本願で開示する非水電解液電池の実施形態について説明する。本実施形態の非水電解液電池は、正極、負極、非水電解液及びセパレータを備えている。前記負極は、Al活性層を含み、前記Al活性層の表面側には、Li-Al合金が形成されている。また、前記非水電解液は、リチウム塩及び有機溶媒を含み、前記非水電解液は、前記有機溶媒として、下記一般式(1)で表されるプロピオン酸化合物を含む。但し、下記一般式(1)中、R'は、炭素数3~7のアルキル基である。
本実施形態の非水電解液電池は、上記構成とすることにより、高温環境下での貯蔵特性を向上できる。
Li(金属Li)や、Li-Al合金(LiとAlとの合金)は、炭素材料に比べてLi(Liイオン)の受け入れ性が低く、これを負極活物質に用いた非水電解液二次電池では、充放電を繰り返した際に、早期に容量が低下しやすい。こうしたことから、充放電を繰り返し行って使用することが想定されている従来の非水電解液二次電池では、黒鉛などの炭素材料が負極活物質として汎用されている。
しかし、炭素材料を負極活物質に用いた非水電解液二次電池では、自己放電が起きやすく、充電状態で貯蔵すると容量低下が生じやすい。
こうしたことから、車載用機器に用いる電池としては、従来の非水電解液二次電池よりも貯蔵特性が良好で、数年以上の長期にわたって貯蔵しても、容量低下がほとんどない非水電解液一次電池が適用されている。
その一方で、こうした用途においても、メンテナンスの容易さなどの理由から、通常の二次電池のように充放電を多数繰り返すことは求めないまでも、数回~数十回程度の回数で充電が可能な電池の適用要請がある。
そこで、本実施形態の非水電解液電池では、特に車載用など高温環境下で使用される場合にあっても、高い貯蔵特性と高容量化とを実現することができ、また、ある程度の回数の充電が可能となるように、Al活性層の表面側に形成されたLi-Al合金を負極活物質として使用することにした。
更に、本実施形態の非水電解液電池では、前記一般式(1)で表されるプロピオン酸化合物を有機溶媒として含む非水電解液を用いる。前記一般式(1)で表されるプロピオン酸化合物は、酸化電位が高く、高温環境下でも酸化・分解されにくく、非水電解液の酸化・分解によるガス発生を抑制することができる。
このように、本実施形態では、前記Al活性層による貯蔵特性向上作用と、前記非水電解液を使用することによるガス発生抑制作用とが相乗的に機能することで、長期間高温貯蔵した後においても、膨れが小さい(体積変化量が小さい)非水電解液電池を実現できる。
以下、本実施形態の非水電解液電池の各構成要素について説明する。
<負極>
本実施形態の非水電解液電池に係る負極の形成には、第1の方法として、Liと合金化しない金属基材層(以下、単に「基材層」ともいう。)とAl金属層(以下、単に「Al層」ともいう。)とを接合して形成した積層金属箔の、Al層の表面に、Li箔を貼り合わせるなどの方法によりLi層が形成された積層体(負極前駆体)を使用する方法、及び、第2の方法として、Li箔を貼り合わせずに、基材層とAl層とを接合して形成した積層金属箔(負極前駆体)のみを使用する方法がある。これらの第1の方法及び第2の方法は、放電時に負極の形状を安定にし、次回の充電を容易にするために、負極に集電体を用いる方法である。一方、第3の方法として、負極に集電体を用いずに、Al箔のみを負極前駆体として使用する方法がある。
先ず、前記第1の方法と前記第2の方法について説明する。Li-Al合金を形成するためのAl金属層(Al箔など)と、集電体として作用するLiと合金化しない金属基材層(Cu箔など)とをあらかじめ接合して用い、更に、前記Al金属層の表面にLi層(Li箔など)を積層させ、前記Li層のLiと前記Al金属層のAlとを反応させる方法(第1の方法)、又は前記Al金属層と前記金属基材層との接合体をそのまま電池の組み立てに用い、組み立て後の充電によって、前記Al金属層のAlを非水電解液中のLiイオンと電気化学的に反応させる方法(第2の方法)などにより、前記Al金属層の少なくとも表面側をLi-Al合金とすることにより、前記Al金属層を、そのAl金属層の少なくとも表面にLi-Al合金層が形成されたAl活性層に変換し、前記金属基材層の表面に前記Al活性層が接合された負極とすることで、貯蔵時の内部抵抗の増大を抑え得ることができる。
また、前記Al金属層と前記金属基材層とをあらかじめ接合しておくことで、前記Al金属層の少なくとも表面側にLi-Al合金を形成してAl活性層とすることに伴う負極の変形(湾曲など)をある程度抑制することもできる。
前記基材層は、Cu、Ni、Ti、Feなどの金属、又はそれら元素と他の元素との合金(但し、ステンレス鋼などの、Liと反応しない合金)により構成することができる。
前記基材層は、具体的には、前記金属又は合金の箔や蒸着膜、めっき膜などにより構成される。
前記Al層は、純Al、又は、強度の向上などを目的とする添加元素を有するAl合金により構成することができ、具体的には、それらの箔や蒸着膜、めっき膜などにより構成される。
前記Li層の形成には、前記Al層の表面にLi箔を貼り合わせる方法や、Liの蒸着膜を形成する方法などを用いることができる。
図1に、本実施形態の非水電解液電池に使用される負極を形成するための積層体(負極前駆体)の一例を模式的に表す断面図を示す。図1において、負極前駆体100は、基材層101aの両面にAl層101b、101bを接合して構成した積層金属箔101の、Al層101b、101bの表面に、Li箔102、102が貼り合わされて形成された積層体である。
前記負極前駆体を用いて負極を形成する非水電解液電池では、非水電解液の共存下でLi箔のLiとAl層のAlとが反応して、Al層のLi箔が貼り合わされた側(セパレータ側)の表面にLi-Al合金が形成され、Al層がAl活性層に変化する。即ち、前記負極のAl活性層の少なくとも表面側(Li箔側)には、非水電解液電池内で形成されたLi-Al合金が存在する。
前記負極前駆体では、基材層とAl層とを接合して形成した積層金属箔において、基材層の片面にAl層を接合していてもよく、また、図1に示すように基材層の両面にAl層を接合していてもよい。
