JP7455634B2 - 銀めっき材およびその製造方法、並びに、端子部品 - Google Patents

銀めっき材およびその製造方法、並びに、端子部品 Download PDF

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Description

本発明は、銀めっき材およびその製造方法に関し、特に、車載用や民生用の電気配線に使用されるコネクタ、スイッチ、リレーなどの接点や端子部品の材料として好適な銀めっき材およびその製造方法に関する。
従来、コネクタやスイッチなどの接点や端子部品などの材料として、銅、銅合金またはステンレス鋼などの比較的安価で耐食性および機械特性などに優れた素材へ、電気特性や半田付け性などの必要な特性に応じて、錫、銀、金などのめっきを施しためっき材が使用されている。
そして、銅、銅合金またはステンレス鋼などの素材(被めっき材)へ錫めっきを施した錫めっき材は安価であるが、高温環境下における耐食性に劣っている。これに対し、これらの素材へ金めっきを施した金めっき材は、耐食性に優れ、信頼性が高いもののコストが高くなる。一方、これらの素材へ銀めっきを施した銀めっき材は、金めっき材と比べて安価であり、錫めっき時と比べて耐食性に優れている。
ここで、コネクタやスイッチなどの接点や端子部品などの材料には、コネクタの挿抜やスイッチの摺動に伴う耐摩耗性も要求される。
そこで、銀めっき材の耐摩耗性を向上させるために、銀めっき中にアンチモンなどの元素を含有させることにより、銀めっき材の硬度を向上させる方法が知られている(特許文献1)。
また、素材上に銀からなる表層が形成された銀めっき材において、反射濃度が0.3以上、表層のAg純度が99.9質量%以上であり、大気中において50℃で168時間加熱する耐熱試験を行った後のビッカース硬さHvが110以上である、耐熱試験後も高い硬度を維持したまま接触抵抗の増加を防止することができる銀めっき材が知られている(特許文献2)
また、素材上に銀からなる表層が形成された銀めっき材において、表層の優先配向面のロッキングカーブの半価幅が2~8°であり、前記優先配向面が{200}面または{111}面である、耐熱性、曲げ加工性および耐摩耗性が良好な銀めっき材が知られている(特許文献3)。
特開2009-79250号公報 特開2016-204719号公報 特開2014-181391号公報
しかし、硬度の高い銀めっき材を使用してコネクタやスイッチなどの接点や端子部品を作製する場合、一般には途中で曲げ加工がおこなわれる。その際に、銀めっき材に割れが生じ、素材が露出して接点や端子部品の耐食性の低下や素材の破断が生じる恐れがある。また、コネクタの挿抜やスイッチの摺動における耐摩耗性において、摺動面にグリスなどの潤滑剤を使用しない場合でも優れた耐摩耗性が求められるようになってきた。
ところが、特許文献1のように銀めっき中にアンチモンなどの元素を含有させると、銀が合金化して高い硬度が得られ耐摩耗性は向上するものの、曲げ加工性が十分ではなかった。
また、本発明者らの調査によると、特許文献2の銀めっき材は高い硬度を有するが、曲げ加工性が十分ではない。また、特許文献3の銀めっき材では耐摩耗特性が十分でないことが判明した。
本発明は上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、曲げ加工性および耐摩耗性が良好な、銀めっき材およびその製造法を提供することである。
本発明に係る銀めっき材は、素材上に銀めっき層からなる表層が形成された銀めっき材において、前記表層の結晶面が{110}面優先配向であり、{110}面の配向比率が30%以上75%以下であることを特徴とする。
そして、前記素材が銅または銅合金であることが好ましく、前記素材と前記表層との間にニッケルからなる下地層が形成されていることが好ましい。
また、前記表層の平均結晶子径が45nm以上であることが好ましく、前記銀めっき材のビッカース硬さHVが100以上であることが好ましく、表層の{110}面と{311}面との配向比{110}/{311}の値が、1.3以上4.5以下であることが好ましい。
本発明の銀めっき材の製造方法は、濃度100g/L以上160g/L以下のシアン化銀カリウムと、濃度50g/L以上130g/L以下のシアン化カリウムと、濃度20mg/L以上50mg/L以下のセレンとを含む、水溶液からなる銀めっき液中において、電流密度を1A/dm以上10A/dm以下とし、シアン化銀カリウムの濃度(g/L)を電流密度(A/dm)で除した値を、25(g・dm)/(L・A)以上80(g・dm)/(L・A)以下として電気めっきを行うことにより、素材上に銀からなる表層を形成することを特徴とする。
そして、前記素材が銅または銅合金であることが好ましく、前記銀めっきを形成する前に、前記素材上にニッケルめっきからなる下地層を形成することが好ましい。
さらに、前記銀めっき液が、セレノシアン酸カリウムを含むことが好ましく、めっき液の液温を15℃以上40℃以下とすることが好ましい。
本発明に係る端子部品は、上述した本発明に係る銀めっき材を材料として用いたことを特徴とする。
本発明によれば、曲げ加工性および耐摩耗性が良好な銀めっき材およびその製造法を提供することができ、さらには、本発明に係る銀めっき材を材料とする、曲げ加工性および耐摩耗性が良好な端子部品を提供することができる。
本発明は、素材上に銀めっき層からなる表層が形成された銀めっき材において、前記表層の結晶面が{110}面優先配向であって、{110}面の配向比率が30%以上75%以下であることを特徴とする。
本発明者らは、銀からなる表層が形成された銀めっき材において、表層の結晶面が{110}面優先配向であって、{110}面の配向比率の値が30%以上75%以下である銀めっき材とすることにより、良好な曲げ加工性と良好な耐摩耗性を両立することができる銀めっき材を提供できることに想到した。
以下、本発明に係る銀めっき材について、1.銀めっき層(皮膜)の優先配向面、2.素材(被めっき材)、3.表層(銀めっき皮膜)の平均結晶子径、4.銀めっき材のビッカース硬さ、5.銀めっき材の製造方法、6.本発明に係る銀めっき材を用いた接点または端子部品、の順に説明する。
1.銀めっき層(皮膜)の優先配向面
