JP7319760B2 - 金属加工油組成物、及び金属板積層体の製造方法 - Google Patents
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Description
特許文献1には、片面又は両面にプレス加工油を塗布したフープ材に複数のプレス加工を順次施し、当該フープ材の片面に接着剤を塗布した上で外形打ち抜き加工を行って金属薄板を得て、当該金属薄板を所定枚数積層接着することによって金属板積層体を製造する方法であって、前記プレス加工油に硬化促進剤が添加されたことを特徴とする金属板積層体の製造方法が開示されている。
[1](A)引火点が20℃以上70℃未満の溶剤と、
(B)下記一般式(1)で表される金属石鹸と、
Mn+(RCOO-)n (1)
(式(1)中、Mは金属元素を示し、Rは水素原子又は炭素数16以下の炭化水素基を示し、nは1以上の整数を示す。nが2以上の整数の場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。)
(C)油性剤と、を含有する金属加工油組成物。
[2]下記工程1~5を有する、金属板積層体の製造方法。
工程1:上記[1]に記載の金属加工油組成物をフープ状金属の片面又は両面に塗布する工程
工程2:工程1を施したフープ状金属をプレス加工する工程
工程3:工程2を施したフープ状金属の片面に嫌気性接着剤を塗布する工程
工程4:工程3を施したフープ状金属の外形打ち抜き加工を行い、該外形を有する複数の金属板を得る工程
工程5:工程4で得た複数の金属板同士を積層接着する工程
また、以下、本明細書において「加工性」とは、被加工材を打ち抜き加工する工程における加工性を意味し、「接着性」とは、嫌気性接着剤によって被加工材同士を接着する際における接着性を意味する。
本実施形態の金属加工油組成物は、
(A)引火点が20℃以上70℃未満の溶剤(以下、「(A)溶剤」ともいう)と、
(B)下記一般式(1)で表される金属石鹸(以下、「(B)金属石鹸」ともいう)と、
Mn+(RCOO-)n (1)
(式(1)中、Mは金属元素を示し、Rは水素原子又は炭素数16以下の炭化水素基を示し、nは1以上の整数を示す。nが2以上の整数の場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。)
(C)油性剤と、を含有する金属加工油組成物である。
以下、本実施形態の金属加工油組成物が含有する各成分について説明する。
本実施形態の金属加工油組成物は、(A)引火点が20℃以上70℃未満の溶剤を含有するものである。(A)溶剤の引火点が上記範囲であると、加工性と接着性とを両立させることができる。
一方、(A)溶剤の引火点が20℃未満であると、溶剤の揮発性が高くなりすぎ、均一な塗油膜を形成することが困難となる。その結果、(B)金属石鹸及び(C)油性剤が被加工材上に偏在し、加工性、接着性等が低下する場合がある。一方、引火点が70℃以上であると、積層工程後においても溶剤が残存してしまい、溶剤揮発工程が必要となる等、生産性が低下する場合がある。
(A)溶剤の引火点は、優れた加工性と接着性とを両立させる観点から、30℃以上65℃以下が好ましく、35℃以上60℃以下がより好ましく、40℃以上55℃以下が更に好ましい。
なお、本明細書において、引火点は、JIS K2265:2007に記載の方法に準拠して測定した値である。
なお、重合体、混合物等である(A)成分については、上記括弧内に記載された引火点は、その代表値を意味する。
(A)溶剤は、1種を単独で又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態の金属加工油組成物がその他の溶剤を含有する場合、その他の溶剤の含有量は、金属加工油組成物全量基準で、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以下がより更に好ましい。また、(A)溶剤とその他の溶剤の合計含有量は、80質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上99質量%以下がより好ましく、93質量%以上98質量%以下が更に好ましく、96質量%以上97.5質量%以下がより更に好ましい。
また、本実施形態の金属加工油組成物は、優れた加工性と接着性とを両立させる観点からは、引火点が20℃未満の溶剤を含有しないことが好ましく、溶剤揮発工程を不要とする観点からは、引火点が70℃以上の溶剤を含有しないことが好ましい。
本実施形態の金属加工油組成物は、(B)下記一般式(1)で表される金属石鹸を含有する。
Mn+(RCOO-)n (1)
(式(1)中、Mは金属元素を示し、Rは水素原子又は炭素数16以下の炭化水素基を示し、nは1以上の整数を示す。nが2以上の整数の場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。)
