JP2003526327A - 細菌性疾患発症を調節する組成物および方法 - Google Patents

細菌性疾患発症を調節する組成物および方法

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JP2003526327A JP2000584850A JP2000584850A JP2003526327A JP 2003526327 A JP2003526327 A JP 2003526327A JP 2000584850 A JP2000584850 A JP 2000584850A JP 2000584850 A JP2000584850 A JP 2000584850A JP 2003526327 A JP2003526327 A JP 2003526327A
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Abstract

(57)【要約】 本発明は、細菌の精製された細胞外オートインデューサー-2シグナル伝達分子を提供する。前記分子の産生は、宿主生物における自由生存的な存在からコロニー形成または病原体的存在への移行を伴う環境条件の変化により調節される。前記シグナル伝達分子は、LuxQ発光遺伝子を刺激し、該分子を産生する細菌種における種々の疾患発症関連遺伝子を刺激すると予測される。また、本発明は、前記シグナル伝達分子の生合成に関与する細菌遺伝子の新しいクラスを提供する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】 (関連出願とのクロスリファレンス) 本出願は1998年12月2 日出願の米国出願60/110,570号の優先権を主張しており
、その開示内容は参照により本出願に組み込まれる。
【0002】 (国家財政援助研究に関する陳述) 35USC §202(c)により、米国政府は、全米科学財団承認番号MCB-9506033 から
の基金により一部行なわれた本発明において特定の権利を有する。
【0003】 (技術分野) 本発明は、ヒトおよび他の哺乳類の細菌性疾患の分野に関する。特に本発明は
、特定の細菌における疾患発症の誘発に関与する新しい遺伝子およびシグナル伝
達因子、および、これらの因子および遺伝子を操作することにより上記疾患発症
を抑制するための方法を提供する。
【0004】 (背景技術) 本出願においては、幾つかの文献を参照することにより本発明の関わる最新技
術をさらに詳細に説明する。このような文献の各々の開示内容は参照により本明
細書に組み込まれる。
【0005】 細胞密度に応答した遺伝子発現の制御、即ち菌体数感知(quorum sensing)は、
水生発光性細菌ビブリオ・フィシェリ(Vibrio fischeri) およびビブリオ・ハー
ベイにおいて最初に報告されている。この現象は、最近では多くのグラム陰性細
菌における遺伝子調節のための一般的機序と認識されるようになった。菌体数感
知細菌はオートインデューサーと呼ばれる特定のアシルホモセリンラクトンシグ
ナル伝達分子を合成し、これを放出し、そしてこれに応答することにより細胞密
度の関数として遺伝子発現を制御する。ビブリオ・ハーベイを除くこれまで報告
されている全てのアシルホモセリンラクトン菌体数感知系において、オートイン
デューサーの合成酵素はV ・フィシェリ(V.fischeri)のluxIに相同な遺伝子によ
りコードされており、オートインデューサーへの応答はV ・フィシェリのluxRに
相同な遺伝子によりコードされた転写活性化タンパク質により媒介される(Bassl
er and Silverman, Two component Signal Transduction, Hoch et al., eds, A
m.Soc.Microbiol.Washington D.C., pp431-435, 1995) 。一方、ビブリオ・ハー
ベイは2 種の独立した密度認識系( シグナル伝達系1 および2 と称される)を有
し、各々がセンサー- オートインデューサーの対を形成している。ビブリオ・ハ
ーベイのシグナル伝達系1 はセンサー1 およびオートインデューサー1(AI-1) よ
りなり、このオートインデューサーは、N-(3- ヒドロキシブタノイル)-L-ホモセ
リンラクトンである(Bassler et al, Mol.Microbiol.9:773-786, 1993 参照) 。
ビブリオ・ハーベイのシグナル伝達系2 は、センサー2 およびオートインデュー
サー−2(AI-2)よりなる(Bassler et al, Mol.Microbiol.13:273-286,1994)。AI
-2の構造は現在のところ明らかにされておらず、AI-2の生合成に関与する遺伝子
も同定されていない。シグナル伝達系1 は種内連絡のために用いることが提案さ
れている高度に特異的な系であり、そしてシグナル伝達系2 は種選択性は低いと
考えられ、種間連絡に関わると推定されている(Bassler et al, J.Bacteriol. 1 79 : 4043-4045, 1997)。
【0006】 AI-1またはaI-2に応答してのみ発光することのできるビブリオ・ハーベイのレ
ポーター株が構築されている(Bassler et al, 1993, 前出;Bassler et al, 199
4,前出) 。ビブリオ・ハーベイのレポーター株を用いることにより、数種の細菌
がAI-2の作用に擬似的な刺激物質を産生することが明らかにされている(Bassler
et al, 1997, 前出) 。
【0007】 シグナル伝達系1 および2 により媒介されるビブリオ・ハーベイにおける菌体
数感知は、生物を特定の細胞密度において生体発光させる。これら同様のシグナ
ル伝達系、特にシグナル伝達系2 はビブリオ・ハーベイおよび同様のシグナル伝
達系を有する他の細菌における別の生理学的変化を誘発すると考えられている。
即ち、シグナル伝達因子オートインデューサー−2およびその生産に必要なタン
パク質をコードする遺伝子を発見して特性化することは当該分野における進歩と
なる。このような進歩は、哺乳類の腸内細菌または病原性細菌の制御のために有
用な化合物の新しいクラスを同定する手段を提供する。
【0008】 (発明の開示) 本発明によれば、哺乳類の病原体を含む種々の細菌種がビブリオ・ハーベイの
シグナル伝達系2 の生物試験において発光を刺激する有機性シグナル伝達分子を
分泌することがわかった。これらの生物により分泌される分子は、ビブリオ・ハ
ーベイのAI-2の物理的および機能的な特徴に擬似的である。この新しいシグナル
伝達分子の細菌による生産は宿主生物における自由生存的な存在からコロニー形
成または病原体的存在への移行を伴う環境条件の変化により調節される。即ち、
ビブリオ・ハーベイにおける発光遺伝子( 特にluxCDABE) の刺激に加えて、シグ
ナル伝達分子はこれを産生する細菌種における種々の疾患発症関連遺伝子を刺激
すると予測される。シグナル伝達分子の高度に精製された形態を本発明は提供す
る。更にまた、シグナル伝達分子の生合成に関与する細菌遺伝子の新しいクラス
を提供する。
【0009】 本発明の1 つの局面によれば、本発明は極性かつ非荷電であり、1,000kDa未満
の概算分子量を有する少なくとも1つの分子を含有する単離された細菌性細胞外
シグナル伝達因子を提供し、その因子はLuxQタンパク質と相互作用を示すことに
より発光遺伝子LuxCDABEを含有するビブリオ・ハーベイのオペロンの発現を誘導
する。好ましい実施態様において、因子は、ビブリオ・ハーベイセンサー2+レポ
ーター菌株を用いた生物試験で測定した場合に約0.1 〜1.0mg の因子製剤で発光
が約1000倍に増加するような特定の活性を有する。特に好ましい実施態様におい
て、因子は、ビブリオ・ハーベイセンサー2+レポーター菌株を用いた生物試験で
測定した場合に約1 〜10μg の因子製剤で発光が約1,000 倍に増加するような特
定の活性を有する。
【0010】 本発明のシグナル伝達因子は種々の細菌、例えば、ビブリオ・ハーベイ(Vivr
io harveyi)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae),ビブリオ・パラヘモリティ
クス(Vibrio parahaemolyticus),ビブリオ・アルギノリティクス(Vivrio algino
lyticus), シュードモナス・ホスホレウム(Pseudomonas phosphoreum),エルシニ
ア・エンテロコリティカ(Yersinia enterocolitica),大腸菌(Escherichia coli)
, ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium), ヘモフィルス・インフルエンザ(H
aemophilus influenzae), ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori),バチ
ルス・サブチルス(Bacillus subtilis),ボレリア・ブルグフドルフェリ(Borreli
a burgfdorferi),ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis),
ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae),エルシニア・ペスティス(Yersi
nia pestis),カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni), デイノコ
ッカス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans),ミコバクテリウム・ツベ
ルクロシス(Mycobacterium tuberculosis), エンテロコッカス・フェカリス(Ent
erococcus faecalis),ストレプトコッカス・ニューモニア(Streptococcus pneum
oniae), ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)およびスタ
フィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus) により産生されるが、こ
れに限定されるものではない。
【0011】 別の局面において、本発明は下記式:
【化3】 の単離細菌性シグナル伝達因子を提供する。
【0012】 別の局面において、本発明は、シグナル伝達因子を化合物と接触させ、化合物
の存在下のシグナル伝達因子の活性を測定し、そして、化合物の存在下に得られ
たシグナル伝達因子の活性と化合物の非存在下に得られたシグナル伝達因子の活
性を比較し、そして、シグナル伝達因子の活性を調節する化合物を同定すること
による、シグナル伝達因子の活性を調節する化合物を同定するための方法を提供
する。
【0013】 更に別の局面において、本発明は、外因性オートインデューサーに応答して検
出可能な量の光を発生する生合成経路を含有する細菌細胞、ただしここで細菌細
胞はオートインデューサー経路に関与する遺伝子座において少なくとも2 種の異
なる変化を有し、遺伝子座における第1 の変化は第1 のオートインデューサーの
検出を阻害する変化を含み、遺伝子座における第2 の変化は第2 のオートインデ
ューサーの生産を阻害する変化を含むものである上記細菌細胞、またはその抽出
液に試料を接触させる工程、および、細菌細胞、またはその抽出液から発生した
光を計測する工程による、試料中のオートインデューサー分子を検出する方法を
提供する。
【0014】 別の局面において、本発明はオートインデューサー経路に関与する遺伝子座に
おける少なくとも2 種の異なる変化を有する細菌細胞、ただしここで遺伝子座に
おける第1 の変化は第1 のオートインデューサーの検出を阻害する変化を含み、
遺伝子座における第2 の変化は第2 のオートインデューサーの生産を阻害する変
化を含むものであり、そして細菌細胞はオートインデューサーに接触した際に生
体発光する上記細菌細胞を提供する。
【0015】 別の局面において、本発明は、オートインデューサーに応答して検出可能な量
の光を発生する生合成経路を含有する細菌細胞、またはその抽出液をオートイン
デューサーアナログに接触させること、および、オートインデューサーの存在下
に細菌細胞またはその抽出液から発生した光の量をオートインデューサーアナロ
グの存在下に発生した量と比較することによるオートインデューサーの活性を調
節するオートインデューサーアナログを同定する方法であって、光の発生の変化
がオートインデューサーの活性を調節するオートインデューサーアナログの指標
となる該方法を提供する。
【0016】 別の局面において、本発明は、S-アデノシルホモシステイン(SAH) からオート
インデューサー−2への変換を促進する条件下かつそのような時間で、LuxSタン
パク質にS-アデノシルホモシステインを接触させることによるオートインデュー
サー−2を製造する方法を提供する。
【0017】 別の局面において、本発明は、S-リボシルホモシステイン(SRH) からオートイ
ンデューサー−2への変換を促進する条件下かつそのような時間で、LuxSタンパ
ク質にS-リボシルホモシステインを接触させることによるオートインデューサー
−2を製造する方法を提供する。
【0018】 別の局面において、本発明は、S-アデノシルホモシステイン(SAH) からS-リボ
シルホモシステインへの変換を促進する条件下かつそのような時間で、5'- メチ
ルチオアデノシン/S- アデノシルホモシステインヌクレオシダーゼタンパク質に
S-アデノシルホモシステインを接触させること;上記S-リボシルホモシステイン
からオートインデューサー−2への変換を促進する条件下かつそのような時間で
、LuxSタンパク質にS-リボシルホモシステインを接触させることによる、オート
インデューサー−2を製造する方法を提供する。
【0019】 別の局面において、本発明は、細菌性バイオマーカーの誘導を促進するような
条件下かつそのような時間で、オートインデューサー分子に細菌細胞少なくとも
1つを接触させること、および、細菌性バイオマーカーを検出することによる、
オートインデューサー関連細菌性バイオマーカーの検出方法を提供する。
【0020】 別の局面において、本発明は、標的化合物にLuxPタンパク質を接触させること
、および、LuxPへの化合物の結合を検出することによる、LuxPタンパク質に結合
する標的化合物の検出方法を提供する。
【0021】 別の局面において、本発明は、生物膜の形成を調節することのできる化合物に
生物膜を形成することのできる細菌を接触させることを包含する細菌性生物膜形
成の調節方法であり、その化合物がオートインデューサー−2活性を調節するも
のである該方法を提供する。
【0022】 本発明の別の局面によれば、上記した細菌性細胞外シグナル伝達因子を精製す
るための方法も提供される。その方法は下記工程:(a) シグナル伝達分子を産生
する細菌細胞を培地中で生育させること;(b) 培地から細菌細胞を分離すること
;(c) 細菌細胞からのシグナル伝達分子の産生および分泌を可能にする条件下、
高浸透圧を有する溶液中で細菌細胞をインキュベートすること;(d) 高浸透圧溶
液から細菌細胞を分離すること;ならびに(e) 高浸透圧溶液から因子を精製する
ことを包含する。前記方法は更にまた、(f) 高浸透圧溶液の蒸発試料中の非極性
因子から極性因子を分離すること;および(g) 逆相高速液体クロマトグラフィー
に極性因子を付すこと、を包含する場合がある。好ましい実施態様においては、
高浸透圧溶液は少なくとも0.4Mの1価の塩、最も好ましくは0.4 〜0.5MのNaClを
含有する。別の好ましい実施態様においては、方法は更にグルコース、フルクト
ース、マンノース、グルシトール、グルコサミン、ガラクトースおよびアラビノ
ースよりなる群から選択される炭水化物を含有する培地中で細菌細胞を生育させ
ることを包含する。
【0023】 本発明の別の局面によれば、ビブリオ・ハーベイ LuxQ 発光遺伝子の発現を誘
導する細菌性細胞外シグナル伝達因子の生合成のために必要なタンパク質をコー
ドする単離された核酸分子が提供される。核酸分子は広範な種類の細菌、例えば
、ビブリオ・ハーベイ、ビブリオ・コレラ、ネズミチフス菌、大腸菌、ヘモフィ
ルス・インフルエンザ、ヘリコバクター・ピロリ、バチルス・サブチルス、ボレ
リア・ブルグフドルフェリから単離してよいが、これらに限定されるものではな
い。
【0024】 上記した核酸分子は、アミノ酸残基約150 〜200 個を有するタンパク質をコー
ドする。好ましくは、コードされたタンパク質は配列番号10〜17の何れか、また
は、配列番号10〜17の2 つ以上の比較に由来するコンセンサス配列よりなる群か
ら選択される配列と実質的に同じアミノ酸配列を有する。核酸分子は好ましくは
、配列番号1 〜9 の何れか、または、配列番号1 〜9 の2 つ以上の比較に由来す
るコンセンサス配列よりなる群から選択される配列と実質的に同じ配列を有する
【0025】 上記した核酸分子を含有する組み換えDNA 分子ならびに核酸分子の何れかの発
現により産生されるタンパク質も本発明により提供される。
【0026】 本発明の別の特色および利点は以下に示す図面、詳細な説明および実施例を参
照することによりなお深く理解することができる。
【0027】 (発明の詳細な説明) 本発明によれば、本発明者らは、Salmonella typhimuriumおよびEscherichia
coliを含む数種の病原性細菌の病原性または毒性の調節に関与するこれら細菌に
より産生される細胞外シグナル伝達因子を同定、単離および特性化した。我々は
また、このシグナル伝達因子の生合成に関与する遺伝子を同定し、クローニング
した。このシグナル伝達分子およびその生合成を触媒するタンパク質をコードす
る遺伝子の精製および/ またはクローニングにより、細菌によるこの分子の生産
の阻害またはこの分子に対する応答のいずれかを目的とした創薬のための新しい
方法が得られる。この分子によるシグナル伝達を妨害するように設計された薬剤
は、新しいクラスの抗生物質を構成する。本発明は、更にオートインデューサー
検出方法およびオートインデューサー−2のin vitro生産の方法を提供する。
【0028】 I. 定義: 本発明の生物学的分子に関する種々の用語を、明細書および請求項に渡り使用
する。「 実質的に同じ」、「類似率」および「 同一率」という用語について、
以下に詳細に定義する。
【0029】 本発明の新しいシグナル伝達因子を指す際において、この分子は本明細書にお
いては、場合により「シグナル伝達因子」、「 シグナル伝達分子」、「オート
インデューサー」そしてより具体的には「オートインデューサー−2」または「
AI-2」と称する。「 オートインデューサー−2」および「AI-2」は特にビブリ
オ・ハーベイにより産生されるシグナル伝達因子を指す。「 シグナル伝達因子
」または「 シグナル伝達分子」、「オートインデューサー」または「AI-2様分
子」とは一般的に本発明のシグナル伝達因子を指すものとするが、その例はAI-2
である。
【0030】 本発明の核酸を指す際に、「 単離された核酸」という用語をしばしば使用す
る。この用語をDNA に適用する場合、それが由来する生物の天然のゲノムにおい
てそれが (5'および3'方向に)直接隣接する配列から分離されるDNA 分子を指す
。例えば、「 単離された核酸」 とはプラスミドまたはウィルスベクターのよう
なベクター内に挿入された、または原核生物または真核生物のゲノムDNA 内に組
み込まれたDNA 分子を有してよい。「単離された核酸分子」とはcDNAも包含する
ものとする。
【0031】 本発明のRNA 分子に関しては、「単離された核酸」という用語は主に上記の通
り定義された単離されたDNA 分子によりコードされるRNA 分子を指すものとする
。あるいは、この用語は、それがその天然の状態において(即ち細胞または組織
において)会合しているRNA 分子から十分に分離され、「 実質的に純粋な」形
態で存在する、RNA 分子を指すものとする(「実質的に純粋な」という用語は後
に定義する)。
【0032】 タンパク質については、「 単離されたタンパク質」または「単離され精製さ
れたタンパク質」という用語を本明細書ではしばしば使用する。この用語は、本
発明の単離された核酸分子の発現により産生されるタンパク質を主に指す。ある
いは、この用語は、それが本来会合している他のタンパク質から十分に分離され
ており、「実質的に純粋な」形態で存在しているタンパク質を指すものとする。
【0033】 「 実質的に純粋」という用語は対象とする因子(例えば疾患発症シグナル伝
達因子、核酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質等)を少なくとも50〜60重量%
含有する調製物を指すものとする。より好ましくは、調製物は対象となる因子を
少なくとも75重量%、最も好ましくは90〜99重量%含有する。純度は、対象とな
る因子に適する方法(例えばクロマトグラフィー法、アガロースまたはポリアク
リルアミドのゲル電気泳動、HPLC分析等)で測定する。
【0034】 本発明の抗体に関しては、「免疫学的に特異的な」という用語は対象となるタ
ンパク質のエピトープ1 箇所以上に結合するが、抗原性生体分子の混合集団を含
有する試料中の他の分子を実質的に認識して結合することのない抗体を指す。
【0035】 オリゴヌクレオチドに関しては、「特異的にハイブリダイズする」 という用
語は、当該分野で一般的に用いられている予め決定された条件下でそのようなハ
イブリダイゼーションを可能とする十分に相補的な配列の2 つの一本鎖ヌクレオ
チド分子の間の結合を指す(「実質的に相補的な」という用語を用いる場合もあ
る)。特にこの用語は、本発明の一本鎖DNA またはRNA 分子内に含まれる実質的
に相補的な配列とのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを指すもので
あり、非相補配列の一本鎖核酸とのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーショ
ンは実質的に除外する。
【0036】 「プロモーター領域」 という用語は、コード領域の5'または3'側、またはコ
ード領域内またはイントロン内で見出される遺伝子の転写調節領域を指す。
【0037】 「選択可能なマーカー遺伝子」とは発現時に形質転換細胞に対して抗生物質耐
性のような選択可能な表現型を与える産物をコードする遺伝子を指す。
【0038】 「 レポーター遺伝子」 とは、定法により直接または間接的に容易に検出する
ことのできる産物をコードする遺伝子を指す。
【0039】 「操作可能に連結した(operably linked) 」とは、コード配列の発現のために
必要な調節配列がコード配列の発現を可能にするようなコード配列に対して適切
な位置でDNA 中に配置されていることを指す。このことと同じ定義を発現ベクタ
ー中の転写単位および他の調節要素( 例えばエンハンサーまたは翻訳調節配列)
の配置に対しても適用する場合がある。
【0040】 II. シグナル伝達因子の説明 本発明は、病原性細菌中特にネズミチフス菌および大腸菌により産生される細
胞外シグナル伝達因子の同定を可能にする異種生物試験を提供する。因子は疾患
発症以外にも細菌における種々の生理学的変化に関わるシグナルとして機能する
が、本明細書においては場合により「疾患発症シグナル伝達」 因子または分子
と称する。因子は菌体数感知細菌ビブリオ・ハーベイのAI-2(オートインデュー
サー−2)の機能に擬似的であり、特にビブリオ・ハーベイのシグナル伝達系2
の検出体であるLuxQを介して作用する。
【0041】 シグナル伝達因子は、3 種全ての細菌の細胞内連絡に関与する小型で可溶性の
熱不安定性の有機分子である。大腸菌およびSalmonellaにおいて、分子の最大分
泌は指数期最中に起こり、培地からグルコースが枯渇するに従い、または、定常
期開始により、細胞外活性は低下する。定常期におけるシグナル伝達分子の分解
は、他の菌体数感知系とは対照的に、シグナル伝達分子を利用している細菌の菌
体数感知系は生育の定常期前の段階における挙動を調節するために重要であるこ
とを示している。タンパク質合成が活性の低下に必要であり、このことは上記腸
内細菌において複雑な調節回路が菌体数感知を制御していることを示している。
【0042】 グルコースの存在下に生育した後細菌を高浸透圧( 例えば0.4 M NaCl) または
低pH( 例えばpH5.0)の環境に移した場合、シグナル伝達活性の増加が観察される
。更にまた、シグナルの低下は低浸透圧( 例えば0.1M NaCl)条件によって誘導さ
れる。高浸透圧および低pHは、ネズミチフス菌および大腸菌のような病原性腸内
細菌が宿主生物内部で病原性の存在に遷移する際に遭遇する2 種の条件である。
即ち、これらの細菌における菌体数感知は、細菌が宿主関連( 即ち病原性) と自
由生存の存在の間の遷移を起こすことを検知することにより、その毒性の調節に
関わっているようである。
【0043】 シグナル伝達分子の活性を調節する別の因子は、実施例2 に更に詳細に記載さ
れている。特に例示されるものはネズミチフス菌における分子の調節である。
【0044】 生物試験におけるLux の誘導のタイミングおよびネズミチフス菌および大腸菌
シグナルへのビブリオ・ハーベイの応答曲線の形状はビブリオ・ハーベイが自身
のシグナル伝達系2 インデューサーAI-2に応答する際のものと区別できない。更
にまた、ネズミチフス菌、大腸菌およびビブリオ・ハーベイのシグナル伝達分子
の各々は、同じ方法により部分的に精製することができる。このような結果から
、上記生物の各々に由来するシグナル伝達分子は同一であるかまたは極めて緊密
に関連していると考えられる。従ってビブリオ・ハーベイ由来のAI-2は本発明の
シグナル伝達分子であるが、この生物内においてはSalmonellaおよびEscherichi
a のような病原性腸内細菌内においてとは異なる役割を有すると考えられる。
【0045】 A. AI-2シグナル伝達因子の構造 即ち、別の局面において、本発明はオートインデューサー−2(AI-2)シグナル
伝達因子およびその誘導体を提供する。本発明のAI-2は種々の用途において細菌
の生育を調節するために使用できる。本発明は下記構造:
【化4】 [ 式中、R1,R2,R3およびR4は、ヒドリド、ハロ、アルキル、ハロアルキル、シク
ロアルキル、シクロアルケニル、複素環基、メチル、シアノ、アルコキシカルボ
ニル、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル、ホルミル、ニトロ、フルオロ、ク
ロロ、ブロモ、メチル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアリー
ルアルキル、アルキルスルホニル、ハロアルキルスルホニル、アリールスルホニ
ル、ヘテロアリールスルホニル、ヒドロキシアルキル、メルカプトアルキル、ア
ルコキシアルキル、アリールオキシアルキル、ヘテロアリールオキシアルキル、
アラルキルオキシアルキル、ヘテロアリールアルキルオキシアルキル、アルキル
チオアルキル、アリールチオアルキル、ヘテロアリールチオアルキル、アラルキ
ルチオアルキル、ヘテロアリールアルキルチオアルキル、ハロアルキルカルボニ
ル、ハロアルキル(ヒドロキシ)アルキル、アルキルカルボニル、アリールカル
ボニル、アラルキルカルボニル、ヘテロアリールカルボニル、ヘテロアリールア
ルキルカルボニル、カルボキシアルキル、アルコキシカルボニルアルキル、アル
キルカルボニルオキシアルキル、アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、ア
リールアミノアルキル、アラルキルアミノアルキル、ヘテロアリールアミノアル
キル、ヘテロアリールアルキルアミノアルキル、アルコキシおよびアリールオキ
シ;フェニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、ベンゾフリル、ベンゾジオ
キソリル、フリル、イミダゾリル、チエニル、チアゾリル、ピロリル、オキサゾ
リル、イソオキサゾリル、トリアゾリル、ピリミジニル、イソキノリル、キノリ
ニル、ベンズイミダゾリル、インドリル、ピラゾリルおよびピリジル、アミノス
ルホニル、フルオロ、クロロ、ブロモ、メチルチオ、メチル、エチル、イソプロ
ピル、t-ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、シアノ、メトキシカルボニ
ル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル、
プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、ペント
キシカルボニル、メチルカルボニル、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリ
フルオロメチル、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、ペンタフ
ルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、ジフルオロクロロメチル、ジクロロフ
ルオロメチル、ジフルオロエチル、ジフルオロプロピル、ジクロロエチル、ジク
ロロプロピル、メトキシ、メチレンジオキシ、エトキシ、プロポキシ、n-ブトキ
シ、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、メトキシメチル、エトキシメチル、
トリフルオロメトキシ、メチルアミノ、N,N-ジメチルアミノ、フェニルアミノ、
エトキシカルボニルエチルおよびメトキシカルボニルメチル、メチル、エチル、
フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、シアノ、メトキシカ
ルボニル、エトキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル、ベンジル、フェニルエ
チル、フェニルプロピル、メチルスルホニル、フェニルスルホニル、トリフルオ
ロメチルスルホニル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、メトキシメチル、
エトキシメチル、メチルカルボニル、エチルカルボニル、トリフルオロメチルカ
ルボニル、トリフルオロ(ヒドロキシ)エチル、フェニルカルボニル、ベンジル
カルボニル、メトキシカルボニルメチル、エトキシカルボニルエチル、カルボキ
シメチル、カルボキシプロピル、メチルカルボニルオキシメチル、フェニルオキ
シ、フェニルオキシメチル、チエニル、フリルおよびピリジル、特にチエニル、
フリル、ピリジル、メチルチオ、メチルスルフィニル、メチル、エチル、イソプ
ロピル、t-ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、シアノ、フルオロメチル
、ジフルオロメチル、トリフルロメチル、クロロメチル、ジクロロメチル、トリ
クロロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、ジフルオロク
ロロメチル、ジクロロフルオロメチル、ジフルオロエチル、ジフルオロプロピル
、ジクロロエチル、ジクロロプロピル、メトキシ、メチレンジオキシ、エトキシ
、プロポキシ、n-ブトキシ、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチルおよびトリフ
ルオロメトキシから独立して選ばれる] を有するオートインデューサー−2分子
を提供する。
【0046】 本明細書に記載する化学基は当業者の知るとおりである。例えば、本明細書に
おいては、「ヒドリド」とは単一の水素原子(H) を指す。このヒドリド基は例え
ば酸素原子に結合してヒドロキシル基を形成してよく、或いは、2 つのヒドリド
基が1 つの炭素原子に結合してメチレン(-CH2-) を形成してよい。更に、アルキ
ル基は炭素原子1 〜約10個を有する「 低級アルキル」基である。最も好ましく
は、炭素原子1 〜約6 個を有する低級アルキル基である。このような基の例はメ
チル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、
t-ブチル、ペンチル、イソアミル、ヘキシル等である。「ハロ」という用語はフ
ッ素、塩素、臭素またはヨウ素のようなハロゲンを意味する。「 カルボキシ」
または「 カルボキシル」という用語は-CO2H を指す。「カルボニル」という用
語は、単独または他の用語と組み合わせて、-(S=O)- を指す。
【0047】 好ましくは、本発明のオートインデューサー−2分子は下記構造:
【化5】 を有する4,5-ジヒドロキシ-2,3- ペンタンジオンである。
