JP7453368B2 - 油性固形食品 - Google Patents

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Description

本発明は、油性固形食品に関する。
具体的には、本発明は、たんぱく質が高配合であっても風味や食感に優れ、喫食しやすい油性固形食品に関する。
特許文献1~5にはたんぱく質を配合した食品が開示されている。
具体的には、特許文献1には、粒状及び/又はフレーク状の具材と、前記具材の表面に付着したたんぱく粉と、前記たんぱく粉が付着した前記具材の該各具材どうしを該たんぱく粉とともに結着させる糖液とを含み、非焼成で所定形状に成形されていることを特徴とする具材入り成形食品が開示されている。
特許文献2には、植物性たんぱくを主成分とする菓子であって、脱脂大豆を原材料として得られる、粒状大豆たんぱくを含む菓子が開示されている。
特許文献3には、ココアバターを含む脂肪相を準備すること、水、砂糖若しくは甘味料又は両方、及びココアたんぱく質を含有する1つ又は複数のココア製品、デンプン、又はセル壁材料を含む水相を準備すること、両相を混合すること、混合された両相を加熱してココアたんぱく質及び/又はココアデンプン成分からなるゲルネットワークを形成させること、を含み、加熱後に懸濁物の粘度が上昇する、ココア系水中油型懸濁物を製造する方法が開示されている。
特許文献4には、水分源、部分加水分解乳たんぱく質、部分加水分解マメたんぱく質、未処理乳たんぱく質、及び未処理マメたんぱく質を含む食品が開示されている。
特許文献5には、粒径が30μm~lmmの油脂以外の可食物を含み、かつたんぱく質含有率が15%以上である蛋白含有油性食品が開示されている。
特開2018-82670号公報 特開2012-249603号公報 特表2008-522622号公報 特開2007-267737号公報 国際公開第2007/116819号
従来のたんぱく質高含有商品、例えばプロテインバーのようなRTE(Ready to Eat)食品等は、風味の悪さ、口腔内での付着感、粉っぽさ、嚥下の困難さといった点に課題があり、喫食しにくいものであった。
特許文献1~5をはじめとする従来技術には、そのような課題を解決する観点で、さらなる改善の余地が見出された。
本発明の目的の1つは、たんぱく質が高配合であっても風味や食感に優れ、喫食しやすい油性固形食品を提供することである。
本発明によれば、以下の油性固形食品を提供できる。
1.油脂の連続相にたんぱく質粒子が平均粒子面積250μm以下で分散している、油性固形食品。
2.油脂含有量が15~80質量%である、1に記載の油性固形食品。
3.たんぱく質含有量が16.2~50質量%である、1又は2に記載の油性固形食品。
4.さらに水系原料を含有する、1~3のいずれかに記載の油性固形食品。
5.前記水系原料の含有量が1~15質量%である、4に記載の油性固形食品。
6.水分含有量が0.5~15質量%である、1~5のいずれかに記載の油性固形食品。
7.23℃において製造後30日経過時においても、油脂の連続相にたんぱく質粒子が平均粒子面積250μm以下で分散している、1~6のいずれかに記載の油性固形食品。
8.チョコレートである、1~7のいずれかに記載の油性固形食品。
本発明によれば、たんぱく質が高配合であっても風味や食感に優れ、喫食しやすい油性固形食品を提供することができる。
実施例1における油脂の連続相の観察結果を示す図である。 実施例1におけるたんぱく質分散状態の測定結果を示す図である。 比較例1におけるたんぱく質分散状態の測定結果を示す図である。
以下、本発明の油性固形食品について詳述する。
尚、本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。数値範囲に関して記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
また、以下に記載される本発明の個々の形態を2つ以上組み合わせた形態もまた、本発明の形態である。
1.油性固形食品
本発明の一態様に係る油性固形食品は、油脂の連続相にたんぱく質粒子が平均粒子面積250μm以下で分散している。
本態様に係る油性固形食品によれば、たんぱく質が高配合であっても風味や食感に優れ、喫食しやすいという効果が得られる。
本態様に係る油性固形食品は持ち運びが簡便な固体食品でありながら、栄養価を高めることができ、唾液量が少ない又は咀嚼力が弱い喫食者においても容易に喫食することができる。
従来のたんぱく質高含有食品は、水に溶かして飲みやすくした水系製品や、口中で付着する食感のプロテインバー、油で固めた硬いものなど、いずれも食べにくいものが一般的であった。
