以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(磁束分布の制御)
まず初めに、図19を参照しながら、シームレス鋼管等の金属管端部を誘導加熱を用いて熱処理する方法における課題について述べる。図19は、従来の金属管端部の誘導加熱方法における磁束分布を示す説明図である。
図19に示すように、移送ローラ3により搬送される被加熱金属管1の端部から所定長さの部分を略円筒状の誘導コイル5で覆い、この誘導コイル5に交流の一次電流を流して誘導加熱を行うと、被加熱金属管1の端部と誘導コイル5の金属管側端部(誘導コイル5の両端部のうち、被加熱金属管1を覆っている側の端部)との間の範囲における中央部分(誘導コイル5による被加熱金属管1の加熱範囲における金属管長手方向の中央部分)に磁束が集中する。このように被加熱金属管1の長手方向の磁束分布が不均一になると、被加熱金属管1の端部における長手方向の温度分布に偏りが生じる。その結果、被加熱金属管1の端部において、加熱が不十分になる部分が生ずる、という問題があった。
そこで、本発明者は、被加熱金属管1の端部の加熱範囲における磁束分布を均一化(磁束分布の偏りを改善)し、当該加熱範囲が均一に加熱されるよう温度制御をする方法を検討した。
まず、略円筒状の誘導コイル5の長さを変えるだけであると、上述したように、被加熱金属管1を覆う部分の中央付近に磁束が集中することに変わりはない。そのため、誘導コイル5の長さを変えても、誘導コイル5が被加熱金属管1を覆う部分の中央付近に磁束が集中することになる。しかし、逆に、略円筒状の誘導コイル5に覆われる被加熱金属管1の端部の長さを変化させれば、磁束が集中する位置が変わるはずである。
そこで、本発明者は、被加熱金属管1と同じ材質且つ同じ外径の断面を有する所定長さの他の金属管を、被加熱金属管1の端部に近づけることで、多少磁気抵抗は上がっても、被加熱金属管1の端部の長さを延長した効果が得られるものと考えた。具体的には、本発明者は、他の金属管を用いて被加熱金属管1の端部の長さを延長した効果を得ることにより、磁束が集中する位置を被加熱金属管1の端部に調整することができるはずであると考え鋭意検討を進めた。本発明者が、電磁場解析並びに実験により確認したところ、実際に、被加熱金属管1の端部の近傍に、金属管長手方向に並べて他の金属管を配置し、誘導コイル5による加熱範囲を広げることで磁束集中位置を変更でき、被加熱金属管1の端部側でも磁束を集中させることができることを確認した。
さらに、本発明者の検討によれば、被加熱金属管1の端部と他の金属管の端部との距離を調整することで、被加熱金属管1の端部における温度偏差を制御できることもわかった。
また、所定長さの金属管等の金属を誘導加熱装置により連続的に再加熱して引き延ばして径を変える工程や、熱処理する工程などでは、金属管等の金属の端部とそれ以外とで温度偏差が生じるという問題があり、全長に渡る温度の均一性が求められている。したがって、所定長さの金属管等の金属を誘導加熱により連続的に熱処理する場合にも、上記金属管端部の熱処理と同様の問題があることもわかった。以下、上記知見により完成した本発明の好適な実施の形態を述べる。
(第1実施形態)
まず、図1及び図2を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る金属の熱処理方法を説明する。図1は、本実施形態に係る金属の熱処理方法に用いる熱処理装置を模式的に示す側面図である。図2は、図1に示した金属の熱処理装置の変更例を模式的に示す側面図である。
本実施形態に係る金属の熱処理方法は、金属管の外周を周回する誘導コイルを用い、被加熱材としての金属管である被加熱金属管1の位置を固定して当該被加熱金属管1の端部を加熱する方法であって、以下に述べる金属の熱処理装置を用いるものである。以下の説明(本実施形態に加え、後述する第2及び第3実施形態も含む。)では、本実施形態に係る金属の熱処理方法における被加熱材である円管状又は円柱状の金属として、断面が略円形状の金属管を例示している。しかし、本実施形態に係る被加熱材としては、断面が略円形状であれば、中空の金属管に限られず、鋼棒等の中実の金属材であってもよい。また、以下の説明では、他の金属として他の金属管(ダミー金属管10又は他の被加熱金属管2)を例示している。しかし、本実施形態に係る他の金属としては、被加熱材と同様、断面が略円形状であれば、中空の金属でも中実の金属でもよい。
本実施形態に係る金属の熱処理装置(以下、より具体的に「金属管端部の熱処理装置」と記載する。)は、図1に示すように、誘導コイルを用いて被加熱金属管1の端部を加熱する装置であり、第1誘導コイル21と、第1誘導コイル21に接続される第1誘導電流制御装置121とを主に備える。被加熱金属管1は、移送ローラ3により所定位置に搬送する。
また、本実施形態に係る熱処理方法では、被加熱金属管1の中心軸(管軸)方向Cにおける当該被加熱金属管1の端部から所定距離d離隔した位置に、被加熱金属管1とは異なる他の金属管(例えば、後述するダミー金属管10、又は他の被加熱金属管2)が配置される。被加熱金属管1と他の金属管との端部間の距離dは、特に制限されるものではないが、被加熱金属管1の端部に磁束を集中させたり、被加熱金属管1の加熱範囲の温度偏差を小さくするという観点、あるいは加熱効率の観点からは、50mm以下とすることが好ましく、30mm以下とすることがより好ましい。
他の金属管としては、被加熱金属管1と同じ材質且つ同じ外径を有するものが望ましく、さらに、被加熱金属管1と同じ肉厚を有していることが望ましい。ただし、必ずしも同じ材質且つ同じ外径及び肉厚である必要は無く、磁束分布に大きく影響しなければ形状変化、材質変化は特に制限はされない。ここで、同じ材質とは、比透磁率、比抵抗、比熱等が同じである材質のことを意味する。
また、金属管の周方向の磁束分布の均一性を良好に保つためには、各々の金属管(すなわち、被加熱金属管1と他の金属管)の外径の中心をほぼ同じとし、互いの金属管の外径が第1誘導コイル21(さらには、後述する第2誘導コイル22)の内径に対し被加熱金属管1と他の金属管)の外径との隙間が等しい距離を保つことが望ましい。したがって、本実施形態に係る金属の熱処理方法においては、被加熱金属管1の中心軸(管軸)と他の金属管の中心軸(管軸)と、第1誘導コイル21の中心軸と、第2誘導コイル22の中心軸とが、同一直線状に位置することが好ましい。
他の金属管として、例えば、被加熱金属管1と同じ材質であり、且つ、同じ外径rを有する円筒状の金属管10を用いることができる。また、他の金属管の外径rは、被加熱金属管1の外径r1と異なる外径を有する場合、他の金属管の外径rが、被加熱金属管1の外径r1の0.8~1.2倍(r=0.8r1~1.2r1)程度のr1と近い外径であることが好適である。この金属管10は、所定長さを有し、本実施形態に係る熱処理の対象とはならないもの(以下、このような金属管を「ダミー金属管10」と称する)である。ダミー金属管10の内径は、特に制限されるものではないが、ダミー金属管10の管の厚みが、下記式(1)で表される浸透深さδよりも厚くなるようにすれば磁束飽和しにくくなるため、磁束分布が制御しやすい。
