JP2023133679A - 微細セルロース繊維乾燥体の製造方法 - Google Patents

微細セルロース繊維乾燥体の製造方法 Download PDF

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Tomohiro Yagi
皓章 安井
Hiroaki Yasui
陸 浅井
Riku Asai
博史 寺坂
Hiroshi Terasaka
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Abstract

【課題】 乾燥前の微細セルロース繊維の分散液と同等、もしくはそれに近い分散性を有する再分散液を得ることができる微細セルロース繊維乾燥体の製造方法を提供する。【解決手段】 微細セルロース繊維と、分散剤と、水系溶媒とを含む固形分濃度2~5質量%の混合物を、真空ドラム乾燥機を用いて、減圧下で40~100℃の温度で乾燥させる乾燥工程を含む。【選択図】 なし

Description

本発明は、微細セルロース繊維乾燥体の製造方法に関する。
セルロースを微細化して得られるセルロースナノファイバーやミクロフィブリレイテッドセルロース(以下、併せて「微細セルロース繊維」という。)は、繊維径がナノ~マイクロオーダーの微細な繊維であり、高強度、高弾性、チキソ性等、通常のパルプにはない機能を有する新規材料として様々な分野での利用が期待されている。
一般に、セルロースナノファイバーは水に安定的に分散させた状態で製造され、通常は製造された所定濃度のセルロースナノファイバー分散液の状態で、工業材料、あるいは食品や化粧品の添加材料として各種用途に使用されている。セルロースナノファイバーの状態を安定的に保つためには、セルロースナノファイバーの数十倍程度の水分が必要になり、この水分の多さがセルロースナノファイバーの包装、保管、輸送等のコストアップにつながるため、該水分の減少(濃縮)と除去(乾燥)がセルロースナノファイバーの普及を図る上で欠かすことのできない技術とされてきた。
水に分散している状態(湿潤状態)のセルロースナノファイバーを乾燥させる方法としては、凍結乾燥法や臨界点乾燥法が提案されている(特許文献1)。しかし、凍結乾燥法や臨界点乾燥法は、多大なエネルギーを要する問題があった。
また、水に分散している状態(湿潤状態)の微細セルロース繊維を乾燥させて乾燥体とした場合には、微細セルロース繊維の繊維間に水素結合が形成されるため、この乾燥体に再び水を加えて再分散させようとしても、粘度特性等が乾燥前と同等までには復元できず、微細セルロース繊維の有する優れた特性が発揮できないという問題があった。
再分散しやすい微細セルロース繊維の乾燥体を得る技術として、微細セルロース繊維と溶媒との混合物を、真空ドラム乾燥機を用いて乾燥させる方法(特許文献2)が提案されている。
真空ドラム乾燥機を用いると、100℃以下のような低温で乾燥することができるため、熱による微細セルロース繊維の変性が抑えられる利点がある。また、ドラムの熱が直接試料に触れるため、熱効率が高く、装置をコンパクトにすることができる利点がある。
特開平6-233691号公報 国際公開第2019/189318号
しかしながら、特許文献2に記載された方法で真空ドラム乾燥機を用いて微細セルロース繊維の水分散液を低温乾燥させた場合であっても、得られた乾燥体を再分散させて得られた再分散液は、乾燥前の水分散液と比較すると、微細セルロース繊維の分散性に劣るものであった。
そこで、本発明は、乾燥前の微細セルロース繊維の分散液と同等、もしくはそれに近い分散性を有する再分散液を得ることができる微細セルロース繊維乾燥体の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、かかる目的を達成するため鋭意検討した結果、真空ドラム乾燥機に供給する原料の濃度を特定の濃度範囲とすることが極めて有効であることを見出し、本発明を完成した。
本発明は以下を提供する。
(1) 微細セルロース繊維と、分散剤と、水系溶媒とを含む固形分濃度2~5質量%の混合物を、真空ドラム乾燥機を用いて、減圧下で40~100℃の温度で乾燥させる乾燥工程を含む、微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
(2) 前記真空ドラム乾燥機は、溶射により表面にセラミック溶射皮膜が形成されたドラムを備えることを特徴とする、(1)に記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
(3) 前記微細セルロース繊維が、カルボキシル化セルロースナノファイバーであり、前記分散剤が、カルボキシメチルセルロースである(1)又は(2)に記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
(4) 前記混合物において、前記微細セルロース繊維(絶乾固形分)と前記分散剤との配合比(質量部)が5:5~8:2の範囲である、(1)~(3)の何れかに記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
(5) 前記セラミック溶射皮膜は、炭化タングステンおよび金属の結合剤を含む溶射材料を溶射することにより得られるものである、(2)~(4)の何れかに記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
(6) 前記金属の結合剤が、クロムおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種である、(5)に記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
