以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
実施の形態1.
<全体構成>
図1は、実施の形態1に従う保護リレー装置が適用される電力系統を示す図である。図1を参照して、電力系統には、被保護設備である変圧器6と、変圧器6の1次側(例えば、高圧側)に設置された遮断器31と、変圧器6の2次側(例えば、低圧側)に設置された遮断器32と、電流変成器(CT:Current Transformer)21,22と、保護リレー装置10と、高圧側の交流電源11と、低圧側の交流電源12とが設けられている。交流電源11,12は、例えば、3相交流電源である。
CT21は、変圧器6の1次巻線を流れる1次電流(例えば、高圧側電流)I1を検出する。CT22は、変圧器6の2次巻線を流れる2次電流(例えば、低圧側電流)I2を検出する。
保護リレー装置10は、CT21からの1次電流およびCT22からの2次電流を用いてCT21,22に囲まれる保護範囲内の内部故障FI(例えば、地絡故障または短絡故障)を検出すると、変圧器6の両端に設置されている遮断器31,32に対して開放指令であるトリップ信号TRを出力する。これにより、遮断器31,32が開放されて、故障箇所(ここでは、変圧器6)が電力系統から切り離される。具体的には、保護リレー装置10は、差動リレー部20と、変化検出部30と、出力制御部40とを含む。
差動リレー部20は、CT21によって検出された1次電流I1と、CT22によって検出された2次電流I2とを用いて、内部故障が生じているか否かを判定する。具体的には、差動リレー部20は、内部故障が生じていると判定した場合に動作する。典型的には、差動リレー部20は、比率差動リレー要素を含む。
差動リレー部20は、CT巻線比、変圧器6の変圧比および巻線構成に基づいて、負荷電流、外部故障電流が変圧器6を貫通した場合に、1次電流I1および2次電流I2の差動電流がゼロになるように位相、ゲイン等の電流整合処理を実行する。差動リレー部20は、整合後の1次電流I1および2次電流I2に対して系統周波数の基本波成分を抽出するフィルタ処理を施し、当該フィルタ処理後の1次電流I1aおよび2次電流I2aを用いて差動電流Idおよび抑制電流Irを算出する。差動電流Idは式(1)で表され、抑制電流Irは式(2)で表される。
Id=|I1a+I2a|・・・(1)
Ir=|I1a|+|I2a|・・・(2)
なお、“|I|”は、電流Iの実効値または振幅値を示している。説明の容易化のため、以下の説明では、“|I|”は電流Iの実効値であるとする。式(2)では、スカラー和により抑制電流Irを算出しているが、1次電流I1aの実効値および2次電流I2aの実効値のうちの大きい方を抑制電流Irとしてもよい。
差動リレー部20は、例えば、抑制電流Irに定数αを乗算し、定数βを加算した値よりも差動電流Idが大きい(すなわち、Id>α×Ir+β)という関係が成立するか否かを判定する。抑制電流Irと差動電流Idとが上記関係を満たす場合、差動リレー部20は動作する(例えば、動作出力する)。
変化検出部30は、変圧器6のインラッシュ電流発生時、および外部故障時における保護リレー装置10の不要動作を防止するために設けられている。具体的には、変化検出部30は、整合後の1次電流I1および2次電流I2に対して直流成分を除去するフィルタ処理(例えば、現時点の電流瞬時値から1サンプルデータ前の電流瞬時値を差し引く差分演算後に当該差分演算によるゲイン変化を補正する処理)を施し、当該フィルタ処理後の1次電流I1bおよび2次電流I2bを用いて差動電流Id*および抑制電流Ir*を算出する。差動電流Id*は式(3)で表され、抑制電流Ir*は式(4)で表される。
Id*=|I1b+I2b|・・・(3)
Ir*=|I1b|+|I2b|・・・(4)
また、変化検出部30は、差動電流Id*の変化量ΔId*と、抑制電流Ir*に対する差動電流Id*の比率の変化量Δ(Id*/Ir*)とを算出する。変化量ΔId*は式(5)で表され、変化量Δ(Id*/Ir*)は式(6)で表される。
ΔId*=Id*(t)-Id*(t-1)・・・(5)
Δ(Id*/Ir*)=Id*(t)/Ir*(t)-Id*(t-1)/Ir*(t-1)・・・(6)
ここで、Id*(t)は、例えば、現在の時刻tでの差動電流Id*の実効値を示し、Id*(t-1)は、時刻tより1演算周期前(例えば、電気角30°前)での差動電流Id*の実効値を示す。
変化検出部30は、変化量ΔId*が閾値K1以上(すなわち、ΔId*≧K1)であるか否か、および変化量Δ(Id*/Ir*)が閾値K2以上(すなわち、Δ(Id*/Ir*)≧K2)であるか否かを判定する。
ここで、インラッシュ電流発生時、CT非飽和かつ内部故障発生時、CT非飽和かつ外部故障発生時、CT飽和かつ内部故障発生時、およびCT飽和かつ外部故障発生時において、変化量ΔId*および変化量Δ(Id*/Ir*)がどのように変化するのかを説明する。
まず、CT非飽和かつ内部故障発生時における差動電流Idの波形は、故障発生に伴う直流成分を含む交流成分が支配的である。そのため、直流成分が除去された1次電流I1bおよび2次電流I2bを用いて算出された差動電流Id*は、内部故障発生後、ゼロから急増し、故障電流に相当する差動電流値で一定になり、故障除去まで継続する。なお、差動電流Id*は故障除去後にゼロに復帰する。従って、差動電流Id*の変化量ΔId*は、内部故障発生後に一時急増後に速やかに一定値以下になる。抑制電流Ir*は、内部故障発生後、負荷電流による抑制電流値から急増し、負荷電流と故障電流による抑制電流値で一定になり、故障除去まで継続する。従って、抑制電流Ir*に対する差動電流Id*の比率(Id*/Ir*)は、故障発生後にゼロから急増し、一定になり、故障除去後にゼロに戻る。すなわち、変化量Δ(Id*/Ir*)は、内部故障発生後に一時急増後に速やかに収束する(すなわち、一定値未満となる)。
一方、差動電流となるインラッシュ電流は、電流が大きく変化する時間帯と、電流が変化しない時間帯とが1サイクルの間に交互に現れる特有の波形である。そのため、インラッシュ電流が発生している間は、差動電流Id*は継続して周期的に変化する。したがって、インラッシュ電流発生中においては、変化量ΔId*は収束しない(すなわち、一定値以上となる時間帯が存在する)。一方、一端のみのインラッシュ電流が発生した場合には、差動電流Id*と抑制電流Ir*は同じ値となるため、変化量Δ(Id*/Ir*)は速やかに収束する(すなわち、一定値未満となる)。
図2は、故障時の差動電流および抑制電流の波形を示すイメージ図である。具体的には、図2(a)は、内部故障が発生した場合における差動電流および抑制電流の波形を示す図である。図2(b)は、外部故障が発生した場合における差動電流および抑制電流の波形を示す図である。
図2(a)を参照して、内部故障時にCT飽和が発生していない場合、差動電流Idおよび抑制電流Irはともに急増するが、その後速やかに一定となる。そのため、変化量ΔId*および変化量Δ(Id*/Ir*)は一定時間経過後に一定値未満となる。
