JP2007191759A - 合金鋼の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】大断面を有する型材であっても、強度、靱性及び寸法精度の高い合金鋼を製造することが可能な合金鋼の製造方法を提供すること。
【解決手段】臨界冷却速度がC(℃/min)である合金鋼を、焼き入れ温度Ta(≧合金鋼のA1点(℃))に加熱する加熱工程と、表面温度が温度Ts(但し、Ms+100℃≦Ts(℃)≦Ms+350℃、Msは、合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃))になるまで、中心部の平均冷却速度C1がC以上となるように合金鋼を冷却する冷却工程Aと、表面温度が温度Tf(但し、Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms。)になるまで、中心部の平均冷却速度C2がC1×0.8以上になるように合金鋼を冷却する冷却工程Bと、合金鋼を中間保持温度Tb(但し、Tf(℃)<Tb(℃)≦Ms+80℃)で保持する保持工程と、合金鋼の焼き戻しを行う焼き戻し工程とを備えた合金鋼の製造方法。
【選択図】図2
【解決手段】臨界冷却速度がC(℃/min)である合金鋼を、焼き入れ温度Ta(≧合金鋼のA1点(℃))に加熱する加熱工程と、表面温度が温度Ts(但し、Ms+100℃≦Ts(℃)≦Ms+350℃、Msは、合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃))になるまで、中心部の平均冷却速度C1がC以上となるように合金鋼を冷却する冷却工程Aと、表面温度が温度Tf(但し、Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms。)になるまで、中心部の平均冷却速度C2がC1×0.8以上になるように合金鋼を冷却する冷却工程Bと、合金鋼を中間保持温度Tb(但し、Tf(℃)<Tb(℃)≦Ms+80℃)で保持する保持工程と、合金鋼の焼き戻しを行う焼き戻し工程とを備えた合金鋼の製造方法。
【選択図】図2
Description
本発明は、合金鋼の製造方法に関し、さらに詳しくは、強度、靱性、及び、寸法精度が高い大断面の合金鋼(例えば、熱間ダイス鋼など)を製造することが可能な合金鋼の製造方法に関する。
熱間ダイス鋼は、高温における硬度、強度及び靱性に優れていることから、ダイカスト用の金型、熱間鍛造用の金型などの高温で使用される各種金型に用いられている。この種の金型は、一般に、焼きなまし状態で最終形状に近い形状まで機械加工を行い、焼き入れ・焼き戻しを行い、さらに表面を仕上げ加工することにより製造されている。
このような金型に使用される熱間ダイス鋼には、
(a) 使用中の負荷が大きいので、強度が高いこと、
(b) 金型を割れにくくし、耐久性を向上させるために、靱性が高いこと、
(c) 仕上げ加工の工数を少なくするために、焼き入れ後の変形量が少ないこと、
が必要である。
このような金型に使用される熱間ダイス鋼には、
(a) 使用中の負荷が大きいので、強度が高いこと、
(b) 金型を割れにくくし、耐久性を向上させるために、靱性が高いこと、
(c) 仕上げ加工の工数を少なくするために、焼き入れ後の変形量が少ないこと、
が必要である。
そのため、熱間ダイス鋼の焼き入れに関しては、一般に、
(1) 約500℃までの高温域では、粒界炭化物の過度な析出と、パーライト変態を回避する、
(2) 約500℃までの高温域では、熱変形を抑制するために、急冷を回避する、
(3) 約500℃以下の低温域では、急冷し、ベイナイト変態を低温で開始させる(好ましくは、マルテンサイト変態させる)、
(4) ベイナイト変態開始後も、新たに生成するベイナイト相を微細化するために、急冷を継続する、
ことが必要とされる。
例えば、特許文献1には、熱間ダイス鋼をオーステナイト化温度まで加熱し、約500℃までをベイナイト領域のノーズに向かう冷却速度で徐冷(ソフト冷却)し、約500℃以下をベイナイト領域のノーズを避ける冷却速度で急冷(ハード冷却)する熱間ダイス鋼からなる金型の焼き入れ法が開示されている。同文献には、このような方法によって、靱性が高く、かつ、熱歪みの少ない金型が得られる点が記載されている。
(1) 約500℃までの高温域では、粒界炭化物の過度な析出と、パーライト変態を回避する、
(2) 約500℃までの高温域では、熱変形を抑制するために、急冷を回避する、
(3) 約500℃以下の低温域では、急冷し、ベイナイト変態を低温で開始させる(好ましくは、マルテンサイト変態させる)、
(4) ベイナイト変態開始後も、新たに生成するベイナイト相を微細化するために、急冷を継続する、
ことが必要とされる。
例えば、特許文献1には、熱間ダイス鋼をオーステナイト化温度まで加熱し、約500℃までをベイナイト領域のノーズに向かう冷却速度で徐冷(ソフト冷却)し、約500℃以下をベイナイト領域のノーズを避ける冷却速度で急冷(ハード冷却)する熱間ダイス鋼からなる金型の焼き入れ法が開示されている。同文献には、このような方法によって、靱性が高く、かつ、熱歪みの少ない金型が得られる点が記載されている。
熱間ダイス鋼等の各種合金鋼において、「強靱化」と「変形量低減」とを両立させるためには、高温域を緩冷し、低温域を急冷する(すなわち、可能な限り低温で変態させる)ことが望ましい。しかしながら、大断面の型材においては、中心部の冷却速度が小さくなるので、従来の方法を用いた場合であっても、型材の中心部と内部の双方において、上記の4項目を同時に満たすことが困難となる。
例えば、大断面の型材にいおいて、強靱化を優先して低温域を急冷すると、表面と内部の温度差が大きくなり、型の変形量が増大する。そのため、仕上げ加工における手直し工数が増加し、コスト増加や納期遅延を招く。また、熱応力が著しく大きくなった場合には、型材が割れる場合もある。
一方、寸法精度向上を優先して低温域を緩冷すると、強度と靱性が低下し、型寿命が低する。また、処理時間が長くなるので、納期遅延やコスト増加も招く。
