペプチドは全く影響を及ぼさない(図2B)。PapDがPapGに結
合することを妨げるG1'-19'WT、G1'-16'WTおよびK1'-19'WT
ペプチドの能力は、これらのペプチドがPapDのサブユニット結合部位に結合す
ることを示した。
PapDによるPapD-PapG複合体の復原を阻害するペプチドの能力は、以下
のように試験した。0.3μgのPapD-PapG複合体を、4M尿素/10mMジ
チオスレイトール(DTT)と共に、25℃で20分間インキュベートすること
によって還元・変性し、1.2μg(50ピコモル)のPapDを、5〜14.5μ
g(2.5〜7.25ナノモル)のペプチドと共に、25℃で10分間インキュベ
ートした。次いで、PapD-ペプチド溶液を、還元・変性したPapD-PapGに添
加し、25℃で10分間インキュベートし、IEF3-9ゲル(ファルマシア(P
harmacia))にかけた。各試料中の復原されたPapD-PapGの量は、DG複合体
のpIに対応する銀染色IEFバンドのデンシトメトリーによって定量した。
PapD-ペプチドの結晶構造がPapD-繊毛(pilus)サブユニット間の相互作
用界面の一部を反映したものであるか否かを試験するために、PapD-ペプチド
間の相互作用に重要であると予想されるPapDの厳密に保存された裂溝(cleft
)の残渣における部位特異的な変異が構築された(変異の位置は図3に示す)。そ
のヒドロキシル基がサブユニットへのPapD結合に重要な水素結合を形成するか
否かを試験するために、高度に保存されたThr-7をバリンに変化させた(Thr-
7-Val)。
この変異は、側鎖の立体的な体積を維持しながら、ヒドロキシル基を除去した
。繊毛サブユニットの末端カルボキシレート基への水素結合がチャペロン認識過
程の重要な特徴であるか否かを試験するために、Lys-112およびArg-8にお
ける変異を設計した。不変的なLys-112残渣は、側鎖のパッキングを維持し
ながら、帯電した側鎖を除去するためにアニリンに変化させ(Lys-112-Ala)
、また、帯電した基を親水性基で置き換えるためにメチオニンに変化させた(Ly
s−112-Met)。不変的なArg-8は、サブユニットを結合してインビボでの繊
毛の組立てを仲介するPapDの能力を必要とすることがすでに示されている(ス
ロニム(Slonim)ら、1992)。PapD(図3)のドメイン2における可変的な残
渣であるGlu-167/E167は、この結晶構造におけるPapDとペプチドと
の間の相互作用に関与するとは思われず、この残渣における変異は、インビボで
のPapD機能に対して、殆どまたは全く影響を及ぼさないことが示されている(
ス
ロニム(Slonim)ら、1992)。ドメイン2の縁部におけるこの負に帯電した残渣
がPapD-ペプチド間の相互作用において何らかの役割を果たしているか否かを
試験するために、E167をヒスチジンに変化させた(E167H)。変異体の全
ては、野生型PapDに類似した安定な蛋白として、細胞周辺腔に分泌された。さ
らに、精製された変異体PapDに関するカチオン交換FPLCカラムからの溶出
プロフィールおよび電気泳動特性は、これらの変異がPapDの全体構造に影響を
及ぼさないという予想を仮定すれば(データは示さず)、野生型蛋白に類似してい
た。
繊毛サブユニットに結合し、インビボでの繊毛の組立てを調節する変異体の能
力は、インビトロでG1'−19'WTペプチドおよびPapGに結合するそれらの
能力と相関していた。野生型PapDは、G1'-19'WTペプチドを結合し、お
そらくPapD-ペプチド複合体における正味の正電荷の増加により、ネガティブ
ポリアクリルアミドゲルアッセイにおいて、負の電極に向かう移動度のシフト起
こした(ラム(Lam)およびカルダーウッド(Calderwood)、1992)。対照的に、
Arg-8-Gly、Arg-8-AlaおよびLys-112-Ala PapD変異体をG1'-1
9'WTペプチドと共にインキュベートしたとき、それらはネガティブPAGE
アッセイにおいて移動度のシフトを起こさなかったが、このことは、PapDにお
けるこれらの変異がペプチド結合を解消したことを示している。同様に、Arg-
8およびLys-112における変異は、PapGに結合し、インビボでPapD-Pap
G複合体を再構築するPapDの能力(図7)と、繊毛サブユニットに結合し、イ
ンビボで繊毛の組立てを調節するPapDの能力(表2参照)を解消した。
インビトロおよびインビボでの結果と結晶構造との顕著な一貫性は、保存され
た残渣Arg-8およびLys-112による繊毛サブユニットの停留性がPapD様の
チャペロンと繊毛の生体発生との間の相互作用の重要な部分であることを示す。
部位特異的変異誘発は、バイオ-ラッド(Bio-Rad)のインビトロ変異誘発キ
ット用い、製造業者の指示に従って実施した。papD遺伝子(配列番号1)に変
異を導入するために、以下のプライマーを用いた。
papDにおける変異は配列決定によって確認し、修飾されたpapD遺伝子は、他
のpapD変異について以前に報告されたように(スロニム(Slonim)ら、1992)、
誘発性Ptacプロモーターの下でベクターpMMB91にクローン化した。これら
のプラスミドは、残基番号および変異したアミノ酸に従って、pThr-7-Val、p
Lys-112-AlaおよびpLys-112-Metと命名した。プラスミドpLS101
は、野生型papD遺伝子を含む同質遺伝子型の構築物であり、プラスミドpE16
7H、pR8GおよびpR8Aは、それぞれGlu-167をHisに、ならびに、Ar
g-8をGlyおよびAlaに変化させる点変異を有するPapDをコードする遺伝子を
含有する。
本実施例および実施例1に示したデータは、結晶構造に見い出されるPapD-
ペプチド間の相互作用がインビボでのPapD-繊毛サブユニット間の相互作用界
面を反映していることを示す。これらの相互作用は、チャペロンが、様々なグル
ープの蛋白に結合する新規な認識パラダイムにおいて、それらの免疫グロブリン
様ドメインを利用する機構を、初めて規定する。PapD残基Arg-8およびLys-
112は、2つのドメイン間の裂溝のβ鎖に位置するが、繊毛蛋白のカルボキシ
ル末端に対する分子アンカーとして役立つことによって、チャペロン認識におい
て重要な役割を果たしている。Arg-8およびLys-112が細胞周辺のチャペロ
ンの中で非常によく保存されているという事実は、おそらく他のプロテインサブ
ユニットの末端カルボキシレート基に結合する「活性部位」を形成する際に、そ
れらが普遍的な役割を果たしていることを示している。PapDのβ鎖に沿ったバ
ックボーンの水素結合は、引き続いて、サブユニットのカルボキシル末端の長手
方向に沿って強い配列非依存性の相互作用を与える。チャペロンのG1 β鎖に
おける保存された交互の疎水性残基と繊毛サブユニットのカルボキシル末端の保
存された交互の疎水性残基の「ジッパーリング(zippering)」相互作用は、この
結合に強度および特異性を付加する。それゆえ、他の免疫グロブリン様蛋白(ア
ミット(Amit)ら、1988およびデ・フォス(de Vos)ら、1992)とは異なり、
PapDはその免疫グロブリン様構造のβ鎖およびドメイン間の裂溝の特徴を利用
し、数種類の異なる蛋白への結合に対する認識機構を与える。抗体のループ領域
における可変的な残基は、広範囲な抗体結合レパートリーから必要とされる精巧
な特異性を与える。同様に、PapDのF1-G1ループにおける残基は、細胞周
辺のチャペロン系列のメンバー間で長さおよび組成が様々であることが見い出さ
れているので(ホルムグレン(Holmgren)ら、1992)、チャペロンの結合に特異
性を与える。
実施例3
PapDの結合部位に結合することができる化合物の設計
実施例1および2に記載のように、阻害性リガンドに対する有望な結合部位の
位置を決定した後、コンピュータープログラム「PLIM」および「PLIM_
DBS」(シンビコム・エイ・ビー(Symbicom AB)によって開発された)を用
いて、結合部位に結合することができる化合物の系列に対するテンプレートを見
い出した(上記の一般的な記載を参照)。
PLIMは、NH、NH2、O、OHおよびCプローブに対する低エネルギー
の結合位置を探索しながら、PapDの高解像度構造のArg-8領域周辺の20A
ボックス上を走査した。PLIMを走査した結果、Arg-8およびLys-112の
近くの領域に数多くの好ましい化学基(部位点)の位置および配向が示唆された
。
約50個の部位が同定され、次いで、これら部位点のトリプレットおよびカル
テットは、それら相互の適合性について選択された。すなわち、それらは、適当
な幾何学的関係−実際の分子に見い出すことができた距離および配向−を有しな
ければならない。
次いで、PLIM_DBSを用いて、これらの部位点グループの位置に適合す
る公知の分子構造についてのデータベースを調べることによって、可能性のある
リガンドの探索を行った。
コンピューターグラフィック・モデリング・システムを用いて、データベース
上で最も適合したものを視覚的に調べ、豊富な理化学的推論によって、これらの
うち最も有望なものを選択した。
結合を向上させ合成を簡単化するために、上記のように修飾を行った。例えば
、結合部位の疎水性表面に良好な相補性を与えるためにフェニル環を付加したり
、PLIMの範囲外にあった蛋白上の帯電した基に結合させるために帯電した基
を付加したり、しばしば毒性のサブ構造を除去したり、また、基を合成上の理由
から機能的に類似したものと置き換えたりした。多くのこのような判定を行うこ
とにより、特性の組合せの異なる2つの系列の化合物(hdoおよびbpy)が得られ
た。
これらの修飾の効力は、最終的には、蛋白-リガンド複合体の安定性を研究す
るために、ここに記載のように、分子動力学的な自由エネルギーの計算を用いて
評価した(アクヴィスト(Åqvist)ら、1994)。
そうして、一方の系列から2つの構造と、他方の系列からの1つの構造とにつ
いて、合成および試験を行う価値があると思われた。
ここで、これら系列の化合物の数多くのメンバーの開発について、詳細に説明
する。
第1の系列(ここでは、hdoと呼ぶ)は、hdo_0(図8)と記す6-ヒドロキシ
ドーパミンに関するデータベースの記録から誘導した。この分子は、ヒドロキシ
ル基からの水素結合供与によって、Arg-8およびLys-112のPapD側鎖およ
びLys-110のバックボーンに結合する。一級アミノ基がThr-170の側鎖に
水素結合する。
誘導体hdo_1(図8)は、残基Ile-111、Leu-4、およびThr-7の一部
によって形成される蛋白中の疎水性裂溝を埋めるために、ヒドロキシル基を、A
rg-8およびLys-112との電荷相互作用を有することができるカルボン酸で置
き換え、かつ、この位置のパラ位にあるヒドロキシルを新しいフェニル環で置き
換えることによって、この基礎構造から生成した。hdo_4(図8)は、元々の芳
香環を糖で置き換え、類似した相対的な幾何学を維持するように、ヒドロキシル
、一級アミンおよびカルボン酸置換基を結合させ、次いで、溶媒に対して親水性
の面がこの領域に存在するようにヒドロキシル基を新しいベンゼン環の一方の側
に付加することによって、hdo_1から生成した。
この点で、上記構造は、分子動力学シュミレーションに時間を投資するのに充
分なほど説得力があるように見えた。その結果は、アミノ基が、実際には、Pap
DのThr-7のγ炭素に結合せず、蛋白側鎖よりむしろ水分子と水素結合を形成
する必要条件を満足することから、優先的に溶液中に向かうということを示唆し
た。かくして、アミン基は単独で供与するヒドロキシル基によって置き換えたが
、この工程はやはり合成を簡単化した。その結果は構造hdo_6(図8)である。
ベンゼン環上のヒドロキシル置換パターンによって毒性が認められる公算があ
ることから、パラ位のヒドロキシル基を除去して構造hdo_7(図8)を与え、ま
た、合成をさらに容易にするために、この環上の残りのヒドロキシル基をニトロ
基によって置き換えた(hdo_8、図8)。
上記のニトロ基を取り外した最終的な化合物についても、可能性が検討され、
hdo_9(図8)として区別された。
hdo_9について、別の分子動力学的シュミレーションを行った。その結果は、
予想された相互作用が実際に起こり、溶液中で維持されることを示唆した。プロ
グラム「ミスフィット(Miss_Fit)」による軌跡の統計的な分析は、リガンド
の立体配座がこの実験の間に実質的には変化せず、また、起こる変化はすべての
有意な相互作用を維持する蛋白構造中の相補的なシフトによって補償されること
を示した。
hdo_8の動力学シュミレーションは、メタ位にニトロ基の置換した環に対する
適当な分子力学パラメーターが利用できないので複雑になった。このことから、
分子動力学シュミレーションによる評価は信頼し難いものとなり、これはhdo_9
を追跡する決定に影響を及ぼした。
hdo系列の設計段階の間に考慮された可能性の範囲は、図9に概要を示す。
第2の系列は、bpyとして区別され、ここではbpy_0と記す(メチル-O,N,N-
アゾキシ)-メチル-β-D-グルコピラノシドサイカシン(カワミナミ(Kawa min
ami)ら,1981)に関するデータベースの記録から誘導された。
データベースに保存されている立体配座は、Plim_DBS探索によって捜し出
せるほど充分に近いが、PapD部位への結合に関して最適なものではなかった。
内部の捩れ角をわずかに調節すると、結合パターンが若干向上した。
ペプチトを模倣するように機能性を付与する足場として中央の炭水化物を用い
るアプローチの先例が存在することに留意するのは興味あることである(ヒルシ
ュマン(Hirschmann)ら、1992)。
次いで、蛋白中の疎水性裂溝を埋めるように、フェニル環を6位に付加するこ
とによって、誘導体bpy_1を生成した。4-OH基は、6-フェニル基の電子に富
む中央部分と好ましい双極子相互作用を形成し、また、6-OH .. 05と共に
、分子内水素結合は所望のC5-C6ロタマー(rotamer)を安定化するはずであ
る。
リガンドにおける2位のヒドロキシル基と相互作用するはずであるLys-11
2およびArg-8側鎖が、帯電した基と一層よく相互作用し、それゆえ、bpy_2
は、このヒドロキシルをスルフェートで置き換えることによって、bpy_3は、そ
れを環状ホスフェートで置き換えることによって、また、bpy_5は、それを非環
状ホスフェートで置き換えることによって、生成することが決定された。
bpy_4は、スルフェート基がArg-8側鎖と相互作用するより高い可能性を有
するように、bpy_2から3-ヒドロキシル基を除去することによって生成し、ま
た、bpy_6は、bpy_5から3-ヒドロキシル基を除去することによって同様に生
成した。以下の式は、bpy_1-bpy_6を示す。
次いで、小さい疎水性ポケットおよび断片(patches)に、または、リガンド
上の1位の近くにあって溶媒に曝される疎水性残基に考察を加えた。蛋白のこれ
らの部分と接触することができ、好ましくは溶媒とも相互作用するアグリコンを
捜した。これらの考察から、1位のアゾキシ基が2-ヒドロキシ-4-メチルシク
ロペンチル基で置き換えられ、bpy_7が得られた。
この点で、分子動力学実験を行った。その結果は、この構造がよく結合するが
、シクロペンタンと蛋白との間に期待される疎水性接触が維持されないことを示
唆した。
かくして、bpy_9は、シクロペンタン基を除去し、内部安定性のためにα-メ
チル基で置き換えたbpy_7から生成した。その代わり、2位にアキシアルなエト
キシ基の付加によって、さらに疎水性接触を試みた。電荷はエクアトリアルな2
位からアキシアルな3位に移動させたが、この移動はアキシアルな1位の酸素へ
の水素結合を供与することができるNH結合の導入によって確立した。1〜3位
における機能の立体化学的な配置は、今や、この構造に立体配座の硬さおよび合
成の簡単化を付与する。
さらに動力学実験を行った。このとき、bpy_9が、設計の間に予想された方式
と同様に、蛋白と安定な複合体を形成することを示唆した。
さらなる発展
上記のことに調和させて推論を用いることによって、さらに多くの化合物を(
hdo_系列およびbpy_系列の両方から)設計した。興味ある化合物は、ここに記載
の一般式IおよびIIによって示されるものである。この分析から得られる最も有
望な化合物が合成された。実施例4を参照。
上記の方法を用いて設計された化合物をさらに開発する際に、興味深いことに
は、たとえArg-8がPapDのインビボでの機能に必須であっても、設計された
化合物とPapDとの間の結合の安定性が、この化合物とArg-8残基との間の相
互作用に、ほんのわずかしか依存しないらしいことが見い出された。他方、設計
された化合物とPapDとの間の相互作用の安定性は、依然として、Lys-112
およびβ-鎖との相互作用に、非常に大きく依存する。これらの観察結果から、
PapDと繊毛サブユニットとの間の安定な結合が、2つの分子のβシート間の相
互作用に、非常に大きく依存するという驚くべき観察結果が確証される。
実施例4
PapDの結合部位に結合することができるhdo系列の化合物の合成
一般的な方法
1H-および13C-NMRスペクトルは、特に断らない限り、バリアン(Varian
)のジェミニ(Gemini)300スペクトロメーターにより、CDCl3中、30
0および75MHzで記録した。それぞれ7.25および77.0ppmにおける
非重水素化溶媒からのシグナルは、内部参照シグナルとして用いた。旋光度は、
パーキン・エルマー(Pekin Elmer)の241ポーラリメーターを用いて測定
した。
薄層クロマトグラフィーは、メルク(Merck)のディー・シー-フェルティヒ-
プラッテン(DC-Fertig-platten)(キーゼルゲル(Kiselgel)60 F254
0.25mm)上で行い、10%硫酸を噴霧した後、高温で炭化させるか、およ
び/または、モリブダトリン酸水和物/Ce(SO4)2/希H2SO4を噴霧した後
、加熱することによって、スポットを可視化した(モリブダトリン酸水和物=H3
[P(Mo3O10)4]×H2O、イー・メルク(E.Merck)、ダルムシュタット、ド
イツ)。
エチル2,3-O-ジベンゾイル-4-O-ベンジル-1-チオ-β-D-グルコヘキソ
ピラノシド
エチル2,3-O-ジベンゾイル-4,6-O-ベンジリデン-1-チオ-β-D-グルコ
ヘキソピラノシド(150mg、0.29ミリモル)を、ボラン-ジメチルアミン
複合体(68mg、1.16ミリモル)と共に、乾燥トルエン(20Å)に溶解
した。粉末にした4Åモレキュラーシーブ(180mg)を添加し、この混合物
を室温で20分間撹拌した。三塩化アルミニウム(154mg、1.16ミリ
モル)を添加し、出発物質の消失後(約10分、シリカのtlc トルエン/アセ
トニトリル4:1)、この混合物を濾過し、溶液が清澄になるまで、ダウエック
ス(Dowex)(H+)イオン交換樹脂で処理し、再び濾過した。濾液を濃縮し、メ
タノールと共に2回、同時にエバポレートし、200mgの残渣を得た。これは
、シリカ上でのクロマトグラフィー(トルエン-アセトニトリル8:1)によっ
て、60mg(40%)のエチル2,3-O-ジベンゾイル-4-O-ベンジル-1-チ
オ-β-D-グルコヘキソピラノシドを得た。
1H-NMR(CDCl3,δ):8.0-7.2(mm,15H),5.75(t,9.
