JP2008031530A - 合金鋼の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】臨界冷却速度がCである合金鋼を焼入れ温度Taに加熱する加熱工程と、表面温度が温度Ts(Ms+100℃≦Ts(℃)≦Ms+350℃、Ms:マルテンサイト変態開始温度(℃))になるまで、かつ、中心部の平均冷却速度C1がC以上となるように冷却する冷却工程Aと、表面温度が温度Tf(Ms-200℃≦Tf(℃)≦Ms+300℃。Tf<Ts。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C2がC1×0.8以上になるように冷却する冷却工程Bと、中心部が未変態であり、かつ断面内の温度差が100℃以下になるまで、中間保持温度Tb(Ms≦Tb(℃)≦Ms+300℃)で保持する保持工程と、中心温度が温度Te(≦Ms-80℃)となるまで、合金鋼を急冷する冷却工程Cと、焼戻し工程とを備えた合金鋼の製造方法。
【選択図】図3
Description
このような金型に使用される熱間ダイス鋼には、
(a) 使用中の負荷が大きいので、強度が高いこと、
(b) 金型を割れにくくし、耐久性を向上させるために、靱性が高いこと、
(c) 仕上げ加工の工数を少なくするために、焼入れ後の変形量が少ないこと、
が必要である。
(1) 約500℃までの高温域では、粒界炭化物の過度な析出と、パーライト変態を回避する、
(2) 約500℃までの高温域では、熱変形を抑制するために、急冷を回避する、
(3) 約500℃以下の低温域では、急冷し、ベイナイト変態を低温で開始させる(好ましくは、マルテンサイト変態させる)、
(4) ベイナイト変態開始後も、新たに生成するベイナイト相を微細化するために、急冷を継続する、
ことが必要とされる。
例えば、特許文献1には、熱間ダイス鋼をオーステナイト化温度まで加熱し、約500℃までをベイナイト領域のノーズに向かう冷却速度で徐冷(ソフト冷却)し、約500℃以下をベイナイト領域のノーズを避ける冷却速度で急冷(ハード冷却)する熱間ダイス鋼からなる金型の焼入れ法が開示されている。同文献には、このような方法によって、靱性が高く、かつ、熱歪みの少ない金型が得られる点が記載されている。
例えば、大断面の型材において、強靱化を優先して低温域を急冷すると、表面と内部の温度差が大きくなり、型の変形量が増大する。そのため、仕上げ加工における手直し工数が増加し、コスト増加や納期遅延を招く。また、熱応力が著しく大きくなった場合には、型材が割れる場合もある。
一方、寸法精度向上を優先して低温域を緩冷すると、強度と靱性が低下し、型寿命が低する。また、処理時間が長くなるので、納期遅延やコスト増加も招く。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、大断面を有する型材であっても、強度、靱性、及び、寸法精度の高い合金鋼を製造することが可能な合金鋼の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、コスト増加や納期遅延を招くことなく、このような特性を有する合金鋼を製造することが可能な合金鋼の製造方法を提供することにある。
フェライト及び/又はパーライトが析出しない臨界冷却速度がC(℃/min)である合金鋼を、焼入れ温度Ta(但し、Ta(℃)≧前記合金鋼のA1点(℃)。)に加熱する加熱工程と、
前記合金鋼の表面温度が温度Ts(但し、Ms+100℃≦Ts(℃)≦Ms+350℃、Msは、前記合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃)。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C1がC以上となるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Aと、
前記合金鋼の表面温度が温度Tf(但し、Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms+300℃。Tf<Ts。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C2がC1×0.8以上になるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Bと、
