以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
本発明の硬化性ペースト調製方法の一例を図1及び2を参照しつつ説明する。図1は、硬化性ペースト調製方法における前半工程を示している。図1(a)に示すように、硬化性ペースト調製方法において、袋体11に硬化性組成物としてセメントを含有する粉体である水硬性組成物C1のみを収容したパック10と、水硬性組成物C1を硬化させるのに要する液剤として水W入りの容器であるボトル21とを備える硬化性ペースト調製セットが、用いられる。水硬性組成物C1は、水Wと接触することによって硬化性ペーストC2(図2(c)参照)に変化し、さらに水和反応を生じて凝結・硬化して硬化体C3(図5(d)参照)を生成する。
パック10は、略矩形をなしているフィルム同士がそれらの周縁で一定幅の帯状に溶着された溶着帯11aを有している袋体11と、この袋体11の上端辺部11a1に固定されたポート12とを、有している。ポート12は袋体11の内空と外界とを連通させている筒部12aと、筒部12aの根元につながって上端辺部11a1に溶着されている台部12bとを有する。筒部12aの外面に雄ねじが設けられており(図1(c)参照)、キャップ13の内面の雌ねじと螺合している。それにより、キャップ13が筒部12aに取り付けられている。
袋体11において、ポート12を有する上端辺部11a1及びこれに対向している下端辺部11a3の長さは、袋体11の側辺部11a2の長さよりも短いことが好ましい。具体的に、袋体11の外寸は、上端辺部11a1及び下端辺部11a3の長さ(横の長さ)は、50~300mmであることが好ましく、100~250mmであることがより好ましく、100~200mmであることがより一層好ましい。また、側辺部11a2の長さ(縦の長さ)は、100~500mmであることが好ましく、250~500mmであることが好ましく、250~400mmであることがさらに好ましく、300~400mmであることがより一層好ましい。袋体11の外寸は、これらの範囲内において、収容する水硬性組成物C1の量(質量及び体積)と袋体11に注入される水Wの量(質量及び体積)に応じて決定される。なお、袋体11の直立時、平坦に均された水硬性組成物C1の上端面は、上端辺部11a1と下端辺部11a3との中間、又はそれよりも下端辺部11a3寄り、即ち袋体11の縦方向の下半分に位置していることが好ましい。
袋体11は、例えばポリアミドのような水を透過し難く高い強度を有する樹脂製で、かつ比較的厚いフィルムで形成されている。このフィルムの厚さは、100~250μmであることが好ましく、100~180μmであることがより好ましく、100~150μmであることがより一層好ましい。このような袋体11は運搬時や保管時に生じる振動や摩擦によって破損せず、また筒部12aの先端開口がキャップ13によって塞がれているので、水硬性組成物C1は不意に水と接触しない。
なお、袋体11内の水硬性組成物C1、硬化性ペーストC2、及び水Wを、袋体11を通して視認できるように、フィルムは無色透明又は白色や青色のような任意の色に着色された半透明であることが好ましい。
一方ボトル21に、水硬性組成物C1の質量に対応する規定量の水Wが収容されている。水W入りのボトル21として、例えば、アイザーピュアウォーター(250mL入り、株式会社アクシス製、商品名)が市販されている。水Wが収容されたボトル21の筒口21aに、それの先端開口を液密に塞ぐキャップ(不図示)が使用される直前まで螺合して取り付けられている。またボトル21は、例えばポリプロピレンやポリエチレンテレフタラートのような硬質の樹脂で成型されているので定形性に優れ、水Wの流動によって変形せずに外形を維持でき、かつ振動や摩擦によって破損しない。そのため水Wは、運搬時や保管時にボトル21から不意に遺漏しない。
このように、水硬性組成物C1と水Wとが袋体11及びボトル21へ夫々別々に収容されていることにより両者の不意な接触が確実に回避されている上、定形性を有するボトル21に水Wが収容されているので運搬時及び保管時の取扱性に優れる。また、必ずしも水硬性組成物C1と水Wとを同時に運搬することを要しないため、硬化性ペーストを調製するための材料を分散して任意の場所に持ち運ぶことができる。それによれば、多量の硬化性ペーストの調製を要する場合、それに要する重量の水硬性組成物と水とが分離不能に収容されたパウチ容器を運ぶことに比較して、運搬に要する労力を低減できる。
作業者は、硬化性ペーストC2の調製直前に筒口21aに取り付けられたキャップを取り外し、これに代えて注入ノズル22を筒口21aへ液密に取り付ける。注入ノズル22は、基端部でボトル21に螺合したキャップ状の取付部22aと、それの上面で上方に向かって漸次縮径しつつ伸びた円錐部22bとを有している。それにより円錐部22bは、テーパーを有する截頭円錐形の筒体をなしている。円錐部22bの外面で、それの先端と取付部22aの上面との間にリブ22cが出っ張っている。リブ22cは、円錐部22bの円形断面の直交する直径に沿って4方向に、かつ円錐部22bのテーパーに沿った一定の高さで突き出ている。
次いで図1(b)に示すように、作業者はキャップ13を取り外した後、パック10が直立するようにこれを適当な平台(不図示)に載せる。作業者はポート12の筒部12aがやや下を向くように右手31でそこをつまみ、水硬性組成物C1の上端面よりも上端辺部11a1寄りで袋体11を折り曲げる。それにより、水硬性組成物C1が筒部12aの先端開口から遺漏しない。次いで作業者はボトル21を左手32で握り、筒部12aの先端開口に円錐部22bをそれの先端部から挿し込む。このとき、円錐部22bの先端部をボトル21の底部よりも上側に位置させなければ、注入ノズル22をポート12に挿し込めないので、水Wが円錐部22bの先端開口から遺漏しない。
円錐部22bのテーパーに沿ったリブ22cが、筒部12aの開口部に食い込んで篏合する。このとき、リブ22cが円錐部22bの外面で突き出ているので、円錐部22bの外面と筒部12aの開口部との間に、リブ22cの高さに相当する隙間Sが形成される(同図(c)参照)。このようにポート12と注入ノズル22とが接続されることにより、パック10とボトル21とが連結される。