(δ:浸透深さ、k:比例定数、ρ:ダミー金属管10の比抵抗、μr:ダミー金属管10の比透磁率、f:周波数)
また、他の金属管としては、図2に示すように、本実施形態に係る熱処理の対象となる他の被加熱金属管2を用いてもよい。被加熱金属管2は、被加熱金属管1と同様に、移送ローラ3により搬送される。このように、他の金属管として、被加熱金属管2を用いる場合には、同時に2本の被加熱金属管1、2の端部を同時に加熱することができるため、生産効率を向上させることができる。また、2本の被加熱金属管1、2間の間隔dを一定に保つためには、例えば、絶縁性を有するスペーサ(図示せず)を2本の被加熱金属管1、2の間に挿入あるいは一定間隔を開けて搬送すればよい。
第1誘導コイル21は、少なくとも被加熱金属管1の外周を周回するコイルであり、本実施形態では、図1及び図2に示すように、被加熱金属管1の最先端部から所定長さの外周部分及び他の金属管(例えば、ダミー金属管10又は被加熱金属管2)の最先端部から所定長さの外周部分を覆うように配設される。このように、第1誘導コイル21が、被加熱金属管1の端部のみならず、他の金属管の端部も覆うように配設されることにより、両金属は磁気結合され、被加熱金属管1の端部と他の金属管の端部とを併せて誘導加熱することができる。その結果、被加熱金属管1の長さを延長した効果が得られ、もともとの端部が管の途中にあるような状態になる。これにより、他の金属管がない場合よりも、磁束が集中する位置を被加熱金属管1の端部側に移動させることができる。
また、第1誘導電流制御装置121は、第1誘導コイル21により被加熱金属管1の外表面に発生する誘導電流を制御するものであり、具体的には、被加熱金属管1の端部の加熱温度を測定し、測定結果に応じて、適切な加熱温度となるように、第1誘導コイル21に流す一次電流の電流量を調整する。
また、本実施形態に係る金属管端部の熱処理方法では、他の金属管を、被加熱金属管1の管軸方向Cに移動可能に配置した状態で、被加熱金属管1の端部から所定長さの部分の加熱温度分布を計測し、当該計測結果に基づき、他の金属管の端部と被加熱金属管1の端部との距離、及び/又は、被加熱金属管1の加熱時間を制御するようにしてもよい。これは、被加熱金属管1の端部の温度が上がりすぎるのを防ぐためである。このような熱処理方法を実現するために、本実施形態に係る金属管端部の熱処理装置は、他の金属管の移動機構と、加熱温度分布を計測する温度計測装置105と、他の金属管の位置を制御する金属管位置制御装置107、及び/又は、被加熱金属管1の加熱時間を制御する加熱時間制御装置109とを備えていてもよい。
移動機構としては、例えば、他の金属管がダミー金属管10の場合には、図1に示すような移送ローラ4、他の金属管が被加熱金属管2の場合には、図2に示すような移送ローラ3を用いればよい。これら移動機構は、他の金属管を被加熱金属管1の管軸方向Cに移動させる。
温度計測装置105は、被加熱金属管1の端部から所定長さの部分の加熱温度分布を計測する装置である。温度計測装置105としては、被加熱金属管1と非接触で温度を計測できるものでも、あるいは必要に応じて熱電対を直接接触させるようなものでも特に制限はされないが、例えば、光ファイバー式の放射温度計等を用いることができる。温度計測装置105による測定箇所も特に限定されるものではないが、例えば、被加熱金属管1の第1誘導コイル21による加熱範囲の両端(すなわち、被加熱金属管1の端部の外表面と、被加熱金属管1の外表面のうち第1誘導コイル21の端部に対応する位置)及び加熱範囲の中央部の3点を計測すればよい。これらの放射温度計として、誘導コイルの巻線間に光ファイバー式の放射温度計を一定間隔で設置しても良い。温度計測装置105の計測結果に基づき、第1誘導電流制御装置121の電流量及び加熱時間制御装置109の時間制御を行う。
金属管位置制御装置107は、金属管最先端部の誘導コイル内の絶対位置を制御するもので、他の金属管(ダミー金属管10または被加熱金属管2)の最先端部と被加熱金属管1の最先端部との距離を調整するように他の金属管の位置又は両金属管の位置を制御する装置である。加熱時間制御装置109は、被加熱金属管1の加熱時間を制御する装置であり、金属管位置制御装置107に位置制御指示信号も送る。金属管位置制御装置107及び加熱時間制御装置109は、あらかじめ決めた昇温プログラムに基づいて、第1誘導電流制御装置121の通電時間を制御する。すなわち、金属管位置制御装置107及び加熱時間制御装置109は、通電電流量に応じて加熱時間を制御する場合、あるいは、電流一定で金属管位置の制御を時間毎に行う場合、あるいは、電流と金属管位置とを制御するために使用する。温度計測装置105は、これらの制御が正しく行われ測定位置の金属管の温度が所定の温度になっているかを確認する。温度計測の結果、所定の温度から外れた場合には、加熱電流、加熱時間の調整を行う。誘導加熱の場合、金属種およびサイズが決まれば、加熱電流、加熱位置を時間制御するだけでも比較的安定した温度分布となることが多いことから、加熱時間制御装置109があれば必ずしも温度計測装置105は金属管端部の加熱に必要ではない。
以上述べたように、他の金属管(ダミー金属管10または被加熱金属管2)を用いない場合には、被加熱金属管1の端部と第1誘導コイル21の金属管側端部との間の範囲(加熱範囲)の中央部付近に磁束が集中するが、ダミー金属管10や被加熱金属管2等の他の金属管を被加熱金属管1の端部近傍に配置し、他の金属管の位置を調整することにより、磁束集中する位置及び温度を制御することができる。具体的には、他の金属管を設置した場合には、磁束が集中するピーク位置を被加熱金属管1の最先端部側へ移動させることができる。また、被加熱金属管1と他の金属管との距離dを適切に調整することにより、被加熱金属管1の加熱範囲における磁束分布をより均一にすることができ、これにより、加熱範囲における温度偏差を小さくすることができる。なお、磁束密度は、第1誘導コイル21が覆っている範囲の多い方が高くなる。例えば、第1誘導コイル21が覆っている範囲が、ダミー金属管10よりも被加熱金属管1の方を多くなるようにすることで、被加熱金属管1の最先端部側の磁束密度が高くなるため、被加熱金属管1の加熱効率を高めることができる。
(第2実施形態)