(7) 前記真空ドラム乾燥機は、ドクターブレードを備えることを特徴とする(1)~(6)の何れかに記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
(8) 前記ドクターブレードの材質がPEEK樹脂製又はリン青銅製であることを特徴とする(7)に記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
本発明によれば、乾燥前の微細セルロース繊維の分散液と同等、もしくはそれに近い分散性を有する再分散液を得ることができる微細セルロース繊維乾燥体の製造方法を提供することができる。
実施例1の再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。 実施例2の再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。 実施例3の再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。 実施例4の再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。 実施例5の再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。 比較例1の再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。 対照の分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
本発明は、微細セルロース繊維乾燥体の製造方法であって、微細セルロース繊維と、分散剤と、水系溶媒とを含む固形分濃度2~5質量%の混合物を、真空ドラム乾燥機を用いて、減圧下で40~100℃の温度で乾燥させる乾燥工程を含む。
(微細セルロース繊維)
本発明で用いる、微細セルロース繊維は、セルロースを原料とする微細繊維であり、平均繊維径が500nm未満のセルロースナノファイバー(以下「CNF」ということがある。)および500nm以上のミクロフィブリレイテッドセルロース(以下「MFC」ということがある。)の総称である。当該平均繊維径は長さ加重平均繊維径であり、例えばバルメット株式会社製フラクショネーターや原子間力顕微鏡(AFM)を用いて微細セルロース繊維を観察することにより測定することができる。微細セルロース繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、1nm~60μm程度である。微細セルロース繊維は、セルロースを解繊することによって製造することができる。
(セルロースナノファイバー(CNF))
本発明に用いることができるCNFの平均繊維径は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。平均繊維長は好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。平均繊維長の下限は0.1μm以上程度である。平均繊維長は、径が20nm未満の場合は、原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより測定することができる。本発明に用いることができるCNFの平均アスペクト比は、好ましくは50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
(ミクロフィブリレイテッドセルロース(MFC))
本発明に用いることができるMFCの平均繊維長は5μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましい。平均繊維長の上限は2.0mm以下が好ましく、1.5mm以下程度がより好ましい。平均繊維長(長さ加重平均繊維長)は、バルメット社製フラクショネーター等で測定することにより求めることができる。
セルロース原料は、セルロースを含んでいればよく、特に限定されないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、晒クラフトパルプ(BKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。セルロース原料としては、これらのいずれかであってもよいし2種類以上の組み合わせであってもよいが、好ましくは植物又は微生物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)であり、より好ましくは植物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)である。
セルロース原料の数平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30~60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10~30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度に調整することが好ましい。
セルロースは、グルコース単位あたり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性を行うことが可能である。本発明においては、解繊の進行を促進するという観点から、化学変性して得られたセルロース原料(化学変性セルロース)を解繊して製造された化学変性微細セルロース繊維を用いることが好ましい。
化学変性としては、例えば、カルボキシル化(酸化)、カルボキシメチル化、カチオン化、エステル化等が挙げられる。中でも、カルボキシル化(酸化)がより好ましい。
(化学変性)
