JP7355973B2 - スルホン化微細セルロース繊維、スルホン化パルプ繊維および誘導体パルプ - Google Patents

スルホン化微細セルロース繊維、スルホン化パルプ繊維および誘導体パルプ Download PDF

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Description

本発明は、スルホン化微細セルロース繊維、スルホン化パルプ繊維および誘導体パルプに関する。
セルロースナノファイバー(CNF)とは、植物起因のセルロースをナノ化処理(機械的解繊やTEMPO触媒酸化など)した、繊維幅が数~数十nm、繊維長が数百nmの微小繊維である。CNFが軽量、高弾性、高強度、低線熱膨張性を有していることから、CNFを含有する複合材料の利用が、工業分野のみならず食品分野や医療分野など様々な分野で期待されている。
CNFを機械的に解繊処理する場合、セルロース繊維間が水素結合で強固に結合しているため、CNFを得るまでに大きなエネルギーが必要であった。また、得られたCNFは、繊維長等にばらつきが生じるといった問題があった。
そこで、機械的な解繊処理工程を行う前に、予めパルプを構成するセルロース繊維をある程度ほぐした状態にする化学処理工程を行う製法が開発されている(特許文献1~4)。この製法を使用すれば、パルプを直接機械処理する製法と比べて少ないエネルギーでCNFを得ることができる。しかも、得られたCNFのサイズのばらつきを抑制できるという利点が得られる。
例えば、特許文献1~3には、パルプを硫酸や過硫酸、塩素系酸化剤などの強酸を用いて化学処理した後、得られたパルプスラリーを解繊機等に供給してCNFを得るという製法が開示されている。
しかしながら、特許文献1~3のような製法では、化学処理工程において硫酸や過硫酸等を用いるので、取り扱い性の煩雑さに加え、反応後の排水処理の問題や、設備の配管等が腐食するなどの問題が発生している。また、塩素系酸化剤を使用する場合には、反応時に発生する塩素による環境への影響が懸念されている。
一方、特許文献4には、パルプをリン酸塩と尿素を用いて化学処理した後、得られたパルプスラリーを解繊機等に供給してCNFを得るという製法が開示されている。かかる製法を使用すれば、化学処理工程において硫酸などの強酸を使用する場合に発生する問題を解消することができる。しかも、得られたCNFの表面の水酸基の一部にリン酸エステルを導入できるので、水溶媒中での分散性を向上させることができる旨が記載されている。
また、特許文献4には、固形分濃度0.2質量%に調製することにより透明性の高い(ヘイズ値が5~15%)CNFを製造することができる旨が記載されている。
特開2017-43677号公報 特開2017-8472号公報 特開2017-25240号公報 特開2017-25468号公報
しかるに、特許文献4の技術では、透明性に関する記載はあるものの、固形分濃度が0.2質量%の際のものである。また、特許文献4には、得られるCNFの繊維長に関する具体的な記載はない。
本発明は上記事情に鑑み、透明性に優れたスルホン化微細セルロース繊維、かかるスルホン化微細セルロース繊維に適したスルホン化パルプ繊維およびかかるスルホン化パルプ繊維を含有する誘導体パルプを提供することを目的とする。
(スルホン化パルプ繊維)
第1発明のスルホン化パルプ繊維は、複数のセルロース繊維を含むパルプ繊維であって、前記パルプ繊維は、木材由来のパルプ繊維であり、前記セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の少なくとも一部がスルホ基で置換されたものであり、前記スルホ基に起因する硫黄導入量が、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下であり、該パルプ繊維の保水度が、1000%以上5000%以下であることを特徴とする。(ただし、無水塩化カルシウムを入れたデシケータ内にて減圧乾燥処理した絶乾のパルプ繊維に対してスルホ基が置換されたスルホン化パルプ繊維を除く。)
第2発明のスルホン化パルプ繊維は、第1発明において、前記パルプ繊維は、洗浄し乾燥した後の白色度が30%以上であることを特徴とする。
スルホン化微細セルロース繊維)
発明のスルホン化微細セルロース繊維は、保水度が1000%以上5000%以下のパルプ繊維が微細化された繊維状の微細セルロース繊維(ただし、針状結晶のものを除く)であって、該セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の少なくとも一部がスルホ基で置換されたものであり、該スルホ基に起因する硫黄導入量が0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下であり、平均繊維幅が20nm以下であり、前記微細セルロース繊維を水溶性溶媒に固形分濃度が0.2質量%~0.5質量%となるように分散させた状態における該分散液のヘイズ値が9%以下であることを特徴とする。
発明のスルホン化微細セルロース繊維は、第発明において、前記微細セルロース繊維は、平均繊維幅が30nm以下であり、重合度が300以上であることを特徴とする。
(スルホン化パルプ繊維)
第1発明によれば、木材パルプ由来のパルプ繊維がスルホン化されかつ所定の値以上の保水性を有するので、優れた解繊性を発揮させることができるから、取り扱い性の自由度を向上させることができる。そして、微細化処理の作業性を効率的に向上させることができ、かつ透明性に優れた微細セルロース繊維を得ることができる。
第2発明によれば、優れた白色度を有しているので、取り扱い性の自由度をより向上させることができる。
スルホン化微細セルロース繊維)
発明によれば、スルホ基を所定の値以上含有しているので、微細セルロース繊維の水系溶媒に対する分散性を向上させることができる。しかも、保水度が所定の値のパルプ繊維が微細化された繊維状の微細セルロース繊維であるので、微細セルロース繊維を高濃度に含んでいても高い透明性を発揮させることができる。
発明によれば、平均繊維幅が所定の値以下となるので、透明性をより高くできる。しかも、重合度が所定値よりも大きくなるので、繊維間のからみあいがし易くなる。
本実施形態のスルホン化微細セルロース繊維、スルホン化パルプ繊維および誘導体パルプの製造方法の概略フロー図である。 実験結果を示した図であり、本実施形態のスルホン化パルプ繊維に相当するスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の特性表を示した図である。 実験結果を示した図であり、本実施形態のスルホン化パルプ繊維に相当するスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の乾燥工程を除いた際の特性表を示した図である。 実験結果を示したグラフであり、硫黄導入量と保水度を示したものである。 実験結果を示したグラフであり、保水度を示したものである。 実験結果を示したグラフであり、繊維長を示したものである。 実験結果を示したグラフであり、反応条件(温度と時間)に関するものである。 実験結果を示したグラフであり、反応条件(温度と時間)に関するものである。 実験結果を示した図であり、本実施形態のスルホン化パルプ繊維に相当するスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の繊維表面の拡大写真である。 実験結果を示したグラフであり、本実施形態のスルホン化パルプ繊維に相当するスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の配向強度に関するものである。 実験結果を示した図であり、本実施形態のスルホン化パルプ繊維に相当するスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の繊維表面の拡大写真である。 実験結果を示した図であり、解繊状況を示した図である。 実験結果を示した図であり、白色度を示した図である。 実験結果を示した図であり、本実施形態のスルホン化微細セルロース繊維に相当するナノセルロース繊維の特性表を示した図である。 実験結果を示した図であり、本実施形態のスルホン化微細セルロース繊維に相当するナノセルロース繊維の乾燥工程を除いた際の特性表を示した図である。 実験結果を示したグラフであり、透明性に関するものである。 実験結果を示したグラフであり、透明性に関するものである。 実験結果を示したグラフであり、重合度を示したものである。 実験結果を示したグラフである。 実験結果を示したグラフであり、保水度と解繊の関係性を示したものである。 実験結果を示したグラフであり、保水度と解繊の関係性を示したものである。 実験結果を示したグラフであり、保水度と解繊の関係性を示したものである。 実験結果を示した図であり、解繊時の固形分濃度と解繊の関係性を示した図である。 実験結果を示したグラフであり、解繊時の固形分濃度と解繊の関係性を示したものである。
以下では、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本実施形態のスルホン化微細セルロース繊維(以下、単にスルホン化微細セルロース繊維という)は、セルロース繊維が微細化された微細セルロース繊維であって、優れた透明性を有するようにしたことに特徴を有している。
また、本実施形態のスルホン化パルプ繊維および誘導体パルプ(以下、それぞれを単にスルホン化パルプ繊維および誘導体パルプという)は、取り扱い性を向上させることができるようにしたことに特徴を有している。
<スルホン化微細セルロース繊維>
スルホン化微細セルロース繊維は、セルロース繊維が微細化された微細セルロース繊維であって、微細セルロース繊維を構成するセルロース(D-グルコースがβ(1→4)グリコシド結合した鎖状の高分子)の水酸基(-OH基)の少なくとも一部が下記式(1)で示されるスルホ基でスルホン化されたものである。
(-SO ・Zr+ (1)
(ここで、rは、独立した1~3の自然数であり、Zr+は、r=1のとき、水素イオン、アルカリ金属の陽イオン、アンモニウムイオン、脂肪族アンモニウムイオン、芳香族アンモニウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。また、r=2または3のとき、アルカリ土類金属の陽イオンまたは多価金属の陽イオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。)
スルホン化微細セルロース繊維は、スルホ基を有することによって、かかる繊維の親水性を向上させることができるようになる。つまり、スルホ基をスルホン化微細セルロース繊維に導入することによって、スルホン化微細セルロース繊維を分散液に分散させた際の分散性を向上させることができるようになる。しかも、導入したスルホ基の電子的反発によって、分散液に分散させた状態を維持し易くなる。
また、スルホ基由来の生理活性作用をスルホン化微細セルロース繊維に対して付与することが可能となる。
