JPH09182948A - 金型およびその焼入れ方法 - Google Patents

金型およびその焼入れ方法

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JPH09182948A
JPH09182948A JP35201195A JP35201195A JPH09182948A JP H09182948 A JPH09182948 A JP H09182948A JP 35201195 A JP35201195 A JP 35201195A JP 35201195 A JP35201195 A JP 35201195A JP H09182948 A JPH09182948 A JP H09182948A
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mold
quenching
cooling
die
temperature
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JP35201195A
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English (en)
Inventor
Takeshi Ichihashi
健 市橋
Koji Murakami
孝司 村上
Yuichi Goto
裕一 後藤
Tadao Nakamura
忠男 中村
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KOYAMA KOZAI KK
Aisin Corp
Proterial Ltd
Original Assignee
KOYAMA KOZAI KK
Aisin Seiki Co Ltd
Hitachi Metals Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 鋼製の金型の焼入れ作業による歪や焼割れを
防止し、ヒートクラックの発生の少ない靭性の高い金型
および金型の焼入れ方法を提供する。 【解決手段】 鋼製の金型の型彫り部の表面から40mm内
部までに析出するベイナイト組織を、長さ 20μm以下、
幅 2μm以下とし、その焼入れ方法は、金型の表面温度
が焼入れ温度から650ないし300℃の温度範囲に到達する
までトルースタイトもしくは粒界炭化物が析出する冷却
速度よりも速い冷却速度で冷却し、その後ポリマー液を
使用して冷却する焼入れ方法である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鋼製の金型および
その焼入れ方法に関する。より詳しくは、従来品よりも
靭性が高く、大割れの発生を大幅に低減した金型および
金型の焼入れ方法に関し、本発明の金型の用途例として
は、アルミニウム合金や銅合金など非鉄合金製造のダイ
カスト鋳造型や鍛造型などがある。
【0002】
【従来の技術】本発明が対象とする一例としてのアルミ
ニウム合金のダイカスト鋳造に用いられる金型は、耐ヒ
ートクラック性が高く、かつ被切削性が良く価格的にも
妥当なレベルにあるので、主にJIS SKD61などの熱間金
型用鋼が用いられる。そして、ダイカスト金型は複雑な
形状の型彫り部と金型の内部に水冷孔が加工されるのが
普通であり、焼割れや歪が発生しやすく、また焼入れ焼
戻し後の仕上げ加工のコストを低く抑えるため、仕上げ
加工での取り代が多く取れず、焼入れ過程での熱処理変
形は0.8mm程度までしか許容されない。このため、焼入
れによる歪や焼割れを防ぐため焼入れ部材に風を送って
冷却する衝風冷却などの比較的緩慢な冷却方法で焼入れ
されることが多い。しかし、衝風冷却は金型のサイズが
大きくなると冷却速度が不足し易いので、衝風冷却を上
回る急速冷却を得ようとして油冷や高速ガス冷却を施し
ても、金型の肉厚が概ね150mmを越えるような場合に
は、十分な冷却速度で焼入れができないので必要な金型
寿命も得られなくなる。
【0003】そして、ダイカスト金型の寿命は、型彫り
部に発生するヒートクラックや早期に発生する大割れ等
によることが知られている。そのため近年、ダイカスト
金型を高硬度化してヒートクラックの発生を抑制して、
より高寿命化しようとする試みがなされているが、高硬
度化することは逆に靭性が低下するので、水冷孔や型彫
