以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
実施の形態1.
[零相電流差動リレーと三相変圧器の構成]
図1は、零相電流差動リレー5とその保護対象である三相変圧器TXとを含む全体構成図である。
図1を参照して、零相電流差動リレー5は、1次側巻線3がY巻線であり2次側巻線4がΔ巻線であるY-Δ結線方式の三相変圧器TXにおいて、1次側巻線3(Y巻線)を保護する。三相変圧器TXの1次側の送電線1に電流変成器CTa,CTb,CTcがそれぞれ設けられる。さらに、三相変圧器TXの1次側巻線3の中性点6と接地極GNDとを接続する接地線7に電流変成器CTNが設けられる。
電流変成器CTa,CTb,CTcによってa相電流、b相電流、c相電流がそれぞれ検出され、電流変成器CTNによって中性点電流が検出される。電流変成器CTa,CTb,CTcからそれぞれ出力されたa相電流信号Ia、b相電流信号Ib、およびc相電流信号Ic、ならびに電流変成器CTNから出力された中性点電流信号INが、零相電流差動リレー5に取り込まれる。電流変成器CTa,CTb,CTc,CTNの極性は、a相電流、b相電流、c相電流、および中性点電流が中性点6に向かって流れる場合に、それぞれ対応するa相電流信号Ia、b相電流信号Ib、c相電流信号Ic、および中性点電流信号INが同符号に(たとえば、正に)なるように定められる。
図1の場合と異なり、1次側巻線3がΔ巻線であり2次側巻線4がY巻線の場合には、2次側に電流変成器CTa,CTb,CTc,CTNと零相電流差動リレー5とが設けられる。1次側巻線3がY巻線であり、2次側巻線4がY巻線であるY-Y結線方式の場合には、1次側および2次側の両方に、電流変成器CTa,CTb,CTc,CTNと零相電流差動リレー5とが設けられる。
[零相電流差動リレーのハードウェア構成例]
図2は、図1の零相電流差動リレー5のハードウェア構成例を示すブロック図である。図2を参照して、零相電流差動リレー5は、いわゆるデジタルリレーと同様の構成を有している。具体的に、零相電流差動リレー5は、入力変換部10と、A/D変換部20と、演算処理部30と、I/O(Input and Output)部40とを備える。
入力変換部10は、各入力チャンネルごとに補助変成器11_1,11_2,…を備える。入力変換部10は、図1の電流変成器CTa,CTb,CTc,CTNからそれぞれ出力されたa相電流信号Ia、b相電流信号Ib、c相電流信号Ic、および中性点電流信号INを、4個の補助変成器11を介して個別に取り込む。各補助変成器11は、これらの入力信号をA/D変換部20および演算処理部30での信号処理に適した電圧レベルの信号に変換する。
以下の説明において簡単のために、a相電流信号Ia、b相電流信号Ib、c相電流信号Ic、および中性点電流信号INを、それぞれ単にa相電流Ia、b相電流Ib、c相電流Ic、および中性点電流INとも記載する。また、a相電流Ia、b相電流Ib、およびc相電流Icを総称して、三相電流Ia,Ib,Icとも記載する。
A/D変換部20は、アナログフィルタ(AF:Analog Filter)21_1,21_2,…と、サンプルホールド回路(S/H:Sample Hold Circuit)22_1,22_2,…と、マルチプレクサ(MPX:Multiplexer)23と、A/D変換器24とを含む。アナログフィルタ21およびサンプルホールド回路22は、入力変換部10のチャンネルごとに設けられる。
各アナログフィルタ21は、A/D変換の際の折返し誤差を除去するために設けられたローパスフィルタまたはバンドパスフィルタである。各サンプルホールド回路22は、対応のアナログフィルタ21を通過した信号を規定のサンプリング周波数でサンプリングして保持する。マルチプレクサ23は、サンプルホールド回路22_1,22_2,…に保持された電圧信号を順次選択する。A/D変換器24は、マルチプレクサ23によって選択された信号をデジタル値に変換する。
なお、本開示では、上記の各回路要素のうち、アナログ信号処理に関係する部分を入力回路15とも称する。
演算処理部30は、CPU(Central Processing Unit)31と、RAM(Random Access Memory)32と、ROM(Read Only Memory)33と、これらを接続するバス34とを含む。CPU31は、プログラムに従って動作することにより、零相電流差動リレー5の全体の動作を制御する。RAM32およびROM33は、CPU31の主記憶として用いられる。ROM33の記憶媒体として、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)およびフラッシュメモリなどの電気的に書き換え可能な不揮発性メモリを用いることにより、プログラムおよび信号処理用の設定値などを収納できる。
I/O部40は、デジタル入力(D/I:Digital Input)回路41と、デジタル出力(D/O:Digital Output)回路42とを含む。デジタル入力回路41およびデジタル出力回路42は、CPU31と外部装置との間でデジタル信号の入出力を行う際のインターフェース回路である。たとえば、デジタル出力回路42は、CPU31の指令に従ってリレー出力43(トリップ信号)を、関係する遮断器に出力する。
なお、演算処理部30の機能の少なくとも一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)などの電子回路として実現されていてもよいし、CPU、ASIC、およびFPGAのうち2つ以上を組み合わせて実現されてもよい。本開示では、CPU、ASIC、およびFPGAなどを総称してプロセッサと称する。
[演算処理部の機能的構成]
図3は、零相電流差動リレー5の機能的構成を示すブロック図である。図3を参照して、零相電流差動リレー5は、入力回路15と、A/D変換器24と、零相電流演算部50と、動作判定部51と、シーケンスブロック52と、D/O回路42とを備える。零相電流演算部50、動作判定部51、およびシーケンスブロック52は、図2の演算処理部30に対応している。
図2を参照して説明したように、入力回路15に取り込まれた三相電流信号Ia,Ib,Icおよび中性点電流信号INは、A/D変換器24によってデジタル値の時系列データに変換される。