(カルボキシル化)
本発明において、カルボキシル化(酸化)したセルロースを解繊して得られたカルボキシル化微細セルロース繊維を用いる場合、カルボキシル化セルロース(酸化化セルロースとも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されるものではないが、カルボキシル化の際には、化学変性微細セルロース繊維の絶乾質量に対して、カルボキシル基の量が0.6~2.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。
カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。このカルボキシル化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度が好ましい。
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の使用量としては、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
セルロースのカルボキシル化は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4~40℃が好ましく、また15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱容易性や、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/mであることが好ましく、50~220g/mであることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1~30質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
カルボキシル化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。
(カルボキシメチル化)
本発明において、カルボキシメチル化したセルロースを解繊して得られたカルボキシメチル化微細セルロース繊維用いる場合、カルボキシメチル化したセルロースは、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよいし、市販品を用いてもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01~0.50となるものが好ましい。そのようなカルボキシメチル化したセルロースを製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる。セルロースを発底原料にし、溶媒として3~20質量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールを混合する場合の低級アルコールの混合割合は、60~95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍molの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍mol添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う。
なお、本明細書において、微細セルロース繊維の調製に用いる化学変性セルロースの一種である「カルボキシメチル化したセルロース」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化したセルロース」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化したセルロース」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
(カチオン化)
本発明において、前記カルボキシル化セルロースをさらにカチオン化したセルロースを解繊して得られたカチオン化微細セルロース繊維を使用することができる。当該カチオン変性されたセルロースは、前記カルボキシル化セルロース原料に、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライトまたはそのハロヒドリン型などのカチオン化剤と、触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を、水または炭素数1~4のアルコールの存在下で反応させることによって得ることができる。
グルコース単位当たりのカチオン置換度は0.02~0.50であることが好ましい。セルロースにカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したセルロースは容易に解繊することができる。グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.02より小さいと、十分に解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.50より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、微細繊維として得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たカチオン変性されたセルロース原料は洗浄されることが好ましい。当該カチオン置換度は、反応させるカチオン化剤の添加量、水または炭素数1~4のアルコールの組成比率によって調整できる。
(エステル化)