前記合金鋼を、中心部が未変態の状態であり、かつ前記合金鋼の断面内の温度差が100℃以下になるまで、中間保持温度Tb(但し、Ms≦Tb(℃)≦Ms+300℃)で保持する保持工程と、
前記合金鋼の中心温度が温度Te(但し、Te≦Ms−80℃)となるまで、前記合金鋼を急冷する冷却工程Cと、
前記合金鋼の焼戻しを行う焼戻し工程と
を備えていることを要旨とする。
フェライト及び/又はパーライトが析出しない臨界冷却速度がC(℃/min)である合金鋼を、焼入れ温度Ta(但し、Ta(℃)≧前記合金鋼のA1点(℃)。)に加熱する加熱工程と、
前記合金鋼の表面温度が温度Tf(但し、Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms+300℃、Msは、前記合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃)。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C1がC以上となるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Aと、
前記合金鋼を、中心部が未変態の状態であり、かつ前記合金鋼の断面内の温度差が100℃以下になるまで、中間保持温度Tb(但し、Ms≦Tb(℃)≦Ms+300℃)で保持する保持工程と、
前記合金鋼の中心温度が温度Te(但し、Te≦Ms−80℃)となるまで、前記合金鋼を急冷する冷却工程Cと、
前記合金鋼の焼戻しを行う焼戻し工程と
を備えていることを要旨とする。
次いで、中心部が未変態の状態であり、かつ合金鋼の断面内の温度差が100℃以下になるまで中間保持温度Tbで保持し、さらに合金鋼の中心温度が温度Teになるまで急冷すると、表面だけでなく、中心部においても相対的に低温においてベイナイト変態させ、あるいはマルテンサイト変態させることができる。そのため、合金鋼の変形を最低限に抑制することができる。また、中心部の変態が相対的に低温で開始するので、内部まで強靱化された合金鋼が得られる。さらに、中間保持温度Tbにおいて必要最小限の保持が行われるので、生産効率も高い。
本発明の第1の実施の形態に係る合金鋼の製造方法は、加熱工程と、冷却工程Aと、冷却工程Bと、保持工程と、冷却工程Cと、焼戻し工程とを備えている。
本発明において、「合金鋼」とは、臨界冷却速度がC(℃/min)である鋼(鉄合金)であって、不可避の不純物以外にも焼入れ性向上元素を有するものをいい、合金鋼に含まれる添加元素の種類及び量、並びに、臨界冷却速度Cの大きさは、特に限定されるものではない。また、「臨界冷却速度」とは、フェライト及び/又はパーライトが析出しない最小の冷却速度を言う。本発明に好適な合金鋼は、臨界冷却速度Cが30℃/min以下の鋼であり、このような合金鋼としては、具体的には、
(1) SKD61などの熱間ダイス鋼、
(2) SKD11などの冷間工具鋼、
(3) SKH51などの高速度工具鋼、
(4) SNCM39などの強靱鋼、
などがある。本発明は、これらのいずれの鋼種に対しても適用することができる。特に、工具や金型などに用いられる鋼に対して本発明を適用すると、高い効果が得られる。
本発明は、小断面の小型材にも当然に適用できるが、大断面の大型材に適用すると、高い効果が得られる。特に、その重量が150kg以上、200kg以上、あるいは、1000kg以上である大型材に対して本発明を適用すると、従来の方法では得られない高い強靱化と高い寸法精度が得られる。
合金鋼の焼入れ温度Taへの昇温方法は、特に限定されるものではなく、合金鋼の組成に応じて最適なものを選択すれば良い。例えば、焼入れ温度Taが相対的に低い場合、あるいは、合金鋼の大きさが相対的に小さい場合、合金鋼をそのまま焼入れ温度Taまで昇温すればよい。
また、例えば、焼入れ温度Taが相対的に高い場合、あるいは、合金鋼の大きさが相対的に大きい場合、焼入れ温度Taに長時間保持すると、オーステナイトの粒成長が起こる場合がある。従って、このような場合には、A1点直上まで徐加熱し、その温度で保持して温度を均一化した後、焼入れ温度Taまで急加熱するのが好ましい。