銀めっき層(皮膜)からなる表層の結晶面が{110}面優先配向の表層においては曲げ加工性が良好な傾向を示す。その理由として、曲げ加工を行った際の銀めっき皮膜の変形方向に対して{110}面が変形しやすい結晶面であるからと考えられる。ただし、この変形しやすいという性質のために{110}面の配向比率が高すぎると耐摩耗性が劣化すると考えられることから、{110}面の配向比率は30%以上75%以下とする必要がある。
また、表層の{110}面と{311}面との配向比{110}/{311}の値が、1.3以上4.5以下であることが好ましい。本発明に係る{110}面優先配向の銀めっき材のサンプルを作製した際に、{110}面の次に{311}面の配向比が高いことが多く、{311}面は{110}面より変形しにくいため、耐摩耗性が向上する傾向があると考えられる。このため、良好な曲げ加工性と良好な耐摩耗性の両立のために、{110}/{311}の値を前記範囲とすることが好ましい。なお、{110}/{311}の値の、上限を4.3以下とすることも好ましく、1.5以上4.1以下の範囲とすることはさらに好ましい。
なお、銀めっき材の表層の結晶の配向は、X線回折により得られたX線回折パターンから、銀の111回折ピーク、200回折ピーク、220回折ピークおよび311回折ピークの各々のピーク強度(X線回折ピークの強度)を、JCPDSカードNo.40783に記載された各々の相対強度比(粉末測定時の相対強度比)(111:200:220:311=100:40:25:26)で除することにより補正して得られた値(補正強度)を用いて評価する。そして、補正強度として最も強いX線回折ピークが得られた結晶面を、表層(銀めっき皮膜)の優先配向面とする。
本発明に係る銀めっき材の表層では220回折ピークの補正強度が最も高いので、優先配向面は{110}面(即ち、{110}面優先配向)である。
本発明の{110}面の配向比率とは、銀めっき材の表層の銀における111回折ピーク、200回折ピーク、220回折ピークおよび311回折ピークの(X線回折)ピーク強度の前記補正強度の和を100%としたとき、220回折ピークの(X線回折)ピーク強度(補正強度)の割合の百分率(%)を算出したものである。
また、本発明の{110}面と{311}面との配向比{110}/{311}の値は、銀めっき材の表層の銀の220回折ピークおよび311回折ピークの(X線回折)ピーク強度の前記補正強度において、220回折ピークのピーク強度と311回折ピークのピーク強度との比(220回折ピークのピーク補正強度を、311回折ピークのピーク補正強度で除したもの)を算出することにより求める。
2.素材(被めっき材)
素材(被めっき材)は、銅または銅合金であることが好ましく、前記素材と前記表層との間にニッケルからなる下地層が形成されていることが好ましい。素材を銅または銅合金とすることにより、接点や端子に求められる導電性や強度などの特性に応じた比較的安価な材料を適宜採用することができる。またニッケルめっき等からなるニッケルの下地層を形成することにより、耐摩耗性の向上に寄与することが考えられる。
3.表層(銀めっき皮膜)の平均結晶子径
前記表層(銀めっき皮膜)の平均結晶子径が45nm以上であることが好ましい。平均結晶子径が小さすぎると結晶粒が小さくなる傾向があり、曲げなどの加工性が低下すると考えられるからである。なお、当該観点より、平均結晶子径は55nm以上がより好ましく、63nm以上がさらに好ましい。
ただし、平均結晶子径が大きくなりすぎると硬度が低下し、耐摩耗性が低下する恐れがあるので平均結晶子径の上限の値を100nmとしてもよい。なお、当該観点より、平均結晶子径の上限の値を83nm、さらには75nmとすることが好ましい。
ここで、平均結晶子径は次の手順で求めた。
まず、銀めっき材の表層の結晶の配向を、X線回折により得られたX線回折パターンから、銀の111回折ピーク、200回折ピーク、220回折ピークおよび311回折ピークの各々のピーク強度(X線回折ピークの強度)をJCPDSカードNo.40783に記載された各々の相対強度比(粉末測定時の相対強度比)(111:200:220:311=100:40:25:26)で除することにより得られた値で評価した。この値を各々の結晶面の配向に関するX線回折ピークの補正強度とした。
次いで、{111}面、{100}面、{110}面および{311}面の各々の面の配向比率を、銀めっき材の表層の銀の111回折ピーク、200回折ピーク、220回折ピークおよび311回折ピークの(X線回折)ピーク強度の前記補正強度の和を100%としたときの、111回折ピーク、200回折ピーク、220回折ピークおよび311回折ピークの各々の(X線回折)ピーク強度(補正強度)の割合の百分率(%)を算出して求めた。
次いで、表層(銀めっき皮膜)の{111}面、{100}面、{110}面および{311}面の各々の結晶面の結晶子径を、XRD回折装置によって得られたX線回折パターン(XRDパターン)のピーク(銀の111回折ピークのピークと200回折ピークのピークと220回折ピークのピークと311回折ピークのピーク)の各々のピークの半価幅から、シェラー(Scherrer)の式を用いてそれぞれ算出した後、以下の式で平均結晶子径を求めた。

平均結晶子径=[各結晶面の結晶子径×各結晶面の配向比率(%)の合計]/100(%)…(式)
4.銀めっき材のビッカース硬さ
銀めっき材のビッカース硬さ(HV)は、良好な耐摩耗性を得るため、100以上であることが好ましい。尤も、銀めっき材が硬すぎると曲げ加工性が低下する恐れがあるので、ビッカース硬さ(HV)を150以下としてもよい。
5.銀めっき材の製造方法
本発明の銀めっき材の製造方法は、濃度100g/L以上160g/L以下のシアン化銀カリウムと、濃度50g/L以上130g/L以下のシアン化カリウムと、濃度20mg/L以上50mg/L以下のセレンとを含む、水溶液からなる銀めっき液中において、電流密度を1A/dm以上~10A/dm以下とし、シアン化銀カリウムの濃度(g/L)を電流密度(A/dm)で除した値を、25(g・dm)/(L・A)以上80(g・dm)/(L・A)以下として素材上に銀からなる表層を形成することを特徴とする。
