JP5727400B2 - プラスチック成形金型用鋼およびその製造方法 - Google Patents

プラスチック成形金型用鋼およびその製造方法 Download PDF

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Description

この発明は、熱伝導率及び靭性に優れたプラスチック成形金型用鋼とその製造方法に関するものである。
家電をはじめ、自動車部品、OA機器など多くの分野の製品でプラスチックが使われている。プラスチック成形では、溶融したプラスチックを金型のキャビティの形状に沿って変形させ、冷却してプラスチックを固化する。
プラスチックの固化時間を支配する因子の一つに金型の熱伝導率が挙げられ、金型用鋼の熱伝導率が大きいほど固化時間が短縮されるので、プラスチック成形の生産性向上が期待できる。
プラスチック成形では、プラスチックが充填される金型の意匠面がプラスチックに転写されることから、金型の表面肌を管理する必要があり、鏡面磨き性は金型用鋼として重要な特性の一つである。金型用鋼の硬さは、金型の鏡面磨き性に影響する因子であり、一般的に金型用鋼の硬さが高いほど鏡面性は良くなる。これは、素地と硬質な非金属介在物などとの硬さの差異が小さくなるためなどとして解釈されている。
プラスチック成型金型用鋼の多くは、あらかじめ調質熱処理により所定の硬さに調整された、いわゆるプリハードン鋼として提供され、機械加工後に金型として使用される。プリハードン鋼は、硬さに応じて様々な鋼種が製品化されており、その中の一つに30HRC前後の硬さを有する低炭素合金鋼がある。これらは、#3000程度の鏡面性を有している。
特許文献1には、高熱伝導率を特徴としたプラスチック成形金型用鋼が提案されている。
特許文献2には、本発明で対象とする金型用鋼と硬さが同程度である高融点金属鋳造用の金型用鋼が提案されている。この金型用鋼は、調質によって170〜331HB(SAE J 417での換算によると、約6HRC〜約35HRC)の硬さに調整される。200℃における熱伝導率は、0.08〜0.11cal/cm/s/℃(33.5〜46.0W/m/K)であり、一般的な熱間工具鋼であるSKD61(0.07caI/cm/s/℃(29.3W/m/K))と比較して高熱伝導率であることを特徴の一つとして挙げている。
特許文献3にも、調質によって硬さが170〜331HB(SAE J 417での換算によると、約6HRC〜約35HRC)に調質される高融点金属鋳造用の金型用鋼が提案されている。この金型用鋼の200℃における熱伝導率は、0.10〜0.13cal/cm/s/℃(41.8〜54.4W/m/K)であり、一般的な熱間工具鋼であるSKD61と比較して高熱伝導率であることを特徴の一つとして挙げている。
特許文献4では、調質によって約43HRCに硬さが調整されるとともに、室温での熱伝導率が30W/m/K以上である、主として金属の鋳造用金型を想定した工具鋼が提案されている。
また、特許文献5では、熱伝導率と靭性を高めた金型用鋼が提案されている。
金属の鋳造では、溶融した金属を金型内へ注入し、冷却して固化することにより製品を製造する。冷却は、金型の内部に設けた冷却孔の中に冷却用媒体を流すか、もしくは金型表面に冷却用の媒体を吹きつけることにより行うが、金型の温度低下が不十分なまま新たな鋳造品を製造すると、鋳造品の冷却速度が低下し、品質低下が生じる。金型用鋼の熱伝導率が高いと、温度低下が早く進行してこの問題が抑制されるので、鋳造品の金型用鋼に
おいても高熱伝導率が望ましい。