次に、図3及び図4を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る金属の熱処理方法を説明する。図3は、本実施形態に係る金属の熱処理方法に用いる熱処理装置を模式的に示す側面図である。図4は、図3に示した金属の熱処理装置をIV-IV線で切断した断面図である。
本実施形態に係る金属の熱処理方法は、上述した第1実施形態と同様に、金属管の外周を周回する誘導コイルを用い、被加熱金属管1の位置を固定して当該被加熱金属管1の端部を加熱する方法であって、以下に述べる金属の熱処理装置を用いるものである。本実施形態に係る金属の熱処理装置(以下、より具体的に「金属管端部の熱処理装置」と記載する。)は、図3に示すように、誘導コイルを用いて被加熱金属管1の端部を加熱する装置であり、第1実施形態と同様に、第1誘導コイル21と、第1誘導電流制御装置121とを備えるとともに、磁性体コア30をさらに備えている。
磁性体コア30は、第1誘導コイル21の少なくとも一部の所定領域の外側に配置される。ここでいう「所定領域」とは、図3に破線で示した磁束分布のように、他の領域と比較して磁束密度が低い領域であって、磁束密度を高めたい領域のことをいう。このような領域に磁性体コア30を配置することにより、透磁率が高い磁性体コア30に磁束が集中するため、磁束密度が低い領域の磁束密度を図3の太矢印に示すように高めることができる。その結果、図3に実線で示した磁束分布のように、被加熱金属管1の加熱範囲における磁束分布をより均一にするように制御することができ、加熱範囲における温度偏差をさらに小さくすることができる。
磁性体コア30の材質としては、積層電磁鋼板やフェライトなどの導電率の低い強磁性体を用いることができる。
また、磁性体コア30は、図4に示すように、被加熱金属管1の管外周方向に全周(1周分)を覆うように配置される。覆う面積は、隙間無く完全に覆うのが望ましいが、図4に示すように磁性体コア30の間隔を適宜空けて設置しても良い。さらに、磁性体コア30は、被加熱金属管1の管軸方向(金属管長手方向)Cの全体に設けるようにしてもよいが、上述したように、磁束密度の低い、少なくとも一部の領域に磁性体コア30を設けることにより、加熱範囲の金属管長手方向Cにおける磁束の偏りがなるべく小さくなるようにすることが好ましい。
磁性体コア30の形状としては、環状のコアを作製することは比較的困難であることから、例えば、図3及び図4に示すように、略短冊状の磁性体コア30を被加熱金属管1の外周に沿って並べるように配置すればよい。
なお、他の構成については、上述した第1実施形態に係る金属の熱処理方法及び熱処理装置と同様であるので、詳細な説明を省略する。
(第3実施形態)
次に、図5及び図6を参照しながら、本発明の第3実施形態に係る金属の熱処理方法を説明する。図5は、本実施形態に係る金属の熱処理方法に用いる熱処理装置を模式的に示す側面図である。図6は、第1実施形態に係る熱処理方法及び第3実施形態に係る熱処理方法における温度履歴を示すグラフである。
本実施形態に係る金属の熱処理方法は、上述した第1及び第2実施形態と同様に、金属管の外周を周回する誘導コイルを用い、被加熱材としての被加熱金属管1の位置を固定して当該被加熱金属管1の端部を加熱する方法であって、以下に述べる金属の熱処理装置を用いるものである。本実施形態に係る金属の熱処理装置(以下、より具体的に「金属管端部の熱処理装置」と記載する。)は、図5に示すように、誘導コイルを用いて被加熱金属管1の端部を加熱する装置であり、第1実施形態と同様に、第1誘導コイル21と、第1誘導電流制御装置121とを備えるとともに、第2誘導コイル22と、第2誘導電流制御装置122と、加熱制御装置111と、をさらに備えている。
第2誘導コイル22は、第1誘導コイル21と同じ管軸方向Cの位置に配設され、被加熱金属管1の内面を加熱する。上述した第1実施形態のように、被加熱金属管1の端部の加熱を管外周側に配設された第1誘導コイル21のみで加熱する場合、被加熱金属管1の外表面にしか誘導電流が発生せず、誘導電流により発生した熱は、外表面を加熱しながら、被加熱金属管1の外面側から熱伝導により内面側に伝わる。そのため、被加熱金属管1の外面側と内面側とを均熱化するのに時間がかかり、図6(a)に示すように、外面と内面とで温度偏差が生じる。より詳細には、誘導電流により発生した熱は、外表面を加熱しながら、被加熱金属管1の外面側から熱伝導により内面側に伝わることから、図6(a)では、被加熱金属管1の外面温度が最も高く(最も早く温度が上がり)、次いで、被加熱金属管1の板厚中心の温度が高く、さらに、被加熱金属管1の内面温度が最も低い(最も遅く温度が上がる)ことが示されている。
そこで、本実施形態に係る金属の熱処理方法及び熱処理装置では、第2誘導コイル22を被加熱金属管1の内面に沿って周回するように配設し、被加熱金属管1の外面側及び内面側から当該被加熱金属管1の端部を加熱するようにしている。
第2誘導電流制御装置122は、第2誘導コイル22により被加熱金属管1の内表面に発生する誘導電流を制御するものであり、具体的には、被加熱金属管1の端部の加熱温度を測定し、測定結果に応じて、適切な加熱温度となるように、第2誘導コイル22に流す一次電流の電流量を調整する。
加熱制御装置111は、第1誘導コイル21と第2誘導コイル22との相対位置に応じて第1誘導コイル21及び第2誘導コイル22に印加する電力を調整することにより、被加熱金属管1の端部の加熱を制御する。具体的には、加熱制御装置111は、第1誘導コイル21及び第2誘導コイル22に印加する電力を調整するよう、第1誘導電流制御装置121及び第2誘導電流制御装置122の動作を制御する。このように、本実施形態に係る金属の熱処理方法では、被加熱金属管1の外面と内面を均熱化するために、被加熱金属管1の外面側を周回する第1誘導コイル21及び内面側を周回する第2誘導コイル22の加熱位置、並びに各誘導コイル21、22への出力を調整しながら加熱を行う。上記説明では、加熱制御装置111は1台で被加熱金属管1の内外周の電力制御を行う例を示したが、内周および外周それぞれに個別の加熱制御装置を設けても構わない。
以上のように、第1誘導コイル21及び第2誘導コイル22を用いて被加熱金属管1の外面側及び内面側から当該被加熱金属管1の端部を加熱し、さらに、第1誘導コイル21及び第2誘導コイル22の加熱位置、並びに各誘導コイル21、22への出力を調整しながら加熱を行うことにより、図6(b)に示すように、被加熱金属管1の管厚方向の温度偏差を小さくする(理想的には、ほぼゼロ)ことができる。
なお、他の構成については、上述した第1及び第2実施形態に係る金属の熱処理方法及び熱処理装置と同様であるので、詳細な説明を省略する。
(第4実施形態)
