JP7353086B2 - 閉鎖系細胞培養容器 - Google Patents
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Description
また、柔軟性フィルムは、環状枠体の外周面の少なくとも一部を密着して覆うとともに環状枠体の上部開口を覆うことで、環状枠体の外周全体を囲んで覆うのが好適である。
さらに、内側突出部が環状枠体の内壁の高さに対応する長さを有し、内側突出部の開口が環状枠体の内壁側で培地に浸漬可能であるのがよい。
同時に、培養基部及び培養空間を柔軟性フィルムに対して所定位置に固定して配置できるとともに、培養空間を所定形状に保つことができるため、細胞培養途中や終了時などに柔軟性フィルムの外側から環状枠体を安定して支持でき、培養基部及び培養空間が変位したり変形したりすることを抑えることができる。
その結果、閉鎖系のまま無菌的に細胞培養を容易に行うことができるとともに、安定して支持することが容易で、運搬、培地交換、観察等の各種の培養操作を無菌的に安定して行うことができる閉鎖系細胞培養容器を提供することができる。
そのため、柔軟性フィルムの材質に関わらず、培養空間の外側面及び下面について、培養する細胞に応じて、所望の性状を有する培養空間の外側面及び下面を自由に選択することが可能となる。例えばインナーケースの培養基部のみに親水化などの処理を施し、このインナーケースを利用して、上述の本発明を適用することで本発明の閉鎖系細胞培養容器を得ることができる。この場合、柔軟性フィルムに何ら処理することなく、親水性を有する培養基部を備えた閉鎖系細胞培養容器とすることができる。
さらに、柔軟性フィルムによる環状括れ部は、蛇腹状に変形容易に構成できるので、環状括れ部の上部の下鍔部に溶着された上部フィルムが変位乃至変形し易くなる。そのため閉鎖系を保ちつつ、上部フィルムを変形乃至変位させて容積を変化させることができ、例えば培地の収容排出等の操作を容易に行うことができる。
本実施形態の閉鎖系細胞培養容器10は、図1及び図2に示すように、密封収容体11の内部に培養基部13及び培養基部13に接する培養空間12を備えた容器であり、上部開口21aを有する硬質のインナーケース21と、インナーケース21を外周側から移動不能に固定して気密に覆う柔軟性フィルム23と、培養空間12と外部とを連通するためのポート部25と、を備えている。上記インナーケース21は、柔軟性フィルム23が密着されることで、柔軟性フィルム23に対して固定されている。
インナーケース21は、柔軟性フィルム23よりも硬度が高くて透明性を有する材料からなるものが好適であり、その場合、外部から人や機械(カメラ)による観察を容易に行うことができる。柔軟性フルムとインナーケースの両方が透明性を有する場合、培養操作中においても外部から観察することができるので、より好ましい。本実施形態では、インナーケース21として既存のガラス、ポリスチレン等の透明樹脂からなるシャーレ(ディッシュ)状の培養容器等が使用されている。
インナーケース21としては、ポリスチレン樹脂、既存のガラスからなるものの他、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、メタクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、アクリル系樹脂等からなるものなども使用可能である。
これらの中でも、培養容器に求められる成形性及び滅菌性の点から、ポリスチレン樹脂が好ましい。また、樹脂製培養容器とした場合、ディスポーザルタイプとすることが容易である。
ここで密着とは、一部が接着、溶着等により互いに接合されていてもよいが、対向当接面同士が離間しない状態で当接していれば接合されていなくてもよく、柔軟性フィルム23にテンションが付された状態、すなわち、インナーケース21の外表面にだぶつきやたぐまることなく密着し、また、インナーケース21の底壁側及び上部開口21a側では張った状態でインナーケース21を覆うことが好ましい。例えば、柔軟性フィルム23として、熱収縮フィルムなどを使用することにより、インナーケース21と柔軟性フィルム23間の密着状態を構成することができる。また、柔軟性フィルム23の伸縮性を利用して、インナーケース21と柔軟性フィルム23間の密着状態を構成することもできる。この場合、側周壁21bに加え、側周壁21bの上下端部、すなわち、上部開口21a側の端部と底壁21c側の端部に、柔軟性フィルム23が密着することで、より確実に固定することができる。
