JP2023111556A - 溶接継手 - Google Patents

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卓哉 光延
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Abstract

【課題】溶接継手の裏面に存在する熱影響部の耐食性をより向上させること。【解決手段】本発明に係る溶接継手は、第1鋼板と第2鋼板とが、アーク溶接により溶接されたものであり、前記第1鋼板及び前記第2鋼板と、前記アーク溶接により形成される溶接ビード部と、前記溶接ビード部の周囲に位置する熱影響部と、を有しており、前記第1鋼板及び前記第2鋼板において、前記溶接による熱影響が無い部位を非熱影響部としたときに、前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかは、前記非熱影響部において、地鉄の表面の少なくとも一部に位置するめっき層と、当該めっき層上に位置する酸化物層と、を有しており、前記めっき層は、所定の化学成分を有しており、溶接継手において前記溶接ビード部が存在しない側の面を裏面としたときに、前記裏面における前記熱影響部上に位置するFeスケールの厚みは、0~5.0μmである。【選択図】図2

Description

本発明は、溶接継手に関する。
自動車の足回り部材をはじめとする自動車部材や各種の建材部材は、複数の鋼材を溶接した溶接継手を用いて製造されることが多い。これら自動車部材及び建材部材は、様々な環境に曝露された上で使用されることから、製造された溶接継手は、優れた耐食性を有していることが望まれる。そこで、かかる溶接継手の素材として、合金化溶融亜鉛めっき鋼板等をはじめとする各種の亜鉛系めっき鋼板が用いられている。
ここで、亜鉛めっき鋼板を溶接して溶接継手を製造する場合に特有な問題として、JIS Z3001(2018)で規定される「止端」の近傍における、溶接時のめっき中のZn蒸発の結果形成されるブローホールに起因する、耐食性の低下がある。
上記のようなブローホール形成の問題を解決するために、従来、様々な提案がなされている。例えば以下の特許文献1では、鋼板と、鋼板の表面に配され、Zn-Al-Mg合金層を含むめっき層と、を有し、Zn-Al-Mg合金層の断面において、MnZn相の面積分率が45~75%、MgZn相及びAl相の合計の面積分率が70%以上、かつ、Zn-Al-MgZn三元共晶組織の面積分率が0~5%であり、めっき層が所定の化学組成を有するめっき鋼材が提案されている。
国際公開第2018/139620号
ここで、上記特許文献1で提案されているめっき鋼材を用いることで、ブローホール形成の問題を解決することは可能である。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、上記特許文献1で提案されている技術には、未だ改良の余地があり、止端の近傍以外の部分、例えば、溶接継手において溶接ビード部が存在する側とは逆側の面を裏面としたときに、かかる裏面に存在する熱影響部の耐食性に関して、更なる改善が期待できることを知見した。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、溶接継手の裏面に存在する熱影響部の耐食性をより向上させることが可能な、溶接継手を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、溶接に伴う溶接継手裏面の熱影響部の耐食性の低下は、溶接時にめっき中のZnが蒸発したり酸化したりすることによってめっき成分が残存しない結果、裏面の熱影響部の表面にFeスケールが形成されてしまうことが原因であることに想到した。そのため、裏面の熱影響部の表面へのFeスケールの形成を抑制することができれば、裏面の熱影響部の耐食性をより向上させることが可能である旨を知見した。
かかる知見に基づき、本発明者らが更なる検討を行い、素材としてのめっき鋼板の改良を検討することで、アーク溶接後であってもめっき成分を残存させることができ、裏面の熱影響部の耐食性をより向上させることが可能となることを見出した。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)第1鋼板と第2鋼板とが、アーク溶接により溶接された溶接継手であって、前記第1鋼板及び前記第2鋼板と、前記アーク溶接により形成される溶接ビード部と、前記溶接ビード部の周囲に位置する熱影響部と、を有しており、前記第1鋼板及び前記第2鋼板において、前記溶接による熱影響が無い部位を非熱影響部としたときに、前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかは、前記非熱影響部において、地鉄の表面の少なくとも一部に位置するめっき層と、当該めっき層上に位置する酸化物層と、を有しており、前記めっき層は、質量%で、Al:1.00~80.00%、Mg:1.00~20.00%、Fe:0.01~15.00%、Si:0~10.00%、Ca:0~4.00%を含有し、更に、選択的に、Sb:0~0.50%、Pb:0~0.50%、Cu:0~1.00%、Sn:0~1.00%、In:0~1.00%、Bi:0~1.00%、Ti:0~1.00%、Cr:0~1.00%、Nb:0~1.00%、Zr:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Mn:0~1.00%、V:0~1.00%、Mo:0~1.00%、Ag:0~1.00%、Li:0~1.00%、La:0~0.50%、Ce:0~0.50%、B:0~0.50%、Y:0~0.50%、Sr:0~0.50%を合計で0~5.00%含有し、残部は、5.00質量%以上のZnと不純物からなり、溶接継手において前記溶接ビード部が存在しない側の面を裏面としたときに、前記裏面における前記熱影響部上に位置するFeスケールの厚みは、0~5.0μmである、溶接継手。
(2)前記Feスケールの厚みは、0~1.0μmである、(1)に記載の溶接継手。
(3)前記酸化物層の最表面から深さ5nmの位置を、X線光電子分光法(XPS)にて観察したときに、Al-O結合、Mg-O結合、及び、Zn-O結合にそれぞれ帰属するピークの強度から算出される強度比([Al-O]+[Mg-O])/[Zn-O]の値は、5.0以上である、(1)又は(2)に記載の溶接継手。
(4)前記強度比([Al-O]+[Mg-O])/[Zn-O]の値は、10.0以上である、(3)に記載の溶接継手。
(5)前記めっき層は、Al:18.00~60.00質量%、Mg:5.00~15.00質量%を少なくとも含有する、(1)~(4)の何れか1つに記載の溶接継手。
(6)前記めっき層は、Al:35.00~60.00質量%、Mg:7.00~15.00質量%を少なくとも含有しており、かつ、前記めっき層中に、Mg32(Al,Zn)49相が存在しており、前記Mg32(Al,Zn)49相におけるMg含有量[Mg]、Zn含有量[Zn]、及び、Al含有量[Al](各単位:原子%)は、0.50≦[Mg]/([Zn]+[Al])≦0.83の関係を満足する、(1)~(5)の何れか1項に記載の溶接継手。
以上説明したように本発明によれば、溶接継手の裏面に存在する熱影響部の耐食性をより向上させることが可能である。
本発明の実施形態に係る溶接継手の構造の一例を模式的に示した説明図である。 他の実施形態に係る溶接継手の構造の一例を模式的に示した説明図である。 他の実施形態に係る溶接継手の構造の一例を模式的に示した説明図である。 図1Aに示した実施形態に係る溶接継手について説明するための説明図である。 同実施形態に係る溶接継手について説明するための説明図である。 同実施形態に係る溶接継手について説明するための説明図である。 XPS測定結果におけるピークの強度について説明するための説明図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(溶接継手について)
まず、図1Aを参照しながら、本発明の実施形態に係る溶接継手の全体的な構成について説明する。図1Aは、本実施形態に係る溶接継手の構造の一例を模式的に示した説明図である。
なお、以下では、便宜的に、図1Aに示したような座標系を用いて、適宜説明を行うものとする。図1Aでは、2つの鋼板をアーク溶接により溶接した溶接継手を例に挙げて図示を行っている。
図1Aは、第1鋼板と、第2鋼板と、をアーク溶接により重ね隅肉溶接することで得られた溶接継手の全体的な構成を、模式的に示したものであり、溶接ビード部の延伸方向に対して垂直な溶接継手の断面を示している。図1Aに模式的に示したように、本実施形態に係る溶接継手1は、第1鋼板10と、第2鋼板20と、溶接ビード部30と、熱影響部40と、を有している。
