JP5093010B2 - 熱間加工用金型 - Google Patents

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本発明は、熱間加工用金型に関する。より詳しくは、工具寿命に優れた熱間加工用金型、なかでも、クランクシャフトなど比較的サイズの大きい機械加工部品を成形するための熱間鍛造用金型、熱間押し出し金型などとして用いられる、耐摩耗性と耐ヒートクラック性の双方を備え、優れた工具寿命を有する熱間加工用金型に関する。
棒鋼など素材となる鋼材を、熱間鍛造、熱間押し出しなどによってクランクシャフトなどの機械加工部品形状に成形するために使用される熱間加工用金型は、成形加工の際の加熱と冷却に伴う熱応力によって、その表面にヒートクラックが発生し、このヒートクラックが進展して割れが生じると、寿命がつきることとなる。
また、熱間加工用金型の表面には上記の熱応力に加え、被加工材との摩擦に伴って塑性流動が生じ、これが、上記のヒートクラックの発生と相まって、金型の表面が剥離するなど摩耗が発生し、摩耗が大きくなることによって、金型の寿命がつきる場合もある。
従来、熱間加工用金型は、生地(母材)の高温強度、軟化抵抗、靱性などを向上させるための適切な熱処理を施された後、所望の形状に機械加工され、さらに、その後、特に耐摩耗性を向上させるために、被加工材と接する面(以下、「型表面」ともいう。)に窒化処理を施して製造されてきた。
すなわち、従来は、金型の表面層に窒素を拡散させ、表面層を硬化させることで型表面における塑性流動を抑止し、耐摩耗性を高めることを目的に型表面に窒化処理が施されてきた。
しかしながら、窒化層の延性は低いので、型表面を窒化処理した場合には熱応力によるヒートクラックが発生しやすいという問題があった。
そこで、上記の問題を解決するための技術が、例えば、特許文献1〜5に開示されている。
具体的には、特許文献1に、繰返し窒化処理を行った場合に表面硬さが高く、硬化深さの深い窒化層が得られるSiおよびAlの含有量が少ない「熱間工具鋼」が開示されている。
特許文献2に、金型材に対して窒化処理を行った後に、高周波加熱、ソルト浴による加熱などによって、表面の加熱を行い、マルテンサイト変態の臨界冷却速度以上30℃/sec以下の冷却速度にてマルテンサイト変態開始温度以下まで冷却し、表面の窒素化合物を減少ないしは消失させ、かつ内部に窒素を拡散・固溶させ、表面硬化層を窒化処理単独に比べて深くする「金型の表面硬化熱処理方法」が開示されている。
特許文献3に、金属材料表面にグロー放電によるイオン窒化を行って窒化層を形成した後、400〜900℃に加熱処理する「金属材料の表面硬化方法」が開示されている。
特許文献4に、特定量のC、Si、Mn、Crなどの合金元素の含有量を調整したうえで、窒化層の表面から25μm内部での硬さがビッカース硬さで800以下であり、さらに硬化層の深さが100μm以下である「耐ヒートクラック性にすぐれる熱間加工用金型」が開示されている。
特許文献5に、鋼材表面に、一定温度で一定時間の窒化処理を行い、窒化層を形成させた後、さらに一定温度で一定時間の酸化処理を行い、鋼材表面の所定部の全域を均一な酸化皮膜により被覆し、鋼材に耐溶損性を付与する「鋼材表面の改質方法」が開示されている。
特開平10−121195号公報 特開平7−138733号公報 特開昭61−76659号公報 特開平6−88166号公報 特開2003−13199号公報
前述の特許文献1で開示された技術は、表面硬さが高く、硬化深さの深い窒化層を得ることができるものであるが、熱間加工用金型の素材として使用した場合には、窒化層の表面硬さが高くなりすぎて延性が極端に低下し、このため、熱応力によって大きなヒートクラックが発生しやすくなって、必ずしも熱間加工用金型としての工具寿命を延ばすことができるものではなかった。
特許文献2で開示された技術は、窒化処理後に高周波加熱、ソルト浴による加熱などによってオーステナイト単相域まで急速加熱した後に急速冷却するため、加熱・冷却処理に伴う歪みが大きくなる。また、クランクシャフトなど比較的サイズの大きい機械加工部品を成形するための熱間加工用金型の場合、その金型自体のサイズも大きくする必要があって、型表面が複雑な形状となるため、高周波加熱などによって急速加熱処理すると金型の変形が大きくなるとともに、部位によって加熱ムラが生じてしまう。したがって、特許文献2で開示された表面硬化熱処理方法は、クランクシャフトなどの大型機械部品を成形するための熱間加工用金型に対しては適用し難い技術であった。
特許文献3で開示された技術は、金型としての寿命特性、窒化層の硬さ分布などに多大な影響を与える金属材料の化学組成についての考慮がなされておらず、単に、処理前よりもさらに高い硬さを狙ってイオン窒化処理後に再加熱するものである。このため、窒化層の表面硬さが高い場合に熱間加工用金型に適用すればヒートクラックが発生しやすくなって、必ずしも工具寿命を延ばすことができるものではなかった。
特許文献4で開示された熱間加工用金型は、窒化層の表面から25μm内部での硬さがビッカース硬さで800以下、さらに硬化層の深さが100μm以下に調整されているため、ヒートクラックの発生を抑制することができるが、硬化深さが浅いために十分な耐摩耗性を確保することができなかった。しかも、高い量のCrを含有する鋼の場合、より深い硬化深さを得ようとすれば、必然的に表層硬さが高くなってしまうので、耐ヒートクラック性を高めることができなかった。