上部フィルム23bは、インナーケース21の上部開口21aを塞ぐ開口閉塞部23b1と、側周壁21bより径方向外側に全周にわたり突出した上鍔部23b2と、を有し、これらが平坦に連続している。
本実施形態では、下鍔部23a3及び上鍔部23b2の周方向における一部に、後述する樹脂成形体からなるポート部25が配置されているため、下部フィルム23aの下鍔部23a3と上部フィルムの上鍔部23b2とは、ポート部25を除く部位で互いに溶着されており、残部はそれぞれポート部25の外周面に溶着されている。
下鍔部23a3、上鍔部23b2及びポート部25が周方向に全周で溶着されることで下部フィルム23aと上部フィルム23bとが気密に接合されて密封されている。
この環状括れ部23a4は、筒形状の側周部23a2からインナーケース21の内径と同等又はそれ以下に縮径することで設けられており、周方向の全周に連続している。
また下部フィルム23aの下端部23a1と環状括れ部23a4との間の距離がインナーケース21の側周壁21bの内壁面の高さに対応していて、環状括れ部23a4がインナーケース21の上部開口21aの周縁に密着して形成されている。
本実施形態の柔軟性フィルム23は、上述の通り、空気を透過させない気密性のフィルムを用いたが、液体だけ遮蔽できれば良い場合には、液密性のフィルムを用いても良い。
柔軟性フィルム23は、用途、要求により適するフィルムを用いることができる。例えば、培養細胞の種類や高酸素や低酸素等の培養環境に合わせて酸素や特定ガスのガス透過性柔軟性フィルムや酸素等の透過を抑制したガス非透過性フィルムを選択できる。
上記用途、要求に合わせて、柔軟性フィルム23としては、例えば低密度又は高密度ポリエチレン樹脂(直鎖状ポリエチレンを含む)、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレン-ブタジエン共重合樹脂およびそれらの水素添加樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂(ナイロン樹脂)ならびにそれらの樹脂の混合物などからなるものを使用してもよい。これらを単層又は複層フィルムとして用いる他、異なる素材フィルムを組み合わせた積層フィルムとして用いても良い。更には、フィルムの表層若しくは中間層にシリカ蒸着フィルム、アルミナ蒸着フィルムやポリビニルアルコールフィルム等のガスバリアー製のフィルムを用いた積層フィルム等を使用しても良い。
更に、部位により、用いるフィルムを異ならせることもできる。例えば、細胞培養においては、酸素を透過させるEVAフィルムを用いることが好ましいが、上部フィルム23bには下部フィルム23aより薄いEVAフィルムを使用することで、培養空間により多くの酸素を供給しやすくすることができる。
内側突出部25bはインナーケース21の側周壁21bの高さに対応する長さを有している。内側突出部25bの先端側は先細り形状に形成され、先端には貫通孔25aの開口25dが設けられている。
一方、外部接続部25cは、詳細な図示は省略しているが、例えば、ルアテーパのポートやニードルレスゴム栓等、使用する外部器具の接続形状に対応した形状を有し、外部機器を接続しない場合には、キャップ29などで閉塞されている。
この状態で下部フィルム23aの下鍔部23a3と上部フィルム23bの上鍔部23b2とを溶着するとともに、上部フィルム23bとポート部25との間及びポート部25と下部フィルム23aとの間を溶着することで、図1及び図2に示すような閉鎖系細胞培養容器10を製造することができる。
培養基部13に接着しなかった細胞を取り除くため、後述する培地交換と同様の作業により、閉鎖系細胞培養容器10内の細胞懸濁液を所定量乃至全量を取り除き、新たな培地27を注入し、培養を開始する。
閉鎖系細胞培養容器10内の観察を行うには、図2のように培養雰囲気下に配置されている閉鎖系細胞培養容器10を、柔軟性フィルム23の外側から人手又は機械腕により支持して所定位置に運搬し、目視や顕微鏡で観察する。このとき柔軟性フィルム23により培養空間の無菌状態が確保できるため無菌状態が確保されていない外部空間にて行うことができる。
