以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
本発明の水硬性組成物、及びそれを用いた硬化性ペースト施工方法の一例、特にカートリッジ方式による硬化性ペースト施工方法について、図1及び2を参照しながら詳細に説明する。
先ず、本発明の水硬性組成物について説明する。図1(a)に示される水硬性組成物C1は、透水性筒状容器110に収容されており、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、凝結調整剤と、細骨材とを、含んでいる。
水硬性組成物C1中の含有量は、質量比で、ポルトランドセメント、アルミナセメント、急結剤、粘度調整剤、凝結調整剤、及び細骨材が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:0.1~0.8:1~8:10~30であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30であることがより一層好ましい。
例えば、ポルトランドセメントを基準とした場合、ポルトランドセメントの20、30、40、50、又は60質量部に対して、アルミナセメント:急結剤:粘度調整剤:凝結調整剤:細骨材が、30~70:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、30~60:20~40:0.1~0.8:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
アルミナセメントを基準とした場合、アルミナセメントの30、40、50、60、又は70質量部に対して、ポルトランドセメント:急結剤:粘度調整剤:凝結調整剤:細骨材が、20~60:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、20~50:20~40:0.1~0.8:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
急結剤を基準とした場合、急結剤の10、20、30、又は40質量部に対して、ポルトランドセメント:アルミナセメント:粘度調整剤:凝結調整剤:細骨材が、20~60:30~70:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、20~50:30~60:0.1~0.8:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
粘度調整剤を基準とした場合、粘度調整剤の0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又は1.0質量部に対し、ポルトランドセメント:アルミナセメント:急結剤:凝結調整剤:細骨材が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
凝結調整剤を基準とした場合、凝結調整剤の1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10質量部に対し、ポルトランドセメント:アルミナセメント:急結剤:粘度調整剤:細骨材が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:10~40質量部であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:0.1~0.8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
細骨材を基準とした場合、細骨材の10、15、20、又は30質量部に対し、ポルトランドセメント:アルミナセメント:急結剤:粘度調整剤:凝結調整剤が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:1~10質量部であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:0.1~0.8:1~8質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5質量部であることがより一層好ましい。
細骨材は、硬化性ペーストC2が凝結後に硬化する際に生じる収縮を低減し、これの硬化体C3へのクラック発生を防止する。また、水硬成分の水和反応に伴う発熱を緩和し、硬化性ペーストC2の温度上昇を抑えて過度な流動性増大や、凝結時間の延長を防止する。珪砂、川砂、海砂、及び砕砂のような砂類;アルミナクリンカー、シリカ粉、及び石灰石のような無機材;ウレタン砕、EVA(ethylene vinyl acetate)フォーム、発泡樹脂の粉砕物から選ばれる少なくとも一種であり、なかでも珪砂が好ましい。
細骨材は、1mm以上の粗粒子を含んでいないことが好ましい。具体的に、JIS G5901(2016)の表3に準拠した粒度区分を、4~8号とすることが好ましく、4~7号とすることがより好ましく、4~6号とすることが一層好ましい。細骨材の粒度区分がこの範囲であることにより、1mm以上の粗粒子を排除することができる。この粒度区分における具体的な粒度分布は、4号で600~1180μm、4.5号で425~850μm、5号で300~600μm、5.5号で212~425μm、6号で150~300μm、6.5号で106~212μm、7号で75~150μm、7.5号で53~106μm、8号で38~75μmである。
粒度区分は、3種の公称目開きを有する網目ふるいによって求められる。細骨材の測定試料全質量に対する各網目ふるいの面上の細骨材の質量比は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが一層好ましい。
また水硬性組成物C1中、細骨材は、10~40質量部、好ましくは10~30質量部、より好ましくは15~30質量部含まれている。この範囲の含有量である細骨材は、水硬性組成物C1全体に対し、下限値を8~38質量%、好ましくは8~25質量%とし、上限値を27~67質量%、好ましくは27~33質量%としている。このように、細骨材が、粒径1.2mm未満の細粒で、かつ水硬性組成物C1中に最大でも67質量%という低含有率であることによって、水硬性組成物C1の凝集が阻害されない。細骨材の粒径、含有量、及び含有率が上記の上限値を超えると、硬化性ペーストC2を用いて施工している間に水硬成分と細骨材とが分離し、硬化体C3が所期の強度を発揮できない。
粘度調整剤は、例えば増粘剤であり、より具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース、並びにこれらの少なくとも一種を含んでいてもよい天然多糖類誘導体;アクリルアミド;澱粉エーテル;高分子電解質が挙げられる。これらの何れかを単独又は複数混合して用いてもよい。
このような増粘剤である粘度調整剤は、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース、アクリルアミド、澱粉エーテル、高分子電解質として市販のものが挙げられ、例えば、天然多糖類誘導体であるESAMID HP(lamberti spa社製)、並びにリカルボン酸エーテルとポリアクリルアミドとの混合物であるSTARVIS S 5514 F及び澱粉エーテルであるSTARVIS SE 35 F(ともにBASFジャパン株式会社製)が挙げられる。
また、高分子電解質としては、高分子鎖の主鎖中又は側鎖中に解離基を有し水中で解離して高分子イオンとなるものであれば特に限定されず、例えばカルボキシル基やスルホン酸基やリン酸や亜リン酸又はそれらの塩若しくは脂肪族・芳香族又は複素環基含有アミノ基若しくはそれらの塩酸塩又は硫酸塩のような無機酸塩や有機酸塩・アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩のような塩や第一~第四アンモニウム基又は有機アンモニウム基などの少なくとも何れかの解離基を有した炭化水素系、エーテル性基又はアミノ性基含有複素炭化水素系、芳香族系、複素環系、アミド系及び/又は有機酸系の高分子鎖を有する高分子イオン、具体的には、天然物ではアルギン酸やその塩、ペクチン(ポリガラクツロン酸)又はその塩、カルボキシメチルセルロース又はその塩、タンパク質乃至ポリペプチドが例示でき、合成高分子化合物としてはポリアクリル酸ナトリウム塩のようなポリアクリル酸又はその塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムのようなポリスチレンスルホン酸又はその塩、ポリ(アリルアミン)又はその塩酸塩、四級化ポリ(ビニルピリジン)又はその塩、ポリ(アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム)コポリマーやポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性ポリアクリルアミド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)のようなアニオン基含有環状繰返単位含有ポリマー、ナフィオン(シグマ-アルドリッチ社製の商品名)のようなパーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー、セミ-アロマティックアンモニウムロネン類、アリファティックアンモニウム、ヘテロサイクリックアンモニウムロネン類、アルキルエーテル アンモニウムロネン類、遊離基含有高分子化合物具体的にはSTARVIS 308F(BASFジャパン社製の商品名)、デュラマックス(Duramax)やタモール(Tamol)やロマックス(Romax)やダゥエックス(Dowex)(何れもダウ・ケミカル社製の商品名)、アキュゾル(Acusol)やアキュマー(Acumer)(何れもロームアンドハース社製の商品名)、ディスペックス(Dispex)やマグナフロック(Magnafloc)(何れもBASF社製の商品名)が例示される)が挙げられる。