零相電流演算部50は、a相電流信号Ia、b相電流信号Ib、およびc相電流信号Icの各瞬時値を加算することにより、零相電流の3倍を表す信号を演算する。本開示では、簡単のために、零相電流信号I0の3倍(すなわち、3×I0)を単に零相電流信号3・I0もしくは零相電流3・I0とも記載する。
動作判定部51は、三相電流Ia,Ib,Ic、零相電流3・I0、および中性点電流INの各々の時系列データに基づいて、三相変圧器TXにおいて内部故障が生じているか否か、すなわち、保護リレーを動作させるか否かを判定する。動作判定部51の詳細な構成については、次図4を参照して後述する。
シーケンスブロック52は、動作判定部51によって内部故障が生じていると判定された場合に、デジタル出力回路42を介して、遮断器を開放するためのリレー出力43を出力する。
なお、シーケンスブロック52は、複数の保護リレー要素を含むデジタル保護リレーにおいて、複数の保護リレー要素の動作判定結果に基づいて最終的なリレー出力43を生成するために設けられている。たとえば、シーケンスブロック52は、複数の保護リレー要素の動作判定結果を用いて論理演算を行うことにより、リレー出力43を生成する。本実施形態の零相電流差動リレー5は、複数の保護リレー要素の1つである。さらに、シーケンスブロック52は、複数の保護リレー要素の動作判定結果に加えてデジタル入力回路41を介して入力された信号に基づいてリレー出力43を生成してもよい。また、シーケンスブロック52は、ユーザによって設定可能な動作タイマおよび復帰タイマを備えていてもよい。この場合、復帰タイマは手動復帰に設定することもできる。
[動作判定部の詳細な構成]
図4は、動作判定部51の詳細な構成例を示すブロック図である。図4を参照して、動作判定部51は、デジタルフィルタ(DF)54~58と、加算部60,67と、実効値演算部61~66と、最大値判定部68と、第1領域判定部69と、第2領域判定部70と、タイマ71,72と、外部故障判定部73と、CT飽和検出部76と、論理積演算部74,77と、論理和演算部75とを含む。
デジタルフィルタ54~58は、それぞれ零相電流3・I0、中性点電流IN、a相電流Ia、b相電流Ib、c相電流Icに対して、電力系統の基本波成分を取り出すフィルタ処理を行う。
加算部60は、デジタルフィルタ54を通過した零相電流3・I0の時系列データと、デジタルフィルタ55を通過した中性点電流INの時系列データとを加算する。具体的には、各時刻tにおける零相電流3・I0(t)と、それぞれ同じ時刻tにおけるIN(t)とを加算することにより、いわゆるベクトル和が計算される。
実効値演算部61は、上記の加算部60の加算結果(すなわち、零相電流3・I0と中性点電流INとの和)に対して実効値を演算する。これにより、第1領域判定部69および第2領域判定部70で用いられる差動量ID(第1の差動量とも称する)、すなわち、
ID=|3・I0(t)+IN(t)|r …(1)
が算出される。本開示において、|A(t)|rは、時系列データA(t)の実効値を表す。
実効値演算部62~66は、デジタルフィルタ54~58をそれぞれ通過した零相電流3・I0、中性点電流IN、a相電流Ia、b相電流Ib、c相電流Icの実効値をそれぞれ演算する。なお、本開示において、全ての実効値演算部61~66を、振幅値を演算する振幅値演算部に変更しても構わない。
加算部67は、零相電流3・I0の実効値と中性点電流INの実効値との和(すなわち、スカラー和)を演算する。これにより、第1領域判定部69で用いられる抑制量IR1(第1の抑制量とも称する)、すなわち、
IR1=|3・I0(t)|r+|IN(t)|r …(2)
が算出される。
第1領域判定部69は、零相電流3・I0および中性点電流INを用いる上式(1)の差動量IDと上式(2)の抑制量IR1とに基づいて、比率差動電流リレー方式で動作判定を行う。具体的には、第1領域判定部69は、K1およびP1を定数として、
ID≧K1 …(3A)
ID≧P1×IR1…(3B)
を両方とも満たす場合を内部故障(すなわち、電流変成器CTで囲まれた領域内での故障)と判定する。
図5は、図4の第1領域判定部69の動作領域を示す図である。図5に示すように、直線L1:ID=K1および直線L2:ID=P1×IR1を境界線として、直線L1,L2の両方に対して上側の領域が第1領域判定部69の動作領域(第1の動作領域とも称する)である。
第1領域判定部69の特徴は、上式(2)に示すように零相電流3・I0と中性点電流INとの各実効値(または振幅値)の和によって抑制量IR1を演算するスカラー和抑制方式である点にある。零相電流3・I0および中性点電流INは負荷電流の影響を受けないため、抑制量IR1は地絡故障時に発生する地絡電流のみに依存する。これにより、第1領域判定部69は、内部地絡故障の発生を高感度に検出することができる。しかし、外部短絡故障においてCT飽和が発生したときには、地絡電流が発生せずCT飽和で波形が減少した分だけの値が差動量および抑制量になる。このため、リレー内部のフィルタなどの影響により、CT飽和がある程度減衰するまでの間、動作量IDおよび抑制量IR1が第1領域判定部69の動作領域に入ったままになる可能性がある。このように、第1領域判定部69には、誤動作しやすいという欠点がある。そこで、後述するように、CT飽和が発生するよりも早いタイミングで外部故障の発生を検出可能な外部故障判定部73が設けられる。外部故障判定部73によって外部故障と判定された場合には、第1領域判定部69の動作がロックされる。これによって、CT飽和による第1領域判定部69の誤動作の影響を防止できる。
図4に戻って、最大値判定部68は、中性点電流IN、a相電流Ia、b相電流Ib、およびc相電流Icの4入力のそれぞれの実効値のうちで最大値を判定し、判定した最大値を抑制量IR2(第2の抑制量とも称する)として出力する。すなわち、抑制量IR2は、複数の引数のうち最大を返す関数をmax()として、
IR2=max(|Ia(t)|r,|Ib(t)|r,|Ic(t)|r,|IN(t)|r) …(4)
で表される。
第2領域判定部70は、上式(1)の差動量IDと上式(4)の抑制量IR2とに基づいて、比率差動電流リレー方式で動作判定を行う。Ia+Ib+Ic=3・I0であるので、上式(1)で示される差動量は、三相電流Ia,Ib,Icおよび中性点電流INの和によって生成される時系列データの実効値に等しい。より詳細には、第2領域判定部70は、K1およびP2を定数として、
ID≧K1 …(5A)
ID≧P2×IR2…(5B)