図1(c)に示すように、作業者は、袋体11の上端辺部11a1を右手31で挟むように支えてパック10を直立させながら、ボトル21の底部を上側に、注入ノズル22を下側に、それぞれ位置するようにボトル21を逆転させる。それにより、ボトル21内の水Wが注入ノズル22内を通って、袋体11内に注がれる。袋体11への水Wの流入に応じて袋体11内の空気が隙間Sから排出される。このように、パック10とボトル21とが、注入ノズル22によって一体に連結されているので、予め計量された規定量の水Wを、一切こぼすことなく確実に、しかも空気の排出によって速やかに水硬性組成物C1に吸収させることができる。作業者はボトル21内の水Wの全量が袋体11内に注がれたことを目視にて確認した後、筒部12aから注入ノズル22を抜き、パック10とボトル21との連結を解除する。
水硬性組成物C1の100質量部当たり水W量は、20~37質量部であることが好ましく、25~35質量部であることがより好ましく、25~30質量部であることがより一層好ましい。水Wの量がこの下限値未満であると、水Wの量が不足して適度な流動性を有する硬化性ペーストC2を調製できず、ひび割れの補修やタイルの目地埋め等の作業性が低下する。一方水Wの量がこの上限値を超えると、硬化性ペーストC2が過度の流動性を示し、ひび割れへの充填性に欠ける上、硬化するまでの養生時間を長引かせてしまう。また、水の温度は、5~40℃であることが好ましく、10~20℃であることがより好ましい。
図2に硬化性ペースト調製方法における後半の工程を示す。同図(a)に示すように、筒部12aにキャップ13を螺合して取り付けて袋体11を密封する。キャップ13が、筒部12aの先端開口を覆って液密に塞いでいるので、袋体11内の水硬性組成物C1と水Wとが遺漏しない。作業者は、両手31,32でパック10を掴んで袋体11を揉んだり、押したりする。それにより袋体11が変形し、水硬性組成物C1と水Wとが予備混合される。
必要に応じて上端辺部11a1を下に、かつ下端辺部11a3上に向けるようにパック10を天地逆転させたり、パック10を水平又は垂直方向へ揺するように往復させたり、袋体11を折り曲げたりしてもよい。なお、水硬性組成物C1及び水Wとともに、空気Aが袋体11の内空の体積の一部を占めていてもよい。この工程において、水硬性組成物C1の上方から注入された水Wが下端辺部11a3付近に到達するほど強い力でかつ長時間、袋体11を揉んだり、押したりすることを要しない。後に押圧用器具を用いてそれらを十分に混合できることに加え、作業者の負担が増大し、水硬性組成物C1と水Wとの混合物が凝結始発に到達し硬化を開始する恐れがあるからである。
図2(b)に示すように、再びパック10が平台上で直立するように右手31でこれを支える。キャップ13を左手32で緩めて又これを取り外して、袋体11の密封を解く。それにより袋体11の内空と外界とを連通させる。次いで、右手31で袋体11を掴んだり押したりすることにより、袋体11を変形させる。それにより、袋体11の向かい合った内側面の少なくとも一部が互いに接触して、袋体11内の空気Aがポート12から排出される。このとき、袋体11上方の空気滞留部を右手31で挟み、そのまま右手31を上端辺部11a1に向かってスライドさせると、空気Aを速やかに排出できる。空気Aの大部分が排出されたところで、作業者はキャップ13を再度締める。
図2(a)に示す袋体11を揉む工程と、同図(b)に示す空気Aを排出する工程との順を逆に行ってもよい。この場合、具体的に、パック10に水Wを注入した後(図1(c)参照)、キャップ13を筒部12aに取り付けて袋体11を密封する前に、パック10を変形させて空気Aをポート12から排出させる。次いでパック10を変形させたままキャップ13を筒部12aに取り付けて袋体11を密封し、両手31,32でパック10を掴んで袋体11を押したり揉んだりして、水Wと水硬性組成物C1とを予備混合する。
図2(c)に、押圧用器具を用いてパック10に外力を加えることにより、水硬性組成物C1と水Wとを混合する工程を示す。同図に示す押圧用器具は、円柱形をなしている回転体41と、棒状の回転軸42とを有している押圧ローラー40である。回転体41は、平行に向かい合った合同な二つの円形の底面41a1,41a2と、底面41a1,41a2との円周同士を繋いでいる側面41bとを有している。回転軸42は回転体41の中心軸を貫通し、回転体41を回転自在に軸支している。また回転軸42は、回転体41の両底面41a1,41a2で夫々突き出ている。回転軸42の突き出た箇所は、押圧ローラー40を操作するのに作業者が握ることができるグリップ42aである。
ポート12の筒部12aの中心軸が水平となる向きで、適当な平台の上にパック10を載置し、さらに回転体41の側面41bとパック10の外側面とが接触するように押圧ローラー40を袋体11上に載せる。回転体41の両底面41a1,41a2で夫々突き出たグリップ42aを、右手31及び左手32で夫々握って押圧ローラー40を支える。グリップ42aを平台方向へ押し付けながら、回転軸42を上端辺部11a1方向、及び下端辺部11a3方向へ交互に動かす。図2(c)の二点鎖線矢印に示すように、回転体41がこの動きに追従し、回転しながら袋体11上を往復する。また、押圧ローラー40を、一方の側辺部11a2と他方の側辺部11a2との間で往復させながら、上端辺部11a1方向及び下端辺部11a3方向へ交互に動かしてもよく、袋体11の対角線上で動かしてもよい。このように押圧ローラー40を動かすことにより、袋体11内に平台方向(垂直方向)への押圧力に加えて、水平方向への押圧力をも加えることができる。それにより水硬性組成物C1及び水Wを袋体11内でランダムに循環させて、撹拌することができる。
押圧ローラー40の動きは、水硬性組成物C1及び水Wの体積や袋体11の寸法に依るが、1~5秒/往復とすることが好ましく、2~4秒/往復とすることがより好ましく、2~3秒/往復とすることがより一層好ましい。また、押圧ローラー40による混合撹拌工程を、20~60秒行うことが好ましく、20~50秒行うことがより好ましく、30~50秒行うことがより一層好ましい。
このとき、水硬性組成物C1及び水Wは、回転体41の動き及び押圧力によって混合及び撹拌されながら、袋体11内を循環するように流動する。それにより、袋体11の角部(上下端辺部11a1,11a3と側辺部11a2との接続部)のように、水硬性組成物C1が流動し難かったり、水Wが到達し難かったりする箇所にまで移動する。袋体11の角部で、水硬性組成物C1や水Wが滞留せず、押圧ローラー40を用いた混合・撹拌工程中、常に流動する。その結果、水硬性組成物C1と水Wとを満遍なく均質に混合できるので、それらが偏在していない硬化性ペーストC2が調製される。
