JP2007302946A - 合金鋼の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】寸法精度と衝撃値が共に高い合金鋼の製造方法を提供すること。
【解決手段】合金鋼の製造方法は、(1)合金鋼を、その中心部の温度が焼入れ開始温度Taに到るまで加熱する加熱工程と、(2)合金鋼を、その中心部の温度が温度T1Fに到るまで、当該第一冷却工程におけるその中心部の平均冷却速度CRが、フェライト及び/又はパーライトが析出しない冷却速度Cとなるように冷却する第一冷却工程と、(3)合金鋼を、その中心部の温度がマルテンサイト変態開始温度及びベイナイト変態開始温度よりも高い温度T2Fに到るまで、当該第二冷却工程における熱伝達係数Hが、第一冷却工程における熱伝達係数Hよりも高くなるように冷却する第二冷却工程と、(4)合金鋼を、その中心部の温度が温度T3Fに到るまで、当該第三冷却工程における熱伝達係数Hが、熱伝達係数Hよりも高くなるように冷却する第三冷却工程とを備える。
【選択図】図1

Description

本発明は、合金鋼の製造方法に関し、更に詳しくは、金型や工具に用いられる合金鋼の熱処理技術、特に、大断面の熱間ダイス鋼に好適な焼入方法に関する。
金型や工具に用いられる合金鋼を製造する場合、一旦、鋼をオーステナイト組織に加熱した後、各種冷却剤中で急冷する操作、すなわち、「焼入れ」が行われる。周知の焼入れ方法として、単純な一工程の冷却による焼入れ方法、例えば、炉から鋼を出してそのまま油冷を行う単純急冷方法が知られている。しかしながら、この単純急冷方法では、金型材質が極めて良いものが得られても、熱変形が起こり、金型形状が悪くなる、すなわち、鋼の反りが極めて大きく割れも酷くなるという問題があった。
図9(a)は、その従来の単純急冷方法(油冷)における合金鋼の冷却履歴を示したものである。合金鋼としては一辺が300mmのサイコロ(重量は211kg)を用いている。同図は、このサイコロを1030℃に加熱して、炉から取り出し、油冷設備へ運搬(運搬のため500秒の空冷が入る(図中ACで示す))して、油冷(油温:130℃、図中OQで示す)したときの温度推移を示したものである。
同図に示したように、合金鋼の中心部(太実線)の温度変化は緩やかであるが、合金鋼の表面部(細実線)の温度変化は急激である。この中心部と表面部との温度差ΔTの変化を図9(b)に示すが、油冷を開始してから少したったところで、その温度差ΔTは、最大温度差ΔTmax(668℃)になる。この最大温度差ΔTmax=668℃は極めて高い温度差であり、そのサイコロに非常に強い熱応力を発生させる。もっともサイコロは単純な形状であるから変形はさほど問題にならないが、複雑な形状をした金型の場合には、かなりの熱変形(反りや割れ)が生ずる虞がある。従って、最大温度差ΔTmaxが大きすぎると、金型形状に影響する寸法精度が維持できないという問題があった。
単純な一工程による他の冷却方法としては、単純緩冷が周知である。単純緩冷は、炉から鋼を出して放冷又は衝風冷を行う方法である。この冷却方法によれば、冷却速度を遅くすることができるため、反りが小さく割れのない合金鋼ができる。しかしながら、冷却速度が遅いと高温域ではパーライトやフェライトが析出する。また、ベイナイト変態が比較的高温側で起こりブロックサイズが大きくなるため、得られる合金鋼の衝撃値が低くなり、強靱化が図れないという金型材質上の問題があった。そして、金型材質の低さに付随して金型寿命が短くなり鍛造やダイカストにおける生産性の低下やそれに起因するコスト高を招くという問題があった。
更に、単純な急冷における反りや割れを修正するための工数増加及び再製作や、単純緩冷における短い金型寿命に起因する再製作が積み重なると、多くの電力や原材料を使用するため、環境負荷が増大するという問題もあった。
そこで、これらの問題を解決するために、特許文献1〜4に示すように、焼入れ工程を二工程に分けた複合冷却方法が提案されている。これらはいずれも、一工程目で緩い冷却を行って単純急冷で最も問題となる最大温度差ΔTmaxを小さくする一方で、二工程目で強い冷却を行って単純緩冷で最も問題となる比較的高温側でのベイナイト変態を回避したものである。すなわち、これらの複合冷却方法は、最大温度差ΔTmaxを小さくして反りや割れを回避しつつ、比較的高温側でのベイナイト変態を回避して衝撃値を高め強靱化を図ろうとした方法である。
まず、特許文献1及び2に開示された熱間ダイス鋼の焼入れ方法は、空冷ないし衝風冷却(緩い冷却)を行う工程と、油冷(強い冷却)を行う工程の二工程からなるものである。この焼入れ方法は、より具体的には、オーステナイト化温度まで熱間ダイス鋼を加熱した後、加熱された熱間ダイス鋼をベイナイト領域のノーズに向かう速度で空冷ないし衝風冷却により緩冷後、ベイナイト領域のノーズを避ける冷却速度で油冷により急冷する方法である。
特許文献3に開示された金型の焼入れ方法は、衝風冷却を行う工程(緩い冷却)と、油冷よりもベイナイト域での冷却速度が大きい「ポリマー液に浸漬する冷却」を行う工程(強い冷却)の二工程からなるものである。すなわち、この焼入れ方法は、金型の表面温度が650℃ないし300℃の温度範囲に到達するまで「粒界炭化物が析出する冷却速度」よりも速い冷却速度で冷却し、次いでポリマー液中で冷却する方法である。
特許文献4に開示された金型の焼入れ方法は、全工程を通じて冷却ガスを吹き付けて冷却する方法であるが、金型がベイナイト変態を開始する前に、二工程目として冷却ガスの圧力を高める方法(二工程目で強い冷却)である。
このような特許文献1から4に開示された二段階冷却による複合冷却方法は、金型の寸法精度と材質の両者を満足のいくものとすることができる点で、小型金型にも適用しうるが、特に、従来の大型金型に効果的な方法である。