4Hz,1H,H3),5.37(t,9.8Hz,1H,H2),4.74(d,9.
8Hz,1H,H1),4.61(s,2H),4.02-3.95および3.8 5-3
.76(2bm,2H,2H6),3.94(t,9.5Hz,1H,H4),3.63
(ddd,9.7Hz,3.9Hz,2.6Hz,1H,H5),2.74(2q,7.
5Hz,2H),1.25(t;7.5Hz,3H)。
エチル6-O-アセチル-2,3-O-ジベンゾイル-4-O-ベンジル-1-チオ-β-
D-グルコヘキソピラノシド
エチル2,3-O-ジベンゾイル-4-O-ベンジル-1-チオ-β-D-グルコヘキソ
ピラノシド(200mg、0.38ミリモル)を、ピリジンおよび無水酢酸の氷
冷した混合物(1:1、6Å)に溶解した。この混合物を撹拌し、一晩で室温に
戻した。この混合物をジクロロメタンで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液
および水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧下で除去し、残渣
をシリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィー(トルエン-アセトニトリル
6:1)に付し、204mg(93%)のエチル6-O-アセチル-2,3-O-ジベ
ンゾイル-4-O-ベンジル-1-チオ-β-D-グルコヘキソピラノシドを得た。
1H-NMR(CDCl3,δ):8.0-7.2(mm,15H),5.75(t,9.
2Hz,1H,H3),5.40(t,9.8Hz,1H,H2),4.71(d,1
0.0Hz,1H,H1),4.59および4.55(2d,10.8Hz,2H,b
zl-CH2),4.44(dd,12.0Hz,1.9Hz,1H,H6),
4.27(dd,12.2Hz,4.6Hz,1H,H6'),3.87(t,9.5H
z,1H,H4),3.77(ddd,9.7Hz,4.6Hz,1.9Hz,1H,
H5),2.73(m,2H),2.09(s,3H),1.26(t,3H)。
メチルグリコリル6-O-アセチル-2,3-O-ジベンゾイル-4-O-ベンジル-β
-D-グルコヘキソピラノシド
6-O-アセチル-2,3-O-ジベンゾイル-4-O-ベンジル-1-チオ-β-D-グル
コヘキソピラノシド(600mg、1.04ミリモル)およびN-ヨードスクシン
イミド(468mg、2.08ミリモル、<0.1ミリバールで3時間乾燥させた
)を、室温の乾燥アセトニトリル(7Å、アルミナを通過させた)に溶解した。
グリコール酸メチル(161μl、2.08ミリモル)を添加し、この混合物を
室温で25分間撹拌し、次いで、氷浴で冷却した。トリフルロロメチル硫酸(1
8μl、0.21ミリモル)を注意深く添加した。出発物質の完全な転換が10
分後に起こった(tlc:シリカ トルエン-アセトニトリル4:1)。ジクロロメタ
ンの添加によって反応をクエンチし、この混合物をジクロロメタンで希釈し、水
、炭酸水素ナトリウムで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧下で
除去し、残渣をシリカ上のクロマトグラフィー(トルエン-アセトニトリル11
:1)に付し、560mg(86%)のエチル6-O-アセチル-2,3-O-ジベン
ゾイル-4-O-ベンジル-β-D-グルコヘキソピラノシドを得た。
エチル2,3-O-ジベンゾイル-4-O-ベンジル-1-チオ-β-D-グルコヘキソ
ピラノシド(hdo_9:1)
エチル2,3-O-ジベンゾイル-4,6-O-ベンジリデン-1-チオ-β-D-グルコ
ヘキソピラノシド(ケミカル・アブストラクツ(Chemical Abstracts)、RN
1993)を、ボラン-ジメチルアミン複合体(68mg、1.16ミリモル)と共に
、乾燥トルエン(20ml)に溶解した(図6の反応「a」)。粉末にした4Åモ
レキュラーシーブ(180mg)を添加し、この混合物を室温で20分間撹拌し
た。三塩化アルミニウム(154mg、1.16ミリモル)を添加し、出発物質
の消失後(約10分間、シリカのtlc トルエン/アセトニトリル4:1)、この混
合物を濾過し、溶液が清澄になるまでダウエックス(Dowex)(H+)イオン交換
樹脂で処理し、再び濾過した。濾液を濃縮し、メタノールと共に2回、同時にエ
バポレートし、200mgの残渣を得た。これはシリカ上でのクロマトグラフィ
ー(トルエン-アセトニトリル8:1)によって、60mg(40%)のhdo_9:
1を得た。
1H-NMR(CDCl3,δ):8.0-7.2(mm,15H),5.75(t,9.
4Hz,1H,H3),5.37(t,9.8Hz,1H,H2),4.74(d,9.
8Hz,1H,H1),4.61(s,2H),4.02-3.95および3.8 5-3
.76(2bm,2H,2H6),3.94(t,9.5Hz,1H,H4),3.63
(ddd,9.7Hz,3.9Hz,2.6Hz,1H,H5),2.74(2q,7.
5Hz,2H),1.25(t;7.5Hz,3H)。
エチル6−O−アセチル−2,3−O−ベンゾイル−4−O−ベンジル−1−
チオ−β−D−グルコヘキソピラノシド(hdo_9:2)
エチル2,3−−O−ジベンゾイル−4−O−ベンジル−1−チオ−β−D−
グルコヘキソピラノシド(hdo_9:1)(200mg、0.38mmol)をピリ
ジンおよび無水酢酸の氷冷混合物(1:1、6ml)に溶解させた。該混合物を撹
拌し、室温で一晩放置した。該混合物をジクロロメタンで希釈し、炭酸水素ナト
リウム飽和水溶液および水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。該溶媒を減
圧下で除去し、残留物をシリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィーに付し
て(トルエン−アセトニトリル、6:1)、hdo_9:2を204mg(90%
)得た。
1H−NMR(CDCl3,δ):8.0−7.2(mm,15H)、5.75(t,9.
2Hz,1H,H3)、5.40(t,9.8Hz,1H,H2)、4.71(d,10.0Hz
,1H,H1)、4.59および4.55(2d,10.8Hz,2H,bzl−CH2)、
4.44(dd,12.0Hz,1.9Hz,1H,H6)、4.27(dd,12.2Hz,
4.6Hz,1H,H6')、3.87(t,9.5Hz,1H,H4)、3.77(ddd,9.
7Hz,4.6Hz,1.9Hz,1H,H5)、2.73(m,2H)、2.09(s,3H)、
1.26(t,3H)。
メチルグリコリル6−O−アセチル−2,3−O−ジベンゾイル−4−O−ベ
ンジル−β−D−グルコヘキソピラノシド(hdo_9:3)
6−O−アセチル−2,3−O−ジベンゾイル−4−O−ベンジル−1−チオ
−β−D−グルコヘキソピラノシド(hdo_9:2)(600mg、1.04mmo
l)およびN−ヨードスクシンイミド(468mg、2.08mmol、<0.1mbarで
3時間乾燥させた)を、室温で乾燥アセトニトリル(7ml、アルミナに通した)
に溶解させた。グリコール酸メチル(161μl、2.08mmol)を添加し、該混
合物を室温で25分間撹拌し、次いで、氷浴上で冷却した。トリフルオロメチル
スルホン酸(18μl、0.21mmol)を注意深く添加した。出発物質の完全な変
換は、10分後に生じた(tlc:シリカ トルエン−アセトニトリル、4:1
)トリエチルアミンの添加により該反応をクエンチし、該混合物をジクロロメタ
ンで希釈し、水、炭酸水素ナトリウムで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。
溶媒を減圧下で除去し、残留物をシリカ上でのクロマトグラフィーに付して(ト
ルエン−アセトニトリル、11:1)、hdo_9:3を560mg(86%)得
た。
ナトリウムグリコリル4−O−ベンジル−β−D−グルコヘキソピラノシド(
hdo_9)
メチルグリコリル6−O−アセチル−2,3−O−ジベンゾイル−4−O−ベ
ンジル−β−D−グルコヘキソピラノシド(hdo_9:3)(350mg、0.
59mmol)を7Å25mMナトリウムメトキシド(メタノール)に溶解させ、室
温で20時間、または、硫酸炭化によってtlcで非常に遅く動くスポットが検
出されるまで(シリカ、トルエン−アセトニトリル、4:1)撹拌する。グリコ
ール酸メチル加水分解前に、この溶液の少量(=i)をtlc参照として保持し
た。水酸化ナトリウム(15mg)および水(200μl)を添加し、8時間、
または全ての「i」が消費されるまで(tlcシリカ、酢酸エチル−エタノール
−酢酸、8:3:1)、撹拌を続けた。該反応物を酢酸でpHを4.0にすること
によってクエンチした。溶媒を減圧下で除去し、残留物(650mg)を、シリカ
上でフラッシュクロマトグラフィーに付した(酢酸エチル−エタノール−酢酸、
8:3:1)。Rf−範囲0.15−0.25における物質を回収し、濃縮して、
アモルファス白色固体178mg(92%)を得た。
1H−NMR(CD3OD,3.31ppmでのメタノールに対する相対的なδ):
7.45(m,5H)、4.65(d,11.0Hz,1H)、4.36(d,16.0Hz,1
H)、4.32(d,7.9Hz,1H,H1)、4.11(d,15.8Hz,1H)、3.8
2(dd,2.0Hz,12.1Hz,1H,H6)、3.65(dd,4.8Hz,12.1Hz
,1H,H6)、3.59(t,9.0Hz,1H,H3またはH4)
この物質は、まだ多量の酢酸を含有していたので、50mgを水に再溶解させ、
凍結乾燥させて、水含量24.5モル等量(1H−NMR)を有するが酢酸を含ま
ない物質30mgを得た。
この物質を再度水に溶解させ、1等量の水酸化ナトリウムを添加し、該溶液を
凍結乾燥させて、標記化合物22mgを得た。
1H−NMR(CD3OD,3.31ppmでのメタノールに対する相対的なδ):
7.40−7.22(m,5H)、4.95(d,10.8Hz,4.93で残留物HDOに
よって重複)、4.65(d,11.0Hz,1H)、4.34(d,16.0Hz,1H)、
4.32(d,7.5Hz,1H,H1)、4.10(d,15.8Hz)、3.82(dd,1.
8Hz,11.9Hz,1H,H6)、3.66(dd,4.8Hz,12.1Hz,1H,H6)
、3.59(t,8.8Hz,1H,H3)、3.41(t,9.7hz,1H,H4)、3.15
−3.06(m,2H,H5,H2)。
13C−NMR(CD3OD,49.0ppmでのメタノールに対する相対的なδ)
:176.1、140.0、129.3、129.1、128.6、104.3、79
.1、78.1、77.2、75.7、75.2、68.4、62.3。
2−(ヒドロキシ)エチル4−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシド
(hdo_23)
室温で5分間、チオグリコシドエチル6−O−アセチル−2,3−O−ベンゾ
イル−4−O−ベンジル−1−チオ−β−D−グルコピラノシド(hdo_9:
2)(0.210g、0.372mmol)、エチレングリコール(0.125ml、2.
232mmol)およびモレキュラーシーブ(0.3g、4Å)のジクロロメタン−
ジエチルエーテル(3ml、1:2)中混合物にジクロエタン−ジエチルエーテル
(2ml、1:1)中のN−ヨードスクシンイミド(0.109g、0.484mmol
)およびトリフリックアシッド(6.6μl、0.0744mmol)を添加した。2
5分後、TLCは、チオグリコシドの約20%変換を示し、かくして、さらにジ
クロロエタン−ジエチルエーテル(2ml、1:1)中のN−ヨードスクシンイミ
ド(0.109g、0.484mmol)およびトリフリックアシッド(6.6μl、0
.0744mmol)を5分間添加した。さらに30分後、該反応混合物を、セライ
トの層を介して、炭酸水素ナトリウムおよび重亜硫酸ナトリウムの水溶液中に濾
過した。有機層を分離し、水で洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残留
物をトルエンで2回共蒸発させ、ナトリウムメトキシド(10ml、0.2M(を
含有するメタノールに溶解させ、50℃で1時間維持し、蒸発させた。残留物を
カラムクロマトグラフィー(SiO2、クロロホルム−メタノール−水、100:
15:1)に付して、hdo_23(33mg、30%)を得た。
[α]22 D+0.9°(c 1.4,メタノール)
TLC:Rf 0.29(クロロホルム−メタノール−水、100:15:1)
。
13C−NMR(CD3OD,49.0ppmでのメタノールに対して相対的なδ)
δ:139.9、129.2、129.0、128.6104.4(C−1)、79.
2、78.2、77.0、75.7、75.4、72.3、62.3、62.3ppm。
1H−NMR(CD3OD,3.31ppmでのメタノールに対して相対的なδ)δ
:7.45−7.25(m,5H)、4.95(d,11.0Hz,1H,ベンジル)、4.
65(d,11.0Hz,1H,ベンジル)、4.29(d,7.7hz,1H,H−1)
ppm。
実施例5
PapDの結合部位への結合能を有するbpyファミリーの化合物の合成
メチル4'−メトキシフェニルメチレン−α−D−マンノヘキソピラノシド、
4,6−、2,3−エンドおよび2,3−エキソモノアセタールの混合物
[パトロニ(Patroni)ら、1988を参照のこと]
メチルα−D−マンノヘキソピラノシド(38.8g、200mmol)およびp−
トルエンスルホン酸(200mg)をジメチルホルムアミド(300ml)に溶解さ
せ、窒素流下、100℃で撹拌した。ジメチルホルムアミド(300ml)中の4
−メトキシ−ベンズアルデヒドジメチルアセタール(37.7g、240mmol)を
3時間かけて滴下した。出発物質がまだ残存していたので(tlc、シリカ、酢
酸エチル)、撹拌および加熱を2時間継続した。反応混合物の組成物は、その時
点で視覚変化を示さず(tlc、シリカ、酢酸エチル)、該反応物を炭酸カリウム
(2.15g)でクエンチした。減圧下、溶媒を除去し、残留物をシリカ(酢酸エ
チル)を介して濾過して、塩および出発物質を除去した。濃縮した溶出液をメチ
ルt−ブチルエーテル(11g、18%)と一緒にトリチュレートするとモノア
セタールが沈殿し(1H−NMR)、これを濾過によって回収した。濾液をフラッ
シュクロマトグラフィーに付して、さらにモノアセタール混合物20gおよび2,
3;4,6−ジアセタール(エンド/エキソ=1:1)17gを得た。
メチル2−O−エチル−4,6−O−(4'−メトキシ)フェニルメチレン−α−
D−マンノヘキソピラノシド(bpy_9:1)
メチル4'−メトキシフェニルメチレン−α−D−マンノヘキソピラノシド、
4,6−、2,3−エンドおよび2,3−エキソモノフェニルメチレンアセタール
の混合物(11.3g、36.2mmol)、ヨウ化エチル(4.35ml、54.3mmol)お
よび硫酸水素テトラブチルアンモニウム(2.48g、7.24mmol)を塩化メチ
レン(500ml)に溶解させた。これに水酸化ナトリウム(2.5g、140mmol
)の水(50ml)中溶液を添加し、該混合物を還流させながら4日間、毎日
ヨウ化エチル(2.4ml)および20%水酸化ナトリウム(1ml)を添加しつつ
加熱した。この後、反応混合物の組成物における視覚的変化は、tlc(トルエ
ン−酢酸エチル、2:1)によって検出できなかった。該混合物を冷却し、相を
分離し、有機相を水(3×)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下、
溶媒を除去し、残留物をシリカ上でのフラッシュクロマトグラフィー(トルエン
−酢酸エチル、6:1)に付した。tlc(トルエン−酢酸エチル、2:1)に
よるRf=0.40を有する成分を含有するフラクションをプールし、前記と同様
に再度クロマトグラフィーに付して、標記化合物3.15g(26%)を得た。t
lcによるRf=0.32を有する成分を含有するフラクションは、モノエチル化
モノフェニルメチレンアセタール位置異性体の混合物からなることが判明した(1
H−NMR)。
[α]20 D=+11.2°(c1.02,CHCl3)
1H−NMR(CDCl3,δ):7.42(symm.m,2H)、6.88(symm.m,2H)
、5.53(s,1H)、4.77(d,1.3Hz,1H,H1)、4.24(dd,4.2Hz
,9.7Hz,1H,H6)、4.02(dt,4.0Hz,8.8Hz,1H,H5)、3.83
(dd,1.8Hz,9.7Hz,1H,H6)、3.80−3.69(sおよびoverl.m,6
H,1−OMe,H3,H4,2−O−CHHCH3)、3.66(dd,1.3Hz,3.7
Hz,1H,H2)、3.64−3.55(m,1H,2−O−CHHCH3)、3.69
(s,3H,Ar−OMe)、2.48(d,1H,OH)、1.26(t,7.0Hz,3H,
2−O−CH2CH3)。
1H NMR(CDCl3,Cl3CCONCを添加,δ):8.54(1H,アシル
カルバメートNH)、7.38(symm.m,2H)、6.88(symm.m,2H)、5.52(
s,1H)、5.27(dd,3.5hz,10.3Hz,1H,H3)、4.76(d,1.6
Hz,1H,H1)、4.32−4.20(m,1H)、4.13(symm.m,1H,H5)、3.
