JP7381984B1 - めっき鋼材 - Google Patents

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Abstract

このめっき鋼材は、鋼材とめっき層とを有するめっき鋼材であって、めっき層の平均化学組成が、Al:0.2~4.0%未満、Mg:4.0%超~12.5%未満、Ca:0.15%~3.00%未満、Zn:65%以上、及び、不純物からなり、めっき層中における任意の垂直断面(厚み方向)において、走査型電子顕微鏡観察視野で観察した際の金属組織が、面積分率で、MgZn2相:10~40%、Al-Zn相:0~15%、Al相(Zn<10%)相:0~5%、CaZn13相:1.0~15%、〔Al/MgZn2/Znの三元共晶組織〕と〔MgZn2/Znの二元共晶組織〕の合計:30%以上、を含む。

Description

本発明は、めっき鋼材に関する。
本願は、2022年02月22日に、日本に出願された特願2022-025405号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
溶融Znめっきを施しためっき鋼材は、防食性能と経済性に優れることから、自動車、建材、鋼構造物、家電製品等に広く用いられている。さらに近年、厳しい腐食環境への溶融Znめっき鋼材の適用ニーズから、耐久性をさらに向上させるため、例えば、特許文献1、特許文献2に示すような、Znにアルミニウム(Al)及びマグネシウム(Mg)を添加した、溶融Zn-Al-Mg系めっきが開発されている。溶融Zn-Al-Mg系めっきは、高耐食性が要求される用途に適用されている。
特に、鋼構造物の多くは一定の耐食性が求められるため、多くの鋼構造物に対してめっき処理がされている。めっき処理された鋼構造物を得るには2通りの方法がある。その1つは、鋼板等を成形、溶接等することにより鋼構造物としてから、鋼構造物をめっき浴に浸漬する方法である。以下、この方法を浸漬めっき法と呼ぶ。別の方法として、予め表面にめっき層が形成されためっき鋼板を成形、溶接等することにより、鋼構造物を製造する方法がある。以下、この方法をプレめっき法と呼ぶ。
浸漬めっき法では、成形後の熱歪の発生、およびめっき凝固時の外観不良の発生の他、鋼構造物をそのままめっき浴に浸漬するために設備が大がかりとなってコスト増になる場合がある。そのため、鋼構造物の製造をオートメーション化できる多くの場合は、後者のプレめっき方法が採用されることが多くなっている。
また、めっき鋼材を用いた鋼構造物の構築には溶接作業が伴う。鋼構造物における溶接は、様々の溶接方式、例えば、アーク溶接、スポット溶接、レーザー溶接などが適用される。これらの中でも、スポット溶接が注目されている。その理由は、スポット溶接は、溶化剤が不要、溶接速度が速い、スラグ・ヒュームが少ない、省人化・作業員の熟練度に左右されにくい、ピンポイントで溶接可能であるため溶接部周囲の熱影響が少ない、異種材料との接合も可能、といった特徴を持つためである。ただし、スポット溶接を施工する際には、溶接対象材の性質、溶接対象材毎の適正電流値、電極の選定などを検討する必要がある。
しかし、めっき鋼材のめっき層は、スポット溶接を困難にすることがある。その理由は、めっき層はスポット溶接時に容易に溶解するためである。特に厚みが10μmを超えるめっき層を備えためっき鋼材の場合には、電気伝導・熱伝導が不安定となって電流が安定せず、適切な溶接ナゲット径が得られない場合がある。すなわち、適正電流範囲の幅が小さくなる。また、溶接時に溶接電極がめっき層に接触した際に、めっき層に含まれるZnやAlといった金属が、溶接電極の主成分であるCuと反応し、溶接電極を損耗させ、電極寿命を短くする場合がある。これらの理由は、めっき鋼材のスポット溶接を難しくする。
更に、Zn-Al-Mg系めっきは、スポット溶接時における連続打点性が低く、溶接時の適正電流範囲が狭いため、溶接性に難があるという短所がある。このことは、溶接を多用する用途、例えば鋼構造物へのZn-Al-Mg系めっき鋼材の適用を妨げてきた。
従って、例えば自動車分野などでは、合金化Znめっき鋼板、溶融Znめっき鋼板など、比較的性質のバラつきが少なく、また、板厚が比較的小さなめっき鋼板にはスポット溶接が使用されるが、それ以外のめっき材料に対してスポット溶接を行う場合は、溶接条件の設定が難しい。このため、例えば、特許文献1、特許文献2に示すような合金系のZn-Al-Mg系めっき鋼板をスポット溶接する場合は、限定的な用途でしか使用されなかった。
溶接性が要求される用途への適用としては、例えば特許文献3、特許文献4の例が挙げられる。しかし、特許文献3では、溶接時の連続打点性が十分でなく、特許文献4は、組成の影響から蒸着での製造となるため、溶融めっきと比較し、コストが高くなる傾向がある。
日本国特開平10-226865号公報 日本国特開2000-104154号公報 日本国特表2018-506644号公報 日本国特表2020-504781号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、スポット溶接時における連続打点性に優れ、スポット溶接時の適正電流範囲を広くすることができ、また、溶接部周囲の耐食性に優れた溶融めっき鋼材を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明の一態様は以下の構成を採用する。
[1]本発明の一態様に係るめっき鋼材は、鋼材と、前記鋼材の表面に備えられためっき層と、を有するめっき鋼材であって、前記めっき層の平均化学組成が、質量%で、
Al:0.2~4.0%未満、
Mg:4.0%超~12.5%未満、
Ca:0.15%~3.00%未満、
Sn:0%~3.0%未満、
Bi:0%~1.0%未満、
In:0%~1.0%未満、
Sc:0%~0.50%未満、
Y :0%~0.50%未満、
La:0%~0.50%未満、
Ce:0%~0.50%未満、
Sr:0%~0.50%未満、
Si:0%~2.50%未満、
B :0%~0.50%未満、
P :0%~0.50%未満、
Cr:0%~0.25%未満、
Ti:0%~0.25%未満、
Ni:0%~1.0%未満、
Co:0%~0.25%未満、
V :0%~0.25%未満、
Nb:0%~0.25%未満、
Cu:0%~1.0%未満、
Mn:0%~0.25%未満、
Mo:0%~0.25%未満、
W :0%~0.25%未満
Zr:0%~0.25%未満、
Fe:0%~5.0%未満、
Ag:0%~1.0%未満、
Li:0%~0.50%未満、
Na:0%~0.05%未満、
K:0%~0.05%未満、
Sb:0%~0.5%未満、
Pb:0%~0.5%未満、
Zn:65%以上、
及び、不純物からなり、
前記めっき層中における厚み方向に沿った断面において、走査型電子顕微鏡によって観察した際の金属組織が、合計25000μm の観察視野における面積分率で、
MgZn相:10~40%、
Al-Zn相:0~15%、
Al相:0~5%、
CaZn13相:1.0~12.5%、
〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕と〔MgZn/Znの二元共晶組織〕の合計:30%以上、
を含む。
[2]上記[1]に記載のめっき鋼材は、前記めっき層の厚み方向に沿った断面における前記金属組織のCaZn13相のうち、円相当直径の大きいものの上位80%のCaZn13相の平均円相当直径が10μm以上であってもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載のめっき鋼材は、前記めっき層の平均化学組成における元素Xの質量濃度%を[X]とした場合、前記めっき層の平均化学組成が下記式(1)を満たしてもよい。
2.5×[Al]+2×[Ca]+[Y]+[Sr]+[La]+[Ce]>[Mg] …(1)
本発明に係る上記態様によれば、スポット溶接時における連続打点性に優れ、スポット溶接時の適正電流範囲を広くすることができ、また耐食性に優れためっき鋼材を提供できる。
図1は、実施例22のめっき層断面における金属組織の反射電子像である。
前述のとおり、Zn-Al-Mg系のめっき層は、Zn合金系のめっき層であり、一般にスポット溶接性を劣化させる材料である。一方で、Zn-Al-Mg系のめっき層は、通常のZnめっき層よりも耐食性が高い。従って、Zn-Al-Mg系のめっき層を備えためっき鋼材は、めっき層のスポット溶接性を改善できれば、鋼構造物の材料として有望なめっき鋼材となる。
本発明者は、めっき鋼材の溶接性と耐食性を向上させるべく鋭意検討した。その結果、めっき層中に塊状に存在するAl相が、スポット溶接性を不安定にする要因であることをつきとめた。ここでいう「Al相」とは、Zn濃度が10%未満のAl相である。Zn濃度が10%未満のAl相が多量に生成すると、溶接時の適正電流範囲を狭くする。逆に、このAl相を減少させることで、適正電流範囲が広くなり溶接しやすいめっき層になることが判明した。
さらに、めっき層中にMg、Caなどの元素を適切に含有させることで、適正電流値がより広くなることを見出した。また、めっき層中にMg、Caを適量含有させることで、これらの元素がスポット溶接時にCu電極表面にCa-Mg系等の酸化被膜を形成させ、この酸化被膜がCu電極とめっき層中のAlとの反応を阻害して、結果、電極の寿命を向上させることを見出した。
また、本実施形態に係るめっき鋼材は、特に溶接部の耐食性に優れる。これは、めっき層中において多くの体積分率を占めるCaZn13およびMgZn相の平均結晶粒径が大きくなって、さらに面積分率が高まることで、溶接時にCu電極と反応しにくくなり、これによりめっき層自体が溶解しにくくなるためである。めっき層自体が溶解しにくくなると、めっき層の溶接部周囲の損傷が最小限になって、めっき層の残存量を多くすることができ、結果、溶接部の耐食性を向上できる。
以下、本発明の実施形態であるめっき鋼材について説明する。