(B)金属石鹸は、1種を単独で又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
(B)金属石鹸は、上記特定の構造を有することで、特に(A)溶剤への溶解性と接着剤の接着性とに優れたものとなる。すなわち、本実施形態の金属加工油組成物は、適度な揮発性を有する(A)溶剤と、該(A)溶剤への溶解性と接着剤の硬化促進効果に優れる(B)金属石鹸とを使用することで、(C)油性剤の持つ優れた加工性を維持しつつ、(B)金属石鹸の硬化促進作用を十分に発揮することができ、得られる金属板積層体の接着性を高めることができる。また、(B)金属石鹸は、(A)溶剤への溶解性に優れるものであるため、(A)溶剤以外の溶解助剤(例えば、引火点が20℃未満の溶剤等)を含有していなくてもよく、含有する場合においてもその量を低減することができる。これにより、十分な量の(B)金属石鹸を配合する場合においても、(C)油性剤の濃度を希釈させることを避けることできるため、優れた加工性が得られ、金型の寿命を高めることもできる。
上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。
また、上記脂肪族炭化水素基及びアリール基は、置換基を有するものであってもよく、置換基を有しないものであってもよい。置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、イミノ基、アミド基等が挙げられる。また、上記脂肪族炭化水素基は、置換基としてアリール基を有していてもよく、上記アリール基は置換基として、上記脂肪族炭化水素基を有していてもよい。これらの炭化水素基が置換基を有する場合、Rの炭素数には置換基の炭素数も含まれるものとする。
上記アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、ヘプテニル基、シクロヘプテニル基、オクテニル基、シクロオクテニル基、スチレニル基、ナフテニル基等の非環状及び環状アルケニル基等が挙げられる。
上記アルキニル基としては、2-プロピニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、4-ペンチニル基、5-ヘキシニル基、1-メチル-2-プロピニル基、1-メチル-2-ブチニル基、1,1-ジメチル-2-プロピニル基等が挙げられる。
上記アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル等が挙げられる。
(C)油性剤としては、カルボン酸エステル及びリン含有化合物からなる群から選択される1種以上が好ましい。
カルボン酸エステルは、一価カルボン酸の多価アルコールエステル及び多価カルボン酸の一価アルコールエステルからなる群から選択される1種以上が好ましい。
カルボン酸エステルは、1種を単独で又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
一価カルボン酸は、炭素数が9以上21以下であることが好ましい。炭素数が9以上であると、優れた加工性が得られる。また、炭素数が21以下であると、特に(A)溶剤への溶解性に優れ、組成物として安定したものとなる。加工性及び安定性の観点から、一価カルボン酸の炭素数は12以上がより好ましく、14以上が更に好ましく、一方、他成分との溶解性との観点から、20以下が好ましく、18以下がより好ましい。また、一価カルボン酸は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよく、飽和又は不飽和のいずれであってもよい。
一価カルボン酸の具体例としては、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、デカン酸、イソデカン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸等の一価の飽和カルボン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸等の一価の不飽和カルボン酸等の一価の脂肪族カルボン酸;エチルシクロヘキサンカルボン酸、プロピルシクロヘキサンカルボン酸、ブチルシクロヘキサンカルボン酸、フェニルシクロペンタンカルボン酸、フェニルシクロヘキサンカルボン酸等の一価の脂環式カルボン酸;ビフェニルカルボン酸、ベンゾイル安息香酸、ナフタレンカルボン酸、アントラセンカルボン酸等の一価の芳香族カルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、加工性及び他成分との溶解性の観点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、デカン酸等の一価の飽和カルボン酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の一価の不飽和カルボン酸が好ましく、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、デカン酸、オレイン酸がより好ましく、オレイン酸が更に好ましい。