ここで、「温度Ts」とは、次の(1)式で表される温度をいう。
Ms+100℃≦Ts(℃)≦Ms+350℃ ・・・(1)
但し、Msは、合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃)。
温度Tsが相対的に低すぎる場合、冷却工程Bによる2段階目の強冷却を開始するまでに長時間を要するので、生産性の低下を招く。また、必要以上に徐冷しても反りを小さくする効果に差がなく、実益に乏しい場合がある。従って、温度Tsは、Ms+100℃以上が好ましく、さらに好ましくは、Ms+150℃以上である。
一方、温度Tsが相対的に高すぎる場合、冷却工程Bによる2段階目の強冷却が相対的に広い温度区間に渡って行われることになるので、型材に割れや反りが生ずるおそれがある。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、温度Tsは、Ms+350℃以下が好ましく、さらに好ましくは、Ms+300℃以下である。
例えば、熱間ダイス鋼の場合、Msは、280℃〜330℃であるので、温度Tsは、380℃〜680℃が好ましく、さらに好ましくは、430℃〜630℃である。
なお、合金鋼の形状や大きさによっては、冷却工程Bを省略し、温度Tfまで平均冷却速度C1で徐冷した方が反りが小さくなる場合がある。この点については、後述する。
一般に、中心部の平均冷却速度C1が速くなるほど、強度及び靱性に優れた合金鋼が得られる。しかしながら、中心部の平均冷却速度C1を速くするためには、それ以上に表面の冷却速度を速くする必要がある。その結果、表面と中心の温度差が大きくなり、合金鋼に変形や割れが発生するおそれがある。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、中心部の平均冷却速度C1は、30℃/min以下が好ましく、さらに好ましくは、20℃/min以下である。
なお、「平均冷却速度」とは、冷却開始温度と冷却終了温度の差を総冷却時間で除した値をいう。
なお、「相対的に徐冷(急冷)」とは、冷却速度の絶対値が小さい(大きい)ことではなく、ある温度域において冷却速度が相対的に遅い(速い)ことをいう。一般に、ある冷却方法を用いて合金鋼を冷却した場合、冷却速度は全温度区間に渡って一定になるわけではなく、通常は、高温域では冷却速度が速くなり、低温域では冷却速度が遅くなる。冷却工程Aにおいては、高温域における冷却速度が相対的に遅い冷却方法(弱冷却が可能な方法)を選択するのが好ましい。
また、ある冷却方法を用いた場合において、中心部の冷却速度が上述した範囲内に収まるか否かは、製品と同一寸法を有するモデル試験片に穴を開け、モデル試験片の中心部に熱電対を挿入し、冷却速度を実測することにより求めることができる。あるいは、数値シミュレーションによって、素材内部の温度推移を見積もっても良い。
ここで、「温度Tf」とは、次の(2)式及び(3)式で表される温度をいう。
Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms+300℃ ・・・(2)
Tf<Ts ・・・(3)
温度Tfが相対的に低すぎる場合、表面と中心の温度差が大きくなり、合金鋼に割れや変形が発生するおそれがある。この傾向は、特に大断面の型材の場合に顕著となる。従って、温度Tfは、Ms−200℃以上が好ましく、さらに好ましくは、Ms−150℃以上である。
一方、温度Tfが相対的に高すぎる場合、後述する保持工程において断面内の温度差が100℃以下になるまでに長時間を要し、生産性の低下を招く。また、温度Tfを必要以上に高くしても、反りを小さくする効果に差がなく、実益に乏しい。従って、温度Tfは、Ms+300(℃)以下が好ましく、さらに好ましくは、Ms+250℃以下である。
例えば、熱間ダイス鋼の場合、Msは、280℃〜330℃であるので、温度Tfは、80〜630℃が好ましく、さらに好ましくは、130〜580℃である。
なお、温度Tfは、中間保持温度Tbより高くても良いが、中心部と表面の温度差を短時間で縮小させるためには、温度Tfは、中間保持温度Tbより低い方が好ましい。