本実施形態のめっき鋼材は、鋼材と、鋼材の表面に備えられためっき層と、を有するめっき鋼材であって、めっき層の平均化学組成が、質量%で、Al:0.2~4.0%未満、Mg:4.0%超~12.5%未満、Ca:0.15%~3.00%未満、Sn:0%~3.0%未満、Bi:0%~1.0%未満、In:0%~1.0%未満、Sc:0%~0.50%未満、Y:0%~0.50%未満、La:0%~0.50%未満、Ce:0%~0.50%未満、Sr:0%~0.50%未満、Si:0%~2.50%未満、B:0%~0.50%未満、P:0%~0.50%未満、Cr:0%~0.25%未満、Ti:0%~0.25%未満、Ni:0%~1.0%未満、Co:0%~0.25%未満、V:0%~0.25%未満、Nb:0%~0.25%未満、Cu:0%~1.0%未満、Mn:0%~0.25%未満、Mo:0%~0.25%未満、W:0%~0.25%未満、Zr:0%~0.25%未満、Fe:0%~5.0%未満、Ag:0%~1.0%未満、Li:0%~0.50%未満、Na:0%~0.05%未満、K:0%~0.05%未満、Sb:0%~0.5%未満、Pb:0%~0.5%未満、Zn:65%以上、及び、不純物からなり、めっき層中における厚み方向に沿った断面において、走査型電子顕微鏡観察視野で観察した際の金属組織が、面積分率で、MgZn相:10~40%、Al-Zn相:0~15%、Al相(Zn<10%の相):0~5%、CaZn13相:1.0~15.0%、〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕と〔MgZn/Znの二元共晶組織〕の合計:30.0%以上、を含むものである。
また、めっき層の厚み方向に沿った断面における前記金属組織のCaZn13相のうち、円相当直径の大きい順で上位80%のCaZn13相の平均円相当直径が10μm以上であることが好ましい。
更に、めっき層の平均化学組成における元素Xの質量濃度%を[X]とした場合、めっき層の平均化学組成が下記式(1)を満たすことが好ましい。
2.5×[Al]+2×[Ca]+[Y]+[Sr]+[La]+[Ce]>[Mg] …(1)
以下の説明において、化学組成の各元素の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。また、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。なお、「~」の前後に記載される数値に「超」または「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値または上限値として含まない範囲を意味する。
「耐食性」とは、めっき層自体の腐食し難い性質を示す。Zn系のめっき層は、鋼材に対して犠牲防食作用があるため、鋼材が腐食する前にめっき層が腐食し白錆化して、白錆化しためっき層が消滅した後、鋼材が腐食し赤錆を生じるのがめっき鋼材の腐食過程である。
「適正電流範囲」とは、溶接用語であり、例えば、めっき鋼材の厚みをt(mm)としたとき、スポット溶接が施された二枚の重ね鋼材の中央部に形成されるナゲットの径が4×√tとなる場合の電流値と、チリが発生するまでの電流値との差である。適正電流範囲が大きいほど、溶接しやすい材料と評価され、適正電流範囲が狭いほど、適切なサイズのナゲットが形成されないため、溶接しにくい材料であると評価される。適正電流範囲は、いわゆるウェルドローブ曲線から判断される。
スポット溶接における「連続打点性」とは、一定の溶接条件下で所定のナゲット径を下回らない打点数でもって評価する溶接性の指標の1つである。具体的には、電極を交換することなく、適正電流範囲の中央値を溶接電流とする溶接を連続して行った場合に、所定のナゲット径が得られなくなるまでの溶接回数が多いほど、連続打点性に優れると評価する。連続打点性に優れるめっき鋼材は、製造コスト的に有利になる。
鋼材の形状には、特に制限はない、鋼材は、鋼板の他、鋼管、土木・建築材(柵渠、コルゲートパイプ、排水溝蓋、飛砂防止板、ボルト、金網、ガードレール、止水壁等)、屋根材、家電部材(エアコンの室外機の筐体等)、自動車外板、部品(足回り部材等)などが挙げられる。
鋼材の材質には、特に制限はない。鋼材は、例えば、一般鋼、Alキルド鋼、極低炭素鋼、高炭素鋼、各種高張力鋼、一部の高合金鋼(Ni、Cr等の強化元素含有鋼等)などの各種の鋼材が適用可能である。また、鋼材は、鋼材の製造方法、鋼板の製造方法(熱間圧延方法、酸洗方法、冷延方法等)等の条件についても、特に制限されるものではない。更に、鋼材は、Zn、Ni、Sn、またはこれらの合金系等の1μm未満の金属膜または合金膜が形成された鋼材を使用してもよい。
次に、めっき層について説明する。
本実施形態に係るめっき層は、Zn-Al-Mg系合金層からなる。また、めっき層には、Al-Fe合金層を含んでもよい。Zn-Al-Mg系合金層は、Znめっき層と同等以上の耐食性を有する。従って、本実施形態のめっき層も、Znめっき層と同等以上の耐食性を備えている。
Al-Fe合金層は、鋼材とZn-Al-Mg合金層との間にある界面合金層である。つまり、本実施形態に係るめっき層は、Zn-Al-Mg合金層の単層構造であってもよく、Zn-Al-Mg合金層とAl-Fe合金層とを含む積層構造であってもよい。また、めっき層の最表面には、めっき層構成元素の酸化被膜が1μm未満程度の厚みで形成しているが、この酸化被膜はめっき層全体の厚さに対して薄いため、めっき層の主体からは無視される。
めっき層の全体の厚みは、5~80μmとすることが好ましい。一般に、めっき層の厚みは、スポット溶接において溶接性を左右する項目であり、通常、20μm以上のめっき層は溶接には不適である。しかし、本実施形態のめっき鋼材は、スポット溶接時の適正電流範囲を広くできるため、めっき層の厚みが最大で80μmであっても溶接可能である。よって、めっき層の厚みは80μm以下とすることが好ましい。また、めっき層の厚みが5μm未満になると、耐食性が低下するので、めっき層は5μm以上がよい。
めっき層にAl-Fe合金層が含まれる場合のAl-Fe合金層の厚みは、数10nm~5μm前後であり、これは、上層のZn-Al-Mg合金層の厚みの1/10程度の厚み未満である。Al-Fe合金層は、鋼材とZn-Al-Mg系合金層とを結合してめっき層の耐剥離性を向上させる。界面合金層の厚みは、めっき鋼材の製造時のめっき浴温や、めっき浴浸漬時間などの種々の条件によって制御することが可能である。通常、界面合金層は上層のZn-Al-Mg系合金層と比較して融点が高いため、溶接性全体に与える影響は小さく、この程度の厚みを有するAl-Fe合金層を形成することは何ら問題がない。
めっき層全体の厚みは、めっき条件に左右されるため、めっき層全体の厚みは必ずしも5~80μmの範囲に限定されるものではない。めっき層全体の厚みは、通常の溶融めっき法ではめっき浴の粘性および比重が影響する。そして鋼材(めっき原板)の引抜速度およびワイピングの強弱によって、めっき層の厚みが調整される。
Al-Fe合金層は、鋼材表面(具体的には、鋼材とZn-Al-Mg合金層との間)に形成されており、組織としてAlFe相が主相の層である。Al-Fe合金層は、地鉄(鋼材)およびめっき浴の相互の原子拡散によって形成される。製法として溶融めっき法を用いた場合、Al元素を含有するめっき層では、Al-Fe合金層が形成され易い。めっき浴中に一定濃度以上のAlが含有されることから、AlFe相が最も多く形成される。しかし、原子拡散には時間がかかり、また、地鉄に近い部分では、Fe濃度が高くなる部分もある。そのため、Al-Fe合金層は、部分的には、AlFe相、AlFe相、AlFe相などが少量含まれる場合もある。また、めっき浴中にZnも一定濃度含まれることから、Al-Fe合金層には、Znも少量含有される。
めっき層中にSiを含有する場合、Siは、特にAl-Fe合金層中に取り込まれ易く、Al-Fe-Si金属間化合物相が形成される場合がある。同定される金属間化合物相としては、AlFeSi相があり、異性体として、α-AlFeSi相、β-AlFeSi相、q1-AlFeSi相、およびq2-AlFeSi相等が存在する。そのため、Al-Fe合金層として、これらAlFeSi相等が検出されることがある。これらAlFeSi相等を含むAl-Fe合金層をAl-Fe-Si合金層とも称する。
次に、めっき層全体の平均化学組成について説明する。
なお、「めっき層全体の平均化学組成」は、めっき層がZn-Al-Mg合金層の単層構造の場合、Zn-Al-Mg合金層の平均化学組成である。また、めっき層がAl-Fe合金層及びZn-Al-Mg合金層の積層構造の場合、「めっき層全体の平均化学組成」は、Al-Fe合金層及びZn-Al-Mg合金層の合計の平均化学組成である。
通常、溶融めっき法において、めっき層の形成反応はめっき浴内で完了することがほとんどであるため、Zn-Al-Mg合金層の化学組成は、めっき浴とほぼ同等になる。また、溶融めっき法において、Al-Fe合金層は、めっき浴浸漬直後、瞬時に形成されて成長する。そして、Al-Fe合金層の形成反応は、めっき浴内で完了しており、その厚みも、Zn-Al-Mg合金層に対して十分に小さいことが多い。したがって、めっき後、加熱合金化処理等、特別な熱処理をしない限りは、めっき層全体の平均化学組成は、Zn-Al-Mg合金層の化学組成と実質的に等しく、Al-Fe合金層等の成分を無視することができる。
以下、めっき層に含まれる元素について説明する。
Zn:65%以上
Znは、低融点の金属であり、鋼材上にめっき層の主相となって存在する。めっき層を有しない鋼材に比べてめっき鋼材の溶接性が悪化する理由は、Znが電極と反応し、電極とめっき層との通電状態に変化を与えるためである。通常、スポット溶接の電極には銅製の電極が用いられることが多いが、Znと銅(Cu)が高熱にさらされると反応が起きる。この反応性は、CuとAlとの場合と比較すると小さい。これは、Al-Cuが共晶組成に形成することに関連していると推測される。その一方で、Znは、耐食性を確保し、鋼材に対する犠牲防食作用を得るために必要な元素である。Zn含有量が65%未満であると、犠牲防食性が不足する。よって、Zn含有量は65%以上とする。より好ましくは、70%以上とする。なお、Zn含有量の上限は、Znを除く元素及び不純物以外の残部となる量である。
Al:0.2%~4.0%未満
Alは、Znと同様に、めっき層の主体を構成する元素である。Alが有する犠牲防食作用は小さいものの、めっき層にAlを含有することで平面部耐食性および溶接部の耐食性が向上する。また、めっき層にAlが存在しないと、Mgをめっき浴中で安定的に保持することができない。そのため、Alは製造上不可欠な元素としてめっき浴に添加される。