特開平3−028318号公報 特開平8−225830号公報 特開平9−182948号公報 特開平10−080746号公報
しかしながら、金型が更に大型化すると、従来の二段階冷却による複合冷却でも不十分だった。その理由は、特許文献1から4に開示された二段階冷却による焼入れ方法は、高温域(概ね、焼入れ温度と500〜600℃との間程度)での一工程目では比較的緩い冷却でも、中温域(概ね、500〜600℃と380℃との間程度)から低温域(概ね380℃〜室温程度)にわたる二工程目では強い冷却を行う方法であるため、大断面・大重量の金型の場合には、中温域における最大温度差ΔTmaxを十分に小さくすることができず、最大温度差ΔTmaxに起因する熱応力によって、反りや割れが発生し、金型形状を損なうという問題があったからである。
そして、これらの問題に付随して次のような問題もあった。まず、最大温度差ΔTmaxに起因して反りが出ると、沿った部分を平面にするために、合金鋼の切削や余肉盛りをする必要があった。すると、切削工程や余肉盛り工程に人件費や時間がかかり、納期遅れやコスト高を招くという問題があった。また、割れが発生すると、材料の手配から始めて、溶解も行う、すなわち、最初から再製作しなければならず、納期遅れやコスト高を招くという問題があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その第一の目的は、パーライトやフェライトが析出せず、かつ、寸法精度と衝撃値が共に高い強靱化された合金鋼の製造方法を提供することにある。これによって、寸法精度と衝撃値が共に優れた金型や工具を製造しようとするものである。
本発明の第二の目的は、金型や工具を高効率で製造でき、納期遅延を解消し、コスト高を回避することができる合金鋼の製造方法を提供することにある。
本発明の第三の目的は、環境負荷が低い合金鋼の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明に係る合金鋼の製造方法は、
合金鋼を、その中心部の温度が焼入れ開始温度Ta(但し、Ta≧AC3点)に到るまで加熱する加熱工程と、
その中心部の温度が焼入れ開始温度Taに到った後、前記合金鋼を、その中心部の温度が温度T1Fに到るまで、当該第一冷却工程におけるその中心部の平均冷却速度CRが、フェライト及び/又はパーライトが析出しない冷却速度Cとなるように冷却する第一冷却工程と、
その中心部の温度が前記温度T1Fに到った後、前記合金鋼を、その中心部の温度がマルテンサイト変態開始温度及びベイナイト変態開始温度よりも高い温度T2Fに到るまで、当該第二冷却工程における熱伝達係数Hが、前記第一冷却工程における熱伝達係数Hよりも高くなるように冷却する第二冷却工程と、
その中心部の温度が前記温度T2Fに到った後、前記合金鋼を、その中心部の温度が温度T3F(T3F≦マルテンサイト変態開始温度−20℃)に到るまで、当該第三冷却工程における熱伝達係数Hが、前記熱伝達係数Hよりも高くなるように冷却する第三冷却工程と、
からなることを要旨とするものである。
この場合において、前記温度T1Fは、550℃≦T1F≦800℃であり、
前記温度T2Fは、380℃≦T2F<550℃である(但し、20℃≦T1F−T2F≦250℃)ことが望ましい。これに代えて、
前記温度T1Fは、450℃≦T1F≦800℃であり、
前記温度T2Fは、380℃≦T2F<600℃である(但し、20℃≦T1F−T2F≦250℃)ものでもよい。
ここで示した温度範囲は、多くの鋼種・形状・重量の場合に適用しうるものであるが、特定の鋼種・形状・重量の場合に限定するものではない。ここで示した温度範囲は、鋼種としてはSKD61などの熱間ダイス鋼、SKD11などの冷間工具鋼、SKH51などの高速度工具鋼、SNCM439などの強靱鋼に好適である。また、ここで示した温度範囲は、形状・重量としては単純形状・小断面・軽量のものから複雑形状・大断面・大重量の合金鋼に好適である。
この場合において、前記熱伝達係数Hは、10≦H≦1000(W/m/K)、前記熱伝達係数Hは、30≦H≦5000(W/m/K)、前記熱伝達係数Hは、50≦H≦30000(W/m/K)であればよい。
この場合において、前記平均冷却速度CRは、5≦CR≦30(℃/min)、前記第二冷却工程における前記合金鋼の中心部の平均冷却速度CRは、3≦CR≦27(℃/min)、前記第三冷却工程における前記合金鋼の中心部の平均冷却速度CRは、2≦CR≦25(℃/min)であればよい。
すなわち、本発明に係る合金鋼の製造方法において、冷却方法は、特に限定されるものではなく、熱伝達係数を段階的に高くしていくものであればよい(H<H<H)。各工程における熱伝達係数を段階的に高くしていくことができる限り、各工程における冷却方法は、それぞれ、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
例えば、前記第一冷却工程における冷却方法は、放冷、衝風冷、加熱ガス冷又は加圧ガス冷のいずれかを用いるのが好ましい。また、前記第二冷却工程における冷却方法は、衝風冷、加熱ガス冷、加圧ガス冷又は油冷のいずれかを用いるのが好ましい。前記第三冷却工程における冷却方法は、油冷、衝風冷、加熱ガス冷、加圧ガス冷、水冷又はポリマー液を用いた冷却のいずれかを用いるのが好ましい。
本発明に係る合金鋼の製造方法が適用される合金鋼の重量は特に限定されるものではないが、特に、150kg以上の大断面・大重量の合金鋼に好ましい。また、本発明に係る合金鋼の製造方法によって得られた合金鋼の用途は、特に限定されるものではないが、特に、高い寸法精度や材質が要求される金型又は工具に好ましい。