特に固体食品は、喫食中の咀嚼から嚥下までの過程において、たんぱく質原料が多くの唾液を必要とし、且つ吸水したたんぱく質原料が粘性を有するため、喫食しにくいものであった。水分を含むたんぱく質高含有食品は、保存期間中にたんぱく質原料が吸水し凝集することで硬さや粘着性が増加し、咀嚼や嚥下がより困難になる。また、たんぱく質特有の風味の悪さも感じられる。
特に唾液が分泌しにくい高齢者や、咀嚼力の弱い子供にとって、たんぱく質は必須栄養素であるにも関わらず、RTE食品等として摂取しにくいものであった。
本発明者らは、上記のような問題について鋭意検討し、たんぱく質を、油脂を含む食品中に微細に分散させることで、たんぱく質同士が吸水、結合しにくくなり、食べ易さや保存性が向上することを見出した。特に保存性に関しては、たんぱく質が安定に分散されていることにより、長期保存時においてもたんぱく質が吸水せずネットワークを形成しないため、咀嚼や嚥下時の負荷が少ない。
以下に、本発明について、特許文献1~5の技術との対比で説明する。
特許文献1の技術は、たんぱく質を水相のバインダー液中に分散させていることから、本態様の分散状態(油脂の連続相にたんぱく質粒子が微細に分散した状態)とは相違するものと考えられる。
特許文献2の技術は、加熱下で原料を混合しているため、本態様の分散状態(油脂の連続相にたんぱく質粒子が微細に分散した状態)は形成されないものと考えられる。これは、本態様の分散状態を形成するためには冷却下で混合する必要があることからも明らかである。
特許文献3の技術は、たんぱく質がゲルネットワークを形成するものであるため、本態様の分散状態(油脂の連続相にたんぱく質粒子が微細に分散した状態)は形成されないものと考えられる。
特許文献4の技術は、部分加水分解と非加水分解たんぱく質を含有するコア成分と、コンパウンドコーティングを含む、従来のプロテインバーであり、本態様の分散状態(油脂の連続相にたんぱく質粒子が微細に分散した状態)は形成されないものと考えられる。
特許文献5の技術は、原料を冷却混合せず従来製法に従って混合していることから、本態様の分散状態(油脂の連続相にたんぱく質粒子が微細に分散した状態)は形成されないものと考えられる。
本態様に係る油性固形食品の形態(種類)は格別限定されず、例えばチョコレート等であり得る。チョコレートは、例えば一般社団法人全国公正取引協議会連合会が規定する公正競争規約における「チョコレート類」であり得るが、これに限定されず、カカオ由来成分を含むものであればよい。
カカオ由来成分としては、カカオ豆、カカオニブ、カカオマス、ココアバター、ココアパウダー、ココアケーキ等が挙げられる。カカオニブは、カカオ豆を破砕し豆の殻及び胚を除去して得られる胚乳部である。カカオマスは、カカオニブを磨砕して得られる。カカオマスを常法に従って加工することによって、ココアバター、ココアパウダー、ココアケーキが得られる。
油性固形食品が油脂の連続相を含むか否かについては、下記条件A及び条件Bの少なくとも一方を満たす場合に、油系の連続相を含有していると判定し、下記条件A及び条件Bのいずれも満たさない場合に、油系の連続相を含有していないと判定する。
(条件A)
油性固形食品の薄片をカッターにて作成し、油脂を染色可能な染色液(インビトロジェン社製「BODIPY(登録商標)」)で染色し、油脂の存在状態を共焦点レーザー顕微鏡で観察した場合に、油脂の染色部の外縁が合一により不定形な雲状又は網目状に連なっている状態となって観察されること。
例えば、ほとんどの油脂が油滴として分散した状態では、条件Aを満たさないと判定する。
(条件B)
以下に説明する「連続相を形成する油脂の面積比率」が10%以上であること。
油性固形食品の薄片をカッターにて作成し、油脂を染色可能な染色液(インビトロジェン社製「BODIPY(登録商標)」)で染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察し、観察画像(染色画像)を16bitコントラスト比のモノクロ画像に変換する。次いで、前記モノクロ画像を画像解析ソフト「ImageJ」(フリーソフト、以下URLからダウンロードが可能:https://imagej.net/Welcome)を用いて、下記の条件を選択して解析する。
分析方法:粒子解析
サイズ:200pixel^2
上記の解析により得られる「area fraction」、即ち、解析画像全体の面積に対する、200pixel^2(200×200pixel)以上の面積を有する対象(隣り合う油滴同士が合一している油脂)の面積の比率を「連続相を形成する油脂の面積比率」とする。