この硬化性ペースト調製方法によれば、押圧ローラー40は回転体41及び回転軸42というたった二つの部品で構成されているので、製造し易く安価である上、それの操作方法は簡素であり、動力源を不可欠とする上に高価で煩雑な操作を要する振動発生装置を用いなくともよい。さらに、この押圧ローラー40を用いることにより、押圧ローラー40をパック10に押し付けながら往復させるという単純な操作を行うだけで、水硬性組成物C1と水Wとの混合及び混練に作業者の技量に依存せずに、均質な硬化性ペーストC2を簡便に調製できる。
なお、押圧ローラー40によってパック10に押圧力を加える前に、図2(b)に示す空気の排出工程を経ることにより、パック10内に残存する空気Aに起因して回転体41の回転が妨げられたり、袋体11を構成するフィルムに生じた皺と回転体41との摩擦によって袋体11が破れたりすることが防止されている。
パック10に加える外力は、パック10を踏んだり、揉んだり、振ったりするという人力であってもよい。この方法を採用する場合、手、肘、膝、及び足のような人の体の一部をパック10に接触させたり、手で掴んだりして、パック10に押圧力や振盪を加えることにより硬化性ペーストC2を調製することができる。人力を加える時間は、30~120秒が好ましく、30~90秒がより好ましく、30~60秒がより一層好ましい。なおパック10に加える外力は、押圧ローラー40の押圧力及び人力のいずれか一方であっても、両方であってもよい。それらの両方を用いる場合、その順は特に限定されない。
袋体11を形成するフィルムは軟質で可撓性を有していることが好ましい。このフィルムの材料として、熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的に例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸、環状ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、及びポリ塩化ビニルからなる群の少なくとも1つを含む単独重合体及び/又は共重合体及び/又はポリマーブレンドが挙げられる。
フィルムの構造は、上記の熱可塑性樹脂の一種で形成された単層であってもよく、互いに同一又は異なる熱可塑性樹脂で形成された複数枚のフィルムが接着された多層であってもよい。フィルムが多層構造を有している場合、例えば、内層から外層へ向かって、ポリアミド(ナイロン)層(PA;15μm厚)/バリアポリアミド(ナイロン)層(バリアPA;15μm厚)/リニア低密度ポリエチレン層(LLDPE;130μm厚)の順に積層した多層構造が挙げられる。この多層構造は、内層から外層へ向かって、ポリエチレンテレフタラート層(PET;12μm厚)/バリアポリアミド(ナイロン)層(バリアPA;15μm厚)/リニア低密度ポリエチレン層(LLDPE;130μm厚)の順であってもよい。特に最外層であるLLDPE層は少なくとも100μmの厚さを有していることが好ましい。それにより、押圧ローラー40や足との摩擦やそれらによる押圧に起因する袋体11の内圧上昇が生じても、フィルムが破れたり裂けたりしない。一方、LLDPE層の厚さが150μmを超えると、フィルムが外圧によって変形し難いので、水硬性組成物C1と水Wとを十分に混合及び混練できず、均質な硬化性ペーストC2が得られない。また溶着帯11aは、熱溶着、超音波溶着、又は誘導溶着によって形成することができる。
上記の熱硬化性樹脂は、ポート12、回転体41、及び回転軸42の材料としても採用することができる。なお、作業者が握りやすいように、グリップ42aが上記の材料で形成されたスポンジで覆われていてもよい。
硬化性ペースト調製方法における前半工程の別な態様を、図3に示す。まず、作業者はコネクタ23を準備する。コネクタ23は筒体であり、それの上端で円形の開口部を有している。またコネクタ23は、基端部の内壁面に筒部12aの雄ねじに螺合可能な雌ねじを有し、中ほどから先端部の外面に複数の鱗状環部23aを有している。各鱗状環部23aは、円形の開口部と同心に形成されており、基端部に向かって漸次広がった截頭形をなしている。それによりコネクタ23の外面に複数の段差が形成されている。このような外形を有するコネクタは、タケノコと呼ばれている。作業者はこのコネクタ23を筒部12aに螺合して取り付ける。
次いで、図3(b)に示すように、接続チューブ24の一端をコネクタ23に嵌める。コネクタ23は、鱗状環部23aによる複数の段差を有しているので、一旦コネクタ23に嵌められた接続チューブ24は、容易にそこから外れない。
図3(c)に示すように、ボトル21の筒口21aに、別なコネクタ23を螺合して取り付け、さらに接続チューブ24の他端をそこへ嵌める。それにより、パック10と水W入りのボトル21とが、接続チューブ24を介して液密に連結される。作業者は、右手31でパック10を支えつつ、左手32でボトル21を持ち、筒口21aが下方へ向くようにボトル21を傾ける。それにより、ボトル21内の水Wが接続チューブ24内を通って、袋体11内に注がれる。図1に示した態様と同様に、この態様によっても、規定量の水Wをこぼすことなく、簡便にかつ確実に水硬性組成物C1に吸収させることができる。
硬化性ペースト調製方法における前半工程のさらに別な態様を、図4に示す。図4(a)に示すように、作業者は漏斗25を準備する。漏斗25は、下方に向かって漸次窄んだ円錐形をなしている円錐部25aとこの円錐部25aの頂部に接続し下方へ向かって緩やかに縮径している管部25bとを有している。作業者は、管部25bを、それの下方先端部からポート12の筒部12aの内空へ挿し込む。管部25bは下方先端部に向かって緩やかに縮径したテーパーを有しており、それの下方先端部の外径は筒部12aの開口内径よりもわずかに小さく、かつそれの中程の外径は筒部12aの開口内径よりも大きい。そのため、漏斗25の管部25bは筒部12aと篏合して、漏斗25がポート12から脱落しない。
次いで、図4(b)に示すように、パック10が台上で直立するように右手31でパック10を支えつつ、水Wが入れられたビーカー26を左手32で持つ。ビーカー26内に、水硬性組成物C1の質量に対応する規定量の水Wが、予め計量されて入れられている。作業者は、ビーカー26をゆっくりと傾けて、水Wを漏斗25の円錐部25aへ注ぐ。それにより、水Wが袋体11内に流入する。水Wは、袋体11の内側面を伝って水硬性組成物C1に到達し、それに吸収される。作業者は、ビーカー26内の水Wの全量を、袋体11に入れる。それにより、規定量の水Wが水硬性組成物C1に吸収される。
図1~4のように、硬化性ペースト調製セットを用いて調製した硬化性ペーストC2は、例えば図5に示すようにタイルの固定及びそれの目地埋めに使用できる。
