JP4099888B2 - 耐溶損性に優れた鋳造用金型 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば溶融金属の鋳造鋳型や、スリーブ、ピン等を製造する際の溶湯に接する金型類において、耐溶損性を改良した鋳造用金型に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えばアルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金等の溶融金属の金型鋳造(ダイカスト、グラビティ)に用いる金型類には、従来、熱間工具鋼、マルエージング鋼などの、鋼や鋳鉄が用いられている。この中で最も多く使用されているのは、アルミニウム合金のダイカスト鋳造であるが、この金型類の寿命は必ずしも満足できるものではなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記した金型類において、寿命を支配するのは主として熱亀裂、溶損であるが、この鋳造用金型の耐溶損性を改善するため、例えば特開平4−56749号には、窒化処理を施すことが開示されている。しかし、窒化処理を施した場合であっても、その金型寿命はまだユーザーのニーズにまでは至っていないのが実状である。
【0004】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたものであり、熱亀裂、大割れに影響する基本的な性能(高温強度、延性、靱性)は従来の金型類に劣ることなく、耐溶損性を向上させた鋳造用金型を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明の耐溶損性に優れた鋳造用金型は、高Cr鋼の表面に1〜30μm厚さの酸化皮膜を形成させることとしている。そして、このようにすることで、溶湯アルミニウム合金との反応が抑制され、溶損を軽減させることができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、種々研究、実験を行った結果、Cr含有量が8重量%以上の高Cr鋼に酸化皮膜を形成させると、溶湯アルミニウム合金との反応が抑制され、溶損が軽減されることを知見した。
【0007】
すなわち、金型製作後、酸化処理を行えば、鋼中にCrを多量に含有している場合、酸化皮膜はスピネル型の鉄−クロムの酸化物となる。この酸化皮膜が、溶融アルミニウム合金との反応を抑制するので、溶損が軽減するのである。
【0008】
酸化処理としては、例えば500〜700℃の温度範囲で、水蒸気、若しくは、水蒸気+空気、或いは、水蒸気+窒素ガス雰囲気で1〜10時間加熱する。こうすることにより、表面に酸化皮膜を形成させることができる。
【0009】
また、金型表面は使用中に約600℃まで昇温するために、表面に酸化皮膜が形成されるが、鋼中にCrを多量に含有している場合、酸化処理と同様な鉄−クロム複合酸化物が形成されるので、溶損が軽減する。
この酸化皮膜の厚みは1μm未満では溶損に対して効果が見られず、30μmを超えると酸化皮膜が基地より剥離しやすくなり、やはり、溶損に対しての効果が低下する。従って、本発明では、酸化皮膜の厚みは1〜30μmとする。
【0010】
一方、鋳造用金型は、溶損の他、耐熱亀裂性と対溶損性を改善するため、高温強度及び延性、靱性が要求される。しかし、Cr含有量が多くなると、高温強度と靱性が低下するため、C、Crの最適な組合せについて種々研究した結果、Cr量を増加させた場合にはC量を低減させることにより、また、Cr含有量が少ない場合には、C量を多くすることにより、高温強度(耐熱亀裂性)と靱性(破壊靱性値)の低下を抑制できることを知見した。
【0011】
すなわち、耐熱亀裂性と靱性に対して、最適なC、Crの組合せは図1に示されるように、
Cr=16±1−30×〔C〕+30〔C〕2
但し、Cr:Crの重量%、
C:Cの重量%、
の範囲にあることを見出した。
【0012】