例えば、大断面の型材にいおいて、強靱化を優先して低温域を急冷すると、表面と内部の温度差が大きくなり、型の変形量が増大する。そのため、仕上げ加工における手直し工数が増加し、コスト増加や納期遅延を招く。また、熱応力が著しく大きくなった場合には、型材が割れる場合もある。
一方、寸法精度向上を優先して低温域を緩冷すると、強度と靱性が低下し、型寿命が低する。また、処理時間が長くなるので、納期遅延やコスト増加も招く。
本発明が解決しようとする課題は、強度、靱性、及び、寸法精度の高い合金鋼を製造することが可能な合金鋼の製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、大断面を有する型材であっても、強度、靱性、及び、寸法精度の高い合金鋼を製造することが可能な合金鋼の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、コスト増加や納期遅延を招くことなく、このような特性を有する合金鋼を製造することが可能な合金鋼の製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、大断面を有する型材であっても、強度、靱性、及び、寸法精度の高い合金鋼を製造することが可能な合金鋼の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、コスト増加や納期遅延を招くことなく、このような特性を有する合金鋼を製造することが可能な合金鋼の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明に係る合金鋼の製造方法は、
フェライト及び/又はパーライトが析出しない臨界冷却速度がC(℃/min)である合金鋼を、焼き入れ温度Ta(但し、Ta(℃)≧前記合金鋼のA1点(℃)。)に加熱する加熱工程と、
前記合金鋼の表面温度が温度Ts(但し、Ms+100℃≦Ts(℃)≦Ms+350℃、Msは、前記合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃)。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C1がC以上となるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Aと、
前記合金鋼の表面温度が温度Tf(但し、Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C2がC1×0.8以上になるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Bと、
前記合金鋼を、中間保持温度Tb(但し、Tf(℃)<Tb(℃)≦Ms+80℃)で保持する保持工程と、
前記合金鋼の焼き戻しを行う焼き戻し工程と
を備えていることを要旨とする。
フェライト及び/又はパーライトが析出しない臨界冷却速度がC(℃/min)である合金鋼を、焼き入れ温度Ta(但し、Ta(℃)≧前記合金鋼のA1点(℃)。)に加熱する加熱工程と、
前記合金鋼の表面温度が温度Ts(但し、Ms+100℃≦Ts(℃)≦Ms+350℃、Msは、前記合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃)。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C1がC以上となるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Aと、
前記合金鋼の表面温度が温度Tf(但し、Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C2がC1×0.8以上になるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Bと、
前記合金鋼を、中間保持温度Tb(但し、Tf(℃)<Tb(℃)≦Ms+80℃)で保持する保持工程と、
前記合金鋼の焼き戻しを行う焼き戻し工程と
を備えていることを要旨とする。
焼き入れ温度Taに加熱された合金鋼を焼き入れする場合において、温度Tsまでの高温域を臨界冷却速度以上の平均冷却速度C1で相対的に徐冷すると、フェライト及び/又はパーライトの析出を回避できると同時に、熱変形を最小限に抑制することができる。次いで、温度Tsから合金鋼を平均冷却速度C2で相対的に急冷すると、ベイナイト変態又はマルテンサイト変態が起こり、合金鋼が強靱化する。変態温度が低いほど、合金鋼は強靱となる。
この時、冷却を継続することなく、温度Tfで冷却を停止させると、中心から表面に向かって急速に熱が拡散する。その結果、中心部の冷却と表面の復熱が迅速となり、相対的に短時間で中心部と表面の温度差が縮小する。さらに、Tfより高くMsに近い中間保持温度Tbに保持すると、比較的に低温かつ断面内が均熱化された状態で変態が完了する。
そのため、合金鋼の変形を最低限に抑制することができる。また、中心部の変態が相対的に低温で開始するので、内部まで強靱化された合金鋼が得られる。
この時、冷却を継続することなく、温度Tfで冷却を停止させると、中心から表面に向かって急速に熱が拡散する。その結果、中心部の冷却と表面の復熱が迅速となり、相対的に短時間で中心部と表面の温度差が縮小する。さらに、Tfより高くMsに近い中間保持温度Tbに保持すると、比較的に低温かつ断面内が均熱化された状態で変態が完了する。
そのため、合金鋼の変形を最低限に抑制することができる。また、中心部の変態が相対的に低温で開始するので、内部まで強靱化された合金鋼が得られる。
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
本発明の第1の実施の形態に係る合金鋼の製造方法は、加熱工程と、冷却工程Aと、冷却工程Bと、焼き戻し工程とを備えている。
本発明の第1の実施の形態に係る合金鋼の製造方法は、加熱工程と、冷却工程Aと、冷却工程Bと、焼き戻し工程とを備えている。