次いで、滅菌処理された新たな培地27をシリンジに必要量とり、図5のように変位させた状態で、シリンジをポート25の外部接続部25cに接続して、新たな培地をインナーケース21の側周壁21b側における底壁21cの角部に穏やかに注ぎ入れる。
その後、培養雰囲気下で静置して培養を継続する。培養期間は目的や細胞種により適宜設定することができる。
このようにして1乃至複数回の観察や培地交換を無菌的に行いつつ、培養期間を経過することで培養を終了する。
所定量のリン酸緩衝液をシリンジにより閉鎖系細胞培養容器10内に注入し、インナーケース21内によくいきわたらせる。その後、リン酸緩衝液を十分に吸引して、閉鎖系細胞培養容器10内から十分に取り除く。このリン酸緩衝液洗浄を1乃至複数繰り返して行う。
次いでトリプシン溶液を排出し、血清入のリン酸緩衝液や培地27等を注入し、細胞懸濁液や細胞シートの状態で回収可能にする。このとき培養された細胞を培養基部13から剥がしたり、細胞同士の接着を切ったりすることを目的として、適宜ピペッティングなどを行うことができる。
閉鎖系細胞培養容器10を開封する場合、柔軟性フィルム23を切断してインナーケース21の上部開口21aを開口させることができる。その場合、図4に仮想線で示すように、インナーケース21の側周壁21bに対応する部位に刃物31を当てて外側から柔軟性フィルム23を切断する。
その後、インナーケース21の上部開口21aから細胞を取り出して使用する。
また、培地27の排出または導入に合わせてポート25を変位させたり、インナーケース21を傾けたりすることで、培地の出し入れなどを行うことができるため、培地27が上部フィルム23bの内面などに触れる機会を低減することができる。上部フィルム23bの内面は、当然に減菌処理されているが、触れる必要がない部位に培地27が触れる機会を低減することで、培地27の汚染リスクをより下げることができる。
以下、本実施形態の変形例について説明する。
図7(a)(b)は、上記実施形態の一変形例の閉鎖系細胞培養容器10を示している。図7(a)の閉鎖系細胞培養容器10は、インナーケース21の側周壁21bの外周側の全周にガイド部材33が配置されていて、このガイド部材33がインナーケース21の側周壁21bとともに、柔軟性フィルム23の下部フィルム23aにより連続して密着して覆われている。
なお、ガイド部材33の外周に環状に溝部が設けられていてもよく、その場合には溝部の外周も柔軟性フィルム23により覆われている。
その他は上記実施形態と同様である。
そのため、側周壁21bの外周側で刃物31により柔軟性フィルム23を切断する際、刃物31をガイド部材33の段差部35に当てた状態で、刃物31を側周壁21bに沿って移動させることで、柔軟性フィルム23を容易に切断することができる。すなわち、上記段差部35が、ガイド部として、柔軟性フィルム23を切断する際に刃物31を案内する。
ガイド部は押し当てる刃物31を側周壁21bの外周面で案内できればよいので、上記突条36の他にも、溝や複数の凸部などで形成することもできる。
上記実施形態では、底壁21c及び側周壁21bを有するインナーケース21を、柔軟性フィルム23で少なくとも液密に覆った閉鎖系細胞培養容器10の例について説明したが、特に限定されるものではない。
例えば図8に示すように、両端が開口した環形状を有する環状枠体15を、柔軟性フィルム23で少なくとも液密に覆うことで、閉鎖系細胞培養容器10とすることも可能である。その場合、環状枠体15に囲まれた内側の空間内の柔軟性フィルム23における内側表面が培養基部13となり、環状枠体15の内側の空間が培養空間12となる。このような構成にしても、上記実施形態と同様に、運搬、培地交換、観察等の各種の培養操作を無菌的に安定して行うことが可能な閉鎖系細胞培養容器10として使用することができる。
さらに内側が複数に区画された環状枠体15を用いることもできる。例えば図9に示すように、内部が複数に仕切られた環状枠体15を柔軟性フィルム23により少なくとも液密に覆うことで、複数に区画された培養空間12や培養基部13を設けてもよい。これにより、シート状に培養された培養細胞群(細胞シート)を区画毎に取り出すことができ操作性がよい。