一方、内部故障時にCT飽和が発生した場合、差動電流Idおよび抑制電流Irはともに急増し、その後も継続して変化する。具体的には、差動電流Idは、CT飽和によって電流が削れた部分で減少し、削れなかった部分で増加するため、CT飽和中において差動電流Idの変化は継続する。また、抑制電流Irも、CT飽和で電流が削れた部分で減少し、削れなかった部分で増加するため、CT飽和中において抑制電流Irの変化は継続する。すなわち、差動電流Idと抑制電流Irとは同じように変化する。そのため、抑制電流Ir*に対する差動電流Id*の比率の変化は小さい。このことから、内部故障時のCT飽和中においては、変化量ΔId*は一定値以上となる時間が1サイクル中に存在するが、変化量Δ(Id*/Ir*)は一定値未満となる。
図2(b)を参照して、外部故障時にCT飽和が発生していない場合、差動電流Idはゼロで一定であるため、変化量ΔId*は一定値未満となる。また、抑制電流Irは故障発生時に急増するが、その後一定となる。差動電流Id*がゼロに近いため、抑制電流Ir*に対する差動電流Id*の比率の変化もほぼゼロである。具体的には、変化量Δ(Id*/Ir*)は一定値未満となる。なお、この場合には、差動電流Idがゼロに近い値であるため、そもそも比率差動リレー要素は動作しない。
一方、外部故障時に片側のCT(例えば、CT21)にCT飽和が発生した場合、差動電流Idが発生し、差動電流Idおよび抑制電流Irは継続して変化する。具体的には、差動電流Idは、CT飽和によって電流が削れた部分で増加し、削れなかった部分で小さく(例えば、ゼロ付近)になるため、CT飽和中において差動電流Idの変化は継続し収束しない。すなわち、変化量ΔId*は一定値以上となる時間が1サイクル中に存在する。抑制電流Irは、CT飽和で電流が削れた部分で減少し、削れなかった部分で増加するため、CT飽和中において抑制電流Irの変化は継続するが、抑制電流Irは差動電流Idと逆向きに変化する。そのため、抑制電流Ir*に対する差動電流Id*の比率の変化は、変化量ΔId*よりも大きくなり、収束しない。すなわち、変化量Δ(Id*/Ir*)は一定値以上となる時間が1サイクル中に存在する。なお、変化量ΔId*は変化量ΔIr*と逆向きに変化するため、変化量Δ(Id*/Ir*)は、変化量ΔId*に比べて大きい。
上記のように、インラッシュ電流発生時、および内部故障かつCT飽和発生時においては、変化量ΔId*は収束しない。外部故障かつCT飽和発生時においては、変化量ΔId*および変化量Δ(Id*/Ir*)の両方が収束せず、特に、変化量Δ(Id*/Ir*)は、変化量ΔIdよりも顕著に大きい。したがって、変化量ΔId*および変化量Δ(Id*/Ir*)の各々の有無に応じて、比率差動リレー要素の動作出力をロックすることで、保護リレー装置10の不要動作を防止することができる。しかも、外部故障かつCT飽和発生時においては、変化量Δ(Id*/Ir*)を採用することで、より信頼性の高い誤動作防止が可能となる。
出力制御部40は、変化検出部30の検出結果と、差動リレー部20の演算結果とに基づいて、遮断器31,32にトリップ信号TRを出力する。具体的には、出力制御部40は、内部故障FIが発生した場合にはトリップ信号TRを出力し、インラッシュ状態である場合および外部故障FOが発生した場合にはトリップ信号TRを出力しない。
このように、保護リレー装置10は、インラッシュ状態である場合および外部故障FOが発生した場合には変圧器6を電力系統から分離しないが、内部故障FIが発生した場合には変圧器6を保護するために変圧器6を電力系統から分離する。
<ハードウェア構成>
図3は、実施の形態1に従う保護リレー装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。図3を参照して、保護リレー装置10は、補助変成器51と、AD(Analog to Digital)変換部52と、演算処理部70とを含む。
補助変成器51は、CT21,22により検出された電流を取り込み、リレー内部回路での信号処理に適した電圧に変換して出力する。AD変換部52は、補助変成器51から出力される電圧を取り込んでディジタルデータに変換する。具体的には、AD変換部52は、アナログフィルタと、サンプルホールド回路と、マルチプレクサと、AD変換器とを含む。
アナログフィルタは、補助変成器51から出力される電流の波形信号から高周波のノイズ成分を除去する。サンプルホールド回路は、アナログフィルタから出力される電流の波形信号を予め定められたサンプリング周期でサンプリングする。マルチプレクサは、演算処理部70から入力されるタイミング信号に基づいて、サンプルホールド回路から入力される波形信号を時系列で順次切り替えてAD変換器に入力する。AD変換器は、マルチプレクサから入力される波形信号をアナログデータからディジタルデータに変換する。AD変換器は、ディジタル変換した波形信号(すなわち、ディジタルデータ)を演算処理部70へ出力する。
演算処理部70は、CPU(Central Processing Unit)72と、ROM73と、RAM74と、DI(digital input)回路75と、DO(digital output)回路76と、入力インターフェイス(I/F)77とを含む。これらは、バス71で結合される。
CPU72は、予めROM73に格納されたプログラムを読み出して実行することによって、保護リレー装置10の動作を制御する。なお、ROM73には、CPU72によって用いられる各種情報が格納されている。CPU72は、たとえば、マイクロプロセッサである。なお、当該ハードウェアは、CPU以外のFPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)およびその他の演算機能を有する回路などであってもよい。
CPU72は、バス71を介して、AD変換部52からディジタルデータを取り込む。CPU72は、ROM73に格納されているプログラムに従って、取り込んだディジタルデータを用いて演算を実行する。
CPU72は、演算結果に基づいて、DO回路76を介して、外部に信号を出力する。例えば、DO回路76は、遮断器31,32にトリップ信号TRを出力する。CPU72は、DI回路75を介して、外部からの信号を受け取る。入力インターフェイス77は、典型的には、各種ボタン等であり、系統運用者からの各種設定操作を受け付ける。
<機能構成>
図4は、実施の形態1に従う保護リレー装置10の機能構成の一部を示すブロック図である。図4を参照して、保護リレー装置10は、差動リレー部20と、変化検出部30とを含む。これらの機能は、例えば、保護リレー装置10のマイクロプロセッサがメモリに格納されたプログラムを実行することによって実現される。なお、これらの機能の一部または全部はハードウェアで実現されるように構成されていてもよい。