加熱工程は、合金鋼を焼き入れ温度Taに加熱する工程である。
本発明において、「合金鋼」とは、臨界冷却速度がC(℃/min)である鋼(鉄合金)であって、不可避の不純物以外にも焼入れ性向上元素を有するものをいい、合金鋼に含まれる添加元素の種類及び量、並びに、臨界冷却速度Cの大きさは、特に限定されるものではない。また、「臨界冷却速度」とは、フェライト及び/又はパーライトが析出しない最小の冷却速度を言う。本発明に好適な合金鋼は、臨界冷却速度Cが30℃/min以下の鋼であり、このような合金鋼としては、具体的には、
(1) SKD61などの熱間ダイス鋼、
(2) SKD11などの冷間工具鋼、
(3) SKH51などの高速度工具鋼、
(4) SNCM39などの強靱鋼、
などがある。本発明は、これらのいずれの鋼種に対しても適用することができる。特に、工具や金型などに用いられる鋼に対して本発明を適用すると、高い効果が得られる。
本発明は、小断面の小型材にも当然に適用できるが、大断面の大型材に適用すると、高い効果が得られる。特に、その重量が150kg以上、200kg以上、あるいは、1000kg以上である大型材に対して本発明を適用すると、従来の方法では得られない高い強靱化と高い寸法精度が得られる。
本発明において、「合金鋼」とは、臨界冷却速度がC(℃/min)である鋼(鉄合金)であって、不可避の不純物以外にも焼入れ性向上元素を有するものをいい、合金鋼に含まれる添加元素の種類及び量、並びに、臨界冷却速度Cの大きさは、特に限定されるものではない。また、「臨界冷却速度」とは、フェライト及び/又はパーライトが析出しない最小の冷却速度を言う。本発明に好適な合金鋼は、臨界冷却速度Cが30℃/min以下の鋼であり、このような合金鋼としては、具体的には、
(1) SKD61などの熱間ダイス鋼、
(2) SKD11などの冷間工具鋼、
(3) SKH51などの高速度工具鋼、
(4) SNCM39などの強靱鋼、
などがある。本発明は、これらのいずれの鋼種に対しても適用することができる。特に、工具や金型などに用いられる鋼に対して本発明を適用すると、高い効果が得られる。
本発明は、小断面の小型材にも当然に適用できるが、大断面の大型材に適用すると、高い効果が得られる。特に、その重量が150kg以上、200kg以上、あるいは、1000kg以上である大型材に対して本発明を適用すると、従来の方法では得られない高い強靱化と高い寸法精度が得られる。
「焼き入れ温度Ta(℃)」とは、合金鋼がオーステナイト化する温度(すなわち、Ta(℃)≧合金鋼のA1点(℃))をいう。最適な焼き入れ温度Taは、一般に、合金鋼の組成によって異なる。例えば、熱間ダイス鋼の場合、A1点は、780℃〜830℃であるので、焼き入れ温度Taは、980℃〜1080℃が好ましい。
合金鋼の焼き入れ温度Taへの昇温方法は、特に限定されるものではなく、合金鋼の組成に応じて最適なものを選択すれば良い。例えば、焼き入れ温度Taが相対的に低い場合、あるいは、合金鋼の大きさが相対的に小さい場合、合金鋼をそのまま焼き入れ温度Taまで昇温すればよい。
また、例えば、焼き入れ温度Taが相対的に高い場合、あるいは、合金鋼の大きさが相対的に大きい場合、焼き入れ温度Taに長時間保持すると、オーステナイトの粒成長が起こる場合がある。従って、このような場合には、A1点直上まで徐加熱し、その温度で保持して温度を均一化した後、焼き入れ温度Taまで急加熱するのが好ましい。
合金鋼の焼き入れ温度Taへの昇温方法は、特に限定されるものではなく、合金鋼の組成に応じて最適なものを選択すれば良い。例えば、焼き入れ温度Taが相対的に低い場合、あるいは、合金鋼の大きさが相対的に小さい場合、合金鋼をそのまま焼き入れ温度Taまで昇温すればよい。
また、例えば、焼き入れ温度Taが相対的に高い場合、あるいは、合金鋼の大きさが相対的に大きい場合、焼き入れ温度Taに長時間保持すると、オーステナイトの粒成長が起こる場合がある。従って、このような場合には、A1点直上まで徐加熱し、その温度で保持して温度を均一化した後、焼き入れ温度Taまで急加熱するのが好ましい。
冷却工程Aは、合金鋼の表面温度が温度Tsになるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C1がC以上となるように合金鋼を冷却する工程である。
ここで、「温度Ts」とは、次の(1)式で表される温度をいう。
Ms+100℃≦Ts(℃)≦Ms+350℃ ・・・(1)
但し、Msは、合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃)。
温度Tsが相対的に低すぎる場合、冷却工程Bによる2段階目の強冷却を開始するまでに長時間を要するので、中心部だけでなく、表面においても相対的に高温で変態が起こるおそれがある。従って、温度Tsは、Ms+100℃以上が好ましく、さらに好ましくは、Ms+150℃以上である。一方、温度Tsが相対的に高すぎる場合、冷却工程Bによる2段階目の強冷却が相対的に広い温度区間に渡って行われることになるので、型材に割れや反りが生ずるおそれがある。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、温度Tsは、Ms+350℃以下が好ましく、さらに好ましくは、Ms+300℃以下である。
例えば、熱間ダイス鋼の場合、Msは、280℃〜330℃であるので、温度Tsは、380℃〜680℃が好ましく、さらに好ましくは、430℃〜630℃である。
ここで、「温度Ts」とは、次の(1)式で表される温度をいう。
Ms+100℃≦Ts(℃)≦Ms+350℃ ・・・(1)
但し、Msは、合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃)。