本発明において、エステル化したセルロースを解繊して得られたエステル化微細セルロース繊維を使用することができる。当該エステル化セルロースは、前述のセルロース原料にリン酸系化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物Aの水溶液を添加する方法により得られる。
リン酸系化合物Aとしては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形態であってもよい。これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種、あるいは2種以上を併用できる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩がより好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。リン酸系化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
リン酸エステル化セルロースの製造方法の一例として以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1~10質量%のセルロース原料の分散液に、リン酸系化合物Aを撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料を100質量部とした際に、リン酸系化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2~500質量部であることが好ましく、1~400質量部であることがより好ましい。リン酸系化合物Aの割合が前記下限値以上であれば、微細セルロース繊維の収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えると収率向上の効果は頭打ちとなるのでコスト面から好ましくない。
この際、セルロース原料、リン酸系化合物Aの他に、これ以外の化合物Bの粉末や水溶液を混合してもよい。化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。ここでの「塩基性」は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃~赤色を呈すること、または水溶液のpHが7より大きいことと定義される。本発明で用いる塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられるが、特に限定されない。この中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。化合物Bの添加量はセルロース原料の固形分100質量部に対して、2~1000質量部が好ましく、100~700質量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1~600分程度であり、30~480分がより好ましい。エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。
リン酸エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001~0.40であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易に解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分に解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、微細セルロース繊維として得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化されたセルロース原料は煮沸した後、冷水で洗浄することで洗浄されることが好ましい。
(解繊)
本発明において、化学変性セルロースを解繊する装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いて前記水分散体に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記水分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて、上記の微細セルロース繊維に予備処理を施すことも可能である。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
分散処理においては通常、溶媒に化学変性セルロースを分散する。溶媒は、化学変性セルロースを分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。セルロース原料が親水性であることから、溶媒は水であることが好ましい。
分散体中の化学変性セルロースの固形分濃度は、通常は0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常10質量%以下、好ましくは6質量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
解繊処理又は分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
解繊工程を経て得られた化学変性微細セルロース繊維が塩型の場合は、そのまま用いても良いし、鉱酸を用いた酸処理や、陽イオン交換樹脂を用いた方法等により酸型として用いても良い。また、カチオン性添加剤を用いた方法により疎水性を付与して用いても良い。
(分散剤)
