JP7275399B2 - 芳香族ポリエーテルの製造方法及びこれに用いる炭酸カリウム - Google Patents
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Description
1.4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを、下記条件(A)及び(B)の少なくとも一つを満たす炭酸カリウムの存在下で反応させることを含む、芳香族ポリエーテルの製造方法。
(A)炭酸カリウムの嵩密度が1.2g/ml以下である。
(B)炭酸カリウムの平均粒子径をD(μm)、比表面積をS(m2/g)としたとき、D/S≦600を満たす。
2.前記炭酸カリウムが前記条件(A)を満たす、1に記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
3.前記炭酸カリウムが前記条件(B)を満たす、1又は2に記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
4.4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム及びフッ化セシウムのいずれも存在しない条件で反応させる、1~3のいずれかに記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
5.製造される芳香族ポリエーテルのメルトフローインデックスが100g/10min以下である、1~4のいずれかに記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
6.4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを反応させて芳香族ポリエーテルを製造するために用いる炭酸カリウムであって、下記条件(A)及び(B)の少なくとも一つを満たす、炭酸カリウム。
(A)炭酸カリウムの嵩密度が1.2g/ml(l:リットル)以下である。
(B)炭酸カリウムの平均粒子径をD(μm)、比表面積をS(m2/g)としたとき、D/S≦600を満たす。
尚、本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。数値範囲に関して記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
また、以下において記載される本発明に係る態様の個々の実施形態のうち、互いに相反しない2つ以上の実施形態を組み合わせることが可能であり、2つ以上の実施形態を組み合わせた実施形態もまた、本発明に係る態様の実施形態である。
本発明の一態様に係る芳香族ポリエーテルの製造方法は、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを、下記条件(A)及び(B)の少なくとも一つを満たす炭酸カリウムの存在下で反応させることを含む。
(A)炭酸カリウムの嵩密度が1.2g/ml以下である。
(B)炭酸カリウムの平均粒子径をD(μm)、比表面積をS(m2/g)としたとき、D/S≦600を満たす。
4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノンを反応させる工程を経て、これら化合物(モノマー単位)の共重合体として、芳香族ポリエーテルを得ることができる。
本発明の一態様に係る芳香族ポリエーテルの製造方法は、具体的にはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の製造方法であり、この製造方法により、具体的にはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を得ることができる。
本明細書において、「反応混合物」とは、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとの反応の開始から反応の完了までの反応系であり、好ましくは、これらのモノマーに加えて後述する溶媒を含む溶液の形態である。
具体的には、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを、炭酸カリウムの存在下、溶媒中で反応させると、炭酸カリウムの表面又は表面近傍でハイドロキノンが脱プロトン化し、カリウムに置換されたカリウム置換ハイドロキノンが生成すると考えられる。当該カリウム置換ハイドロキノンが4,4’-ジクロロベンゾフェノンに求核反応することで、PEEK等の芳香族ポリエーテルが生成する(芳香族求核置換反応)。上記の芳香族求核置換反応では、ハイドロキノンがカリウム置換される段階が、反応全体の律速段階となる。