但し、素材中心部に関しては、冷却工程Bの方が冷却工程Aよりも冷却速度が大きくなるとは限らない点に注意が必要である。この理由は、一般に、温度が低下するほど冷却速度が小さくなるためであり、このような状況下でも中心部の冷却速度を相対的に大きくする目的で、冷却工程Bの冷却強度を冷却工程Aよりも強くするのである。この結果、温度Tsに到達して以降も冷却工程Aの冷却方法及び冷却条件を継続した場合より、温度Tsから冷却工程Bに変更した方が中心部の冷却速度C2は大きくなるのである。従って、冷却工程Bにおける合金鋼の中心部の平均冷却速度C2は、冷却工程Aの平均冷却速度C1の0.8倍以上が好ましく、さらに好ましくは、1.2倍以上である。
冷却工程Bにおける合金鋼の冷却方法は、特に限定されるものではなく、中心部の冷却速度が上述した範囲内に収まるもの、すなわち、相対的に急冷(強冷却)することができるものであればよい。冷却方法としては、具体的には、油、水、水溶性焼入れ剤(ポリマー液)などを用いた冷却が挙げられる。
ここで、「中間保持温度Tb」とは、次の(4)式で表される温度をいう。
Ms≦Tb(℃)≦Ms+300℃ ・・・(4)
温度TfがMsより低い場合、後続する温度Tbでの保持中に、中心温度がMsに向かってゆっくりと低下する。この結果、中心部は高い温度でベイナイト変態を起こし、低衝撃値となる。従って、中間保持温度Tbは、中心部が保持中に変態しないようにするため、少なくともMs以上であることが好ましく、さらに好ましくは、Ms+50℃以上である。
一方、中間保持温度Tbが相対的に高すぎる場合には、後述する冷却工程Cで、中心部を低温で変態させるために急冷すると、冷却の終了温度Teまで広範な温度域を急冷することになり、割れや反りの問題が顕著となる。従って、中間保持温度Tbは、Ms+300℃以下が好ましく、さらに好ましくは、Ms+270℃以下である。
例えば、熱間ダイス鋼の場合、Msは、280℃〜330℃であるので、中間保持温度Tbは、280℃〜630℃が好ましく、さらに好ましくは、330〜600℃である。
一般に、中間保持温度Tbにおける保持時間が長くなるほど、断面内の温度差は小さくなる。合金鋼の反りや割れを防止するためには、断面内の温度差は、小さいほど良い。一方、中間保持温度Tbでの必要以上の保持は、生産効率を低下させるだけでなく、中心部において高温でベイナイト変態を生じさせる場合がある。中心部の強度及び靱性を向上させるためには、保持工程において、少なくとも中心部においてベイナイト変態を進行させない方が好ましい。好適な保持時間は、合金鋼の組成、大きさ等により異なるが、通常、0.1〜10時間程度である。
中間保持温度Tbにおける保持方法は、特に限定されるものではない。通常は、急冷後の合金鋼を所定の温度に加熱された炉内に挿入することにより行う。このとき、合金鋼の表面温度はTbに向かって上昇又は下降し、これに応じて中心温度もTbに向かって変化してゆく。この場合、保持は、大気中で行っても良く、あるいは、不活性ガス雰囲気下で行っても良い。
ここで、「温度Te」とは、次の(5)式で表される温度をいう。
Te≦Ms−80℃ ・・・(5)
なお、ここでいう「中心温度」とは、前記「中心部」の温度をいう。
冷却工程Cは、合金鋼の表面及び内部をほぼ同時に、相対的に低温においてベイナイト変態させ、又はマルテンサイト変態させるための工程である。内部の強度及び靱性を高めるためには、温度Teは、Ms−80℃以下が好ましい。温度Teは、低いほど良い。
例えば、熱間ダイス鋼の場合、Msは、280℃〜330℃であるので、温度Teは、200℃〜250℃以下が好ましい。
冷却工程Cにおける冷却速度は、速いほど良い。冷却工程Cにおける冷却速度は、具体的には、2℃/min以上が好ましく、さらに好ましくは、4℃/min以上である。
冷却工程Cにおける合金鋼の冷却方法は、特に限定されるものではなく、相対的に急冷(強冷却)することができるものであればよい。冷却方法としては、具体的には、油、水、水溶性焼入れ剤(ポリマー液)などを用いた冷却が挙げられる。
焼戻しは、一般に、靱性を回復させるため、二次硬化させるため等の目的で行われる。また、残留オーステナイトがある場合、残留オーステナイトは、1回の焼戻しで完全に分解せず、冷却中にマルテンサイト変態する場合がある。そのような場合には、焼戻しを繰り返すのが好ましい。