本発明の製造方法において、乾燥工程に供する微細セルロース繊維を含む混合物には、乾燥後に得られる乾燥体の再分散性向上の観点から、分散剤を含む。分散剤としては、水溶性高分子、界面活性剤等が挙げられ、水溶性高分子を用いると、化学変性微細セルロース繊維表面の電荷密度の低い部分をカバーし、水素結合の形成を抑制して乾燥時の微細セルロース繊維同士の凝集を防止するため水溶性高分子を用いることが好ましい。
(水溶性高分子)
本発明の製造方法で用いることができる水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、加工澱粉(カチオン化澱粉、燐酸化澱粉、燐酸架橋澱粉、燐酸モノエステル化燐酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化燐酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化燐酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉)、コーンスターチ、アラビアガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、グァーガム及びコロイダルシリカ並びにそれら1つ以上の混合物が挙げられる。この中でも、セルロース誘導体は、化学変性微細セルロース繊維との親和性の点から好ましく、カルボキシメチルセルロース及びその塩は特に好ましい。カルボキシメチルセルロース及びその塩のような水溶性高分子は、微細セルロース繊維の繊維同士の間に入りこみ、繊維間の距離を広げることで、再分散性を向上させると考えられる。
本発明の製造方法で用いることができる界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、高級アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸などのアルキレンオキシド付加物などの非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、および、有機溶剤、タンパク質、酵素、天然高分子、合成高分子などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの単一成分からなるものでも2種以上の成分の混合物でも良い。
水溶性高分子として、カルボキシメチルセルロース又はその塩を用いる場合には、無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.55~1.6のカルボキシメチルセルロースを用いることが好ましく、0.55~1.1のものがより好ましく、0.65~1.1のものがさらに好ましい。また、分子が長い(粘度が高い)ものの方が、ナノファイバー間の距離を広げる効果が高いので好ましい。また、カルボキシメチルセルロースの1質量%水溶液における25℃、60rpmでのB型粘度は、3mPa・s~14000mPa・sが好ましく、7mPa・s~14000mPa・sがより好ましく、1000mPa・s~8000mPa・sがさらに好ましい。なお、ここでいう水溶性高分子としての「カルボキシメチルセルロース又はその塩」とは、水に完全に溶解するものであることから、上述の水中で繊維形状を確認することができるカルボキシメチル化したセルロースとは区別される。
乾燥前の混合物において、微細セルロース繊維(絶乾固形分)と分散剤との配合比は、再分散性の向上効果が得られる観点から、5:5~8:2であることが好ましく、6:4~7:3であることがより好ましい。分散剤の配合比が上記上限値より多すぎると、微細セルロース繊維の特徴であるチキソトロピー性などの粘度特性や、分散安定性の低下などの問題が生じることがある。分散剤の配合比が上記下限値より少なすぎると、十分な再分散性が得られない。
(水系溶媒)
本発明に用いられる乾燥前の混合物に含まれる水系溶媒としては、水、水溶性有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、セルロース原料が親水性であるため、分散時に良好な分散状態を取りやすいという観点から水を用いることが好ましい。
水溶性有機溶媒とは、水に溶解する有機溶媒である。その例として、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、およびこれらの組合せが挙げられる。中でもメタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数が1~4の低級アルコールが好ましく、安全性および入手容易性の観点から、メタノール、エタノールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。
混合溶媒とする場合には、混合溶媒中の水溶性有機溶媒の量は、10質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。当該量の上限は限定されないが95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。また、発明の効果を損なわない程度で、当該水系溶媒は非水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
乾燥前の混合物の固形分濃度としては、2~5質量%とすることが必要であり、3~5質量%とすることが好ましく、3~4質量%とすることがさらに好ましい。混合物の固形分濃度が上記下限値より低いと、生成されるフィルムの膜厚が小さくなり、微細セルロース繊維に加わる熱が大きくなり熱変性が進行するため、得られる乾燥体の再分散液は、分散状態が劣る。一方、固形分濃度が上記上限値より高いと、粘度が高いためドラム間に供給されなくなる虞がある。
乾燥前の混合物の固形分濃度の調整方法としては、特に限定されないが、水を加えてホモディスパーで撹拌する方法が挙げられる。