セレンの量が多すぎると{110}面優先配向が得られず、少なすぎても{110}面優先配向が得られない場合がある。濃度25mg/L以上45mg/L以下のセレンを含むことが好ましい。また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値が25(g・dm2)/(L・A)以上80(g・dm2)/(L・A)以下の範囲外の場合、{110}面の配向比率が30%以上75%以下の範囲からはずれることが判明した。この値が小さいと電流密度に対する銀めっき液中の銀濃度が低くなって、銀めっきの析出に影響があり、{110}面の銀めっきの形成が行われにくいためと考えられる。
上述したように、前記素材は、銅または銅合金であることが好ましい。そして、前記銀めっきを形成する前に、前記素材上へニッケルめっきからなる下地層を形成することが好ましい。
前記銀めっき液が、セレンの供給源としてセレノシアン酸カリウムを含んでもよく、銀めっき液中に濃度37mg/L以上93mg/L以下、さらには46mg/L以上83mg/L以下のセレノシアン酸カリウムを含有するのが好ましい。めっき液の液温は15℃以上40℃以下とすることが好ましい。
6.本発明に係る銀めっき材を用いた接点または端子部品
本発明に係る接点または端子部品は、本発明に係る銀めっき材を材料として用いたことを特徴とする。本発明に係る銀めっき材を材料とすることで、曲げ加工および耐摩耗性に優れた接点または端子部品を提供することができる。
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は当該実施例に限定される訳ではない。
[実施例1]
(前処理)
素材として67mm×50mm×0.3mmの無酸素銅(C1020 1/2H)からなる圧延板を被めっき材として用意し、この被めっき材の前処理として、被めっき材とSUS板をアルカリ脱脂液に浸漬し、被めっき材を陰極とし、SUS板を陽極として電圧5Vで30秒間電解脱脂を行い、水洗した後、3%硫酸中で15秒間酸洗を行い、水洗した。
(下地ニッケルめっき)
次に、濃度540g/Lのスルファミン酸ニッケル四水和物と、濃度25g/Lの塩化ニッケルと、濃度35g/Lのホウ酸を含む水溶液からなる無光沢ニッケルめっき液中において、前処理を行った被めっき材を陰極とし、ニッケル電極板を陽極として、スターラにより500rpmで攪拌しながら液温55℃において電流密度5A/dmで40秒間電気めっきを行って、厚さ0.5μmの無光沢の下地ニッケルめっき皮膜を形成した。
(銀ストライクめっき)
次いで、濃度3g/Lのシアン化銀カリウム(KAg(CN))と、濃度90g/Lのシアン化カリウム(KCN)を含む水溶液からなる銀ストライクめっき液中において、下地ニッケル皮膜を施した被めっき材を陰極とし、白金を被覆したチタン電極板を陽極として、スターラにより500rpmで攪拌しながら、液温25℃において電流密度1.4A/dmで10秒間電気めっきを行って、銀ストライクめっき皮膜を形成後、水洗して銀ストライクめっき液を十分に洗い流した。
(銀めっき)
次いで、濃度115g/Lのシアン化銀カリウム(KAg(CN))と、濃度60g/Lのシアン化カリウム(KCN)と、濃度74mg/Lのセレノシアン酸カリウム(KSeCN)を含む水溶液からなる銀めっき液中において、銀ストライクめっき皮膜を形成した被めっき材を陰極とし、銀電極板を陽極として、スターラにより500rpmで攪拌しながら液温25℃において電流密度2A/dmで330秒間電気めっきを行って、厚さ5μmの銀めっき皮膜を形成した後、水洗、乾燥し、銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は40mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は57.5(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
(優先配向面)
銀めっき材の表層の結晶の配向を調べるために、X線回折分析装置(株式会社リガク社製 全自動多目的水平型X線回折装置Smart Lab)により、Cu管球、Kβフィルタ法を用いて、走査範囲2θを5°~120°、走査速度を50deg/minとして得られたX線回折パターンから、銀(めっき皮膜)の38°付近に現れる111回折ピーク、44°付近に現れる200回折ピーク、64°付近に現れる220回折ピークおよび77°付近に現れる311回折ピークの各々のピーク強度(X線回折ピークの強度)をJCPDSカードNo.40783に記載された各々の相対強度比(粉末測定時の相対強度比)(111:200:220:311=100:40:25:26)で除することにより補正して得られた値(補正強度)が最も強いX線回折ピークの結晶面を銀めっき皮膜の優先配向面とした。
その結果、銀めっき皮膜の最も強いX線回折ピークが220回折ピークの補正強度であり、すなわち{110}面が銀めっき材の表面(板面)に優先して配向していた。よって、表層(銀めっき皮膜)の結晶面は{110}面優先配向であった。(なお、結晶面は最小の整数比で記すことになっているので{220}面ではなく{110}面と標記した。)
また、銀めっき材の表層の{110}面の配向比率は、前記111回折ピーク、200回折ピーク、220回折ピークおよび311回折ピークのX線回折ピーク強度の前記補正強度の和を100%としたときに、220回折ピークの(X線回折)ピーク強度(補正強度)の割合(百分率)を算出したものである。このようにして求めた表層の{110}面の配向比率は57.0%であった。
また、上記銀めっき材の表層の{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}は、銀の220回折ピークおよび311回折ピークの(X線回折)ピーク強度の前記補正強度において、220回折ピークのピーク強度と311回折ピークのピーク強度の比(220回折ピークのピーク補正強度/311回折ピークのピーク補正強度)を算出することにより求めた。その結果、銀めっき材の表層の{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}の値は、2.5であった。
(平均結晶子径)
平均結晶子径は次の手順で求めた。
