以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一の又は対応する事項には、同一の又は対応する符号を付して、重複する説明を省略する。また、各図において、符号が共通する事項が複数表示される場合は、必ずしもそれらの複数の表示の全てに符号を付さず、それらの複数の表示の一部について符号の付与を適宜省略する。また、左右に一対が設けられた構成については、原則として左側の構成について説明し、右側の構成については、角括弧で囲って併記し、重複する説明を省略する。
本発明の一実施形態に係る試験装置1(所謂「ステアリング試験装置」)は、自動車等の車両用のステアリング装置を試験することが可能な装置である。試験装置1を使用して、乗用車、トラック、バス及びトレーラー等の特殊車両のステアリング装置の試験を行うことができる。
図1は、試験装置1の外観図である。なお、以下の説明において、図1における右上から左下に向かう方向をX軸方向、左上から右下に向かう方向をY軸方向、下から上に向かう方向をZ軸方向と定義する。X軸方向及びY軸方向は互いに直交する水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向である。なお、X軸方向は供試体Wであるステアリング装置が取り付けられる車両の走行方向に相当し、X軸正方向を「前方」、X軸負方向を「後方」、Y軸正方向を「左」、Y軸負方向を「右」と呼ぶ。
図2は、供試体Wが試験装置1に取り付けられた状態を示した概略図である。試験装置1は、供試体Wであるステアリング装置の左右のタイロッドW4に軸力(負荷L)を与えながら、ステアリングシャフトW1を回転させて、ステアリング装置の性能や耐久性を試験することが可能な装置である。
図1に示されるように、試験装置1は、架台10、入力側駆動部20、入力側駆動部20を支持する支柱部30、コラム台40、コラム台40を支持する支柱部50、左右一対の出力側駆動部60(60L、60R)及びテーブル70を備えている。
図2に示されるように、入力側駆動部20は、供試体WのステアリングシャフトW1と接続され、ステアリングシャフトW1を回転駆動する。また、出力側駆動部60L、60Rは、供試体Wの左右のタイロッドW4とそれぞれ接続され、タイロッドW4に負荷Lを与える。コラム台40には供試体WのステアリングコラムW2が取り付けられ、テーブル70には供試体WのステアリングギアボックスW3が取り付けられる。
図1に示されるように、支柱部30、50、出力側駆動部60L、60R及びテーブル70は、架台10上に設置されている。また、入力側駆動部20は支柱部30に取り付けられ、コラム台40は支柱部50に取り付けられている。
架台10は、前方に配置された固定枠11と、固定枠11の後方に配置された固定枠12と、固定枠12上に配置された左右一対の可動枠15(15L、15R)を備えている。固定枠11上には、中央部にテーブル70の左右一対のベース71が取り付けられ、テーブル70を挟んで左右両側に一対の出力側駆動部60L、60Rのベース611bが取り付けられている。右側の可動枠15R上には支柱部50のベース51が取り付けられ、左側の可動枠15L上には支柱部30のベース31が取り付けられている。
固定枠11の上面には、テーブル70を挟んで左右両側にY軸方向に延びる複数のT溝111が、左右中央にはX軸方向に延びる複数のT溝112が形成されている。固定枠12の上面にはY軸方向に延びる複数のT溝121が形成されている。また、各可動枠15の上面にもX軸方向に延びる複数のT溝151が形成されている。各T溝111、112、121及び151には、それぞれ複数のT溝ナット(不図示)が嵌め込まれている。
また、各固定枠11、12及び各可動枠15L、15Rには、各T溝111、112、121及び151と平行に送りねじ機構(不図示)が設けられている。
各可動枠15は、各T溝121に嵌め込まれたT溝ナットとボルト(不図示)によって固定枠12に固定されている。このボルトを緩めて、T溝121と平行に設けられた送りねじ機構を動かすことで、可動枠15のY軸方向における位置を調整することができる。
各出力側駆動部60のベース611bは、各T溝111に嵌め込まれたT溝ナットとボルト(不図示)によって固定枠11に固定されている。このボルトを緩めて、T溝111と平行に設けられた送りねじ機構を動かすことで、各出力側駆動部60のY軸方向における位置を調整することができる。
テーブル70の各ベース71は、各T溝112に嵌め込まれたT溝ナットとボルト(不図示)によって固定枠11に固定されている。このボルトを緩めて、T溝112と平行に設けられた送りねじ機構を動かすことで、テーブル70のX軸方向における位置を調整することができる。
支柱部30のベース31及び支柱部50のベース51は、それぞれ可動枠15のT溝151に嵌め込まれたT溝ナットとボルト(不図示)によって可動枠15に固定されている。このボルトを緩めて、T溝151と平行に設けられた送りねじ機構を動かすことで、各支柱部30及び50のX軸方向における位置を調整することができる。
すなわち、供試体Wの形状やサイズに応じて、支柱部30(入力側駆動部20)及び支柱部50(コラム台40)の前後左右の位置、各出力側駆動部60の左右の位置並びにテーブル70の前後の位置が調整可能になっている。
図3及び図4は支柱部30に取り付けられた入力側駆動部20を示した図であり、図5は支柱部30(但し、後述する昇降部36を除く。)の側面図である。支柱部30は、ベース31と、回転ステージ32と、直線ステージ33と、回転柱34と、回転柱34に昇降可能に取り付けらえた昇降部36(図3、図4)を備えている。昇降部36には入力側駆動部20が取り付けられている。
図5に示されるように、回転ステージ32は、ベース31に固定された円筒状の筒部321と、筒部321内に回転可能に嵌め込まれた円柱状の柱部322を備えている。
直線ステージ33は、その下面のスライド方向(図示の配置においてはY軸方向)における一端部で回転ステージ32の柱部322の上端部に固定された固定ブロック331と、固定ブロック331に対して上記のスライド方向にスライド可能な可動ブロック332を備えている。
回転柱34は、直線ステージ33の可動ブロック332上に立てられた円柱状の柱部342と、柱部342と回転可能に嵌合する円筒状の筒部341と、筒部341の側面に軸と平行に取り付けられたラック343を備えている。回転ステージ32と回転柱34は、それぞれ回転軸を鉛直に向けて、直線ステージ33を介して偏心して連結されている。互いに偏心して連結された回転ステージ32と回転柱34を回転させ、直線ステージ33をスライドさせることにより、回転柱34の筒部341に取り付けられた昇降部36(及び昇降部36に取り付けられた入力側駆動部20)のZ軸周りの向きとX軸及びY軸方向における位置の調整が可能になっている。
図3に示されるように、昇降部36は、回転柱34の筒部341と上下にスライド可能に嵌合する本体部361と、本体部361と回転可能に嵌合した水平方向に延びるシャフト362と、シャフト362の先端部に取り付けられた回転部363を備えている。昇降部36の本体部361には、ラック343と噛み合うピニオン(不図示)を含むギア機構361gが設けられている。ギア機構361gの入力軸と結合したハンドル361aを回すと、ピニオンが回転して、昇降部36が回転柱34に沿って鉛直方向に移動する。これにより、昇降部36に取り付けられた入力側駆動部20の高さを調整することが可能になっている。
昇降部36の本体部361は、シャフト362を中心軸の周りに回転させる回転機構(不図示)を備えている。回転機構に接続されたハンドル(不図示)を回すと、シャフト362と共に回転部363及び入力側駆動部20が回転し、これにより入力側駆動部20の水平軸回りの傾きを調整することが可能になっている。
昇降部36の回転部363(図3、図4)は、シャフト362(図3)の先端部に固定された固定枠363aと、入力側駆動部20が取り付けられる可動枠363bと、固定枠363aと可動枠363bとをシャフト362に垂直な一方向にスライド可能に連結するスライド機構364を備えている。スライド機構364は、可動枠363bのスライドを案内する一対のレール364a(図4)と、可動枠363bをスライドさせる送りねじ機構364b(図3)を備えている。送りねじ機構364bの送りねじと結合したハンドル(不図示)を回すと、送りねじ機構364bにより、入力側駆動部20が取り付けられた回転部363の可動枠363bがシャフト362と垂直な一方向(より具体的には、入力側駆動部20に接続される供試体WのステアリングシャフトW1の軸方向)に移動する。
図4に示されるように、入力側駆動部20は、サーボモーター21と、サーボモーター21の出力の回転数を減速するオプションの減速機22と、出力トルクを検出するトルクセンサー23(トルク検出手段)と、供試体WのステアリングシャフトW1が取り付けられるチャック24(出力軸)を備えている。
図6は、支柱部50に取り付けられたコラム台40を示した図である。支柱部50は、支柱55と、支柱55に昇降可能に取り付けらえた昇降部56と、昇降部56の昇降を案内する直線ガイド部52と、昇降部56を昇降させる駆動部54を備えている。
直線ガイド部52は、支柱55の上端に水平に取り付けられた上板521と、支柱55の下部に水平に取り付けられた下板522と、上板521と下板522とを連結する3本のガイドロッド523(図6には2本のみが示されている。)を備えている。昇降部56には、各ガイドロッド523とスライド可能に嵌合する上下に延びる3つの溝561が形成されている。3組のガイドロッド523と溝561との嵌合により、昇降部56の可動方向が上下方向のみに規制されている。
駆動部54は、直線ガイド部52の上板521と下板522を連結するウォーム542と、昇降部56に取り付けられたギアボックス544を備えている。ギアボックス544は、ウォーム542と噛み合うウォームホイール(不図示)と、ウォームホイールと連結したハンドル(不図示)を備えている。このハンドルを回すと、ウォームホイールが回転し、駆動部54及び昇降部56が昇降する。
昇降部56は、コラム台40を水平な軸の回りに回転させる回転機構562(歯車機構)を備えており、コラム台40は、回転機構562の水平に延びるシャフト562b(出力軸)に取り付けられている。回転機構562の入力軸に結合したハンドル562aを回すと、シャフト562bが減速されて回転し、シャフト562bに取り付けられたコラム台40の傾きが変わる。
図7及び図8は、右側の出力側駆動部60Rを示した図である。図7は出力側駆動部60Rの主要構造を前方から見た図であり、図8は出力側駆動部60Rを左側から見た外観図である。また、図7及び図8において、説明の便宜上、出力側駆動部60Rの構成の一部について図示を省略している。
出力側駆動部60は、フレーム61(図8)、サーボモーター62、オプションの減速機63、トルクセンサー64、ボールスプライン65、可動台66、サーボモーター67(図7)及び直動機構68(図7)を備えている。ボールスプライン65は、スプライン軸651とナット652を備えている。スプライン軸651とナット652は、軸方向にスライド可能に嵌合している。なお、トルクセンサー64は、サーボモーター62が発生し、オプションの減速機63によって増幅されたトルクを検出するトルク検出手段の一例である。
スプライン軸651は、トルクセンサー64を介して減速機63の出力軸に接続されている。スプライン軸651は、減速機63によって減速されたサーボモーター62の出力によって回転駆動される。スプライン軸651と嵌合したナット652も、スプライン軸651と共に回転駆動される。ボールスプライン65に加わるトルクは、トルクセンサー64によって検出される。直動機構68により、供試体WのタイロッドW4が取り付けられる可動台66の高さが調整可能になっている。直動機構68はサーボモーター67によって駆動される。直動機構68の構成については後述する。
可動台66は、ステアリング装置が備え付けられる車両において操舵輪の車軸を支持するステアリングナックルに対応する部分であり、可動台66の下部にはボールスプライン65の軸(すなわち、可動台66の回転軸)と略直交する前後方向に延びる一対のアーム661が設けられている。一対のアーム661は、前方に延びる前方アーム661fと、後方に延びる後方アーム661rを含む。前方アーム661fと後方アーム661rは、可動台66の回転軸を含む平面に対して互いに対称に、また可動台66の回転軸に対しても略対称に形成されている。アーム661は、車両のナックルアームに相当する部分であり、供試体WのタイロッドW4のロッドエンドが取り付けられる。サーボモーター62によって可動台66にトルクが加わると、供試体WのタイロッドW4に軸力として負荷Lが与えられる。
また、実際の車両においては、ステアリング装置のタイロッドW4が取り付けられるステアリングナックルは、サスペンションによって支持されるため、走行時に車両のフレームに対して上下動する。すなわち、実際の車両に取り付けられたステアリング装置には、走行時にステアリングナックルにより動的なひずみが与えられる。サーボモーター67及び直動機構68により可動台66を上下動させることにより、車両走行時と同様の動的なひずみを供試体Wに与えることが可能になる。これにより、実際の車両に取り付けられた状態により近い試験条件で供試体Wを試験し、供試体Wをより適正に評価することが可能になる。
図8に示されるように、フレーム61は、固定枠11上に取り付けられた下部フレーム611と、下部フレーム611の上板611aに取り付けられた上部フレーム612を備えている。下部フレーム611の上板611aには、減速機63及びサーボモーター67(図7)が取り付けられている。
図7及び図8に示されるように、直動機構68は、下部フレーム611に固定された上枠681及び下枠682と、上枠681と下枠682の間に配置された上下に移動可能な可動枠683と、可動枠683の上下の移動を案内するスライドガイド684(図7)と、可動枠683を駆動する送りねじ機構685(図7)を備えている。
図7に示されるスライドガイド684は、垂直に立てられたロッド684aと、ロッド684aとスライド可能に嵌合するブッシュ684bを備えている。ブッシュ684bは、例えばすべり軸受又はボールやローラー等の転動体を備えたころがり軸受である。ロッド684aは、上端部において上枠681に固定され、下端部において下枠682に固定されている。また、ブッシュ684bは可動枠683に固定されている。
図7に示される送りねじ機構685は、垂直に立てられたボールねじ685aと、ボールねじ685aと嵌合するナット685bを備えている。ボールねじ685aは、上端部において上枠681に設けられた軸受681bにより回転可能に支持され、下端部において下枠682設けられた軸受682bにより回転可能に支持されている。また、ナット685bは、は可動枠683に固定されている。
スプライン軸651は、上端部において上枠681に設けられた軸受681aにより回転可能に支持され、下端部において下枠682設けられた軸受682aにより回転可能に支持されている。スプライン軸651とスライド可能に嵌合するナット652及びナット652に取り付けられた可動台66は、可動枠683に設けられた軸受683aによって、スプライン軸651と同軸に回転可能に支持されている。可動台66はボールスプライン65と共にサーボモーター62によって回転駆動される。サーボモーター67及び直動機構68により可動枠683が上下に駆動されると、ナット652及び可動台66も可動枠683と共に上下動する。