【0048】 本明細書においては、本発明の「 オートインデューサー−2(AI-2)」分子は 菌体数感知シグナル伝達系2 に関わる拡散可能なセンサーとして機能する分子
を包含する。例えば、AI-2は微生物の疾患発症に関わる遺伝子の発現を増加また
は減少させることにより遺伝子の発現を調節することができる。典型的には、オ
ートインデューサー分子は代謝の間に細菌のような微生物により産生される。例
えば、本発明のオートインデューサー−2(AI-2)分子はビブリオ・コレラ、ネズ
ミチフス菌および大腸菌のような病原性細菌のluxP遺伝子の相同体によりコード
されるタンパク質であるLuxPと相互作用を示すことができる。そしてAI-2-LuxP
複合体は、luxQ遺伝子によりコードされるタンパク質産物であるLuxQと相互作用
を示すことができる。AI-2-LuxP-LuxQの相互作用は、Vibrio spp. のような細菌
における発光を促進することができる。AI-2-LuxP-LuxQの相互作用は、細菌の疾
患発症に必要な生化学的経路の活性化につながる。即ち、本発明はAI-2-LuxP-Lu
xQの相互作用を変調させることによる、細菌遺伝子発現を制御するための、そし
て、細菌の病原性を調節するための方法を提供する。
【0049】 別の局面において本発明は、オートインデューサー分子としてホモシステイン
を使用する方法を提供する。ホモシステインの構造は以下の通りである。
【0050】
【化6】 ホモシステインは、S-リボシルホモシステイン上のLuxSタンパク質の活性によ
り産生される( 図16) 。即ち、本発明はオートインデューサーとしてホモシステ
インを使用する方法を提供する。
【0051】 本発明はまた、オートインデューサー−2分子の光学活性な異性体も包含する
。本明細書においては、「 異性体」とは本発明のオートインデューサー−2分
子と同じ分子式を有するが分子内の原子の配置が異なるため異なる化学的および
物理的特性を有するような分子を包含するものとする。異性体には光学異性体お
よび構造異性体の双方が包含される。本明細書においては、「光学活性な」とは
偏光面を回転させる能力を有する分子を包含するものとする。光学活性な異性体
には本発明のオートインデューサー−2分子のL-異性体およびD-異性体を包含す
る。
【0052】 光学活性な異性体のほかに、オートインデューサー−2分子のアナログも本発
明に包含される。本明細書において、AI-2「 アナログ」とは請求項に記載した
オートインデューサー分子4,5-ジヒドロキシ-2,3- ペンタンジオンと構造的に類
似であるが同一ではない分子を包含するものとする。AI-2のアナログは、LuxPタ
ンパク質の活性を刺激するのではなく阻害する分子を包含する。例えば、LuxPと
非生産性の相互作用を示すことのできるAI-2のアナログが産生され得る。このよ
うな分子はLuxPに結合する能力を保持しているが、アナログのAI-2-LuxP 複合体
はLuxQと生産的に相互作用を示すことができず、このため細菌の病原性を抑制す
る。即ち、本発明のAI-2アナログは、LuxPへの結合に関して内因性のAI-2と競合
することにより細菌の病原性の阻害剤として作用することができる。更にAI-2ア
ナログは、アナログAI-2-LuxP 複合体がLuxQと非生産的に相互作用を示すことが
できるように構築することができる。この場合、アナログAI-2-LuxP-LuxQ複合体
は、例えば病原性に必要な遺伝子の転写活性のようなその後の生化学的過程に対
しては非機能性とされる。本発明はまた、LuxPタンパク質の活性を増加させるAI
-2の能力を増強するように相乗作用を示すAI-2アナログを包含する。
【0053】 B. シグナル伝達因子の調製 本発明のシグナル伝達分子を精製するための初期の試みでは、ビブリオ・ハー
ベイの生物試験で測定した場合に発光の1,000 倍増加を刺激する部分精製物質約
0.1 〜1.0mg と推定される特異的シグナル伝達活性を有する分子を含有する部分
精製調製物が得られた。シグナル伝達活性は有機溶媒中に定量的に抽出されず、
陽イオンや陰イオンのイオン交換カラムの何れにも結合しない。分子は小型(1,0
00kDa 未満) であり、極性を有するが、非荷電の有機因子である。活性は酸には
安定性で塩基に不安定であり、80℃の熱には耐性を示すが100 ℃には耐性ではな
い。シグナル伝達分子のこのような特徴により、分子が以前に記載したオートイ
ンデューサーの何れとも異なるということが明らかになる。
【0054】 本発明のシグナル伝達因子はその天然の起源、即ち、それを産生する細菌から
精製してよい。天然の起源からAI-2を精製する際には、例えばグルコースまたは
他の糖類を添加することにより、浸透圧を上昇させることにより、および/ また
はpHを低下させることによるなどして培地を変化させると、Salmonellaおよび他
の腸内細菌中のシグナル伝達分子の生産を増加でき、シグナル伝達分子をほぼ同
質にまで精製することが可能になる。即ち、現時点で分子は以下に示す操作法を
用いて腸内細菌( 例えば大腸菌、ネズミチフス菌) の培養液から高度に精製され
ている。
【0055】 1. 0.5%のグルコースまたは他の糖類を含有するLB培地中で一夜シグナル産生
腸内細菌の培養物を生育させる(37 ℃、通気) 。0.5 %の濃度でグルコースまた
は他の糖類を含む新しいLB培地に1:100 の希釈度で一夜培養物を接種する。希釈
培養物を中間指数期まで生育させる(3.5時間、37℃、通気)。
【0056】 2. 細胞をペレット化する(10,000rpm、10分、4 ℃) 。培地を捨てる。細菌細
胞を再懸濁し、もとの量の1/10の低浸透圧NaCl溶液(0.1M NaCl水溶液)で洗浄す
る。
【0057】 3. 細胞を再度ペレット化する(10,000rpm、10分、4 ℃) 。低浸透圧培養液を
捨てる。細菌細胞をもとの量の1/10の高浸透圧NaCl溶液(0.4M NaCl水溶液) 中に
再懸濁する。懸濁液を通気しながら2 時間37℃でインキュベートする。この間シ
グナル伝達分子の生産と分泌の増加が起こる。
【0058】 4. 細胞をペレット化する(10,000rpm、10分、4 ℃) 。分泌されたシグナル伝
達分子を含有する上澄みを採取し、0.2M細菌フィルターで上澄みを濾過し、残存
細菌細胞を除去する。
【0059】 5. 30℃でロータリーエバポレーターを用いて、水性の濾液を蒸発させる。乾
燥した濾液をもとの量の1/10のクロロホルム: メタノール(70:30) 中に抽出する
【0060】 6. 室温でロータリーエバポレーターを用いて有機抽出液を蒸発させる。乾燥
した抽出液をもとの量の1/100 のメタノール中に再溶解する。
【0061】 7. 部分精製されたシグナルを分取用逆相C18 カラムを用いた高速液体クロマ
トグラフィー(HPLC)に付す。5ml/分の速度で水中0 〜100 %アセトニトリルの直
線勾配により分子を溶離する。5ml ずつ30画分を採取する。
【0062】 8. ビブリオ・ハーベイ BB170 AI-2試験においてHPLC画分を試験し、活性
画分を合わせる。
【0063】 C18 カラムからえられる産物はシグナル伝達分子と小数の他の有機性分子を含
有している。シグナル伝達分子のこのように高度に精製された調製物は、上記し
た部分精製物質( その調製には高浸透圧工程や最終HPLC工程は含まれない) の活
性よりも50〜100 倍高い活性を有し、即ち、1 〜10μg の物質でビブリオ・ハー
ベイ生物試験における発光の1,000 倍の増加が刺激される。
【0064】 AI-2シグナル伝達分子の精製のためのその後の方法では、AI-2を産生するため
の新しいin vitroの系が同定できた。即ち、クローニングされ、過剰発現され、
そして精製されたネズミチフス菌のLuxSタンパク質を提供することに加えて、本
発明は更に、in vitroでAI-2を産生するための方法を提供する。本発明は質量分
析スペクトルおよびNMR 分析に使用できる純粋なAI-2を大量に生成するため、お
よび、AI-2の活性を調節する化合物をスクリーニングするための機序を提供する
。更にまた、本発明はAI-2の合成のためのin vivo の生合成経路を決定するため
の方法を提供する。AI-2生産のためのin vitroの方法は後に記載する実施例5 お
よび図15において説明する。本方法は、更に研究を進めるためにオートインデュ
ーサー分子を効率的に産生するための新しい手段を提供する。本方法はまた、商
業的用途で使用するためのAI-2のかなりな量を産生するための手段を提供する。
このような用途には例えば、本発明のAI-2を生育培地に添加して細菌の生育を増
加させることが含まれるが、これに限定されるものではない。このような方法は
、特に培養細菌から抗生物質を生産する際に有用である。AI-2の添加は、細胞の
生育を促進することにより上記生物の抗生物質の生産量を増加させることができ
る。好ましくは、シグナル伝達因子AI-2は本明細書の実施例5 に記載するin vit
roの方法で産生される。
【0065】 C. シグナル伝達因子の使用 本発明の単離精製されたシグナル伝達分子は、AI-2の活性を調節する化合物の
設計のための標的として使用する。本明細書においては、「調節する」とはAI-2
の活性を増加または低下させることを包含する。本明細書においてAI-2の「 活
性」 とは細菌の菌体数感知においてシグナル伝達因子として機能する分子の能
力の局面の何れをも包含するものとする。「 化合物」とはAI-2の活性に影響す
る如何なる薬剤または組成物であることもできる。例えば、本発明の化合物は核
酸、タンパク質または小型の分子であることができる。即ち、本発明はAI-2分子
の活性を阻害するか、または他の態様でその分子が関与するシグナル伝達経路を
遮断する新しいクラスの抗生物質を同定する手段を提供する。このような阻害剤
は精製されたシグナル伝達分子の存在下ビブリオ・ハーベイの生物試験を用いて
、種々の被験化合物を大規模にスクリーニングすることにより同定してよい。あ
る被験化合物の存在下にシグナル伝達活性が低下した場合、これは、その化合物
がシグナル伝達分子の活性を阻害するか、または、病原性のシグナル伝達経路の
何れか別の部分を遮断する能力を有することを意味している。
【0066】 更にまた、本発明はAI-2の特異的阻害剤または非機能性のアナログの合理的な
設計のための根拠を与える。このような構造特異的な阻害剤またはアナログは、
シグナル伝達分子を阻害するか、または病原性のシグナル伝達経路を遮断するそ
の能力について、ビブリオ・ハーベイの生物試験において試験してよい。
【0067】 本発明はまた、オートインデューサー−2のようなシグナル伝達分子の活性を
阻害する天然の化合物を同定する方法を包含する。例えば、細菌のコロニー形成
を回避するために真核生物が使用する防御手段は、菌体数感知する制御された機
能を特異的に標的として阻害することである。このような機序は、D.pulchra に
おいて同定されている。最近の研究によれば、D.pulchra により産生されるハロ
ゲン化フラノン類がLuxRにおけるホモセリン- ラクトン(HSL) オートインデュー
サー結合部位に対して競合することにより菌体数感知を阻害することがわかって
いる。即ち、新しいオートインデューサーおよびオートインデューサーと相互作
用を示す細胞成分を与えることにより、本発明は天然産物である化合物が菌体数
感知系-2に対する作用を有するかどうかをスクリーニングする方法を提供する。
例えば、天然産物の化合物がオートインデューサー−2-LuxP 相互作用に対する
作用を有するかどうかスクリーニングすることができる。或いは、このような化
合物がオートインデューサー−2-LuxP-LuxQ相互作用に対する作用を有するかど
うかスクリーニングすることができる。
【0068】 当業者の知るとおり、シグナル伝達分子に関わる標的は大腸菌においては現在
同定されているが、大腸菌の標的の阻害を用いて潜在的なシグナル伝達分子の阻
害剤またはアナログをスクリーニングすることもできる。本発明者等は直接大腸
菌 O157:H7( 病原性菌株)においてIII 型分泌遺伝子の発現を低下させるための
試験において用いられるler-lacZレポーター融合構築物を調製した。更にまた、
同様の遺伝子座がネズミチフス菌にも存在する。
【0069】 即ち、本発明はオートインデューサー−2分子、4,5-ジヒドロキシ-2,3- ペン
タンジオンの阻害剤または相乗作用剤を選択する方法を提供する。本明細書にお
いては、AI-2の「 阻害剤」とは発光または疾患発症のためのシグナルとして作
用するオートインデューサー分子の能力を妨害する分子を包含するものとする。
阻害剤にはAI-2を分解するか、これに結合する分子も包含される。本方法は、予
測される阻害剤または相乗作用剤にオートインデューサー分子を接触させること
、処理されたオートインデューサー分子が選択された遺伝子の活性を刺激する能
力を測定すること、次いで、予測される阻害剤または相乗作用剤がオートインデ
ューサー分子の活性を低下させるか増強するかを決定することを包含する。次に
、オートインデューサー分子の実際の阻害剤および相乗作用剤を選択する。例え
ば、予測される阻害剤を4,5-ジヒドロキシ-2,3- ペンタンジオンと混合し、次に
混合物を本明細書に記載するビブリオ・ハーベイのレポーター菌株と組み合わせ
る。予測される阻害剤の存在下の発光量を、阻害剤を含有しない対照混合物と比
較することができる。発光の低下がAI-2の阻害を示している。この方法において
、細菌の病原性を調節する化合物を迅速にスクリーニングすることができる。
【0070】 別の局面において、本発明は阻害性および相乗作用性のAI-2アナログを選択す
る方法も提供する。本方法は、オートインデューサー分子の既知量と予測される
阻害性または相乗作用性のアナログの既知量とを混合すること、処理されたオー
トインデューサー分子が選択された遺伝子の活性を刺激する能力を測定すること
、次いで、予測される阻害性または相乗作用性のアナログがオートインデューサ
ー分子の活性を低下させるか増強するかを決定することを包含する。次に、オー
トインデューサー分子の実際の阻害性または相乗作用性のアナログを選択する。
【0071】 オートインデューサー−2分子は、従来の精製方法を用いて天然の起源から精
製するか、化学的手段により合成するか、または、好ましくは以下に示す本発明
のin vitroの方法で製造することができる。本明細書においては、「天然の起源
から精製された」とは生物により製造された上記式のオートインデューサー−2
分子を包含するものとする。「 天然の起源から精製された」とは、従来の精製
法を用いてネズミチフス菌のような細菌の培地または細胞質からオートインデュ
ーサー分子を単離することを包含する。本明細書においては、「 化学的手段に
より合成された」 とは生物の外部で人工的に生産された請求項記載の式のオー
トインデューサー分子を包含するものとする。本発明は標準的な化学合成法を用
いて化学的前駆体から当業者が製造した本発明のオートインデューサーも包含す
る。
【0072】 本発明は更に、病原性生物の感染性を阻害する方法並びに本発明のAI-2アナロ
グまたはAI-2阻害剤を含有する治療用組成物を提供する。本方法は、AI-2の活性
を阻害することのできる医薬組成物の治療有効量を対象に投与することを包含す
る。本明細書においては、「感染性を阻害する」とは投与により利益を受ける対
象を初回感染させるまたは追加感染させる病原性生物の能力に影響を与える方法
を包含する。本発明の医薬組成物は、例えばエキソトキシンA および弾性分解性
(elastolytic) のタンパク質分解酵素のような細胞外毒性因子の転写活性を阻害
する薬剤である。本明細書においては、「薬剤」という用語は細胞外毒性因子の
転写を活性化させるLuxPタンパク質およびLuxQタンパク質の能力を阻害する分子
を包含する。薬剤にはAI-2が菌体数感知シグナル伝達系-2のセンサーとして作用
することができなくなるように直接AI-2との相互作用を示す阻害剤が包含される
。好ましくは、薬剤は4,5-ジヒドロキシ-2,3- ペンタンジオンと相互作用を示す
。薬剤には更に、LuxPまたはLuxQへの結合について4,5-ジヒドロキシ-2,3- ペン
タンジオンと競合することのできるAI-2のアナログも包含される。
【0073】 本発明は更に、シグナル伝達系2 型経路に関与する因子を標的とすることによ
り病原体関連疾患を予防または治療するための医薬組成物を提供する。例えば、
LuxPまたはLuxQまたはこれらの相同体はワクチンの開発のための共通の標的とな
る。LuxPまたはLuxQまたはこれらの相同体に対して作製された抗体は、毒性に関
わる細菌の経路の活性化を阻害することができる。即ち、LuxPおよびLuxQは複数
の病原体関連疾患状態に対抗して対象を免疫化するために使用することのできる
共通の抗原決定基となる。例えば、オートインデューサーシグナル伝達系2 型は
細菌性病原体を含む広範な細菌種に存在すると考えられている。上記した通り、
オートインデューサー−2- シグナル伝達因子は種間並びに種内の連絡に関与し
ていると考えられている。菌体数感知シグナル伝達系2 型が種間連絡に有効であ
るためには、種々の細菌種の間で高度に保存されていると考えられる。即ち、特
定の生物から単離したLuxPまたはLuxQのポリペプチドまたはその抗原断片で対象
を惹起することは、異なる生物に関わる他の疾患状態に対する防御免疫を付与す
る場合がある。例えば、V.choleraeから単離したLuxPタンパク質に対して開発し
たワクチンは、異なる生物により発現されたLuxP相同体と交差反応することがで
きる場合がある。即ち、本発明の方法は病原体関連疾患状態の治療のために使用
することができると考えられる。
【0074】 一般的に、「治療する」、「 治療」等の用語は本明細書では、所望の薬理学
的および/ または生理学的作用を得ることを意味する。作用はスピロヘータの感
染またはその疾患または兆候または症状を完全または部分的に防止するという意
味において予防的であってよく、および/ または、感染症または疾患および/ ま
たは感染症または疾患に起因する有害作用を部分的または完全に治癒させるとい
う意味において治療的であってよい。「 治療する」とは本明細書においては、
哺乳類、特にヒトにおける感染症または疾患の( 例えば完全または部分的な)何
らかの治療または予防まで意味するものであり、そして、下記: (a) 疾患の素因があるがまだ罹患を診断されていない対象において疾患が発症
することを防止すること; (b) 感染症または疾患を阻害すること、即ちその発症を停止させること;また
は、 (c) 感染症または疾患を緩解または軽減すること、すなわち、感染症または疾
患の後退を起こすこと、 を包含する。
【0075】 即ち、本発明は細菌感染に起因する症状を軽減するために、または、そのよう
な感染を防止するための防御免疫応答を誘導するために有用な種々の医薬組成物
を包含する。例えば、本発明の医薬組成物は、例えば、本発明のLuxPまたはLuxQ
に対する抗体、LuxPまたはLuxQのペプチドまたはペプチド誘導体、LuxPまたはLu
xQの擬似物、またはLuxPまたはLuxQ- 結合薬剤を、担体、賦形剤および添加剤ま
たは助剤を用いて対象への投与に適する形態中に含有されるように調製すること
ができる。頻繁に使用される担体または助剤は、炭酸マグネシウム、二酸化チタ
ン、ラクトース、マンニトールおよび他の糖類、タルク、乳タンパク質、ゼラチ
ン、澱粉、ビタミン、セルロースおよびその誘導体、動物性および植物性の油、
ポリエチレングリコールおよび溶媒、例えば滅菌水、アルコール、グリセロール
および多価アルコールを包含する。静脈内投与用の溶媒には液体および栄養補給
剤が含まれる。保存料には抗微生物剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガス
が包含される。他の製薬上許容しうる担体には例えばRemington's Pharmaceutic
al Sciences, 15 th ed. Easton: Mack Publishing Co., 1405-1412, 1461-1487
(1975)およびThe National Formulary XIV,, 14 th ed. Washington: American
Pharmaceutical Association (1975) に記載されているもののような、水溶液、
非毒性賦形剤、例えば塩類、保存料、緩衝剤等が包含され、上記文献の内容は参
照により本明細書に組み込まれる。医薬組成物のpHおよび種々の成分の厳密な濃
度は、当業者の知る通り調整される。Goodman and GilmanのThe Pharmacologica
l Basis for Therapeutics (7th ed) を参照のこと。
【0076】 本発明の医薬組成物は局所投与または全身投与してよい。「 治療有効用量」
とは疾患の症状およびその合併症を防止、治癒または少なくとも部分的に停止さ
せるために必要な本発明の化合物の量を指す。この用途のために有効な量は、当
然ながら、患者の疾患重症度、体重および一般状態により異なる。典型的には、
in vitroで使用する用量は医薬組成物の患部投与のために有用な量の有用な指標
となり、そして動物モデルを用いて特定の疾患の治療のための有効用量を決定し
てよい。種々の検討が例えばLanger, Science, 249:1527, (1990); Gilman et a
l., (eds.) (1990) に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込
まれる。
【0077】 本明細書において、「治療有効量を投与する」とは、本発明の医薬組成物が意
図するその治療機能を発揮することができるように対象に対して組成物を与えた
り塗布したりする方法を包含するものとする。治療有効量は患者の感染症の程度
、年齢、性別および個体重量のような要因により変化する。投与方法は最適な治
療応答が得られるように調整することができる。例えば、毎日数回分割用量を投
与するか、または、治療状況の緊急度に従って比例的に用量を減少させることが
できる。
【0078】 医薬組成物は注射( 皮下、静脈内等) 、経口投与、吸入、経皮適用または肛門
投与のような好都合な方法で投与することができる。投与経路に応じて、医薬組
成物は、酵素、酸および医薬組成物を不活性化する可能性のある他の天然の条件
の作用から医薬組成物を保護するための材料でコーティングすることができる。
医薬組成物はまた非経口的または腹腔内に投与することもできる。分散液はグリ
セロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物中および油脂中
に調製することもできる。通常の保存および使用の条件下、これらの製剤は微生
物の生育を防止するために保存料を含有してよい。
【0079】 注射用途に適する医薬組成物は、滅菌水溶液( 水溶性の場合) または分散液、
または、滅菌注射溶液または分散液の用時調製用の滅菌粉末を包含する。全ての
場合において、本組成物は滅菌されていなければならず、容易に注射できる程度
の流動性を有していなければならない。製造および保存の条件下で安定であり、
細菌およびカビのような微生物の汚染活動に対抗して保存されなければならない
。担体は溶媒または分散媒体であることができ、例えば水、エタノール、ポリオ
ール( 例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリ
コール等) 、これらの適当な混合物および植物油を含む。適切な流動性は、例え
ばレシチンのようなコーティングの使用により、分散液の場合は所望の粒径を維
持することにより、そして、界面活性剤を使用することにより維持することがで
きる。微生物の活動の防止は、種々の抗細菌剤および抗カビ剤、例えばパラベン
、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサル等により行なう
ことができる。多くの場合において、等張化剤、例えば等類、ポリアルコール、
例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムを組成物中に含有させるこ
とが好ましい。注射用組成物の吸収を延長させるためには、吸収を遅延させる作
用剤、例えばステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含有させる。
【0080】 滅菌注射溶液は、所望により上記した成分の1 つまたはその組み合わせと共に
適切な溶媒中に所望の量の医薬組成物を配合し、その後、濾過滅菌することによ
り調製することができる。一般的に分散液は基剤となる分散媒体および上記した
所望の他の成分を含有する滅菌溶媒中に医薬組成物を配合することにより調製す
る。
【0081】 医薬組成物は、例えば不活性の希釈剤または同化可能な可食担体と共に経口投
与することができる。医薬組成物および他の成分はまたハードまたはソフトシェ
ルのゼラチンカプセルに封入したり、圧縮成形して錠剤としたり、または個人の
食餌に直接配合することができる。経口治療投与のためには、医薬組成物は賦形
剤と共に配合し、摂取可能な錠剤、舌下錠、トローチ、カプセル、エリキシル、
懸濁液、シロップ、ウエハース等の形態で使用することができる。このような組
成物および製剤は、少なくとも1 重量%の活性化合物を含有する。組成物および
製剤の比率は当然ながら変化することができ、好都合には投与単位の約5 〜約80
重量%であることができる。このような治療上有用な組成物中の医薬組成物の量
は、適当な用量が得られるようなものとする。
【0082】 錠剤、トローチ、丸薬、カプセル等はまた以下の成分、即ち、トラガカントガ
ム、アカシア、コーンスターチまたはゼラチンのような結合剤;リン酸2 カルシ
ウムのような賦形剤;コーンスターチ、ポテトスターチ、アルギン酸等のような
錠剤崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;およびスクロース、ラ
クトースまたはサッカリンのような甘味剤またはペパーミント、ウィンターグリ
ーン油、またはチェリーフレーバーのようなフレーバー剤を含有することができ
る。単位剤型がカプセルである場合は、上記した物質のほかに液体担体を含有す
ることができる。種々の他の物質がコーティングとして、あるいは何らか別の態
様で投与単位の物理的形態を変えるために存在することができる。例えば、錠剤
、丸薬またはカプセルはシェラック、糖類または双方でコーティングすることが
できる。シロップまたはエリキシルは薬剤、甘味料としてのスクロース、保存料
としてのメチルおよびプロピルパラベン、色素およびフレーバー剤、例えばチェ
リーまたはオレンジフレーバーを含有することができる。当然ながら、何れの単
位剤型を調製するために用いる何れの物質も製薬上純粋であり、使用される量に
おいて実質的に非毒性でなければならない。更にまた、医薬組成物は徐放性の製
剤および処方に配合することができる。
【0083】 本明細書においては、「製薬上許容しうる担体」とは溶媒、分散媒体、コーテ
ィング、抗細菌剤および抗カビ剤、等張化剤および吸収遅延剤等を包含するもの
とする。薬学的に活性を有する物質のためのこのような媒体や薬剤の使用は、当
該分野でよく知られている。従来の溶媒または薬剤が医薬組成物と非適合でない
限り、治療用組成物および治療方法におけるそれらの使用を意図するものとする
。補助的な活性化合物もまた、組成物中に配合することができる。
【0084】 投与を容易にし、用量を均一にするためには、単位剤型として非経口組成物を
処方することが特に好都合である。本明細書においては単位剤型とは治療すべき
個体のための単一の用量として適する物理的に分割された単位を指し、所定量の
医薬組成物を含有する各単位は、所望の製薬用担体と組み合わせて所望の治療効
果をもたらすように計算する。本発明の新しい単位剤型の仕様は、(a) 医薬組成
物の独特の特性および達成すべき特定の治療効果、および(b) 対象における病原
体感染症の治療のための医薬組成物のような薬品製造の当該分野で知られている
限度により推定し、これ等に基づき直接決定される。
【0085】 主な医薬組成物は、許容できる投与単位中適当な製薬上許容しうる担体と共に
有効量を用いて好都合で有効な投与が行なえるように製造する。補助的な活性成
分を含有する組成物の場合は、投与量はその成分の通常の用量および投与方法を
参考にして決定する。
【0086】 本発明のタンパク質の抗原決定基に結合する抗体を発生させることに加えて、
本発明の方法を用いて、抗原決定基、例えばLuxPまたはLuxQへの細胞応答、特に
細胞毒性リンパ球(CTL) を誘導することができるという特徴も含まれる。典型的
には、未修飾の可溶性タンパク質は主要組織適合性複合体(MHC) クラスI 制限CT
L 応答を誘導することができないのに対し、粒子状のタンパク質は極めて免疫原
性が高く、in vivo のCTL 応答を誘導することが報告されている。CTP 抗原決定
基およびおよびヘルパー抗原決定基は、多くの感染性病原体由来のタンパク質中
に同定されている。更にまた、これらの抗原決定基は、複数の抗原決定基がMHC
クラスI 制限CTL 応答を誘導できるような形態で送達することができるように同
時に生成することができる。抗原決定基1 つ以上を有する組み換えタンパク質粒
子を生成する事のできる系の一例では、Saccharomyces cerevisiaeのレトロトラ
ンスポゾンTy1 のp1タンパク質を使用する(Adams et al., Nature, 329:68, 198
7)。CTL 抗原決定基をコードする配列は例えばp1のC-末端に融合することができ
、その結果生じるTyウィルス様粒子(Ty-VLP)はCTL 応答を示すことができる場合
がある。即ち、シグナル伝達系2 型の活性化に関与する、または、その結果生じ
るもののような病原性抗原の保存された領域を同定することができ、そして、複
数のスピロヘータ生物に対抗して有効な免疫応答を宿主の免疫系に獲得させる粒
子に配合することができる。更にまた、本発明の方法を用いてLuxPのような単一
のタンパク質に対する複数の抗原決定基、または、種々のタンパク質に由来する
複数の抗原決定基を有する粒子を発生させることができる。
【0087】 本発明の方法はまた、リポソーム中への抗原のマイクロカプセル化のような徐
放性の抗原デリバリーシステムも包含する。このようなシステムは、伝統的なア
ジュバントを使用することなくタンパク質の免疫原性を増強するための方法とし
て使用されている。血流中のリポソームは一般的に肝および脾により吸収され、
マクロファージにより容易に食菌される。リポソームはまた、抗原と共に免疫調
節分子を共捕獲することを可能とし、これにより、このような分子を抗原遭遇部
位まで送達し、その結果防御応答に至る免疫系を変調させることができる。
【0088】 別の実施態様において、本発明はLuxPまたはLuxQのような本発明のタンパク質
に結合する化合物を同定する方法を提供する。本方法は、化合物およびLuxPまた
はLuxQを含有する成分を成分の相互作用が起こるのに十分な条件下でインキュベ
ートすること、および、LuxPまたはLuxQへの化合物の結合を測定することを包含
する。LuxPまたはLuxQに結合する化合物には、ペプチド、ペプチド擬似物、ポリ
ペプチド、化学物質および生物学的薬剤等の上記した物質が包含される。
【0089】 インキュベーションは、被験化合物とLuxPまたはLuxQとの間の接触が可能な条
件で行なう。接触とは溶液および固相におけるものを包含する。被験リガンド/
化合物は場合により複数の化合物をスクリーニングするためのコンビナトリアル
ライブラリーであってよい。本発明の方法において同定される化合物は更に、溶
液中で、または固体支持体に結合後に、PCR 、オリゴマー制限(Saiki et al., B
io/Technology, 3:1008-1012, 1985) 、アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)
プローブ分析(Conner et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 80:278, 1983)、
オリゴヌクレオチド連結試験(OLA)(Landegren et al., Science, 241:1077, 198
8)等のような特異的DNA 配列検出に通常適用される何れかの方法により、評価、
検出、クローニング、配列決定等を行なうことができる。DNA 分析に関する分子
操作法を参考にできる(Landegren et al., Science, 242:229-237, 1988)。本発
明のスクリーニング方法には、LuxPまたはLuxQに結合する化学物質を同定するた
めのコンビナトリアルケミストリーも包含される。例えばPlunkett and Ellman,
"Combinatorial Chemistry and New Drugs", Scientific American, April, p.