まず、銀めっき材の表層の結晶の配向を、XRD分析装置(株式会社リガク製の全自動多目的水平型X線回折装置Smart Lab)によって得られたX線回折パターン(XRDパターン)の銀の結晶面のX線回折ピーク(38°付近に現れる111回折ピークと、44°付近に現れる200回折ピークと、64°付近に現れる220回折ピークと、77°付近に現れる311回折ピーク)における各々の回折ピークのピーク強度(X線回折ピークの強度)を、JCPDSカードNo.40783に記載された各々の相対強度比(粉末測定時の相対強度比)(111:200:220:311=100:40:25:26)から得られた100、40、25、26で除することにより、得られた値で評価した。この値を、各々の結晶面の配向に関するX線回折ピークの補正強度とした。
次いで{111}面、{100}面、{110}面および{311}面の各々の面の配向比率を、銀めっき材の表層の銀の前記111回折ピーク、200回折ピーク、220回折ピークおよび311回折ピークの(X線回折)ピーク強度の前記補正強度の和を100%としたときの、111回折ピーク、200回折ピーク、220回折ピークおよび311回折ピークの各々の(X線回折)ピーク強度(補正強度)の割合(百分率;%)を算出して求めた。
次いで、表層(銀めっき皮膜)の{111}面、{100}面、{110}面および{311}面の各々の結晶面の結晶子径を、XRD分析装置(株式会社リガク製の全自動多目的水平型X線回折装置Smart Lab)によって得られたX線回折パターン(XRDパターン)の銀の結晶面のX線回折ピーク(38°付近に現れる111回折ピークと、44°付近に現れる200回折ピークと、64°付近に現れる220回折ピークと、77°付近に現れる311回折ピーク)における各々のピークの半価幅から、シェラー(Scherrer)の式を用いてそれぞれ算出した後、以下の式で平均結晶子径を求めた。

平均結晶子径=[({111}結晶面の結晶子径×{111}結晶面の配向比率(%))
+({100}結晶面の結晶子径×{100}結晶面の配向比率(%))
+({110}結晶面の結晶子径×{110}結晶面の配向比率(%))
+({311}結晶面の結晶子径×{311}結晶面の配向比率(%))]
/100(%)…(式)

その結果、銀めっき皮膜の平均結晶子径は56.68nm(566.8オングストローム)であった。
(耐摩耗性)
また、上記の銀めっき材を2枚用意し、一方をインデント加工(内側R=1.5mm)して圧子として使用し、他方を平板状の評価試料として使用し、精密摺動試験装置(株式会社山崎精機研究所のCRS-G2050-DWS)により、評価試料に圧子を一定の荷重(5N)で押し当てながら、素材が露出するまで往復摺動動作(摺動距離5mm、摺動速度1.67mm/s)を継続し、10回の往復摺動動作毎にマイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVHX-1000)により銀めっき材の摺動痕の中心部を倍率100倍で観察して、銀めっき材の磨耗状態を確認する摩耗試験を行うことにより、耐摩耗性の評価を行った。
その結果、40回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され、耐摩耗性に優れていることがわかった。
(曲げ加工試験)
上記の銀めっき材を1枚用意し、曲げ加工試験治具(仲精機株式会社製のSCHMIDT Presse)を使用して、内側R=1mmで曲げ加工を行い、上記マイクロスコープを使用し、曲げ加工部(山折り部)の表面を500倍で観察して、素材の露出が視認できるかで評価を行った。その結果、R=1mmとしても素材の露出は確認できず、曲げ加工性に優れることがわかった。
(ビッカース硬さ)
銀めっき材の表面のビッカース硬さHVを、微小硬さ試験機(株式会社ミツトヨ製のHM-221)を使用して、測定荷重10gfを10秒間加えて、JIS Z2244に準じて測定した。するとビッカース硬さHVは124.3であった。
(反射濃度)
銀めっき材の光沢度として、濃度計(日本電色株式会社製のデントシメーターND-1)を用いて、素材の圧延方向に対して平行に銀めっき材の反射濃度を測定した。すると、反射濃度の値は0.03であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
なお、曲げ加工性に関し、上述の曲げ加工部の表面観察において素材の露出が確認できない場合(曲げ加工性に優れる)は〇、素材の露出が確認された場合(曲げ加工性に劣る)は×として、表2中に示した。
[実施例2]
濃度120g/Lのシアン化カリウム(KCN)を含む水溶液からなる銀めっき液中において銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例1と同様の方法により銀めっき材を作製した。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は41.1%、配向比{110}/{311}は1.7、平均結晶子径は60.85nm(608.5オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れており、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは110.8、反射濃度は0.02であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[実施例3]
濃度148g/Lのシアン化銀カリウム(KAg(CN))を含む水溶液からなる銀めっき液中において銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例1と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は74.0(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は36.2%、配向比{110}/{311}は1.4、平均結晶子径は65.70nm(657.0オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れており、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは130.1、反射濃度は0.04であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[実施例4]
