JP3843042B2 - 抵抗溶接性に優れたアルミニウムめっき鋼板とこれを用いた加工部品 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用部品などに使用されるスポット溶接に代表される抵抗溶接を用いて接合されるアルミニウムめっき鋼板とアルミニウムめっき鋼板を用いて加工された部品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、薄鋼板を使用した自動車加工部品の多くは、車体組立工程にてスポット溶接に代表される抵抗溶接にて接合され車体を構成する。また、近年、車体防錆性能向上の要求から鋼板表面にめっきなどを施した表面処理鋼板の使用が拡大しているが、一的般に裸鋼板と比較して、表面処理鋼板は溶接性が低下する。低下する溶接性としては▲1▼適正溶接電流範囲が縮小すること、▲2▼電極寿命が低下すること、の2点が挙げられる。前者は、めっき金属の溶融に伴って通電面積が拡大し、充分なナゲットを得るために必要な電流・通電サイクルは裸鋼板よりも大きくなるが、チリ発生電流や溶着電流はナゲット形成電流の上昇ほど大きくならずに、結果として適正溶接電流範囲は縮小するというものである。後者は、電極として用いられる銅合金とめっき金属が溶接中に反応して合金層を形成して、電極表面が合金層に覆われて溶接品質が低下するというものである。スポット溶接では電極先端径が拡大して電流密度が低下しナゲットが形成しなくなる現象が見られる。
【0003】
また、シーム溶接やプロジェクション溶接では合金層により電極表面の形状や抵抗が不均一となって通電が偏り、チリ発生やナゲット形状が悪化して接合強度が低下したり、穴明きが生じたりするなどの問題が生じる。この特性を改善する方法としては▲1▼皮膜によるバリア効果で合金化反応を抑制すること、▲2▼皮膜や溶接条件にて溶接時の抵抗を低減して、電極表面での合金化反応を抑制することが挙げられる。
【0004】
めっき鋼板の中でもアルミニウムめっき鋼板は電極の銅合金との反応が顕著であり、溶接時の電極寿命を短かくせしめる鋼板である。このアルミニウムめっき鋼板の電極寿命を向上させる技術としては、特開平10−183368号公報、特開平10−46358号公報、特開平10−330957号公報などに開示された技術のように、アルミニウムめっき鋼板の表面に後処理皮膜を付与することで電極寿命を向上させるものがある。ただ、これらの技術でも得られる電極寿命は裸鋼板と比べると小さいものとなっていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記の溶接性の課題を解決して、抵抗溶接性に優れたアルミニウムめっき鋼板およびこれを用いた加工部品を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために基礎的な検討を実施した。その結果、鋼板表面にFe,Alを主成分とする金属間化合物層が存在し、金属間化合物層の表面の粗度を制御することにより抵抗溶接性が改善することを見出した。そのメカニズムは明確では無いが以下のように推察される。すなわち、めっき金属と電極である銅合金との合金化は発熱によりめっき金属が拡散して抑制されるが、アルミニウムめっき層がFe−Al系の金属間化合物となって融点を上昇させることによりめっき表面の溶融が抑制されて、合金化が著しく抑制されるというものである。
【0007】
また、その金属間化合物層の表面粗度への抵抗溶接に対する影響としては、接触抵抗が変化することがあげられる。通常のめっき鋼板では通電初期では表面粗度の影響を受けるものの、その後はめっき層が溶融するために表面粗度の影響は比較的小さくなる。しかし、表面が金属間化合物層となっていると前述の如く溶接中のめっき層の溶融が抑制されるため、溶接中の板−電極間の接触抵抗は金属間化合物層の表面の状態に大きく影響される。
【0008】
すなわち、粗度がRa0.5μm以上と大きい場合には電極−板間の通電点が確保されやすく接触抵抗が低下することが考えられる。接触抵抗が低下すると、電極表面での合金化反応が抑制されて電極寿命が大きく改善される。アルミニウムめっき鋼板を加熱してめっき層をFe−Al合金とする知見は特開昭60−251267号公報、特開2000−38640号公報、特開平9−118970号公報に示されているが、表面粗度の抵抗溶接性に及ぼす影響については言及しておらず、表面の粗度自体も開示されていない。
【0009】
本発明の要旨とするところは下記のとおりである。