めっき層中に含有されるAlは、スポット溶接時に銅電極と反応する。反応物はAl-Cu系の金属間化合物となって、伝導性を悪化させ、電極寿命を悪化させる。本実施形態では、Alの影響を最小限にするための手段として、めっき層の金属組織中のAl相にZnを比較的多く固溶させてAl-Zn相とすること、および、CaZn13相の結晶粒径を大きくすることで、銅電極との反応性を下げることを実現している。詳細は後述する。
Alの含有量を0.2%以上とするのは、後述するMgを多量に含有するために必要な含有量であり、この含有量以下であると、めっき浴としての建浴が難しくなる。すなわち、Mgを含有する浴を溶融状態で保持すると空気中の酸素と反応し、多量のMgO系酸化物が形成され、めっき浴としての使用が難しくなる。Alは、緻密なAl被膜を浴面に形成し、Mgの酸化を抑制する効果がある。そのため、Mgを含有するめっき浴には、Alを添加することが望ましい。また、Alは溶接部の耐食性の向上に寄与する元素でもある。めっき層中へのAl含有量が過度に少ない場合、溶接部の耐食性が劣化する場合がある。よって、Al含有量は0.2%以上とする。
Alの含有量を4.0%未満とするのは、これ以上の含有量になると、めっき層中にAl相が多く析出しやすくなるためである。多量のAl相が析出すると、スポット溶接性および連続打点性が低下したり、電気伝導度や熱伝導度が上昇したりする。さらにはAl含有量が過度に多いと、Alがめっき層の表面に形成しやすくなってしまい、スポット溶接時に電極との反応性が活発になり、電流値が不安定になって適正電流範囲が狭くなってしまう。また、Al含有量が過度に多いと、Al-Ca-Si金属間化合物層が優先的に形成されてしまい、所望量のCa-Zn系合金相、特にCaZn13相が確保できない場合がある。後に詳述するが、CaZn13相を所定量形成することで、適正電流範囲の拡大、および連続打点数の増大を実現できる。このため、スポット溶接時の電極との反応、CaZn13相の析出量の確保を考慮して、その上限を4.0%未満とする。より好ましいAl含有量は1.5%超3.5%以下であり、2.0%超3.0%以下でもよい。
また、Alと同様にMg酸化を抑制する元素として、Ca、Y、La、Ce、Srがある。そのため、[X]を各元素Xの質量濃度(%)とした場合、下記式(1)を満たすことで、めっき浴においてMgの酸化を抑制できるようになる。その結果、めっき層の平均化学組成が目標組成から外れることがなく、また、めっき層中にMgZn相を多く形成させることが可能になり、めっき層の耐食性を向上できるとともに、スポット溶接時の適正電流範囲を大きくすることができるようになる。
2.5×[Al]+2×[Ca]+[Y]+[Sr]+[La]+[Ce]>[Mg] …(1)
Mg:4.0%超~12.5%未満
Mgは、犠牲防食効果を有し、めっき層の耐食性を高める元素である。めっき層中にMgが一定量以上含有されることで、めっき層中にMgZn相が形成する。めっき層中のMg含有量が高い程、MgZn相がより多く形成され、耐食性は向上する。また、MgZn相の融点は、Zn相の融点よりも高温であり、めっき層中にMgZn相が多量に含まれるとZnと電極との反応性が乏しくなる。すなわち、Mgに結合されたZnは融点が上がるため、その分、電極との反応性が低くなり、電極の長寿命化を達成しうる。また、Mgは酸化しやすいため、スポット溶接時に僅かに溶融したMgは直ちに酸化して一定の厚みのMgO酸化物が形成される。このようなMgの酸化の傾向は、Al、Znよりも大きい。従って、適量のMgを含有するめっき層に対してスポット溶接を数打点実施すると、電極の表面は薄いMg酸化被膜に覆われ、常にめっき層表面と電極との間の状態が安定し、電流値が安定する。また、このMg酸化被膜は、電極とめっき層の反応性の溶着・反応の障壁となり、銅電極の寿命を大幅に向上させることができる。
Mgの含有量を4.0%超とするのは、耐食性を十分に確保するためである。また、Mg含有量が4.0%以下ではZnと銅電極との反応性が活発となり、適正電流値が狭くなる。一方、Mgの含有量が過剰になると、めっき鋼材の製造が困難となること、加工時にめっき層のパウダリングを生じることから、その上限は12.5%未満である。より好ましいMg含有量は5.0%超10.0%以下であり、5.0%超8.0%以下でもよい。
Ca:0.15%~3.00%未満
Caは、スポット溶接性に最も大きく寄与する元素である。Caは大気中で最も酸化しやすい元素であって、Mgと同様に、めっき層中において少量溶融したCaは直ちに酸化被膜を形成し、銅電極表面を覆い、電極とZn相、および電極とAl相の反応の障壁となる作用がある。すなわちめっき層中にCaを含有させることにより、適正電流範囲が広くなり、連続打点数も多くなる傾向とできる。また、前述の通りCaは、めっき浴中のMg酸化を抑制し、めっき浴の安定性を高める効果がある。
また、めっき層中にCaを含有する場合、Zn-Ca系もしくは、Al-Ca-Si系の化合物が形成される。これらの化合物は、めっき層の凝固時の初晶になり、MgZn相の成長の起点となって、粗大なMgZn相の形成を促進する。
Caの含有量を0.15%以上とするのは、適正電流値ならびに連続打点確保に必要な含有量であり、Ca濃度が0.15%未満となると、Znと銅電極との反応性が活発となり、適正電流値が狭くなり、連続打点数も低くなる。また、Ca含有量が少なすぎると、上記のZn-Ca系の化合物、特にCaZn13相の形成量が不十分となる場合がある。一方で、Ca含有量が上限を超えると、めっき浴の建浴が困難となる傾向にある。また、Ca含有量が多すぎると、ドロス等の付着が多くなり、溶接性も悪化する傾向にあり、適正電流値が狭くなり、連続打点数が低くなる場合もある。よって、Caは0.15%以上~3.00%未満、好ましくは0.20%以上2.00%未満、より好ましくは0.20%以上1.50%未満とする。
元素群A
Sn:0%~3.0%未満、
Bi:0%~1.0%未満、
In:0%~1.0%未満
めっき層には、元素群Aのいずれか1種または2種以上が含有されてもよい。元素群AであるSn、Bi及びInのスポット溶接時の効果は大きくない。一方で、これらの元素は、犠牲防食作用を向上させる働きがある。ただし、ZnよりもMgとの結合が強い傾向にあり、含有するMgの効果が小さくなるため、これらの元素の含有量には上限が存在する。Sn、BiおよびInの各含有量が上限を超えるとドロス等の付着が多くなり、溶接性もすべて悪化の傾向にあり、適正電流値が狭くなり、連続打点数が低くなる場合もある。従って、Snは0~3.0%未満、より好ましくは0%超3.0%未満とする。Biは0%~1.0%未満、より好ましくは0%超1.0%未満とする。Inは0%~1.00%未満、より好ましくは0%超1.00%未満とする。Snは0~3.0%未満、より好ましくは0%超3.0%未満とする。Biは0%~1.0%未満、より好ましくは0%超1.0%未満とする。Inは0%~1.0%未満、より好ましくは0%超1.0%未満とする。
元素群B
Sc :0%~0.50%未満、
Y :0%~0.50%未満、
La:0%~0.50%未満、
Ce:0%~0.50%未満、
Sr:0%~0.50%未満
めっき層には、元素群Bのいずれか1種または2種以上が含有されてもよい。元素群BであるSc、Y、La、Ce、Srは、スポット溶接の性能に寄与する元素である。Sc、Y、La、Ce、Srも、Caと同様に大気中で酸化し、Cu電極とZn相、Al相の反応障壁となる効果がある。また、めっき浴中のMg酸化を抑制し、めっき浴の安定性を高める効果がある。このような効果を好適に発揮させるためには、これらの元素の含有量を0%超、より好ましくは0.01%以上とする。ただし、それぞれの元素の含有量には上限がある。Sc、Y、La、Ce、Srはそれぞれ、0%~0.50%未満、好ましくは0%超0.50%未満、より好ましくは0.01%以上0.50%未満とする。
元素群C
Si:0%~2.50%未満、
B :0%~0.50%未満、
P :0%~0.50%未満
めっき層には、元素群Cのいずれか1種または2種以上が含有されてもよい。元素群CであるSi,B及びPは、半金属に属する元素である。これらの元素も一般的には、めっき層中にZn、Alを含む金属間化合物を形成し、結果、めっき層が溶融しにくくなって、電極とのめっき層の反応性が低くなる。すなわちめっき層中に元素群Cを含有することで、適正電流範囲が広くなる傾向にある。ただし、元素群Cには、Mg、Caのような電極表面に被膜を形成する効果はない。それぞれの元素の含有量には上限があり、含有量の上限を超えると、ドロス等の付着が多くなり、溶接性もすべて悪化する傾向にある。よって、Siは0%~2.50%未満、好ましくは0%超1.00%未満とし、B及びPはそれぞれ0%~0.50%未満、好ましくは0%超0.50%未満とする。
元素群D
Cr:0%~0.25%未満、
Ti:0%~0.25%未満、
Ni:0%~1.0%未満、
Co:0%~0.25%未満、
V :0%~0.25%未満、
Nb:0%~0.25%未満、
Cu:0%~1.0%未満、
Mn:0%~0.25%未満、
Mo:0%~0.25%未満、
W :0%~0.25%未満、
Zr:0%~0.25%未満、
Fe:0%~5.0%未満、
Ag:0%~1.0%未満
めっき層には、元素群Dのいずれか1種または2種以上が含有されてもよい。元素群DであるCr、Ti、Ni、Co、V、Nb、Cu、Mn、Mo、W、Zr、Ag及びFeは金属元素であり、これらの元素がめっき層中に取り込まれることで、置換固溶体や新たな高融点の金属間化合物を作る。これにより、めっき層が溶融しにくくなって銅電極とのめっき層の反応性が低くなる。つまり、めっき層中に元素群Dを含有することで、適正電流範囲が広くなる傾向にある。ただし、元素群DにはMg、Caのような電極表面に被膜を形成する効果はなく、これらMg、Caと比べるとスポット溶接性の改善効果は小さい。特に元素群Bのうち少なくとも1種以上の元素が存在する場合は、元素群Dによる明瞭な効果が確認できない場合がある。その一方で、元素群B、元素群C及び元素群Dが併用されると、スポット溶接時の適正電流範囲が更に拡大する。元素群Dのそれぞれの元素の含有量には上限があり、含有量の上限を超えると、ドロス等の付着が多くなり、溶接性もすべて悪化する傾向にある。従って、Cr、Ti、Co、V、Nb、Mn、Mo、W、Zrはそれぞれ、0%~0.25%未満とし、好ましくは0%超~0.25%未満とする。Ni、Cuはそれぞれ、0%~1.0%未満とし、好ましくは0%超~1.0%未満とする。Agは0%~1.0%未満とする。また、Feは、不可避的にめっき層中に含有される場合がある。めっき製造時に地鉄からめっき層中に拡散する場合があるためである。よって、Feの含有量は0%~5.00%未満であり、0%超5.0%未満であってもよい。