温度Tsが相対的に低すぎる場合、冷却工程Bによる2段階目の強冷却を開始するまでに長時間を要するので、中心部だけでなく、表面においても相対的に高温で変態が起こるおそれがある。従って、温度Tsは、Ms+100℃以上が好ましく、さらに好ましくは、Ms+150℃以上である。一方、温度Tsが相対的に高すぎる場合、冷却工程Bによる2段階目の強冷却が相対的に広い温度区間に渡って行われることになるので、型材に割れや反りが生ずるおそれがある。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、温度Tsは、Ms+350℃以下が好ましく、さらに好ましくは、Ms+300℃以下である。
例えば、熱間ダイス鋼の場合、Msは、280℃〜330℃であるので、温度Tsは、380℃〜680℃が好ましく、さらに好ましくは、430℃〜630℃である。
また、冷却工程Aにおける平均冷却速度C1が相対的に遅すぎる場合、特に中心部においてフェライト及び/又はパーライトが析出するおそれがある。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、中心部の平均冷却速度C1は、当然、C以上でなければならない。Cが5℃/min程度である熱間ダイス鋼SKD61の場合、7℃/min以上が好ましいC1の範囲となる。
一般に、中心部の平均冷却速度C1が速くなるほど、強度及び靱性に優れた合金鋼が得られる。しかしながら、中心部の平均冷却速度C1を速くするためには、それ以上に表面の冷却速度を速くする必要がある。その結果、表面と中心の温度差が大きくなり、合金鋼に変形や割れが発生するおそれがある。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、中心部の平均冷却速度C1は、30℃/min以下が好ましく、さらに好ましくは、20℃/min以下である。
なお、「平均冷却速度」とは、冷却開始温度と冷却終了温度の差を総冷却時間で除した値をいう。
一般に、中心部の平均冷却速度C1が速くなるほど、強度及び靱性に優れた合金鋼が得られる。しかしながら、中心部の平均冷却速度C1を速くするためには、それ以上に表面の冷却速度を速くする必要がある。その結果、表面と中心の温度差が大きくなり、合金鋼に変形や割れが発生するおそれがある。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、中心部の平均冷却速度C1は、30℃/min以下が好ましく、さらに好ましくは、20℃/min以下である。
なお、「平均冷却速度」とは、冷却開始温度と冷却終了温度の差を総冷却時間で除した値をいう。
冷却工程Aにおける合金鋼の冷却方法は、特に限定されるものではなく、中心部の平均冷却速度C1が上述した範囲内に収まるもの、すなわち、相対的に徐冷(弱冷却)することができるものであればよい。冷却方法としては、具体的には、空冷、衝風冷却、高温の液体中での冷却、真空中での放冷などがある。
なお、「相対的に徐冷(急冷)」とは、冷却速度の絶対値が小さい(大きい)ことではなく、ある温度域において冷却速度が相対的に遅い(速い)ことをいう。一般に、ある冷却方法を用いて合金鋼を冷却した場合、冷却速度は全温度区間に渡って一定になるわけではなく、通常は、高温域では冷却速度が速くなり、低温域では冷却速度が遅くなる。冷却工程Aにおいては、高温域における冷却速度が相対的に遅い冷却方法(弱冷却が可能な方法)を選択するのが好ましい。
また、ある冷却方法を用いた場合において、中心部の冷却速度が上述した範囲内に収まるか否かは、製品と同一寸法を有するモデル試験片に穴を開け、モデル試験片の中心部に熱電対を挿入し、冷却速度を実測することにより求めることができる。あるいは、数値シミュレーションによって、素材内部の温度推移を見積もっても良い。
なお、「相対的に徐冷(急冷)」とは、冷却速度の絶対値が小さい(大きい)ことではなく、ある温度域において冷却速度が相対的に遅い(速い)ことをいう。一般に、ある冷却方法を用いて合金鋼を冷却した場合、冷却速度は全温度区間に渡って一定になるわけではなく、通常は、高温域では冷却速度が速くなり、低温域では冷却速度が遅くなる。冷却工程Aにおいては、高温域における冷却速度が相対的に遅い冷却方法(弱冷却が可能な方法)を選択するのが好ましい。
また、ある冷却方法を用いた場合において、中心部の冷却速度が上述した範囲内に収まるか否かは、製品と同一寸法を有するモデル試験片に穴を開け、モデル試験片の中心部に熱電対を挿入し、冷却速度を実測することにより求めることができる。あるいは、数値シミュレーションによって、素材内部の温度推移を見積もっても良い。
冷却工程Bは、合金鋼の表面温度が温度Tfになるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C2がC1×0.8以上になるように、合金鋼を冷却する工程である。
ここで、「温度Tf」とは、次の(2)式で表される温度をいう。
Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms ・・・(2)
温度Tfが相対的に低すぎる場合、表面と中心の温度差が大きくなり、合金鋼に割れや変形が発生するおそれがある。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、温度Tfは、Ms−200℃以上が好ましく、さらに好ましくは、Ms−150℃以上である。
一方、温度Tfが相対的に高すぎる場合、合金鋼の中心部の冷却が不十分となる。その結果、中心部においては、相対的に高温でベイナイト変態が生じ、強度及び靱性が低下する。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、温度Tfは、Ms(℃)以下が好ましく、さらに好ましくは、Ms−50℃以下である。
例えば、熱間ダイス鋼の場合、Msは、280℃〜330℃であるので、温度Tfは、80〜330℃が好ましく、さらに好ましくは、130〜280℃である。
ここで、「温度Tf」とは、次の(2)式で表される温度をいう。
Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms ・・・(2)