り部を起点として大割れが発生する事故が生じている。
そこで、型彫り面は所望の硬さを維持し、水冷孔近傍の
硬さを下げて靭性を上げ、大割れの発生を防止したダイ
カスト金型が提案されている。しかし、型彫りの表面近
くにまで到達している水冷孔の部分の硬さを下げれば、
熱処理上のバラツキから型彫り表面の硬さも低下してし
まう可能性も大きく、強度不足を招き、十分な効果が得
られない場合がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本願発明者は、短寿命
で大割れに至ったダイカスト用金型を調査した結果、割
れ発生の要因として次の2点に要約されることがわかっ
た。その第1は、金型の型彫り表面に発生するヒートク
ラックにより、比較的深い型彫り部のシャープな形状の
底部に発生したヒートクラックが進展した大割れと、第
2は金型の水冷孔を起点としたもので、特に大きな金型
の内部に位置する水冷孔より発生した大割れである。こ
の大割れの起点近傍のミクロ組織の調査を行なうと、焼
入れ冷却速度の不足に起因するベイナイト組織が認めら
れ、これによる靭性不足から早期割れに至ったと推測さ
れた。すなわち、多くの金型の廃却事例の調査から大割
れによる短寿命化は、ベイナイト組織の粗さとの間にあ
る程度の相関があることがわかった。
【0005】
【課題を解決するための手段】そこでベイナイト組織の
形態をベイナイトの幅と長さにより「ベイナイト度」と
して定量的に表現して表1に示す。そして使用済の金型
を調査し、金型の廃却原因となった割れ起点の近傍のミ
クロ組織を観察したところ、表2に示すような結果が得
られ、短寿命品の割れ起点部には顕著なベイナイト組織
が認められた。そのベイナイト度は4以上になると金型
は短寿命となること、すなわちベイナイトの幅や長さが
大きくなってベイナイトが粗大化している傾向と一致す
ることがわかった。この結果、表2に示すように長寿命
が得られる望ましいベイナイトレベルはベイナイト度が
1ないし3であり、特定のベイナイトサイズに長寿命と
なる限界性があることがわかった。
【0006】
【表1】
【0007】
【表2】
【0008】すなわち、金型をできるだけ高寿命化する
ためには、大割れが発生し易い部位の硬さを下げるだけ
では不十分で、組織的にも過度のベイナイトを析出しな
いように焼入れすることが必要である。アルミダイカス
トに用いられる金型は、主にSKD61やその改良鋼な
どの材料が使用されるが、これらの材料は等温変態曲線
や連続冷却変態曲線におけるベイナイトノーズが比較的
左方に張り出しているため、焼入れ時の冷却速度に金型
内部のミクロ組織が強く影響され、ベイナイト組織と呼
ばれている組織になりやすく、靭性が損なわれ、早期に
割れが発生し短寿命となることが多いのである。
【0009】ベイナイト組織を完全に回避するには、前
記のベイナイトノーズにひっかからないように急速に冷
却すればよいことは理論的にはわかる。しかし、現実の
金型、特に自動車用のアルミダイカスト金型などは1000
mm幅程度で厚みが150mm以上の大きい鋼を金型とするこ
とも多いので、金型の急速冷却は難しいものも多く、か
つ焼入れ時の冷却速度が大きい程、冷却割れや金型の歪
発生をともなうことは必至である。すなわち、ベイナイ
ト組織の微細化と金型の急速焼入れによる悪影響は相反
するものであり、どの程度のベイナイト組織までが寿命
上許容されるかの評価法を確立し、かつその組織を得る
ための焼入れ冷却方法を見出す必要があった。
【0010】そこで本発明者は、大割れ起点となるよう
な深い型彫りの底部や、使用中の割れ起点となる金型内
部の水冷孔付近におけるミクロ組織を確認し、急速冷却
しても冷却割れや歪発生を防止できるベイナイト組織と
冷却条件を明らかにし、かつ使用中の靭性不足による割
れとなるベイナイト組織の限界をベイナイト度として定
量的に明らかにして、ベイナイト析出の抑制を図れるよ
うな急速冷却を行ないつつ、しかも焼入れによる冷却割
れや歪発生を防ぐ新たな熱処理方法と金型を完成して本
願発明に到達した。
【0011】すなわち、具体的に本発明の金型は、金型
の型彫り部の表面から40mm内部までに析出するベイナイ
ト組織が、長さ 20μm以下、幅 2μm以下であることを
特徴とする金型である。金型は型彫り面を使用するので
あるから、表面から40mm程度までの特性が最も重要とな
る。この範囲のベイナイト組織は、靭性の点からは皆無