まず、図5(a)に示すようにポート12の筒部12aに、吐出ノズル14を螺合して取り付ける。吐出ノズル14は、基端部にキャップ13と同一の雌ねじを、先端に開口した吐出口を、夫々有している。吐出ノズル14は先端部に向かって漸次窄まっている。作業者は、吐出ノズル14を右手31で、袋体11を左手32で、夫々支持し、吐出ノズル14の吐出口を、タイルを設置すべき壁、床、及びテーブルの天板のような施工箇所50の表面に向ける。次いで作業者は、袋体11を左手32で握ることによって、袋体11の内側面同士が接するように、袋体11の両面で対向する方向に圧力を掛けて圧縮する。それにより袋体11内の硬化性ペーストC2が吐出ノズル14から押し出され、施工箇所50の表面上に吐出される。このとき施工箇所50の上方で、それの表面に沿った方向Xへパック10を移動させながら硬化性ペーストC2を押し出してもよい。それによれば、満遍なく硬化性ペーストC2を施工箇所50に塗り付けることができる。一方、パック10を移動させることなく硬化性ペーストC2を施工箇所50上に押し出した後、へら(不図示)を用いて硬化性ペーストC2を塗り広げてもよい。
次いで図5(b)に示すように、作業者は施工箇所50上に塗り付けられた硬化性ペーストC2に、タイル51を所定の間隔で並べる。このとき、タイル51の厚さのおおよそ1/3~1/2が未硬化の硬化性ペーストC2に埋まるように、押し付けることが好ましい。この作業は、硬化性ペーストC2が塑性を呈している凝結始発前に行われる。
タイル51を並べ終えた後、硬化性ペーストC2を所定時間養生する。それによって図5(b)に示した硬化性ペーストC2は、同図(c)に示すように硬化体C3となり、タイル51が施工箇所50上に固定される。さらに作業者は、同図(a)と同様に操作して袋体11から硬化性ペーストC2を押し出して、硬化性ペーストC2をタイル51同士の間に吐出し、目地を埋めてタイル51を継ぐ。作業者は、タイル51の上にはみ出た余剰の硬化性ペーストC2をへらで削いだり、ウエスで拭き取ったりして除去し、目地に吐出された硬化性ペーストC2とタイル51との表面を均一に揃える。その後所定時間、養生して硬化性ペーストC2を硬化させると、同図(d)に示すようにタイル51の固定及びそれの目地埋めが完了する。
硬化性ペースト調製セット及び硬化性ペースト調製方法は、図5に示したタイルの固定及びそれの目地埋めの他に、置物、モニュメント、及びオブジェのような造形品の製作、内壁面、外壁面、門柱、及び水栓回りの装飾のために使用してもよい。セメントを含む水硬性組成物C1によりこれらの製作や装飾を行うことは、モルタル造形と呼ばれている。モルタル造形によれば、硬化性ペースト調製セットを使用する方法として、例えば、コンクリートブロック製の門柱や塀のような外構の表面に、アンティークの装飾を施すことができる。具体的に、下地の硬化性ペーストをコンクリートブロックの表面に吐出し鏝で塗り付けて硬化させた後、さらに硬化性ペーストを上塗りして鏝で線を描いたり、刷毛や筆で粗面化したりして造形を施す。上塗りした硬化性ペーストが硬化して硬化体が生成された後、造形に応じた塗装を施してモルタル造形が完成する。このようなモルタル造形によれば、あたかも年月を経ることにより古びた外壁や、レンガを積み重ねて作られた門柱を表現することができる。
硬化性ペースト調製セット及び硬化性ペースト調製方法は、漏水箇所の止水に使用してもよい。硬化性ペースト調製セットを使用する方法として、具体的に例えば、法面や盛土の土留めを目的として設置された擁壁ブロックの目地(継ぎ目)から漏水が発生している場合、硬化性ペースト調製セットを用い、硬化性ペースト調製方法によって調整された硬化性ペーストを漏水箇所へ直接吐出し、必要に応じて硬化性ペーストが凝結終点に達するまで鏝や板でそこを抑えつける。硬化性ペーストが硬化して生成した硬化体が擁壁ブロックの目地を塞ぎ、止水が施される。
このように、本発明の硬化性ペースト調製セット及び硬化性ペースト調製方法は、汎用性に富んでいるので多様な用途に、簡便に適用できる。そのため、硬化性ペースト調製セットを使用する方法は、地盤工事、土木、建築、日曜大工、図工、造形、装飾など幅広い応用範囲がある。
袋体11に収容されている水硬性組成物C1について説明する。
水硬性組成物C1は、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を含有する水硬成分と、細骨材と、遅延型流動化剤と、強度増進剤と、凝結時間調整剤とを、含んでいる。
細骨材は、硬化性ペーストC2が凝結後に硬化する際に生じる収縮を低減し、これの硬化体C3へのクラック発生を防止する。また、水硬成分の水和反応に伴う発熱を緩和し、硬化性ペーストC2の温度上昇を抑えて過度な流動性増大や、凝結時間の延長を防止する。珪砂、川砂、海砂、及び砕砂のような砂類;アルミナクリンカー、シリカ粉、及び石灰石のような無機材;ウレタン砕、EVA(ethylene vinyl acetate)フォーム、発泡樹脂の粉砕物から選ばれる少なくとも一種であり、なかでも珪砂が好ましい。
細骨材は、1mm以上の粗粒子を含んでいないことが好ましい。具体的に、JIS G5901(2016)の表3に準拠した粒度区分を、4~8号とすることが好ましく、5.5~8号とすることがより好ましく、7~8号とすることが一層好ましい。細骨材の粒度区分がこの範囲であることにより、1mm以上の粗粒子を排除することができる。この粒度区分における具体的な粒度分布は、4号で600~1180μm、4.5号で425~850μm、5号で300~600μm、5.5号で212~425μm、6号で150~300μm、6.5号で106~212μm、7号で75~150μm、7.5号で53~106μm、8号で38~75μmである。
粒度区分は、3種の公称目開きを有する網目ふるいによって求められる。細骨材の測定試料全質量に対する各網目ふるいの面上の細骨材の質量比は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが一層好ましい。
また水硬性組成物C1中、細骨材は、10~40質量部、好ましくは10~30質量部、より好ましくは20~30質量部含まれている。この範囲の含有量である細骨材は、水硬性組成物C1全体に対し、下限値を8~38質量%、好ましくは8~25質量%とし、上限値を27~67質量%、好ましくは27~33質量%としている。このように、細骨材が、粒径1.2mm未満の細粒で、かつ水硬性組成物C1中に最大でも67質量%という低含有率であることによって、水硬性組成物C1の凝集が阻害されない。細骨材の粒径、含有量、及び含有率が上記の上限値を超えると、硬化性ペーストC2を用いて施工している間に水硬成分と細骨材とが分離し、硬化体C3が所期の強度を発揮できない。