ここで、溶接継手1を構成する第1鋼板10及び第2鋼板20の少なくとも一方の素材として、各種のめっき鋼板を用いることが好ましく、溶接継手1を構成する第1鋼板10及び第2鋼板20の双方の素材として、以下で詳述するようなめっき層を有するめっき鋼板を用いることが、より好ましい。
また、溶接ビード部30は、アーク溶接によって形成される部位であり、溶接の際に必要に応じて用いられる溶接ワイヤーと、第1鋼板10及び第2鋼板20との間で、構成元素の相互拡散が生じる。溶接ビード部30は、かかる拡散元素が酸化されることで形成される。従って、図1Aでは、溶接ビード部30と、第1鋼板10又は第2鋼板20と、の接合界面は、図示の便宜上、滑らかな曲線や直線として示されているが、実際の接合界面は複雑な曲面となっている。また、かかる溶接ビード部30は、図中のY軸方向に沿って延伸しており、かかる溶接ビード部30によって、第1鋼板10と第2鋼板20とが接合されている。
なお、かかる溶接ビード部30を構成する成分は、用いられる溶接ワイヤーの種別や、素材としての第1鋼板10、第2鋼板20の化学組成等に応じて変化するため、全ての可能性を網羅するような成分を一義的に定めることは困難である。しかしながら、かかる溶接ビード部30は、素材としてのめっき鋼板を構成する各種元素のうち、酸化されやすい元素の酸化物を主成分とすることが一般的である。このような酸化されやすい元素としては、例えば、AlやMg等を挙げることができる。
また、着目する溶接継手1における溶接ビード部30に該当する部位を特定する場合には、例えば以下のようにして測定を実施すればよい。すなわち、溶接ビード部30を有する試料を用意し、溶接方向(図1AにおけるY軸方向)と直行する面(図1AにおけX-Z平面)で当該試料を切断し、溶接ビード部30の断面(図1AにおけるX-Z断面)を観察できるよう当該試料を樹脂埋め込み研磨する。研磨した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて溶接ビード部30の断面を観察し、SEM-EDSを用いて各種元素(Zn、Al、Mg、Fe、Cr、Ni、Ti等)の元素分布像を得ることで、溶接ビード部上に存在するスラグ層の特定が可能である。このように特定されたスラグ層の部位よりも鋼板側に位置する部位が、溶接ビード部となる。
なお、溶接時に生成する酸化物は、スケールとスラグの2種類に大別される。スケールは、酸素を除外したときの質量%で、50%以上のFeを含有し、残部が、酸化されやすい元素及び不純物からなるものである。また、スラグは、酸素を除外したときの質量%で、酸化されやすい元素を50%以上含有し、残部が、50質量%未満のFeと不純物からなるものである。ここで、「酸化されやすい元素」とは、エリンガム図においてFeよりも酸化し易いとされている金属元素であり、かつ、めっき層に添加され得る金属元素である。かかる酸化されやすい金属元素の具体例として、Ca、In、Bi、Cr、Zr、Li、La、Ce、Sr、Y、Si、Mn、Al、Tiが挙げられる。
ここで、JIS Z3001(2018)において、母材の表面と溶接ビードの表面とが交わる点は、「止端」と規定されている。図1Aに示したような溶接継手1においては、溶接ビード部30の表面と、第1鋼板10又は第2鋼板20の表面と、が交わる点が、かかる「止端」に対応している。本実施形態に係る溶接継手1は、かかる止端Tの近傍部における耐食性に着目したものとなっている。
かかる「止端T」は、図1Aのような重ね隅肉溶接継手においてのみ規定されるわけではなく、図1Bに示したような突き合わせ溶接継手や、図1Cに示したようなT字溶接継手等においても、同様に規定される。
また、アーク溶接による入熱は、通常、溶接継手1のある一方の側から行われることが一般的であり、アーク溶接の入熱側には、母材となる鋼板の表面に溶接ビード部30が露出し、アーク溶接による入熱が伝播していく方向ほど、溶接ビード部30の大きさは狭まっていく。そのため、表面に露出している溶接ビード部30の有無や、溶接ビード部30の広がり(例えば、図1Bに例示したような断面に着目したときの広がり)に着目することで、アーク溶接時の入熱方向を特定することができる。
また、本実施形態において、図1Aに示した重ね隅肉溶接継手や、図1Cに示したT字溶接継手のように、2つの鋼板の少なくとも一部が重なり合うような継手では、上記のようなアーク溶接の入熱側に位置している鋼板を第1鋼板10とし、アーク溶接による入熱が伝播していく方向側に位置している鋼板を第2鋼板20とする。
図1A~図1Cに模式的にしめしたように、溶接ビード部30の周囲には、熱影響部40が形成される。この熱影響部40は、アーク溶接による第1鋼板10及び第2鋼板20への入熱の結果、第1鋼板10及び第2鋼板の金属組織が変質することで生じる。かかる熱影響部40の大きさは、アーク溶接の際の入熱量に依存し、入熱量が多くなるほど、熱影響部40の大きさも大きくなることが一般的である。また、第1鋼板10及び第2鋼板20の金属組織が変質することにより、第1鋼板10や第2鋼板20の変質しなかった部位とは、目視したときの様子(見た目)が相違するようになるため、熱影響部40に対応する部位を容易に見分けることができる。
<非熱影響部について>
続いて、図2を参照しながら、本実施形態に係る溶接継手1のうち、溶接による熱影響が無い部位の構成について、詳細に説明する。図2は、溶接ビード部30の延伸方向に対して垂直な溶接継手1の断面を模式的に示す図である。
以下の説明において、溶接継手1のうち溶接による熱影響が無い部位(換言すれば、溶接ビード部30及び熱影響部40ではない部位)を、「非熱影響部」と称することとする。図2に示したような溶接継手1では、例えば図中の破線で囲ったような、止端Tの近傍から十分に離隔した領域R1が、かかる非熱影響部に対応する。このような非熱影響部の位置は、例えば、図2に示したような止端Tから、溶接ビード部30の延伸方向(図2におけるY軸方向)に対して直交し、かつ止端Tから離隔する方向(図2におけるX軸方向)に、例えば10mm以上離隔した領域と考えることができる。
図3は、非熱影響部R1における板厚方向に平行な断面の一部を模式的に示す図である。第1鋼板10又は第2鋼板20の少なくとも何れかにおける非熱影響部R1は、図3に模式的に示したように、地鉄101と、地鉄101の表面の少なくとも一部に位置するめっき層103と、かかるめっき層103上に位置する酸化物層105と、を有している。なお、本実施形態に係る溶接継手1において、上記のようなめっき層103及び酸化物層105は、地鉄101のうち一方の表面上に存在していてもよいが、地鉄101の両方の表面上に存在していることがより好ましい。
以下、これら地鉄101、めっき層103及び酸化物層105のそれぞれについて、詳細に説明する。
≪地鉄101について≫
本実施形態に係る溶接継手1において、素材であるめっき鋼板の母材に対応する地鉄101は、特に限定されるものではない。溶接継手1に求められる機械的強度(例えば、引張強度)等に応じて、各種の鋼板が地鉄101として用いられ得る。このような鋼板として、例えば、各種のAlキルド鋼、Ti、Nb等を含有させた極低炭素鋼、極低炭素鋼にP、Si、Mn等の強化元素を更に含有させた高強度鋼等のような種々の鋼板を挙げることができる。
また、地鉄101の厚みについては、特に限定されるものではなく、溶接継手1に求められる機械的強度等に応じて、適宜設定される。
≪めっき層103について≫
めっき層103は、図3に模式的に示したように、地鉄101の表面の少なくとも一部に設けられ、地鉄101の表面の全体にわたって設けられることがより好ましい。かかるめっき層103は、溶接継手1の素材であるめっき鋼板が有しているめっき層に由来している。
ここで、かかるめっき層103は、溶接継手1におけるアーク溶接の入熱側に位置する鋼板(第1鋼板10)の溶接ビード部30が露出している側の表面(例えば図1A等におけるZ軸正方向側の表面)、及び、アーク溶接の熱が伝播する方向側の鋼板(第2鋼板20)の熱影響部40が露出している側の表面(例えば図1A等におけるZ軸負方向側の表面)には、設けられていることが好ましい。第1鋼板10及び第2鋼板20における上記以外の表面については、以下で説明するようなめっき層103が設けられていることが好ましいが、めっき層103が設けられていなくともよい。
以下では、まず、かかるめっき層103の化学組成について、詳細に説明する。
◇めっき層103の化学組成について