例えば、ヘパリン類似物質として知られている硫酸化多糖の一種であるコンドロイチン硫酸は、ヒアルノニダーゼ阻害活性能や皮膚保湿作用を有することから、乾皮症、皮脂欠乏症などやアトピー性皮膚炎への適用が検討されている。スルホン化微細セルロース繊維も天然多糖類の一種であるため、スルホ基に基づく生理活性作用に基づく医療分野への利用が可能となる。
なお、分散液は、水系溶媒であればとくに限定されない。例えば、水系溶媒として、水のみの場合のほか、アルコール、ケトン、アミン、カルボン酸、エーテル、アミドなどやこれらの混合物などを採用することができる。
(スルホン化微細セルロース繊維におけるスルホ基の導入量)
スルホン化微細セルロース繊維のスルホ基の導入量は、スルホ基に基づく硫黄導入量で表すことができ、透明性や分散性をある程度維持することができれば、その導入量はとくに限定されない。
例えば、スルホン化微細セルロース繊維1g(質量)あたりの硫黄導入量は、0.4mmol/gよりも高くなるように調整するのが好ましく、より好ましくは、0.42mmol/g~9.9mmol/gであり、さらに好ましくは0.5mmol/g~9.9mmol/gであり、さらにより好ましくは0.6mmol/g~9.9mmol/gである。
スルホン化微細セルロース繊維1g(質量)あたりの硫黄導入量が0.42mmol/g以下の場合には、繊維間の水素結合が強固なため分散性が低下する傾向にある。その逆に、硫黄導入量が0.42mmol/gよりも高くすることによって分散性が向上させやすくなり、0.5mmol/g以上とすれば電子的反発性をより強くさせることができるので、分散した状態を安定して維持させやすくなる。一方、硫黄導入量が9.9mmol/gに近づくほど結晶性の低下が懸念され、しかも硫黄を導入する際のコストも増加する傾向にある。
したがって、スルホン化微細セルロース繊維へのスルホ基の導入量、つまりスルホ基に基づく硫黄導入量は、上記範囲となるように調整するのが好ましい。
とくに、スルホン化微細セルロース繊維へのスルホ基の導入量において、スルホン化パルプ繊維を構成する微細繊維の分散性の観点では、0.42mmol/gよりも高く3.0mmol/g以下となるように調整するのが好ましく、より好ましくは0.5mmol/g~3.0mmol/gであり、さらに好ましくは0.5mmol/g~2.0mmol/gであり、さらにより好ましくは、0.5mmol/g~1.5mmol/gである。
また、スルホン化微細セルロース繊維の透明性の観点においても、上記範囲と同様の範囲となるように調整するのが好ましい。
(スルホ基の導入量の測定方法)
なお、スルホン化微細セルロース繊維の硫黄導入量(つまりスルホ基の導入量)は、スルホン化微細セルロース繊維の所定量を燃焼させて、燃焼イオンクロマトグラフを用いて燃焼物に含まれる硫黄分をIEC 62321に準拠した方法で測定することができる。 また、後述するスルホン化パルプ繊維からスルホン化微細セルロース繊維を調製する場合には、かかるスルホン化パルプ繊維の硫黄導入量から求めてもよい。
スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維長や平均繊維幅は、繊維同士がからみ易く、しかも水系溶媒に分散させた際に透明性を得やすくなるように調製されていれば、その長さや太さはとくに限定されない。
(スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維長)
スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維長は、重合度で間接的に表すことができる。
スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維長は重合度で280以上となるように調整するのが好ましく、より好ましくは300~1,000であり、さらに好ましくは300~600である。
スルホン化微細セルロース繊維の重合度が280よりも低いと、繊維長の低下により繊維のからまりが弱くなる。一方、スルホン化微細セルロース繊維の重合度が、600を超えると、分散性が低くなり、スラリー化したときのスラリー粘度が高くなりすぎて分散安定性が低くなる傾向にある。
したがって、スルホン化微細セルロース繊維の重合度は、上記範囲内となるように調整するのが好ましい。とくに、繊維同士のからみ易さの観点では、重合度が280以上となるように調製するのが好ましく、分散性や取り扱い性の観点では、重合度が600よりも低くなるように調製するのが好ましい。
(重合度の測定方法)
この重合度の測定方法は、とくに限定されないが、例えば、銅エチレンジアミン法で測定することができる。具体的には、スルホン化微細セルロース繊維を0.5Mの銅エチレンジアミン溶液に溶解させて、かかる溶液の粘度を粘度法によって測定すれば、スルホン化微細セルロース繊維の重合度を測定することができる。
(スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅)
スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅は、水系溶媒に分散させた際に透明性を得やすい太さであれば、とくに限定されない。
例えば、スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察した際に、1nm~1000nmとなるように調製するのが好ましく、より好ましくは2nm~500nm、さらにより好ましくは2nm~100nmであり、さらに好ましくは2nm~30nmであり、よりさらに好ましくは2nm~20nmである。
微細セルロース繊維の繊維幅が1nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細セルロース繊維としての物性(強度や剛性、又は寸法安定性)が発現しにくくなる。一方、1000nmを超えると微細セルロース繊維とは言えず、通常のパルプに含まれる繊維にすぎないため、微細セルロース繊維としての物性(透明性や強度や剛性、又は寸法安定性)が得られにくい傾向にある。
したがって、スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅は、上記範囲内となるように調製するのが好ましい。
とくに、スルホン化微細セルロース繊維の取り扱い性や透明性が求められる用途などの観点においては、さらに以下の範囲内となるように調製するのがより好ましい。
スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅が、30nmよりも大きくなるとアスペクト比が低下して、繊維同士のからみあいが減少する傾向にある。さらに、平均繊維幅が、30nmよりも大きくなると可視光の波長の1/10に近づき、マトリックス材料と複合した場合には界面で可視光の屈折及び散乱が生じ易く、可視光の散乱が生じてしまい、透明性が低下する傾向にある。
したがって、スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅は、取り扱い性や透明性の観点においては、2nm~30nmが好ましく、より好ましくは2nm~20nmであり、さらに好ましくは2nm~10nmである。
とくに、透明性の観点では、スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅が20nm以下となるように調製するのが好ましく、より好ましくは10nm以下となるように調製する。平均繊維幅が10nm以下となるように調製すれば、可視光の散乱をより少なくできるので、高い透明性を有するスルホン化微細セルロース繊維を得ることができる。
(平均繊維幅の測定方法)
スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅は、公知の技術を用いて測定することができる。
例えば、スルホン化微細セルロース繊維を純水等の溶媒に分散させて、所定の質量%となるように混合溶液を調整する。そしてこの混合溶液を、PEI(ポリエチレンイミン)をコーティングしたシリカ基盤上にスピンコートを行い、このシリカ基盤上のスルホン化微細セルロース繊維を観察する。
観察方法としては、例えば、走査型プローブ顕微鏡(例えば、島津製作所製;SPM-700)を用いることができる。得られた観察画像中のスルホン化微細セルロース繊維をランダムに20本選び、各繊維幅を測定し平均化すればスルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅を求めることができる。
(ヘイズ(Haze)値)
具体的には、スルホン化微細セルロース繊維を分散液に分散させた際の固形分濃度が所定の濃度となるように調整した分散液を視認した際の透明性をヘイズ値で評価することができる。
スルホン化微細セルロース繊維を分散させた分散液の固形分濃度は、とくに限定されないが、例えば、0.1質量%~20質量%となるように調製することができる。そして、かかる分散液のヘイズ値が、20%以下であれば、本実施形態のスルホン化微細セルロース繊維は透明性を有しているといえる。逆をいうと、固形物濃度が上記範囲内となるように調製した分散液のヘイズ値が20%よりも高い場合には、透明性が適切に発揮されにくい状態にあるといえる。
例えば、スルホン化微細セルロース繊維を分散させた分散液の固形分濃度が0.2質量%~0.5質量%となるように調製した場合、この分散液のヘイズ値が20%以下であれば透明性を適正に発揮させた状態となっており、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であればより透明性を有するスルホン化微細セルロース繊維となっている。
したがって、スルホン化微細セルロース繊維は、固形分濃度が0.1質量%~20質量%となるように調製した分散液のヘイズ値が20%以下となるように調製するのが好ましく、より好ましくは固形分濃度が0.2質量%~0.5質量%となるように調整した際の分散液のヘイズ値が上記範囲となるように調製するのが好ましい。
なお、分散液は、水系溶媒であればとくに限定されない。例えば、水系溶媒として、水のみの場合のほか、アルコール、ケトン、アミン、カルボン酸、エーテル、アミドなどやこれらの混合物などを採用することができる。
(ヘイズ値の測定方法)
ヘイズ値は、下のようにして測定することができる。
上述した分散液にスルホン化微細セルロース繊維を所定の固形分濃度となるように分散させる。そして、この分散液をJIS K 7105に準拠して分光光度計を用いて測定すれば、スルホン化微細セルロース繊維の透明性であるヘイズ値を求めることができる。
(全光線透過率の測定方法)
なお、上記分散液のヘイズ値が上記範囲内において、全光線透過率が90%以上であり、より好ましくは95%以上となるように調製するのが好ましい。
全光線透過率は、下のようにして測定することができる。
上述した分散液にスルホン化微細セルロース繊維を所定の固形分濃度となるように分散させる。そして、この分散液を、JIS K 7105に準拠して分光光度計を用いて測定すれば、スルホン化微細セルロース繊維の全光線透過率を求めることができる。