遅延型流動化剤は、硬化性ペーストC2の流動性を向上させるとともに、硬化性ペーストC2の凝結始発に達する時間を遅延させるものである。遅延型流動化剤として、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸、リグニンスルホン酸、及びこれらの塩のようなスルホン酸系流動化剤;ポリカルボン酸、ポリカルボン酸エーテル、及びこれらの塩のようなカルボン酸系流動化剤が挙げられる。遅延型流動化剤として、これらの少なくとも一種を用いることができる。遅延型流動化剤は、硬化性ペーストC2中に極めて微細な気泡を生成する。この気泡が硬化性ペーストC2中で、水硬性分の再凝集と水和反応の進行とを阻害して流動性を向上させるとともに、凝結始発を遅延させていると考えられる。遅延型流動化剤として、なかでもリグニンスルホン酸塩及び/又はポリカルボン酸エーテルが好ましい。
リグニンスルホン酸塩として、具体的に、リグニンスルホン酸のリチウム塩、カリウム塩、及びナトリウム塩のようなアルカリ金属塩、並びにマグネシウム塩、及びカルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩が挙げられる。
ポリカルボン酸エーテルは、具体的に、下記化学式(1)
(化学式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数2~4のアルキレン基であり、R
3は炭素数2~5のアルキル基であり、nは1~100の正数である。)で表される単量体(1)と、下記化学式(2)
(化学式(2)中、R
4、R
5、R
6及びは水素原子又はメチル基であり、Mは水素原子、ナトリウム、リチウム、及びカリウムから選ばれるアルカリ金属、又はマグネシウム、カルシウム、及びバリウムから選ばれるアルカリ土類金属である。)で表される単量体(2)との共重合体、及びこれの塩が挙げられる。ポリカルボン酸エーテルは、単量体(1)と単量体(2)とを(1):(2)=10~95質量%:5~90%質量としていることが好ましい。
単量体(1)は、炭素数2~5のアルキル基を有する脂肪族又は脂環族アルコール化合物と炭素数2~4のアルキレンオキサイドとの付加重合体であるアルコキシポリアルキレングリコール化合物と、(メタ)アクリル酸とのエステル化合物である。単量体(1)として具体的に、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びエトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、これらは一種であっても複数種の混合物であってもよい。
単量体(2)として具体的に、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、及びこれらの金属塩が挙げられ、これらの一種又は複数種を用いることができる。
遅延型流動化剤は、水硬性組成物C1の吸水開始から硬化性ペーストC2の凝結始発までの時間を、例えば気温20℃の雰囲気下、水温20℃の水Wと水硬性組成物C1とを混錬した場合、少なくとも10分間、好ましくは15~25分間、より好ましくは15~40分間のように比較的長くするものである。遅延型流動化剤を用いることによって、所期の流動性を硬化性ペーストC2に付与するのに要する水の量を、上記のように低減することができる。このようなポリカルボン酸エーテルとして、具体的にMELFLUX 6681F(BASFジャパン株式会社製、MELFLUXは登録商標)が挙げられる。
水硬性組成物C1中、遅延型流動化剤は、0.1~2質量部、好ましくは0.1~1.5質量部、より好ましくは0.1~1.0質量部含まれている。遅延型流動化剤の含有量が上記の下限値未満であると、硬化性ペーストC2が十分に流動しない上、袋体11からの吐出前に凝結始発に達してしまうので、硬化性ペーストC2のパック10からの押し出し抵抗が増大してしまう。一方、遅延型流動化剤の含有量が上限値を超えると、水硬成分の水和反応が過度に阻害されるので、硬化性ペーストC2の凝結及び硬化が過剰に遅延して硬化体C3の早強性が損なわれる上、長期強度が低下してしまう。
凝結時間調整剤は、硬化性ペーストC2が流動性を失う凝結始発から硬化を開始する凝結終結までの凝結時間の長短を調整する。凝結時間調整剤は、硬化性ペーストC2中の水硬成分の粒子に吸着してそれの表面を被覆し、水硬成分と水との接触を抑制する。それにより、水硬成分の水和反応を徐々に進行させて硬化性ペーストC2の瞬結を防止できる。凝結時間調整剤として、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、及びp-オキシ安息香酸のようなオキシカルボン酸;リグニンスルホン酸;ソルビトール、ペンチトール、及びヘキシトールのような糖アルコールが挙げられ、これらの一種又は複数種を用いることができる。凝結時間調整剤は、オキシカルボン酸やリグニンスルホン酸のリチウム塩、カリウム塩、及びナトリウム塩のようなアルカリ金属塩、並びにマグネシウム塩、及びカルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩であってもよく、なかでもクエン酸ナトリウムが好ましく、クエン酸三ナトリウムがより好ましい。
水硬性組成物C1中、凝結時間調整剤は、1~10質量部、好ましくは1~8質量部、より好ましくは1~5質量部含まれている。含有量がこの上限値を超えると、凝結時間が過度に長くなって凝結終結に達するまでの間に、例えば水硬成分と細骨材との分離を生じてしまう。一方含有量がこの下限値未満であると、水硬成分の水和反応が急激に進行し、硬化性ペーストC2が凝結始発後に直ちに終結に達して硬化するので、硬化体C3にクラックが生じて外観上の美観を損なったり、止水材として用いてもクラックから漏水したりしてしまう。
水硬性組成物C1の水硬成分は、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を必須として含むM型の膨張系セメントである。ポルトランドセメントは、シリカ(SiO2)、及びカルシア(CaO)を主成分とし、例えば、シリカを20~25質量%、及びカルシアを60~70質量%を含んでいるものが挙げられる。その他にアルミナ(Al2O3)、マグネシア(MgO)、及び酸化鉄(Fe2O3)が、夫々1~6質量%含まれている。これらの成分は、例えばケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、及びカルシウムアルミノフェライトとして存在している。