本態様において、油脂の連続相に分散されたたんぱく質粒子の平均粒子面積は、実施例に記載の方法により測定する。
上記平均粒子面積は、250μm2以下であればよく、例えば、240μm2以下、230μm2以下、220μm2以下、210μm2以下、200μm2以下、190μm2以下又は180μm2以下であり得る。下限は格別限定されず、例えば、10μm2以上、20μm2以上、30μm2以上、40μm2以上又は50μm2以上であり得る。
一実施形態において、油性固形食品は、油脂の連続相にたんぱく質粒子が平均粒子面積250μm2以下で分散した状態を常温(23℃)において製造後30日経過時においても保持する。
一実施形態において、油性固形食品は、水系原料を含む。
油性固形食品が、油脂だけでなく水系原料も含むことで、咀嚼時の口中乳化を促進し、より良好な口どけと食べやすさを付与できる。
水系原料については後に詳述する。
油性固形食品における油脂含有量は格別限定されず、例えば、15質量%以上、16質量%以上、18質量%以上又は20質量%以上であり得、また、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下又は40質量%以下であり得る。
油性固形食品における油脂含有量は、好ましくは15~80質量%、より好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。
油性固形食品におけるたんぱく質含有量は格別限定されず、例えば、16質量%以上、17質量%以上、18質量%以上、20質量%以上、22質量%以上又は25質量%以上であり得、また、50質量%以下又は45質量%以下であり得る。
油性固形食品におけるたんぱく質含有量は、好ましくは16.2~50質量%、より好ましくは25~45質量%である。
油性固形食品が水系原料を含有する場合、その含有量は格別限定されず、例えば、0.1質量%以上、0.5質量%以上又は1質量%以上であり得、また、20質量%以下、18質量%以下又は15質量%以下であり得る。
油性固形食品における水系原料の含有量は、好ましくは、1~15質量%である。
油性固形食品における水分含有量は格別限定されず、例えば、水を実質的に含まない(この場合、不可避不純物として水を含んでもよい。)ものであってもよく、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上又は3質量%以上であり得、また、15質量%以下、10質量%以下又は6質量%以下であり得る。
本態様に係る油性固形食品を製造する方法は格別限定されない。
一実施形態において、油性固形食品は、油系原料とたんぱく質原料とを冷却しながら混合(「冷却混合」ともいう。)することにより得られる。
一実施形態において、油性固形食品は、油系原料とたんぱく質原料と水系原料とを冷却しながら混合することにより得られる。
得られた混合物をそのまま油性固形食品としてもよく、また、必要に応じて成形を施して油性固形食品としてもよい。
油系原料としては、油脂、及び油を連続相とする乳化物等が挙げられる。例えば、ココアバター、カカオマス、ナッツペースト、ココアバター代替脂、植物油脂、ショートニング、各種スプレッド等が挙げられる。油系原料として、これらの1種以上を用いることができる。
たんぱく質原料としては、植物性たんぱく質(大豆、エンドウ、小麦、コメ、とうもろこし等)、動物性たんぱく質(ホエイ、乳、カゼイン、全脂粉乳、脱脂粉乳、ゼラチン、卵、コラーゲン、昆虫等)、又はこれらの分解物、混合物、抽出物、精製物、濃縮物、原料そのものでもよい。たんぱく質原料は粉体として配合することが好ましく、また、パフ化させる等の加工を施したものでもよい。たんぱく質原料として、これらの1種以上を用いることができる。たんぱく質原料の粒度や粘度は特に限定されない。
水系原料としては、水、水溶液、水分散液、抽出液(抽出用溶媒は水、アルコール等の親水性溶媒であれば限定されない)及び水を含有する液体等が挙げられる。例えば、生クリーム、牛乳、濃縮乳、果汁、糖液、アルコール、香料、果実片、果実ピューレ等が挙げられる。あるいは、これらの水系原料に溶解あるいは分散する性質を有する固体原料を加えたペーストであってもよい。固体原料としては、例えば、糖類(ショ糖、果糖、乳糖、糖アルコール類、オリゴ糖、等)、食物繊維、乳原料(全脂粉乳、脱脂粉乳、乳たんぱく質等)、植物粉末(果汁粉末、野菜粉末、植物抽出粉末等)、ココアパウダー、増粘剤(増粘多糖類、ゼラチン、グミ等)等が挙げられる。水系原料として、これらの1種以上を用いることができる。