元素群E
Sb:0%~0.5%未満、
Pb:0%~0.5%未満
元素群EであるSb及びPbは、Znと性質の似通った元素である。従って、これらの元素が含有されることにより、スポット溶接性において特別な効果が発揮されることはほとんどないが、めっきの外観にスパングル模様が形成しやすくなるなどの効果がある。ただし、Sb及びPbを過剰に含有させると、スポット溶接後の耐食性が低下する場合がある。従って、Sb及びPbはそれぞれ、0%~0.5%未満とする。
元素群F
Li:0%~0.5%未満、
Na:0%~0.05%未満、
K:0%~0.05%未満
元素群FであるLiおよびNa、Kはアルカリ金属に属する元素である。これらの元素は、非常に酸化しやすい性質を持つが、スポット溶接にて特別な効果が発揮されることは、ほとんどない。ただし、これらの元素が多量に含まれると、めっき浴表面にて酸化し、ドロスとなるため、建浴が困難となる。したがってLiは0%~0.5%未満、Na、Kはそれぞれ0%~0.05%未満とする。
残部:65%以上のZn及び不純物
残部のうち、Znについては上述の通りである。また、めっき層中の不純物は、原材料に含まれる成分、または、製造の工程で混入する成分であって、意図的に含有させたものではない成分を指す。例えば、めっき層には、鋼材(地鉄)とめっき浴との相互の原子拡散によって、不純物として、Fe以外の成分も微量混入することがある。
めっき層の平均化学組成の同定は、以下の方法で実施できる。
まず、地鉄(鋼材)の腐食を抑制するインヒビターを含有した酸でめっき層を剥離溶解した酸溶液を得る。次に、得られた酸溶液をICP発光分光分析法またはICP-MS法で測定する。これによりめっき層の平均化学組成を得ることができる。酸種は、めっき層を溶解できる酸であれば、特に制限はない。剥離前後の面積と重量を測定しておけば、めっき付着量(g/m)も同時に得ることができる。
次に、めっき層の組織形態について説明する。
めっき層中に含有される相の占める割合及びその大きさは、めっき層のスポット溶接性に大きく影響を与える。同じ成分組成のめっき層であっても、製法によってその金属組織中に含まれる相または組織が変化し、性質が異なるものとなる。めっき層の金属組織の確認は、エネルギー分散型X線分析装置付きの走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)によって容易に確認することが可能である。具体的には、鏡面仕上げされた、めっき層の断面において、例えば反射電子像を得ることで、めっき層のおよその金属組織の状態を確認できる。ここでいう「めっき層の断面」とは、めっき層の厚み方向に沿った断面であり、めっき層表面に対して垂直な断面を意味する。
本実施形態のめっき層の厚みは、5~80μm程度であるから、SEMでは、500~5000倍の視野でその金属組織を確認することが好ましい。例えば、厚み25μmのめっき層の断面を2000倍の倍率で確認した場合、一視野当り25μm(めっき厚み)×40μm(SEM視野幅)=1000μmの領域のめっき層の断面を確認することができる。本実施形態の場合、めっき層に対するSEMの視野設定は、局所的な視野を観察する可能性があるため、めっき層の組織形態に関する平均情報を得るためには、任意の断面から25点の視野を選んで平均情報とすればよい。すなわち、合計で25000μmの視野における金属組織を観察して、めっき層の金属組織を構成する相または組織の面積率やサイズを決定すればよい。
SEMによる反射電子像は、めっき層に含まれる相または組織が簡単に判別できる点で好ましい。Alのような原子番号の小さな元素は、黒く造影され、Znのように原子番号が大きい元素は、白く撮影されるため、これらの組織の割合を簡単に読み取ることができる。
めっき層中の各々の相の確認には、EDS分析において、ピンポイントで相の組成を確認し、ほぼ同等の成分相を元素マッピングなどから読み取って相を特定すればよい。EDS分析が使用できるものは、元素マッピング画像を得ることで、ほぼ同じ組成の相を判別することができる。ほぼ同じ組成の相を特定できれば、観察視野におけるその結晶相の面積を知ることが可能である。面積を把握すれば、計算によって相当円直径を求めることができ、平均結晶粒径を算出することができる。
「相当円直径」の求め方としては、以下の方法を採用する。まず、EDS元素マッピング画像に対して、市販の画像処理ソフトを用いて二値化画像処理を実施して相当円直径を求めたい相のみを抽出する。ノイズの除去後、それぞれの結晶相の面積を計測する。計測された面積と等しい面積を持つ円を計算により求めることで、相当円直径を求めることが出来る。それぞれの結晶相の相当円直径から算術平均により平均結晶粒径を導出できる。
また、観察視野における各相の面積から、めっき層における相割合を求めることができる。なお、本実施形態では、特定の相のめっき層に占める面積率を、当該相のめっき層中の体積率と見なす。
各相の面積は、以下の方法を採用する。まず、EDS元素マッピング画像から同組成の相を市販の画像処理ソフトを用いて二値化画像処理により抽出する。ノイズを除去後、抽出された相の面積を計測することで同組成の相の面積を求めることが出来る。なお、本実施形態の界面合金層は、めっき層と鋼材の境界に形成され、Al-Fe系である。そのため、EDS元素マッピング画像では、鋼材上にAlとFeが重なる領域として抽出できる。また界面合金相の特定においては、SEMによる反射電子像を補助として使用してもよく、その場合、Alが軽元素であることから界面合金層は鋼材上の暗い領域として確認できる。
以下、めっき層に含まれる相及び組織について説明する。
図1は、実施例22のめっき層断面の金属組織のSEMによる反射電子像の一例である。図1において、符号1はMgZn相、符号2はCaZn13相、符号3はAl-Zn相、符号4は共晶組織、符号5は界面合金層を示す。
本実施形態のめっき層は、その金属組織をSEMによって合計25000μmの視野を観察した場合に、10~40面積%のMgZn相と、0~15面積%の、Zn含有率が10%以上のAl-Zn相と、0~5面積%の、Zn含有率が10%未満のAl相と、1~15面積%のCaZn13相と、30面積%以上の共晶組織(〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕と〔MgZn/Znの二元共晶組織〕の合計)を含んでいる。以上の相及び組織がめっき層の面積分率で90%以上となることが好ましい。
MgZn
本実施形態に係るMgZn相は、めっき層中で、Mg濃度が16%(±5%)、Zn濃度が84(±5%)となる領域である。MgZn相は、SEM反射電子像でAlとZnの中間色の灰色で撮影される場合が多い。SEM反射電子像において、MgZn相は、Al-Zn相、Al相、〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕、〔MgZn/Znの二元共晶組織〕等から明瞭に区別できる。
本実施形態におけるめっき層の成分組成においては、塊状のMgZn相が多く生成される。めっき層中に多量のMgZn相が存在することで、スポット溶接時の適正電流範囲が大きくなる傾向にある。また、めっき層中に多量のMgZn相が存在することで、〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕、〔MgZn/Znの二元共晶組織〕に含まれるZn相の割合を相対的に減少させ、めっき層とスポット溶接機の電極との反応性を小さくすることができる。また、スポット溶接時に、MgZn相のうちの少量が溶解し、Mgが大気中で酸化して、銅電極表面でMg系酸化物被膜を形成する。このMg系酸化物被膜は、電極の最初の10打点以内で形成されることが多く、このMg系酸化物被膜の存在により、その後の適正電流値も安定化し、電極の反応が進みにくくなる。
めっき層におけるMgZn相の面積率は、10%以上である。めっき層におけるMg含有量の上昇と共に、MgZn相の体積率が増加してスポット溶接性が改善する。好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、または30%以上であるとさらによい。MgZn相の面積率の上限は40%以下とする。本実施形態の対象としている、めっき層の平均化学組成の範囲では、MgZn相の面積率を40%超にすることは困難である。なお、本実施形態においては、〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕および〔MgZn/Znの二元共晶組織〕に含まれるMgZnは、MgZn相の面積率に含めない。
めっき層中のMgZn相の粒径を大きく成長させて、その面積率を高めることで、スポット溶接の入熱で溶解しにくく電極と反応しにくくなる。すなわち連続打点性をさらに改善することができる。また、スポット溶接後も、耐食性に優れた相が残存することから、耐食性も向上する。MgZn相を成長させて、その面積率を高めるためには、Caおよび元素群Bから選ばれる1種以上の元素が含有されることが好ましい。
Al相
本実施形態におけるAl相は、めっき層において、Al濃度が90質量%以上の領域である。このAl相には、Znが含まれてもよいが、その場合のAl相中のZn濃度は10%未満である。このZn濃度の違いによりAl-Zn相と区別される。Al相は、SEM反射電子像において他の相や組織とは明瞭に区別できる。すなわち、Al相は、SEM反射電子像において最も黒く示される場合が多い。本実施形態においてAl相は、任意の断面において、塊状、もしくは、円形・扁平形など樹状の断面として現れる場合など様々な形態をとる。Al相の面積率を算出する場合に対象とするAl相は、結晶粒径が1μm以上のAl相とする。すなわち、本実施形態においては、結晶粒径1μm以上のAl相を「Al相」としてカウントし、結晶粒径1μm未満のAl相は、Al相の面積率に含めない。
Al相は、スポット溶接性を低下させる。Al相がめっき層表面に現れると、Alなどの薄膜の絶縁性の被膜を形成し、適正電流範囲を小さくするほか、銅電極とも反応し、電極との間でAl-Cu系金属間化合物を形成して電極寿命を大幅に低下させて連続打点性を低下させる。Al相の面積率を5%以下にすると、スポット溶接において電極寿命が長くなる傾向になる。したがって、Al相は5面積%以下とし、好ましくは、0面積%とする。