図1に示すように、基材層の両面にAl層を接合し、且つ両方のAl層の表面側でLi-Al合金の形成を行った場合には、基材層の片面にAl層を接合し、そのAl層の表面側でLi-Al合金の形成を行う場合に比べて、負極の変形(湾曲など)、及びそれに伴う電池の体積変化や電池の特性劣化を更に抑制することが可能となる。
他方、基材層が、Cu、Ni、Ti及びFeより選択される金属又はその合金で構成されている場合には、Li-Al合金が形成される際の体積変化による負極の変形を抑制する作用がより向上するため、基材層の両面にAl層を接合する場合だけでなく、基材層の片面のみにAl層の接合及びLi-Al合金の形成を行う場合であっても負極の変形(湾曲など)、及びそれに伴う電池の体積変化や電池の特性劣化を更に抑制することが可能となる。
以下では、基材層がCu(Cu箔)である場合、及び基材層がNi(Ni箔)である場合を例示して説明するが、基材層がCuやNi以外の材料である場合も同様である。
Cu層とAl層とを接合して形成した積層金属箔としては、Cu箔とAl箔とのクラッド材、Cu箔上にAlを蒸着してAl層を形成した積層膜などが挙げられる。
Cu層とAl層とを接合して形成した積層金属箔に係るCu層としては、Cu(及び不可避不純物)からなる層や、合金成分としてZr、Cr、Zn、Ni、Si、Pなどを含み、残部がCu及び不可避不純物であるCu合金(前記合金成分の含有量は、例えば、合計で10質量%以下、好ましくは1質量%以下)からなる層などが挙げられる。
また、Ni層とAl層とを接合して形成した積層金属箔としては、Ni箔とAl箔とのクラッド材、Ni箔上にAlを蒸着してAl層を形成した積層膜などが挙げられる。
Ni層とAl層とを接合して形成した積層金属箔に係るNi層としては、Ni(及び不可避不純物)からなる層や、合金成分としてZr、Cr、Zn、Cu、Fe、Si、Pなどを含み、残部がNi及び不可避不純物であるNi合金(前記合金成分の含有量は、例えば、合計で20質量%以下)からなる層などが挙げられる。
更に、Cu層とAl層とを接合して形成した積層金属箔やNi層とAl層とを接合して形成した積層金属箔に係るAl層としては、Al(及び不可避不純物)からなる層や、合金成分としてFe、Ni、Co、Mn、Cr、V、Ti、Zr、Nb、Moなどを含み、残部がAl及び不可避不純物であるAl合金(前記合金成分の含有量は、例えば、合計で50質量%以下)からなる層などが挙げられる。
Cu層とAl層とを接合して形成した積層金属箔やNi層とAl層とを接合して形成した積層金属箔においては、負極活物質となるLi-Al合金の割合を一定以上とするために、基材層であるCu層やNi層の厚みを100としたときに、Al層の厚み(但し、基材層であるCu層やNi層の両面にAl層を接合させた場合には、片面あたりの厚み。以下同じ。)は、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、50以上であることが更に好ましく、70以上であることが特に好ましい。また、集電効果を高め、Li-Al合金を十分に保持するためには、Cu層とAl層とを接合して形成した積層金属箔やNi層とAl層とを接合して形成した積層金属箔において、基材層であるCu層やNi層の厚みを100としたときに、Al層の厚みは、500以下であることが好ましく、400以下であることがより好ましく、300以下であることが特に好ましく、200以下であることが最も好ましい。
基材層であるCu層やNi層の厚みは、10~50μmであることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。
Cu層とAl層とを接合して形成した積層金属箔やNi層とAl層とを接合して形成した積層金属箔の厚みは、負極の容量を一定以上とするために、50μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましく、また、正極活物質との容量比を適切な範囲とするために、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることが特に好ましい。
負極前駆体に使用するLi箔としては、Li(及び不可避不純物)からなる箔や、合金成分としてFe、Ni、Co、Mn、Cr、V、Ti、Zr、Nb、Moなどを合計で40質量%以下の量で含み、残部がLi及び不可避不純物であるLi合金からなる箔などが挙げられる。
また、積層金属箔の表面にLi箔が貼り合わされて形成された前記の積層体を負極前駆体として用いて負極のAl活性層を形成する方法以外に、前述のとおり、第2の方法として、前記積層金属箔をそのまま負極前駆体として使用して電池を組み立て、組み立て後の電池を充電する方法によっても、負極を構成するAl活性層を形成することができる。
即ち、前記積層金属箔のAl金属層の少なくとも表面側のAlを、電池の充電によって非水電解液中のLiイオンと電気化学的に反応させることにより、少なくとも表面側にLi-Al合金が形成されたAl活性層とすることも可能である。
Li箔が貼り合わされていない前記積層金属箔を負極前駆体として用いる第2の方法によれば、電池の製造工程を簡略化することができる。一方、Li箔が貼り合わされている前記積層金属箔を負極前駆体として用いてAl活性層を形成することにより、Li-Al合金の不可逆容量を、負極前駆体のLi層のLiが相殺することになることから、高容量化のためには、前述の第1の方法で負極を形成(負極のAl活性層を形成)することが好ましく、また、第1の方法に係る負極前駆体を用いて電池を組み立て、更に充電を行って負極を形成(負極のAl活性層を形成)してもよい。
Liと合金化しない金属基材層と、前記金属基材層に接合されたAl活性層とを備える積層体を負極として有する電池においては、負極活物質として作用する物質の結晶構造を良好に保って負極の電位を安定化させて、より優れた貯蔵特性を確保する観点から、第1の方法及び第2の方法のいずれの方法によって負極のAl活性層を形成する場合であっても、負極のAl活性層におけるLiとAlとの合計を100原子%としたときのLiの含有量が、48原子%以下である範囲において電池を使用することが好ましい。即ち、電池の充電時に、Al活性層のLiの含有量が48原子%を超えない範囲で充電を終止することが好ましく、Liの含有量が、40原子%以下である範囲において充電を終止することがより好ましく、35原子%以下である範囲において充電を終止することが特に好ましい。