本態様の一実施形態に係る芳香族ポリエーテルの製造方法では、前述した条件(A)及び(B)の少なくとも一つを満たす炭酸カリウムの存在下で、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを反応させることで、芳香族求核置換反応の律速段階である、炭酸カリウム表面又は表面近傍でのハイドロキノンの脱プロトン化反応及びカリウムによる置換反応が、円滑に進行すると推定される。これにより、カリウム置換ハイドロキノンによる4,4’-ジクロロベンゾフェノンへの求核反応の発生割合が高まり、得られる芳香族ポリエーテルにおいて、高い分子量を得られると推定される。
また、炭酸カリウムの嵩密度は、例えば、0.05~1.2g/ml、0.05~1.1g/ml、0.05~1.0g/ml、0.10~1.2g/ml、0.10~1.1g/ml、又は0.10~1.0g/mlであり得る。
炭酸カリウムの嵩密度が小さい程、得られる芳香族ポリエーテルにおいて高い分子量を得られる。炭酸カリウムの嵩密度が大きい程、容積が小さく扱いやすい。
炭酸カリウムの嵩密度は、実施例に記載の方法によって測定される値である。
また、D/Sの値は、例えば、1~600、1~550、1~500、2~600、2~550、2~500、5~600、5~550、又は5~500であり得る。
D/Sの値が小さい程、得られる芳香族ポリエーテルにおいて高い分子量を得られる。D/Sの値が大きい程、容積が小さく扱いやすい。
炭酸カリウムの平均粒子径D(μm)、比表面積S(m2/g)は、実施例に記載の方法によって測定される値である。
一実施形態において、芳香族ポリエーテルの製造方法は、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを、前記(B)の条件を満たす炭酸カリウムの存在下で反応させることを含む。
一実施形態において、芳香族ポリエーテルの製造方法は、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを、前記(A)の条件を満たし且つ前記(B)の条件を満たす炭酸カリウムの存在下で反応させることを含む。
mol比([DCBP]:[HQ])は、得られる芳香族ポリエーテルの分子量を制御する等の目的で適宜調整できる。
一実施形態において、mol比([DCBP]:[HQ])は、47.5:52.5~52.5:47.5、48.0:52.0~52.0:48.0、48.5:51.5~51.5:48.5、49.0:51.0~51.0:49.0又は49.5:50.5~50.5:49.5である。これにより、得られる芳香族ポリエーテルを、成形に好適な流動性を示す分子量に制御可能である。
4,4’-ジクロロベンゾフェノン(DCBP)のmol数は、ハイドロキノン(HQ)のmol数より大きくても、小さくても、同じでもよい。
溶媒は格別限定されず、例えば、中性極性溶媒を用いることができる。中性極性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジプロピルアセトアミド、N,N-ジメチル安息香酸アミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-イソプロピル-2-ピロリドン、N-イソブチル-2-ピロリドン、N-n-プロピル-2-ピロリドン、N-n-ブチル-2-ピロリドン、N-シクロへキシル-2-ピロリドン、N-メチル-3-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-3-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-3,4,5-トリメチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピペリドン、N-エチル-2-ピペリドン、N-イソプロピル-2-ピペリドン、N-メチル-6-メチル-2-ピペリドン、N-メチル-3-エチルピペリドン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、1-メチル-1-オキソスルホラン、1-エチル-1-オキソスルホラン、1-フェニル-1-オキソスルホラン、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン、ジフェニルスルホン等が挙げられる。
芳香族スルホン100質量部に対して、沸点が270~330℃である溶媒の含有量を0質量部以上1質量部未満とすることで、高分子量の芳香族ポリエーテルを、低コストで製造することができる。
上記濃度が高濃度である程、芳香族ポリエーテルの製造量が増す。上記濃度が低濃度である程、重合時における析出を抑制しやすい。