特許文献5で開示された技術の場合も、金型としての寿命特性、窒化層の硬さ分布などに多大な影響を与える鋼材の化学組成についての考慮がなされておらず、また、窒化層の硬さプロファイルも適正化されていないものであって、単に、鋼材に耐溶損性を具備させるために、鋼材表面に窒化層を形成させた後、酸化処理を行って酸化膜を表面に一様に形成させるものである。このため、熱間加工用金型に適用した場合には、必ずしも工具寿命を延ばすことができるというものではなかった。
上記の様に、これまでに提案された技術は、特にクランクシャフトなど比較的サイズの大きい機械加工部品を成形するための熱間加工用金型に対して耐摩耗性と耐ヒートクラック性の双方を高め、その工具寿命を向上させるには不十分であった。
そこで、本発明は、型表面に窒化処理を施しても、耐摩耗性と耐ヒートクラック性の双方を備えるために優れた工具寿命を有し、クランクシャフトなど比較的サイズの大きい機械加工部品を成形するための金型として用いることができる熱間加工用金型を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記した課題を解決するために、種々の化学組成を有する鋼を生地として様々な条件で窒化処理を施し、窒化層の硬さ分布および生地となる鋼の化学組成と熱間加工用金型の寿命との関係について調査した。その結果、下記(a)および(b)の事項を確認するとともに、(c)〜(h)の知見を得た。
(a)金型の耐摩耗性を向上させるには、より硬化深さの深い窒化層を形成させる必要がある。
(b)一方、窒化層の延性は極端に低いため、硬さが高くなりすぎた場合、熱応力に伴って型表面に大きなヒートクラックが発生し、熱間加工用金型として使用した場合に、型割れが起こるので工具寿命を延ばすことはできない。
(c)熱間加工用の金型として望まれるべき窒化層としては、耐摩耗性を向上するためにより深い硬化深さを有する窒化層としながらも、窒化層にヒートクラックが発生し難いように、適正な表面硬さに調整する必要がある。
(d)生地の特性として、焼入れ焼戻し後の強度と靱性に優れることが必要である。特に、クランクシャフトなど比較的サイズの大きい機械加工部品の成形に使用される熱間加工用金型は、それ自体のサイズも大きくなることから、生地の化学組成は、靱性を確保するために先ず、焼入れ性が高いものとし、次いで、それぞれの使用用途に応じた機械的特性が確保できるように調整する必要がある。
(e)サイズの大きな金型の場合、生地の鋼に、Mn、Cr、Mo、Niなどの合金元素を多量に含有させることによって、高い焼入れ性を確保することができるが、近年、特にNiやWなどの原材料価格が高騰しているため、NiやWを多量に含有させると、急激なコストアップに繋がってしまう。したがって、焼入れ性の確保のために十分な量のCrを含有し、高価な合金元素であるNiおよびWは非添加とし、他のMoやVについても目標とする機械的特性が得られる範囲で、できる限り低減させた鋼を生地に用いてコストを低く抑えるのがよい。
(f)Cr含有量の高い鋼に窒化処理を施すと、窒化処理中の窒素の拡散に伴ってCrNが析出し、この析出物の分布状態によって窒化層の硬さ分布が決定されることとなる。具体的には、窒化の過程においてCrNの析出を伴いながら窒化層が硬化するため、表面付近の硬さがビッカース硬さ(以下、「Hv硬さ」ともいう。)で1000程度まで高くなりながら、硬化深さを増していく。そのため、より硬化深さの深い窒化層を得ようとすれば、表面硬さは必然的に高くなってしまう。逆に言えば、生地の化学組成を、熱間加工用金型としての機械的特性を満足しうるように調整した場合、窒化層の表面硬さを高くすることなく硬化深さを大きくすることは実質的に困難である。
(g)CrNの存在状態によって窒化層の硬さや機械的特性が決定されることから、窒化処理時の温度を高く設定すると、比較的低い硬さで硬化深さの深い窒化層を得ることができる。しかしながら、その場合、高温での長時間処理となることから、生地の強度を確保することは困難である。
(h)生地の化学組成を厳正に調整したうえで窒化処理し、適正な温度範囲で再加熱処理すれば、生地と窒化層の双方ともに適正な特性、すなわち、生地に対しては大きな強度を、また、窒化層に対しては耐摩耗性と耐ヒートクラック性を、具備させることが可能で、これによって、熱間加工用金型の工具寿命を延ばすことができる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(5)に示す熱間加工用金型にある。
(1)生地が、C:0.30%以上0.50%未満、Si:0.10〜0.5%、Mn:0.30〜1.0%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Cr:4.0〜8.0%、Mo:0.2%以上1.5%未満、V:0.05〜1.0%、Al:0.03%以下、N:0.0150%以下およびO:0.0030%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物としてのNiおよびWがいずれも0.7%未満の化学組成および900MPa以上の引張強度を有する熱間加工用金型であって、少なくとも被加工材と接する面に硬化深さが200μmを超える窒化層を備えるとともに、前記窒化層の深さが30μm以上の位置での硬さがビッカース硬さで900以下であることを特徴とする熱間加工用金型。