次に、図7~図9を参照しながら、本発明の第4実施形態に係る金属の熱処理方法を説明する。図7及び図8は、本発明の第4実施形態に係る金属の熱処理方法に用いる熱処理装置を模式的に示す側面図であり、図7では、連続的に搬送される被加熱金属管1の長手方向中央部を加熱する様子を示し、図8では、連続的に搬送される被加熱金属管1端部を加熱する様子を示している。図9は、図8に示した金属の熱処理装置を用いた熱処理方法の変更例を模式的に示す側面図である。
上述した第1~第3実施形態では、被加熱金属管1の端部のみを加熱していたが、被加熱金属管1の全体を熱処理装置(誘導加熱装置)により連続的に加熱する場合も金属管長手方向において温度偏差が生じるという問題がある。本実施形態に係る金属の熱処理方法は、上述した第1~第3実施形態とは異なり、金属管の外周を周回する誘導コイルを用い、被加熱材としての複数の被加熱金属管1を連続的に搬送しながら当該被加熱金属管1の全体を加熱する方法であって、以下に述べる金属の熱処理装置を用いるものである。本実施形態に係る金属の熱処理方法における被加熱材である円管状又は円柱状の金属として、断面が略円形状の金属管を例示している。なお、本実施形態に係る被加熱材としては、断面が略円形状の金属管であれば特に制限されず、銅管、チタン管、アルミ管等の金属の管が挙げられる。
本実施形態では、被加熱金属管1が誘導コイル(第1誘導コイル21)の内部を通過する際に、当該通過部分を誘導加熱する。本実施形態に係る金属の熱処理装置(以下、より具体的に「金属管端部の熱処理装置」と記載する。)は、図7及び図8に示すように、誘導コイルを用いて被加熱金属管1の端部を加熱する装置であり、第1実施形態と同様に、第1誘導コイル21と、第1誘導電流制御装置121とを備える。
図7には、被加熱金属管1の端部以外を加熱する時の磁束分布を示しているが、被加熱金属管1の先端と尾端の端部については、金属管長手方向の中央部付近の温度と比べ温度が低下する。そこで、所定長さの被加熱金属管1を連続して熱処理する場合、隣り合う被加熱金属管1の端部同士を近接して搬送しながら加熱する。すると、磁束は隣り合う被加熱金属管1間を貫通し、図8に示すように、被加熱金属管1の端部も金属管長手方向の中央部と同じ磁束分布となり(したがって、同じ熱処理分布となり)、被加熱金属管1の全長が均一に加熱される。
上述のように、被加熱金属管1の端部の温度低下を避けるためには、隣り合う被加熱金属管1同士を離さずに、その端部間の距離をできるだけ近づけて誘導加熱することが好ましい。この場合、熱処理する被加熱金属管1の端部同士を接触させて処理してもよいが、端部同士が不安定接触する場合、誘導電流によりスパークする(その結果、熱処理後の被加熱金属管1の欠陥となる)場合もある。
したがって、被加熱金属管1の端部に、アルミナ、シリカなどを主成分とする絶縁性のセラミックス塗料を塗布し、乾燥させることで、被加熱金属管1の端部に絶縁層を形成する方法、絶縁性のアルミナやシリカなどのセラミックスのシートやブラケット焼結体を隣り合う被加熱金属管1の端部間に挟む方法などを取ることが好ましい。例えば、図9に示すように、隣り合う被加熱金属管1の端部間に絶縁部材40(絶縁層、絶縁性のシートやブラケット焼結体等)を配置した状態で、複数の被加熱金属管1を連続的に搬送してもよい。
また、絶縁部材40を配置せずに、隣り合う被加熱金属管1の端部間を搬送制御により物理的なギャップを開けて搬送する方法をとってもよい。このギャップは、金属管長手方向の許容温度偏差にもよるが、例えば、50mm以下とするのが好ましく、30mm以下とするのがより好ましく、20mm以下とするのがさらに好ましい。
なお、本実施形態に係る熱処理方法及び熱処理装置において、上述した第2実施形態及び第3実施形態における構成(例えば、磁性体コア30、第2誘導コイル22、第2誘導電流制御装置122等)を採用しても差し支えない。
(第5実施形態)
次に、図10及び図11を参照しながら、本発明の第5実施形態に係る金属の熱処理方法を説明する。図10は、本実施形態に係る金属の熱処理方法における被加熱鋼管の形状を模式的に示す断面図である。図11は、本実施形態に係る金属の熱処理方法における温度偏差を模式的に示す断面図である。
上述した第1~第4実施形態に係る金属熱処理方法においては、被加熱材としての被加熱金属管1としては、その長手方向において径がほぼ一定の金属管を用いていた。しかし、本発明者らの検討によれば、金属管のねじ切りが行われる場合には、ねじ切りの処理のサイクルに合わせた加熱が必要となる、という新たな課題があることがわかった。
金属管のねじ切りがされる場合、図10に示すように、継手部分の金属管の一方の端部がテーパ状に拡径され、他方の端部がテーパ状に縮径される。以後、端部が拡径された金属管を拡管11、端部が縮径された金属管を縮管12と記載する。
図11に示すように、ダミー金属管10を用いて誘導コイル21により拡管11の端部を誘導加熱した場合、拡管11の最先端部に行くほど、拡管11の外周面と誘導コイル21との距離(ギャップ)Geが小さくなる。ギャップGeが小さいと、誘導加熱の際に拡管11の表面に磁束が入りやすくなるため、管表面の温度が上昇しやすくなる。一方、ギャップGeが大きいと、誘導加熱の際に拡管11の表面に磁束が入りにくくなるため、管表面の温度が上昇しにくくなる。その結果、図11に示す加熱温度分布のようになる。このように、拡管11を第1誘導コイル21により加熱すると、誘導コイル21とのギャップGeが小さい部分が高温になりやすく、温度偏差が生じる。
そこで、本実施形態に係る金属の熱処理方法は、上述した第1実施形態等と同様に、金属管の外周を周回する第1誘導コイル21を用い、被加熱金属管としての拡管11を誘導加熱する際に、拡管11の位置を固定して当該拡管11の端部を加熱する方法であって、第1実施形態と同様の金属の熱処理装置を用いるものである。本実施形態に係る金属の熱処理方法における被加熱材である円管状又は円柱状の金属として、断面が略円形状の金属管を例示している。なお、本実施形態に係る被加熱材としては、断面が略円形状の金属管であれば材質は特に制限されず、銅管、チタン管、アルミ管等の金属の管が挙げられる。
ただし、本実施形態では、他の金属の一例としてのダミー金属管10の端部の外径を、被加熱材の一例としての拡管11の端部(加熱範囲)の外径よりも小さくしている。
このように、ダミー金属管10の端部の外径を拡管11の端部の外径よりも小さくすることにより、ダミー金属管10の端部における管表面と第1誘導コイル21との距離(ギャップ)Gdは、拡管11の端部の加熱範囲における管表面と第1誘導コイル21とのギャップGeよりも大きくなるため、拡管11の端部の加熱範囲に磁束が入りやすくなり、拡管11の加熱範囲における温度が上昇しやすくなる。そのため、拡管11の最先端部に近い程温度が上昇しやすくなるものの、拡管11の端部の加熱範囲全体としての温度偏差は抑制できる。