温度Tfが相対的に低すぎる場合、表面と中心の温度差が大きくなり、合金鋼に割れや変形が発生するおそれがある。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、温度Tfは、Ms−200℃以上が好ましく、さらに好ましくは、Ms−150℃以上である。
一方、温度Tfが相対的に高すぎる場合、合金鋼の中心部の冷却が不十分となる。その結果、中心部においては、相対的に高温でベイナイト変態が生じ、強度及び靱性が低下する。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、温度Tfは、Ms(℃)以下が好ましく、さらに好ましくは、Ms−50℃以下である。
例えば、熱間ダイス鋼の場合、Msは、280℃〜330℃であるので、温度Tfは、80〜330℃が好ましく、さらに好ましくは、130〜280℃である。
冷却工程Bは、少なくとも冷却工程Aよりも冷却の強度を増す(すなわち、相対的に急冷する)必要がある。この温度区間を相対的に徐冷すると、合金鋼の中心部だけでなく表面も相対的に高い温度でベイナイト変態し、強度及び靱性が低下する。一般に、この温度区間の冷却速度が相対的に速くなるほど、強度及び靱性に優れた合金鋼が得られる。但し、素材中心部に関しては、冷却工程Bの方が冷却工程Aよりも冷却速度が大きくなるとは限らない点に注意が必要である。この理由は、一般に、温度が低下するほど冷却速度が小さくなるためであり、このような状況下でも中心部の冷却速度を相対的に大きくする目的で、冷却工程Bの冷却強度を冷却工程Aよりも強くするのである。この結果、温度Tsに到達して以降も冷却工程Aの冷却を継続した場合より、温度Tsから冷却工程Bに変更した方が中心部の冷却速度C2は大きくなるのである。従って、冷却工程Bにおける合金鋼の中心部の平均冷却速度C2は、冷却工程Aの平均冷却速度C1の0.8倍以上が好ましく、さらに好ましくは、1.2倍以上である。
冷却工程Bにおける合金鋼の冷却方法は、特に限定されるものではなく、中心部の冷却速度が上述した範囲内に収まるもの、すなわち、相対的に急冷(強冷却)することができるものであればよい。冷却方法としては、具体的には、油、水、水溶性焼入れ剤(ポリマー液)などを用いた冷却が挙げられる。
冷却工程Bにおける合金鋼の冷却方法は、特に限定されるものではなく、中心部の冷却速度が上述した範囲内に収まるもの、すなわち、相対的に急冷(強冷却)することができるものであればよい。冷却方法としては、具体的には、油、水、水溶性焼入れ剤(ポリマー液)などを用いた冷却が挙げられる。
保持工程は、合金鋼を中間保持温度Tbで保持する工程である。
ここで、「中間保持温度Tb」とは、次の(3)式で表される温度をいう。
Tf(℃)<Tb(℃)≦Ms+80℃ ・・・(3)
温度Tfまで冷却した後、さらに冷却を継続すると、表面と中心部の温度差が拡大し、合金鋼に割れや変形が発生しやすくなる。従って、中間保持温度Tbは、少なくとも温度Tfより高いことが好ましく、さらに好ましくは、Tf+50℃以上である。
一方、中間保持温度Tbが相対的に高すぎる場合、合金鋼の表面及び中心部において、相対的に高温でベイナイト変態が生じ、強度及び靱性が低下する。従って、中間保持温度Tbは、Ms+80℃以下が好ましく、さらに好ましくは、Ms+50℃以下である。
例えば、熱間ダイス鋼の場合、Msは、280℃〜330℃であるので、中間保持温度Tbは、80℃〜410℃が好ましく、さらに好ましくは、130〜380℃である。
ここで、「中間保持温度Tb」とは、次の(3)式で表される温度をいう。
Tf(℃)<Tb(℃)≦Ms+80℃ ・・・(3)
温度Tfまで冷却した後、さらに冷却を継続すると、表面と中心部の温度差が拡大し、合金鋼に割れや変形が発生しやすくなる。従って、中間保持温度Tbは、少なくとも温度Tfより高いことが好ましく、さらに好ましくは、Tf+50℃以上である。
一方、中間保持温度Tbが相対的に高すぎる場合、合金鋼の表面及び中心部において、相対的に高温でベイナイト変態が生じ、強度及び靱性が低下する。従って、中間保持温度Tbは、Ms+80℃以下が好ましく、さらに好ましくは、Ms+50℃以下である。
例えば、熱間ダイス鋼の場合、Msは、280℃〜330℃であるので、中間保持温度Tbは、80℃〜410℃が好ましく、さらに好ましくは、130〜380℃である。
中間保持温度Tbにおける保持時間(=炉内滞留時間)は、合金鋼の温度が均一化し、かつ、変態が完了する時間であれば良い。一般に、中間保持温度Tbにおける保持時間が長くなるほど、変態が進行しやすくなる。但し、必要以上の保持は、実益が無いだけでなく、製造コストの増大を招く。好適な保持時間は、合金鋼の組成、大きさ等により異なるが、1時間以上が好ましく、さらに好ましくは2時間以上、さらに好ましくは3時間以上である。
中間保持温度Tbにおける保持方法は、特に限定されるものではない。通常は、急冷後の合金鋼を所定の温度に加熱された炉内に挿入することにより行う。このとき、合金鋼の表面温度はTbに向かって上昇し、一方で中心温度はTbに向かって変化してゆく。この場合、保持は、大気中で行っても良く、あるいは、不活性ガス雰囲気下で行っても良い。
中間保持温度Tbにおける保持方法は、特に限定されるものではない。通常は、急冷後の合金鋼を所定の温度に加熱された炉内に挿入することにより行う。このとき、合金鋼の表面温度はTbに向かって上昇し、一方で中心温度はTbに向かって変化してゆく。この場合、保持は、大気中で行っても良く、あるいは、不活性ガス雰囲気下で行っても良い。
焼き戻し工程は、合金鋼の焼き戻しを行う工程である。
焼き戻しは、一般に、靱性を回復させるため、二次硬化させるため等の目的で行われる。また、残留オーステナイトがある場合、残留オーステナイトは、1回の焼き戻しで完全に分解せず、冷却中にマルテンサイト変態する場合がある。そのような場合には、焼き戻しを繰り返すのが好ましい。
焼き戻し条件は、特に限定されるものではなく、合金鋼の組成や目的に応じて最適な条件を選択する。例えば、上述の条件で熱処理した熱間ダイス鋼を焼き戻す場合、焼き戻し温度は、500℃〜650℃が好ましく、さらに好ましくは、560℃〜630℃である。