また、金属鋳造金型では、溶融金属が注入されるキャビティ面の温度は、たとえば溶融金属がアルミニウム合金の場合、注入直後に600℃程度まで急速に加熱される。表面は加熱によって膨張しようとするが、キャビティから離れた金型内部は室温に近い状態なので、金型内部に拘束されて表面には圧縮応力が発生する。一方、鋳造後の冷却過程では、表面が急激に冷却されて収縮しようとするが、内部の温度上昇に伴う膨張によって拘束されて引張応力が生じる。この圧縮と引張の熱応力サイクルが繰返し負荷されることにより、ヒートチェックと呼ばれる熱疲労亀裂が発生・進展する。金型用鋼の熱伝導率が高ければ、表面と内部との温度差が小さくなり、熱応力が小さくなるため、耐ヒートチェック性が向上すると考えられている。このような温度サイクルは、鋳造金型に限らず、鍛造や押出しなどの全ての熱間加工金型で負荷されるため、これらの金型用鋼には高熱伝導率が求められる。
なお、プラスチック成形金型においても、溶融したプラスチックが射出されるキャビティと金型内部に設けられた冷却孔の間に、比較的大きな温度勾配が生じることから、ヒートチェックが発生・進展しやすい環境である。ヒートチェックが発生すると、製品表面へのヒートチェック模様の転写、あるいは冷却用媒体の漏れが生じることから、ヒートチェックは抑制する必要がある。すなわち、プラスチック成形金型用鋼においても、金属鋳造金型用鋼と同様に、耐ヒートチェック性の観点からも高い熱伝導率が望ましい。
特開2011−132577号公報 特開昭57−210957号公報 特開昭60−215745号公報 特開2009−13465号公報 特開2011−94168号公報
ところで、プラスチック成形金型では、金型加工中における熱応力あるいは成形中における衝撃によって割れが生じる危険性があり、割れを防ぐ観点から比較的高い靭性が必要である。また、ヒートチェックを抑制する観点からも、靭性は高いほうが望ましいが、前述した特許文献1〜4においては靭性に関する配慮は格別されておらず、靱性についての言及はない。
特許文献5では、熱伝導率に加えて靭性を高めた金型用鋼が提案されている。しかし、実施例で示されている鋼種は、43HRCに調整されているとともに、室温での衝撃値が20〜41J/cm、熱伝導率が33.0〜35.9W/m/Kであり、靱性、熱伝導性ともに十分なものではない。
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、高い熱伝導率を満たしつつ、かつ靭性にすぐれた金型用鋼を提供することを目的とする。
すなわち、本発明のプラスチック成形金型用鋼のうち、第1の本発明は、質量%にて、C:0.21〜0.26%、Si:0.15%以下、Mn:0.3〜1.2%、Cr:1.6〜2.1%、Al:0.03〜0.06%、B:0.001〜0.005%、MoとWを単独もしくは複合でMo+1/2W:0.2〜0.6%、V:0.05〜0.3%を含有し、残部がFeと不可避不純物とからなり、かつ前記不可避不純物中でNi:0.5%以下、Cu:0.4%以下、S:0.005%以下、O:0.0080%以下、N:0.02%以下に規制した組成を有し、硬さが27〜33HRCの範囲内にあることを特徴とする。
第2の本発明のプラスチック成形金型用鋼は、前記第1の本発明において、室温での熱伝導率が38W/m/K以上であることを特徴とする。
第3の本発明のプラスチック成形金型用鋼は、前記第1または第2の本発明において、旧オーステナイト粒径が、結晶粒度番号で4以上であることを特徴とする。
第4の本発明のプラスチック成形金型用鋼は、前記第1〜3のいずれかの本発明において、ノッチ深さが2mmのUノッチ形状試験片における室温のシャルピー衝撃値が70J/cm以上であることを特徴とする。
第5の本発明のプラスチック成形金型用鋼の製造方法は、前記第1の本発明の組成を有し、調質によってプラスチック成形金型用鋼を製造する方法であって、最終オーステナイト化工程前に初析フェライトを体積率で8%以上析出させ、該最終オーステナイト化工程および焼戻しによる調質によって、旧オーステナイト粒径を結晶粒度番号で4以上、硬さを27〜33HRCの範囲内とすることを特徴とする。
第6の本発明のプラスチック成形金型用鋼の製造方法は、前記第5の本発明において、前記最終オーステナイト化工程が、焼準しまたは焼入れであることを特徴とする。