前記積層金属箔のAl層は、全体がLiと合金化して活物質として作用してもよいが、Al層のうちの基材層側をLiと合金化させず、Al活性層を、表面側のLi-Al合金層と基材側に残存するAl層との積層構造とすることがより好ましい。
即ち、前記の状態で充電を終止することにより、前記Al層のセパレータ側(正極側)を、Liと反応させてLi-Al合金(α相とβ相との混合相又はβ相)とし、一方、前記基材層との接合部付近のAl層は、実質的にLiと反応させずに元のAl層のまま残存するか、又はセパレータ側よりもLiの含有量を低くすることにより、元のAl層と基材層との優れた密着性を維持することができ、セパレータ側に形成されたLi-Al合金を基材層上に保持しやすくなると考えられる。特に、前記Al層のセパレータ側に形成されるLi-Al合金に、α相が混在した状態で充電を終止することがより好ましい。
本明細書では、「実質的にLiと反応させずに元のAl層のまま残存する」とは、Al層がLiを含有していない状態のほか、Al層がLiを数原子%以下の範囲で固溶した状態も含め、Alがα相の状態のままで維持されることを指すものとする。
また、本実施形態の非水電解液電池においては、放電容量及び高率放電特性をより高める観点から、負極のAl活性層におけるLiとAlとの合計を100原子%としたときのLiの含有量が、15原子%以上となる範囲まで電池を充電することが好ましく、20原子%以上となる範囲まで電池を充電することがより好ましい。
更に、本実施形態の非水電解液電池に係る負極は、Al金属相(α相)とLi-Al合金相(β相)とが共存する状態で放電を終了することが望ましく、これにより、充放電時の負極の体積変化を抑制し、充放電サイクルでの容量劣化を抑制することができる。負極にLi-Al合金のβ相を残存させるためには、放電終了時の、負極におけるLiとAlとの合計を100原子%としたときのLiの含有量を、およそ3原子%以上とすればよく、5原子%以上とすることが好ましい。一方、放電容量を大きくするためには、放電終了時のLi含有量は、12原子%以下であることが好ましく、10原子%以下であることがより好ましい。
前記のような電池の使用状況を実現しやすくするために、本実施形態の非水電解液電池において、第1の方法により負極を形成する場合に使用する負極前駆体においては、電池組み立て時における、Al層の厚みを100としたときの前記Al層に貼り合せるLi層の厚みを、10以上とすることが好ましく、20以上とすることがより好ましく、30以上とすることが更に好ましく、また、80以下とすることが好ましく、70以下とすることがより好ましい。
具体的なLi箔の厚み(前記積層体が両面にLi箔を有している場合は、片面あたりの厚み。)は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが更に好ましく、また、80μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましい。
Li箔とAl層(Al層を構成するためのAl箔、又は負極集電体を構成する基材層とAl層とが接合して構成された箔に係るAl層)との貼り合わせは、圧着などの常法により行うことができる。
第1の方法で負極を形成する場合に用いる負極前駆体として使用する前記積層体は、Cu層とAl層とを接合した箔やNi層とAl層とを接合した箔のAl層の表面に、Li箔を貼り合わせる方法で製造することができる。
次に、前記第3の方法について説明する。前記第3の方法では、負極前駆体としてAlで構成された箔を使用することができる。Al箔は、あらかじめ一定量のLiと合金化しておくことも可能であるが、前記第2の方法と同様に電池を組み立て後の充電によって、前記Al箔の表面のAlを非水電解液中のLiイオンと電気化学的に反応させてLi-Al合金に変換することも可能である。前記第3の方法は、前記第1の方法や前記第2の方法とは異なり、Al金属層と金属基材層とをあらかじめ接合しておく工程は不要になり、生産工程を簡素化させることができ、好ましい。
前記第3の方法で用いるAl箔としては、Al(及び不可避不純物)からなる箔や、合金成分としてFe、Ni、Co、Mn、Cr、V、Ti、Zr、Nb、Moなどを含み、残部がAl及び不可避不純物であるAl合金(前記合金成分の含有量は、例えば、合計で50質量%以下)からなる箔などが挙げられる。Al箔の厚みは40μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、また、正極活物質との容量比を適切な範囲とするために、300μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが特に好ましい。
負極を形成する前記第1の方法及び前記第2の方法で負極前駆体として使用する前記積層体におけるCu層やNi層、及び、前記第3の方法で負極前駆体として使用するAl箔には、それぞれ常法に従って負極リード体を設けることができる。
<非水電解液>
本実施形態の非水電解液電池に係る非水電解液には、有機溶媒中に、リチウム塩を溶解させた溶液を使用するが、前記非水電解液は、前記有機溶媒として、下記一般式(1)で表されるプロピオン酸化合物を含む。但し、下記一般式(1)中、R'は、炭素数が3~7のアルキル基である。
前記一般式(1)で表されるプロピオン酸化合物は、酸化電位が高く、高温環境下でも酸化・分解されにくく、非水電解液の酸化・分解によるガス発生を抑制することができる。また、前記一般式(1)で表されるプロピオン酸化合物は、沸点が高く、高温環境下でも使用できる。
前記一般式(1)で表されるプロピオン酸化合物としては、例えば、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ペンチルなどが使用できる。
前記プロピオン酸化合物の含有量は、電池の高温環境下での貯蔵特性を向上させるために、非水電解液に使用する全有機溶媒中において、5体積%以上90体積%以下が好ましい。