本実施形態に係るめっき層103の化学組成は、質量%で、Al:1.00~80.00%、Mg:1.00~20.00%、Fe:0.01~15.00%、Si:0~10.00%、Ca:0~4.00%、を含有し、残部は、5.00質量%以上のZnと不純物からなる。つまり、本実施形態に係るめっき層103の化学組成において、Al、Mg、Fe、Si、Caの含有量が上記の範囲内で、かつ、これら含有量の合計が100質量%未満であり、残部は、5.00質量%以上のZnと不純物である。
以下、これら成分とその含有量について、詳細に説明する。
[Al:1.00~80.00質量%]
Alは、本実施形態に係るめっき層103の主相(Zn-Al-Mg系合金相)を構成するために必要な元素であり、非熱影響部の耐食性を確保するうえで、一定以上含有される。めっき層103におけるAl含有量が1.00質量%未満である場合には、上記のような非熱影響部の耐食性を担保することができない。そのため、本実施形態に係るめっき層103において、Al含有量は、1.00質量%以上である。Al含有量は、好ましくは18.00質量%以上であり、より好ましくは35.00質量%以上である。Al含有量が、上記のような範囲となることで、非熱影響部の耐食性を担保することが可能となる。
一方、めっき層103におけるAl含有量が80.00質量%超となる場合には、腐食環境に置かれた場合にカソードとして機能するAl相が過剰に増加して、地鉄の腐食が進行しやすくなるため、非熱影響部の耐食性を担保することができない。そのため、本実施形態に係るめっき層103において、Al含有量は、80.00質量%以下である。Al含有量は、好ましくは60.00質量%以下であり、より好ましくは50.00質量%以下である。
[Mg:1.00~20.00質量%]
Mgは、本実施形態に係るめっき層103の主相(Zn-Al-Mg系合金相)を構成するために必要な元素であり、非熱影響部の耐食性を確保するうえで、一定以上含有される。そのため、本実施形態に係るめっき層103において、Mg含有量は、1.00質量%以上である。Mg含有量は、好ましくは5.00質量%以上であり、より好ましくは7.00質量%以上である。Mg含有量が、上記のような範囲となることで、非熱影響部の耐食性を担保することが可能となる。
一方、めっき層103におけるMg含有量が20.00質量%超となる場合には、腐食環境に置かれた場合にめっき層のアノード溶解が進みやすくなるため、非熱影響部の耐食性を担保することができない。そのため、本実施形態に係るめっき層103において、Mg含有量は、20.00質量%以下である。Mg含有量は、好ましくは15.00質量%以下であり、より好ましくは13.00質量%以下である。Mg含有量が、上記のような範囲となることで、非熱影響部の耐食性を確実に担保することが可能となる。
[Fe:0.01~15.00質量%]
めっき層103には、母材である地鉄101から、地鉄101を構成する元素が混入することがある。特に、溶融めっき法によりめっき層103が形成される場合に、地鉄101とめっき層103との間での固液反応による元素の相互拡散によって、地鉄101を構成する元素がめっき層103へ混入し易くなる。このような元素の混入により、めっき層103中には、一定量のFeが含有され、その含有量は、0.01質量%以上となることが一般的である。上記相互拡散が促進されれば、地鉄101とめっき層103との密着性が向上する。地鉄101とめっき層103との密着性の向上という観点からは、めっき層103中のFe含有量は、0.20質量%以上であることが好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲内で、めっき層103を製造する際に用いられるめっき浴中に意図的にFeを添加してもよい。ただし、めっき層103中のFe含有量が15.00質量%以上となる場合には、めっき浴中にFeとAlの高融点な金属間化合物が形成し、かかる高融点の金属間化合物がドロスとしてめっき層に付着して外観品位を著しく低下させるため、好ましくない。かかる観点から、めっき浴中のFe含有量が調整されることにより、めっき層103中のFe含有量は、15.00質量%以下とする。めっき層103中のFe含有量は、より好ましくは10.00質量%以下である。
[Si:0~10.00質量%]
Siは、めっき層と地鉄の界面に形成するFe-Al系金属間化合物相の過剰な成長を抑制し、めっき層と地鉄の密着性を向上させることが可能な元素である。Fe-Al系金属間化合物相の過剰な成長を抑制するために、Siの含有量は、0.05質量%以上が好ましく、0.20質量%以上がより好ましい。一方、Siの含有量が10.00質量%を超える場合には、Mgと高融点化の金属間化合物相を過剰に形成し、Zn蒸発抑制効果を有するAl-Mg酸化膜の形成を阻害するため、溶接時のZn蒸発を抑制することが困難となる。
一方、めっき層103を製造するためのめっき浴中のSi含有量が多すぎる場合、めっき浴の粘性が必要以上に増加して操業性が低下する可能性がある。そのため、操業性の観点からめっき浴中のSi含有量が調整されることにより、めっき層103中のSi含有量は、10.00質量%以下となる。めっき層103中のSi含有量は、好ましくは5.00質量%以下であり、より好ましくは2.00質量%以下である。
[Ca:0~4.00質量%]
Caは、めっき層103中に含有されると、Al及びZnと金属間化合物相を形成する。更に、めっき層103中にCaと共にSiが含有される場合、CaはSiと金属間化合物相を形成する。これらの金属間化合物相は、融点が高く、安定な構造であるため、めっき鋼板の溶接時のZn蒸発に起因するブローホールの形成と、LMEとを、抑制することが可能となる。かかる溶接時のブローホール形成及びLMEの抑制効果は、Ca含有量を0.01質量%以上とすることで、発現される。めっき層103中におけるCa含有量は、より好ましくは0.10質量%以上である。
一方、めっき層103中のCa含有量が4.00質量%を超える場合には、非熱影響部の耐食性が低下する。かかる観点から、めっき層103中のCa含有量は、4.00質量%以下である。めっき層103中のCa含有量は、好ましくは2.50質量%以下であり、より好ましくは1.50質量%以下である。
めっき層103において、上記Al、Mg、Fe、Si、Caの残部は、5.00質量%以上のZnと、不純物である。
Znは、本実施形態に係るめっき層103の主相(Zn-Al-Mg系合金相)を構成するために必要な元素であり、非熱影響部の耐食性を向上させるために重要な元素である。かかる非熱影響部の耐食性の向上効果は、Znの含有量が5.00質量%以上となることで発現するため、Znの含有量は、5.00質量%以上とする。
また、本実施形態に係るめっき層103は、残部のZnの一部に換えて、更に選択的に、Sb:0~0.50%、Pb:0~0.50%、Cu:0~1.00%、Sn:0~1.00%、In:0~1.00%、Bi:0~1.00%、Ti:0~1.00%、Cr:0~1.00%、Nb:0~1.00%、Zr:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Mn:0~1.00%、V:0~1.00%、Mo:0~1.00%、Ag:0~1.00%、Li:0~1.00%、La:0~0.50%、Ce:0~0.50%、B:0~0.50%、Y:0~0.50%、Sr:0~0.50%を、合計で0~5.00%含有していてもよい。つまり、本実施形態に係るめっき層103は、任意添加元素として、Sb、Pb、Cu、Sn、In、Bi、Ti、Cr、Nb、Zr、Ni、Mn、V、Mo、Ag、Li、La、Ce、B、Y、Srの少なくとも何れかの元素を、上記の含有量の範囲内、かつ、合計含有量が5.00質量%以下で含有してもよい。
上記の任意添加元素の合計含有量を5.00質量%以下とすることで、以下で詳述するような各任意添加元素の添加により発現される効果を、互いに損なうことなく享受することが可能となる。上記の任意添加元素の合計含有量は、好ましくは1.00質量%以下であり、より好ましくは0.20質量%以下である。
以下、各任意添加元素の含有量について、詳細に説明する。
[Sb:0~0.50質量%]
[Pb:0~0.50質量%]
[Sr:0~0.50質量%]
Sb、Pb、Srの少なくとも何れかがめっき層103中に含有されると、めっき層103の表面にスパングルが形成されて、金属光沢の向上を図ることが可能となる。そのため、めっき鋼板の意匠性向上という観点から、Sb、Pb、Srの少なくとも何れかがめっき層103中に含有されることが好ましい。かかる意匠性向上効果は、Sb、Pb、Srの少なくとも何れかの含有量が0.05質量%以上となった場合に発現される。そのため、Sb、Pb、Srの少なくとも何れかをめっき層103に含有させる場合には、これら元素の含有量は、それぞれ独立に、0.05質量%以上とされることが好ましい。