97(dd,1.8Hz,3.5Hz,1H,H2)、3.91−3.80(m,1H)、3.7
9(s,3H,1−OMe)、3.77−3.54(m,3H)、3.41(s,3H,
Ar−OMe)、1.23(t,7.0Hz,3H)。
13C−NMR(CDCl3,δ):160.1、129.9、127.6、113.
6、102.0、99.3、79.4、78.8、68.7、67.2、63.2、5
5.2、54.9、15.4。
C17H25O7についての理論値:C;59.8 H;7.38。
メチル2−O−エチル−3−O−ジメチル−t−ブチルシリル−4,6−O−(
4'−メトキシ)フェニルメチレン−α−D−マンノヘキソピラノシド(bpy_
9:2)
メチル2−O−エチル−4,6−O−(4'−メトキシ)フェニルメチレン−α−
D−マンノヘキソピラノシド(bpy_9:1)(0.98g、2.88mmol)を
トリエチルアミン(600μl、4.32mmol)と一緒に乾燥塩化メチレン(18
ml)に溶解させ、該混合物を氷冷した。塩化メチレン(2ml)中のt−ブチル−
ジメチルシリルトリフルオロメチルスルホナート(795μl、3.45mmol)を
滴下し、該反応混合物を冷却しつつ、室温で一晩放置した(tlc シリカ ト
ルエン−メチルt−ブチルエーテル、4:1)。過剰のシリル化剤をメタノール
(3ml)の添加によって分解し、該混合物をシリカ上でのフラッシュクロマトグ
ラフィー(トルエン−メチルt−ブチルエーテル、40:1)に付して(bpy
_9:2)1.40g(100%)を得た。
1H−NMR(CDCl3,δ):7.40(symm.m,2H)、6.87(symm.m,2H)、
5.53(s.1H)、4.70(d,1.3Hz,1H,H1)、4.21(dd,4.6Hz,
9.9Hz,1H,H6)、4.10(dd,3.3Hz,9.7Hz,1H,H3)、3.91(
t,9.5Hz,1H,H4)、3.90−3.79(s overl.m,5H,H6,2−OC
HHCH3)、3.55(dd,1.5Hz,3.3Hz,1H,H2)、3.67(s,3H,
Ar-OMe)、1.24(t,7.0Hz,3H)、0.88(s,9H)、0.08(s,3H
)、0.03(s,3H)。
13C−NMR(CDCl3,δ):159.9、130.3、127.5、113.
4、101.8、101.2、79.9、79.1、70.3、68.8、
68.2、64.1、55.2、54.8、25.8、18.3、15.6、−4.4、
−4.9。
メチル−2−O−エチル−3−O−ジメチル−t−ブチルシリル−4,−O−(
4'−メトキシ)−ベンジル−α−D−マンノヘキソピラノシド(bpy_9:3
)
および
メチル2−O−エチル−3−O−ジメチル−t−ブチルシリル−6−O−(4'
−メトキシ)−ベンジル−α−D−マンノヘキソピラノシド(bpy_9:8)
アセトニトリル(150ml、4Åモレキュラーシーブで乾燥させた)にメチル
2−O−エチル−3−O−ジメチル−t−ブチルシリル−4,6−O−(4'−メ
トキシ)フェニルメチレン−α−D−マンノヘキソピラノシド(bpy_9:2
)(3.61g、7.95mmol)を溶解させ、3Åモレキュラーシーブ粉末(6g
)添加し、該混合物を、窒素雰囲気下、−30℃に冷却させ、15分間撹拌した
。シアノホウ水素化ナトリウム(3.04g、47.7mmol)を添加し、クロロト
リメチルシラン(7.95ml、47.7mmol)の乾燥アセトニトリル(50ml、4
Åモレキュラーシーブで乾燥させた)中溶液を1時間かけて滴下した。−30℃
で2時間撹拌し続け、次いで、温度を0℃に上昇させた。1時間後、tlc(ト
ルエン−酢酸エチル、4:1)は、出発物質の完全な変換を示した。該混合物を
セラ
浄した。合わせた濾液を炭酸水素ナトリウム飽和水溶液、塩化ナトリウム飽和水
溶液で洗浄し、減圧下、濃縮した。残留物をシリカ上でのフラッシュクロマトグ
ラフィー(トルエン−酢酸エチル、4:1、次いで、1:1)に付して、bpy
_9:8(=bpy_21:1)578mg(16%)および(bpy_9:3)
2.34g(65%)を得た。
bpy_9:3(COSY、HETCORからの多少のアサインメント):
1H−NMR(CDCl3,δ):7.25(symm.m,2H)、6.87(symm.m,2H
)、4.81(d,11.0Hz,1H)、4.66(d,1.8Hz,1H,H1)、
4.51(d,10.8Hz,1H)、4.02(dd,3.1Hz,5.9Hz,1H,H3)、
3.80(s,3H,1−OMe)、3.79−3.60(m,5H,H4,2H6,2−O
CH2CH3)、3.54(ddd,2.9Hz,4.8Hz,9.7Hz,1H,H5)、3.4
6(dd,2.0Hz,3.3Hz,1H,H2)、3.33(s,3H,Ar−OMe)、2.1
0および1.86(sv.br.s,=1H,6−OH)、1.23(t,6.8Hz,3H)
、0.95(s,9H)、0.12(s,6H)。
1H−NMR(CDCl3,Cl3CCONCを添加した,δ):8.40(s,1H
,アシルカルバメートNH)、7.24(symm.m,2H,Ar H3',5')、6.86(sy
mm.m,2H,Ar H2',H6')、4.82(d,11.2Hz,1H)、4.67(s,2.
0Hz,1H,H1)、4.43−4.32(m,2H,2H6)、4.08−3.98(m,
1H,H3)、3.78(s,3H,1−OMe)、3.77−3.61(m,4H,H5,2
−OCH 2CH3,H4)、3.46(dd,1.8Hz,3.1Hz,1H,H2)、3.34
(s,3H,Ar−OMe)、1.22(t,7.0Hz,3H)、0.96(s,9H)、0.1
4(s,3H)、0.13(s,3H)。
13C−NMR(CDCl3,δ):159.1、130.7、129.3、113.
8、99.8、79.5、75.7、74.7、73.0、72.2、67.4、62.
5、55.2、54.7、18.0、15.7、4.3、−4.6。
13C−NMR(CDCl3,Cl3CCONCを添加した,δ):159.3(Ar
C4')、157.4、149.3、130.2(Ar C2')、129.6(Ar C3',
C5')、113.8(Ar C2',C6')、99.6(C1)、79.2(C2)、74.
56*(4−OCH2Arまたは2−CH2CH3)、74.5*(4−OCH2Arまた
は2−CH 2CH3)、73.2(C3)、69.7(C5)、67.2(C4)、66.3
(C6)、55.2(1−OMe)、54.9(Ar−OMe)、25.9(CMe 3)、18.
0(CMe3)、15.6、−4.3、−4.7。
bpy_9:8:
1H−NMR(CDCl3,δ):7.28(symm.m,2H)、6.86(symm.m,2H)
、
4.70(d,1.8Hz,1H,H1)、4.55(d,11.7Hz,1H,H6)、4.5
1(d,11.6Hz,1H,H6)、3.89−3.55および3.79(mおよびs,7
H,H3,H4,H5,2−OCH 2CH3,1−OMe)、3.44(dd,1.8Hz,2.
9Hz,1H,2H)、3.56(s,3H,Ar−OMe)、2.29(d,2.0Hz,1H,
4−OH)、1.20(t,7.0Hz,3H)、0.92(s,9H)、0.13(s,3H)
、0.12(s,3H)。
13C−NMR(CDCl3,δ):159.1、130.3、129.3、113.
7、99.7、78.9、73.19*、73.16*、71.3、70.3、69.1
、67.2、55.2、54.8、25.8、18.2、15.6、−4.5、−4.6
。*ガウス重量関数を用いてFIDを増強することによって分割した。
メチル2−O−エチル−3−O−ジメチル−t−ブチルシリル−4,−O−(4
'−メトキシ)−ベンジル−6(S)−フェニル−α−D−マンノヘキソピラノシド
(bpy_9:4)
[酸化参照ディ・エフ・テイバー(D.F.Taber)ら、ジャーナル・オブ・オ
ーガニック・ケミストリー(J.Org.Chem.)、52、5621−2、1987]
メチル2−O−エチル−3−O−ジメチル−t−ブチルシリル−4,−O-(4'−
メトキシ)ベンジル−α−D−マンノヘキソピラノシド(bpy_9:3)(2
00mg、0.438mmol)およびジメチルスルホキシド(64.0μl、0.876
mmol)をジクロロメタン(2.5ml、4Åモレキュラーシーブで乾燥させた)に
溶解させ、該溶液を氷浴上で冷却した。五塩化リン(124mg、0.876mmol
)を素早く添加し、得られた撹拌懸濁液をRTに維持した(1時間)。該混合物を
再度氷冷し、トリエチルアミン(215μl、1.53mmol)を添加してゲル状懸
濁液の即時溶解を生じた。氷浴を外し、該混合物をRTで1時間撹拌し、酢酸エ
チルで希釈し、0.2Mリン酸二水素ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウ
ムで乾燥させ、減圧下(<0.02mbar)、濃縮した。残留物をテトラヒドロフラ
ン(2ml、4Åモレキュラーシーブで乾燥させた)を溶解し、撹拌し、−20℃
に冷却した。テトラヒドロフラン中塩化フェニルマグネシウム
(25重量%溶液345μl、0.657mmol、ジャンセン(Janssen)、ベルギー
)を滴下した(3分間)。該反応をtlc(トルエン−酢酸エチル、4:1)でモ
ニターし、10%硫酸アンモニウム水溶液(3ml)でクエンチした。該混合物を
酢酸エチルで希釈し、水で2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下、濃
縮した。残留物をシリカ上でのフラッシュクロマトグラフィー(トルエン−メチ
ルt−ブチルエーテル、20:1)に付した。tlc(トルエン−酢酸エチル、
4:1)によるRf=0.44を有する成分を含有するフラクションをプールし、
減圧下、濃縮して、標記化合物65mg(30%)を得た。
RおよびSジアステレオマーのMM2(91)[バーカート(Burkert)および
アリンジャー(Allinger)、1982]による分子メカニズム計算およびカープ
ラス(Karplus)方程式[ボスナー−バイ(Bothner−By)、1965]による
次なる計算は、1H−NMR J5-6が各々4.8および6.2であると予想した。
この差異は、立体化学の示唆以外であるには非常に小さい。さらにまた、H6シ
グナルは、あまり分割されず、H5シグナルは、他の共鳴によって厳密に重複し
ている。しかしながら、1H−COSY H4−H5交差ピークは、J4-5+J5-6
の合計を含有し、J4-5がH4−共鳴において観察可能であるので、J5-6は、値
6.8Hzを指定され得る。これは、単離した生成物が6−(S)立体化学を有する
ことを示す。
4−メトキシベンジル基の除去後、算出したカップリング定数は、各々、5.
5Hzおよび12.9Hzになる。
1H−NMR(CDCl3,δ):7.44−7.19(m,7H)、6.89(symm.
m,2H)、5.00(br.m,1H,H6)、4.90(d,10.8Hz,1H)、4.6
6(d,10.8Hz,1H)、4.58(d,1.8Hz,1H,H1)、4.04(dd,3.
1Hz,9.0Hz)、3.99(t,9.2Hz,1H,H4)、3.81および3.82−
3.56(sおよびm,6H,1−OMe,2−CH 2CH3),5H)、3.44(dd,2
.0Hz,2.9Hz,1H,H2)、2.84(s,3H,Ar−OMe)、1.24(t,3H
)、1.97(s,9H)、0.15(s,3H)、0.13(s,3H)。
13C−NMR(CDCl3,δ):159.0、142.5、130.8、
129.2、127.7、126.7、126.6、125.7、113.7、99.
5、79.8、76.1、74.5、73.0、70.9、67.9、55.1、54.
1、25.8、17.9、15.4、−4.5、−4.8。
メチル2,3−アンヒドロ−4,6−O−p−メトキシベンジリデン−α−D−
マンノピラノシド(bpy_9:9)
水素化ナトリウム(2.6g、65mmol、鉱油中65%分散物)のN,N−ジメ
チルホルムアミド(150ml)中撹拌懸濁液にメチル4,6−O−p−メトキシ
ベンジリデン−α−D−グルコピラノシド(9.36g、30mmol)のN,N−ジ
メチルホルムアミド(65ml)中溶液を撹拌しつつ添加した。該混合物を45分
間撹拌し、p−トルエンスルホニルイミダゾール(7.24g、33mmol)を添加
した、2時間撹拌し続け、該混合物を氷水中に注いだ。沈殿物を濾過し、真空乾
燥させて、粗製bpy_9:)(7/7g)を得た。
メタノール(250ml)から2回再結晶して、bpy_9:9(3.58g)を
得た。母液をクロマトグラフィー(SiO2、酢酸エチル−ヘプタン、2:3)に
付し、次いで、メタノール(150ml)から結晶化させて、さらにbpy_9:
9(1.87g)を得た。bpy_9:9の合計収量は、5.45g(61%)であ
った。
融点 152−153.5℃(メタノール)
[α]22 D:96.4°(c 1.8、クロロホルム)
1H NMR(CDCl3)δ:7.43および6.91(ABパターン、さらに結
合、2H、JAB=8.7Hz)、5.35(s,1H.ArCH)、4.90(s,1H,H
−1)、4.30−4.19(sym.m,1H)、3.82(s,3H,CH3OAr)、3.7
8−3.64(3H)、3.49−3.46(4H)、3.48(s,3H,CH3O)、3.
18(d,1H,J 3.7Hz,H−2/H−3)ppm。
13C NMR(CDCl3)δ:160.3、129.6、127.5、113.7
、102.4、96.9、74.8、69.4、61.7、55,7、55.3、53.
8および50.5ppm。
メチル3−アジド−4,6−O−p−メトキシベンジリデン−α−D−アルト
ロピラノシド(bpy_9:10)
2−メトキシエタノール(25ml)および水(5ml)の混合物中、メチル2,
3−アンヒドロ−4,6−O−p−メトキシベンジルデン−α−D−マンノピラ
ノシド(bpy_9:9、2.35g、8mmol)、アジ化ナトリウム(2.08g、3
2mmol)および塩化アンモニウム(0.86g、16mmol)を110℃で5時間撹
拌した。懸濁液が徐々に溶解して、濁った溶液が得られた。次いで、該混合物を
酢酸エチルとNaOH(0.25M、100ml)とに分配させた。水性相を酢酸エ
チルで2回抽出し、次いで、NaCl飽和水溶液で抽出し、乾燥させ(Na2SO4)
、濾過し、濃縮した。クロマトグラフィー(SiO2、酢酸エチル−ヘプタン、2
:3〜2:1)に付して、bpy_9:10(1.97g、73%)を得た。分析
試料を酢酸エチル−ヘプタンから結晶化した。
融点 91−93℃(EtOAc/ヘプタン)
[α]22 D:+26.1°(c 1.1、クロロホルム)
1H NMR(CDCl3)δ:7.44および6.91(さらに結合したABパタ
ーン,2H,JAB=8.6Hz)、5.57(s,1H,ArCH)、4.56(s,1H,H
−1)、4.43−4.21(2H)、4.16−4.08(1H)、4.03(非分割d
d,1H,J1=J2=3Hz)、3.91(bs,1H,H−2)、3.83−3.74(4
H)、3.80(s,3H,CH3O)、3.43(s,3H,CH3O)、2.36(bs,1
H,OH)ppm。
13C NMR(CDCl3)δ:160.3、129.5、127.5、113.7
、102.3、101.4、75.8、69.8、69.0、60.1、59.0、5
5.7および55.3ppm。
bpy_9:10の試料のアセチル化(無水酢酸−ピリジン、3:5)により
、以下の1H NMRスペクトルを有するアセテートを得た(アサインメントは、
対応するホモニュークリアCOSYスペクトルによって確認された):
1H NMR(CDCl3)δ:7.43および6.91(さらに結合したABパタ
ーン,2H,JAB=8.8Hz)、5.59(s,1H,ArCH)、4.97(dd,1H,
J=2.2および0.9Hz,H−2)、4.57(s,1H,H−1)、4.36(2H,
H−6およびH−4)、4.09−4.01(2H,H−6およびH−3)、3.84
−3.74(2H,CH3OおよびH−5)、3.81(s,3H,CH3O)、3.44(
s,3H,CH3O)、2.15(s,3H,CH3CO)ppm。
メチル3−アジド−2−O−エチル−4,6−O−p−メトキシベンジリデン
−α−D−アルトロピラノシド(bpy_9:11)
メチル3−アジド−4,6−O−p−メトキシベンジリデン−α−D−アルト
ロピラノシド(bpy_9:10、1.7g、5mmol)、酸化バリウム(3.0g、1
9.6mmol)およびヨウ化エチル(5ml、62mmol)をジメチルスルホキシド(
5ml)中で撹拌した。水(10μl)を添加し、16時間撹拌し続けた。次いで
、該混合物を酢酸エチルと水とに分配させた。水性相を酢酸エチルで2回抽出し
、合わせた有機相を水で2回、次いで、NaCl飽和水溶液で洗浄し、乾燥させ(
Na2SO4)、濾過し、濃縮した。クロマトグラフィー(SiO2、酢酸エチル−ヘ
プタン、1:3)に付して、油状物としてbpy_9:11(1.7g、92%)
を得た。
[α]22 D:19.1°(c 1.6、クロロホルム)
1H NMR(CDCl3)δ:7.44および6.91(ABパターン,さらに結合
した,2H,JAB=8.6Hz)、55.57(s,2H,ArCH)、4.63(bs,1H
,H−1)。(sym.m.2H)、3.52(dd,1H,J=2.4および0.9Hz,H−
3)、3.34(s,3H,CH3O)、1.25(t,3H,J=6.9Hz,CH 3CH2)
ppm。
13C NMR(CDCl3)δ:160.1、129.6、127.4、113.6
、102.1、99.6、77.0、76.1、69.0、66.5、58.7、58.