多価アルコールとしては、加工性及び他成分との溶解性の観点から、エチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、プロパンジオール、ブチレングリコール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘプタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ウンデカンジオール、ドデカンジオール、トリデカンジオール、テトラデカンジオール、ペンタデカンジオール等の二価アルコール;トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール等の三価以上のアルコール等の多価脂肪族アルコール等が挙げられる。これらの中でも、加工性及び他成分との溶解性の観点から、三価以上の脂肪族アルコールが好ましく、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールがより好ましい。
また、多価アルコールとしては、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、サリチルアルコール、ジヒドロキシジフェニル等の二価の芳香族アルコール;シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の二価の脂環式アルコール;ピロガロール、メチルピロガロール、エチルピロガロール、各種プロピルピロガロール、各種ブチルピロガロール等の三価の芳香族アルコール;シクロヘキサントリオール、シクロヘキサントリメタノール等の三価の脂環式アルコール等も挙げられる。
これらの一価カルボン酸の多価アルコールエステルは、1種を単独で又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
多価カルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族多価カルボン酸;シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸等の脂環式多価カルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、ナフタレントリカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ピレンジカルボン酸等の芳香族多価カルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、加工性及び他成分との溶解性の観点から、芳香族カルボン酸が好ましく、トリメリット酸、ピロメリット酸がより好ましい。
一価アルコールとしては、加工性及び他成分との溶解性の観点から、ペラルゴンアルコール、カプリンアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール、ヘニコシルアルコール等の飽和一価脂肪族アルコール;パルミトレイルアルコール、エライジルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール等の不飽和一価脂肪族アルコール等が挙げられる。これらの中でも、加工性及び他成分との溶解性の観点から、不飽和一価脂肪族アルコールが好ましく、オレイルアルコールがより好ましい。
また、一価アルコールとしては、フェノール、各種クレゾール、各種キシレノール、各種プロピルフェノール、各種ブチルフェノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ナフトール、ジフェニルメタノール等の芳香族アルコール;シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、シクロヘキサンメタノール、シクロオクタノール等の脂環式アルコール等も挙げられる。
これらの多価カルボン酸の一価アルコールエステルは、1種を単独で又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
リン含有化合物としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。これらの中でも、加工性及び接着剤の接着性確保の観点から、リン酸エステルが好ましい。
リン含有化合物は、1種を単独で又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
リン酸エステルが有するアルキル基としては、炭素数1以上18以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上12以下のアルキル基がより好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基等が挙げられる。アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。