本発明に係る金型鋼の製造方法は、第一冷却工程において、合金鋼を、その中心部の平均冷却速度CRがフェライト及び/又はパーライトが析出しない冷却速度Cとなるように冷却するものであるから、パーライト及び/又はフェライトの析出を回避できるという効果がある。
本発明に係る金型鋼の製造方法は、第一冷却工程において、合金鋼を、その中心部の平均冷却速度CRがフェライト及び/又はパーライトが析出しない冷却速度Cとなるように冷却し、第二冷却工程において、合金鋼の中心部の温度がマルテンサイト変態開始温度及びベイナイト変態開始温度よりも高い温度T2Fに到るまで、第一冷却工程における熱伝達係数Hよりも高いが第三冷却工程における熱伝達係数Hよりも低い熱伝達係数H(H<H<H)(すなわち、低すぎず高すぎない熱伝達係数)で冷却するものであるから、温度差ΔTが大きくならず熱応力に起因する熱変形(反りや割れ)を最小限に抑えることができる。更に、第三冷却工程では熱伝達係数Hが最大になるが、合金鋼がすでに有る程度冷却されているため、温度差ΔTが大きくならず、やはり、熱応力に起因する熱変形(反りや割れ)を最小限に抑えることができる。そのため、本発明に係る金型鋼の製造方法は、金型形状に係る合金鋼の寸法精度を高くすることができるという効果がある。
本発明に係る金型鋼の製造方法は、合金鋼の中心部の温度が温度T2Fに到った後、第三冷却工程において、その中心部の温度が温度T3F(T3F≦マルテンサイト変態開始温度−20℃)に到るまで、第二冷却工程における熱伝達係数Hよりも高い熱伝達係数H(H<H)で冷却するものであるから、ベイナイト変態を比較的低温で開始させ、又は、マルテンサイト変態させることができる。更に、第三冷却工程では熱伝達係数Hを熱伝達係数Hより高くしているので、比較的速い冷速で冷却することができる。そのため、本発明に係る金型鋼の製造方法は、ブロックサイズを小さくできるため、金型材質に係る衝撃値を高め、強靱化を図ることができるという効果がある。
以上のことから、本発明に係る合金鋼の製造方法によれば、金型形状及び金型材質の両者の点で優れた合金鋼が得られる。そして、更に、本発明に係る合金鋼の製造方法によれば、良好な金型形状が得られるため、反り部分の切削や余肉盛りに要する労力や時間を著しく減少させることができ、金型や工具の納期遅延を解消し、コスト高を回避することができるという効果がある。更に、本発明に係る合金鋼の製造方法によれば、良好な金型材質が得られるため、合金鋼の再生産等を回避でき、環境負荷をかけないという効果がある。
本発明に係る金型鋼の製造方法は、第一冷却工程→第二冷却工程→第三冷却工程と進むにつれて、熱伝達係数を高くしていくものであるから、合金鋼の中心部の平均冷却速度が過度に遅いものとはならず、処理時間の短縮化が図られ、高効率での製造ができるという効果がある。
以下に、本発明の一実施形態に係る合金鋼の製造方法について図面を参照して説明する。
本発明に係る合金鋼の製造方法は、加熱工程と、第一冷却工程と、第二冷却工程と、第三冷却工程とを備えている。そして、本発明に係る合金鋼の製造方法は、冷却強度を段階的に高めていく方法、すなわち、熱伝達係数(W/m/K)を第一冷却工程→第二冷却工程→第三冷却工程と進むに連れて段階的に高めていく方法である(図1の複合冷却D参照)。尚、以下においては、単に、「高温域」というときは第一冷却工程の対象となる焼入れ開始温度Taと温度T1F(すなわち、第一冷却工程の終了の温度)との間の温度範囲及びこれと同視される温度範囲を指し、「中温域」というときは温度T1Fと温度T2F(すなわち、第二冷却工程の終了の温度)との間の温度範囲及びこれと同視される温度範囲を指し、「低温域」というときは温度T2Fと温度T3F(すなわち、第三冷却工程の終了の温度)との間の温度範囲及びこれと同視される温度範囲を指す。
「加熱工程」は、合金鋼を、その中心部の温度が焼入れ開始温度Ta(但し、Ta≧AC3点)に到るまで加熱する工程である。
「合金鋼」は、不可避の不純物以外にも焼き入れ性向上元素を有するものをいい、合金鋼に含まれる添加元素の種類及び量は特に限定されるものではない。このような合金鋼としては、具体的には、SKD61などの熱間ダイス鋼、SKD11などの冷間工具鋼、SKH51などの高速度工具鋼、SNCM439などの強靱鋼などがある。本発明は、これらのいずれの鋼種に対しても適用することができる。特に、金型や工具などに用いられる合金鋼に対して本発明を適用すると、高い効果が得られる。本発明は、小断面の小型材にも当然に適用できるが、大断面の大型材に適用すると、高い効果が得られる。特に、その重量が150kg以上、200kg以上又は1000kg以上である大型材に対して本発明を適用すると、従来の方法では得られない高い寸法精度が得られ強靱化がなされる。
「中心部」は、合金鋼の形状によって決まり、特に限定されるものではない。例えば、簡単なサイコロ形状であれば重心及びその付近である。また、複雑な形状であれば、単に重心ということはできず、ある肉厚部分の中央面又は中心線及びそれらの付近である。換言すれば、中心部は、冷却しようとする合金鋼の最も冷却されにくい部分ないし冷却されにくい部分並びにそれらの付近である。
「焼入れ開始温度Ta」は、AC3点(℃)(すなわち、平衡状態図のオーステナイト域とオーステナイト+フェライト2相域とが接する温度であって加熱時に観察される温度)以上の温度をいう。この焼入れ開始温度Taは合金鋼の鋼種によって異なるが、SKD61の場合、1010℃〜1050℃が好ましい。