以下に、本発明で規定する条件等について説明する。なお、以下の組成における成分はいずれも質量%で示されるものである。
(組成)
鉄鋼中では、Si、Mn、Crなどの含有量を少なくすることによって、高熱伝導率化することができる。金属中においては、自由電子による熱伝導が支配的であり、これらの合金元素には、自由電子の動きを阻害する作用があると推察される。しかしながら、これらは焼入れ性を向上させる元素であり、これらの元素を極端に減じると、焼入れ性が低下してフェライトが混在する場合があり、局所的に硬さが低下する。前述したように、金型用鋼の硬さは鏡面性に大きく影響する因子であり、フェライトが混在すると金型用鋼内で鏡面性にばらつきが生じるために好ましくない。これらの点を配慮して組成が定められている。以下、本発明で成分範囲を限定した理由を以下に説明する。
C:0.21〜0.26%
Cは焼入れ性を向上させる元素であり、また目的の硬さに調整するためにも0.21%以上の含有が必要である。一方 多量に含有する場合には、熱伝導性が低下するとともに、焼入れ性が向上しすぎて、調質などの最終オーステナイト化工程前に初析フェライトが析出しなくなる。また、溶接性も劣化することから、その上限を0.26%とする。
Si:0.15%以下
Siは熱伝導性を顕著に低下させるとともに、成分偏析が生じて鏡面性を劣化させることから、その上限を0.15%とする。一方、製鋼工程の脱酸剤として使われ、少なすぎると脱酸能が悪化することから、0.01%以上の含有量が望ましい.同様の理由で下限を0.05%、上限を0.10%とするのが一層望ましい。
Mn:0.3〜1.2%
Mnは焼入れ性向上に効果的な元素であり、添加により良好な機械的性質を得ることができる。その効果を得るためには、0.3%以上の含有が必要である。ただし、過度の含有は熱伝導性の低下を招くとともに、焼入れ性が向上しすぎて、調質などの最終オーステナイト化工程前に初析フェライトが析出しなくなるので、上限を1.2%とする。
同様の理由で下限を0.5%、上限を0.9%とするのが望ましい。
Cr:1.6〜2.1%
Crは焼入れ性の向上作用をもたらす。また、金型の使用時の錆発生によって鏡面性が低下するのを防止する観点から、金型用鋼にとって耐食性は望ましい特性であり、Crの含有は耐食性の向上をもたらす。以上の理由から、1.6%以上の含有が必要である。一方で、過度の含有は熱伝導率の低下をもたらすとともに、焼入れ性が向上して、調質などの最終オーステナイト化工程前に初析フェライトが析出しなくなることから、その上限を2.1%とする。
同様の理由で下限を1.7%、上限を1.9%とするのが一層望ましい。
Al:0.03〜0.06%
AlはSiと同様に鋼塊溶製時に脱酸剤として用いられる。本発明鋼では、熱伝導率を向上させるために、Siを低く抑えていることから、最低でも0.03%の含有量が必要である。しかし、多すぎるとAl系介在物が鋼中に残留し、被削性や鏡面性を悪化させる原因となるため、0.06%以下とする。
B:0.001〜0.005%
Bは焼入れ性の向上効果を有するに加えて、被削性を付与させる作用もあるため、0.001%以上の含有が必要である。一方で過度に含有する場合は、熱間加工性を阻害することに加えて溶接時の割れ感受性を高めるために、その上限を0.005%とする。
同様の理由で上限を0.003%とするのが一層望ましい。
Mo+1/2W:0.2〜0.6%
MoとWは、焼戻し時に微細な炭化物を形成し、硬さ向上の役割を果たすが、過剰に含有すると靭性の低下をもたらすことから、上限及び下限を定めることが必要である。ここでWは、Moに対して質量%でほぼ倍の量で同様の効果が認められることから、Mo+1/2Wの計算式で、下限を0.2%、上限を0.6%に規制する。なお、MoはCrと同様に耐食性向上効果も有することから、その下限を0.3%にするのが望ましい。また、上限は、靱性の低下の観点から0.6%以下が望ましい。