1、55.5、55.2および15.3ppm。
メチル3−アジド−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メトキシ
ベンジル−α−D−アルトロ−ピラノシド
[アール・ヨハンソン(R.Johansson)およびビー・サムエルソン(B.Samu
elsson);J.Chem.Soc.Commun.1984、201−202を参照のこと]
メチル3−アジド−3−デオキシ−2−O−エチル−4,6−O−p−メトキ
シベンジリデン−α−D−アルトロピラノシド(bpy_9:11)(2.41g
、6.6mmol)、シアノホウ水素化ナトリウム(2.5g、39.6mmol)およびモ
レキュラーシーブ粉末(5g)を、0℃で、アセトニトリル(130ml)中で撹
拌した。塩化トリメチルシリル(5.0ml、40mmol)のアセトニトリル(45m
l)中溶液を55分間かけて添加した。さらに1.5時間撹拌した後、冷却浴を外
し、21時間撹拌し続けた。該混合物をセライトを介して濾過し、濾液を酢酸エ
チルとNaHCO3とに分配させた。有機相をNaHCO3飽和水溶液で2回、次い
で、NaCl飽和水溶液で洗浄し、乾燥させ(Na2SO4+NaHCO3)、濾過し、
蒸発させた。クロマトグラフィー(SiO2、酢酸エチル−ヘプタン、2:7→2
:1および酢酸エチル−トルエン、1:2→2:1)に2回付して、油状物とし
て標記化合物(2.32g、92%)を得た。
[α]22 D:+113.6°(c 1.4,クロロホルム)
1H NMRデータ(CDCl3)δ:7.30および6.89(ABパターン,さら
に結合した,4H,J=8.8Hz)、4.62および4.56(ABパターン,2H,J
=11.3Hz,ベンジルH)、4.58(非分割d,実質的に結合した,1H,J<2
Hz,H−1)、4.00−3.84(3H,H−3,H−4およびH−5)、3.81(
s,3H,CH3OAr)、3.84−3.7(2H,H−6)、3.62−3.43(3H,
CH 2CH3およびH−2)、3.38(s,3H,CH3O)、1.99(bs,1H,O
H)および1.19(t,3H,J=7.0Hz,CH2CH 3)ppm。
13C NMRデータ(CDCl3)δ:159.6、129.9、129.6、11
3.9、99.9、76.9、72.2、71.9、67.7、66.3、62.4、5
8.6、55.4、55.3および15.4ppm。
メチル3−アジド−6−O−ベンゾイル−3−デオキシ−2−O−エチル−
4−O−p−メトキシベンジル−α−D−アルトロピラノシド
メチル3−アジド−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メトキシベ
ンジル−α−D−アルトロピラノシド(1.47g、4mmol)のピリジン(35ml
)中溶液を0℃で撹拌した。塩化ベンゾイル(1.2ml、10.3mmol)を添加し
、温度を室温に上昇させた。1.5時間撹拌し続け、次いで、該混合物を0℃に
冷却した。メタノール(10ml)を添加し、該混合物を室温でさらに20分間撹
拌し、蒸発させ、酢酸エチルと水とに分配させた。有機相を、水、NaHCO3飽
和水溶液、水、NaCl飽和水溶液で連続して洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濾
過し、蒸発させた。クロマトグラフィー(SiO2、酢酸エチル−ヘプタン、1:
4)に付して、ベンゾアート(1.64g、87%)を得た。
[α]22 D:+0.95°(c 1.0,クロロホルム)
1H NMRデータ(CDCl3)δ:8.04−7.98(m,2H)、7.56(t
t,1H,J=7.5および1.3Hz)、7.43(t,さらに結合した,2H,J=7.
5Hz)、7.26および6.83(ABパターン,さらに結合した,4H,J=8.6
Hz)、4.62および4.50(ABパターン,2H,J=11.3Hz,ArCH 2)、
4.63(d,さらに結合した,J=1.3Hz,H−1)、4.54(ABX系のA部分
,1H,J=11.8および2.7Hz,H−6a)、4.47(ABX系のB部分,1H,
J=11.8および5.5Hz,H−6b)、4.27(ddd,1H,J=8.4,5.5
および2.7Hz,H−5)、3.99−3.92(2H,H−3およびH−4)、3.7
4(s,3H,CH3OAr)、3.67−3.48(3H,CH 2CH3およびH−2)お
よび1.22(t,3H,J=7.0Hz,CH2CH 3)ppm。
13C NMRデータ(CDCl3)δ:166.2、159.5、132.9、13
0.1、129.9、129.6、129.2、128.3、113.9、99.6、
76.72、72.0、71.7、62.3、62.2、64.1、58.5、55.4
、55.2および15.4ppm。
メチル6−O−ベンゾイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メト
キシベンジル−3−スルファミノ−α−D−アルトロピラノシドナトリウム塩(
エイチ・ピー・ベッセル(H.P.Wessel);ジェイ・カーボヒドロ・ケム(J.Carb
ohydr.Chem.)、第11巻(8)、(1992年)、1039−1052頁と比
較せよ)。
テトラヒドロフラン(40ml)中のメチル3−アジド−6−O−ベンゾイル
−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メトキシベンジル−α−D−ア
ルトロピラノシド(620mg、1.31ミリモル)の撹拌した溶液に、水(2
65ml)およびトリフェニルホスフィン(1.7g、6.5ミリモル)を添加し
た。その溶液を24時間撹拌し、次いで、12mlに濃縮した。残渣をメタノー
ル(10ml)および水(3ml)で希釈した。次いで、撹拌した溶液にトリメ
チルアミンサルファートリオキシド複合体(370mg、2.7ミリモル)を添
加した。pHを、1M NaOH水溶液で8.5に調整した。数分後沈澱が生じ
、それをテトラヒドロフラン(3ml)およびメタノール(4ml)を添加する
ことによって溶解した。反応混合物を0.5時間撹拌し、その後さらにトリメチ
ルアミンサルファートリオキシド複合体(86mg)を添加した。15分間撹拌
し続けた。反応の間、1M NaOH水溶液を添加することにより、pHを8な
いし9に維持した。次いで、混合物を水(7ml)で希釈し、有機溶媒を減圧下
エバポレートした。さらに水(5ml)を添加し、懸濁液を凍結乾燥し、クロマ
トグラフィーを行って(SiO2、クロロホルム−メタノール−水 100:1
5:1−70:30:5)、水からの凍結乾燥後に、おそらくはナトリウム塩の
形態のスルファミノ化合物が得られた(668mg、92%)。試料を水性アセ
トンから結晶化した。
融点112−115℃(水性アセトン)
[α]D 22;+156.4°(C 0.5、水)1
H NMRデータ(CD3OD)δ:7.94−7.89(m、2H)、2H、7.
64−7.56(m、1H)、7.44(m、2H)、7.28および6.73(A
Bパターン、さらにカップリング、4H、J=8.6HZ)、4.71および4.4
9(ABパターン、2H、J=11.4HZ、ArCH 2)4.68(bs、
1H、H−1)、4.51(dd、1H、J=11.6および2.4HZ、H−6a
)、4.44(dd、1H、J=11.6および4.4HZ、H−6b)、4.09(
分析できずddd、1H、J=4.3および1HZ、H−3)、4.00−3.92
(2H、H−5およびH−2)、3.86(dd、1H、J=9.9および4.2
HZ、H−4)、3.71−3.54(5H、CH 2CH3およびCH3OAr)、3
.65(s、CH3OAr)、3.40(s、3H、CH3O)、および1.17(
t、3H、J=7.0HZ、CH2CH 3)ppm。13
C NMRデータ(CD3OD)δ:167.8、160.8、134.2、13
1.4、130.9、130.6、129.5、114.7、101.6、77.03
、70.02、69.2、67.0、66.4、65.2、55.6、55.5、50.
6、および15.8ppm。
メチル6−O−ベンゾイル−3−デオキシ−2−O−エチル−3−スルファミノ
−α−D−アルトロピラノシドアンモニウム塩(bpy_30)
メチル6−O−ベンゾイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メ
トキシベンジル−3−スルファミノ−α−D−アルトロ−ピラノシドナトリウム
塩(334mg、2.0ミリモル)を氷酢酸中(55ml)、0.23MPaおよ
び室温で、触媒として5%炭素上パラジウムを使用して6時間加水素分解した。
濾過および凍結乾燥により残渣が得られ、クロマトグラフィーを行った(SiO2
、クロロホルム−メタノール−水 100:15:1−70:30:5)。産
物を水に溶解し、陽イオン交換樹脂(バイオ−レックス(BIO−REX)70
、200−400メッシュ、アンモニウム形態)に通し、凍結乾燥し、標記化合
物を得た(222mg、86%)。
[α]D 22;+55.7°(C 1.3、水)1
H NMRデータ(ピリジン−d5)δ:8.23−8.17(2H)、7.52−
7.45(1H)、7.42−7.35(2H)、5.09(dd、1H、J=11
.65および1.54HZ、H−6a)、4.82(dd、1H、J=11.43およ
び6.81HZ、H−6b)、4.82(s、1H、H−1)、4.66(分析
できずdd、1H、J=3.5および3.5HZ、H−3)、4.36(dd、1H
、J=10.11および3.96HZ、H−4)、4.32−4.23(1H、H−
5)、4.18(d、1H、J=3.08HZ、H−2)、3.60−3.44(2
H、CH 2CH3)、3.16(s、3H、CH3O)、および1.00(t、3H、
J=7.0HZ、CH2CH 3)ppm。1
H NMRデータ(D2O、2.35ppmでのアセトン参照)δ:8.22−8.
17(2H)、7.83(tt、1H、J=7.5および<2HZ)、7.72−7
.65(2H)、4.97(HDO)、4.93(s、1H、H−1)、4.81(
dd、実質的にカップリング、1H、J=12および1.7HZ、H−6a)、4.
65(dd、実質的にカップリング、1H、J=12および5.5HZ、H−6b
)、4.18−4.15(2H、H−4およびH−5)、4.05(dd、1H、
J=3.3および1.4HZ、H−2)、3.95−3.75(sym、m、2H、
CH 2CH3)、3.94−3.91(m、1H、H−3)3.54(s、3H、C
H3O)、および1.35(t、3H、J=7HZ、CH2CH 3)ppm(1H N
MRスペクトラムシグナルの帰属はコジー(COSY)実験に基づいて行われた
)。13
C NMRデータ(D2O、33.19ppmでのアセトン参照)δ:171.4
、136.9、132.5、132.1、131.7、102.5、78.4、69.
9、69.1、67.4、65.7、58.1、56.0、および17.5ppm。
メチル3−アジド−6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4−
O−p−メトキシベンジル−α−D−アルトロピラノシド
ピリジン(8ml)中のメチル3−アジド−3−デオキシ−2−O−エチル−
4−O−p−メトキシベンジル−α−D−アルトロピラノシド(476mg、1
.3ミリモル)の溶液を0℃で撹拌した。塩化ピバロイル(390μl、3.25
ミリモル)を添加し、温度を室温に上昇させた。1.5時間撹拌し続け、次いで
、混合物を0℃に冷却した。メタノール(10ml)を添加し、混合物をさらに
室温で20分間撹拌し、エバポレートし、酢酸エチルおよび水に分配した。
有機層を水、飽和NaHCO3水溶液、水、飽和NaCl水溶液で順に洗浄し、
乾燥し(Na2SO4)、濾過し、エバポレートした。クロマトグラフィー(Si
O2、メチルタート−ブチルエーテル−ヘプタン 1:4)および(C−18ロ
ーバー(Lobar)、メルク(Merck)、アセトニトリル−水 4:1)を行って、
ピバロン酸塩(431mg、75%)を得た。1
H NMRデータ(CDCl3)δ:7.28および6.89(ABパターン、さ
らにカップリング、4H、J=8.6HZ)、4.60および4.49(ABパター
ン、2H、J=11.0HZ、ArCH 2)4.57(s、1H、H−1)、4.3
9(dd、1H、J=14.5および5.3HZ、H−6a)、4.13(2H、H
−6bおよびH−4)、3.93(m、1H、H−3)、3.84−3.78(4H
、H−5およびMeOAr)、3.64−3.45(3H、CH 2CH3およびH−
2)、3.39(s、3H、1−OMe)、および1.22−1.15(sおよび
t、12H、J=7.0HZ、C(CH3)3、およびCH2CH 3)ppm。13
C NMRデータ(CDCl3)δ:178.1、159.6、129.9、11
3.9、99.5(C−1)、76.7(C−2)、72.5(C−5)、71.9
(ArCH2)、66.4(C−4)、66.2(CH2CH3)、63.6(C−6)
、58.5、55.3、55.2、38.8、27.2および15.4ppm。
メチル6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メト
キシベンジル−3−スルファミノ−α−D−アルトロピラノシドナトリウム塩(
エイチ・ピー・ベッセル(H.P.Wessel);ジェイ・カーボヒドロ・ケム(J. C
arbohydr.Chem.)、第11巻(8)、(1992年)、1039−1052頁
と比較)。
テトラヒドロフラン(20ml)中のメチル3−アジド−6−O−ピバロイル
−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メトキシベンジル−α−D−ア
ルトロピラノシド(300mg、0.683ミリモル)の撹拌した溶液に、水(
150ml)およびトリフェニルホスフィン(0.90g、3.3ミリモル)を添
加した。その溶液を24時間撹拌し、次いで、5mlに濃縮した。残渣をメタ
ノール(5ml)および水(1ml)で希釈した。この溶液の半分を対応するオ
キサム酸塩の製造に使用した(48.182参照)。次いで、撹拌した残り半分
の溶液(0.342ミリモル)に、トリメチルアミンサルファートリオキシド複
合体(99mg、0.719ミリモル)を添加した。pHを、1MNaOH水溶
液で8.5に調整した。数分後沈澱が生じ、それをテトラヒドロフラン(0.7m
l)およびメタノール(1ml)を添加することによって溶解した。反応混合物
を0.5時間撹拌し、その後さらにトリメチルアミンサルファートリオキシド複
合体(45mg)を添加した。15分間撹拌し続けた。反応の間、1M NaO
H水溶液を添加することにより、pHを8ないし9に維持した。次いで、混合物
を水(2ml)で希釈し、有機溶媒を減圧下エバポレートした。さらに水(5m
l)を添加し、懸濁液を凍結乾燥し、クロマトグラフィーを行って(SiO2、
クロロホルム−メタノール−水 100:15:1−80:20:1)、水から
の凍結乾燥後に、おそらくはナトリウム塩の形態のスルファミノ化合物が得られ
た(161mg、80%)。1
H NMRデータ(dmso−D6)δ:7.24および6.87(ABパターン
、さらにカップリング、4H、J=8.8HZ)、4.69および4.24(ABパ
ターン、2H、J=10.8HZ、ArCH 2)、4.58(s、1H、H−1)、
4.29(dd、1H、J=11.4および1.7HZ、H−6a)、4.05−3.
96(2H、H−6bおよびNH)、3.83−3.76(m、2H、H−2およ
びH−3)、3.76−3.73(4H、sおよびm、H−5およびMeOAr)
、3.54−3.40(3H、CH 2CH3およびH−4)、3.27(s、3H、
1−OMe)、および1.12−1.02(sおよびt、12H、J=7.0HZ、
C(CH3)3、およびCH2CH 3)ppm。
メチル6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−3−スルファミノ
−α−D−アルトロピラノシドアンモニウム塩(bpy_37)
メチル6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メ
トキシベンジル−3−スルファミノ−α−D−アルトロピラノシドナトリウム塩
(153mg、0.259ミリモル)を氷酢酸中(8ml)、0.23MPaおよ
び室温で、触媒として5%炭素上パラジウムを使用して、6時間加水素分解した
。濾過および凍結乾燥により残渣が得られ、クロマトグラフィー(SiO2、0.
1%NH3と共に、クロロホルム−メタノール−水 80:20:1)を行い、
標記化合物を得た(77.2mg、74%)。1
H NMRデータ(D2O、2.35ppmでのアセトン参照)δ:4.83(H
DO)、4.78(s、1H、H−1)、4.43(dd、実質的にカップリング
、1H、J=11.5および1.1HZ、H−6a)、4.30(dd、実質的にカ
ップリング、1H、J=11.5および5.1HZ、H−6b)、3.95−3.91
(2H、H−4およびH−5)、3.89(dd、1H、J=3.3および1.3
HZ、H−2)、3.80−3.62(m、3H、H−3およびCH 2CH3)、3.
42(s、3H、CH3O)、および1.24−1.21(sおよびt、12H、
J=7HZ、tBuおよびCH2CH 3)ppm(1H NMRスペクトラムシグナル
の帰属はコジー(COSY)実験に基づいて行われた)。13
C NMRデータ(D2O、33.19ppmでのアセトン参照)δ:188.3
、106.2、82.2、73.8、72.8、70.6、69.3、61.9、59.
8、45.6、37.1、および21.3ppm。
メチル6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メト
キシベンジル−3−tブチルオキサミド−α−D−アルトロピラノシド
テトラヒドロフラン(1ml)中に溶解された塩化オキザリル(120μl、
1.37ミリモル)を−26℃に冷却した。テトラヒドロフラン(2ml)中の
t−ブタノール(131mg、1.77ミリモル)およびピリジン(154μl
、1.91ミリモル)の溶液を滴下し、混合物を−26℃で15分間撹拌し、そ
の間に最初に生じた黄色みがかった沈澱は白色になった。
減圧下、3−アジド−6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−
4−O−p−メトキシベンジル−α−D−アルトロピラノシド(150mg、0
.342ミリモル)の還元からのテトラヒドロフラン溶液から溶媒を除去した。
残渣をテトラヒドロフラン(2.5ml)およびピリジン(154μl)に再溶
解し、上記の冷却した溶液に滴下し、−26℃で1時間撹拌した。水(2ml)
を添加し、混合物をt−ブチルメチルエーテル(15ml)で希釈し、水、飽和
重炭酸ナトリウムおよびブラインで洗浄した。有機溶液を硫酸ナトリウムで乾燥
し、溶媒を減圧下除去した。残渣をクロマトグラフィー(SiO2、t−ブチル
メチルエーテル−トルエン 1:8)し、187mg、100%の標記化合物を
得た。1
H NMRデータ(CDCl3)δ:8.25(d、1H、10.1HZ、3−NH)
、7.26および6.85(ABパターン、さらにカップリング、4H、J=8.