濃度148g/Lのシアン化銀カリウム(KAg(CN))と120g/Lのシアン化カリウム(KCN)を含む水溶液からなる銀めっき液中において銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例1と同様の方法により銀めっき材を作製した。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は41.1%、配向比{110}/{311}は1.8、平均結晶子径は62.10nm(621.0オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れており、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは116.2、反射濃度は0.02であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[実施例5]
電流密度を5A/dmとし、130秒間電気めっきを行って銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例3と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)は40mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は29.6(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は47.3%、配向比{110}/{311}は2.2、平均結晶子径は50.74nm(507.4オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れており、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは108.5、反射濃度は0.06であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[実施例6]
液温を30℃として電気めっきを行って銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例1と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)は40mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は57.5(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は67.4%、配向比{110}/{311}は3.7、平均結晶子径は64.28nm(642.8オングストローム)であった。また、50回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れており、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは117.6、反射濃度は0.01であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[実施例7]
液温を30℃として電気めっきを行って銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例2と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)は40mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は57.5(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は38.1%、配向比{110}/{311}は1.6、平均結晶子径は68.64nm(686.4オングストローム)であった。また、50回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れており、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは118.2、反射濃度は0.03であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[実施例8]
濃度148g/Lのシアン化銀カリウムを含む水溶液からなる銀めっき液中において銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例7と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)は40mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は74.0(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は46.7%、配向比{110}/{311}は2.2、平均結晶子径は68.96nm(689.6オングストローム)であった。また、60回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れており、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは127.7、反射濃度は0.02であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[実施例9]
液温を30℃として電気めっきを行って銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例5と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は40mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は29.6(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は46.7%、配向比{110}/{311}は2.0、平均結晶子径は55.62nm(556.2オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れており、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは108.6、反射濃度は0.04であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[実施例10]