溶媒中における4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノンの合計の濃度(配合量基準)は、例えば1.0~6.0mol/l、好ましくは1.4~5.0mol/l、より好ましくは1.5~4.0mol/lである。
一実施形態において、溶媒中における炭酸カリウムの配合量は、溶媒中に配合するハイドロキノン100mol部に対して、100mol部以上であり、また、180mol部以下、160mol部以下、140mol部以下、又は120mol部以下である。
溶媒中における炭酸カリウムの配合量は、溶媒中に配合するハイドロキノン100mol部に対して、例えば100~180mol部、好ましくは100~160mol部、好ましくは100~140mol部、より好ましくは100~120mol部である。
炭酸カリウムの配合量が、100mol部以上であれば、反応時間を短縮できる。炭酸カリウムの配合量が、180mol部以下であれば、ゲル成分の生成を抑制できる。
例えば、炭酸カリウムと併せて、炭酸ナトリウムを用いても良い。
炭酸カリウムと併用可能なアルカリ金属炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
炭酸カリウムと併用可能なアルカリ金属塩は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
一実施形態において、溶媒中におけるアルカリ金属塩の合計の配合量は、溶媒中に配合するハイドロキノン100mol部に対して、100mol部以上であり、また、180mol部以下、160mol部以下、140mol部以下、又は120mol部以下である。
溶媒中におけるアルカリ金属塩の合計の配合量は、溶媒中に配合するハイドロキノン100mol部に対して、例えば100~180mol部、好ましくは100~160mol部、好ましくは100~140mol部、より好ましくは100~120mol部である。
アルカリ金属塩の合計の配合量が、100mol部以上であれば、反応時間を短縮できる。アルカリ金属塩の合計の配合量が、180mol部以下であれば、ゲル成分の生成を抑制できる。
本態様においては、これらの化合物を含まなくても高分子量の芳香族ポリエーテルを得ることができる。また、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム及びフッ化セシウムのいずれも存在しない条件で、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを反応させることで、得られる芳香族ポリエーテル中にこれらの化合物が残留することを回避でき、精製コストを削減できる。
一実施形態において、4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノンとの混合物を、150℃以上に昇温した後、昇温と温度保持とを複数回繰り返す。
上記各実施形態において、150℃以上まで昇温した後の昇温は、10℃/min以下の速度で行い得る。これにより、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンの反応における律速段階が円滑に進行し、得られる芳香族ポリエーテルにおいて、高い分子量を得られる。
(i)180~220℃の温度まで昇温し、昇温後の温度で0.5~2時間保持する工程、
(ii)230~270℃の温度まで昇温し、昇温後の温度で0.5~2時間時間保持する工程、及び、
(iii)280~320℃の温度まで昇温し、昇温後の温度で1~8時間時間保持する工程を含み得る。
前記(i)~(iii)における昇温は、例えば、10℃/min以下、5℃/min以下、又は3℃/min以下の速度で行い得る。前記(i)~(iii)における昇温は、例えば0.1~10℃/min以下であることが好ましい。これにより、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンの反応における律速段階が円滑に進行し、得られる芳香族ポリエーテルにおいて、高い分子量を得られる。
一実施形態において、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとの反応は、前述した工程(i)~工程(iii)からなる群から選択される少なくとも1つの工程を含むことができる。2つ又は3つの工程を含む場合、温度が低いものから順に実施することが好ましい。2つ又は3つの工程の間には、反応混合物を昇温することを含むことができる。
本明細書において、反応混合物の「最高温度」とは、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとの反応の開始から反応の完了までの過程において反応混合物が到達する最高温度(最高到達温度)である。