焼戻し条件は、特に限定されるものではなく、合金鋼の組成や目的に応じて最適な条件を選択する。例えば、上述の条件で熱処理した熱間ダイス鋼を焼き戻す場合、焼戻し温度は、500℃〜650℃が好ましく、さらに好ましくは、560℃〜630℃である。
本実施の形態に係る合金鋼の製造方法は、加熱工程と、冷却工程Aと、冷却工程Bと、放冷工程と、保持工程と、冷却工程Cと、焼戻し工程とを備えている。これらの内、加熱工程、冷却工程A、冷却工程B、保持工程、冷却工程C、及び焼戻し工程については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
生産時間を短縮するためには、温度Tfまで相対的に急冷した後、直ちに中間保持温度Tbで保持するのが好ましい。しかしながら、中間保持温度Tbで保持する前に、合金鋼を室温で放冷しても良い。
温度Tfが中間保持温度Tbより低い場合において、温度Tfまで冷却した後に合金鋼を放冷すると、中心から表面に向かって熱が拡散し、表面の温度が上昇すると同時に、中心部の温度が急激に低下する。その結果、中心部と表面の温度差が相対的に短時間で縮小し、型材の割れや反りを抑制できる場合がある。但し、放冷時間が長くなりすぎると、やがて表面温度が冷却に転じ、中心部と表面の温度差が拡大するおそれがある。従って、放冷は、表面温度が冷却に転じる前に終了させ、中間温度Tbでの保持に移行するのが好ましい。
温度Tfが中間保持温度Tbより高い場合も同様であり、適度な放冷は、中心部と表面の温度差を縮小させる場合がある。
合金鋼を放冷した後、中間保持温度Tbに保持し、さらに温度Teまでの急冷及び所定の条件下での焼戻しを行うと、所定の特性を有する合金鋼が得られる。
本実施の形態に係る合金鋼の製造方法は、加熱工程と、冷却工程Aと、保持工程と、冷却工程Cと、焼戻し工程とを備えている。これらの内、加熱工程、保持工程、冷却工程C、及び焼戻し工程については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
本実施の形態において、「温度Tf」とは、次の(6)式で表される温度をいう。
Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms+300℃ ・・・(6)
但し、Msは、合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃)。
本実施の形態においては、冷却工程Bを省略し、焼入れ温度Taから温度Tfに至るまで、相対的に徐冷することを特徴とする。反りを低減すると同時に冷却時間を短縮するためには、焼入れ温度Taから温度Tsまでを徐冷し、温度Tsから温度Tfまでを急冷するのが好ましい。しかしながら、合金鋼の形状や大きさによっては、温度Tsから温度Tfまでの温度区間を急冷すると、反りが大きくなる場合がある。従って、生産効率よりも反りの低減を優先させる必要がある場合には、冷却工程Bを省略し、温度Tfに至るまで徐冷するのが好ましい。
温度Tfは、中間保持温度Tbより高くても良いが、中心部と表面の温度差を短時間で縮小させるためには、温度Tfは、中間保持温度Tbより低い方が好ましい。
冷却工程Aに関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
合金鋼を相対的に徐冷した後、中間保持温度Tbに保持し、さらに温度Teまでの急冷及び所定の条件下で焼戻しを行うと、所定の特性を有する合金鋼が得られる。
本実施の形態に係る合金鋼の製造方法は、加熱工程と、冷却工程Aと、放冷工程と、保持工程と、冷却工程Cと、焼戻し工程とを備えている。これらの内、加熱工程、冷却工程A、保持工程、冷却工程C、及び焼戻し工程については、第3の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
合金鋼を放冷した後、中間保持温度Tbに保持し、さらに温度Teまでの急冷及び所定の条件下で焼戻しを行うと、所定の特性を有する合金鋼が得られる。