以上のごとく、スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維長および平均繊維幅を、上記のごとき範囲となるように調製することにより、優れた透明性を発揮させることができ、しかも繊維同士がからみやすい繊維にすることができる。
このため、スルホン化微細セルロース繊維を利用した複合材料等においては、透明性に優れ、高い強度を発揮させることが可能となる。
<スルホン化パルプ繊維>
スルホン化パルプ繊維は、複数のセルロース繊維からなるパルプ繊維であって、含有するセルロース繊維を構成するセルロース(D-グルコースがβ(1→4)グリコシド結合した鎖状の高分子)の水酸基(-OH基)の少なくとも一部が上記式(1)で示されるスルホ基でスルホン化されたものである。
具体的には、スルホン化パルプ繊維は、スルホ基を導入することによって、かかる繊維の親水性が向上するようにしたものである。
なお、スルホン化パルプ繊維の親水性は、繊維が保持することができる水分量に影響すると考えられることから、スルホン化パルプ繊維に導入するスルホ基の導入量とスルホン化パルプ繊維が保持することができる水分量(つまり保水度)の両者は何らかの関連性があるものと推察される。
(スルホン化パルプ繊維におけるスルホ基の導入量)
スルホン化パルプ繊維におけるスルホ基の導入量は、パルプ繊維がほぐれやすくなる程度に導入されていれば、とくに限定されない。
例えば、スルホン化パルプ繊維1g(質量)あたりの硫黄導入量は、0.42mmol/gよりも高くなるように調整するのが好ましく、より好ましくは、0.42mmol/g~9.9mmol/gであり、さらに好ましくは0.5mmol/g~9.9mmol/gであり、さらにより好ましくは0.6mmol/g~9.9mmol/gである。
スルホン化パルプ繊維1g(質量)あたりの硫黄導入量が0.42mmol/g以下の場合には、スルホン化パルプ繊維を構成する微細繊維同士が強く結合した状態が維持されやすい。一方、硫黄導入量が9.9mmol/gに近づくほど結晶性の低下が懸念され、硫黄を導入する際のコストも増加する傾向にある。
したがって、スルホン化パルプ繊維へのスルホ基の導入量、つまりスルホ基に基づく硫黄導入量は、上記範囲となるように調整するのが好ましい。
とくに、スルホン化パルプ繊維におけるスルホ基の導入量において、スルホン化パルプ繊維を構成する微細繊維をばらけ易くするという観点では、0.42mmol/gよりも高く3.0mmol/g以下となるように調整するのが好ましく、より好ましくは0.5mmol/g~3.0mmol/gであり、さらに好ましくは0.5mmol/g~2.0mmol/gであり、さらにより好ましくは、0.5mmol/g~1.5mmol/gである。
また、スルホン化パルプ繊維を解繊して得られる後述する微細セルロース繊維における透明性の観点においても、上記範囲と同様の範囲となるように調整するのが好ましい。
(スルホ基の導入量の測定方法)
なお、スルホン化パルプ繊維の硫黄導入量(つまりスルホ基の導入量)は、スルホン化微細セルロース繊維の場合と同様の測定方法を用いて測定することができる。つまり、スルホン化パルプ繊維の所定量を燃焼させて、燃焼イオンクロマトグラフを用いて燃焼物に含まれる硫黄分をIEC 62321に準拠した方法で測定することができる。
(スルホン化パルプ繊維の保水度)
スルホン化パルプ繊維は、上記硫黄導入量に加えて、所定の保水度を有する点においても特徴を有している。
具体的には、スルホン化パルプ繊維の保水度、つまり遠心脱水後に含有する水分量が、所定の状態となるようにスルホン化パルプ繊維は、調製されている。
このスルホン化パルプ繊維の保水度は、後述する利用目的や用途に応じて適宜調整されていれば、その範囲はとくに限定されない。
例えば、スルホン化パルプ繊維の保水度は、150%以上となるように調整するのが好ましい。より具体的には、200%よりも高くなるように調整するのが好ましく、より好ましくは220%以上であり、さらに好ましくは250%であり、よりさらに好ましくは300%以上であり、さらにより好ましくは500%以上である。
ここで、スルホン化パルプ繊維の保水度を高くすれば、繊維中に水分を多く含むような状態となる。かかる状態において、繊維中に含まれた水分がスルホン化パルプ繊維を構成する微細繊維同士の結合力に影響を及ぼすものと推察される。つまり、保水度が高くなるように調製したスルホン化パルプ繊維は、スルホン化パルプ繊維の表面を構成する微細繊維同士の結合が弱くなって隣接する微細繊維同士間に隙間が形成され、この形成された隙間に水分が浸入等することによって水分が保持されやすくなっているものと推察される。
このため、スルホン化パルプ繊維の保水度を上記のごとき範囲内となるように調製すれば、以下のような利用目的や用途に応じたスルホン化パルプ繊維を調製することができる。
例えば、スルホン化パルプ繊維における脱水性の観点では、繊維内に水分量が少ない状態、つまり保水度が低くなるように調製すればよい。スルホン化パルプ繊維の保水度を低くすることによって、運搬時における輸送コストを抑制することができたり、スルホン化パルプ繊維を製造する際の製造効率や製造コストを抑制できる等の利点が得られる。
一方、スルホン化パルプ繊維を微細化するという観点では、繊維内に水分量が多くなるような状態、つまり保水度が高くなるように調製すればよい。なぜなら、スルホン化パルプ繊維の保水度を高くすることによって、スルホン化パルプ繊維を構成する微細繊維同士の結合力を弱くすることができる。すると、スルホン化パルプ繊維の表面や表面に近い内方に位置する部分がフィブリル化しやすくなる。そして、かかる状態のスルホン化パルプ繊維を解繊機等に供すれば、パルプ繊維の微細化がより行い易くなる。つまり、後述するスルホン化パルプ繊維を微細化して微細化セルロース繊維を調製する際に、作業性や効率性を向上させることができるようになるからである。
なお、スルホン化パルプ繊維を微細化する際には、保水度をあまりに高くすると、微細化した繊維の濃度が低くなりすぎたり、収率が低くなるといった傾向が生じる。このため、スルホン化パルプ繊維を微細化した後の微細繊維の収率や濃度等の観点においては、保水度はあまり高くなりすぎないように調整するのが好ましく、例えば、保水度が10,000%以下となるように調整するのが望ましい。
(保水度の測定方法)
スルホン化パルプ繊維の保水度は、一般的なパルプ繊維の保水度試験(例えば、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.26:2000に準拠した方法)により求めることができる。
(スルホン化パルプ繊維の平均繊維長)
スルホン化パルプ繊維は、繊維形状が維持される程度の平均繊維長であれば、とくにその長さは限定されない。
具体的には、スルホン化パルプ繊維をスルホン化する前後において、平均繊維長が所定の長さを維持していればよい。より具体的には、スルホン化パルプ繊維にスルホ基を導入する前のパルプ繊維における平均繊維長と、スルホ基を導入した後のスルホン化パルプ繊維の平均繊維長を比較した際、後者(つまりスルホン化パルプ繊維)が前者に比べて50%以上となるように調製するのが好ましく、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上となるように調製する。言い換えれば、スルホン化パルプ繊維は、原料となるパルプの素材に関わらず、スルホ基を導入する前と後において、平均繊維長が所定の値以上となるように調製されているのである。
例えば、原料として木材系のパルプ繊維を使用し、その平均繊維長が2.6mmとした場合、スルホン化パルプ繊維の平均繊維長が、原料のパルプ繊維の平均繊維長の50%以上の長さつまり1.3mm以上となるように調製するのが望ましい。
スルホン化パルプ繊維の平均繊維長を上記のごとき範囲となるように調製すれば、取り扱い性に優れた繊維とすることができる。
具体的には、繊維同士のからみあいを向上させることができ、ある程度の長さを維持しつつ所望の長さに均質化することができ、微細化する際には微細化後の微細繊維の平均繊維長を長くできる、等の利点が得らえる。このため、利用目的や用途に応じた優れた自由度を有するスルホン化パルプ繊維を提供することができる。
一方、上記範囲よりも短くなる場合には、スルホン化パルプ繊維が加水分解されやすくなるので、上記自由度が制限される傾向にある。
したがって、スルホン化パルプ繊維の平均繊維長は、上記範囲となるように調整するのが好ましい。
(平均繊維長の測定方法)
スルホン化パルプ繊維の平均繊維長は、公知の繊維分析器を用いて測定することができる。公知の繊維分析器として、例えば、ファイバーテスター(ローレンツェン&ベットレー(株)社製)を挙げることができる。
以上のごとく、本実施形態のスルホン化パルプ繊維のスルホ基に基づく硫黄導入量を調整することによって、繊維のばらけ易さや後述する微細セルロース繊維の透明度を向上させることができるようになる。しかも、本実施形態のスルホン化パルプ繊維の保水度を調整することによって、上述したようにスルホン化パルプ繊維の利用目的や用途に応じて適宜調整することができるので、取り扱い性の自由度を向上させたスルホン化パルプ繊維を提供することができる。さらに、スルホン化パルプ繊維の平均繊維長が所定の値以上となるように調製することによって、より取り扱い性の自由度を向上させることができるようになる。
(白色度)
なお、スルホン化パルプ繊維は、複数のスルホン化パルプ繊維を水溶液に分散させて洗浄した後、乾燥する。この乾燥した際の白色度が所定の範囲となるように調整するのが好ましい。
例えば、スルホン化パルプ繊維は、白色度が30%以上となるように調製してもよく、好ましくは40%以上となるように調製してもよい。白色度が30%以上であれば、着色が目立ちにくくなるので、取り扱い性を向上させることができる。
スルホン化パルプ繊維の白色度は、公知の方法を使用すれば求めることができる。例えば、JIS P 8148:2001(紙、板紙及びパルプ-ISO白色度(拡散青色光反射率))に準拠して測定することができる。
<誘導体パルプ>
本実施形態の誘導体パルプは、複数の繊維からなるパルプであって、上述したスルホン化パルプ繊維を複数含有するように調製されたパルプ繊維である。
この誘導体パルプは、上述したスルホン化パルプ繊維からなるように調製してもよいし、セルロース以外の材質からなる繊維(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)や、ポリエステル等の合成繊維、羊毛等の天然繊維など)や、他のパルプ繊維等を含有してもよい。
なお、上述したスルホン化パルプ繊維の含有率が高くなるよう調製すれば、上述したスルホン化パルプ繊維と同様の効果を発揮させやすくなるので好ましい。
<スルホン化微細セルロース繊維およびスルホン化パルプ繊維の製造方法>
上述したスルホン化パルプ繊維、誘導体パルプおよびスルホン化微細セルロース繊維は以下の方法により製造することができる。なお、以下に示すかかる製造方法を、以下単に本製造方法という。