ただし、「硬化深さ」とは、表面から、生地の硬さより10%以上硬さが高い位置に至るまでの距離を指す。
(2)生地の化学組成が、質量%で、さらに、Nb:0.10%以下およびTi:0.30%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする上記(1)に記載の熱間加工用金型。
(3)生地の化学組成が、質量%で、さらに、B:0.020%以下を含有するものであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の熱間加工用金型。
(4)生地の化学組成が、質量%で、さらに、Ca:0.0050%以下を含有するものであることを特徴とする上記(1)から(3)までのいずれかに記載の熱間加工用金型。
(5)生地の引張強度が1000MPa以上であることを特徴とする上記(1)から(4)までのいずれかに記載の熱間加工用金型。
本発明の熱間加工用金型は、耐摩耗性と耐ヒートクラック性の双方を備え、優れた工具寿命を有しているので、クランクシャフトなど比較的サイズの大きい機械加工部品を成形するための熱間鍛造用金型、熱間押し出し金型などとして用いることができる。しかも、本発明の熱間加工用金型は、熱間加工用金型として適正な機械的性質を有しながらも高価な合金元素であるNiおよびWが非添加という低廉な鋼を生地とするものであるため、コストの低減を実現することもできる。
本発明において、生地の化学組成および引張強度、ならびに窒化層を上述のように規定した理由について、以下に詳述する。なお、各成分元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)生地
(A−1)化学組成
C:0.30%以上0.50%未満
Cは、熱間加工用金型に優れた焼入れ性を付与するとともに、炭化物を形成して生地の焼戻し後の強度、耐摩耗性および軟化抵抗を高める作用を有し、0.30%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cの含有量が多くなって、特に0.50%以上になると、析出する炭化物のサイズが極めて大きくなって、生地の靱性が低下してしまう。したがって、Cの含有量を0.30%以上0.50%未満とした。
なお、C含有量の望ましい下限は0.35%であり、また、望ましい上限は0.45%である。
Si:0.10〜0.5%
Siは、脱酸作用を有する。なお、同じ脱酸元素であるAlとは異なって、Siの場合には、粗大な酸化物の生成が抑制されるので、靱性の劣化を抑止することができる。Siには、金型を所定の形状に仕上げるための被削性を改善する作用もある。これらの効果は、Siの含有量が0.10%以上で得られる。しかしながら、Siは鋼の熱伝導率を下げるので、熱間加工中の型表面の軟化を早め、このために、耐摩耗性の低下をきたし、特に、Siの含有量が0.5%を超えると、耐摩耗性の低下が著しくなる。したがって、Siの含有量を0.10〜0.5%とした。
なお、Si含有量の望ましい下限は0.25%であり、また、望ましい上限は0.40%である。
Mn:0.30〜1.0%
Mnは、焼入れ性を向上させて、金型の生地の靱性を高める作用を有するので、0.30%以上含有させる。しかしながら、Mnの含有量が多くなると、金型を所定の形状に加工する際の被削性の低下をきたし、特に、Mnの含有量が1.0%を超えると、被削性の低下が著しくなる。したがって、Mnの含有量を0.30〜1.0%とした。
なお、Mn含有量の下限は0.4%とすることが望ましく、また、上限は0.8%とすることが望ましい。
P:0.02%以下
Pは、金型の生地の靱性および耐ヒートクラック性を低下させ、特に、その含有量が0.02%を超えると、生地の靱性および耐ヒートクラック性の低下が著しくなって、熱間加工用金型の工具寿命を短くしてしまう。したがって、Pの含有量を0.02%以下とした。なお、Pの含有量は0.01%以下とすることが好ましい。
S:0.005%以下
Sも、金型の生地の靱性および耐ヒートクラック性を低下させて型割れを誘発し、特に、その含有量が0.005%を超えると、生地の靱性および耐ヒートクラック性の低下が著しくなって、熱間加工用金型の工具寿命が短くなってししまう。したがって、Sの含有量を0.005%以下とした。なお、Sの含有量は0.003%以下とすることが好ましい。
Cr:4.0〜8.0%
Crは、本発明の熱間加工用金型において極めて重要な元素の一つである。すなわち、Crは、焼入れ性を高めて、強度、高温強度、靱性および軟化抵抗といった生地の基本特性に大きな影響を及ぼすとともに、窒化層の特性にも大きな影響を及ぼす。なお、クランクシャフトなど比較的サイズの大きい機械加工部品を成形するための金型は、それ自体のサイズも大きいものが多いので、高い焼入れ性が必要となる。