(1)鋼板表面にFeとAlからなる金属間化合物層が存在し、金属間化合物の表面粗度がRa0.5〜3μmであることを特徴とする抵抗溶接に用いられるアルミニウムめっき鋼板。
(2)鋼板表面の金属間化合物層にSiを含有することを特徴とする前記(1)に記載の抵抗溶接に用いられるアルミニウムめっき鋼板。
(3)前記(1)、(2)に記載のアルミニウムめっき鋼板を使用することを特徴とする抵抗溶接に用いられるアルミニウムめっき鋼板を用いた加工部品にある。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の制限範囲について詳細に説明する。
鋼板表面にFe,Alを主成分とする金属間化合物層が存在するとしたのは、このような金属間化合物が表面に存在すると、抵抗溶接時のめっき層表面の溶融が抑制されてめっき金属が電極材料である銅合金と合金化しにくくなり、電極寿命が向上するためである。金属間化合物の表面粗度をRaで0.5μm以上としたのは、これ以上の粗度であると電極−板間の通電点が多く確保されて接触抵抗が低下して電極寿命が顕著に向上するためである。粗度の上限については特に規定しないが、粗度が大きすぎるとチリ発生がしやすくなるため、3μm以下とした方が良い。
【0011】
上記の金属間化合物層を有する鋼板を加工した部品、また、鋼板を高温に加熱した状態で成形するホットプレスなどにより上記の金属間化合物層を形成した部品は、抵抗溶接時にめっき層表面の溶融が抑制されてめっき金属と電極の合金化が抑制され、かつめっき層表面の電気抵抗が低いために発熱が抑制されて、優れた電極寿命を示す。鋼板の化学成分やミクロ組織は特に制限しないが、上記の金属間化合物層のめっき層を有していれば、優れた電極寿命を示す。
【0012】
通常、アルミめっき鋼板は溶融めっき法で製造されることが多く、このとき鋼板とめっき層の界面での金属間化合物層(合金層と称する)が成長しやすい。この層が成長しすぎると鋼板の加工性を損なうため、浴中にSiを10%程度添加して製造されている。本発明においては、特に浴中にSiを添加する必要はないが、添加しても特に問題はない。めっき層の構成としては、Alを主成分としているが、前述したようにSiの添加も可能である。この他の添加元素としてCr,Mg,Ti,Sb,Sn,Zn等が考えられるが、めっき層がAlを主体とする限り、適用可能である。しかし、Znは沸点が低く、大量に添加すると加熱時に表面に粉体状のZnを生成して、プレス時のカジリを惹起するため、60%以上の添加は望ましくない。
【0013】
本発明において、アルミニウムめっきの付着量、めっき前処理、後処理については特に限定するものではない。めっき付着量は通常の片面30〜100g/m2 の範囲ではなんら問題ない。めっき後処理として一次防錆、潤滑性を目的としてクロメート処理、樹脂被覆処理等ありうるが、有機樹脂は加熱すると消失してしまうため好ましくない。クロメート処理も近年の6価クロム規制を考慮すると、電解クロメート等の3価の処理皮膜が好ましい。
アルミニウムめっき鋼板の製造法についても何ら限定するものではない。通常の製鋼、熱延条件が適用可能である。アルミニウムめっきは通常溶融めっき法で施されるが、これに限定せず、非水溶媒からの電気めっき、蒸着処理等も使用可能である。めっき前処理としてNiプレめっき等のプレめっきもありうるが、これも適用可能である。
【0014】
また、本発明のめっき層を実現するための手段も特に制限しないが、本発明の範囲を満足していれば優れた電極寿命を示す。考えられる方法としては、鋼板を高温で加熱して本発明を満足する金属間化合物層をめっき層とすることが考えられ、小型電気炉、連続焼鈍ライン、バッチ焼鈍ライン、高周波加熱など方法は問わない。表面の組成は熱処理条件により左右されるため、金属間化合物層を形成する熱処理方法により検討するべきである。また、金属間化合物層の表面粗度を制御するためにいかなる方法をとっても良いが、以下の方法が推奨される。一つにはめっき原板となる冷延鋼板の粗度をRaで0.5μm以上とすることである。冷延鋼板の粗度は冷延ロールの表面形状や圧延条件により制御される。
【0015】
次には、高温に加熱する前のアルミニウムめっき鋼板の表面粗度をRaで0.5μm以上とすることである。加熱前のアルミニウムめっき鋼板の表面粗度は、スキンパス圧延でのロールの表面形状などで制御できる。以上の2つの方法が生産性の点で優れる方法である。他の方法としては鋼板を高温に加熱して金属間化合物層を形成した後、ショットブラストなどにより表面粗度を形成してもよいが、前者の方法よりも生産性に劣るために少量生産には向いている。
【0016】