概略としては、まず、セルロースを含む繊維原料をスルホン化してスルホン化パルプ繊維を調製する。そして調製したスルホン化パルプ繊維を微細化してスルホン化微細セルロース繊維を調製する。
具体的には、図1に示すように、本製造方法は、セルロースを含む繊維原料を化学的に処理してスルホ基を導入する化学処理工程と、この化学処理工程で得られたスルホン化パルプ繊維を微細化する微細化処理工程と、を含んでおり、これら2つの工程を順に行うものである。
なお、本実施形態の誘導体パルプは、上述したように、例えば、複数のスルホン化パルプ繊維の集合体とすれば調製することができるで、その製法については割愛する。
また、以下に示す本製造方法は、スルホン化微細セルロース繊維およびスルホン化パルプ繊維を製造する方法の一例にすぎず、上述した特性を有するスルホン化微細セルロース繊維およびスルホン化パルプ繊維を製造することができる方法であれば、以下の方法に限定されない。
さらになお、スルホン化微細セルロース繊維は、繊維原料を直接、微細化処理工程に供給して微細セルロース繊維を得て、かかる微細セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の少なくとも一部をスルホ基で置換して製造してもよいし、以下に示すように以下の方法で製造したスルホン化パルプ繊維を微細化して調製してもよい。後者の方法を採用すれば、微細化処理工程を行うだけで所望のスルホン化パルプ繊維を製造することができるという利点が得られる。
以下、各工程を順に説明する。
(スルホン化パルプ繊維の製造方法)
まず、本製造方法により本実施形態のスルホン化パルプ繊維を製造する方法について説明する。このスルホン化パルプ繊維の製造方法は、図1に示すように、セルロースを含む繊維原料を以下に示す方法で化学的に処理する化学処理工程を含んでいる。
(化学処理工程)
この化学処理工程は、セルロースを含む繊維原料に対してスルホ基を有するスルホン化剤と尿素または/およびその誘導体を接触させる接触工程と、この接触工程後の繊維原料に含まれるセルロースの水酸基の少なくとも一部にスルホ基を導入する反応工程とを含んでいる。
つまり、繊維原料に含まれるセルロースにスルホ基を導入させる方法において、スルホン化剤とあわせて尿素または/およびその誘導体を用いることによって、適切な硫黄導入量を有しつつ、上述および以下に示したような従来技術では得られなかった優れた効果を有するスルホン化パルプ繊維、誘導体パルプおよびスルホン化微細セルロース繊維を得ることができる。
一般的に、繊維原料に含まれるセルロースにスルホ基を導入するだけであれば、繊維原料にスルホン化剤のみを接触させた状態で加熱処理すれば行うことができる。
しかし、スルホン化剤のみで反応させた場合には、1)スルホ基の導入に要する時間が長くなったり、2)スルホン化剤の酸の影響により繊維の短繊維化が起こりやすくなったり、3)スルホン化剤の酸の影響により反応後の繊維に着色が生じてしまう、この着色を処理するために様々な化学処理を行う必要があり着色除去に労力とコストがかかる、などの問題が発生する。
一方、本製造方法では、上述したように、繊維原料に対してスルホン化剤のほかに尿素または/およびその誘導体を接触させる方法を採用している。このため、従来技術のようにスルホン化剤のみで反応させた際に生じる上記1)~3)などの問題を解決することができる。
具体的には、スルホン化剤と尿素または/およびその誘導体を所定の割合で接触させた後、反応させることによって、
A)スルホ基の導入量を促進させることができる。つまり、尿素を触媒として機能させることによって、反応時間を短くすることができ、
B)一方で、酸による短繊維化という作用を尿素によって抑制することができる。つまり、酸による繊維の短繊維化を防止することができ、
C)酸による繊維の着色を尿素によって抑制することができる。つまり、酸で処理したにも関わらず繊維への着色を抑制した繊維を調製できる、という従来では得られなかった効果を奏するようにしたことに特徴を有している。
しかも、D)得られるスルホン化パルプ繊維は、上述したような保水度を有するように調整することができるという効果も奏する。
なお、繊維への着色については、繊維の白色度で表すことができる。
また、本製造方法では、スルホン化パルプ繊維の保水度を制御することによって、さらに以下のような利点が得られる。
パルプなどの繊維を解繊機等を用いて微細化してナノファイバー等の微細繊維を製造する際には、経済的にも環境的にも微細化効率が非常に重要となる。
通常、このような微細化処理工程で行われる効率化向上の方法としては、微細化前の繊維の重合度を低下させて(つまり解繊機等に供給する繊維の繊維長を短くして)解繊機等に供給した際の解繊等への負荷を低下させるという方法が採用されている。
かかる方法では、微細化効率を向上させることができるものの、得られる微細繊維の平均繊維長が短くなるといった問題が生じている。
一方、得られる微細繊維の平均繊維長を長くするには、微細化前の繊維の重合度を高く維持した状態(つまり解繊機等に供給する繊維の繊維長を長くした状態)で解繊機等に供給する必要がある。
かかる方法では、微細繊維の繊維長をある程度は長くできるものの、繊維が非常に硬い状態(例えば、繊維を構成する微細繊維同士が強固に結合しているような状態)となっているので、解繊機等では容易に微細化することができない。このため、解繊する際に多大なエネルギー(例えば、高圧ホモジナイザーを用いた場合にはその圧力を200MPa以上にする)と時間(例えば、高速カッターを有する剪断装置(エムテクニック社製、クレアミックス)を用いた場合には30分程度)を要することになり、作業効率の悪化はもちろん、微細化効率も非常に悪くなるといった問題が生じる。しかも、均質な繊維長を有する微細繊維を得にくいといった問題も発生している。
これに対して、本製造方法では、上述したようにスルホン化パルプ繊維が所定の保水度を有するように制御しながら調製することによって、上記のような従来の問題を解決することができるようになる。
例えば、本製造方法で得らえるスルホン化パルプ繊維の保水度を高くすることによって、上述したようにスルホン化パルプ繊維を構成する微細繊維同士の結合力を弱めて、スルホン化パルプ繊維の表面や表面に近い内方に位置する部分をフィブリル化させやすくなる。すると、スルホン化パルプ繊維を構成する繊維同士をほぐれやすくすることができるので、微細化処理する際に要するエネルギーを小さくすることができる。例えば、高圧ホモジナイザーを用いて微細化処理する場合にはその圧力を低くしたり、処理回数(パス数)を少なくしたりすることができる。したがって、エネルギー量の削減による環境への負荷を低減することができる。
しかも、微細化処理をスムースに行うことができるので、微細化処理に要する時間を短くできるので、生産性を向上させることができる。言い換えれば、生産性を向上させることができるので、製造コスト(生産コスト)を従来の技術で製造する場合と比べて安価にできるようになる。
逆に、本製造方法で得らえるスルホン化パルプ繊維の保水度を低くすれば、以下のような利点が得られる。
スルホン化パルプ繊維の保水度が低くなるように製造すれば、かかる繊維中の水分量を少なくできるので、脱水性を向上させることができる。この場合、脱水がし易くなるので、固形分濃度が高いスルホン化パルプ繊維を製造することができる。すると、製造したスルホン化パルプ繊維を運搬する際における輸送コストを抑制することができるようになる。
しかも、製造工程において、スルホン化パルプ繊維を洗浄する工程を含む場合には、洗浄工程後の脱水がし易くなるので、操作性および作業性を向上させることができる。このため、上記目的でスルホン化パルプ繊維を製造する場合には、生産性を向上させることができる。言い換えれば、生産性を向上させることができるので、製造コスト(生産コスト)を従来の技術で製造する場合と比べて安価にできるようになる。
したがって、本製造方法を用いれば、保水度を制御したスルホン化パルプ繊維を製造することができるので、供給先の求めに応じてスルホン化パルプ繊維の状態を適宜調整したスルホン化パルプを供給することができる。
まとめると、本製造方法を用いることによって、上記のごときA)~D)の効果を奏するスルホン化パルプ繊維を製造することができるので、品質安定性に優れ、取り扱い性に優れたスルホン化パルプ繊維を高い回収率(例えば、70%以上の回収率)で製造することができる。つまり、取り扱い性の自由度を向上させたスルホン化パルプ繊維を得ることができるのである。
しかも、高品質なスルホン化パルプ繊維を安定して製造することができるので、所望の利用目的や用途に応じたスルホン化パルプ繊維を効率よく生産することができる。さらに、その製造コストも抑制することができる。
以下、化学処理工程の各工程より具体的に詳細に説明する。
(接触工程)
本製造方法の化学処理工程における接触工程は、セルロースを含む繊維原料に対してスルホン化剤と尿素または/およびその誘導体を接触させる工程である。この接触工程は、上記接触を起こさせることができる方法であれば、とくに限定されない。
例えば、スルホン化剤と尿素または/およびその誘導体を共存させた反応液に繊維原料を浸漬等させて反応液を含浸させてもよいし、繊維原料に対してかかる反応液を塗布してもよいし、繊維原料に対してスルホン化剤と尿素または/およびその誘導体をそれぞれ別々に塗布したり、含浸させたりしてもよい。
これらの方法のうち、上記反応液に繊維原料を浸漬させて繊維原料に反応液を含浸させる方法を採用すれば、均質にスルホン化剤と尿素または/およびその誘導体を繊維原料に対して接触させることができるので好ましい。
(反応液の混合比)
また、上記反応液に繊維原料を浸漬させて繊維原料に反応液を含浸させる方法を採用する場合、反応液に含まれるスルホン化剤と尿素または/およびその誘導体の混合比は、とくに限定されない。
例えば、スルホン化剤と尿素または/およびその誘導体は、濃度比(g/L)において、4:1(1:0.25)、2:1(1:0.5)、1:1、1:2.5となるように調整するこができる。
例えば、スルホン化剤と尿素を純水に溶解してそれぞれの濃度が、200g/Lと100g/Lになるように調整すれば、濃度比(g/L)において、スルホン化剤:尿素が2:1の反応液を調製することができる。言い換えれば、尿素は、スルファミン酸100重量部に対して50重量部となるように調製すれば、スルホン化剤:尿素が2:1の反応液を調製することができる。また、スルホン化剤と尿素を純水に溶解してそれぞれの濃度が、200g/Lと500g/Lになるように調整すれば、濃度比(g/L)において、スルホン化剤:尿素が1:2.5の反応液を調製することができる。
(反応液の接触量)
また、繊維原料に接触させる反応液の量は、とくに限定されない。
例えば、反応液と繊維原料を接触させた状態において、反応液に含まれるスルホン化剤が、繊維原料の乾燥重量100重量部に対して、1重量部~20,000重量部であり、反応液に含まれる尿素または/およびその誘導体が、繊維原料の乾燥重量100重量部に対して、1重量部~100,000重量部となるように調製することができる。