酸性リン酸エステルアミン塩は、酸性リン酸エステルとアミン類との塩である。酸性リン酸エステルとしては、上記酸性リン酸エステルとして例示したものを適用することができる。
本実施形態の金属加工油組成物は、上記各成分以外のその他の添加剤、例えば、防錆剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、金属不活性化剤、消泡剤等を含有していてもよい。これらのその他の添加剤は、1種を単独で又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態の金属加工油組成物は、上記(A)~(C)成分のみを含有するものであってもよいし、これらの成分と更にその他添加剤とを含有するものであってもよい。
その他の添加剤の各々の含有量は、発明の目的に反しない範囲であれば特に制限はないが、添加する効果を考慮すると、金属加工油組成物全量基準で、各々、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上8質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下が更に好ましい。
防錆剤としては、金属スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、有機亜リン酸エステル、有機リン酸エステル、有機スルホン酸金属塩、有機リン酸金属塩、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、ジフェニルアミン系酸化防止剤、ナフチルアミン系酸化防止剤等のアミン系酸化防止剤;モノフェノール系酸化防止剤、ジフェノール系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等のフェノール系酸化防止剤;三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるモリブデンアミン錯体等のモリブデン系酸化防止剤;フェノチアジン、ジオクタデシルサルファイド、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、2-メルカプトベンゾイミダゾール等の硫黄系酸化防止剤;トリフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
粘度指数向上剤としては、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
消泡剤としては、シリコーン油、フルオロシリコーン油、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
本実施形態の金属加工油組成物の40℃動粘度は、0.1mm2/s以上が好ましく、0.3mm2/s以上がより好ましく、0.5mm2/s以上が更に好ましく、0.8mm2/s以上がより更に好ましい。40℃動粘度が0.1mm2/s以上であると、引火点が高くなり取り扱いの安全性が向上し、また加工性も向上する。一方、金属加工油組成物の40℃動粘度は、15mm2/s以下が好ましく、5mm2/s以下がより好ましく、2mm2/s以下が更に好ましく、1.8mm2/s以下がより更に好ましい。40℃動粘度が15mm2/s以下であると、接着剤の接着性を確保することができる。
より好適な金属板積層体の製造方法の詳細は、後述する通りである。
本実施形態の金属板積層体の製造方法は、下記工程1~5を有するものである。
工程1:本実施形態に係る金属加工油組成物をフープ状金属の片面又は両面に塗布する工程
工程2:工程1を施したフープ状金属をプレス加工する工程
工程3:工程2を施したフープ状金属の片面に嫌気性接着剤を塗布する工程
工程4:工程3を施したフープ状金属の外形打ち抜き加工を行い、該外形を有する複数の金属板を得る工程
工程5:工程4で得た複数の金属板同士を積層接着する工程
以下、図面を参照しながら、本発明の金属板積層体の製造方法の一態様として、積層鉄心の製造方法について説明をする。
なお、本明細書中、「フープ状金属」とは、薄帯状の金属板を意味する。
工程1では、本実施形態の金属加工油組成物Oをフープ状の電磁鋼板W1の片面又は両面に塗布する。
図1に示すように、ロール装置2から供給された電磁鋼板W1は、加工油塗布装置3によって金属加工油組成物Oを塗布された後、順送り金型装置4に送られる。
金属加工油組成物Oを塗布する方法に制限はなく、浸漬法、シャワー法、静電塗装法等の一般的な手法を用いることができる。
金属加工油組成物Oを塗布する量は、電磁鋼板W1の加工条件等に応じて決定すればよいが、例えば、2.5g/m2以上25g/m2以下が好ましく、6.5g/m2以上15g/m2以下がより好ましく、7.5g/m2以上11.5g/m2以下が更に好ましい。