水硬性組成物C1中、粘度調整剤を有していると、水硬性組成物C1と水とを混合して硬化性ペーストにした時に、削孔へ注入し易い適度な流動性と、上向きの削孔に注入しても流れ出ない適度な粘性とを発現することにより、両者のバランスを取り、両効果を発現できるように調整することができる。しかも、粘度調整剤によって、硬化性ペーストが優れた濡れ性を示すので、細骨材に付着して流動性を高めると共にそれによって削孔である内側表面の凹凸やアンカー素子の凹凸に細骨材が入り込み易くなって引っ掛かったまま硬化することになる結果、硬化性ペーストを削孔に注入し鉄筋のようなアンカー素子を打ち込んだときに、アンカー素子が抜け難くなり、確りと定着できるようになる。
水硬性組成物C1中、増粘剤である粘度調整剤は、0.1~1.0質量部、好ましくは0.1~0.8質量部、より好ましくは0.1~0.5質量部含まれている。含有量がこの上限値を超えると、硬化性ペーストC2パック10からの押し出し抵抗が著しく増大する上、十分な強度を有する硬化体C3を得ることができない。一方、含有量が下限値未満であると、硬化性ペーストC2の粘度が不足する。
水硬性組成物C1中、凝結調整剤は、例えば凝結時間調整剤であり、硬化性ペーストC2が流動性を失う凝結始発から硬化を開始する凝結終結までの凝結時間の長短を調整する。凝結調整剤は、硬化性ペーストC2中の水硬成分の粒子に吸着してそれの表面を被覆し、水硬成分と水との接触を抑制する。それにより、水硬成分の水和反応を徐々に進行させて硬化性ペーストC2の瞬結を防止できる。凝結時間調整剤として、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、及びp-オキシ安息香酸のようなオキシカルボン酸、並びにそれらの塩;無機炭酸塩;リグニンスルホン酸、又はその塩;ソルビトール、ペンチトール、及びヘキシトールのような糖アルコールが挙げられ、これらの一種又は複数種を用いることができる。凝結時間調整剤は、炭酸、オキシカルボン酸やリグニンスルホン酸のリチウム塩、カリウム塩、及びナトリウム塩のようなアルカリ金属塩、並びにマグネシウム塩、及びカルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩であってもよく、なかでもクエン酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、ヒュームドシリカ(例えば、強度増進剤の役割も果たしているアエロジル(日本アエロジル株式会社製の商品名))が好ましく、クエン酸三ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムの何れか一つ又は二つ以上の組み合わせがより好ましい。
この水硬性組成物は、凝結調整剤が入っていると、水との混合時での発熱を防止して膨張や冷却時又は硬化性ペーストの硬化時のひび割れを生じさせなくすると共に、硬化を遅延させて硬化性ペーストが削孔に注入されるまでは硬化し難いが注入して養生中は迅速に硬化するようになる。また、遅延型流動化剤を必要としなくてよくなる。
水硬性組成物C1中、凝結時間調整剤である凝結調整剤は、1~10質量部、好ましくは1~8質量部、より好ましくは1~5質量部含まれている。含有量がこの上限値を超えると、凝結時間が過度に長くなって凝結終結に達するまでの間に、例えば水硬成分と細骨材との分離を生じてしまう。一方含有量がこの下限値未満であると、水硬成分の水和反応が急激に進行し、硬化性ペーストC2が凝結始発後に直ちに終結に達して硬化するので、硬化体C3にクラックが生じて外観上の美観を損なったり、止水材として用いてもクラックから漏水したりしてしまう。
水硬性組成物C1の水硬成分は、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を必須として含むM型の膨張系セメントである。ポルトランドセメントは、シリカ(SiO2)、及びカルシア(CaO)を主成分とし、例えば、シリカを20~25質量%、及びカルシアを60~70質量%を含んでいるものが挙げられる。その他にアルミナ(Al2O3)、マグネシア(MgO)、及び酸化鉄(Fe2O3)が、夫々1~6質量%含まれている。これらの成分は、例えばケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、及びカルシウムアルミノフェライトとして存在している。
ポルトランドセメントとして、具体的に普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、及び白色ポルトランドセメントが挙げられる。なかでも早強ポルトランドセメントが好ましい。これらのポルトランドセメントの一種のみを用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。水硬性組成物C1中、ポルトランドセメントは、20~60質量部、好ましくは20~50質量部、より好ましくは20~40質量部含まれている。
アルミナセメントは、アルミン酸カルシウム(CaO・Al2O3)を主成分とする特殊セメントであり、例えばカルシアを20~40質量%、アルミナを40~80質量%、夫々含んでいるものが挙げられる。水硬性組成物C1中、アルミナセメントは、30~70質量部、好ましくは30~60質量部、より好ましくは30~50質量部含まれている。
ポルトランドセメント及びアルミナセメントは、微粉末状のセメント粉体であり、その平均粒子径を、10~50μmとするものであることが好ましく、20~40μmとするものであることがより好ましく、20~30μmとするものであることがより一層好ましい。なお平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法による体積基準分布をいう。このような平均粒子径の測定装置として、例えば、島津レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-3100-WJA1:V1.00(株式会社島津製作所製)が挙げられる。セメント粉体がこのような微粉末であることによって、吸水に起因するセメント粉体の水和による化学的凝集及びセメント粉体の表面電位による物理的凝集が生じ易くなる。その結果、化学的凝集若しくは物理的凝集、又は両者の相乗効果によって、例えばコンクリート構造物の天井や壁面に生じたひび割れに注入された硬化性ペーストC2が、そこから遺漏し難い。
急結剤は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、及び硫酸カルシウムのような硫酸塩が挙げられ、これらの一種又は複数種を用いることができる。硫酸カルシウムとして、無水石膏(CaSO4)、半水石膏(CaSO4・1/2H2O)、二水石膏(CaSO4・2H2O)のような石膏が、後述するエトリンガイトの生成量を増大させる観点から好ましい。これらの急結剤は、一種のみを用いても複数種を混合して用いてもよい。水硬性組成物C1中、急結剤は、10~40質量部、好ましくは20~40質量部、より好ましくは20~30質量部含まれている。
水硬性組成物C1は、好ましくは遅延型流動化剤を含有していない。しかし強度増進剤を含有していてもよい。強度増進剤とは、シリカ微粒子であるシリカフューム、高炉スラグ粉末及び/又はフライアッシュのようなシリカ質粉末、カオリン(シリカ及びアルミナを含有するカオリン、焼成カオリンなど)である。遅延型流動化剤とは、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸、リグニンスルホン酸、及びこれらの塩のようなスルホン酸系流動化剤;ポリカルボン酸、及びこれらの塩のようなカルボン酸系流動化剤である。
硬化性ペーストC2は時間の経過に伴って、水硬性分が水和反応を生じて凝結し、その後硬化する。具体的にアルミナセメント中のアルミン酸カルシウム、石膏、及び水の反応が進行し、アルミン酸硫酸カルシウム水和物であるエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)を生成する。さらに急結剤である石膏が消費されると、エトリンガイトはアルミナセメント中のアルミン酸カルシウム(アルミネート相)と反応してモノサルフェート水和物を生成する。エトリンガイトやモノサルフェート水和物のようなカルシウムサルフォアルミネート水和物は、かさ高く水に不溶な針状結晶であり、これの成長に伴って、硬化性ペーストC2が膨張しながら凝結して徐々に硬化する。しかも急結剤である石膏が、硫酸カルシウムの供給源となってエトリンガイトの生成量を増大させ、高強度の硬化体C3を形成する。
硬化性ペーストC2は、アルミナセメント中のカルシアが水に溶解した水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を含んでいる。強度増進剤に含まれるシリカフュームやカオリンは、この水酸化カルシウムと、水に不溶な水和物を生成するという所謂ポゾラン反応を生じる。それにより、例えば、ケイ酸カルシウム水和物(3CaO・2SiO2・3H2O)や、アルミン酸カルシウム水和物(3CaO・Al2O3・6H2O)の微細で密な結晶が生成し、硬化性ペーストを高強度に硬化させる。特に、粉砕により粉末化される高炉スラグや、石炭灰であることにより比較的大きな球形をなしているフライアッシュに比べて、焼成カオリンの粒子は細かいので、単位質量当りに大きな表面積を有している。そのため、シリカフューム及び焼成カオリンは他のシリカ質粉末に比べて、遥かに高いポゾラン活性を有するので、緻密な水和物の結晶を生成し、硬化体C3により高い圧縮強度を付与する。
このように水硬性組成物C1は、アルミナセメント、石膏のような急結剤、及びカオリンを主成分とする強度増進剤を含んでいることにより、それの硬化体C3は、施工後数時間~1日程度で高い強度を発現するという早強性を発現する。
エトリンガイトの生成及びポゾラン反応に並行して、ポルトランドセメント中のケイ酸カルシウムの水和反応が進行し、トバモライト結晶のようなケイ酸カルシウム水和物の硬化体C3が生成する。それにより、ケイ酸カルシウムの水和反応は、アルミン酸カルシウムのそれに比較して遅いので、ポルトランドセメントは、施工後、例えば7日~数か月後以降の長期にわたる高強度維持に優れている。