120g/Lのシアン化カリウムを含む水溶液からなる銀めっき液中において銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例9と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は40mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は29.6(g・dm2)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は71.3%、配向比{110}/{311}は4.1、平均結晶子径は46.50nm(465.0オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れており、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは118.3、反射濃度は0.21であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[実施例11]
濃度56mg/Lのセレノシアン酸カリウム(KSeCN)を含む水溶液からなる銀めっき液中において銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例2と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は30mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は57.5(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は48.5%、配向比{110}/{311}は2.2、平均結晶子径は59.42nm(594.2オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れており、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは114.1、反射濃度は0.05であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[実施例12]
濃度56mg/Lのセレノシアン酸カリウム(KSeCN)を含む水溶液からなる銀めっき液中において銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例6と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は30mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は57.5(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は54.7%、配向比{110}/{311}は4.0、平均結晶子径は59.61nm(596.1オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れており、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは107.7、反射濃度は0.05であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[比較例1]
濃度111g/Lのシアン化銀カリウムと、濃度24mg/Lのセレノシアン酸カリウムとを含む水溶液からなる銀めっき液中において銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例2と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は13mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は55.5(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は80.3%、配向比{110}/{311}は6.3、平均結晶子径は51.00nm(510.0オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出している(30回の摺動動作後では素材が露出していない)ことが確認され耐摩耗性に劣り、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは104.3、反射濃度は0.07であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[比較例2]
電流密度を5A/dmとし、130秒間電気めっきを行って銀めっき皮膜を形成した以外は、比較例1と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は13mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は22.2(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{111}優先配向であり、{110}面の配向比率は6.9%、配向比{110}/{311}は0.3、平均結晶子径は31.48nm(314.8オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出している(30回の摺動動作後では素材が露出していない)ことが確認され耐摩耗性に劣り、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは118.3、反射濃度は1.51であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[比較例3]