差動リレー部20は、電流入力部60と、フィルタ部210と、比率差動リレー要素220とを含む。
電流入力部60は、CT21により検出された変圧器6の1次電流I1と、CT22により検出された変圧器6の2次電流I2との入力を受け付ける。変圧器6の1次電流I1と2次電流I2は、変圧器の巻線形態、CT21およびCT22の変流比等によって、位相およびゲインが整合していない場合がある。その整合のために、電流入力部60は、位相、ゲイン等の電流整合処理を実行した上で、整合後の1次電流I1および2次電流I2を出力する。
フィルタ部210は、整合後の1次電流I1および2次電流I2に対してフィルタ処理を施して、1次電流I1および2次電流I2の基本波成分を抽出する。具体的には、フィルタ部210は、フィルタ151,152を含む。
フィルタ151は、1次電流I1における系統周波数の基本波成分を抽出するフィルタ処理を実行し、フィルタ処理後の1次電流I1aを出力する。フィルタ152は、2次電流I2の基本波成分を抽出するフィルタ処理を実行し、フィルタ処理後の2次電流I2aを出力する。基本波成分を抽出するフィルタ処理で必要とされるデータ長は、例えば、0.5~1サイクル分のデータ長である。
比率差動リレー要素220は、基本波成分を抽出するフィルタ処理後の1次電流I1および2次電流I2を用いて抑制電流Ir(具体的には、抑制電流Irの実効値)および差動電流Id(具体的には、差動電流Idの実効値)を算出し、抑制電流Irおよび差動電流Idに基づいて比率差動リレー演算を実行する。具体的には、比率差動リレー要素220は、差動電流演算部153と、抑制電流演算部154と、比率差動演算部155とを含む。
差動電流演算部153は、式(1)に示すように、1次電流I1aと2次電流I2aとのベクトル和の後、実効値演算することにより差動電流Idを算出する。抑制電流演算部154は、式(2)に示すように、1次電流I1aおよび2次電流I2aの各々の実効値演算後に和(すなわち、スカラー和)をとることにより抑制電流Irを算出する。
比率差動演算部155は、差動電流Idと抑制電流Irとに基づいて比率差動演算を実行する。比率差動演算部155は、予め定められた関係(例えば、Id>α×Ir+β)が成立するか否かを判定する。比率差動演算部155は、抑制電流Irと差動電流Idとがこの関係を満たす場合、比率差動リレー要素220の動作を示す信号を出力する。
変化検出部30は、差動電流Id*の変化、および抑制電流Ir*に対する差動電流Id*の比率の変化を検出する。具体的には、変化検出部30は、フィルタ部230と、電流算出部240と、差動変化検出部175と、比率変化検出部176とを含む。
フィルタ部230は、整合後の1次電流I1および2次電流I2に対して第2フィルタ処理を施して、1次電流I1および2次電流I2から直流成分を除去する。具体的には、フィルタ部230は、フィルタ171,172を含む。
フィルタ171は、1次電流I1の直流成分を除去するフィルタ処理を実行し、フィルタ処理後の1次電流I1bを出力する。フィルタ172は、2次電流I2の直流成分を除去するフィルタ処理を実行し、フィルタ処理後の2次電流I2bを出力する。例えば、直流成分を除去するフィルタ処理を、現時点データより1/12サイクル前のデータを差し引く差分演算処理とする場合、当該フィルタ処理で必要とされるデータ長は、例えば、1/12サイクル分のデータ長である。そのため、フィルタ171,172によるフィルタ処理で必要とされるデータ長は、フィルタ151,152によるフィルタ処理で必要とされるデータ長(例えば、0.5~1サイクル分のデータ長)よりも短い。
電流算出部240は、第2フィルタ処理後の1次電流I1および2次電流I2を用いて抑制電流Ir*および差動電流Id*を算出する。具体的には、電流算出部240は、差動電流演算部173と、抑制電流演算部174とを含む。
差動電流演算部173は、式(3)に示すように、1次電流I1bと2次電流I2bとのベクトル和の後、実効値演算をすることにより差動電流Id*を算出する。抑制電流演算部174は、式(4)に示すように、1次電流I1bおよび2次電流I2bの各々の実効値演算後に和(すなわち、スカラー和)をとることにより抑制電流Ir*を算出する。
差動変化検出部175は、差動電流Id*の変化を検出する。具体的には、差動変化検出部175は、式(5)に示すように、差動電流Id*の変化量ΔId*を算出し、変化量ΔId*が閾値K1以上である場合に、差動電流Id*の変化を検出する。より詳細には、差動電流Id*は周期的に変化するため、変化量ΔId*は周期的に変化する。そのため、差動変化検出部175は、変化量ΔId*が閾値K1以上となってから(すなわち、差動電流Id*の変化を検出してから)一定の時間Ta(例えば、1/4サイクル)が経過するまで、差動電流Id*の変化の検出を継続する。
比率変化検出部176は、抑制電流Ir*に対する差動電流Id*の比率(以下、単に「電流比率」とも称する。)の変化を検出する。具体的には、比率変化検出部176は、式(6)に示すように、変化量Δ(Id*/Ir*)を算出し、変化量Δ(Id*/Ir*)が閾値K2以上である場合に、電流比率の変化を検出する。より詳細には、差動電流Id*および抑制電流Ir*は周期的に変化するため、変化量Δ(Id*/Ir*)は周期的に変化する。そのため、比率変化検出部176は、変化量Δ(Id*/Ir*)が閾値K2以上となってから(すなわち、電流比率の変化を検出してから)一定の時間Ta(例えば、1/4サイクル)が経過するまで、電流比率の変化の検出を継続する。
図5は、実施の形態1に従う保護リレー装置10の出力制御部の構成を示すブロック図である。保護リレー装置10は、図4に示す機能構成に加えて、出力制御部40をさらに含む。
差動リレー部20は、比率差動リレー要素220の演算結果が“動作”を示す場合(すなわち、比率差動リレー要素220が動作する場合)、値“1”の信号Saを出力し、当該演算結果が“不動作”を示す場合、値“0”の信号Saを出力する。
差動変化検出部175は、判定器175Aと、復帰タイマ175Bとを含む。判定器175Aは、変化量ΔId*が閾値K1以上である(すなわち、ΔId*≧K1が成立)場合には値“1”を出力し、変化量ΔId*が閾値K1未満である(すなわち、ΔId*≧K1が不成立)場合には値“0”を出力する。復帰タイマ175Bは、判定器175Aが値“1”を出力した場合、その値を時間Ta(例えば、1/4サイクル)の間維持する。したがって、判定器175Aが値“1”を出力してから時間Taが経過する前に、判定器175Aが値“0”を出力した場合であっても、復帰タイマ175Bから出力される値は“1”となる。復帰タイマ175Bからの出力値は、差動変化検出部175の検出結果に対応する。具体的には、出力値“1”は、差動変化検出部175が差動電流Id*の変化を検出したことを示し、出力値“0”は、差動変化検出部175が差動電流Id*の変化を検出していないことを示している。