図8に示されるように、可動台66は、車両の直進状態に相当する初期状態(初期位置)において前後に延びる、上述した一対のアーム661(前方アーム661f、後方アーム661r)を有する。図7に示されるように、アーム661には、供試体WのタイロッドエンドW41を取り付けるための、アーム661の延長方向に延びる長孔661hが形成されている。なお、前方アーム661fは所謂「前引き」用の供試体Wを取り付けるためのアーム661であり、後方アーム661rは所謂「後引き」用の供試体Wを取り付けるためのアーム661であるが、逆のアームに(例えば「前引き」用の供試体Wを後方アーム661rに)取り付けて試験を行うこともできる。但し、逆のアームに取り付けた場合は、実際の車両におけるステアリングナックルの回転方向と可動台66の回転方向が逆方向になるため、試験装置1の極性(すなわち、ステアリングシャフトW1の回転方向と可動台66の回転方向との関係)を「負」に設定する必要がある。
アーム661には、供試体WのタイロッドW4に加わる軸力(負荷L)を検出する負荷検出手段である力センサー662が設けられている。供試体WのタイロッドエンドW41は、力センサー662を介して、アーム661(前方アーム661f又は後方アーム661r)に取り付けられる。なお、負荷検出手段は、供試体Wに直接取り付けてもよい。例えば、供試体WのタイロッドW4の表面にひずみゲージを貼り付け、このひずみゲージを負荷検出手段として使用してもよい。
図9は、試験装置1の制御システム1aの概略構成を示すブロック図である。制御システム1aは、試験装置1全体の動作を制御する制御部82及び各種計測を行う計測部84を備えたコンピュータシステムである。制御部82は、CPU821、主記憶装置822、インターフェース部823及びストレージ824(補助記憶装置)を備えている。ストレージ824は、例えばHDD(hard disk drive)やSSD(Solid State Drive)であり、ストレージ824には試験装置1を制御するための各種プログラム(例えば、後述する管理プログラム824a、設定プログラム824b及び試験プログラム824c等)や各種設定データが記憶されている。
インターフェース部823は、制御部82と外部との入出力を担うユニットである。インターフェース部823は、例えば、ユーザーとの間で入出力を行うためのユーザーインターフェース、LAN(local area network)等の各種ネットワークNWと有線又は無線で接続するためのネットワークインターフェース、外部機器と有線又は無線で接続するためのUSB(universal serial bus)やGPIB(general purpose interface bus)等の各種通信インターフェースの一つ以上を備えている。ユーザーインターフェースは、例えば、各種操作スイッチ、表示器、LCD(liquid crystal display)等の各種ディスプレイ装置、マウスやタッチパッド等の各種ポインティングデバイス、タッチスクリーン、ビデオカメラ、プリンタ、スキャナ、ブザー、スピーカ、マイクロフォン、メモリーカードリーダライタ等の各種入出力装置の一つ以上を含む。また、制御部82と通信可能なスマートフォン等のポータブル端末をインターフェース部823又は制御部82の一部として使用してもよい。
制御部82には、入力側駆動部20のサーボモーター21と、各出力側駆動部60R及び60Lのサーボモーター62及び67が、それぞれサーボアンプ83を介して接続されている。
制御部82と各サーボアンプ83とは、光ファイバによって高速に通信可能に接続されている。これにより、5つのサーボモーター21、62(60L)、62(60R)、67(60L)、67(60R)のより高精度(時間軸において高分解能かつ高確度)の同期制御が可能になっている。なお、制御部82は、各サーボモーターに対する指令を一定の周期で各サーボアンプ83に送信する。本明細書においては、一つの指令によるサーボモーターの1単位(1回)の駆動制御、又は、一つの指令に対応する駆動制御の区間を制御ポイントという。
計測部84には、各トルクセンサー23、64(60L)、64(60R)及び力センサー662(60L)、662(60R)が接続されている。計測部84は、各センサーから取得した信号をデジタルデータに変換して、制御部82へ送信する。また、各サーボモーターに内蔵されたロータリーエンコーダーREが検出した軸の回転の情報(具体的には、例えば角度位置及び角速度)は、各サーボアンプ83を介して、制御部82に入力される。なお、ロータリーエンコーダーREは、各サーボモーターの軸の角度位置を検出する位置検出手段の一例であり、また、各サーボモーターの軸の角速度を検出する速度検出手段の一例である。
試験装置1は、外部機器と連携して動作可能に構成されている。例えば、供試体Wの温度を調節するための恒温槽等の温度調節手段ED1(図9)を試験装置1に接続して、試験装置1に温度調節機能を追加することができる。温度調節手段ED1は、例えば供試体Wの電子制御装置(ECU:electronic control unit)を支持するテーブル70やコラム台40に設置される。
制御部82は、インターフェース部823を介して入力される試験条件(例えば、入力側駆動部20の制御量〔角度位置θ20、角速度ω20〕や出力側駆動部60の制御量〔負荷L、可動台66の上下の変位D、速度V又は加速度A〕の目標値を含む)に基づいて、各サーボモーターの駆動を同期制御する。後述する図19に示される処理は、制御部82による制御下で実行される。
入力側駆動部20による供試体WのステアリングシャフトW1(図2)の回転駆動の制御(後述する入力軸制御S10、S11)は、一定の角速度ω20で駆動する定速モード、一定の波形パターンに従う駆動を繰り返すパターンモード及び外部から入力される連続波形信号に基づいて駆動する外部信号モードのいずれかによって行われる。なお、入力側駆動部20による供試体WのステアリングシャフトW1の回転駆動の制御は、ステアリングシャフトW1の角度位置(すなわち入力側駆動部20の出力軸の角度位置)θ20を制御量とする(すなわち、サーボモーター21の軸の角度位置Θ21を指令値とする)位置制御又は角速度ω20を制御量とする(すなわち、サーボモーター21の軸の角速度Ω21を指令値とする)速度制御が可能である。
出力側駆動部60による供試体WのタイロッドW4(図2)に与えられる負荷Lの制御(後述する負荷制御S20、Sa20)は、常に一定の負荷Lを与える定負荷モード、基本波形に従って変動する負荷Lを所定の周波数で連続して与える周波数モード、一定の波形パターンに従って変動する負荷Lを繰り返し与えるパターンモード、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20に応じた負荷Lを与える舵角応答モード及び外部から入力される連続波形信号に従って変動する負荷Lを与える外部信号モードのいずれかによって行われる。また、負荷Lの制御は、入力側駆動部20による供試体WのステアリングシャフトW1の駆動制御(後述する入力軸制御S10)や出力側駆動部60のサーボモーター67による供試体WのタイロッドエンドW41を上下に加振する制御(後述する加振制御S30)と同期又は連動して行うことができる。
出力側駆動部60による供試体WのタイロッドエンドW41に与える上下の変位Dの制御は、常に一定の変位Dを与える定変位モード、所定の周波数で連続して基本波形に従って変動変位D(すなわち、振動)を与える周波数モード、ステアリングシャフトW1の回転に同期して又は非同期に一定の波形パターンの変動変位Dを繰り返し与えるパターンモード及び外部から入力される連続波形信号に従って変動する変位Dを与える外部信号モードのいずれかによって行われる。なお、出力側駆動部60による供試体WのタイロッドエンドW41の振動の制御は、タイロッドエンドW41の上下の変位Dを制御量とする位置制御の他に、タイロッドエンドW41の上下動の速度Vを制御量とする速度制御又はタイロッドエンドW41の上下動の加速度Aを制御量とする加速度制御が可能である。
周波数モードで使用される基本波形としては、正弦波、正弦半波(ハーフサイン波)、鋸歯状波(のこぎり波)、三角波、台形波等のプリセットされた波形の他、実際の車両の走行中に計測された波形、シミュレーション計算によって得られた波形又はその他の任意の合成波形(例えば、ファンクションジェネレータ等により生成された波形)を使用することができる。
パターンモードで使用される波形パターンは、予め登録されている標準パターンの他に、標準パターンに基づいてユーザーが編集した編集パターン、ユーザーによって作成されたユーザーパターンから選択される。
また、外部信号モードで使用される連続波形信号には、例えば実際の車両の走行中に計測された波形信号やシミュレーション計算によって得られた波形信号又はその他の任意の合成波形(例えば、ファンクションジェネレータ等により生成された波形)が含まれる。
図10は、試験装置1の起動(主電源投入)後にインターフェース部823のタッチスクリーンに表示されるメニュー画面Sc1の概略図である。タッチスクリーンに表示される画面(画像情報)は、制御部82によって生成される。メニュー画面Sc1は、試験装置1の起動後に呼び出される管理プログラム824a(図9)によって生成される。
メニュー画面Sc1は、試験開始ボタンE11、試験条件設定ボタンE12及び終了ボタンE13を備えている。試験開始ボタンE11がタッチされると、後述するステアリング装置の試験(図19)を実行する試験プログラム824c(図9)が呼び出され、耐久試験等の試験が開始する。試験条件設定ボタンE12がタッチされると、設定プログラム824b(図9)が呼び出され、試験条件設定処理が開始する。また、終了ボタンE13がタッチされると、安全に電源を落とせる状態に移行するための処理が行われ、管理プログラム824aが終了する。
図11は、試験条件設定処理において表示される設定画面Sc2である。本実施形態の試験条件設定処理は、複雑な試験プロセスを効率的に設定できるように、モジュール化及び階層化された試験プロセス(以下、「試験シーケンス」という。)の設定が可能に構成されている。具体的には、本実施形態の試験条件設定処理は、プロセスモジュールを順次(又は並列に)結合することによって試験プロセスを設定できるように構成されている。なお、プロセスモジュールは、試験プロセスの設定を構成する、機能的にまとまった部分である。
また、本実施形態では、プロセスモジュールに、波形パターン(第1層)、試験ブロック(第2層)及び試験グループ(第3層)の3階層のネスティング構造(入れ子構造)が与えられている。なお、ネスティング構造の深さ(階層の数)は3層に限らず、2層又は4層以上としてもよい。
図11に示されるように、設定画面Sc2は、ウィンドウE20及びタブE21-E24を備えている。ウィンドウE20は、設定項目別の設定画面が表示される表示領域である。タブE21-E24をタッチすることにより、タッチされたタブE21-E24に対応付けられた設定項目が選択され、ウィンドウE20に表示される設定項目別の設定画面が、選択された設定項目に対応するものに切り替わる。なお、図11には、後述する試験条件設定画面Sc3がウィンドウE20に表示された状態が示されている。
タブE21は全体的な試験条件の設定に対応付けられていて、タブE21がタッチされると、試験条件設定処理は全体的な試験条件を設定するための試験条件設定サブルーチンに移行し、ウィンドウE20の表示が試験条件設定画面Sc3に切り替わる。
タブE22は試験グループの設定に対応付けられていて、タブE22がタッチされると、試験条件設定処理は試験グループを設定するための試験グループ設定サブルーチンに移行し、ウィンドウE20の表示が試験グループ設定画面Sc4に切り替わる(図14)。
タブE23は試験ブロックの設定に対応付けられていて、タブE23がタッチされると、試験条件設定処理は試験ブロックを設定するための試験ブロック設定サブルーチンに移行し、ウィンドウE20の表示が試験ブロック設定画面Sc5に切り替わる(図15)。
タブE24は波形パターンの設定に対応付けられていて、タブE24がタッチされると、試験条件設定処理は波形パターンを設定するための波形パターン設定サブルーチンに移行し、ウィンドウE20の表示が波形パターン設定画面Sc6に切り替わる(図16)。
図12は、プロセスモジュールのネスティング構造を説明する図である。図12(a)には、6種類の波形パターンの例(波形パターンA-F)が、図12(b)には2種類の試験ブロックの例(試験ブロックG、H)が、図12(c)には2種類の試験グループの例(試験グループI,J)がそれぞれ示されている。なお、波形パターンA-F、試験ブロックG、H及び試験グループI,Jは、図11に示された後述するシーケンステーブルE37に設定されたものである。試験ブロック及び試験グループは、それぞれ複数の下位のプロセスモジュール(波形パターン又は波形ブロック)から構成される。なお、図12及び図13において、「×n0」(但し、n0は自然数であり、「繰返し回数」という。)という表記は、プロセスモジュールをn0回連続して実行することを表している。
図12(a)に示されるように、波形パターンは、最低次の(すなわち、他のプロセスモジュールを含んでいない、最も基本的な構成の)プロセスモジュールである。例えば、周期的なプロセスであれば1周期分のサブプロセスが波形パターンとして設定される。なお、本実施形態の波形パターンは、一つの制御対象(例えば、入力側駆動部20のサーボモーター21)の動作だけではなく、試験装置1の全体又は一部の動作(サブプロセス)を規定する。
図12(b)に示されるように、試験ブロックは、複数の下位のプロセスモジュール(すなわち、波形パターン)から構成される。例えば、試験ブロックGは四つの波形パターン(二つの波形パターンAと二つの波形パターンB)から構成され、試験ブロックHは三つの波形パターン(一つの波形パターンCと二つの波形パターンD)から構成されている。なお、試験ブロックG及びHは、それぞれ複数種類の波形パターンから構成されているが、単一の種類の波形パターン(但し、繰返し回数n0は2以上。)から試験ブロックを構成することもできる。
図12(c)に示されるように、試験グループは、少なくとも一つの試験ブロックを含む複数の下位のプロセスモジュール(すなわち、波形パターン又は試験ブロック)から構成される。例えば、試験グループIは一つの試験ブロックGと二つの波形パターンEから構成され、試験グループJは一つの波形パターンAと二つの試験ブロックHから構成されている。
図11に示されるように、試験条件設定画面Sc3は、試験モード設定部E31、試験サイクル数設定部E32、ばね負荷設定部E33、学習機能設定部E34、端当て制御設定部E35、スローアップ処理設定部E36、シーケンステーブルE37及び試験条件ファイル操作部E38を備えている。
試験モード設定部E31は、次に説明する試験モードを設定するための要素である。本実施形態の試験モード設定部E31は、後述する19種類の試験モードから適用する試験モードを選択可能なプルダウンメニューの形態で実装されている。
試験装置1は、上述したハードウェア構成により、供試体Wに対して次の五つの入力(1)-(5)をすることが可能に構成されている。
(1)ステアリングシャフトW1の回転(入力軸回転)
(2)左側のタイロッドW4への負荷Lの付与(左負荷)