焼き戻しは、一般に、靱性を回復させるため、二次硬化させるため等の目的で行われる。また、残留オーステナイトがある場合、残留オーステナイトは、1回の焼き戻しで完全に分解せず、冷却中にマルテンサイト変態する場合がある。そのような場合には、焼き戻しを繰り返すのが好ましい。
焼き戻し条件は、特に限定されるものではなく、合金鋼の組成や目的に応じて最適な条件を選択する。例えば、上述の条件で熱処理した熱間ダイス鋼を焼き戻す場合、焼き戻し温度は、500℃〜650℃が好ましく、さらに好ましくは、560℃〜630℃である。
次に、本発明の第2の実施の形態に係る合金鋼の製造方法について説明する。
本実施の形態に係る合金鋼の製造方法は、加熱工程と、冷却工程Aと、冷却工程Bと、放冷工程と、保持工程と、焼き戻し工程とを備えている。これらの内、加熱工程、冷却工程A、冷却工程B及び焼き戻し工程については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
本実施の形態に係る合金鋼の製造方法は、加熱工程と、冷却工程Aと、冷却工程Bと、放冷工程と、保持工程と、焼き戻し工程とを備えている。これらの内、加熱工程、冷却工程A、冷却工程B及び焼き戻し工程については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
放冷工程は、合金鋼の相対的な急冷が終了した後、中間温度Tbで保持する前に、合金鋼を放冷し、合金鋼の表面温度を上昇させる工程である。
生産時間を短縮するためには、温度Tfまで相対的に急冷した後、直ちに中間保持温度Tbで保持するのが好ましい。しかしながら、中間保持温度Tbで保持する前に、合金鋼を室温で放冷しても良い。合金鋼を放冷すると、中心から表面に向かって熱が拡散し、表面の温度が上昇すると同時に、中心部の温度が急激に低下する。その結果、中心部と表面の温度差が相対的に短時間で縮小し、型材の割れや反りを抑制できる場合がある。但し、放冷時間が長くなりすぎると、やがて表面温度が冷却に転じ、中心部と表面の温度差が拡大するおそれがある。従って、放冷は、表面温度が冷却に転じる前に終了させ、中間温度Tbでの保持に移行するのが好ましい。
合金鋼を放冷した後、中間温度Tbに保持し、さらに所定の条件下で焼き戻しを行うと、所定の特性を有する合金鋼が得られる。
生産時間を短縮するためには、温度Tfまで相対的に急冷した後、直ちに中間保持温度Tbで保持するのが好ましい。しかしながら、中間保持温度Tbで保持する前に、合金鋼を室温で放冷しても良い。合金鋼を放冷すると、中心から表面に向かって熱が拡散し、表面の温度が上昇すると同時に、中心部の温度が急激に低下する。その結果、中心部と表面の温度差が相対的に短時間で縮小し、型材の割れや反りを抑制できる場合がある。但し、放冷時間が長くなりすぎると、やがて表面温度が冷却に転じ、中心部と表面の温度差が拡大するおそれがある。従って、放冷は、表面温度が冷却に転じる前に終了させ、中間温度Tbでの保持に移行するのが好ましい。
合金鋼を放冷した後、中間温度Tbに保持し、さらに所定の条件下で焼き戻しを行うと、所定の特性を有する合金鋼が得られる。
次に、本発明に係る合金鋼の製造方法の作用について説明する。
図1に、合金鋼の連続冷却変態図(CCT曲線)の一例を示す。一般に、合金鋼の焼き入れにおいて、高温域(例えば、熱間ダイス鋼の場合は、およそ500〜600℃までの温度域)では、粒界炭化物の過度な析出及びパーライト変態を回避することが望まれる。しかしながら、実際には、炭化物の粒界析出による靱性の低下は顕著でない場合が多く、パーライト変態の回避が最重要となる。従って、高温域においては、合金鋼の温度がパーライト変態開始温度(Ps線)に達しない限り、比較的ゆっくりとした冷却でよい。むしろ、高温域を徐冷した方が、型材の変形を抑制することができる。
図1に、合金鋼の連続冷却変態図(CCT曲線)の一例を示す。一般に、合金鋼の焼き入れにおいて、高温域(例えば、熱間ダイス鋼の場合は、およそ500〜600℃までの温度域)では、粒界炭化物の過度な析出及びパーライト変態を回避することが望まれる。しかしながら、実際には、炭化物の粒界析出による靱性の低下は顕著でない場合が多く、パーライト変態の回避が最重要となる。従って、高温域においては、合金鋼の温度がパーライト変態開始温度(Ps線)に達しない限り、比較的ゆっくりとした冷却でよい。むしろ、高温域を徐冷した方が、型材の変形を抑制することができる。
これに対し、低温域(例えば、熱間ダイス鋼の場合は、およそ500〜600℃以下の温度域)の冷却速度は、合金鋼の機械的特性に与える影響が大きい。一般に、低温域の冷却速度が速くなるほど、合金鋼を強靱化することができる。強靱化のためには、図1のa線に示すように、合金鋼の温度がマルテンサイト変態開始温度(Ms線)以下となるように、低温域を急冷するのが好ましい。しかしながら、低温域を急冷すると、型材の大きさが大きくなるほど変形量は増大する。
一方、図1のb線に示すように、低温域を徐冷すると、相対的に大きな型材であっても、変形量を最小限に抑制することができる。しかしながら、低温域を徐冷すると、合金鋼は、相対的に高い温度域において、ベイナイト変態開始温度(Bs線)に達する。そのため、合金鋼の強度及び靱性が低下する。
従って、相対的に大きな型材を焼き入れする場合において、強靱化と高寸法精度を両立させるためには、図1のc線に示すように、低温域を適度な冷却速度で急冷し、相対的に低温においてベイナイト変態させることが望ましい。
一方、図1のb線に示すように、低温域を徐冷すると、相対的に大きな型材であっても、変形量を最小限に抑制することができる。しかしながら、低温域を徐冷すると、合金鋼は、相対的に高い温度域において、ベイナイト変態開始温度(Bs線)に達する。そのため、合金鋼の強度及び靱性が低下する。
従って、相対的に大きな型材を焼き入れする場合において、強靱化と高寸法精度を両立させるためには、図1のc線に示すように、低温域を適度な冷却速度で急冷し、相対的に低温においてベイナイト変態させることが望ましい。