比率変化検出部176は、判定器176Aと、復帰タイマ176Bとを含む。定器176Aは、変化量Δ(Id*/Ir*)が閾値K2以上である(すなわち、Δ(Id*/Ir*)≧K2が成立)場合には値“1”を出力し、変化量Δ(Id*/Ir*)が閾値K2未満である(すなわち、Δ(Id*/Ir*)≧K2が不成立)場合には値“0”を出力する。復帰タイマ176Bは、判定器176Aが値“1”を出力した場合、その値を時間Ta(例えば、1/4サイクル)の間維持する。復帰タイマ176Bからの出力値は、比率変化検出部176の検出結果に対応する。具体的には、出力値“1”は、比率変化検出部176が電流比率の変化を検出したことを示し、出力値“0”は、比率変化検出部176が電流比率の変化を検出していないことを示している。
出力制御部40は、差動電流Id*の変化の検出結果および電流比率の変化の検出結果と、比率差動リレー要素220の演算結果とに基づいて、変圧器6を保護するための動作信号(例えば、トリップ信号TR)を出力する。具体的には、出力制御部40は、ANDゲート181と、NOTゲート182と、動作タイマ183と、復帰タイマ184と、ORゲート185と、ANDゲート186とを含む。
ANDゲート181は、差動変化検出部175の出力値を反転した値と、比率変化検出部176の出力値を反転した値とのAND演算を行なう。具体的には、差動変化検出部175により差動電流Id*の変化が検出されず、かつ、比率変化検出部176により電流比率の変化が検出されない場合に、ANDゲート181は、値“1”の信号Sbを出力する。一方、差動電流Id*の変化および電流比率の変化のうちの少なくとも一方の変化が検出された場合に、ANDゲート181は、値“0”の信号Sbを出力する。
NOTゲート182は、ANDゲート181の出力値のNOT演算を行ない、信号Scを出力する。具体的には、信号Scの値は、信号Sbの値を反転した値である。
動作タイマ183は、NOTゲート182の信号Scの値“1”が時間Tоp1(例えば、1サイクル)以上継続した場合に、値“1”を復帰タイマ184に出力する。具体的には、信号Scの値が“1”の場合は、信号Sbの値が“0”の場合である。そのため、差動電流Id*の変化および電流比率の変化のうちの少なくとも一方の変化が検出されてから、差動電流Id*の変化および電流比率の変化のいずれも検出されなくなるまでの時間(以下、「検出継続時間」とも称する。)が時間Tоp1以上である場合に、動作タイマ183は、値“1”を復帰タイマ184に出力する。
例えば、差動電流Id*の変化の検出が、時刻tx0~時刻tx2まで継続し、電流比率の変化の検出が、時刻tx1~時刻tx3まで継続したとする。なお、過去<時刻tx0<時刻tx1<時刻tx2<時刻tx3<現在の順の時系列である。この場合、検出継続時間は、差動電流Id*の変化の検出が開始される時刻tx0から、電流比率の変化の検出が終了する時刻tx3までの時間となる。
復帰タイマ184は、動作タイマ183が値“1”を出力した場合、その値を時間Tre(例えば、2~3サイクル)の間維持する。時間Treは時間Tоp1よりも長く設定される。
ORゲート185は、NOTゲート182および復帰タイマ184の各出力値のOR演算を行なう。具体的には、これらの各出力値の少なくとも1つが”1”である場合には、ORゲート185は、値“1”の信号Sdを出力し、そうではない場合には値“0”の信号Sdを出力する。
差動電流Id*の変化および電流比率の変化のうちの少なくとも一方が検出されている場合に、信号Sdの値は“1”となる。また、信号Scの値“1”が時間Tоp1以上継続した場合において、現時点では差動電流Id*の変化および電流比率の変化のいずれも検出されていないが、これらが検出されなくなってから時間Tre以内である場合にも、信号Sdの値は“1”となる。一方、差動電流Id*の変化および電流比率の変化が検出されなくなってから時間Treよりも長い時間が経過した場合に、信号Sdの値は“0”となる。
ANDゲート186は、差動リレー部20の出力値と、ORゲート185の出力の論理レベルを反転した値とのAND演算を行ない、信号Seを出力する。典型的には、値“1”の信号Seの出力に応じてトリップ信号TRが出力され、遮断器31,32が開放され、変圧器6は電力系統から分離される。例えば、差動リレー部20が動作しており(すなわち、信号Saの値が“1”)、かつ信号Sdの値が“0”である場合に、ANDゲート186は、値“1”の信号Seを出力する。そうではない場合に、ANDゲート186は、値“0”の信号Seを出力する。したがって、差動リレー部20が動作していても、差動電流Id*の変化および電流比率の変化の少なくとも一方が検出されている場合(すなわち、差動変化検出部175の出力値および比率変化検出部176の出力値のうちの少なくとも一方が“1”の場合)には、差動リレー部20による動作出力はロックされる。
上記より、出力制御部40は、次のような機能を有する。差動電流Id*の変化および電流比率の変化のうちの少なくとも一方の変化が検出された場合には比率差動リレー要素220が動作する場合であっても、出力制御部40は、変圧器6を保護するための動作信号(例えば、トリップ信号TR)を出力しない。差動電流Id*の変化および電流比率の変化のいずれも検出されない場合には比率差動リレー要素220が動作する場合に、出力制御部40はトリップ信号TRを出力する。
より具体的には、差動電流Id*の変化および電流比率の変化のうちの少なくとも一方の変化が検出されてから、差動電流Id*の変化および電流比率の変化のいずれも検出されなくなるまでの検出継続時間が時間Tоp1未満である場合には、差動電流Id*の変化および電流比率の変化のいずれも検出されなくなったときに比率差動リレー要素220が動作している場合に、出力制御部40はトリップ信号TRを出力する。検出継続時間が時間Tоp1以上である場合には、差動電流Id*の変化および電流比率の変化のいずれも検出されなくなってから時間Tre経過後に比率差動リレー要素220が動作している場合に、出力制御部40はトリップ信号TRを出力する。
<動作例>
図6~図10を参照して、保護リレー装置10の動作例について説明する。以下の説明では、変化検出部30が「差動電流Id*の変化および電流比率の変化のうちの少なくとも一方の変化」を検出することを、単に、変化検出部30が「電流変化」を検出するとも記載する。また、変化検出部30が「差動電流Id*の変化および電流比率の変化のいずれも検出しない」ことを、単に、変化検出部30が「電流変化」を検出しないとも記載する。
(インラッシュ発生時)
図6は、インラッシュ電流発生時における保護リレー装置10の動作例を説明するための図である。図6を参照して、時刻t1にインラッシュ電流が発生する。変化検出部30が電流変化を検出する(例えば、変化量ΔId*が大きくなる)ため、時刻t2において、信号Sbは値“0”となり、それに応じて信号Scは値“1”、信号Sdは値“1”となる。