なお、保水度は、上述したような一般的な試験方法(例えば、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.26:2000に準拠した方法)で求めることができる。
(反応工程)
本製造方法の化学処理工程における反応工程は、上述したように繊維原料に含まれるセルロースの水酸基に接触させたスルホン化剤のスルホ基を置換して、繊維原料に含まれるセルロースにスルホ基を導入する工程である。
この反応工程は、セルロースの水酸基にスルホ基を置換するスルホン化反応が可能な方法であれば、とくに限定されない。例えば、上記反応液を含浸させた繊維原料を所定の温度で加熱すれば、繊維原料に含まれるセルロースにスルホ基を導入することができる。
(反応工程における反応温度)
反応工程における加熱温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、上記繊維原料を構成するセルロースにスルホ基を導入できる温度であれば、とくに限定されない。具体的には、接触工程後の繊維原料を直接的または間接的に上記要件を満たしながら加熱することができるものであればよい。このようなものとしては、公知の乾燥機や、減圧乾燥機、マイクロ波加熱装置、オートクレーブ、赤外線加熱装置等を採用することができる。とくに、反応工程において、ガスが発生する可能性があるので、循環送風式の乾燥機を使用するのが好ましい。
なお、接触工程後の繊維原料の形状はとくに限定されないが、例えば、シート状にしたものや、ある程度ほぐした状態で上記機器等を用いて加熱すれば、反応を均一に進行させやすくなるので好ましい。
反応工程における加熱温度は、上記要件を満たせば、とくに限定されない。
例えば、雰囲気温度が250℃以下が好ましく、より好ましくは雰囲気温度が200℃以下であり、さらに好ましくは雰囲気温度が180℃以下である。加熱時における雰囲気温度が250℃よりも高くなると、上述したように熱分解が起こったり、繊維の変色の進行が早くなったりする。一方、加熱温度が100℃よりも低くなると、反応時間が長くなる傾向にある。したがって、作業性の観点から、加熱時における加熱温度(具体的には雰囲気温度)が100℃以上250℃以下、より好ましくは100℃以上200℃以下、さらに好ましくは100℃以上180℃以下となるように調整する。
(反応工程における反応時間)
また、反応工程として上記加熱方法を採用した場合の加熱時間は、とくに限定されない。例えば、反応工程における加熱時間は、反応温度を上記範囲となるように調整した場合、1分以上となるように調整する。より具体的には、5分以上が好ましく、より好ましくは10分以上であり、さらに好ましくは20分以上とする。
加熱時間が1分よりも短い場合は、反応がほとんど進行していなと推察される。一方、加熱時間をあまり長くしてもスルホ基の導入量の向上が期待できない傾向にある。
したがって、反応工程として上記加熱方法を採用した場合の加熱時間は、とくに限定されないが、反応時間や操作性の観点から、5分以上300分以内が好ましく、より好ましくは5分以上120分以内とするのがよい。
(スルホン化剤)
反応工程におけるスルホン化剤は、スルホ基を有する化合物であればとくに限定されない。例えば、スルファミン酸、スルファミン酸塩、硫黄と共有結合する2つの酸素を持つスルホニル基を有するスルフリル化合物などを挙げることができる。
なお、スルホン化剤として、これらの化合物を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
スルホン化剤は、上記のような化合物であればとくに限定されないが、硫酸等と比べて酸性度が低く、スルホ基の導入効率が高く、低コストで、安全性が高いので取り扱い性の観点から、スルファミン酸を採用するのが好ましい。
(尿素とその誘導体)
反応工程における尿素とその誘導体のうち、尿素の誘導体は、尿素を含有する化合物であればとくに限定されない。例えば、カルボン酸アミド、イソシアネートとアミンの複合化合物、チアミドなどを挙げることができる。なお、尿素とその誘導体は、それぞれ単独で用いてもよいし、両者を混合して用いてもよい。また、尿素の誘導体は、上記化合物を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
尿素とその誘導体は、上記のような化合物であればとくに限定されないが、低コストで、環境負荷の影響が少なく、安全性が高いので取り扱い性の観点から、尿素を採用するのが好ましい。
(繊維原料)
スルホン化パルプ繊維の製造方法に用いられる繊維原料は、セルロースを含むものであればとくに限定されない。
例えば、木材系のパルプ(以下単に木材パルプという)や、溶解パルプ、コットンリンタなどの綿系のパルプ、麦わらや、バガス、楮、三椏、麻、ケナフのほか、果物等などの非木材系のパルプ、ホヤや海藻などから単離されるセルロースや、新聞古紙、雑誌古紙やダンボール古紙などから製造された古紙系のパルプなどのパルプを繊維原料として使用することができる。なお、入手のし易さの観点から、木材パルプを使用することが好ましい。
この木材パルプには、様々な種類が存在するが、使用に際してとくに限定されない。例えば、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)などの製紙用パルプなどを挙げることができる。
なお、繊維原料として、上記パルプを使用する場合に上述した種類のパルプ1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
(乾燥工程)
本製造方法の化学処理工程は、接触工程と反応工程の間に乾燥工程を含んでいてもよい。
この乾燥工程は、反応工程の前処理工程として機能する工程であり、接触工程後の繊維原料の含水率が平衡状態となるように乾燥する工程である。接触工程後の繊維原料を湿潤状態のまま反応工程に供給して加熱してもよいが、スルファミン酸や尿素等の一部が加水分解を受ける可能性がある。このため、反応工程におけるスルホン化反応を適切に進行させる上では、反応工程前に乾燥工程を設けることが好ましい。
この乾燥工程は、反応液を接触させた状態の繊維原料を反応工程における加熱温度よりも低い温度で乾燥することによって、反応溶液の溶媒を除去する工程である。この乾燥工程に用いられる装置等は、とくに限定されず、上述した反応工程で用いられる乾燥機等を使用することができる。
この乾燥工程における乾燥温度は、とくに限定されない。例えば、加熱温度は、雰囲気温度が100℃以下が好ましく、より好ましくは20℃以上100℃以下であり、さらに好ましくは、50℃以上100℃以下である。加熱時における雰囲気温度が100℃よりも高くなると、スルホン化剤等の分解が起こる可能性がある。一方、加熱時における雰囲気温度が20℃よりも低いと、乾燥に時間がかかる。
したがって、上述した反応を適切に行う上では加熱時における雰囲気温度が100℃以下が好ましく、操作性の観点では加熱時における雰囲気温度が20℃以上が好ましい。
(洗浄工程)
また、本製造方法の化学処理工程における反応工程の後には、スルホ基を導入した後の繊維原料を洗浄する洗浄工程を含んでもよい。
スルホ基を導入した後の繊維原料は、スルホン化剤の影響により表面が酸性になっている。また、未反応の反応液も存在した状態となっている。このため、反応を確実に終了させ、余分な反応液を除去して中性状態にすれば、取り扱い性を向上させることができるようなるので望ましい。
洗浄工程は、スルホ基を導入した後の繊維原料がほぼ中性になるようにできれば、とくに限定されない。
例えば、スルホ基を導入した後の繊維原料が中性になるまで純水等で洗浄するという方法を採用することができる。
また、アルカリ等を用いた中和洗浄を行ってもよい。かかる中和洗浄を行う場合、アルカリ溶液に含まれアルカリ化合物としては、無機アルカリ化合物、有機アルカリ化合物などを挙げることができる。そして、無機アルカリ化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等を挙げることができる。有機アルカリ化合物としては、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物、複素環式化合物の水酸化物などを挙げることができる。
(スルホン化微細セルロース繊維の製造方法)
スルホン化微細セルロース繊維は、図1に示すように、上記ごとく調製したスルホン化パルプ繊維を本製造方法の微細化処理工程に供給し微細化することによって得られる。
(微細化処理工程)
本製造方法の微細化処理工程は、スルホン化パルプ繊維を微細化して所定の大きさの(例えば、ナノレベル)微細繊維にする工程である。
この微細化処理工程に用いられる処理装置は、上記機能を有するものであれば、とくに限定されない。例えば、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー(石臼型粉砕機)、ボールミル、カッターミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用のミキサーなどを使用することができるが、処理装置は、これらの装置に限定されるものはない。
これらのうち、材料に均等に力を加えることができ、均質化に優れているという点で、高圧ホモジナイザーを用いるのが望ましいが、かかる装置に限定されない。
微細化処理工程において、高圧ホモジナイザーを用いる場合、上述した本製造方法で得られたスルホン化パルプ繊維を水などの水溶性溶媒に分散させた状態で供給する。なお、以下では、スルホン化パルプ繊維を分散させた状態の溶液をスラリーという。
このスラリーのスルホン化パルプ繊維の固形分濃度は、とくに限定されない。例えば、このスラリー液のスルホン化パルプ繊維の固形分濃度が、0.1質量%~20質量%となるように調整したものを高圧ホモジナイザー等の解繊機等に供給すればよい。
例えば、スルホン化パルプ繊維の固形分濃度が0.5質量%となるように調整したスラリーを高圧ホモジナイザー等の処理装置に供給すれば、同じ固形分濃度のスルホン化微細セルロース繊維が水溶性溶媒に分散した状態の分散液を得ることができる。つまり、この場合であればスルホン化微細セルロース繊維の固形分濃度が0.5質量%となるように調整された分散液を得ることができる。
また、微細化処理工程において供給されるスルホン化パルプ繊維の保水度は、上記装置等で微細化し易いように調整されていれば、とくに限定されない。
例えば、微細化の処理効率や使用エネルギーの削減といった観点では、保水度を高くなるように調製したスルホン化パルプ繊維を使用するのが望ましい。このような観点では、スルホン化パルプ繊維の保水度としては、150%以上となるように調整するのが好ましい。とくに、200%よりも高くなるように調製されたものを用いるのが好ましく、より好ましくは220%以上であり、さらに好ましくは250%であり、よりさらに好ましくは300%以上であり、さらにより好ましくは500%となるように調製されたものを用いるのがよい。