本態様の油性固形食品には、上記原料に加え、食感や風味の改善のためにドライフルーツや種実類などのような他の原料を適宜添加できる。
原料のうち2種以上を冷却混合の前に予め混合してもよい。
また、パフ化されたたんぱく質原料、ドライフルーツ、種実類等の粒状食品素材を添加する場合は、その一部又は全部を冷却混合後の生地に添加することもできる。
原料を混合する順序は格別限定されず、すべての原料を同時に混合してもよいし、任意の順序で混合してもよい。
水系原料を用いる場合は、例えば、油系原料とたんぱく質原料とを混合した後、得られた混合物に水系原料を混合することができる。これにより、たんぱく質原料に含まれるたんぱく質が、水系原料に由来する水を吸水する前に、油系原料中に好適に分散される。
冷却混合の条件は格別限定されず、油脂の連続相にたんぱく質粒子が平均粒子面積250μm以下で分散するように実施することができる。
具体的には、一実施形態において、冷却混合の際に、原料を主成分である油脂の融点以下(好ましくは融点未満)の温度に冷却する。例えばココアバターを主成分とする場合、好ましくは30℃以下、より好ましくは28℃以下で冷却しながら混合する。このような温度の範囲内とすることにより、油脂中に微細化されたたんぱく質粒子をより良好に分散させることができる。
冷却混合するための手段は格別限定されない。例えば、冷却手段を備えた混合手段を好ましく用いることができる。冷却手段としては例えばジャケット等が挙げられる。混合手段としては例えばエクストルーダーやミキサー(例えばカッターミキサー等)等が挙げられる。エクストルーダーを用いる場合は、冷却混合から押出成形までを連続的に行うことができる。ミキサーを用いる場合は、冷却混合後の生地を、別の工程で成形することができる。
本明細書に記載の物性や測定値等は、特に断りのない限り、23℃環境下で観察されるものである。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載には限定されない。尚、以下の実施例において、「%」は、特に断りのない限り「質量%」を表す。
[測定方法]
まず、以下の実施例及び比較例において測定される水分含有量、油脂含有量、たんぱく質含有量及びたんぱく質の分散状態(たんぱく質粒子の平均粒子面積)の測定方法について説明する。
(1)水分含有量
日本国消費者庁による食品表示関連通知「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)」の「別添 栄養成分等の分析方法等」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/pdf/food_labeling_cms101_200327_11.pdf)における「5.炭水化物、イ 水分、(3)減圧加熱乾燥法」に準拠して測定した。具体的には下記のとおりである。
底部の直径が50mmである秤量皿(蓋付き)の恒量(W(g))を求める。次いで、秤量皿に2gの試料を採取し、秤量(W(g))する。次いで、秤量皿の蓋をずらした状態で、100℃に調節した真空乾燥器に入れ、真空ポンプで吸引しながら、減圧度を25mmHgに設定する。2時間、減圧乾燥した後に、真空ポンプを止め、除湿空気を真空乾燥器内に静かに導入して常圧に戻し、秤量皿を取り出し、蓋をして恒量(W(g))を求める。試料中の水分含有量は、下記式によって求められる。
試料中の水分含有量(質量%)={(W-W)/(W-W)}×100
(2)油脂含有量
上記「別添 栄養成分等の分析方法等」における「2.脂質、(4)酸分解法」に準拠して測定した。具体的には下記のとおりである。
50mL容のビーカーに、試料の適量(乾物として1~2g以下)を採取し、秤量(W(g))する。次いで、エタノール(95v/v%、特級)2mLを加えて、ガラス棒でよく混和する。次いで、塩酸(濃塩酸(特級)とイオン交換水とを容積比2:1で混ぜたもの)10mLを加えて十分に混和し、時計皿で覆って70~80℃の電気恒温水槽上で30~40分間時々かき混ぜながら加温する。放冷後、内容物を抽出管に移し、ビーカーとガラス棒をエタノール10mLで洗い、さらにエーテル(特級)25mLで洗浄し、洗液は先の抽出管に集める。栓をして軽く振って混和した後、栓をゆっくり回してエーテルのガスを抜く。再び栓をして30秒間激しく振り混ぜる。次いで、石油エーテル25mLを加え、同様にして30秒間激しく振り混ぜる。上層が透明になるまで静置した後、脱脂綿を詰めた漏斗でろ過する。ろ液はあらかじめ100~105℃の電気定温乾燥器で1時間乾燥後、デシケーター中で1時間放冷し、恒量(W(g))を測定したフラスコに集める。