時刻t3において、差動電流となるインラッシュ電流の影響により差動リレー部20が動作するため、信号Saが値“1”となる。ここで、直流成分を除去するフィルタ処理で必要とされるデータ長と変化検出を継続させる時間Taとを考慮した電流変化の検出時間は、基本波成分を抽出するフィルタ処理で必要とされるデータ長と当該フィルタ処理後の実効値演算で必要とされるデータ長とを考慮した差動リレー部20の動作判定時間よりも短い。したがって、インラッシュ電流発生時における変化検出部30による電流変化の検出は、差動リレー部20の動作よりも早いため、信号Sbが値“0”になった後に信号Saが値“1”となる。したがって、信号Seは値“1”にはならず、差動リレー部20の動作出力はロックされる。
時刻t4~時刻t5において、信号Sbが一時的に値“1”となり、時刻t5~時刻t6において信号Sbが一時的に値“0”となっている。これは、インラッシュ電流が時間経過により減衰していく際に、変化量ΔId*および変化量Δ(Id*/Ir*)が不安定になるために生じる。ただし、信号Sbが一時的に復帰(すなわち、値が“1”)して信号Scが値“0”となった場合でも、信号Scが値“1”を維持する継続時間が時間Tоp1以上となっているため、信号Sdがすぐに値“0”にはならない。そのため、差動リレー部20の動作出力のロックは継続され、信号Seは値“1”にはならない。
時刻t6において、信号Sbが値“1”および信号Scが値“0”となる。時刻t7において、インラッシュ電流がなくなると、差動リレー部20は不動作となり信号Saは値“0”となる。時刻t8において、信号Scが“0”になってから時間Treが経過すると、信号Sdは値“0”となる。
このように、保護リレー装置10は、インラッシュ電流発生時に誤動作(例えば、トリップ信号TRを出力する)することはない。
(内部故障発生時)
図7は、内部故障発生時における保護リレー装置10の動作例を説明するための図である。ここでは、CT飽和は発生していないものとする。図7を参照して、時刻ta1に内部故障が発生する。これにより、変化検出部30により電流変化が検出される(例えば、変化量ΔId*が大きくなる)ため、時刻ta2において、信号Sbは値“0”となり、それに応じて信号Scは値“1”、信号Sdは値“1”となる。
時刻ta3において、内部故障により差動リレー部20が動作するため、信号Saが値“1”となる。変化検出部30による電流変化の検出は、差動リレー部20の動作よりも早いため、信号Sbが値“0”になった後に信号Saが値“1”となる。したがって、信号Seは値“1”にはならず、差動リレー部20の動作出力はロックされる。
CT飽和がない内部故障時では、一般的に故障中の電流実効値はほぼ一定(すなわち、電流実効値の変化が大きくない)ため、実効値電流は故障発生直後の電流急増後速やかにほぼ一定値になる。したがって、時刻ta4において、変化検出部30により電流変化が検出されなくなると、信号Sbは値“1”となり、それに応じて信号Scは値“0”となる。ここで、信号Scが値“1”を維持する継続時間は時間Tоp1未満である。なお、時間Tоp1は、CT飽和がない内部故障発生時において、値“1”の信号Scの出力継続時間の最大値より長く設定され、例えば、1サイクルにマージンを加えた1~1.2サイクル程度に設定される。時刻ta4において信号Sdもすぐに値“0”となるため、差動リレー部20の動作出力のロックが解除され、信号Seは値“1”となり、トリップ信号TRが出力される。その後、時刻ta5において、内部故障が除去されると、信号Saが値“0”となり、それに伴い信号Seも値“0”となる。
上記のように、CT非飽和かつ内部故障発生時においては、差動電流Id*および電流比率の変化が速やかに収束するため、当該収束後すぐに内部故障を除去できる。
なお、従来、インラッシュ電流に含まれる第2高調波の含有率が一定以上であることを検出して比率差動リレー要素をロックして誤動作を防止する方式(以下、「第2高調波ロック方式」とも称する。)があった。第2高調波ロック方式では、第2高調波抽出フィルタおよび基本波成分抽出フィルタの2種類を用意して各々のフィルタ処理後のデータに対して実効値演算等して判定が行われる。第2高調波ロック方式では、フィルタ処理に比較的長いデータ長を必要としていたので、内部故障時での過渡的なロック時間は比較的長く、例えば、0.5~1サイクルであった。
一方、実施の形態1に従うフィルタ171,172のフィルタ処理で必要とされるデータ長と、変化検出を継続させる時間Taとは短いため、内部故障での動作遅れを第2高調波ロック方式よりも短くする(例えば、0.5サイクル未満にする)ことができる。そのため、保護リレー装置10はより高速に動作(例えば、トリップ信号TRを出力する)ことができる。
(外部故障発生時)
図8は、外部故障発生時における保護リレー装置10の動作例を説明するための図である。ここでは、CT飽和は発生していないものとする。図8を参照して、時刻tb1に外部故障が発生する。変化検出部30により電流変化が検出されるため、時刻tb2において、信号Sbは値“0”となり、それに応じて信号Scは値“1”、信号Sdは値“1”となる。
CT飽和のない内部故障時と同様に、時刻tb3において、変化検出部30により電流変化が検出されなくなるため、信号Sbは値“0”となり、それに応じて信号Scは値“1”となる。ここで、信号Scが値“1”を維持する継続時間は時間Tоp1未満であるため、信号Sdもすぐに値“0”となる。なお、外部故障発生時には信号Saが値“0”で維持されるため、信号Seも値“0”で維持される。そのため、保護リレー装置10が誤動作することはない。
(CT飽和かつ内部故障発生時)
図9は、CT飽和かつ内部故障発生時における保護リレー装置10の動作例を説明するための図である。図9を参照して、時刻tc1に内部故障が発生する。変化検出部30により電流変化が検出されるため、時刻tc2において、信号Sbは値“0”となり、それに応じて信号Scは値“1”、信号Sdは値“1”となる。
時刻tc3において、内部故障により差動リレー部20が動作するため、信号Saが値“1”となる。信号Sbが値“0”になった後に信号Saが値“1”となるため、信号Seは値“1”にはならず、差動リレー部20の動作出力はロックされる。
ここで、内部故障時かつCT飽和の場合には、変化検出部30による電流変化の検出が継続するため、信号Sbが値“0”で維持される。これに伴い、信号Scが値“1”で維持され、信号Sdが値“1”で維持される。
CT飽和が減衰して、時刻tc4において、CT飽和が解消されると、変化検出部30による電流変化が検出されなくなるため、信号Sbが値“1”となり、これに伴って信号Scが値“0”となる。信号Scが値“1”を維持する継続時間は時間Tоp1以上であるため、信号Sdは、時刻tc4から時間Tre経過後の時刻tc5に値“0”となる。これにより、時刻tc5において、差動リレー部20の動作出力のロックが解除され、信号Seは値“1”となり、トリップ信号TRが出力される。