を両方とも満たす場合を内部故障と判定する。
図6は、図4の第2領域判定部70の動作領域を示す図である。図6に示すように、直線L1:ID=K1および直線L3:ID=P2×IR2を境界線として、直線L1,L3の両方に対して上側の領域が第2領域判定部70の動作領域(第2の動作領域とも称する)である。
第2領域判定部70の特徴は、上式(4)に示すように各相電流Ia,Ib,Icおよび中性点電流INの各実効値(または振幅値)の最大値によって抑制量IR2を決定する最大値抑制方式である点にある。第1領域判定部69では、抑制量IR1に零相電流3・I0と中性点電流INを用いるため負荷電流の影響を受けないが、第2領域判定部70ではa相電流Ia、b相電流Ib、c相電流Icに抑制量IR2を用いるため、負荷電流が大きい場合に抑制量IR2が大きくなる。このため、内部地絡故障時の第2領域判定部70の検出感度は第1領域判定部69の検出感度に劣る。
一方、外部短絡故障においてCT飽和が発生した場合において1相のみCT飽和が発生したときに、差動量IDおよび抑制量IR2が動作領域に入る場合がある。しかし、この場合には、CT飽和していない故障相の電流が抑制量IR2に用いられるため抑制量IR2が大きくなる。そのため、差動量IDおよび抑制量IR2は、CT飽和が厳しい間は動作領域内外を往復するが、CT飽和が収束するよりも早いタイミングで完全に動作領域から出ることができる。したがって、第2領域判定部70は、比較的誤動作しにくい利点を有している。
そこで、本実施形態の零相電流差動リレー5では、第1領域判定部69の判定結果と第2領域判定部70の判定結果とを組み合わせることにより、高感度であるとともにCT飽和の発生時に誤動作し難い零相電流差動リレーを提供できる。
図4に戻って、タイマ71は、第1領域判定部69の判定結果を表す信号A1に対して、動作タイマ(オンディレイタイマとも称する)および復帰タイマ(オフディレイタイマとも称する)として機能する。同様に、タイマ72は、第2領域判定部70の判定結果を表す信号A2に対して動作タイマおよび復帰タイマとして機能する。
動作タイマおよび復帰タイマの動作について具体的に説明する。第1領域判定部69から出力された信号A1が、リレーの動作状態を表すオン状態(活性状態とも称する)になってから動作時間T1の経過後にタイマ71の出力がオン状態に切り替わる。信号A1がオン状態に切り替わってから動作時間T1の間、オン状態が継続しなかった場合には、タイマ71の出力はオフ状態のまま維持される。したがって、動作タイマ71は、第1領域判定部69の出力信号A1の活性状態がT1時間継続した場合に、動作タイマ71の出力信号を活性状態に切り替えることにより内部故障と判定している。
一方、信号A1がリレーの非動作状態を表すオフ状態(非活性状態とも称する)に切り替わってから復帰時間T2の経過後にタイマ71の出力がオフ状態に切り替わる。信号A1のオフ状態に切り替わってから復帰時間T2の間、オフ状態が継続しなかった場合には、タイマ71の出力はオン状態のまま維持される。他のタイマの動作時間および復帰時間も同様である。
タイマ71の動作時間T1は、内部故障を瞬時に検出できるように比較的短い時間(電力系統の1サイクルの電気角360°に対して30°以上かつ90°以下程度)に設定される。たとえば、動作時間T1として電気角60°が選択される。一方、タイマ72の動作時間T3は、外部故障時にCT飽和が発生しても誤動作しないようにCT飽和中に差動量IDおよび抑制量IR2が動作領域内に入る時間を考慮して設定される。CT飽和が収束するまでの時間は、CTの飽和電圧、故障電流の大きさ、故障電流に含まれる直流成分などに依存する。CT飽和中には、差動量IDおよび抑制量IR2は、第2領域判定部70の動作領域内に入ったり動作領域内から出たりするが、CT飽和の緩和に伴って次第に動作領域外に落ち着く。前述の式(5B)の定数P2を適切に設定すれば、故障発生から1サイクル程度経過するとほとんどの場合で差動量IDおよび抑制量IR2は動作領域外に位置し、故障発生から2サイクルを超えて差動量IDおよび抑制量IR2が動作領域に入ることはない。したがって、タイマ72の動作時間T3として、1サイクル以上かつ3サイクル以下程度であればよく、たとえばマージンをとって2サイクルが選択される。タイマ71,72の復帰時間T2,T4は、故障消失後にある程度の遅延時間をもって復帰できれはよいので、たとえば、復帰時間T2,T4として電力系統の1サイクル以上かつ6サイクル以下程度が選択される。
外部故障判定部73は、零相電流3・I0、中性点電流IN、各相電流Ia,Ib,Icの各瞬時値に基づいて、CT飽和が発生するよりも早いタイミングで外部故障が生じているか否かを判定する。外部故障判定部73は、判定結果を示す信号B3を論理積演算部74に出力する。外部故障が生じていると判定された場合に信号B3は活性状態(オン状態)になり、外部故障が生じていないと判定された場合(すなわち、通常の負荷電流または内部故障の場合)に信号B3は非活性状態(オフ状態)になる。外部故障判定部73の詳細については、図7~図9を参照して後述する。
論理積演算部74は、第1領域判定部69の判定結果を表す信号A1に対してタイマ71による遅延処理が施された信号と、外部故障判定部73の判定結果を表す信号B3の論理を反転させた信号との論理積を演算する。したがって、外部故障判定部73の出力信号B3が活性状態(オン状態)の場合には、論理積演算部74の出力は非活性状態(オフ状態)になる。この場合、第1領域判定部69の判定結果を表す信号A1の出力がロックされる。
論理和演算部75は、上記の論理積演算部74の出力信号と、第2領域判定部70の判定結果を表す信号A2に対してタイマ72による遅延処理が施された信号との論理和を演算し、演算結果を表す信号A3を出力する。したがって、第1領域判定部69によって内部故障と判定され、かつ、動作時間T1が経過し、かつ、外部故障判定部73によって外部故障と判定されていない場合には、論理和演算部75の出力信号A3は活性状態(オン状態)になる。もしくは、第2領域判定部70によって内部故障と判定され、かつ、動作時間T3が経過した場合にも、論理和演算部75の出力信号A3は活性状態(オン状態)になる。このように、第1領域判定部69の判定結果と第2領域判定部70の判定結果とを組み合わせることにより、高感度であるとともにCT飽和の発生時に誤動作し難い零相電流差動リレーを提供できる。