このように水硬性組成物C1が、ポルトランドセメント、アルミナセメント、急結剤、強度増進剤、細骨材、凝結時間調整剤、及び粘性調整剤を含んでおり、かつこれらが一定範囲の組成比で組み合わされていることによって、凝結始発までの時間を長くして、施工に要する十分な時間を作業者に付与することができる。その結果、不慣れな作業者であっても、タイルの固定や目地埋め等を、余裕をもって行うことができる。
この水硬性組成物C1から得られる硬化体C3の圧縮強度(JIS A1108(2006)に準拠)は、養生温度20~25℃で、施工後わずか1日後に55N/mm2に達し、7日後に65N/mm2、28日後に80N/mm2にまで向上する。
なお、硬化性ペーストC2は、40~90秒の流下値(コンクリート標準示方書に規定するJSCE-F 541-2013充填モルタルの流動性試験方法(J14ロート試験)に準拠)を示す。またフロー試験(JIS R5201(2015)に準拠)で高い流動性を示す。このため作業者は、然程力を要さずとも袋体11から硬化性ペーストC2を手31,32で押し出すことができたり、硬化体C3に比較的高い強度が要求される、例えば建設工事用グラウトに好適に用いることができたりする。
水硬性組成物C1は、増粘効果を発現するシリカ微粒子のような強度増進剤に加えて、増粘剤をさらに含んでいてもよい。増粘剤は、水硬成分の粒子同士を粘結させるバインダーのような増粘効果を発現する。さらに、硬化性ペーストC2に適度の粘度を付与して、硬化性ペーストC2中の水硬成分同士の比重差による分離や水硬成分の沈降による水との分離を防止する。それにより硬化性ペーストC2中、粒子同士の均一な分散を促進し、パック10からの押し出し抵抗を低減する。さらに、増粘剤によって硬化性ペーストC2がチキソトロピーを発現するので、外力が除かれるとそれの粘度が向上して流動性を低減させる。その結果、例えば、垂直な壁面に装飾を施すようなモルタル造形に用いた場合、硬化性ペーストC2が垂れないので、良好な施工性を示す。
硬化性組成物として、セメントを含む水硬性組成物を例示したが、別な水硬性組成物として、水硬性スラグ(高炉水砕スラグ)、水硬性石灰(CaO・SiO2含有消石灰)、石膏、澱粉、タンパク、水硬性ウレタン(例えば、田島ルーフィング株式会社製のオルタックアクト(「オルタック」は登録商標))のような、水との混合によって調製された硬化性ペーストが硬化するものを挙げることができる。また硬化性組成物は、水硬性組成物に限られず、エピクロロヒドリンと反応して硬化し、ポリカーボネートを生成するビスフェノールAであってもよい。
次いで、上記の水硬性組成物を用いたカートリッジ方式の硬化性ペースト施工方法について説明する。
カートリッジ方式の硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法を図1及び図2に示す。図1は、カートリッジ方式による硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法の前半工程の一例を示している。同図1(a)に示す定着剤カプセル100は、透水性筒状容器110とこれに封入された粉状の水硬性組成物C1とを有している。定着剤カプセル100は、窄まった両端を有する略円柱形をなしている。透水性筒状容器110は、例えば紙と樹脂繊維とで構成され、良好な透水性と易破壊性とを有する不織シート製である。
透水性筒状容器110は、高い透水性と易破砕性とを有する不織シート製であることが好ましい。このような不織シートとして、例えば、上質紙、中質紙、クラフト紙、ケント紙、模造紙、クレープ紙、ヒートロン紙、コーン抄紙、及び和紙のような紙を挙げることができる。これらの原材料は、針葉樹を原材料とするパルプ・広葉樹を原材料とするパルプ等の木材パルプ、ミツマタ・ワラ・バガス・ヨシ・ケナフ・クワ等の非木材パルプ及び古紙パルプの何れか一つを用いてもよいし、複数を混合して形成してもよい。また紙は、レーヨン紙やアセテート紙のような化繊紙であってもよい。
不織シートは、紙に加えて樹脂を含んでいてもよい。それによれば運搬・保管時や施工時に容易に破壊せず、内容物である水硬性組成物C1が遺漏しない。このような樹脂として、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリトリブチレンテレフタレートのようなポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66及びアラミドのようなポリアミド樹脂;アクリロニトリルを主成分とするポリアクリル樹脂が挙げられる。
図1(a)に示すように、トレイ200に水Wを溜める。水Wは、施工現場で容易に入手できることから水道水であることが好ましい。水Wの温度は、5~30℃であることが好ましく、15~25℃であることがより好ましい。水Wの温度がこの上限値を超えると、硬化性ペーストC2の可使時間が極端に短くなり、硬化性ペースト施工方法の完了前に凝結終点に達してしまう(図2参照)。一方、この温度が下限値未満であると、硬化性ペーストC2の硬化物である硬化体C3の養生の時間を長引かせたり(図2(f)参照)、それの強度低下を招来したりする。水Wに定着剤カプセル100を浸漬し、水硬性組成物C1に水Wを吸収させる。水Wは、透水性筒状容器110を通過して粉状の水硬性組成物C1に浸入する。水Wが、水硬性組成物C1に含まれる水硬成分の粒子間に入り込むことによって、これら同士が互いに粘着する。それにより、水硬性組成物C1が凝集する。
定着剤カプセル100の先端部から基端部までの長さLは、例えば100~400mm、具体的に200~400mmであることが好ましく、200~350mmであることがより好ましく、200~300mmであることが一層好ましく、250~300mmであることがより一層好ましい。このときの径Dは夫々、例えば10~40mm、具体的に20~40mmであることが好ましく、20~35mmであることがより好ましく、30~35mmであることが一層好ましい。長さLがこの範囲内であることにより、定着剤カプセル100の保管や運搬を簡便にでき、また良好なハンドリング性を付与して、手による取扱時に折れ曲がることによって生じる透水性筒状容器110の破損を防止できる。
また、径Dの値を変更することにより水硬性組成物C1が所要量の水Wを吸収するのに要する時間、すなわち水Wへの浸漬時間を変更することができる。径Dが上記の範囲内であると浸漬時間を5分間以下、具体的に3~5分間という短時間にでき、このような短い浸漬時間であっても、25~32質量%の吸水率を得ることができる。吸水率は、水への浸漬前の重量を浸漬後の重量で除した百分率として表される。水Wの所要量は、水硬性組成物C1が吸収し得る水Wの上限量である。そのため、この浸漬時間を超えて定着剤カプセル100を水Wに浸漬したとしても、水硬性組成物C1は所要量を超えて水Wを吸収しない。また、少なくとも上記浸漬時間を経過すれば、水Wの吸収量が不足しない。しかも、水硬性組成物を収容したシリンダカートリッジへの注水のように、水硬性組成物中に水の偏在を生じず、水硬性組成物C1に満遍なく水Wを接触させることができる。
水Wから定着剤カプセル100を取り出す。透水性筒状容器110は、樹脂繊維を含んでいるので、水濡れしていても水硬性組成物C1を遺漏させないまま手で扱える程度の強度を保持している。図1(b)に示すように、定着剤カプセル100の一端で透水性筒状容器110の一部を破り、さらに水硬性組成物C1の凝集体Caが露出するように、他端に向かって透水性筒状容器110を捲りながら破ってこれを除去する。それによって凝集体Caを透水性筒状容器110から取り出す。凝集体Caは、あたかも偽凝結を生じているかのように固まっているので、透水性筒状容器110が除去されているにもかかわらず、略円柱形を保持できる。そのため、凝集体Caを手で掴んで取り扱うことができる。
図1(b)に示すシリンダカートリッジ300は、円筒形をなし基端に開口330を有している筒体320と、筒体320の先端で開口330から離反する方向へ突き出ている筒先310とを、有している。筒先310は筒体320の内空につながっており、筒体320の内空と外界とを連通させている。筒先310の外周面に雄ねじが設けられており、雌ねじを内周面に有するキャップ310aが筒先310の雄ねじと螺合している。透水性筒状容器110から取り出した凝集体Caを、開口330から筒体320へ挿入する。
図1(c)に、凝集体Caの撹拌工程を示す。撹拌機400は、先端部で突き出た二つの撹拌羽430を有する回転ロッド420と、この回転ロッド420の基端に接続しており、回転ロッド420を撹拌羽430ごと回転ロッド420の中心軸周りに回転させる回転工具410とを有している。撹拌羽430は、向かい合った直線状の二辺、並びにこの二辺の一端同士及び他端同士を繋いでいる弧状の二辺を有する小判形をなした板部430bと、弧状の二辺でこの弧に沿って夫々突き出た突出部430dと、板部430bで点対称に開けられた開口部430aと、開口部430aに一部でつながって突出部430dと離反方向に迫り出した舌片部430cとを有している。撹拌羽430は、開口部430aを挟んだ板部430bの中心を貫通した回転ロッド420に溶接によって固定されている。二つの撹拌羽430は、舌片部430cを向かい合わせつつ互いに交差するように回転ロッド420に直列に固定されている。
撹拌羽430を回転ロッド420ごと筒体320内へ挿入する。回転工具410を動作させると、回転ロッド420及び撹拌羽430が回転する。シリンダカートリッジ300内の凝集体Caは、撹拌羽430と接触して掻き回されて撹拌される。撹拌時間は5~60秒間であることが好ましく、20~60秒間であることがより好ましく、20~40秒間であることがより一層好ましい。なお、凝集体Ca及び硬化性ペーストC2を撹拌する際、開口330から硬化性ペーストC2が遺漏しないように、開口330を上方へ、筒先310を下方へ夫々向けてシリンダカートリッジ300を垂直に固定してもよい。
掻き回されることによって凝集していた凝集体Caの粒子は均一に分散し、凝集体Caは図1(d)に示す硬化性ペーストC2に変化する。硬化性ペーストC2は、流動性を有している。凝集体Caを、予め硬化性ペーストC2とすることにより、シリンダカートリッジ300から硬化性ペーストC2を押し出して削孔に注入する際(図2(c)参照)の押し出し抵抗を、凝集体Caをそのまま押し出すよりも、格段に減じることができ、作業者の負担を軽減できる。