また変位自在なポート部25を各区画に対応して1つ或いは複数配置することで、区画された培養基部13に適するように培地の供給や排出を行うことができる。場合によっては、ポート部25からの培地の噴流によって、培養細胞群(細胞シート)を底壁から剥離する操作などを行うこともできる。
また、柔軟性フィルム23の下鍔部23a3と上鍔部23b2とを溶着により密封する場合において、少なくとも液密性を確保できる程度の弱シール、所謂イージーピールを採用してもよい。その場合、培養空間の培養細胞などを取り出す際に上部フィルムの剥離を容易にするため、例えば舌片状の剥離用つまみ部を形成しておくことが望ましい。
さらに上記実施形態では、ポート部25が柔軟性フィルム23に変位可能に支持されることで、内側突出部25bの開口25dを変位可能にした例について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば柔軟性フィルム23の伸縮等によって内側突出部25bの開口25dを変位可能に構成してもよい。
11 密封収容体
12 培養空間
13 培養基部
15 環状枠体
21 インナーケース
21a 上部開口
21b 側周壁
21c 底壁
21d 上端面
23 柔軟性フィルム
23a 下部フィルム
23b 上部フィルム
23a1 下端部
23a2 側周部
23a3 下鍔部
23a4 環状括れ部
23b1 開口閉塞部
23b2 上鍔部
25 ポート部
25a 貫通孔
25b 内側突出部
25c 外部接続部
25d 開口
27 培地
29 キャップ
31 刃物
33 ガイド部材
35 段差部(ガイド部)
36 突条(ガイド部)
t 厚み
w 幅
Claims (9)
- 培養基部及び該培養基部に接する培養空間が密封収容体の内部に設けられ、前記培養基部上又は前記培養空間内で細胞が培養される閉鎖系細胞培養容器であって、
前記密封収容体は、環状枠体と、該環状枠体を外周側から移動不能に固定して少なくとも液密に覆う柔軟性フィルムと、を備え、
前記培養基部及び前記培養空間は前記環状枠体に囲まれた内側の空間内に設けられ、
前記環状枠体は、前記柔軟性フィルムよりも硬度が高く前記培養空間を所定形状に保持可能な硬質材からなる閉鎖系細胞培養容器。 - 前記環状枠体を側周壁とし、前記培養基部を底壁とするインナーケースを含む請求項1に記載の閉鎖系細胞培養容器。
- 前記柔軟性フィルムは、前記環状枠体の少なくとも外周面を密着して覆うとともに前記環状枠体の上部開口を覆うことで、前記環状枠体の外周全体を囲んで覆っている請求項2に記載の閉鎖系細胞培養容器。
- 前記柔軟性フィルムは、前記環状枠体の外周面の少なくとも一部を覆う下部フィルムと、前記上部開口を覆う上部フィルムと、を備え、
前記下部フィルムは、前記環状枠体の外周面より外側に突出した下鍔部を有し、
前記上部フィルムは、前記環状枠体の外周面より外側に突出した上鍔部を有し、
前記下鍔部と前記上鍔部とが少なくとも液密に溶着されている請求項3に記載の閉鎖系細胞培養容器。 - 前記下部フィルムは、前記環状枠体の外周面に密着する側周部と前記下鍔部との間に、前記上部開口の上端面を覆う環状括れ部が設けられている請求項4に記載の閉鎖系細胞培養容器。
- 前記培養空間と外部とを連通可能なポート部を備え、
前記ポート部は、前記培養空間内に突出した内側突出部を有して前記環状枠体の上部開口付近の前記柔軟性フィルムに支持されている請求項2乃至5の何れかに記載の閉鎖系細胞培養容器。 - 前記ポート部の内側突出部の開口が前記培養空間内の培地に浸漬される位置と前記培地より上方の位置との間で変位可能である請求項6に記載の閉鎖系細胞培養容器。
- 前記内側突出部が前記環状枠体の内壁の高さに対応する長さを有し、前記内側突出部の開口が前記環状枠体の内壁側で前記培地に浸漬可能である請求項7に記載の閉鎖系細胞培養容器。
- 前記環状枠体の外周面に、当該外周面に沿ってガイド部が形成され、前記ガイド部は、前記環状枠体とともに前記柔軟性フィルムにより覆われている請求項1乃至8の何れかに記載の閉鎖系細胞培養容器。
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