Cr含有量を低下させた場合の焼入れ性の低下は、NiやWを含有させることによって補うことができるが、近年、特にNiやWなど合金元素の価格が高騰しているため、これらの元素を積極的に多量に含有させると、急激なコストアップに繋がってしまう。このため、本発明の熱間加工用金型においては、原料コストの低減という観点から、高価な合金元素であるNiおよびWは非添加とし、MoやVについても熱間金型として所望の機械的特性を確保できる最低限の含有量にとどめることとする。つまり、特に、NiおよびWは積極的に含有させることなく、むしろCrの含有量を高めることによって焼入れ性を確保するものとする。
Crの含有量が4.0%未満の場合には、例えば、400〜580℃の温度域の温度T1(℃)で窒化処理することによって、次の(B)項で述べる窒化層の条件のうちで、200μmを超える硬化深さを有する窒化層を、少なくとも被加工材と接する面である「型表面」に容易に備えさせることができる。しかも、上記のCrの含有量が4.0%未満の場合には、窒化層の最高硬さが上昇し難いので、深さが30μm以上の位置での硬さがHv硬さで900以下という、(B)項で述べる窒化層の条件を満足させることも可能である。しかしながら、Crの含有量が4.0%未満の場合には、焼入れ性が低い。したがって、クランクシャフトなど比較的サイズの大きい機械加工部品を成形するための熱間加工用金型に適用した場合には、生地の靱性が低下するので、生地が割れやすくなり、その分工具寿命が短くなることを避けることができない。
一方、Crの含有量が8.0%を超える場合には、窒化層の硬さは高くなりやすいもの、窒化深さが深くなりにくく、上記の200μmを超える硬化深さを有する窒化層を「型表面」に備えさせるためには、上記の温度T1(℃)で長時間窒化処理することが必要となる。しかも、表層硬さは、Hv硬さで1200程度にまで上昇してしまう。したがって、耐ヒートクラック性と耐摩耗性の双方を得るために、深さが30μm以上の位置での硬さがHv硬さで900以下という窒化層の条件を満足させるには、前記T1(℃)以上であって、しかも、生地のA1変態点を超えない温度T2(℃)で、長時間に及ぶ処理が必要となる。加えて、8.0%を超える量の高いCrを含有する場合には、軟化抵抗が小さいために生地の強度が低下するので、熱間加工用金型の生地自体が摩耗しやすくなることから工具寿命が短くなることを避けることができない。
したがって、Crの含有量を4.0〜8.0%とした。なお、Cr含有量の下限は4.5%とすることが望ましく、また、上限は5.5%とすることが望ましい。
Mo:0.2%以上1.5%未満
Moは、生地の焼入れ性を高めるとともに、微細な炭化物を形成して軟化抵抗や高温強度を向上させる作用を有するため、熱間加工用金型として適正な機械性質を得るために必須の元素である。しかしながら、Moは高価な合金原料でありコストが嵩むので、その含有量はむやみに高めてはならず、0.2%以上の範囲で含有させるのがよい。一方、1.5%以上の量のMoを含有させてもコストが嵩むばかりである。このため、Moの含有量を0.2%以上1.5%未満とした。
なお、Mo含有量の望ましい下限は0.4%であり、また、望ましい上限は1.0%である。
V:0.05〜1.0%
Vは、本発明の熱間加工用金型において極めて重要な元素の一つである。すなわち、Vは、微細な炭化物を形成して、生地の基本特性である軟化抵抗および高温強度を高める作用を有し、しかも、窒化層の硬さ分布や軟化抵抗にも影響を及ぼす。
しかしながら、Vの含有量が0.05%未満の場合には、上記したVの生地の基本特性を向上させる効果が得られない。さらに、深さが30μm以上の位置での硬さがHv硬さで900以下という、(B)項で述べる窒化層の条件を満足させると、軟化抵抗が小さいために生地の強度が低下するので、熱間加工用金型の工具寿命が短くなることを避けることができない。
一方、1.0%を超えるVを含有させても、Vの生地の基本特性を向上させる効果が飽和してコストが嵩むばかりか、粗大な炭化物を形成して耐ヒートクラック性を低下させてしまう。しかも、Vの含有量が1.0%を超える場合には、Vが窒化層の軟化抵抗も高めるため、窒化後の加熱処理によって上記の深さが30μm以上の位置での硬さをHv硬さで900以下に軟化させるためには、例えば、既にCrの項で述べた温度T2(℃)での長時間に及ぶ処理が必要となる。そして、この高温での長時間処理によって、深さが30μm以上の位置での硬さがHv硬さで900以下という窒化層の条件を満足させることはできるものの、生地の強度も低下するので、やはり熱間加工用金型の工具寿命が短くなってしまう。
したがって、Vの含有量を0.05〜1.0%とした。なお、V含有量の下限は0.4%とすることが望ましく、また、上限は0.8%とすることが望ましい。
Al:0.03%以下
本発明においては、脱酸剤として前述の量のSiを含有させるので、Alを積極的に含有させる必要はない。すなわち、Alは、脱酸作用を有するものの、同じ脱酸元素であるSiとは異なって粗大な酸化物を形成し、特に、その含有量が0.03%を超えると、粗大な酸化物の形成が著しくなって、靱性の劣化を招いてしまう。このため、Alの含有量を、0.03%以下とした。なお、Alの含有量の上限は0.02%とすることが好ましい。
N:0.0150%以下