本発明の耐溶損性に優れた鋳造用金型は、上記知見に加え、その他の元素の影響を調査した結果に基づいて成されたものであり、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:8.0〜13.0%、Al:0.01〜3.0%、を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる鋼、或いは、C:0.1〜0.4%、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:8.0〜13.0%、Al:0.01〜3.0%、Mo:0.01〜1.2%、W:0.1〜3.5%、V:0.05〜0.5%、Nb:0.005〜0.2%、B:0.0001〜0.02%、を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる鋼の表面に1〜30μm厚さの鉄−クロムの酸化物層を形成させたことを要旨とするものであり、CrとCの含有量は、
Cr=16±1−30×〔C〕+30〔C〕2
但し、Cr:Crの重量%、
C:Cの重量%、
とすることが望ましい。
【0013】
以下に、本発明の耐溶損性に優れた鋳造用金型における成分組成を限定する理由について説明する。
C:Cはオーステナイト化安定元素であり、δフェライトの析出を抑制すると共に鋼の焼入性を向上し、Fe、Cr、Mo、V、Nbと炭化物を形成して、耐摩耗性、焼戻し軟化抵抗、高温強度を向上させる。これらの作用効果を確保するためには、0.1%以上添加することが必要である。しかし、その含有量が0.40%を超えると、炭化物が過剰に析出して、高温強度、靱性を低下させ、熱亀裂性を低下させる。そこで、本発明ではその含有量を0.1〜0.4%とした。本発明者らの知見では、後述するCr量に対する最適なC量は、Cr=16±1−30×〔C〕+30〔C〕2 の範囲である。
【0014】
Si:Siは耐酸化性を改善するが、多すぎると靱性を低下させるため、0.7%以下とする。しかし、その含有量が0.10%未満では添加効果に乏しい。そこで、本発明ではその含有量を0.1〜0.7%とした。
【0015】
Cr:Crは焼入性の向上、耐摩耗性の向上に有効な元素である。しかし、金型表面に安定な酸化皮膜を形成させるためには、8.0%以上の添加が必要である。但し、13.0%を越えるとδフェライトの生成、高温強度の低下、靭性の低下をもたらし、耐熱亀裂性が低下する。そこで、本発明ではその含有量を8.0〜13.0%とした。なお、CrとCの最適な組み合わせは先に説明した通りである。
【0016】
Al:Alは鋼の脱酸元素として作用すると共に、安定な酸化皮膜の形成、オーステナイトの安定化に寄与する。そして、これらの効果を得るためには、0.01%以上の添加が必要である。しかし、3.0%を超えると、高温強度や靱性を低下させる。そのため、本発明ではその含有量を0.01〜3.0%とした。
【0017】
Mo:Moは高温強度、焼戻し軟化抵抗、及び、耐摩耗性を向上させる作用を有する。しかし、その含有量が0.01%未満では添加効果が得られない。一方、1.2%を超えるとδフェライトが生成して靱性を低下させる。従って、本発明ではその含有量を0.01〜1.2%とした。
【0018】
W:WはMoと同様に高温強度、焼戻し軟化抵抗、及び、耐摩耗性を向上させる作用を有する。そして、前記作用はMoと複合添加した場合に、その効果は著しい。しかし、0.1%未満ではMoと複合添加しても効果が小さい。一方、3.5%を超えるとδフェライトが生成して靭性を低下させる。従って、本発明ではその含有量を0.1〜3.5%とした。望ましい下限は0.8%である。
【0019】
V:VはC、Nと微細な炭窒化物を析出させ、高温強度と耐摩耗性を向上させると共に、結晶粒の微細化に寄与する。しかし、その含有量が0.05%未満であるとその効果が乏しく、0.5%を超えると炭窒化物が過剰に析出し、延性や靱性を低下させる。そこで、本発明ではその含有量を0.05〜0.5%とした。望ましくは0.1〜0.3%である。
【0020】
Nb:NbはVと同様にC、Nと微細な炭窒化物を析出させ、高温強度と耐摩耗性を向上させると共に、結晶粒の微細化に寄与する。しかし、その含有量が0.005%未満であるとその効果が乏しく、0.2%を超えると炭窒化物が過剰に析出し、延性や靭性を低下させる。そこで、本発明ではその含有量を0.005〜0.2%とした。望ましくは0.01〜0.2%である。
【0021】
B:Bは微量の添加で炭化物を微細に分散させ、かつ、その高温安定性を高めて高温強度を向上させる。しかし、0.0001%未満ではその効果が得られない。一方、過剰に添加すると延性や靱性の低下をもたらすので、本発明では、上限は0.02%、望ましくは0.008%にする。
【0022】