69 (1997) を参照することができる。
【0090】 本発明は更に、細胞の代謝、生育または回収を刺激または促進するために有効
な濃度の本発明のAI-2に細菌培養物を接触させることによる、例えば抗生物質の
ような細菌産物の製造を促進する方法を提供する。例えば、抗生物質産生細菌は
対数期のピーク時かその近傍でのみ抗生物質を産生することが知られている。こ
のような抗生物質産生細菌の培地を本発明のAI-2に接触させることにより、抗生
物質の生産を生育の早期に誘導することができる。即ち、本発明のAI-2は培養物
により産生される抗生物質の量を増加させる方法を提供する。「 培地」とは本
明細書においては、その上または中で細胞が生育するような物質を包含するもの
とする。オートインデューサー分子は栄養ブロス、寒天およびゼラチンを包含す
る市販の細胞培養用の培地に含有させることができる。
【0091】 本発明は更に、オートインデューサー-2の合成を低下または阻害する因子を同
定する方法を提供する。例えばオートインデューサー-1の濃度は菌体培養の対数
期の中期または後期において最高値に達することが解かっている。一方、オート
インデューサー-2の濃度は菌体培養の生育の対数期の早期に増加し、対数期の後
期および定常期にはより少ない量で存在する。このデータは細菌生育の特定の時
点においてオートインデューサー-2の分解に至る機序が存在していることを示し
ている。単離精製されたオートインデューサー-2を提供することにより、本発明
はオートインデューサー-2の濃度を制御する機序の同定を可能にする。例えば、
部分精製された細菌抽出液を単離されたオートインデューサー-2に対してアッセ
イすることにより、オートインデューサー-2を分解する画分を同定することがで
きる。オートインデューサー-2を分解する画分は更に、オートインデューサー分
解に関与する細胞成分が単離されるまで、当業者の知る方法で分画することがで
きる。
【0092】 本発明はまた、遺伝子の発現を調節する方法を提供する。本方法は、LuxQタン
パク質の活性を刺激することのできる薬剤による遺伝子発現の増強用に選ばれた
細菌に遺伝子を挿入すること、および、LuxPタンパク質の活性を刺激することの
できる薬剤とともに細菌をインキュベートすることを包含する。即ち、本発明の
シグナル伝達分子を用いてその分子により調節される他の標的をスクリーニング
することもできる。クローニングされたプロモーター融合ライブラリーを何れか
の種の細菌から調製することができ、これらのライブラリーを用いて、単に、シ
グナル伝達分子を含有するペトリ皿またはマイクロプレート中のレポーター活性
が分子を含有しないプレートと比較した場合に差があるものをスクリーニングす
ることにより、シグナル伝達因子により誘導されるかまたは抑制される遺伝子を
同定することができる。
【0093】 更に、菌体数感知は生物膜制御の主要な調節機能であり、従って菌体数感知ブ
ロッカーを用いて生物膜の形成を防止および/ または阻害することができる。ま
た、菌体数感知ブロッカーは表面上に既に形成された生物膜を除去、或いは、実
質的に減量する際に有効である。即ち、オートインデューサー-2(AI-2)の構造を
示すことで、本発明は、生物膜の形成を調節することにより細菌感染を阻害する
化合物を同定するための新しい方法を提供する。
【0094】 菌体数感知ブロッカーはある種の細菌ではプロテアーゼの生産を50%減少させ
ることができることが解かっているが、特定の化合物がプロテアーゼの生産を実
質的に消失させることができるという発見により明らかに有意義な臨床的利点が
生じる。更に、生物膜形成が菌体数感知ブロッカーにより阻害または防止できる
という予測されなかった知見により、プロテアーゼ生産のような他の系で菌体数
感知ブロッキングを示すことが解かっている他の菌体数感知ブロッカーもまた生
物膜形成に対抗するのに有効であるという合理的な結論に至った。
【0095】 本発明の化合物は、V.アングフラルム(V.angufflarum) またはアエロモナスsp
p.(Aeromonas spp.)により引き起こされる感染症等の治療および/ または予防に
好都合に使用される。この種の感染症の例は、魚類のビブリオ症およびフルンケ
ル症である。場合により細胞外プロテアーゼの減少または除去を伴う細菌の生物
膜形成の阻害により、細菌を実質的に非病原性とすることができる。本発明の化
合物は、細菌感染の治療および/ または予防において使用するために従来の方法
で処方してよい。例えば、化合物は場合により製薬上許容しうる希釈剤、担体ま
たは他の添加剤と共に固体または液体の製剤( 例えば経口投与用の錠剤、懸濁液
または溶液、または滅菌注射用組成物) として使用してよい。
【0096】 魚類のビブリオ症およびフルンケル症の治療のためには、化合物またはそれを
含有する組成物を魚類に直接適用するか、または、魚類の飼料または水に添加し
て良い。
【0097】 別の実施態様においては、本発明は本発明の化合物で表面を処理することを包
含する表面の生物膜の除去方法を提供する。表面は好ましくは水性の液体供給系
、例えば飲料水供給系または歯科用の通気通水系統に連結した供給ラインの内部
である。この種の表面から生物膜を除去することは特に困難である。化合物は好
ましくは化合物の溶液として、単独で、または従来の洗剤や界面活性剤のような
他の物質と共に、表面に適用する。
【0098】 本発明の更に別の実施態様は、殺菌剤と共に本発明の化合物を含有する抗細菌
組成物である。抗細菌組成物中で、本発明の化合物は生物膜の除去を補助し、殺
菌剤は細菌を殺傷する。抗細菌組成物は好ましくは表面に噴霧し、そして/ また
はこれを払拭するための溶液または懸濁液の形態である。
【0099】 更に別の局面において、本発明は物品上の生物膜形成を阻害および/ または防
止するための本発明の化合物でコーティングおよび/ または含浸した該物品を提
供する。物品とは好ましくは材料全体に渡り分散して本発明の化合物を有するプ
ラスチック材料である。
【0100】 III . シグナル伝達因子生合成に関与するタンパク質をコードする核酸の説明 本発明の別の局面によれば、我々はV ・ハーベイ、ネズミチフス菌および大腸
菌における本発明のシグナル伝達分子の生産に必要な遺伝子をクローニングし、
特徴付けした。これらの遺伝子は、オートインデューサー生産に必要なタンパク
質の新しいファミリーをコードしている。我々はオートインデューサー産生遺伝
子のこのファミリーの構成員をluxS、具体的には、大腸菌、ネズミチフス菌およ
びV ・ハーベイに対してそれぞれ、luxSE.c., luxS. S.t.およびluxSV.h.と命名
した。
【0101】 V ・ハーベイ、ネズミチフス菌および大腸菌におけるluxSの変異原性はこれら
3 種の細菌全てにおいてシグナル伝達分子の生産を消失させる。ネズミチフス菌
は大腸菌 O157:H7 luxS E.c.遺伝子またはV ・ハーベイ BB120 luxS V.h.遺伝子
の何れかの導入により分子の全生産を補完することができる。これらの結果は、
大腸菌およびV ・ハーベイのLuxSタンパク質の何れもネズミチフス菌の細胞成分
とともに機能してシグナル伝達分子を産生することを示している。大腸菌 DH5は
大腸菌 O157:H7 luxS E.c.遺伝子またはV ・ハーベイ BB120 luxS V.h.遺伝子の
何れかの導入によりシグナル伝達分子の生産を部分的にのみ補完する。大腸菌 D
H5内でのluxS遺伝子のin trans発現はシグナル伝達分子の生産を完全に復旧させ
なかったため、他の生化学的または生理学的な因子がシグナルの生産に寄与して
いると考えられる。
【0102】 シグナル伝達分子生産の調節は、病原性菌株と非病原性菌株では異なっている
。例えば、大腸菌 O157:H7菌株は、グルコースの存在下または非存在下30℃およ
び37℃でAI-2を産生するが、大腸菌のK-12菌株は好適な炭素源の非存在下では分
子を産生しない。更に、試験した大腸菌O157の全ての菌株は非病原性大腸菌菌株
よりも高いシグナル伝達活性を呈した。同様に、病原性のネズミチフス菌14028
はネズミチフス菌 LT2よりも有意に高値のシグナル伝達活性を示した。
【0103】 配列分析によれば、LuxSタンパク質は高度な相同性を有し、相補性に関するデ
ータによればタンパク質は種を超えた機能を有する可能性がある。これらの結果
は、LuxSタンパク質の示す酵素活性およびシグナル伝達分子の合成に寄与する何
れか別の細胞の機構が保存されていることを示している。我々は、特定の機能の
指標となるLuxSタンパク質の如何なるアミノ酸配列モチーフも同定しなかった。
したがって、LuxSタンパク質はシグナル伝達分子の生合成における1 つの特定の
酵素段階を触媒している可能性が高い。シグナル伝達分子生合成に含まれる残り
の段階は、正常な中間代謝過程の結果であると考えられる。luxS遺伝子はアシル
- ホモセリンラクトンオートインデューサーの生産に関与することが知られてい
る他の遺伝子に対する相同性をここでは有しておらず(luxI 様(Fugua et al., J
.Bacteriol. 176, 269-275, 1994), luxLMainS様(Bassler et al.,前出;Gilson
et al., J.Bacteriol. 177, 6946-6951, 1995)、本発明のシグナル伝達分子が新
規物質であることをやはり示している。
【0104】 完了および未完了の細菌ゲノムのデータベース分析によれば、他の多くの種類
の細菌がV ・ハーベイ、ネズミチフス菌および大腸菌由来のluxSと相同性のある
遺伝子を有していることが明らかにされている。同定された細菌種およびV ・ハ
ーベイのLuxSタンパク質に対する%相同性/ 同一性(H/I) は以下の通り、即ち、
ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae) (88/72), ヘリコバク
ター・ピロリ(Helicobacter pylori) (62/40),バチルス・サブチルス(Bacillus
subtilis) (58/38),ボレリア・ブルグフロルフェリ(Borrelia burgfdorferi) (5
2/32),ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis )(89/80), ナ
イセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae )(89/80),エルシニア・ペスティス
(Yersinia pestis)(85/77), カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jej
uni)(85/74),ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae) (95/90),デイノコッカス・ラ
ジオデュランス(Deinococcus radiodurans) (65/45),ミコバクテリウム・ツベル
クロシス(Mycobacterium tuberculosis) (59/41), エンテロコッカス・フェカリ
ス(Enterococcus faecalis) (60/44),ストレプトコッカス・ニューモニア(Strep
tococcus pneumoniae) (57/36)およびストレプトコッカス・ピオゲネス(Strepto
coccus pyogenes) (57/36)である。以前に報告された通り(Bassler et al., 199
7,前出)、上記細菌種の数種のみがシグナル伝達分子の生産に関して検討されて
いる。我々はV.コレラおよびY.エンテロコリティカがシグナル伝達活性を示した
が。B.サブチルスは示さなかったと報告した。B.サブチルスは分子を確かに産生
するがその合成を誘導する環境条件が解かっていないと考えられる。更にまた、
データベースの分析において同定された菌種の全てがAI-2様分子を産生すると考
えられる。
【0105】 V ・ハーベイ、大腸菌およびネズミチフス菌に由来するluxS遺伝子のヌクレオ
チド配列を明細書末尾に配列番号1 、配列番号2 および配列番号3 および4 とし
てそれぞれ示す( 配列は5'側から3'側に読む) 。これらの遺伝子は場合により本
明細書ではそれぞれluxSV.h.、luxSE.c.および luxS.S.t.と称する。配列番 号
1 〜4 から推定したアミノ酸配列を明細書末尾(および図11)にそれぞれ配列番
号10、配列番号11および配列番号12として示す。配列番号1 および2 は全長のク
ローンであり、配列番号3 および4 は全長ではないと考えられる。
【0106】 V ・ハーベイ、大腸菌およびネズミチフス菌由来のluxS遺伝子は、実施例3 で
より詳細に説明する。これらの特定のLuxS遺伝子およびそれらのコードするタン
パク質を本明細書中に例示するが、本発明は、本明細書に記載するLuxSコードタ
ンパク質の配列、構造的および機能的特性を有する如何なる細菌種から得られた
LuxS遺伝子およびそれがコードする酵素をも包含するものとする。実施例3 に記
載する通り、相同性のある核酸配列が種々の細菌種で同定されているが、これら
の配列とLuxS遺伝子との同一性は現在のところ確認されていない。他の細菌種に
由来するLuxSのヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列は、明細書末尾に配列番号
5 〜9 および13〜17としてそれぞれ記載するが、これらは以下の種、即ち、ヘモ
フィルス・インフルエンザ、ヘリコバクター・ピロリ、バチルス・サブチルス、
ボレリア・ブルグドルフェリおよびビブリオ・コレラから得られた配列を含んで
いる。
【0107】 V ・ハーベイ、大腸菌またはネズミチフス菌以外の細菌種に由来するLuxS相同
体のほかに、配列番号1 〜9 の変異体および天然の突然変異株がVibrio, Escher
ichia およびサルモネラの別の細菌種に存在すると考えられる( 実際に大腸菌 D
H5株は遺伝子の非機能性の突然変異形態を有している)。このような変異体はヌ
クレオチドおよびアミノ酸の配列において特定の相違を有していることが推定さ
れるため、本発明は、それぞれ配列番号1 〜9 のヌクレオチド配列および配列番
号10〜17のアミノ酸配列とのコード領域における配列相同性が少なくとも約50〜
60%( 好ましくは60〜80%、より好ましくは80%より高値)の(そして好ましく
は具体的に配列番号1 〜9 のコード領域を保有している)単離されたLuxS核酸分
子およびコードされたタンパク質を提供する。これらのタンパク質およびそれを
コードする核酸に天然の配列の変異が存在すると考えられるため、当業者は約40
〜50%の配列の変異があると予測するが、本発明のLuxSコードタンパク質の独特
の性質はなお維持されている。このような予測の根拠は部分的には、遺伝コード
の縮重、並びに、タンパク質の性質を大きく変化させない保存的なアミノ酸配列
の変異が進化上成功しているとされていることである。従って、このような変異
体は実質的に相互に同様であると考えられ、本発明の範囲内に包含される。
【0108】 本発明の目的のためには、「 実質的に同じ」とはタンパク質の性質( 即ち、
タンパク質の構造的特性および/ または生物学的活性)に事実上影響しないよう
な配列の変異を有する核酸またはアミノ酸の配列を指す。核酸配列を特に論じる
場合は、「実質的に同じ」という用語は、コード領域および発現を支配する保存
的配列を指すものとし、同じアミノ酸をコードする縮重コドンまたはコードされ
たポリペプチドにおいて保存的置換アミノ酸をコードする別コドンを主に指すも
のとする。アミノ酸配列に関しては、「実質的に同じ」とは一般的に構造または
機能の決定には関わらないポリペプチドの領域における保存的置換および/ また
は変異を指す。「%同一性」 および「 %類似性」という用語は本明細書におい
てはアミノ酸配列の間の比較において使用する。これらの用語はウイスコンシン
大学より入手可能なUWGCG の配列分析プログラム(Devereaux et al., Nucl. Aci
ds Res. 12:387-397, 1984) における場合と同様に定義されるものとし、このプ
ログラムで使用するパラメーターは配列の同一性および類似性を比較するために
本明細書において使用することを意図するパラメーターである。
【0109】 A. LuxS核酸分子、コードタンパク質および免疫学的に特異的な抗体の調製 1. 核酸分子 本発明のLuxS核酸分子は2 種類の一般的方法、即ち(1) これらを適切なヌクレ
オチドトリホスフェートから合成するか、または(2) 生物学的入手源から単離す
ることにより調製してよい。両者の方法とも当該分野でよく知られている操作法
を用いる。
【0110】 配列番号1 〜9 を有するDNA のようなヌクレオチド配列の情報が入手可能なこ
とにより、オリゴヌクレオチド合成により本発明の単離核酸分子の調製が可能と
なる。合成オリゴヌクレオチドは、Applied Biosystems 38A DNA Synthesizerま
たは同等の装置において用いられるホスホロアミダイト法により調製してよい。
得られた構築物は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のような当該分野で知られ
た方法に従って精製してよい。長鎖の2 本鎖のポリヌクレオチド、例えば本発明
のDNA 分子は、現在のオリゴヌクレオチド合成法に固有である大きさ制限のため
、段階的に合成しなければならない。このような長鎖の二本鎖の分子は、適切な
相補性を有する幾つかのより小型のセグメントとして合成してよい。このように
して生成された相補セグメントは、各セグメントが隣接するセグメントの結合の
ための適切な粘性末端を有するようにアニーリングしてよい。隣接するセグメン
トをDNA リガーゼの存在下で粘性末端をアニーリングすることにより連結し、全
長1.8kb の二本鎖分子を構築する。このようにして構築された合成DNA 分子を、
次に適切なベクター中でクローニングして増幅する。
【0111】 LuxS核酸はまた、当該分野で知られた方法を用いて適切な生物学的入手源から
単離してもよい。好ましい実施態様においては、ネズミチフス菌または大腸菌の
ゲノムのコスミド発現ライブラリーからゲノムクローンを単離する。別の実施態
様においては、別の細菌ゲノムのコスミドライブラリーからゲノムクローンを単
離する。
【0112】 本発明によれば、ハイブリダイゼーションおよび適切なストリンジェンシーの
洗浄条件を用いることにより、配列番号1 〜9 の何れかのタンパク質コード領域
と適切な水準の配列相同性を有する核酸を同定してよい。例えばハイブリダイゼ
ーションは、5X SSC, 5X Denhardt 試薬、1.0% SDS, 100g/ml 変性フラグメント
化サケ精子DNA 、0.05%ピロリン酸ナトリウムおよび50%以下のホルムアミドを
含有するハイブリダイゼーション溶液を用いて、Sambrook等の方法にしたがって
行ってよい。ハイブリダイゼーションは少なくとも6 時間37〜42℃で行なう。ハ
イブリダイゼーションの後、フィルターの洗浄を以下の手順、即ち、(1)2x SSC
および1 %SDS 中室温で5 分間;(2) 2x SSCおよび0.1 %SDS 中室温で15分間;
(3)1x SSC および1 %SDS 中37℃で30分〜1 時間;(4)1x SSC および1 %SDS 中
42〜65℃で2 時間、溶液を30分おきに交換しながら行なう。
【0113】 特定の配列相同性の核酸分子間のハイブリダイゼーションを行うために必要な
ストリンジェンシーの条件を計算するための一般的な式(Sambrook et al, 1989)
は以下の通りである。
【0114】 T m =81.5C+16.6Log[Na+]+0.41(%G+C)-0.63(% ホルムアルデヒド)-600/2 本鎖bp
数 上記式の説明として、[N+]=[0.368]および50%ホルムアミドを用いてGC含量42
%および平均のプローブの大きさを200 塩基とした場合、T m は57℃である。DN
A2本鎖のT m は相同性が1 %低下するごとに1 〜1.5 ℃づつ低下する。即ち、約
75%より高い配列同一性を有する標的は、42℃のハイブリダイゼーション温度を
用いて観察される。
【0115】 LuxS核酸を単離するための別の方法は、目的の細菌ゲノム中のluxS配列に関す
る公開されているデータベースを検索し、配列からPCR プライマーを設計し、そ
して、染色体から直接遺伝子を増幅することである。次に、PCR 産物をクローニ
ングする。或いは、特定の細菌ゲノムの完全な配列が入手できない場合は、本発
明に記載の配列または何らか別のluxS配列を用いて、PCR 増幅および染色体から
のluxSのクローニング用の縮重オリゴヌクレオチドを設計してよい。
【0116】 本発明の核酸は、如何なる好都合なクローニングベクター内のDNA として維持
してもよい。好ましい実施態様においては、クローンはpBluescript(Stratagene
, La Jolla, Ca) のようなプラスミドクローニング/ 発現ベクター中に維持し、
これを適当な大腸菌宿主細胞中で増殖させる。
【0117】 本発明のLuxS核酸分子は、1 本鎖または2 本鎖のDNA 、RNA およびそれらのフ
ラグメントを包含する。即ち、本発明は本発明の核酸分子の少なくとも1 つの配
列、即ち配列番号1,2 または3 のDNA の選択されたセグメントとハイブリダイズ
できる配列を有するオリゴヌクレオチド(DNAまたはRNA のセンスまたはアンチセ
ンス鎖) を提供する。
【0118】 2. タンパク質および抗体 本発明の全長LuxS遺伝子産物は、知られた方法に従って種々の経路で調製して
よい。タンパク質は適切な由来源、例えばネズミチフス菌、大腸菌またはV ・ハ
ーベイのような培養細菌から精製してよい。
【0119】 全長LuxS核酸分子の入手により、当該分野で知られているin vitroの発現方法
を用いてコードされたタンパク質の製造が可能になる。好ましい実施態様によれ
ば、酵素は適当な発現系における発現により製造してよい。例えば、配列番号1
または2 のDNA のようなDNA 分子の一部または全体を細菌細胞、例えば大腸菌ま
たは真核細胞、例えばサッカロマイセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisia
e)または他の酵母中における発現に適合させたプラスミドベクターに挿入してよ
い。このようなベクターは宿主細胞におけるDNA の発現を可能にするような態様
で位置付けられた、宿主細胞中のDNA の発現に必要な調節要素を有している。発
現に必要なこのような調節要素にはプロモーター配列、転写開始配列および場合
によりエンハンサー配列が包含される。
【0120】 組み換え原核細胞または親核細胞の系におけるLuxS遺伝子の発現により産生さ
れるタンパク質は、当該分野で知られた方法に従って精製してよい。好ましい実
施態様においては、市販の発現/ 分泌系を用いることができ、これにより組み換
えタンパク質を発現させ、その後、宿主細胞から分泌させ、周囲の培地から容易
に精製することができる。発現/ 分泌ベクターを使用しない場合は、その代替法
としては、組み換えタンパク質に特異的に結合する抗体との免疫学的相互作用の
ような親和性分離法により組み換えタンパク質を精製する。このような方法は、
当該分野の専門家の知るとおりである。
【0121】 上記した方法の1 つで調製した本発明のLuxS遺伝子によりコードされるタンパ
ク質は常法に従って分析してよい。例えば、タンパク質を公知の方法でアミノ酸
配列分析に付してよい。酵素の安定性および生物学的活性は、例えば種々の条件
下でのシグナル伝達分子の生産を触媒するタンパク質の能力に基づいて、決定し
てよい。
【0122】 本発明はまた、本発明のLuxSコードタンパク質に免疫特異的に結合することの
できる抗体を提供する。ポリクローナル抗体は、常法に従って調製してよい。好
ましい実施態様においては、タンパク質の種々の抗原決定基と免疫特異的に反応
するモノクローナル抗体を調製する。モノクローナル抗体はKoehler とMilstein
の一般的方法に従って、常法により調製してよい。LuxSコードタンパク質と免疫
特異的に相互作用を示すポリクローナルまたはモノクローナルの抗体は、このよ
うなタンパク質の同定および精製のために利用することができる。例えば、抗体
はそれらが免疫特異的に相互作用を示すタンパク質の親和性分離のために利用し
てよい。抗体はまた、タンパク質および他の生物学的分子の混合物を含有する試
料からタンパク質を免疫沈降させるために使用してもよい。
【0123】 B. LuxS核酸分子、コードタンパク質および免疫学的に特異的な抗体の使用 LuxS核酸は、本発明の種々の目的のために使用してよい。DNA 、RNA またはそ
のフラグメントをプローブとして用いてLuxS遺伝子の存在および/ または発現を
検出してよい。LuxS核酸をこのような試験のプローブとして用いる方法としては
、(1)in situのハイブリダイゼーション;(2) サザンハイブリダイゼーション;
(3) ノーザンハイブリダイゼーション;および(4) ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
のような複合的増幅反応が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0124】 本発明のLuxS核酸はまた、他の細菌由来の関連遺伝子を同定するためのプロー
ブとして利用してもよい。当該分野でよく知られているとおり、ハイブリダイゼ
ーションのストリンジェンシーは、種々の程度の相同性の相補配列との核酸プロ
ーブのハイブリダイゼーションを可能にするように調節してよい。
【0125】 上記した通り、LuxS核酸はまた実質的に純粋なコードタンパク質またはその選
択された部分を大量に産生するために有利に使用される。この点に関し、発現ベ
クターに挿入されたクローニングされた遺伝子を用いて、大腸菌 DH5のような組
み換え宿主中で、何れかの選択された細菌種に由来するシグナル伝達分子そのも
のを大量に調製することができる。特定のLuxS遺伝子をクローニングし、コード
されたタンパク質を大量に産生し、これにより特定のシグナル伝達分子を大量に
産生することができる。このことは、種々の細菌種に由来するシグナル伝達分子
の構造に差があることがわかった場合にその差を決定する際に特に有用である。
或いは、対象となる細菌種に由来する大量のシグナル伝達分子は発現ベクター中
でクローニングされた遺伝子を用いて調製することができ、これをその後上記し
た通りペトリ皿試験における潜在的標的を得るためのライブラリースクリーンに
おいて使用することができる。
【0126】 精製されたLuxS遺伝子産物またはそのフラグメントを用いてポリクローナルま
たはモノクローナル抗体を産生してよく、更にこれらを培養細胞中のタンパク質
の存在および蓄積を調べるための感度の高い検出用試薬として使用してよい。組
み換え技術は、選択されたLuxSコードタンパク質の一部または全部を含む融合タ
ンパク質の発現を可能にする。タンパク質の全長またはタンパク質のフラグメン
トを有利に用いることによりタンパク質の種々の抗原決定基に特異的な一連のモ
ノクローナルまたはポリクローナル抗体を作製し、これにより細胞または組織中
のタンパク質の検出の感度を更に高くすることができる。
【0127】 LuxSタンパク質の他の用途は、結晶化させるために十分な量のLuxSタンパク質
を調製するための過剰生産である。LuxSタンパク質の結晶構造を解明することに
より、シグナル伝達分子の生産を触媒するLuxS活性部位の厳密な測定が可能にな
る。従って、LuxS結晶構造は、シグナル伝達分子アナログ、LuxS阻害剤の設計お
よび一般的な薬剤の合理的な設計を容易にするようなコンピュータモデリングの
ために用いることができる。
【0128】 LuxSコードタンパク質に免疫学的に特異的なポリクローナルまたはモノクロー
ナル抗体は、タンパク質を検出し定量するために設計された種々の試験において
用いてよい。このような試験としては、例えば、(1) フローサイトメトリー;(2
) 細胞または組織中のLuxSタンパク質の免疫化学的位置特定;および(3) 種々の
細胞および組織由来の抽出液の免疫ブロット分析( 例えばドットブロット、ウエ
スタンブロット) が挙げられるが、これに限定されるものではない。更にまた、
上記した通り、抗体をタンパク質の精製( 例えばアフィニティーカラム精製、免
疫沈降) に用いることができる。
【0129】 IV. ビブリオ・ハーベイスクリーニング菌株 別の局面において、本発明はluxN- 、luxS- の遺伝子型を有するビブリオ・ハ
ーベイの新しい菌株を提供する。グラム陰性細菌であるビブリオ・ハーベイは2
種の異なるオートインデューサー分子を合成し、検出する2 種の平行した菌体数
感知回路を含んでいる( 図13) 。回路1 は別のグラム陰性細菌中に存在するLuxI
/R経路により合成されるオートインデューサーと同様の構造のAI-1であるHSL オ
ートインデューサーを合成する。回路2 はAI-2を合成するものであるが、その構
造は判明していない。AI-1とAI-2の合成は、それぞれLuxLM およびLuxSに依存し
ている。オートインデューサーの臨界外濃度を達成した後に、一連のホスホリル
化/ デホスホリル化反応を介してシグナル伝達が起こる。それぞれAI-1およびAI
-2の検出体であるLuxNおよびLuxQは、保存されたヒスチジン(H1)を有するセンサ
ーキナーゼドメインおよび保存されたアスパラギン酸(D1)を有する結合した応答
調節ドメインの双方を含んでいる。両方のセンサーより生じるシグナルはチャネ
リングされて共有インテグレータータンパク質LuxUに至り、これがヒスチジン残
基(H2)上でホスホリル化される。その後、シグナルは応答調節タンパク質LuxO上
の保存されたアスパラギン酸残基(D2) に形質導入される。LuxO- ホスフェート
は、発光をもたらすルシフェラーゼの構造オペロンLuxCDABEの発現を制御する。
野生型のV.harvyi( 菌株BB120)における光生成を起動させるためにはAI-1または
AI-2の何れかの存在で十分である。この理由から、我々はAI-1またはAI-2をそれ
ぞれ合成または検出する能力を欠損したLux 遺伝子L 、M 、S またはQ における
別個の突然変異を有するV.harvyi菌株を保有している。AI-2はセンサー1 - 、セ
ンサー2 + (LuxN - , LuxQ+ ) である菌株BB170 を用いて検出できる。この菌株
を用いて種々の細菌のAI-2を検出した。野生型、LuxN- およびLuxQ- の表現型の
細胞密度上昇に対する発光応答を図14に示す。
【0130】 BB170 はAI-2の感受性レポーターであるが、BB170 菌株はマイクロタイターに
基づくアッセイにおける菌体数感知経路の阻害剤のためのレポーターとして使用
するには最適ではない。所望の菌株はAI-1を検出する能力を欠損( センサー1 -
) し、AI-2を合成する能力を欠損しているものである。即ち、本発明は遺伝子型
がluxN- およびluxS- であるV.ハーベイの菌株を提供する。MM32と命名した新し
い菌株は菌体数感知経路の阻害剤を同定するために有用である。例えば、新しい
菌株はセンサー1 - であるため、その生育または発光能力はAI-1を産生する生物
により影響されない。さらにまた、MM32はAI-2の生産能を欠損しているため、外
因性のAI-2またはそのアナログの添加によりAI-2の阻害剤の迅速な同定を可能に
する。
【0131】 更にまた、上記した材料はキットの作製に用いるのに理想的である。このよう
なキットはバイアル、試験管などのような収容手段1 つ以上を緊密な拘束下に収
納するためのコンパートメント化された担持手段を有し、これらの収容手段の各
々は、本方法で用いる個別の要素の1 つを保有する。
【0132】 収容手段は、オートインデューサーの存在を検出することのできる細菌の菌株
を有してよい。好ましくは、細菌の菌株はオートインデューサー-2の存在下に容
易に検出できるシグナルを与えることが可能である。より好ましくは、所望の菌
株はAI-1の検出能力を欠損し( センサー1 - )、AI-2の合成能力を欠損している
。即ち、MM32と命名された遺伝子型がluxN- およびluxS- であるV ・ハーベイの
菌株を与える。菌株は、オートインデューサー-2並びにオートインデューサー-2
と菌体数感知経路の阻害剤の同定に有用である。
【0133】 V. 細菌バイオマーカーの検出方法 オートインデューサー-1シグナル伝達因子を利用していることが現在知られて
いる多くの細菌は、その生命周期のある時点においてより高度な生物、すなわち
、植物および動物と関わっている。例えば、シュードモナス・アエルギノーサ(P
seudomonas aeruginosa)は、嚢胞性線維症患者における日和見感染の病原体であ
る。P.アエルギノーサは、AIを有する種々の毒性決定基を調節する。AI産生細菌
の他の例としては、エルウィニア・カロトボラ(Erwinia carotovora), シュード
モナス・アウレオファシエンス(Pseudomonas aureofaciens), エルシニア・エン
テロコリティカ(Yersinia enterocolitica),ビブリオ・ハーベイおよびアグロ
バクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens) が挙げられる。
E.カロトボラは特定の植物に感染し、植物の細胞壁を崩壊させる酵素を産生し、
いわゆる「軟化腐食病(soft rot disease)」を起こさせる。エルシニア・エンテ
ロコリティカ(Yersinia enterocolitica) はヒトにおいて胃腸疾患を誘発する細
菌であり、オートインデューサーを産生することが報告されている。P.アウレオ
ファシエンスは植物根に生息し、根のカビ生育をブロックする抗生物質を産生す
る。抗生物質の合成は、オートインデューサーの制御下にある。本発明は、新し
いオートインデューサー-2およびオートインデューサー-2の使用方法を提供する
。オートインデューサー-1とは対照的に、オートインデューサー-2は種内ならび
に種間のシグナル伝達因子であると考えられている。オートインデューサー-2は
また、オートインデューサー−1 では調節されない病原性および毒性の因子の発
現を調節すると考えられている。すなわち、本発明は、例えば病原性細菌におけ
る細菌バイオマーカーの発現を同定し、調節するための方法を提供する。本発明
の方法を用いて、植物および動物の双方に存在する細菌性病原体の活性を調節す
ることができる。
【0134】 本発明は更に、細菌バイオマーカーの誘導を促進するような条件下、そしてそ
のような時間に渡り、オートインデューサー分子に少なくとも1 種の細菌の細胞
を接触させることによるオートインデューサー関連細菌バイオマーカーの検出方
法を提供する。本明細書においては、「オートインデューサー関連細菌バイオマ
ーカー」とはオートインデューサーに応答して調節、変調、増強、阻害または誘
導される何れかの菌体成分である。バイオマーカーは公知の顕微鏡的、組織学的
、または分子生物学的な手法で同定することのできる如何なる菌体成分であるこ
ともできる。このようなバイオマーカーは、例えば病原性細菌と非病原性細菌を
判別するために用いることができる。このようなバイオマーカーは、例えば細胞
表面に存在する分子、タンパク質、核酸、ホスホリル化現象または菌体がオート
インデューサーと接触することの結果として変調される何らかの分子上または形