次いで図1(d)に示すように、筒体320及び開口330の内径よりもわずかに小さな円盤形をなしている蓋体340を、開口330に嵌める。蓋体340は、筒先310に向かった押圧に応じて、筒体320内を移動することができる。次いで、基端側にキャップ310aと同一の雌ねじを、先端に開口した吐出口を、夫々有するノズル310bに、注入チューブ310cを接続する。注入チューブ310cと吐出口に向かって漸次窄まったノズル310bの先端部とを留め具310dで締付けて固定する。注入チューブ310cの中ほどに、ビニルテープを巻いて貼付し、注入量指示マーク310eを形成する。この注入量指示マーク310eは、張コンクリートのようなコンクリート躯体に開けられた削孔の体積とそこに挿入されるアンカー素子の挿入分の体積との差分を満たす量の硬化性ペーストC2が削孔に注入された際に、削孔の開口から露出する位置に付されている(図2(d)参照)。さらに、キャップ310aを取り外して、注入チューブ310cが接続されたノズル310bを、筒先310に螺合させて取り付ける。
図1(e)に示す注入ガン500は、シリンダカートリッジ300の筒体320よりも幾分大きな径を有する湾曲した軒樋形をなしていてかつ筒体320を支持する筒体支持部520と、筒体支持部520の先端に立設し筒体320の先端側を支持する先端側支持部510と、筒体支持部520の基端に設けられた基端部550と、基端部550に固定された操作部540と、筒体支持部520上で先端側支持部510と基端部550との間を移動可能なピストン530と、一端でピストン530に連結し基端部550及び操作部540を貫通してその先へ延び他端で折り返すように湾曲した送出しロッド560とを、有している。
先端側支持部510は、筒先310と接触せずかつ筒体320の先端側に接触してシリンダカートリッジ300を支持できるように、2本の爪を有している。操作部540は、作業者の掌と親指とで把持される把持部540bと、作業者の親指以外の指が掛けられるトリガー540aとを有している。トリガー540aと送出しロッド560とは、例えばラチェット機構を介して接続されている。トリガー540aが引かれて把持部540b側に移動することにより、送出しロッド560は先端側支持部510へ向かって送り出され、ピストン530が筒体支持部520上を移動する。ピストン530は、注入ガン500にセットされたシリンダカートリッジ300の開口330から筒体320内へ移動して蓋体340を押圧できるように、筒体320及び開口330より小さい径の円盤形をなしている。
蓋体340を開口330に嵌め、送出しロッド560を先端側支持部510から離反する方向へ引いてピストン53を基端部550側へ移動させる。シリンダカートリッジ300を、筒先310が先端側支持部510の2本の爪の間で突き出るように、注入ガン500にセットする。次いでトリガー540aを複数回引いて、ピストン530が蓋体340に当接するまで先端側支持部510側へ移動させる。
注入ガン500は、圧縮空気を生成するコンプレッサー(不図示)に繋がっており、トリガー540aの操作に応じてこの圧縮空気が送出しロッド560を送り出すものであってもよい。それによれば、トリガー540aを操作する作業者の負担を軽減できる。
図2は、カートリッジ方式の硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法の後半工程の一例を示す。同図はカートリッジ方式の硬化性ペースト施工方法によって、落石防護網を固定する支柱を張コンクリートに取り付ける工程を示している。
図2(a)に示す張コンクリート61は、法面62へのコンクリート張工によって形成され、法面62を略均一な厚さで覆っている。そのため、張コンクリート61の表面61aは、傾斜している。作業者は、表面61aにコアボーリングマシン71をセットし、それの先端に取り付けられたコアドリル71aを回転させて円筒形状の削孔61bを形成する。
図2(b)に示すように、作業者は注入チューブ310cの先端が削孔61bの底面61b1に接触する位置まで注入チューブ310cを削孔61bに挿し込む。次いで作業者は同図(c)に示すように、トリガー540aを引く。硬化性ペーストC2が押し出されて注入チューブ310cから削孔61b内に注入される。このとき作業者は、注入ガン500が削孔61bの開口から離反する方向Xへ、シリンダカートリッジ300とともに注入ガン500を少しずつ移動させつつ、注入チューブ310cの先端部と硬化性ペーストC2の液面とを接触させながら硬化性ペーストC2の注入を継続する。それにより、硬化性ペーストC2の注入量が削孔61b内で増加することに応じて、注入チューブ310cが削孔61bから抜去される方向へと移動する。また作業者は、硬化性ペーストC2の液面が削孔61bの開口へ向かって移動する際に生じる硬化性ペーストC2の圧力を感知できる。それによって作業者は、硬化性ペーストC2の順調な注入を認識できる。作業者がこの作業を継続すると、同図(d)に示すように、注入量指示マーク310eが削孔61bの開口で出没する。作業者は、この注入量指示マーク310eが、削孔61bの開口で出没したことを目視にて確認した時点で、トリガー540aを戻して注入を終了する。このように作業者は、硬化性ペーストC2の注入工程において、注入ガン500を移動させながら削孔61bの開口を注視するという簡便で簡素な作業を行うだけで、アンカー素子の体積分の空間を削孔61bに残した硬化性ペーストC2の注入を行うことができる。その結果、アンカー素子を削孔61bへ挿入した際に、硬化性ペーストC2が削孔61bの開口から多量に溢れ出るという不経済を防止できる。
このように、注入チューブ310cに注入量指示マーク310eが付されており、かつ上記のように注入工程を行うことにより、作業者は適切な量の硬化性ペーストC2を、過不足なく削孔61bに注入することができる。特に、硬化性ペーストC2の注入工程後に、アンカー素子であるアンカーボルト81を削孔61bに挿入する際(図2(e)参照)、硬化性ペーストC2が過剰注入されていることによって、硬化性ペーストC2が削孔61bから多量に溢れ出るような無駄や注入不足による施工不良が防止されている。さらに、注入量指示マーク310eを目視するだけという簡便な管理によって、例えば、一つの削孔61b当たりに要する硬化性ペーストC2の量を把握でき、シリンダカートリッジ1本当たりに注入・充填可能な削孔61bの数を決定できる。
図2(e)にアンカー素子の打込工程を示す。アンカー素子であるアンカーボルト81は、長尺の略円柱形をなしており、それの中心軸に対して略垂直な面をなしている基端(同図(f)参照)と、この基端の面に対して傾斜していることによって楕円形の面を有している先端とを、有している。それによりアンカーボルト81の先端は鋭く尖っているため、硬化性ペーストC2で満たされた削孔61bへ挿入し易い。アンカーボルト81の先端から中程まで、複数のリブ81aが出っ張っている。アンカーボルト81の基端部の表面に雄ねじ81bが設けられている。この雄ねじ81bに、落石防護網の支柱を固定するナット83が螺合される(同図(f)参照)。アンカーボルト81の全長は、規格に示されているアンカーボルトの定着長を満足し、かつ削孔61bに打ち込まれた際に雄ねじ81bが削孔61bの開口から突き出るように、削孔61bの削孔長(奥行)よりも長い。
作業者は、アンカーボルト81の基端部を手31で握って、硬化性ペーストC2に空気が混入しないようにアンカーボルト81の中心軸周りに回転させながら、削孔61b内の硬化性ペーストC2に挿し込む。適度な流動性を有する硬化性ペーストC2と、アンカーボルト81の鋭利な先端とによって、作業者は然程、力を要さずとも、アンカーボルト81を硬化性ペーストC2で満たされた削孔61bに打込むことができる。作業者は、硬化性ペーストC2の吸水完了時から硬化性ペーストC2の凝結始発までの時間である可使時間内にこの工程を行う。可使時間を徒過すると、凝結始発に達した硬化性ペーストC2の流動性が、徐々に失われて、アンカーボルト81の打込抵抗が上昇し、これを手31による人力で打込むことが困難になってしまう。
作業者は、削孔61b内でアンカーボルト81を所定の角度となるように手90で支持する。凝結終結に達した硬化性ペーストC2は硬化を開始するので、アンカーボルト81は作業者の支持を要さず所定の角度を保ったまま、削孔61b内に定着する。作業者は必要に応じて、削孔61bからわずかに溢れた硬化性ペーストC2を取り除く。
図2(a)~(e)に示す工程を経た張コンクリート61を同図(f)に示す。硬化性ペーストC2の硬化により生じた硬化体C3が削孔61bの開口を塞いでいるとともに、削孔61bの内壁面とアンカーボルト81との間に密に充填されている。アンカーボルト81は、張コンクリート61に定着し、その基端部の雄ねじ81bにナット83が螺合して支柱82が固定されている。リブ81aのアンカー効果によってアンカーボルト81は、硬化体C3からの引抜強度を向上させている。
このように、本発明の水硬性組成物を用いたカートリッジ方式による硬化性ペースト施工方法によれば、定着剤カプセル100を水Wに所定時間浸漬するだけで、水硬性組成物C1に所要量の水Wを吸収させることができるので、水を溢したり計量ミスを生じたりする恐れがあるカートリッジへの注水や、注水後のカートリッジの振盪を要しない。その結果、不慣れな作業者であっても簡便にかつ確実に作業をすることができるので均質な施工が可能で、施工管理を簡素化できるとともに、施工効率を向上させることができる。
その結果作業者は、定着剤カプセル100の水Wへの浸漬時間を厳密に管理せずに済む上、定着剤カプセル100の透水性筒状容器110の除去工程(図1(b)参照)からアンカーボルト81の削孔61bへの挿入工程(図2(e)参照)までを、時間的余裕をもって確実に行うことができる。