Nは、VやTiなどと結合してVやTiなどの窒化物を形成するため、金型の生地の特性に影響を与えるVやTiなどの炭化物の量に影響を与え、特に、Nの含有量が多くなって0.0150%を超えると、VやTiなどの窒化物の量が増える代わりに、VやTiなど炭化物の量が減少して、軟化抵抗や高温強度の低下につながる。したがって、Nの含有量を、0.0150%以下とした。なお、Nの含有量は0.0120%以下とすることが好ましく、少なければ少ないほどよい。
O:0.0030%以下
Oは、酸化物を形成し、特に、Oの含有量が多くなって0.0030%を超えると、粗大な酸化物が多く形成されて、熱間加工用金型に割れが生じる。したがって、Oの含有量を、0.0030%以下とした。なお、Oの含有量は0.0020%以下とすることが好ましく、少なければ少ないほどよい。
本発明の生地の化学組成の一つは、上記元素のほか、残部がFeと不純物からなり、不純物としてのNiおよびWがいずれも0.7%未満のものである。
以下、不純物としてのNiおよびWについて説明する。
NiおよびW:いずれも0.7%未満
既に述べたように、本発明の熱間加工用金型においては、原料コストの低減という観点から、高価な合金元素であるNiおよびWは非添加とし、つまり、NiおよびWを積極的に含有量させることなく、Crの含有量を高めることによって焼入れ性を確保する。したがって、本発明においては、不純物としてのNiおよびWの含有量をいずれも0.7%未満とした。なお、不純物としてのNiおよびWの含有量はいずれも0.5%以下とすることが好ましい。
本発明の生地の化学組成の他の一つは、上記の元素に加えてさらに、Nb、Ti、BおよびCaのうちから選んだ1種以上の元素を含有するものである。以下、これらの元素の作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
先ず、NbおよびTiは、いずれも軟化抵抗を高める作用を有する。このため、より大きな軟化抵抗を得たい場合には、以下の範囲で含有してもよい。
Nb:0.10%以下
Nbは、微細な炭化物を形成して、軟化抵抗を高める作用を有し、また、結晶粒を微細化して、靱性を向上させる作用も有するので、これらの効果を得るためにNbを含有してもよい。しかしながら、Nbの含有量が過剰になると、粗大な炭化物が形成されるため、鋼の鋳造時に割れが生じるなどの問題が生じて製造歩留まりの低下を招き、特に、0.10%を超えると、製造歩留まりの低下が著しくなる。したがって、Nbの含有量を0.10%以下とした。なお、Nbの含有量は0.06%以下とすることが望ましい。
一方、前記したNbの軟化抵抗向上効果と靱性向上効果を確実に得るためには、Nb含有量の下限を0.002%とすることが望ましく、0.02%以上とすれば一層望ましい。
Ti:0.30%以下
Tiも、微細な炭化物を形成して、軟化抵抗を高める作用を有し、また、強度を向上させる作用も有するので、これらの効果を得るためにTiを含有してもよい。しかしながら、Tiの含有量が過剰になると、粗大な窒化物や炭化物が生じるため、靱性の低下を招き、特に、0.30%を超えると、靱性の低下が著しくなる。したがって、Tiの含有量を0.30%以下とした。なお、Tiの含有量は0.10%以下とすることが望ましい。
一方、前記したTiの軟化抵抗向上効果と強度向上効果を確実に得るためには、Ti含有量の下限を0.002%とすることが望ましく、0.05%とすれば一層望ましい。
なお、上記のNbおよびTiは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種の複合で含有することができる。
B:0.020%以下
Bは、焼入れ性を高めて強度を向上させる作用を有するので、こうした効果を得るためにBを含有してもよい。しかしながら、Bの含有量が多くなり、特に、0.020%を超えると逆に強度を低下させてしまう。したがって、Bの含有量を0.020%以下とした。なお、Bの含有量は0.010%以下とすることが望ましい。
一方、前記したBの効果を確実に得るためには、B含有量の下限を0.0005%とすることが望ましく、0.003%とすれば一層望ましい。
Ca:0.0050%以下
Caは、脱酸元素として作用し、金型を所定の形状に仕上げるための被削性を向上させるのに適した酸化物を形成する。このため、被削性を向上させるためにCaを含有してもよい。しかしながら、0.0050%を超える量のCaを含有させても上記の効果が飽和してコストが嵩んでしまう。したがって、Caの含有量を0.0050%以下とした。なお、Caの含有量は0.0040%以下とすることが望ましい。
一方、前記したCaの被削性向上効果を確実に得るためには、Ca含有量の下限を0.0002%とすることが望ましく、0.0005%とすれば一層望ましい。
(A−2)引張強度
クランクシャフトなど比較的サイズの大きい機械加工部品の成形に使用される熱間加工用金型の場合、生地の引張強度が900MPaを下回ると、工具寿命が短くなることを避けることができない。したがって、本発明の熱間加工用金型について、生地の引張強度が900MPa以上であることとした。さらに優れた工具寿命を得たい場合には、生地の引張強度は1000MPa以上とすることが好ましい。
なお、生地の引張強度の上限は、熱間加工用金型として耐ヒートクラック性を確保するのに必要な延性とバランスを保たせるという観点から、1600MPa程度になる。