V:0.05〜0.3%
Vは焼戻し軟化抵抗性を高めると共に、硬質の炭化物を微細に形成して耐摩耗性を向上させる効果があるため、0.05%以上の含有が必要である。一方、多すぎると金型加工時の工具の摩耗を増加させるとともに、多量の炭化物の析出による靭性低下を招くことから、その上限を0.3%以下とする。
なお、 同様の理由で下限を0.1%、上限を0.2%とするのが一層望ましい。
Ni:0.5%以下
Niは、本発明鋼を製造するに当たってスクラップを原料とする場合、不可避的に混入する可能性がある。Niは焼入れ性を高めるのに有効な元素であるが、本発明ではC、Mn、Crなどの添加で調質後に初析フェライトが析出しない程度の十分な焼入れ性を得ることができることに加え、過度の含有は熱伝導率の低下をもたらすことから、その上限を0.5%とした。なお、焼入れ性や硬さの向上を意図する場合は0.2%以上含有するのが望ましいが、Niは含有しない、または不可避的不純物とした場合は0.2%未満が望ましい。
Cu:0.4%以下
Cuは、本発明鋼を製造するに当たってスクラップを原料とする場合、不可避的に混入する可能性がある。Cuは多すぎると被削性を低下させることに加え、熱間加工性の著しい低下をもたらす。加えて、焼入れ性が向上して、調質などの最終オーステナイト化工程前に初析フェライトが析出しなくなることから、上限を0.4%に規制する。
なお、耐食性や焼入れ性の向上を意図する場合は、Cuを0.2%以上含有するのが望ましいが、Cuは含有しない、または不可避的不純物とした場合は0.2%未満が望ましい。
S:0.005%以下、O:0.0080%以下、N:0.02%以下
SはMn、OはSiやAlなど、NはAlなどと結合して非金属介在物を形成する。これらは、鏡面研磨時にはピンホール欠陥として現出する場合があるため、鏡面性を高める上での障害となる。また、腐食環境下での錆の起点ともなりうる。これらの理由から、上記した非金属介在物はできるだけ少なくするのが望ましく、そのためには、S、O、Nの含有量を極力低減させることが必要である。このため、S、O、Nの上限は、それぞれ0.005%、0.0080%、0.02%とする。また、望ましくは、上限をさらに0.003%、0.004%、0.01%に規制する。
硬さ:27〜33HRC
本プリハードン鋼の硬さは、27〜33HRCの範囲に調質される。硬さが27HRC未満になると、素地と硬質な非金属介在物の間の硬さの差異が大きくなり、研磨時に非金属介在物による引っかき傷が生じやすくなって鏡面性が低下する。一方、硬さが33HRCを越えると、靭性が低下する.
なお、硬さの測定は、JIS Z 2245で規定されているロックウェル硬さ測定方法によって行うことができる。
室温での熱伝導率:38W/m/K以上
室温(15℃〜35℃)での熱伝導率を38W/m/K以上とすることで、生産性の向上、ヒートチェックの抑制を図ることができる。
旧オーステナイト粒径:結晶粒度番号4以上
旧オーステナイト粒径を結晶粒度番号4以上とすることで良好な靱性が得られる。したがって、上記結晶粒度番号の条件を満たすことが望ましい。
なお、上記粒径は、JIS G 0551に規定される方法によって測定することができる。
シャルピー衝撃値:70J/cm以上
十分なシャルピー衝撃値を有することで、割れを効果的に防ぎ、さらにヒートチェックを抑制するので、上記シャルピー衝撃値を有するのが望ましい。
なお、上記シャルピー衝撃値は、JIS Z 2242で規定されている条件によって測定することができる。
最終オーステナイト化工程前の初析フェライト体積率:8%以上
最終オーステナイト化工程の前に初析フェライト体積率を8%以上にしておくことで、同工程後に細粒の組織が得られ、優れた靱性が得られる。したがって、最終オーステナイト化工程前の初析フェライト体積率は8%以上であるのが望ましい。