Al-Zn相
本実施形態におけるAl-Zn相は、10質量%以上のZnと、Alとを含む相である。Al-Zn相は、粒径1μm程度の微細なZn相(以下、微細Zn相という)と、粒径1μm未満の微細なAl相(以下、微細Al相という)との集合体である。溶融状態のめっき層において、Alは、室温時の結晶構造とは異なる構造を持つようになって、Zn相を多く固溶することが可能となり、50%程度のZnを含有する高温安定相として存在する。一方、室温では、この高温安定相においてZnの固溶量が極端に減少し、AlとZnが平衡分離して微細Al相および微細Zn相を含むAl-Zn相として存在するようになる。すなわち、Al-Zn相は、微細Zn相が10~80質量%の割合で含有される相である。このAl-Zn相は、めっき層に含まれるAl相やZn相とも性質が異なるため、反射電子SEM像や、広角X線回折上で区別される。Al-Zn相は、広角X線回折上では、例えば、Al0.403Zn0.597(JCPDSカード #00-052-0856、JCPDS:Joint Committee on Powder Diffraction Standards)や、Al0.71Zn0.29(PDFカード#00-019―0057、PDF:Powder Diffraction File)などとして固有の回折ピークを有するとされる。従って、本実施形態では、Al濃度が90~20質量%であり、Zn濃度が10~80質量%である相をAl-Zn相とする。Al-Zn相の領域を閉空間で囲むことで、Al-Zn相の結晶サイズも定義することが可能である。
Al相は、溶接電極に対して極めて反応性が高く、溶接性を著しく不安定にする。一方、Al-Zn相の電極との反応性は、相中に微細Al相として微細Zn相とともに含まれることで、前記のAl相よりは、低い。さらに、Al酸化被膜など溶接性に悪影響を与える薄い被膜がめっき層表面に形成されなくなり、溶接性が結果として改善する。
本実施形態においては、めっき層にAlが一定濃度以上含有されるため、製造条件によっては、0~15面積%のAl相が形成する。しかし、製法を厳選することで、塊状や樹状のAl相の形成を抑制し、多くのAlをAl-Zn相として存在させることが可能である。すなわち、Al-Zn相が増えるほど、Al相を減少させることができる。また、Al-Zn相はAl相と比較しても銅電極などとも反応しにくく、また適正電流範囲を広げる傾向にある。したがって、Alは、Al相としてめっき層中に存在させるよりも、できる限り、Al相中にZnを取り込ませて、Al-Zn相として存在させたほうが、溶接性の観点からは都合がよい。
めっき層におけるAl-Zn相の面積率は、0~15面積%の範囲とする。上述したような本実施形態におけるめっき層の平均化学組成の範囲では、Al-Zn相の面積率を15%超にすることは困難であるので、Al-Zn相の面積率の上限を15面積%以下とする。
CaZn13
本実施形態におけるCaZn13相は、めっき層中で、Ca濃度が5%(±3%)、Zn濃度が95(±3%)となる領域である。CaZn13相は、SEM反射電子像において白色で示されることが多いため、撮影像のままでは、Zn相と判別が付きづらい。そのためEDS像を取ることで、CaZn13相と他の構成相と判別することができる。CaZn13相は、溶接時に少量溶解し、溶解したCaが直ちに酸化被膜を形成し、銅電極表面を覆うことで、Zn相、Al相の銅電極との反応に対する障壁となる作用がある。そのため、めっき層中にCaZn13相が含有することで、適正電流範囲が広くなり、連続打点数も多くなる傾向にある。また、CaZn13相は、めっきの凝固時に初晶として析出し、前述のMgZn相の凝固核として作用し、めっき凝固時にMgZn相の成長を促進する効果がある。粗大化したMgZn相は、溶接性を向上させる。
従って、CaZn13相は、1.0~15面積%の範囲とする。めっき層の平均化学組成の範囲では、CaZn13相の面積率を15%超にすることは困難であるので、CaZn13相の面積率の上限を15面積%以下とする。また、CaZn13相を1.0面積%以上とすることで、適正電流範囲が広くなり、連続打点数も多くなる。
また、めっき層中のCaZn13相の粒径を大きく成長させることで、スポット溶接の入熱で溶解しにくく、電極と反応しにくくなる。すなわち連続打点性をさらに改善することができる。従って、CaZn13相のうち、円相当直径の大きい順で上位80%までのCaZn13相の平均円相当直径が10μm以上であることが好ましい。例えば、観察視野内にCaZn13相が100個あった場合は、円相当直径の大きい順で上位80個のCaZn13相の円相当直径の平均を求めればよい。なお、めっき層の断面のうち合計25000μmの視野をCaZn13相の観察視野とする。すなわち、めっき層の断面のうち合計25000μmの視野における金属組織のCaZn13相の円相当直径をそれぞれ求め、円相当直径の大きい順で上位80%のCaZn13相の円相当直径の平均を求めればよい。
Caは、Znとの化合物として、CaZn13相以外にも、CaZn11相、CaZn相を形成するが、本実施形態の浴組成では、CaZn13相以外の割合は小さため、溶接性および耐食性への影響はほとんどない。Alとの代表的な化合物として、AlCaZn相が形成することがあるが、こちらも本実施形態での形成割合は小さため、溶接性および耐食性への影響はほとんどない。CaZn13相とそれ以外の相は、広角X線回折上で区別できる。
また、Caは、AlおよびSiとの化合物として、AlCaSi相を形成する。AlCaSi相は、CaZn13相と同様に溶接時に少量溶解し、電極を覆うことで、溶接性を改善する効果がある。しかし、AlCaSi相は、めっき層と鋼材の界面に析出する傾向があるため、CaZn13相より溶接性の改善効果は劣る。すなわち、AlCaSi相よりもCaZn13相の形態で析出させる方が好ましい。
〔共晶組織〕
本実施形態の成分組成においては、共晶反応により〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕ならびに、〔MgZn/Znの二元共晶組織〕が形成される。これら共晶組織中のZn相は、Al相と比較すると、その影響度合いは小さいものの、スポット溶接時に銅電極と反応し、連続打点寿命に悪影響を及ぼす。
共晶組織は、SEM像にてラメラ組織として観察されるため、他の組織と明確に区別できる。
〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕
〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕は、Al相、MgZn相及びZn相からなる共晶組織であり、反射電子SEM像において、MgZn相や、上記のAl相とは明瞭に区別される。
〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕にはZn相が含まれる。このZn相は、Zn濃度が95質量%以上、Ca濃度が2%未満の領域である。〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕中のZn相は、SEM反射電子像では最も白く撮影される場合が多い。〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕に含まれるAl相は、微細Al相として、MgZn相やZn相とともに含まれる。そのため、前記のAl相よりは、電極との反応性が低く、さらに、Al酸化被膜など溶接性に悪影響を与える薄い被膜がめっき層表面に形成されなくなり、溶接性が結果として改善する。
〔MgZn/Znの二元共晶組織〕
〔MgZn/Znの二元共晶組織〕は、MgZn相及びZn相からなる共晶組織であり、反射電子SEM像において、MgZn相や、Al相、〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕とは明瞭に区別される。
〔MgZn/Znの二元共晶組織〕には、Zn相が含まれる。このZn相は、Zn濃度が95質量%以上、Ca濃度が2%未満の領域である。〔MgZn/Znの三元共晶組織〕中のZn相は、SEM反射電子像では最も白く撮影される場合が多い。〔MgZn/Znの二元共晶組織〕にはAl相は含まれない。そのため、〔MgZn/Znの二元共晶組織〕による連続打点性に対する悪影響は〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕よりも小さい。
その一方で、〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕と〔MgZn/Znの二元共晶組織〕の合計の面積率が30.0面積%未満になると、面積率の減少に伴ってZn相が少なくなり、めっき層の犠牲防食性が低下し、耐食性が維持できなくなる。従って、〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕と〔MgZn/Znの二元共晶組織〕の合計の面積率は30.0面積%以上とすることが有効である。すなわち、Zn相を含む〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕および〔MgZn/Znの二元共晶組織〕をめっき層中にある程度存在させることで、犠牲防食性を確保して溶接部周囲の耐食性を向上させることができる。また、めっき層中のAlをなるべく〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕に取り込ませて、〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕に含まれないAl相の面積率を低下させることで、連続打点性を向上させることができる。〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕と〔MgZn/Znの二元共晶組織〕の面積率の上限に特に制限はないが、85.0面積%以下としてもよく、80.0面積%以下としてもよく、75.0面積%以下としてもよく、70.0面積%以下としてもよく、65.0面積%以下としてもよい。