(乾燥体の製造方法)
本発明の製造方法は、真空ドラム乾燥機を用いて、減圧下で40~100℃の温度で、微細セルロース繊維と、分散剤と、水系溶媒とを含む混合物を乾燥させる乾燥工程を含む。
(真空ドラム乾燥機)
真空ドラム乾燥機とは、加熱されたドラムを真空または減圧下に配置しておき、ドラムを回転させつつドラム表面に微細セルロース繊維と分散剤と水系溶媒との混合物を連続的に供給し、水系溶媒の蒸発及び濃縮を行うと同時に、ドラム表面に微細セルロース繊維と分散剤とを薄膜状に付着させて乾燥し、ドラム表面に形成された乾燥物を、真空ドラム乾燥機に備えられたドクターブレード等のナイフで掻き取ることにより乾燥体を製造する装置である。
真空または減圧下で乾燥を行う際、0~50kPaの範囲で乾燥を行うことが好ましい。低圧とした方が水分をより低温で蒸発させることができるため、50kPa以下であることが好ましく、30kPa以下であることがより好ましく、10kPa以下であることがさらに好ましい。
本発明において、乾燥温度は、ドラム表面の温度を意味するものであり、効率良く再分散性に優れる乾燥体を得る観点から40~100℃であり、60~80℃が好ましい。乾燥温度が上記上限値より高すぎると、熱の影響によりセルロースが変性してしまい、得られる乾燥体は再分散性に劣る。また、乾燥温度が上記下限値より低すぎると、生産効率に劣る。
ドラム型の乾燥機としては、2本のドラムを用いるダブルドラム型またはツインドラム型の乾燥機、あるいは、1本のドラムを用いるシングルドラム型の乾燥機があるが、いずれを用いてもよい。これらの中では、ドラム間のクリアランスを調整することで薄膜の膜厚の調整ができる観点から、ダブルドラム型の乾燥機を用いることが好ましい。
ドラム表面に形成する薄膜の膜厚としては、5~500μmが好ましく、50~250μmがさらに好ましい。50μm以上であると、再分散性のさらなる向上効果がみられ、また、250μm以下であると乾燥後の掻き取りが容易である。
本発明に用いる真空ドラム乾燥機に備えられたドラム表面の材質としては、特に限定されないが、クロムメッキ等の金属メッキ、あるいは、セラミック皮膜が挙げられる。セラミック皮膜が表面に形成されたドラムは微細セルロース繊維乾燥体の剥離性に優れるため、従来技術の表面がクロムメッキ処理されたドラムを用いた場合と比較して、乾燥体の掻き取りのためにドクターブレードをドラムに押し当てる力が小さくて済む。したがって、セラミック皮膜が形成されたドラムを用いると、ドクターブレードとドラムとの間で発生する摩擦熱を抑制することができ、得られる微細セルロース繊維乾燥体は、熱による変性が抑制されたものであり、この乾燥体は再分散性に優れる。
ドラムの表面にセラミック皮膜を形成する方法としては、皮膜の均一性の観点から、溶射が好ましい。溶射とは、溶射材料を加熱して溶融状態または軟化状態にして基材表面に吹き付けて溶射皮膜を形成する方法である。溶射方法は特に制限されず、フレーム溶射、アーク溶射、プラズマ溶射等が挙げられ、作業性の観点からプラズマ溶射が好ましい。
溶射材料としては、金属、合金、セラミック、プラスチック等が挙げられ、耐摩耗性・高強度であることから、セラミックを含むものを用いることが好ましい。セラミックとしては、炭化タングステン、炭化クロムが挙げられ、CNF乾燥体の剥離性の観点から、炭化タングステンを用いることが好ましい。なお、セラミックを含む溶射材料を用いる場合は、金属の結合剤をあわせて用いることが好ましい。金属の結合剤としては、クロム、ニッケル、及びコバルトから選ばれる少なくとも1種が好ましく、クロムおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、クロムおよびニッケルをどちらも含むものがさらに好ましい。
ドクターブレードの材質としては、SUS製、PEEK樹脂製、カーボン製、リン青銅製等が挙げられる。ドラム表面の材質により乾燥体の剥離性が異なり、掻き取りに必要な力が変わってくるため、ドラム表面の材質に応じて適宜選択すればよい。ドラム表面の材質がセラミック溶射皮膜である場合は、ドラム表面の皮膜保護の観点から、PEEK樹脂製およびリン青銅製のドクターブレードを用いることが好ましく、ドクターブレードの耐久性の観点からリン青銅製のドクターブレードを用いることが好ましい
(乾燥体)
得られた乾燥体は、適宜粉砕、分級などして、粉体状としてもよいが、それ以外の形態でもよい。
本発明において、乾燥体とは、水分量が15質量%以下になるように乾燥させた状態をいう。水分量は0~15質量%であることが好ましく、0~10質量%であることがさらに好ましい。乾燥工程において、水分量0%(絶乾)まで乾燥させたものでもよい。
本発明の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法によれば、微細セルロース繊維と、分散剤と、水系溶媒とを含む混合物であって、固形分濃度3~5質量%のものを用いるため、これより濃度が薄い混合物を用いた場合と比較して、真空ドラム乾燥機のドラム間に形成される薄膜の膜厚が大きくなり、微細セルロース繊維に加わる熱が小さくなるため、熱による変性が抑制される。その結果、本発明の製造方法により得られる乾燥体は、分散性に優れる。
また、本発明の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法において、真空ドラム乾燥機として、表面にセラミック溶射皮膜が形成されたドラムを備えるものを用いると、得られる乾燥体の剥離性が向上するため、ドクターブレードをドラムに強く押し当てる必要がなくなり、ドクターブレードとドラム表面との間で発生する摩擦熱を抑制することができ、得られる微細セルロース繊維乾燥体は、熱による変性が抑制されたものであり、この乾燥体は再分散性に優れる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例における各数値の測定/算出方法が特に記載されていない場合には、明細書中に記載されている方法により測定/算出されたものである。