図1に、合金鋼の連続冷却変態図(CCT曲線)の一例を示す。一般に、合金鋼の焼入れにおいて、高温域(例えば、熱間ダイス鋼の場合は、およそ500〜600℃までの温度域)では、粒界炭化物の過度な析出及びパーライト変態を回避することが望まれる。しかしながら、実際には、炭化物の粒界析出による靱性の低下は顕著でない場合が多く、パーライト変態の回避が最重要となる。従って、高温域においては、合金鋼の温度がパーライト変態開始温度(Ps線)に達しない限り、比較的ゆっくりとした冷却でよい。むしろ、高温域を徐冷した方が、型材の変形を抑制することができる。
一方、図1のb線に示すように、低温域を徐冷すると、相対的に大きな型材であっても、変形量を最小限に抑制することができる。しかしながら、低温域を徐冷すると、合金鋼は、相対的に高い温度域において、ベイナイト変態開始温度(Bs線)に達する。そのため、合金鋼の強度及び靱性が低下する。
従って、相対的に大きな型材を焼入れする場合において、強靱化と高寸法精度を両立させるためには、図1のc線に示すように、低温域を適度な冷却速度で急冷し、相対的に低温においてベイナイト変態させることが望ましい。
例えば、図2(a)に示すように、大型材を焼入れ温度Taに加熱した後、高温域を徐冷し、低温域を急冷した場合、型材の表面温度が温度Tsに達した時点で、既に表面と中心部において相対的に大きな温度差が発生する。この状態から急冷すると、表面温度は、短時間でMs以下となる。また、中心部も急激に冷却され、相対的に低い温度Bs1でベイナイト変態を開始する。そのため、短時間で熱処理が終了し、強度及び靱性に優れた合金鋼が得られる。しかしながら、急冷によって表面と中心部の温度差が拡大するので、型材の変形量が増大する。また、温度差が著しく大きくなったときには、型材が割れる場合もある。変形量の増大や割れの発生は、仕上げ加工等の手直し工数を増加させ、コスト増加と納期遅延の原因となる。
次に、中心部が未変態の状態であり、かつ断面内の温度差が100℃以下になるまで保持した後、型材を急冷すると、表面だけでなく、中心部においても急速に温度が低下する。そのため、中心部においては、相対的に低い温度Bs4でベイナイト変態を開始する。しかも、この変態温度Bs4は、単純な2段階の冷却方法を用いた場合(図2(a)のケース)の変態温度Bs1とほぼ同等になる。そのため、従来の方法に比べて、強度及び靱性が同等以上であり、かつ、反り・割れの程度が同等以下である型材が得られる。しかも、処理時間の大幅な延長が抑制されるので、製造コストの増大を抑制することができる。
[1. 試料の作製]
熱間ダイス鋼SKD61(Ms=319℃)のブロック材を重量530kgの金型に加工した。これを焼入れ温度Ta(=1030℃)に加熱した後、高温域(Ta〜Ts)を放冷、中温域(Ts〜Tf)を衝風冷し、中間保持温度Tbで30分間保持した。さらに、保持終了後、温度Teまで油冷(油温=80℃)した。本実施例においては、温度Tf=350℃、中間保持温度Tb=450℃、温度Te=120℃とし、温度Tsを変えて焼入れを行った。焼入れ後、595〜615℃の温度域で1hr保持する焼戻し工程を2回繰り返し、硬さをHRC45に調整した。
[2. 試験方法]
調査項目は、以下の通りである。
(1) 焼戻し後(HRC45に調整後)の反り(=100×d/650。d(mm)は、所定の形状を有する試験片を焼入れ・焼戻ししたときに生ずる、水平面から試験片の底面までの最大距離(図4参照)である)。
(2) 焼戻し後の金型中心部から切り出した試験片の衝撃値(JIS3号試験片を使用)。
図5に、表面温度Tsと反りの関係を示す。図5より、温度Tsが高くなるほど反りが増大することがわかる。金型に求められる焼入れ・焼戻し後の反りは、0.2%以下である。従って、温度Tsの上限は、Ms+350℃が妥当である。一方、温度TsがMs+100℃以下になると、反りは0.1%で飽和傾向を示す。温度Tsを過度に下げることは、放冷時間の延長(生産性の低下)を招く。従って、反りが生じにくい大きさや形状を有する型材の場合には、温度Tsの下限は、Ms+100℃が妥当である。
また、焼入れ・焼戻し後の衝撃値として金型に求められる値は、一般に35J/cm2以上であるが、本実施例では、いずれもこの衝撃値を満たした。
[1. 試料の作製]
温度Ts=660℃、中間保持温度Tb=450℃、温度Te=120℃とし、温度Tfを変えて焼入れを行った以外は、実施例1と同一条件下で焼入れ・焼戻しを行った。
[2. 試験方法]