一方、Zn、Mg及びAl以外の元素がめっき層に含有されることで他の金属相が形成される場合がある。例えば、Siは、MgSi相などを形成させる。他の金属相の中には、溶接性や耐食性向上に効果があるものの、その影響は顕著ではない。本実施形態のめっき層の組成から、他の金属相の面積率を合計で、10面積%超とすることは困難であることから、他の金属相の面積率は10面積%以下であることが好ましい。
次に、本実施形態のめっき鋼材を溶融めっき法により製造する場合について説明する。本実施形態のめっき鋼材は、浸漬式のめっき法(バッチ式)、連続式のめっき法の何れでも製造可能である。
めっきの対象となる鋼材の大きさ、形状、表面形態などは特に制約はない。通常の鋼材、高張力鋼、ステンレス鋼等でも鋼材であれば、適用可能である。一般構造用鋼の鋼帯が最も好ましい。事前に、ショットブラスト、研削ブラシなどによる表面仕上げを行ってもよく、表面にNi、Fe、Zn、Sn、めっきなどの1μm以下の金属膜または合金膜を付着させた上で、めっきをしても問題はない。また、鋼材の事前処理として、脱脂、酸洗にて鋼材を十分に洗浄することが好ましい。
等の還元性ガスにより鋼材表面を十分に加熱・還元した後、所定成分に調合されためっき浴に、鋼材を浸漬させる。高張力鋼等は、焼鈍時の雰囲気を加湿し、内部酸化法などを利用して高Si、Mn鋼などにめっき密着性を確保することも一般的に行われ、このような処理をすることで不めっき、外観不良の少ないめっき鋼材を通常一般鋼材と同様にめっきすることができる。このような鋼材は、地鉄側に、結晶粒系の細かい鋼材表面や、内部酸化被膜層が観察されるが、本発明の性能に影響を与えるものではない。
めっき層の成分は、溶融めっき法の場合、建浴するめっき浴の成分によってこれを制御することが可能である。めっき浴の建浴は、純金属を所定量混合することで、例えば不活性雰囲気下の溶解法によって、めっき浴成分の合金を作製する。本実施形態の場合、めっき浴の成分は、製造しようとするめっき層の化学成分とほぼ同じにすればよい。
所定濃度に維持されためっき浴に、表面が還元された鋼材を浸漬することにより、めっき浴とほぼ同等成分のめっき層が形成する。浸漬時間の長時間化や、凝固完了までに長時間かかる場合は、界面合金層の形成が活発になるため、めっき層中のFe濃度が高くなる場合もある。このような場合には、浴温を下げることで、めっき層中のFe含有量を抑制できる。具体的には、浴温を500℃未満とすることによりめっき層との反応が急速に遅くできるため、界面合金層の活発な形成が懸念される場合でも、めっき層中に含有されるFe含有量は通常、5.0%未満に収まることができる。
溶融めっき層の形成のため、めっき浴を450℃~550℃に保温することが好ましい。そして、当該めっき浴に還元された鋼材を数秒間浸漬することが好ましい。還元された鋼材表面では、Feがめっき浴に拡散し、めっき浴と反応して、界面合金層(主にAl-Fe系の金属間化合物層)がめっき層と鋼材界面に形成する場合がある。界面合金層が形成される場合は、界面合金層の下方の鋼材と上方のめっき層とが金属化学的により強固に結合される。
めっき浴に鋼材を所定時間浸漬後、鋼材をめっき浴から引き上げ、表面に付着した金属が溶融状態にあるときにNワイピングを行うことにより、めっき層を所定の厚みに調整する。めっき層の厚みは、3~80μmに調整することが好ましい。めっき層の付着量に換算すると、片面あたり20~500g/mとなる。また、めっき層の厚みは、5~70μmに調整してもよい。付着量に換算すると、片面あたり約30~400g/mとなる。
めっき層の付着量の調整後に、付着した溶融金属を凝固させてめっき層を形成する。めっき層の凝固時の冷却手段は、窒素、空気、または水素とヘリウムの混合ガスの吹付によって行ってもよく、ミスト冷却でもよく、水没でもよい。好ましくは、ミスト冷却であり、窒素中に水を含ませたミスト冷却がより好ましい。めっき層の凝固時の冷却速度は、水の含有割合によって調整するとよい。
通常の操業条件のめっき凝固条件では、所望の組織制御ができていない場合があることから、所定の性能を満たさない場合があることが判明した。そこで、以下に、本実施形態のめっき層を得ることを可能とする冷却工程を説明する。
浴温~400℃間の平均冷却速度:20℃/秒未満
浴温~400℃の温度域は、CaZn13および、MgZn相が活発に形成する温度域である。この温度域において、めっき層の凝固が徐々に開始する。本実施形態におけるめっき層の平均化学組成の場合、溶融めっき層から最初に凝固する核は、微量の金属間化合物相を除き、CaZn13であり、通常はCaZn13が初晶となる。CaZn13の析出に次いで、MgZn相が析出し、380℃近傍ではMgZn相が主相となる。
また、浴温~400℃の温度域では、他の相であるAl-Zn相、Al相、Zn相は、いずれもほとんど形成しない。一方で、浴温~400℃の温度域の平均冷却速度が大きい場合、非平衡的に凝固が進んでしまうため、本実施形態に係るめっき組成であっても、Al-Zn相や、Zn濃度が10質量%未満のAl相が少量形成してしまう場合がある。特にめっき浴のAl含有率が高い場合にAl相が形成する傾向があり、Al相が過剰になると溶接性を損なうのは上記の通りである。また、Al-Zn相およびAl相は、僅かではあるがCaを固溶する。そのため、Al-Zn相、Al相が形成されるとCaZn13相が減少する傾向がある。したがって、浴温~400℃間の平均冷却速度は20℃/秒未満とする。
浴温~400℃間を20℃/秒以上の平均冷却速度で冷却すると非平衡凝固によりAl相が発生し、CaZn13相が減少し、めっき層の溶接性が劣化する。一方、20℃/秒未満で400℃まで冷却した場合は、めっき凝固は平衡凝固に近づき、Alは、Al-Zn相として析出するため、非平衡凝固によるAl相は発生しなくなる。
また、浴温~400℃間の平均冷却速度を10℃/秒超で冷却すると、CaZn13の粒径が小さくなり、連続打点性の向上が十分でなくなる場合がある。従って、上位80%のCaZn13相の円相当粒径を10μm以上とするには、浴温~400℃間の平均冷却速度を10℃/秒以下とすることがよく、より好ましくは、5℃/秒以下が望ましい。また、浴温~400℃間の平均冷却速度が10℃/秒超とすると、MgZn相が成長せずに、共晶組織に含有されるMgZn相の割合が多くなって、スポット溶接性が悪くなる場合がある。したがって、浴温~400℃間の平均冷却速度は10℃/秒以下がよい。スポット溶接性を向上させるためには上述の通り、MgZn相は成長させたほうが好ましい。よって、浴温~400℃間の平均冷却速度をできる限り小さくすることが好ましい。
400~380℃間の平均冷却速度:2℃/秒以下
また、めっき層の温度が400~380℃である温度域の冷却速度を2℃/秒超とすると、めっき層中のMgZn相が粗大になる場合があるので、400℃から380℃に低下するまでの温度域の平均冷却速度を2℃/秒以下とすることが望ましい。また、400~380℃間の冷却中に、めっき層表面に直径0.5μm以下のZnOやAl等の微粒子を含んだ高温ガスを吹き付け、MgZnの凝固核サイトを形成することにより、MgZn相の成長を促進することができる。
380℃~300℃間の平均冷却速度:20℃/秒超
本実施形態にかかるめっき浴の平均浴組成では、380℃~300℃間の温度域は、Zn相からAlが放出されやすい温度域である。Zn相からAlが放出されると、高温安定相としてのAl-Zn相の占める体積分率が大きくなり、Zn-Al-MgZn相の三元共晶の体積率が減少する傾向がある。従って耐食性をより高めるためには、380℃~300℃間の温度域の平均冷却速度を速くしてZn相からのAlの放出を抑制することが有効である。具体的には380℃~300℃間の温度域の平均冷却速度を20℃/秒超にする。好ましくは30℃/秒以上とし、更に好ましくは50℃/秒以上とであることが望ましい。
300℃~150℃間の平均冷却速度:20℃/秒超
300℃~150℃間の温度域は、Al相が安定な領域である。すなわち、300℃~150℃間の温度域でめっき層が保持されると、Al-Zn相に取り込まれた微細Zn相が急激にAl-Zn相から吐き出されるおそれがある。また、共晶組織中の微細Al相が成長するおそれがある。温度が高いほど原子移動が盛んなことから、この温度域を速やかに冷却した方が好ましい。300~150℃間の平均冷却速度が20℃/秒以下となると、Al-Zn相が微細Al相と微細Zn相とに分離する。特にAl濃度が高いほうがその傾向が強くなる。微細Al相から塊状や樹状のAl相の発生を抑制して、Zn濃度が10質量%未満のAl相の面積分率を5%以下にするためには、300℃~150℃間の平均冷却速度を20℃/秒超とすることが有効である。好ましくは30℃/秒以上とし、更に好ましくは50℃/秒以上とする。
150℃未満の温度域
凝固過程において150℃未満の温度域の冷却速度は、めっき層内の構成相に大きな影響を与えない場合が多い。よって、150℃未満の温度域の冷却条件を限定する必要はなく、自然放冷でもよい。
めっき層の冷却後は、各種化成処理や塗装処理を行ってもよい。また、さらなる防食性を高めるため、溶接部、加工部などにおいては、補修用タッチアップペイント、溶射処理などを実施してもよい。
本実施形態のめっき鋼材には、めっき層上に被膜を形成してもよい。被膜は、1層または2層以上で形成することができる。めっき層直上の被膜の種類としては、例えば、クロメート被膜、りん酸塩被膜、クロメートフリー被膜が挙げられる。これら被膜を形成するためのクロメート処理、りん酸塩処理、クロメートフリー処理は、既知の方法で行うことができる。ただし、クロメート処理の多くは、めっき層表面で溶接性を悪化させる場合がある。そのため、十分にめっき層中の溶接性改善効果を引き出すためには、クロメート被膜の厚みは、1μm未満にしておくことが好ましい。
クロメート処理には、電解によってクロメート被膜を形成する電解クロメート処理、素材との反応を利用して被膜を形成させ、その後余分な処理液を洗い流す反応型クロメート処理、および、処理液を被塗物に塗布し水洗することなく乾燥して被膜を形成させる塗布型クロメート処理がある。本実施形態においてクロメート処理を行う場合には、いずれの処理を採用してもよい。
電解クロメート処理としては、クロム酸、シリカゾル、樹脂(りん酸、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、酢酸ビニルアクリルエマルション、カルボキシル化スチレンブタジエンラテックス、ジイソプロパノールアミン変性エポキシ樹脂等)、および硬質シリカを使用する電解クロメート処理を例示することができる。