一方、Sb、Pb、Srの含有量の何れかが0.50質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103を形成するために用いるめっき浴中のドロス生成量が多くなり、めっき性状の良好なめっき鋼板を製造できない。そのため、めっき層103中のSb、Pb、Srの含有量は、それぞれ独立に、0.50質量%以下とする。Sb、Pb、Srの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.20質量%以下である。
[Cu:0~1.00質量%]
[Ti:0~1.00質量%]
[Cr:0~1.00質量%]
[Nb:0~1.00質量%]
[Ni:0~1.00質量%]
[Mn:0~1.00質量%]
[V :0~1.00質量%]
Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Vの少なくとも何れかがめっき層103中に含有されると、かかるめっき鋼板を溶接した際に、これら元素が、溶接によって生成されるAl-Fe合金層に取り込まれ、形成される溶接ビード部30の耐食性を向上させることが可能となる。かかる溶接部耐食性の向上効果は、めっき層103中のCu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Vの何れかの含有量が0.005質量%以上となった場合に発現される。そのため、Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Vの少なくとも何れかをめっき層103中に含有させる場合には、これら元素の含有量は、それぞれ独立に、0.005質量%以上とされることが好ましい。
一方、Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Vの含有量の何れかが1.00質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103を形成するためのめっき浴中でこれら元素が様々な金属間化合物相を形成しやすくなる。そのため、めっき浴の粘性の上昇を招いて、めっき性状の良好なめっき鋼板を製造できない。よって、めっき層103中のCu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Vの含有量は、それぞれ独立に、1.00質量%以下とされる。Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Vの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.20質量%以下である。
[Sn:0~1.00質量%]
[In:0~1.00質量%]
[Bi:0~1.00質量%]
Sn、In、Biは、Zn、Al、Mgを含むめっき層103が腐食環境に置かれた場合に、Mg溶出速度を上昇させる元素である。Mgの溶出速度が上昇すると、地鉄が露出した部分にMgイオンが供給され、犠牲防食性が向上する。一方で、過剰なSn、In、Bi添加は、Mg溶出速度を過剰に促進し、非熱影響部の耐食性が低下する可能性がある。かかるMg溶出速度の上昇は、Sn、In、Biの含有量の何れかが1.00質量%を超えると顕著となるため、Sn、In、Biの含有量は、それぞれ独立に、1.00質量%以下である。Sn、In、Biの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.20質量%以下である。一方、Sn、In、Biの含有量の下限は、特に規定されるものではなく、それぞれ独立に、0質量%であってもよいが、Sn、In、Biを含有させる場合には、それらの含有量は、それぞれ独立に、0.005質量%以上とすることが好ましい。これにより、めっき層103の犠牲防食性を向上させることが可能となる。
[Zr:0~1.00質量%]
Zrがめっき層103中に含有されると、めっき性を向上させることが可能となる。かかるめっき性の向上効果は、Zrの含有量が0.01質量%以上となった場合に発現される。そのため、Zrを含有させる場合には、その含有量は、0.01質量%以上とすることが好ましい。
一方、Zrの含有量が1.00質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103の形成に用いるめっき浴中に多量のドロスが発生しやすい。そのため、Zrの含有量は、1.00質量%以下である。Zrの含有量は、好ましくは0.10質量%以下である。
[Mo:0~1.00質量%]
Moがめっき層103中に含有されると、耐食性を向上させることが可能となる。かかる耐食性の向上効果は、Moの含有量が0.01質量%以上となった場合に発現される。そのため、Moを含有させる場合には、その含有量は、0.01質量%以上とすることが好ましい。
一方、Moの含有量が1.00質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103の形成に用いるめっき浴中に多量のドロスが発生しやすい。そのため、Moの含有量は、1.00質量%以下である。Moの含有量は、好ましくは0.05質量%以下である。
[Ag:0~1.00質量%]
Agがめっき層103中に含有されると、めっき性を向上させることが可能となる。かかるめっき性の向上効果は、Agの含有量が0.01質量%以上となった場合に発現される。そのため、Agを含有させる場合には、その含有量は、0.01質量%以上とすることが好ましい。
一方、Agの含有量が1.00質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103の形成に用いるめっき浴中に多量のドロスが発生しやすい。そのため、Agの含有量は、1.00質量%以下である。Agの含有量は、好ましくは0.05質量%以下である。
[Li:0~1.00質量%]
Liがめっき層103中に含有されると、めっき性を向上させることが可能となる。かかるめっき性の向上効果は、Liの含有量が0.01質量%以上となった場合に発現させることができる。そのため、Liを含有させる場合には、その含有量は、0.01質量%以上とすることが好ましい。
一方、Liの含有量が1.00質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103の形成に用いるめっき浴中に多量のドロスが発生しやすい。そのため、Liの含有量は、1.00質量%以下である。Liの含有量は、好ましくは0.05質量%以下である。
[La:0~0.50質量%]
[Ce:0~0.50質量%]
[Y :0~0.50質量%]
La、Ce、Yは、Caとほぼ同等の効果を発現する元素であり、溶接時のブローホール形成及びLMEを抑制する。これは、各元素の原子半径がCaの原子半径と近いことに起因する。これらの元素がめっき層103中に含有されると、Ca位置に置換する。そのため、これらの元素は、EDSにおいてCaと同位置に検出される。また、これらの元素が酸化物となった場合においても、これら元素の酸化物はCaOと同位置で検出される。
かかる溶接時のブローホール形成及びLMEの抑制効果は、これら元素の含有量を、それぞれ独立に、0.01質量%以上とすることで発現される。そのため、めっき層103中におけるLa、Ce、Yの含有量はより好ましくは、それぞれ独立に、0.05質量%以上である。
一方、めっき層103を製造するためのめっき浴中のLa、Ce、Y含有量が多すぎる場合、めっき浴の粘性が必要以上に増加して操業性が低下する可能性がある。そのため、操業性の観点からめっき浴中のLa、Ce、Y含有量が調整されることにより、La、Ce、Yの含有量は、それぞれ独立に、0.50質量%以下となる。La、Ce、Yの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.10質量%以下である。
[B:0~0.50質量%]
Bは、めっき層103中に含有されると、LMEを抑制する効果がある。これは、Bがめっき層103中に含有されると、Zn、Al、Mg、Caの少なくとも何れかと化合して、様々な金属間化合物相を形成するためと推察される。また、めっき層103中にBが存在することで、Bはめっき層103から地鉄101へと拡散し、粒界強化によって地鉄101のLMEを抑制する効果があると考えられる。更に、Bに関して形成される各種の金属間化合物は、融点が極めて高いために、溶接時におけるZn蒸発の抑制にも作用していると推察される。これらの改善効果は、Bを0.05質量%以上含有させることで発現される。そのため、めっき層103中におけるBの含有量は、より好ましくは0.05質量%以上である。