電流密度を5A/dmとし、130秒間電気めっきを行って銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例1と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は40mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は23.0(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は78.3%、配向比{110}/{311}は11.5、平均結晶子径は42.82nm(428.2オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出している(30回の摺動動作後では素材が露出していない)ことが確認され耐摩耗性に劣り、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは125.4、反射濃度は0.15であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[比較例4]
濃度120g/Lのシアン化カリウムを含有する水溶液からなる銀めっき液中において銀めっき皮膜を形成した以外は、比較例3と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は40mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は23.0(g・dm2)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{111}優先配向であり、{110}面の配向比率は9.8%、配向比{110}/{311}は0.5、平均結晶子径は32.03nm(320.3オングストローム)であった。また、70回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れていたが、曲げ加工試験において素材の露出が確認され曲げ加工性に劣ることがわかった。また、ビッカース硬さHVは129.0、反射濃度は1.56であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[比較例5]
電流密度を5A/dmとし、130秒間電気めっきを行って銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例6と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は40mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は23.0(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は81.1%、配向比{110}/{311}は7.0、平均結晶子径は50.21nm(502.1オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出している(30回の摺動動作後では素材が露出していない)ことが確認され耐摩耗性に劣り、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは109.7、反射濃度は0.04であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[比較例6]
濃度120g/Lのシアン化カリウムを含む水溶液からなる銀めっき液中において銀めっき皮膜を形成した以外は、比較例5と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は40mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は23.0(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は76.2%、配向比{110}/{311}は4.6、平均結晶子径は43.66nm(436.6オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出している(30回の摺動動作後では素材が露出していない)ことが確認され耐摩耗性に劣り、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは110.3、反射濃度は0.16であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材評価結果を表2に示す。
[比較例7]
濃度148g/Lのシアン化銀カリウムと、濃度140g/Lのシアン化カリウムと、濃度15mg/Lのセレノシアン酸カリウムを含む水溶液からなる銀めっき液中において、液温16℃、電流密度8A/dmとし、80秒間電気めっきを行って銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例1と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)は8mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は18.5(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{100}優先配向であり、{110}面の配向比率は0.0%、配向比{110}/{311}は0.0、平均結晶子径は84.69nm(846.9オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出している(30回の摺動動作後では素材が露出していない)ことが確認され耐摩耗性に劣り、曲げ加工試験において素材の露出は確認できず曲げ加工性に優れることがわかった。また、ビッカース硬さHVは89.7、反射濃度は1.34であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[比較例8]