(3)右側のタイロッドW4への負荷Lの付与(右負荷)
(4)左側のタイロッドW4の加振(左加振)
(5)右側のタイロッドW4の加振(右加振)
上記(1)は入力側駆動部20の駆動により、上記(2)、(3)は左右の出力側駆動部60L、60Rのサーボモーター62の駆動により、上記(4)、(5)は左右の出力側駆動部60L、60Rのサーボモーター67の駆動により、それぞれ行われる。
また、試験装置1は、上記の入力(1)-(5)の組み合わせにより、次の19種類の試験モード(a)-(s)の試験を行うことが可能に構成されている。
(a)入力軸回転
(b)左負荷
(c)右負荷
(d)左負荷+右負荷
(e)左加振
(f)右加振
(g)左加振+右加振
(h)入力軸回転+左負荷
(i)入力軸回転+右負荷
(j)入力軸回転+左負荷+右負荷
(k)入力軸回転+左加振
(l)入力軸回転+右加振
(m)入力軸回転+左加振+右加振
(n)入力軸回転+左負荷+左加振
(o)入力軸回転+右負荷+右加振
(p)入力軸回転+左負荷+右負荷+左加振+右加振
(q)左負荷+左加振
(r)右負荷+右加振
(s)左負荷+右負荷+左加振+右加振
試験サイクル数設定部E32は、シーケンステーブルE37で設定された試験シーケンス(試験サイクル)を繰返し実行する回数(以下「試験サイクル数」という。)を設定するための要素である。本実施形態の試験サイクル数設定部E32は、数値入力が可能なテキストボックスの形態で実装されていて、ユーザーが入力した数値を試験サイクル数に設定するように構成されている。
ばね負荷設定部E33は、後述するばね負荷制御に使用される負荷条件(具体的には、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20と負荷Lの目標値RLとの関係)を設定するための要素である。角度位置θ20と負荷Lとの関係を表すデータ(例えば、関数又は数値テーブル)を含むファイルである負荷条件ファイルが、予め制御部82のストレージ824又は制御部82がアクセス可能なサーバーSV等(以下「ストレージ824等」という。)に保存されている。本実施形態のばね負荷設定部E33は、一つ以上の負荷条件ファイルが選択肢として設定されたプルダウンメニューの形態で実装されていて、ユーザーが選択した負荷条件ファイルに含まれる負荷条件を設定するように構成されている。
学習機能設定部E34は、後述する負荷制御Sa20によって実現される学習機能を有効にするか否かを設定するための要素である。本実施形態の学習機能設定部E34は、「有効」又は「無効」を選択可能なプルダウンメニューの形態で実装されていて、ユーザーの選択に従って学習機能の有効又は無効を設定するように構成されている。
端当て制御設定部E35は、後述する端当て制御S9に関する設定を行うための要素である。端当て制御設定部E35は、端当て制御S9を有効にするか否かを設定する有効/無効設定部E351と、プラス側及びマイナス側の端当て判定角度範囲の境界値をそれぞれ設定するプラス側端当て判定角度設定部E352及びマイナス側端当て判定角度設定部E353を備えている。具体的には、プラス側端当て判定角度設定部E352によってステアリングシャフトW1を時計回りに回転させる際の端当て判定角度範囲の境界の角度位置θ20の値が設定され、マイナス側端当て判定角度設定部E353によってステアリングシャフトW1を反時計回りに回転させる際の端当て判定角度範囲の境界の角度位置θ20の値が設定される。
本実施形態の有効/無効設定部E351は、「有効」又は「無効」を選択可能なプルダウンメニューの形態で実装されていて、ユーザーの選択に従って端当て制御の有効又は無効を設定するように構成されている。
また、本実施形態のプラス側端当て判定角度設定部E352及びマイナス側端当て判定角度設定部E353は、数値入力が可能なテキストボックスの形態で実装されていて、ユーザーが入力した数値をそれぞれプラス側及びマイナス側の端当て判定角度範囲の境界の角度位置θ20の値に設定するように構成されている。
スローアップ処理設定部E36は、後述するスローアップ処理S22(スローアップ手順)に関する設定を行うための要素である。スローアップ処理設定部E36は、スローアップ処理S22を有効にするか否かを設定する有効/無効設定部E361と、駆動開始時の負荷率である初期負荷率rS0を設定する初期負荷率設定部E362と、スローアップ回数NSを設定するスローアップ回数設定部E363を備えている。なお、スローアップ処理S22は、負荷制御S20の初期に負荷を徐々に増加させる処理であり、初期負荷率rS0とは、第1制御サイクルに適用される負荷率rS(負荷Lの低減倍率)である。また、負荷率rSは、1以下の正の小数であり、スローアップ処理S22が適用されない場合の負荷Lの目標値RLに対するスローアップ処理S22が適用された場合の負荷Lの目標値RLの割合(すなわち、負荷Lの低減倍率)として定義される。
本実施形態の有効/無効設定部E361は、「有効」又は「無効」を選択可能なプルダウンメニューの形態で実装されていて、ユーザーの選択に従ってスローアップ処理の有効又は無効を設定するように構成されている。
また、本実施形態の初期負荷率設定部E362及びスローアップ回数設定部E363は、数値入力が可能なテキストボックスの形態で実装されていて、ユーザーが入力した数値をそれぞれ初期負荷率rS0及びスローアップ回数NSに設定するように構成されている。
シーケンステーブルE37の各行には単一のプロセスモジュール(試験グループ、試験ブロック又は波形パターン)が設定され、シーケンステーブルE37の行番号(L1-L4)の順に各行に設定されたプロセスモジュールが実行される。
シーケンステーブルE37は、プロセスモジュールの実行順を表す行番号(L1-L4)が設定される列E371、試験グループが設定される列E372、試験ブロックが設定される列E373、波形パターンが設定される列E374、繰返し回数(プロセスモジュールを繰り返し実行する回数)が設定される列E375、温度設定信号が設定される列E376及びトリガが設定される列E377を備えている。なお、シーケンステーブルE37の各行には、試験グループ(列E372)、試験ブロック(列E373)及び波形パターン(列E374)のいずれか一つが設定される。
図13は、図11に示されたシーケンステーブルE37で設定されている試験シーケンスを波形パターン単位で展開した展開シーケンスを表す展開シーケンステーブルである。図13における番号L1~L4は、シーケンステーブルE37の列E371で設定された、プロセスモジュールの実行順を表す行番号である。なお、この試験シーケンスに含まれる試験グループI、J及び試験ブロックHの構成は、図12に示されたものである。展開シーケンステーブルの実行番号の順に試験シーケンスを構成する波形パターンが実行される。
試験装置1は、外部機器と連携して動作可能に構成されている。例えば、供試体Wの温度を調節するための恒温槽等の温度調節手段ED1(図9)を試験装置1に接続して、試験装置1に温度調節機能を追加することができる。温度調節手段ED1を使用する場合は、温度調節手段ED1を制御するための温度設定信号が列E376に設定される。
トリガ(列E377)も外部機器と連携して動作するための設定項目である。トリガが設定された行のプロセスモジュールは、外部機器からの(又は試験装置1の内部処理によって発生した)トリガ信号の検出を契機に実行される。例えば、温度調節手段ED1による温度調節を行う場合、設定温度に到達したときにトリガ信号を発生するように温度調節手段ED1を設定し、制御部82によるこのトリガ信号の検出を契機にプロセスモジュールを実行するようにシーケンステーブルE37にトリガを設定することができる。これにより、正しい温度条件下で確実に試験を行うことが可能になる。
試験条件ファイル操作部E38は、ファイル情報表示部E381、別名保存ボタンE382、上書保存ボタンE383及びキャンセルボタンE384を備えている。ファイル情報表示部E381には、適用中の試験条件ファイルの情報(例えば試験条件ファイルのパス)が表示される。試験条件ファイルには、試験条件設定画面Sc3で設定された試験条件が格納される。別名保存ボタンE382がタッチされると、その時点で設定されている試験条件を格納した試験条件ファイルが新たに生成され、ストレージ824等に保存される。上書保存ボタンE383がタッチされると、適用中の試験条件ファイルの内容が更新(上書き保存)される。また、キャンセルボタンE384がタッチされると、設定中の試験条件が保存されずに、試験条件設定処理が終了する。
本実施形態では、試験モード設定部E31、ばね負荷設定部E33及び学習機能設定部E34は、それぞれプルダウンメニューの形態で実装されているが、複数の項目から目的の項目を選択可能な別の種類(例えばラジオボタンやリストボックス等)のウィジェット(すなわち、グラフィカル・ユーザ・インターフェイスを構成するGUI部品)等の要素で実装してもよい。また、学習機能設定部E34、端当て制御設定部E35の有効/無効設定部E351及びスローアップ処理設定部E36の有効/無効設定部E361は、有効又は無効の二者択一の入力を受け付ける手段であるため、例えばチェックボックスやトグルスイッチ等の二値の入力を受け付け可能な別の種類の要素で実装することもできる。
また、本実施形態では、試験サイクル数設定部E32、プラス側端当て判定角度設定部E352、マイナス側端当て判定角度設定部E353、初期負荷率設定部E362及びスローアップ回数設定部E363は、それぞれテキストボックスの形態で実装されているが、数値入力が可能な別の種類の要素(例えばスライダーやスピンボタン等)で実装してもよい。
図14は、試験グループ設定サブルーチンの実行中に表示される、ウィンドウE20に試験グループ設定画面Sc4が表示された設定画面Sc2の概略図である。
試験グループ設定画面Sc4は、試験グループリストE41及び試験グループテーブルE42を備えている。試験グループリストE41には、登録済みの試験グループが一覧表示される。試験グループリストE41では、選択されている試験グループが反転表示(背景が黒く表示)される。また、試験グループテーブルE42には、試験グループリストE41で選択されている試験グループの内容が表示される。試験グループは、試験グループテーブルE42上で編集(設定)することができる。
試験グループリストE41には、上下一対の矢印ボタンE411、更新ボタンE412、追加ボタンE413及び削除ボタンE414が付属する。矢印ボタンE411がタッチされると、試験グループリストE41上の試験グループの選択が矢印の方向に切り替わる。更新ボタンE412がタッチされると、試験グループの設定内容が試験グループテーブルE42上で編集中の設定内容に更新される。追加ボタンE413がタッチされると、試験グループテーブルE42上で編集中の設定内容が新たな試験グループとして追加登録される。削除ボタンE414がタッチされると、選択中の試験グループの登録が削除される。
試験グループテーブルE42の各行には単一のプロセスモジュール(試験ブロック又は波形パターン)が設定される。試験グループテーブルE42の行番号(M1、M2)の順に各行に設定されたプロセスモジュールが実行される。
試験グループテーブルE42は、プロセスモジュールの実行順を表す行番号(M1、M2)が設定される列E421、試験ブロックが設定される列E422、波形パターンが設定される列E423、繰返し回数が設定される列E424、温度設定信号が設定される列E425及びトリガが設定される列E426を備えている。なお、試験グループテーブルE42の各行には、試験ブロック(列E422)及び波形パターン(列E423)のいずれか一つが設定される。
図15は、試験ブロック設定サブルーチンの実行中に表示される、ウィンドウE20に試験ブロック設定画面Sc5が表示された設定画面Sc2の概略図である。
試験ブロック設定画面Sc5は、試験ブロックリストE51及び試験ブロックテーブルE52を備えている。試験ブロックリストE51には、登録済みの試験ブロックが一覧表示される。試験ブロックリストE51では、選択されている試験ブロックが反転表示される。また、試験ブロックテーブルE52には、試験ブロックリストE51で選択されている試験ブロックの設定内容が表示される。試験ブロックは、試験ブロックテーブルE52上で編集(設定)することができる。
試験ブロックリストE51には、上下一対の矢印ボタンE511、更新ボタンE512、追加ボタンE513及び削除ボタンE514が付属する。矢印ボタンE511がタッチされると、試験ブロックリストE51上の試験ブロックの選択が矢印の方向に切り替わる。更新ボタンE512がタッチされると、試験ブロックの設定内容が試験ブロックテーブルE52上で編集中の設定内容に更新される。追加ボタンE513がタッチされると、試験ブロックテーブルE52上で編集中の設定内容が新たな試験ブロックとして追加登録される。削除ボタンE514がタッチされると、選択中の試験ブロックの登録が削除される。
試験ブロックテーブルE52の各行には1種類の波形パターンが設定され、試験ブロックテーブルE52の行番号(N1、N2)の順に各行に設定された波形パターンが実行される。
試験ブロックテーブルE52は、波形パターンの実行順を表す行番号(N1、N2)が設定される列E521、波形パターンが設定される列E522及び繰返し回数が設定される列E523を備えている。
図16は、波形パターン設定サブルーチンの実行中に表示される、ウィンドウE20に波形パターン設定画面Sc6が表示された設定画面Sc2の概略図である。
波形パターン設定画面Sc6は、波形パターンリストE61、波形パターンテーブルE62及び波形パターンビューアーE63を備えている。波形パターンリストE61には、登録済みの波形パターンが一覧表示される。波形パターンリストE61では、選択されている波形パターンが反転表示される。また、波形パターンテーブルE62には、波形パターンリストE61で選択されている波形パターンの設定内容が表示される。波形パターンビューアーE63には、波形パターンリストE61で選択されている波形パターンがグラフ表示される。
波形パターンには、入力軸試験波形(以下「入力軸波形」と略記する。)、左側負荷試験波形(以下「左負荷波形」と略記する。)、右側負荷試験波形(以下「右負荷波形」と略記する。)、左側加振試験波形(以下「左加振波形」と略記する。)及び右側加振試験波形(以下「右加振波形」と略記する。)のうちの試験に使用される少なくとも一つの試験波形が設定される。入力軸波形は、入力側駆動部20の出力軸(すなわち、チャック24)の角度位置θ20の時間変化を表す波形データである。
左負荷波形[右負荷波形]は、出力側駆動部60L[60R]によって供試体Wの左側[右側]のタイロッドW4に与えられる負荷Lの時間変化を表す波形データである。また、左加振波形[右加振波形]は、出力側駆動部60L[60R]によって供試体Wの左側[右側]のタイロッドエンドW41に与えられる上下の変位Dの時間変化を表す波形データである。波形パターンビューアーE63には、波形パターンに設定された少なくとも一つの試験波形が表示される。なお、図16に示される波形パターンでは、入力軸波形、左負荷波形及び右負荷波形が設定され、これらの三つの試験波形が波形パターンビューアーE63に表示されている。
なお、各試験波形は、時間に対応するパラメーターである「制御ポイント」と各制御量に対応するパラメーターである「振幅」とが対応付けられたものであり、数値テーブル、関数又は波形識別番号(以下「波形ID」と略記する。)の形で設定される。波形IDは、予め登録されている基本波形(又はユーザーによって登録されたユーザー登録波形)にそれぞれ割り当てられた固有の識別番号である。