一方、めっき層103中にBを含有させるために、めっき浴中に過剰にBを含有させると、めっき融点の急激な上昇を引き起こしてめっき操業性が低下し、めっき性状に優れるめっき鋼板を製造することができない。かかる操業性の低下は、Bの含有量が0.50質量%を超える場合に顕著となるため、Bの含有量は0.50質量%以下である。Bの含有量は、好ましくは0.10質量%以下である。
[化学成分の計測方法]
上記のめっき層103の化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)又はICP-MS(lnductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)を使用して、計測することが可能である。なお、0.1質量%単位までの化学成分の分析を行う場合には、ICP-AESを用いることとし、0.1質量%未満の微量な化学成分の分析を行う場合には、ICP-MSを用いることとする。非熱影響部の着目する部位を、インヒビターを加えた10%塩酸に対して1分程度浸潰し、めっき層部分を剥離し、このめっき層を溶解した溶液を準備する。得られた溶液を、ICP-AES又はICP-MSによって分析して、めっき層の全体平均としての化学成分を得ることができる。
◇めっき層103のより好ましい化学組成について
本実施形態に係るめっき層103は、上記のような化学組成を有しているが、より好ましい化学組成は、以下の通りである。
すなわち、本実施形態に係るめっき層103は、化学組成として、18.00~60.00質量%のAlと、5.00~15.00質量%のMgと、を少なくとも含有し、必要に応じて更に上記のような任意添加元素を更に含有することが、より好ましい。
また、本実施形態に係るめっき層103は、化学組成として、35.00~60.00質量%のAlと、7.00~15.00質量%のMgと、を少なくとも含有し、必要に応じて更に上記のような任意添加元素を更に含有した上で、更に、めっき層103中に、Mg32(Al,Zn)49相が存在していることが、更に一層好ましい。
ここで、Mg32(Al,Zn)49相は、Mg32(Al,Zn)49相の粒内に含まれるMg含有量[Mg]、Zn含有量[Zn]及びAl含有量[Al]が、原子%で、0.5≦[Mg]/([Zn]+[Al])≦0.83を満足する相として定義される。すなわち、Mg原子と、Zn原子及びAl原子の合計と、の比であるMg:(Zn+Al)が、3:6~5:6となる結晶相又は準結晶相として定義される。Mg32(Al,Zn)49相の化学成分は、TEM-EDX(Transmission Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)による定量分析を用いて測定することが好ましい。Mg32(Al,Zn)49相は結晶相に加えて準結晶相の両方として検出される場合がある。結晶相の場合は、TEM観察における電子線回折像から、その結晶構造がMg32(Al,Zn)49相であることを同定することが可能である。なお、Mg32(Al,Zn)49相が準結晶相である場合は、TEMによる電子線回折像を撮影し、電子線回折像に5回対称の結晶構造が観察されるか否かで確認することができる。5回対称の結晶構造は、ペンローズパターン(Penrose pattern)と呼ばれる電子線回折像を得ることで判別することができる。
Mg32(Al,Zn)49相はめっき鋼板に対して犠牲防食性を発現することで、地鉄が露出したカット部や溶接部からの地鉄腐食を抑制し、耐赤錆性を向上させる効果がある。これに加え、Mg32(Al,Zn)49相そのものの耐食性も優れ、Mg32(Al,Zn)49相は腐食環境にあっても腐食速度が遅いため、塗膜下腐食を抑制し、塗膜膨れ幅という観点からも塗装後耐食性を向上させる効果も併せ持つ。
◇めっき層103の付着量について
以上説明したようなめっき層103の付着量については、特に規定するものではないが、例えば、地鉄101の片面当たり、15~250g/m程度であることが好ましい。めっき層103の付着量が上記のような範囲内となることで、本実施形態に係る溶接継手1の非熱影響部は、十分な耐食性を示すことが可能となる。
なお、かかるめっき層103の付着量は、めっき鋼板から30mm×30mmの大きさにサンプル(裏面に対しテープシールを施し、裏面は溶解しないようにしたもの)を切り出し、予めその質量を測定しておく。その上で、インヒビター添加した10%HCl水溶液にかかるサンプルを浸漬してめっき層を酸洗剥離し、酸洗後のサンプルの質量を測定する。酸洗前後のサンプルの質量変化から、めっき層103の付着量を決定することが可能である。
≪酸化物層105について≫
続いて、本実施形態に係る溶接継手1の非熱影響部が有している酸化物層105について、詳細に説明する。
図3に模式的に示したように、上記で説明したようなめっき層103の表面には、酸化物層105が位置している。かかる酸化物層105は、溶接継手1の素材であるめっき鋼板が有している酸化物層に由来している。
かかる酸化物層105は、めっき層103を構成する元素のうち酸化されやすいものが、めっき鋼板の製造時に実施されるめっき層を凝固させるための冷却処理において、熱処理雰囲気中の酸素と反応することで形成される。
かかる酸化物層105は、上記のように、主にめっき層103を構成する元素の酸化物で構成されることから、その化学組成は、めっき層103に含有される元素に応じて変化する。かかる酸化物層105は、Zn酸化物、Mg酸化物及びAl酸化物を合計で50質量%以上含有し、更に、これらZn、Mg、Alの水酸化物や、その他の構成元素の酸化物又は水酸化物の少なくとも何れかや、不純物等を含有しうる層であると推察される。
ここで、本実施形態に係る酸化物層105は、素材となるめっき鋼板の製造時に以下で詳述するような特定の熱処理工程を経ることで、以下のような特定の状態で存在する。以下、かかる状態について、図4及び図5を参照しながら、詳細に説明する。図4は、酸化物層の板厚方向に平行な断面の一部を模式的に示す図である。図5は、XPS測定結果におけるピークの強度について説明するための説明図である。
素材となるめっき鋼板の製造時に以下で詳述するような特定の熱処理工程を経て製造されることで、本実施形態に係る酸化物層105では、Znの酸化物又は水酸化物の少なくとも何れかの存在量よりも、Alの酸化物又は水酸化物の少なくとも何れかの存在量とMgの酸化物又は水酸化物の少なくとも何れかの存在量の合計の方が多い、緻密な状態の皮膜となっている。以下、より具体的に説明する。
いま、図4に模式的に示したように、酸化物層105の最表面から深さ5nmの位置(図4における「位置A」)に着目する。本実施形態に係る酸化物層105では、かかる位置をX線光電子分光法(XPS)にて観察したときに、Al-O結合、Mg-O結合、及び、Zn-O結合にそれぞれ帰属するピークの強度から算出される強度比([Al-O]+[Mg-O])/[Zn-O]の値が、5.0以上となっていることが好ましい。
ここで、酸化物層105の最表面には、油脂等の汚れが付着している可能性がある。そのため、上記のようなXPSの測定は、このような汚れ等が存在しない状態で実施することが望まれる。かかる観点から、エタノール中での超音波洗浄等の処理を酸化物層105の表面に施すことで汚れ等を除去し、かかる処理により得られる表面を、上記のようにXPSの測定を行う際の「酸化物層105の最表面」とする。
その上で、上記のようにして得られた最表面から5nmの深さまで、Arイオンエッチングにより酸化物層105を除去し、得られた酸化物層105の表面を、XPSにより測定する。ここで、XPSの測定条件は、例えば以下のようにすればよい。
X線源:mono-Al Kα(1486.6eV)
X線径:50~200μm
測定領域:100~700μm×100~700μm
真空度:1×10-10~1×10-11 torr(1torrは、133.32Paである。)
加速電圧:1~10kV
本実施形態では、得られたXPSの測定結果において、Al-O結合、Mg-O結合、及び、Zn-O結合にそれぞれ帰属するピークに着目する。上記のような結合は、Al、Mg、Znの酸化物及び水酸化物に特徴的な結合であり、これらの結合に帰属されるピークの強度が、Al、Mg、Znの酸化物又は水酸化物の少なくとも何れかの存在量に対して、正の相関があると考えることができる。
ここで、Al-O結合に帰属するピークは、Al 2p3/2に着目したXPSスペクトルにおいて、72~76eVの範囲内に観測されるピークである。Mg-O結合に帰属するピークは、Mg 2p3/2に着目したXPSスペクトルにおいて、48~52eVの範囲内に観測されるピークである。Zn-O結合に帰属するピークは、Zn 2p3/2に着目したXPSスペクトルにおいて、1018~1024eVの範囲内に観測されるピークである。