一実施形態において、上述した反応には、本発明の効果を損なわない範囲で、4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノン以外の他のモノマーが併用される。
一実施形態において、反応に供される全モノマーを基準として、4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノンの合計の割合(質量%)は、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上又は100質量%である。
4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ハイドロキノン、炭酸カリウム及び溶媒であるか、
4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ハイドロキノン、炭酸カリウム、炭酸カリウム以外のアルカリ金属塩及び溶媒である。
尚、「実質的に100質量%」の場合、不可避不純物を含んでもよい。
一実施形態において、mol比([1A]:[2A])は、47.5:52.5~52.5:47.5、48.0:52.0~52.0:48.0、48.5:51.5~51.5:48.5、49.0:51.0~51.0:49.0又は49.5:50.5~50.5:49.5であることが好ましい。
式(1A)で表される構造単位のmol数は、式(2A)で表される構造単位のmol数より大きくても、小さくても、同じでもよい。
一実施形態に係る芳香族ポリエーテルにおいて、式(2A)で表される構造単位が分子鎖の1以上の末端に配置される。この場合、該構造単位に結合する末端構造は例えば水素原子(H)等であり得る(末端構造が水素原子(H)であるとき、該構造単位中の酸素原子(O)と共に水酸基が形成され得る。)。
芳香族ポリエーテルの末端構造は、例えば、上述した塩素原子(Cl)や水酸基が水素原子(H)等に置き換わった構造等であってもよい。なお、末端構造はこれらの例に限定されず、任意の構造であり得る。
一実施形態において、芳香族ポリエーテルは、本発明の効果を損なわない範囲で、式(1A)~(2A)で表される構造単位以外の他の構造単位を含む。
さらに、一実施形態において、芳香族ポリエーテルのメルトフローインデックスは、1.0~100g/10minであることが好ましく、1.0~90g/10minであることがより好ましく、1.5~90g/10minであることがより好ましく、1.0~80g/10minであることがより好ましく、1.5~80g/10minであることがより好ましく、1.7~80g/10minであることが最も好ましい。これにより、芳香族ポリエーテルを押出成形や射出成形などに好適な粘度範囲にできる効果が得られる。
芳香族ポリエーテルのメルトフローインデックスは100g/10min以下であることが好ましい。メルトフローインデックスが100g/10min以下である芳香族ポリエーテルは、十分に高分子量化されており、例えば押出機によるペレタイズを好ましく適用できる。
芳香族ポリエーテルのメルトフローインデックスは、実施例に記載の方法によって測定される値である。
芳香族ポリエーテルのメルトフローインデックスは、反応混合物の温度条件(最高温度、温度保持時間、昇温速度など)や反応混合物における原料(4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンなど)の比率により調整できる。
芳香族ポリエーテルのメルトフローインデックスを、株式会社立山科学ハイテクノロジーズ製メルトインデクサ(L-220)を用いて、JIS K 7210-1:2014(ISO 1133-1:2011)に準拠し、下記の測定条件で測定する。
[測定条件]
・測定温度(樹脂温度):380℃
・測定荷重:2.16kg
・シリンダ内径:9.550mm
・ダイ内径:2.095mm
・ダイ長さ:8.000mm
・ピストンヘッドの長さ:6.35mm
・ピストンヘッドの直径:9.474mm
・ピストン重量:110.0g(上記測定荷重はピストン重量を含む)
・操作:
試料は事前に150℃で2時間以上乾燥する。試料をシリンダに投入し、ピストンを差し込み6分間予熱する。荷重を加え、ピストンガイドを外してダイから溶融した試料を押し出す。ピストン移動の所定範囲および所定時間(t[s])で試料を切り取り、重量を測定する(m[g])。次式からMIを求める。MI[g/10min]=600/t×m
芳香族ポリエーテルの固有粘度ηinhの好適範囲は、例えば、0.47~2.00dl/g、0.47~1.50dl/g、0.48~1.30dl/g又は0.50~1.20dl/gである。これにより、成形時の適切な溶融流動性を確保しつつ、十分な強度を示す成形材料が得られる。
尚、芳香族ポリエーテルの固有粘度ηinhは、以下のように求めることができる。