なお、縮管12の場合にも、拡管11と同様に、他の金属の一例としてのダミー金属管10の端部の外径を、被加熱材の一例としての縮管12の端部(加熱範囲)の外径よりも小さくすることにより、縮管12の端部の加熱範囲全体としての温度偏差を抑制できる。他の構成については、上述した第1実施形態に係る金属の熱処理方法及び熱処理装置と同様であるので、詳細な説明を省略する。
(第6実施形態)
次に、図10、図12及び図13を参照しながら、本発明の第6実施形態に係る金属の熱処理方法を説明する。図12は、本実施形態に係る金属の熱処理方法における温度偏差を模式的に示す断面図である。図13は、本実施形態に係る金属の熱処理方法における第1誘導コイルの形状を模式的に示す断面図である。
第5実施形態で述べたように、金属管のねじ切りが行われる場合には、ねじ切りの処理のサイクルに合わせた加熱が必要となる、という新たな課題がある。なお、縮管12は、当該縮管12の長手方向で外径が一定である直管部13と、端部に向かうに従い外径が縮小する縮径部14とを有する。
上記新たな課題のうち、図12に示すように、ダミー金属管10を用いて誘導コイル21により縮管12の端部を誘導加熱した場合、縮径部14においては、縮径した縮管12の最先端部に行くほど、縮管12の端部の外周面と誘導コイル21との距離(ギャップ)Gcが大きくなる。ギャップGcが大きいと、誘導加熱の際に縮管12の表面に磁束が入りにくくなるため、管表面の温度が上昇しにくくなる。一方、縮管12の直管部13においては、直管部13の外周面と誘導コイル21とのギャップGsは、ギャップGcよりも小さい。このように、ギャップGsが小さいことから、誘導加熱の際に直管部13の表面に磁束が入りやすくなるため、管表面の温度が上昇しやすくなる。その結果、図12に示す加熱温度分布のようになる。このように、縮管12を第1誘導コイル21により加熱すると、誘導コイル21とのギャップGcが小さな縮径部14(特に、最先端部)が低温になりやすく、温度偏差が生じる。
そこで、本実施形態に係る金属の熱処理方法は、上述した第1実施形態と同様に、金属管の外周を周回する第1誘導コイルを用い、被加熱金属管としての縮管12を誘導加熱する際に、縮管12の位置を固定して当該縮管12の端部を加熱する方法である。本実施形態に係る金属の熱処理方法における被加熱材である円管状又は円柱状の金属として、断面が略円形状の金属管を例示している。なお、本実施形態に係る被加熱材としては、断面が略円形状の金属管であれば材質は特に制限されず、銅管、チタン管、アルミ管等の金属の管が挙げられる。
ただし、本実施形態では、第1誘導コイルとして、第1実施形態等で用いている第1誘導コイル21の代わりに、第1誘導コイルの形状を縮管12の端部の径に合わせて変えることにより、第1誘導コイルと縮管12の外周面とのギャップGcが縮管12の長手方向で均一になるようにしている。具体的には、本実施形態に係る第1誘導コイルは、長手方向で直径が一定である直コイル部23と、端部に向かうに従い直径が縮小するテーパ部24とを有する。そして、直コイル部23は、直管部13の周囲を覆い、テーパ部24は、縮径部14の周囲を覆っている。
このように、第1誘導コイルを縮管12の端部の径に合わせた形状とすることで、縮管12の直管部13の外周面と直コイル部23とのギャップGsと、縮管12の縮径部14の外周面とテーパ部24とのギャップGcと、ダミー金属管10の外周面とその外周を周回する第1誘導コイル21とのギャップGdのすべてが同一となる。その結果、縮管12の長手方向における磁束の入り方(磁束分布)が均一となるため、縮管12の端部の加熱範囲における温度偏差を抑制できる(温度分布を均一にできる)。
なお、縮管12の誘導加熱は、加熱時に縮管12の端部をダミー金属管10の端部から所定距離離隔した加熱位置まで移動させ、加熱後に加熱位置から縮管12を離間させるバッチ処理で行ってもよく、縮管12をダミー金属管10または他の被加熱金属管2とともに第1誘導コイル内を一方向に移動させる連続処理で行ってもよい。バッチ処理で行うことにより、ダミー金属管10を移動させずに所定位置に載置したままとすることができる。一方、連続処理で行う場合には、縮管12の直管部13が、第1誘導コイルのテーパ部24のコイル径が最小の部分を通過するときに、直管部13とテーパ部24のコイルとが接触しないように、テーパ部24の形状(特に、コイル径)を選択する必要がある。
(第7実施形態)
次に、図14、図15及び図16を参照しながら、本発明の第7実施形態に係る金属の熱処理方法を説明する。図14は、本実施形態に係る金属の熱処理方法における被加熱金属管と第1誘導コイルとのギャップを示す模式図である。図15及び図16は、本実施形態に係る金属の処理方法に用いる熱処理装置を模式的に示す側面図である。
上述した第1~第6実施形態では、被加熱材となる被加熱金属管1、2、拡管11及び縮管12(以下、被加熱金属管1、2、拡管11及び縮管12をまとめて「被加熱金属管1等」と略記する場合がある。)と、第1誘導コイル21、23、24とのギャップは、被加熱金属管1等の周方向で均一であることを前提として述べてきた。しかし、被加熱金属管1等を造管する際には、周方向で寸法差が生じてしまい、この寸法差は避けがたいものである。また、被加熱金属管1等の第1誘導コイル21、23、24内での位置決め精度を正確にすることも困難である。そのため、図14に示すように、例えば、加工精度が悪く、被加熱金属管1等の断面が縦長の楕円形状である場合、被加熱金属管1等の外周面と第1誘導コイル21、23、24との左右方向のギャップG1が、上下方向のギャップG2よりも大きくなるなど、被加熱金属管1等の周方向でギャップが不均一となる。このように、被加熱金属管1等の周方向におけるギャップが大きなギャップG1の部分では、被加熱金属管1等の温度が低くなり、被加熱金属管1等の周方向におけるギャップが小さなギャップG2の部分では、被加熱金属管1等の温度が高くなる。
ここで、本発明者が被加熱金属管1等と誘導コイル21、23、24との周方向のギャップと加熱温度偏差との関係を計算したところ、被加熱金属管1等の外周面と第1誘導コイル21、23、24との周方向のギャップがmm単位で変動するだけで、加熱温度偏差に影響することが判明した。また、上記のように、被加熱金属管1等を造管する際の寸法差の発生は避けがたく、第1誘導コイル21、23、24内での被加熱金属管1等の位置決め精度を正確にすることも困難である。
そこで、本実施形態に係る金属の熱処理方法では、被加熱金属管1等を誘導コイル21、23、24内において回転させることにより、被加熱金属管1等と誘導コイル21、23、24との周方向のギャップを平均化し、これにより、被加熱金属管1等の周方向における加熱温度偏差を最小化(周方向の加熱を均一化)している。具体的には、被加熱金属としての被加熱金属管1等の中心軸と、他の金属としてのダミー金属管10又は他の被加熱金属管2等の中心軸と、第1誘導コイル21、23、24の中心軸とを、同一直線状に位置するように制御し、この状態で、被加熱金属管1等およびダミー金属管10又は他の被加熱金属管2等を、被加熱金属管1等の中心軸を回転軸として回転させながら、被加熱金属管1等を誘導加熱する。