なお、硬化性ペーストC2の注入工程が終了し、かつシリンダカートリッジ300の筒体320内の硬化性ペーストC2が注入チューブ310cからすべて排出されて筒体320内が空となった後に、筒体320の内壁面を洗浄する工程を行ってもよい。この場合、注入ガン500のピストン530が蓋体340を兼ねていることが好ましい。それによれば、作業者が送出しロッド560を引いてピストン530(蓋体340)を開口330から取り出した後、筒体320の内壁を洗浄できる(図1(d)及び(e)参照)。さらにこの洗浄は、ノズル310bを筒体320から取り除いた後に行うことが好ましい。さらに留め具310dを緩めてノズル310bから注入チューブ310cを取り外し、ノズル310b及び注入チューブ310cも洗浄することがより好ましい。この洗浄工程において、水やブラシを用いて硬化性ペーストC2をこそぎ落してもよい。洗浄工程によれば、筒体310、ノズル310b、及び注入チューブ310cを使い捨てとせずに再使用することができるので、廃棄物及び施工コストの低減に資する。この洗浄工程は、硬化性ペーストC2の注入工程の直後に行っても、これに引き続くアンカーボルト81の挿入工程の終了後に行ってもよい。
またアンカー素子の先端は、アンカー素子の基端面に平行な面を有しているという所謂寸切り形状、角錐形状、円錐形状、又は半球形状をなしていてもよく、アンカー素子先端部の互いに向かい合う弧からそれの先端の延長方向へ夫々延びて形成された二つの斜面が弧と向かい合う辺を共有しているという所謂両面カット形状をなしていてもよく、アンカー素子先端部の互いに向かい合う弧からそれの基端方向へ延びて形成された二つの斜面が弧と向かい合う辺を共有しているという所謂先端二又割れ形状をなしていてもよい。
なお、水Wに所定時間浸漬した定着剤カプセル100を、そこから取り出してそのまま削孔に挿し込んでもよい。吸水後の定着剤カプセル100を削孔に挿し込み、その後、尖形をなしたアンカーボルトの基端部に打撃を加えながら、削孔にアンカーボルトを挿し込むと、透水性筒状容器110が突き破られ、硬化性ペーストC2が削孔内に流出する。アンカーボルトは、硬化性ペーストC2を押し退けながら削孔内を進む。硬化性ペーストC2の硬化により生じた硬化体C3が削孔の開口を塞いでいるとともに、削孔の内壁面とアンカーボルトとの間を密に充填する。
さらに本発明の硬化性ペースト施工方法の別な例、具体的にパック方式の硬化性ペースト施工方法、及びそれに用いられる硬化性ペースト施工用キットを、図3~5を参照しつつ説明する。
パック方式の硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法を図3~図5に示す。図3は、パック方式による硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法の前半工程を示している。図3(a)に示すように、パック方式による硬化性ペースト施工方法には、袋体11に硬化性組成物としてセメントを含有する粉体である水硬性組成物C1のみを収容したパック10と、水硬性組成物C1を硬化させるのに要する液剤として水W入りの容器であるボトル21とを備える硬化性ペースト施工用キット1が、用いられる。水硬性組成物C1は、水Wと接触した後混合されることによって硬化性ペーストC2(図4(b)参照)に変化し、さらに水和反応を生じて凝結・硬化して硬化体C3(図5(f)参照)を生成する。
パック10は、略矩形をなしているフィルム同士がそれらの周縁で一定幅の帯状に溶着された溶着帯11aを有している袋体11と、この袋体11の上端辺部11a1に固定されたポート12とを、有している。ポート12は袋体11の内空と外界とを連通させている筒部12aと、筒部12aの根元につながって上端辺部11a1に溶着されている台部12bとを有する。筒部12aの外面に雄ねじが設けられており(図3(c)参照)、キャップ13の内面の雌ねじと螺合している。それにより、キャップ13が筒部12aに取り付けられている。
袋体11において、ポート12を有する上端辺部11a1及びこれに対向している下端辺部11a3の長さは、袋体11の側辺部11a2の長さよりも短いことが好ましい。具体的に、袋体11の外寸は、上端辺部11a1及び下端辺部11a3の長さ(横幅)は、50~300mmであることが好ましく、100~250mmであることがより好ましく、100~200mmであることがより一層好ましい。また、側辺部11a2の長さ(縦長)は、100~500mmであることが好ましく、250~500mmであることが好ましく、250~400mmであることがさらに好ましく、300~400mmであることがより一層好ましい。袋体11の外寸は、これらの範囲内において、収容する水硬性組成物C1の量(質量及び体積)と袋体11に注入される水Wの量(質量及び体積)に応じて決定される。なお、袋体11の直立時、平坦に均された水硬性組成物C1の上端面は、上端辺部11a1と下端辺部11a3との中間から下端辺部11a3寄り、即ち袋体11の縦方向の下半分に位置していることが好ましい
また、袋体11に収容されている水硬性組成物C1の質量は、100~3000gである。収容量はこの間であればよく、例えば300g弱、500g、1000g、1500g、2000g、及び2500gのように施工箇所数や定着させるべきアンカー素子の太さ及び長さに応じて適宜選択できる。袋体11に収容されている水硬性組成物C1の質量が3000gを超えると、後述するように、水硬性組成物C1に水Wを加えて調製された硬化性ペーストC2(図5(b)~(d)参照)が重くなりすぎて人の手による作業性が低下する。
例えば、袋体11に収容される水硬性組成物C1の重量は、100~2000gであることが好ましいがそれでも500gを超えると、一袋当たりの水硬性組成物C1の重量及びそれを硬化させるのに必要な水分量との合計重量が重くなり現場で用時に揉んだり踏んだりして混合する際にかなりの肉体的負担となってしまう。そこで、一袋当たりの水硬性組成物C1を500g以下、好ましくは200~400gにすると硬化させるのに必要な水分量との合計重量でも2倍程度にしかならないから、比較的軽量で持ち運び易く、比較的コンパクトとなるので然程の肉体的負担なしに現場で用時に、より短時間で、揉んだり踏んだりして均一に混合することができ、しかも吐出させ易くなる。例えば横幅150mm、縦長350mm程度の袋体11に780gの水硬性組成物C1を収容していると、所定量の水と混合するのに、1分半~3分間程度要してしまうのに対し、横幅100mm、縦長320mm程度の袋体11に280gの水硬性組成物C1を収容していると、所定量の水と均一に混合するのに、1分間以内しか要さないで済む。
袋体11は、例えばポリアミドのような水を透過し難く高い強度を有する樹脂製で、かつ比較的厚いフィルムで形成されている。このフィルムの厚さは、100~250μmであることが好ましく、100~180μmであることがより好ましく、100~150μmであることがより一層好ましい。このような袋体11は運搬時や保管時に生じる振動や摩擦によって破損せず、また筒部12aの先端開口がキャップ13によって塞がれているので、水硬性組成物C1は不意に水と接触しない。
なお、袋体11内の水硬性組成物C1、硬化性ペーストC2、及び水Wを、袋体11を通して視認できるように、フィルムは無色透明又は白色や青色のような任意の色に着色された半透明であることが好ましい。
一方ボトル21に、水硬性組成物C1の質量に対応する規定量の水Wが収容されている。水W入りのボトル21として、例えば、アイザーピュアウォーター(250mL入り、株式会社アクシス製、商品名)が市販されている。しかし、水入りのボトル21を作業現場に搬送するのはかなりの手間である。そこで、空のボトル21を作業現場に搬送し、作業現場で水道水のような入手し易い水をボトル21に所定量だけ注ぎ込む方が簡便かつ効率的である。水Wが収容されたボトル21の筒口21aに、それの先端開口を液密に塞ぐキャップ(不図示)が使用される直前まで螺合して取り付けられている。またボトル21は、例えばポリプロピレンやポリエチレンテレフタラートのような硬質の樹脂で成型されているので定形性に優れ、水Wの流動によって変形せずに外形を維持でき、かつ振動や摩擦によって破損しない。そのため水Wは、運搬時や保管時にボトル21から不意に遺漏しない。
このように、水硬性組成物C1と水Wとが袋体11及びボトル21へ夫々別々に収容されていることにより両者の不意な接触が確実に回避されている上、定形性を有するボトル21に水Wが収容されているので運搬時及び保管時の取扱性に優れる。また、必ずしも水硬性組成物C1と水Wとを同時に運搬することを要しないため、硬化性ペーストを調製するための材料を分散して任意の場所に持ち運ぶことができる。それによれば、多量の硬化性ペーストの調製を要する場合、それに要する重量の水硬性組成物と水とが分離不能に収容されたパウチ容器を運ぶことに比較して、運搬に要する労力を低減できる。
作業者は、硬化性ペーストC2の調製直前に筒口21aに取り付けられたキャップを取り外し、これに代えて注入ノズル22を注入口21aへ液密に取り付ける。注入ノズル22は、基端部でボトル21に螺合したキャップ状の取付部22aと、それの上面で上方に向かって漸次縮径しつつ伸びた円錐部22bとを有している。それにより円錐部22bは、テーパーを有する截頭円錐形の筒体をなしている。円錐部22bの外面で、それの先端と取付部22aの上面との間にリブ22cが出っ張っている。リブ22cは、円錐部22bの円形断面の直交する直径に沿って4方向に、かつ円錐部22bのテーパーに沿った一定の高さで突き出ている。なお、図3中、リブ22cを有する例を示したが、有しなくてもよい。
次いで図3(b)に示すように、作業者はキャップ13を取り外した後、パック10が直立するようにこれを適当な平台(不図示)に載せる。作業者はポート12の筒部12aがやや下を向くように右手31でそこをつまみ、水硬性組成物C1の上端面よりも上端辺部11a1寄りで袋体11を折り曲げる。それにより、水硬性組成物C1が筒部12aの先端開口から遺漏しない。次いで作業者はボトル21を左手32で握り、筒部12aの先端開口に円錐部22bをそれの先端部から挿し込む。このとき、円錐部22bの先端部をボトル21の底部よりも上側に位置させなければ、注入ノズル22をポート12に挿し込めないので、水Wが円錐部22bの先端開口から遺漏しない。