(B)窒化層
本発明の熱間加工用金型に、耐ヒートクラック性と耐摩耗性とを具備させて、良好な工具寿命を得るためには、少なくとも被加工材と接する面に硬化深さが200μmを超える窒化層を備えるとともに、前記窒化層の深さが30μm以上の位置での硬さをビッカース硬さで900以下としなければならない。
これは、被加工材と接する面、すなわち、「型表面」に、たとえ窒化層を備えていても、その硬化深さが200μm以下の場合には、鍛造開始後の早い段階で窒化層が摩耗によって剥ぎ取られてしまうことから、十分な耐摩耗性を確保することができないためである。
また、「型表面」に、たとえ硬化深さが200μmを超える窒化層を備えていても、深さが30μm以上の位置、つまり、表面からの距離が30μm以上の位置での硬さがビッカース硬さで900を超える場合には、窒化層の延性が極端に低いために窒化層に割れが生じやすく、型表面に大きなヒートクラックが発生して最終的には型割れを生じることとなるので、熱間加工用金型の工具寿命が短くなることを避けることができないからである。
なお、既に述べたように、「硬化深さ」とは、表面から、生地の硬さより10%以上硬さが高い位置に至るまでの距離を指す。そして、この硬化深さの上限は、硬化深さが深くなりすぎても逆に耐ヒートクラック性を低下させてしまうことから、800μm程度になる。
また、上記、窒化層の深さが30μm以上の位置でのビッカース硬さでの下限は、耐摩耗性を高めるために、600程度でなければならない。
なお、例えば、次の〈1〉〜〈5〉に述べる処理を順に施して熱間加工用金型を製造すれば、前記した生地の引張強度と窒化層を備えさせることができる。
〈1〉(A)項で述べた化学組成を有する鋼を通常の方法、すなわち転炉や電気炉で溶製した鋳片や鋼塊を分塊圧延や熱間鍛造により鋼片とする。
〈2〉上記の鋼片に焼入れ、焼戻しの処理を行い、焼戻し後は大気中放冷する。なお、焼入れの加熱温度は、950〜1100℃とすることが好ましく、また、焼戻し温度は500〜660℃とすることが好ましい。
〈3〉上記〈2〉の焼入れ、焼戻し処理した鋼片を機械加工して、所望の金型形状に仕上げる。
〈4〉上記〈3〉の金型の少なくとも被加工材と接する面に対して、400〜600℃の温度域であって、しかも、上記〈2〉での焼戻し温度以下の温度であるT1(℃)で5〜36時間の窒化処理を施す。
〈5〉上記〈4〉の窒化後、T1(℃)以上であって、しかも、生地のA1変態点を超えない温度T2(℃)で、1〜24時間加熱処理する。なお、この温度T2(℃)は、上記〈2〉における焼戻し温度よりも50℃を超えて高くならない温度とすることが望ましい。
すなわち、上記〈2〉の処理によって、熱間加工用金型として十分に高い強度を有する生地を造り込むことができ、上記〈5〉の処理後であっても熱間加工用金型の生地の引張強度を900MPa以上にすることができる。
また、窒化層については、上記〈4〉の処理によって、少なくとも被加工材と接する面に硬化深さで200μmを超えるものを備えさせることができる。
さらに、上記〈5〉の処理によって、窒化層の深さが30μm以上の位置での硬さをビッカース硬さで900以下とすることができる。
なお、上記の温度T1(℃)とT2(℃)の温度差、つまり、「T2(℃)−T1(℃)」の値は、生地の過剰な軟化を抑えるために150℃以下とすることが好ましく、100℃以下とすればさらに好ましい。
上記〈5〉の窒化処理後の加熱温度T2(℃)を630℃以下とすれば、より安定して熱間加工用金型の生地に1000MPaの引張強度を付与することができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
(実施例1)
表1に示す化学組成を有する鋼a〜eを電気炉によって溶解し、インゴットを作製した。なお、上記の鋼a〜eはいずれも、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。なお、これらの鋼のA1変態点は、750〜820℃の範囲にある。
Figure 0005093010
このようにして得たインゴットを、1260℃に加熱した後、鍛錬比が4.5以上で、仕上げ温度が900℃以上となるように熱間鍛造して角材にした。
次いで、鋼の化学組成に応じて、950〜1100℃の温度に加熱した後、4時間保持してから、油冷あるいは放冷によって焼入れし、その後さらに、550〜640℃で焼戻しを行った。なお、各鋼について上記焼戻し後の表面部から中心部に至る硬さは、いずれも、Hv硬さで440〜380の範囲であった。
上記の焼入れ、焼戻しを施した角材の表面をフライス盤を用いて機械加工し、各鋼について、所望の金型形状のものを2体ずつ作製し、次いで、プラズマ窒化炉を用いて、雰囲気ガスをH2:N2=1:1、ガス圧を533.3Pa(4Torr)として、プラズマ窒化処理した。なお、表2に、プラズマ窒化処理における加熱温度T1(℃)および時間を示した。
Figure 0005093010
鋼a〜cを素材鋼とするものについては、上記のプラズマ窒化処理を施した後、さらに、熱処理を施した。表2に、その熱処理の温度T2(℃)と処理時間を併せて示した。