「加熱」する方法は、特に限定されるものではなく、合金鋼の組成に応じて最適なものを選択すれば良い。例えば、焼入れ開始温度Taが低い場合又は合金鋼の大きさが小さい場合、合金鋼をそのまま焼入れ開始温度Taに加熱すればよい。一方で、例えば、焼入れ開始温度Taが高い場合又は合金鋼の大きさが大きい場合には、焼入れ開始温度Taにそのまま加熱すると、オーステナイトへの変態開始時が合金鋼の内部で大きく異なり、更に熱応力も大きくなるので、合金鋼が割れたり反ったりする危険性が高まる。更に、オーステナイトの粒成長も助長してしまう場合がある。従って、このような場合には、A点直下の任意の温度で保持して温度を均一化した後、焼入れ開始温度Taまで加熱し、適当な時間保持するのが好ましい。尚、A点より低温側と高温側で複数回の均熱保持工程を加えても良い。このような措置をとることで,合金鋼が割れたり反ったりする危険性を更に低下させることができる。
「第一冷却工程」は、合金鋼の中心部の温度が焼入れ開始温度Taに到った後、その合金鋼を、その中心部の温度が温度T1Fに到るまで、当該第一冷却工程におけるその中心部の平均冷却速度CRが、フェライト及び/又はパーライトが析出しない冷却速度Cとなるように冷却する工程である。
「温度T1F」は、550℃≦T1F≦800℃、又は、450℃≦T1F≦800℃の範囲の温度であれば、多くの鋼種・形状・重量の場合に適用しうるが、この温度範囲に限定されるものではない。従って、「温度T1F」は、具体的な鋼種・形状・重量によって最適な値が選択される。
例えば、SKD61の場合には、500℃≦T1F≦750℃が望ましく、SKD11の場合には、400℃≦T1F≦650℃が望ましく、SKH51の場合には、400℃≦T1F≦750℃が望ましく、SNCM439の場合には、550℃≦T1F≦750℃が望ましい。
また、上記温度範囲であれば、単純な金型形状はもとより、複雑な金型形状にも適用でき、更に、小断面・軽量のものから大断面・大重量のものまで適用しうる。
温度T1Fが高すぎる場合、次の第二冷却工程における「第一冷却工程よりも強い冷却」が広い温度範囲に渡って行われることになるため、温度差ΔTが大きくなり熱応力により合金鋼に反りや割れを生ずる虞がある。この傾向は、特に大断面・大重量の合金鋼の場合に顕著となる。一方、温度T1Fが低すぎる場合、低温域で生じさせるべきベイナイト変態が比較的高温側で生じ、粗大なブロックが形成される虞がある。そうすると、得られる合金鋼は、低い衝撃値しか得られず、強靱化もなされない。そこでこのような温度範囲としている。
「平均冷却速度CR」は、焼入れ開始温度Ta(第一冷却工程の冷却開始温度T1s)と温度T1Fとの差を第一冷却工程における冷却時間で除した値をいう。
「冷却速度C」は、フェライト及び/又はパーライトが析出しない冷却速度、換言すれば、その最小の冷却速度(臨界冷却速度)以上の冷却速度である。尚、臨界冷却速度は鋼種に依存する。
第一冷却工程における冷却は、合金鋼の中心部の平均冷却速度CRが冷却速度Cになるように行う、すなわち、臨界冷却速度以上になるように行う必要がある。その理由は、フェライト及び/又はパーライトの析出を回避するためである。しかしながら、その必要にかられて、合金鋼の中心部の平均冷却速度CRを過度に大きくすると、高温域を急冷することになるため、温度差ΔTを大きくしてしまう。そこで、その必要を満たしつつ温度差ΔTはできる限り小さくなるようにする。そのためには、第一冷却工程における熱伝達係数H(W/m/K)は、10≦H≦1000(W/m/K)であることが好ましい。また、金型鋼の中心部の平均冷却速度CRは、5≦CR≦30(℃/min)であることが好ましい。
第一冷却工程において「冷却」する方法は、熱伝達係数Hや合金鋼の中心部の平均冷却速度CRが上記所定範囲を満たすものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、放冷、衝風冷、加熱ガス冷又は加圧ガス冷がある。
「第二冷却工程」は、合金鋼の中心部の温度が温度T1Fに到った後、その合金鋼を、その中心部の温度がマルテンサイト変態開始温度及びベイナイト変態開始温度よりも高い温度T2Fに到るまで、当該第二冷却工程における熱伝達係数Hが、第一冷却工程における熱伝達係数Hよりも高くなるように冷却する工程である。
「温度T2F」は、マルテンサイト変態開始温度及びベイナイト変態開始温度よりも高い温度をいい、380℃≦T2F<550℃、又は、380℃≦T2F<600℃の範囲の温度であれば、多くの鋼種・形状・重量の場合に適用しうるが、この温度範囲に限定されるものではない。従って、「温度T2F」は、具体的な鋼種・形状・重量によって最適な値が選択される。
例えば、SKD61の場合には、380℃≦T2F≦500℃が望ましく、SKD11の場合には、250℃≦T2F≦400℃が望ましく、SKH51の場合には、250℃≦T2F≦400℃が望ましく、SNCM439の場合には、400℃≦T2F≦550℃が望ましい。
また、上記温度範囲であれば、単純な金型形状はもとより、複雑な金型形状にも適用でき、更に、小断面・軽量のものから大断面・大重量のものまで適用しうる。
尚、温度T1F(換言すれば、第二冷却工程の開始の温度T2S)と温度T2Fとの関係についてであるが、20℃≦T1F−T2F≦250℃であることが好ましい。第二冷却工程における作用効果を確実にするためである。
温度T2Fが高すぎる場合、次の第三冷却工程における「第二冷却工程よりも強い冷却」が広い温度範囲に渡って行われることになるため、温度差ΔTを大きくし、熱応力による反りや割れの原因になる。この傾向は、特に大断面・大重量の合金鋼の場合に顕著となる。一方、温度T2Fが相対的に低すぎる場合、比較的高温側で、合金鋼の中心部だけでなく表面においても、ベイナイト変態を生じさせ、ブロックの粗大化や低衝撃値、低い靱性の原因になる。そこで、温度T2Fは、このような温度範囲としている。
第二冷却工程における冷却は、「熱伝達係数H」が、第一冷却工程における熱伝達係数Hよりも高くなるように行うが、第三冷却工程における熱伝達係数Hよりも低くなるように冷却を行う(H<H<H)。