ポルトランドセメントとして、具体的に普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、及び白色ポルトランドセメントが挙げられる。なかでも早強ポルトランドセメントが好ましい。これらのポルトランドセメントの一種のみを用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。水硬性組成物C1中、ポルトランドセメントは、20~50質量部、好ましくは20~40質量部、より好ましくは20~30質量部含まれている。
アルミナセメントは、アルミン酸カルシウム(CaO・Al2O3)を主成分とする特殊セメントであり、例えばカルシアを20~40質量%、アルミナを40~80質量%、夫々含んでいるものが挙げられる。水硬性組成物C1中、アルミナセメントは、30~60質量部、好ましくは30~50質量部、より好ましくは30~40質量部含まれている。
ポルトランドセメント及びアルミナセメントは、微粉末状のセメント粉体であり、その平均粒子径を、10~50μmとするものであることが好ましく、20~40μmとするものであることがより好ましく、20~30μmとするものであることがより一層好ましい。なお平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法による体積基準分布をいう。このような平均粒子径の測定装置として、例えば、島津レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-3100-WJA1:V1.00(株式会社島津製作所製)が挙げられる。セメント粉体がこのような微粉末であることによって、吸水に起因するセメント粉体の水和による化学的凝集及びセメント粉体の表面電位による物理的凝集が生じ易くなる。その結果、化学的凝集若しくは物理的凝集、又は両者の相乗効果によって、例えばコンクリート構造物の天井や壁面に生じたひび割れに注入された硬化性ペーストC2が、そこから遺漏し難い。
急結剤は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、及び硫酸カルシウムのような硫酸塩が挙げられ、これらの一種又は複数種を用いることができる。硫酸カルシウムとして、無水石膏(CaSO4)、半水石膏(CaSO4・1/2H2O)、二水石膏(CaSO4・2H2O)のような石膏が、後述するエトリンガイトの生成量を増大させる観点から好ましい。これらの急結剤は、一種のみを用いても複数種を混合して用いてもよい。水硬性組成物C1中、急結剤は、10~40質量部、好ましくは20~40質量部、より好ましくは20~30質量部含まれている。
強度増進剤は、シリカ微粒子であるシリカフューム、及び/又はカオリンを主成分として含んでいる。シリカフュームは、硬化性ペーストC2の粘度を向上させるという増粘効果を発現するとともに、後述するポゾラン活性に富んでいるので、硬化体C3に高い圧縮強度を付与することができる。シリカフュームは、フェロシリコン(FeSi)を電気炉で製造する過程で蒸気化したシリコン酸化物(SiO2)をフィルターで捕集することにより得られる。シリカフュームは、0.1~0.2μmの平均粒径、及び0.3~0.8g/cm3のかさ密度を有している。水硬性組成物C1中、強度増進剤は、1~10質量部、好ましくは1~8質量部、より好ましくは1~5質量部含まれている。
カオリンはシリカ及びアルミナを含んでいる。カオリンは具体的に焼成カオリン(2SiO2・Al2O3)が挙げられる。焼成カオリンは、天然粘土鉱物であるカオリン(2SiO2・Al2O3・2H2O)を、例えばロータリーキルンのような窯に投入し、700~750℃で、20~25分の滞留時間でか焼することによって得られる。強度増進剤は、焼成カオリンに加えて、高炉スラグ粉末及び/又はフライアッシュのようなシリカ質粉末を含んでいてもよい。
硬化性ペーストC2は時間の経過に伴って、水硬性分が水和反応を生じて凝結し、その後硬化する。具体的にアルミナセメント中のアルミン酸カルシウム、石膏、及び水の反応が進行し、アルミン酸硫酸カルシウム水和物であるエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)を生成する。さらに急結剤である石膏が消費されると、エトリンガイトはアルミナセメント中のアルミン酸カルシウム(アルミネート相)と反応してモノサルフェート水和物を生成する。エトリンガイトやモノサルフェート水和物のようなカルシウムサルフォアルミネート水和物は、かさ高く水に不溶な針状結晶であり、これの成長に伴って、硬化性ペーストC2が膨張しながら凝結して徐々に硬化する。しかも急結剤である石膏が、硫酸カルシウムの供給源となってエトリンガイトの生成量を増大させ、高強度の硬化体C3を形成する。
硬化性ペーストC2は、アルミナセメント中のカルシアが水に溶解した水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を含んでいる。強度増進剤に含まれるシリカフュームやカオリンは、この水酸化カルシウムと、水に不溶な水和物を生成するという所謂ポゾラン反応を生じる。それにより、例えば、ケイ酸カルシウム水和物(3CaO・2SiO2・3H2O)や、アルミン酸カルシウム水和物(3CaO・Al2O3・6H2O)の微細で密な結晶が生成し、硬化性ペーストを高強度に硬化させる。特に、粉砕により粉末化される高炉スラグや、石炭灰であることにより比較的大きな球形をなしているフライアッシュに比べて、焼成カオリンの粒子は細かいので、単位質量当りに大きな表面積を有している。そのため、シリカフューム及び焼成カオリンは他のシリカ質粉末に比べて、遥かに高いポゾラン活性を有するので、緻密な水和物の結晶を生成し、硬化体C3により高い圧縮強度を付与する。
このように水硬性組成物C1は、アルミナセメント、石膏のような急結剤、及びカオリンを主成分とする強度増進剤を含んでいることにより、それの硬化体C3は、施工後数時間~1日程度で高い強度を発現するという早強性を発現する。
エトリンガイトの生成及びポゾラン反応に並行して、ポルトランドセメント中のケイ酸カルシウムの水和反応が進行し、トバモライト結晶のようなケイ酸カルシウム水和物の硬化体C3が生成する。それにより、ケイ酸カルシウムの水和反応は、アルミン酸カルシウムのそれに比較して遅いので、ポルトランドセメントは、施工後、例えば7日~数か月後以降の長期にわたる高強度維持に優れている。