態上の菌体の特性であることができる。好ましくは、オートインデューサーはオ
ートインデューサー‐2 である。本発明の方法は、細菌の病原性を示すバイオマ
ーカーを同定するために特に有用である。前記したとおり、オートインデューサ
ーは、高菌体密度を含む種々の環境刺激に応答して細胞機能を調節する種々の細
菌により使用される細胞外のシグナル伝達因子である。病原性の細菌は、周囲の
環境におけるオートインデューサー濃度の上昇の結果として抗原決定基のような
バイオマーカーを発現すると考えられている。即ち、本発明は、オートインデュ
ーサー‐2 と細菌を接触させること、および、バイオマーカーの存在を調べるこ
とによるバイオマーカーの同定方法を提供する。
【0135】 本発明の方法は、菌体内のバイオマーカーを同定するためのプローブの使用を
包含する。本明細書においては、「プローブ」 とは試料中に存在する細菌バイ
オマーカーを検出するために有用な核酸、タンパク質、小型分子または抗体であ
ることができる。プローブは、例えばオートインデューサーに試料を接触させた
後に試料中に存在するバイオマーカーを同定するためにスクリーニング試験で用
いることができる。例えば、オートインデューサーとの接触の後に細菌により産
生される細菌バイオマーカーは、バイオマーカーに結合するプローブに細菌を含
有する試料を接触させることにより同定することができる。このような試験を用
いて種々の症状、疾患または障害を検出、予測、診断またはモニタリングしたり
、または、その治療をモニタリングすることができる。プローブには、それがそ
の標的マーカーに結合した場合に検出可能なように検出可能な標識を付すことが
できる。プローブに検出可能な標識を付すための手段としては、酵素、蛍光また
は放射標識されたレポーター分子に結合したビオチン結合タンパク質、例えばア
ビジンまたはストレプトアビジンが包含される。他のレポーター手段および標識
も当該分野で知られている。更に、本発明は、オートインデューサーとの接触後
の菌体中での種々の遺伝子発現を分析するために使用することができる。例えば
、種々の細胞、通常は研究対象の細胞および対照群細胞における遺伝子の発現を
比較して、発現に相違があるかどうかを調べる場合が挙げられる。このような試
験において相違がある場合は、比較した細胞において発現した遺伝子のクラスが
異なる。上記の通り実施するために使用することのできる方法は、当該分野でよ
く知られている。
【0136】 本発明は、タンパク質であることのできるバイオマーカーを同定する方法を提
供する。例えば、オートインデューサー分子に応答して発現した細菌タンパク質
は適切な抗体を用いて検出することができる。発現したタンパク質は、例えば病
原性細菌の指標となる抗原決定基であることができる。本発明の方法で用いる抗
体は、例えば上記決定基の検出のための免疫検定において使用するのに適してい
る。「 抗体」 という用語は本明細書においては、ポリクローナルまたはモノク
ローナル抗体の未損傷の分子並びにそのフラグメント、例えばFab およびF(ab') 2 を包含するものとする。例えば、モノクローナル抗体は当業者のよく知る方法
によりタンパク質のフラグメントを含有する抗原から調製する(Kohler et al.,
Nature, 256:495, 1975)。
【0137】 更にまた、上記免疫検定におけるモノクローナル抗体は、種々の方法で検出可
能に標識されることができる。例えば、放射性同位体を直接または介在する官能
基を介して間接的に免疫グロブリンに結合してよい。免疫グロブリンに金属イオ
ンとして存在する放射性同位体を結合するためにしばしば用いられる介在官能基
は、2 官能性のキレート剤、例えばジエチレントリアミンペンタン酸(DTPA)およ
びエチレンジアミン4 酢酸(EDTA)および同様の分子である。モノクローナル抗体
に結合することのできる金属イオンの典型的な例は、111In, 97Ru, 67Ga, 68Ga,
72As, 89Zr および201Tl である。
【0138】 本発明の方法において有用なプローブは、核酸プローブであることもできる。
例えば、核酸ハイブリダイゼーション法は当該分野でよく知られており、オート
インデューサーと接触させた細菌を含有する試料中に存在するRNA またはDNA バ
イオマーカーを同定するために使用することができる。核酸ハイブリダイゼーシ
ョンによるスクリーニング法によれば、適切なプローブを使用できる限り、如何
なる試料に由来するバイオマーカーも同定することが可能である。例えば、標的
タンパク質をコードする配列の一部に相当するオリゴヌクレオチドプローブを、
化学合成することができる。タンパク質をコードするDNA 配列は、遺伝子のコー
ドから推定することができるが、コードの縮重を考慮しなければならない。この
ようなスクリーニングに際しては、ハイブリダイゼーションは好ましくは当業者
の知るin vitroまたはin vivo の条件下に行なう。
【0139】 更に、上記した材料はキットの作製に用いるのに理想的である。このようなキ
ットはバイアル、試験管などのような収容手段1 つ以上を緊密な拘束下に収納す
るためのコンパートメント化された担持手段を含有し、これらの収容手段の各々
は、本方法で用いる個別の要素の1 つを保有する。本発明のキットは、単離され
たオートインデューサー‐2 を含有する第1 の収容手段を含んでよい。単離され
たオートインデューサー‐2 は、標的細菌内のバイオマーカーの発現を調節する
ために使用することができる。例えば、オートインデューサー‐2 を用いて特定
のバイオマーカーの発現を誘導し、次にこれをプローブにより同定することがで
きる。即ち、キットは、検出可能に標識されることのできるプローブを含有する
第2 の収容手段を含有してよい。キットはまた、酵素、蛍光または放射核種の標
識のようなレポーター分子に結合したアビジンまたはストレプトアビジンのよう
なビオチン結合タンパク質のようなレポーター手段を含む第3 の収容体を有して
よい。他のレポーター手段およびラベルは、当該分野でよく知られている。例え
ば、本発明のキットは、本明細書に記載した核酸ハイブリダイゼーション分析を
行うために必要な試薬または標的に結合する抗体を検出するために必要な試薬を
提供する。
【0140】 以下の記載は、本発明の特徴を実施する際に関わってくる一般的操作法を示し
たものである。特定の材料を指定する場合は、それは例示を意図しているに過ぎ
ず、本発明を制限する意図はない。特段の記載がない限り、Sambrook et al., M olecular Cloning , Cold Spring Harbor Laboratory (1989) (以後Sambrook et
al. と記載) またはAusubel et al. (eds) Current Protocols in Molecular Bi ology , John Wiley & Sons (1998) ( 以後Ausubel et al.と記載) に記載のもの
のような一般的クローニング法を用いる。
【0141】 実施例1 大腸菌(Escherichia coli)およびネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)にお
ける菌体数感知 大腸菌が細胞密度を感知するという報告がある(Huisman et al., Science 265 :537-539, 1994; Sitnikov et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:336-341,
1996; Garcia-Lara et al., J.Bacteriol. 178:2742-2748, 1996) 。我々はV ・
ハーベイにおけるシグナル伝達系2 センサーの低選択性を利用して、大腸菌およ
びネズミチフス菌により産生される細胞外シグナル分子の検出のための感度の高
い試験を開発した。この試験を用いて、多くの菌株の大腸菌およびネズミチフス
菌がV ・ハーベイの系2 の検出体と相互作用を示すシグナル伝達物質を合成、分
泌および分解する条件を調べた。
【0142】 材料および方法 細胞非含有培養液の調製 大腸菌菌株AB1157およびDH5 およびネズミチフス菌菌株LT2 を、本文において
特定された濃度のグルコースを含有するLB栄養培地中、通気しながら一夜30℃で
生育させた。翌朝、一夜生育の場合と同様のグルコース濃度の新しいLB培地に一
夜生育培地を1:100 の希釈度で接種した。新しい培養液は通気しながら30℃で種
々の時間に渡り生育させた。細胞非含有液を調製するために、ミクロ遠沈管中5
分間15,000rpm で遠心分離することにより生育培地から細胞を除去した。透明な
培養液を0.2mHT Tuffrynフィルター(Gelman)に通し、−20℃で保存した。V ・ハ
ーベイオートインデューサー‐2 を含有する細胞非含有培養液を、V ・ハーベイ
菌株BB152 ( オートインデューサー1 - , オートインデューサー2 + ) から調製
した。V ・ハーベイ BB120( オートインデューサー1 + 、オートインデューサー
2 + ) を用いて、オートインデューサー‐1 を含有する培養液を調製した。両者
の場合において、V ・ハーベイ菌株をAB(オートインデューサーバイオアッセイ
)(Bassler et al., 1993, 前出)培地中通気しながら30℃で一夜生育させた。V
・ハーベイ由来の細胞非含有培養液は、大腸菌およびネズミチフス菌について上
記したものと全く同様にして一夜培養物から調製した。
【0143】 シグナル伝達分子の産生に関する試験 大腸菌、ネズミチフス菌およびV ・ハーベイの菌株に由来する細胞非含有培養
液に、V ・ハーベイレポーター菌株BB170 またはBB886 中に発光を誘導すること
のできるシグナル伝達物質が存在するかどうか試験した。試験においては、上記
した通り生育させ回収した大腸菌 AB1157 、大腸菌 DH5およびネズミチフス菌 L
T2菌株に由来する細胞非含有培養液10L を96穴のマイクロプレートに添加した。
V ・ハーベイレポーター菌株BB170 またはBB886 をAB培地中通気しながら30℃で
16時間生育させ、新しいAB培地中に1:5000に希釈し、そして希釈した菌体90L を
大腸菌およびネズミチフス菌の細胞非含有培養液の入ったウェルに添加した。陽
性対照ウェルには、V ・ハーベイ BB152 (オートインデューサー‐1 - 、オート
インデューサー‐2 + ) またはV ・ハーベイ BB120 (オートインデューサー‐1 + 、オートインデューサー‐2 + ) 由来の細胞非含有培養液10L を添加した。陰
性対照ウェルには、滅菌生育培地10L を添加した。マイクロプレートを30℃175r
pmでロータリーシェーカー上で振とうした。化学発光モードのWallac Model 145
0 Microbeta Plus液体シンチレーションカウンターを用いて1 時間おきに光生成
を測定した。発光測定のために用いた菌体と同じ量を希釈し、希釈液を個体LM培
地上に塗布し(Bassler et al., 1993,前出)、30℃で一夜プレートをインキュベ
ートし、そして翌日形成したコロニーを計数することにより、V ・ハーベイの細
胞密度を測定した。
【0144】 活性測定のための大腸菌およびネズミチフス菌の生存細胞およびUV殺傷細胞の
調製 大腸菌 AB1157 、大腸菌 DH5およびネズミチフス菌 LT2の培養物を通気しなが
ら30℃で0.5 %グルコース含有LB培地中8 時間生育させた。培養物をミクロ遠沈
管中5 分間15,000rpm で遠心分離し、吸引により菌体沈殿物から生育培地を除去
した。菌体沈殿物をAB培地に再懸濁し、激しく攪拌しながら洗浄した。細胞を再
度15,000rpm で5 分間遠心分離した。AB洗浄培地を分離除去し、細胞を新しいAB
培地に再懸濁した。各細胞懸濁液を希釈して1x106 個/10L に調整し、10L づつ
マイクロプレートのウェルに分注した。分注した細胞液の半数には10cmの距離か
ら15分間短波長のUV光を照射した。この処置は、UV処置細胞をプレート培養して
翌日に生育が観察されなかったことを確認することにより判定したところ、細胞
全数を殺傷するのに十分であった。次に、90L の希釈したV ・ハーベイのレポー
ター菌株BB170 を生存または死滅した大腸菌およびネズミチフス菌の細胞何れか
の入ったウェルに添加し、前に記載したとおりに活性を測定した。
【0145】 ネズミチフス菌 LT2培養液中のグルコースの分析 グルコース濃度は、グルコースの標品をLB培地中に調製した以外は製造元の指
示に従ってTrinder 試験(Diagnostic Chemicals Ltd.) を用いてネズミチフス菌
から調製した細胞非含有培養液中で測定した。試験は、0.002 %未満のグルコー
スに対しても感度を有していた。LB培地および消耗LB培養液の何れにも干渉物質
は存在しなかった。
【0146】 結果および考察 大腸菌 AB1157 およびネズミチフス菌 LT2は、V ・ハーベイの2 種の菌体数感
知系の一方を特異的に誘導するシグナル伝達物質を産生する。V ・ハーベイレポ
ーター菌株BB170 は菌体数感知表現型のセンサー1 、センサー2 + を有する。こ
れはシグナル伝達系2 検出体を介してのみ機能する細胞外シグナルに応答してlu
x の発現を誘導する。V ・ハーベイ菌株BB152 から調製した10%細胞非含有消耗
培養液( これは系2 オートインデューサーを含有する) を添加することにより、
内因性の発光水準よりほぼ1,000 倍高値までレポーター菌株を刺激する。図1 で
は、10%細胞非含有消耗培養液の添加により誘導されたV ・ハーベイ BB170によ
る光生成を100 %活性に規格化してある。
【0147】 大腸菌菌株AB1157およびネズミチフス菌菌株LT2 を、LB栄養培地または0.5 %
グルコース含有LB栄養培地中で8 時間生育させた。大腸菌およびネズミチフス菌
の細胞を生育培地から除去し、細胞非含有培養液を調製し、V ・ハーベイにおけ
る発光発現を誘導する活性があるかどうか調べた。グルコース含有LB培地中に生
育させたネズミチフス菌 LT2または大腸菌 AB1157 より得た10%細胞非含有培養
液の添加により、レポーター菌株BB170 における発光が最大限に誘導され、これ
はV ・ハーベイBB152 (図1A)から得た培養液の場合と同様であった。具体的に
は、大腸菌 AB1157 は106 %、ネズミチフス菌は237 %のV ・ハーベイBB152 活
性を示した。グルコースを含有しないLB培地で大腸菌とネズミチフス菌を生育さ
せた場合には同様のシグナル伝達因子を産生しなかった。0.5 %グルコース含有
LB培地10%(v/v) を置き換えたところレポーター菌株で発光は刺激されず、V ・
ハーベイにおける発光発現を誘導する物質は、LBグルコース生育培地中には存在
しないことが示された。我々は、分泌されることが知られているグルコース、ア
ミノ酸、cAMP、アセテート、ホモセリン、ラクトン、ケトグルタレートおよび他
のケト酸を含むシグナルの明確な候補について調べた。これらの物質の何れも活
性を有していない。このような結果は、グルコース含有LB培地に生育させた場合
大腸菌 AB1157 およびネズミチフス菌 LT2により分泌される何らかの物質にV ・
ハーベイ BB170は応答することができることを示唆している。
【0148】 類似の実験をV ・ハーベイレポーター菌株BB886(センサー1 + 、センサー2 -
) を用いて行なった。V ・ハーベイ BB886はシグナル伝達系2 検出体を介して機
能するシグナル伝達分子への応答は欠損しているが、その他の点では野生型であ
る(Bassler et al., Mol.Microbiol. 13:237-286, 1994) 。図1Bは、V ・ハーベ
イ BB120から調製した細胞非含有消耗培養液によるV ・ハーベイ BB886の規格化
された100 %活性を示している。V ・ハーベイ BB120は系1 のオートインデュー
サーであるN-(3- ヒドロキシブタノイル)-L-ホモセリンラクトンを産生する(Bas
sler et al., 1993,前出) 。ネズミチフス菌 LT2および大腸菌 AB1157 の細胞非
含有培養液をV ・ハーベイ菌株BB886 に添加することにより、対照群と比較して
5 %および1 %の高値が観察された( 図1B) 。図1Aおよび図1Bの結果を合わせる
と、大腸菌およびネズミチフス菌の産生するシグナル伝達分子は何らかの他の未
同定の経路ではなくV ・ハーベイのシグナル伝達系2 を介して特異的に作用する
はずである。 シグナル伝達分子の分泌には生菌である大腸菌 AB1157 およびネズミチフス菌
LT2が必要である。
【0149】 我々は、グルコースを含有するLB培地中における大腸菌 AB1157 およびネズミ
チフス菌 LT2の生育により単にある既存の発光誘導阻害剤が利用され涸渇してい
たという可能性について検討した。細胞自体が可溶性のシグナル伝達因子を産生
することを明らかにするために、洗浄した大腸菌およびネズミチフス菌の細胞を
発光試験に直接用いた。その結果を図2 に示す。この実験では、大腸菌 AB1157
およびネズミチフス菌 LT2をシグナル伝達因子の最大生産のための条件である0.
5 %グルコース含有LB培地に8 時間生育させた。遠心分離によりLB- グルコース
生育培地から細菌を除去し、滅菌したV ・ハーベイの発光試験培地を用いて細菌
沈殿物を洗浄再懸濁した。1x106 個の大腸菌 AB1157 またはネズミチフス菌 LT2
の細胞を、実験開始時に希釈したV ・ハーベイ BB170培養物に添加した。図2 に
おいて、各シリーズにおける左側の棒グラフはV ・ハーベイ BB170における発光
を完全に誘導するためには大腸菌 AB1157 またはネズミチフス菌 LT2の洗浄細胞
が存在することで十分であることを示している。大腸菌 AB1157 およびネズミチ
フス菌 LT2はそれぞれ821 倍および766 倍V ・ハーベイにおけるlux 発現を刺激
した。同量の大腸菌およびネズミチフス菌の洗浄細胞を、試験に使用する前に短
波長のUV光で殺傷した。死滅細胞を試験に用いた場合には、発光の刺激は観察さ
れなかった。図2 において、これらの結果は各菌株について右側の棒グラフで示
した。結果をあわせて考えた場合、実験の過程において大腸菌 AB1157 およびネ
ズミチフス菌 LT2細胞自体により刺激因子が産生され、前記因子は細胞の生育し
ている培地に由来するものではなかったことが解かる。死滅細胞は活性を有さな
いことから、この因子は大腸菌およびネズミチフス菌から培地中に能動的に放出
される。
【0150】 大腸菌DH5 はシグナル伝達活性を示さない。 大腸菌およびサルモネラの臨床分離株もまた同様にシグナル伝達化合物を産生
する。10種のサルモネラの臨床分離株および大腸菌 O157 の5 種の病原性単離株
を試験したところ、すべてが活性を示した。シグナルは細胞外に単に拡散するグ
ルコース代謝の何らかの通常の副産物であると推測することもできた。ところが
そうではない理由として、大腸菌 AB1157 およびネズミチフス菌 LT2と同様にグ
ルコースを利用することのできる大腸菌 DH5がシグナル伝達活性を示さないこと
が解かった。図1Aは大腸菌 AB1157 およびネズミチフス菌 LT2とは異なり、0.5
%グルコース含有LB培地中8 時間生育させた大腸菌 DH5から調製した10%細胞非
含有培養液の添加ではV ・ハーベイ BB170の光生成は刺激されなかったことを示
している。同様に、発光試験に大腸菌 DH5の洗浄生存細胞または殺傷細胞を用い
た場合、V ・ハーベイ BB170の光生成は刺激されていない( 図2)。大腸菌 DH5が
活性を示すことができないことは、この高度に馴化された菌株がシグナル伝達活
性の生成または供給の何れかに必要な遺伝子を欠いていることを示している。我
々は、他の実験用大腸菌菌株のシグナル伝達活性についても検討した( 表1)。大
腸菌 DH5のみが細胞外シグナル生産能を完全に欠損していた。
【0151】
【表1】 グルコースはネズミチフス菌 LT2によるシグナル伝達因子の生産および分解を
調節する。グルコース無添加のLB培地中で生育させたネズミチフス菌 LT2および
大腸菌 AB1157 の細胞から得た細胞非含有培養液は、レポーター菌株における発
光の発現を刺激せず、グルコースの代謝がシグナルの産生に必要であることを示
している。我々が他の炭水化物を調べたところ、一般的にPTS 糖類の存在下の生
育(Postma et al., Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular
Biology, (F.C. Niehardt, ed), Am. Soc. Microbiol., Washington D.C., pp.
1149-1174, 1996)により大腸菌 AB1157 およびネズミチフス菌 LT2はシグナルを
産生することができた。試験した糖類のうち、グルコース上での生育が最高濃度
の活性の合成を誘導した。他の炭素源上、例えばTCA 回路中間体およびグリセロ
ール上での生育ではシグナル伝達活性の有意な生成は誘発されなかった。
【0152】 細胞がシグナルの産生を継続するためにはグルコースの存在が必要であるかど
うかについて調べた。図3 は制限濃度(0.1%) および非制限濃度(0.5%) のグル
コースを含有するLB培地中で生育させたネズミチフス菌 LT2による結果を示して
いる。図3Aによれば、グルコースが制限濃度である場合は、ネズミチフス菌 LT2
は指数期中期(4時間生育後)においてシグナルを産生するが、グルコースが培地
から涸渇した後はシグナル伝達活性の生成は停止することが解かる。図3Bによれ
ば、グルコースが制限濃度にならない場合はネズミチフス菌 TL2はより高い濃度
の総活性を産生し、指数期を通じてシグナル伝達活性を産生し続け、最高活性は
6 時間生育時に観察される。更にまた、指数期中期の細胞により合成されるシグ
ナル伝達活性は、細胞が定常期に達するまでに減衰することも図から解かる。制
限グルコース条件下では、定常期には活性は残存しておらず、グルコースが豊富
に存在する場合には僅か24%の活性しか残存していなかった。生育培地中のグル
コース濃度を上昇させても上記結果に変化はなく、即ち、活性は指数期中期に分
泌され、定常期に至るまでには消耗培養液中には極度に減少した活性しか残存し
ていなかった。
【0153】 全体として、本実施例に示した結果によれば、大腸菌およびネズミチフス菌は
V ・ハーベイの1 つの特異的な菌体数感知系を促進するシグナル伝達物質を産生
することが解かった。多くの他の細菌がこれまで上記活性に関して検討されてお
り、この因子の生産に関して陽性と同定された細菌種は僅かのみであった(Bassl
er et al., 1997,前出) 。更にまた、本明細書に記載するとおり、大腸菌および
ネズミチフス菌シグナルは強力であり、これらの細菌はV ・ハーベイと同等の活
性を示す。定常期前の大腸菌およびネズミチフス菌のシグナルの分解は、これら
の細菌における菌体数感知は低細胞密度に調節されており、シグナルへの応答が
定常期に至るまで存続しないように大腸菌およびネズミチフス菌の菌体数感知が
変調されていることを示唆している。更にまた、大腸菌とネズミチフス菌の菌体
数感知は幾つかの環境要因により影響を受ける。シグナルの生成と分解は生育段
階に対してのみならず、細胞の代謝活性に対しても感受性である。これらの結果
によれば、大腸菌とネズミチフス菌の菌体数感知シグナルには2 つの機能があり
、これにより細胞は相互にその生育段階および環境の代謝適性を連絡し合うこと
ができる。
【0154】 大腸菌およびネズミチフス菌の菌体数感知の調節を理解することは、疾患発症
における群集構成および細胞間の相互作用を理解するために重要である。野生型
では、病原性大腸菌およびネズミチフス菌は分散が必至であるために定常期に至
ることはない。したがって、当然大腸菌およびネズミチフス菌における菌体数感
知は低い細胞密度において機能しなければならない。この状況は高い細胞密度で
のみ菌体数感知系が機能する発光性水性共生体であるV ・フィシェリ(V.fischer
i)の場合と対照的であり、細胞密度は、宿主の特殊化された光学器官内部での存
在の指標となる。V ・フィシェリ(V.fischeri)および大腸菌およびネズミチフス
菌の特異的菌体数感知系は、各生命体が存在する場所に対して適切に調節されて
いるように観察される。両者の場合において、細菌が宿主内に残存し、環境中に
自由生息しているわけではないことを連絡するために菌体数感知は有用であると
考えられる。別の複雑性も大腸菌およびネズミチフス菌の系に存在しており、そ
の理由はこれらの細菌が細胞密度の情報と代謝の開始命令の双方を菌体数感知回
路に伝達するためである。ここでもまたグルコースまたは他の代謝産物の豊富さ
に関わるシグナル中継情報により、自由生息状態から宿主内部での生存状態に移
行すべきことが細菌に連絡される。
【0155】 我々が試験した全ての条件下で、本実施例に記載したシグナル伝達活性は有機
溶媒中に定量的に抽出されず、陽イオンおよび陰イオンの交換カラムの何れにも
結合しなかった。予備的検索によれば、シグナルは小型(1000MW 未満) の極性を
有するが見かけ上は非荷電の有機化合物である。活性は酸安定性、塩基不安定性
であり、80℃の熱には耐性であるが100 ℃に対しては耐性でない。大腸菌、ネズ
ミチフス菌およびV ・ハーベイのシグナルの精製は、以下の実施例に詳述する。
【0156】 実施例2 サルモネラ typhimuriumにおけるオートインデューサー産生の調節 本実施例においては、V ・ハーベイのセンサー1 - 、センサー2 + レポーター
菌株におけるlux の発現を刺激する細胞外因子であるAI-2をネズミチフス菌 LT2
が産生する条件を解明する。ネズミチフス菌によるシグナル伝達分子の産生は、
細菌による利用が有った場合に培地のpHが低下するような好ましい炭水化物上に
おける生育の間に起こる。好ましい炭素源の非存在下の生育培地におけるpHの低
下は因子の生産を制限し、このことはpHの変化および炭素源の利用の双方により
細胞が影響を受けることを示している。シグナル伝達活性は細胞が定常期に達す
るまでに減衰し、活性の減衰のためにはタンパク質合成が必要である。適切な炭
素源上での生育の後の浸透圧ショックは、ネズミチフス菌の培養液中に存在する
活性の量を大きく増加させる。このように増加した活性は、オートインデューサ
ーの合成の誘導および活性減衰の阻害によることは明らかである。大腸菌および
ネズミチフス菌は、V ・フィシェリ(V.fischeri)由来のLuxRと相同性を有するSd
iAと呼ばれるタンパク質を保有する(Wang et al., EMBO J.10:3363-3372, 1991;
Ahmer et al., J.Bacteriol.180:1185-1193, 1998) 。SdiAは細胞外因子に応答
すると考えられており(Sitnikov et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:336-
341, 1996; Garcia-Lara et al., J. Bacteriol. 178: 2742-2748, 1996)、ネズ
ミチフス菌における毒性因子の生産を制御することが知られている(Ahmer et al
., 1998,前出)。以下に示す分析は、AI-2オートインデューサーシグナル伝達活
性がSdiA経路を介しては機能しないことを示している。
【0157】 材料および方法 菌株および培地。本試験で使用する細菌の菌株およびその遺伝子型および表現
型を表2 に示す。
【0158】
【表2】 ルリア栄養培地(Luria broth(LB))は、1L当たりに10g のバクトトリプトン(D
ifco) 、5gのコウボエキス(Difco) および10g のNaClを含有した(Sambrook et a
l., 1989) 。オートインデューサー生物試験(AB)培地の組成は前に報告されたと
おりである(Greenberg et al., Arch. Microbiol. 120:87-91, 1979)。LM培地(L
-Marine)は、1L当たりにNaClを20g 、バクトトリプトンを10g 、バクトコウボエ
キスを5gおよび寒天15g を含有する(Bassler et al., 1994,前出)。本明細書に
記載したものと同様のAI-2産生の調節が、ATCC菌株サルモネラ・エンテリカ・セ
ロヴァー・ティフィムリウム(Salmonella enterica Serover Typhimurium) 1402
8 、独立した臨床分離株であるサルモネラ・エンテリカ・セロヴァー・ティフィ
ムリウムおよび他の9 株のサルモネラ・エンテリカ・セロヴァー( ティフィムリ
ウム以外)でも観察された。
【0159】 ネズミチフス菌 LT2の生育条件および細胞非含有培養液の調製 ネズミチフス菌 LT2を30℃で振とうしながらLB培地中一夜生育させた。翌日一
夜培養物30L を用いて新しいLB培地3ml に植菌した。追加の炭素源を含有する培
地中、植菌時に20%の滅菌保存溶液を添加して所定の終濃度とした。細胞を継代
培養した後、試験管をテキスト中に示された時間30℃200rpmで振とうした。ミク
ロ遠沈管中15,000rpm で5 分間遠心分離することにより培地から菌体を除去し、
細胞非含有培養液を調製した。透明な上澄みを8000g で1 分間遠心分離すること
により0.2mの酢酸セルロースSpinX フィルター(Costar, Cambridge, MA) に通
した。試料は-20 ℃で保存した。ネズミチフス菌を37℃で生育させた場合にも、
本明細書に記載するものと同様の結果が得られた。V ・ハーベイ菌株由来の細胞
非含有培養液の調製もまた既に報告された通りである(Bassler et al., 1993,前
出; Bassler et al., 1997, 前出) 。
【0160】 密度依存性生体発光試験 V ・ハーベイのレポーター菌株BB170(センサー1 - 、センサー2 + ) (Bassler
et al., 1993,前出) をAB培地中30℃で12時間生育させ、新しいAB培地中に1:50
00で希釈した。Wallac Model 1409 液体シンチレーションカウンター(Wallac In
c., Gaithersburg, MD) を用いて生育中の種々の時点において光生成を定量する
ことにより、細胞密度の関数として発光を測定した。発光の測定に用いた細胞と
同量を希釈し、希釈液を固体LM培地上に塗布し、30℃で一夜平板培養し、そして
翌日形成したコロニーを計数することにより細胞密度を測定した。相対的光単位
は( 計数分-1ml-1 x103)/(コロニー形成単位ml-1) とする。V ・ハーベイまたは
ネズミチフス菌より得た細胞非含有培養上澄みを、一回目の測定時に10%(v/v)
の終濃度となるように添加した。対照実験においては10%(v/v) のAB培地、LB培
地または0.5 %グルコース含有LB培地を細胞非含有培養液の代わりに添加した。
【0161】 ネズミチフス菌オートインデューサー活性試験 ネズミチフス菌 LT2の放出した菌体数感知シグナル伝達活性を、種々の条件下
に生育させた後に測定した。上記した通り生育させ回収したネズミチフス菌 LT2
の細胞非含有培養液10L を96穴のマイクロプレートに分注した。V ・ハーベイの
レポーター菌株BB170 を一夜生育させ、上記した通り希釈した。希釈したV ・ハ
ーベイ細胞90L をネズミチフス菌細胞非含有培養液の入ったウェルに分注した。
陽性対照ウェルにはV ・ハーベイ BB152(AI-1 - ,AI-2 + ) から得た細胞非含有
培養液10L を入れた(Bassler et al., 1993,前出)。マイクロプレートを30℃20
0rpmでロータリーシェーカーで振とうした。光生成はマイクロプレート用に設計
されたWallac Model 1450 Microbera Plus液体シンチレーションカウンター(Wal
lac Inc., Gaithersburg, MD) を用いて毎時測定した。これらの実験では、細胞
密度は各時点で測定しなかった。むしろ増加した光生成がシグナル伝達活性によ
るものであって生育培地の成分によるものではないことを確認するために、細胞
非含有培養液の入ったウェル中のV ・ハーベイによる光生成を、同じ生育培地の
みが10L 入ったウェル中のV ・ハーベイにより生成されたものと比較した。デー
タは生育培地のみで得られたものの倍数値として報告する。
【0162】 ネズミチフス菌におけるシグナル生産を制御する因子 ネズミチフス菌LT2 を上記した通り0.5 %グルコース含有LB培地中6 時間生育
させた。指数期中期の培養物を数等分した。細胞の一部は定常期まで生育させた
(24 時間30℃振とう培養) 。残りの部分はミクロ遠沈管中15,000rpm で5 分関遠
心分離することによるLBグルコース生育培地から細胞を除去した。得られた細胞
沈殿物をLB、LB+0.5%グルコース、pH5.0 のLBまたは0.1M NaCl 、または0.4M N
aCl(水中) の何れかに2.0 のOD600 となるように再懸濁した。再懸濁した細胞を
2 時間30℃または43℃で振とうした。定常期の培養物から、そして、種々の培地
または浸透圧ショック溶液中に再懸濁してインキュベートした細胞から、細胞非
含有液を調製した。細胞非含有液のシグナル伝達活性を前記したネズミチフス菌
活性試験において調べた。
【0163】 ネズミチフス菌によるオートインデューサー産生に対する生育期、pH、グルコ
ース濃度および浸透圧の影響 ネズミチフス菌 LT2を制限濃度(0.1%) および非制限濃度(1.0%) のグルコー
スを含有するLB培地中種々の時間に渡り30℃で生育させた。テキストに特定され
る時点において、LB培地上にネズミチフス菌培養物の希釈物を塗布し、翌日コロ
ニー計数することにより細胞数を測定した。2 種の培養物のpHを測定し、各培養
物中に残存するグルコースの比率を実施例1 に記載したTrinder 試験を用いて測
定した。前述の通り、LBグルコース培養物から細胞非含有培養液を調製した。細
胞非含有培養液の調製に用いたものと同様の細胞を調製し、0.4M NaCl の浸透圧
ショック溶液に再懸濁し、2 時間30℃200rpmで振とうした。我々はこのタイミン
グがオートインデューサーの生産に最適であると判断した。ミクロ遠沈管中5 分
間15,000rpm で遠心分離することにより、浸透圧ショック溶液から細胞を除去し
た。細胞非含有培養液に関する上記と全く同様にして、再懸濁細胞から細胞非含
有浸透圧ショック液を調製した。細胞非含有培養液および細胞非含有浸透圧ショ
ック液の双方のシグナル伝達活性を、前述の通り測定した。pHを7.2 に維持した
実験において、細胞をpH7.2 の50mM MOPS 含有LB+0.5 %グルコース培地中で生
育させた。1M MOPS pH7.2を用いて15〜30分おきにpHを調節した。pH5.0 で行な
った実験では、LB培地のpHは1M NaOH で5.0 〜5.2 に維持した。
【0164】 ネズミチフス菌 LT2によるシグナルの生産、放出および分解におけるタンパク
質合成の必要性 ネズミチフス菌 LT2はOD600 が2.5 となるまで( 約6 〜8 時間) 、30℃で0.5
%グルコース含有LB培地中で予備生育させた。培養物を4 等分した。2 検体には
室温で5 分間100g/ml Cmで処理した後5 分間15,000rpm で遠心分離することによ
り細胞を回収した。Cm処理細胞沈殿物のうち1 つめの検体は、30g/ml Cm 含有0.