まず、H>Hとする理由は、熱伝達係数Hを小さくしすぎると、処理時間が長引くと同時に、比較的高温側でベイナイト変態を生じさせ、ブロックの粗大化や低衝撃値、低い靱性の原因になるからである。例えば、温度T1F〜温度T2Fの温度域(例えば、中心部の温度が380℃〜550℃)を第一冷却工程の熱伝達係数Hで引き続き冷却すると、表面側は比較的に高い温度でマルテンサイト変態やベイナイト変態を起こし、ブロックの粗大化や低衝撃値の原因となる。そこで、熱伝達係数Hを熱伝達係数Hよりも大きくして表面側など比較的に冷却されやすい部位を第二冷却工程において早く冷却し、組織の微細化と強靭化を図る。こうすることによって、合金鋼の中心部のみならず表面側でも強靭化を図ることができる。
一方、H<Hとする理由は、熱伝達係数Hを大きくしすぎると、断面内での過大な温度差ΔTが発生し反りや割れの原因になるからである。H<Hとすることは、当該第二冷却工程における過大な温度差ΔTの発生を抑制するのみならず、更に、後述する第三冷却工程における均熱度をできるだけ高める(すなわち、温度差ΔTをできるだけ小さくする)ための、断面内の温度分布の制御としても重要である。そのために、第二冷却工程においては、熱伝達係数Hを熱伝達係数Hよりも小さくすることにより、過度に強い冷却をせずに効率的に中心部の温度を下げる。これによって、第二冷却工程が終了した時点の均熱度を高めておき、後述する第三冷却工程において高い均熱度を得ようとするものである。
そこで、断面内での過大な温度差ΔTを発生させず、材質も良くし処理時間も短縮できるようにするためには、第二冷却工程における熱伝達係数Hは、30≦H≦5000(W/m/K)であることが好ましい。また、金型鋼の中心部の平均冷却速度CRは、3≦CR≦27(℃/min)であることが好ましい。尚、「平均冷却速度CR」は、温度T1F(換言すれば、第二冷却工程の開始の温度T2S)と温度T2Fとの温度差を第二冷却工程における冷却時間で除した値をいう。温度差ΔTを大きくすることなく、処理時間を短縮するためには、既述のように、温度T2Sと温度T2Fとの温度差は、20℃〜250℃が好ましい。
既述のように、第二冷却工程では、第一冷却工程よりも冷却強度、すなわち、熱伝達係数を高める必要がある。但し、合金鋼の中心部においては、第二冷却工程の方が第一冷却工程よりも平均冷却速度が大きくなるとは限らない点に注意が必要である。この理由は、一般に、温度が低下するほど平均冷却速度が小さくなるためである。このような状況下でも中心部の平均冷却速度を従来の単純緩冷よりも相対的に大きく(もっとも従来の単純急冷よりはその平均冷却速度を相対的に小さくすることが前提であるが)する目的で、熱伝達係数Hを熱伝達係数Hよりも大きくするのである。
第二冷却工程において「冷却」する方法は、熱伝達係数Hや合金鋼の中心部の平均冷却速度CRが上記所定範囲を満たすものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、衝風冷、加熱ガス冷、加圧ガス冷又は油冷がある。
「第三冷却工程」は、合金鋼の中心部の温度が温度T2Fに到った後、合金鋼を、その中心部の温度が温度T3F(T3F≦マルテンサイト変態開始温度−20℃)に到るまで、当該第三冷却工程における熱伝達係数Hが、熱伝達係数Hよりも高くなるように冷却する工程である。
「温度T3F」は、T3F≦マルテンサイト変態開始温度−20℃である。第三冷却工程においては、合金鋼の中心部の温度が温度T3Fに到るまで、第二冷却工程における熱伝達係数Hより大きい熱伝達係数Hで急冷すると、合金鋼の変態をほぼ完了させることができる。これにより、材質面の強化、すなわち、ブロックサイズを小さくし、衝撃値を高め、強靱化を図ることができる。
そこで、ベイナイト変態を低温域で生じさせ、又は、マルテンサイト変態を生じさせ、これにより、衝撃値を高め強靱化を図り、かつ、処理時間も短縮できるようにするためには、第三冷却工程における熱伝達係数Hは、50≦H≦30000(W/m/K)であることが好ましい。また、合金鋼の中心部の平均冷却速度CRは、2≦CR≦25(℃/min)であることが好ましい。尚、「平均冷却速度CR」は、温度T2F(換言すれば、第三冷却工程の開始の温度T3S)と温度T3Fとの差を第三冷却工程における冷却時間で除した値をいう。
既述のように、第三冷却工程は、第二冷却工程よりも冷却強度、すなわち、熱伝達係数を高める必要がある。但し、合金鋼の中心部においては、第三冷却工程の方が第二冷却工程よりも平均冷却速度が大きくなるとは限らない点に注意が必要である。この理由は、一般に、温度が低下するほど冷却速度が小さくなるためである。このような状況下でも中心部の平均冷却速度を従来の複合冷却とほぼ同等又はそれよりも大きくする目的で、第三冷却工程の冷却強度、すなわち、熱伝達係数Hを第二冷却工程の冷却強度、すなわち、熱伝達係数Hよりも大きくするのである。
第三冷却工程において「冷却」する方法は、熱伝達係数Hや合金鋼の中心部の平均冷却速度CRが上記所定範囲を満たすものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、油冷、衝風冷、加熱ガス冷、加圧ガス冷、水冷又はポリマー液を用いた冷却がある。
次に、本発明に係る合金鋼の製造方法の作用について説明する。
図1は、各種の冷却方法を行った場合の各温度域における熱伝達係数の変化をまとめて示した模式図であり、図2は、各種の冷却方法を行った場合の合金鋼の中心部の温度と処理時間との関係をまとめて示した模式図である。尚、「A」は、焼入れ開始温度から直接油冷する単純急冷、「B」は、焼入れ開始温度からそのまま放冷する単純緩冷、「C」は、高温域を放冷(徐冷)→中温域を油冷(急冷)→低温域を衝風冷(緩冷)する複合冷却、「D」は、高温域を放冷(徐冷)→中温域を衝風冷(緩冷)→低温域を油冷(急冷)する複合冷却である。また、表1は、本発明に係る合金鋼の製造方法を適用する場合の各温度域における起きうる現象及び回避すべき現象等をまとめて示したものである。