論理和演算部75に後続するCT飽和検出部76および論理積演算部77は、動作判定部51に必ずしも備えられていなくてよい。すなわち、上記の信号A3を動作判定部51の判定結果として出力したしても、内部故障を高感度に検出するとともにCT飽和に起因した誤動作を防止できる。ただし、さらに誤動作の可能性を低減するためにCT飽和検出部76および論理積演算部77を設けてもよい。
CT飽和検出部76は、実効値演算部63~66から出力された中性点電流INおよび三相電流Ia,Ib,Icのそれぞれの実効値IN_rms,Ia_rms,Ib_rms,Ic_rmsが、実際にCT飽和が発生し得る電流レベルに達しているか否かを判定する。CT飽和検出部76は、中性点電流INおよび三相電流Ia,Ib,Icのうちの少なくとも1つが判定値以上の場合に、出力信号C1を活性状態にする。CT飽和検出部76の詳細については、図10を参照して後述する。
論理積演算部77は、前述の論理和演算部75から出力された信号A3と、CT飽和検出部76の出力信号C1の論理を反転させた信号との論理積を演算する。したがって、CT飽和検出部76の出力信号C1が活性状態の場合には、論理積演算部77の出力信号は非活性状態になる。この場合、論理和演算部75の出力がロックされ、動作判定部51の判定結果は非動作になる。
[外部故障判定部73の構成例]
図7は、図4の外部故障判定部73の構成例を示すブロック図である。図7を参照して、外部故障判定部73は、電流変化検出部80と、加算部81と、絶対値演算部82~86と、最大値判定部87と、外部領域判定部88と、論理積演算部89と、タイマ90とを含む。
電流変化検出部80は、三相電流Ia,Ib,Icのうちいずれか少なくとも1つの相電流の変化量が、故障の発生により閾値を超えていることに基づいて、故障発生を検出する。電流変化検出部80は、故障発生を検出した場合には、αサイクルの間オン状態となるワンショットパルス信号B1を出力する。αは、たとえば1(サイクル)である。
図8は、図7の電流変化検出部80の構成例を示すブロック図である。図8を参照して、電流変化検出部80は、電流変化演算部91~93と、加算部94と、比較部95、ワンショットタイマ96とを含む。
電流変化演算部91は、現時点のa相電流の瞬時値Ia(t)と、現時点よりも0.5サイクル前のa相電流の瞬時値Ia(t-0.5サイクル)との和の絶対値を、a相電流変化量ΔIaとして演算する。電流変化演算部92は、現時点のb相電流の瞬時値Ib(t)と、現時点よりも0.5サイクル前のb相電流の瞬時値Ib(t-0.5サイクル)との和の絶対値を、b相電流変化量ΔIbとして演算する。電流変化演算部93は、現時点のc相電流の瞬時値Ic(t)と、現時点よりも0.5サイクル前のc相電流の瞬時値Ic(t-0.5サイクル)との和の絶対値を、c相電流変化量ΔIcとして演算する。すなわち、
ΔIa=|Ia(t)+Ia(t-0.5サイクル)| …(6A)
ΔIb=|Ib(t)+Ib(t-0.5サイクル)| …(6B)
ΔIc=|Ic(t)+Ic(t-0.5サイクル)| …(6C)
のように表される。ここで、|A|は、Aの絶対値を表す。
a相電流、b相電流、c相電流の各々が定常状態の場合には、a相電流変化量ΔIa、b相電流変化量ΔIb、c相電流変化量ΔIcは、ほぼ0である。上記に代えて、現時点のa相電流瞬時値から現時点よりも1サイクル前のa相電流瞬時値を引いた値の絶対値をa相電流変化量としてもよい。b相電流変化量およびc相電流変化量についても同様である。
加算部94は、a相電流変化量ΔIaとb相電流変化量ΔIbとc相電流変化量ΔIcとの和を演算し、演算結果を電流変化量ΔIとして出力する。
比較部95は、電流変化量ΔIと閾値k2(第1の閾値とも称する)とを比較し、電流変化量ΔIが閾値k2を超えている場合には、出力信号を活性化する。
ワンショットタイマ96は、比較部95の出力が活性状態(オン状態)となってから、αサイクルの間だけオン状態となるワンショットパルスを生成し、生成したワンショットパルスを電流変化検出信号B1として出力する。ワンショットタイマ96のオン時間は、後述するタイマ90の動作時間T5(一例として電気角30°)に対してマージンを取って、たとえば、1サイクル(α=1)に設定される。
図7に戻って、加算部81は、中性点電流INの瞬時値と零相電流3・I0の瞬時値(すなわち、各相電流Ia,Ib,Icの瞬時値の和)とを加算する。絶対値演算部82は、上記の加算部81の加算結果(すなわち、中性点電流INと零相電流3・I0との和)の絶対値を演算する。これにより、外部領域判定部88で用いられる差動量Id(t)(第2の差動量とも称する),すなわち、
Id(t)=|Ia(t)+Ib(t)+Ic(t)+IN(t)| …(7)
が算出される。
絶対値演算部83~86は、中性点電流IN、c相電流Ic、b相電流Ib、およびa相電流のそれぞれの瞬時値の絶対値を演算する。最大値判定部87は、中性点電流IN、c相電流Ic、b相電流Ib、およびa相電流のそれぞれの瞬時値の絶対値のうち、最大値を判定し、判定した最大値を外部領域判定部88で用いる抑制量Ir(第3の抑制量とも称する)として出力する。最大値関数max()を用いて、抑制量Ir(t)は、
Ir(t)=max(|Ia(t)|,|Ib(t)|,|Ic(t)|,|IN(t)|) …(8)
で表される。
外部領域判定部88は、三相電流Ia,Ib,Icおよび中性点電流INの各瞬時値を用いる上式(7)の差動量Idと上式(8)の抑制量Irとに基づいて、比率差動電流リレー方式で、現時点の差動量Idおよび抑制量Irが、外部領域にあるか否かを判定する。具体的には、外部領域判定部88は、k1およびp1を定数として、
Ir≧k1 …(9A)
Id≦p1×Ir …(9B)
を両方とも満たされる場合を外部領域と判定する。
図9は、図7の外部領域判定部88によって判定される外部領域を示す図である。図9に示すように、直線L4:Id=p1×Irおよび直線L5:Ir=k1を境界線として、直線L4よりも下側の領域と直線L5よりも右側の領域との共通領域が、外部領域である。外部領域には、通常の負荷電流の場合も含まれている。
以上の外部領域判定部88の構成によれば、外部領域の判定には三相電流Ia,Ib,Icおよび中性点電流INの各瞬時値の絶対値がそのまま用いられており、フィルタ処理および実効値の演算などは行われない。したがって、故障時にはCT飽和が発生する前に高速に判定できる。このため、外部故障によってCT飽和が発生したために、前述の第1領域判定部69では不要動作が避けられない場合であっても、正確に外部故障と判定できる。