りん酸塩処理としては、例えば、りん酸亜鉛処理、りん酸亜鉛カルシウム処理、りん酸マンガン処理を例示することができる。
クロメートフリー処理には、電解によってクロメートフリー被膜を形成する電解型クロメートフリー処理、素材との反応を利用して被膜を形成させ、その後、余分な処理液を洗い流す反応型クロメートフリー処理、処理液を被塗物に塗布し水洗することなく乾燥して被膜を形成させる塗布型クロメートフリー処理がある。いずれの処理を採用してもよい。
めっき層上の被膜は、ある程度の厚さがあれば、元素マッピングによりめっき層上に各処理の主成分元素が濃化する様子が確認でき、めっき層と区別することができる。また断面SEM反射電子像で、めっき層上とコントラストの異なる被膜としてめっき層とは区別できるため、SEM反射電子像を補助的に使用することもできる。
めっき層上の被膜はめっき層と比較して薄いため、被膜と合わせてめっき層を酸溶解し成分分析を実施しても、めっき層の組成が大きく変わることはない。また、被膜を除去しためっき層の組成分析方法として、研削により、めっき鋼材の表面を1μm削っためっき鋼材、つまり被膜を研削により除去しためっき鋼材を分析対象とする方法がある。具体的には、鋼材(地鉄)の腐食を抑制するインヒビターを含有した酸でめっき層を剥離溶解した酸溶液を得る。次に、得られた酸溶液をICP発光分光分析法またはICP-MS法で測定することでめっき層の化学組成を得ることができる。
さらに、めっき層直上の被膜の上に、有機樹脂被膜を1層もしくは2層以上有してもよい。有機樹脂としては、特定の種類に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、又はこれらの樹脂の変性体等を挙げられる。ここで変性体とは、これらの樹脂の構造中に含まれる反応性官能基に、その官能基と反応し得る官能基を構造中に含む他の化合物(モノマーや架橋剤など)を反応させた樹脂のことを指す。
このような有機樹脂としては、1種又は2種以上の有機樹脂(変性していないもの)を混合して用いてもよいし、少なくとも1種の有機樹脂の存在下で、少なくとも1種のその他の有機樹脂を変性することによって得られる有機樹脂を1種又は2種以上混合して用いてもよい。また有機樹脂被膜中には任意の着色顔料や防錆顔料を含んでもよい。水に溶解又は分散することで水系化したものも使用することができる。
これら有機樹脂被膜は、C、Oなどの軽元素が主体であり、断面SEM反射電子像上でめっき層よりも暗く映るため、容易にめっき層と区別できる。
有機樹脂被膜が付いためっき鋼材のめっき層の成分分析は、剥離剤で有機樹脂被膜を除去後、研削により、めっき鋼材の表面を1μm削っためっき鋼材、つまり被膜を研削により除去しためっき鋼材を分析対象とする方法がある。具体的には、鋼材(地鉄)の腐食を抑制するインヒビターを含有した酸でめっき層を剥離溶解した酸溶液を得る。次に、得られた酸溶液をICP発光分光分析法またはICP-MS法で測定することで化学組成を得ることができる。
めっき鋼材のスポット溶接性の評価方法及びスポット溶接部周囲の耐食性の評価方法について説明する。
<適正電流範囲の評価>
スポット溶接の溶接電流の適正電流範囲の評価は、複数の試験片を用意して実施する。試験片としては、例えば、板厚0.8mmの軟鋼板を鋼材とするめっき鋼材でよい。めっき層の表面に化成処理被膜が形成されている場合は、サンドペーパーなどで溶接予定箇所を研磨して化成処理被膜を剥離する。各サンプルにおけるめっき層の付着量若しくは厚みは一定であることが好ましく、めっき層の厚みが20μm前後の場合が最もスポット溶接性の差がつきやすい傾向があるので、めっき層の厚みは20μmとする。試料は、鋼板の両面にめっき層が形成されているものを用いる。試料として、30×50mmのサイズの試験片をめっき鋼材から切り出す。
次に、スポット溶接機にて、推奨となる溶接条件の探索を行う。電極材質はCu-Cr系合金とする。電極の形状はドーム型とする。溶接時間、加圧力、冷却能力、Sq.time、Up.time、Down.time等を調整して、それぞれの試料で、調整し、スポット溶接が可能となる溶接基本条件を探す。溶接基本条件は、可能な限りめっき鋼板が変わっても、一定となる溶接条件を探索することが好ましい。溶接基本条件が見つかったら、最初に電極表面状態を一定にするため、10打点の仮うちを実施してから、溶接電流値を低い側から、高い側へ変動させながら溶接を実施する。電流値は0.1kA刻みで上昇させていくことが好ましい。各溶接電流にてスポット溶接後、重ね合わせ試験片を樹脂埋め込みして、スポット溶接部中央のナゲット径を測定する。規定値、4×√t(t=使用しためっき鋼板の板厚)のナゲット径を満たす電流値を適正電流範囲の下限値とする。また、チリ発生が起きた電流値を適正電流範囲の上限値とする。上限値と下限値との差が適正電流範囲である。適正電流範囲が大きいめっき鋼板ほど、スポット溶接が実施しやすく、逆に狭いものはスポット溶接が難しい。
<連続打点性の評価>
スポット溶接電極の寿命もめっき鋼材に左右される。すなわち、適正電流範囲内の電流値で、電極表面を交換することなく、数多くのスポット溶接が可能であれば、製造コスト、製造時間を短縮でき、より好ましいめっき鋼材と言える。具体的には、適正電流範囲の中央値を溶接電流とし、連続的にスポット溶接を行う。スポット溶接を繰り返し行うと、めっき層の表面の金属元素であるCa、Mg、Al、Zn等が電極と反応して電極形状が変化していく。電極形状はスポット溶接時に感圧紙などで簡易的に計測することができる。スポット溶接の回数の増加に伴いスポット溶接のナゲット径が徐々に減少する。ナゲット径が2×√t未満(tは鋼材の板厚)になる場合が3回連続で続いた場合の打点数を連続打点回数とする。この値が大きいもの程、電極の損耗が少なく、連続打点性に優れためっき鋼材といえる。
<スポット溶接部周囲の耐食性>
70×150mmのサイズと、30×75mmのサイズの2枚のめっき鋼板を作製し、それぞれの中央部を重ね合わせ、中央部から20mm離れた位置において2つのスポット溶接部を形成する。ナゲット径は4√t以上(Tは鋼材の板厚)になるように調整する。このようにして、重ね合わせ試験片を作製する。70×150mmのサイズのめっき鋼板の端面部分のみエポキシ系樹脂塗料による補修処理を実施し、そのまま腐食試験機に投入する。腐食試験機内で所定時間経過後、重ね合わせ部分が最も腐食が進行しやすいため、割って赤錆発生状況を確認していく。赤錆発生までの期間が長いものほど、溶接部周囲の耐食性が高く、スポット溶接材料として適していると判断する。
次にめっき浴の安定性の評価方法について説明する。
<めっき浴の安定性>
Zn-Al-Mg系めっき浴が、操業に足る浴安定性をもつ条件として、浴中Mgが異常酸化を起こさないことが挙げられる。すなわち、浴中Mgが異常酸化を起こした場合、浴表面に黒色酸化物が生成し、操業を困難にする。一方でZn系酸化物は白色系であるため、Mgの異常酸化による黒色酸化物とは、外観にて明確に区別することができる。
浴安定性は、溶融状態のめっき浴を大気中で静置することで評価できる。具体的には、所定の浴組成に調整された、めっき浴の浴量が10kgとなるように地金を溶解する。使用する地金は既知の組成であれば、制限はなく、例えば、Zn地金、Al地金、Mg地金、Al-Ca合金地金等を使用してよい。溶解しためっき浴は、その融点より30℃高い浴温にて大気中で24時間静置する。静置後の浴面を観察し、黒色酸化物が生成していれば、めっき浴が不安定であると判断される。一方で、黒色の酸化物の生成がなければ、操業に足る浴安定性を持っていると判断する。
表1A~表3Cに示すように、No.1~57のめっき鋼材を製造し、性能を評価した。
めっき浴の調合には純金属を調合して建浴した。めっき合金の成分は建浴後、Fe粉を足して、試験中におけるFe濃度の上昇がないようにした。めっき浴の成分は、めっき浴を凝固させた金属片を酸に溶解し、溶液をICP発光分光分析にて、分析した。まためっき層の成分は、インヒビターを添加した塩酸でめっき層を剥離して、めっき剥離後の成分分析を実施して確認した。Fe成分を除き、ほとんどのめっき層の成分が、めっき浴成分値と、±0.5%の範囲内で一致した。なお、めっき層のZn含有量は何れも65%以上だった。
めっき鋼材の原板は、厚さ0.8mmの冷延鋼板から180mm×100mmのサイズで切り出したものとした。いずれもSS400(一般鋼)であった。
次に、バッチ式溶融めっきシミュレーター(レスカ社製)を使用し、鋼板の一部にK熱電対を取り付け、Hを5%含むNの還元雰囲気中で、800℃で焼鈍して鋼板表面を十分に還元した。それから、焼鈍後のめっき原板をめっき浴に3秒間浸漬し、その後、引き揚げ、Nガスワイピングでめっき厚みを20μm(±1μm)になるように調整した。原板表面のめっき層の厚みはいずれの面でも同一であった。めっき原板をめっき浴から引き揚げた後、下記A~Fの各種冷却条件でめっき鋼材を製造した。
条件A:めっき浴から鋼材を引き上げ後、浴温~400℃間の平均冷却速度を10℃/秒とし、400℃~380℃間の平均冷却速度を2℃/秒とし、380℃~300℃および300℃~150℃間の平均冷却速度をそれぞれ25℃/秒とした。150℃未満は自然放冷とした。
条件A-2:めっき浴から鋼材を引き上げ後、浴温~400℃間の平均冷却速度を5℃/秒とし、400℃~380℃間の平均冷却速度を2℃/秒とし、380℃~300℃および300℃~150℃間の平均冷却速度をそれぞれ50℃/秒とした。150℃未満は自然放冷とした。
条件A-3:めっき浴から鋼材を引き上げ後、浴温~400℃間の平均冷却速度を5℃/秒とし、400℃~380℃間の平均冷却速度を2℃/秒とし、380℃~300℃の平均冷却速度を30℃/秒とし、300℃~150℃間の平均冷却速度を50℃/秒とした。150℃未満は自然放冷とした。
条件A-4:めっき浴から鋼材を引き上げ後、浴温~400℃間の平均冷却速度を5℃/秒とし、400℃~380℃間の平均冷却速度を2℃/秒とし、380℃~300℃の平均冷却速度を50℃/秒とし、300℃~150℃間の平均冷却速度を30℃/秒とした。150℃未満は自然放冷とした。
条件A-5:めっき浴から鋼材を引き上げ後、浴温~400℃間の平均冷却速度を5℃/秒とし、400℃~380℃間の平均冷却速度を2℃/秒とし、400~380℃の冷却の間にφ0.5μmのAlを含んだ高温ガスを吹き付けた。380℃~300℃および300℃~150℃間の平均冷却速度をそれぞれ50℃/秒とした。150℃未満は自然放冷とした。