6HZ)、4.82および4.71(mおよびd、2H、10.5HZ、H−3およ
びArCH 2)、4.69(s、1H、H−1)、4.42(dd、1H、1.7お
よび11.7HZ、H−6a)、4.31(d、1H、10.5HZ、ArCH 2)、
4.16(dd、1H、6.2および11.7HZ、H−6b)、3.88(ddd、
1H、1.8、5.9および10.3HZ、H−5)、3.81−3.75(ddおよ
びs、4H、H−4およびArOMe)、3.64−3.49(m、2H、CH 2
CH3)、3.47−3.43(ddおよびs、4H、1.3および3.1HZ、H−
2および1−OMe)、1.55(s、9H、オキザメートC(CH3)3)、1.
19および1.18(sおよびt、12H、7HZ、6−Oピバロエート、tBu
およびCH2CH 3)ppm。13
C NMRデータ(CDCl3)δ:178.1、159.4、159.1、15
7.4、130.3、129.4、113.8、98.9、84.2、77.23、7
5.9、70.8、69.5、65.8、65.7、63.4、55.2、55.1、4
5.7、38.8、27.7、27.1、15.3ppm。
メチル6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−3−オキサミド−
α−D−アルトロピラノシドアンモニウム塩(bpy_54)
メチル6−O−ピバロイル−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メ
トキシベンジル−3−tブチルオキサミド−α−D−アルトロピラノシド
(180mg、332マイクロモル)を酢酸−エタノール混合物(1:1、6m
l)中に溶解し、炭素上パラジウム(5%、250mg)を添加し、一晩39p
siでの加水素分解に適用した。触媒をセライトパッド上に濾過除去し、エタノ
ールで洗浄した。濾液を減圧下濃縮し、ジクロロメタン(2.4ml)に再溶解
した。トリフルオロ酢酸(960μl)を添加し、混合物を室温で4.5時間撹
拌した。水(3ml)およびアンモニア(3M、300μl)を添加し、反応混
合物を減圧下濃縮し、凍結乾燥した。残渣をクロマトグラフィー(SiO2、0.
1%NH3と共に、クロロホルム−メタノール−水 80:20:1)し、標記
化合物117.1mg、89%を得た。1
H NMRデータ(D2O、2.35ppmでのアセトン参照)δ:4.80(H
DO)、4.78(s、1H、H−1)、4.45−4.35(m、2H、H−3
およびH−6a)、4.26(dd、1H、4.4および12.1HZ、H−6b)、
4.07−3.96(m、2H、H−4およびH−5)、3.77−3.58(m、
3H、CH 2CH3およびH−2)、3.45(s、3H、1−OMe)、1.20
−1.13(sおよびt、12H、6−O−ピバロエート、tBuおよびCH2CH 3
)ppm。13
C NMRデータ(D2O、33.19ppmでのアセトン参照)δ:188.1
、171.9、171.4、105.7、82.4、73.7、72.9、70.3、
69.7、62.0、56.1、45.9、37.0、21.2ppm。
メチル3−アジド−6−O−ピロール−3'−イルカルボキシル−3−デオキシ
−2−O−エチル−4−O−p−メトキシベンジル−α−D−アルトロピラノシ
ド
ピリジン(496μl)およびジクロロメタン(2ml)中のメチル3−アジ
ド−3−デオキシ−2−O−エチル−4−O−p−メトキシベンジル−α−D−
アルトロピラノシド(476mg、1.3ミリモル)の溶液を0℃で撹拌した。
塩化メタンスルホニル(380μl、4.90ミリモル)を添加し、温度を室温
に上昇させた。5時間撹拌し続け、次いで、混合物を0℃に冷却した。水
(1ml)を添加し、混合物をさらに室温で20分間撹拌し、エバポレートし、
酢酸エチルおよび水に分配した。有機層を水、飽和NaHCO3水溶液、水、飽
和NaCl水溶液で順に洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、濾過し、エバポレート
した。クロマトグラフィー(SiO2、メチルタート−ブチルエーテル−トルエ
ン 1:9)を行って、216mg(79%)のメシル酸塩を黄色みがかった油
状物質として得た。
N−トリイソプロピルシリルピロール−3−カルボン酸(484mg、1.8
1ミリモル)および1,8−ジアザシシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(
255μl)をジメチルホルムアミド(1ml)中に溶解し、ジメチルホルムア
ミド(1ml)中の上記メシル酸塩の溶液に添加した。混合物を90℃で一晩加
熱し、クロマトグラフィー(210g、C−8ローバー、メルク、アセトニトリ
ル−水 3:2)に適用し、30mg、16%のピロロイルエステルを得た。1
H NMRデータ(CDCl3)δ:8.73(br.s、1H、ピロール、NH)
、7.39(symm.m、1H、ピロール H−4)、7.27および6.85(
ABパターン、さらにカップリング、4H、J=8.8HZ)、3.74(sym
m.m、1H、ピロール、H−2)、3.64(symm.m、1H、ピロール
H−5)、4.63−4.49(sおよび2d、3H、H−1およびArCH 2)、
4.48−4.36(m、2H、2 H−6)、4.22(symm.m、1H、H
−5)、3.94−3.84(m、2H、H−3およびH−4)、3.78(s、3
H、ArOMe)、3.68−3.55(m、3H、CH 2CH3およびH−2)、
3.40(s、3H、1−OMe)、1.20(t、3H、6.8HZ、CH2CH 3
)ppm。13
C NMRデータ(CDCl3)δ:164.6、159.5、129.9、12
9.4、123.6、11.7、116.1、113.9、109.9、99.9、7
6.9、72.5、72.0、66.8、66.3、63.0、58.9、55.3、5
5.2、15.4ppm。
メチル6−O−ピロール−3'−イルカルボキシル−3−デオキシ−2−O−エ
チル−3−スルファミノ−α−D−アルトロピラノシドアンモニウム塩(bpy
_40)
テトラヒドロフラン(1ml)中の3−アジド−6−O−ピバロイル−3−デ
オキシ−2−O−エチル−4−O−p−メトキシベンジル−α−D−アルトロピ
ラノシド(30mg、61マイクロモル)の撹拌した溶液に、水(11μl)お
よびトリフェニルホスフィン(83mg、305マイクロモル)を添加した。そ
の溶液を24時間撹拌し、水(1ml)で希釈した。次いで、トリメチルアミン
サルファートリオキシド複合体(9mg、0.72マイクロモル)を添加した。
pHを、1M NaOH水溶液で8.5に調整した。数分後沈澱が生じ、それを
テトラヒドロフラン(0.7ml)およびメタノール(1ml)を添加すること
によって溶解した。反応混合物を0.5時間撹拌し、その後さらにトリメチルア
ミンサルファートリオキシド複合体(9mg)を添加した。15分間撹拌し続け
た。反応の間、1M NaOH水溶液を添加することにより、pHを8ないし9
に維持した。次いで、混合物を水(2ml)で希釈し、t−ブチルメチルエーテ
ルで洗浄し、凍結乾燥し、クロマトグラフィーを行って(SiO2、クロロホル
ム−メタノール−水 80:20:1)、水からの凍結乾燥後に、おそらくはナ
トリウム塩の形態のスルファミノ化合物が得られた(30.6mg、93%)。1
H NMRデータ(CD3OD)δ:7.35(解析できず、dd、ABXパター
ンのx部分、1H、JAX+JBX=3.5HZ、ピロール H−2)、7.29およ
び6.79(ABパターン、さらにカップリング、4H、J=8.6HZ)、6.7
5(dd、1H、2.0および2.9HZ、ピロール H−4)、6.51(dd、
1H、1.3および2.9HZ、ピロール H−5)、4.71および4.46(A
Bパターン、2H、J=11.4HZ、ArCH 2)、4.66(bs、1H、H−
1)、4.39および4.33(2dd、2H、2.6、5.1および11.7HZ、
2 H−6)、4.04(m、1H、H−3)、3.97−3.87(mおよびd
d、2H、1.1および3.1HZ、H−5およびH−2)、3.80(dd、1H
、4.4および10.1HZ、H−4)、3.73(s、3H、ArOMe)、3.
68−3.52(m、2H、CH 2CH3)、3.39(s、
3H、1−OMe)、1.15(t、3H、7.0HZ、CH2CH 3)ppm。13
C NMRデータ(CD3OD)δ:167.32、160.9、131.3、1
31.0、125.3、120.1、116.3、114.7、110.2、101.
7、77.2、10.4、69.9、67.2、66.4、55.6、55.5、50.
9、および15.8ppm。
残渣をメタノール(15ml)に溶解し、炭素上パラジウム(5%、50mg
)を添加し、混合物を30psiで3時間加水素分解した。触媒を濾過除去し、
濾液を減圧下濃縮し、メタノール−水(1:1、0.6ml)中のアンモニア(
2%)に再溶解し、クロマトグラフィー(3ml C−18スペルコ(Supelco
)、メタノール−水 2:3)を行った。貯留した産物含有画分からメタノール
を減圧下除去し、残渣を凍結乾燥し、6.2mgの標記化合物をアンモニウム塩
として得た。1
H NMRデータ(CD3OD)δ:7.35(m、1H、ピロール H−2)、
6.75(dd、1H、2.0および2.9HZ、ピロール H−4)、6.55(
dd、1H、1.3および2.9HZ、ピロール H−5)、4.67(br.s、
1H、H−1)、4.55(dd、1H、1.3および11.4HZ、H−6a)、
4.31(dd、1H、5.9および11.6HZ、H−6b)、3.86−3.76
(m、4H、H−2、H−3、H−4、H−5)、3.75−3.56(m、2H
、CH 2CH3)、3.40(s、3H、1−OMe)、1.21(t、3H、HZ
、CH2CH 3)ppm。
実施例6
チャペロンの結合の阻害に関する化合物の試験におけるチャペロンのアッセイお
よびその使用
強くPapDに結合するペプチドまたはペプチド模倣物を最終的に同定するた
めに、良好なアッセイが必要である。マルトース結合蛋白(MBP)は、Pap
Dによって認識されるように発明者らにより加工された。遺伝子の3'末端に融
合した配列をコードするリンカーアームを伴ったMBPをコードする市販
プラスミドpMAL−P2を用いた。MBPはペリプラズム空間中に分泌され、
アミロース樹脂を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより容易に精製さ
れる。MBPは、20mMマルトースでカラムから溶出される。MBPと同時に
発現された場合、PapDはMBPと同時に溶出されないが、MBPにPapG
のCOOH末端を融合させた場合には、MBPに結合したPapDを生じ、アフ
ィニティーカラムから同時に溶出される複合体を形成する。この方法を用いて、
PapGのカルボキシ末端の140個(MBP−G1'−140')および134
個(MBP−G134')のアミノ酸をMBPに融合させると、マルトースアフ
ィニティークロマトグラフィーにより精製される強力なPapD−MBP複合体
の形成を引き起こすことが見いだされた。MBP融合物とPapDとの間の複合
体は、PapD−PapG複合体の安定性と同様、3Mまでの尿素中で安定であ
ることが示され、このことは、PapGのCOOH末端134個のアミノ酸が、
おそらくチャペロン認識モチーフの大部分を含むことを示すものである。さらに
、これら2つの残基の変異によりMBP融合蛋白へのPapDの結合が消失した
ので、MBP融合蛋白への結合は、本明細書記載のごとく、普遍的なチャペロン
アンカリング残基Arg−8およびLys−112に依存することが証明された
。
P繊毛産生細胞中に融合蛋白を同時に発現させることによりMBP−G融合物
が繊毛の集合およびそのことによる細菌の付着を阻害する能力を試験することも
興味深い。PapDがMBP−G融合物に結合する場合、それは繊毛サブユニッ
トとは別に滴定され、よって繊毛形成を減少または消失するであろう。この方法
は、表面に局在する付着素の集合を妨げることによりチャペロン結合ペプチドが
病原毒性を消失しうるという考えを正当なものにするための1つの機構であろう
。この分析を用いて、P−繊毛産生株において、MBP−G1'−140'および
MBP−G134'融合物の同時発現は、細菌の赤血球細胞への結合および凝血
を引き起こす能力を完全に失わせることが見いだされた。さらに、HB101/
pPAP5−細菌中でMBP−G1'−140'融合物の同時発現後、電子顕微鏡
によって細菌表面上の繊毛と見られるものを検出することは不可能であったこと
が、最近本発明者らにより示された。このことは、繊毛サブユニット
と分子チャペロンとの間の結合の防止/阻害もまたインタクトな繊毛の集合を妨
げるという本発明により示された理論に関する証拠である。
これらの結果は、図3に示す結晶構造の生物学的妥当性を支持するものであり
、カルボキシ末端認識部位を当該蛋白に融合させることによって他の蛋白をPa
pDにより認識させるように加工することができることを示している。MBP−
G134'およびMBP−G1'−140'融合物を精製して、PapDとの相互
作用を測定するためのインビトロアッセイを確立した。精製融合蛋白をマイクロ
タイタープレートのウェル上に被覆し、PapDが融合蛋白に結合する能力をE
LISA法により試験する。このアッセイは、チャペロンにより認識されるPa
pG上のドメインへのPapDの結合を阻害する化合物の能力を試験することを
可能にするので、重要である。さらに、精製融合蛋白をファルマシア・バイオコ
アR(Pharmacia BioCoreR)アッセイにおいて用いてPapDへの結合を定量す
ることができ、本発明化合物に関する阻害アッセイを確立する。カルボキシ末端
ペプチドはすでに、チャペロン認識モチーフの一部に対応することが示唆されて
いる。よって、カルボキシ末端ペプチドがELISAアッセイにおいてMBP−
G1'−140'融合物へのPapDの結合を阻害できるかどうかを調べることが
できる。この高スループット(through-put)アッセイの開発は、ペプチドライ
ブラリー、化学合成物質ライブラリー、天然化合物、およびペプチド模倣物をそ
れらのチャペロン結合阻害能に関してスクリーニングすることを可能にする。さ
らに、このアッセイを用いて、既知ペリプラズムチャペロンが共通の認識型を用
いるのかどうかを試験することができる。化合物のMBP−G融合物への結合を
阻害する能力について試験することに加えて、PapD−ペプチド相互作用を測
定する他のアッセイを確立した。例えば、マイクロタイタープレートのウェル上
に被覆されたペプチドへのPapDの結合を測定するためにELISAを開発し
た。このアッセイにおいて、8量体ペプチドG1'−8'WTは、19量体のG1
'−19'WTと同等の有効な阻害剤であり、該8量体はPapDの結合部位に対
するアフィニティが増大した修飾化合物を設計するための最適な出発点であるこ
とが明かとなった(実施例7参照)。
また、上記のごとく、ネイティブなPapDは、還元され変性したPapGに
結合でき、再構成アッセイ(キューン(Kuehn)ら、1991年)においてイン
ビトロでPapD−PapG複合体を回復させることができる。このアッセイは
インビボでのPapDの認識機能を反映すると提案されており、インビトロにお
いて化合物がPapDのPapGへの結合を阻害する能力を決定するために用い
られるであろう。例えば、カルボキシル末端PapGペプチドは、このアッセィ
においてPapGへのPapDの結合を阻害することが示されており、それがP
apDの繊毛サブユニット結合部位を占領することを確認する。PapD−ペプ
チド相互作用を調べるもう1つの方法は、よく知られている蛋白の開裂が起こる
速度を減少させる化合物の能力を試験することである。例えば、トリプシンでの
部分消化はPapDを残基Lys−99において開裂してP1−G1ループとす
る(図3に示す「T」部位参照)。PapDのトリプシン開裂速度はPapGお
よびPapKペプチドと共にPapDをプレインキュベートすることによって低
下させられた(実施例2と比較)。観察された結合ペプチドによるPapDの保
護は、F1−G1ループの局部的コンフォーメーションの変化、あるいは該ペプ
チドによるループの物理的接触によるのかもしれない。よって、新たな化合物が
PapDに結合し、その認識機能を妨害する能力に関する最初のスクリーニング