なお、特公昭58-56008(特許文献4)には、熱処理される鋼管と誘導加熱装置の中心軸を合わせて、加熱時に、鋼管を長手方向に移動させながら回転させることで、鋼管の円周方向の加熱むら及び冷却むらを防止する技術が開示されている。しかし、本実施形態では、被加熱金属管1等の加熱の際、被加熱金属管1等の長手方向の位置を固定したまま、被加熱金属管1等を周方向に回転させている。したがって、鋼管を長手方向に移動させながら回転させる特許文献4の技術とは根本的に異なる。
上記本実施形態に係る金属の熱処理方法を実施するための金属の熱処理装置(以下、より具体的に「金属管端部の熱処理装置」と記載する。)は、図15及び図16に示すように、誘導コイルを用いて被加熱金属管1の端部を加熱する装置であり、移送ローラ3と、第1誘導コイル21、23、24(以下、「第1誘導コイル21等」と記載する。)と、スタンド6と、昇降機構7と、回転ローラ8と、スライド機構9とを備える。移送ローラ3及び第1誘導コイル21等の構成は、上述した通りである。なお、本実施形態においては、必ずしもスライド機構9を備えていなくてもよい。
スタンド6は、昇降機構7により鉛直方向に昇降可能であり、その頂部に回転ローラ8を有し、かつ、その底部にスライド機構9を有する、被加熱金属管1等の支持部材である。
昇降機構7は、被加熱金属管1、拡管11又は縮管12等の被加熱金属と、ダミー金属管10又は他の被加熱金属管2等の他の金属を、第1誘導コイル21等内で昇降させる。昇降機構7は、スタンド6を昇降させることが可能な構造であれば特に制限されず、油圧式でも、空気圧式でも、電動式でもよい。この昇降機構7は、スタンド6を昇降させることで、スタンド6により下方から支持された被加熱金属管1等の被加熱金属及びダミー金属管10等の他の金属の中心軸を、第1誘導コイル21等の中心軸と合わせる。特に、例えば、バッチ処理毎に被加熱金属管1の径が異なる場合もあり、このような場合には、別のバッチ処理を開始する際に昇降機構7により被加熱金属管1を昇降させて、中心軸の位置合わせが必要となる。
回転ローラ8は、本実施形態に係る回転機構の一例であり、被加熱金属管1等の被加熱金属の中心軸と、ダミー金属管10等の他の金属の中心軸と、第1誘導コイル21等の中心軸とが略同一直線状に位置した状態で、被加熱金属及び他の金属の外周面に当接して、被加熱金属および他の金属を被加熱金属の中心軸を回転軸として周方向に回転させる。このように、被加熱金属管1等の被加熱金属と、ダミー金属管10等の他の金属とを周方向に回転させることにより、被加熱金属管1等と誘導コイル21等との周方向のギャップを平均化し、これにより、被加熱金属管1等の周方向における加熱温度偏差を最小化できる。
スライド機構9は、スタンド6を被加熱金属管1の長手方向に移動させることで、スタンド6に支持されている被加熱金属管1等の被加熱金属管1等の被加熱金属と、ダミー金属管10等の他の金属とを上記長手方向に移動させる。
続いて、上述した金属管端部の熱処理装置の動作について説明する。
まず、図15に示すように、被加熱金属管1等の被加熱金属を第1誘導コイル21の長手方向に移動させる。次いで、上述した金属管位置制御装置107が、被加熱金属管1の最先端部と他の金属管(ダミー金属管10または被加熱金属管2)の最先端部との距離を所定距離に調整した後に、被加熱金属管1等の最先端部と他の金属管(ダミー金属管10または被加熱金属管2)の最先端部が共に、第1誘導コイル21の長手方向中央部に位置するように制御する。このとき、被加熱金属管1等の被加熱金属の中心軸およびダミー金属管10等の他の金属の中心軸と、第1誘導コイル21等の中心軸とは一致していない状態である(図15に示した例では、被加熱金属管1等の被加熱金属の中心軸およびダミー金属管10等の他の金属の中心軸は、第1誘導コイル21等の中心軸よりも下方に位置している)。
次に、昇降機構7がスタンド6を昇降させ(図15に示した例では、スタンド6を上昇させ)、スタンド6に支持された被加熱金属管1等の被加熱金属及びダミー金属管10等の他の金属を昇降させることにより、図16に示すように、被加熱金属管1等の被加熱金属及びダミー金属管10等の他の金属の中心軸を、第1誘導コイル21等の中心軸と合わせる。
さらに、被加熱金属管1等の被加熱金属及びダミー金属管10等の他の金属の中心軸と、第1誘導コイル21等の中心軸とが一致した状態で、回転ローラ8を回転駆動させ、被加熱金属および他の金属を被加熱金属の中心軸を回転軸として周方向に回転させる。その結果、被加熱金属管1等の周方向における加熱温度偏差を最小化できる。
(第8実施形態)
次に、図17及び図18を参照しながら、本発明の第8実施形態に係る金属の熱処理方法を説明する。図17は、拡管を誘導加熱した場合に生じる温度偏差を模式的に示す断面図である。図18は、本実施形態に係る金属の処理方法に用いる熱処理装置を模式的に示す側面図である。
被加熱金属管1等を第1誘導コイル21等により誘導加熱する場合、第1誘導コイル21の長さは、通常、必要最低限の長さとする。例えば、上述した第5実施形態におけるように、拡管11を誘導加熱する場合、拡管11の加熱範囲を最先端部から200mmとすると、加熱範囲の最も中央側の位置からさらに100mm程度までしか、第1誘導コイル21の長さを延ばさない。このとき、被加熱金属管1や拡管11等の被加熱金属の端部は熱の逃げ場がないため、加熱により温度が上昇しやすい。一方、被加熱金属管1や拡管11等の被加熱金属の中央に向かうと、熱が被加熱金属管1や拡管11等の被加熱金属の中央側へ逃げられるため、被加熱金属管1や拡管11等の被加熱金属の中央側の温度は上昇しにくい。その結果、被加熱金属管1や拡管11等の被加熱金属の加熱範囲において、図17に示すような加熱温度偏差が発生してしまう。
そこで、本実施形態に係る金属の熱処理方法では、被加熱金属管1等の被加熱金属の最先端部と、ダミー金属管10等の他の金属の最先端部との距離を一定に保ったまま、被加熱金属および他の金属を第1誘導コイル21等内で被加熱金属の長手方向に移動させながら、被加熱金属を誘導加熱している。例えば、加熱中の被加熱金属管1等のうち温度が低い部分が第1誘導コイル21等の長手方向の中央付近に位置するように、被加熱金属管1等の位置を長手方向に沿って移動させる。このように、第1誘導コイル21等の長手方向で被加熱金属管1等の加熱位置を変えながら誘導加熱することにより、被加熱金属管1等の長手方向における加熱温度偏差を小さくできる。