工程2では、工程1を施した電磁鋼板W1をプレス加工する。
電磁鋼板W1は、順送り金型装置4に搬送され、順次打ち抜き加工が施される(図示せず)。打ち抜き加工の打ち抜き形状は、目的に応じて適宜決定すればよい。
工程3では、工程2を施した電磁鋼板W1の片面に嫌気性接着剤E(以下、「接着剤E」ともいう)を塗布する。
プレス加工を施した電磁鋼板W1は、接着剤塗布装置5によって、その片面に接着剤Eを塗布される。この際、接着剤Eは、金属加工油組成物Oを塗布した面とは反対側の面にスポット状に塗布されることが好ましい。
嫌気性接着剤Eとしては、例えば、(a)アクリル酸エステルモノマー又はオリゴマー及び(b)有機過酸化物を含有する嫌気硬化性組成物が挙げられる。
(a)アクリル酸エステルモノマー又はオリゴマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸等のビニル基を分子の末端に有する化合物及びこれらの誘導体が挙げられ、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のモノエステル類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキルエステル類;エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多価エステル類;これらのオリゴマー等が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び/又は「メタクリル」を意味するものであり、「(メタ)アクリレート」との表記についても同様である。
(b)成分の配合量は、重合性モノマー及びオリゴマーの合計100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下が好ましい。
工程4では、工程3を施した電磁鋼板W1に対して外形打ち抜き加工を行い、該外形を有する複数の鉄心素片W2を得る。ここで形成された鉄心素片W2は、すでに形成されている別の鉄心素片W2の上に積層される。その後、外気と遮断されることで嫌気性接着剤Eの硬化が開始して、複数の鉄心素片W2同士が積層接着される(工程5)。
積層鉄心W3は、複数の鉄心素片W2同士が、接着剤Eを介して積層された構造を有する。
なお、積層鉄心及び積層鉄心製造装置の具体的構成等は、上記実施形態での例示に限られるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
なお、金属加工油組成物に配合した成分の引火点の測定方法は、下記の通りである。
引火点はJIS K2265:2007に記載の方法に準拠して測定した。
なお、ブテンオリゴマーの引火点は、ペンスキーマルテンス密閉法で測定し、アセトンの引火点は、タグ密閉法で測定された値である。
実施例1~2、比較例1~7
表1に示す配合組成(質量%)で金属加工油組成物を調製した。
なお、表1に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
・ブテンオリゴマー:40℃動粘度:1.25mm2/s、引火点:49℃
・アセトン:引火点:-18℃
・油性剤1:トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート90質量%以上、及びトリフェニルホスフェート10質量%以下の混合物、リン酸吸着除去品
・油性剤2:ソルビタンセスキオレエート
・油性剤3:(1,2,3-ベンゾトリアゾール、N=35.6%)7.1質量%、及び(トリクレジルホスフェート、P=8.30%)92.9質量%の混合物
・Zn-DTP:ジアルキルチオカルバミン酸亜鉛
なお、実施例1~2、比較例1~4、6~7における(B)金属石鹸及び(B’)比較成分の金属元素換算の配合量は、金属加工油組成物全量基準で、585質量ppmである。
上記で得られた金属加工油組成物について、以下の方法により各種試験を行い、その物性を評価した。評価結果を表1に示す。
なお、以下の評価において、電磁鋼板は、JIS C 2552(無方向性電磁鋼帯)で準拠される50A300に相当するもの(表面処理有)を用いた。
表1の配合組成において、硬化促進剤((B)成分及び(B’)成分)を除いた各成分を混合して得たものを評価用組成物とした。該評価用組成物に、表1に示す量の硬化促進剤を添加して、25℃で、30分間撹拌した後、溶け残りの有無を目視にて確認した。
(評価基準)
A:硬化促進剤の溶け残りが目視で確認されなかった。
B:硬化促進剤の溶け残りが目視で確認された。
接着剤の接着性は、下記方法によりせん断接着強度を測定して評価した。
幅30mm×長さ100mmの大きさに切り出した電磁鋼板を準備し、その一方の表面の端から30mmの領域(すなわち端から幅30mm×長さ30mmの領域)全面に金属加工油組成物8mgを塗布した。次に、該金属加工油組成物を塗布した領域の中央付近に、嫌気性接着剤(株式会社スリーボンド製、商品名:1373B)を50μL、マイクロシリンジを用いて滴下した。続いて、上記の大きさに切り出した別の電磁鋼板を準備し、その一方の表面の端から30mmの領域が、上記金属加工油組成物を塗布した領域と一致するように重ね、重なった領域(接着部)をクリップで挟んで固定し、25℃で5分間静置したものを引張試験サンプルとした。