上記のように、CT飽和かつ内部故障発生時においては、差動電流Id*および電流比率の変化が収束してから時間Tre後に、保護リレー装置10は動作する。
従来の第2高調波ロック方式でも、CT飽和波形に第2高調波成分が含まれるため、内部故障時の動作はロックされていた。しかし、第2高調波ロック方式では、フィルタ処理に比較的長いデータ長を必要としていたので、CT飽和減衰後のロック時間は比較的長かった。一方、実施の形態1に従うフィルタ171,172のフィルタ処理で必要とされるデータ長は短く、かつ、CT飽和時の変化検出の継続に必要な復帰タイマ時間(例えば、時間Ta)も短いため、CT飽和解消後のロック時間は、第2高調波ロック方式よりも短くすることができる。そのため、保護リレー装置10はより高速に動作(例えば、トリップ信号TRを出力する)ことができる。
(CT飽和かつ外部故障発生時)
図10は、CT飽和かつ外部故障発生時における保護リレー装置10の動作例を説明するための図である。図10を参照して、時刻td1に外部故障が発生する。変化検出部30によって電流変化が検出されるため、時刻td2において、信号Sbは値“0”となり、それに応じて信号Scは値“1”、信号Sdは値“1”となる。
時刻td3において、CT飽和の影響により差動リレー部20が動作するため、信号Saが値“1”となる。しかし、信号Sdは値“1”を維持しているため、信号Seは値“1”にはならず、差動リレー部20の動作出力はロックされる。
ここで、CT飽和かつ外部故障発生時の場合には、変化検出部30による電流変化の検出は継続されるため、信号Sbが値“0”で維持される。これに伴い、信号Scが値“1”で維持され、信号Sdが値“1”で維持される。この場合、変化検出部30は、変化量ΔIdと、変化量Δ(Id*/Ir*)の両方の変化を検出するが、特に変化量Δ(Id*/Ir*)の変化が顕著となる。そのため、より信頼性の高い検出が可能である。
時刻td4において、CT飽和が解消されると、変化検出部30によって電流変化が検出されなくなるため、信号Sbが値“1”となり、これに伴って信号Scが値“0”となる。また、時刻td5において、差動リレー部20が不動作となり、信号Saが値“0”となる。そして、信号Scが値“1”を維持する継続時間は時間Tоp1以上であるため、信号Sdは、時刻td4から時間Tre経過後の時刻td6に値“0”となる。そのため、信号Seが値“1”になることはなく、CT飽和かつ外部故障発生時において、保護リレー装置10が誤動作することはない。
<利点>
実施の形態1によると、インラッシュ電流発生時、およびCT飽和かつ外部故障発生時において誤動作を防止できる。また、CT非飽和かつ内部故障発生時において、従来の第2高調波ロック方式と比較して高速動作が可能となる。変化量Δ(Id*/Ir*)を採用することにより、特に外部故障でCT飽和のある場合に変化検出の信頼性が高く、その結果、より精度よく誤動作を防止することができる。
実施の形態2.
実施の形態1では、内部故障時にCT飽和が発生した場合、CT飽和が解消して電流変化の検出がなくなるまで保護リレー装置10が動作できなかった。実施の形態2では、差動リレー部をさらに追加することにより、内部故障時にCT飽和が発生した場合に、保護リレー装置10の動作遅れを抑制する構成について説明する。
図11は、実施の形態2に従う保護リレー装置10Aの機能構成の一部を示す図である。図11を参照して、保護リレー装置10Aは、差動リレー部20,20Aと、変化検出部30と、出力制御部40Aとを含む。出力制御部40Aは、動作タイマ183Aと、ANDゲート186と、ORゲート190とを含む。なお、出力制御部40Aは、ANDゲート181と、NOTゲート182と、動作タイマ183と、復帰タイマ184と、ORゲート185とを含むが、これらは、図解の容易化のため図示されていない。
差動リレー部20Aは、差動リレー部20と同様に、フィルタ部と、比率差動リレー要素とを有する。差動リレー部20Aの比率差動リレー要素は、抑制電流Irおよび差動電流Idに基づいて比率差動リレー演算を実行するが、当該比率差動リレー要素の動作域は、差動リレー部20の比率差動リレー要素220の動作域よりも狭い。
図12は、比率差動特性を説明するための図である。図12では、縦軸が差動電流Idを示し、横軸が抑制電流Irを示す。図12を参照して、グラフ710は、差動リレー部20の比率差動リレー要素220の比率差動特性を示す。グラフ710が示す折れ線よりも上側の領域が比率差動リレー要素220の動作域となる。
グラフ720は、差動リレー部20Aの比率差動リレー要素の比率差動特性を示す。グラフ720が示す折れ線よりも上側の領域が当該比率差動リレー要素の動作域となる。そのため、差動リレー部20Aの比率差動リレー要素の動作域は、差動リレー部20の比率差動リレー要素220の動作域よりも狭いことが理解される。
ここで、インラッシュ電流が発生している場合、および外部故障時にCT飽和が発生している場合には、抑制電流Irおよび差動電流Idを示す点(Ir,Id)が変動する。領域750は、外部故障かつCT飽和発生時に、点(Ir,Id)が1サイクル中に存在し得る変動範囲を示している。領域760は、インラッシュ電流発生時に、点(Ir,Id)が1サイクル中に存在し得る変動範囲を示している。
領域750,760を参照すると、外部故障かつCT飽和発生時、およびインラッシュ電流発生時のいずれの場合でも、点(Ir,Id)はグラフ710で示される比率差動リレー要素220の動作域内に存在する時間が比較的長く、1サイクルを超える場合がある。一方、点(Ir,Id)は、1サイクル中において、グラフ720で示される比率差動リレー要素の動作域外に存在するタイミングが必ずある。そのため、点(Ir,Id)がグラフ720で示される比率差動リレー要素の動作域に1サイクル以上の期間存在する場合には、外部故障かつCT飽和の発生でも、インラッシュ電流の発生でもなく、内部故障の発生を示している。
再び、図11を参照して、動作タイマ183Aは、差動リレー部20Aの比率差動リレー要素の動作出力を示す値“1”が時間Tоp2以上継続した場合(例えば、グラフ720で示される比率差動リレー要素の動作域に点(Ir,Id)が時間Tоp2以上継続して存在する場合)に、値“1”の信号Sa1をORゲート190に出力する。時間Tоp2は、例えば、1サイクルに0.2~0.5サイクルのマージンを加えた1.2~1.5サイクルに設定される。
ORゲート190は、動作タイマ183Aの出力値と、ANDゲート186の出力値ととのOR演算を実行して、信号Se1を出力する。典型的には、値“1”の信号Se1の出力に応じてトリップ信号TRが出力される。このことから、信号Seの値が“0”であっても、信号Sa1の値が“1”である場合にはトリップ信号TRが出力される。これにより、内部故障時にCT飽和が発生して変化検出部30による電流変化の検出が継続している場合であっても、差動リレー部20Aの比率差動リレー要素が時間Tоp2以上継続して動作している場合には、トリップ信号TRが出力される。