としてこれらのアッセイを用いてもよい。MBP−G1'−140'融合物へのP
apDの結合を阻害する強力な結合化合物は、PapDと同時結晶化されて、P
apDにより用いられる認識表面の構造的基礎を提供するであろう。新しい結晶
グラフィックのデータが利用できるようになると、チャペロンの繊毛サブユニッ
トへの結合能および繊毛の集合を媒介する能力に対する部位特異的突然変異の影
響を調べることにより、重大なPapD−阻害剤またはPapD−エンハンサー
の相互作用の関連性が試験されるであろう。この重要な情報は、いかにしてチャ
ペロンがサブユニットおよびチャペロン−サブユニット相互作用を認識するのか
を決定することを可能にするであろう。
定量的なチャペロン結合アッセイも開発した。Ser−9'がCysにより置
換されている修飾PapGペプチドを合成した。ペプチドに結合したPapDの
結晶構造から、Ser−9'の側鎖はPapDと相互作用しないことが予想され
た。その代わりに、この側鎖は溶媒に向けられていたが、Ser−9'はPap
Dとペプチドととの間の相互作用ジッパーの最後のアミノ酸に隣接していた。次
いで、環境的に感受性のある蛍光プローブ5−IAF(5−ヨードアセトアミド
フルオレセイン)を、Cys残基上のスルフヒドリル基を介してペプチドに共有
結合させ、標識されたペプチドを精製した。もちろん、他のいかなる適切な環境
的に感受性のある蛍光プローブを使用してもよい。PapDをペプチドに添加す
ることは、蛍光強度の著しい減少およびエミッション極大の変化を引き起こすこ
とがわかった。この情報を用いて、PapD−ペプチド相互作用に関する結合定
数を計算した。濃度を上昇させながらPapDを添加した後の514nmにおけ
る蛍光強度の変化を測定した。PapD濃度に対して蛍光強度をプロットするこ
とにより、2.5x10-6Mという結合定数が計算された(市販コンピューター
プログラム「カレイダグラフ(Kaleidagraph)」により計算を行った)。
よって、競合的にPapDに結合する物質の添加が競合物質が系においてより
少ないかまたは存在しない状況と比較して蛍光の増加を引き起こすので、定量的
様式でPapDに結合する他の物質の結合定数を評価することが可能である。
MBP−G1'−140'をここに記載のPapGペプチドの代わりに用いて、
類似のアッセイ系が開発されよう。この融合蛋白はPapDにおける2つの結合
部位と相互作用することがわかったので、1)第二の結合部位(ドメイン2上に
ある)に対する結合アフィニティーを定量すること、および、2)当該2つの結
合部位のいずれかと相互作用する化合物をスクリーニングし、その相互作用を定
量することが可能であろう。もちろん、適当な環境的感受性のあるプローブを用
いて部位2ペプチドを標識することにより、上記と同じ方法論を用いて結合定数
を決定することが可能になるであろう。
DegPプロテアーゼがチャペロン非存在下において繊毛サブユニットの分解
に大いに関与しているという発見は、degP41株を、本発明化合物によって
PapDに及ぼされる影響のインビボ試験系についての興味ある候補にする。
DegP-細菌は蓄積している繊毛サブユニットを分解することができないの
でチャペロンと繊毛サブユニットの間の結合を防止、阻害または促進する物質を
degP41株を含む系に投与する場合、該物質は、少量でさえも細菌に対して
毒性があるはずである。degP41株を用いてPapDのドメイン2上の今ま
で未知の結合部位を同定したことに留意すること、実施例10参照。
しかしながらかかるアッセイは、試験される物質がその効果を発揮する前にペ
リプラズム空間に入ることができることを要求する。チャペロン−サブユニット
相互作用に対する所望の効果を有するが、例えば、親水的すぎてペリプラズム空
間に入ることのできない物質を、このタイプのアッセイは「無視」するであろう
から、この事実は、このタイプのアッセイを先導化合物に関するスクリーニング
アッセイとしてはあまり適当でないものにする。他方、当該系は、本明細書記載
のインビトロアッセイにおいてうまく作用することがすでにわかっている物質の
臨床的潜在能力を評価するためにうまく適するであろう。
モデルPapD系を設定すれば、上記実験をもちろんPapD様ファミリーの
チャペロンの他のメンバーを包含するように拡張することができる。このように
して、チャペロン認識およびグラム陰性細菌におけるチャペロン認識型の分子的
根拠についての一般的要求事項を確立することが可能となるであろう。
分子チャペロンとの相互作用の決定のためのいくつかの特別なアッセイを、実
施例10において詳細に記載する。
実施例7
PapDおよび他の繊毛集合チャペロンの結合部位に結合し得るペプチドおよ
びペプチド模倣物の設計
チャペロン−サブユニット相互作用についてさらに情報を得るために、全Pa
pG蛋白および他の繊毛サブユニットと重複するペプチドを合成することが考え
られる。さらに、化学ペプチドライブラリーおよびファージディスプレイライブ
ラリーの両方を用いて入手可能なチャペロンに結合するペプチドのプローブ化を
行うべきである。ペプチドはチャペロンへの結合に重大に影響し得る別々の環境
に存在するので、2つの該ライブラリーは相捕的なものである。実際には、
天然アミノ酸のいくつかが除外される場合、あるいは1個または2個の残基が不
変のままである場合には、化学ライブラリーはすべての可能なヘキサペプチドお
よびヘプタペプチドおよびオクタペプチドに限られる。チャペロンの樹脂ビーズ
への直接結合、および、対象とするペプチドの配列決定により、このライブラリ
ーを評価することができる。ファージディスプレイライブラリーは、ファージ機
能を保持しており、かつ表面上に外来ペプチドを現している、いわゆる「融合フ
ァージ」のPIII蛋白中に約1010個のペプチドを含んでいる。ペプチド含有
ファージがマイクロタイタープレートのウェル中に被覆されたPapDに結合す
る能力を、実施例6記載の方法を用いるELISAにおいて検出することができ
る。結合に関して陽性のファージを増幅し、精製し、次いで、PapDに結合す
る能力について再試験するであろう。結合に関して陽性のファージのペプチド挿
入物の配列を決定し、対応するペプチドを合成し、次いで、実施例6に記載のご
とく、PapDのMBP−G融合物への結合を阻害するそれらの能力について試
験するであろう。
上に概説した研究の結果は、「チャペロン阻害剤」として作用するリガンドの
設計および評価にとりもっとも重要であるだろう。これにも関わらず、PapD
−PapG19量体ペプチド複合体の結晶構造は、現段階においてすでにチャペ
ロン阻害剤としての小型ペプチドおよびペプチド模倣物に関する系統的名研究を
開始するためのチャペロン−リガンド相互作用に十分な洞察を与える。PapD
に対するPapG8量体ペプチド(PapG19量体ペプチドと同等、実施例6
と比較)の高い阻害能は、かかる研究の可能性を明らかにし、チャペロンに関し
て提案された結合部位の保存的特徴は、かかる阻害剤が十分に広い特異性を有し
得ることを示す。
PapDによるPapG19量体の認識における特異性は、ペプチドのカルボ
キシル末端のPapDの裂け目の残基Arg−8およびLys−112への固定
、および、ペプチド中の別の疎水性残基とPapD中の相補的な疎水性残基との
間の引き続いての「ジッパー」相互作用により提供されることが示唆された。以
下の実験はこの仮説を支持する。まず、固定残基Arg−8およびLys−11
2
における突然変異により、インビボにおけるサブユニット結合が失われた。第二
に、欠失ペプチドのC末端がArg−8およびLys−112に固定された場合
に、ペプチドとPapDとの間の疎水的な「ジッパー」相互作用が記録されない
ため、PapG19量体におけるC末端残基の欠失は、PapDへの結合の実質
的な減少を引き起こす。PapDとペプチド(または繊毛サブユニット)との間
の結合における特異性に関する「ジッパー」仮説は、以下の実験を行うことによ
り予備的に調べられた。
G1'−5'、G1'−6'、G1'−7'、G1'−8'、G1'−11'、G1'−
16'およびG1'−19'からなるPapGのC末端由来の一連の長さのペプチ
ドを調製した。G1'−8'について置換シリーズおよび欠失シリーズも合成した
。置換シリーズにおいて、Pro−1'、Phe−2'、Leu−4'、Val−
5'、Met−6'およびMet−8'をSerにより置換し、Ser−3'および
Thr−7'をAlaにより置換した(即ち、疎水性アミノ酸を極性のあるSe
rにより置換し、親水性アミノ酸をAlaにより置換した)。欠失シリーズにお
いては、G1'−8'中の1個の残基を欠失させ、8個のアミノ酸のペプチド長を
維持するため、同時にネイティブPapGの位置9'において見いだされるセリ
ンを付加した。ペプチドはすべてFmoc固相法により合成し、逆相HPLCに
より精製した。
次いで、ペプチドがMBP−G1'−140'融合蛋白へのPapDの結合を阻
害する能力を、以下のELISA試験を用いて調べた。
PBS中のMBP−G1'−140'蛋白の貯留溶液をPBSで0.1μMにま
で希釈した。マイクロタイタープレートのウェルを50μlの該蛋白溶液で4℃
で一晩被覆した。ウェルをPBSで洗浄し、200μlのPBS中の3%ウシ・
血清アルブミン(BSA)で25℃で2時間ブロッキングした。プレートをPB
Sで3回激しく洗浄し、3%BSA−PBS中1−5μMPapD蛋白50μl
と共に25℃で45分間インキュベーションした。PapDを各ペプチドと共に
(1:25の割合)30分間プレインキュベーションし、次いで、ウェルに添加
した。PBSで3回洗浄した後、3%BSA−PBS中のウサギ・抗PapD抗
血清の1:500希釈物と共にウェルを25℃で45分間インキュベーションし
た。PBSで3回洗浄した後、3%BSA−PBS中のアルカリホスファターゼ
に結合したウサギ・IgGに対するヤギ・抗血清の1:1000希釈物と共にウ
ェルを25℃で45分間インキュベーションした。PBSで3回、さらに発色用
緩衝液(10mMジエタノールアミン、0.5mMMgCl2)で3回洗浄した後
、濾過した発色用緩衝液中の1mg/mlp−ニトロフェニルホスフェート50
μlを添加し、反応物を、もし必要ならば暗所において、25℃で1時間または
それ以上インキュベーションし、次いで、405nmにおける吸光度を読んだ。
該3シリーズのペブチドの阻害力を図17−19に示し、各シリーズに関して
行った実験の数を図中に示す。図中の各ペプチドに関する縦線は実験データの統
計学的分析後に得られた95%信頼度の間隔である。長さのシリーズの評価によ
り明らかなように、ペプチドG1'−8'、G1'−11'およびG1'−16'は、
より短いG1'−6'およびG1'−7'よりも有意に有効である(図17)。この
観察結果は、G1'−19'と複合体を形成したPapDの結晶構造と非常によく
適合し、G1'−19'中のC末端の8つの残基がPapDに水素結合しているこ
とを示す。より短いペプチドG1'−6'およびG1'−7'はこの水素結合パター
ンを実現できず、それ故より阻害活性の低いペプチドである(図18)。置換シ
リーズはそれらの置換により阻害能力のより低いペプチドになるため、G1'−
8'における残基4'、5'および6'はPapDと重要な接触を形成することを明
らかにしている(図18)。欠失シリーズも、PapDとの複合体形成について
G1'−8'における残基4'、5'および6'の重要な役割を示した(図19)。
しかしながら、欠失シリーズに関して得られた結果は、欠失がG1'−8'のC末
端からN末端へと移行するにつれ、欠失シリーズのメンバーが阻害能の増加を示
すという「ジッパー」仮説を支持しなかった。
これらの予備的な結果から明らかなように、アッセイにおいて得られた結果は
、各実験において平均からの大きな偏差を示す。ここで議論したように、このこ
とに対する1つの理由は、PapDと正しくフォールディングした繊毛サブユニ
ットおよびかかるただしくフォールディングしたサブユニット蛋白のアナログと
の
間の結合の遅い動力学であるといえよう。それゆえ、少なくとも部分的に繊毛サ
ブユニット(アナログ)を変性させるために十分強力な変性効果を導入すること
によりアッセイを修飾することが考えられる。このことにより、アッセイ結果に
おける誤差が減るであろうと考えられる。大きな誤差に対するもう1つの理由は
、ELISAにおいて用いたBSAに対するペプチドの結合であるといえよう。
それ故、BSAを他の高分子に置き換えることが検討されるであろう。
PapDへのペプチドの結合に関する「ジッパー機構」が確認できる場合、P
apG8量体のPro−1'、Phe−27、Leu−4'、Met−6'、およ
びMet−8'が疎水性アミノ酸Val、Leu、Ile、Met、Phe、T
rp、TyrおよびHisにより置換されている限定的合成ペプチドライブラリ
ーを用いて、ペプチドチャペロン結合を最適化することができる。Dアミノ酸お
よびN−メチル化アミノ酸のごとき非天然アミノ酸ならびに脂肪族および種々の
芳香族鎖を含むアミノ酸も化学ライブラリーに含まれるであろう。これら5つの
位置に関して最適なアミノ酸の組み合わせは、この実施例において以下に記載す
るチャペロン阻害剤の合成に用いられよう。「ジッパー機構」が確認されない場
合、概説した方法は、PapDへの結合にとり重要であることが示されている残
基に適用されるであろう。
チャペロンの活性部位中にドッキングした後に、チャペロンと共有結合を形成
するチャペロン阻害剤が開発されるであろう。PapD−ペプチド複合体の結晶
構造は、ペプチドのC末端カルボキシル基がチャペロンのLys−112および
Arg−8に水素結合しており、ペプチドのVal−5'の側鎖はPapDのも
う一つのLysの側鎖アミノ基に近接していることを示す。最適化された8量体
ペプチドのこれらの位置へのハロゲン化アルキル、アルデヒド、酸ハライドおよ
び活性エステルのごとき反応性基の導入は、PapDのリジンへの共有結合の形
成を引き起こし、このようにしてペプチド誘導体は高アフィニティー阻害剤を構
成する。阻害剤は、残基5(C末端から数えて)および/またはC末端カルボキ
シル基が以下に示すように修飾されている9量体またはそれより短いペプチドを
基礎とする。
アルデヒドとリジン側鎖との間のかかる相互作用は、鎌状赤血球貧血に対する
有力な薬剤候補を与えた。
PapD−ペプチド結晶において、ペプチドはチャペロンにおけるβシートの
伸長を形成する。それゆえ、ペプチドにβシート様コンフォメーションを与える
制限は好ましい結合エントロピー変化を生じるであろう。環状βシートのミニチ
ュアを構成しているコンフォメーション的に制限されたペプチドまたは互いに共
有結合した1つのアミノ酸により分割されるアミノ酸側鎖を有するペプチドは、
最適化された8量体ペプチドに基づいて調製されるであろう。共有結合した側鎖
を
有するペプチドは、以下に示すフラグメントにより置換された3つの連続的なア
ミノ酸を有するであろう。
興味深い阻害剤は、チャペロンと共に同時結晶化され、その複合体はさらにN
MRスペクトル法により分析されるてあろう。
薬剤として使用されるペプチドおよびペプチド模倣物は、ペプチド結合を化入
れるする蛋白分解酵素によって迅速に代謝され得る。キモトリプシンは芳香族お
よび大型の疎水性側鎖を伴うアミノ酸のカルボキシル側のペプチド結合を選択的
に開裂する。それゆえ、PapG8量体において、Met−8'−Thr−7'、
Met−6'−Val−5'およびPhe−2'−Pro−1'のアミド結合は蛋白
分解に対して特に感受性があり、代謝的に安定なペプチド同等物によって置換さ
れるべきである。かかるペプチド同等物の例を以下に示す。
実施例8
ペリプラスミックチャペロンの繊毛により付着する細菌の感染力における役割
チャペロンを補助する繊毛集合の毒力における特異的役割は、繊毛化された野
生型と、チャペロンの活性部位における部位一定方向性変異によって繊毛化され
ていない同質遺伝子変異体との付着性および病原性を比較することにより測定す
ることができる。PapDのサブユニット結合部位を構成するArg−8および
Lys−112のような残基の変異は、点突然変異を同じ菌株の染色体のPap
G遺伝子に導入することに成功したと同じ方法を用いて臨床的単離体の菌株DS
17の細菌染色体に組み換えることができる。イー・コリの菌株DS17は、新
生児病棟内で伝染的に蔓延し、数種のケースの腎盂腎炎を誘起する。加えて、該
菌株は、カニクイザルの腎盂腎炎モデルにて急性腎感染症を誘起することが判明