次いで、各鋼について、プラズマ窒化処理後にさらに熱処理を施した金型形状の1体(鋼a〜c)あるいは、窒化処理ままの金型形状の1体(鋼dおよび鋼e)を用いて、先ず、生地の引張強度、窒化層を調査した。
すなわち、上記の金型形状材の長手方向、つまり、鍛造軸に平行な方向から、JIS Z 2201(1998)に記載の14A号引張試験片を採取して、JIS Z 2241(1998)に準じて室温での引張試験を実施して、引張強度を測定した。
また、上記の引張試験片を採取した金型形状材から、ミクロ試験片を採取して鏡面研磨した後、JIS G 0563(1993)の「鉄鋼の窒化層表面硬さ測定方法」に準じて、試験力を0.4903Nとして、表面から30μmの深さの位置(以下、「Hv硬さの測定起点」という。)から30μmピッチで断面のHv硬さを測定し、これによって、「硬化深さ」および「窒化層の深さが30μm以上の位置での硬さ分布」を求めた。
なお、上記「硬化深さ」は、表面から、生地の硬さより10%以上硬さが高い位置に至るまでの距離を指す。
さらに、各鋼について、プラズマ窒化処理後にさらに熱処理を施した金型形状の残りの1体(鋼a〜c)あるいは、窒化処理ままの金型形状の残りの1体(鋼dおよび鋼e)を、自動車用クランクシャフトを鍛造する最大能力5000tプレスに組み込んで、実際に鍛造を行って工具寿命を評価した。なお、上記プレスの金型寸法は、幅が250mm、厚みが300mmで長さが700mmである。同じサイズの金型を2個作成し、上型と下型に加工してプレスに取り付けた。
具体的には、被鍛造材として、JIS G 4501(2005)に記載のS38Cを基本成分とする非調質用鋼材を用い、これを1250℃まで加熱し、毎分8ショットの鍛造速度で熱間鍛造を実施した。
なお、クランク1本を鍛造する毎に金型表面を冷却する目的で黒鉛系の潤滑剤を塗布し、金型の摩耗損傷が最も激しい部分の摩耗量が5mmを超えるか、被鍛造材が摩耗によって型密着を起こし、金型から離れ難くなり、製造不可と判断された時点での鍛造ショット数(いわゆる「摩耗寿命」)、あるいは、金型の一部が明らかに割れを起こし、使用不能と判断された時点での鍛造ショット数(いわゆる「割れ寿命」)によって、工具寿命を評価した。
上記の各試験結果を表2に併せて示した。なお、表2においては、「窒化層の深さが30μm以上の位置での硬さ分布」から求めた最も高いHv硬さを、「最高Hv硬さ」と表記した。また、工具寿命は「寿命の原因欄」に「摩耗」あるいは「割れ」と表記して、「摩耗寿命」と「割れ寿命」を区別して示した。
表2から、生地の化学組成が本発明の規定を満たす場合であっても、生地の引張強度が本発明の規定から外れる試験記号cの熱間加工用金型、窒化層が本発明の規定から外れる試験記号dの熱間加工用金型および試験記号eの熱間加工用金型は、工具寿命が短いことが明らかである。
すなわち、試験記号cの熱間加工用金型は、生地の引張強度が855MPaと低く、本発明の規定から外れるので、工具寿命は4200ショットと短いものである。
試験記号dの熱間加工用金型は、前記した最高Hv硬さが1014と高く、「表面からの距離が30μm以上の位置での窒化層の硬さがHv硬さで900以下」という本発明の規定から外れるので、工具寿命は3900ショットと短いものである。
試験記号eの熱間加工用金型は、硬化深さが90μmと浅く、本発明の規定から外れるので、工具寿命は5600ショットと短いものである。
これに対して、本発明の規定を全て満たす試験記号aおよび試験記号bの熱間加工用金型は、耐摩耗性と耐ヒートクラック性の双方を備えるため優れた工具寿命を有していることが明らかである。そして、上記のうちでも、生地の引張強度が1034MPaの試験記号aの場合、生地の引張強度が952MPaの試験記号bに比べてより長い工具寿命を有していることが明らかである。
(実施例2)
表3に示す化学組成を有する鋼1〜12を電気炉によって溶解し、インゴットを作製した。なお、上記の鋼のうち、鋼1〜5は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼である。一方、鋼6〜12は、化学組成が本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。
なお、これらの鋼のA1変態点は、750〜840℃の範囲にある。
Figure 0005093010
このようにして得たインゴットを、1260℃に加熱した後、鍛錬比が4.5以上で、仕上げ温度が900℃以上となるように熱間鍛造して角材にした。
次いで、鋼の化学組成に応じて、950〜1100℃の温度に加熱した後、4時間保持してから、油冷あるいは放冷によって焼入れし、その後さらに、550〜640℃で焼戻しを行った。なお、各鋼について上記焼戻し後の表面部から中心部に至る硬さは、いずれも、Hv硬さで440〜380の範囲であった。
上記の焼入れ、焼戻しを施した角材の表面をフライス盤を用いて機械加工し、各鋼について、所望の金型形状のものを2体ずつ作製し、次いで、プラズマ窒化炉を用いて、雰囲気ガスをH2:N2=1:1、ガス圧を533.3Pa(4Torr)として、プラズマ窒化処理した。なお、表4に、プラズマ窒化処理における加熱温度T1(℃)および時間を示した。
上記のプラズマ窒化処理を施した後、さらに、表4に示す温度T2(℃)と処理時間で熱処理を施した。
Figure 0005093010