波形パターンリストE61には、上下一対の矢印ボタンE611、編集ボタンE612、追加ボタンE613及び削除ボタンE614が付属する。矢印ボタンE611がタッチされると、波形パターンリストE61上の波形パターンの選択が矢印の方向に切り替わる。編集ボタンE612がタッチされると、波形パターン編集画面Sc7(図17)が表示され、選択されている波形パターンの編集が可能になる。追加ボタンE613がタッチされると、新たな波形パターンが追加登録され、削除ボタンE614がタッチされると、選択中の波形パターンの登録が削除される。
図17は、波形パターン編集画面Sc7の概略図である。波形パターン編集画面Sc7は、入力軸波形を設定する入力軸波形設定部E71、左負荷波形を設定する左負荷波形設定部E72、右負荷波形を設定する右負荷波形設定部E73、左加振波形を設定する左加振波形設定部E74、右加振波形を設定する右加振波形設定部E75及びリミット設定ボタンE76を備えている。また、各設定部E71-E75は、それぞれ設定された試験波形をグラフ表示する波形ビューアーG71-G75を備えている。
図18は、リミット設定ボタンE76(図17)がタッチされたときに表示されるリミット設定画面Sc8の概略図である。リミット設定画面Sc8は、入力軸回転に関するリミットを設定する入力軸リミット設定部E81、左負荷に関するリミットを設定する左負荷リミット設定部E82及び右負荷に関するリミットを設定する右負荷リミット設定部E83を備えている。なお、波形パターン編集画面Sc7(図17)において左加振波形又は右加振波形が設定されている場合には、更に左加振又は右加振に関するリミットを設定する左加振設定部又は右加振設定部がリミット設定画面Sc8に設けられる。
本実施形態は、各入力に対してそれぞれ2段階でリミットを設定することが可能に構成されている。第1段階のリミット(以下「第1リミットレベル」という。)は、全試験時間に亘って適用される(すなわち、試験中に常時適用される)グローバルリミットであり、第2段階のリミット(以下「第2リミットレベル」という。)は所定の時間範囲に限定的に適用されるローカルリミットである。このように、2段階でリミットを設定することにより、時間(制御ポイント)によって変動する試験条件(波形パターン)に応じた細やかなリミットの設定が可能になるため、供試体Wに想定外の過剰なストレスが加わることにより試験結果の妥当性が損なわれることをより確実に防止することが可能になる。
右負荷リミット設定部E83は、グローバルリミットを設定するグローバルリミット設定部E83G及びローカルリミットを設定するローカルリミット設定部E83Lを備えている。
グローバルリミット設定部E83Gは、出力側駆動部60Rの可動台66の角度位置θ60のグローバルリミットを設定する角度位置グローバルリミット設定部E83GPと、出力側駆動部60Rが供試体に加える負荷Lのグローバルリミットを設定する負荷グローバルリミット設定部E83GLを備えている。
角度位置グローバルリミット設定部E83GPは、角度位置θ60の上限を設定する上限設定部E83GPUと、角度位置θ60の下限を設定する下限設定部E83GPLと、各設定項目(上限、下限)の有効又は無効を設定するチェックボックス(有効化設定部)E83GPCを備えている。
負荷グローバルリミット設定部E83GLも、角度位置グローバルリミット設定部E83GPと同様に、負荷Lの上限を設定する上限設定部E83GLUと、負荷Lの下限を設定する下限設定部E83GLLと、各設定項目の有効又は無効を設定するチェックボックスE83GLCを備えている。
ローカルリミット設定部E83Lは、負荷Lのローカルリミットを設定する負荷ローカルリミット設定部E83LLを備えている。負荷ローカルリミット設定部E83LLは、各設定項目の有効又は無効を設定するチェックボックスE83LLCと、ローカルリミットを設定する試験区間(時間)の始点を設定する始点設定部E83LLSと、試験区間の終点を設定する終点設定部E83LLEと、負荷Lの上限を設定する上限設定部E83LLUと、負荷Lの下限を設定する下限設定部E83LLLと、基準検出回数を設定する基準検出回数設定部E83LLDを備えている。また、ローカルリミット設定部E83Lは、一つ以上の試験区間(図18のリミット設定画面Sc8においては3区間)について、ローカルリミットを設定可能に構成されている。なお、始点設定部E83LLS及び終点設定部E83LLEにおいて「秒」単位で入力される試験区間の始点と終点は、波形パターン設定画面Sc6(図16)の波形パターンテーブルE62において設定されたサンプリング時間に基づいて、それぞれ対応する制御ポイントに変換される。
ローカルリミットのリミット値(上限、下限)は、グローバルリミットの上限と下限の間に設定される。グローバルリミットの上限又は下限を一度でも超えると、試験は直ちに中止される。これに対して、ローカルリミットは、上限又は下限を基準検出回数連続して超えた場合に初めて試験が中止される。また、試験プログラム824cは、測定値がグローバルリミットの上限又は下限を超えた場合は、試験サイクルの途中であっても、直ちに試験装置1の動作を停止させるが、測定値がローカルリミットの上限又は下限を基準検出回数連続して超えた場合は、その試験サイクルが完了してから試験装置1の動作を停止させるように構成されている。
グローバルリミットは供試体Wの取り付けミスや試験装置1の故障などの異常の検知を主な目的に設定される制限値であり、ローカルリミットは供試体Wの疲労による故障の検知を主な目的に設定される制限値である。供試体Wの疲労による故障は徐々に進行する場合が多く、完全に故障する前に供試体Wの動作が不安定になり、一時的に測定値が異常値を示す場合が多い。また、供試体Wが完全に故障すると、測定値が一定時間を超えて連続して異常値を示すようになる。本実施形態では、この知見を利用して、測定値がローカルリミットの上限又は下限を基準検出回数連続して超えた場合に供試体Wが故障したものと判断して、試験を自動的に終了するように構成されている。この構成により、試験中に供試体Wが故障した場合に、試験が自動的に終了するため、供試体Wの故障後に無駄に試験を継続することが防止される。また、供試体Wが故障する前に試験が中断されることが防止される。
また、試験により供試体Wが劣化した場合、供試体Wに大きなストレスが加わるタイミングで異常が現れ、ストレスが小さい時には正常に動作することが多いが、供試体Wが故障すると、ストレスが小さい時でも異常が現れることが多い。そのため、供試体Wに加わるストレスが小さい(すなわち、故障前に測定値の異常が生じにくい)タイミングにローカルリミットを設定することにより、故障の発生をより正確に検知することが可能になる。
本実施形態では、上限設定部E83LLU及び下限設定部E83LLLにおいて、負荷Lのローカルリミット(上限、下限)が、絶対値ではなく、負荷グローバルリミット設定部E83GLの上限設定部E83GLU及び下限設定部E83GLLにおいてそれぞれ設定された負荷Lのグローバルリミット(上限、下限)に対する相対値(単位:%)として設定可能に構成されている。この構成により、負荷Lのグローバルリミットの設定を変更する場合に、負荷Lのローカルリミットが自動的に適切な大きさに変更されるため、負荷Lのローカルリミットの設定を逐一変更する必要がなくなり、煩雑なリミットの設定が簡略化される。
左負荷リミット設定部E82については、上述した右負荷リミット設定部E83と構成が共通するため、説明を省略する。
入力軸リミット設定部E81は、グローバルリミットを設定するグローバルリミット設定部E81G及びローカルリミットを設定するローカルリミット設定部E81Lを備えている。
グローバルリミット設定部E81Gは、入力側駆動部20の出力軸の角度位置θ20(すなわち、供試体WのステアリングシャフトW1の角度位置θ20)のグローバルリミットを設定する角度位置グローバルリミット設定部E81GPと、入力側駆動部20の出力軸に加わるトルクTのグローバルリミットを設定するトルクグローバルリミット設定部E81GTを備えている。角度位置グローバルリミット設定部E81GP及びトルクグローバルリミット設定部E81GTの構成は、上述した右負荷リミット設定部E83の角度位置グローバルリミット設定部E83GPや負荷グローバルリミット設定部E83GLの構成と共通するため、説明を省略する。
ローカルリミット設定部E81Lは、入力側駆動部20の角度位置θ20に関するローカルリミットを設定する角度位置ローカルリミット設定部E81LPと、入力側駆動部20のトルクTに関するローカルリミットを設定するトルクローカルリミット設定部E81LTを備えている。角度位置ローカルリミット設定部E81LP及びトルクローカルリミット設定部E81LTの構成は、上述した右負荷リミット設定部E83の負荷ローカルリミット設定部E83LLの構成と共通するため、説明を省略する。
次に、ステアリング装置の耐久試験を行う際に試験装置1が行う処理について説明する。
図19は、試験装置1を使用したステアリング装置の耐久試験の手順を表したフローチャートである。なお、以下に説明する初期化S1から速度伝達比検出処理S6までは本試験前の準備段階の処理であり、処理S7以降が本試験の処理である。
タッチスクリーンに表示されたメニュー画面Sc1(図10)において試験開始ボタンE11がタッチされると、耐久試験が開始し、まず試験装置1の初期化S1が行われる。初期化S1では、試験装置1による制御や計測に使用される各種の設定値が読み込まれる。また、試験装置1の各可動部の原点復帰及び初期位置への移動が行われる。初期化S1の完了後、供試体Wが試験装置1に取り付けられる。
(極性チェック処理)
供試体Wが試験装置1に取り付けられた後、極性チェック処理S2が行われる。
供試体Wの種類によって、ステアリングシャフトW1の回転方向とタイロッドW4の移動方向との関係が異なる。例えば、タイロッドW4が車軸よりも前方でステアリングナックルと接続される所謂「前引き」用のステアリング装置では、ステアリングホイールを順方向(時計回り、CW)に回転させたときにタイロッドW4は右(Y軸負方向)側に移動し、ステアリングホイールを逆方向(反時計回り、CCW)に回転させたときにタイロッドW4は左(Y軸正方向)側に移動するように構成されている。また、タイロッドW4が車軸よりも後方でステアリングナックルと接続される所謂「後引き」用のステアリング装置では、ステアリングホイールを順方向に回転させたときにタイロッドW4は左側に移動し、ステアリングホイールを逆方向に回転させたときにタイロッドW4は右側に移動するように構成されている。本明細書では、このようなステアリングシャフトW1の回転方向とタイロッドW4の移動方向との関係をステアリング装置(供試体W)の極性という。また、「前引き」用のステアリング装置の極性を正の極性といい、「後引き」用のステアリング装置の極性を負の極性という。
また、上述のように、出力側駆動部60の可動台66には、供試体WのタイロッドエンドW41を取り付けるための一対のアーム661(前方アーム661f、後方アーム661r)が可動台66の回転軸の前方及び後方の2箇所に設けられていて、いずれのアーム661(タイロッド接続部分)にタイロッドW4を接続するかによってタイロッドW4の移動方向と可動台66の回転方向との関係が決まる。すなわち、供試体WのステアリングシャフトW1の回転方向と出力側駆動部60の可動台66の回転方向(或いは、タイロッドW4の移動方向)との関係(すなわち、試験システム全体の極性。以下「システム極性」という。)は、供試体Wの種類及びタイロッドW4がいずれのアーム661(前方アーム661f、後方アーム661r)に接続されるのかによって異なったものとなる。
システム極性は、予め試験条件として設定されるが、誤って設定された場合、供試体Wに過大な負荷Lが加わって供試体Wが破損する可能性がある。そのため、試験を行う前に、システム極性の設定が正しいか否かを確認する極性チェック処理S2が行われる。
図20は、極性チェック処理S2の手順を表したフローチャートである。極性チェック処理S2では、まず負荷Lの上限が供試体Wに影響を与えない小さな値(例えば5kN)に下げられる(S201)。出力側駆動部60は、設定された負荷Lの上限を超えないように動作するため、処理S201を行うことにより、システム極性の設定が誤っていた場合でも、供試体Wの損傷や劣化が防止される。
次に、出力側駆動部60の可動台66に設けられた力センサー662が検出する負荷Lが読み取られる(S202)。次に、入力側駆動部20のサーボモーター21が駆動され、供試体WのステアリングシャフトW1が順方向に所定角度(例えば20~30度程度)回転駆動され(S203)、回転駆動後に再び力センサー662が検出する負荷Lが読み取られる(S204)。負荷測定S204後、入力側駆動部20により供試体WのステアリングシャフトW1が逆方向(反時計回り、CCW)にCW駆動S203と同じ角度だけ回転駆動されて、初期の角度位置に戻されてから(S205)、負荷Lの上限が処理S201で変更される前の設定値に戻される(S206)。次に、CW駆動S203の前後での負荷Lの変化(増加又は減少)が、予め設定されたシステム極性と合致しているか否かが判定され(S207)、合致していない場合(S207:NO)には、システム極性の設定(すなわち、供試体Wの極性又は供試体WのタイロッドW4の取り付け箇所)が誤っていることを示す警報が出力され(S208)、耐久試験は中止される。また、負荷Lの測定値の変化と供試体Wの極性の設定とが合致している場合(S207:YES)には、極性チェック処理S2が終了し、次の処理S3(図19)に進む。
(中心出し処理)
次に、供試体Wの中心出し処理S4を行う設定になっているか否かが確認される(S3)。中心出し処理S4は、供試体WのステアリングシャフトW1の回転可能な角度位置θ20の範囲(可動範囲)及びその中心位置θCを自動的に調べて設定する処理である。供試体Wの可動範囲が設定されていない場合に中心出し処理S4が有効(ON)に設定され、供試体Wの可動範囲が既知である場合は、予め可動範囲が入力され、中心出し処理S4は無効(OFF)に設定さる。中心出し処理が有効(ON)に設定されている場合(S3:YES)は中心出し処理S4が実行され、中心出し処理S4が無効(OFF)に設定されている場合(S3:NO)は中心出し処理S4が飛ばされて次の処理S5に進む。
図21は、中心出し処理S4の手順を表したフローチャートである。中心出し処理S4では、まず駆動制御S401が行われる。駆動制御S401では、入力側駆動部20のトルクセンサー23が検出するステアリングシャフトW1のトルクTを監視しながら、トルクTの大きさが増大する(具体的には、トルクTが基準値τを超える)まで、入力側駆動部20により供試体WのステアリングシャフトW1が設定されている駆動方向(例えばCW)に一定速度でゆっくり回転駆動される(S4011~S4014)〔一方向駆動ステップ〕。
駆動制御S401におけるステアリングシャフトW1の角速度ω20は、基準値τを超えるトルクTが検出されてから駆動が停止されるまでに、供試体Wの許容トルクを超えるトルクTが発生しないような大きさに設定されている。例えば、ステアリングシャフトW1の角速度ω20は、供試体Wが可動範囲の末端(後述する端当て位置)に到達した際のトルクTの増加量(基準値τを超える前後の測定値の増加量)が基準値τ以下となるように設定される。