円錐部22bのテーパー又は必要に応じ設けられるリブ22cが、筒部12aの開口部に食い込んで篏合する。このとき、リブ22cが円錐部22bの外面で突き出ているので、円錐部22bの外面と筒部12aの開口部との間に、リブ22cの高さに相当する隙間Sが形成される(同図(c)参照)。このようにポート12と注入ノズル22とが接続されることにより、パック10とボトル21とが連結される。
図3(c)に示すように、作業者は、袋体11の上端辺部11a1を右手31で挟むように支えてパック10を直立させながら、ボトル21の底部を上側に、注入ノズル22を下側に、それぞれ位置するようにボトル21を逆転させる。それにより、ボトル21内の水Wが注入ノズル22内を通って、袋体11内に注がれる。袋体11への水Wの流入に応じて袋体11内の空気が隙間Sから排出される。このように、パック10とボトル21とが、注入ノズル22によって一体に連結されているので、予め計量された規定量の水Wを、一切こぼすことなく確実に、しかも空気の排出によって速やかに水硬性組成物C1に吸収させることができる。作業者はボトル21内の水Wの全量が袋体11内に注がれたことを目視にて確認した後、筒部12aから注入ノズル22を抜き、パック10とボトル21との連結を解除する。
水硬性組成物C1の100質量部当たり水W量は、20~40質量部であることが好ましく、25~40質量部であることがより好ましく、25~35質量部であることがより一層好ましい。水Wの量がこの下限値未満であると、水Wの量が不足して適度な流動性を有する硬化性ペーストC2を調製できず、ひび割れの補修やタイルの目地埋め等の作業性が低下する。一方水Wの量がこの上限値を超えると、硬化性ペーストC2が過度の流動性を示し、ひび割れへの充填性に欠ける上、硬化するまでの養生時間を長引かせてしまう。また、水の温度は、3~50℃であることが好ましく、10~20℃であることがより好ましい。
図4にパック方式の硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法における中盤工程を示す。同図(a)に示すように、筒部12aにキャップ13を螺合して取り付けて袋体11を密封する。キャップ13が、筒部12aの先端開口を覆って液密に塞いでいるので、袋体11内の水硬性組成物C1と水Wとが遺漏しない。作業者は、両手31,32でパック10を掴んで袋体11を揉んだり、押したりする。それにより袋体11が変形し、水硬性組成物C1と水Wとが混合され、硬化性ペーストC2が調製される。
必要に応じて上端辺部11a1を下に、かつ下端辺部11a3上に向けるようにパック10を天地逆転させたり、パック10を水平又は垂直方向へ揺するように往復させたり、袋体11を折り曲げたりしてもよい。又は、水を入れた後、上下に10回程度強く振ってからパックをひっくり返して、再度、上下に10回程度強く振る1セット手順を、4~5セット繰り返して、水がセメント全体に行き渡るように予備混合してもよい。なお、水硬性組成物C1及び水Wとともに、空気Aが袋体11の内空の体積の一部を占めていてもよい。この工程において、水硬性組成物C1の上方から注入された水Wが下端辺部11a3付近に到達するほど強い力でかつ長時間、袋体11を揉んだり、押したりすることを要しない。後に必要に応じ、押圧用器具を用いてそれらを十分に混合できることに加え、作業者の負担が増大し、水硬性組成物C1と水Wとの混合物が凝結始発に到達し硬化を開始する恐れがあるからである。
図4(b)に示すように、再びパック10が平台上で直立するように右手31でこれを支える。キャップ13を左手32で緩めて又これを取り外して、袋体11の密封を解く。それにより袋体11の内空と外界とを連通させる。次いで、右手31で袋体11を掴んだり押したりすることにより、袋体11を変形させる。それにより、袋体11の向かい合った内側面の少なくとも一部が互いに接触して、袋体11内の空気Aがポート12から排出される。このとき、袋体11上方の空気滞留部を右手31で挟み、そのまま右手31を上端辺部11a1に向かってスライドさせると、空気Aを速やかに排出できる。空気Aの大部分が排出されたところで、作業者はキャップ13を再度締める。
図4(a)に示す袋体11を揉む工程と、同図(b)に示す空気Aを排出する工程との順を逆に行ってもよい。この場合、具体的に、パック10に水Wを注入した後(図3(c)参照)、キャップ13を筒部12aに取り付けて袋体11を密封する前に、パック10を変形させて空気Aをポート12から排出させる。次いでパック10を変形させたままキャップ13を筒部12aに取り付けて袋体11を密封し、両手31,32でパック10を掴んで袋体11を押したり揉んだりして、水Wと水硬性組成物C1とを混合して硬化性ペーストC2を調製する。
混合の際にパック10に加える外力は、パック10を押したり揉んだりする他、踏んだり、振ったりするという人力であってもよい。この方法を採用する場合、手、肘、膝、及び足のような人の体の一部をパック10に接触させたり、手で掴んだりして、パック10に押圧力や振盪を加えることにより硬化性ペーストC2を調製することができる。人力を加える時間は、30~120秒が好ましく、30~90秒がより好ましく、30~60秒がより一層好ましい。なお、水硬性組成物と水との混合、及び/又は硬化性ペースの押出の際に、パック10に加える外力は、機械による動力であってもよく、押圧ローラー(不図示)の押圧力及び人力のいずれか一方であっても、両方であってもよい。
袋体11を形成するフィルムは軟質で可撓性を有していることが好ましい。このフィルムの材料として、熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的に例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸、環状ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、及びポリ塩化ビニルからなる群の少なくとも1つを含む単独重合体及び/又は共重合体及び/又はポリマーブレンドが挙げられる。
フィルムの構造は、上記の熱可塑性樹脂の一種で形成された単層であってもよく、互いに同一又は異なる熱可塑性樹脂で形成された複数枚のフィルムが接着された多層であってもよい。フィルムが多層構造を有している場合、例えば、内層から外層へ向かってポリアミド(ナイロン)層(PA;15μm厚)/バリアポリアミド(ナイロン)層(バリアPA;15μm厚)/リニア低密度ポリエチレン層(LLDPE;130μm厚)の順に、積層した多層構造が挙げられる。また、多層構造は、内層から外層へ向かって内側:リニア低密度ポリエチレン層(LLDPE;130μm厚)/ポリアミド(ナイロン)層(PA;15μm厚)/バリアポリアミド(ナイロン)層(バリアPA;15μm厚)の順にであってもよい。さらに多層構造は、内層から外層へ向かって、ポリエチレンテレフタラート層(PET;12μm厚)/バリアポリアミド(ナイロン)層(バリアPA;15μm厚)/リニア低密度ポリエチレン層(LLDPE;130μm厚)の順であってもよい。特に最外層であるLLDPE層は少なくとも100μmの厚さを有していることが好ましい。それにより、手や足との摩擦やそれらによる押圧に起因する袋体11の内圧上昇が生じても、フィルムが破れたり裂けたりしない。一方、LLDPE層の厚さが150μmを超えると、フィルムが外圧によって変形し難いので、水硬性組成物C1と水Wとを十分に混合及び混練できず、均質な硬化性ペーストC2が得られない。また溶着帯11aは、熱溶着、超音波溶着、又は誘導溶着によって形成することができる。
上記の熱硬化性樹脂は、ポート12の材料としても採用することができる。
図4(c)のように、キャップ13と交換的に螺合可能な注入コネクタ23と、その注入コネクタ23の先端に嵌めることが可能な太さを有しつつ注入量指示マーク25のテープが貼付され又は注入量指示マーク25が印字されている注入チューブ24とを、準備する。注入コネクタ23は筒体であり、それの上端で円形の開口部を有している。また注入コネクタ23は、基端部の内壁面に筒部12aの雄ねじに螺合可能な雌ねじを有し、中ほどから先端部の外面に複数の鱗状環部23aを有している。各鱗状環部23aは、円形の開口部と同心に形成されており、基端部に向かって漸次広がった截頭形をなしている。それにより注入コネクタ23の外面に複数の段差が形成されている。このような外形を有するコネクタは、タケノコと呼ばれている。作業者はこの注入コネクタ23を筒部12aに螺合して取り付ける。
次いで、図4(c)に示すように、注入チューブ24の一端を注入コネクタ23に嵌め、これと注入コネクタ23とを留め具26で締付けて固定する。注入コネクタ23は、鱗状環部23aによる複数の段差を有している上、注入チューブ24は留め具26で締付けられているので、注入コネクタ23から容易に外れない。注入チューブ24の中ほどに、注入量指示マーク25であるビニルテープが巻かれてそこへ貼付されている。この注入量指示マーク25は、削孔61bの体積とそこに挿入されるアンカー素子の挿入部の体積との差分を満たす量の硬化性ペーストC2が削孔61bに注入された際に、削孔61bの開口から露出する位置に付されている(図5(d)参照)。
本発明の硬化性ペースト施工方法の一例であるパック方式による硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法の後半工程を図5に示す。同図は落石防護網を固定する支柱を張コンクリートに取り付ける工程を示している。
図5(a)に示す張コンクリート61は、法面62へのコンクリート張工によって形成され、法面62を略均一な厚さで覆っている。そのため、張コンクリート61の表面61aは、傾斜している。作業者は、表面61aにコアボーリングマシン71をセットし、それの先端に取り付けられたコアドリル71aを回転させて円筒形状の削孔61bを、二十から三十箇所形成する。
削孔61bの奥行(長さ)及び直径は、張コンクリート61の厚さや、定着させるアンカー素子の長さ及び径に応じて決定される。特に削孔61bの奥行は、アンカー素子の直径の少なくとも5~10倍であることが好ましい。例えば、アンカー素子がD25鉄筋(JIS G3112(2010)に規定された異形棒鋼の呼び名:公称直径25.4mm)である場合、削孔61bの奥行を125~250mm、具体的には175~200mm、さらに具体的には175~180mmとし、直径を27~38mm、具体的には30~35mm、さらに具体的には30~33mmとする削孔61bが挙げられる。