か、有っても極力小さい方が望ましいが、その上限値は
表1のベイナイト度の定義と表2の金型寿命との関係か
らベイナイト度で言えば3までであり、さらにベイナイ
ト組織形態で言えば、ベイナイト針上最大長さが20μm
以下であり、幅が2μm以下である。金型が水冷孔を内部
に有する場合には、型彫り部よりも水冷孔からの割れが
生じ易い。この場合は、少なくとも型彫り部に近接する
前記水冷孔の表面から40mm内部までに析出するベイナイ
ト組織が長さ 20μm以下、幅 2μm以下であることが望
ましい。
【0012】金型が水冷孔を有する場合で、水冷孔から
の割れが最も心配される場合には、本発明の方法の一手
段である水冷孔にポリマー液を通過させることなどで選
択的に冷却することができる。しかし、金型の型彫り面
と水冷孔のいずれが割れの危険性が高いか判断しにくい
場合には、金型の型彫り部の表面から40mm内部までと、
水冷孔の表面から40mm内部までに析出するベイナイト組
織をいずれも長さ 20μm以下、幅 2μm以下とするのが
望ましい。ここで重要な点は、金型の表面温度が650な
いし300℃まではトルースタイトもしくは粒界炭化物が
析出する冷却速度よりも速くすること、およびポリマー
液中に浸漬する650ないし300℃の温度範囲を守ってポリ
マー液中で冷却することである。前者は、例えば金型に
強制的に空気を送る衝風冷却の方法で達せられる。
【0013】本発明の金型を製造する手段は、焼入れ温
度から金型の表面温度が650ないし300℃の温度範囲に到
達するまでトルースタイトもしくは粒界炭化物が析出す
る冷却速度よりも速い、例えば衝風冷却などの冷却速度
で冷却し、次いでポリマー液中で冷却することを特徴と
する金型の焼入れ方法であり、このような新しい方法に
より、金型の型彫り部の表面から40mm内部までに析出す
るベイナイト組織を長さ 20μm以下、幅 2μm以下に抑
制することが可能となる。
【0014】さらに望ましくは、焼入れ温度から金型の
表面温度が650ないし300℃の温度範囲に到達するまでト
ルースタイトもしくは粒界炭化物が析出する冷却速度よ
りも速い冷却速度で冷却し、次いでポリマー液中で、金
型内部の温度が250〜150℃の温度範囲まで冷却した後、
前記ポリマー液から引上げることを特徴とするものであ
る。金型をポリマー液に浸漬後、金型内部の温度が250
〜150℃に達したところで引き上げることは過度の冷却
で生じる割れを防止するために有効である。
【0015】ポリマー液の使い方としては、焼入れ温度
から金型の表面温度が650ないし300℃の温度範囲に到達
するまでトルースタイトもしくは粒界炭化物が析出する
冷却速度よりも速い冷却速度で冷却し、次いでポリマー
液中に浸漬し、該金型の型彫り部に前記ポリマー液を強
制的に送付して冷却することが効果がある。さらにま
た、金型が水冷孔を内部に有する場合には、焼入れ温度
から金型の表面温度が650ないし300℃の温度範囲に到達
するまでトルースタイトもしくは粒界炭化物が析出する
冷却速度よりも速い冷却速度で冷却し、次いでポリマー
液中で冷却して、金型の型彫り部の前記水冷孔にポリマ
ー液を流入させて冷却することで水冷孔の周辺について
集中的にベイナイト組織の制御ができる。
【0016】
【発明の実施の形態】焼入れ時に金型のベイナイト組織
の生成を防止するために、急速に焼入れ冷却する方法と
して一般的に油焼入れする方法が用いられる。しかし、
図1に示すように油冷却における冷却能は油の特性上沸
点が高いため、冷却速度が遅くなる対流段階に移行する
温度が350℃付近にある。この温度付近はほぼベイナイ
ト変態を開始する温度であるため、ベイナイト域での冷
却速度は油冷却では不十分となるのである。
【0017】ベイナイト変態温度は焼入れ時の冷却速度
によって変化するが、熱間ダイス鋼のうちのSKD61
は表3に示すように、ベイナイト変態する温度域が概ね
400〜200℃程度の温度範囲にあるから、この温度範囲を
急冷すればベイナイトの析出を抑制または組織を制御し
て靭性の低下を防げることが考えられる。そのため本発
明者は、ベイナイト変態が生ずる温度よりも少し高温側
の500℃以上および500℃以下の冷却速度がシャルピー衝
撃値に及ぼす影響を12mm角のテストピースを種々の冷却
速度で焼入れして確認した。結果を図2に示す。
【0018】
【表3】
【0019】図2のイの冷却によれば、焼入れ冷却時