また、トルクTの基準値τは、供試体Wに繰り返し与えても供試体Wが破損しない程度の小さな値である。本実施形態では、基準値τは、供試体Wが端当て位置に到達していない状態でステアリングシャフトW1を回転させたときに検出されるトルクTの最大値よりも大きな値(より具体的には、例えば、端当て位置に到達していない状態でステアリングシャフトW1を回転させたときに検出されるトルクTの平均値よりも標準偏差の3倍以上大きな値)に設定されている。
トルクTの大きさが基準値τ以上になったら(S4013:YES)、ステアリングシャフトW1の駆動が停止され(S4014)、駆動制御S401が終了する。そして、最初の駆動制御S401においてトルクTの大きさが基準値τに到達したときのステアリングシャフトW1の角度位置θ20の値θAが検出されて記憶される(S402)〔第1の端当て位置検出ステップ〕。なお、ステアリングシャフトW1の角度位置(すなわち、入力側駆動部20の角度位置θ20)は、入力側駆動部20のサーボモーター21に内蔵されたロータリーエンコーダーREの検出値(すなわち、サーボモーター21の軸の角度位置Θ21)と減速機22の減速比r22から計算される。
次に、ステアリングシャフトW1の駆動方向が逆向き(例えばCCW)に切り替えられ(S403)、再び駆動制御S401が行われる〔逆方向駆動ステップ〕。そして、逆向きの駆動制御S401においてトルクTの大きさが基準値τ以上となったときに(S4013:YES)、駆動が停止され(S4014)、このときのステアリングシャフトW1の角度位置θ20の値θBが検出されて記憶される(S404)〔第2の端当て位置検出ステップ〕。
次に、下記の数式(1)により、ステアリングシャフトW1の可動範囲の中心である中心位置θ
Cが計算され(S405)〔中心位置計算ステップ〕、計算結果が記憶される(S406)。そして、ステアリングシャフトW1の角度位置が中心位置θ
Cに移動され(S407)〔中心位置移動ステップ〕、中心出し処理S4が終了する。
なお、供試体WのステアリングシャフトW1の角度位置θ20が可動範囲の末端に到達したときに、供試体Wのラックエンド(より具体的には、ラックエンドに設けられたストッパー)がステアリングギアボックスW3に当たった状態(以下「端当て状態」という。)となる。本明細書においては、端当て状態となるステアリングシャフトW1の角度位置を端当て位置と呼ぶ。一定の角速度ω20で回転駆動されるステアリングシャフトW1が端当て位置に到達すると、ステアリングシャフトW1の回転が阻止されるため、トルクTが急激に上昇して基準値τを超える。すなわち、中心出し処理S4では、供試体Wの両側の端当て位置θA及びθBが検出され、その中央に中心位置θCが設定される。
(速度伝達比検出処理)
次に、速度伝達比検出処理S6が有効(ON)に設定されているか否かが確認される(S5)。
速度伝達比検出処理S6は、供試体WのステアリングシャフトW1の回転角(すなわち、入力側駆動部20の角度位置の変化量Δθ20)に対するステアリングナックルに相当する可動台66の回転角(すなわち、出力側駆動部60の可動台66の角度位置の変化量Δθ60)の比(以下「速度伝達比Tr」という。)を自動的に検出して設定する処理である。速度伝達比Trは、ステアリングギア比に相当するパラメーターである。速度伝達比Trは、出力側駆動部60の制御量を決定する際に必要となる。入力側駆動部20によるステアリングシャフトW1の駆動量(角速度ω20又は回転角Δθ20)に速度伝達比Trを乗じた量だけ出力側駆動部60の可動台66を回転駆動することにより、供試体Wに加わる負荷Lを変えずに供試体Wを回転駆動することができる。供試体Wの速度伝達比Trが設定されていない場合に速度伝達比検出処理S6が有効(ON)に設定され、供試体Wの速度伝達比Trが設定されている場合は、速度伝達比検出処理S6は無効(OFF)に設定さる。なお、本実施形態の速度伝達比検出処理S6は、ステアリングギア比がステアリングシャフトW1の角度位置θ20に応じて変化するギア比可変式ステアリング装置(VGR:Variable gear ratio)に対応している。供試体Wの種類がVGRとして設定されている場合は、速度伝達比検出処理S6が自動的に有効に設定される。
S5(図19)において、速度伝達比検出処理S6が有効(ON)に設定されている場合(S5:YES)は速度伝達比検出処理S6が実行され、速度伝達比検出処理S6が無効(OFF)に設定されている場合(S5:NO)は速度伝達比検出処理S6が飛ばされて次の処理S7に進む。
図22は、速度伝達比検出処理S6の手順を表したフローチャートである。速度伝達比検出処理S6では、まず負荷Lの目標値RLがゼロ(無負荷)に設定され(S601)、出力側駆動部60による負荷制御が開始される(S602)。これにより、無負荷の状態で、出力側駆動部60の動作を供試体WのタイロッドW4の動きに自動的に追従させることが可能になる。負荷制御は、速度伝達比検出処理S6が終了するまで継続される。
次に、一方の端当て位置θAまで入力側駆動部20によりステアリングシャフトW1が回転駆動され(S603)、端当て位置θAにおける出力側駆動部60の可動台66の角度位置θ60が取得される(S604)。なお、出力側駆動部60の角度位置θ60は、出力側駆動部60のサーボモーター62に内蔵されたロータリーエンコーダーREの検出値(サーボモーター62の軸の角度位置Θ62)と減速機63の減速比r63から計算される。
次に、入力側駆動部20によりステアリングシャフトW1が1回転(360°)だけ回転駆動され(S605)、出力側駆動部60の角度位置θ60が取得される(S607)。
次に、数式(2)により、直前の回転駆動S605の前後での入力側駆動部20の角度位置の変化量Δθ
20(360°)及び出力側駆動部60の角度位置の変化量Δθ
60から速度伝達比Trが計算される(S608)。
次に、供試体Wに関する設定情報が参照され、供試体WがVGRであるか否かが判断される(S609)。
VGRは、ステアリングギア比がステアリングシャフトW1の角度位置θ20に応じて徐々に変化するように構成されている。そのため、VGRについて試験を行うためには、ステアリングシャフトW1の可動範囲全域に亘って角度位置θ20とステアリングギア比との関係を表す情報が必要となる。
供試体Wの種類がVGRと設定されている場合には(S609:YES)、現在のステアリングシャフトW1の角度位置θ20と速度伝達比Trが対応付けられて記憶される(S610)。そして、処理S605に戻り、端当て位置θBに到達するまで、処理S605-S610が繰り返される。これにより、供試体WのステアリングシャフトW1が1回転ずつ駆動される(すなわち、供試体Wのピニオンが1回転する)度に、各角度位置θ20における速度伝達比Trが取得され、角度位置θ20と共に記憶される。
端当て位置θBに到達したら(S606:YES)、次にフィッティング処理S612(フィッティングステップ)が行われて、速度伝達比検出処理S6が終了する。フィッティング処理S612では、上記の処理S603-S610において取得されたステアリングシャフトW1の角度位置θ20と速度伝達比Trの複数対に基づいて、角度位置θ20から速度伝達比Trを求めるための計算式が決定され、記憶される。速度伝達比Trの計算式は、例えば、取得された角度位置θ20と速度伝達比Trの複数対に基づいて最小二乗法等の回帰分析により求められる多項式である。内挿法(補間法)等の回帰分析以外の手法により速度伝達比Trの計算式を決定してもよい。
本実施形態では、ステアリングシャフトW1の回転角(又は角速度)に対する可動台66の回転角(又は角速度)の比率が速度伝達比Trとして定義されるが、速度伝達比Trの定義はこれに限定されない。例えば、入力側駆動部20のサーボモーター21の軸又はステアリングシャフトW1の回転角に対する出力側駆動部60のサーボモーター62の軸又は可動台66の回転角の比率を速度伝達比Trとして使用することができる。例えば、サーボモーター21の軸とサーボモーター62の軸の回転角の比率を速度伝達比Trとした場合、サーボモーター21の駆動制御の目標値に速度伝達比Trを乗じることでサーボモーター62の制御(ただし、負荷Lを変化させない制御)の目標値が容易に得られるため、サーボモーター62の駆動制御の目標値の計算を簡素化することができる。
供試体WがVGRではなく、固定されたギア比を有する場合は(S609:NO)、速度伝達比Trが記憶されて(S611)、速度伝達比検出処理S6が終了する。
続いて、耐久試験の本試験(S7~S9。図19参照。)に処理が移行する。本試験では、まず、後述する端当て制御S9が有効(ON)に設定されているか否かが確認される(S7)。端当て制御S9は、端当て位置に到達したときに生じる衝撃を緩和して、ステアリングシャフトW1に許容値を超えるトルクTが加わるのを防止する制御である。トルクリミッタ等を使用して機械的にトルクTを制限する従来の方法で試験を行う場合には、端当て制御が無効(OFF)に設定される。なお、機械的にトルクTを制限する従来の方法では、正確なトルク制御ができず、また、長期間に亘る耐久性試験の場合はトルクリミッタ等の機械部品が試験中に故障したり劣化により特性が変化したりすることがあるため、通常は端当て制御が有効(ON)に設定される。端当て制御が有効(ON)に設定されている場合は(S7:YES)次に端当て制御S9が実行され、端当て制御が無効(OFF)に設定されている場合は(S7:NO)、次に基本駆動制御S8が実行される。
(基本駆動制御)
図23は、基本駆動制御S8の手順を表したフローチャートである。基本駆動制御S8では、3つの制御(入力軸制御S10、負荷制御S20及び加振制御S30)が並列に実行される。入力軸制御S10は入力側駆動部20による供試体Wの入力端(ステアリングシャフトW1)に対する回転運動の駆動制御であり、負荷制御S20及び加振制御S30は出力側駆動部60(60L、60R)による供試体Wの出力端(タイロッドW4)に対する直線運動の駆動制御である。
なお、本実施形態においては、負荷制御S20及び加振制御S30は任意に付加的に実行される制御である。負荷制御S20はタイロッドW4に軸力(負荷L)を与える制御であり、加振制御S30はタイロッドエンドW41に上下方向(略水平に配置されるタイロッドW4に軸に垂直な方向)の振動を与える制御である。加振制御S30は、実際に車両が走行する際にサスペンションの作動に伴って生じる、車軸の上下動を模擬した制御である。負荷制御S20及び加振制御S30は、左右の出力側駆動部60L、60Rについて、それぞれ行われる。なお、負荷制御S20及び加振制御S30をOFFに設定する場合は、出力側駆動部60を供試体Wから外した状態で試験が行われる。また、無負荷(負荷L=0)に設定して負荷制御S20を行うことにより、出力側駆動部60を供試体Wに接続させた状態でタイロッドW4に負荷Lを掛けずに試験を行うことが可能になる。
(入力軸制御〔位置制御〕)
図24は、入力軸制御S10の手順を表したフローチャートである。上述したように、入力軸制御S10は、入力側駆動部20により供試体Wの入力軸であるステアリングシャフトW1を回転駆動する制御である。入力軸制御S10においては、入力側駆動部20に接続された供試体WのステアリングシャフトW1の角度位置θ20を制御量とする位置制御が行われる。入力軸制御S10では、まず現在のステアリングシャフトW1の角度位置θ20が取得され(S1001)、トルクセンサー23によりステアリングシャフトW1のトルクTが測定されて(S1002)、取得されたトルクTと角度位置θ20が記憶される(S1003)。
次に、試験条件の設定に基づいてステアリングシャフトW1の角度位置θ20の目標値Rθ及び偏差Eθが計算される(S1004、S1005)。そして、この偏差Eθと減速機22の減速比r22からサーボモーター21の指令値(すなわち、操作量)が計算される(S1006)。なお、入力軸制御S10において、サーボモーター21は、軸の角度位置Θ21を制御量とする位置制御により駆動が制御される。処理S1006においては、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20の偏差Eθが解消されるように、サーボモーター21の指令値(角度位置Θ21)が計算される。より具体的には、例えば、入力側駆動部20の角度位置θ20の目標値Rθについて、偏差Eθを減じる補正を行い、補正後のステアリングシャフトW1の角度位置θ20の目標値Rθに対応するサーボモーター21の軸の角度位置Θ21がサーボモーター21に対する指令値となる。そして、この指令値に基づいてサーボモーター21が駆動され(S1007)、1回(1制御ポイント)の入力軸制御(S1001-S1007)が終了する。試験が終了するまで、入力軸制御(S1001-S1007)が繰り返し実行される(S1009)。
なお、入力軸制御S10は、後述する端当て制御S9においても実行されるが、端当て制御S9においては(S1008:YES)、処理S1001-S1007が繰り返されず、サーボモーター21が駆動(S1007)されたら、入力軸制御S10が終了する。
上記の入力軸制御S10では、サーボモーター21は、軸の角度位置Θ21を制御量とする位置制御によって駆動が制御されるが、角速度Ω21を制御量とする速度制御によって駆動が制御される構成としてもよい。
(負荷制御)
図25は、負荷制御S20の手順を表したフローチャートである。負荷制御S20では、まず現在の出力側駆動部60のサーボモーター62の角度位置Θ62及び角速度Ω62と入力側駆動部20の角速度ω20が取得され(S2001)、力センサー662によりタイロッドW4の負荷Lが測定されて(S2002)、取得された負荷L、角度位置Θ62、角速度Ω62及びω20の値が記憶される(S2003)。
次に、タイロッドW4の負荷Lの目標値(初期設定値)RLが取得され(S2004)、スローアップ処理S22が行われる。
図26は、スローアップ処理S22の手順を表したフローチャートである。スローアップ処理S22は、負荷制御S20の開始直後から負荷Lの初期設定値の100%を供試体Wに与えるのではなく、負荷制御S20の初期に負荷Lを徐々に増加させて初期設定値に近づける処理である。具体的には、スローアップ処理S22では、負荷制御S20の初期の予め設定された回数の制御サイクルにおいて、負荷Lの目標値RLに制御サイクルの実行番号nに応じた係数(負荷率rS)を乗じる処理が行われる。
図27は、スローアップ処理S22による負荷率rSの変化の一例を示したグラフである。このグラフは、初期負荷率rS0を0.2(20%)、スローアップ回数NSを4回に設定した場合のものである。
スローアップ処理S22では、先ず、設定されている負荷Lの制御がパターンモードであるか否か(S2201)、及び、スローアップ処理S22が有効に設定されているか否か(S2202)が判定される。本実施形態では、スローアップ処理S22はパターンモードに限定して適用されるため、負荷Lの制御がパターンモード以外の場合は(S2201:NO)、実質的な処理(後述する処理S2204-S2205)は行われずに、スローアップ処理S22が終了する。また、スローアップ処理S22が無効に設定されている場合も(S2202:NO)、実質的な処理は行われずに、スローアップ処理S22が終了する。