1M NaCl 中に再懸濁し、2 つめの沈殿物は30g/ml Cm 含有0.4M NaCl 中に再懸濁
した。これらの沈殿物の各々を2.0 のOD600 となるように再懸濁した。残りの2
検体の培養物はCmで処理しなかった。代わりに、これら2 検体中の細胞は遠心分
離により回収し、Cm処理細胞に関する上記と全く同様にして0.1Mおよび0.4MのNa
Cl中に再懸濁した。細胞懸濁液を振とうしながら30℃でインキュベートした。テ
キストに記載されている時点で細胞懸濁液から1.5ml づつ採取し、前記した方法
により細胞非含有浸透圧ショック液を調製した。
【0165】 SdiA調節遺伝子発現に対するオートインデューサーの作用の分析 ftsQ1pおよびftsQ2pプロモーターを含む配列(Wang et al., 1991, 前出) を以
下のプライマー:ftsQ1p, 5'-CGGAGATCTGCGCTTTCAATGGATAAACTACG-3'; ftsQ2p,
5'-CGCGGATCCTCTTCTTCGCTGTTTCGCGTG-3'を用いて大腸菌 MG1655 染色体DNA から
増幅した。増幅産物は、ftsQプロモーターおよびBamHI とBglII 部位に挟まれ
たftsQ遺伝子の最初の14コドンを含んでいた。FtsQ1p2pのPCR 産物をベクターpM
LB1034のBamHI 部位にクローニングし(Silhavy et al., Experiments with Gene
Fusions, Cold Spring Harbor Press, 1984) 、プロモーター、リポゾーム結合
部位およびftsQの開始コドンを含んだlacZ融合物を作製した。正しい方向のクロ
ーンであるpMS207、および逆方向にftsQ1p2pインサートを含むクローンであるpM
S209を選択して更に分析を行った。双方のインサートを配列決定し、PCR 中にエ
ラーが導入されなかったことを確認した。
【0166】 大腸菌におけるftsQの調節のために、プラスミドpMS207およびpMS209を大腸菌
菌株MC4100に形質転換し(Silhavy et al, 1984, 前出) 、形質転換体を通気し
ながら30℃で100mg/L アンピシリン含有LB培地中一夜生育させた。rck 調節のた
めには、ネズミチフス菌菌株BA1105 (rck::MudJ)およびBA1305(rck::MudJ sdiA)
を通気しながら30℃で100mg/L カナマイシン含有LB培地中一夜生育させた。一夜
培養物を新しい培地中に20倍希釈し、更に4.5 時間生育させた。この時点で各培
養物を5 等分し、各検体に対し、LB、0.4M NaCl 、ネズミチフス菌 LT2、大腸菌
O157または大腸菌 DH5株( 陰性対照) 由来の0.4M浸透圧ショック液の何れか1 つ
を10%(v/v) 添加した。浸透圧ショック液は、6 時間0.5 %グルコース含有LB培
地中ネズミチフス菌 LT2および大腸菌を予備生育させた後に前述の通り調製した
。細胞懸濁液は2 時間30℃でインキュベートし、その後標準的なガラクトシダー
ゼ反応を試料に対して行った(Miller, A Short Course in Bacterial Genetics,
Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1992) 。
【0167】 結果 ネズミチフス菌 LT2はオートインデューサー様活性を産生する。
【0168】 実施例1 において、ネズミチフス菌および大腸菌の菌株がV ・ハーベイのlux
発現を刺激するシグナル伝達活性を産生することが示されており、そのシグナル
伝達分子は、V ・ハーベイの菌体数感知系2 を介してのみ機能する。図4 はV ・
ハーベイの系2 のレポーター菌株BB170 (センサー1 - 、センサー2 + ) におけ
る発光の誘導を示している。V ・ハーベイの特徴的な菌体数感知挙動を対照実験
( ●) で示す。新しい培地中に希釈した直後、V ・ハーベイにより発せられた細
胞あたりの発光量は1000倍以上も急速に低下した。培地中の内在的に産生された
オートインデューサー(AI-2)の臨界的蓄積濃度に相当する臨界的な細胞密度にお
いて、細胞当たりの発光は指数的、即ち約103 のオーダーで増加し、再度希釈前
の濃度に達する。
【0169】 V ・ハーベイ BB152(AI-1 - 、AI-2+ ) から調製した10%細胞非含有培養液の
添加により、レポーター菌株は希釈後高水準の光出力を維持することができた(
○) 。増加した光出力は、V ・ハーベイ菌株BB152 から調製した細胞非含有培養
液におけるAI-2の存在に応答するV ・ハーベイ BB170細胞によるものである。同
様に、LB+0.5%グルコース中で生育させたネズミチフス菌 LT2由来の細胞非含有
培養液の添加では対照群と比較して約800 倍のレポーター菌株の発光が誘導され
た( ■) 。V ・ハーベイAI-1と同様の活性は上記条件下ではネズミチフス菌 LT2
からは産生されず、LB+0.5%グルコース中にはAI-1およびAI-2の何れの活性も認
められなかった( 実施例1 参照) 。
【0170】 ネズミチフス菌におけるオートインデューサーの生産と分解に環境因子が影響
する。 ネズミチフス菌におけるオートインデューサー生産の制御は、記載した他の菌
体数感知系の場合と異なっている。図5 は、ネズミチフス菌におけるオートイン
デューサーの生産の調節の3 種の重要な側面を示している。第1 に、グルコース
非存在下でLB培地中6 時間ネズミチフス菌を生育させた場合にはオートインデュ
ーサーの活性は観察されない。第2 に、6 時間グルコースの存在下に生育させた
場合は、オートインデューサーの実質的な生産( レポーター菌株の760 倍の活性
) が観察される。第3 に、ネズミチフス菌培養物を定常期まで生育させた場合に
は活性は検出可能ではあるが極度に減少する( レポーター菌株の33倍の活性) 。
【0171】 我々はオートインデューサーの生産に適する条件とオートインデューサーの分
解に適する条件との対比を理解するために、ネズミチフス菌 LT2を何らかの環境
的ストレスを含む数種の処理に付した。図5Bに示した実験において、ネズミチフ
ス菌の細胞を6 時間0.5 %グルコース含有LB培地中で予備生育させることにより
シグナル生産を誘導した。上記条件下ではグルコースが涸渇しないことがわかっ
ている(Surette and Bassler, 1998) 。生育誘導期の後、培養液を除去し、細胞
を少量づつ再懸濁して図2 に記載する種々の条件下2 時間インキュベートした。
上記処理の各々の後、細胞非含有液を調製しBB170 上で活性を調べた。
【0172】 重要な点は、図5Bに示す結果においてネズミチフス菌は実験開始時にオートイ
ンデューサーの生産のために予備誘導されており、即ち、その細胞非含有培養液
がレポーター菌株を760 倍活性化している点である。図5Bによれば、上記細胞か
ら予備生育培養液を除去し、細胞をグルコース非含有LB培地中、0.1M NaCl(低浸
透圧条件) に再懸濁した場合、または43℃2 時間の熱ショックの場合、オートイ
ンデューサーの生産は全く無いか極めて低値であった。このような結果は、上記
処理はオートインデューサー生産の停止または新しく放出されたオートインデュ
ーサーの分解またはその双方をもたらすことを示している。
【0173】 上記結果とは対照的に、新しいLB+ グルコース中に予備誘導した細胞を再懸濁
した場合にはオートインデューサーの継続的な高濃度の生産( レポーターの735
倍活性化) が起こった。同様に、酸性のpHはオートインデューサーの持続的生産
を促進し(600倍活性化) 、高浸透圧ショック(0.4M NaCl) はレポーターの1300倍
誘導をもたらした。増加したAI-2活性は、既に能動的にAI-2を産生していた細胞
のpH5.0 液または0.4M NaCl 浸透圧ショック液中にのみ観察されており、即ち、
予備生育中にグルコースを添加しなかった場合には、同じ2 時間の処理の後には
測定可能な活性は生じないことがわかった。
【0174】 ネズミチフス菌をLB+ グルコースから0.4M NaCl に移行させることにより如何
なる他の試験条件下で観察された濃度よりも遥かに高値までAI-2活性が蓄積した
。0.4M NaCl 中に再懸濁したネズミチフス菌細胞がオートインデューサーの生合
成および/ または放出を増加させ、更に放出された活性のかなりの量を分解する
ことはないことが明らかであることについて以下に記載する。ネズミチフス菌細
胞を0.4M NaCl 、0.4M KClまたは0.8Mスクロース中に再懸濁した場合にもAI-2生
産の同様の増加が起こり、AI-2生産に対するNaClの作用がイオン的なものではな
く浸透圧的なものであることを示している。ネズミチフス菌細胞に対するこの明
確な浸透圧ショック作用は、分解による損失がない状態でオートインデューサー
活性の最高放出の測定を可能とすることから、極めて有用であった。
【0175】 ネズミチフス菌におけるシグナル生産に対するグルコースの作用 実施例1 において、グルコースの持続的存在はネズミチフス菌が菌体数感知シ
グナル伝達因子を産生するために必要であることを示した。糖類の利用により生
育速度が上昇すると同時に培養液のpHが低下するため、我々は更にネズミチフス
菌のシグナル生産に対するグルコース代謝、pH低下および細胞数増加の影響を分
析した。図6 に示す実験において、制限濃度(0.1%) および非制限濃度(1.0%)
のグルコースを含有する生育中のネズミチフス菌LT2 培養物におけるシグナル生
産、生育速度およびpHを測定した。図6 に示すデータにおいて、種々の時点で細
胞非含有培養液および相当する0.4M NaCl 浸透圧ショック液中の両方において産
生されたオートインデューサーの濃度を測定し、1x109 個について規格化した。
図5 の場合と異なり、本実験における細胞はシグナル生産にための予備誘導を行
なっていない。
【0176】 図6 は0.4M NaCl 浸透圧ショック液で観察されたオートインデューサーの生産
および消失のパターンが細胞非含有培養液で観察されたパターンに擬似的である
ことを示している。しかしながら、オートインデューサーが産生される各時点に
おいて、相当する細胞非含有培養液よりも浸透圧ショック液においてより高い活
性が検出される。制限濃度(0.1%) のグルコースの条件下( 図6A、6Cおよび6E)
では、ネズミチフス菌は2 〜4 時間にシグナル伝達活性を産生している( 棒グラ
フ)。しかしながら、グルコースは4 時間には完全に涸渇しており、この時点で
因子の生産は停止している( 図6A) 。一方、細胞を1.0 %グルコース中で生育さ
せた場合( 図6B、6Dおよび6F) は、実験全体を通じて培地中にグルコースが存在
している( 図6B) 。上記した条件下、細胞は12時間活性を合成し続ける。図5 に
示す結果および実施例1 で報告したものと同様、グルコース濃度に関わらず24時
間の時点の定常期細胞から得た細胞非含有培養液および浸透圧ショック液の何れ
にも殆ど活性は観察されなかった。
【0177】 ネズミチフス菌は指数期の間、高濃度および低濃度のグルコースの双方におい
てほぼ同じ速度で生育する。実際、高グルコース培地中で生育させたネズミチフ
ス菌の培養物は低グルコース培地中で生育させたネズミチフス菌により達成され
る細胞密度には達さない( 図6Cおよび6D) 。この培養物中では恐らくはグルコー
ス利用の増加の後の劇的に低下するpHにより細胞の生育が阻害されると考えられ
る。これらの結果は、1 %グルコース含有LB培地中にネズミチフス菌により産生
されたより高い濃度の活性はより多い細胞数に起因するものではなく、グルコー
ス代謝により生じたシグナル生産の誘導によることを示している。
【0178】 図6Eおよび6Fは、各時点における低および高グルコース培養物のpHを示す。低
グルコース条件下( 図6E) では、培養物のpHは初期は細胞がグルコースを利用す
るのに従って減少している。しかしながら、グルコースの完全涸渇と同時に、pH
の上昇が始まる。一方、高グルコース条件下では、培地のpHはpH5 まで低下する
( 図6F) 。図6 に示す実験において、グルコースの異化およびpHの低下の双方が
同時に起こっており、このことはこれらの要因の何れかまたは双方がネズミチフ
ス菌のシグナル生成に関与していることを示唆している。
【0179】 グルコースの代謝および低pHの双方が相互に独立してネズミチフス菌のシグナ
ル生産を制御する。 ネズミチフス菌によるシグナル生産におけるグルコース代謝の寄与度と低pHの
寄与度を識別するために、我々は、pHを7.2 に維持した培養物として0.5 %グル
コース含有LB培地中に生育させたネズミチフス菌により産生された活性( 図7A)
とpHを5.0 に維持しながらグルコース非含有LB培地中に生育させたネズミチフス
菌によるもの( 図7B) とを比較した。ここでもまた、細胞非含有培養液および0.
4M NaCl 浸透圧ショック液中に存在するシグナルを測定した。図3 に示すデータ
と同様、細胞非含有培養液中に観察されたシグナル濃度は0.4M NaCl 浸透圧ショ
ック液中で観察されたものよりも低値であった。
【0180】 ネズミチフス菌をpH7.2 のLB+0.5%グルコース中に生育させた場合、漸増量の
菌体数感知シグナルが6 時間に渡り検出された。6 時間目には0.4M NaCl 浸透圧
ショック液中では、V ・ ハーベイレポーター菌株BB170 の光生成が約550 倍刺
激された。6 時間の時点後では活性は産生されなかった。図7Aによれば8 時間に
渡りpHは7.15〜7.25に維持されており、その後、培養物のpHはそれ以上低下せず
、恐らくは細胞によるグルコースの消費により上昇を開始したことがわかる。実
験継続中は我々はpHを持続して上昇させた。図はまた各時点における細胞数を示
している。pH7.2 においては細胞は急速に生育し、高い細胞密度に至った。
【0181】 本明細書に記載した経時的分析によれば、ネズミチフス菌は中性pHでグルコー
スを含有しないLB培地中で生育させた場合にはシグナルを産生しない( 実施例1
参照) 。しかしながら、ネズミチフス菌はpH5.0 で生育させた場合はグルコース
非存在下で菌体数感知因子を一時的に産生している( 図7B) 。シグナルは4 時間
に渡り産生され、0.4M NaCl 浸透圧ショック液中では約450 倍のレポーター刺激
が最大活性として観察された。5 時間までには極めて少ないシグナルが産生され
、インキュベーション6 時間後にはシグナルは完全に無くなった。図7Bは本実験
においてpHが5.0 〜5.2 に維持されていたことを示している。細胞の生育はpH7.
2 の場合よりもpH5.0 において遥かにより緩やかであった。
【0182】 ネズミチフス菌オートインデューサー分解装置の予備検索 ネズミチフス菌LT2 により産生される菌体数感知活性は定常期の開始により減
衰する。我々の測定によれば、LB+ グルコース中で6 時間生育させた細胞の細胞
非含有培養液上澄みおよび0.4M NaCl 浸透圧ショック液に含まれる活性は30℃で
少なくとも24時間安定であり、このことはこれらの細胞非含有液中に分解活性が
無いことを示している。更にまた、活動的に産生するネズミチフス菌から( 即ち
LB+ グルコース中6 時間生育させた培養物から) 調製した細胞非含有液と、因子
を分解しているネズミチフス菌から( 即ちLB+ グルコース中12または24時間生育
させた培養物から) 調製した細胞非含有培養液とを混合しても活性の減衰は起こ
らない。この結果は、分解活性は放出されるのではなくむしろ細胞に結合してい
ることを示している。
【0183】 図5 によれば、オートインデューサーを能動的に放出するネズミチフス菌細胞
を0.1M NaCl に移行させた場合にもそれ以上のオートインデューサーの産生は起
こらないことが解かる。しかしながら、これらと同様の細胞を0.4M NaCl に移行
させると、より高値のオートインデューサー生産が認められる。このような結果
が意味することは、低浸透圧はオートインデューサーの分解機序を誘導するシグ
ナルである可能性があることである。浸透圧がネズミチフス菌におけるオートイ
ンデューサーの生産および分解に影響する機序を解明するために、高浸透圧およ
び低浸透圧中でのネズミチフス菌のシグナル生産および分解におけるタンパク質
合成の必要性について調べた。図5 の凡例に記載する通り、ネズミチフス菌LT2
を、シグナル伝達の最大誘導を達成するために0.5 %グルコース含有LB培地中で
生育させた後、タンパク質合成の存在下および非存在下に0.1Mまたは0.4MのNaCl
で処理した。細胞非含有溶液を調製してシグナル伝達活性を試験した。細胞非含
有の浸透圧ショック液の半量がクロラムフェニコールフェニコール(Cm)を含有し
ていたため、V ・ ハーベイJAF305を活性試験のレポーター菌株として使用した
。このV ・ ハーベイ菌株はluxN遺伝子にCmr カセットを含んでおり、その表現
型はセンサー1 - 、センサー2 + 、であり、V ・ ハーベイBB170 の表現型と同
一である。
【0184】 細胞を0.4M NaCl に再懸濁した場合、ネズミチフス菌は200 分間に渡り漸増量
のシグナルを産生し放出した( 図8A、□) 。この時間以降は細胞非含有浸透圧シ
ョック液中に存在するシグナル伝達活性の濃度は幾分低下し、一部の放出シグナ
ルが分解されたことを示している。ネズミチフス菌を0.1M NaCl 中に再懸濁した
場合には全く異なる結果が得られている( 図8B、□) 。この場合、早期の時点に
おいては、ネズミチフス菌は0.4M NaCl 中に再懸濁した細胞が産生した量と等し
い量の活性を産生した。しかしながら、120 分には細胞非含有低浸透圧液中には
活性は残存しなくなった。この結果は、低浸透圧条件下では放出された活性は急
速に減衰することを示している。我々は細胞非含有培養液中には活性の減衰を観
察しておらず、このことは低浸透圧細胞非含有液からの活性の消失はシグナル伝
達分子の化学的不安定性に起因するものではないことを示している。
【0185】 高浸透圧条件下では、タンパク質合成を阻害するために細胞をCmで処理した場
合、未処理の細胞の僅か約4 分の1 の活性のみしか生じなかった。図8Aにおける
■は、Cm存在下ではレポーター菌株の300 倍の誘導が起こったことを示しており
、これに対し、未処理の細胞では1200倍誘導があった( 図8A、□) 。ネズミチフ
ス菌を低浸透圧に再懸濁した場合( 図8B) 、Cmの非存在下( □) に産生された活
性の約4 分の3 がCmの存在下( ■) に産生された。Cm存在下では放出された活性
は高浸透圧では300 分までに分解されず、低浸透圧では僅か一部のみが分解され
た。
【0186】 高浸透圧がAI-2シグナルの分解を阻害しないことを示すために、0.4M NaCl 細
胞非含有浸透圧ショック液中に含有される活性を2 時間0.1M NaCl に再懸濁させ
ておいたネズミチフス菌細胞に添加した。図8 に示すとおり、これらは因子を分
解できる細胞である。表3 はこれらのネズミチフス菌細胞が高浸透圧でインキュ
ベートする間にシグナル伝達活性の98%を超える分を分解したことを示している
。表はまた0.4M NaCl中でインキュベートしておいたネズミチフス菌細胞( これ
らはシグナルを能動的に産生する細胞である) は能動的に分解する細胞から得た
0.1M NaCl インキュベーション液中に再懸濁した場合はそれ以上の活性を放出し
なかった。更にまた、活性および不活性の0.4Mおよび0.1Mの細胞非含有浸透圧液
を混合しても0.4M液の活性の減衰は起こらなかった。
【0187】
【表3】 a ネズミチフス菌は0.5 %グルコース含有LB培地中6 時間生育させた。細胞を
沈殿させ、0.1Mまたは0.4Mの何れかのNaClに2 時間再懸濁した。細胞非含有液を
調製して活性を調べた。
【0188】b 0.1M NaCl 中2 時間インキュベートしておいたネズミチフス菌の細胞を沈殿
させ、2 時間0.4M NaCl 中に懸濁した細胞から得た上澄みの浸透圧ショック液中
に含まれる活性中に再懸濁した。2 時間インキュベートした後に細胞非含有液を
調製し、シグナル伝達活性を調べた。
【0189】c 0.4M NaCl 中に懸濁しておいたネズミチフス菌細胞を沈殿させ、2 時間0.1M
NaCl 中に懸濁した細胞から得た上澄みの浸透圧ショック液中で2 時間インキュ
ベートした。2 時間インキュベートした後に細胞非含有液を調製し、シグナル伝
達活性を調べた。
【0190】 LuxR相同体SdiAはAI-2オートインデューサーへの応答に関与していない。 V ・フィシェリのluxRに相同な遺伝子が大腸菌およびネズミチフス菌において
同定されており、sdiAと称されている。2 つの報告によれば、大腸菌のSdiAは主
に細胞非含有培養液中に存在する因子に応答して(Garcia-Lara et al., 1996,前
出) および数種のホモセリンラクトンオートインデューサーに応答して(Sitni
kov et al., 1996, 前出) 、細胞分裂遺伝子座ftsQAZの発現を調節する。大腸菌
ゲノムの配列決定の完了により、大腸菌にはLuxIの相同体は存在せず、仮想され
た可溶性因子の生合成に関わる遺伝子座は判明していない。ネズミチフス菌にお
けるSdiAの過剰発現がネズミチフス菌の毒性プラスミド上に位置するいくつかの
ORF の発現に影響することが最近わかった(Ahmer等, 1998, 前出)。大腸菌の研
究において、ネズミチフス菌におけるSdiA活性は細胞外の因子により変調される
ことが提案されている。
【0191】 ネズミチフス菌および大腸菌において我々が検索したAI-2オートインデューサ
ーはSdiAを介して機能する可能性があった。AI-2が大腸菌およびネズミチフス菌
においてSdiAにより調節される遺伝子に対して作用を有するかどうか調べた。大
腸菌においては、ftsQ1p2p-lacZ レポーターを試験し、ネズミチフス菌において
はsdiA+ およびsdiA- の条件下でrck::MudJ 融合を調べた。LB、0.4M NaCl 、ネ
ズミチフス菌LT2 、大腸菌O157由来のAI-2活性を含有する0.4M NaCl 浸透圧ショ
ック液、および大腸菌DH5 由来の0.4M NaCl 浸透圧ショック液の添加の作用を調
べた。実施例1 において既に、DH5 が我々の生育条件下ではAI-2活性を産生しな
いことが示されている。
【0192】 大腸菌の実験については、MC4100およびMC4100/pMS209 (誤った方向にftsQ1p
2pを含む)が測定可能なガラクトシダーゼ活性を有さないことを観察している。
MC4100/pMS207(ftsQ1p2p-lacZ 融合体を含有) により産生されるガラクトシダー
ゼの濃度は概ね20〜30Miller単位であり、この濃度の活性はここで試験した条件
下の何れにおいても変化しなかった。この濃度の活性の融合物は前に報告された
ものと同等であった(Sitnikov 等., 1996,前出;Garcia-Lara et al., 1996,
前出) 。ネズミチフス菌のSdiAの研究においては、Ahmer et al. (1998, 前出)
と同様、我々はsdiA + 条件下に約30Miller単位のrck::MudJ 活性を得ており、
この濃度はsdiA- 条件下では10単位にまで低下した。大腸菌およびネズミチフス
菌由来のAI-2の添加後にガラクトシダーゼ生産の変化は起こらなかった。これら
の結果は、SdiAの活性を変調させる細胞外因子が存在する場合、我々が試験した
条件下では、それはAI-2ではないことを示している。
【0193】 考察 大腸菌およびネズミチフス菌における菌体数感知。我々はネズミチフス菌によ
り産生される細胞外シグナル伝達因子を検出することを可能にした異種生物試験
を開発している。因子は菌体数感知細菌V ・ ハーベイのAI-2の作用に擬似的で
あり、V ・ ハーベイのシグナル伝達系2 検出体LuxQを介して特異的に作用する
。ftsQおよびrck プロモーターへのlacZ融合体を用いた結果によれば、我々の試
験条件下では、AI-2菌体数感知因子は少なくともこれらの遺伝子の調節に関して
はSdiAに対してシグナル伝達を行なわない。したがって、AI-2菌体数感知系は以
前に検討したものではなく異なるネズミチフス菌および大腸菌のシグナル形質導
入経路に関与している。
【0194】 ネズミチフス菌LT2 はV ・ ハーベイの産生する量とほぼ等しい活性を産生す
る。我々は10%ネズミチフス菌細胞非含有培養液の添加によりV ・ ハーベイレ
ポーター菌株BB170 の約800 倍の刺激を観察している。lux の誘導のタイミング
およびネズミチフス菌シグナルに対するV ・ ハーベイの応答曲線の形状は、V
・ ハーベイがそれ自身のAI-2に応答した場合と識別できない。我々は更にまたV
・ ハーベイのAI-2とネズミチフス菌のシグナル伝達分子の双方を同じ精製方法
を用いて部分的に精製することに成功している。これらの2 つの結果により、我
々はネズミチフス菌シグナル伝達分子はビブリオ・ハーベイのAI-2と同一である
か、これに極めて緊密に関連していると考えるに至った。
【0195】 ネズミチフス菌のシグナルの生産および分解を生育条件が調節する。 本実施例においては、我々は更にネズミチフス菌LT2 におけるシグナル伝達活
性の調節を検索した。ネズミチフス菌培養上澄みのシグナル伝達活性の蓄積は細
胞が富栄養培地中のグルコースを能動的に利用する指数期中期において最大とな
る。このような生育条件下では、グルコースの利用には培養物のpHの急速な低下
が伴う。結果によれば、ネズミチフス菌LT2 が菌体数感知因子を産生するのを誘
導するためにはグルコース代謝または低pHの何れかで十分であり、このことはグ
ルコースと酸度の双方がオートインデューサー生産のための独立したシグナルを
生成していることを示している。グルコース存在下では、pHを維持しない場合、
pHの低下と適切な炭素源の存在の恐らくは双方がネズミチフス菌における菌体数
感知の調節に寄与する。結果はまた、オートインデューサーの生産は中性pHでは
グルコース存在下に、低pHではグルコース非存在下に定常期よりも前に停止する
ことを示している。従って、ネズミチフス菌にオートインデューサー生産終了の
合図を送るのに酸性条件とグルコース非存在の組み合わせが必要なわけではない
【0196】 グルコースの他に数種の別の炭水化物上の生育もまたシグナル伝達活性を誘導
する。これらにはPTS (フラクト−ス、マンノース、グルシトールおよびグルコ
サミン)および非PTS (ガラクトースおよびアラビノース)の双方が包含される
。このような観察結果によれば、オートインデューサー生合成の調節におけるPT
S の排他的な役割が排除される。ネズミチフス菌LT2 を数種類の別の炭素源(ア
セテート、グリセロール、シトレートおよびセリン)上で生育させた場合、シグ
ナル伝達活性の実質的な蓄積は観察されなかった。実施例1において、シグナル
は混合酸発酵物の主要産物を含むネズミチフス菌から分泌されることが知られて
いる多くの物質のいずれでもないことを示している。明らかにシグナル伝達分子
の産生は細胞により厳密に調節されており、我々がまだ知らない理由により望ま
しい炭水化物上における生育条件下で優先される。シグナル伝達分子の同定およ
び生合成遺伝子のクローニングにより調節過程が更に理解できると考えられる。
【0197】 本実施例に記載した結果によれば、他の菌体数感知系とは対照的に、ネズミチ
フス菌のシグナルは定常期には蓄積しない。少なくとも2 種の競合する過程、即
ち、オートインデューサーの生産およびオートインデューサーの分解がこの調節
に寄与している。本実施例においては、我々は細胞非含有液中に存在するシグナ
ル伝達活性の増加としてオートインデューサーの生産を定義している。活性の増
加は新しく生合成されたオートインデューサーの放出、保存されているオートイ
ンデューサーの放出、オートインデューサーの分解の阻害、または、これらの活
動の何れかの組合せによるものであると認識している。我々はオートインデュー
サーの分解を細胞非含有液からのシグナル伝達活性の消失と定義する。この消失
はオートインデューサーの崩壊、オートインデューサーの再取り込み、またはこ
れらの活動の組合せによると考えられる。我々の研究で用いた幾つかの条件下で
はオートインデューサーの生産およびオートインデューサーの分解は同時に起こ
っている。これが正しいとすれば、細胞非含有培養液中に検出された活性は、上
記した過程、生産または分解の何れが主要であるかを決める尺度となる。これら
の観察結果によれば、ネズミチフス菌の菌体数感知はシグナルおよびおそらくは
シグナルへの応答が定常期まで存続しないように調節されていることがわかる。
好ましい炭水化物の利用もシグナル生成に必要であることから、ネズミチフス菌
における菌体数感知は、細胞密度の測定のため、および生育のための環境の潜在
能力の測定のための双方に使用される。
【0198】 浸透圧はネズミチフス菌におけるシグナルの生成および分解に影響する。 92
シグナルを能動的に産生するネズミチフス菌細胞を更に刺激することにより特
定の環境処理によりシグナルを産生させることができ、このことは幾つかの独立
した調節経路がオートインデューサーの合成に情報を引き渡すことを示している
。これらの処理の1 つは0.4M NaCl 浸透圧ショックである。オートインデューサ
ー産生ネズミチフス菌細胞を0.4M NaCl に再懸濁した場合、細胞がタンパク質合
成能を有する場合のほうがタンパク質合成がブロックされている場合よりも有意
に高値の活性を放出する。更にまたシグナルの分解にもタンパク質の合成が必要
である。これらの結果には幾つかの意味が含まれている。第1 にCmの存在下では
、高浸透圧および低浸透圧の双方で再懸濁したネズミチフス菌は同様の濃度の活
性を産生している。この結果はグルコースの存在下に生育させた後、ネズミチフ
ス菌細胞はシグナル伝達活性を産生する( そして/ または既に合成された活性を
細胞から放出する) 予め決まった能力を有していることを示している。第2 に、
細胞を高浸透圧で再懸濁させた場合、シグナルの生産は上記の濃度より遥かに高
くなる。このシグナル生産の増加にはタンパク質合成が必要であり、そしてこの
ことは、高浸透圧がシグナルの生産および/ または放出のために必要な生合成機
能を超えたものをネズミチフス菌に合成させるための1 つの環境的合図であるこ
とを意味していると我々は解釈している。第3 に、低浸透圧条件下において、我
々は初期の活性の放出、それに続く活性の急速な低下を観察している。さらにま
た、シグナルの分解はCmの存在下には観察されないことから、これにはタンパク
質の合成が必要である。これらの結果は、環境がオートインデューサー生産に好
都合な条件(LB+好ましい炭化水素、または高浸透圧) からオートインデューサー
の生産に都合の悪い条件( 低浸透圧、または好ましい炭素源の不在) に変化した
ことを意味している。この環境上の変化はシグナル伝達活性の分解に必要なタン
パク質を合成するようにネズミチフス菌を誘導する。
【0199】 ネズミチフス菌細胞を0.4M NaCl 中でインキュベートした場合には200 分以内
に活性の顕著な低下は観察されなかった。この結果は必要な分解性タンパク質が
上記条件下では合成されないか、または、分解性機能が組織されるがその活性は
高浸透圧により阻害されることを示している。この結果によれば、活性を分解す
るように誘導された細胞は高浸透圧でもその挙動を示すことから、高浸透圧はシ
グナル分解を阻害しないことを示している。従って、高NaCl試料中の活性の持続
は、分解機序がまだ構築されているために起こるものであり、その活性が阻害さ
れているためではない。