に、500℃まではかなり徐冷しても、その後を急速に冷
却してやれば、100℃まで冷却する冷却時間が長くなっ
ても靭性の低下は少ない。ところが、図2のロの冷却で
は500℃までを比較的早い速度で冷却しても、その後を
徐冷してしまえば冷却時間が長くなるにつれて衝撃値が
低くなってしまうことがわかる。そこで本発明者は、油
冷却における低温側での冷却速度の不足を補うため、ポ
リマー焼入れ液の使用に着目したのである。ポリマー焼
入れ液は、前述した図1に示すように焼入れ油に比べて
ベイナイト域での冷却速度が大きく、ベイナイト変態を
抑制できることを見出した。ポリマー液による冷却は、
今までその用途は主に、高周波焼入れでの焼割れ防止の
ため水冷却の代わりに用いられるか、または油焼入れに
おける火災防止のために代用されることがそのほとんど
であり、ベイナイト組織の制御に適用したのは本発明が
初めてである。
【0020】ポリマー液とは、一般に水溶性焼入れ液の
ことで市販されているものもある。本発明に使用できる
ポリマー液としては、例えばユニオン・カーバイド社の
ユーコン・クエンチャントがある(ユーコンはユニオン・
カーバイド社の登録商標である)。一般にポリマー液は
低温側で油よりも優れた冷却特性を有し、また水のよう
な沸騰現象がないため冷却ムラの発生も少ない。本発明
はポリマー液のこのような優れた特性を、比較的寸法の
大きな金型、例えばダイカスト金型の焼入れに適用し冷
却速度の向上により、ベイナイト組織の抑制と制御に応
用した。まず、300mm×300mm×300mmのテスト型を各種
の冷却方法で焼入れした場合の、ベイナイト域での冷却
速度を測定し、冷却速度と衝撃値の関係を表4に示す。
ポリマー液での焼入れはベイナイト域での冷却速度が早
く靭性面でも有利である。
【0021】
【表4】
【0022】金型は焼入れ時、上述したようにベイナイ
ト変態を防止するか、または抑制する大きな冷却速度を
得ることと、熱処理変形を極力低減しかつ熱処理割れが
防止できるような急激な冷却を避けるという相反する操
作をバランスさせなければならない。ところが、金型の
油焼入れにおける熱処理変形について調査したところ、
大きな熱処理変形は、冷却開始初期に、金型外部が急冷
されることによる外部収縮による塑性変形が主体であ
り、また熱処理割れは、金型の内外の温度差が高い状態
でマルテンサイト変態温度領域に冷却されることによっ
て、図3に示すように大きな内部応力が働くためと考え
られる。したがって、マルテンサイトまたはベイナイト
変態温度領域を徐冷すれば内部応力の発生を軽減するこ
とができるわけである。
【0023】そこで本発明では、焼入れ冷却時ポリマー
液への浸漬温度と、ポリマー液からの引上げ温度が重要
なポイントになる。ポリマー液への浸漬温度とポリマー
液からの引上げ温度が、金型の焼入れ歪量、冷却割れ、
およびシャルピー衝撃値へ及ぼす影響を300mm×300mm×
300mmの実型で調査した結果を表5と表6に示す。表5
は1030℃に加熱した後、そのままポリマー液へ浸漬する
かまたは衝風冷却後ポリマー液へ浸漬したものを示し、
表6は1030℃に加熱した後そのままポリマー液へ浸漬し
て引き上げたものである。表5と表6を併せてみれば、
金型はオーステナイト化温度に加熱して650〜300℃付近
まで冷却した後、ポリマー液へ浸漬して250〜150℃まで
冷却して引き上げれば、焼入れ歪が少なく割れも発生し
ないで、29.4J/cm2(48HRC)以上の高いシャルピー衝撃値
が得られることがわかる。
【0024】
【表5】
【0025】
【表6】
【0026】油中に焼入れした後金型を途中で引き上げ
ると、油に引火することが多いが、ポリマー焼入れでは
油冷却のような火災の心配もないため、金型のポリマー
液からの引上げ温度を自由に設定でき、金型の形状に応
じて引上げ温度を調整することで、冷却割れの防止や焼
入れ歪の低減を図ることが容易に可能になる。焼入れ油
は通常冷却能を高めるため80℃前後に加熱して粘度を下
げて用いられる。ポリマー液は粘度が低いので20〜40℃
程度の比較的低温でも冷却能が高い。これを利用すれば
ポリマー液中に直接液体噴出装置を設置することもでき
るし、金型に設けられた水冷孔の中にポリマー液を通す
こともできるのである。
【0027】上記の結果から本発明の金型は、ベイナイ
ト組織を長さ 20μm以下、幅 2μm以下に規定する。ベ