本発明の鋳造用金型では、上記の成分のほか、残部はFeと不可避的な不純物である。この不純物の含有量は特に規制しないが、不純物のうち、Pは0.02%以下、Sは0.003%以下、Nは0.1%以下とすることが望ましい。
【0023】
【実施例】
本発明の鋳造用金型の効果を実施例に基づいて説明する。
下記表1及び表2に示す成分組成の工具鋼を高周波炉で溶解した後、鋳塊を据え込み及び鍛伸して所定の寸法に鍛造した。鍛造温度はδフェライトが析出しない1200℃以下で加熱した。
【0024】
表1(鋼種1から42)は本発明の鋳造用金型に採用する鋼、表2の鋼種62、63は従来から広く用いられているSKD61、表2の鋼種43〜63は*印を付した成分が本発明で規定する範囲から外れる比較鋼である。
これらの鍛造材を熱処理した後、所定の試験片に機械加工した。
【0025】
焼入は1000〜1050℃から油焼入を施し、焼戻しは520〜580℃の空冷を2回繰り返した。各鋼種は硬さHRC43に調整した。
試験片を加工後、550℃の水蒸気雰囲気中で1時間加熱し、酸化皮膜を形成させた。なお、鋼種16〜21、鋼種37〜39、鋼種59及び61は、前記した酸化処理を行わずに、加工のままで試験に供した。
【0026】
試験は溶融アルミニウム合金(材質ADC10)による溶損試験、破壊靱性試験およびヒートチェック試験を実施した。
このうち、溶損試験は、700℃の溶湯温度の前記アルミニウム合金中に、20×20×100(mm)のサイズの試験片を浸漬し、上下動を5時間繰り返すことにより耐溶損性を調査した。なお、耐溶損性評価には次式で求めた値を用いた。求めた耐溶損性は、値が小さいほど耐溶損性に優れることを意味している。
耐溶損性(%/h)=(試験前の重量−試験後の重量)/浸漬部の重量/試験時間
【0027】
また、破壊靱性試験は、ASTM E399−83に準じて測定し、耐大割れ性の指標とした。求めた破壊靱性値は大きいほど、耐大割れ性に優れることを示す。
【0028】
また、ヒートチェック試験は、直径が35mmの試験片の表層部を誘導加熱して試験片の表面を600℃に加熱した後、直ちに常温まで水冷する操作(1サイクル15秒)を1000回繰り返した。その後、試験片を切断して断面を顕微鏡観察し、外周部に発生した亀裂の最大深さを測定した。
【0029】
表3及び表4に耐溶損性、耐熱亀裂性(最大亀裂長さ)、耐大割れ性(破壊靱性値)を示す。
表3及び表4より明らかなように、本発明の鋳造用金型に採用する鋼の耐熱亀裂性、耐大割れ性は従来鋼と同等であるが、耐溶損性は従来鋼及び比較鋼よりも著しく優れている。従って、本発明の鋳造用金型に採用する鋼を実際にダイカスト金型として使用した場合には、従来鋼および比較鋼を採用した場合よりも長寿命となることが判る。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の鋳造用金型は、溶融アルミニウム合金に対して優れた耐溶損性を備えているので、耐溶損性が向上しその金型寿命を延ばすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】耐熱亀裂性、靱性におよぼすCr、C量の関係を示した図である。
Claims (3)
- 重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:8.0〜13.0%、Al:0.01〜3.0%、を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる鋼の表面に1〜30μm厚さの鉄−クロムの酸化物層を形成させたことを特徴とする耐溶損性に優れた鋳造用金型。
- 重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:8.0〜13.0%、Al:0.01〜3.0%、Mo:0.01〜1.2%、W:0.1〜3.5%、V:0.05〜0.5%、Nb:0.005〜0.2%、B:0.0001〜0.02%、を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる鋼の表面に1〜30μm厚さの鉄−クロムの酸化物層を形成させたことを特徴とする耐溶損性に優れた鋳造用金型。
- CrとCの含有量が、
Cr=16±1−30×〔C〕+30〔C〕2
但し、Cr:Crの重量%、
C:Cの重量%、
であることを特徴とする請求項1又は2記載の耐溶損性に優れた鋳造用金型。
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