前記非水電解液に含めることができる他の有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;ラクトン環を有する化合物などの環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;などが挙げられ、これらは2種以上混合して用いることもできる。より良好な特性の電池とするためには、前記例示の環状カーボネートと前記例示の鎖状カーボネートとの混合溶媒など、高い導電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。
また、非水電解液の有機溶媒には、PCを含むことがより好ましい。PCは、環状カーボネートの中でも融点が低いため低温での放電特性が高いからである。また、PCは、誘電率が高く、前記リチウム塩を溶かしやすいからである。一方、PCは、粘度が高いため、非水電解液の粘度を低下させるために、低粘度の鎖状カーボネートを併用することが更に好ましい。
非水電解液に使用する全有機溶媒中におけるPCの含有量は、その使用による前記の効果を良好に確保する観点から、10体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましい。前記の通り、非水電解液の有機溶媒には、前記プロピオン酸化合物を5体積%以上90体積%以下で含むので、非水電解液に使用する全有機溶媒中の、PCの含有量の上限値は95体積%である。
更に、非水電解液電池の低温での放電特性をより向上させる観点からは、非水電解液の有機溶媒として、PCと共にラクトン環を有する化合物を使用することが好ましい。
ラクトン環を有する化合物としては、γ-ブチロラクトンやα位に置換基を有するラクトン類などが挙げられる。
また、α位に置換基を有するラクトン類は、例えば5員環のもの(環を構成する炭素数が4つのもの)が好ましい。前記ラクトン類のα位の置換基は、1つであってもよく、2つであってもよい。
前記置換基としては、炭化水素基、ハロゲン基(フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基)などが挙げられる。炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが好ましく、その炭素数は1以上15以下(より好ましくは6以下)であることが好ましい。前記置換基が炭化水素基の場合、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基などが更に好ましい。
α位に置換基を有するラクトン類の具体例としては、α-メチル-γ-ブチロラクトン、α-エチル-γ-ブチロラクトン、α-プロピル-γ-ブチロラクトン、α-ブチル-γ-ブチロラクトン、α-フェニル-γ-ブチロラクトン、α-フルオロ-γ-ブチロラクトン、α-クロロ-γ-ブチロラクトン、α-ブロモ-γ-ブチロラクトン、α-ヨード-γ-ブチロラクトン、α,α-ジメチル-γ-ブチロラクトン、α,α-ジエチル-γ-ブチロラクトン、α,α-ジフェニル-γ-ブチロラクトン、α-エチル-α-メチル-γ-ブチロラクトン、α-メチル-α-フェニル-γ-ブチロラクトン、α,α-ジフルオロ-γ-ブチロラクトン、α,α-ジクロロ-γ-ブチロラクトン、α,α-ジブロモ-γ-ブチロラクトン、α,α-ジヨード-γ-ブチロラクトンなどが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、α-メチル-γ-ブチロラクトンがより好ましい。
ラクトン環を有する化合物を使用する場合には、その使用による効果を良好に確保する観点から、非水電解液に使用する全有機溶媒中におけるラクトン環を有する化合物の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、この好適値を満たし、且つ全有機溶媒中のPCの含有量が前記の好適値を満たす範囲内で使用することが望ましい。
非水電解液に係るリチウム塩には、耐熱性が高く、非水電解液電池の高温環境下での貯蔵特性を高め得ることに加えて、電池内で用いるアルミニウムの腐食を抑制する機能を有していることから、LiBF4を使用することが好ましい。
非水電解液に係る他のリチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF2n+1SO3(2≦n≦7)、LiN(RfOSO2)2〔ここで、Rfはフルオロアルキル基〕などが挙げられる。
非水電解液中のリチウム塩の濃度は、0.6mol/L以上であることが好ましく、0.9mol/L以上であることがより好ましい。
非水電解液中の全リチウム塩の濃度は、1.8mol/L以下であることが好ましく、1.6mol/L以下であることがより好ましい。よって、リチウム塩にLiBF4のみを使用する場合には、その濃度が前記の好適上限値を満たす範囲で使用することが好ましい。他方、LiBF4と共に他のリチウム塩を使用する場合には、LiBF4の濃度が前記の好適下限値を満たしつつ、全リチウム塩の濃度が前記の好適上限値を満たす範囲で使用することが好ましい。
また、非水電解液には、添加剤としてニトリル化合物を含有させると好ましい。ニトリル化合物を添加した非水電解液を使用することで、正極活物質の表面にニトリル化合物が吸着して被膜を形成し、この被膜が非水電解液の酸化分解によるガス発生を抑制することから、特に高温環境下で貯蔵した際の電池の膨れを抑えることができる。
非水電解液に添加するニトリル化合物としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、アクリロニトリルなどのモノニトリル;マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,4-ジシアノヘプタン、1,5-ジシアノペンタン(ピメロニトリル)、1,6-ジシアノヘキサン(スベロニトリル)、1,7-ジシアノヘプタン(アゼラオニトリル)、2,6-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン、2,7-ジシアノオクタン、1,9-ジシアノノナン、2,8-ジシアノノナン、1,10-ジシアノデカン、1,6-ジシアノデカン、2,4-ジメチルグルタロニトリルなどのジニトリル;ベンゾニトリルなどの環状ニトリル;メトキシアセトニトリルなどのアルコキシ置換ニトリル;などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。これらのニトリル化合物の中でも、ジニトリルがより好ましく、アジポニトリル、ピメロニトリル及びスベロニトリルが更に好ましい。