引張試験は、引張試験機(インストロン社製、商品名:55RF1186型)を使用した。上記引張試験サンプルの接着部とは反対側の端部を、各々引っ張り治具に固定し、25℃、引っ張り速度50mm/minにて試験を行い、そのせん断接着強度を測定した。なお、試験は3回実施し、その平均値をせん断接着強度として、下記評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
A:せん断接着強度が1.0MPa以上であった。
B:せん断接着強度が1.0MPa未満であった。
打ち抜き加工性は、試験機(株式会社マテックス精工製、型式:CB-3)に、電磁鋼板を10mm×25mmの短冊状に打ち抜ける金型を取り付け、ストローク数214spm、ストローク長さ30mmで1万回連続で打ち抜いた。
1万回後の打ち抜き板の断面を目視及び光学顕微鏡にて観察し、下記項目(a)~(d)について確認した。
(a)打ち抜き板の断面のせん断面比率
(b)打ち抜き板の断面のばり高さ
(c)せん断面縦筋の数
(d)せん断面縦筋の深さ
次に、硬化促進剤を使用しなかった比較例5を基準として、下記評価基準に基づいて加工性を評価した。
(評価基準)
A:項目(a)~(d)が、比較例5と同等であった。
B:項目(a)~(d)のうち、1項目以上が比較例5より劣っていた。
〔註〕
表1の配合組成において、単位の記載がない数値は全て(質量%)であり、「-」は配合なしを表す。
表1の評価結果において、「-」は測定していないことを示す。
表1中、Rの炭素数は、上記一般式(1)中におけるRの炭素数を意味する。
W2 鉄心素片
W3 積層鉄心
O 金属加工油組成物
E 嫌気性接着剤
1 積層鉄心製造装置
2 ロール
3 加工油塗布装置
4 順送り金型装置
5 接着剤塗布装置
6 接着剤供給装置
7 抜け孔
Claims (6)
- (A)引火点が20℃以上70℃未満の溶剤と、
(B)下記一般式(1)で表されるカルボン酸の金属塩と、
Mn+(RCOO-)n (1)
(式(1)中、Mは金属元素を示し、Rは水素原子又は炭素数16以下の炭化水素基を示し、nは1以上の整数を示す。nが2以上の整数の場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。)
(C)油性剤と、を含有する金属加工油組成物であって、
前記(C)成分が、1価のカルボン酸の多価アルコールエステル及びトリアリールホスフェートからなる群から選択される1種以上であり、
前記一般式(1)におけるMが、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、鉄及びバナジウムからなる群から選択される1種以上の金属元素であり、
前記(B)成分が、2-エチルヘキサン酸銅(II)及びナフテン酸銅(II)からなる群から選択される1種以上であり、
前記(A)成分の溶剤が、ブテンオリゴマーであり、当該溶剤の含有量が、金属加工油組成物全量基準で、80質量%以上99質量%以下である、金属加工油組成物。 - 前記(B)成分の金属元素換算の含有量が、金属加工油組成物全量基準で、50質量ppm以上1,500質量ppm以下である、請求項1に記載の金属加工油組成物。
- 前記(C)成分の含有量が、金属加工油組成物全量基準で、0.15質量%以上15質量%以下である、請求項1又は2に記載の金属加工油組成物。
- 金属板積層体の製造方法に用いられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属加工油組成物。
- 前記金属板積層体の製造方法が、下記工程1~5を有する製造方法である、請求項4に記載の金属加工油組成物。
工程1:前記金属加工油組成物をフープ状金属の片面又は両面に塗布する工程
工程2:工程1を施したフープ状金属をプレス加工する工程
工程3:工程2を施したフープ状金属の片面に嫌気性接着剤を塗布する工程
工程4:工程3を施したフープ状金属の外形打ち抜き加工を行い、該外形を有する複数の金属板を得る工程
工程5:工程4で得た複数の金属板同士を積層接着する工程 - 下記工程1~5を有する、金属板積層体の製造方法。
工程1:請求項1~5のいずれか1項に記載の金属加工油組成物をフープ状金属の片面又は両面に塗布する工程
工程2:工程1を施したフープ状金属をプレス加工する工程
工程3:工程2を施したフープ状金属の片面に嫌気性接着剤を塗布する工程
工程4:工程3を施したフープ状金属の外形打ち抜き加工を行い、該外形を有する複数の金属板を得る工程
工程5:工程4で得た複数の金属板同士を積層接着する工程
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