ただし、保水度が10,000%よりも高くなるとスルホン化処理後のスルホン化パルプ繊維の回収率が低下する傾向にある。
したがって、微細化効率の観点および回収率の観点においては、微細化処理工程に供給する際のスルホン化パルプ繊維の保水度は、150%~10,000%が好ましく、より好ましくは200%~10,000%であり、さらに好ましくは220%~10,000%であり、さらにより好ましくは250%~5,000%であり、よりさらに好ましくは250%~2,000%である。
本発明のスルホン化微細セルロース繊維およびスルホン化パルプ繊維の特性を確認した。
(実験1)
実験1では、繊維原料として、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)(平均繊維長が2.6mm)を使用した。以下では、実験に供したNBKPを単にパルプとして説明する。
パルプは、大量の純水で洗浄後、200メッシュのふるいで水を切り、固形分濃度を測定後、乾燥させることなく実験に供した。
(化学処理工程)
パルプを以下のように調製した反応液に加え撹拌してスラリー状にした。
なお、パルプを反応液に加えてスラリー状にする工程が、本実施形態のスルホン化パルプ繊維の製造方法の化学処理工程における接触工程に相当する。
(反応液の調製)
スルホン化剤と尿素または/およびその誘導体が以下の濃度となるように調製した。
実験1では、スルホン化剤として、スルファミン酸(純度98.5%、扶桑化学工業製)を使用し、尿素またはその誘導体として、尿素溶液(純度99%、和光純薬工業製、型番;特級試薬)を使用した。
両者の混合比は、濃度比(g/L)において、4:1(1:0.25)、2:1(1:0.5)、1:1、1:2.5となるように混合し水溶液を調整した。
具体的には、スルファミン酸と尿素は、以下のように混合した。
スルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))=200/50、200/100、200/200、200/500、50/25、100/50、200/100
反応液の調製の一例を以下に示す。
容器に水100mlを加えた。ついで、この容器にスルファミン酸20g、尿素10gを加えて、スルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))が200/100(1:0.5)の反応液を調製した。つまり、尿素は、スルファミン酸100重量部に対して50重量部となるように加えた。
実験1では、この調製した反応液に対してパルプ2g(乾燥重量)を加えた。
つまり、上記スルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))が200/100(1:0.5)の反応液の場合、スルファミン酸はパルプ100重量部に対して、1000重量部、尿素は500重量部となるように調製した。
なお、比較例A、A2として、反応液をスルファミン酸濃度200g/Lとして尿素を添加しない比較サンプル(スルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))=200/0)を調製した。尿素を添加しない以外は、他の実験例と同様の操作を行った。
また、ブランクパルプとして、反応液に接触させていないNBKPを使用した。
反応液にパルプを添加して調製したスラリーを10分間撹拌子を用いて撹拌した。撹拌後、スラリーをろ紙(No.2)を用いて吸引ろ過した。吸引ろ過は溶液が滴下しなくなるまで行った。
吸引ろ過後、ろ紙からパルプを剥がし、ろ過したパルプを恒温槽の温度を50℃に設定した乾燥機(いすゞ製作所製、型番;VTR-115)に入れて含水率が平衡状態になるまで乾燥した。つまり、加熱反応の前に乾燥を行った状態のものを次工程に供給した。なお、以下では、この乾燥を行った条件のものを単に「乾燥工程有条件」という。
なお、このろ過後のパルプを乾燥させる工程が、本実施形態のスルホン化パルプ繊維の製造方法の化学処理工程における乾燥工程に相当する。
含水率が平衡状態になった後、加熱反応を行った。
加熱反応は、乾燥機(いすゞ製作所製、型番;VTR-115)を用いた。
反応条件は以下の通りである。
恒温槽の温度:100℃、120℃、140℃、加熱時間:5分、25分、60分、120分
なお、この加熱反応が、本実施形態のスルホン化パルプ繊維の製造方法の化学処理工程における反応工程に相当する。
加熱反応後、反応させたパルプを中性になるまで純水で洗浄して、スルファミン酸/尿素処理パルプを調製した。
なお、反応させたパルプを中性になるまで純水で洗浄する工程が、本実施形態のスルホン化パルプ繊維の製造方法の化学処理工程における洗浄工程に相当する。
また、スルファミン酸/尿素処理パルプが本実施形態の誘導体パルプに相当し、スルファミン酸/尿素処理パルプを構成する反応パルプ繊維が、本実施形態のスルホン化パルプ繊維に相当する。
なお、乾燥工程を省略する場合は、吸引ろ過後、ろ紙からパルプを剥がしたものをそのまま加熱反応に供した。つまり、加熱反応の前に上述したような乾燥を行わず、直接次工程の加熱反応に供給した。次工程の加熱反応の反応条件は、上述と同様の条件下で行った。なお、以下では、この乾燥を行わなかった条件のものを単に「乾燥工程無条件」という。
(微細化処理工程)
高圧ホモジナイザー(GEAニロソアビ社製、型番;Panda Plus 200)を用いてスルファミン酸/尿素処理パルプのナノ化を行い、ナノセルロースを調製した。
高圧ホモジナイザーの処理条件は、以下の通りとした。
スルファミン酸/尿素処理パルプは、固形分濃度が0.5質量%となるように調製したものを高圧ホモジナイザーに供給した。圧力は、120~140MPaとした。
なお、各スルファミン酸/尿素処理パルプは、高圧ホモジナイザーで3パス処理することによってナノセルロース繊維を得た。
なお、この高圧ホモジナイザーを用いた解繊操作が、本実施形態のスルホン化微細セルロース繊維の製造方法における微細化処理工程に相当する。そして、得られたナノセルロース繊維が、本実施形態のスルホン化微細セルロース繊維に相当する。
(パルプ収率)
化学処理前後でのパルプの収率を以下の式から求めた。
化学処理後のパルプの回収は300meshワイヤーを用いて行った。

収率=化学処理工程後に回収したパルプの固形分重量/化学処理工程前に仕込んだパルプの固形分重量
(元素分析(硫黄))
化学処理後のパルプに含まれる硫黄分を燃焼イオンクロマトグラフにより求めた。測定方法はIEC 62321の測定条件に準拠して測定した。
燃焼装置:三菱ケミカルアナリテック社製、型番;AQF-2100 H
イオンクロマト:サーモフィッシャーサイエンス社製、型番;ICS-1600
(保水度の測定)
化学処理後の繊維の保水度の測定は、TAPPI No.26に準拠して行った。
(FE-SEMを用いた繊維形態の観察)
化学処理後のパルプの表面観察は、FE-SEM(日本電子(株)社製、型番;JSM-7610)を用いて行った。試料は、微細繊維分散液の溶媒をt-ブチルアルコールに置換し、凍結乾燥したものをオスミウムによりコーティングして観察に供した。
(繊維の配向性の測定)
パルプのFE-SEM画像を画像解析し、繊維の配向性を評価した。
画像解析ソフトにはFiberOri8s03を用いた。このソフトは紙表面の繊維配向を学術的に評価することにも用いられている。
(白色度の測定)
白色度の測定は、JIS P 8148:2001 紙、板紙及びパルプ-ISO白色度(拡散青色光反射率)に準拠して測定した。
測定に用いるサンプルは、化学処理後のパルプを水で洗浄し、凍結乾燥後のものを用いた。
(SPMを用いた繊維形態の観察および繊維幅の測定)
高圧ホモジナイザー処理後のスルホン化微細セルロース繊維を純水で固形分濃度0.001~0.005質量%に調製し、PEI(ポリエチレンイミン)をコーティングしたシリカ基盤上にスピンコートを行った。
このシリカ基盤上のナノセルロースの観察を、走査型プローブ顕微鏡(島津製作所製、型番;SPM-700)を用いて行った。
繊維幅の測定は、観察画像中の繊維をランダムに20本選び測定した。
(ヘイズ値の測定および全光線透過率の測定)
ヘイズ値の測定および全光線透過率の測定は、スルホン化微細セルロース繊維を純水で、固形分濃度が0.5質量%となるように調製して測定溶液とした。
なお、微細化処理工程において、固形分濃度が0.5質量%となるように調製したスルファミン酸/尿素処理パルプを高圧ホモジナイザーに供給して得られたスルホン化微細セルロース繊維においては、得られたスルホン化微細セルロース繊維が分散した分散液の濃度は供給前の固形分濃度と同じであることから、そのまま測定溶液として測定に供した。
測定溶液を分取して分光光度計(日本分光(株)社製、型番;V-570)を用いて測定した。なお、測定方法は、JIS K 7105の方法に準拠して行った。
なお、上記測定溶液が、本実施形態のスルホン化微細セルロース繊維の製造方法における分散液に相当する。
(重合度の測定)
JIS P 8215(1998)に従い、スルホン化微細セルロース繊維の極限粘度(固有粘度)を測定した。その後、固有粘度(η)から、下記式により、スルホン化微細セルロース繊維の重合度(DP)を算出した。なお、この重合度は、粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。

DP=1.75×[η]
(実験結果)
(スルファミン酸/尿素処理パルプの実験結果)
図2、図3は、スルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の特性表である。
図2は、加熱反応前に乾燥を行った条件下(乾燥工程有条件)でのスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の特性表である。
図3は、加熱反応前に乾燥を行わなかった条件下(乾燥工程無条件)でのスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の特性表である。
図4~図8は、スルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の特性を具体的に示したものである。
図4は、乾燥工程有条件下で得られたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の硫黄導入量(mmol/g)および保水度(%)と反応液のスルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))との関係を示した図である。
図5は、乾燥工程無条件下で得られたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の保水度(%)と反応液のスルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))との関係を示した図である。