なお、より好ましい形態として、現時点の差動量Ir(t)および抑制量Id(t)と、現時点よりも数サンプリング周期前の差動量Ir(t-Δ)および抑制量Id(t-Δ)とのうちの大きいほうを、現時点の最終的な差動量Ir(t)および抑制量Id(t)としたほうが望ましい。交流入力の場合には、瞬時値の絶対値が零または零近辺になる場合があるが、現時点の瞬時値の絶対値が零または零近辺になる場合には、現時点よりも数サンプリング周期前の瞬時値の絶対値は一定値以上になるので、比率電流差分リレー方式の判定精度の信頼性を向上できる。具体的に、最大値関数max()を用いると、差動量Id(t)および抑制量Ir(t)は、
Id(t)=max(Id(t),Id(t-Δ)) …(10A)
Ir(t)=max(Ir(t),Ir(t-Δ)) …(10B)
と表される。たとえば、サンプリング周波数が4800Hz、系統周波数が50Hzの場合、Δ=15~30°程度になる。
図7に戻って、論理積演算部89は、電流変化検出部80の検出結果を示す信号B1と、外部領域判定部88の判定結果を示す信号B2との論理積を演算する。したがって、電流変化検出部80によって故障発生が検出されることにより信号B1が活性状態(オン状態)になり、外部領域判定部88によって外部領域と判定されることにより信号B2が活性状態(オン状態)になった場合に、論理積演算部89の出力がオン状態(活性状態)になる。この場合は、外部故障が発生したことを示している。
タイマ90は、論理積演算部89の出力信号に対して、動作時間T5の動作タイマおよび復帰時間T6の復帰タイマとして機能する。タイマ90の出力信号は、外部故障判定部73の判定結果を示す信号B3として出力される。
ここで、タイマ90の動作時間T5は、外部故障時にCT飽和が起こるまでに第1領域判定部69の動作をロックできるように設定される。具体例として、CT飽和が生じるまでに第1領域判定部69の動作をロックできる時間の限界値を電気角90°とする。この場合、CT飽和が生じるような大電流故障に対して、外部故障判定部73の検出時間は、電気角90°未満になるように設定する必要がある。電流変化検出部80と外部領域判定部88の検出時間を電気角30°程度とすれば、動作時間T5は電気角30°~60°程度の時間に設定される。ここから、マージンをとって動作時間T5の設定値として電気角30°を選択できる。
一方、タイマ90の復帰時間T6は、CT飽和が収束するまで継続できるように設定される。CT飽和が収束するまでの時間は故障電流に含まれる直流分に依存するため、復帰時間T6は、その直流分の時定数程度(たとえば、5~20サイクル程度)に設定される。一例として、復帰時間T6を20サイクルに設定できる。
なお、差動量IDおよび抑制量IR1が第1の動作領域にあると第1領域判定部69が判定しかつ外部故障判定部73が外部故障でないと判定することは、差動量IDおよび抑制量IR1が第1領域判定部69の第1の動作領域にありかつ電流変化量ΔIが閾値k2を超えていない場合、または差動量IDおよび抑制量IR1が第1領域判定部69の第1の動作領域にありかつ差動量Idおよび抑制量Irが外部領域判定部88の外部領域にない場合のいずれかである。
[CT飽和検出部76の構成例]
図10は、図4のCT飽和検出部76の構成例を示すブロック図である。図10を参照して、CT飽和検出部76は、比較部100~103と、論理和演算部104とを含む。
比較部100は、a相電流の実効値Ia_rmsを判定値Klockと比較し、a相電流の実効値Ia_rmsが判定値Klock以上の場合に、出力信号を活性化する。
同様に、比較部101~103は、それぞれb相電流の実効値Ib_rms、c相電流の実効値Ic_rms、中性点電流の実効値IN_rmsを判定値Klock(第2の閾値とも称する)と比較する。そして、比較部101は、b相電流の実効値Ib_rmsが判定値Klock以上の場合に出力信号を活性化し、比較部102は、c相電流の実効値Ic_rmsが判定値Klock以上の場合に出力信号を活性化し、比較部103は、中性点電流の実効値IN_rmsが判定値Klock以上の場合に出力信号を活性化する。
論理和演算部104は、比較部100~103の出力信号の論理和を演算し、演算結果をCT飽和検出信号C1として出力する。すなわち、論理和演算部104は、比較部100~103のうちの少なくとも1つの出力信号が活性状態のときに、CT飽和検出信号C1を活性化する。図4を参照して説明したように、CT飽和検出信号C1を反転した信号が論理積演算部77に入力されるので、動作判定部51の判定出力をロックできる。
上記の判定値Klockは、CT飽和が発生する電流領域に設定する。これにより、三相電流Ia,Ib,Icおよび中性点電流INのうちの少なくとも1つの電流実効値が、CT飽和が発生する電流領域に達している場合には、動作判定部51の判定出力をロックすることにより誤動作を防止できる。
ここで、図18に示すように、CT飽和が生じている場合の電流波形は、CT飽和が生じていない場合の電流波形の一部が欠けたような形状を有している。このため、CT飽和が生じている中性点電流INおよび三相電流Ia,Ib,Icに対してデジタルフィルタ55~58によるフィルタ処理を実行してから、実効値演算部63~66によって実効値を演算すると、欠けた電流分だけ実効値が小さな値になる。しかし、一つのCTが飽和しても飽和していないCTがあれば、当該非飽和のCTによって検出された信号と判定値Klockとを比較できる。もしくは判定値KlockをCT飽和が生じている場合の電流よりも小さな値に設定することでもCT飽和の発生が検出できる。
以下、内部故障および外部故障の具体例を挙げて、実施の形態1の零相電流差動リレー5の動作についてさらに詳しく説明する。
[第1の具体例:比較的小さな故障電流の内部a相地絡故障の場合]
第1の具体例として、負荷電流のある状態で、変圧器の内部a相地絡故障が生じたが、故障電流が比較的小さいためにCT飽和が生じていない場合について、図11~図14を参照して零相電流差動リレー5の動作を説明する。
図11は、第1の具体例(比較的小さい故障電流の内部a相地絡故障の場合)において、図4の第1領域判定部69の動作を説明するための図である。図11の説明図は、図5の第1領域判定部69の動作領域図において、差動量IDおよび抑制量IR1の時間変化の様子を示したものである。