図5(b)に示すように、作業者は注入チューブ24の先端が削孔61bの底面61b1に接触する位置まで注入チューブ24を削孔61bに挿し込む。次いで作業者は同図(c)に示すように、袋体11を、例えば左手32で握ることによって、袋体11の内側面同士が接するように、袋体11の両面で対抗する方向に圧力を掛けて圧縮する。それにより袋体11内の硬化性ペーストC2が注入チューブ24から吐出されて削孔61b内に流れ込む。このとき、下端辺部11a3から注入チューブ24に向かって手31,32で扱きながら硬化性ペーストC2を吐出させることが好ましい。また下端辺部11a3からポート12に向かって袋体11を手31,32で徐々に巻き取ることにより、袋体11内の硬化性ペーストC2に圧力を掛けて注入コネクタ23及び注入チューブ24からこれを吐出させてもよい。
図5(c)に示すように作業者は、硬化性ペーストC2を削孔61bに注入しながら、削孔61bの開口から離反する方向Xへ、パック10を少しずつ移動させる。このとき、作業者は注入チューブ24の先端部と硬化性ペーストC2の液面とを接触させながら硬化性ペーストC2の注入を継続する。それにより、硬化性ペーストC2の注入量が削孔61b内で増加することに応じて、注入チューブ24が削孔61bから抜去される方向へと移動する。また作業者は、硬化性ペーストC2の液面が削孔61bの開口へ向かって移動する際に生じる硬化性ペーストC2の圧力を感知できる。それによって作業者は、硬化性ペーストC2の順調な注入を認識できる。
作業者がこの作業を継続すると、図5(d)に示すように、注入量指示マーク25が削孔61bの開口で出没する。作業者は、この注入量指示マーク25が、削孔61bの開口で出没したことを目視にて確認した時点で、前記袋体11の内部と、その袋体11から注入チューブ24の注入量指示マーク15までの内部との硬化性ペーストC2を、注入量指示マーク15まで、扱いて押出し、一つの削孔61bに対する硬化性ペーストC2の注入作業を終了する。このように作業者は、硬化性ペーストC2の注入工程において、パック10を移動させながら削孔61bの開口を注視するという簡便で簡素な作業を行うだけで、アンカー素子のうち削孔61bに挿入される部分の体積だけを削孔61b内に残して、硬化性ペーストC2の注入を終えることができる。その結果、アンカー素子を削孔61bへ挿入した際に、硬化性ペーストC2が削孔61bの開口から多量に溢れ出るという不経済を防止できる。
図5(e)にアンカー素子の打込工程を示す。アンカー素子であるアンカーボルト81は、長尺の略円柱形をなしており、それの中心軸に対して略垂直な面をなしている基端(同図(f)参照)と、この基端の面に対して傾斜していることによって楕円形の面を有している先端とを、有している。それによりアンカーボルト81の先端は鋭く尖っているため、硬化性ペーストC2で満たされた削孔61bへ挿入し易い。アンカーボルト81の先端から中程まで、複数のリブ81aが出っ張っている。アンカーボルト81の基端部の表面に雄ねじ81bが設けられている。この雄ねじ81bに、落石防護網の支柱を固定するナット83が螺合される(同図(f)参照)。アンカーボルト81の全長は、規格に示されているアンカーボルトの定着長を満足し、かつ削孔61bに打ち込まれた際に雄ねじ81bが削孔61bの開口から突き出るように、削孔61bの削孔長(奥行)よりも長い。なお、アンカーボルト81の先端は、尖っていなくてもよく、略円形の端面を有する、所謂寸切り品であっても問題なく十分に挿入できる。
アンカーボルト81の寸法について、特に限定されないが、例えばJIS G3112(2010)に規定されている異形棒鋼の呼び名D4~D51のものを用いることができる。また、アンカーボルト81は、M6~M100の呼び径を有する全ねじボルトであってもよい。
作業者は、アンカーボルト81の基端部を右手31(若しくは左手32、又は両手)で握って、硬化性ペーストC2に空気が混入しないようにアンカーボルト81の中心軸周りに回転させながら、削孔61b内の硬化性ペーストC2に挿し込む。適度な流動性を有する硬化性ペーストC2と、アンカーボルト81の鋭利な先端とによって、作業者は然程、力を要さずとも、アンカーボルト81を硬化性ペーストC2で満たされた削孔61bに打込むことができる。作業者は、硬化性ペーストC2の調製完了時から硬化性ペーストC2の凝結始発までの時間である可使時間内にこの工程を行う。可使時間を徒過すると、凝結始発に達した硬化性ペーストC2の流動性が、徐々に失われて、アンカーボルト81の打込抵抗が上昇し、これを右手31(及び/又は左手32)による人力で打込むことが困難になってしまう。
作業者は、削孔61b内でアンカーボルト81を所定の角度となるように手31,32で支持する。凝結終結に達した硬化性ペーストC2は硬化を開始するので、アンカーボルト81は作業者の支持を要さず所定の角度を保ったまま、削孔61b内に定着する。作業者は必要に応じて、削孔61bからわずかに溢れた硬化性ペーストC2を取り除く。作業者は引き続き、別な削孔61bの前に移動して図5(b)~(e)の作業を繰り返す。
パック10内に100~3000gの水硬性組成物C1から調製された十分な量の硬化性ペーストC2が収容されているので、作業者は逐一別なパック10を用いて新たな硬化性ペーストC2の調製作業を要しない。そのためこの硬化性ペースト施工方法は、数十箇所の削孔61bにアンカー素子を定着させるような中規模の工事において、硬化性ペーストC2の注入作業とアンカー素子の挿入作業とを、中断することなく連続的な流れ作業として行うことができるので、作業者の負担を軽減できるとともに作業時間の短縮に資する。
図5(a)~(e)に示す工程を経た張コンクリート61を同図(f)に示す。硬化性ペーストC2の硬化により生じた硬化体C3が削孔61bの開口を塞いでいるとともに、削孔61bの内壁面とアンカーボルト81との間に密に充填されている。アンカーボルト81は、張コンクリート61に定着し、その基端部の雄ねじ81bにナット83が螺合して支柱82が固定されている。リブ81aのアンカー効果によってアンカーボルト81は、硬化体C3からの引抜強度を向上させている。
以下、本発明を適用した水硬性組成物、それを用いた硬化性ペースト施工用キット及び硬化性ペースト施工方法によるアンカー素子定着方法の例について、詳細に説明する。
(実施例1及び比較例1)
(水硬性組成物の調製)
原材料である早強ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製、早強ポルトランドセメント)、アルミナセメント(デンカ株式会社製、アルミナセメント1号溶融品)、急結剤(株式会社ノリタケカンパニーリミテッド製、半水石膏β型SB)、粘性調整剤としてSTARVIS 308F(BASFジャパン株式会社製の商品名)、凝結調整剤として、クエン酸三ナトリウム水和物と炭酸リチウムと炭酸カリウムとアエロジル(日本アエロジル株式会社製の商品名)との20:1:30:1質量比混合物、細骨材として珪砂4号(日瓢礦業株式会社製の商品名)を、表1に示した質量比で量りとり、ミキサーに投入して撹拌し、調製実施例の水硬性組成物を調製した。
調製実施例で用いたものと同じ早強ポルトランドセメントのみからなる水硬性組成物を、調製比較例として用いた。
(定着剤カプセルの作製)
調製実施例及び調製比較例の水硬性組成物の450gを、坪量40g/m2でヒートロン紙からなる不織シート製透水性筒状容器に封入して、長さ300mmで径34mmである実施例及び比較例の定着剤カプセルを、夫々得た。
(水/セメント比の測定)
実施例の定着剤カプセルの重量を計測した後、これを20℃の水道水に5分浸漬してから取り出して重量を測定した。定着カプセルの重量について、浸漬後重量に対する浸漬前重量の百分率である水/セメント比を求めたところ、29%であった。
(圧縮試験)
水/セメント比の測定後、実施例の定着剤カプセルの透水性筒状容器を破壊し、凝集した定着剤を取り出して、先端にキャップを嵌めた筒先と基端に開口とを有するシリンダカートリッジに入れた。回転ロッドの先端部に撹拌羽を有している撹拌棒(藤原産業株式会社製、製品名:ペイントミキサーSPM-4)の基端部を回転工具である電動インパクトドライバーに接続させた撹拌機を用い、開口から撹拌羽をシリンダカートリッジに挿し入れて1分間掻き回して撹拌し、凝集した定着剤をシリンダカートリッジ内で分散させて実施例の硬化性ペーストを調製した。実施例の硬化性ペーストを型枠に流し入れ、JIS A1108(2006)に準拠して実施例の硬化体を作製した。この硬化体について同規格に準拠して圧縮強度試験を行い、養生3時間後、1日後、3日後、7日後、及び28日後の圧縮強度(N/mm2)を測定した。その結果、なお、すべての養生条件を20℃、相対湿度90%、とした。結果を表2に示す。
実施例と同様に操作して、比較例の硬化体を作製し、圧縮強度を測定した。結果を表2に示す。
実施例の水硬性組成物を用いた硬化体は、わずか3時間の養生で50N/mm2の圧縮強度を示し、7日後には28日間養生を行った硬化体のおよそ90%の圧縮強度にまで達した。実施例の水硬性組成物は、短期間の養生であっても極めて高い圧縮強度を示すことが分かった。一方、比較例の水硬性組成物を用いた硬化体は、実施例のものと比較して、著しく低い圧縮強度しか示さなかった。
(アンカーボルトの引張試験)