Figure 2007302946
加熱工程において、合金鋼は、Ac3点以上の焼入れ開始温度Ta(℃)に加熱される。
第一冷却工程(高温域)において、合金鋼は、例えば、図1に示したように放冷により、その中心部の平均冷却速度CRが、冷却速度Cとなるように、すなわち、臨界冷却速度以上となるように冷却される。これは、実際には、炭化物の粒界析出による靱性の低下は顕著でない場合が多く、ここではフェライト及び/又はパーライトの析出回避が最も重要だからである。従って、第一冷却工程では、合金鋼は、パーライト及びフェライトの析出がなく、炭化物の過度な粒界析出もない。第一冷却工程においては、図1に示したように、単純急冷Aよりも熱伝達係数Hを小さくしているため、図2に示したように単純急冷Aよりも合金鋼の中心部の温度が高くなるが、その分、温度差ΔTが小さくなり、熱変形(反りや割れ)が小さくてすむ。
第二冷却工程(中温域)において、合金鋼は、例えば、図1に示したように衝風冷却により、その中心部の温度が温度T2F(380℃≦T2F<550℃)に到るまで、第一冷却工程における熱伝達係数Hよりも高いが第三冷却工程よりも低い熱伝達係数H(H<H<H)で冷却される。すなわち、第二冷却工程では、合金鋼は、図1に示したように、単純緩冷Bよりも高い熱伝達係数で冷却されるため、図2に示したように、合金鋼の中心部の温度が単純緩冷Bよりも低くなり、処理時間の短縮化が図られる。同時に、第二冷却工程では、合金鋼は、図1に示したように、単純急冷Aや複合冷却Cよりも低い熱伝達係数で冷却されるため、図2に示したように、合金鋼の中心部の温度は、単純急冷Aや複合冷却Cよりも高くなり、温度差ΔTに起因する熱変形(反り・割れ)が最小限に抑えられる。
また、温度T2Fは、マルテンサイト変態開始温度及びベイナイト変態開始温度よりも高い温度であるから、第二冷却工程においては、合金鋼の中心部では、これらの変態が生じない。
第三冷却工程(低温域)において、合金鋼は、例えば、図1に示したように、油冷により、その中心部の温度が温度T3F(T3F≦マルテンサイト変態開始温度−20℃)に到るまで、第二冷却工程における熱伝達係数Hよりも高い熱伝達係数H(H<H<H)で冷却される。すなわち、第三冷却工程では、合金鋼は、図1に示したように、単純緩冷Bや複合冷却Cよりも高い熱伝達係数Hで冷却されるため、図2に示したように、合金鋼の中心部の温度が、最初から急冷を行う単純急冷Aよりは高いものの、単純緩冷Bや複合冷却Cよりは低くなる。そして、第三冷却工程は、マルテンサイト変態開始温度及びベイナイト変態開始温度よりも高い温度から急冷を開始するのであるから、合金鋼は、比較的低温側でベイナイト変態し、又は、マルテンサイト変態する。そのため、合金鋼は、ブロックサイズが小さくなり、高い衝撃値が得られ強靱化が図られる。第三冷却工程では熱伝達係数Hは高く、最大温度差ΔTmaxを示しうるが、単純急冷Aや複合冷却Cの最大温度差ΔTmaxに比べれば小さくてすむため、合金鋼は、熱変形(反りや割れ)も最小限に抑えられる。また、急冷を行うことにより、合金鋼は、その処理時間の短縮化が図られる。
図3は、図1と同様に、各温度域における熱伝達係数の変化を示した模式図であるが、図1と異なるのは、全ての工程において冷却方法として衝風冷却を採用した場合を示したことである。図3に示したように、風速を高めていくことによって、冷却強度、すなわち、熱伝達係数を段階的に増すことができる。これによって、図1に示した場合と同様の作用を得ることができる。
次に、本発明の一実施形態に係る合金鋼の製造方法を用いて各試験片を作成し、その評価を行ったのでそれについて説明する。尚、この実施例は単なる例示にすぎず、本発明を限定するものではない。
(試験片の作製)
各実施例及び各比較例についてSKD61の金型(490kg,概形525mm×645mm×250mm,4本脚付きで中央部に凸部あり)を準備し、全てを焼入れ温度である1010℃〜1050℃(Ac3点以上)まで加熱した。
(焼入れ工程の評価及び得られた試験片の評価1)
焼入れ温度に加熱した金型に対して、表2(表3にも示す)に示した焼入れ(冷却)を行った。金型が160℃(およそ、マルテンサイト変態開始点より150℃低い温度)に達したところで焼入れ(冷却)を終了した。実施例1及び2は、冷却強度、すなわち、熱伝達係数を段階的に増した三工程による例であり、比較例1から4は、単純な一工程による例であり、比較例5及び6は、二工程による従来の複合冷却の例であり、比較例7は、従来例ではないが、本発明以外の三工程による複合冷却の例(熱伝達係数を段階的に増したものではなく第二工程で最も高い例)である。
表2は、各試験片の焼入れ工程及びその中心部の平均冷却速度CR,CR、最大温度差ΔTmax、処理時間tをまとめて示したものである。表3は、各試験片の焼入れ工程及び得られた試験片の性状、生産性の評価結果をまとめて示したものである。
これらの表に示した結果から、実施例1及び2は、ブロックサイズが微細であり、粒界炭化物の過度な析出がなく、反りも許容範囲にあるものとなった。また、実施例1及び2は、処理時間tについても良好であった。実施例1及び2は、高温域での合金鋼の中心部の平均冷却速度CRが極端に遅くないため(特に、比較例1と比較)、粒界炭化物の析出が抑えられる一方、その平均冷却速度CRが極端に速いものでもないため(特に、比較例4と比較)、試験片の反りや割れが回避されているといえる。