芳香族ポリエーテルを120℃で6時間、真空乾燥する。次いで、この芳香族ポリエーテルを濃硫酸(純度95質量%以上)に溶解し、芳香族ポリエーテルの濃度C[g/dl]を変えた複数の試料溶液を得る。その後、JIS K 7367-5:2000(ISO 1628-5:1998)に準拠して、25℃の恒温水槽(動粘度測定用恒温槽(トーマス科学器械(株)TV-5S))及びウベローデ粘度計(No.2)を用いて、溶媒(濃硫酸(純度95質量%以上))の流下時間t0[s]と、試料溶液の流下時間t[s]とを測定し、次式から還元粘度ηsp/cを求める。還元粘度ηsp/c[dl/g]=(t-t0)/(t0×C)
各試料溶液の濃度C[g/dl]を横軸、還元粘度ηsp/cを縦軸として二次元プロットして一次相関式を求め、濃度ゼロ(切片)における還元粘度ηsp/cの値を固有粘度ηinhとして求めることができる。
芳香族ポリエーテルの還元粘度ηsp/cの好適範囲は、例えば、0.36~1.50dl/g、0.36超1.50dl/g以下、0.37~1.50dl/g、0.40~1.50dl/g、0.46~1.30dl/g又は0.48~1.20dl/gである。これにより、成形時の適切な溶融流動性を確保しつつ、十分な強度を示す成形材料が得られる。
芳香族ポリエーテルの還元粘度ηsp/cは、実施例に記載の方法によって測定される値である。
この実施例に記載の方法において、測定用の硫酸溶液(試料溶液)における芳香族ポリエーテル濃度は0.1g/dlである。
芳香族ポリエーテルの還元粘度ηsp/cは、反応混合物の温度条件(最高温度、温度保持時間、昇温速度など)や反応混合物における原料(4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンなど)の比率により調整できる。下記還元粘度η’sp/cも同様である。
芳香族ポリエーテルを120℃で6時間、真空乾燥する。次いで、この芳香族ポリエーテルを濃硫酸(純度98質量%)に溶解し、芳香族ポリエーテルの濃度C[g/dl]が0.1g/dlとなるようにメスフラスコで調製し、試料溶液を得る。次いで、JIS K 7367-5:2000(ISO 1628-5:1998)に準拠して、25℃の恒温水槽(動粘度測定用恒温槽(トーマス科学器械(株)TV-5S))及びウベローデ粘度計(No.2)を用いて、溶媒(濃硫酸(純度98質量%))の流下時間t0[s]と、試料溶液の流下時間t[s]とを測定し、次式から還元粘度ηsp/cを求める。還元粘度ηsp/c[dl/g]=(t-t0)/(t0×C)
芳香族ポリエーテルの還元粘度η’sp/cの好適範囲は、例えば、0.36超1.50dl/g以下、0.37~1.50dl/g、0.40~1.50dl/g、0.46~1.30dl/g又は0.48~1.20dl/gである。これにより、成形時の適切な溶融流動性を確保しつつ、十分な強度を示す成形材料が得られる。
芳香族ポリエーテルの結晶化温度(Tc)は、示差走査熱量測定により以下の手順で測定される値とする。
試料(芳香族ポリエーテル)5mgをアルミニウム製のパンに計り取り、示差走査熱量計(DSC)での温度走査測定を行う。測定は20℃から420℃まで20℃/分での昇温、420℃から20℃まで-20℃/分での降温、20℃から420℃まで20℃/分での昇温の順で行う。このうち降温で観測された結晶化の発熱ピークを読み取って結晶化温度(Tc)を求める。上記測定にはパーキンエルマー社製「DSC8500」を使用する。
芳香族ポリエーテルの塩素原子(Cl)及びフッ素原子(F)含有量は燃焼イオンクロマトグラフ法にて測定する。燃焼イオンクロマトグラフ法は、試料を燃焼炉内に導入し、酸素を含む燃焼ガス中で燃焼させ、発生したガスを吸収液に捕集させた後、その吸収液をイオンクロマトグラフにて分離定量するものである。定量値は、既知濃度のリファレンスから作成した検量線を元に求める。定量値は、塩素原子(Cl)の原子量を35.5、フッ素原子(F)の原子量を19.0としてmol換算した値である。以下に測定条件を示す。
<試料燃焼>
燃焼装置:株式会社三菱化学アナリテック製AQF-2100H
燃焼炉設定温度:前段800℃、後段1100℃
アルゴン流量:400ml/min
酸素流量:200ml/min
吸収液:過酸化水素水
<イオンクロマトグラフ>
分析装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製Integrion
カラム:ガードカラムとして(Dionex IonPac AG12A)及び分離カラムとして(Dionex IonPac AS12A)を連結して使用(カラムは共にDIONEX社製)
溶離液:Na2CO3(2.7mmol/l)+NaHCO 3 (0.3mmol/l)
流速:1.5ml/min
カラム温度:30℃
測定モード:サプレッサ方式
検出器:電気伝導度検出器