次いで、各鋼について、先の実施例1の場合と同様にして生地の引張強度、窒化層を調査するとともに、工具寿命を調査した。
すなわち、各鋼について、金型形状の1体の長手方向、つまり、鍛造軸に平行な方向から、JIS Z 2201(1998)に記載の14A号引張試験片を採取して、JIS Z 2241(1998)に準じて室温での引張試験を実施して、生地の引張強度を測定した。
また、上記の引張試験片を採取した金型形状材から、ミクロ試験片を採取して鏡面研磨した後、JIS G 0563(1993)の「鉄鋼の窒化層表面硬さ測定方法」に準じて、試験力を0.4903Nとして、表面から30μmの深さの位置(以下、「Hv硬さの測定起点」という。)から30μmピッチで断面のHv硬さを測定し、これによって、「硬化深さ」および「窒化層の深さが30μm以上の位置での硬さ分布」を求めた。
なお、上記「硬化深さ」は、表面から、生地の硬さより10%以上硬さが高い位置に至るまでの距離を指す。
さらに、各鋼について、金型形状の残りの1体を、自動車用クランクシャフトを鍛造する最大能力5000tプレスに組み込んで、実際に鍛造を行って工具寿命を評価した。なお、上記プレスの金型寸法は、幅が250mm、厚みが300mmで長さが700mmである。同じサイズの金型を2個作成し、上型と下型に加工してプレスに取り付けた。
具体的には、被鍛造材として、JIS G 4501(2005)に記載のS38Cを基本成分とする非調質用鋼材を用い、これを1250℃まで加熱し、毎分8ショットの鍛造速度で熱間鍛造を実施した。
なお、クランク1本を鍛造する毎に金型表面を冷却する目的で黒鉛系の潤滑剤を塗布し、金型の摩耗損傷が最も激しい部分の摩耗量が5mmを超えるか、被鍛造材が摩耗によって型密着を起こし、金型から離れ難くなり、製造不可と判断された時点での鍛造ショット数(いわゆる「摩耗寿命」)、あるいは、金型の一部が明らかに割れを起こし、使用不能と判断された時点での鍛造ショット数(いわゆる「割れ寿命」)によって、工具寿命を評価した。
上記の各試験結果を表4に併せて示した。なお、表4においても、「窒化層の深さが30μm以上の位置での硬さ分布」から求めた最も高いHv硬さを、「最高Hv硬さ」と表記した。
表4から、本発明の規定を全て満たす試験記号1〜5の熱間加工用金型は、耐摩耗性と耐ヒートクラック性の双方を備えるため優れた工具寿命を有していることが明らかである。
これに対して、試験記号6〜12の熱間加工用金型は、いずれも鋼の化学組成が本発明で規定する条件から外れ、さらに、生地の特性引張強度(試験記号9〜12)や窒化層(試験記号6、7、9および12)が本発明で規定する条件から外れるので、工具寿命が短い。
本発明の熱間加工用金型は、耐摩耗性と耐ヒートクラック性の双方を備え、優れた工具寿命を有しているので、クランクシャフトなど比較的サイズの大きい機械加工部品を成形するための熱間鍛造用金型、熱間押し出し金型などとして用いることができる。しかも、本発明の熱間加工用金型は、熱間加工用金型として適正な機械的性質を有しながらも高価な合金元素であるNiおよびWが非添加という低廉な鋼を生地とするものであるため、コストの低減を実現することもできる。

Claims (5)

  1. 生地が、C:0.30%以上0.50%未満、Si:0.10〜0.5%、Mn:0.30〜1.0%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Cr:4.0〜8.0%、Mo:0.2%以上1.5%未満、V:0.05〜1.0%、Al:0.03%以下、N:0.0150%以下およびO:0.0030%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物としてのNiおよびWがいずれも0.7%未満の化学組成および900MPa以上の引張強度を有する熱間加工用金型であって、少なくとも被加工材と接する面に硬化深さが200μmを超える窒化層を備えるとともに、前記窒化層の深さが30μm以上の位置での硬さがビッカース硬さで900以下であることを特徴とする熱間加工用金型。
    ただし、「硬化深さ」とは、表面から、生地の硬さより10%以上硬さが高い位置に至るまでの距離を指す。
  2. 生地の化学組成が、質量%で、さらに、Nb:0.10%以下およびTi:0.30%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の熱間加工用金型。
  3. 生地の化学組成が、質量%で、さらに、B:0.020%以下を含有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱間加工用金型。
  4. 生地の化学組成が、質量%で、さらに、Ca:0.0050%以下を含有するものであることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の熱間加工用金型。
  5. 生地の引張強度が1000MPa以上であることを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の熱間加工用金型。
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