しかしながら、上述した2段階の熱処理方法であっても、型材の大きさがさらに大きくなると、強靱化と高寸法精度の両立が困難となる。図2に、大型材のCCT曲線の一例を示す。
例えば、図2(a)に示すように、大型材を焼き入れ温度Taに加熱した後、高温域を徐令し、低温域を急冷した場合、型材の表面温度が温度Tsに達した時点で、既に表面と中心部において相対的に大きな温度差が発生する。この状態から急冷すると、表面温度は、短時間でMs以下となる。また、中心部も急激に冷却され、相対的に低い温度Bs1でベイナイト変態を開始する。そのため、短時間で熱処理が終了し、強度及び靱性に優れた合金鋼が得られる。しかしながら、急冷によって表面と中心部の温度差が拡大するので、型材の変形量が増大する。また、温度差が著しく大きくなったときには、型材が割れる場合もある。変形量の増大や割れの発生は、仕上げ加工等の手直し工数を増加させ、コスト増加と納期遅延の原因となる。
例えば、図2(a)に示すように、大型材を焼き入れ温度Taに加熱した後、高温域を徐令し、低温域を急冷した場合、型材の表面温度が温度Tsに達した時点で、既に表面と中心部において相対的に大きな温度差が発生する。この状態から急冷すると、表面温度は、短時間でMs以下となる。また、中心部も急激に冷却され、相対的に低い温度Bs1でベイナイト変態を開始する。そのため、短時間で熱処理が終了し、強度及び靱性に優れた合金鋼が得られる。しかしながら、急冷によって表面と中心部の温度差が拡大するので、型材の変形量が増大する。また、温度差が著しく大きくなったときには、型材が割れる場合もある。変形量の増大や割れの発生は、仕上げ加工等の手直し工数を増加させ、コスト増加と納期遅延の原因となる。
一方、図2(b)に示すように、高温域を徐令した後、直ちにTb(℃)の炉内に型材を挿入して低温域を緩冷した場合、低温域においても表面と中心部の温度差の拡大が抑制されるので、寸法精度の高い型材が得られる。この場合、炉内温度Tb(℃)がMs点より高い場合であっても、炉内温度Tb(℃)が適切であれば、表面は、相対的に低い温度Bs4でベイナイト変態を開始する。しかしながら、中心部は、冷却速度が遅いので、相対的に高い温度Bs2(>Bs1)でベイナイト変態を開始する。そのため、型材の強度及び靱性が低下する。また、処理時間も長時間を要するので、作業効率が低下する。
これに対し、図2(c)に示すように、型材を焼き入れ温度Taに保持し、温度Tsまで徐冷した後、急冷する場合において、表面温度がMs点以下となるように、急冷時の冷却速度と温度Tfを最適化すると、表面及び中心部の温度を急激に低下させることができる。次いで、急冷を終了させ、型材を中間保持温度Tb(℃)で保持すると、急冷された表面によって中心部の熱が急速に奪われる。そのため、中心部において、温度が急速に低下し、相対的に低い温度Bs3(Bs1<Bs3<Bs2)でベイナイト変態を開始する。その結果、強靱性に優れた型材が得られる。
また、急冷終了後、中間保持温度Tb(℃)に保持することによって、表面と中心の温度差が急速に縮小する。その結果、寸法精度の高い型材が得られる。また、処理時間の大幅な延長が抑制されるので、製造コストの増大を抑制することができる。
また、急冷終了後、中間保持温度Tb(℃)に保持することによって、表面と中心の温度差が急速に縮小する。その結果、寸法精度の高い型材が得られる。また、処理時間の大幅な延長が抑制されるので、製造コストの増大を抑制することができる。
(実施例1、比較例1〜8)
[1. 試料の作製]
熱間ダイス鋼SKD61のブロック材を重量530kgの金型に加工し、種々の条件下で焼入れを行った。表1に、各試料の焼入れ条件を示す。焼入れ後、595〜615℃の温度域で1hr保持する焼戻し工程を2回繰り返し、硬さをHRC45に調整した。
なお、SKD61の臨界冷却速度(パーライト析出)は、5℃/minであるが、いずれの試料も焼入れ初期における金型中心部の冷却速度は7℃/minを超えていた。実際に、焼戻し後の金型内部において、パーライトの析出は全く観察されなかった。
[2. 試験方法]
調査項目は、以下の通りである。
(1) 焼入れ工程における処理開始から終了までの所要時間(処理時間)。
(2) 焼戻し後(HRC45に調整後)の反り(=100×d/650。d(mm)は、所定の形状を有する試験片を焼入れ・焼戻ししたときに生ずる、水平面から試験片の底面までの最大距離(図3参照)である)。
(3) 焼戻し後の割れの有無。
(4) 焼戻し後の金型中心部から切り出した試験片の衝撃値(JIS3号試験片を使用)。
[1. 試料の作製]
熱間ダイス鋼SKD61のブロック材を重量530kgの金型に加工し、種々の条件下で焼入れを行った。表1に、各試料の焼入れ条件を示す。焼入れ後、595〜615℃の温度域で1hr保持する焼戻し工程を2回繰り返し、硬さをHRC45に調整した。
なお、SKD61の臨界冷却速度(パーライト析出)は、5℃/minであるが、いずれの試料も焼入れ初期における金型中心部の冷却速度は7℃/minを超えていた。実際に、焼戻し後の金型内部において、パーライトの析出は全く観察されなかった。
[2. 試験方法]
調査項目は、以下の通りである。
(1) 焼入れ工程における処理開始から終了までの所要時間(処理時間)。
(2) 焼戻し後(HRC45に調整後)の反り(=100×d/650。d(mm)は、所定の形状を有する試験片を焼入れ・焼戻ししたときに生ずる、水平面から試験片の底面までの最大距離(図3参照)である)。
(3) 焼戻し後の割れの有無。
(4) 焼戻し後の金型中心部から切り出した試験片の衝撃値(JIS3号試験片を使用)。
[3. 評価]
表2に、各試料の試験結果を示す。比較例1は、2段階目の強冷却を開始する温度Tsが高すぎるために、反りが大きく、割れも発生した。これは、2段階目の強冷却を行う温度範囲が広すぎるために、相対的に大きな熱応力が発生したためである。一方、比較例2は、2段階目の強冷却を開始する温度Tsが低すぎるために、処理時間が長くなり、衝撃値も低下した。衝撃値が低下したのは、中心部において相対的に高温でベイナイト変態が生じたためである。