電池に使用する非水電解液におけるニトリル化合物の含有量は、これらの使用による前記の効果を良好に確保する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。但し、非水電解液中のニトリル化合物の量が多すぎると、電池の低温での放電特性が低下する傾向にある。よって、非水電解液中のニトリル化合物の量をある程度制限して、電池の低温での放電特性をより良好にする観点からは、電池に使用する非水電解液中のニトリル化合物の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
また、非水電解液は、下記一般式(2)で表される基を分子内に有するリン酸化合物又はホウ酸化合物を含有していることが好ましい。
前記一般式(2)中、XはSi、Ge又はSnであり、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基又は炭素数6~10のアリール基を表し、水素原子の一部又は全部がフッ素で置換されていてもよい。
例えば、車載用機器に用いる電池においては、高温環境下に限らず寒冷地での使用も考えられる。低温環境下では、常温の時と比べて電池の作動性が低下し、特に経年劣化した電池は放電特性が低下する傾向にある。そのため、あらゆる温度下での使用を想定して、高温環境下に一定時間置いた(経年劣化とほぼ同じ状態にした)後で、低温環境下でも高率放電ができることが好ましい。
本実施形態の非水電解液電池において、前記一般式(2)で表される基を分子内に有するリン酸化合物又はホウ酸化合物を含有する非水電解液を使用すると、高温下での長期貯蔵を経た後の、低温環境下での高率放電特性を高めることができる。その理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推測している。
前記一般式(2)で表される基を分子内に有するリン酸化合物又はホウ酸化合物を含有する非水電解液を使用すると、前記リン酸化合物又はホウ酸化合物が正極活物質の表面に抵抗が低く強固な被膜を形成するため、電池を高温下で長期間貯蔵しても被膜が破壊されることがないため、正極活物質からの金属の溶出を抑制できる。また、この被膜は低温下においてもLiイオンの挿入を阻害し難いため、高温下での長期間貯蔵後の電池の、低温下での高率放電特性を良好にすることができる。
更に、非水電解液電池の負極においても、前記リン酸化合物又はホウ酸化合物が作用して、被膜が形成される。前記リン酸化合物又はホウ酸化合物は、負極表面に被膜が形成される際に使用されるLiの量を減少させて、負極表面で薄く且つ良質な被膜を形成すると考えられる。これにより、高温下での長期間貯蔵でも負極表面の被膜が破壊されることがないため、負極の劣化を抑制することができる。また、この被膜は低温下においてもLiイオンの脱離を阻害し難い。これらの理由によっても、高温下での長期間貯蔵後の電池の、低温下での高率放電特性を良好にすることができる。
上記のように、本実施形態に係る特定の負極と、前記リン酸化合物又はホウ酸化合物を含有する非水電解液とを組み合わせることで、前記の各作用が相乗的に機能して、高温環境下での貯蔵特性がより良好で、且つ温度変化に対応可能な電池とすることができる。
前記一般式(2)において、XはSi、Ge又はSnであるが、Siがより好ましい。即ち、前記リン酸化合物は、リン酸シリルエステルであることがより好ましく、前記ホウ酸化合物は、ホウ酸シリルエステルであることがより好ましい。また、前記一般式(2)において、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基又は炭素数6~10のアリール基であるが、メチル基又はエチル基がより好ましい。そして、前記一般式(2)で表される基としては、トリメチルシリル基が特に好ましい。
また、前記リン酸化合物においては、リン酸が有する水素原子のうちの1つのみが前記一般式(2)で表される基で置換されていてもよく、リン酸が有する水素原子のうちの2つが前記一般式(2)で表される基で置換されていてもよく、リン酸が有する水素原子の3つ全てが前記一般式(2)で表される基で置換されていてもよいが、リン酸が有する水素原子の3つ全てが前記一般式(2)で表される基で置換されていることが、より好ましい。
このような前記リン酸化合物としては、リン酸トリス(トリメチルシリル)が、特に好ましいものとして挙げられる。
また、前記ホウ酸化合物においては、ホウ酸が有する水素原子のうちの1つのみが前記一般式(2)で表される基で置換されていてもよく、ホウ酸が有する水素原子のうちの2つが前記一般式(2)で表される基で置換されていてもよく、ホウ酸が有する水素原子の3つ全てが前記一般式(2)で表される基で置換されていてもよいが、ホウ酸が有する水素原子の3つ全てが前記一般式(2)で表される基で置換されていることが、より好ましい。
このような前記ホウ酸化合物としては、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)が、特に好ましいものとして挙げられる。
電池に使用する非水電解液中の、前記一般式(2)で表される基を分子内に有するリン酸化合物又はホウ酸化合物の含有量は、その使用による前記の効果をより良好に確保する観点から、0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、含有量が多くなりすぎると、被膜生成時に発生するガスが多くなることから、電池に使用する非水電解質中の、前記一般式(2)で表される基を分子内に有するリン酸化合物又はホウ酸化合物の含有量は、7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。