した。DS17は典型的なPapG付着素を発現するPapG遺伝子との一のP
ap遺伝子群を含有する。それはまた、マンノース結合付着素、FimH
を含有する典型的な1型繊毛を発現する。1型繊毛は膀胱炎における重要な毒力
決定因子であると示唆されている。したがって、さらにFimCチャペロンのサ
ブユニット結合部位における部位一定方向性変異体を産生し、この考えを試験す
べきである。
チャペロン活性部位と結合する化合物は繊毛集合を遮断し、かくして付着を防
止すると考えられる。この考えが正当であるならば、Arg−8およびLys−
112にあるような十分に限定されたチャペロン変異体もまた、レセプター結合
を破壊するであろう。種々のチャペロン変異体のレセプター結合活性が、実施例
2および6に記載のレセプター結合ELISA検定にて測定された。1型繊毛介
在結合を測定するために、マンノースをマイクロタイタープレートのウェルに結
合させる。種々のFimCおよびPapDチャペロン変異体の固定化レセプター
への付着は、ELISA実験にてイー・コリDS17に対する抗体を用いて定量
される。さらには、スモールPapD結合ペプチドのDS17における繊毛集合
を遮断する、すなわち、レセプター結合を破壊する能力を試験する。菌株DS1
7をショートPapD結合または非結合ペプチドの存在下で増殖させ、ついでE
LISA実験にてレセプターに結合するその能力について試験する。これらの実
験は抗チャペロン阻害剤がin vitroにて細菌付着を防止する考えの正当性を確認
する上で重要な進歩を遂げるであろう。
それから、発病におけるチャペロン−集合付着素の役割が確立されるであろう
。P繊毛を発現するイー・コリと腎盂腎炎の間の因果関係は、最近まで、単に疫
学的データに基づいているにすぎなかった。P繊毛形成の菌株DS17が腎盂腎
炎をカニクイザルの正常な尿路にて生じさせることがわかっている。菌株DS1
7のPapG遺伝子の変異を対立遺伝子を置換することにより生じさせ、発病に
おけるPapG付着素の要件を試験するのに誘導菌株DS17−8を形成させた
。DS17−8は、PapG先端付着素を欠くP−繊毛の発現をもたらすPap
Gのコドン37の後に1個の塩基対欠失を有する。この変異体はin vitroにてグ
ロボシド受容体に結合できず、in situにおける付着モデルのヒトまたはカニク
イザル由来の腎細胞に結合できなかった。カニクイザルにおけるDS17とその
PapG変異株DS17−8の間の毒力を比較した。腎盂腎炎におけるPapG
付着素の役割を研究するために、5匹のサルをイー・コリ菌株DS17で感染さ
せたのに対して、細胞観察挿入尿管カテーテルを介して6匹のサルに変異株DS
17−8を投与し、その2群の間に有意な違いがあることを明らかにした。変異
株DS17−8を受けたサルでは細菌尿が平均6.8日あったのに対して、野生
型株DS17のサルでは21日であった。野生型菌株では腎臓クリアランスもま
た著しく低く、同質遺伝子PapG変異株を受容したサルではなく、野生型菌株
を受けたサルにて腎機能が有意に低下した。感染した腎臓の病理評価は、野生型
を受けた群との比較にて変異群における炎症作用の有意な減少および病理変化を
示す機能実験を確認した。
かくして、霊長類の正常な尿管にて腎盂腎炎を生じさせるのに、P繊毛の先端
でGalα1−4Gal結合する付着素が必要であると結論付けられる。今まで
、特異的細菌感染における繊毛に結合した付着素の役割についてこのような直接
的証明はなされていない。
興味深いことに、前記した実験にて、底部尿管でのコロニー形成について、ま
たは急性膀胱炎の発病についてPapG付着素が必要であるという証拠は認めら
れなかった。両方の菌株はワギナにてコロニーを形成し、腸にて生存し、膀胱感
染を誘起する。かくして、PapGは腎盂腎炎を誘起する臨界的毒性決定因子で
あるが、膀胱炎にて重要であるか明らかではない。しかし、このことは、P繊毛
のまたは1型のようなもう一つ別の型の繊毛の他の成分が膀胱炎の要件であると
いう可能性を排除するものではない。
これらの仮説は、PapDまたはFimCのArg−8の部位定方向性変異体
を含有する同質遺伝子DS17変異株の毒性を試験することにより研究されるで
あろう。変異株は、おそらく、P繊毛と1型繊毛の集合能に欠陥があるであろう
。PapD変異株がサル膀胱炎モデルにて非毒性であるならば、それは、イー・
コリが膀胱感染を生じさせるのに、PapG以外のP繊毛のある成分が要件であ
ることを示唆するかもしれない。例えば、先端フィブリルラム、PapEの主成
分は、フィブロネクチンに結合することがわかっており、フィブロネクチンは膀
胱
炎における重要因子とすることができる。同様に、FimC変異株が非毒性であ
るならば、それは膀胱炎の誘起におけるマンノース結合1型繊毛の役割を確認す
ることとなる。これらの点変異の腎盂腎炎または膀胱炎のいずれかの誘起におけ
るDS17の毒力の破壊能は、チャペロン阻害剤についてのその治療的可能性を
確認するであろう。
実施例9
PapDとK1'−19'WTの間の結合のモチーフの同定
PapD−G1'−19'WT結晶構造にて観察されるような(実施例1参照)
ピリンサブユニットのC−末端ペプチドのPapDに対する結合モードの普遍性
を確認するために、第2のPapD−ペプチド複合体をX−線結晶学により研究
した。堅固な結合がPapKの野生型C−末端19アミノ酸から誘導されるペプ
チド(K1'−19'WT、配列番号:18および本明細書にてC−末端Arg−
1'からN−末端Lys−19'まで番号を付す)について観察されるため、第2
のPapD複合体ではこれをペプチドとして用いていると決定された。
入手する物質;蛋白質&ペプチド
PapDを前記(Holmgrenら、1988)したように調製し、米国、セントル
イス、ワシントン医科大学、分子微生物学科、スコット・ハルツレン(Scott Hu
ltgren)博士より得た。ペプチドK1'−19'WTをFmoc固相合成法により
調製し、逆相HPLCにより精製し、スウェーデン国、ランド、ランド大学、化
学科、ジャン・キルバーグ(Jan Kihlberg)博士より入手した。
PapD−ペプチド複合体の結晶化
多数の異なる実験条件を以前にPapD−G1'−19'WT結晶を得るのに用
いた実験条件について検討した後、PapD−K1'−19'WT複合体の最良の
結晶を、20%PEG8000、0.1MMES(pH6.5)に対する蒸気拡散
法により成長させた。結晶化ドロップは等量のレザバーおよび蛋白質溶液を含有
した。該蛋白質溶液(15mg/ml)は、1.0%β−オクチルグルコシド(
β−OG)を含む20mM MES(pH6.5)中にPapDをペプチドに対し
て1:1のモル比で含有した。
これらの結晶を密封したクオーツガラスキャピラリー管の内部に固定し、最初
、X−線プレセッションカメラで試験することにより特徴付けた。かかる映像を
標準分析に付し、前記した結晶が、単位次元、a=57.1Å、b=153.2Å
、c=135.4Åおよびα=β=γ=90°、非対称単位中に2分子を有する
斜方晶系空間群、C2221(すなわち、C2であるPapD−G1'−19'W
T結晶と異なる)を有し、および回転対陰極およびCu Kα標的を有するLab
X−線源上、2.7Å分解に回折することが証明された。
実験データの収集&処理
PapD−K−ペプチド結晶に関する強度データを、アップサラ、シンビコム
(Symbicom)ABの、R−AXISH領域−検出器システム(R−AXIS由来
)にて収集した。すべてのデータを単結晶より入手し、最初、DENSOソフト
ウェアパッケージ(Otwinsky,1993)で処理した。しかしながら、該データ
のマージングおよびスケーリングは、CCP4パッケージ(CCP4、1979
)からのROTAVATAおよびAGROVATAを用いて行った。最終データ
は20.0と2.7Å分解の間のデータについて8.7%のRsymを有する15,
989独立性反射作用を有した。
3次元構造の構造決定
複合体の構造を、プログラムXPLORを用いる標準分子置換法により解決し
た(Brunger,1992)。実験モデルとして、精製した2.0Å分解構造のPa
pDを用いた(HolmgrenおよびBranden,1989)。8.0〜4.0Å分解デー
タを用いると、自己回転機能は再び明確な非結晶学二回軸を付与した。トランス
レーション機能における最大ピークもまた正確な解答を付与した。トランスレー
ション機能に付した後、R−ファクターは8.0〜4.0Åの分解データでは
36.7%であった。その後、固定体を精製し、そのすべてにおいて非対称単位
の2PapD分子の4ドメインを独立して精製し、同一データで33.6%のR
−ファクターを得た。
この段階でのグラフィックプログラムO(JonesおよびKjeldgaard,1994
)を用いる|Fo|−|Fc|電子密度マップの試験は、PapDクレフトにおけ
るK−ペプチドに対応し、G−蛋白質にて見られる型に類似の型にて蛋白質の表
面に沿って広がる明瞭な密集状態を明らかにした。ペプチドの方向性は、電子密
度より容易に測定されるが、最初、該ペプチドの最後の12C−末端アミノ酸だ
けを密度にてモデル化できるにすぎなかった。
精製および構造分析
XPLORを用いるシミュレートしたアニール精製(Brunger,1992)を
この段階で開始した。さらにモデル構築および精製の数回のサイクルを、ペプチ
ドのN末端に加えられたさらに2個のペプチドのアミノ酸で実施し、8.0〜2.
7Å分解データでの19.2%のモデルに対するR−ファクターを得た。この段
階の精製のモデル(水分子を有さず、該ペプチドの最初の5個のN−末端アミノ
酸を有しない)は、結合長について0.019および結合角について3.8°の理
想ジオメトリーに由来の根平均自乗(rms)偏差を有する。
2種のPapD−ペプチド複合体が異なる空間群にて説明されているにもかか
わらず、その全体の構造は、PapD−G1'−19WT構造について前記した
形式と実質的に同じ形式にてPapDと相互作用するペプチドと非常に類似する
ことが判明した。かくして、K1'−19WTペプチドは、再び、ドメイン間ク
レフトおよびサブユニット結合部位の範囲内にアンカーされたC−末端Arg−
1'と伸長したコンホメーションにて結合することが明らかにされた。また、水
素結合がペプチドのカルボキシ末端とPapDの2つの不変正電荷残基、Arg
−8およびLys−112の間に形成される。ついで、K1'−19WTペプチ
ドがN−末端ドメインの表面に沿って広がり、鎖G1と平行なβ−鎖相互作用を
形成する。このように、9主鎖の間にて、ペプチドの10'〜2'残基とPapD
のVal−102〜Lys−110の間に水素結合が形成され、かくしてPap
Dのβ−シートよりペプチドに伸長する。
加えて、二量体結合がPapD−G1'−19WT結晶構造に見られる単位格
子に類似する格子内の2種のPapD−ペプチド複合体の間で観察される。第2
のPapD−ペプチド複合体を第1の複合体に隣接して配置する非結晶学上の2
回回転対称の結果として、β−シートが伸長され、その結果、2つの結合ペプチ
ド鎖が、抗−平行β−鎖として、再び合計10のβ−鎖からなる2つの複合体の
間に形成される混合β−シートと相互作用する。2つのPapD−ペプチド複合
体の間の主たる違いは、単に、PapD−K1'−19WT構造において、非結
晶学上関連する複合体のペプチドが2種の残基をそのパートナーのCOOH末端
により近く位置させるというだけである。こうして、8個の水素結合がPapD
−G1'−19WT複合体のペプチドの間に形成されるが、PapD−K1'−1
9WTでは合計10個の水素結合が観察される。
C−末端残基Tyr-2'およびArg−1'は別として、ペプチドの側鎖とP
apDの間でも相対的にほとんど接触はない。主な相互作用は、主鎖のG1鎖に
対する水素結合により得られる。しかしながら、特にペプチドのTyr-6'とG
1鎖のIle−105およびLeu−107の間のβ−シート内に多数の疎水性
相互作用がある。
実施例10
PapDにおける第2の結合部位の同定および新規検定の発達
序論
チャペロン結合検定は、PapGのCOOH末端の増長を含む、MBP/G融
合を用いるPapD−PapG相互作用を叙述するために発達した。PapGの
COOH末端の増長を欠くPapG切形蛋白質に結合するPapDの能力もまた
試験した。
実験操作
細菌株
MBP/G融合蛋白質を含む研究における宿主菌株として、イー・コリ菌株H
B101(Maniatisら、1982)を用いた。宿主として菌株DH5αを用い、
MBP/G融合蛋白質(Hanahan、1983)およびPapG切形を構築した。
KS474(degP::kan)(Strauchら、1989)は、J.Beckwithに
より提供され、PapG切形蛋白質を発現させるのに用いられた。
プラスミド構築
イー・コリ発現プラスミドpMAL−p2(米国、マサチューセッツ州、ビバ
リー、ニューイングランド・バイオラブス)を、基本的にマニアティス(Maniat
is)の操作(Maniatisら、1982)を用い、pMAL−p4、pMAL/G1
'−19'、pMAL/G1'−81'およびpMAL/G1'−140'を構築する
ために用いた。pMAL−p2によりコードされるmalE遺伝子は、3'末端
に融合したlacZα配列を有する。プラスミドpMAL−p2をSalIで消
化し、クレノーで充填した(Maniatisら、1982)。フラグメントを連結し、
得られたpMAL−p4と称されるプラスミドは、malEとlacZα配列の
間に停止コドンを有する。プラスミドpMAL−p4をHindIIIで消化し、
クレノーで充填し、得られたプラスミドをClaIリンカー、5'CCATCG
ATGG3'(米国、マサチューセッツ州、ビバリー、ニューイングランド・バ
イオラブス)と連結し、プラスミドpMAL−p5を生成する。プライマー23
969(5'CCCCCCTGCAGATCAGATTAAGCAGCTACC
TGC3'、配列番号:23)およびプライマー23557(5'CCCCTGC
AGTAAAAATATCTCTGCTCAGAAATAC3'、配列番号:2
5)を、鋳型としてpPAP5(ハル(Hull)ら、1981;リンドバーグ(Lind
berg)ら、1984)を用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に用いた。Pa
pGのアミノ酸残基1'−81'および1'−140'の領域をコードするDNAフ
ラグメントを、各々、プライマー23557および2
3559ならびにプライマー23969および23559を用いるPCR反応よ
り得た。増幅DNAフラグメントを精製し、PstIおよびClaIで制限し、
PstIおよびClaI制限pMAL−p5フラグメントに連結し、各々、pM
AL/G1'−81'およびpMAL/G1'−140'を構築した。pMAL/G
1'−19'を形成するのに、2種のヌクレオチドオリゴマー(5'GGAAAG
AGAAAACCCGGGGAGCTATCTGGTTCTATGACTATG
GTTCTGAGTTTCCCCTGAT3'、配列番号:27)を化学合成し
、アニールした。PapGのカルボキシ末端1'−19'アミノ酸残基の配列を有
するアニールDNAフラグメントをPstI−ClaI pMAL−p5フラグ
メントに連結し、pMAL/G1'−19'を生成する。この研究にて用いる構築
物はすべて、製造業者の指示(米国、オハイオ州、クレーブランド、USB)に
従って、シーケエンス・バージョン・2.0を用いるDNA配列決定分析により
確認した。pHJ14(PapG3)を、pHJ8(Ptacプロモータープラス
ミド、pMMB66におけるwt PapG)をBamHIおよびBglIIで消
化し、およそ500個のヌクレオチドを除去し、大きなフラグメントを精製して
再連結した。まずpapGをEcoRIおよびBamHIでpUC19にクロー
ンし、HincIIで消化しておよそ最後の300個のヌクレオチドを除去し、再
連結することによりpHJ23(PapG2)を形成させた。ついで、EcoR
I−HincIIフラグメントをpMMB66にクローンし、pHJ23を生成し
た。
MBP/G融合の誘発および部分精製
MBPまたはMBP/G融合遺伝子プラスミドを有する菌株を、1mMイソプ
ロピルチオガラクトシド(IPTG)を含むLBブロス培養体中で誘導した。ペ
リプラスミック抽出物を記載(Slonimら、1992)に従って調製した。10分
の1の容量の10xリン酸緩衝液セイライン(PBS、120mM NaCl、2.