実施例1及び2は、三工程による複合冷却である比較例7と比較すると、
(1)低温域での合金鋼の中心部の平均冷却速度CRを速くすることができるため(約64%)、ブロックサイズを微細なものとすることができる、
(2)最大温度差ΔTmaxを小さくすることができるため(約70%)、熱変形(反り・割れ)を最小限のものとすることができる、
(3)処理時間tを短くすることができるため(約17%)、生産性を向上させる、という結果が得られた。
尚、比較例1は、熱変形は微少でも平均冷却速度が遅すぎるために粒界炭化物の過度な析出があり、ブロックサイズが粗大になり、処理時間が長すぎたため不良と判断された。比較例2は、処理時間が長すぎ、ブロックサイズが粗大になる傾向があるため不良と判断された。比較例3は、ブロックサイズ及び熱変形の点で問題があるため不良と判断された。比較例4は、熱変形が大きすぎるため不良と判断された。比較例5は、ブロックサイズ及び処理時間に問題があるため不良と判断された。比較例6は、中温域から低温域にかけて油冷するために温度差ΔTが大きくなり熱変形の点で問題があるため不良と判断された。比較例7は、比較的良好であったが、ブロックサイズや熱変形、処理時間の点で改良の余地があるため不良と判断された。
Figure 2007302946
Figure 2007302946
図4〜図6は、表2及び表3に示した結果に基づいて作成したグラフである。まず、図4は、縦軸に急冷工程における合金鋼の中心部の平均冷却速度CRを、横軸に最大温度差ΔTmaxをとり、実施例1及び2、比較例1から7をプロットしたグラフである。図5は、縦軸に衝撃値を、横軸に金型の反りをとり、実施例1及び2、比較例1から7をプロットしたグラフである。また、図6は、縦軸に処理時間を、横軸に金型の反りをとり、実施例1及び2、比較例1から7をプロットしたグラフである。
図4に示すように、比較例5〜7の複合冷却は、最大温度差ΔTmax及び平均冷却速度CRが、それぞれ、単純な緩冷(比較例1又は2)と単純な急冷(比較例3又は4)との間をとったにすぎない。すなわち、比較例5は、最大温度差ΔTmaxを低く抑えることができたが平均冷却速度CRが遅くなりすぎ、比較例6は、平均冷却速度CRがやや良好でも最大温度差ΔTmaxが高めになり、比較例7は、最大温度差ΔTmaxが高く、しかも、平均冷却速度CRが遅くなった。これに対して、実施例1及び2は、図4で矢示するように、単純な緩冷(比較例1又は2)と単純な急冷(比較例3又は4)との間から外れて、最大温度差ΔTmaxを低く抑えることができ、平均冷却速度CRを速くすることができた。
同様に、図5に示すように、比較例5〜7の複合冷却は、反りと衝撃値が、それぞれ、単純な緩冷(比較例1又は2)と単純な急冷(比較例3又は4)との間をとったにすぎない。これに対して、実施例1及び2は、反りを抑えることができ、しかも、衝撃値を高めることができた。
更に、図6に示すように、比較例5〜7の複合冷却は、反りと処理時間が、それぞれ、単純な緩冷(比較例1又は2)と単純な急冷(比較例3又は4)との間をとったにすぎない。これに対して、実施例1及び2は、反りを抑えることができ、しかも、処理時間を短くすることができた。
図4〜図6に示すように、実施例1及び2は、従来では同時に実現することが困難とされていた特性を同時に実現でき、理想の合金鋼に近づいたことが判る。
(焼入れ工程の評価及び得られた試験片の評価2)
焼入れ温度に加熱した金型に対して、実施例1、比較例6及び比較例7の冷却方法を用いて、焼入れ(冷却)を行い、それぞれを、実施例1’、比較例6’及び比較例7’とした。具体的には、実施例1’は、本発明の三段階冷却、すなわち、放冷→衝風冷→油冷(油温80℃)を行ったものであり、衝風冷への切り替えを3420secのタイミングで行い、油冷への切り替えを4220secのタイミングで行ったものである。比較例6’は、従来の二段階冷却、すなわち、放冷→油冷(油温130℃)を行ったものであり、油冷への切り替えを3420secのタイミングで行ったものである。比較例7’は、本発明以外の三段階冷却、すなわち、放冷→油冷(油温130℃)→衝風冷を行ったものであり、油冷への切り替えを3420secのタイミングで行い、衝風冷への切り替えを4220secのタイミングで行ったものである。尚、金型が160℃に達したところで焼入れ(冷却)を終了した。
表4〜表6は、それぞれ、実施例1’、比較例6’及び比較例7’についての処理時間、合金鋼の中心部の温度、温度差ΔTをまとめて示したものである。
図7及び図8は、表4〜表6に基づいて作成したグラフであり、図7は、温度差ΔTと処理時間との関係を示し、図8は、合金鋼の中心部の温度と処理時間との関係を示したものである。
まず、図7に示したグラフに基づいて説明する。最初の約60分は、いずれも放冷(徐冷工程)を行ったため、ほぼ同一の冷却履歴を示した。
次に、その後の約10分は、実施例1’では衝風冷却(第二冷却工程)を行ったのに対して、比較例6’及び比較例7’では油冷を行ったため、実施例1’は、断面内の温度差ΔTが最も小さくなり、熱変形(反りや割れ)を小さくすることができることが判明した。
次に、更に、その後金型が160℃に達するまでは、実施例1’では油冷(第三冷却工程)を行ったことから、この時間範囲における比較例6’や比較例7’と比べると温度差ΔTが相対的に大きくなった。また、実施例1’は、この第三冷却工程で全工程の中で最大温度差ΔTmaxを示した。しかしながら、実施例1’の最大温度差ΔTmaxは、比較例6’や比較例7’の最大温度差ΔTmaxに比べると小さい。従って、実施例1’は、熱変形(反りや割れ)を小さくすることができることが判明した。