濃度175g/Lのシアン化銀カリウムと、濃度95g/Lのシアン化カリウムと、濃度130mg/Lのセレノシアン酸カリウムとを含む水溶液からなる銀めっき液中において、液温を18℃、電流密度を5A/dmとし、130秒間電気めっきを行って銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例1と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は70mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は35.0(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{111}優先配向であり、{110}面の配向比率は7.9%、配向比{110}/{311}は0.3、平均結晶子径は28.14nm(281.4オングストローム)であった。また、50回の摺動動作後に素材が露出していないことが確認され耐摩耗性に優れているが、曲げ加工試験において素材の露出が確認され曲げ加工性に劣ることがわかった。また、ビッカース硬さHVは125.9、反射濃度は1.56であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[比較例9]
濃度120g/Lのシアン化カリウムを含む水溶液からなる銀めっき液中において、電流密度を5A/dmとし、130秒間電気めっきを行って銀めっき皮膜を形成した以外は、実施例12と同様の方法により銀めっき材を作製した。
なお、銀めっき液中のセレン(Se)濃度は30mg/Lであり、また、シアン化銀カリウムの濃度を電流密度で除した値(シアン化銀カリウムの濃度/電流密度)は23.0(g・dm)/(L・A)であった。
以上説明した、銀めっき材の製造条件を表1に示す。
このようにして得られた銀めっき材を、実施例1と同様の方法で表層の優先配向面および{110}面の配向比率、{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}、平均結晶子径、耐摩耗性、曲げ加工性、ビッカース硬さ、反射濃度の測定・評価を行った。
その結果、銀めっき皮膜は{110}優先配向であり、{110}面の配向比率は80.5%、配向比{110}/{311}は6.7、平均結晶子径は31.09nm(310.9オングストローム)であった。また、40回の摺動動作後に素材が露出している(30回の摺動動作後では素材が露出していない)ことが確認され耐摩耗性に劣り、曲げ加工試験において素材の露出は確認され曲げ加工性にも劣ることがわかった。また、ビッカース硬さHVは117.5、反射濃度は0.27であった。
以上説明した、銀めっき被膜の特性、および、銀めっき材の評価結果を表2に示す。
[まとめ]
本発明の実施例に係る銀めっき材は、前記曲げ加工試験において、内側R=1mmの条件で曲げ部に素材(の露出)が確認できず、前記摩耗試験において40回の摺動動作後に素材が露出しておらず、各特性が良好であった。これに対し、比較例に係る銀めっき材は、いずれかの試験で素材の露出が確認されており、銀めっき材として接点または端子部材として用いたときに不具合が発生する恐れがある。
また、銀めっき材の銀めっき皮膜を硝酸に溶かして溶液とした後、当該溶液の濃度を調整し、ICP発光分光分析(ICP-OES)装置(セイコーインスツル株式会社製のSPS5100)を使用してプラズマ分光分析により銀純度を求めたところ、全ての実施例および比較例において99.9質量%以上であった。
Figure 0007455634000001
Figure 0007455634000002

Claims (10)

  1. 素材上に銀めっき層からなる表層が形成された銀めっき材において、
    前記表層の結晶面が{110}面優先配向であって、
    111回折ピーク、200回折ピーク、220回折ピークおよび311回折ピークのX線回折ピーク強度の補正強度の和を100%としたときに、220回折ピークのX線回折ピーク強度(補正強度)の割合を算出したものである{110}面の配向比率が、30%以上75%以下であり、
    前記表層の平均結晶子径が45nm以上であることを特徴とする、銀めっき材。
  2. 前記素材が銅または銅合金であることを特徴とする、請求項1に記載の銀めっき材。
  3. 前記素材と前記表層との間にニッケルからなる下地層が形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の銀めっき材。
  4. 前記銀めっき材のビッカース硬さHVが100以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の銀めっき材。
  5. 素材上に銀めっき層からなる表層が形成された銀めっき材において、
    前記表層の結晶面が{110}面優先配向であって、
    111回折ピーク、200回折ピーク、220回折ピークおよび311回折ピークのX線回折ピーク強度の補正強度の和を100%としたときに、220回折ピークのX線回折ピーク強度(補正強度)の割合を算出したものである{110}面の配向比率が、30%以上75%以下であり、
    表層の{110}面と{311}面の配向比{110}/{311}の値が1.3以上4.5以下であることを特徴とする、銀めっき材。
  6. 濃度100g/L以上160g/L以下のシアン化銀カリウムと、濃度50g/L以上130g/L以下のシアン化カリウムと、濃度20mg/L以上50mg/L以下のセレンとを、含む水溶液からなる銀めっき液中において、
    電流密度を1A/dm以上10A/dm以下、液温を25℃以上40℃以下とし、
    シアン化銀カリウムの濃度(g/L)を電流密度(A/dm)で除した値を、25(g・dm)/(L・A)以上80(g・dm)/(L・A)以下として電気めっきを行うことにより、素材上に銀からなる表層を形成することを特徴とする、銀めっき材の製造方法。
  7. 前記素材が銅または銅合金であることを特徴とする、請求項6に記載の銀めっき材の製造方法。
  8. 前記銀めっきを形成する前に、前記素材上にニッケルめっきからなる下地層を形成することを特徴とする、請求項6または7に記載の銀めっき材の製造方法。
  9. 前記銀めっき液が、セレノシアン酸カリウムを含むことを特徴とする、請求項6~8のいずれかに記載の銀めっき材の製造方法。
  10. 請求項1~5のいずれかに記載の銀めっき材を材料として用いたことを特徴とする、端子部品。
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