7mM KCl、10mM Na2HPO4および2mM KH2PO4、pH7.4)を
そのペリプラスミック抽出物に加えた。ついで、アミロース樹脂を該ペリプラ
スミック抽出物に1:5の割合で添加した。該混合物を4℃で一夜振動させ、そ
の後、ビーズをPBSで5回洗浄した。4℃で1時間振動させることで、MBP
またはMBP/G融合蛋白質をPBS中20mMマルトースで溶出させた。蛋白
質濃度をBio−Rad DC蛋白質検定キット(米国、カリフォルニア州、ハーキ
ュレス、バイオーラド・ラボラトリース(Bio-Rad Laboratories))を用いて測
定した。全長の融合蛋白質の濃度をさらに、標品として既知濃度のウシアルブミ
ン(BSA)を用いるクマシー染色SDS−PAGEゲルで定量し、濃度計スキ
ャンに付した。
PapDおよびMBP/G融合蛋白質の間の相互作用の特徴化
HB101/pLS101/pMAL−p4、HB101/pLS101/p
MAL/G1'−19'、HB101/pLS101/pMAL/G1'−81'お
よびBH101/pLS101/pMAL/G1'−140'由来のMBPまたは
MBP/G融合調製物を、等電点電気泳動(IEF)pI3−9ゲル(スウェー
デン、ファルマシア、ファルマシア・ファスト・システム(Pharmacia Phast Sy
stem))または12.5%SDS−PAGEに適用し、つづいて銀染色、クマシ
ーブルー染色または記載(クーン(Kuehn)ら、1991)されているように抗
PapD抗血清を用いるイムノブロットに付した。
HB101/pLS101/pMAL−G140由来の部分精製したMBP/
G1'−140'調製物(1μg)を、0−5M尿素中、25℃で5分間インキュ
ベートすることにより、PapD−MBP/G1'−140'複合体の尿素中での
安定性を測定した。蛋白質を銀染色を用いるIEF(pI3−9)により分析し
た。IEFゲル上のPapD−MBP/G1'−140'複合体を濃度計(デジタ
ル・イメージング・システム、Is−1000)により定量した。
in vitroにおけるPapDとMBP/G融合の間の相互作用を、精製したPa
pD(1μg)およびアミロースビーズアフィニティー精製したMBP/G融合
蛋白質(1μg)をPBS(4μl)中にて30分間インキュベートし、ついで
IEF(pI3−9)に付し、つづいて銀染色した。より定量的であるも
う一つ別のin vitro検定は、後記するELISAである。
PapDとPapG切形体の間の相互作用の特徴化
PapDおよびPapG−切形体をKS474にて共同発現させ、その切形体
を0.5mM IPTGでOD6000.6にて誘発し、アラビノースプロモーターの
制御下にあるPapDを0.2%アラビノースで誘発した。1時間誘発した後、
前記したように(Kuehnら、1991)、ペリプラスミック抽出物を調製し、G
alα(1−4)Galビーズと一緒に4℃で一夜振動し、15μg/mlGa
lα(1−4)Gal−TMSET溶液で溶出した。溶出液を酸性天然ゲル電気
泳動(Strikerら、1994)により、つづいて抗−PapDおよび抗−Pap
G抗血清を用いるウェスタンブロットにより分析した。
赤血球凝集価
種々のMBP/G融合プラスミドを有するHB101/pFJ3をトリプチカ
ーゼ・ソイ・アガー(米国、メリーランド州、コッキースビル、ベクトン・ディ
キンソン(Becton Dickinson)、TSA)上で3回継代し、P−繊毛発現を誘発
した。最終継代で、MBP/G融合体の発現を100μM IPTG含有のTS
A上で誘発させた。ついで、種々の菌株由来の細胞を収集し、HA力価を記載
(Jacob-Dubuissonら、1993b)に従って測定した。
繊毛調製および定量
TSAプレートより得られた細胞を収集した。繊毛を前記した操作(Jacob-Du
buissonら、1993b)を用いて同量の細胞より調製した。これらの繊毛調製
物を4M尿素を含むLammeli試料緩衝液中にて煮沸し、ついでクマシーブルー染
色したSDSポリアクリルアミドゲル上で分析した。相対的な繊毛化量をPap
A帯の濃度計スキャンにより定量した。
ELISA検定
MBP/G融合蛋白質のPBS中ストック溶液をPBSで40ピコモル/50
μlに希釈した。40ピコモル/50μlのMBP/G融合蛋白質溶液を連続的
にPBSに希釈し、各50μlの溶液を用いて96−ウェルNunt Immunoplate
(デンマーク、ロスキルドDK−4000、インター・メッド(Inter Med))
のウェルを4℃で一夜コートした。ついで該ウェルをPBSで洗浄し、200μ
lのPBS中3%BSAを用いて25℃で2時間ブロックした。該プレートをP
BSで勢いよく3回洗浄し、50μlの3%BSA−PBS中50ピコモルのP
apDで希釈したPapD(50μl)と一緒に25℃で45分間インキュベー
トした。PBSで3回洗浄した後、該ウェルをウサギ抗−PapD抗血清の3%
BSA−PBSの1:500希釈体で25℃で45分間インキュベートした。P
BSで3回洗浄した後、該ウェルをヤギ抗血清のアルカリ性ホスファターゼ/3
%BSA−PBSに結合させたウサギIgGに対する1:1000希釈体で25
℃で45分間インキュベートした。PBSで3回洗浄し、顕色用緩衝液(10m
Mジエタノールアミン、0.5mM MgCl2)で3回洗浄した後、顕色用緩衝液
中濾過した1mg/mlのp−ニトロフェニルホスフェート(50μl)(米国
、ミズリー州、セントルイス、シグマ(Sigma))を添加した。反応物を暗所中
25℃で1時間インキュベートし、405nmでの吸光度を読み取った。
別の部位のペプチドを検定する場合、すべてのペプチドをジメチルスルホキシ
ド(DMSO、米国、ミズリー州、セントルイス、シグマ)に溶かし、最終濃度
2mMとした。ストック溶液をPBSにて適当な濃度に希釈し、マイクロタイタ
ーのウェルに4℃で一夜コートした。すべてのペプチド溶液を同一のDMSO濃
度に調整した。その後の工程は前記した操作に従った。
結果
MBP/G融合
PapD相互作用に対して本質的なPapGにおける決定因子を同定するため
に、マルトース結合蛋白質をコードする、MalE遺伝子と、PapGのCOO
H−末端残基1'−19'、1'−81'および1'−140'をコードする配
列の間でフレーム融合にて3種を構築した(図20)。得られたキメラ蛋白質は
、各々、MBP/G1'−19'、MBP/G1'−81'およびMBP/G1'−
140'と称せられ、MBP/G融合に存在するPapGの領域を示す。Pap
Dが、最近、in vitroにてPapDのC−末端19アミノ酸からなるペプチドに
結合することがわかったため(Kuehnら)、MBP/G1'−19'を作製した。
MBP/G1'−81'およびMBP/G1'−140'を作製し、PapDによる
認識についてのジスルフィド結合(PapGのC196−C228)の必要性を
試験した。同様に位置するジスルフィド結合が、実質的に、すべての繊毛サブユ
ニットにて見られた(Simonsら、1990)。MBP/G1'−81'は2個のシ
ステイン残基を欠き、それに対してMBP/G1'−140'はジスルフィド結合
を含有した(図20)。
in vivoにおけるPapD−MBP/G相互作用
PapDのMBP/G融合への結合能を、アミロースアフィニティークロマト
グラフィーを用いて研究した(KellermannおよびFerenci、1982)。Pap
DをプラスミドpLS101(Slonimら、1992)より、各MBP/G融合で
共同発現させた。MBP/G蛋白質およびPapD含有の各菌株に由来のペリプ
ラスミック抽出物をアミロースアフィニティークロマトグラフィーに付し、溶出
液をSDS−PAGE(図21A)および抗−PapD抗血清を用いるウェスタ
ンブロット(図21B)より分析した。この検定において、PapDの共同溶出
はPapDのMBP/G蛋白質との相互作用能を表した。ウェスタンブロットは
、PapDが3種のすべての融合蛋白質と共同溶出したが(図21B、レーン2
、3および4)、MBP対照とは共同溶出しないこと(図21Aおよび21B、
レーン1)を明らかにした。しかし、共同出液のクマシーブルー染色ゲル(図2
1A、レーン4)と同様に、ウェスタンブロット(図21B、レーン4)にて観
察できるように、PapDはMBP/G1'−140'融合とより一層強く相互作
用した。かくして、PapDはMBP/G1'−140'蛋白質と強く相互作用し
、MBP/G1'−19'およびMBP/G1'−81'蛋白質とほんのわず
かに相互作用したにすぎなかった。
銀染色した等電点電気泳動(IEF)ゲルの溶出液を分析し、PapD−MB
P/G1'−140'複合体が、MBP/G1'−140'(〜4.4)とPapD
(〜9.1)の間の中間の値である5.2の等電点(pI)で移動する(図21C
、レーン4)ことがわかった。非染色帯を削り取り、その物質をSDS−PAG
Eに加え、抗−PapDおよび抗−MBP抗血清を用いるウェスタンブロットに
より分析することにより、この帯がPapDとMBP/G1'−140'の両方を
含有することが確認された(図21D)。PapDを用いて共同発現させた場合
、MBP、MBP/G1'−19'またはMBP/G1'−81'の溶出液にて安定
した複合体を検出することは不可能であった(図21C、レーン1、2および3
)。PapD−MBP/G1'−140'複合体の安定性を、15mM DTTの
存在下、尿素濃度の関数として測定した。PapD−PapGおよびPapD−
MBP/G1'−140'複合体は共に、これらの条件下で同じように行動し、2
M尿素中でインキュベートした後に解離させた(データ示さず)。これらの特徴
により、PapD−MBP/G1'−140'複合体はPapD−PapG複合体
と同様に安定であった。
MBP/G蛋白質の発現は繊毛形成を阻害する
PapDはP−繊毛の形成に必須である(Hultgrenら、1991)。ペリプラ
ズムにおけるPapD濃度の減少が、繊毛形成の付随する減少を誘起することが
証明されている(Slonimら、1992)。papオペロンとの形質転換にて共同
発現されたチャペロンサブユニット複合体形成を阻害することによるMBP/G
融合体の繊毛形成遮断能を試験した。プラスミドpMAL−p4、pMAL/G
1'−19'、pMAL/G1'−81'およびpMAL/G1'−140'は、ベク
ターpACYC184におけるそれ自身のプロモーターの調整下、papオペロ
ンを含有するHB101/pFJ3菌株に形質転換された(Jacob-Dubuissonら
、1993b)。SDS−PAGEおよび抗−MBP抗血清でのウェスタンブロ
ットにより決定されるように(データ示さず)、各MBP/G融合蛋白質をペ
リプラズムに局在化させた。赤血球凝集(HA)検定を、papオペロンをMB
P(pMAL−p4)、または各MBP/G融合体のいずれかと共同発現する細
胞上で行った。MBP/G1'−140'融合体のpapオペロンとの共同発現は
、MBP対照と比較してHA力価を30倍減少させた(表3参照)。
MBP/G1'−81'およびMBP/G1'−19'融合体のpapオペロンと
の共同発現はHA力価にてほんのわずかな効果を有した(表3)。MBP/G1
'−140'のpapオペロンとの共同発現は、細胞より精製することができる繊
毛の数を90%まで減少させるのに対して、MBP/G1'−19'およびMBP
/G1'−81'はMBP単独の場合と比較して形成される繊毛の数を約50%ま
で減少させた(表3)。電子顕微鏡にて、MBP/G1'−140'融合を発現す
る細胞は、MBPを共同発現する十分に繊毛化された細胞と比較してほとんどま
たは全く繊毛を有しないことを確認した(データ示さず)。
本発明者らはMBP/G1'−140'融合のpapオペロンとの共同発現が、
サブユニットより離れているPapDを滴定し、こうしてサブユニットを凝集お
よび蛋白質加水分解変性の失活経路に推し進めることにより繊毛形成を阻害する
と仮定した(Hultgrenら、1989;Holmgren、1992)。この仮定を以下の
ように試験した。pMAL−p4、pMAL/G1'−19'、pMAL/G1'
−81'またはpMAL/G1'−140'をpFJ22を有するBH101に形
質転換させた(Jacob-Dubuissonら、1994)。プラスミドpFJ22は、Pt ac
プロモーターの制御下、papDJKEFGAをコードする。HB101/p
FJ22にて、繊毛サブユニットは、先導体であるPapCが不在のため、ペリ
プラスミック空間に蓄積する。各繊毛サブユニット型の発達結果に対する各融合
を発現する効果をウェスタンブロットにより測定した(図22)。MBP/G1
'−140'融合を共同発現する細胞中のPapG、PapAおよびPapFの量
の有意な減少が、MBP/G1'−140'融合が、PapDと相互作用し、繊毛
サブユニットと離れてトラップすることでチャペロン−サブユニット複合体形成
を遮断することから見いだされた。理解されないため、PapKおよびPapE
の安定性に対して何の効果もなかった。にもかかわらず、融合は、臨界的なチャ
ペロン−サブユニット複合体の形成を妨げることにより繊毛形成遮断能を有した
。
in vitroにおけるチャペロン結合検定
MBP/G融合蛋白質に結合するPapDを、さらに2種の異なるin vitro検
定にて試験した。最1の検定にて、精製したMBP/G融合蛋白質またはMBP
をPapDとインキュベートし、複合体形成を銀染色IEFゲルで分析した。P
apDはMBP/G1'−140'融合蛋白質に結合し、in vivoにて形成される
複合体に見られるのと同じpI(5.2)に移動する安定な複合体を形成した(
図23A、レーン4)。対照的に、PapDと、MBP/G1'−81'、MBP
/G1'−19'またはMBP対照との間で複合体は検出されなかった(図23A
、レーン1、2および3)。第2の検定にて、本発明者らはマイクロタイ
ターウェルに固定された3種の異なるMBP/G融合蛋白質とのPapDの結合
能を試験し、抗−PapD抗血清を用いる固相酵素免疫測定法(ELISA)に
てその相互作用を定量した(図23B)。PapDはMBP/G1'−19'に弱
く、MBP/G1'−81'に対してわずかに強く結合するが、MBP/G1'−
140'に非常に強く結合した。PapDはMBP対照と結合しなかった。MB
P/G1'−81'およびMBP/G1'−19'融合と比較した場合、MBP/G
1'−140'融合についてPapDの親和力の劇的な増加は、PapGの81'
ないし140'残基がPapDの強結合について臨界的であることを示唆した。
PapDの不変クレフト残基Arg−8およびLys−112が、繊毛サブユニッ
トを結合させるのに必須であるチャペロン・クレフトにて分子アンカーを形成す
ることがわかった(Slonimら、1992;Kuehnら、1993)。これら残基の
変異は、PapDのサブユニットおよび介在繊毛集合との結合能を破壊するか、
または著しく減少させた(Kuehnら、1993)。Arg−8AおよびLys−
112A変異体PapD蛋白質は、in vivoおよびin vitroの両方にてMBP/
G1'−140'融合蛋白質への結合能を著しく減少させることを示した(データ
示さず)。これらの結果はPapDとMBP/G1'−140'融合の間の相互作
用が生物学的に関連していることを立証する。
上流部位は独立した結合決定因子である
本発明者らは、上流PapD結合部位の限界を叙述し、独立した部位として機
能する能力があるかどうかを試験するために、PapDの3つのPapG CO
OH末端切形蛋白質(図20に図示)への結合能を試験した。切形蛋白質を、P
apG1遺伝子座にカナマイシンカセットを有する(degP41変異体)KS
474菌株にてPapDと共同発現させた(Strauchら、1989)。PapG
2およびPapG3切形体は共に発現し、KS474にて安定していたが、Pa
pG1切形体(最後の14個の残基を除去)は限定減成を受けた(データ示さず)
。複合体形成を、酸天然アクリルアミドゲル上のペリプラスミック抽
出物を分析することにより検定した(Strikerら、1994)。抗PapDおよ
び抗PapG抗血清を用いてウェスタンブロット法にてPapD−PapG複合
体を検出した(図24)。PapD−PapG複合体を、その大きさ、形状およ
び電化の違いにより、これらゲル上の単独のPapDより分割する(Strikerら
、1994)。PapDは全長PapGならびにPapG2切形体との複合体を
形成した(図24A、レーン2および3)。複合体帯もまた、抗PapG抗血清
により認識された(図24B、レーン2および3)。PapDは、アミノ酸14
5で限界をなす、PapG3切形体との複合体を形成しなかった(図24A&B
、レーン4)。この情報は第2のPapD結合部位の終点を記述している(図2
0に示す)。
PapG切形体とMBP/G融合データを合すると、PapDにより認識され
るPapG上の第2の部位はPapGの117'ないし141'残基の間の部位に
存することがわかった。120'ないし156'残基の間の領域に対応する4つの
重複ペプチドを合成し、ELISA検定にてPapDに結合するその能力につい
て試験した。このような計略はCOOH末端PapD結合部位の研究における成
功を立証した(Kuehnら、1993)。125'ないし140'残基に対応するが
、他の3つのペプチドに対応しないペプチドをELISAにてPapDに結合さ
せた(図25)。これらのデータは、PapDがPapGの両面を認識すること
を示す。PapDはCOOH−末端とのベータ鎖ジッパーリング相互作用を形成
するが、また125'−140'残基を含有する領域を認識する。
検討および結論
結論にて、チャペロン結合検定をPapGのカルボキシ末端のマルトース結合
蛋白質への融合(MBP/G融合)を用いて展開し、チャペロン−サブユニット
複合体形成がさらなる相互作用を必要とするかどうかを研究した。PapDはP
apGのC−末端140アミノ酸含有のMBP/G融合(MBP−G1'−14
0')に強く結合するが、MBP−G1'−81'にほんのわずかに結合するだけ
で、C−末端の81'および140'残基の領域がPapD−PapGの強い
相互作用について要求されるさらなる情報を有することを立証した。PapDが
117'−314'残基(PapGの最初の198N−末端アミノ酸残基からなる
切形体に対応)を含有するPapG C−末端切形体と相互作用するが、170'
−314'残基(PapGの最初の145N−末端アミノ酸残基からなる切形体
に対応)を含有する切形体と相互作用しないことが明らかにされた。
これらの結果は一緒になって、繊毛サブユニットのC−末端と相互作用しない
第2の独立したPapD相互作用部位が存在することを示唆する。この仮定はさ
らにはPapGの第2の部位領域に重複する4種のペプチドのうちの一がPap
Dによって認識されるという事実により確認される。最後の結果もまた、上流部
位の機能がCOOH末端チャペロン結合部位において二次効果を発揮するもので
あるという可能性を排除する。というのもこの領域は独立してPapD結合の促
進能を有するからである。
未変性サブユニットで真実であることと異なり、MBP−G1'−140'はP
apDの不在下においてさえ折り畳むことができ、ペリプラスミック空間にて溶
解したままである;この折り畳みは分子内ジスルフィド結合の形成を意味する。
このことはサブユニットそれ自体がPapDに結合した場合に高度に折り畳まれ
ることを示す初期のデータと一致する(Kuehnら、1991;Strikerら、199
4)。しかしながら、サブユニットが折り畳まれた後にPapDがin vivoにて
サブユニットに結合するかどうか、あるいは折り畳みがPapDとの相互作用の
関係にて生じているかどうか未だにわかっていない。
最後に、P繊毛を生成する細胞におけるMBP/G融合の発現が、PapDに
結合し、チャペロン−サブユニット複合体形成を防止することによって、繊毛集
合を種々の程度まで阻害した。その融合の繊毛集合を遮断する能力は、融合蛋白
質の長さが増加するにつれて増加した。MBP−G1'−81'およびMBP−G
1'−19'は弱阻害剤であるが、MBP−G1'−140'は繊毛集合の強力な阻
害剤であった。このことは、残基140'−81'がPapDとPapGの間の強
い相互作用に必須の領域を有するという知見と一致する。
発明者らによる最近の研究は、PapGおよびこの切形PapDを発現する
degP41菌株(KS474)におけるドメイン1のない修飾PapDポリペ
プチドのin vivoにおける同時発現が、1)この細胞株におけるPapG毒性の
抑制、および2)PapGのペリプラスミック空間への効果的な分配をもたらす
。しかし、PapDから放出された後、繊毛サブユニットは正確に折り畳まれて
いない。
発明者らは、繊毛サブユニットとPapDの間の結合がPapDのドメイン1
および2に結合するサブユニットにより起こると示唆する。サブユニットとドメ
イン1の間の結合はサブユニットが正確に折り畳まれるのに重要であり、サブユ
ニットとドメイン2の間の結合はサブユニットのペリプラズムへの輸送にて重要
である。PapDノドメイン2がまたサブユニットの折り畳みに関連しているか
どうかわかっていない。
前記した結果はPapDのArg−8およびLys−112を含むこととは別に少
なくとも1つの結合部位の存在を示す強力なインジケーターであり、この新規な
知見はPapDと繊毛サブユニットの間の相互作用にて非常に重要であるため、
作用するこの結合部位は前記した抗菌効果を有すると考えられる。
このように、本明細書に記載された方法と同様の方法にてPapDのこの第2
の結合部位の結合のモチーフを明らかにし、さらには無傷の繊毛の集合が防止、
阻害または促進されるように最後にはこの部位との相互作用能を有する化合物を
合成するためにこの第2の結合部位との相互作用能を有する化合物を設計/同定
することを計画する。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI
A61K 31/65 9454−4C A61K 31/65
31/70 9051−4C 31/70
38/00 ADZ 8615−4C C07H 5/06
C07H 5/06 8615−4C 15/04 A
15/04 9356−4H C07K 5/06
C07K 5/06 9356−4H 9/00
9/00 9051−4C A61K 37/02 ADZ
C12N 15/09 ZNA 9162−4B C12N 15/00 ZNAA
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AT,AU,BB,BG,BR,BY,
CA,CH,CN,CZ,DE,DK,ES,FI,G
B,HU,JP,KP,KR,KZ,LK,LU,LV
,MG,MN,MW,NL,NO,NZ,PL,PT,
RO,RU,SD,SE,SI,SK,TT,UA,U
S,UZ,VN
(72)発明者 キューン,メタ
アメリカ合衆国63112ミズーリ州、セン
ト・ルイス、クララ・アベニュー605番
(72)発明者 シュイ,チォン
アメリカ合衆国63139ミズーリ州、セン
ト・ルイス、ジャニュアリー・アベニュー
3201番
(72)発明者 オッグ,デレク
スウェーデン、エス―752 37、ウプサラ、
アルティレーリガーテン16ビー番
(72)発明者 ハリス,マーク
スウェーデン、エス―756 45、ウプサラ、
ノールビーカルヴェーゲン2番
(72)発明者 レピスト,マッティ
スウェーデン、エス―224 73、ルンド、
フリーイェルヴェーゲン257番
(72)発明者 ジョーンズ,チャールズ・ハル
アメリカ合衆国63110ミズーリ州、セン
ト・ルイス、ムーアランズ・ドライブ1104
エイ番
(72)発明者 キールベリ,ヤン
スウェーデン、エス―240 10、ダールビ
ー、ハーブレヴェーゲン16番