また、各結合に帰属するピークの強度は、図5に模式的に示したようなXPSスペクトルにおいて、着目するピークのベースラインを考慮した上で、着目するピークの強度Iからベースラインの強度Iを減じたもの(すなわち、「I-I」)とする。
より詳細な強度比の算出方法は、以下の通りである。
すなわち、上記のようにして得られた、最表面から深さ5nmの位置に対応する面(図4における「位置A」の面)の任意の場所において、上記のようにしてXPSを測定して、強度比([Al-O]+[Mg-O])/[Zn-O]の値を算出する。このような測定・算出処理を、「位置A」に対応する面上の任意の5箇所でそれぞれ実施し、得られた5つの強度比の平均値を、本実施形態に係る酸化物層105における、強度比([Al-O]+[Mg-O])/[Zn-O]の値とする。
本実施形態に係る酸化物層105では、上記強度比の値が5.0以上となるような緻密な皮膜が形成されることで、溶接時におけるZnの蒸発を抑制でき、Zn蒸発に起因するブローホール形成を抑制することができる。上記強度比の値が5.0未満である場合には、酸化物層105に求められる緻密さが不十分となる可能性がある。上記強度比の値は、より好ましくは10.0以上である。一方、強度比([Al-O]+[Mg-O])/[Zn-O]の値の上限値は、特に規定するものではないが、100.0程度が実質的な上限となる。
以上説明したような酸化物層105の厚み(より詳細には、平均厚み)については、特に規定するものではないが、例えば、地鉄101の片面当たり、0.05~2.00μm程度であることが好ましい。酸化物層105の厚みが上記のような範囲内となることで、本実施形態に係る非熱影響部は、溶接時のZn蒸発によるブローホール形成を、十分に抑制することが可能となる。また、上記のような厚みの酸化物層105は、素材となるめっき鋼板の製造時に、鋼板の通板速度を適切な範囲に制御しながら、以下で詳述するような熱処理工程を経ることで、実現される。
なお、かかる酸化物層105の厚みは、XPSを用いて測定することができる。めっき鋼板の表面から1~3nmピッチで深さ方向へXPS測定を行い、酸素の最大強度が最表面の最大強度の1/20になるまでの深さを、酸化物層の厚みと定義する。なお、XPSの測定条件ついては、上記と同様の条件を用いればよい。
以上、図2~図5を参照しながら、本実施形態に係る溶接継手1における非熱影響部について、詳細に説明した。
なお、本実施形態に係る溶接継手1の非熱影響部は、上記の酸化物層105上に、更に1層又は2層以上の各種の皮膜を有していてもよい。このような皮膜として、例えば、クロメート皮膜、リン酸塩皮膜、クロメートフリー皮膜、有機樹脂皮膜等が挙げられる。
<裏面側の熱影響部について>
先だって言及したように、本実施形態に係る溶接継手1において、溶接ビード部30が存在する側の表面(例えば図1A等における、Z軸正方向側の表面)を、「溶接継手1の表面側」と表し、溶接ビード部30が存在する側の表面とは逆側の表面を、「溶接継手1の裏面側」と表すこととする。ここで、「溶接継手1の表面側」は、本実施形態に係る溶接継手1を自動車足回り部品等をはじめとする部材として用いる際に、人目に晒される部材の表側の面であり、「溶接継手1の裏面側」は、人目に晒されない、部材の裏側の面であるとも捉えることができる。例えば、図1A~図1Cに示したような溶接継手1では、第2鋼板20のZ軸負方向側の表面が、上記の「溶接継手1の裏面側」に対応する。
本実施形態に係る溶接継手1では、少なくとも第2鋼板20の素材として、上記のような地鉄101、めっき層103及び酸化物層105を有するめっき鋼板が用いられ、かつ、少なくとも溶接後に第2鋼板20の裏面側となる側の面に上記のようなめっき層103及び酸化物層105が設けられていることが重要である。上記のようなめっき鋼板を、このような状態となるように用いることで、アーク溶接後に得られる溶接継手1の裏面側の熱影響部40では、アーク溶接後であっても、めっき成分を十分に残存させることができる。その結果、かかる裏面側の熱影響部40の表面(図2における領域R2)では、アーク溶接に伴うFeスケール(図示せず。)の形成を十分に抑制することができる。これにより、本実施形態に係る溶接継手1では、裏面側の熱影響部の耐食性を向上させることが可能となる。
具体的には、本実施形態に係る溶接継手1では、裏面側における熱影響部40上に位置するFeスケール(図示せず。)の厚み(平均厚み)は、0~5.0μmとなっている。Feスケールの厚みが5.0μm超となっている場合には、アーク溶接に際して、めっき成分を十分に残存させることができなかったことを意味しており、溶接継手1における裏面側の熱影響部の耐食性を担保することができない。裏面側の熱影響部40におけるFeスケールの厚みは、好ましくは、0~1.0μmである。また、裏面側の熱影響部40におけるFeスケールの厚みは、薄ければ薄いほどよく、その下限値は、上記のように0μm(換言すれば、Feスケールが存在しない状態)である。
ここで、上記のようなFeスケールの厚みは、以下のようにして測定することができる。すなわち、断面SEM像を得て、EPMAを用いて点組成分析することで、任意の視野(大きさ:64μm×48μm、倍率2000倍相当)中のFeスケール部を特定する。視野中のランダムな5か所のFeスケールの厚みを測定し、その視野中のFeスケールの厚みの平均値を求める。同様の測定を、他の任意の4視野についても実施し、合計5視野での平均値を、着目するサンプルのFeスケールの厚みとする。
なお、Feスケールが発生しやすい裏面側の熱影響部においてすら、本実施形態に係る溶接継手1においては、熱影響部40にめっき成分が十分に残存していることで、Feスケールの厚みは0~5.0μmの範囲内となっている。そのため、めっき成分が十分に存在しているその他の部位(例えば、非熱影響部)では、当然ながら、Feスケールの厚みは、0~5.0μmの範囲内に抑制されている。
以上、図1A~図6を参照しながら、本実施形態に係る溶接継手1について、詳細に説明した。以上説明したような本実施形態に係る溶接継手1は、例えば、自動車の足回り部品として、好適に用いることが可能である。
(素材となるめっき鋼板の製造方法について)
次に、以上説明したような、溶接継手1の素材となるめっき鋼板の製造方法の一例を説明する。
本実施形態に係る溶接継手1の素材となるめっき鋼板は、上記のような地鉄101からなる鋼板を母材として、かかる地鉄101の表面にめっき層103及び酸化物層105を形成することで製造される。
ここで、めっき層103の形成には、溶融めっき法の他、溶射法、コールドスプレー法、スパッタリング法、蒸着法、電気めっき法等を適用できる。ただし、自動車等で一般的に使われる程度の厚さのめっき層を形成するには、溶融めっき法がコスト面で最も好ましい。
その後、得られためっき鋼板(地鉄101及びめっき層103からなるめっき鋼板)に対して、以下で説明するような特定の熱処理工程を施すことで、めっき層103の表面に酸化物層105を形成する。これにより、本実施形態に係る溶接継手1の素材として用いられるめっき鋼板を製造することができる。
以下では、溶融めっき法を用いて、本実施形態に係るめっき鋼板を得る製造方法の一例について、詳細に説明する。
かかるめっき鋼板の製造工程では、まず、母材として用いる地鉄101からなる鋼板を、ゼンジミア法により圧延して所望の板厚とした後、コイル状に巻き取って、溶融めっきラインに設置する。
溶融めっきラインでは、鋼板をコイルから繰り出しながら連続的に通板させる。その際、ライン上に設けられた焼鈍設備により、鋼板を、例えば、酸素濃度が20ppm以下の無酸化環境下、N-5%Hガス雰囲気にて、800℃で加熱還元処理した後、後段のめっき浴の浴温+20℃前後までNガスで空冷して、めっき浴に浸漬させる。
ここで、めっき浴中には、前述のような化学成分を有する、溶融状態にあるめっき合金を準備しておく。めっき浴の温度は、めっき合金の融点以上(例えば、460~600℃程度)としておく。めっき合金の材料作製の際は、合金材料として純金属(純度99%以上)を用いて調合することが好ましい。まず、上記のようなめっき層の組成となるように合金金属の所定量を混合して、真空又は不活性ガス置換状態で高周波誘導炉やアーク炉などを使用して、完全に溶解させて合金とする。更に、所定の成分(上記めっき層の組成)で混合された当該合金を大気中で溶解して、得られた溶融物をめっき浴として利用する。
なお、以上述べたようなめっき合金の作製には、特に純金属を使用する制約はなく、既存のZn合金、Mg合金、Al合金を溶解して使用してもよい。この際、不純物が少ない所定の組成合金さえ用いれば、問題はない。
鋼板を、上記のようなめっき浴中に浸漬させた後、所定の引上速度で引き上げる。この際に、形成されるめっき層103が所望の厚みとなるように、例えばNワイピングガスによりめっき付着量を制御する。ここで、浴温以外の条件については、一般的なめっき操業条件を適用すればよく、特別な設備や条件は要しない。