【0200】 ネズミチフス菌細胞がいつオートインデューサーを産生し、いつオートインデ
ューサーの分解体となるかを厳密に測定することは、両者の過程が同時に起こる
ために困難である。しかしながら、高浸透圧では分解は全く起こらないか極めて
僅かであり、全体のシグナル産生体から全体のシグナル分解体への細胞の変換は
低浸透圧で起こり、タンパク質合成を必要とすると考えられる。分解過程に関す
る我々の予備的検索で細胞との関連性が考えられた理由は、オートインデューサ
ー活性が長期間に渡り細胞非含有培養上澄み中で安定であり、そして、活性のあ
る細胞非含有培養液と不活性のもの、または、活性および不活性の高浸透圧およ
び低浸透圧の細胞非含有液を組み合わせてもオートインデューサーの分解は誘発
されないためである。我々は最近AI-2活性を産生しないネズミチフス菌突然変異
株を単離した。この突然変異株がオートインデューサーを分解する能力を温存し
ている場合、これを分析することで分解のタイミングを理解するため、および、
分解機序を誘発する合図を同定するための情報が得られる。我々は現在オートイ
ンデューサー産生可能であるがオートインデューサー分解不可能であるネズミチ
フス菌突然変異株の単離を試みているところである。
【0201】 サルモネラ疾患発症における菌体数感知の役割 ネズミチフス菌LT2 によるシグナルの生産および分解の調節に関する本明細書
に記載した観察結果は、サルモネラの疾患発症における菌体数感知の役割を示唆
している。シグナル生産に好都合な条件( 富栄養、高浸透圧および低pH) は腸内
病原体がその宿主と最初に相互作用を示した時点で遭遇するものであると考えら
れる。シグナルの分解に好都合な条件( 貧栄養、低浸透圧) は病原体が宿主から
退出する際に最も高確率で遭遇する条件である。宿主の最初のコロニー形成は、
細胞- 細胞シグナル伝達系を介して協調される細胞集団間の調和的作業である。
我々が試験していない他の合図もまたネズミチフス菌の菌体数感知を調節する可
能性がある。これらは疾患発症に関与する独立した、または重複するシグナル伝
達経路を呈する。我々はこのような仮説を検証するためにネズミチフス菌突然変
異株を単離しているところである。最終的に、サルモネラの疾患発症は宿主と代
謝活性細菌との間の相互作用の動的過程である。疾患発症における菌体数感知の
役割からも裏付けられるとおり、我々の得た証拠はこの菌体数感知系が定常期に
は機能しないことを示唆している。我々はシグナル伝達分子が定常期の間は産生
されないこと、そして更には既存のシグナルが分解されることを報告している。
恐らくは菌体数感知はネズミチフス菌が宿主関連の存在から自由生存の存在に移
行するために必須であると考えられる。
【0202】 実施例3 大腸菌、ネズミチフス菌およびビブリオ・ ハーベイにおける菌体数感知:オー
トインデューサー生産に関与する遺伝子の新しいファミリー 本実施例においては、V ・ ハーベイ、大腸菌およびネズミチフス菌におけるA
I-2生産に関与する遺伝子の分析について報告する。これら3 種の細菌全てにお
いて同定された遺伝子は高度な相同性を有し、これらの遺伝子がオートインデュ
ーサー生産に関与するタンパク質の新しいファミリーを定義することが提案され
る。luxSV.h.、luxSE.c.およびluxSS.t.と命名した遺伝子はゲノム配列決定プロ
ジェクトの多数の種類の細菌で同定されているが、現在まで如何なる生物のこの
遺伝子に関してもその機能が報告されていない。luxS遺伝子はオートインデュー
サー生産に関与することが知られている他の何れの遺伝子にも相同性を有してい
ない。
【0203】 材料および方法 菌株、培地および組み換えDNA 法 V ・ ハーベイ BB120は野生型菌株を用いる(Bassler et al., 1997,前出) 。 ネズミチフス菌LT2 はK.Huges 博士( ワシントン大学) より入手し、ネズミチ
フス菌14028 はATCC菌株14028 の微生物であるサルモネラ・コレラエスイス(Sal
monella choleraesuis) を用いる。大腸菌O157:H7はPaddy Gibb博士( カルガリ
ー大学) より入手した臨床分離株である。Luria 栄養培地(LB)はバクトトリプト
ン(Difco)10 g、コウボエキス(Difco)5g およびNaCl10g を1 リットル当たり含
有するものを用いた。オートインデューサー生物試験(AB)培地の組成は前に報告
されている通りである(Greenberg, E.P., Hastingsm J.W., and Ulitzur, S. (1
979), Arch. Microbiol. 120, 87-91)。特定の場合においてグルコースは終濃度
0.5 %となるように20%の滅菌保存溶液から添加した。抗生物質は以下の濃度(m
g/L)、即ち、アンピシリン(Amp)100、クロラムフェニコール(Cm)10、ゲンタマイ
シン(Gn)100 、カナマイシン(Kn)100 カナマイシンおよびテトラサイクリン(Tet
)10 で使用した。大腸菌のDNA の単離、制限分析および形質転換はSambrook et
al. の記載に従って実施した。サザンブロット分析のプローブはAmershamのMult
iprime DNA標識システムを用いて標識した。配列決定にはApplied Biosystems配
列決定装置を用いた。V ・ ハーベイBB120 のゲノムライブラリーは文献記載に
従ってコスミドpLAFR2において構築した(Bassler et al., 1993,前出) 。クロー
ニングされたV ・ ハーベイ遺伝子のTn5 突然変異のための方法およびV ・ ハー
ベイの染色体へのTn5 突然変異遺伝子の挿入のためのアレル置換方法は文献記載
のとおりである(Bassler et al., 1993,前出) 。
【0204】 生体発光試験 V ・ ハーベイレポーター菌株BB170(センサー1 - 、センサー2 + ) を用いたA
I-2の生物試験は前の実施例で記載した通りである。AI-2活性に関して試験すべ
きV ・ ハーベイ、大腸菌またはネズミチフス菌の菌株から得た細胞非含有培養
液を前述の通り調製し、10%(v/v) で試験した。AI-2の活性はバックグラウンド
を超えたレポーター菌株の誘導倍率として、または、V ・ ハーベイBB120 (野
生型) 細胞非含有培養液から得られた活性の%として報告する。
【0205】 ネズミチフス菌LT2 におけるAI-2生産遺伝子の突然変異導入および分析 ネズミチフス菌LT2 のMudJ挿入突然変異株は文献記載の通りファージP22 デリ
バリーシステムを用いて発生させた(Maloy, S.R., Stewart, V.J., and Taylor,
R.K. (1996) Genetic analysis of pathogenic bacteria: a laboratory manua
l. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.) 。0.5
%グルコース含有LB培地中で指数期中期まで生育させた後、ネズミチフス菌の挿
入突然変異株のAI-2生産についてV ・ ハーベイBB170 生物試験により調べた。
ネズミチフス菌のAI-2生産機能を不活性化したMudJ挿入部位を、PCR 増幅および
挿入ジャンクションにおける染色体DNA の配列決定により特定した。2 段階の増
幅操作法を用いた(Caetano-Annoles, G. (1993), Meth. Appl. 3, 85-92)。最初
のPCR 反応では任意プライマー5'-GGCCACGCGTCGACTAGTACNNNNNNNNNNACGCCC-3'お
よびMudJ特異的プライマー5'-GCACTACAGGCTTGCAAGCCC-3' を用いた。次にこのPC
R 反応液1Lをテンプレートとし、第2 の任意プライマー(5'-GGCCACGCGTCGACTAGT
CA-3')および別のMudJ特異的プライマー(5'-TCTAATCCCATCAGATCCCG-3')を用いて
2 回目のPCR 増幅を行った。第2 の反応で得られたPCR 産物を精製し、配列決定
した。
【0206】 大腸菌MG1655, 大腸菌O157:H7および大腸菌DH5 のAI-2生産遺伝子のクローニ
ングおよび配列決定 ネズミチフス菌LT2 のMudJスクリーニングで得られたDNA 配列を用いて大腸菌
MG1655のゲノム配列を検索し、相当する大腸菌領域を同定した(Blattner et al.
, Science 277, 1453-1462, 1997) 。配列決定プロジェクトから同定した遺伝子
はygaGと命名されていた。YgaG遺伝子をはさむプライマーととりこまれた制限部
位は大腸菌MG1655、大腸菌O157:H7および大腸菌DH5 のygaG遺伝子を増幅するよ
うに設計して用いた。使用したプライマーは5'-GTGAAGCTTGTTTACTGACTAGATC-3'
および5'-GTGTCTAGAAAAACACGCCTGACAG-3' であった。PCR 産物を精製し、消化し
、pUC19 にクローニングした。各々の場合において、3 種の独立した反応で得た
PCR 産物をクローニングして配列決定した。
【0207】 結果 V ・ ハーベイのAI-2生産に関与する遺伝子の同定とクローニング 我々は前の実施例において、他の多くの大腸菌菌株とは異なり、大腸菌菌株DH
5 はV ・ ハーベイにより検出されることのできるAI-2シグナル伝達分子を産生
しないことを述べた。従って当然我々はV ・ ハーベイのAI-2生産遺伝子のクロ
ーニングのための突然変異株として大腸菌DH5 を使用できると考えた。野生型V
・ ハーベイBB120 のゲノムDNA のライブラリーを大腸菌菌株DH5 に形質転換し
、形質転換体でV ・ ハーベイBB170AI-2 検出生物試験においてAI-2生産を示す
ものをスクリーニングした。ライブラリーは2,500 クローンよりなり、各々が約
25kbのV ・ ハーベイのゲノムDNA を有していた。5 種のDH5 クローンが生物試
験におけるレポーター菌株の300 倍を超える刺激をもたらすことがわかった。
【0208】 5 種のAI-2産生大腸菌DH5 クローン由来の組み換えコスミドを制限分析および
サザンブロッティングにより分析した。5 種のコスミド全てが同一のV ・ ハー
ベイゲノム制限フラグメントの重複するサブセットを含んでおり、このことは我
々が同じ遺伝子座を数回クローニングしたことを示している。pBB2929 と命名し
た1 種のコスミドをその後の分析のために選択した。トランスボゾンTn5 を用い
たランダム突然変異をコスミドpBB2929 に対して行ない、Tn5 挿入を含むコスミ
ドを合わせたものをその後大腸菌DH5 に形質転換した。962 種の独立した大腸菌
DH5/pBB2929 ::Tn5 株についてAI-2を産生する能力が欠損しているかどうか調
べた。pBB2929 中のTn5 挿入を有する4 種の大腸菌DH5 菌株がAI-2を産生できな
いことが解かった。我々はpBB2929 中のこれらのTn5 挿入の個所をマッピングし
、4 種全てのトランスボゾン挿入部が同じ2.6kb のHindIII のV ・ ハーベイゲ
ノムDNA フラグメントにあることが解かった( 図9A) 。
【0209】 コスミドpBB2929 をHindIII で消化し得られた8 種のフラグメントをpALTER(P
romega) の両方向にサブクローニングした。pALTERのサブクローンを大腸菌DH5
に形質転換し、その後AI-2の生産について調べた。AI-2を産生できる唯一の菌株
はTn5 突然変異において同定された2.6kb のHindIII フラグメントを含んでいた
。このフラグメントを配列決定したところ、オープンリーディングフレーム(ORF
) が1 つのみ同定され、その位置はAI-2の生産を欠損させた4 種のTn5 挿入の地
図上の位置に相当していた。我々はこのORF をluxSV.h.と命名した( 図9A) 。
【0210】 V ・ ハーベイにおけるluxSV.h.の突然変異導入 我々はV ・ ハーベイにおけるAI-2生産に対するluxSV.h.のヌル突然変異の作
用を分析した。luxSV.h.遺伝子にマッピングされた4 種のTn5 挿入部およびluxS V.h. 遺伝子座に隣接する対照Tn5 挿入部をV ・ ハーベイBB120 染色体の相当す
る位置に移し、それぞれ菌株MM37、MM30、MM36、MM38およびMM28を作製した( 図
9A) 。V ・ ハーベイ染色体中の5 種全てのTn5 挿入の正しい位置を確認するた
めサザンブロッティングを行なった。4 種のV ・ ハーベイluxSV.h.::Tn5 挿
入菌株がAI-2を産生する能力があるかどうか調べたところ、これら4 種の菌株の
全てが同様の結果を示した。
【0211】 図10A において、野生型の対照Tn5 挿入菌株MM28および1 つの代表的なluxSV. h. ::Tn5 挿入菌株MM30のAI-2生産表現型を示す。V ・ ハーベイMM28およびMM3
0は高細胞密度まで生育させ、その後、細胞非含有培養液を調製した。培養液のA
I-2活性はAI-2検出体菌株BB170 における発光を誘導する能力に基づいて調べた
。図10A は対照Tn5 挿入菌株MM28から得た培養液の添加によりレポーターでは78
0 倍の発光が誘導されたのに対し、luxSV.h.::Tn5 挿入菌株MM30の培養液はレ
ポーターの発光の発現を誘導しなかった。従ってV ・ ハーベイにおけるluxSV.h . のヌル突然変異はAI-2の生産を欠損させた。
【0212】 ネズミチフス菌オートインデューサー生産突然変異株の同定および分析 ネズミチフス菌におけるAI-2生産に関与する遺伝子を同定するために、我々は
MudJトランスポゾンを用いてネズミチフス菌LT2 を無作為に突然変異させた(Mal
oy et al., 1996,前出) 。10000 株のネズミチフス菌LT2 挿入突然変異株のAI-2
生産をV ・ ハーベイBB170 の生物試験において調べた。1 株のネズミチフス菌M
udJ挿入突然変異株( 菌株CS132)が指数期中期において培養液中に検出可能なAI-
2を生じなかったことを同定した。
【0213】 図10B はネズミチフス菌の菌株LT2および相当するMudJ挿入菌株CS132 のAI-2
生産表現型を示す。菌株をグルコース含有LB培地中で指数期中期まで生育させ、
細胞非含有培養液を調製しAI-2を調べた。ネズミチフス菌LT2 培養液はレポータ
ー菌株を500 倍誘導したが、菌株CS132 の培養液はAI-2活性を含有していなかっ
た。更にまた菌株CS132 は、我々がネズミチフス菌におけるAI-2生産を誘導する
と報告していた生育条件の何れにおいてもAI-2を産生しなかった( 図示せず) 。
【0214】 ネズミチフス菌CS132 におけるMudJ挿入の部位はPCR 増幅、次いでトランスポ
ゾンに隣接する110bp の染色体DNA の配列決定により調べた。この配列を用いて
DNA 相同性についてデータベースを検索した。配列はygaGと命名された未知の機
能のORF に相当する大腸菌MG1655ゲノムにおける部位(89/105bp が同一) にマッ
チしていた(Blattner et al., 1997, 前出) 。染色体中、大腸菌のygaG遺伝子は
gshAおよびemrB遺伝子に挟まれていた( 図9B) 。ygaG遺伝子は遺伝子のすぐ上流
にあるそれ自身のプロモーターから転写され、このことは、これがgshAのオペロ
ン中に存在しないことを示している。emrB遺伝子は逆方向に転写される。大腸菌
O157:H7および大腸菌MG1655の染色体からygaG領域をPCR 増幅し、2 種の大腸菌
ygaG遺伝子をpUC19 にクローニングした。
【0215】 ネズミチフス菌および大腸菌のAI-2- 突然変異株の相補性 我々は大腸菌O157:H7のygaG遺伝子およびV ・ ハーベイのluxSV.h.遺伝子がA
I-2- 菌株であるネズミチフス菌CS132 および大腸菌DH5 においてAI-2生産を温
存できるかどうか調べた。図11A において、野生型のV ・ ハーベイBB120 、大
腸菌O157:H7およびネズミチフス菌LT2 により産生されたAI-2活性を示す。この
図において、V ・ ハーベイB120の細胞非含有培養液中に存在するAI-2活性の濃
度を100 %に規格化し、大腸菌とネズミチフス菌の細胞非含有培養液中の活性を
それと比較した。本実験においてはV ・ ハーベイBB120 と比較して大腸菌O157
:H7は1.5 倍、ネズミチフス菌LT2 は1.4 倍高値のAI-2活性を示した( 即ち、そ
れぞれ150%と141%) 。
【0216】 図11B および11C はネズミチフス菌CS132 および大腸菌DH5 に関するAI-2相補
性の結果を示している。図11B は大腸菌O157:H7のygaG遺伝子をネズミチフス菌
CS132 に導入することにより野生型のネズミチフス菌の生産濃度を超えるAI-2生
産が温存された( 即ち209 %活性) ことを示している。図11A および11B のデー
タを比較すると、ネズミチフス菌中の大腸菌ygaG遺伝子は大腸菌O157:H7のin v
ivo の生産量を超えるAI-2の生産をもたらしたことが解かる。ネズミチフス菌に
V ・ ハーベイのluxSV.h.遺伝子を導入した場合には、野生型のV ・ ハーベイBB
120 により産生される濃度より僅かに低値 (即ちV ・ ハーベイBB120 の濃度の7
3%) のAI-2生産が観察された。図11C は大腸菌DH5 もまたクローニングされた
大腸菌O157:H7およびV ・ハーベイBB120 のAI-2生産遺伝子の双方によるAI-2の
生産も相補している。しかしながら、大腸菌DH5 に大腸菌O157:H7のygaGおよび
V ・ハーベイBB120のluxSV.h.遺伝子を導入してもそれぞれ31%および43%のV
・ ハーベイBB120 のAI-2活性しか観察されなかった。図11B および11C は対照
ベクターが相補性実験において全く活性を産生しなかったことを示している。
【0217】 V ・ ハーベイ、大腸菌およびネズミチフス菌のAI-2生産遺伝子の分析 我々はAI-2生産遺伝子であるV ・ ハーベイBB120のluxSV.h.遺伝子および大
腸菌O157:H7、大腸菌MG1655および大腸菌DH5 のygaG遺伝子座を配列決定した。
ygaGのORF にコードされる翻訳タンパク質の配列を図12に示し、それらをV ・
ハーベイの翻訳LuxSタンパク質の配列と並べた。非太字の下線を付したアミノ酸
はV ・ ハーベイのLuxSタンパク質とは異なる大腸菌のタンパク質中の残基を示
している。大腸菌のygaG遺伝子座は相互に、そして、V ・ ハーベイのLuxSとも
高い相補性を示すタンパク質をコードしている。大腸菌MG1655および大腸菌O157
:H7のygaGタンパク質はV ・ ハーベイのBB120 のLuxSに対しそれぞれ77%およ
び76%の同一性を示した。大腸菌O157:H7のygaGについて調べたDNA 配列は大腸
菌MG1655 のygaG遺伝子の報告された( そして我々の) 配列とは5 部位において
異なっている。変化のうち4 箇所はサイレントであり、5 番目のものは大腸菌O1
57:H7タンパク質のアミノ残残基103 においてAla からVal への保存的変化をも
たらす。
【0218】 大腸菌MG1655および大腸菌O157:H7におけるygaG遺伝子座の同定により、大腸
菌DH5 におけるAI-2生産の欠損を調べることが可能となった。大腸菌DH5 がygaG
遺伝子を有することは、我々が大腸菌MG1655および大腸菌O157:H7からこれを増
幅するために用いたものと同じプライマーを用いて我々が染色体からこの領域を
PCR 増幅できたことから明らかである。大腸菌DH5ygaG プロモーターの試験によ
れば、これは大腸菌MG1655のものと同一であり、このことは大腸菌DH5 における
AI-2の欠損は単にygaGの転写が低下しているためだけではないことを示している
。しかしながら、大腸菌DH5 のygaGコード領域の配列分析によれば、1 つのG-C
塩基対の欠失およびT からA への転換がそれぞれbp222 および224 に起こってい
ることが解かった。G/C 欠失によるフレームシフト型突然変異により大腸菌DH5
タンパク質の早期の切断が起こる。図12によれば、切断された大腸菌DH5 タンパ
ク質は111 アミノ酸よりなるのに対し、大腸菌MG1655および大腸菌O157:H7のタ
ンパク質は171 残基よりなる。20個の変化したアミノ酸はフレームシフト後でタ
ンパク質完了前にに翻訳される。我々の相補性の結果( 図11) によれば大腸菌DH
5 におけるAI-2生産の欠損はygaGのin transの発現に対して劣性であり、このこ
とは欠損が大腸菌DH5 のygaG遺伝子のフレームシフトにより起こったヌル突然変
異によるものであることと合致している。
【0219】 我々は、ネズミチフス菌CS132 におけるAI-2生産機能を不活性化したMudJに隣
接する我々の得た配列を用いてネズミチフス菌のデータベースを検索した。ネズ
ミチフス菌LT2 ゲノム配列決定データベースのフラグメントB TR7095.85-T7に
対して完全なマッチ(110/110bp) が認められた(Genome Sequencing Center, Was
hington University, St.Louis) 。しかしながら、ネズミチフス菌LT2 データベ
ースのygaG配列は不完全である( 図12) 。翻訳された配列はアミノ酸残基8 から
始まる大腸菌とV ・ ハーベイの配列にマッチしている。翻訳された配列はネズ
ミチフス菌のタンパク質はV ・ ハーベイのLuxSと75%同一であることを示して
いる。ネズミチフス菌の配列をV ・ ハーベイのLuxSタンパク質と並べるために
、我々はデータベース配列中の3 つの明らかなフレームシフトエラーを修正した
。ネズミチフス菌については粗製の未注釈の配列データのみが現在入手可能であ
ることを考慮して、我々はネズミチフス菌タンパク質が更に7 個アミノ酸を有し
、フレームシフト突然変異は配列決定における誤りであると推定している。我々
は大腸菌のために設計されたプライマーを用いてネズミチフス菌14028 およびネ
ズミチフス菌LT2 のygaG遺伝子の何れもPCR 増幅することができなかったため、
ネズミチフス菌遺伝子の完全な配列はまだ得ていない。
【0220】 上記した結果は我々が同定して分析した遺伝子はオートインデューサー生産に
関わる新しいファミリーのタンパク質をコードしていることを示している。本明
細書でLuxSと称するこの新しいファミリーの遺伝子の構成員は相互に高い相同性
を示すが、同定したその他の遺伝子に対してはそうではない。LuxS遺伝子のコー
ドされた産物は本発明のシグナル伝達分子の合成における本質的な工程を触媒す
る。
【0221】 実施例4 センサー1 - 、AI- 2 - のV ・ ハーベイレポーター菌株の構築 lux 遺伝子であるluxL, luxM, luxN, luxSおよびluxQの各々におけるV ・ ハ
ーベイのヌル突然変異株を構築した。これらの突然変異株は1 種の特異的なオー
トインデューサーを作製したりこれに応答することはできないが、しかしなおこ
れらは光を生成することができ、その理由は各々において1 つの菌体数感知系が
操作可能でありつづけているためである。luxN, luxSの2 重のV ・ ハーベイ突
然変異株は、この突然変異株がAI-1に応答せずAI-2を産生しないため、外因性AI
-2の添加がない場合は光を発さない。
【0222】 V ・ ハーベイのluxS遺伝子をpLAFR2と呼ばれる広範宿主固定可能コスミド上
の大腸菌DH5 αにクローニングした。この構築物は大腸菌DH5 αにAI-2生産を温
存させる。内部制限部位にクロラムフェニコール耐性(Cm r ) カセットを導入す
ることにより明らかなヌル突然変異をluxS遺伝子に組み込んだ。luxSのこの部位
にCmr カセットを設置したことにより、その後大腸菌DH5 αのAI-2生産が消失し
た。
【0223】 luxS::Cmr ヌルアレルをV ・ ハーベイ菌株BB170 の染色体に移行させた。
菌株BB170 はTn5Kanr をluxNに有しており、AI-1には応答しない。2 重突然変異
株を構築するために、pLAFR2中のV ・ ハーベイluxS::Cmr 構築物を有する大
腸菌DH5 α(pLAFR2 はテトラサイクリン耐性を有する) 、tra ドナープラスミド
pRK2013 を有する大腸菌DH5aおよびV ・ ハーベイレシピエント菌株BB170 の定
常期培養物を混合することにより3 種コンジュゲーションを行なった。染色体上
の野生型のluxSアレルに対するluxS::Cmr 突然変異株アレルの交換が相同組み
換えにより起こる。V ・ ハーベイ内の外因性のコスミドは第2 の非適合性プラ
スミドpPH1JIを導入することにより排除した。これを行うために、pPH1JIを有す
る大腸菌DH5 αをluxS::Cmr コスミドを含むV ・ ハーベイBB170 レシピエン
トと交配し、アンピシリン( 大腸菌ドナーの逆選択) クロラムフェニコール(突
然変異株luxS::Cmr アレルの固有性) およびゲンタマイシン( プラスミドpPH1
JIの維持) を含有するプレート上でエキソコンジュゲート物を選択した。サザン
ブロット分析により外因性のpLAFR2コスミドが排除されていること、および、lu
xS::Cmr 構築物がV ・ ハーベイのゲノムの相当する位置に移行していること
を確認した。その後pPH1JIコスミドをゲンタマイシン選択性非存在下の生育によ
り除去した。
【0224】 luxN, luxSの2 重突然変異株がAI-2に応答することの確認 luxNおよびluxSにおいて突然変異を有するV ・ ハーベイ菌株をAI-1ではなくA
I-2の外因的添加に応答して光を生成するように刺激した。これはV ・ ハーベイ
のAI-1およびAI-2に対する応答があるかどうかを調べる発光試験において確認さ
れた。表現型がAI-1+ 、AI-2- であるビブリオ・ハーベイ菌株MM30(luxS::Tn5)
および表現型がAI-1- ,AI-2 + であるV ・ ハーベイ菌株BB152(luxM::Tn5)をそ
れぞれAI-1およびAI-2の由来源として使用した。上記菌株の培養液中に存在する
AI-1およびAI-2がV ・ ハーベイのluxNおよびluxSの2 重突然変異レポーター菌
株の光生成を刺激するかどうか調べた。この試験では、MM30、BB152 のオートイ
ンデューサー調製物または滅菌培地対照をマイクロタイタープレートのウェルに
分注し、その後V ・ ハーベイレポーター菌株を添加した。得られた光生成は液
体シンチレーションカウンターを用いて化学発光モードでモニタリングした。V
・ ハーベイluxN、luxSレポーター菌株の光生成の最大刺激をセンサー1 + 、セ
ンサー2 - のV ・ ハーベイ菌株BB886 およびセンサー1 - 、センサー2 + のV
・ ハーベイ菌株BB170 によるものと比較した。これらの2 種のV ・ ハーベイの
菌株はそれぞれAI-1およびAI-2の活性のレポーターとしてこの試験で日常的に使
用している。
【0225】 マイクロタイター試験におけるrAI-2の示適濃度の測定 上記したスクリーニングを96穴マイクロタイター試験に使用するために示適化
した。スクリーニングはAI-2の阻害剤を同定するための阻害剤試験で用いた。精
製された、または、合成のAI-2を新しく構築したレポーター菌株の入ったマイク
ロプレートのウェルに分注し、阻害剤の入ったウェルからの発光の低下により阻
害を測定する。試験は最大感度を与えるマイクロプレートウェル中の細胞および
AI-2の濃度を測定することにより示適化される。示適AI-2濃度は単位時間あたり
所定の濃度の細胞に対し最大光出力の半分を刺激する濃度である。最初の実験は
この濃度範囲で行ない、光出力の最大変化を与えるAI-2濃度の範囲を測定する。
AI-1および非自己刺激センサー-1+ 、センサー-1- 突然変異株(BB886) を用いた
同様の実験によれば、試験は100nM もの低濃度のAI-1に対しても感度を有し、光
の発生は6 桁にわたり直線性を示したことがわかった( 自己刺激菌株の光発生は
3 桁にわたり直線性を示した) 。自己刺激性ではないため光発光のバックグラウ
ンド値ゼロである新しいレポーター菌株を用いた場合AI-2に関しても同様の結果
が予測される。マイクロプレートのウェルの光発光を化学発光モードでWallac T
riLux 液体シンチレーションカウンター1450-021型を用いて側定する。この機械
は16プレートを収納でき、これにより一回当たり1536通りの濃度の実験が可能で
ある。
【0226】 実施例5 in vitroAI-2合成法 AI-2の精製および同定。AI-2クラスの分子は、V ・ ハーベイのAI-1のような
アシルホモセリンラクトン(HSL) オートインデューサーの単離のために用いられ
ている従来の方法による精製に対しては耐性を示す。他のHSL オートインデュー
サーとは対照的に、試験した条件下では、AI-2の活性は有機溶媒に定量的に抽出
されない。更にまた、陽イオンまたは陰イオン交換カラムにも結合しない。AI-2
の現時点での検索によれば、これは1000kDa 未満の分子量を有し、極性を有する
が見かけ上非荷電の有機化合物である。AI-2活性は酸安定性、塩基不安定性であ
り、約80℃の熱には耐性を示すが、100 ℃では耐性でない。これらの結果はAI-2
がアシルホモセリンラクトンではないことを示している。本研究で同定されたlu
xS遺伝子はHSL オートインデューサーの生産に関与することが解かっている他の
遺伝子と相同性を有さず、本発明のAI-2クラスのオートインデューサーが新規で
あることを示している。
【0227】 即ち、クローニングされ、過剰発現され、精製されたネズミチフス菌のluxSタ
ンパク質を提供する以外に、本発明はin vitroでAI-2を生成する方法を提供する
。本発明はマススペクトルおよびNMR 分析のため、および、AI-2の活性を変調さ
せる化合物のスクリーニングのために有用である純粋なAI-2を大量に発生させる
ための機序を提供する。更にまた、本発明はAI-2合成のin vivo の生合成経路を
決定するための方法を提供する。
【0228】 本発明で同定された種々のluxS遺伝子のゲノム位置の分析により、luxS遺伝子
は染色体の何れか一箇所に一貫して存在するわけではなく、また、ある特定の遺
伝子の近傍に典型的に存在するわけではないことがわかった。しかしながら、あ
る場合においては、luxS遺伝子は2 つの遺伝子(metK およびpfs)を有する3 遺伝
子オペロンの3 番目の遺伝子である。大腸菌、サルモネラおよび他の多くの細菌
において、metKおよびPfs はS-アデンシルメチオニン(SAM) からホモシステイン
および4,5-ジヒドロキシ-2,3- ペンタンジオンへの変換に関与している( 図15)
。MetKの機能はメチオニンからSAM への変換であり、これは一炭素代謝における
重要なコファクターである。SAM はDNA 、RNA および種々の細胞タンパク質のメ
チル化に使用され、一部のSAM 依存性メチルトランスフェラーゼはこの段階で機
能する。S-アデノシルホモセリン(SAH) はメチル基がSAM からその基質に移行す
る時に生成する。SAH はSAM 依存性メチルトランスフェラーゼの強力な阻害剤と
して機能する。従って、細菌は酵素Pfs を介してSAH を急速に分解する。「 pfs
」 という表示はMTA/SAH ヌクレオシダーゼとしても知られる酵素5'- メチルチ
オアデノシン/ アデノシルホモシステインヌクレオシダーゼをコードすることが
最近判明した大腸菌ゲノムにおけるオープンリーディングフレームを指す。この
系においては、酵素はS-アデノシルホモシステイン(SAH) のグリコシド結合を切