管内の水層にエーテルと石油エーテル各20mLずつの混液を加え、上記と同様に操作した後、静置し、エーテル層を同様にろ過してフラスコに集める。さらに、エーテルと石油エーテル各15mLずつの混液を加え、この操作をもう一度繰り返した後、抽出管の先端、栓及び漏斗の先端をエーテル及び石油エーテルの等量混液で十分に洗いこれも集める。混液を捕集したフラスコをロータリーエバポレーターに連結し、70~80℃の溶媒留去用電気恒温水槽中で加温して溶媒を留去し、残りの混液を十分に留去する。フラスコの外側をガーゼでふき、100~105℃の電気定温乾燥器中で1時間乾燥後、デシケーターに移し、1時間放冷して秤量する。乾燥、放冷、秤量の操作を繰り返し、恒量W(g)を求める。試料中の脂質含有量(油脂含有量)は、下記式によって求められる。
試料中の油脂含有量(g/100g)={(W-W)/W}×100
(3)油脂の連続相
試料の薄片(厚さ約100μm)をカッターにて作成する。次いで、この薄片を脂肪球染色液(インビトロジェン社製「BODIPY(登録商標)」)の1,2-プロパンジオール溶液で処理し、油脂の存在状態を共焦点レーザー顕微鏡で観察する。油脂が連続相を形成している(隣り合う油滴同士が合一している)状態であるときは、油脂の染色部の外縁が合一により不定形な雲状又は網目状に連なっている状態となって観察されるため、油脂の連続相を含有していると判定する。油脂が油滴として分散した状態であり、連続相が形成されていないときは、油脂の連続相を含有していないと判定する。
(4)たんぱく質含有量
上記「別添 栄養成分等の分析方法等」における「1.たんぱく質、(1)窒素定量換算法、2)燃焼法」に準拠して測定した。具体的には下記のとおりである。
試料を0.1mg以下の単位まで正確に量りとり、燃焼法全窒素測定装置を用いて試料を燃焼し、予め0.1mg以下の単位まで正確に量りとった検量線作成用標準品を測定して得られた検量線から試料中の窒素含有量(g/100g)を算出する。試料中のたんぱく質含有量は下記式により算出する。尚、窒素・たんぱく質換算係数は6.25とする。
試料中のたんぱく質含有量(g/100g)=試料中の窒素含有量(g/100g)×窒素・たんぱく質換算係数
(5)たんぱく質の分散状態(たんぱく質粒子の平均粒子面積)の測定方法
試料の薄片(厚さ約100μm)をカッターにて作成する。次いで、たんぱく質染色(染色液:NileBlueAの1,2-プロパンジオール溶液)を行い、共焦点蛍光顕微鏡にて観察する。次いで、蛍光顕微鏡観察画像を16bitコントラスト比のモノクロ画像に変換する。このとき、モノクロ画像におけるホワイト部分の面積の比率が、上記「(3)たんぱく質含有量」で測定されたたんぱく質含有量の比率に最も近似するように、画像明度が高い部分(たんぱく質染色されている部分)をホワイト部分(たんぱく質部分)として範囲指定(コントラスト調整)する。次いで、上記モノクロ画像を画像解析ソフト「Fiji」(フリーソフト、以下URLからダウンロードが可能:https://imagej.net/Fiji)のImageJ(バージョン:1.52e)により解析し、最低3点以上の画像解析結果から、たんぱく質粒子の平均粒子面積を算出する。
尚、上記の分散状態の観察は、食品の外表面部分や、食品に追加して添加された粒状食品素材(例えば、パフ化されたたんぱく質原料、ドライフルーツ、種実類等)、食品の膨化や成形等により形成された大きな空隙など、分散状態を観察するための切片として適さない連続相ではない部分を観察対象から除いて行う。
(実施例1)
植物油脂(ココアバター)に糖類(砂糖)を混合した油系原料45%と、たんぱく質原料(ホエイたんぱく質濃縮物粉末)42%との混合物を、糖液(果糖ぶどう糖液糖)13%と共に二軸式エクストルーダーに投入して、下記運転条件で、分離を抑えた成形物が得られるように、冷却搬送しながら混練し、押出成形を行い、油性固形食品を得た。得られた油性固形食品の油脂含有量は25%、水分含有量は6%、たんぱく質含有量は33%であった。尚、たんぱく質原料は、水系原料(糖液)と混合する前に、油系原料中に分散させた。
エクストルーダー運転条件
・油系原料とたんぱく質原料との混合物の温度(投入時):50℃
・糖液温度(投入時):25℃
・エクストルーダーの冷却液温度:-5℃
・吐出温度(表面):15℃
得られた油性固形食品をアルミ蒸着フィルムからなる保存袋中で23℃において保管し、1週間経過後に、油脂の連続相の観察と、たんぱく質分散状態の測定(解析)をし、また、チョコレート専門パネル3名で官能評価を行った。