このように水硬性組成物C1が、ポルトランドセメント、アルミナセメント、急結剤、強度増進剤、細骨材、凝結時間調整剤、及び遅延型流動化剤を含んでおり、かつこれらが一定範囲の組成比で組み合わされていることによって、凝結始発までの時間を長くして、施工に要する十分な時間を作業者に付与することができる。その結果、不慣れな作業者であっても、タイルの固定や目地埋め等を、余裕をもって行うことができる。
この水硬性組成物C1から得られる硬化体C3の圧縮強度(JIS A1108(2006)に準拠)は、養生温度20~25℃で、施工後わずか1日後に60~80N/mm2に達し、28日後に100~120N/mm2にまで向上する。さらに、硬化性ペーストC2は、40~90秒の流下値(コンクリート標準示方書に規定するJSCE-F 541-2013充填モルタルの流動性試験方法(J14ロート試験)に準拠)、及び150~280mmのフロー試験値(JIS R5201(2015)に準拠)という高い流動性を示す。このため作業者は、然程力を要さずとも袋体11から硬化性ペーストC2を手31,32で押し出すことができたり、硬化体C3に比較的高い強度が要求される、例えば建設工事用グラウトに好適に用いることができたりする。
水硬性組成物C1は、増粘効果を発現するシリカ微粒子のような強度増進剤に加えて、増粘剤をさらに含んでいてもよい。増粘剤は、水硬成分の粒子同士を粘結させるバインダーのような増粘効果を発現する。さらに、硬化性ペーストC2に適度の粘度を付与して、硬化性ペーストC2中の水硬成分同士の比重差による分離や水硬成分の沈降による水との分離を防止する。それにより硬化性ペーストC2中、粒子同士の均一な分散を促進し、パック10からの押し出し抵抗を低減する。さらに、増粘剤によって硬化性ペーストC2がチキソトロピーを発現するので、外力が除かれるとそれの粘度が向上して流動性を低減させる。その結果、例えば、垂直な壁面に装飾を施すようなモルタル造形に用いた場合、硬化性ペーストC2が垂れないので、良好な施工性を示す。
増粘剤は、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース、並びにこれらの少なくとも一種を含んでいてもよい天然多糖類誘導体;ポリカルボン酸エーテル;アクリルアミド;澱粉エーテル;高分子電解質(高分子鎖の主鎖中又は側鎖中に解離基を有し水中で解離して高分子イオンとなるものであれば特に限定されず、例えばカルボキシル基やスルホン酸基やリン酸や亜リン酸又はそれらの塩若しくは脂肪族・芳香族又は複素環基含有アミノ基若しくはそれらの塩酸塩又は硫酸塩のような無機酸塩や有機酸塩・アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩のような塩や第一~第四アンモニウム基又は有機アンモニウム基などの少なくとも何れかの解離基を有した炭化水素系、エーテル性基又はアミノ性基含有複素炭化水素系、芳香族系、複素環系、アミド系及び/又は有機酸系の高分子鎖を有する高分子イオン、具体的には、天然物ではアルギン酸やその塩、ペクチン(ポリガラクツロン酸)又はその塩、カルボキシメチルセルロース又はその塩、タンパク質乃至ポリペプチドが例示でき、合成高分子化合物としてはポリアクリル酸ナトリウム塩のようなポリアクリル酸又はその塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムのようなポリスチレンスルホン酸又はその塩、ポリ(アリルアミン)又はその塩酸塩、四級化ポリ(ビニルピリジン)又はその塩、ポリ(アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム)コポリマーやポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性ポリアクリルアミド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)のようなアニオン基含有環状繰返単位含有ポリマー、ナフィオン(シグマ-アルドリッチ社製の商品名)のようなパーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー、セミ-アロマティックアンモニウムロネン類、アリファティックアンモニウム、ヘテロサイクリックアンモニウムロネン類、アルキルエーテル アンモニウムロネン類、遊離基含有高分子化合物具体的にはSTARVIS 308F(BASFジャパン社製の商品名)、デュラマックス(Duramax)やタモール(Tamol)やロマックス(Romax)やダゥエックス(Dowex)(何れもダウ・ケミカル社製の商品名)、アキュゾル(Acusol)やアキュマー(Acumer)(何れもロームアンドハース社製の商品名)、ディスペックス(Dispex)やマグナフロック(Magnafloc)(何れもBASF社製の商品名)が例示される)が挙げられる。増粘剤として、これらの一種又は複数種を用いることができる。増粘剤は、具体的に例えば、天然多糖類誘導体であるESAMID HP(lamberti spa社製)、並びにリカルボン酸エーテルとポリアクリルアミドとの混合物であるSTARVIS S 5514 F及び澱粉エーテルであるSTARVIS SE 35 F(ともにBASFジャパン株式会社製)が挙げられる。
水硬性組成物C1中、増粘剤は、0.1~3.0質量部、好ましくは0.2~2.0質量部、より好ましくは0.3~1.0質量部含まれている。含有量がこの上限値を超えると、硬化性ペーストC2パック10からの押し出し抵抗が著しく増大する上、十分な強度を有する硬化体C3を得ることができない。一方、含有量が下限値未満であると、硬化性ペーストC2の粘度が不足する。
硬化性組成物として、セメントを含む水硬性組成物を例示したが、本発明の硬化性ペースト調製方法に好適に用いられる水硬性組成物として、水硬性スラグ(高炉水砕スラグ)、水硬性石灰(CaO・SiO2含有消石灰)、石膏、澱粉、タンパク、水硬性ウレタン(例えば、田島ルーフィング株式会社製のオルタックアクト(「オルタック」は登録商標))のような、水との混合によって硬化するものが挙げられる。また硬化性組成物は、水硬性組成物に限られず、エピクロロヒドリンと反応して硬化し、ポリカーボネートを生成するビスフェノールAであってもよい。
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