続いて、鋼板上に位置する溶融状態にあるめっき合金に対して、以下のような第1冷却工程及び第2冷却工程を実施して、溶融状態にあるめっき合金をめっき層103とするとともに、めっき層103の表面に酸化物層105を形成させる。以下、第1冷却工程及び第2冷却工程について、詳細に説明する。
第1冷却工程は、めっき合金の温度が、浴温~250℃の範囲内である際に実施される冷却工程であり、上記のような温度範囲内にあるめっき鋼板を、露点-20℃以下の雰囲気下において、平均冷却速度10℃/秒以上で急冷する。なお、めっき工程において溶融めっき法を採用した場合、かかる第1冷却工程は、鋼板がめっき浴から出た直後から実施される。これにより、鋼板の表面に位置しているめっき合金が固化して、めっき層が形成される。
その後、めっき合金(めっき層)の温度が250~50℃の範囲内である際に、第2冷却工程を実施する。この第2冷却工程は、250~50℃の温度範囲内にあるめっき鋼板を、露点0℃以上の雰囲気下において、平均冷却速度10℃/秒以下で徐冷する工程である。これにより、めっき層の表面に形成される酸化物の状態を制御して、所望の酸化物層を形成する。
上記のように、浴温~250℃の温度範囲では急冷し、250~50℃の温度範囲では徐冷するという、2段階の冷却工程を経ることで、めっき層103の表面には、XPSの測定結果において特定の条件を満足するような、緻密な酸化物層105が形成される。
ここで、第1冷却工程を終了してから第2冷却工程を開始するまでの間隔は、3秒以内とすることが好ましく、第1冷却工程を終了した後、直ちに第2冷却工程を開始することが好ましい。第1冷却工程を終了してから第2冷却工程を開始するまでの間隔が3秒を超える場合には、意図しない冷却過程が生じ、所望の酸化物層105を実現することができない。
ここで、上記第1冷却工程において、露点の下限値は特に規定するものではないが、例えば-90℃程度が実質的な下限となる。また、平均冷却速度は、より好ましくは40℃/秒以上である。なお、平均冷却速度の上限値は、特に規定するものではないが、例えば90℃/秒程度が実質的な上限となる。
また、上記第2冷却工程において、露点の上限値は特に規定するものではないが、例えば20℃程度が実質的な上限となる。また、平均冷却速度は、より好ましくは4℃/秒以下である。
なお、上記のような第1冷却工程又は第2冷却工程の何れか一方を実施しない場合には、所望の酸化物層105を実現することはできない。上記のような第1冷却工程及び第2冷却工程の双方を施すことで、本実施形態に係る酸化物層105を実現することができる。
また、上記の第2冷却工程の後に、一般的に合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造で施されることが多い合金化熱処理工程(例えば、到達板温480~550℃程度の加熱を伴う熱処理工程)を施した場合、第1冷却工程及び第2冷却工程により制御した酸化物の生成状態が崩れ、酸化物が過剰に成長してしまう結果、本実施形態で着目するようなZnの蒸発抑制効果を得ることができない。かかる観点から、第2冷却工程後の熱処理工程は、実施しないことが重要である。
ここで、上記のような冷却処理においては、Nガス冷却、ミスト冷却、水没等といった一般的に知られた方法を適用できる。また、冷却ガスには、Nガス以外にも、Heガス、水素ガスなど抜熱効果の高いガスを使用しても良い。
なお、めっき層の温度の実測方法としては、例えば、接触式の熱電対(K-type)を用いればよい。接触式の熱電対を母材となる鋼板に取り付けることで、めっき層全体の平均温度を常にモニタリングできる。また、機械的に、各種速度や厚みの制御を行い、鋼板の予熱温度や溶融めっき浴の温度等といった各種操業条件を統一すれば、かかる製造条件におけるその時点でのめっき層全体の温度を、ほぼ正確にモニタリングすることが可能となる。これにより、第1冷却工程及び第2冷却工程での冷却処理を、精密に制御することが可能となる。なお、接触式ほど、正確ではないが、めっき層の表面温度は、非接触式の放射温度計によって測定してもよい。
また、熱伝導解析を行うシミュレーションによって、めっき層の表面温度とめっき層全体の平均温度との関係を求めておいてもよい。具体的には、鋼板の予熱温度や溶融めっき浴の温度、めっき浴からの鋼板の引き上げ速度、鋼板の板厚、めっき層の層厚、めっき層と製造設備との熱交換熱量、めっき層の放熱量等といった各種の製造条件に基づいて、めっき層の表面温度及びめっき層全体の平均温度を求める。その後、得られた結果を利用して、めっき層の表面温度とめっき層全体の平均温度との関係を求めればよい。これにより、めっき鋼板の製造時にめっき層の表面温度を実測することで、その製造条件におけるその時点でのめっき層全体の平均温度を推定することが可能となる。その結果、第1冷却工程及び第2冷却工程での冷却処理を、精密に制御することが可能となる。
以上、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法の一例について、具体的に説明した。
なお、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法では、上記の第2冷却工程の後に、更に1層又は2層以上の各種の皮膜を形成する処理を実施してもよい。このような処理として、例えば、クロメート処理、リン酸塩処理、クロメートフリー処理、有機樹脂皮膜形成処理等が挙げられる。
クロメート処理には、電解によってクロメート皮膜を形成する電解クロメート処理、素材との反応を利用して皮膜を形成させ、その後余分な処理液を洗い流す反応型クロメート処理、処理液を塗布して水洗することなく乾燥させて皮膜を形成する塗布型クロメート処理等があり、いずれのクロメート処理を採用してもよい。
電解クロメート処理としては、例えば、クロム酸、シリカゾル、樹脂(リン酸樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、酢酸ビニルアクリルエマルション、カルボキシル化スチレンブタジエンラテックス、ジイソプロパノールアミン変性エポキシ樹脂等)、及び、硬質シリカを使用する電解クロメート処理を例示することができる。
リン酸塩処理としては、例えば、リン酸亜鉛処理、リン酸亜鉛カルシウム処理、リン酸マンガン処理等を例示することができる。
クロメートフリー処理は、特に、環境に負荷を与えることがないために、好適である。かかるクロメートフリー処理には、電解によってクロメートフリー皮膜を形成する電解クロメートフリー処理、素材との反応を利用して皮膜を形成させ、その後余分な処理液を洗い流す反応型クロメートフリー処理、処理液を塗布して水洗することなく乾燥させて皮膜を形成する塗布型クロメートフリー処理等があり、いずれのクロメートフリー処理を採用してもよい。
また、有機樹脂皮膜形成処理に用いる有機樹脂は、特定の樹脂に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、これら樹脂の変性体等、各種の樹脂を用いることが可能である。ここで、変性体とは、これら樹脂の構造中に含まれる反応性官能基に対し、かかる官能基と反応しうる官能基を構造中に含む他の化合物(例えば、モノマーや架橋剤等)を反応させた樹脂のことをいう。
有機樹脂として、上記のようなもの1種を単独で用いてもよいし、2種以上の有機樹脂(変性していないもの)を混合して用いてもよい。また、少なくとも1種の有機樹脂の存在下で、少なくとも1種のその他の有機樹脂を変性することによって得られる有機樹脂を、1種又は2種以上混合して用いてもよい。また、水に溶解又は分散することで、水系化した有機樹脂を用いてもよい。更に、かかる有機樹脂皮膜中には、各種の着色顔料や防錆顔料を含有させてもよい。
(溶接継手の製造方法について)
本実施形態に係る溶接継手は、上記のようにして製造しためっき鋼板を、溶接継手を製造する際の第1鋼板又は第2鋼板の少なくとも何れかの素材としたうえで、かかる第1鋼板及び第2鋼板を溶接継手に求める形状となるように配置し、第1鋼板及び第2鋼板を溶接することで製造される。
ここで、第1鋼板及び第2鋼板の溶接には、アーク溶接法を用いることが可能である。この際に、以下で説明するような溶接条件で溶接を行うことで、上記のような裏面熱影響部の状態を実現することが可能となる。
より詳細には、例えば以下のような溶接条件により、第1鋼板及び第2鋼板をアーク溶接すればよい。
溶接電流:220A、溶接電圧:25.2V、溶接速度:80cm/分
溶接ガス:20%CO+Ar、ガス流量:20L/分
溶接ワイヤー:YGW16 日鉄溶接工業株式会社製 φ1.2mm