また、これらの非水電解液に、電池の各種特性を更に向上させる目的で、ビニレンカーボネート類、1-プロペン-1,3-スルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t-ブチルベンゼンなどの添加剤を適宜加えることもできる。中でも、1-プロペン-1,3-スルトンが最も好ましい。1-プロペン-1,3-スルトンは、先ず負極の表面に保護被膜を形成し、続いて残りの1-プロペン-1,3-スルトンが、正極の表面にも保護被膜を形成するため、電池の耐熱性が向上するからである。
<正極>
本実施形態の非水電解液電池に係る正極には、例えば、正極活物質、導電助剤及びバインダなどを含有する正極合剤層を、集電体の片面又は両面に有する構造のものが使用できる。また、前記正極活物質としては、リチウム含有ニッケル層状酸化物を含む正極活物質を用いることが好ましい。
一般に正極活物質は高温環境下において非水電解液と反応し、正極上には反応生成物が堆積され、同時にガスが発生する。リチウムイオン二次電池などの非水電解液電池に一般的に使用されるコバルト酸リチウムを正極活物質として用いると、高温下でコバルト酸リチウムの表面と非水電解液とが反応してCoを含む反応生成物が正極の表面に堆積し、同時にガスが発生するが、Coを含む反応生成物は更に分解されて非水電解液中にCoが溶出する。そして、再びコバルト酸リチウムの表面と非水電解液とが反応しCoを含む反応生成物が生じると共にガスが発生する。つまり、正極活物質にコバルト酸リチウムを多く含むと、電池が高温に晒されるたびにCoが溶出し続け、ガスも発生し続ける。
しかし、リチウム含有ニッケル層状酸化物を含む正極活物質を用いると、前記リチウム含有ニッケル層状酸化物は、一度は高温下において非水電解液と反応してNiを含む反応生成物が生じると共にガスが発生するが、Niを含む反応生成物は分解されずに正極上にとどまって被膜となる。また、その後電池が高温に晒されたとしてもNiの溶出もガス発生も抑制される。従って、電池を充電した状態で高温下においても金属溶出が起こり難い。そのため、電池を長期間、高温下において貯蔵しても放電容量の低下を抑制することができる。
前記リチウム含有ニッケル層状酸化物としては、下記一般成式(3)で表される複合酸化物を用いることが好ましい。下記一般式(3)で表される複合酸化物を用いると、長期間の貯蔵におけるガス発生を抑えるだけではなく、抵抗の増加を抑制できる。
Li1+xNi1-y-zM1
yM2
zO2 (3)
前記一般式(3)中、M1はCo、Mn、Al、Mg、Zr、Mo、Ti、Ba、W及びErからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M2はLi、Ni及びM1以外の元素であり、-0.1≦x≦0.1、0≦y<0.85、0≦z≦0.05である。
前記一般式(3)で表される複合酸化物において結晶格子中にCoを存在させると、非水電解液電池の充放電でのLiの挿入及び脱離によるリチウム含有複合酸化物の相転移から起こる不可逆反応を緩和でき、前記複合酸化物の結晶構造の可逆性を高めることができるため、より充放電サイクル寿命の長い非水電解液電池を構成することが可能となる。
前記一般式(3)で表される複合酸化物がMgを含有していると、Liの脱離及び挿入によって前記複合酸化物の相転位が起こる際に、Mg2+がLiサイトに転位することから不可逆反応が緩和され、空間群R3-mとして表される前記複合酸化物の層状の結晶構造の可逆性が向上する。
前記一般式(3)で表される複合酸化物がMnを含有していると、4価のMnが不安定な4価のNiを安定化させることから、充放電サイクル寿命のより長い非水電解液電池を構成することが可能となる。
前記一般式(3)で表される複合酸化物がW又はMoを含有していると、これによる充放電での結晶の膨張・収縮の割合を低減させることができ、電池の充放電サイクル特性の向上に繋がる。
前記一般式(3)で表される複合酸化物において、結晶格子中にAlを存在させると、結晶構造を安定化させることができ、その熱的安定性を向上させ得るため、より安全性の高い非水電解液電池を構成することが可能となる。また、Alが前記複合酸化物の粒子の粒界や表面に存在することで、その経時安定性や非水電解液との副反応を抑制することができ、より長寿命の非水電解液電池を構成することが可能となる。
Erが前記一般式(3)で表される複合酸化物の粒子の粒界や表面に存在すると、正極活物質表面での触媒性を低下させ、非水電解液の分解を抑制することができる。
前記一般式(3)で表される複合酸化物において、粒子中にBaといったアルカリ土類金属元素を含有させると、一次粒子の成長が促進され、前記複合酸化物の結晶性が向上するため、非水電解液との副反応が抑制されて、高温貯蔵時に膨れがより生じ難い電池を構成できるようになる。
前記一般式(3)で表される複合酸化物において、粒子中にTiを含有させると、LiNiO2型の結晶構造において、酸素欠損などの結晶の欠陥部に配置されて結晶構造を安定化させるため、前記複合酸化物の反応の可逆性が高まり、より充放電サイクル特性に優れた非水電解液電池を構成できるようになる。
前記一般式(3)で表される複合酸化物がZrを含有する場合、これが前記複合酸化物の粒子の粒界や表面に存在することで、前記複合酸化物の電気化学特性を損なうことなく、その表面活性を抑制する。また、Zrによる粒子表面の活性抑制効果によって、より貯蔵性に優れ長寿命の非水電解液電池を構成することが可能となる。
前記一般式(3)で表される複合酸化物には、Li、Ni及びM1以外の元素であるM2を含有させてもよいし、含有させなくてもよい。M2の元素の含有量を表すzは、0.05以下であれば本実施形態における効果を阻害しないが、より好ましくは0.01以下である。
前記正極活物質の組成分析は、ICP(Inductive Coupled Plasma)法を用いて以下のように行うことができる。先ず、測定対象となる正極活物質を0.2g採取して100mL容器に入れる。その後、純水5mL、王水2mL、純水10mLを順に加えて加熱溶解し、冷却後、更に純水で25倍に希釈してJARRELASH社製のICP分析装置“ICP-757”(製品名)を用いて、検量線法により組成を分析する。得られた結果から、組成量を導くことができる。
前記正極活物質は、前記リチウム含有ニッケル層状酸化物を1種類含有していてもよく、2種類以上含有していてもよい。