ここで、芳香族ポリエーテルにおける前記フッ素原子の含有量aは、前記芳香族ポリエーテルの分子構造中に含まれるフッ素原子の含有量a1と、前記芳香族ポリエーテルの分子構造中には含まれないが遊離成分として同伴されるフッ素原子の含有量a2との合計である。遊離成分を構成するフッ素原子が、芳香族ポリエーテルにおけるフッ素原子の含有量a2となる。
芳香族ポリエーテルがフッ素原子(F)を実質的に含まないとは、芳香族ポリエーテルのフッ素原子の含有量aが2mg/kg未満であることをいう。
上限は格別限定されず、例えば10000mg/kg以下、9000mg/kg以下、8000mg/kg以下、7000mg/kg以下又は6000mg/kg以下であり得る。
芳香族ポリエーテルにおける塩素原子の含有量bは、例えば2~10000mg/kg、好ましくは700~9000mg/kg、より好ましくは1000~8000mg/kgである。
ここで、芳香族ポリエーテルにおける前記塩素原子の含有量bは、前記芳香族ポリエーテルの分子構造中に含まれる塩素原子の含有量b1と、前記芳香族ポリエーテルの分子構造中には含まれないが遊離成分として同伴される塩素原子の含有量b2との合計である。遊離成分を構成する塩素原子が、芳香族ポリエーテルにおける塩素原子の含有量b2となる。
芳香族ポリエーテル合成時の原料として、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを用い、ハイドロキノンの使用量に対する4,4’-ジクロロベンゾフェノンの使用量の割合を小さくする(例えばハイドロキノン100mol部に対して4,4’-ジクロロベンゾフェノン100mol部未満にする)ことによって、芳香族ポリエーテルにおける塩素原子の含有量b1を0mg/kg、あるいはこれに近い含有量b1とすることができる。
芳香族ポリエーテルにおける前記塩素原子の含有量b2は、0mg/kg以上500mg/kg以下であることが好ましく、0mg/kg以上400mg/kg以下であることが好ましく、0mg/kg以上300mg/kg以下であることが好ましい。
一実施形態において、芳香族ポリエーテルにおける前記塩素原子の含有量b2に関して、前記遊離成分は、塩化カリウム及び4,4’-ジクロロベンゾフェノンの一方又は両方である。
<芳香族ポリエーテルに遊離成分である塩化カリウムとして同伴される塩素原子の測定方法>
固体試料(芳香族ポリエーテル)をブレンダーで粉砕してアセトン、水の順で洗浄し、180℃の防爆乾燥機で乾燥する。尚、芳香族ポリエーテルを生成する反応の直後の反応混合物(生成物)を試料として用いる場合は、反応終了後、生成物を冷却固化して上記固体試料とする。使用するブレンダーは格別限定されず、例えばワーリング社製7010HSを用いることができる。
乾燥した試料約1gを秤量し、そこに超純水100mlを加え、液温50℃で20分間撹拌し、放冷後、濾過することで、固形分と水溶液とに分離する。水溶液をイオンクロマトグラフィーで分析し、水溶液中の塩化物イオンを、既知濃度のリファレンスから作成した検量線に基づいて定量する。イオンクロマトグラフの条件は下記のとおりである。
<イオンクロマトグラフ>
分析装置:Metrohm 940 IC Vario
カラム:ガードカラムとして(Metrosep A Supp 5 Guard)及び分離カラムとして(Metrosep A Supp 4)を連結して使用(カラムは共にMetrohm社製)
溶離液:Na2CO3(1.8mmol/l)+NaHCO 3 (1.7mmol/l)
流速:1.0ml/min
カラム温度:30℃
測定モード:サプレッサ方式
検出器:電気伝導度検出器
<芳香族ポリエーテルに遊離成分である4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして同伴される塩素原子の測定方法>
固体試料(芳香族ポリエーテル)をブレンダーで粉砕してアセトン、水の順で洗浄し、180℃の防爆乾燥機で乾燥する。尚、芳香族ポリエーテルを生成する反応の直後の反応混合物(生成物)を試料として用いる場合は、反応終了後、生成物を冷却固化して上記固体試料とする。使用するブレンダーは格別限定されないが、例えばワーリング社製7010HSを用いることができる。
乾燥した試料約1gをナスフラスコに秤量し、そこにアセトン10mlと沸騰石を加えウォーターバスで5時間加熱還流する。室温に放冷後、ろ過により固形分を除去する。得られたアセトン溶液をエバポレーターにて乾固させたのち、ホールピペットでアセトン10mlを加えて再溶解する。これをガスクロマトグラフィーで測定することで、試料中の4,4’-ジクロロベンゾフェノンの量(mg/kg)を算出する。芳香族ポリエーテルに遊離成分である4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして同伴される塩素原子の量(mg/kg)は、以下の計算式より換算する。