内部故障が生じていない初期状態では、負荷電流が3相平衡状態なので零相電流はなく、差動量IDおよび抑制量IR1は共にほぼ0である。この場合の差動量IDおよび抑制量IR1は、図11の点P1(図11のグラフのほぼ原点)に対応する。
変圧器の内部a相地絡故障が発生すると、差動量IDおよび抑制量IR1は、図中の点X1から点X2に変化するために、内部地絡故障の発生とほぼ同時に第1領域判定部69の動作領域に入る。すなわち、第1領域判定部69は、内部地絡故障発生後、即座に動作状態になることがわかる。
図12は、第1の具体例において、図4の第2領域判定部70の動作を説明するための図である。図12の説明図は、図6の第2領域判定部70の動作領域図において、差動量IDおよび抑制量IR2の時間変化の様子を示したものである。
内部故障が生じていない初期状態では、差動量IDはほぼ0であるが、抑制量IR2は、中性点電流INが零なので、負荷電流の値を示す三相電流Ia,Ib,Icの各実効値の最大値である。この場合、差動量IDおよび抑制量IR2は、図12の原点から大きく右方にずれた点Q1に対応するために、第2領域判定部70の動作領域から大きく外れている。この点で、図12の差動量IDおよび抑制量IR2は、図11の差動量IDおよび抑制量IR1と大きく異なる。
変圧器の内部a相地絡故障が発生すると、差動量IDおよび抑制量IR2は、図中の点Q1から点Q2に変化するが、第2領域判定部70の動作領域には入らない。すなわち、第2領域判定部70は、内部地絡故障発生後、不動作(検出感度が低い)になることがわかる。
図13は、第1の具体例において、図7の外部領域判定部88の動作を説明するための図である。図13の説明図は、図9の外部領域判定部88の動作領域図において、差動量Idおよび抑制量Irの時間変化の様子を示したものである。
内部故障が生じていない初期状態では、差動量Idはほぼ0であるが、抑制量Irは三相電流Ia,Ib,Icおよび中性点電流INの各瞬時値の絶対値のうちの最大値である。この場合、差動量IDおよび抑制量IR2は、負荷電流の影響で図12の原点から右方にずれた点R1に対応するために外部領域に入っている。
変圧器の内部a相地絡故障が発生すると、差動量Idおよび抑制量Irは図中の点R1から点R2に変化するために、内部地絡故障の発生とほぼ同時に外部領域から外れる。すなわち、外部領域判定部88は、内部地絡故障発生後に、第1領域判定部69をロックしないことがわかる。
図14は、第1の具体例において、図4の動作判定部51および図7の外部故障判定部73における各部の波形を示すタイミング図である。図14では上から順に、a相交流電流、抑制量IR2、抑制量IR1および差動量ID、第1領域判定部69の出力信号A1、第2領域判定部70の出力信号A2、電流変化検出部80の出力信号B1、外部領域判定部88の出力信号B2、外部故障判定部73の出力信号B3、動作判定部51の動作判定結果を示している。図14では、各信号について、活性状態の場合をハイレベル(Hレベル)とし、非活性状態の場合をロウレベル(Lレベル)としているが、この対応関係は逆でも構わない。
時刻t1において、a相内部地絡故障が発生する。これにより、小さいながらも故障電流が負荷電流に重畳して流れるためにa相交流電流の振幅が増加する。さらに、差動量IDおよび抑制量IR1,IR2が増加する。
なお、時刻t1より前の時点では、差動量IDおよび抑制量IR1は0であるが、抑制量IR2は負荷電流に基づく振幅値を示すので0ではない。また、外部領域判定部88は、負荷電流に基づく差動量Idおよび抑制量Irを外部領域と判定するので、外部領域判定部88の出力信号B2は活性状態(Hレベル)である。
時刻t2において、電流変化検出部80は、三相電流Ia,Ib,Icの電流変化を検出することにより、1ショットパルスを出力する。しかしながら、時刻t2とほぼ同時刻である時刻t3に、外部領域判定部88は差動量Idおよび抑制量Irを外部領域外であると判定し、外部領域判定部88の出力信号B2が非活性状態に切り替わるので、外部故障判定部73の出力信号B3は非活性状態のまま維持される。
時刻t4に第1領域判定部69は、内部故障の発生を検出する。これにより、第1領域判定部69の出力信号A1は活性状態に切り替わる。なお、外部故障判定部73の出力信号B3は非活性状態であるので、出力信号A1はロックされない。
時刻t4からタイマ71の動作時間T1が経過した時刻t5に、動作判定部51の動作判定結果が活性状態となり、トリップ信号が出力される。なお、故障電流が設定した判定値Klockに達していないので、CT飽和検出部76の出力信号C1は非活性状態であるので、トリップ信号の出力はロックされない。
以上により、内部地絡故障を高感度に検出してリレー動作が実行できることが示された。
[第2の具体例:外部三相短絡故障によってa相CTが飽和した場合]
第2の具体例として、変圧器の外部三相短絡故障が生じたためにa相の電流変成器CTが飽和した場合について、図15~図18を参照して零相電流差動リレー5の動作を説明する。
図15は、第2の具体例(外部三相短絡故障によってa相CTが飽和した場合)において、図4の第1領域判定部69の動作を説明するための図である。図15の説明図は、図5の第1領域判定部69の動作領域図において、差動量IDおよび抑制量IR1の時間変化の様子を示したものである。
外部故障が生じていない場合および外部故障が発生してもCT飽和が生じていない場合には、差動量IDおよび抑制量IR1は共にほぼ0であり、点X1に対応する。CT飽和が発生すると、差動量IDおよび抑制量IR1は、図中の点X1から即座に点X2に変化し、第1領域判定部69の動作領域に入る。すなわち、第1領域判定部69は誤動作する。差動量IDおよび抑制量IR1は、CT飽和がある程度収束するまで動作領域に入ったままであり、第1領域判定部69の誤動作が続く。CT飽和が継続中は、図15において差動量IDおよび抑制量IR1を表す点は、点X2から点X1までの間を行きつ戻りつしながら移動する。この理由は、CT飽和時の電流波形は正弦波形の一部が欠けたような波形であり、CT飽和が徐々に復帰するときには欠けた部分が次第に少なくなるからである。
図16は、第2の具体例において、図4の第2領域判定部70の動作を説明するための図である。図16の説明図は、図6の第2領域判定部70の動作領域図において、差動量IDおよび抑制量IR2の時間変化の様子を示したものである。