油脂の連続相の観察結果(顕微鏡画像)を図1に示す。図1より、油脂の染色部の外縁が油滴同士の合一により油脂が網目状に連なっていることから、油脂の連続相が存在すると判定した。
また、上記顕微鏡画像を、画像解析ソフト「ImageJ」(バージョン:1.52e)を用いて油脂の連続相の状態を解析した。分析方法は粒子解析を選択し、サイズは200pixel^2を選択した。解析により得られる「area fraction」、即ち、解析画像全体の面積に占める200pixel^2以上の面積を有する対象(隣り合う油滴同士が合一している油脂)の比率(連続相を形成する油脂の面積比率)は、42.9%であった。比率が10%以上であることから、油脂の連続相が存在することが確認された。
たんぱく質分散状態の測定結果を表1及び図2に示す。図2(a)は、たんぱく質分散状態の測定における蛍光顕微鏡観察画像を示している。図2(b)は、蛍光顕微鏡観察画像においてモノクロ画像のホワイト部分(たんぱく質部分に対応)として範囲指定した部分(白で示される)を示している。図2(c)は、たんぱく質粒子の粒子面積の分布を示している。
(比較例1)
実施例1において、エクストルーダーによる処理に代えて、原料を常温(23℃)において手で混合したこと以外は同様にして、油性固形食品を得た。
得られた油性固形食品をアルミ蒸着フィルムからなる保存袋中で23℃において保管し、1週間経過後に、たんぱく質分散状態を測定(解析)し、また、チョコレート専門パネル3名で官能評価を行った。
たんぱく質分散状態の測定結果を表1及び図3に示す。図3(a)は、たんぱく質分散状態の測定における蛍光顕微鏡観察画像を示している。図3(b)は、蛍光顕微鏡観察画像においてモノクロ画像のホワイト部分(たんぱく質部分に対応)として範囲指定した部分(白で示される)を示している。図3(c)は、たんぱく質粒子の粒子面積の分布を示している。
Figure 0007453368000001
※表1において、「たんぱく質粒子の個数」は、観察面積(蛍光顕微鏡観察画像の面積)である96100μmにおいて計測される個数である。
<評価>
表1、図2及び図3より、実施例1及び比較例1の油性固形食品についてたんぱく質粒子の粒子面積を比較したところ、同配合であるにも関わらず、実施例1ではたんぱく質粒子が互いに結合せず微細に分散していることがわかる。比較例1では、たんぱく質が吸水、ネットワーク化して、粒子面積が大きくなっていることがわかる。
また、たんぱく質粒子の粒子面積の分布をみても、実施例1では小さいサイズの粒子の割合が多く、微細に分散している状態を維持していることがわかる。比較例1では水分移行によりたんぱく質が吸水し、より大きいサイズの粒子が存在することがわかる。
さらに、官能評価の結果、実施例1の油性固形食品は食べやすい良好な食感を有しており、ねちゃつき(粘り気)やもそつき(粉っぽさ)が無く、たんぱく臭はほぼ感じなかった。比較例1の油性固形食品は、もそつき(粉っぽさ)があり咀嚼しづらく、不快なたんぱく臭が強くなっていた。このような風味や食感の変化は、たんぱく質の分散状態の相違に起因するものと考えられる。
(実施例2)
表2に示す配合1~4の各配合で油性固形食品を作製した。
具体的には、油系原料にたんぱく質原料を混合した後、水系原料及び夾雑物と共に二軸式エクストルーダーに投入して、下記運転条件で、分離を抑えた成形物が得られるように、冷却搬送しながら混練し、押出成形を行い、油性固形食品を得た。
エクストルーダー運転条件
・油系原料(油脂)とたんぱく質原料との混合物の温度(投入時):50℃
・糖液温度(投入時):25℃
・エクストルーダーの冷却液温度:-5℃
・吐出温度(表面):15℃
Figure 0007453368000002
※表2中、数値の単位は質量%である。
尚、本実施例では、夾雑物(例えば、パフ化されたたんぱく質原料、ドライフルーツ、種実類等のような粒状食品素材等)をエクストルーダーに投入して冷却混練された生地に混合しているが、これに限定されず、夾雑物の一部又は全部を、エクストルーダー等により冷却混練される前の原料として、又は冷却混練中若しくは冷却混練後の生地に、添加することもできる。
対照として、配合1について、エクストルーダーによる処理に代えて、原料を常温(23℃)において手で混合したこと以外は同様にして、油性固形食品を得た。
得られた油性固形食品について、製造直後及び表3に示す保存期間後に、たんぱく質分散状態を測定(解析)し、また、チョコレート専門パネル3名で官能評価を行った。たんぱく質分散状態の測定結果を表3に示す。
Figure 0007453368000003
<評価>