次に、対象の制御サイクル(第n制御サイクル)の実行番号nがスローアップ回数NS+1以下であるか否かが判定される(N2203)。なお、スローアップ回数NSは、スローアップ回数設定部E363(図11)により設定される値である。スローアップ処理S22は、第1制御サイクルから第NS+1制御サイクルまでに限定して適用されるため、制御サイクルの実行番号nがNS+1よりも大きい場合は(N2203:NO)、実質的な処理(後述するS2204-S2205)は行われずに、スローアップ処理S22が終了する。
次に、下記の数式(3)により、負荷率r
Sが計算される(S2204)。
但し、
r
S : 負荷率
r
S0 : 初期負荷率
n : 制御サイクルの実行番号
N
S : スローアップ回数
なお、r
S及びr
S0は1未満の正の少数であり、n及びN
Sは正の整数である。
そして、負荷Lの目標値RLに負荷率rSが乗じられ(S2205)、スローアップ処理S22が終了する。
上述したスローアップ処理S22を行うことにより、負荷制御S20の初期に供試体Wに加わる負荷Lを徐々に大きくすることが可能になる。そのため、例えば供試体Wが試験装置1に正しく取り付けられていなかった場合等に、誤って大きな荷重が供試体Wに加わる前に試験装置1を停止させる操作を行うことが可能になるため、供試体Wの破損の防止が可能になる。
なお、本実施形態では、スローアップ処理S22がパターンモードに限定して適用されるが、他の制御モードにもスローアップ処理を適用することが可能である。例えば、初期負荷率r
S0とスローアップ回数N
Sに加えてスローアップ処理S22を行うスローアップ期間T
SU(秒)を予め設定し、制御サイクルの実行番号nに替えて負荷制御S20開始からの経過時間tに対して負荷率r
Sを計算することにより、他の制御モードにスローアップ処理を適用することが可能になる。この場合、例えば、スローアップ期間T
SU中の負荷率r
Sを次の数式(4)により計算することができる。
但し、
T
SU : スローアップ期間(秒)
t : 負荷制御S20開始からの経過時間(秒)
次に、負荷Lの目標値RLと測定値YLから負荷Lの偏差EL(=RL-YL)が計算される(S2005)。ストレージ824等には、予め実験的に又はシミュレーションによって得られた、サーボモーター62の駆動量と負荷Lの変化量との関係を表すデータ(例えば、サーボモーター62の単位回転角当たりの、又は、1回(1制御ポイント)の駆動制御による単位角速度当たりの負荷Lの変化量を表す数値)が記憶されている。このデータと負荷Lの偏差ELから、サーボモーター62の指令値が計算される(S2006)。
なお、本実施形態では、負荷制御S20において、サーボモーター62の駆動は、角速度Ω
62を制御量とする速度制御によって制御される。負荷制御S20では、例えば1回(1制御ポイント)又は所定の複数回の駆動によって負荷Lの偏差E
Lが解消されるように、次の数式(5)によりサーボモーター62の指令値U
Ω(角速度Ω
62)が計算される。
但し、
U
Ω : サーボモーター62の指令値U
Ω(角速度Ω
62)
R
Ω : 角速度Ω
62の目標値
E
Ω´: 角速度Ω
62の補正値(角速度Ω
62の偏差E
Ωに相当)
Tr : 速度伝達比
ω
20: 入力側駆動部20の角速度
r
63: 減速機63の減速比
K
L-Ω: ゲイン(負荷L-角速度Ω変換係数)
E
L : 負荷Lの偏差
R
L : 負荷Lの目標値
Y
L : 負荷Lの測定値
なお、上記の数式(5)の第一項はサーボモーター62の角速度Ω62の目標値RΩであり、入力側駆動部20の角速度ω20に対応する出力側駆動部60のサーボモーター62の角速度Ω62の換算値(Tr・ω20/r63)が目標値RΩとして使用される。また、第二項は角速度Ω62の補正値EΩ´である。補正値EΩ´は、角速度Ω62の偏差EΩに相当する値であり、負荷Lの偏差ELにゲインKL-Ωを乗じて計算される。
なお、ゲインKL-Ω(負荷L-角速度Ω変換係数)は、負荷Lをサーボモーター62の角速度Ω62に変換する係数である。より具体的には、ゲインKL-Ωは、1回(1制御ポイント)の駆動制御により負荷Lを1単位(例えば1N)変化させる角速度Ω62として定義される。ゲインKL-Ωは、予め実験的に又はシミュレーションによって取得される。
そして、上記の数式(5)によって計算された指令値UΩに基づいてサーボモーター62が駆動され(S2007)、1回(1制御ポイント)の負荷制御(S2001-S2007)が終了する。試験が終了するまで、負荷制御(S2001-S2007)が繰り返し実行される(S2008)。
なお、上記の負荷制御S20では、サーボモーター62は、軸の角速度Ω62を制御量とする速度制御によって駆動が制御されるが、角度位置Θ62を制御量とする位置制御によって駆動が制御されてもよい。また、負荷Lに対応する軸トルクを制御量とするトルク制御によりサーボモーター62の駆動を制御してもよい。また、サーボモーター62に替えて、例えばダイレクトドライブモーターやリニアモーター等のギア機構を含まないモーターを使用してもよい。ギア機構を排除することにより、より応答が早く安定した制御が可能になる。
次に、上述した負荷制御S20の変形例である負荷制御Sa20について説明する。以下に説明する負荷制御Sa20は、同一の波形の負荷Lを繰り返し加える周波数モード又はパターンモードにおいて、基本波形(又は波形パターン)の同じ位相(制御ポイント)におけるサーボモーター62の制御量の実績値(後述する「学習データLD」)に基づいて目標値を決定することにより、制御の精度を高めたものである。ここで、制御量の実績値とは、制御対象の制御ポイント(対象制御ポイント)に対応する位相(又は位相領域)における制御量の測定値、その平均(例えば、相加平均、加重平均、幾何平均、調和平均等)又は平均に準ずるものである。本明細書では、このように、例えば負荷制御において、負荷Lの目標値から計算されるサーボモーター62の制御量(例えば、角度位置Θ62や角速度Ω62)の目標値に替えて、サーボモーターの制御量の実績値を使用する制御方式を学習制御(学習機能)と呼ぶ。なお、周波数モード及びパターンモードにおいては、複数の制御ポイントから構成される制御サイクルにより一つの基本波形又は波形パターンに従った駆動制御が行われ、この制御サイクルが繰り返し実行される。
図28-29は、負荷制御Sa20の手順を表したフローチャートである。負荷制御Sa20では、まず、学習制御が有効と設定されているか否かが確認される(Sa2001)。学習制御が無効と設定されていれば(Sa2001:NO)、上述の負荷制御S20が実行される。学習制御が有効と設定されていれば(Sa2001:YES)、次に、設定された動作モードが学習制御に適合しているか否か(具体的には、動作モードが周波数モード又はパターンモードであるか否か)が判定される(Sa2002)。動作モードが学習制御に適合していなければ(Sa2002:NO)、上述の負荷制御S20が実行される。動作モードが学習制御に適合している場合は(Sa2002:YES)、出力側駆動部60のサーボモーター62の角度位置Θ62、角速度Ω62及び負荷Lの測定値が取得され、記憶される(Sa2003~2006)。次に、負荷Lの目標値(初期設定値)RLが取得される(Sa2007)。
次に、上述したスローアップ処理S22(図26)が行われ、動作モードがスローアップ処理S22に適合していて、尚且つスローアップ処理S22が有効に設定されている場合に、初期の所定回数の制御サイクルについて負荷Lの目標値RLが低減される。そして、負荷Lの目標値RLと測定値YLから負荷Lの偏差EL(=RL-YL)が計算される(Sa2008)。
次に、下記の数式(6)により、負荷Lの偏差E
Lからサーボモーター62の制御量(例えば、角速度Ω
62)の補正値E
Ω´が計算される(Sa2009)。なお、補正値E
Ω´は、サーボモーター62の制御量である角速度Ω
62の偏差E
Ωに相当する値であり、負荷Lの偏差E
LにゲインK
L-Ωを乗じて計算される。
但し、
E
Ω´ : 角速度Ω
62の補正値(角速度Ω
62の偏差E
Ωに相当)
K
L-Ω: ゲイン(負荷L-角速度Ω変換係数)
E
L : 負荷Lの偏差
R
L : 負荷Lの目標値
Y
L : 負荷Lの測定値
次に、最初の制御サイクルの場合は(Sa2010:YES)、入力側駆動部20の角速度ω20が取得され(Sa2011)、上述した負荷制御S20と同様に、入力側駆動部20の角速度ω20から計算されるサーボモーター62の角速度Ω62の換算値(Tr・ω20/r63)がサーボモーター62の制御量の目標値RΩとして使用される(Sa2012)。
2回目以降の制御サイクルの場合は(Sa2010:NO)、まず学習データLDが計算される(Sa2013)。本実施形態の学習データLDは、過去の(例えば直近の1~数サイクルの)サーボモーター62の制御結果(制御量である角速度Ω62の測定値)から計算される制御量YΩの実績値であり、負荷Lの目標値RLから計算される角速度Ω62の目標値RΩの代わりに使用される。制御量の実績値を目標値として使用することにより、偏差が小さくなるため、制御の精度が向上する。
第n制御サイクルの第m制御ポイント(すなわち、その時点における制御対象の制御ポイントである対象制御ポイント)に対応する学習データLD(n,m)は、次の数式(7)によって計算される。
但し、
LD(n,m): 学習データ(第n制御サイクル、第m制御ポイント)
n,m: 正の整数
Y
Ω(i,j): 角速度Ω
62の制御量(第i制御サイクル、第j制御ポイント)
p: nよりも小さい正の整数(平均する制御サイクルの範囲を表す定数)
q: mよりも小さい正の整数(平均する制御ポイントの範囲を表す定数)
すなわち、直近の複数の制御サイクル(第n-p制御サイクルから第n-1制御サイクルまでのp回の制御サイクル)について、第m制御ポイントの近傍の制御ポイント(第m-qポイントから第m+qポイントまでの範囲内の2q+1個の制御ポイント。「近傍制御ポイント」という。)の制御量YΩ(i,j)を平均したものが学習データLD(n,m)となる。なお、定数pは平均化する制御サイクルの範囲を定めるパラメーターであり、定数qは平均化する制御ポイントの範囲を定めるパラメーターである。
このように、負荷制御Sa20では、複数の制御サイクルの制御量YΩ(i,j)を平均した学習データLD(n,m)を使用することにより、外乱の影響の少ない制御が可能になっている。また、複数の制御ポイントの制御量YΩ(i,j)を平均した学習データLD(n,m)を使用することによっても、外乱の影響の少ない制御が可能になっている。
そして、学習データLDがサーボモーター62の角速度Ω62の目標値RΩに設定される(Sa2014)。
次に、下記の数式(8)により、サーボモーター62の指令値U
Ωが計算される(Sa2015)。なお、最初の制御サイクルの場合、数式(8)は上述した数式(5)と同じ式になる。
そして、この指令値UΩに基づいてサーボモーター62が駆動され(Sa2016)、1回(1制御ポイント)の負荷制御(Sa2003-Sa2016)が終了する。試験が終了するまで、負荷制御(Sa2003-Sa2016)が繰り返し実行される(Sa2017)。
負荷制御Sa20では、制御サイクルi及び制御ポイントjの両方について制御量YΩ (i,j)を平均したものを学習データLD(n,m)としているが、制御サイクルi及び制御ポイントjの少なくとも一方について平均をとらずに学習データLD(n,m)を計算する構成としてもよい。例えば、制御サイクルi及び制御ポイントjのいずれについても平均をとらずに、前回の制御サイクルにおける同じ(又は対応する)制御ポイントの制御量YΩ(n-1,m)の値をそのまま学習データLD(n,m)として使用してもよい。
なお、上記の数式(7)では、平均する制御ポイントの全域(第m-q制御ポイントから第m+q制御ポイントまでの全範囲)について、第n-p制御サイクルから第n-1制御サイクルまでの制御量YΩ(i,j)が使用されているが、既に第n制御サイクルの制御量YΩ(n,j)が取得されている第m-q制御ポイントから第m-1制御ポイントについては、第n-p+1制御サイクルから第n制御サイクルまでの制御量YΩ(i,j)を使用して学習データLD(n,m)を計算する構成としてもよい。
上記の数式(7)では、その時点における制御の対象である対象制御ポイント(第m制御ポイント)に対する学習データLD(n,m)が第m制御ポイントを中心とする制御ポイントの範囲内の制御量Y
Ω(i,j)の測定値を使用して計算される。すなわち、学習データLD(n,m)は、対象制御ポイントと同位相の制御量Y
Ω(i,j)の測定値から計算されている。しかしながら、応答に位相遅れがある場合には、次の数式(9)に示されるように、学習データLD(n,m)の計算に使用する位相ポイントの範囲に位相遅れを相殺するように位相差(位相調整量r)を与えると、より安定した制御が可能になる。なお、この場合、対象制御ポイント(第m制御ポイント)から位相調整量rだけ位相をずらした第m-r制御ポイントが、対象制御ポイントに対応する対応制御ポイントとなる。
但し、rは位相調整量を表す正の整数
なお、上記の負荷制御Sa20では、サーボモーター62は、軸の角速度Ω62を制御量とする速度制御によって駆動が制御されるが、角度位置Θ62を制御量とする位置制御によってサーボモーター62の駆動を制御してもよい。また、軸トルクを指令値(制御量)とするトルク制御によりサーボモーター62の駆動を制御してもよい。サーボモーター62の軸トルクは負荷Lに比例するため、トルク制御においては、負荷Lが実質的にサーボモーター62の制御量となる。また、サーボモーター62に替えて、例えばダイレクトドライブモーターやリニアモーター等のギア機構を含まないモーターを使用してもよい。ギア機構を排除することにより、より応答が早く安定した制御が可能になる。
なお、本実施形態では、上述のようにサーボモーター62の制御量(例えば、角度位置Θ62や角速度Ω62)の実績値に基づいて制御量の目標値(学習データLD)が決定されるが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、モーターに操作量(例えば、モーターに供給する駆動電流)の実績値に基づいて制御量(例えば、モーターの角度位置や角速度)の目標値を決定する(例えば、直近の数回の制御サイクルにおける近傍の制御ポイントの制御量Yの平均を目標値として使用する)構成としてもよい。
(ばね負荷制御)
上述したように、負荷制御S20及びSa20は、定負荷モード、周波数モード、パターンモード、舵角応答モード及び外部信号モード等の各種の制御モードに対応している。これらの制御モードは、処理S2004(図25)又は処理Sa2007(図28)において取得される負荷Lの目標値RLによって決定される。
次に、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20に応じた負荷Lを与える舵角応答モードの一態様であるばね負荷制御について説明する。ばね負荷制御は、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20に応じて弾性的に変化(単調に増加又は減少)する負荷Lを与える制御である。ばね負荷制御により、実際の車両に組み込まれた場合にステアリング装置に加わる負荷に近い負荷Lを供試体Wに与えることが可能になり、実際に車両に組み込まれた状態をより正確に再現することが可能になる。なお、ばね負荷制御は、負荷制御S20における処理S2004又は負荷制御Sa20における処理Sa2007の一態様である。
<実施例1>