外部故障が生じていない初期状態では、差動量IDはほぼ0であるが、抑制量IR2は三相電流Ia,Ib,Icおよび中性点電流INの各実効値の最大値である。負荷電流がある場合、差動量IDおよび抑制量IR2は、図12の原点から右方にずれた点Q1に対応する。
外部故障が生じてもCT飽和が生じていない間は、差動量IDはほぼ0のままである。一方、外部故障電流が相電流に重畳されるため、抑制量IR2は増加する。この結果、差動量IDおよび抑制量IR2は、図中の点Q1から点Q2に移動するものの、第2領域判定部70の動作領域には入らない。
故障電流がさらに増加することによりCT飽和が発生すると、差動量IDおよび抑制量IR2は、共に増加して図中の点Q2から点Q3に移動するために第2領域判定部70の動作領域に入る。この結果、第2領域判定部70は誤動作することになるが、差動量IDは、CT飽和が収束するよりも速く減少するために、動作領域に入っている時間はタイマ72の動作時間T3よりも短い。したがって、動作判定部51全体として誤動作しない。なお、CT飽和から復帰するとき、図15において差動量IDおよび抑制量IR1を表す点は、点Q3から点Q4までの間を行きつ戻りつしながら移動する。
図17は、第2の具体例において、図7の外部領域判定部88の動作を説明するための図である。図17の説明図は、図9の外部領域判定部88の動作領域図において、差動量Idおよび抑制量Irの時間変化の様子を示したものである。
外部故障が生じていない初期状態では、差動量Idはほぼ0であるが、抑制量Irは三相電流Ia,Ib,Icおよび中性点電流INの各瞬時値の絶対値のうちの最大値である。負荷電流がある場合、差動量IDおよび抑制量IR2は、図12の原点から右方にずれた点R1に対応するために、外部領域判定部88の外部領域に入っている。
外部故障が生じても電流変成器CT飽和が生じていない間は、差動量Idは、ほぼ0のままである。一方、外部故障電流が負荷電流(相電流)に重畳されるため、抑制量Irは増加する。この結果、差動量Idおよび抑制量Irは、図中の点R1から点R2に移動するものの、外部領域に入ったままである。この期間中に、第1領域判定部69の動作をロックする。
故障電流がさらに増加することによりCT飽和が発生すると、差動量Idおよび抑制量Irは、共に増加して図中の点R2から点R3に移動するために外部領域から外れる。しかしながら、CT飽和の発生までに第1領域判定部69の動作はロックされるので、動作判定部51の全体としての誤動作は防止できる。CT飽和から復帰するとき、差動量Idおよび抑制量Irは、図中の点R3から点R2に戻る。
図18は、第2の具体例において、図4の動作判定部51および図7の外部故障判定部73における各部の波形を示すタイミング図である。図18では上から順に、三相交流電流、抑制量IR2、抑制量IR1および差動量ID、第1領域判定部69の出力信号A1、第2領域判定部70の出力信号A2、電流変化検出部80の出力信号B1、外部領域判定部88の出力信号B2、外部故障判定部73の出力信号B3、動作判定部51の動作判定結果を示している。図18では、各出力信号について、活性状態の場合をハイレベル(Hレベル)とし、非活性状態の場合をロウレベル(Lレベル)としているが、この対応関係は逆でも構わない。
時刻t1において、外部三相短絡故障が発生する。これにより、短絡電流が負荷電流に重畳して流れるために三相電流Ia,Ib,Icの各振幅が大きく増加する。これに伴い、抑制量IR2が増加する。この段階では、CT飽和は生じていないので、差動量IDおよび抑制量IR1は0のままである。
時刻t2において、電流変化検出部80は、三相電流Ia,Ib,Icの電流変化を検出することにより、1ショットパルスを出力する。一方、外部領域判定部88は、外部故障の場合の差動量Idおよび抑制量Irを外部領域と判定するので、外部領域判定部88の出力信号B2は活性状態(Hレベル)のままである。したがって、時刻t2からタイマ90の動作時間T5が経過した時刻t5に、外部故障判定部73の出力信号B3は活性状態になる。これにより、第1領域判定部69の出力がロックされる。なお、外部故障判定部73の出力信号B3の活性状態は、少なくともタイマ90の復帰時間T6の間継続する。
時刻t4にCT飽和が発生する。これにより、外部領域判定部88の出力信号B2は、ただちに非活性状態に切り替わるが、タイマ90の復帰時間T6の範囲内である。したがって、外部故障判定部73の出力信号B3の活性状態は維持される。
CT飽和に伴って、時刻t5に差動量IDおよび抑制量IR1が急激に増加する。これにより、時刻t5から時刻t8までの間において、第1領域判定部69の出力信号A1が活性状態になる。タイマ71の動作時間T1は、短く設定されているので、第1領域判定部69は誤動作することになる。しかしながら、時刻t3において第1領域判定部69の出力はロックされているので、第1領域判定部69の誤動作がトリップ動作に影響を及ぼすことはない。なお、CT飽和が収束するにつれて第1領域判定部69の出力信号A1が、短時間だけ非活性状態になることがあるが、いずれもタイマ71の復帰時間T2より短いので問題にならない。
CT飽和に伴ってさらに、時刻t6から時刻t7の間に第2領域判定部70の出力信号A2が活性状態になる。しかしながら、この活性状態の時間は、CT飽和が収束するまでの時間に基づいて設定されたタイマ72の動作時間T3よりも短いので、第2領域判定部70は不動作のままであり、誤動作しない。
以上により、外部故障時にCT飽和が生じても動作判定部51は不動作の状態が維持され、トリップ出力をしないことがわかる。
[実施の形態1の効果]
以上のとおり、実施の形態1の零相電流差動リレー5によれば、内部地絡故障が発生した場合には、第1領域判定部69によって内部地絡故障の発生を高感度かつ高速に検出してトリップ動作を行うことができる。また、外部短絡故障によってCT飽和が発生した場合には、外部故障判定部73によってCT飽和の発生前に外部故障であることを検出することにより、第1領域判定部69の動作がロックされる。さらに、CT飽和の時定数を考慮した長めの動作時間を有するタイマ72を第2領域判定部70の後段に設置することによって、第2領域判定部70の誤動作の影響を防止できる。また、外部故障から内部故障への進展故障が発生した場合には、第2領域判定部70によって内部故障を検出することによりトリップ動作を実行できる。
実施の形態2.