断する。即ち、Pfs の機能はSAH をアデニンおよびS-リボシルホモシステインに
変換することである。最終工程において、S-リボシルホモシステインはホモシス
テインおよび4,5-ジヒドロキシ-2,3- ペンタンジオンに変換される。ホモシステ
インはこの経路に再び戻ることができるが、これは即ち、メチル化されてメチオ
ニンとなり、これがMetKによりSAM に変換されるのである。
【0229】 SAH の異化は代謝中間体( アデニンおよびホモシステイン)を再利用するため
の回収経路であると考えられる。しかしながら、幾つかの細菌種は種々の経路で
SAH を排除する。この代替経路においてアデノシンはホモシステインを生じるSA
H から直接解離する。従って、この第2 の機序を使用する細胞は4,5-ジヒドロキ
シ-2,3- ペンタンジオンを産生しない。図15に示す経路において、S-リボシルホ
モシステインから4,5-ジヒドロキシ-2,3- ペンタンジオンへの変換に関与する酵
素はこれまで同定、クローニングまたは精製されていない。更に、4,5-ジヒドロ
キシ-2,3- ペンタンジオンの役割についても解かっていない。
【0230】 luxSは図15に示す経路に関与しており、SAM およびSAH はAI-2の生産に関与し
ている。AI-2の構造は4,5-ジヒドロキシ-2,3- ペンタンジオンであり、この場合
LuxSはS-リボシルホモシステイン上で機能するキャラクタライズされていない酵
素である。第2 に、LuxSはある中間体上で機能し、AI-2を生成する。LuxSは既知
の経路からの分岐点を与える。
【0231】 LuxSがSAM からAI-2への変換に関与していることを確認するために、ネズミチ
フス菌のLuxSタンパク質をコードする遺伝子をクローニングし、過剰発現し、そ
してネズミチフス菌のLuxSタンパク質を精製した。このタンパク質をネズミチフ
ス菌luxSヌル突然変異株から調製した透析細胞非含有抽出液と組み合わせて使用
することにより、SAM およびLuxSのタンパク質の添加により透析されたLuxS- 細
胞抽出液でAI-2生産が温存されることを明らかにした。10mMリン酸ナトリウム緩
衝液pH7.0 、透析ネズミチフス菌LuxS- 細胞抽出液およびSAM を含有する反応混
合物を調製した。精製されたLuxSタンパク質を上記混合物の一部に添加した。反
応は60分間室温でインキュベートし、その後5000MWCOセントリコンで遠心分離し
た。分子量5000未満の部分を前記したとおり標準的なV ・ ハーベイの生物試験
に用いた。SAM を添加した透析LuxS- 細胞抽出液またはSAM を添加しなかったLu
xSタンパク質含有抽出液はAI-2活性を産生しなかった。しかしながら、LuxSタン
パク質およびSAM を添加した同様の抽出液はAI-2を産生し、これは生物試験にお
ける光生成の500 倍を超える刺激をもたらした。
【0232】 更にまたSAM はLuxSの直接の基質ではなく、LuxSはSAM からSAH への変換の後
の工程において作用することもわかった( 図15) 。SAM をLuxSタンパク質に直接
添加した場合はAI-2が産生されないことがわかっているが、LuxS- 抽出液と共に
SAM を予備インキュベートし、濾過し、その後濾液にLuxSタンパク質を添加する
ことにより活性が産生される。重要な点は、これらの試験はSAM がLuxSにより使
用されてAI-2となる前に細胞抽出液中の要素と反応し得るということを示してい
る点ある。恐らくは細胞抽出液中に存在するSAM 依存性のメチルトランスフェラ
ーゼがメチルドナーとしてSAM を使用し、その過程でこれをSAH に変換するであ
ろう。これを確認するために、SAH をSAM と代えてin vitro試験に用いた。In v
itro試験にSAH を添加したところ、SAM を添加した場合よりも遥かに高値のAI-2
の生成が観察された。この結果はSAM からSAH への変換の後の経路でLuxSが機能
することを示している。ここでもまた、LuxSタンパク質へのSAH の直接添加では
AI-2の活性の生産には不十分であるが、透析されたLuxS抽出物と共にSAH を予備
インキュベートし、その後濾過してLuxSタンパク質を濾液に添加したところ、AI
-2の生産が観察された。恐らくはSAH はS-リボシルホモシステインに変換され、
次にLuxSが作用してAI-2を産生すると考えられる。
【0233】 図15に示す経路の案は二次的代謝産物の再利用のための回収経路ではなく、AI
-2の生産のための経路である。本発明はAI-2の生合成におけるLuxSの活性点に関
する候補を絞ることができる。残りの候補を図15に示す(LuxS ?と記載) 。
【0234】 本発明によればAI-2はリボースの誘導体である。重要な点は、V ・ ハーベイ
においてLuxP、即ちAI-2の主要センサーは、大腸菌およびネズミチフス菌のリボ
ース結合タンパク質の相同体である。
【0235】 AI-2の検索および生合成 本発明は更に純粋なAI-2の大規模製造のためのin vitroの操作法を提供する。
図15に示すとおり、SAH はAI-2のLuxS依存性生合成における前駆体である。更に
また、LuxSは直接SAH に対して作用しない。LuxSの作用に先立ち、SAH がまず透
析細胞抽出液中の何らかの酵素の作用を受けなければならない。恐らくはこの工
程はPfs によるSAH からS-リボシルホモシステインへの変換である。従って、Lu
xSの基質はS-リボシルホモシステインである。
【0236】 LuxSがS-リボシルホモシステインに作用することを確認するために、Pfs 酵素
を精製し、SAH からS-リボシルホモシステインへの変換のために使用することが
できる。この目的のためには、pfs 遺伝子を過剰発現ベクターpLM-1 内にいれた
ネズミチフス菌14028 からクローニングしておく。Pfs 酵素は過剰発現され、SA
H を精製したPfs に添加することによりS-リボシルホモシステインが産生される
。SAH からS-リボシルホモシステインの変換は逆相HPLCにより確認される(SAHは
UV活性であるが、S-リボシルホモシステインは不活性である) 。その後Pfs によ
り産生されたS-リボシルホモシステインを精製されたLuxSに添加する。インキュ
ベーションの後、混合物を5000MWCOセントリコン上で濾過する。濾液のAI-2活性
を前記したV ・ ハーベイ生物試験で試験する。活性の同定により4,5-ジヒドロ
キシ-2,3- ペンタンジオンがAI-2であることが確認される。
【0237】 更に、大腸菌およびV ・ ハーベイのAI-2から得たAI-2の構造を決定する。大
腸菌およびV ・ ハーベイのluxS遺伝子を過剰発現ベクターにクローニングして
おく。本発明により提供されるネズミチフス菌AI-2の同定/ 生合成はこれらの分
析を非常に容易にする。ネズミチフス菌、大腸菌およびV ・ ハーベイのAI-2が
同一である場合は、これらのデータはAI-2が同じであることを示している。
【0238】 本発明は上記の記載および実施例に限定されず、請求項の範囲内で変更や調節
を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ビブリオ・ハーベイの発光を誘導する大腸菌 AB1157 およびネズミチフス菌 L
T2細胞非含有培養液から得たシグナル伝達物質。大腸菌, ネズミチフス菌および
ビブリオ・ハーベイの菌株から得た細胞非含有培養液中に存在するシグナル伝達
物質に対するビブリオ・ハーベイレポーター菌株BB170(センサー1 - 、センサー
2 + )(図1A) およびBB886(センサー1 + 、センサー2 - )(図1B) の応答を示す。
各レポーター菌株の澄明な培養液を新しい培地で1:5000に希釈し、次に希釈培養
物の生育の間の細菌細胞当たりの光生成量を測定した。細胞非含有培養液または
滅菌生育培地を実験開始時に10%(v/v) の最終濃度で添加した。5 時間の時点の
データを示し、ビブリオ・ハーベイ細胞非含有消耗培養液を添加した際に得られ
る活性の%として表示する。種々の菌株について使用した略記法はV.h;ビブリ
オ・ハーベイ, S.t;Salmonella typhimuriumおよびE.c;Escherichia coliである
【図2】 生存大腸菌およびS.typhmuriumによるシグナル伝達分子の能動分泌。大腸菌 D
H5ではなく大腸菌 AB1157 およびネズミチフス菌 LT2により産生、分泌されたシ
グナル伝達物質に対するビブリオ・ハーベイレポーター菌株BB170(センサー1 -
、センサー2 + ) の応答を示す。ビブリオ・ハーベイレポーター菌株BB170 をAB
培地で1:5000に希釈し、細胞当たりの光出力を生育の間モニタリングした。実験
開始時に、1x106 個の大腸菌 AB1157 、ネズミチフス菌 LT2または大腸菌 DH5
の何れかの洗浄再懸濁生存細胞( 左側、白色棒グラフ)またはUV殺傷細胞(右側
、黒色棒グラフ)を添加した。データは5 時間の時点におけるビブリオ・ハーベ
イ BB170により発現された発光の内因性の水準を超えた倍数活性化として表示す
る。種々の菌株について使用した略記法はS.t;Salmonella typhimuriumおよびE.
c;Escherichia coliである。
【図3】 ネズミチフス菌 LT2によるシグナル伝達活性の生成と分解に対するグルコー
ス涸渇の影響。ネズミチフス菌 LT2は0.1 %グルコース( 図3A) または5 %グ
ルコース( 図3B) の何れかを含有するLB培地中において生育させた。特定の時間
に細胞非含有培養液を調製し、発光刺激試験( 棒グラフ)におけるシグナル伝達
活性および残存グルコース濃度( ○) を調べた。細胞数は各時点において、LB培
地上にネズミチフス菌を希釈して平板培養し、翌日コロニー計数することにより
測定した(□)。シグナル伝達活性は、ビブリオ・ハーベイ細胞非含有消耗培養
液を添加した際に得られる活性の%として表示する。これらのデータは発光刺激
試験における5 時間の時点に相当する。グルコース濃度はグルコース残存率( %
) として表示する。細胞数は個/mlx10-9で示す。‖という記号は、8 時間後の目
盛りまで時間軸を延長しなかったことを示している。
【図4】 ビブリオ・ハーベイおよびネズミチフス菌により産生されるAI- 2へのビブリ
オ・ハーベイの応答曲線。ビブリオ・ハーベイ菌株BB152(AI-1- 、AI-2+ ) およ
びネズミチフス菌 LT2により生成される外因性AI-2の添加に対するビブリオ・ハ
ーベイレポーター菌株BB170(センサー1 - 、センサー2 + ) の応答について調べ
た。レポーター菌株の澄明な培養物を1:5000に希釈し、10%(v/v) 生育培地( ●
) 、AB中一夜生育させたビブリオ・ハーベイ菌株BB152 の細胞非含有培養液( ○
)、またはLB+0.5%グルコース中で6 時間生育させたネズミチフス菌 LT2の細胞
非含有培養液( ■) の何れかを実験開始時に添加した。RLU は相対的光単位であ
り、( 計測数 分-1 x 103)/( コロニー形成単位ml-1) として定義される。
【図5】 ネズミチフス菌に置けるオートインデューサー生産に影響する条件。ネズミチ
フス菌 LT2に対し種々の処理を行ない、その後細胞非含有培養液または浸透圧
ショック液を調製した。これらの調製物を10%(v/v) でビブリオ・ハーベイ AI-
2 レポーター菌株BB170 の希釈培養物に添加し、その後光出力を測定した。活性
化倍率は、特定のネズミチフス菌調製物添加後のレポーターにより発生した光の
量を生育培地のみを添加した場合のレポーターの光出力で割ったものである。図
5Aの棒グラフは以下の処理、即ち、LB 6h;30℃LB中6 時間生育、LB+Glc 6h;30℃
LB+0.5% グルコース中6 時間生育、LB+Glc 24h;30 ℃LB+0.5% グルコース中24時
間生育の後にネズミチフス菌から調製した細胞非含有液を示す。図5Bに示す全て
の実験において、ネズミチフス菌は0.5%グルコース含有LB培地中で6 時間30℃で
予備生育させ、その後沈殿させ、以下の条件下、即ち、LB;30 ℃LB中、LB+Glc ;
30℃LB+0.5% グルコース中、LB pH5;30℃pH5 のLB中、0.4M NaCl;30℃0.4M NaC
l 中、0.1M NaCl;30℃0.1M NaCl 中および熱ショック43°;43 ℃LB+0.5%グルコ
ース中、2 時間再懸濁した。2 時間の処理の後、細胞非含有液を各試料から調製
して試験した。
【図6】 グルコースの制限濃度および非制限濃度におけるネズミチフス菌のシグナル伝
達活性。ネズミチフス菌 LT2を制限濃度(0.1%) および非制限濃度(1.0%) の
グルコースの存在下、LB培地中で生育させた。細胞非含有培養液中に存在する活
性( 黒色棒グラフ) を所定時間に調べ、細胞1 x 109 個により産生される活性に
規格化した。同じ細胞から調製した0.4M NaCl 浸透圧ショック液中で測定したシ
グナル伝達活性の増加を、黒色棒グラフの上部の白色棒グラフとして表示する。
これらのデータもまた細胞1 x 109 個で規格化した。制限グルコースの場合のシ
グナル伝達活性を図6A、6Cおよび6Eに、非制限グルコースの場合を図6B、6Dおよ
び6Fに示す。図6Aおよび6Bはまたグルコース残存率( △) を示しており、図6Cお
よび6Dは細胞数(□) を示し、パネルE およびF は各時点におけるpH( ○) を示
している。
【図7】 ネズミチフス菌によるシグナル生産に対するグルコースとpHの作用。ネズミチ
フス菌 LT2により放出された菌体数感知シグナルを、pH7.2 で0.5 %グルコー
ス含有LB培地で細胞を生育させた場合(図7A、棒グラフ)および添加炭素源の非
存在下pH5.0 のLB培地中で細胞を生育させた場合( 図7B、棒グラフ)について測
定した。細胞非含有培養液中( 黒色棒グラフ)および0.4M NaCl 浸透圧ショック
液中( 黒色棒グラフ上の白色棒グラフ) に存在するシグナルの量を所定時間に測
定した。各パネル中、○は培地のpH、□は細胞数を、各時点につき示したもので
ある。
【図8】 ネズミチフス菌 LT2において、高浸透圧はシグナル放出を誘導し、低浸透圧
はシグナル分解を誘導する。0.4M NaCl および0.1M NaCl 中に再懸濁させたネズ
ミチフス菌 LT2により放出された菌体数感知シグナルを、タンパク質合成の存
在下または非存在下に測定した。ネズミチフス菌 LT2を6 時間0.5 %グルコー
ス含有LB培地中で予備生育させた。細胞を回収し、所定時間、30g/mlのCmの存在
下または非存在下、0.4M NaCL ( 図8A) または0.1M NaCl(図8B) に再懸濁した。
各パネルにおいて、白色の符号はCm非存在下に測定した活性を示し、黒色の符号
はCm存在下に 測定した活性を示す。
【図9】 ビブリオ・ハーベイおよび大腸菌 MG1655 由来のLuxSおよびygaG遺伝子。図9A
はTn5 挿入により定義されるビブリオ・ハーベイ luxS V.h.染色体領域の制限地
図である。AI-2産生機能を遮断するTn5 挿入の部位およびluxSV.h.遺伝子座外の
対照Tn5 挿入一箇所を 図示する( △)。図9Bは大腸菌 MG1655 染色体中のYgaG
領域を示す。このORF はemrBおよびgshA遺伝子に挟まれている。各遺伝子の転写
の方向は水平方向の矢印で示す。ネズミチフス菌 LT2におけるAI-2の産生を消
失させるMudJ挿入の相当する位置は、垂直方向の矢印で示す。H 、R 、P および
B はそれぞれHindIII, EcoRI, PstIおよびBamHI の制限酵素切断部位を示す。
【図10】 ビブリオ・ハーベイおよびネズミチフス菌の菌株のオートインデューサー産生
表現型。ビブリオ・ハーベイおよびネズミチフス菌菌株の細胞非含有培養液を調
製し、ビブリオ・ハーベイ BB170生物試験においてAI-2の活性について試験し
た。図10A :luxSV.h.外にTn5 挿入を含む野生型のビブリオ・ハーベイ菌株MM28
のAI-2産生表現型(WT と表示) およびluxSV.h.::Tn5 突然変異株MM30(luxS -
と表示)。図10B:野生型ネズミチフス菌 LT2のAI-2産生表現型(WT と表示)お
よびYgaG::MudJ挿入突然変異株CS132(ygaG- と表示) 。活性は滅菌された培地を
添加した場合と比較したビブリオ・ハーベイ BB170レポーター菌株の発光発現の
誘導倍数値で表示する。
【図11】 ネズミチフス菌 CS132および大腸菌 DH5におけるAI-2産生の相補性。大腸菌
およびネズミチフス菌の菌株由来の細胞非含有培養液のAI-2活性を生物試験にお
いて調べた。これらの液中に存在するの活性を野生型のビブリオ・ハーベイ BB1
20により産生された活性と比較した。図において、BB120 の活性の量を100 %に
規格化した。図11A :野生型ビブリオ・ハーベイ BB120、大腸菌 O157:H7および
ネズミチフス菌 LT2由来細胞非含有液中のAI-2活性。図11B:ネズミチフス菌 CS1
32の相補性(ygaG::MudJ)および図11C:大腸菌 DH5の相補性。パネルB およびC に
おいて、in transのAI-2産生遺伝子は、ベクター対照(表記法:なし) 、大腸菌
O157:H7 ygaG;およびビブリオ・ハーベイ BB120 LuxS v.h である。大腸菌およ
びビブリオ・ハーベイはそれぞれE.c.およびV.h.と略記する。
【図12】 LuxGおよびYgaGタンパク質の配列のアラインメント。タンパク質のAI-2産生フ
ァミリーに関する翻訳タンパク質配列を示す。ビブリオ・ハーベイ BB120由来
のluxSV.h.遺伝子ならびに大腸菌 MG1655,大腸菌 O157:H71 および大腸菌 DH5由
来のygaG遺伝子( ここではLuxSE.C.と再命名) を配列決定した。ネズミチフス菌
LT2 ygaG(ここではLuxSS.t.と再命名)の部分配列はネズミチフス菌のデータベ
ースから得た。LuxSV.h.タンパク質と同一でないアミノ酸残基は下線を付し、太
字化しなかった。大腸菌 DH5 DNA配列のフレームシフト型突然変異の部位は" *
" で表示する。フレームシフトに続いて翻訳された20個の変化したアミノ酸残基
は箱内に囲む。
【図13】 ビブリオ・ハーベイのハイブリッド菌体数感知回路のダイアグラムを示す。AI
-1およびAI-2の回路は独立して刺激されるが、光発現に関するそのシグナルを一
体化する。しかしながら、各経路はやはり独立して光を発生できる。このことに
より、LuxNまたはLuxQのセンサーにおける逆突然変異を用いてそれぞれAI-2また
はAI-1に特異的なレポーターを構築することができる。
【図14】 ビブリオ・ハーベイの野生型およびlux 調節突然変異株の応答表現型。まず、
細胞非含有培養液(10 %) を添加するか、無添加(NA)とした。野生型細胞非含有
培養液(AI-1+AI2);LuxS- 細胞非含有培養液(AI-1);LuxM- 細胞非含有培養液(A
I-2)。相対的光単位はcpm x 103/CFU/mlと定義する。
【図15】 オートインデューサー−2(AI-2) の生合成経路のダイアグラムを示す。
【図16】 AI-2の構造およびAI-2が由来する生合成前駆体を示す。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】平成14年6月12日(2002.6.12)
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】特許請求の範囲
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) C07C 49/17 C12N 1/20 A 4B065 C07K 14/28 Z 4C084 C12N 1/20 C12P 7/26 4H006 C12Q 1/02 4H045 C12P 7/26 1/68 C12Q 1/02 G01N 21/76 1/68 21/77 D G01N 21/76 21/78 C 21/77 33/15 Z 21/78 33/50 Z 33/15 33/53 D 33/50 M 33/53 33/566 33/577 B 33/566 C07K 14/00 33/577 C12R 1:63 // C07K 14/00 C12N 15/00 ZNAA (C12N 1/20 A61K 37/02 C12R 1:63) (81)指定国 EP(AT,BE,CH,CY, DE,DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,I T,LU,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GW,ML, MR,NE,SN,TD,TG),AP(GH,GM,K E,LS,MW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZW ),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU, TJ,TM),AE,AL,AM,AT,AU,AZ, BA,BB,BG,BR,BY,CA,CH,CN,C U,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,GB,GD ,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN, IS,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LC,L K,LR,LS,LT,LU,LV,MD,MG,MK ,MN,MW,MX,NO,NZ,PL,PT,RO, RU,SD,SE,SG,SI,SK,SL,TJ,T M,TR,TT,UA,UG,US,UZ,VN,YU ,ZA,ZW (71)出願人 New South Building、 5th floor、P.O.Box 36、Princeton、NJ 08544− 0036、U.S.A. (71)出願人 ユニバーシティー テクノロジーズ イン ターナショナル インク カナダ国、アルバータ州、カルガリー、ス ウィート 130、エヌダブリュー、サーテ ィファースト ストリート、3353 (74)上記1名の代理人 弁理士 鈴木 崇生 (外3名 ) (72)発明者 バッスラー ボニー アメリカ合衆国 08544−0036 ニュージ ャージー州、プリンストン、ピー.オー. ボックス 36、フィフス フロアー、ニ ュー サウス ビルディング、プリンスト ン ユニバーシティー (72)発明者 シュレット ミッシェル ジー カナダ アルバータ州、カルガリー(番地 なし) Fターム(参考) 2G045 AA40 BB03 BB20 CB21 DA12 DA13 DA14 DA36 FB02 FB03 FB04 FB13 2G054 CA20 CA21 CA22 CA23 CE02 EA02 4B024 AA01 AA13 AA20 BA80 CA02 CA03 CA09 CA20 DA01 DA02 DA05 DA11 DA12 EA06 GA11 HA11 HA12 HA20 4B063 QA01 QA05 QA18 QQ06 QQ21 QQ41 QQ61 QQ79 QQ89 QR32 QR35 QR39 QR48 QR56 QR75 QS33 QS34 QS36 QX02 QX10 4B064 AC32 CA02 CA21 CC01 CC03 CD13 CD20 DA13 DA15 4B065 AA01X AA55X AC20 BA16 BA30 CA43 CA44 CA46 4C084 AA02 AA07 AA17 BA44 DA41 NA14 ZB351 ZB352 ZC022 4H006 AA03 AB20 4H045 AA10 AA20 AA30 BA10 CA11 EA29 EA50 FA74

Claims (114)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 極性かつ非荷電で、1000kDa未満の概算分子量を有す
    る少なくとも1つの分子を含有してなる細菌の単離された細胞外シグナル伝達因
    子であって、前記因子は、luxQタンパク質と相互作用することにより発光遺
    伝子luxCDABEを含有するビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi) オペロ
    ンの発現を誘導する因子。
  2. 【請求項2】 ビブリオ・ハーベイのセンサー2+レポーター株を用いるバ
    イオアッセイで測定した場合に、前記因子標品の約0.1〜1.0mgが約10
    00倍の発光の増加を刺激する比活性を有する請求項1に記載の因子。
  3. 【請求項3】 ビブリオ・ハーベイのセンサー2+レポーター株を用いるバ
    イオアッセイで測定した場合に、前記因子標品の約1〜10μgが約1000倍
    の発光の増加を刺激する比活性を有する請求項1に記載の因子。
  4. 【請求項4】 ビブリオ・ハーベイ(Vivrio harveyi)、ビブリオ・コレラ
    (Vibrio cholerae),ビブリオ・パラヘモリティクス(Vibrio parahaemolyticus),
    ビブリオ・アルギノリティクス(Vivrio alginolyticus), シュードモナス・ホス
    ホレウム(Pseudomonas phosphoreum),エルシニア・エンテロコリティカ(Yersini
    a enterocolitica),大腸菌(Escherichia coli), ネズミチフス菌(Salmonella ty
    phimurium), ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae), ヘリコ
    バクター・ピロリ(Helicobacter pylori),バチルス・サブチルス(Bacillus subt
    ilis),ボレリア・ブルグフドルフェリ(Borrelia burgfdorferi),ナイセリア・メ
    ニンギティディス(Neisseria meningitidis), ナイセリア・ゴノレア(Neisseria
    gonorrhoeae),エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis),カンピロバクター・
    ジェジュニ(Campylobacter jejuni), デイノコッカス・ラジオデュランス(Deino
    coccus radiodurans),ミコバクテリウム・ツベルクロシス(Mycobacterium tuber
    culosis), エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis),ストレプト
    コッカス・ニューモニア(Streptococcus pneumoniae), ストレプトコッカス・ピ
    オゲネス(Streptococcus pyogenes)およびスタフィロコッカス・アウレウス(Sta
    phylococcus aureus) からなる群より選ばれる細菌細胞により製造された請求項
    1に記載の因子。
  5. 【請求項5】 下記式: 【化1】 の因子を含有してなる細菌の単離されたシグナル伝達因子。
  6. 【請求項6】 前記因子がビブリオ・ハーベイ(Vivrio harveyi)、ビブリ
    オ・コレラ(Vibrio cholerae),ビブリオ・パラヘモリティクス(Vibrio parahaem
    olyticus),ビブリオ・アルギノリティクス(Vivrio alginolyticus), シュードモ
    ナス・ホスホレウム(Pseudomonas phosphoreum),エルシニア・エンテロコリティ
    カ(Yersinia enterocolitica),大腸菌(Escherichia coli), ネズミチフス菌(Sal
    monella typhimurium), ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenza
    e), ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori),バチルス・サブチルス(Bac
    illus subtilis),ボレリア・ブルグフドルフェリ(Borrelia burgfdorferi),ナイ
    セリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis), ナイセリア・ゴノレア
    (Neisseria gonorrhoeae),エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis),カンピロ
    バクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni), デイノコッカス・ラジオデュラ
    ンス(Deinococcus radiodurans),ミコバクテリウム・ツベルクロシス(Mycobacte
    rium tuberculosis), エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis),
    ストレプトコッカス・ニューモニア(Streptococcus pneumoniae), ストレプトコ
    ッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)およびスタフィロコッカス・アウ
    レウス(Staphylococcus aureus) からなる群より選ばれる細菌細胞により産生さ
    れる請求項5に記載の因子。
  7. 【請求項7】 請求項5に規定された式を有する因子の光学活性異性体。
  8. 【請求項8】 前記異性体がL−異性体である請求項7に記載の光学活性異
    性体。
  9. 【請求項9】 前記異性体がD−異性体である請求項7に記載の光学活性異
    性体。
  10. 【請求項10】 下記式: 【化2】 (式中、R1、R2、R3およびR4は、ヒドリド、ハロ、アルキル、ハロアル
    キル、シクロアルキル、シクロアルケニル、複素環基、メチル、シアノ、アルコ
    キシカルボニル、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル、ホルミル、ニトロ、フ
    ルオロ、クロロ、ブロモ、メチル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘ
    テロアリールアルキル、アルキルスルホニル、ハロアルキルスルホニル、アリー
    ルスルホニル、ヘテロアリールスルホニル、ヒドロキシアルキル、メルカプトア
    ルキル、アルコキシアルキル、アリールオキシアルキル、ヘテロアリールオキシ
    アルキル、アラルキルオキシアルキル、ヘテロアリールアルキルオキシアルキル
    、アルキルチオアルキル、アリールチオアルキル、ヘテロアリールチオアルキル
    、アラルキルチオアルキル、ヘテロアリールアルキルチオアルキル、ハロアルキ
    ルカルボニル、ハロアルキル(ヒドロキシ)アルキル、アルキルカルボニル、ア
    リールカルボニル、アラルキルカルボニル、ヘテロアリールカルボニル、ヘテロ
    アリールアルキルカルボニル、カルボキシアルキル、アルコキシカルボニルアル
    キル、アルキルカルボニルオキシアルキル、アミノアルキル、アルキルアミノア