図13は、CT飽和かつ内部故障発生時における保護リレー装置10Aの動作例を説明するための図である。図13を参照して、時刻te1に内部故障が発生する。変化検出部30により電流変化が検出されるため、時刻te2において、信号Sbは値“0”となり、それに応じて信号Scは値“1”、信号Sdは値“1”となる。
時刻te3において、内部故障により差動リレー部20が動作するため、信号Saが値“1”となる。このとき、差動リレー部20Aも動作する。なお、信号Sbが値“0”になった後に信号Saが値“1”となるため、信号Seは値“1”にはならない。
ここで、内部故障時かつCT飽和の場合には、変化検出部30による電流変化の検出は継続されるため、信号Sbが値“0”で維持される。これに伴い、信号Scが値“1”で維持され、信号Sdが値“1”で維持される。
時刻te4において、差動リレー部20Aの動作が時間Tоp2以上継続すると、信号Sa1の値が“1”になる。これにより、信号Se1の値が“1”となり、トリップ信号TRが出力される。
時刻te5において、CT飽和が解消されると、変化検出部30によって電流変化が検出されなくなるため、信号Sbが値“1”となり、これに伴って信号Scが値“0”となる。信号Scが値“1”を維持する継続時間は時間Tоp1以上であるため、信号Sdは、時刻te5から時間Tre経過後の時刻te6に値“0”となる。これにより、時刻te6において、差動リレー部20の動作出力のロックが解除され、信号Seは値“1”となる。
上記のように、CT飽和が発生している際の内部故障時においては、変化検出部30によって電流変化の検出が継続している場合であっても、時間Tоp2以上継続して差動リレー部20Aの比率差動リレー要素が動作している場合には、出力制御部40Aはトリップ信号TRを出力する。
<変形例>
上述した実施の形態2では、差動リレー部20よりも動作域の狭い差動リレー部20Aを追加する構成について説明した。実施の形態2の変形例では、差動リレー部20Aを追加せずに、CT飽和が発生している際の内部故障時において、保護リレー装置の動作遅れを抑制する構成について説明する。
図14は、実施の形態2の変形例に従う保護リレー装置10Bの機能構成の一例を示す図である。図14を参照して、保護リレー装置10Bは、差動リレー部20と、変化検出部30と、出力制御部40Bとを含む。出力制御部40Bは、動作タイマ183Bと、ANDゲート186と、ORゲート190Bとを含む。なお、出力制御部40Bは、ANDゲート181と、NOTゲート182と、動作タイマ183と、復帰タイマ184と、ORゲート185とを含むが、これらは、図解の容易化のため図示されていない。
実施の形態2の変形例では、実施の形態2と同様に、グラフ710のように比率差動リレー要素220の比率差動特性が設定されるが、差動リレー部20Aが追加されないため、グラフ720に対応する比率差動特性は存在しない。
ここで、外部故障かつCT飽和発生時、あるいはインラッシュ電流の発生時において、点(Ir,Id)が比率差動リレー要素220の動作域内に存在する時間は、1サイクルを超える場合があるが、2サイクルを超えることはないものとする。この場合、2サイクル以上の期間、点(Ir,Id)がグラフ710で示される動作域に存在するときには、外部故障かつCT飽和の発生でも、インラッシュ電流の発生でもなく、内部故障の発生を示している。
動作タイマ183Bは、差動リレー部20の動作出力を示す値“1”が時間Tоp3以上継続した場合(例えば、グラフ710で示される比率差動リレー要素の動作域に点(Ir,Id)が時間Tоp3以上継続して存在する場合)に、値“1”の信号Sa1をORゲート190に出力する。時間Tоp3は、例えば、2サイクルに0.5サイクルのマージンを加えた2.5サイクルに設定される。このように、時間Tоp3は、時間Tоp1および時間Tоp2よりも長く設定される。
ORゲート190Bは、動作タイマ183Bの出力値と、ANDゲート186の出力値とのOR演算を実行して、信号Se1を出力する。典型的には、値“1”の信号Se1の出力に応じてトリップ信号TRが出力される。このことから、信号Seの値が“0”であっても、信号Sa1の値が“1”である場合にはトリップ信号TRが出力される。これにより、内部故障時にCT飽和が発生し、変化検出部30によって電流変化の検出が継続している場合であっても、時間Tоp3以上継続して差動リレー部20が動作している場合には、出力制御部40Bはトリップ信号TRを出力する。
<利点>
実施の形態1の利点に加えて、内部故障時にCT飽和が発生した場合でも、保護リレー装置の動作遅れを最小限に抑えることができる。
その他の実施の形態.
(1)上述した実施の形態では、保護リレー装置10が変圧器保護用の保護リレー装置である場合について説明したが当該構成に限られない。例えば、保護リレー装置10は、送電線等を保護するための比率差動リレー装置として適用されてもよい。
(2)上述した実施の形態では、変化検出部30は、変化量ΔId*を用いて差動電流Id*の変化を検出し、変化量Δ(Id*/Ir*)を用いて電流比率の変化を検出する構成について説明したが当該構成に限られない。例えば、変化率ΔId*xを用いて差動電流Id*の変化を検出し、変化率Δ(Id*/Ir*)xを用いて電流比率の変化を検出してもよい。変化率ΔId*xは式(7)で表され、変化率Δ(Id*/Ir*)xは式(8)で表される。
ΔId*x=|Id*(t)-Id*(t-1)|/Id*(t)・・・(7)
Δ(Id*/Ir*)x=|Id*(t)/Ir*(t)-Id*(t-1)/Ir*(t-1)|/(Id*(t)/Ir(t))・・・(8)
上述の式(7)および式(8)では、現在の時刻tにおける値で割っている。そのため、振れ幅がその時刻の値に対する誤差割合に相当するため、閾値の設定が容易となる。例えば、変化検出部30は、変化率ΔId*xが閾値K1a以上(すなわち、ΔId*x≧K1a)であるか否か、および変化率Δ(Id*/Ir*)xが閾値K2a以上(すなわち、Δ(Id*/Ir*)x≧K2a)であるか否かを判定する。例えば、K1aおよびK2aは0.05である。この場合、誤差が5%未満であれば変化が収束したと判定される。
より具体的には、差動変化検出部175は、変化率ΔId*xが閾値K1a以上である場合に、差動電流Id*の変化を検出する。比率変化検出部176は、変化率Δ(Id*/Ir*)xが閾値K2a以上である場合に、電流比率の変化を検出する。なお、変化検出を時間Ta継続させる点については上記と同様である。
したがって、差動変化検出部175は、変化量ΔId*が閾値K1以上である場合または変化率ΔId*xが閾値K1a以上である場合に、差動電流Id*の変化を検出してもよい。比率変化検出部176は、変化量Δ(Id*/Ir*)が閾値K2以上である場合または変化率Δ(Id*/Ir*)xが閾値K2a以上である場合に、電流比率の変化を検出してもよい。