実施の形態2では、第2領域判定部70の動作領域を複数設け、より広い動作領域ほど動作タイマ72の動作時間が長く設定される。以下、図面を参照して詳しく説明する。
[動作判定部の構成]
図19は、実施の形態2の零相電流差動リレーにおいて、動作判定部51Aの構成例を示すブロック図である。図19の動作判定部51Aは、第2領域判定部70が第2の動作領域および第3の動作領域の2つの動作領域を有する点で図4の動作判定部51と異なる。さらに、図19の動作判定部51Aは、2つの動作領域にそれぞれ個別に対応するタイマ72,110を備える点で図4の動作判定部51と異なる。図19のその他の点は図4の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
第2領域判定部70は、前述の式(1)の差動量IDと前述の式(4)の最大値方式の抑制量IR2とに基づいて、比率差動電流リレー方式で動作判定を行う。第2の動作領域は、K1およびP2を定数として、前述の式(5A)および(5B)、すなわち、
ID≧K1 …(5A)
ID≧P2×IR2…(5B)
を満たす領域である。第2領域判定部70は、差動量IDおよび抑制量IR2が第1の動作領域に入っている場合に出力信号A2を活性状態にする。第2の動作領域をA2動作領域とも称する。
同様に、第3の動作領域は、K1およびP3(ただし、P3<P2)を定数として、
ID≧K1 …(11A)
ID≧P3×IR2…(11B)
を満たす領域である。第2領域判定部70は、差動量IDおよび抑制量IR2が第2の動作領域に入っている場合に出力信号A4を活性状態にする。第3の動作領域をA4動作領域とも称する。
図20は、図19の第2領域判定部70の第2および第3の動作領域を示す図である。図20に示すように、第2の動作領域(A2動作領域)は、直線L1:ID=K1および直線L3:ID=P2×IR2を境界線として、直線L1,L3の両方に対して上側の領域である。第3の動作領域(A4動作領域)は、直線L1:ID=K1および直線L4:ID=P3×IR2を境界線として、直線L1,L4の両方に対して上側の領域である。したがって、第3の動作領域(A4動作領域)は、第2の動作領域(A2動作領域)を含み、第2の動作領域(A2動作領域)よりも広い。
図19に戻って、タイマ72は、第2領域判定部70の出力信号A2に対して、動作タイマ(動作時間T3)(第1の動作タイマとも称する)および復帰タイマ(復帰時間T4)として機能する。前述のように出力信号A2は、差動量IDおよび抑制量IR2が第2の動作領域(A2動作領域)に入っているか否かを表す。動作時間T3(第1の動作時間とも称する)として、たとえば、CT飽和が収束するよりも早い時間として1サイクルが選択される。復帰時間T4として、たとえば、電力系統の1サイクル以上かつ6サイクル以下程度が選択される。
タイマ110は、第2領域判定部70の出力信号A4に対して、動作タイマ(動作時間T7)(第2の動作タイマとも称する)および復帰タイマ(復帰時間T8)として機能する。前述のように出力信号A4は、差動量IDおよび抑制量IR2が第3の動作領域(A4動作領域)に入っているか否かを表す。動作時間T7(第2の動作時間とも称する)として、たとえば、動作時間T3(1サイクル)よりも長い時間として3サイクルが選択される。復帰時間T8として、たとえば、電力系統の1サイクル以上かつ6サイクル以下程度が選択される。このように、動作領域が広いほど、対応する動作タイマの動作時間は、1サイクル以上かつ3サイクル以下程度の範囲内でより長く設定される。
[実施の形態2の効果]
上記のとおり実施の形態2の零相電流差動リレーによれば、第2領域判定部70の動作領域は、第2の動作領域と、第2の動作領域を含むより広い第3の動作領域とを有する。これにより、外部故障から内部故障への進展故障の発生時に、第2の動作領域に入る内部故障では比較的動作時間を短くでき、かつ第3の動作領域によって動作できる領域も広くすることができるので、進展故障の発生時に差動量IDが比較的小さい場合には、動作時間は比較的長くかかっても確実に動作できるように動作時間を設定できる。
なお、上記では、2個の動作領域を設けたが、3個以上の動作領域を設けるともに、それぞれ異なる動作時間の動作タイマを設けてもよい。これにより、内部故障発生時の差動量に応じて動作時間をより細かく調整できる。
実施の形態3.
実施の形態3では、閾値以上の中性点電流INが流れているか否かを検出する地絡故障検出部111がさらに設けられる。以下、図面を参照して詳しく説明する。
[動作判定部の構成例]
図21は、実施の形態3の零相電流差動リレーにおいて、動作判定部51Bの構成例を示すブロック図である。図21の動作判定部51Bは、地絡故障検出部111、タイマ112、および論理積演算部113,114をさらに備える点で、図21の動作判定部51Aと異なる。
図22は、図21の地絡故障検出部111の動作を説明する図である。図21および図22に示すように、地絡故障検出部111は、実効値演算部63から出力された中性点電流INの実効値IN_rmsが、閾値K_mini.ope(第3の閾値とも称する)以上であるか否かを判定する。地絡故障時には中性点電流が流れるので、閾値以上の中性点電流INの検出によって地絡故障であることを判定できる。閾値K_mini.opeは、故障発生前および短絡故障時に誤検出しない値に設定される。地絡故障検出部111は、中性点電流INの実効値IN_rmsが、閾値K_mini.ope以上の場合に出力信号D1を活性状態にする。
図21に戻って、タイマ110は、地絡故障検出部111の出力信号D1に対する動作タイマ(動作時間T9)および復帰タイマ(復帰時間T10)として機能する。前述のように出力信号D1は、中性点電流の実効値IN_rmsが閾値K_mini.ope以上であるか否かを表す。動作時間T9は、地絡故障時に第2領域判定部70の出力信号A2,A4用の動作タイマ72,110よりも早く動作するように、30°以上かつ90°以下程度に設定される。たとえば、動作時間T9として電気角60°が選択される。復帰時間T10として、たとえば、電力系統の1サイクル以上かつ6サイクル以下程度が選択される。
論理積演算部113は、第2領域判定部70の出力信号A2に対してタイマ72による遅延処理が施された信号と、地絡故障検出部111の出力信号D1に対してタイマ112による遅延処理が施された信号との論理積を演算する。論理積演算部113による論理積演算の結果は論理和演算部75に入力される。したがって、地絡故障検出部111によって閾値以上の中性点電流の実効値IN_rmsが検出されている場合には、第2領域判定部70の出力信号A2は有効になるが、そうでない場合には、出力信号A2の出力はロックされる。
同様に、論理積演算部114は、第2領域判定部70の出力信号A4に対してタイマ110による遅延処理が施された信号と、地絡故障検出部111の出力信号D1に対してタイマ112による遅延処理が施された信号との論理積を演算する。論理積演算部114による論理積演算の結果は論理和演算部75に入力される。したがって、地絡故障検出部111によって閾値以上の中性点電流の実効値IN_rmsが検出されている場合には、第2領域判定部70の出力信号A4は有効になるが、そうでない場合には、出力信号A4の出力はロックされる。
図21のその他の点は実施の形態2の図19の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。また、地絡故障検出部111、タイマ112、および論理積演算部113は、実施の形態1の図4と組み合わせることもできる。
[実施の形態3の効果]
第2領域判定部70の動作条件に閾値以上の中性点電流INの検出を加えることにより、短絡故障時に故障電流に含まれるDC成分が長く継続し、この結果としてCT飽和が長く継続してしまう場合でも零相電流差動リレーの誤動作を抑制できる。
また、中性点電流INがある程度流れていなければ、零相電流差動リレー5が動作しないことになるが、大きな性能低下にはつながらないと考えられる。なぜなら、第2領域判定部70の感度は第1領域判定部69の感度よりも悪いために、ある程度の差動量IDが無ければ動作できないからである。
なお、上記の構成に加えて、地絡故障検出部111およびタイマ112の出力信号と第1領域判定部69およびタイマ71の出力信号との論理積演算を行うことも考えられる。しかしながら、そうすると第1領域判定部69のメリットである高感度を損なうことになるので望ましくない。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この出願の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。