    ルキル、アリールアミノアルキル、アラルキルアミノアルキル、ヘテロアリール
    アミノアルキル、ヘテロアリールアルキルアミノアルキル、アルコキシおよびア
    リールオキシ;フェニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、ベンゾフリル、
    ベンゾジオキソリル、フリル、イミダゾリル、チエニル、チアゾリル、ピロリル
    、オキサゾリル、イソオキサゾリル、トリアゾリル、ピリミジニル、イソキノリ
    ル、キノリニル、ベンズイミダゾリル、インドリル、ピラゾリルおよびピリジル
    、アミノスルホニル、フルオロ、クロロ、ブロモ、メチルチオ、メチル、エチル
    、イソプロピル、t-ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、シアノ、メトキ
    シカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、t-ブトキシカ
    ルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニ
    ル、ペントキシカルボニル、メチルカルボニル、フルオロメチル、ジフルオロメ
    チル、トリフルオロメチル、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル
    、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、ジフルオロクロロメチル、
    ジクロロフルオロメチル、ジフルオロエチル、ジフルオロプロピル、ジクロロエ
    チル、ジクロロプロピル、メトキシ、メチレンジオキシ、エトキシ、プロポキシ
    、n-ブトキシ、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、メトキシメチル、エトキ
    シメチル、トリフルオロメトキシ、メチルアミノ、N,N-ジメチルアミノ、フェニ
    ルアミノ、エトキシカルボニルエチルおよびメトキシカルボニルメチル、メチル
    、エチル、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、シアノ、
    メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル、ベンジル、
    フェニルエチル、フェニルプロピル、メチルスルホニル、フェニルスルホニル、
    トリフルオロメチルスルホニル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、メトキ
    シメチル、エトキシメチル、メチルカルボニル、エチルカルボニル、トリフルオ
    ロメチルカルボニル、トリフルオロ(ヒドロキシ)エチル、フェニルカルボニル
    、ベンジルカルボニル、メトキシカルボニルメチル、エトキシカルボニルエチル
    、カルボキシメチル、カルボキシプロピル、メチルカルボニルオキシメチル、フ
    ェニルオキシ、フェニルオキシメチル、チエニル、フリルおよびピリジル、特に
    チエニル、フリル、ピリジル、メチルチオ、メチルスルフィニル、メチル、エチ
    ル、イソプロピル、t-ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、シアノ、フル
    オロメチル、ジフルオロメチル、トリフルロメチル、クロロメチル、ジクロロメ
    チル、トリクロロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、ジ
    フルオロクロロメチル、ジクロロフルオロメチル、ジフルオロエチル、ジフルオ
    ロプロピル、ジクロロエチル、ジクロロプロピル、メトキシ、メチレンジオキシ
    、エトキシ、プロポキシ、n-ブトキシ、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチルお
    よびトリフルオロメトキシからなる群より独立して選ばれる) を有する因子を含有してなる細菌の単離されたシグナル伝達因子。
  11. 【請求項11】 請求項10に規定された式を有する因子の光学活性異性体
  12. 【請求項12】 前記異性体がL−異性体である請求項11に記載の光学活
    性異性体。
  13. 【請求項13】 前記異性体がD−異性体である請求項11に記載の光学活
    性異性体。
  14. 【請求項14】 シグナル伝達因子の活性を調節する化合物を同定する方法
    であって、下記工程: a) 前記シグナル伝達因子を前記化合物と接触させる工程; b) 前記化合物の存在下でシグナル伝達因子の活性を測定し、前記化合物の存
    在下で得られたシグナル伝達因子の活性と、前記化合物の非存在下で得られたシ
    グナル伝達因子の活性とを比較する工程;および c) 前記シグナル伝達因子の活性を調節する化合物を同定する工程 を含む方法。
  15. 【請求項15】 前記シグナル伝達因子がオートインデューサー−2である
    請求項14に記載の方法。
  16. 【請求項16】 前記オートインデューサー−2が4,5−ジヒドロキシ−
    2,3−ペンタンジオンである請求項15に記載の方法。
  17. 【請求項17】 前記オートインデューサー−2がホモシステインである請
    求項15に記載の方法。
  18. 【請求項18】 前記接触がインビボである請求項14に記載の方法。
  19. 【請求項19】 前記接触がインビトロである請求項14に記載の方法。
  20. 【請求項20】 前記制御が前記シグナル伝達因子の活性を増加させること
    によるものである請求項14に記載の方法。
  21. 【請求項21】 前記制御が前記シグナル伝達因子の活性を減少させること
    によるものである請求項14に記載の方法。
  22. 【請求項22】 前記化合物がポリペプチドである請求項14に記載の方法
  23. 【請求項23】 前記化合物が小分子である請求項14に記載の方法。
  24. 【請求項24】 試料中のオートインデューサー分子を検出する方法であっ
    て、下記工程: a) 外因性オートインデューサーに応答して検出可能な量の光を発生する生合
    成経路を含有する細菌細胞またはその抽出物と前記試料とを接触させる工程、こ
    こで、前記細菌細胞はオートインデューサー経路に関与する遺伝子座に少なくと
    も2つの異なる変化を有し、遺伝子座での第一の変化は、第一のオートインデュ
    ーサーの検出を阻害する変化を含み、遺伝子座での第二の変化は、第二のオート
    インデューサーの産生を阻害する変化を含む;および b) 前記a)の細菌細胞またはその抽出物により発生した光を測定する工程 を含む方法。
  25. 【請求項25】 遺伝子座での前記第一の変化がLuxN遺伝子の変化を含
    む請求項24に記載の方法。
  26. 【請求項26】 遺伝子座での前記第一の変化がオートインデューサー−1
    の検出を阻害する請求項24に記載の方法。
  27. 【請求項27】 遺伝子座での前記第二の変化がLuxS遺伝子の変化を含
    む請求項24に記載の方法。
  28. 【請求項28】 遺伝子座での前記第二の変化が内因性オートインデューサ
    ー−2の産生を阻害する請求項24に記載の方法。
  29. 【請求項29】 前記試料の存在下で測定した光の量が前記試料の非存在下
    で測定した光の量よりも大きいことが前記試料中のオートインデューサーの存在
    の指標となる、請求項24に記載の方法。
  30. 【請求項30】 前記試料が生物学的体液、組織ホモジネートまたはオート
    インデューサーの産生を疑われる細菌の試験細胞の生育により調整された培地か
    ら選ばれる請求項24に記載の方法。
  31. 【請求項31】 前記外因性オートインデューサーがビブリオ・ハーベイ(
    Vivrio harveyi)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae),ビブリオ・パラヘモリ
    ティクス(Vibrio parahaemolyticus),ビブリオ・アルギノリティクス(Vivrio al
    ginolyticus), シュードモナス・ホスホレウム(Pseudomonas phosphoreum),エル
    シニア・エンテロコリティカ(Yersinia enterocolitica),大腸菌(Escherichia c
    oli), ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium), ヘモフィルス・インフルエン
    ザ(Haemophilus influenzae), ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori),
    バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis),ボレリア・ブルグフドルフェリ(Bor
    relia burgfdorferi),ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidi
    s), ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae),エルシニア・ペスティス(Y
    ersinia pestis),カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni), デイ
    ノコッカス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans),ミコバクテリウム・
    ツベルクロシス(Mycobacterium tuberculosis), エンテロコッカス・フェカリス
    (Enterococcus faecalis),ストレプトコッカス・ニューモニア(Streptococcus p
    neumoniae), ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)および
    スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus) からなる群より選ば
    れる細菌細胞により産生される請求項24に記載の方法。
  32. 【請求項32】 前記外因性オートインデューサーがオートインデューサー
    −2である請求項24に記載の方法。
  33. 【請求項33】 前記細菌細胞が生物発光性、かつ、オートインデューサー
    の産生が可能である親株の突然変異体である請求項24に記載の方法。
  34. 【請求項34】 前記親株がビブリオ・ハーベイである請求項33に記載の
    方法。
  35. 【請求項35】 前記細菌細胞がビブリオ・ハーベイMM32株である請求
    項34に記載の方法。
  36. 【請求項36】 オートインデューサー経路に関与する遺伝子座に少なくと
    も2つの異なる変化を含んでなる細菌細胞であって、遺伝子座での第一の変化は
    、第一のオートインデューサーの検出を阻害する変化を含み、遺伝子座での第二
    の変化は、第二のオートインデューサーの産生を阻害する変化を含み、かつ、前
    記細胞はオートインデューサーと接触したときに生物発光するものである細菌細
    胞。
  37. 【請求項37】 遺伝子座での前記第一の変化がLuxN遺伝子の変化を含
    む請求項36に記載の細胞。
  38. 【請求項38】 遺伝子座での前記第一の変化がオートインデューサー−1
    の検出を阻害する請求項36に記載の細胞。
  39. 【請求項39】 遺伝子座での前記第二の変化がLuxS遺伝子の変化を含
    む請求項36に記載の細胞。
  40. 【請求項40】 遺伝子座での前記第二の変化が内因性オートインデューサ
    ー−2の産生を阻害する請求項36に記載の細胞。
  41. 【請求項41】 前記細菌細胞が生物発光性でオートインデューサーの産生
    が可能なビブリオ・ハーベイの突然変異体である請求項24に記載の方法。
  42. 【請求項42】 前記細菌細胞がビブリオ・ハーベイMM32株である請求
    項41に記載の細胞。
  43. 【請求項43】 オートインデューサーの活性を制御するオートインデュー
    サーアナログを同定する方法であって、下記工程: a) オートインデューサーに応答して検出可能な量の光を発生する生合成経路
    を含む細菌細胞またはその抽出物を、オートインデューサーアナログに接触させ
    る工程; b) オートインデューサーの存在下で細菌細胞またはその抽出物により発生す
    る光の量と、オートインデューサーアナログの存在下で発生する光の量とを比較
    する工程、ここで光の発生における変化は、オートインデューサーの活性を制御
    するオートインデューサーアナログの指標となる、 を含む方法。
  44. 【請求項44】 オートインデューサーが内因性オートインデューサーであ
    る請求項43に記載の方法。
  45. 【請求項45】 オートインデューサーが外因性オートインデューサーであ
    る請求項43に記載の方法。
  46. 【請求項46】 オートインデューサーがオートインデューサー−2である
    請求項43に記載の方法。
  47. 【請求項47】 前記接触がインビトロである請求項43に記載の方法。
  48. 【請求項48】 前記接触がインビボである請求項43に記載の方法。
  49. 【請求項49】 前記制御がオートインデューサー活性の阻害によるもので
    ある請求項43に記載の方法。
  50. 【請求項50】 前記制御がオートインデューサー活性の増強によるもので
    ある請求項43に記載の方法。
  51. 【請求項51】 前記アナログがリボース誘導体を含有する請求項43に記
    載の方法。
  52. 【請求項52】 前記細菌細胞がオートインデューサー経路に関与する遺伝
    子座における少なくとも1つの別の変化をさらに含み、前記変化がオートインデ
    ューサーの産生または検出を阻害する請求項43に記載の方法。
  53. 【請求項53】 遺伝子座での前記変化がLuxS遺伝子の変化を含む請求
    項52に記載の方法。
  54. 【請求項54】 遺伝子座での前記変化が内因性オートインデューサー−2
    の産生を阻害する請求項52に記載の方法。
  55. 【請求項55】 遺伝子座での前記変化がLuxN遺伝子の変化を含む請求
    項52に記載の方法。
  56. 【請求項56】 遺伝子座での前記変化がオートインデューサー−1の検出
    を阻害する請求項52に記載の方法。
  57. 【請求項57】 前記変化がLuxNおよびLuxS遺伝子座内にある請求
    項49に記載の方法。
  58. 【請求項58】 前記細菌細胞がビブリオ・ハーベイMM32株である請求
    項49に記載の方法。
  59. 【請求項59】 オートインデューサー−2を製造する方法であって、S−
    アデノシルホモシステイン(SAH)のオートインデューサー−2への変換を促
    進する条件下かつ時間で、S−アデノシルホモシステインとLuxSタンパク質
    とを接触させる工程を含む方法。
  60. 【請求項60】 前記オートインデューサー−2の製造がインビトロである
    請求項59に記載の方法。
  61. 【請求項61】 前記オートインデューサー−2の製造がインビボである請
    求項59に記載の方法。
  62. 【請求項62】 5’−メチルチオアデノシン/S−アデノシルホモシステ
    インヌクレオシダーゼタンパク質(pfs)をさらに含む請求項59に記載の方
    法。
  63. 【請求項63】 前記オートインデューサー−2が4,5−ジヒドロキシ−
    2,3−ペンタンジオンである請求項62に記載の方法。
  64. 【請求項64】 オートインデューサー−2を製造する方法であって、S−
    リボシルホモシステイン(SRH)のオートインデューサー−2への変換を促進
    する条件下かつ時間で、S−リボシルホモシステインとLuxSポリペプチドと
    を接触させる工程を含む方法。
  65. 【請求項65】 前記オートインデューサー−2が4,5−ジヒドロキシ−
    2,3−ペンタンジオンである請求項64に記載の方法。
  66. 【請求項66】 オートインデューサー−2を製造する方法であって、下記
    工程: a) S−アデノシルホモシステイン(SAH)のS−リボシルホモシステイン
    への変換を促進する条件下かつ時間で、S−アデノシルホモシステインと5’−
    メチルチオアデノシン/S−アデノシルホモシステインヌクレオシダーゼ(pf
    s)タンパク質とを接触させる工程; b) S−リボシルホモシステインのオートインデューサー−2への変換を促進
    する条件下かつ時間で、前記a)由来のS−リボシルホモシステインとLuxS
    タンパク質とを接触させる工程 を含む方法。
  67. 【請求項67】 前記オートインデューサー−2が4,5−ジヒドロキシ−
    2,3−ペンタンジオンである請求項66に記載の方法。
  68. 【請求項68】 オートインデューサーに関連する細菌のバイオマーカーを
    検出する方法であって、下記工程: a) 細菌のバイオマーカーの誘導を促進する条件下かつ時間で、少なくとも1
    つの細菌細胞とオートインデューサー分子とを接触させる工程;および b) 細菌のバイオマーカーを検出する工程 を含む方法。
  69. 【請求項69】 前記オートインデューサーがオートインデューサー−2で
    ある請求項68に記載の方法。
  70. 【請求項70】 前記オートインデューサー−2が4,5−ジヒドロキシ−
    2,3−ペンタンジオンである請求項69に記載の方法。
  71. 【請求項71】 前記バイオマーカーが核酸である請求項68に記載の方法
  72. 【請求項72】 前記バイオマーカーがタンパク質である請求項68に記載
    の方法。
  73. 【請求項73】 前記バイオマーカーが抗原である請求項68に記載の方法
  74. 【請求項74】 前記抗原が細菌の病原性の指標となる請求項73に記載の
    方法。
  75. 【請求項75】 前記バイオマーカーがリン酸化タンパク質である請求項6
    8に記載の方法。
  76. 【請求項76】 前記検出がプローブによるものである請求項68に記載の
    方法。
  77. 【請求項77】 前記プローブが核酸である請求項76に記載の方法。
  78. 【請求項78】 前記プローブが抗体である請求項76に記載の方法。
  79. 【請求項79】 前記抗体がポリクローナルである請求項78に記載の方法
  80. 【請求項80】 前記抗体がモノクローナルである請求項78に記載の方法
  81. 【請求項81】 前記プローブが検出可能に標識されている請求項76に記
    載の方法。
  82. 【請求項82】 前記細菌細胞がビブリオ・ハーベイ(Vivrio harveyi)、
    ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae),ビブリオ・パラヘモリティクス(Vibrio pa
    rahaemolyticus),ビブリオ・アルギノリティクス(Vivrio alginolyticus), シュ
    ードモナス・ホスホレウム(Pseudomonas phosphoreum),エルシニア・エンテロコ
    リティカ(Yersinia enterocolitica),大腸菌(Escherichia coli), ネズミチフス
    菌(Salmonella typhimurium), ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus inf
    luenzae), ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori),バチルス・サブチル
    ス(Bacillus subtilis),ボレリア・ブルグフドルフェリ(Borrelia burgfdorferi
    ),ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis), ナイセリア・ゴ
    ノレア(Neisseria gonorrhoeae),エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis),カ
    ンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni), デイノコッカス・ラジオ
    デュランス(Deinococcus radiodurans),ミコバクテリウム・ツベルクロシス(Myc
    obacterium tuberculosis), エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faec
    alis),ストレプトコッカス・ニューモニア(Streptococcus pneumoniae), ストレ
    プトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)およびスタフィロコッカス
    ・アウレウス(Staphylococcus aureus) からなる群より選ばれる請求項68に記
    載の方法。
  83. 【請求項83】 LuxPタンパク質に結合する標的化合物を検出する方法
    であって、前記LuxPタンパク質と前記標的化合物とを接触させる工程および
    前記化合物のLuxPへの結合を検出する工程を含む方法。
  84. 【請求項84】 前記標的化合物がオートインデューサー−2である請求項
    83に記載の方法。
  85. 【請求項85】 前記標的化合物がオートインデューサー−2アナログであ
    る請求項83に記載の方法。
  86. 【請求項86】 前記検出がインビボである請求項83に記載の方法。
  87. 【請求項87】 前記検出がインビトロである請求項83に記載の方法。
  88. 【請求項88】 細菌の生物膜形成を調節する方法であって、生物膜を形成
    可能な細菌と、オートインデューサー−2活性を調節し、生物膜形成を調節可能
    な化合物とを接触させる工程を含む方法。
  89. 【請求項89】 前記化合物がオートインデューサー−2アナログである請
    求項88に記載の方法。
  90. 【請求項90】 前記化合物がポリペプチドである請求項88に記載の方法
  91. 【請求項91】 前記化合物が小分子である請求項88に記載の方法。
  92. 【請求項92】 前記接触がインビボである請求項88に記載の方法。
  93. 【請求項93】 前記接触がインビトロである請求項88に記載の方法。
  94. 【請求項94】 前記調節が生物膜形成を阻害することによるものである請
    求項88に記載の方法。
  95. 【請求項95】 細菌の細胞外シグナル伝達因子の生合成に必要なタンパク
    質をコードする単離された核酸分子であって、前記因子は、luxQタンパク質
    と相互作用することにより発光遺伝子luxCDABEを含有するビブリオ・ハ
    ーベイオペロンの発現を誘導する核酸分子。
  96. 【請求項96】 ビブリオ・ハーベイ(Vivrio harveyi)、ビブリオ・コレ
    ラ(Vibrio cholerae),ビブリオ・パラヘモリティクス(Vibrio parahaemolyticus
    ),ビブリオ・アルギノリティクス(Vivrio alginolyticus), シュードモナス・ホ
    スホレウム(Pseudomonas phosphoreum),エルシニア・エンテロコリティカ(Yersi
    nia enterocolitica),大腸菌(Escherichia coli), ネズミチフス菌(Salmonella
    typhimurium), ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae), ヘリ
    コバクター・ピロリ(Helicobacter pylori),バチルス・サブチルス(Bacillus su
    btilis),ボレリア・ブルグフドルフェリ(Borrelia burgfdorferi),ナイセリア・
    メニンギティディス(Neisseria meningitidis), ナイセリア・ゴノレア(Neisser
    ia gonorrhoeae),エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis),カンピロバクター
    ・ジェジュニ(Campylobacter jejuni), デイノコッカス・ラジオデュランス(Dei
    nococcus radiodurans),ミコバクテリウム・ツベルクロシス(Mycobacterium tub
    erculosis), エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis),ストレプ
    トコッカス・ニューモニア(Streptococcus pneumoniae), ストレプトコッカス・
    ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)およびスタフィロコッカス・アウレウス(S
    taphylococcus aureus) からなる群より選ばれる細菌細胞から単離された請求項
    95に記載の核酸分子。
  97. 【請求項97】 約150〜200のアミノ酸残基を有するポリペプチドを
    コードする請求項95に記載の核酸分子。
  98. 【請求項98】 前記コードされたポリペプチドが配列番号:10、配列番
    号:11、配列番号:12、配列番号:13、配列番号:14、配列番号:15
    、配列番号:16、配列番号:17および配列番号:10〜17の2以上の比較
    に由来するコンセンサス配列からなる群より選ばれた配列と実質的に同じアミノ
    酸配列を含有する請求項95に記載の核酸分子。
  99. 【請求項99】 配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:
    4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9
    および配列番号:1〜9の2以上の比較に由来するコンセンサス配列からなる群
    より選ばれた配列と実質的に同じ配列を有する請求項95に記載の核酸分子。
  100. 【請求項100】 請求項95に記載の核酸分子を含む挿入物を有するベク
    ターを含有してなる組換えDNA分子。
  101. 【請求項101】 請求項95に記載の核酸分子の発現により製造されたポ
    リペプチド。
  102. 【請求項102】 下記: a) 配列番号:1; b) 配列番号:1の変異体; c) 配列番号:1の天然の突然変異体; d) 配列番号:1またはその相補体とハイブリダイズし、かつ、配列番号:1
    によりコードされるポリペプチドと実質的に同じポリペプチドをコードする配列
    ;および e) 配列番号:10のアミノ酸を有するポリペプチドの一部または全部をコー
    ドする配列 からなる群より選ばれた配列を有する単離された核酸分子。
  103. 【請求項103】 下記: a) 配列番号:2; b) 配列番号:2の変異体; c) 配列番号:2の天然の突然変異体; d) 配列番号:2またはその相補体とハイブリダイズし、かつ、配列番号:2
    によりコードされるポリペプチドと実質的に同じポリペプチドをコードする配列
    ;および e) 配列番号:11のアミノ酸を有するポリペプチドの一部または全部をコー
    ドする配列 からなる群より選ばれた配列を有する単離された核酸分子。
  104. 【請求項104】 下記: a) 配列番号:4; b) 配列番号:4の変異体; c) 配列番号:4の天然の突然変異体; d) 配列番号:4またはその相補体とハイブリダイズし、かつ、配列番号:4
    によりコードされるポリペプチドと実質的に同じポリペプチドをコードする配列
    ;および e) 配列番号:12のアミノ酸を有するポリペプチドの一部または全部をコー
    ドする配列 からなる群より選ばれた配列を有する単離された核酸分子。
  105. 【請求項105】 ベクターおよび請求項102、103または104に記
    載の核酸分子を包む挿入物を含有してなる組換えDNA分子。
  106. 【請求項106】 請求項102、103または104に記載の核酸分子の
    発現により製造されたポリペプチド。
  107. 【請求項107】 細菌の細胞外シグナル伝達因子を精製する方法であって
    、前記因子は、luxQタンパク質と相互作用することにより発光遺伝子lux
    CDABEを含有するビブリオ・ハーベイオペロンの発現を誘導し、下記工程: a) 前記シグナル伝達分子を産生する細菌細胞を培地中で生育させる工程; b) 前記培地から前記細菌細胞を分離する工程; c) 前記細菌細胞から前記シグナル伝達分子の産生および分泌を可能にする条
    件下で、高い容量オスモル濃度を有する溶液中で前記細菌細胞をインキュベート
    する工程; d) 前記高い容量オスモル濃度溶液から前記細菌細胞を分離する工程;ならび
    に e) 前記高い容量オスモル濃度溶液から前記因子を精製する工程 を含む方法。
  108. 【請求項108】 下記工程: a) 前記高い容量オスモル濃度溶液の蒸発した試料中の極性化合物を非極性化
    合物から分離する工程;および b) 前記極性化合物を逆相高速液体クロマトグラフィーに付する工程 をさらに含む請求項107に記載の方法。
  109. 【請求項109】 前記高い容量オスモル濃度溶液が少なくとも0.4Mの
    一価の塩を含有する請求項107に記載の方法。
  110. 【請求項110】 0.4〜0.5MのNaClを含有する請求項109に
    記載の方法。
  111. 【請求項111】 グルコース、フルクトース、マンノース、グルシトール
    、グルコサミン、ガラクトースおよびアラビノースからなる群より選ばれる炭水
    化物を含む培地中で細菌細胞を生育する工程をさらに含む請求項107に記載の
    方法。
  112. 【請求項112】 請求項107に記載の方法により製造された精製された
    シグナル伝達分子。
  113. 【請求項113】 外因性オートインデューサーに応答して検出可能な量の
    光を発生する生合成経路を含有する細菌株またはその抽出物を含む、1以上の容
    器手段を近接して封じ込めて受けるために区画化された担体手段を含有してなる
    キットであって、前記細菌細胞はオートインデューサー経路に関与する遺伝子座
    に少なくとも2つの異なる変化を有し、ここで、遺伝子座での第一の変化は、第
    一のオートインデューサーの検出を阻害する変化を含み、遺伝子座での第二の変
    化は、第二のオートインデューサーの産生を阻害する変化を含むキット。
  114. 【請求項114】 遺伝子座での前記第一の変化がLuxN遺伝子の変化を
    含む請求項113に記載のキット。
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