(C:0.1質量%、Si:0.80質量%、Mn:1.5質量%、P:0.015質量%、S:0.008質量%、Cu:0.36質量%)
溶接トーチの傾斜角:45°
以上、本実施形態に係る溶接継手の製造方法の一例について、説明した。
以下、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る溶接継手について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る溶接継手の一例に過ぎず、本発明に係る溶接継手が下記に示す例に限定されるものではない。
以下に示す実施例及び比較例では、母材となる鋼板として、板厚3.2mmの熱延鋼板(0.05質量%C-0.007質量%Si-0.25質量%Mn、日本製鉄株式会社製)を用いた。かかる熱延鋼板を、100mm×200mmの大きさに切断して、試験片とした。
以下の表1に示すような組成のめっき層を実現するためのめっき浴をそれぞれ準備し、自社製のバッチ式の溶融めっき試験装置にそれぞれ設置して、上記試験片にめっきを施した。ここで、試験片の中心部にスポット溶接した熱電対を用いて、試験片の温度を測定した。また、めっき浴に浸漬させる試験片に対して、めっき浴浸漬前に、酸素濃度20ppm以下の炉内において、N-5%Hガス雰囲気にて、800℃でめっき原板表面を加熱還元処理した。加熱還元処理後は試験片をNガスで空冷し、試験片の温度が浴温+20℃に到達した後に、溶融めっき試験装置のめっき浴に試験片を約3秒浸漬した。
めっき浴浸漬後、引上速度20~200mm/秒で試験片を引上げた。引上げ時、Nワイピングガスにより、所望のめっき付着量となるように制御した。以下の実施例及び比較例では、試験片の片面あたりの乾燥後のめっき層の付着量が15~250g/mとなるように、めっき付着量を制御した。めっき浴から試験片を引上げた後、以下の表1に示す条件で、めっき浴温から室温まで試験片を冷却した。以下に示す実施例及び比較例では、第1冷却工程の終了後、第2冷却工程を直ちに開始した(すなわち、第1冷却工程終了後から、第2冷却工程開始までの間隔は、0.2秒以下にした)。
ここで、上記のようにめっきした試験片から30mm×30mmの大きさに鋼板を切り出し、インヒビター添加した10%HCl水溶液に当該鋼板を浸漬してめっき層を酸洗剥離した後、水溶液中に溶出した元素をICP分析することでめっき層の組成を測定した。
また、得られためっき層について、TEMによる電子線回折像を撮影し、電子線回折像に5回対称の結晶構造が観察されるか否かに基づき、Mg32(Al,Zn)49相の有無を確認した。
更に、得られた酸化物層について、上記の方法に即してXPSスペクトルを測定し、強度比([Al-O]+[Mg-O])/[Zn-O]の値を算出した。得られた強度比について、以下の基準に基づき評価を行った。
≪評価基準≫
評点「A」:強度比の値が10.0以上
「B」:強度比の値が5.0以上10.0未満
「C」:強度比の値が5.0未満
また、得られた試験片から、150mm×50mmの大きさに切り出した鋼板を第1鋼板とし、150mm×30mmの大きさに切り出した鋼板を第2鋼板とした。これら鋼板の長辺側を重ね合わせて、アーク溶接により溶接して(重ね隈肉溶接)、溶接継手とした。
ここで、アーク溶接における溶接条件は、以下の通りである。
溶接電流:220A、溶接電圧:25.2V、溶接速度:80cm/分
溶接ガス:20%CO+Ar、ガス流量:20L/分
溶接ワイヤー:YGW16 日鉄溶接工業株式会社製 φ1.2mm
(C:0.1質量%、Si:0.80質量%、Mn:1.5質量%、P:0.015質量%、S:0.008質量%、Cu:0.36質量%)
溶接トーチの傾斜角:45°
重ね代:10mm
鋼板サイズ:上板側(第1鋼板)150×50mm、下板側(第2鋼板)150×30mm
板隙:0mm
<裏面側熱影響部のFeスケールの厚み>
上記のようにして得られた溶接継手について、先だって説明した方法により、裏面側熱影響部のFeスケールの厚みを測定した。得られた結果を、以下の表1にまとめて示した。
<溶接ビード部の耐食性>
上記のようにして得られた溶接継手に対して、自動車用リン酸化成処理(Znリン酸処理、SD5350システム:日本ペイント・インダストリアルコーディング社製規格)、及び、電着塗装(PN110パワーニクスグレー:日本ペイント・インダストリアルコーディング社製規格)を施した。この際、電着膜厚は20μmとした。電直塗装後のサンプルをJASO(M609-91)に従った複合サイクル腐食試験に供して、止端における赤錆発生タイミングを評価した。評価基準は、以下の通りである。得られた結果を、以下の表1にまとめて示した。
≪評価基準≫
評点「AAA」:赤錆発生タイミングが60サイクル超
「AA」:赤錆発生タイミングが30サイクル超60サイクル以下
「A」:赤錆発生タイミングが15サイクル超30サイクル以下
「B」:赤錆発生タイミングが15サイクル以下
Figure 2023111556000002
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1 溶接継手
10 第1鋼板
20 第2鋼板
30 溶接ビード部
40 熱影響部
101 地鉄
103 めっき層
105 酸化物層
T 止端

Claims (6)

  1. 第1鋼板と第2鋼板とが、アーク溶接により溶接された溶接継手であって、
    前記第1鋼板及び前記第2鋼板と、
    前記アーク溶接により形成される溶接ビード部と、
    前記溶接ビード部の周囲に位置する熱影響部と、
    を有しており、
    前記第1鋼板及び前記第2鋼板において、前記溶接による熱影響が無い部位を非熱影響部としたときに、前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかは、前記非熱影響部において、地鉄の表面の少なくとも一部に位置するめっき層と、当該めっき層上に位置する酸化物層と、を有しており、
    前記めっき層は、質量%で、
    Al:1.00~80.00%、
    Mg:1.00~20.00%、
    Fe:0.01~15.00%、
    Si:0~10.00%、
    Ca:0~4.00%、
    を含有し、更に、選択的に、
    Sb:0~0.50%、
    Pb:0~0.50%、
    Cu:0~1.00%、
    Sn:0~1.00%、
    In:0~1.00%、
    Bi:0~1.00%、
    Ti:0~1.00%、
    Cr:0~1.00%、
    Nb:0~1.00%、
    Zr:0~1.00%、
    Ni:0~1.00%、
    Mn:0~1.00%、
    V:0~1.00%、
    Mo:0~1.00%、
    Ag:0~1.00%、
    Li:0~1.00%、
    La:0~0.50%、
    Ce:0~0.50%、
    B:0~0.50%、
    Y:0~0.50%、
    Sr:0~0.50%、
    を合計で0~5.00%含有し、残部は、5.00質量%以上のZnと不純物からなり、
    溶接継手において前記溶接ビード部が存在しない側の面を裏面としたときに、前記裏面における前記熱影響部上に位置するFeスケールの厚みは、0~5.0μmである、溶接継手。
  2. 前記Feスケールの厚みは、0~1.0μmである、請求項1に記載の溶接継手。
  3. 前記酸化物層の最表面から深さ5nmの位置を、X線光電子分光法(XPS)にて観察したときに、Al-O結合、Mg-O結合、及び、Zn-O結合にそれぞれ帰属するピークの強度から算出される強度比([Al-O]+[Mg-O])/[Zn-O]の値は、5.0以上である、請求項1又は2に記載の溶接継手。
  4. 前記強度比([Al-O]+[Mg-O])/[Zn-O]の値は、10.0以上である、請求項3に記載の溶接継手。
  5. 前記めっき層は、
    Al:18.00~60.00質量%、
    Mg:5.00~15.00質量%、
    を少なくとも含有する、請求項1~4の何れか1項に記載の溶接継手。
  6. 前記めっき層は、
    Al:35.00~60.00質量%、
    Mg:7.00~15.00質量%、
    を少なくとも含有しており、かつ、
    前記めっき層中に、Mg32(Al,Zn)49相が存在しており、
    前記Mg32(Al,Zn)49相におけるMg含有量[Mg]、Zn含有量[Zn]、及び、Al含有量[Al](各単位:原子%)は、0.50≦[Mg]/([Zn]+[Al])≦0.83の関係を満足する、請求項1~5の何れか1項に記載の溶接継手。
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