図30は、ばね負荷制御の実施例1で使用されるステアリングシャフトW1の角度位置θ20と負荷Lの目標値RLとの関係を表したグラフである。図30において、実線(R)が右側のタイロッドW4に加わる負荷Lを示し、破線(L)が左側のタイロッドW4に加わる負荷Lを示す。図30に示される通り、実施例1のばね負荷制御では、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20に対して直線的(弾性的)に変化する負荷Lが供試体WのタイロッドW4に与えられる。操舵角が大きくなるほどタイロッドW4に大きな抗力(負荷L)が加わる(操舵角に対して負荷Lが単調に増加する)、という実際の車両おける負荷Lの動態を反映したものになっている。
図30に示される角度位置θ20と負荷Lの目標値RLとの関係を表す情報は、例えば数値テーブルや関数の形でストレージ824等に記憶されている。処理S2004又はSa2007において、制御部82に記憶された角度位置θ20と負荷Lの目標値RLとの関係を表す情報が読み込まれ、この関係に基づいて、その時点における角度位置θ20に対応する負荷Lの目標値RLが取得される。目標値RLに基づいて例えば数式(5)により計算された指令値UΩによりサーボモーター62が駆動されることにより、実施例1のばね負荷制御が実現される。
ばね負荷制御では、供試体Wの出力(タイロッドW4の動き)ではなく入力(ステアリングシャフトW1の回転)に基づいて負荷Lが制御される。そのため、供試体Wが有するギア機構を介さずに制御が行われるため、供試体Wのギア機構の遊びによる応答の遅延が防止され、より精度の高い制御が可能になる。また、供試体Wの制御機構を介さずに制御が行われるため、供試体WのECUによる制御との干渉が回避され、より安定な制御が可能になる。
上述した実施例1のばね負荷制御では、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20と左右の負荷Lの目標値RLがそれぞれ一対一で対応しているため、ステアリングシャフトW1の回転方向に拘わらず、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20に対して同じ負荷Lが加えられる制御になっている。しかしながら、実際の車両においてタイロッドW4に加わる負荷Lには、ステアリングシャフトW1の回転方向によって異なる値となるヒステリシス特性がある。すなわち、負荷LはステアリングシャフトW1の回転に対する抗力として加わるため、負荷Lの方向もステアリングシャフトW1を回す方向によって異なったものとなる。
<実施例2>
次に説明するばね負荷制御の実施例2(ばね負荷制御S21)は、実際の車両と同様にヒステリシスを有する負荷Lを供試体Wに与えることにより、実際の車両に組み込まれた際に受ける負荷をより正確に再現することを可能にしたものである。
図31は、実施例2におけるステアリングシャフトW1の角度位置θ20と負荷Lの目標値RLとの関係を表したグラフである。図31のグラフは、次の四つの曲線(R/CW、L/CW、R/CCW、L/CCW)から構成されている。そのため、角度位置θ20のみからは負荷Lの目標値RLが一意に決まらず、四つの曲線のいずれが適用されるべきかを判断する処理が必要となる。
(1)ステアリングシャフトW1を時計回りに回している際に右側のタイロッドW4に加わる負荷L(R/CW)
(2)ステアリングシャフトW1を時計回りに回している際に左側のタイロッドW4に加わる負荷L(L/CW)
(3)ステアリングシャフトW1を反時計回りに回している際に右側のタイロッドW4に加わる負荷L(R/CCW)
(4)ステアリングシャフトW1を反時計回りに回している際に左側のタイロッドW4に加わる負荷L(L/CCW)
図32は、実施例2のばね負荷制御(負荷Lの目標値RLを取得する処理)S21の手順を表したフローチャートである。ばね負荷制御S21は、負荷制御S20における処理S2004又は負荷制御Sa20における処理Sa2007に適用される。
ばね負荷制御S21では、まず供試体WのステアリングシャフトW1のトルクT及び角速度ω20が取得される(S2101)。次に、トルクTと角速度ω20の向きが対比される(S2102)。
トルクTと角速度ω20の向きが合致していなければ(S2102:NO)、ハンドルから手が離された状況にあると判断され、左右の出力側駆動部60L、60Rによって供試体Wに与えられる負荷Lがいずれも無負荷(負荷Lの目標値RL=0)に設定される(S2103)。
トルクTと角速度ω20の向きが合致している場合は(S2102:YES)、次にステアリングシャフトW1の回転方向が判断される(S2104)。ステアリングシャフトW1がCW方向に回転している場合(S2104:YES)、右側の出力側駆動部60Rに対する負荷Lの目標値RLが関数(又は数値テーブル)R/CWにより決定され、左側の出力側駆動部60Lに対する負荷Lの目標値RLが関数(又は数値テーブル)L/CWにより決定される。また、ステアリングシャフトW1がCCW方向に回転している場合(S2104:NO)、右側の出力側駆動部60Rに対する負荷Lの目標値RLが関数(又は数値テーブル)R/CCWにより決定され、左側の出力側駆動部60Lに対する負荷Lの目標値RLが関数(又は数値テーブル)L/CCWにより決定される。
図31のグラフに示されるように、実施例2のばね負荷制御S21では、ステアリングシャフトW1の回転に伴うタイロッドW4の移動に逆らう方向の負荷Lが作用する。なお、負荷Lの符号は、外向き(すなわち、右側のタイロッドW4については右方向、左側のタイロッドW4については左方向)を正として定義される。
また、外向きに操舵するとき(R/CW、L/CCW)には、角度位置θ20に対する負荷Lの変化が大きく、内向きに操舵するとき(L/CW、R/CCW)には、角度位置θ20に対する負荷Lの変化が小さくなっている。
このように、実施例2のばね負荷制御S21は、実際の車両の走行時にタイロッドW4に加わる負荷の方向性(ヒステリシス特性)が反映されたものとなっているため、実際の車両に組み込まれたときに受ける負荷をより正確に再現することが可能になる。
なお、ばね負荷制御S21において、トルクT(及び/又は角速度ω20)が小さいときは、S2102及びS2104の判定結果が頻繁に変わり、制御が不安定になる可能性がある。そのため、例えば、トルクT(及び/又は角速度ω20)が所定値よりも小さい場合に、左右の出力側駆動部60L、60Rを無負荷に設定する構成としてもよい。
なお、自動運転に対応した供試体Wを自動運転モードで作動させた状態で試験を行う場合には、入力側駆動部20は使用されずに、インターフェース部823を介して供試体WのECUを制御部82に接続して、制御部82が供試体WのECUに操舵を制御させる。この場合、ロータリーエンコーダー及びトルクセンサーを備えた入力側計測ユニットが、入力側駆動部20に替えて、供試体WのステアリングシャフトW1に接続される。そして、入力側計測ユニットにより計測されたステアリングシャフトW1のトルクT及び角速度ω20に基づいて、ばね負荷制御S21が行われる。
また、トルクTが検出できない場合には、ステアリングシャフトW1の角速度ω20のみに基づいてばね負荷制御S21を行う構成としてもよい。この場合、処理S2102-S2103が省略される。
また、供試体WのECUからステアリングシャフトW1の角度位置θ20を示す角度信号及びトルクTを示すトルク信号を取り出せる場合には、これらの信号に基づいて、ばね負荷制御S21を行うこともできる。
(加振制御)
図33は、加振制御S30の手順を表したフローチャートである。加振制御S30では、まず、設定された試験条件から得られる可動台66の高さHtの目標値と送りねじ機構364bの送りねじのピッチから出力側駆動部60のサーボモーター67の軸の角度位置Θ67の指令値が計算される(S3001)。そして、この角度位置Θ67の指令値によりサーボモーター67が駆動される(S3002)
次に、サーボモーター67に内蔵されたロータリーエンコーダーREによって検出された軸の角度位置Θ67の測定値が取得され(S3003)、角度位置Θ67の測定値と送りねじ機構364bの送りねじのピッチから可動台66の高さHtが計算されて(S3004)、記憶され(S3005)、1回(1制御ポイント)の加振制御(S3001-S3005)が終了する。試験が終了するまで、加振制御(S3001-S3005)が繰り返し実行される(S3006)。
(端当て制御)
ステアリング装置の耐久試験では、供試体WのステアリングシャフトW1が、その可動範囲の全域(一方の端当て位置から他方の端当て位置まで)に渡って、所定の回数(又は所定の試験時間)だけ、繰り返し往復駆動される。従来の試験装置では、可動範囲の末端に到達するまで一定の速度でステアリングシャフトW1が回転駆動され、可動範囲の末端に到達(端当て)したときに発生するトルクの跳ね上がりが検出されてからステアリングシャフトW1の駆動方向を反転する制御が行われていた。そのため、例えばラックアンドピニオン式のステアリング装置の場合、一定の速度で端当て位置に到達すると、ラックエンドがギアケースに衝突するため、供試体Wに破壊的な衝撃が加わり得る。他の方式のステアリング装置にもラックアンドピニオン式と同様に可動範囲を規制するストッパーが設けられているため、端当て位置に到達した際に同様の破壊的な衝撃が発生し得る。
本実施形態の端当て制御S9は、端当て時に供試体WのステアリングシャフトW1に予め設定された上限以上のトルクが加わらないように制御することにより、端当て時に発生する衝撃による供試体Wの破損の防止を可能にする駆動制御である。
図34-35は、端当て制御S9の手順を表したフローチャートである。端当て制御S9では、まず位置制御、すなわち入力側駆動部20に対する入力軸制御S10(図24)が行われ、予め設定された角速度ω20でステアリングシャフトW1が回転駆動される。なお、本実施形態の入力軸制御S10は、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20を制御量とする位置制御であり、ステアリングシャフトW1の角速度ω20の設定値から計算された角度位置θ20の目標値により制御が行われる。また、端当て制御S9においては、入力軸制御(S1001-S1007)は繰り返されず(すなわち判断S1009がスキップされ)、1回のみ実行される。
次に、入力軸制御S10で取得されたステアリングシャフトW1の角度位置θ20が端当て判定角度範囲内であるか否かが判定される(端当て判定S901)。端当て判定角度範囲は、端当て位置及びその近傍に設定された領域である。ステアリングシャフトW1の角度位置θ20が端当て判定角度範囲内に到達するまで、入力軸制御S10が継続される。ステアリングシャフトW1の角度位置θ20が端当て判定角度範囲内に到達すると(S901:YES)、このときのステアリングシャフトW1のトルクTが端当て前の初期トルクT0として記憶される(S902)。
そして、端当て状態に到達する(S903:YES)まで、引き続き入力軸制御S10が繰り返し行われる。なお、本実施形態においては、端当て状態であるか否かは、次の数式(10)が充足するか否かにより判定される(端当て判定)。
但し、
T
:トルク測定値
r
T:端当て判定基準(%)
T
1:トルク上限
T
0:初期トルク
なお、初期トルクT
0は、供試体Wの取り付け方等によって変動し、トルクの測定値に誤差を与える要因の一つである。数式(10)に示されるように初期トルクT
0を控除することにより、端当て判定の精度を向上させることができる。しかし、初期トルクT
0を控除せずに、次の数式(10´)により端当て判定をしてもよい。この場合、トルク上限T
1(「第1の目標トルク」という。)に判定基準r
Tを乗じたものが、端当て状態であるか否かを判定するためのトルクの基準値(設定値)となる。
なお、数式(10)又は(10´)による判定は、制御部82によって行われる。この判定において、制御部82は、トルク設定値計算手段として機能し、各数式の右辺により、トルク上限T1及び端当て判定基準rTに基づいて、トルク上限T1とは異なるトルクの設定値を計算する。具体的には、制御部82(トルク設定値計算手段)は、例えばトルク上限に判定基準rTを乗じたものをトルクの設定値として算出する。
トルク上限T
1は、予め設定されたトルクの上限であり、例えば供試体Wのトルク許容値の上限以下の値に設定される。端当て判定基準r
Tは、端当て状態と判定するトルクの大きさの基準値(「端当て判定トルクT
d」という。)の指標であり、それぞれ初期トルクT
0で零点補正されたトルク上限T
1に対する端当て判定トルクT
dの比(百分率)として定義される。より具体的には、端当て判定基準r
Tは、次の数式(11)によって定義される。
百分率の端当て判定基準rTを使用してトルクの基準値を設定することにより、判定基準を直観的に把握できるようになり、また、供試体Wの種類(すなわち、トルク許容値の違い)によらず同じ判定基準rTを使用することが可能になる。なお、端当て判定基準rTの代わりに、端当て判定トルクTdを直接設定できるようにしてもよい。
なお、トルク上限T1は、リミット設定画面Sc8(図18)のトルクローカルリミット設定部E81LTにより設定される。また、端当て判定トルクTdは、例えば、波形パターン編集画面Sc7により設定される。すなわち、トルクローカルリミット設定部E81LT及び波形パターン編集画面Sc7は、トルク制御の条件(トルクTの設定値)のユーザー入力を受け付けるトルク設定値受付手段として機能する。
端当て状態に到達すると(S903:YES)、トルク上限T1が後述する入力軸制御(トルク制御)S11の目標値TSに設定され(S904)、トルク制御S11におけるステアリングシャフトW1の角速度ω20(すなわち、入力側駆動部20の角速度ω20)の上限が設定される(S905)。そして、入力側駆動部20の駆動制御が位置制御S10からトルク制御S11に切り替えられる。S905において角速度ω20の上限が設定されることにより、ステアリングシャフトW1の回転が、設定された角速度ω20の上限を超えないように制御されるため、ステアリングシャフトW1の急激な駆動による衝撃の発生が防止される。
図36は、トルク制御S11の手順を表したフローチャートである。トルク制御S11は、ステアリングシャフトW1のトルクTを制御量とする入力側駆動部20の駆動制御である。トルク制御S11では、まず下記の数式(12)によりステアリングシャフトW1の角度位置θ
20の偏差E
θが計算される(S1101)。なお、変換係数K
T-θは、トルクTを1単位(例えば1N・m)変化させる角度位置の変化量Δθ
20として定義される定数であり、予め実験的に又はシミュレーションによって得られる。
但し、
E
θ:ステアリングシャフトW1の角度位置θ
20の偏差
K
T-θ:トルクT-角度位置θ
20変換係数
E
T:トルクTの偏差
R
T:ステアリングシャフトW1のトルクTの目標値
Y
T:ステアリングシャフトW1のトルクTの測定値
次に、偏差Eθの大きさが、ステアリングシャフトW1の角速度ω20の上限に相当する最大操作量δθmax以下であるか否かが判定される(S1102)。偏差Eθの大きさが最大操作量δθmax以下であれば(S1102:YES)、偏差Eθが解消されるように、偏差Eθの値が操作量δθ20に設定される(S1103)。また、偏差Eθの大きさが入力側駆動部20の最大操作量δθmaxよりも大きい場合は(S1102:NO)、入力側駆動部20の操作量δθ20は、最大操作量δθmaxと同じ大きさで、偏差Eθと同符号の値に設定される(S1104)。そして、操作量δθ20に相当する角度δΘ21(=δθ20/r22)だけサーボモーター21が駆動される(S1105)。