冷却混練を施した油性固形食品は、いずれもたんぱく質粒子が平均粒子面積200μm以下で分散しており、1週間、1か月(=30日)経過後の分散状態の安定性も非常に高いことがわかる。これらの微細な分散が、たんぱく質を高配合している食品であるにも関わらず、良好な口どけ、良好な食感の実現に寄与していると考えられる。
一方で、常温(23℃)において手で混合された油性固形食品(対照)は、製造直後において既にたんぱく質がより大きな凝集物として存在し、時間経過とともに吸水して平均粒子面積がさらに大きくなることがわかる。これにより、たんぱく質特有の臭いや、ねちゃつき(粘り気)、もそつき(粉っぽさ)といった好ましくない食感を引き起こしていることがわかる。
(実施例3)
油脂(ミルクチョコレート生地)56%に、たんぱく質原料(ホエイたんぱく質濃縮物粉末)15%を混合し、後、糖液(果糖ぶどう糖液糖11%にトレハロース3%を溶解したもの)14%と共に二軸式エクストルーダーに投入して、下記運転条件で、分離を抑えた成形物が得られるように、冷却搬送しながら混練した。さらに、エクストルーダーにおける下流側で夾雑物(大豆パフ)15%を加え、押出成形を行い、油性固形食品を得た。
エクストルーダー運転条件
・油系原料(油脂)とたんぱく質原料との混合物の温度(投入時):50℃
・糖液温度(投入時):25℃
・エクストルーダーの冷却液温度:-5℃
・吐出温度(表面):15℃
得られた油性固形食品の水分含有量は6%、油脂含有量は25%、たんぱく質含有量は32%であった。また、たんぱく質粒子の平均粒子面積は250μm以下であった。
得られた油性固形食品、実施例2の配合3、4で得られた油性固形食品(冷却混練を施したもの)、及びこれらに類似する配合を有する市販品A~C(対照;いずれも油系原料、水系原料及びたんぱく質原料を混合し、成形したもの)について、同じサンプルに対して同評点を付けることが可能な程度に訓練されたチョコレート専門パネル3名により食べやすさを官能評価した。具体的には、「たんぱく臭の少なさ」、「咀嚼しやすさ」、「飲み込みやすさ」、「総合的な食べやすさ」の4項目について5段階評価(高水準ほど数値が大きい)し、平均値を求めた。結果を表4に示す。
Figure 0007453368000004
<評価>
本発明品は、何れの配合においても市販品A~Cと比較してより良好な食感を有し、食べやすさ(喫食しやすさ)に優れることがわかる。
(実施例4)
表5に示す配合5~7の各配合で油性固形食品を作製した。
具体的には、油系原料にたんぱく質原料を混合した後、水系原料及び夾雑物と共に二軸式エクストルーダーに投入して、下記運転条件で、分離を抑えた成形物が得られるように、冷却搬送しながら混練し、押出成形を行い、油性固形食品を得た。
エクストルーダー運転条件
・油系原料(油脂)とたんぱく質原料との混合物の温度(投入時):40℃
・糖液温度(投入時):25℃
・エクストルーダーの冷却液温度:-5℃
・吐出温度(表面):15℃
表5に原料として示した「カカオ組成物」は、下記の方法により得た。
まず、カカオポッド(カカオの実)から取り出したパルプ付きカカオ豆を、水中で30分間煮沸し、水を切った。次いで、手作業にてカカオ豆からシェルを剥離した。次いで、カカオ豆を篩(32メッシュ、目開き500μm)で裏ごしした。次いで、裏ごしされたカカオ豆を、減圧乾燥器にて98℃で2時間乾燥させて粉末(カカオ組成物)を得た。
Figure 0007453368000005
※表5中、数値の単位は質量%である。
対照として、配合5~7の各配合について、エクストルーダーによる処理に代えて、原料を常温(23℃)において手で混合したこと以外は同様にして、油性固形食品を得た。
官能評価
配合5~7で得られた油性固形食品について、実施例3において説明したものと同様の官能評価に供した。結果を表6に示す。
Figure 0007453368000006
表6より、配合5~7のいずれにおいても、実施例の油性固形食品は、同じ配合である比較例の食品と比較して、たんぱく臭がより少なく、良好な食感を有し、食べやすさ(喫食しやすさ)に優れていることがわかる。
尚、配合5の対照で得られた油性固形食品は、粉っぽく、もそつきやすいため、咀嚼し難いだけでなく、飲み込み難い食感であった。
また、配合6の対照で得られた油性固形食品は、咀嚼中に口腔内に付着しやすく、ねちゃつき(粘り気)が強いため、咀嚼し難い食感であった。
たんぱく質分散状態の測定
配合5、6で得られた油性固形食品について、1週間の保存期間後に、たんぱく質分散状態を測定(解析)した。結果を表7に示す。
Figure 0007453368000007