すなわち、高靭性化させるためには、結晶粒径は小さいほうが良い。再結晶時の核生成サイトを多く分布させておくのが、結晶粒を微細化させる一つの方法であり、核生成サイトの一つとして結晶粒界が挙げられる。たとえば、調質前の旧オーステナイト結晶粒径が同等で、初析フェライトが析出した鋼とフルベイナイトもしくはフルマルテンサイトの鋼を比較した場合、初析フェライトが析出した鋼で結晶粒界の密度が高いために、調質後の旧オーステナイト結晶粒はフルベイナイトもしくはフルマルテンサイトの鋼より微細になる。
なお、最終オーステナイト化工程の前における初析フェライト体積率は、同工程前の熱履歴における冷却工程の影響を受ける。このような冷却工程としては、熱間加工や焼準しでの冷却工程が例示される。これらの工程における冷却速度を小さくするほど、初析フェライトが析出しやすくなるが、冷却速度を極端に小さくしないと初析フェライトが析出しない場合は、冷却に長時間を要することになり、金型用鋼の製造効率が低下する。
なお、熱伝導率の向上と最終オーステナイト化工程前での初析フェライト析出を利用した結晶粒微細化に伴う高靭性化を達成するには、いずれも焼入れ性向上元素の添加量が少ない方が望ましいが、これらを極端に減じると最終オーステナイト化工程後にも初析フェライトが分布して、鏡面性を損なう可能性がある。本発明で最終オーステナイト化工程前の初析フェライト体積率を限定する場合、それぞれの添加元素量を限定することにより、熱伝導性と靭性、及び鏡面性のいずれの特性も満足することができる。
なお、上記調質の内容は本発明としては特定のものに限定されるものではないが、焼入れ温度880〜1020℃、水冷や油冷の条件による焼入れ、加熱温度500〜650℃、空冷や炉冷の条件による焼戻しを例示することができる。焼入れ前に焼準しを行うものであってもよい。なお、小さい製品などでは、加熱後に水冷や油冷を行わず、例えば、空冷やファンを使用した衝風冷却による焼準しによって最終オーステナイト化を行うこともできる。
なお、最終オーステナイト化工程は、最終的にオーステナイト化の現象が生じる工程を意味しており、熱処理用の加熱および冷却を行う場合の他、例えば熱間加工後の冷却過程を制御するものであってもよい。
以上説明したように、本発明によれば、高い熱伝導率と優れた靭性とを有するプラスチック成形金型用鋼を得ることができる。
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明のプラスチック成形金型用鋼は、常法により溶製することができる。S、O、Nなどを規制する製法としては、取鍋精錬法、真空溶解法、工レクトロスラグ再溶解法などがあるが、本発明では、これらの製法を適宜採用することで、所定の組成に調整することができる。溶製により得られる鋼塊は、必要に応じて鍛造や圧延等の加工を行い、さらに熱処理を行う。鍛造等の加工は常法により行うことができる。
また、最終オーステナイト化工程前の初析フェライトの体積率を調整するため、最終オーステナイト化工程前に見られるオーステナイト化過程での冷却速度を管理することが必要になる場合がある。このオーステナイト化過程としては、鍛造などの熱間加工後の焼準しや焼入れ前の焼準し等が挙げられ、これらの工程で常温まで温度を低下させる時間は24時間以上とするのが望ましい。但し、初析フェライトの析出に影響する550℃以上での冷却速度を制御して初析フェライトの体積率を調整すれば、その後の冷却速度は任意に定めることもできる。
鍛造等の加工後に最終オーステナイト化工程を含む調質がなされるが、最終オーステナイト化工程は、焼準し、焼入れ、焼戻しなどにより行うことができる。焼戻し後の旧オーステナイト粒度番号を4以上にするため、焼入れ温度は880〜1020℃の範囲とするのが望ましい。また、焼入れ後にフェライトを析出させないために、焼入れでは水もしくは油を使用して冷却するのが望ましい。ただし、小さな製品などでは、焼準しを最終オーステナイト化工程とすることもできる。また、熱間鍛造などの後の冷却を制御して焼準しを行うことで最終オーステナイト化工程がなされ、その後、焼戻しを行ってもよい。さらに、熱間加工後の冷却後に焼準し工程を設けてもよい。加えて、焼準し後に焼入れを行うものであってもよい。この場合は、焼入れが最終オーステナイト化工程に相当する。