また、前記正極活物質には、求められる電池特性に応じて、前記リチウム含有ニッケル層状酸化物とは異なる他のリチウム含有複合状酸化物を含ませることができる。
前記リチウム含有ニッケル層状酸化物とは異なる前記リチウム含有複合状酸化物としては、例えば、LiCoO2などのリチウムコバルト酸化物;LiMnO2、Li2MnO3などのリチウムマンガン酸化物;LiMn2O4、Li4/3Ti5/3O4などのスピネル構造のリチウム含有複合酸化物;LiFePO4などのオリビン構造のリチウム含有複合酸化物;これらの酸化物を基本組成とし、その構成元素の一部を他の元素で置換した酸化物;などが挙げられる。これらのリチウム含有複合状酸化物も、1種類を使用していてもよく、2種類以上を使用してもよい。
前記正極活物質に、前記リチウム含有ニッケル層状酸化物とは異なるリチウム含有複合状酸化物を含む場合であっても、前記正極活物質は、前記リチウム含有ニッケル層状酸化物を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましい。これにより、前述の本実施形態の効果を良好に得ることができるからである。
正極合剤層に係る導電助剤には、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維;などの炭素材料の他、金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;銅、ニッケルなどの金属粉末類;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などを用いることができる。
正極合剤層に係るバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。
正極は、例えば、正極活物質、導電助剤及びバインダなどを含有する正極合剤を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶媒又は水に分散させて正極合剤含有塗料(ペースト、スラリーなど)を調製し、この正極合剤含有塗料を集電体の片面又は両面などに塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理を施す工程を経て製造することができる。
また、前記正極合剤を用いて成形体を形成し、この成形体の片面の一部又は全部を正極集電体と貼り合わせて正極としてもよい。正極合剤成形体と正極集電体との貼り合わせは、プレス処理などにより行うことができる。
正極の集電体としては、AlやAl合金などの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、Al箔が好適に用いられる。正極集電体の厚みは、10~30μmであることが好ましい。
正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質を80.0~99.8質量%とし、導電助剤を0.1~10質量%とし、バインダを0.1~10質量%とすることが好ましい。また、正極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、15~50μmであることが好ましい。
正極の集電体には、常法に従って正極リード体を設けることができる。
前記負極と組み合わせる正極の容量比は、充電終了時の負極におけるLiとAlとの合計を100原子%としたときのLiの含有量が15~48原子%となるように設定すればよく、更に、放電終了時に、負極にLi-Al合金のβ相が残存するように正極の容量比を設定することが望ましい。
<セパレータ>
セパレータは、80℃以上(より好ましくは100℃以上)170℃以下(より好ましくは150℃以下)において、その孔が閉塞する性質(即ち、シャットダウン機能)を有していることが好ましく、通常のリチウムイオン二次電池などの非水電解液電池などで使用されているセパレータ、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン製の微多孔膜を用いることができる。セパレータを構成する微多孔膜は、例えば、PEのみを使用したものやPPのみを使用したものであってもよく、また、PE製の微多孔膜とPP製の微多孔膜との積層体であってもよい。また、セパレータとして、熱可塑性樹脂を主体とする多孔質膜(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有する積層型のセパレータを使用してもよい。セパレータの厚みは、例えば、10~30μmであることが好ましい。
<電極体>
本実施形態の非水電解液電池において、正極と負極とは、例えば、セパレータを介して重ねて構成した電極体、前記電極体を更に渦巻状に巻回して形成された巻回電極体、又は複数の正極と複数の負極とを交互に積層した積層電極体の形態で使用される。
<非水電解液電池>
本実施形態の非水電解液電池は、例えば、電極体を外装体内に装填し、更に外装体内に非水電解液を注入して非水電解液中に電極体を浸漬させた後、外装体の開口部を封止することで製造される。外装体には、スチール製やアルミニウム製、アルミニウム合金製の外装缶や、金属を蒸着したラミネートフィルムで構成される外装体などを用いることができる。
本実施形態の非水電解液電池は、正極容量規制で構成されるため、充電電気量の制御や、充電電圧の制御などにより、充電終了時期を検出することができることから、あらかじめ充電回路側に充電終了条件を設定しておくことが可能である。
組み立て後の電池は、満充電とした状態で比較的高温(例えば60℃)でエージング処理を施すことが好ましい。前記のエージング処理によって負極においてLi-Al合金の形成が進むため、電池の放電容量や出力特性がより向上する。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。但し、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
(実施例1)
<正極の作製>