めっき層中の金属間化合物を観察するためにはめっき層断面を研磨後にナイタール(エタノール+2%硝酸)などで腐食すると、層構造が明確に分かる。それらの組成を測定するためには走査型電子顕微鏡などにて位置を特定した後、電子線マイクロアナライザー(EPMA)やエネルギー分散型X線分光計(EDX)で組成を分析することが精度の点で望ましい。
【0017】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
通常の熱延、冷延工程を経た、表1に示すような鋼成分の冷延鋼板(板厚1.2mm)を材料として、溶融アルミニウムめっきを行った。溶融アルミニウムめっきは無酸化炉−還元タイプのラインを使用し、めっき後ガスワイピング法でめっき付着量を両面80g/m2 と120g/m2 に調節し、その後冷却し、ゼロスパングル処理を施した。この際のめっき浴組成を表2に示す。浴中のFeは浴中のめっき機器やストリップから供給される不可避のものである。めっき外観は不めっき等なく良好であった。めっき後、インラインにて表3に示す後処理を施し、インラインにて圧下率0.8%のスキンパス圧延を行った。
【0018】
【表1】
Figure 0003843042
【0019】
【表2】
Figure 0003843042
【0020】
【表3】
Figure 0003843042
【0021】
以上の工程で得られたアルミニウムめっき鋼板を熱処理した。熱処理条件と方法を表4、5、6に示し、いくつかの試料については加熱後、ホットプレスを行った。ホットプレスを行った実験については、表4、5、6に凡例○で示す。また、いくつかの試料については冷却後に加工を行った。冷却後に加工を行った実験については、表4、5、6に凡例○で示す。まためっき断面を研磨した後、ナイタール腐食し、走査型電子顕微鏡・エネルギー分散型X線分光計でめっき層観察と組成分析を行った。めっき層が金属間化合物であれば○、無ければ×という凡例で示す。
【0022】
得られた試料について、溶接試験を行い電極寿命を検討した。用いた抵抗溶接はスポット溶接であり、それらの条件を以下に示す。評価はナゲット径が4√tを切った時点までの連続打点数とした。ホットプレスを実施した実験についてはホットプレス部品、冷却後に加工した実験については加工部品、その他については鋼板について溶接評価を行った。
【0023】
(溶接条件)
溶接電源:単相交流
溶接電流:チリ発生電流の95%
加圧力:300kgf
溶接時間:12サイクル(周波数:60Hz)
電極先端径:6mmφ
電極形状:ドーム型
【0024】
(評価基準)
○:連続打点5000点以上
△:連続打点1000点以上〜5000点未満
×:連続打点1000点未満
【0025】
評価結果を表4、5、6にあわせて示す。本検討では1000打点以上を良好とした。No.1、2、5、9、32、36、37、40、44、67、71、79、85、91はめっき層がFe,Alを主成分とする金属間化合物でなく、本発明の範囲外であるため、めっき層表面の溶融が促進されて電極寿命が短くなり、溶接性が低下した。No.4、7、11、19、30、39、42、46、54、65は金属間化合物層の表面粗度が本発明の範囲外であるために電極寿命が短くなり、溶接性が低下した。他の実験については、本発明の範囲内の金属間化合物層をめっき層に持つアルミニウムめっき鋼板、もしくはアルミニウムめっき鋼板を使用した部品であるため、電極寿命が長く、良好な溶接性を示した。
【0026】
【表4】
Figure 0003843042
【0027】
【表5】
Figure 0003843042
【0028】
【表6】
Figure 0003843042
【0029】
【発明の効果】
本発明は、抵抗溶接を用いて接合されるアルミニウムめっき鋼板とアルミニウムめっき鋼板を用いて加工された部品について、良好な溶接性をもたらすものであり、産業上の寄与は大きい。

Claims (3)

  1. 鋼板表面にFeとAlからなる金属間化合物層が存在し、金属間化合物の表面粗度がRa0.5〜3μmであることを特徴とする抵抗溶接に用いられるアルミニウムめっき鋼板。
  2. 鋼板表面の金属間化合物層にSiを含有することを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接に用いられるアルミニウムめっき鋼板。
  3. 請求項1または2に記載のアルミニウムめっき鋼板を使用することを特徴とする抵抗溶接に用いられるアルミニウムめっき鋼板を用いた加工部品。
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