上記の最終オーステナイト化後に、適正な焼戻しを行うことで、所望の硬さが得られる。当該の焼戻しの条件としては、500℃〜650℃で加熱してから炉冷するのが最適である。該焼戻しによって27〜33HRCの硬さを得ることができる。なお、硬さの測定方法に関してはJIS Z 2245で規定されているロックウェル硬さ測定方法に準じた。このプリハードン金型用鋼は、必要に応じて切削加工、鏡面研磨が行われる。切削加工においては、良好な被削性を示し、切削加工を円滑かつ高品質に行うことができる。また、鏡面研磨によって、優れた鏡面性を示す。
以下に本発明の実施例を以下に説明する。
表1(残部がFeおよび他の不可避不純物)に各供試材の化学成分を示す。なお、供試材としては、本発明の成分範囲になる発明鋼と、本発明の成分範囲を外れた比較鋼を用意した。
上記の各供試材の成分となるように調整し、真空誘導溶解法(VIM法)により溶製した50kg試験鋼塊を1100℃〜1300まで加熱して熱間鍛造を行い、幅130mm、厚さ30mmの鍛造板を製作した。鍛造後に室温まで冷却した後、1200℃に加熱しての焼準しと、920℃からの焼入れ及び550〜645℃での焼戻しを行い、硬さを約30HRCに調整した。なお、比較的大型な製品を想定して、焼準し時に室温までの冷却に要した時間を約48時間、焼入れ時の平均冷却速度は20℃/minとした。
このように製作した供試材より試験片を採取し、以下に記す各種特性を調査した。
まず、靭性についてはJIS Z 2242で規定されているノッチ深さが2mmであるUノッチ形状の試験片を用い、シャルピー衝撃試験を室温にて実施して、吸収エネルギーを断面積で除した衝撃値を求めた。また、各供試材より熱伝導率試験片を採取し、室温において熱伝導率を測定した。熱伝導率は以下の式で表され、密度はアルキメデス法、比熱は示差走査熱量(DSC)法、熱拡散率はレーザーフラッシュ法により、それぞれ求めた。

熱伝導率(W/m/K)=密度(kg/m)×比熱(J/kg/K)×熱拡散率(m/s)
加えて、焼戻し後の旧γ粒度番号の測定をJIS G 0551に従って実施した。さらに、焼入れ前と焼戻し後のミクロ組織観察を行うとともに、焼入れ前組織の観察面における初析フェライトの面積率を光学顕微鏡を用いた倍率50倍の視野(1.8mm×1.3mm)で画像解析により測定し、5視野の平均値を得て、これを体積率と見なした。
表2に、発明鋼と比較鋼の焼入れ前と焼戻し後における初析フェライトの有無、焼戻し後の旧オーステナイト結晶粒度番号、シャルピー衝撃値、熱伝導率を示す。
本発明鋼は、いずれも焼入れ前に体積率で8%以上の初析フェライトの析出が認められたが、焼戻し後の組織はベイナイトであり、初析フェライトは認められなかった。
旧オーステナイト結晶粒度番号は4.6以上、シャルピー衝撃値は70J/cm以上、熱伝導率は38.9W/m/K以上であった。
一方、比較鋼では、比較鋼No.10、13、16において、焼戻し後に初析フェライトが認められ、硬さが27HRCを下回った、比較鋼No.10ではC、比較鋼No.13ではMn、比較鋼No.16ではCrの含有量が、本発明で規定している組成範囲を下回っているため、焼入れ性が大きく低下したことに起因すると考えられる。これらの鋼種では、鏡面研磨したときの鏡面性が発明鋼よりも劣る。