イナイト組織がこれ以上に粗大になると使用初期に大割
れが発生し、長さ 20μm以下、幅 2μm以下の微細なベ
イナイト組織かまたはマルテンサイト組織であれば、使
用初期に大割れやヒートクラックが発生せずにダイカス
ト鋳造や、鍛造ができる。また、焼入れ温度に加熱され
た金型は、代表的には500℃付近、金型のサイズによっ
て650℃〜300℃に冷却するまでトルースタイトや粒界炭
化物が析出する冷却速度より速い程度での緩やかな冷却
を施す。あまりにも緩い冷却をして、トルースタイト等
が析出してしまうと必要な硬さが得られなくなってしま
う。上記のような望ましい冷却は実際の金型を焼入れす
る時は概ね衝風冷却に相当する。衝風冷却であれば450m
m角程度の大型の金型でも、トルースタイトを析出しな
いで冷却することができる。
【0028】続いて、比較的緩冷却をした後、比較的早
い冷却に移行する過渡期の温度を金型のサイズにより65
0℃ないし300℃とする。代表的な望ましい温度として
は、500℃程度を設定すればよい。この温度は過冷オー
ステナイトの安定域であり、冷却速度を変更するための
作業に手間取って、温度が下がり始めたとしてもベイナ
イト変態が始まるような懸念はない。緩冷却した後の急
速な冷却はその速度を5℃/minよりも早い冷却をする。5
℃/min以上の冷却速度であれば、高い衝撃値が得られ、
たとえベイナイトが析出しても微細な組織になる。この
ように650℃ないし300℃、代表的には500℃付近よりも
高温側を比較的緩い冷却をすれば、冷却中の金型の内外
の温度差が減少するので、その後を急速に冷却しても、
金型内外の温度差によって生ずる焼割れや歪が生ずる心
配はなくなる。
【0029】上述した本発明の焼入れ方法の考え方の要
点を450mm角程度の金型について、代表温度を例示して
まとめると下記のようになる。従来は常識的に焼入れ時
の冷却は焼入れ温度から500℃付近まではトルースタイ
トや粒界炭化物を析出させない冷却をし、その後マルテ
ンサイト変態が徐々に進行するように比較的徐冷を行な
うというものであった。本発明は焼入れ温度から500℃
付近までは、トルースタイトや粒界炭化物が析出しない
程度での比較的緩やかな冷却を行ない、その後上部ベイ
ナイト変態をできるだけ抑制するため急速に冷却し、さ
らにマルテンサイト変態域、またはベイナイト変態域は
緩やかに冷却するのである。すなわち従来の冷却方法と
は、急速冷却の与え方が異なることにポイントがある。
【0030】さらに焼割れや変形をより確実に防止する
ためには、薄肉部や隅角部と他の部位とのマルテンサイ
ト変態やベイナイト変態を、均一に進行させることが大
切である。そのためには金型内部が250ないし150℃に到
達したら、ポリマー液から引き上げて徐々に冷却するこ
とにより金型全体をできるだけ均一に冷却をする。
【0031】
【実施例】次に実施例と図面に基づいて、本発明を詳細
に説明する。まず、表7に示す組成を有するSKD61
の金型材料を準備し、幅 450mm、長さ 450mm、厚さ 300
mm(400kg)に切削加工した後、さらに幅 450mm、長さ 45
0mmの面に幅 180mm、長さ 180mm、深さ 150mmの型彫り
部を加工するとともに、冷却水孔を加工してダイカスト
金型を得た。
【0032】
【表7】
【0033】この金型を表8に示す各種の冷却速度で焼
入れを施し、硬さ 48HRC狙いで焼戻しを行ない、金型の
ミクロ組織を観察してベイナイト度をチェックするとと
もに、Al合金をダイカスト鋳造する実機テストを行な
った。得られた金型のミクロ組織を図7に示す。表8
(4)に示す本発明の焼入れ条件で得られた金型のミク
ロ組織が図7のAであり、ベイナイト組織は長さ 15μm
以下、幅 2.0μm以下に抑制している。図7のBが表8
(1)に示す従来の焼入れ条件で得られた金型のミクロ
組織であり、ベイナイト組織は最大長さ 45μm程度、最
大幅は12.5μmを示している。
【0034】
【表8】
【0035】表8に示す冷却条件により得られた金型の
焼入れ冷却線図を図4に示す。また、請求項6と請求項
7の発明に相当する焼入れ冷却の作業概要を図5と図6
に示す。図5においては、ポリマー液中に水中ポンプを
直接浸漬してこの水中ポンプによって、ポリマー液を金
型の型彫り部と型彫り部以外の表面にポリマー液を強制
的に送付して冷却する。さらに、図6では金型の外周部