(製造例1)
(カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの製造)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mgと臭化ナトリウム514mgを溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を5.5mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物を、塩酸を用いて酸性化処理した後、ガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(以下、「カルボキシル化セルロース」、「カルボキシル化パルプ」、または「TEMPO酸化パルプ」ということがある)を得た。パルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.6mmol/gであった。上記の工程で得られた酸化パルプを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回処理して、カルボキシル化CNF分散液を得た。得られた繊維は、平均繊維径が3nm、アスペクト比が150であった。
(カルボキシル基量の測定方法)
カルボキシル化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕。
(CNFの平均繊維径、平均繊維長、アスペクト比の測定)
CNFの平均繊維径および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析した。アスペクト比は下記の式により算出した:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
(再分散液の評価)
(粘度の測定)
実施例および比較例で得られた固形分1質量%のCNF再分散液について、B型粘度計(英弘精機社製)を用いて、25℃の条件にて、回転数60rpmで3分後の粘度、及び回転数6rpmで3分後の粘度を測定した。結果を表1に示した。
(透明度の測定)
実施例、比較例で得られた固形分濃度1%のCNF再分散液に対して、可視光光度計ASV11D(アズワン株式会社製)を用い、透明度(660nm光の透過率)を測定した。結果を表1に示した。
(分散性)
実施例、比較例で得られた固形分濃度1%のCNF再分散液1g、および対照として比較例1で調製した乾燥前の固形分濃度1%のCNF水分散液1gに墨滴(株式会社呉竹製、固形分10%)を2適垂らし、ボルテックスミキサー(IUCHI社製、機器名:Automatic Lab-mixer HM-10H)の回転数の目盛りを最大に設定して1分間撹拌した。次に、墨滴を含有するCNF分散液の膜厚が0.15mmになるように二枚のガラス板に挟み、光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープKH-8700(株式会社ハイロックス製))を用いて倍率100倍で観察した。観察結果を図1~図7に示した。また、下記の基準で評価し、結果を表1に示した。得られた画像中に見られる白い塊(ゲル粒)が少ないほど、分散性がよいといえる。
○:ゲル粒はほとんど観察されなかった。
△:ゲル粒が若干観察された。
×:ゲル粒が多く観察された。
(実施例1)
(真空ドラム乾燥機のドラム表面の改質)
真空ドラム乾燥機(カツラギ工業社製、VD-0102型)のドラム表面に、炭化タングステンおよびニッケル・クロムの結合剤をプラズマ溶射することにより、炭化タングステンを含むセラミック溶射皮膜を形成した。
(CNF水分散液の調製)
製造例1で得られたカルボキシル化CNFの1.0質量%水分散液に、分散剤としてのカルボキシメチルセルロース(商品名:F350HC-4、粘度(1質量%、25℃)約3000mPa・s、カルボキシメチル置換度約0.9)を、CNFの固形分7質量部に対して3質量部添加し、ジェットペースタ(7200rpm)で60分間撹拌することにより、CNFの水分散液を調製した。この分散液のpHは7程度であった。この水分散液に、水酸化ナトリウム水溶液0.5%を加え、pHを8~9に調整した。このときの水分散液の固形分濃度(カルボキシル化CNFとカルボキシメチルセルロースを含む)は、3.9質量%であった。
(CNF乾燥体の製造)
得られた固形分濃度3.9質量%の水分散液をセラミック溶射皮膜が形成されたドラム表面に塗布し、厚さ100~200μm程度の薄膜を形成し、ドラム乾燥機のドラム表面温度を80℃、蒸気圧力0.3MPaG、ドラム回転数2rpm、乾燥機内圧力2kPaで乾燥し、固形分濃度86.7質量%のカルボキシル化CNFの乾燥体を得た。なお、ドラム表面からCNF乾燥体をかきとるために使用するドクターブレードとして、PEEK樹脂製のものを使用した。
(CNF乾燥体の再分散)
上記で得られたCNF乾燥体に、固形分濃度が1質量%となるようにイオン交換水を添加し、ホモディスパーを用いて、3000rpmで30分間撹拌することにより、CNFを再分散した水分散液を得た。
(実施例2)
CNF乾燥体の製造において、真空ドラム乾燥機としてドラム表面の改質を行っていないものを使用したこと、及び、ドクターブレードとしてSUS製のものを使用したこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度91.0質量%のカルボキシル化CNFの乾燥体を得た。また、得られたCNFの乾燥体を用いて、実施例1と同様にしてCNFを再分散した水分散液を得た。なお、ドラム表面はクロムメッキが施されている。