次に、図8に示したグラフに基づいて説明する。SKD61の場合,中心部の温度が160℃に到達すると処理完了である。そこで、500℃以下の冷却速度、特に、低温域の380℃〜160℃における冷却履歴を比較すると、実施例1’は、冷却速度(温度変化÷処理時間)が比較例6’や比較例7’に比べて大きい。そのため、実施例1’は、低温域を急冷することができるため、ブロックサイズを小さくでき、衝撃値を高め、強靱化を図ることができることが判明した。
Figure 2007302946
Figure 2007302946
Figure 2007302946
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
本発明に係る合金鋼の製造方法は、熱間ダイス鋼等の合金鋼からなる大断面の合金鋼の熱処理方法として使用することができる。
各種の冷却方法を行った場合の各温度域における熱伝達係数の変化をまとめて示した模式図である。 各種の冷却方法を行った場合の合金鋼の中心部の温度の変化と処理時間との関係をまとめて示した模式図である。 風速を変更することにより熱伝達係数を制御した場合の各温度域における熱伝達係数の変化をまとめて示した模式図である。 各種の冷却方法を用いて冷却したときの合金鋼の中心部の平均冷却速度CRと最大温度差ΔTmaxとの関係を示すグラフである。 各種の冷却方法を用いて冷却したときの合金鋼の衝撃値と反りとの関係を示すグラフである。 各種の冷却方法を用いて冷却したときの合金鋼の反りと処理時間との関係を示すグラフである。 実施例1、比較例6及び比較例7の冷却方法を用いて冷却したときの合金鋼の断面内の温度差ΔTと処理時間との関係を示すグラフである。 実施例1、比較例6及び比較例7の冷却方法を用いて冷却したときの合金鋼の断面内の中心部の温度と処理時間との関係を示すグラフである。 従来の単純急冷における合金鋼の冷却履歴を示したグラフである。

Claims (12)

  1. 合金鋼を、その中心部の温度が焼入れ開始温度Ta(但し、Ta≧AC3点)に到るまで加熱する加熱工程と、
    その中心部の温度が焼入れ開始温度Taに到った後、前記合金鋼を、その中心部の温度が温度T1Fに到るまで、当該第一冷却工程におけるその中心部の平均冷却速度CRが、フェライト及び/又はパーライトが析出しない冷却速度Cとなるように冷却する第一冷却工程と、
    その中心部の温度が前記温度T1Fに到った後、前記合金鋼を、その中心部の温度がマルテンサイト変態開始温度及びベイナイト変態開始温度よりも高い温度T2Fに到るまで、当該第二冷却工程における熱伝達係数Hが、前記第一冷却工程における熱伝達係数Hよりも高くなるように冷却する第二冷却工程と、
    その中心部の温度が前記温度T2Fに到った後、前記合金鋼を、その中心部の温度が温度T3F(T3F≦マルテンサイト変態開始温度−20℃)に到るまで、当該第三冷却工程における熱伝達係数Hが、前記熱伝達係数Hよりも高くなるように冷却する第三冷却工程と、
    からなることを特徴とする合金鋼の製造方法。
  2. 前記温度T1Fは、550℃≦T1F≦800℃であり、
    前記温度T2Fは、380℃≦T2F<550℃である(但し、20℃≦T1F−T2F≦250℃)ことを特徴とする請求項1に記載の合金鋼の製造方法。
  3. 前記温度T1Fは、450℃≦T1F≦800℃であり、
    前記温度T2Fは、380℃≦T2F<600℃である(但し、20℃≦T1F−T2F≦250℃)ことを特徴とする請求項1に記載の合金鋼の製造方法。
  4. 前記熱伝達係数Hは、10≦H≦1000(W/m/K)であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
  5. 前記熱伝達係数Hは、30≦H≦5000(W/m/K)であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
  6. 前記熱伝達係数Hは、50≦H≦30000(W/m/K)であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
  7. 前記平均冷却速度CRは、5≦CR≦30(℃/min)であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
  8. 前記第二冷却工程における前記合金鋼の中心部の平均冷却速度CRは、3≦CR≦27(℃/min)であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
  9. 前記第三冷却工程における前記合金鋼の中心部の平均冷却速度CRは、2≦CR≦25(℃/min)であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
  10. 前記第一冷却工程における冷却方法は、放冷、衝風冷、加熱ガス冷又は加圧ガス冷のいずれかであり、
    前記第二冷却工程における冷却方法は、衝風冷、加熱ガス冷、加圧ガス冷又は油冷のいずれかであり、
    前記第三冷却工程における冷却方法は、油冷、衝風冷、加熱ガス冷、加圧ガス冷、水冷又はポリマー液を用いた冷却のいずれかであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
  11. 前記合金鋼は、150kg以上であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
  12. 前記合金鋼は、金型又は工具に用いられるものであることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
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