比較例3は、2段階目の強冷却を終了する温度TfがMs点より高いために、衝撃値が低下した。これは、中心部において相対的に高温でベイナイト変態が生じたためである。一方、比較例4は、2段階目の強冷却を終了する温度Tfが低すぎるために、大きな反りが発生した。これは、2段階目の強冷却において表面と内部の温度差が拡大したためである。
比較例5は、中間保持温度Tbが高すぎるために、反りが大きく、衝撃値も低下した。比較例6は、2段階目の強冷却を終了する温度Tfが低く、かつ、中間保持温度Tbも低いために、大きな反りが発生した。比較例7は、1段階目の弱冷却を終了した後、直ちに炉内挿入を行っているので、処理時間が長くなり、衝撃値も低下した。さらに、比較例8は、中間保持温度での保持を行っていないので、処理時間は最短であり、衝撃値も高いが、反りが大きく、割れも発生した。
表2に、各試料の試験結果を示す。比較例1は、2段階目の強冷却を開始する温度Tsが高すぎるために、反りが大きく、割れも発生した。これは、2段階目の強冷却を行う温度範囲が広すぎるために、相対的に大きな熱応力が発生したためである。一方、比較例2は、2段階目の強冷却を開始する温度Tsが低すぎるために、処理時間が長くなり、衝撃値も低下した。衝撃値が低下したのは、中心部において相対的に高温でベイナイト変態が生じたためである。
比較例3は、2段階目の強冷却を終了する温度TfがMs点より高いために、衝撃値が低下した。これは、中心部において相対的に高温でベイナイト変態が生じたためである。一方、比較例4は、2段階目の強冷却を終了する温度Tfが低すぎるために、大きな反りが発生した。これは、2段階目の強冷却において表面と内部の温度差が拡大したためである。
比較例5は、中間保持温度Tbが高すぎるために、反りが大きく、衝撃値も低下した。比較例6は、2段階目の強冷却を終了する温度Tfが低く、かつ、中間保持温度Tbも低いために、大きな反りが発生した。比較例7は、1段階目の弱冷却を終了した後、直ちに炉内挿入を行っているので、処理時間が長くなり、衝撃値も低下した。さらに、比較例8は、中間保持温度での保持を行っていないので、処理時間は最短であり、衝撃値も高いが、反りが大きく、割れも発生した。
これに対し、実施例1は、適切な条件下で冷却強度の異なる2段階の焼入れ及び中間保持が行われているので、処理時間が相対的に短く、反りが小さく、割れが無く、しかも、高い衝撃値が得られた。
本発明は、合金鋼の特性を最大限に活用した焼入れ方法であり、靱性と寸法精度がともに高い金型を短時間で製造できることが特徴である。この結果、金型作製期間の短縮、金型の低廉化、金型寿命の延長が達成され、鍛造やダイカストの生産性向上に寄与できると同時に、環境負荷低減にも貢献できる。
本発明は、合金鋼の特性を最大限に活用した焼入れ方法であり、靱性と寸法精度がともに高い金型を短時間で製造できることが特徴である。この結果、金型作製期間の短縮、金型の低廉化、金型寿命の延長が達成され、鍛造やダイカストの生産性向上に寄与できると同時に、環境負荷低減にも貢献できる。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係る合金鋼の製造方法は、熱間ダイス鋼等の合金鋼からなる大断面の型材の熱処理方法として使用することができる。
Claims (7)
- フェライト及び/又はパーライトが析出しない臨界冷却速度がC(℃/min)である合金鋼を、焼き入れ温度Ta(但し、Ta(℃)≧前記合金鋼のA1点(℃)。)に加熱する加熱工程と、
前記合金鋼の表面温度が温度Ts(但し、Ms+100℃≦Ts(℃)≦Ms+350℃、Msは、前記合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃)。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C1がC以上となるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Aと、
前記合金鋼の表面温度が温度Tf(但し、Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C2がC1×0.8以上になるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Bと、
前記合金鋼を、中間保持温度Tb(但し、Tf(℃)<Tb(℃)≦Ms+80℃)で保持する保持工程と、
前記合金鋼の焼き戻しを行う焼き戻し工程と
を備えた合金鋼の製造方法。 - 前記冷却工程Aは、前記中心部の冷却速度C1がC以上30℃/min以下である請求項1に記載の合金鋼の製造方法。
- 前記冷却工程Bの平均冷却速度C2は、C1×1.2以上である請求項1又は2に記載の合金鋼の製造方法。
- 前記保持工程は、前記中間保持温度Tbにおける保持時間が1時間以上である請求項1から3までのいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
- 前記保持工程の前に、前記合金鋼を放冷し、前記合金鋼の表面温度を上昇させる放冷工程をさらに備えた請求項1から4までのいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
- 前記合金鋼は、その重量が150kg以上である請求項1から5までのいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
- 前記合金鋼は、工具又は金型に用いられる鋼である請求項1から6までのいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
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- 2006-01-19 JP JP2006011631A patent/JP2007191759A/ja active Pending
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