原材料である早強ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製)、アルミナセメント(デンカ株式会社製、アルミナセメント1号溶融品)、急結剤(株式会社ノリタケカンパニーリミテッド製、二水石膏+半水石膏)、強度増進剤(シリカフューム、BASFジャパン株式会社製、製品名:SILICA FUME SILICIUM)、細骨材(珪砂7号、日瓢礦業株式会社製、製品名:N70号)、凝結時間調整剤(クエン酸三ナトリウム)、及びJIS A6204(2011)に準拠した遅延型流動化剤(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、製品名:レオパック(登録商標)G-100)を、表1に示した質量比で量りとり、ミキサーに投入して撹拌し、実施例1の水硬性組成物を調製した。
15μm厚ナイロンフィルムと、15μm厚バリアナイロンフィルムと、130μ厚LLDPEフィルムとがこの順で積層された矩形の多層フィルム(160μm厚)の2枚を、袋体を形成するために準備した。開口をキャップによって塞いだポートを、15μm厚ナイロンフィルム同士の周縁の一部で挟んで熱溶着し、ポートを固定した。ポートが固定された箇所を上端辺部とし、下端辺部を残して側辺部を熱溶着した。それにより下端辺部が開口したポート付の袋体を作製した。この袋体の開口した下端辺部から、2000gの水硬性組成物を入れた。その後下端辺部を熱溶着して袋体に水硬性組成物を収容し、実施例1のパックを複数袋作製した。また、キャップ付きボトルに液密に収容された水を用意し、パックと合わせて硬化性ペースト調製セットを作製した。
(比較例1)
水硬性分(住友大阪セメント株式会社製、製品名:ライオンシスイ#115)、及び珪砂6号を、表1に示した質量比で量りとり、ミキサーに投入して撹拌し、比較例1の水硬性組成物を調製した。次いで、低密度ポリエチレン製で向かい合う二辺で開口した筒状のフィルム(0.15mm厚)を準備した。特開2011-25424に開示されたパウチ容器に準じ、このフィルムの中央部を、開口した二辺と平行になるように仕切部で挟んで二分した。この仕切具を下方に向けて一方の開口から比較例1の水硬性組成物を400g入れたところで、それの荷重により仕切具が外れてしまった。そのため、水硬性組成物を300gに減じ、これを筒状フィルム入れた後、それの一方の開口を熱溶着して閉じた。次いで筒状フィルムの他方の開口から水100gをそこへ入れてこの他方の開口も熱溶着により閉じた。それにより水硬性組成物を収容した第1収容部と水を収容した第2収容部とが仕切具によって区切られた比較例1のパックを複数袋作製した。
実施例1のパックについて、水を注いだ後に押圧ローラーによって水硬性組成物と水とを混合することにより、比較例1の6倍以上の重さの硬化性ペーストを、これとほぼ同等の時間で調製できた。
(振動試験)
実施例1のパックを、貨物自動車に積んだ。目視にて観察したところ、実施例1のパックは、三往復(約3000km)しても、何ら変化を生じなかった。
(加速劣化試験)
保存温度20℃における保存安定性を簡便に確認するため、まずは加速劣化試験の条件を設定した。試験温度を60℃、加速係数を10℃毎に2とした。保存温度と試験温度との差は40℃である。そのため、加速劣化試験における加速度は24=16倍である。また、60℃における飽和水蒸気量は、51.12g/m3である。40℃におけるこの飽和水蒸気量の相対湿度は39%RHである。以上の条件設定に従い、実施例1及び比較例2の水硬性組成物入りカプセルを、温度60℃で湿度39%RHの恒温恒湿槽に夫々複数入れ、それらの外観を継続的に観察した。試験開始から12日後に、実施例1のものを恒温恒湿槽から取り出してから硬化性ペーストを調製した。その結果、実施例1の硬化性ペーストにブリージングは見られなかった。そのため実施例1についてのみ試験を継続した。46日経過後、実施例1について再度硬化性ペーストを調製した。これの硬化性ペーストは、12日経過後に調製した硬化性ペーストと同様にブリージングを生じないものであった。これの20℃保存における保存可能期間を計算したところ、16×46=736日、すなわち短くとも約2年は保存可能であることが分かった。
(圧縮試験)
実施例1のパック及び所要量の水を収容したボトルを、20℃の恒温槽に入れた。24時間経過後、20℃の雰囲気下、上記と同一の操作によって、実施例1の硬化性ペーストを調製した。パックの袋体を潰して硬化性ペーストをノズルから型枠に流し入れ、JIS A1108(2006)に準拠して実施例1の硬化体を作製した。この硬化体について同規格に準拠して圧縮強度試験を行い、養生1日後、7日後、及び28日後の圧縮強度(N/mm2)を測定した。なお、すべての養生条件を20℃、相対湿度90%、とした。結果を表2に示す。
実施例1で用いたものと同じ早強ポルトランドセメントのみからなる水硬性粉体を、比較例2として用いた。これを比較例1の水硬性組成物に代えたこと以外は、比較例1と同様に操作して比較例2のパックを作製し、さらに仕切具を外して水硬性粉体と水とを混合して比較例2の硬化性ペーストを調製した。次いで、実施例1と同様に操作して比較例2の硬化体を作製し、圧縮強度を測定した。結果を表2に示す。
実施例1のパック及び押圧ローラーを用いて調製した硬化性ペーストを硬化させた硬化体は、わずか1日の養生で78N/mm2の圧縮強度を示し、7日後には28日間養生を行った硬化体のおよそ90%の圧縮強度にまで達した。実施例1は、短期間の養生であっても極めて高い圧縮強度を示すことが分かった。一方、比較例2の硬化体は、実施例1のものと比較して、著しく低い圧縮強度しか示さなかった。
(曲げ強さ試験)
上記の「硬化性ペーストの調製」と同様に操作して実施例1の硬化性ペーストを調製した。これを縦40mm、横160mm、高さ40mmの型枠に流し込み、20℃で相対湿度90%の条件下、7日間養生して実施例1の曲げ強さ試験用硬化体サンプルを3体作製した。この硬化体サンプルについて、JIS R5201(2015)の「11.2.5曲げ強さ試験機」及び「11.7.2曲げ強さ」に準拠し、50N/秒の載荷速度にて曲げ強さ試験を行った。比較例2についても実施例1と同様に操作して硬化体サンプルを作製し、曲げ強さ試験を行った。これらの結果を表3に示す。
表3の平均値から分かるように、実施例1の硬化体は比較例2のそれに比較して2倍以上の曲げ強さを有していた。
(実施例2)
実施例1で作製した硬化性ペースト調製セットを用い、実施例1と同様に操作して硬化性ペーストを調製した。硬化性ペースト調製セットを使用する方法として、これをコンクリートブロックのひび割れに充填し、所定期間養生した。その結果、ひび割れが硬化体で塞がれ、ひび割れの補修を行うことができた。