にブロアーを設置して衝風冷却すると共に、ポリマー浴
槽から水中ポンプによって、金型に加工された水冷孔内
にポリマー液を送り込んで主に金型内部に適度の冷却速
度を付与できる。このようにして焼入れされた金型の水
冷孔近傍のミクロ組織(ベイナイト度)とシャルピー衝撃
値を表9に示す。
【0036】
【表9】
【0037】水冷孔からの距離が大きくなるにつれて、
ベイナイト度の数値が高くなり、シャルピー衝撃値が低
くなる。実用的に靭性のある金型としては、シャルピー
衝撃値が24.5J/cm2は必要なので、ベイナイト度は3.0付
近までが限界で4となると衝撃値は悪くなる。この時の
限界ベイナイトサイズを詳しく調べると、ベイナイト長
さが20μm以下、幅 2.0μm以下である。上記のようにし
て焼入れされたダイカスト金型を、実際にダイカスト機
に組み込んでアルミ合金を鋳造する試験を行ない、金型
の廃却原因と廃却に至る鋳造個数を比較した。結果を表
10に示す。金型は焼入れ後、硬さを48HRC狙いで、焼
戻しを施してある。
【0038】
【表10】
【0039】表10によれば、従来の焼入れ方法である
衝風焼入れで得られた金型に比べ、本発明の衝風冷却後
ポリマー液へ浸漬した後、引上げする焼入れ方法で得ら
れた金型は、鋳造個数(寿命)が2倍程度に向上し、衝
風冷却後水冷孔へポリマー液を流入する焼入れ方法で得
られた金型も約1.5倍の寿命向上が認められる。
【0040】
【発明の効果】以上説明したように本発明は、特に複雑
な形状の深い型彫り部と水冷孔を有する金型に適用し、
焼入れ温度から650ないし300℃の温度範囲をトルースタ
イトや粒界炭化物が析出するよりも早い冷却速度で冷却
し、その後ベイナイト変態が生ずる650ないし350℃の温
度以下を、ポリマー液を用いて急速に冷却するものであ
る。その結果、金型の使用中に割れやヒートクラックが
発生しやすい型彫り底部や水冷孔近傍のベイナイトの発
生を抑制するか、一定の細かいベイナイト組織以下に制
御して、この部位の靭性(シャルピー衝撃値)を高める
ことができる。したがって、金型の鋳造個数(寿命)が
向上すると共に、大割れの発生も低減できるので、金型
の寿命も安定して金型に対する信頼性も向上することが
できる。さらに、焼入れ時の金型の歪も低減できるの
で、焼入れ焼戻し後の金型の仕上げ加工量も低減でき
て、コスト的にも有利な金型を得ることも可能になると
いう効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るポリマー液と焼入れ油の冷却性能
の相違を示す図である。
【図2】冷却速度による靭性の低下の度合いを示す図で
ある。
【図3】焼入れ冷却過程における材料表面に発生する応
力の状況を示す図である。
【図4】本発明、従来例および比較例の焼入れ冷却線図
の一例を示す図である。
【図5】本発明に係る金型表面にポリマー液を強制的に
送付して焼入れする焼入れ方法の一実施例を示す概念図
である。
【図6】本発明に係る金型の水冷孔にポリマ液を流入し
て焼入れする焼入れ方法の一実施例を示す概念図であ
る。
【図7】本発明に係る金型の冷却速度とベイナイト度の
関係を示す光学顕微鏡ミクロ組織写真およびスケッチ図
である。
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成8年2月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正内容】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正内容】
【0011】すなわち、具体的に本発明の金型は、金型
の型彫り部の表面から40mm内部までに析出するベイナイ
ト組織が、長さ 20μm以下、幅 2μm以下であることを
特徴とする金型である。金型は型彫り面を使用するので
あるから、表面から40mm程度までの特性が最も重要とな
る。この範囲のベイナイト組織は、靭性の点からは皆無
か、有っても極力小さい方が望ましいが、その上限値は
表1のベイナイト度の定義と表2の金型寿命との関係か
らベイナイト度で言えば3までであり、さらにベイナイ
ト組織形態で言えば、ベイナイトの針状長さが20μm以
下であり、幅が2μm以下である。金型が水冷孔を内部に
有する場合には、型彫り部よりも水冷孔からの割れが生
じ易い。この場合は、少なくとも型彫り部に近接する前