(実施例3)
CNF水分散液の調製において、カルボキシメチルセルロースを、CNFの固形分6質量部に対して4質量部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度3.1質量%の水分散液を得た。CNF乾燥体の製造において、このようにして得られた固形分濃度3.1質量%の水分散液を用いたこと、ドラム表面の改質を行っていない真空ドラム乾燥機を用いたこと、及び、ドクターブレードとしてSUS製のものを使用したこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度90.7質量%のカルボキシル化CNFの乾燥体を得た。また、得られたCNFの乾燥体を用いて、実施例1と同様にしてCNFを再分散した水分散液を得た。
(実施例4)
CNF乾燥体の製造において、ドクターブレードとしてリン青銅製のものを使用したこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度94.5質量%のカルボキシル化CNFの乾燥体を得た。また、得られたCNFの乾燥体を用いて、実施例1と同様にしてCNFを再分散した水分散液を得た。
(実施例5)
CNF水分散液の調製において、カルボキシメチルセルロースを、CNFの固形分6質量部に対して4質量部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度3.9質量%の水分散液を得た。CNF乾燥体の製造において、このようにして得られた固形分濃度3.9質量%の水分散液を用いたこと、及び、ドクターブレードとしてリン青銅製のものを使用したこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度94.2質量%のカルボキシル化CNFの乾燥体を得た。また、得られたCNFの乾燥体を用いて、実施例1と同様にしてCNFを再分散した水分散液を得た。
(比較例1)
CNF水分散液の調製において、水を加えてホモディスパーで撹拌することで1.0%まで希釈したこと以外は実施例1と同様にして、最終的に固形分濃度1.0質量%の水分散液を得た。CNF乾燥体の製造において、このようにして得られた固形分濃度1.0質量%の水分散液を用いたこと、ドラム表面の改質を行っていない真空ドラム乾燥機を用いたこと、及び、ドクターブレードとしてSUS製のものを使用したこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度90.5質量%のカルボキシル化CNFの乾燥体を得た。また、得られたCNFの乾燥体を用いて、実施例1と同様にしてCNFを再分散した水分散液を得た。
なお、比較例1で調製した乾燥前の1.0質量%のCNF水分散液について、上記で示した通り、粘度の測定、透明度の測定、及び分散性の評価を行い、表1に対照として示した。
Figure 2023133679000001
表1からわかる通り、微細セルロース繊維と、分散剤と、水系溶媒とを含む固形分濃度2~5質量%の混合物を、真空ドラム乾燥機を用いて、減圧下で40~100℃の温度で乾燥させる乾燥工程を含む製造方法により微細セルロース繊維乾燥体を製造した実施例1~5では、得られた微細セルロース繊維乾燥体の再分散液は、固形分濃度1質量%の混合物を用いた比較例1で得られた乾燥体の再分散液と比べて、分散性に優れる。

Claims (8)

  1. 微細セルロース繊維と、分散剤と、水系溶媒とを含む固形分濃度2~5質量%の混合物を、真空ドラム乾燥機を用いて、減圧下で40~100℃の温度で乾燥させる乾燥工程を含む、微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
  2. 前記真空ドラム乾燥機は、溶射により表面にセラミック溶射皮膜が形成されたドラムを備えることを特徴とする、請求項1に記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
  3. 前記微細セルロース繊維が、カルボキシル化セルロースナノファイバーであり、前記分散剤が、カルボキシメチルセルロースである請求項1又は2に記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
  4. 前記混合物において、前記微細セルロース繊維(絶乾固形分)と前記分散剤との配合比(質量部)が5:5~8:2の範囲である、請求項1~3の何れか一項に記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
  5. 前記セラミック溶射皮膜は、炭化タングステンおよび金属の結合剤を含む溶射材料を溶射することにより得られるものである、請求項2~4の何れか一項に記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
  6. 前記金属の結合剤が、クロムおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
  7. 前記真空ドラム乾燥機は、ドクターブレードを備えることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。
  8. 前記ドクターブレードの材質がPEEK樹脂製又はリン青銅製であることを特徴とする請求項7に記載の微細セルロース繊維乾燥体の製造方法。

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