表7より、配合5、6のいずれにおいても、実施例の油性固形食品は、1週間経過後も、たんぱく質粒子が平均粒子面積200μm以下で分散しており、分散状態の安定性が非常に高いことがわかる。一方で、対照の油性固形食品は、時間の経過に伴ってたんぱく質が吸水するため、1週間経過後の平均粒子面積が大きくなり、実施例に比べてたんぱく質がより大きな凝集物として存在している。このことが、対照の油性固形食品において、たんぱく質特有の臭いや、ねちゃつき(粘り気)、もそつき(粉っぽさ)といった好ましくない食感を引き起こしていることがわかる。
食品物性測定装置による評価
配合5、6で得られた油性固形食品について、咀嚼時の口腔内をモデル化した下記食品物性測定装置を用いて、下記測定条件で物理量(後述する「トルクの和」)を測定した。
[食品物性測定装置]
食品物性測定装置は、先端が半球状の凸部を有する形状である「上部咬合部」を設けた上部治具と、半球状の凹部内壁面を有する形状である「下部咬合部」が設けられた下部治具を有している。上部咬合部と下部咬合部とは、咬合するように対向して設けられている。
また、食品物性測定装置は駆動部を有する。駆動部は、上部咬合部と下部咬合部とが咬合する方向の往復直線運動を行うように、下部治具を駆動する。また、駆動部は、上部治具が前記往復直線運動の方向を回転軸とする往復回転運動を行うように、上部治具を駆動する。
さらに、食品物性測定装置は疑似唾液供給部を有する。疑似唾液供給部は、上部咬合部と下部咬合部との間に、所定の流量で疑似唾液を流入して添加する。
上部治具にはセンサが組み込まれている。センサは、上述した駆動によって上部治具に印加されるトルク(回転軸を中心に回転する方向にかかる力の抵抗値)を計測する。
[測定条件]
上部咬合部と下部咬合部との間に油性固形食品を入れて食品物性測定装置を駆動し、60回の咀嚼(60秒間)におけるトルクの和[N・m]を測定した。各油性固形食品について、同様の測定を計3回行った。
この測定において、測定に用いた油性固形食品は約4gとした。被験試料と接する治具表面の温度は32~37℃とした。下部治具を往復直線運動の方向に沿うように駆動する力(咬合力)は400Nに設定した。咀嚼の周期(圧縮インターバル)は1回/1秒に設定した。また、前記往復直線運動の方向を回転軸とする上部治具の往復回転運動は、圧縮ごとに回転方向を反転し、角速度180°/sに設定した。疑似唾液の流量は4ml/分に設定した。尚、上部咬合部と下部咬合部との間には、測定前に、油性固形食品と共に1mlの疑似唾液を添加した。疑似唾液として、0.02質量%のキサンタンガム水溶液を用いた。
結果を表8に示す。
Figure 0007453368000008
表8より、ソイたんぱく質が配合された配合5及びホエイたんぱく質が配合された配合6のいずれにおいても、実施例の油性固形食品は、対照の油性固形食品に比べ、トルクの和が有意に小さかった。
本測定で用いた食品物性測定装置により計測されるトルクは、食品を咀嚼中に口中で舌を動かしたときの抵抗感を示す指標になる。通常は、ソイたんぱく質が配合された食品は、水分を加えることで流動性が悪くなり、トルクが大きくなる。また、ホエイたんぱく質が配合された食品は、吸水により粘度が上昇し、トルクが大きくなる。ところが、実施例の油性固形食品は、水(模擬唾液)を添加して咀嚼しても、トルクの増大が有意に抑制されることがわかった。このことが、官能評価における「飲み込みやすさ」、「咀嚼しやすさ」及び「総合的な食べやすさ」等の項目を良好にしていると考えられる。
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献、及び本願のパリ条約による優先権の基礎となる出願の内容を全て援用する。

Claims (7)

  1. たんぱく質含有量が16.2~50質量%であり、
    油脂の連続相にたんぱく質粒子が平均粒子面積250μm以下で分散している、油性固形食品。
  2. 油脂含有量が15~80質量%である、請求項1に記載の油性固形食品。
  3. さらに水系原料を含有する、請求項1又は2に記載の油性固形食品。
  4. 前記水系原料の含有量が1~15質量%である、請求項に記載の油性固形食品。
  5. 水分含有量が0.5~15質量%である、請求項1~のいずれかに記載の油性固形食品。
  6. 23℃において製造後30日経過時においても、油脂の連続相にたんぱく質粒子が平均粒子面積250μm以下で分散している、請求項1~のいずれかに記載の油性固形食品。
  7. チョコレートである、請求項1~のいずれかに記載の油性固形食品。
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