また、変化率ΔId*xおよび変化率Δ(Id*/Ir*)xの各々について閾値を設けるのではなく、変化率ΔId*xおよび変化率Δ(Id*/Ir*)xを加算した値に対して閾値を設ける構成であってもよい。具体的には、変化率ΔId*xおよび変化率Δ(Id*/Ir*)xの加算値ΔDは式(9)で表される。
ΔD(t)=ΔId*x+Δ(Id*/Ir*)x・・・(9)
変化検出部30は、変化率ΔId*xおよび変化率Δ(Id*/Ir*)xの加算値ΔDが閾値Kd以上であるか否かを判定する。より具体的には、変化検出部30は、加算値ΔDが閾値Kd以上である場合に、差動電流Id*の変化および電流比率の変化のうちの少なくとも一方の変化を検出する。
(3)上述した実施の形態では、変化検出部30が、変化量ΔId*を用いて差動電流Id*の変化を検出する構成について説明したが、当該構成に限られない。変化検出部30は、差動電流Id*の変化を検出する代わりに、変化量ΔIr*を用いて抑制電流Ir*の変化を検出してもよい。変化量ΔIr*は以下の式(10)で表される。
ΔIr*=Ir*(t)-Ir*(t-1)・・・(10)
インラッシュ電流は、電流が大きく変化する時間帯と、電流が変化しない時間帯とが1サイクルの間に交互に現れる波形である。そのため、インラッシュ電流が発生している間は、差動電流Idだけでなく抑制電流Irも継続して変化する。したがって、インラッシュ電流発生中においては、変化量ΔId*と同様に変化量ΔIr*も一定値以上となる。
また、図2から理解されるように、内部故障発生時における抑制電流Irは差動電流Idと同様に変化する。具体的には、CT非飽和かつ内部故障発生時において、変化量ΔIr*は、内部故障発生後に一時急増し、その後速やかに一定値以下になる。また、CT飽和かつ内部故障発生時において、抑制電流Irの変化は継続するため、変化量ΔIr*は一定値以上となる。CT非飽和かつ外部故障発生時において、変化量ΔIr*は、外部故障発生後に一時急増し、その後速やかに一定値以下になる。また、CT飽和かつ外部故障発生時において、抑制電流Irの変化は継続するため、変化量ΔIr*は一定値以上となる。
このように、インラッシュ電流発生時、CT非飽和かつ内部故障発生時、CT非飽和かつ外部故障発生時、CT飽和かつ内部故障発生時、およびCT飽和かつ外部故障発生時において、変化量ΔIr*は、変化量ΔId*と同じように変化する。
そのため、変化検出部30は、差動電流Id*の代わりに変化量ΔIr*の変化を検出してもよい。この場合、変化検出部30は、差動変化検出部175の代わりに抑制変化検出部を含んでもよい。抑制変化検出部は、式(10)に示すように、抑制電流Ir*の変化量ΔIr*を算出し、変化量ΔIr*が閾値K3以上である場合に、抑制電流Ir*の変化を検出する。より具体的には、抑制変化検出部は、変化量ΔIr*が閾値K3以上となってから一定の時間Taが経過するまで、抑制電流Ir*の変化の検出を継続する。閾値K3は、変化量ΔId*の変化検出に用いられる閾値K1と同じであってもよい。なお、変化検出部30は、差動変化検出部175の機能および抑制変化検出部の機能を有する検出部Xを有していてもよい。この場合、検出部Xは、差動電流Id*の変化および抑制電流Ir*の変化のうちの少なくとも一方の変化を検出する。
この場合、出力制御部40は、次のような機能を有する。抑制電流Ir*の変化および電流比率の変化のうちの少なくとも一方の変化が検出された場合には比率差動リレー要素220が動作する場合であっても、出力制御部40はトリップ信号TRを出力しない。抑制電流Ir*の変化および電流比率の変化のいずれも検出されない場合には比率差動リレー要素220が動作する場合に、出力制御部40はトリップ信号TRを出力する。
より具体的には、抑制電流Ir*の変化および電流比率の変化のうちの少なくとも一方の変化の検出が検出されてから、抑制電流Ir*の変化および電流比率の変化のいずれも検出されなくなるまでの検出継続時間が時間Tоp1未満である場合には、抑制電流Ir*の変化および電流比率の変化のいずれも検出されなくなったときに比率差動リレー要素220が動作している場合に、出力制御部40はトリップ信号TRを出力する。検出継続時間が時間Tоp1以上である場合には、抑制電流Ir*の変化および電流比率の変化のいずれも検出されなくなってから時間Tre経過後に比率差動リレー要素220が動作している場合に、出力制御部40はトリップ信号TRを出力する。
なお、変化率ΔIr*xを用いて抑制電流Ir*の変化を検出してもよい。変化率ΔIr*xは式(11)で表される。
ΔIr*x=|Ir*(t)-Ir*(t-1)|/Ir*(t)・・・(11)
変化検出部30は、変化率ΔIr*xが閾値K3a以上(すなわち、ΔIr*x≧K3a)であるか否かを判定する。例えば、K3aは0.05である。より具体的には、抑制変化検出部は、変化率ΔIr*xが閾値K3a以上である場合に、抑制電流Ir*の変化を検出する。このことから、抑制変化検出部は、変化量ΔIr*が閾値K3以上である場合または変化率ΔIr*xが閾値K3a以上である場合に、抑制電流Ir*の変化を検出してもよい。
(4)上述した実施の形態では、図5に示すように、差動電流Id*の変化と、電流比率の変化とを用いて、差動リレー部20による動作出力をロックする構成について説明したが、当該構成に限られない。例えば、差動電流Id*の変化と、抑制電流Ir*の変化と、電流比率の変化とを用いて、差動リレー部20による動作出力をロックしてもよい。この場合、変化検出部30は、差動電流Id*の変化および抑制電流Ir*の変化の両方を検出する。
具体的には、図5において、差動電流Id*の変化が検出されず、抑制電流Ir*の変化が検出されず、かつ、電流比率の変化が検出されない場合に、ANDゲート181が、値“1”の信号Sbを出力する構成としてもよい。この場合、差動電流Id*の変化、抑制電流Ir*の変化および電流比率の変化のうちの少なくとも一方の変化が検出された場合に、ANDゲート181は、値“0”の信号Sbを出力する。
上記構成によると、出力制御部40は、次のような機能を有する。差動電流Id*の変化、抑制電流Ir*の変化および電流比率の変化のうちの少なくとも1つの変化が検出された場合には比率差動リレー要素220が動作する場合であっても、出力制御部40はトリップ信号TRを出力しない。差動電流Id*の変化、抑制電流Ir*の変化および電流比率の変化のいずれも検出されない場合には比率差動リレー要素220が動作する場合に、出力制御部40はトリップ信号TRを出力する。
(5)上述の実施の形態として例示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。また、上述した実施の形態において、他の実施の形態で説明した処理および構成を適宜採用して実施する場合であってもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。