次に、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20が取得され(S1106)、トルクTが測定され(S1107)、角度位置θ20及びトルクTが記憶されて(S1108)、1サイクルのトルク制御S11が終了する。トルク制御S11は、ステアリングシャフトW1のトルクTの大きさが目標値TS(すなわち、トルク上限T1)の大きさ以上になる(S906:YES)まで繰り返される。
次に、トルク緩和速度rRT(単位:N・m/s)が設定されている場合には(S907:YES)、ステアリングシャフトW1の角速度ω20の上限がトルク緩和速度rRTに相当する値KT-θ・rRTに変更される(S908)。これにより、トルクがトルク緩和速度rRTで緩やかに変化するため、トルク制御の安定性が向上する。また、トルク緩和速度rRTが設定されていない場合には(S907:NO)、ステアリングシャフトW1の角速度ω20の上限の設定が解除される(S909)。なお、トルク緩和速度rRTが設定されていない場合に、角速度ω20の上限の設定を解除せずに、処理S905において設定された角速度ω20の上限を維持する構成としてもよい。
そして、予め設定された保持トルクT2(「第2の目標トルク」という。)がトルク制御S11の目標値TSに設定され(S910)、トルク制御S11が行われる。トルクTが実質的に目標値TS(すなわち、保持トルクT2)に到達すると(S911:YES)、タイマーが始動され(S912)、設定時間(「持続時間」という。)が経過するまでトルク制御S11が続けられ、設定時間だけステアリングシャフトW1の保持トルクT2が維持される。試験が終了する(S914:YES)まで、上記の端当て制御S9が繰り返し実行される。なお、試験が継続する場合(S914:NO)には、入力側駆動部20の駆動制御の方式が位置制御S10からトルク制御S11に切り替わる。
(反転制御)
上述した端当て制御S9は、端当て位置においてステアリングシャフトW1に所定の力積を与える(具体的には、所定の保持トルクT2を設定時間維持する)制御であるが、端当て位置においてステアリングシャフトW1に力積を与えずに直ちに回転方向を反転させる制御が求められる場合もある。このような反転駆動を通常の位置制御によって行うと、反転時に意図しないトルクの急激な変動(衝撃)が発生して、試験結果の妥当性が損なわれる可能性がある。次に説明する反転制御S50は、端当て位置に到達したときにトルクの急激な変動が生じないようにステアリングシャフトW1を反転駆動する制御である。
図37は、反転制御S50の手順を表したフローチャートである。また、図38は、反転制御S50の動作を説明するためのグラフ(入力軸波形)である。具体的には、図38は、制御量であるステアリングシャフトW1の角度位置θ20の波形であり、横軸が時間軸に相当する制御ポイントkを表し、縦軸が角度位置θ20を表す。なお、反転制御S50は、後述するスキップ処理S5100(及びスキップ処理S5100を実行するか否かの判断S5004)を含んでいる点を除いては、通常の位置制御である入力軸制御S10と同様の処理である。
反転制御S50では、まず制御ポイントkを表すカウンタkが初期値「1」にリセットされる(S5001)。次に、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20及びトルクTの測定値が取得され(S5002)、カウンタkと対応付けられて記憶される(S5003)。
次に、ステアリングシャフトW1のトルクTの大きさが基準値τを超えている(すなわち、端当て位置に到達した)か否かが判断される(S5004)。トルクTの大きさが基準値τを超えていて、端当て位置に到達したと判断された場合は(S5004:YES)、次にスキップ処理S5100が行われる。スキップ処理S5100は、端当てによりトルクTが基準値τを大きく超えることが見込まれる制御ポイントkの領域(図38において点線で表された部分)を飛ばして、トルクTがその時点のもの(すなわち、基準値τ)と同程度になることが見込まれる制御ポイントk(例えば、図38におけるkA′,kB′)にカウンタを進める処理である。スキップ処理S5100の詳細については後述する。
トルクTの大きさが基準値τを超えていなければ(S5004:NO)、制御ポイントkに対応する角度位置θ20の目標値Rθが取得される(S5005)。目標値Rθは、予め設定された入力軸波形(図38に示される制御ポイントkと角度位置θ20との関係を表す数値テーブル又は関数)に基づいて計算される。次いで、角度位置θ20の偏差Eθが計算され(S5006)、偏差Eθに基づいてサーボモーター62の指令値Ω62が計算され(S5007)、指令値Ω62によりサーボモーター62が駆動される(S5008)。試験を継続する場合は(S5009:YES)、カウンタkをインクリメントして(S5010)、処理S5002に戻る。試験が終了するまで、処理S5002~S5010が繰り返し実行される。
次に、スキップ処理S5100について説明する。図38に示される入力軸波形には、1周期(制御サイクル)分の波形が設定されており、この入力軸波形に基づくステアリングシャフトW1の回転駆動の制御が所定の期間(例えば2000時間)に亘って連続して繰り返される。
図38に示される入力軸制御は、ステアリングシャフトW1の想定される可動範囲の両端(想定端当て位置θE1、θE2)間で一定の角速度ω20で往復回転駆動するものである。ステアリングシャフトW1の端当て位置は、長期に亘る耐久試験の間に徐々に変化する。そのため、端当て位置まで確実に到達できるように、想定端当て位置θE1、θE2は耐久試験前に中心出し処理S4等によって調べられた実際の初期の端当て位置θA、θBよりも外側(すなわち、中心位置θCから遠ざかった位置)に設定される。従って、ステアリングシャフトW1の角度位置θ20が想定端当て位置θE1、θE2に到達する前に、実際の端当て位置θA、θBに到達して、トルクTが基準値τを超えることになる。
図39は、スキップ処理S5100の手順を表したフローチャートである。上述したように、スキップ処理S5100は、図38に示される入力軸波形上の点EA、EB(すなわち、端当て位置θA、θB)に到達してトルクTの大きさが基準値τを超えたときに、トルクTが基準値τを大きく超えることが予測される入力軸波形上の点E1、E2(すなわち想定端当て位置θE1、θE2)の近傍の点線部を飛ばして、点EA、EBから同じ角度位置θA、θBの点EA′、EB′に移動する処理である。
そのために、まず、点E
A、E
Bと同じ角度位置θ
A、θ
Bの入力軸波形上の点E
A′、E
B′が探索される(S5110)。図38に示される入力軸波形の例では、点E
Aと点E
A′は点E
1を通る垂線P
1に対して対称な位置にあり、点E
Bと点E
B′は点E
2を通る垂線P
2に対して対称な位置にある。また、入力軸波形を構成する制御ポイントの数Kは予め設定された既知の値であり、点E
1と点E
2はそれぞれ入力軸波形の1/4周期と3/4周期に位置しているため、点E
1の制御ポイントk
1及び点E
2の制御ポイントk
2はそれぞれK/4と及びK3/4となる。従って、点E
A′の制御ポイントk
A′と点E
B′の制御ポイントk
B′は、次の数式(13)と数式(14)によりそれぞれ計算される。
そして、ステアリングシャフトW1をCW方向に回転駆動中にトルクTの大きさが基準値τを超えた場合(すなわち、点EAに到達した場合)には、数式(13)によって計算される制御ポイントkA′(点EA′)へジャンプして(S5120)、スキップ処理S5100が終了する。以降、トルクTの大きさが再び基準値τを超えるまで、通常の位置制御により、入力軸波形に従ってステアリングシャフトW1が回転駆動される。
なお、点EAから点EA′へのジャンプの前後で入力軸波形の傾きが逆向きに変化していることから分かるように、ジャンプの前後(すなわち、端当て位置θA)でステアリングシャフトW1の回転駆動の方向が反転する。また、この反転の前後でステアリングシャフトW1の角度位置θAが変化しないため、反転の前後でトルクTに大きな変化は生じず、衝撃無くスムーズに駆動が反転する。そのため、供試体Wや試験装置1に反転時の衝撃による計画外のダメージを与えることなく試験を行うことが可能である。
<変形例>
処理S5110における上記の数式(13)、(14)によるジャンプ先の制御ポイントkA′、kB′の計算は、入力軸波形が点E1、E2の付近でそれぞれ垂線P1、P2に対して対称であることが前提となっている。しかしながら、入力軸波形は任意に設定することができるため、入力軸波形が上記の対称性を有するとは限らない。例えば、図40に示すように、入力軸波形の点E1付近の形状が垂線P1に対して非対称である場合、数式(13)によって得られる点EA′(制御ポイントkA′)の角度位置θA′は端当て位置θAよりも更に外側になる(すなわち、中心位置θCから離れる)。そのため、点EA′におけては、角度位置θ20を中心位置θC側に戻そうとする強いトルクTがステアリングシャフトW1に作用する。従って、制御ポイントkA(点EA)から制御ポイントkA′(点EA′)にジャンプすると、急激なトルクTの上昇(すなわち衝撃)が発生するため、供試体Wに計画外のストレスが加わることになり、試験結果の妥当性が損なわれる可能性がある。
以下に説明する処理S5110の変形例は、垂線P1、P2に対して非対称な入力軸波形で試験を行う場合であっても、反転時の衝撃の発生を有効に防止するものである。
図41は、ジャンプ先探索処理S5110の変形例の手順を表したフローチャートである。本変形例では、まず図40に示されるジャンプ先の候補点E
A*が決定される(S5111)。上述したように、図40に示されるような垂線P
1に対して非対称な入力軸波形の場合は、数式(13)によって得られる制御ポイントk
A′の点E
A′にジャンプすると衝撃が発生する可能性がある。そのため、本変形例では、点E
A′よりも更に先の(制御ポイントkの値が大きい)点E
A*を候補点とする。具体的には、次の数式(15)により候補点E
A*の制御ポイントk
A*が計算される。
但し、αは正数
次に数式(15)によって得られた候補点EA
*の制御ポイントkA
*と入力軸波形から、候補点EA
*の角度位置θA*を計算し、候補点EA*の角度位置θA*が端当て位置θAに十分に(すなわち、候補点EA*にジャンプした際に試験結果に影響を与え得る衝撃が発生しない程度に)近いか否かが判断される(S5112)。具体的には、次の数式(16)を満たす(すなわち、端当て位置θAからの角度位置θA*の偏差が基準値δθA以下である)か否かにより、候補点EA*の角度位置θA*が端当て位置θAに十分に近いか否かが判断される。
候補点EA*の角度位置θA*が端当て位置θAに十分に近ければ(S5112:YES)、のジャンプ先を探索する処理S5110は終了する。角度位置θA*が端当て位置θAに十分に近くなければ(S5112:NO)、制御ポイントkA*を一つ減じて、候補点EA*を点E1側に移動させる(S5114)。そして、処理S5112に戻って、移動後の候補点EA*の角度位置θA*が端当て位置θAに十分に近いか否かが判断される。候補点EA*の角度位置θA*が端当て位置θAに十分に近いと判断されるまで、処理S5112-S5114が繰り返される。なお、図40に示される入力軸波形では、候補点EA*が点EA″(又はその近傍)に到達すると、候補点EA*の角度位置θA*が端当て位置θAに十分に近いと判断される。
上記の変形例では、ジャンプ先の点EA″の角度位置θA″が端当て位置θA(現在位置)に十分に近いことが確認されてから、制御ポイントのジャンプが行われるため、ステアリングシャフトW1の回転駆動の反転時に発生する衝撃をより確実に防止することが可能になる。
上記の変形例では、最初の候補点EA*が端当て位置θAよりも内側(中心位置θC側)に設定され、内側から外側に向かって(図40のグラフにおいては、矢印Mで示されるように上側に向かって)ジャンプ先の探索が行われるが、本発明はこの構成に限定されない。上記の変形例とは逆に、端当て位置θAよりも外側の点(例えば、点E1や点EA′)から内側に向かってジャンプ先を探索してもよい。
なお、点E1を始点にして探索を行う場合は、始点は容易に設定することができるが、探索の到達点である点EA″までの距離(制御ポイント数)が点EA*や点EA′よりも遠いため、ジャンプ先の探索に必要な計算量が多くなる。そのため、点E1よりも先にある(すなわち、制御ポイント数が大きい)点を始点に設定した方がジャンプ先の探索を効率的に行うことができる。
また、ジャンプ先の探索の方向(すなわち、処理S5114において候補点EA*を移動させる方向)は、当然ながら、探索の到達点EA″に近づける方向に行う必要がある。上記の変形例では、最初のジャンプ先の候補点EA*を決める定数αが、探索の到達点EA″よりも必ず先(図40において右側)に候補点EA*が設定されるように、大きな値に設定されている。そのため、処理S5114において、制御ポイント数を減じて、候補点EA*を図40において左側に移動させる処理が無条件に行われる。しかしながら、定数αを比較的に小さな値に設定する場合や、最初のジャンプ先の候補点EA*を例えば点EA′(垂線P1までの距離が点EAと同じ点)に設定する場合は、図40において候補点EA*が探索の到達点EA″の左側に位置するため、処理S5114において候補点EA*を右側に移動させることが必要になる。そのため、このような場合には、例えば、候補点EA*と探索の到達点EA″の位置関係(制御ポイントkの大小関係)を判断する処理も設けて、その判断結果に応じて候補点EA*を移動させる方向を決定するように構成する必要がある。
以上が本発明の一実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、様々な変形が可能である。例えば本明細書中に例示的に明示された実施形態等の構成及び/又は本明細書中の記載から当業者に自明な実施形態等の構成を適宜組み合わせた構成も本願の実施形態に含まれる。
上記の実施形態では、負荷制御Sa20において、最初の制御サイクルの場合(Sa2010:YES)のみに入力側駆動部20の角速度ω20から計算される角速度Ω62の換算値(Tr・ω20/r63)が目標値RΩとして使用されるが(Sa2012)、初期の複数の制御サイクルに対して処理Sa2012を適用する構成としてもよい。
上記の実施形態では、端当て制御S9において、トルクTをトルク上限T1まで一旦上げてから保持トルクT2まで緩やかに変化させる制御が行われるが、この過程を省略して、最初から保持トルクT2を目標値に設定してトルク制御S11を行う構成としてもよい。
上記の実施形態では、端当て制御S9において、保持トルクT2がトルク上限T1よりも低い値に設定されているが、保持トルクT2をトルク上限T1よりも高い値に設定してもよい。
上記の実施形態では、単一の波形パターンによって試験装置1全体の動作が規定されるが、試験装置1の異なる一部の動作を規定する複数の波形パターン(例えば、入力側駆動部20、出力側駆動部60R、出力側駆動部60Lの動作をそれぞれ規定する入力側、右出力側及び左出力側の三つの波形パターン)からシーケンステーブルを構成してもよい。