実施例1と同一条件下で、反り及び衝撃値を測定した。
[3. 結果]
図6に、表面温度Tfと反りの関係を示す。図6より、温度TfがMs−200℃以上になると、反りが0.2%以下になることがわかる。一方、温度TfがMs+300℃を超えると、反りは0.1%で飽和傾向を示す。温度Tfを過度に上げると、次工程の保持において、中心温度が炉温Tbに近い値まで低下する時間の延長(生産性の低下)を招く。従って、温度Tfの上限は、Ms+300℃が妥当である。
また、本実施例では、焼入れ・焼戻し後の衝撃値は、いずれも35J/cm2以上であった。
[1. 試料の作製]
温度Ts=550℃、温度Tf=350℃、温度Te=120℃とし、中間保持温度Tbを変えて焼入れを行った以外は、実施例1と同一条件下で焼入れ・焼戻しを行った。
[2. 試験方法]
実施例1と同一条件下で、反り及び衝撃値を測定した。
[3. 結果]
図7(a)に、炉の温度(中間保持温度)Tbと反りの関係を示す。また、図7(b)に、炉の温度Tbと中心部の衝撃値の関係を示す。図7(a)より、炉の温度TbがMs+300℃以下になると、反りが0.2%以下になることがわかる。また、図7(b)より、炉の温度TbがMs以上になると、衝撃値が35J/cm2以上になることがわかる。これは、温度TbをMs以上にすることによって、中心部が未変態の状態のまま、温度Teへの焼き入れが可能となるためである。
[1. 試料の作製]
温度Ts=550℃、温度Tf=350℃、中間保持温度Tb=450℃とし、温度Teを変えて焼入れを行った以外は、実施例1と同一条件下で焼入れ・焼戻しを行った。
[2. 試験方法]
実施例1と同一条件下で、反り及び衝撃値を測定した。
[3. 結果]
図8に、温度Teと中心部の衝撃値との関係を示す。図8より、温度TeがMs−80℃以下になると、衝撃値が35J/cm2以上になることがわかる。
また、本実施例では、焼入れ・焼戻し後の反りは、いずれも0.2%以下であった。
[1. 試料の作製]
熱間ダイス鋼SKD61のブロック材を重量530kgの金型に加工し、種々の条件下で焼入れを行った。焼入れ後、595〜615℃の温度域で1hr保持する焼戻し工程を2回繰り返し、硬さをHRC45に調整した。
なお、SKD61の臨界冷却速度(パーライト析出)は、4.9℃/minであるが、いずれの試料も焼入れ初期における金型中心部の冷却速度は臨界冷却速度を超えていた。実際に、焼戻し後の金型内部において、パーライトの析出は全く観察されなかった。
[2. 試験方法]
調査項目は、以下の通りである。
(1) 焼入れ工程における処理開始から終了までの所要時間(処理時間)。
(2) 焼戻し後(HRC45に調整後)の反り(=100×d/650。d(mm)は、所定の形状を有する試験片を焼入れ・焼戻ししたときに生ずる、水平面から試験片の底面までの最大距離(図4参照)である)。
(3) 焼戻し後の割れの有無。
(4) 焼戻し後の金型中心部から切り出した試験片の衝撃値(JIS3号試験片を使用)。
表1に、各試料の試験結果を示す。表1には、焼入れ条件も併せて示した。また、表2に、各工程に要した処理時間を示す。
比較例2、5は、2段階目の強冷却を終了する温度Tfが低すぎるために、反りが0.2%を超え、割れも発生した。これは、2段階目の強冷却が終了した時点で、断面内に大きな温度差が発生したためである。
比較例3、6は、中間保持温度Tbが低すぎるために、衝撃値が低い。中心部の衝撃値が低下したのは、中間保持温度Tbでの保持中に中心部がベイナイト変態温度に達し、相対的に高温においてベイナイト変態が生じたためである。
さらに、比較例4、7は、温度Teが高すぎるために、衝撃値が低い。中心部の衝撃値が低下したのは、温度Teが高すぎるために、温度Teから常温まで温度が下がっていく間に、中心部において高温でベイナイト変態が生じたためである。
また、実施例2、3は、冷却工程Bを省略しているために、処理時間が若干増大し、かつ、衝撃値も若干低下したが、反りは、実施例1より低下した。
本発明は、合金鋼の特性を最大限に活用した焼入れ方法であり、靱性と寸法精度がともに高い金型を短時間で製造できることが特徴である。この結果、金型作製期間の短縮、金型の低廉化、金型寿命の延長が達成され、鍛造やダイカストの生産性向上に寄与できると同時に、環境負荷低減にも貢献できる。