1000×1000×3000mmのコンクリート塊に、ハンマードリルを用いて削孔径28mmの削孔を形成した。このコンクリート塊に定着させるアンカーボルト(JIS G3112(2010)に規定するSD345異形棒鋼、呼び名D22、公称断面積3.871cm2;長さ1000mm、先端45度斜めカット)の定着長を、220mmとするため、削孔長を245mmとした。実施例の定着剤カプセルを、水/セメント比の20℃の水道水に3分浸漬した。圧縮試験における操作と同様にして、硬化性ペーストを調製した。シリンダカートリッジの開口に蓋体を嵌め、筒先に螺合したキャップを取り外して、注入量指示マークを外周面に有する注入チューブを接続したノズルを筒先に螺合させ、シリンダカートリッジを注入ガンにセットした。次いで注入チューブを削孔へ挿し込んで削孔へ硬化性ペーストを注入した。注入ガンを手前に引きながら硬化性ペーストの注入を継続した。注入量指示マークの全体が削孔の開口から出没したところで、注入を終了した。その後アンカーボルトを、削孔に手で回転させながら挿し入れ、アンカーボルトをコンクリート塊に定着させた。気温20℃で1日養生を行って硬化体を生成させた後、油圧ポンプと、これにつながっており油圧ポンプで発生させた油圧によってコンクリート塊からアンカーボルトを引き抜く方向へ引っ張る油圧ジャッキと、油圧ジャッキで生じた荷重を計測するロードセルと、アンカーボルトの変位量を計測する変位計とを、有する引張試験機を用い、JIS G3112(2010)に準拠して引張試験を行った。なお、サンプル数をN=3とした。結果を図6(a)に示す。
比較例の定着剤カプセルについて、実施例と同様に操作して引張試験を行った。なお、サンプル数をN=1とした。結果を図6(a)に示す。
図6(a)は、実施例の水硬性組成物を用いてコンクリート塊に定着させたアンカーボルトの引張試験の結果を示すグラフであり、変位量と荷重との相関を示している。横軸はアンカーボルトの変位量(mm)を、縦軸はこのアンカーボルトの引張荷重(kN)を夫々示している。同図(a)に示すように、引張荷重が、JIS G3112(2010)に規定されているアンカーボルトの降伏点である133.5kN(グラフ中、120~140kN間に付された実線)を超え、同規格に規定される破断点(引張強さ)である189.6kN(グラフ中、180~200kN間に付された実線)に達しても、削孔の壁面と硬化体との間が破断したり、アンカーボルトがコンクリート塊から抜けたりしなかった。なお、アンカーボルトが破断する恐れがあるため、引張荷重が190kNに達した時点で試験を終了した。一方比較例の水硬性組成物を用いた場合、JIS規格に規定されている降伏点に達する前に、硬化体がアンカーボルトごと削孔から抜けてしまった。
(線膨張試験)
線膨張測定器(株式会社丸菱科学機械製作所製)を用いて線膨張試験を行った。この線膨張測定器は、開口した天面及び長手方向と短手方向とを有して直方体形状をなしている型枠と、この型枠の短手方向の一つである変位面に接続して型枠の外方へ延び変位面とともに変位する測定子と、この測定子の変位量を検出する変位センサとを、有している。変位センサは情報処理記憶装置に電気的に接続している。
実施例の定着剤カプセルを用いて、気温20℃・相対湿度80%以上の環境下、水温20℃の水道水に5分間浸漬したこと以外は、圧縮試験と同様に操作して硬化性ペーストを調製した。この硬化性ペーストを型枠の天面から流し入れて型枠内空を隙間なく充填した。上記の環境を保ったまま、硬化性ペーストを養生して変位センサで変位量を検出し、硬化性ペーストの硬化過程における一軸線膨張を連続的に計測した。結果を図6(b)に示す。
比較例の定着剤カプセルについて、実施例と同様に操作して線膨張試験を行った。結果を図6(b)に示す。
図6(b)は硬化性ペーストの一軸線膨張試験の結果を示すグラフである。このグラフは、時間と変位量との相関を示している。横軸は時間(時間)であり、縦軸は変位量(mm)である。太線は実施例を、細線は比較例を、夫々示している。試験開始直後に、実施例の変位量は増加し、その後に変位量がほぼ一定で、変位量の減少が見られない。このことから、硬化性ペーストは試験開始直後にわずかに膨張し、その後収縮を生じないことが分かった。このことは、本発明の水硬性組成物が、硬化開始時にわずかな膨張を示し、かつ無収縮のセメント含有組成物であることを示している。それにより、本発明の水硬性組成物によれば、硬化体と削孔の内壁面とが密着するため、アンカー素子をコンクリート躯体に高い強度で定着させることができることが分かった。一方比較例の変位量は、試験開始直後から殆ど増加していない。このことは、比較例の水硬性組成物がその硬化過程で膨張しないため硬化体が削孔の壁面に密着せず、アンカー素子が低い強度でしか定着できないことを示している。
(実施例2及び比較例2)
(パックの作製)
多層構造として、内層から外層へ向かって内側:リニア低密度ポリエチレン層(LLDPE;130μm厚)/ポリアミド(ナイロン)層(PA;15μm厚)/バリアポリアミド(ナイロン)層(バリアPA;15μm厚)の順で積層された矩形の多層フィルム(160μm厚)の2枚を、袋体を形成するために準備した。開口をキャップによって塞いだポートを、15μm厚ナイロンフィルム同士の周縁の一部で挟んで熱溶着し、ポートを固定した。ポートが固定された箇所を上端辺部とし、下端辺部を残して側辺部を熱溶着し、横幅100mm×縦長320mmのパックを作製した。それにより下端辺部が開口したポート付の袋体を作製した。この袋体の開口した下端辺部から、実施例1で調製した270gの水硬性組成物を入れた。その後下端辺部を熱溶着して袋体に水硬性組成物を収容し、実施例のパックを複数袋作製した。
得られたパックのキャップを取り外して、水比(水硬性組成物の質量に対する水の質量)が32%となるように、ポートから87gの水を袋体内へ注いだ。キャップをポートに嵌めて両手で袋体を揉んでから、キャップを緩めてゆっくりと袋体を押して空気をポートから排出した。キャップを締めた後、再度揉んだ。合計1分間揉むと、ダマを視認できなくなった。袋体内の水硬性組成物と水とが、均質に混錬された実施例の硬化性ペーストの357gが得られた。
実施例2で用いたものと同じ早強ポルトランドセメントのみからなる水硬性粉体を、比較例として用いた。調製比較例1の水硬性組成物に代えたこと以外は、実施例2と同様に操作してパックを作製した。
(圧縮試験)
実施例2及び比較例2のパック及び所要量(32質量%)の水を、20℃の恒温槽に入れた。24時間経過後、20℃の雰囲気下、上記と同一の操作によって、実施例の硬化性ペーストを調製した。パックの袋体を潰して硬化性ペーストをノズルから型枠に流し入れ、JIS A1108(2006)に準拠して実施例の硬化体を作製した。この硬化体について同規格に準拠して圧縮強度試験を行い、養生1日後、7日後、及び28日後の圧縮強度(N/mm2)を測定した。なお、すべての養生条件を20℃、相対湿度90%、とした。結果を表3に示す。
実施例のパックを用いて調製した硬化性ペーストを硬化させた硬化体は、わずか1日の養生で55N/mm2の圧縮強度を示し、7日後には28日間養生を行った硬化体のおよそ80%の圧縮強度にまで達した。実施例2は、短期間の養生であっても極めて高い圧縮強度を示すことが分かった。一方、比較例2の硬化体は、実施例2のものと比較して、著しく低い圧縮強度しか示さなかった。
(実施例3及び比較例3並びにアンカーボルトの引張試験)
1000×1000×3000mmのコンクリート塊に、ハンマードリルを用いて直径14mmで長さ70mmの削孔を形成した。このコンクリート塊に定着させるアンカーボルト(JIS G3112(2010)に規定するSD345異形棒鋼、呼び名D10、公称直径9.5mm;規格降伏点24.5kN(=SD345異形棒鋼の断面積126.7mm2×345);長さ1000mm、先端寸切り)を用意した。圧縮試験における操作と同様にして、実施例3の硬化性ペーストを調製した。ポートからキャップを取り外し、これに代えてノズルをポートに螺合させた。さらにこのノズルの先端部に注入量指示マークを付した注入チューブを嵌めた。手で袋体を絞って硬化性ペーストを削孔に注入した。注入量指示マークが削孔の開口から出没した時点で、注入量指示マークまでのパック及び注入チューブの内部の硬化性ペーストを押出してから、注入を止めた。
その後アンカーボルトを、削孔に手で回転させながら挿し入れ、アンカーボルトをコンクリート塊に定着させ、引張試験用サンプルを作製した。このときのアンカーボルトの定着長を70mmとした。気温20℃で24時間養生を行って実施例3の硬化体を生成させた後、油圧ポンプと、これにつながっており油圧ポンプで発生させた油圧によってコンクリート塊からアンカーボルトを引き抜く方向へ引っ張る油圧ジャッキと、油圧ジャッキで生じた荷重を計測するロードセルと、アンカーボルトの変位量を計測する変位計とを、有する引張試験機を用い、JIS G3112(2010)に準拠して引張試験を行った。なお、サンプル数をN=3とした。その結果、引張荷重が規格降伏点を超える30kNに達してもアンカーボルトがコンクリート塊から抜けず、アンカーボルトが破断する危険があったため、試験を中止した。結果を表4に示す。同表において、実施例3における「最大引張荷重」欄の中、数値に付した「*」は、その数値の引張荷重まで引っ張った時点で試験を中止したことを示している。
さらに、アンカーボルトの呼び名又は呼び径を表4に示すように変更して、上記と同様に試験用サンプルを作製した。作製したサンプル数は24体であった。これらのサンプルを作製するのに、硬化性ペーストの調製工程を3回繰り返してサンプルを作製した。なお、調製量を調整すれば、硬化性ペーストの調製工程を繰り返す必要がなく、すべてのサンプルの作製を終了した時点で袋体内に硬化性ペーストが残存していてもよい。
上記の圧縮試験と同様に操作して比較例3の硬化性ペーストを調製した。さらに実施例と同様に操作して引張試験用サンプルを作製した。24体のサンプルを作製するのに、途中で硬化性ペーストが不足したので、さらに二度、硬化性ペーストを調製した。作製したサンプルについて、引張試験を行った。その結果、アンカーボルトの規格降伏点付近で、比較例3の硬化体がアンカーボルトごと削孔から抜けてしまった。
(実施例4及び比較例4、並びに曲げ強さ試験)
上記の「硬化性ペーストの調製」と同様に操作して実施例4の硬化性ペーストを調製した。これを縦40mm、横160mm、高さ40mmの型枠に流し込み、20℃で相対湿度90%の条件下、7日間養生して実施例の曲げ強さ試験用硬化体サンプルを3体作製した。この硬化体サンプルについて、JIS R5201(2015)の「11.2.5曲げ強さ試験機」及び「11.7.2曲げ強さ」に準拠し、50N/秒の載荷速度にて曲げ強さ試験を行った。比較例4についても実施例と同様に操作して硬化体サンプルを作製し、曲げ強さ試験を行った。これらの結果を表5に示す。
表5の平均値から分かるように、実施例4の硬化体は比較例4のそれに比較してかなり強い曲げ強度を有していた。