上記本実施形態に係る金属の熱処理方法を実施するための金属の熱処理装置(以下、より具体的に「金属管端部の熱処理装置」と記載する。)は、図18に示すように、誘導コイルを用いて被加熱金属管1の端部を加熱する装置であり、移送ローラ3と、第1誘導コイル21、23、24(以下、「第1誘導コイル21等」と記載する。)と、スタンド6と、昇降機構7と、回転ローラ8と、スライド機構9とを備える。移送ローラ3、第1誘導コイル21等、スタンド6、昇降機構7、回転ローラ8及びスライド機構9の構成は、上述した通りである。本実施形態においては、必ずしも回転ローラ8を備えていなくてもよい。
ここで、スライド機構9は、本実施形態に係るコイル内移動機構の一例であり、被加熱金属管1等の被加熱金属の最先端部とダミー金属管10等の他の金属の最先端部との距離を一定に保ったまま、被加熱金属および他の金属を第1誘導コイル21内で被加熱金属の長手方向に移動させる。これにより、被加熱金属管1等の端部から所定長さの加熱範囲が所望の温度分布となるように加熱できる。
また、被加熱金属管1等の被加熱金属の最先端部とダミー金属管10等の他の金属の最先端部との距離を一定に保つ方法としては、被加熱金属管1等の被加熱金属とダミー金属管10等の他の金属とを同じ搬送速度で長手方向に移動させる方法がある。また、上述した第4実施形態と同様に、被加熱金属管1等の端部に、アルミナ、シリカなどを主成分とする絶縁性のセラミックス塗料を塗布し、乾燥させることで、被加熱金属管1の端部に絶縁層を形成し、この絶縁性にダミー金属管10等の他の金属の端部を接触させたまま長手方向に移動させる方法がある。さらに、絶縁性のアルミナやシリカなどのセラミックスのシートやブラケット焼結体を被加熱金属管1等の被加熱金属の端部と、ダミー金属管10等の他の金属の端部との間に挟みこんだ状態で長手方向に移動させる方法がある。
続いて、上述した金属管端部の熱処理装置の動作について説明する。
まず、図16に示すように、被加熱金属管1等の最先端部と他の金属管(ダミー金属管10または被加熱金属管2)の最先端部が共に、第1誘導コイル21の長手方向中央部に位置し、かつ、被加熱金属管1等の被加熱金属及びダミー金属管10等の他の金属の中心軸を、第1誘導コイル21等の中心軸と合わせた状態とする。
この状態において、被加熱金属管1等の端部から中央寄りの部分の温度が低いとした場合、図18に示すように、当該温度が低い部分が、第1誘導コイル21の中央部に位置するように、スライド機構9が、スタンド6を被加熱金属管1等の長手方向の右側に移動させることにより、被加熱金属管1等を長手方向の右側に移動させる。その結果、被加熱金属管1等の長手方向における加熱温度偏差が解消される。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上述した各実施形態については、技術的に不整合が生じない限り、任意の組合せが可能である。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実験例1)
被加熱金属管として、外径300mm、内径268mm、長さ1mのシームレス鋼管を用い、当該シームレス鋼管の端部からの管軸方向長さ200mmの範囲を加熱範囲とした。また、内径320mm、外径356mm、管軸方向長さ400mmの角銅管を円筒状に巻いて製作した誘導コイルを、当該誘導コイルの被加熱金属管側の端部が、被加熱金属管の端部から200mmの位置になるように被加熱金属管の外周を周回するように設置して、加熱周波数50Hz、電流600Aで、10分間、誘導加熱した。
このとき、ダミー金属管として、被加熱金属管と同じ外径300mm、内径268mmで、長さ500mmのシームレス鋼管を、被加熱金属管の端面から表1に記載された距離離隔して設置し、被加熱金属管の加熱範囲における外表面の温度分布を、被加熱金属管に熱電対を溶着することにより測定した。このときの温度分布の測定結果を表1に示す。なお、表1における温度偏差とは、被加熱金属管の加熱範囲における最高温度と最低温度との差である。
表1に示すように、ダミー金属管を被加熱金属管に近づけることにより、温度偏差が小さくなっていることから、温度分布が緩やかになることがわかった。また、被加熱金属管とダミー金属管との距離が短いほど、被加熱金属管の加熱範囲における金属管長手方向の温度分布は、管端部側が高くなり、被加熱金属管とダミー金属管との距離が長くなるに従い、被加熱金属管の中央側の温度が高くなることもわかった。一方、比較例であるダミー金属管なしの場合には、被加熱金属管の加熱範囲における中央部の温度が最も高く、管端部の温度が低い温度分布となった。
(実験例2)
実験例1と同じ被加熱金属管及び被加熱金属管の外周を周回する誘導コイルを用い、誘導コイルの外側に、磁性体コアとして積層厚み25mm、幅20mm、長さ50mmに成型した無方向性電磁鋼板積層コアを、金属管端部からの距離で150mmから200mmの範囲に配置した。磁性体コアを配置した以外は、実験例1と同じ条件で誘導加熱を行った。
このとき、ダミー金属管として、被加熱金属管と同じ外径300mm、内径268mmで、管軸方向長さ400mmのシームレス鋼管を、被加熱金属管の端面から表2に記載された距離離隔して設置し、被加熱金属管の加熱範囲における外表面の温度分布を測定した。このときの温度分布の測定結果を表2に示す。なお、表2における温度偏差とは、被加熱金属管の加熱範囲における最高温度と最低温度との差である。
表2に示すように、磁性体コアを配置することにより、実験例1の場合よりも温度偏差がより小さくなっていることから、温度分布がより緩やかになることがわかった。また、被加熱金属管とダミー金属管との距離が短いほど、被加熱金属管の加熱範囲における金属管長手方向の温度分布は、管端部側が高くなり、被加熱金属管とダミー金属管との距離が長くなるに従い、被加熱金属管の中央側の温度が高くなることは、実験例1と同様であった。
(実験例3)
実験例1と同じ被加熱金属管及び被加熱金属管の外周を周回する誘導コイルを用い、被加熱金属管の内面側に、外径240mm、内径220mm、管軸方向長さ300mmの銅管製誘導コイルをダミー金属管の端から挿入し、外周の誘導コイルと並列に配置した以外は、実験例1と同じ条件で誘導加熱を行った。
このとき、ダミー金属管として、被加熱金属管と同じ外径300mm、内径268mmで、長さ300mmのシームレス鋼管を、被加熱金属管の端面から表3に記載された距離離隔して設置し、被加熱金属管の加熱範囲における外表面及び内表面の温度分布を測定した。このときの温度分布の測定結果を表3に示す。なお、表3における内外温度偏差とは、被加熱金属管の加熱範囲における特定の点における外表面の温度と内表面の温度との差である。