Claims (11)
- フェライト及び/又はパーライトが析出しない臨界冷却速度がC(℃/min)である合金鋼を、焼入れ温度Ta(但し、Ta(℃)≧前記合金鋼のA1点(℃)。)に加熱する加熱工程と、
前記合金鋼の表面温度が温度Ts(但し、Ms+100℃≦Ts(℃)≦Ms+350℃、Msは、前記合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃)。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C1がC以上となるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Aと、
前記合金鋼の表面温度が温度Tf(但し、Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms+300℃。Tf<Ts。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C2がC1×0.8以上になるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Bと、
前記合金鋼を、中心部が未変態の状態であり、かつ前記合金鋼の断面内の温度差が100℃以下になるまで、中間保持温度Tb(但し、Ms≦Tb(℃)≦Ms+300℃)で保持する保持工程と、
前記合金鋼の中心温度が温度Te(但し、Te≦Ms−80℃)となるまで、前記合金鋼を急冷する冷却工程Cと、
前記合金鋼の焼戻しを行う焼戻し工程と
を備えた合金鋼の製造方法。 - 前記冷却工程Aは、前記中心部の冷却速度C1がC以上30℃/min以下である請求項1に記載の合金鋼の製造方法。
- 前記冷却工程Bの平均冷却速度C2は、C1×1.2以上である請求項1又は2に記載の合金鋼の製造方法。
- 前記保持工程は、前記中間保持温度Tbにおける保持時間が0.1〜10時間である請求項1から3までのいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
- 前記保持工程の前に、前記合金鋼を放冷し、前記合金鋼の表面温度を上昇させる放冷工程をさらに備えた請求項1から4までのいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
- フェライト及び/又はパーライトが析出しない臨界冷却速度がC(℃/min)である合金鋼を、焼入れ温度Ta(但し、Ta(℃)≧前記合金鋼のA1点(℃)。)に加熱する加熱工程と、
前記合金鋼の表面温度が温度Tf(但し、Ms−200℃≦Tf(℃)≦Ms+300℃、Msは、前記合金鋼のマルテンサイト変態開始温度(℃)。)になるまで、かつ、その中心部の平均冷却速度C1がC以上となるように前記合金鋼を冷却する冷却工程Aと、
前記合金鋼を、中心部が未変態の状態であり、かつ前記合金鋼の断面内の温度差が100℃以下になるまで、中間保持温度Tb(但し、Ms≦Tb(℃)≦Ms+300℃)で保持する保持工程と、
前記合金鋼の中心温度が温度Te(但し、Te≦Ms−80℃)となるまで、前記合金鋼を急冷する冷却工程Cと、
前記合金鋼の焼戻しを行う焼戻し工程と
を備えた合金鋼の製造方法。 - 前記冷却工程Aは、前記中心部の冷却速度C1がC以上30℃/min以下である請求項6に記載の合金鋼の製造方法。
- 前記保持工程は、前記中間保持温度Tbにおける保持時間が0.1〜10時間である請求項6又は7に記載の合金鋼の製造方法。
- 前記保持工程の前に、前記合金鋼を放冷し、前記合金鋼の表面温度を上昇させる放冷工程をさらに備えた請求項6から8までのいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
- 前記合金鋼は、その重量が150kg以上である請求項1から9までのいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
- 前記合金鋼は、工具又は金型に用いられる鋼である請求項1から10までのいずれかに記載の合金鋼の製造方法。
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