先ず、正極活物質であるLiNi0.33Co0.33Mn0.33O2で表されるリチウム含有ニッケル層状酸化物:97質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:1.5質量部と、バインダであるPVDF:1.5質量部とを、NMPに分散させた正極合剤含有スラリーを調製した。次に、この正極合剤含有スラリーを厚さ12μmのAl箔の両面に塗布し、乾燥し、プレス処理を行うことにより、Al箔集電体の両面に、それぞれ片面あたり9.8mg/cm2の質量の正極合剤層を形成した。更に、正極合剤層のプレス処理を行うことにより、長さ1208mm、幅42.5mmの大きさの帯状の正極を作製した。但し、スラリーの塗布面の一部には正極合剤層を形成せず、Al箔が露出する箇所を設け、そのAl箔が露出する箇所に、電池外部との導電接続のためのAl製のリード体を超音波溶接した。
<負極前駆体の作製>
厚さ80μm、長さ1088mm、幅44.5mmの大きさの帯状のAl箔を負極前駆体として用いた。但し、前記Al箔の端部に、電池外部との導電接続のためのNi製のリード体を超音波溶接した。
<電極体の作製>
前記正極と前記負極前駆体とを、総厚さ20μmのPP/PE/PP製の3層積層微多孔フィルムよりなるセパレータを介して積層し、渦巻き状に巻回した後、押しつぶして扁平状の巻回電極体を作製した。
<非水電解液の作製>
プロピレンカーボネート(PC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、プロピオン酸プロピル(PP)との体積比17:63:20の混合溶媒に、LiBF4を1.2mol/Lの濃度で溶解させ、更にアジポニトリルを5質量%、リン酸トリス(トリメチルシリル:TMSP)を2質量%となる量で添加することで、非水電解液を調製した。
<電池の組み立て>
103450サイズで板厚が0.8mmのAl合金製の外装缶に、前記巻回電極体及び前記非水電解液を封入することにより、定格容量が750mAhで、図2及び図3に示す角形の非水電解液電池を作製した。
ここで、図2及び図3について説明すると、図2は、本実施例の非水電解液電池を模式的に表す斜視図であり、図3は、図2のI-I線の断面図である。図3においては、電極体の内周側の部分及びセパレータは断面にしていない。図2及び図3において、正極1と負極2とはセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状の巻回電極体6として、角形(角筒形)の外装缶4に非水電解液と共に収容されている。但し、図3では、煩雑化を避けるため、正極1の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や、セパレータの各層、非水電解液などは図示していない。
外装缶4はアルミニウム合金製で電池の外装体を構成するものであり、この外装缶4は正極端子を兼ねている。そして、外装缶4の底部にはポリエチレンシートからなる絶縁体5が配置され、正極1、負極2及びセパレータ3からなる扁平状の巻回電極体6からは、正極1及び負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、外装缶4の開口部を封口するアルミニウム合金製の封口用の蓋板9にはポリプロピレン製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
そして、この蓋板9は外装缶4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、外装缶4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、蓋板9に非水電解液注入口14が設けられており、この非水電解液注入口14には、封止部材が挿入された状態で、溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている。更に、蓋板9には、電池の温度が上昇した際に内部のガスを外部に排出する機構として、開裂ベント15が設けられている。
(比較例1)
<非水電解液の作製>
プロピレンカーボネート(PC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)との体積比17:83の混合溶媒に、LiBF4を1.2mol/Lの濃度で溶解させ、更にアジポニトリルを5質量%、リン酸トリス(トリメチルシリル:TMSP)を2質量%となる量で添加することで、非水電解液を調製した。
上記非水電解液を用いた以外は、実施例1と同様にして非水電解液電池を作製した。
実施例1及び比較例1の非水電解液電池について、高温貯蔵後の電池の膨れを測定し、高温貯蔵特性を評価した。
先ず、実施例1及び比較例1の各電池について、240mAの定電流で、電圧が3.8Vになるまで定電流充電を行い、その後、3.8Vの定電圧で充電電流が12mAになるまで定電圧充電を行った。次に、充電後の各電池を定電流1000mAで2.0Vとなるまで放電を行った後、更に同様の充放電をもう1回行って、電池の化成処理を行った。
次に、上記化成処理後の各電池について、240mAの定電流で、電圧が3.8Vになるまで定電流充電を行い、その後、3.8Vの定電圧で充電電流が12mAになるまで定電圧充電を行った。その後、充電後の各電池を、100℃の恒温槽に入れて、7日間保持した。
続いて、7日間保持後の電池を恒温槽から取り出し、室温まで放冷させた後、240mAの定電流で、電圧が3.8Vになるまで補充電(1回目の補充電)を行った。その後、上記と同様の100℃の恒温槽中での7日間保持と補充電とを11回繰り返した。次に、合計12回目の補充電後の各電池を、100℃の恒温槽に入れて、7日間保持した。最後に、その7日間保持後の各電池(合計91日間、100℃の恒温槽で保持した電池)を恒温槽から取り出した直後、各電池の外装缶の厚さを測定し、化成工程前の各電池の外装缶の厚さとの差を電池の膨れ:Δtとして求めた。その結果を表1に示す。
表1から、実施例1の電池では、比較例1の電池に比べて、電池の膨れ:Δtが小さいことが分かる。これは、実施例1の電池に用いた非水電解液に含めたプロピオン酸プロピルは、酸化電位が高く、高温環境下でも酸化・分解されにくく、非水電解液の酸化・分解によるガス発生を抑制することができたためと考えられる。