記水冷孔の表面から40mm内部までに析出するベイナイト
組織が長さ 20μm以下、幅 2μm以下であることが望ま
しい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正内容】
【0021】
【表4】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0037
【補正方法】変更
【補正内容】
【0037】水冷孔からの距離が大きくなるにつれて、
ベイナイト度の数値が高くなり、シャルピー衝撃値が低
くなる。実用的に靭性のある金型としては、シャルピー
衝撃値が24.5J/cm2は必要なので、ベイナイト度は3まで
が限界で4となると衝撃値は悪くなる。この時の限界ベ
イナイトサイズを詳しく調べると、ベイナイト長さが20
μm以下、幅 2.0μm以下である。上記のようにして焼入
れされたダイカスト金型を、実際にダイカスト機に組み
込んでアルミ合金を鋳造する試験を行ない、金型の廃却
原因と廃却に至る鋳造個数を比較した。結果を表10に
示す。金型は焼入れ後、硬さを48HRC狙いで、焼戻しを
施してある。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 // B29C 33/42 9543−4F B29C 33/42 (72)発明者 村上 孝司 愛知県刈谷市朝日町2丁目1番地 アイシ ン精機株式会社内 (72)発明者 後藤 裕一 愛知県刈谷市朝日町2丁目1番地 アイシ ン精機株式会社内 (72)発明者 中村 忠男 愛知県名古屋市緑区鳴海町下汐田162 小 山鋼材株式会社名古屋熱処理センター内

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 金型の型彫り部の表面から40mm内部まで
    に析出する最大のベイナイト組織が、長さ 20μm以下、
    幅 2μm以下であることを特徴とする金型。
  2. 【請求項2】 水冷孔と型彫り部を有し、前記型彫り部
    に近接する前記水冷孔の表面から40mm内部までに析出す
    るベイナイト組織が長さ 20μm以下、幅 2μm以下であ
    ることを特徴とする金型。
  3. 【請求項3】 金型の表面温度が焼入れ温度から650な
    いし300℃の温度範囲に到達するまでトルースタイトも
    しくは粒界炭化物が析出する冷却速度よりも速い冷却速
    度で冷却し、次いでポリマー液中で冷却することを特徴
    とする金型の焼入れ方法。
  4. 【請求項4】 金型の表面温度が焼入れ温度から650な
    いし300℃の温度範囲に到達するまでトルースタイトも
    しくは粒界炭化物が析出する冷却速度よりも速い冷却速
    度で冷却し、次いでポリマー液中で冷却して、金型の型
    彫り部の表面から40mm内部までに析出するベイナイト組
    織を長さ 20μm以下、幅 2μm以下に抑制することを特
    徴とする請求項3に記載の金型の焼入れ方法。
  5. 【請求項5】 金型の表面温度が焼入れ温度から650な
    いし300℃の温度範囲に到達するまでトルースタイトも
    しくは粒界炭化物が析出する冷却速度よりも速い冷却速
    度で冷却し、次いでポリマー液中に浸漬し、金型内部の
    温度が250〜150℃の温度範囲まで冷却した後、前記ポリ
    マー液から引上げることを特徴とする請求項3に記載の
    金型の焼入れ方法。
  6. 【請求項6】 金型の表面温度が焼入れ温度から650な
    いし300℃の温度範囲に到達するまでトルースタイトも
    しくは粒界炭化物が析出する冷却速度よりも速い冷却速
    度で冷却し、次いでポリマー液中に浸漬し、該金型の型
    彫り部に前記ポリマー液を強制的に送付して冷却するこ
    とを特徴とする請求項3に記載の金型の焼入れ方法。
  7. 【請求項7】 金型の表面温度が焼入れ温度から650な
    いし300℃の温度範囲に到達するまでトルースタイトも
    しくは粒界炭化物が析出する冷却速度よりも速い冷却速
    度で冷却し、次いで金型の水冷孔にポリマー液を流入さ
    せて冷却することを特徴とする請求項3に記載の金型の
    焼入れ方法。
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