表3に示すように、実施例6、7では、管端部及び管端部から100mmの点の双方において、被加熱金属管の管厚方向の(本実験例では、内面と外面との)温度偏差が、加熱後10分経過後でも18℃以下と小さく、良好な温度分布であった。なお、表1、表3には示していないが、比較例3に対応する内部誘導コイルの無い比較例1の内外面温度偏差は、管先端部から100mmの点で43℃、管端部で45℃であったことから、本発明の均一性効果が大きいことが判る。
(実験例4)
被加熱金属管として、外径80mm、内径74mm、長さ2mの電縫鋼管を用い、当該電縫鋼管を連続的に6mpmで搬送しながら誘導コイル内を通過させることで、電縫鋼管全体を加熱した。また、誘導コイルとしては、内径100mm、外径120mm、管軸方向長さ400mmの角銅管製誘導コイルを、搬送される被加熱金属管の外周を周回するように設置して、加熱周波数1kHz、電流600Aで、誘導加熱した。
このとき、隣り合う被加熱金属管の端部間に、3mmのアルミナ-シリカのシートを複数枚挟んで、被加熱金属管の端部間の距離を表4に示す距離に保ち(押しつけられるためシート厚は若干縮む)、被加熱金属管を連続的に搬送しながら、被加熱金属管の金属管長手方向後端部から500mmの位置と後端部との間における外表面の温度分布を、被加熱金属管に溶着した熱電対により測定した。このときの温度分布の測定結果を表4に示す。なお、表4における温度偏差とは、被加熱金属管の金属管長手方向後端部から500mmの位置と後端部との間における最高温度と最低温度との差である。
金属管単独で加熱した比較例5の場合、46℃あった温度偏差は、連続して搬送される金属管の端部を5mmと近づけることにより8℃まで改善され、管端の距離を離すに従い温度偏差は改善してゆく。しかし、距離を100mm離すとあまり温度偏差の改善効果は無く、最低でも50mm、できれば20mm以下とするのが望ましい結果が得られることが判った。
(実験例5)
実験例1と同じ被加熱金属管及び被加熱金属管の外周を周回する誘導コイルを用い、ダミー金属管の径を以下のように変更した以外は、実験例1と同じ条件で誘導加熱を行った。
ダミー金属管として、外径を被加熱金属管よりも小さな290mmとし、被加熱金属管と同じ内径268mmで、管軸方向長さ400mmのシームレス鋼管を、被加熱金属管の端面から表5に記載された距離離隔して設置し、被加熱金属管の加熱範囲における外表面の温度分布を測定した(実施例12)。同様に、外径を被加熱金属管よりも小さな280mmとし、被加熱金属管と同じ内径268mmで、管軸方向長さ400mmのシームレス鋼管を、被加熱金属管の端面から表5に記載された距離離隔して設置し、被加熱金属管の加熱範囲における外表面の温度分布を測定した(実施例13)。このときの温度分布の測定結果を表5に示す。なお、表5における温度偏差とは、被加熱金属管の加熱範囲(管端部から200mmの範囲)における最高温度と最低温度との差である。また、実施例12及び実施例13は、ダミー金属管の外径が被加熱金属管の外径よりも小さくなっており、拡管の端部の外径よりも小さな外径のダミー金属管を用いた誘導加熱を模擬した実施例である。実施例2、実施例12および実施例13の温度分布の測定結果を表6に示す。
表5に示すように、ダミー金属管の外径が被加熱金属管の外径よりも小さな実施例12および実施例13は、ダミー金属管の外径と被加熱金属管の外径とが同じ実施例2よりも、被加熱金属管の加熱範囲における外表面の温度偏差が改善されていることがわかる。
(実験例6)
本実験例では、被加熱金属管として、鋼管端面から130mmの位置から鋼管先端に向けてテーパ状に縮径し、先端の外径が282mmのシームレス鋼管(縮管)を用い、それ以外は実験例1と同じ誘導子イルおよびダミー金属管を用いて加熱を行った場合について、被加熱金属管の加熱範囲における外表面の温度分布を測定した(実施例14)。また、図13に示す直コイル部23およびテーパ部24を有する誘導コイルを用い、実験例1と同様に、誘導コイルと被加熱金属管とのギャップを、被加熱金属管の長手方向において、縮径部を含めて管端部まで10mmで均一のギャップとし、加熱を行った場合についても、被加熱金属管の加熱範囲における外表面の温度分布を測定した(実施例15)。なお、表6における温度偏差とは、被加熱金属管の加熱範囲(管端部から200mmの範囲)における最高温度と最低温度との差である。実施例2、実施例14および実施例15の温度分布の測定結果を表6に示す。
表6に示すように、誘導コイルとのギャップが10mmで一定の実施例2と比較し、管端部に行くほど径が小さくなっている縮管の場合、磁束は、縮管よりも端部の径が大きいダミー金属管端部の方に多く入るため、縮管を通常の誘導コイルで加熱した実施例14の場合には、管端部の温度が低くなり、実施例2よりも10℃温度偏差が拡大する。それに対し、被加熱金属管の外表面と誘導コイルとのギャップを、縮径部を含めて管端部まで一定にした実施例15の場合は、温度偏差が実施例14よりも7℃改善される。
(実験例7)
本実験例では、被加熱金属管として実験例6の条件と同じ縮管を用い、かつ、実験例6と同じダミー金属管を用い、縮管とダミー金属管の中心を誘導コイル中心軸から6mm下方にずらして加熱し、被加熱金属管の加熱範囲における外表面の温度分布を測定した(実施例16)。また、縮管およびダミー金属管を30rpmで回転させながら加熱を行った以外は、実施例16と同じ条件で加熱した場合の被加熱金属管の加熱範囲における外表面の温度分布を測定した(実施例17)。なお、表7における温度偏差とは、被加熱金属管の加熱範囲(管端部から200mmの範囲)における最高温度と最低温度との差である。実施例16および実施例17の温度分布の測定結果を表7に示す。
表7に示すように、被加熱金属管の位置を誘導コイルの中心軸から6mm下げることにより、誘導コイルと被加熱金属管との周方向におけるギャップは、4mm~16mmと不均一となり、被加熱金属管を静止したまま加熱した場合時は55℃の温度偏差を生じるが、被加熱金属管を回転しながら加熱すると温度偏差は、静止したまま加熱した場合よりも16℃改善されることがわかった。
(実験例8)
本実験例では、実験例1と同じ条件で被加熱金属管の加熱を8分間行った後、被加熱金属管とダミー金属管とを、鋼管長手方向に沿って100mmダミー金属管側へ移動させ、さらに2分間加熱を行い、被加熱金属管の加熱範囲における外表面の温度分布を測定した(実施例18)。なお、表7における温度偏差とは、被加熱金属管の加熱範囲(管端部から200mmの範囲)における最高温度と最低温度との差である。実施例1および実施例18の温度分布の測定結果を表8に示す。
表8に示すように、被加熱金属管の端面から200mmの位置は、熱が鋼管の長手方向に移動するため温度が低下するが、この温度低下部を100mm、誘導コイルの内部へ挿入することにより、温度低下部の加熱温度は急速に高くなり、被加熱金属管の加熱範囲における温度偏差は、被加熱金属管の位置を鋼管の長手方向で固定した場合(実施例1)の温度偏差の約半分にまで低減される。