比較鋼No.11、12、15、17では、シャルピー衝撃値が35〜42J/cmと発明鋼と比較して低い。これら鋼種の旧オーステナイト粒度番号は2.2〜2.5であり、発明鋼と比較して結晶粒が粗大であることが、靭性が低下した一因である。これらの鋼種では、いずれも焼入れ前の初析フェライトが認められなかったため、調質後に細粒が得られなかったと考えられる。比較鋼No.11ではC、比較鋼No.12ではSi、比較鋼No.15ではNiとCr、比較鋼No.17ではCrとCuを、本発明の組成範囲の上限を超えて含有しており、これにより焼入れ性が向上したことが、調質前に初析フェライトが得られなかった主因である。また、これらの鋼種の熱伝導率は34.3〜37.4W/m/Kであり、発明鋼と比較して小さいが、これは、C、Si、Ni、Cr、Cuの組成範囲が本発明の上限を逸脱していることに起因しているものと考えられる。
比較鋼No.14では、焼入れ前に8%以上の初析フェライトが析出したため、焼戻し後の結晶粒度番号は4.8と比較的細粒であるとともに、衝撃値は86J/cmと比較的良好である。しかしながら、熱伝導率は34.5W/m/Kであり、発明鋼と比較して低い。これは、Mn含有量が本発明で規定している上限を上回っていることに起因する。
比較鋼No.18と比較鋼No.19では、いずれも焼入れ前に8%以上の初析フェライトが析出したため、焼戻し後の結晶粒度番号は5.4及び7.2と比較的細粒であるが、衝撃値は35及び36J/cmであり、本発明鋼と比較して低い。比較鋼No.18ではMo+1/2Wの値が、比較鋼No.19ではV添加量が本発明で規定する上限を上回った。両鋼種では、これらの元素に起因した炭化物が多量に析出したため、靭性に対して悪影響を及ぼしたと考えられる。
比較鋼No.20も焼戻し後の結晶粒度番号は6.5と比較的細粒であるにも関わらず、衝撃値は54J/cmと本発明鋼より低かった。比較鋼No.20では、Al添加量が本発明で規定している下限を下回っているため、脱酸能が低下してMnなどを含んだ粗大な酸化物が生成し、これが衝撃値を劣化させた一因となっている。また、これらの粗大酸化物は、鏡面磨き時のピンホールの原因にもなる。
Figure 0005727400
Figure 0005727400

Claims (6)

  1. 質量%にて、C:0.21〜0.26%、Si:0.15%以下、Mn:0.3〜1.2%、Cr:1.6〜2.1%、Al:0.03〜0.06%、B:0.001〜0.005%、MoとWを単独もしくは複合でMo+1/2W:0.2〜0.6%、V:0.05〜0.3%を含有し、残部がFeと不可避不純物とからなり、かつ前記不可避不純物中でNi:0.5%以下、Cu:0.4%以下、S:0.005%以下、O:0.0080%以下、N:0.02%以下に規制した組成を有し、硬さが27〜33HRCの範囲内にあることを特徴とするプラスチック成形金型用鋼。
  2. 室温での熱伝導率が38W/m/K以上であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック成形金型用鋼。
  3. 旧オーステナイト粒径が、結晶粒度番号で4以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のプラスチック成形金型用鋼。
  4. ノッチ深さが2mmのUノッチ形状試験片における室温のシャルピー衝撃値が70J/cm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック成形金型用鋼。
  5. 請求項1に記載の組成を有し、最終オーステナイト化工程および焼戻しによる調質によってプラスチック成形金型用鋼を製造する方法であって、
    前記最終オーステナイト化工程前に初析フェライトを体積率で8%以上析出させ、前記調質によって、旧オーステナイト粒径を結晶粒度番号で4以上、硬さを27〜33HRCの範囲内とすることを特徴とするプラスチック成形金型用鋼の製造方法。
  6. 前記最終オーステナイト化工程が、焼準しまたは焼入れであることを特徴とする請求項5記載のプラスチック成形金型用鋼の製造方法。
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