図6(A)は、乾燥工程有条件下で得られたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維のパルプ繊維長(mm)と反応液のスルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))との関係を示した図であり、図6(B)は、乾燥工程有条件下で得られたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の化学処理前後の繊維長維持率(%)と反応液のスルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))との関係を示した図である。
図7は、乾燥工程有条件下で得られたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の硫黄導入量(mmol/g)と反応温度との関係を示した図である。
図8(A)は、乾燥工程有条件下で得られたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の繊維長(mm)と反応温度と処理時間の関係を示した図であり、図8(B)は、乾燥工程有条件下で得られたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の化学処理前後の繊維長維持率(%)と反応温度と処理時間の関係を示した図である。
実験結果から、スルファミン酸と尿素の濃度比において、尿素の混合割合を調整することによって、硫黄導入量(mmol/g)が0.56mmol/g~0.97mmol/gで調整されたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維(例えば図4参照)を得ることができることが確認できた。
また、図4または図5に示すように、スルファミン酸と尿素の濃度比において、尿素の混合割合を調整することによって、保水度が250%~4600%の範囲で制御されたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維を得ることができることが確認できた。
つまり、スルファミン酸と尿素の濃度比を調整することによって、硫黄導入量および保水度が制御されたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維を得ることができることが確認できた。
なお、図4および図5に示すように、スルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の硫黄導入量と保水度は、似たような傾向となったことから、両者間には何らかの関係性があるものと推察された。
図6に示すように、尿素を混合しなかった比較例Aと比べて繊維長が長いスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維を得ることができることが確認できた。つまり、製造工程において、尿素を混合することによって、スルファミン酸による短繊維化を防止したスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維を得ることができることが確認できた。
しかも、反応後の繊維の長さが反応前と比較してほぼ同じ長さに維持されたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維を得ることができることが確認できた。
図7、図8に示すように、加熱温度や加熱時間を調整することによって、硫黄導入量および繊維長が制御されたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維を得ることができることが確認できた。
図7に示すように、スルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の硫黄導入量を0.5mmol/g以上とするには、120℃または140℃の条件下において、15分以上とすればよく、両者よりも温度が低い100℃の条件下においては、35分以上とすればよいことが確認できた。
また、図8に示すように、スルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の繊維長を長くするには、温度が低い条件のものが好ましいことが確認できた。
図9は、スルファミン酸/尿素処理パルプ繊維(乾燥工程有、反応条件:温度120℃、時間25分)の表面拡大写真である。
図9(A)~(D)は、それぞれスルファミン酸/尿素比が200/50(1:0.25)、200/100(1:0.5)、200/200(1:1)、200/500(1:2.5)の表面拡大写真である。
図9(E)は、比較例として示したNBKPの表面拡大写真である。
図9(A)~(D)のスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の硫黄導入量は、それぞれ(A)0.56mmol/g、(B)0.84mmol/g、(C)0.97mmol/g、(D)0.65mmol/gであった。
図9(A)~(D)のスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の保水度は、それぞれ(A)980%、(B)1920%、(C)1120%、(D)250%であった。
図10はスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の表面繊維の配向度を示した図であり、図11はスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維(乾燥工程有、反応条件:温度120℃、時間25分)の表面拡大写真である。
図11(A)~(D)は、それぞれスルファミン酸/尿素比が200/50(1:0.25)、200/100(1:0.5)、200/200(1:1)、200/500(1:2.5)の表面拡大写真である。
図11(E)は、比較例として示したNBKPの表面拡大写真である。
図11(A)~(D)のスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の配向度は、それぞれ(A)1.18、(B)1.04、(C)1.10、(D)1.30であった。
本測定方法では、配向度(配向強度)が1.1以下は無配向であり、1.1~1.2はやや配向しており、1.2以上は強い配向となっていると判断されている。
この実験結果から、スルファミン酸と尿素の濃度比において、反応液の尿素の混合割合を低くすることによって、表面の繊維の配向性をランダムな状態にさせたスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維を得ることができることが確認できた。その逆に、尿素の混合割合を大きくすると、表面の繊維の配向性が整った状態のスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維を得ることができることが確認できた。つまり、スルファミン酸と尿素の濃度比を調整することによって、表面の繊維配向性を制御できるスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維を得ることができることが確認できた。
また、この実験結果から、スルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の表面繊維の配向度は、スルファミン酸/尿素処理パルプ繊維のフィブリル化の程度を示す指標にできることが確認できた。そして、配向度と保水度は同様の傾向を示すことが確認されたことから(例えば、図4と図10を参照)、保水度を調整することによって、スルファミン酸/尿素処理パルプ繊維のフィブリル化を制御できることが確認できた。
図12は、スルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の解繊処理のし易さを確認した図である。
解繊回数3回(3パス)で平均繊維幅を20nm以下のスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維が得られることが確認できた。
一方、化学処理を行っていない微細繊維(つまりブランクパルプのNBKP)は、解繊回数20回(20パス)しても平均繊維幅が30nm~50nmであり、平均繊維幅20nm以下のものは得ることができなかった。
なお、図12の写真は、解繊後の微細繊維をFE-SEMで観察し、観察画像中の繊維幅の測定状況を示したものである。繊維の幅の測定には5万倍の拡大写真を用いた。画像内の繊維幅(例えば、図12の白抜き矢印で示した繊維の幅)の測定方法として、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に二本引き、これらの直線と交錯する繊維の幅を目視で計測した。平均繊維幅は50本の繊維の平均値から求めた。
図13は、スルファミン酸/尿素処理パルプ繊維の白色度を示した図である。
反応液に尿素を混合することによって、スルファミン酸による繊維への着色を抑制したスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維を得ることができることが確認できた。
また、スルファミン酸と尿素の濃度比において、尿素の混合割合を調整することによって、白色度を制御したスルファミン酸/尿素処理パルプ繊維を得ることができることが確認できた。
(ナノセルロース繊維の実験結果)
図14、図15は、ナノセルロース繊維の特性表である。
図14は、乾燥を行った条件下(乾燥工程有条件)で得られたナノセルロース繊維の特性表である。
図15は、乾燥を行わなかった条件下(乾燥工程無条件)で得られたナノセルロース繊維の特性表である。
図16~図18は、ナノセルロースの特性を具体的に示したものである。
図16は、乾燥工程有条件下で得られたナノセルロース繊維の全光線透過率(%)およびヘイズ値(%)と反応液のスルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))との関係を示した図である。
図17は、乾燥工程無条件下で得られたナノセルロース繊維の全光線透過率(%)およびヘイズ値(%)と反応液のスルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))との関係を示した図である。
図18は、乾燥工程有条件下で得られたナノセルロース繊維の重合度(つまりナノセルロース繊維の平均繊維長に相当するもの)と反応液のスルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))との関係を示した図である。
なお、比較例B、比較例Cとして、反応液をスルファミン酸濃度200g/Lとして尿素を添加しない比較サンプル(スルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))=200/0)を調製した。尿素を添加しない以外は、他の実験例と同様の操作を行った。