条件B(比較条件):めっき浴から鋼材を引き上げ後、浴温~150℃間の平均冷却速度を20℃/秒とした。150℃未満は自然放冷とした。
条件C(比較条件):めっき浴から鋼材を引き上げ後、浴温~150℃間の平均冷却速度を2℃/秒とした。150℃未満は自然放冷とした。
条件D(比較条件):めっき浴から鋼材を引き上げ後、浴温~150℃間の平均冷却速度を10℃/秒とした。150℃未満は自然放冷とした。
条件E(比較条件):めっき浴から鋼材を引き上げ後、浴温~400℃間の平均冷却速度を10℃/秒とし、400℃~380℃間の平均冷却速度を15℃/秒、380℃~300℃および300℃~150℃間の平均冷却速度をそれぞれ15℃/秒とした。150℃未満は自然放冷とした。
条件F(比較条件):めっき浴から鋼材を引き上げ後、浴温~400℃間の平均冷却速度を30℃/秒とし、400℃~380℃間の平均冷却速度を2℃/秒、380℃~300℃および300℃~150℃間の平均冷却速度をそれぞれ30℃/秒とした。150℃未満は自然放冷とした。
条件G(実施例条件):めっき浴から鋼材を引き上げ後、浴温~400℃間の平均冷却速度を15℃/秒とし、400℃~380℃間の平均冷却速度を15℃/秒、380℃~300℃および300℃~150℃間の平均冷却速度をそれぞれ30℃/秒とした。150℃未満は自然放冷とした。
それぞれの製造しためっき鋼板からスポット溶接評価用のサンプルと、スポット溶接後腐食試験用サンプルとを切り出した。
(スポット溶接条件)
サーボ加圧式の定置式スポット溶接機(エア加圧式)を使用した。電源は単相交流タイプとし、電源の周波数は50Hzとした。電極には、ドーム型クロム銅40R(φ6mm)を使用した。加圧力は250kg、スクイズタイム30サイクル、アップスロープ10サイクル、通電時間10サイクル、保持時間10サイクル、冷却水流量15リットル/分を基本条件とした。必要に応じて、それぞれのサイクル数を±10サイクルで設定変更した。必要0.2kA刻みでウェルドローブ曲線を描いた。最初に電極表面状態を一定にするため、事前に仮うちを10kAで10点実行した。
(適正電流範囲)
溶接基本条件にて、10打点の仮うちを実施してから、溶接電流値を低い側から、高い側へ変動させながら溶接を実施した。電流値は0.1kA刻みで上昇させた。各溶接電流にてスポット溶接後、重ね合わせ試験片を樹脂埋め込みして、研磨、3%ナイタールにてエッチングしたサンプルを、光学顕微鏡にて断面観察して、ナゲット径を測定した。溶接部のナゲット径が4×√t=3.58以上となる電流値から、チリ発生までの電流値の幅を適正電流範囲とした。適正電流範囲の評価は下記の通りとした。「B」を不合格とし、「A」~「S」を合格とした。結果を表3A~3Cに示す。
1.2kA未満のもの:「B」
1.2~1.5kA未満 のもの:「A」
1.5~1.7kA未満のもの:「AA」
1.7~1.9kA未満のもの:「AAA」
1.9kA以上のもの:「S」
(スポット溶接連続打点性)
電流値は、適正電流範囲の中央値を採用し、サンプルを2枚重ね合わせて連続でスポット溶接を実施した。50点おきに、重ね板の溶接部を切り出して樹脂埋め込みののち、研磨、3%ナイタールにてエッチングしたサンプルを、光学顕微鏡にて断面観察しナゲット径を確認した。ナゲット径が2×√t未満となる水準が3回連続で続いた場合、連続する3水準のうち、ナゲット径が初めて2×√t未満となった打点数を連続打点回数とした。「B」を不合格とし、「A」~「S」を合格とした。結果を表3A~3Cに示す。
150点未満:「B」
150~250点未満:「A」
250~500点未満:「AA」
500~750点未満:「AAA」
750点以上:「S」
(スポット溶接部周囲耐食性評価)
70×150mm、30×75mmのめっき鋼板2枚を作製し、中央部分で重ね合わせ、中央からの距離、20mmでスポット溶接を2打点(ナゲット径は4√t以上)で重ね合わせ試験片を作製した。複合サイクル腐食試験機に投入し、JA/秒O、M609-91に準拠した腐食試験に供した。150サイクルから、30サイクルおきに重ね合わせ部を剥離して、赤錆発生状況(1%以上の赤錆面積率で赤錆発生)を確認した。
耐食性の評価は下記の通りとした。「B」を不合格とし、「A」~「S」を合格とした。結果を表3A~3Cに示す。
150サイクル未満で赤錆発生が見られたもの:「B」
150、180サイクルで赤錆発生したもの:「A」
210、240サイクルで赤錆発生したもの:「AA」
270、300サイクルで赤錆発生したもの:「AAA」
300サイクルで赤錆発生しなかったもの:「S」
(めっき浴の安定性)
大気中にて、浴量が10kgとなるように黒鉛るつぼ中で地金を溶解し、所定の組成のめっき浴を作成した。めっき浴の作成後、融点より30℃高温にめっき浴温を設定した。浴温は、K熱電対を差し込んだアルミナ保護管を、めっき浴に浸漬させることで計測した。浴温が設定温度から±5℃で安定した後、浴面のドロスを掻き捨て、大気中にて24時間静置した。24時間の静置後、浴面を観察し、黒色酸化物の生成状況を確認した。浴安定性の評価は下記の通りとした。「B」を不合格とし、「A」を合格とした。結果を表3A~3Cに示す。
黒色酸化物が確認されたもの:「B」
黒色酸化物が確認されなかったもの:「A」
表1A~表3Cに示すように、No.10~48、57は、製造時の冷却条件が適切であり、また、めっき層の平均化学組成、金属組織が本発明の範囲を満足していたので、スポット溶接時における連続打点性に優れ、スポット溶接時の適正電流範囲が広く、またスポット溶接部の耐食性に優れていた。なお、表3A~3Cの共晶組織は、〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕と〔MgZn/Znの二元共晶組織〕の合計である。また、表3A~3CのZnMg相はMgZn相である。
表1A~表3Cに示すように、No.1~9は、めっき層の平均化学組成が発明範囲から外れており、また、一部のめっき鋼材においては、金属組織が本発明の範囲から外れた。このため、スポット溶接時における連続打点性が低下し、スポット溶接時の適正電流範囲が狭くなり、スポット溶接部の耐食性も低下した。
表1A~表3Cに示すように、No.49~53は、製造時の冷却条件が不適切であったため、金属組織が本発明の範囲から外れた。このため、スポット溶接時における連続打点性が低下し、スポット溶接時の適正電流範囲が狭くなり、スポット溶接部の耐食性も低下した。
表1A~表3Cに示すように、No.54~55、56は、製造時の冷却条件が不適切であり、めっき層の平均化学組成が発明範囲から外れており、めっき層の金属組織が本発明の範囲から外れた。このため、スポット溶接時における連続打点性が低下し、スポット溶接時の適正電流範囲が狭くなり、スポット溶接部の耐食性も低下した。
Figure 0007381984000001
Figure 0007381984000002
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Figure 0007381984000004
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本発明によれば、成形時の表面凹凸の発生を抑制できるとともに、高強度である鋼板を得ることができる。

Claims (3)

  1. 鋼材と、
    前記鋼材の表面に備えられためっき層と、
    を有するめっき鋼材であって、
    前記めっき層の平均化学組成が、質量%で、
    Al:0.2%~4.0%未満、
    Mg:4.0%超~12.5%未満、
    Ca:0.15%~3.00%未満、
    Sn:0%~3.0%未満、
    Bi:0%~1.0%未満、
    In:0%~1.0%未満、
    Sc:0%~0.50%未満、
    Y :0%~0.50%未満、
    La:0%~0.50%未満、
    Ce:0%~0.50%未満、
    Sr:0%~0.50%未満、
    Si:0%~2.50%未満、
    B :0%~0.50%未満、
    P :0%~0.50%未満、
    Cr:0%~0.25%未満、
    Ti:0%~0.25%未満、
    Ni:0%~1.0%未満、
    Co:0%~0.25%未満、
    V :0%~0.25%未満、
    Nb:0%~0.25%未満、
    Cu:0%~1.0%未満、
    Mn:0%~0.25%未満、
    Mo:0%~0.25%未満、
    W :0%~0.25%未満、
    Zr:0%~0.25%未満、
    Fe:0%~5.0%未満、
    Ag:0%~1.0%未満、
    Li:0%~0.50%未満、
    Na:0%~0.05%未満、
    K :0%~0.05%未満、
    Sb:0%~0.5%未満、
    Pb:0%~0.5%未満、
    Zn:65%以上、
    及び、不純物からなり、
    前記めっき層における厚み方向に沿った断面において、走査型電子顕微鏡によって観察した際の金属組織が、合計25000μm の観察視野における面積分率で、
    MgZn相:10~40%、
    Al-Zn相:0~15%、
    Al相:0~5%、
    CaZn13相:1.0~12.5%、
    〔Al/MgZn/Znの三元共晶組織〕と〔MgZn/Znの二元共晶組織〕の合計:30.0%以上、
    を含むことを特徴とするめっき鋼材。
  2. 前記めっき層の厚み方向に沿った断面における前記金属組織のCaZn13相のうち、円相当直径の大きい順で上位80%のCaZn13相の平均円相当直径が10μm以上である、請求項1に記載のめっき鋼材。
  3. 前記めっき層の平均化学組成における元素Xの質量濃度%を[X]とした場合、前記めっき層の平均化学組成が下記式(1)を満たすことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のめっき鋼材。
    2.5×[Al]+2×[Ca]+[Y]+[Sr]+[La]+[Ce]>[Mg] …(1)
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