図14に示すように、ナノセルロース繊維の平均繊維幅は、すべて20nm以下に調製できることが確認できた。
また、図14、図15、図16、図17に示すように、測定溶液(つまり分散液)のナノセルロース繊維の固形分濃度が0.5質量%となるように調製した場合、全てにおいて全光線透過率(%)が90%以上となっており、しかもヘイズ値(%)が、15%以下のナノセルロース繊維を調製することができることが確認できた。
つまり、分散液における分散性を向上させ、しかも非常に高い透明度を有するナノセルロース繊維が得られることが確認できた。
なお、透明性が求められている市販の樹脂フィルムにおいて、高い透明性を有するメタクリル製のフィルムの全光線透過率(%)は90%程度であり、汎用樹脂であるポリエチレン製のフィルムのヘイズ値(%)は20%程度であることから、実験で得られたナノセルロース繊維は、従来の市販品と同程度またはそれ以上の品質を有していることが確認できた。
図18に示すように、ナノセルロース繊維は、重合度386~478となるように調製できることが確認できた。この値は、スルファミン酸のみの条件下で得られナノセルロース繊維(比較例B)と比べて高くできることが確認できた。つまり、反応液において尿素を混合することによって、重合度(つまり繊維長)を向上させたナノセルロース繊維が得らえることが確認できた。言い換えれば、繊維間のからみあいがし易くなったナノセルロース繊維を得ることができることが確認できた。
なお、重合度を400、グルコース1分子の軸方向の長さを約5Å(約0.5nm)とした場合、繊維長が約200nmのナノセルロース繊維を得ることができることが確認できた。
図19は、スルファミン酸に類似した化合物を反応液として使用した場合の実験結果を示した図である。
実験では、スルファミン酸に類似した化合物として、硫酸塩(硫酸水素アンモニウム)を使用した。実験方法としては、スルファミン酸の代わりに硫酸水素アンモニウムを用いた以外は同様の方法で行った。
図19に示すように、解繊回数3回(3パス)では、硫酸塩(硫酸水素アンモニウム)/尿素系パルプ繊維を解繊することができなかった。
かかる実験結果から、尿素は、硫酸塩(硫酸水素アンモニウム)を用いたスルホン化において、スルファミン酸/尿素の系と同様の機能(例えば、触媒として機能など)を発揮しないか、または発揮しても十分に機能していないことが確認できた。
したがって、スルファミン酸/尿素の系では、硫酸塩(硫酸水素アンモニウム)を用いてスルホン化する場合と比べて、微細化効率を向上させることができ、しかも、スルホン化の程度を向上させることができることが確認できた。
(実験2)
実験2では、スルファミン酸/尿素処理パルプの保水度を調整することによって、解繊をし易くできることを確認した。
実験2では、実験1で得られたスルファミン酸/尿素処理パルプを固形分濃度が0.2質量%となるように調製したスラリーを高圧ホモジナイザーに供給して、得られたナノセルロース繊維の分散液に含まれる繊維残存率に基づいて解繊のし易さを評価した。
また、かかる固形分濃度における全光線透過率(%)およびヘイズ値(%)もそれぞれ確認した。
高圧ホモジナイザー(株式会社コスにじゅういち社製、型番;N2000-2C-045型)を用い、予備解繊として処理圧力10MPaで2回、50MPaで1回処理した。この予備解繊を行ったものを解繊処理した。解繊処理は、処理圧力を、実験1の約半分の60MPaとした。
なお、高圧ホモジナイザー以外の装置は、実験1で使用した装置を使用した。
また、実験2の測定方法において、実験1と重複する説明については割愛する。
(繊維残存率(%))
高圧ホモジナイザーで解繊処理した後に得られたナノセルロース繊維の分散液に含まれる未解繊の繊維の割合を以下の方法によって算出した。
未解繊の繊維の繊維残存率(%)は、解繊処理前と後における固形分0.05g中の測定繊維に基づいて算出した。
使用した装置は、ファイバーテスター(ローレンツェン&ベットレー(株)社製)である。
まず、上記装置を使用して、解繊処理前のスルファミン酸/尿素処理パルプを固形分濃度が0.2質量%となるように調製したスラリーから、固形分0.05g中に測定可能な繊維が何本存在しているかを測定した。
ついで、上記装置を使用して、解繊処理後のナノセルロース繊維の分散液から、固形分0.05g中に測定可能な繊維が何本存在しているかを測定した。
そして、繊維残存率(%)=(解繊処理後の測定値/解繊処理前の測定値)×100を求めた。
(実験結果)
図20は、スルファミン酸/尿素処理パルプの保水度(%)と繊維残存率(%)および高圧ホモジナイザーのパス数との関係を示した図である。
なお、繊維残存率(%)が10%以下の場合には、分散液中に含まれる繊維を目視観察で確認することはできなかった。
図20に示すように、スルファミン酸/尿素処理パルプの保水度(%)が高いほど繊維残存率(%)が低くなることが確認できた。そして、保水度(%)が980%、1120%および1920%のスルファミン酸/尿素処理パルプでは、処理圧力が60MPa下、1回のパスで透明度が高いナノセルロース繊維が得られることが確認できた。しかも、保水度(%)が250%のスルファミン酸/尿素処理パルプであっても、2回のパスによって高い透明度を有するナノセルロース繊維が得られることが確認できた。
また、図21に示すように、スルファミン酸/尿素処理パルプの保水度(%)が比較例Dよりも高ければ、1回のパスで、高い全光線透過率(%)を有するナノセルロース繊維が得られることが確認できた。
さらに、図22に示すように、2回のパスによってヘイズ値(%)が15%以下のナノセルロース繊維が得られることが確認できた。とくに、スルファミン酸/尿素処理パルプの保水度(%)が1000%以上の場合には、1回のパスでヘイズ値(%)が5%以下のナノセルロース繊維が得られることが確認できた。
なお、比較例Dでは、解繊処理後に得られた分散液は、沈殿物が多量に含まれ濁った状態であった。そして、図21、図22に示すように、比較例Dのヘイズ値(%)がほぼ100%であり、全光線透過率(%)が40%以下であったことから、本条件下での解繊では比較例Dを適切に解繊することができないことが確認できた。
また、パス回数を増加させて解繊を行った場合にも比較例Dでは十分な解繊結果が得られなかった。
実験2の実験結果より、反応液に尿素を混合する製法を採用することによって、従来の技術では想定されなかった解繊圧力であっても解繊を容易に行うことができるスルファミン酸/尿素処理パルプを得ることができることが確認できた。
しかも、スルファミン酸/尿素処理パルプの保水度(%)を比較例の180%よりも高くし、かつスルファミン酸/尿素処理パルプの硫黄導入量を比較例の0.42mmol/gよりも高くなるように調製すれば、透明性の高いナノセルロース繊維を容易に得られることができることが確認できた。
とくに、スルファミン酸/尿素処理パルプの保水度(%)が1000%以上となるように調製すれば、解繊圧力60MPa下、1回のパスで容易にヘイズ値(%)が5%以下のナノセルロース繊維を得ることができることが確認できた。
(スルファミン酸/尿素処理パルプの固形分濃度と得られるナノセルロース繊維への影響について)
図23および図24は、高圧ホモジナイザーに供給するスラリー中のスルファミン酸/尿素処理パルプの固形分濃度と得られるナノセルロース繊維への影響について確認したものである。
この実験では、上述したスルファミン酸/尿素比((g/L)/(g/L))が200/100(1:0.5)の反応液を用いて上記のごとき製法(乾燥工程有、反応条件:温度120℃、時間25分、保水度1920%)で調製したスルファミン酸/尿素処理パルプを固形分濃度が、それぞれ0.5質量%と0.2質量%となるように調製したスラリーを高圧ホモジナイザーに供給した。そして、得られたナノセルロース繊維の品質を全光線透過率(%)、ヘイズ値(%)および解繊後の未解繊繊維数で評価した。
なお、未解繊繊維数は、解繊処理後における固形分0.05g中の未解繊の繊維をファイバーテスター(ローレンツェン&ベットレー(株)社製)で測定して固形分0.05g中に測定可能な繊維が何本存在しているかを計測した。
(実験結果)
図23および図24の実験結果に示すように、解繊時における1パス処理、2パス処理においても、いずれも全光線透過率(%)が約100%であり、ヘイズ値(%)が5%と以下であった。また、未解繊繊維数においては、1パス処理ではいずれも30本以下であり大きな差は確認できなかった。
したがって、高圧ホモジナイザーに供給するスラリー中のスルファミン酸/尿素処理パルプの固形分濃度は、0.2質量%~0.5質量%の範囲内においては、解繊のし易さに影響を与えないことが確認できた。そして、得られたナノセルロース繊維においても、その品質に影響を与えないことが確認できた。
本発明のスルホン化微細セルロース繊維、スルホン化パルプ繊維および誘導体パルプは、工業分野や、食品分野、医療分野、化粧品分野など様々な分野で多くの用途に好適に用いることができ、これらの分野に用いられる複合化材料の原料などとしても好適に用いることができる。

Claims (4)

  1. 複数のセルロース繊維を含むパルプ繊維であって、
    前記パルプ繊維は、
    木材由来のパルプ繊維であり、
    前記セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の少なくとも一部がスルホ基で置換されたものであり、
    前記スルホ基に起因する硫黄導入量が、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下であり、
    該パルプ繊維の保水度が、1000%以上5000%以下である
    ことを特徴とするスルホン化パルプ繊維。(ただし、無水塩化カルシウムを入れたデシケータ内にて減圧乾燥処理した絶乾のパルプ繊維に対してスルホ基が置換されたスルホン化パルプ繊維を除く。)
  2. 前記パルプ繊維は、洗浄し乾燥した後の白色度が30%以上である
    ことを特徴とする請求項1記載のスルホン化パルプ繊維。
  3. 保水度が1000%以上5000%以下のパルプ繊維が微細化された繊維状の微細セルロース繊維(ただし、針状結晶のものを除く)であって、
    該セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の少なくとも一部がスルホ基で置換されたものであり、
    該スルホ基に起因する硫黄導入量が0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下であり、
    平均繊維幅が20nm以下であり、
    前記微細セルロース繊維を水溶性溶媒に固形分濃度が0.5質量%となるように分散させた状態における該分散液のヘイズ値が9%以下である
    ことを特徴とするスルホン化微細セルロース繊維。
  4. 前記微細セルロース繊維は、重合度が300以上である
    ことを特徴とする請求項3記載のスルホン化微細セルロース繊維。
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