芳香族ポリエーテルに遊離成分である4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして同伴される塩素原子の量(mg/kg)=試料中の4,4’-ジクロロベンゾフェノンの量(mg/kg)÷251.11(4,4’-ジクロロベンゾフェノンの分子量)×35.45(塩素の原子量)×2
4,4’-ジクロロベンゾフェノンの定量値は、既知濃度のリファレンスから作成した検量線を元に求めた。以下に測定条件を示す。
<ガスクロマトグラフ>
分析装置:Agilent Technologies 7890B
GCカラム:Agilent Technologies DB-5MS(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
注入口温度:250℃
オーブン温度:100℃(1min)→30℃/min→250℃(10min)
流速:1ml/min
注入量:1μl
スプリット比:40:1
検出器:FID
検出器温度:250℃
一実施形態において、芳香族ポリエーテルは、前記条件(β)を満たす。
一実施形態において、芳香族ポリエーテルは、前記条件(α)を満たし且つ前記条件(β)を満たす。
本態様に係る芳香族ポリエーテルを用いて、例えば、該芳香族ポリエーテルを含むペレットを製造することができる。このペレットを耐熱性、耐溶剤性、絶縁性等を必要とする各種成形材料として用いることができる。このペレットを用いて、例えば金型を用いた射出成形等の成形方法により、成形体を製造することができる。また、このペレットを用いて、例えば押出成形、プレス成形、シート成形、フィルム成形等の成形方法により成形体を製造することができる。
本発明の一態様である芳香族ポリエーテルの用途は格別限定されない。芳香族ポリエーテルは、例えば、航空宇宙用途、ギア、ベアリング等のような摺動部材、各種樹脂組成物等として好適である。
本態様に係る芳香族ポリエーテルを含む成形体は、例えば、航空宇宙用成形体、摺動部材用成形体、3Dプリンター用フィラメントとして好適である。また、該芳香族ポリエーテルを含む成形体は、例えば、航空宇宙用射出成形体、摺動部材用射出成形体として好適である。
本発明の一態様に係る炭酸カリウムは、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを反応させて芳香族ポリエーテルを製造するために用いる炭酸カリウムであって、下記条件(A)及び(B)の少なくとも一つを満たす。
(A)炭酸カリウムの嵩密度が1.2g/ml以下である。
(B)炭酸カリウムの平均粒子径をD(μm)、比表面積をS(m2/g)としたとき、D/S≦600を満たす。
一態様に係る炭酸カリウムを、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを反応させて芳香族ポリエーテルを製造する方法に用いることで、高い分子量を有する芳香族ポリエーテルを製造することができる。
後述する炭酸カリウムk1~k5の嵩密度を、以下に示す方法で測定した。
0.1質量%の精度で秤量した約50gの炭酸カリウム(質量m(g))を圧密せずに、乾燥させた100mlメスシリンダー(最小目盛単位:1ml)に静かに入れた。粉体層の上面を圧密せずに注意深くならし、ゆるみ嵩体積V0(ml)を最小目盛単位まで読み取り、下記式より嵩密度を算出した。
嵩密度(g/ml)=m/V0
尚、ゆるみ嵩体積V0が100mlを超える場合は、試料とする炭酸カリウムの質量mを減じて、ゆるみ嵩体積V0が100ml以下の容量になるよう調整して、ゆるみ嵩体積V0を読み取り、嵩密度を算出する。
後述する炭酸カリウムk1~k5の平均粒子径Dを、以下に示す方法で測定した。
マイクロトラック・ベル(株)製のCAMSIZERを用いて、乾式法により粒度分布測定を行った。試料(炭酸カリウム)を振動フィーダーで測定部に落として、カメラで粒子を撮影して粒子径を測定した。観察した画像を処理する際に、粒子画像の短径からのデータを処理した数値を用いて、測定装置に具備されたプログラムによる自動計算により平均粒子径Dを算出した。
後述する炭酸カリウムk1~k5の比表面積Sを、以下に示す方法で測定した。
(i)前処理
試料(炭酸カリウム)の前処理として、マイクロトラック・ベル社製のBELPREP vacIIを用いて、100℃、1時間以上の加熱真空排気を実施し、真空度が10Pa(75mTorr)に到達したら前処理完了とした。
(ii)測定
マイクロトラック・ベル社製のBELSORP-miniIIを用いて、液体窒素温度での窒素吸着法による比表面積測定を行った。窒素導入量の設定は、本装置の「簡易モード」で行い、目標相対圧は、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30とした。
(iii)解析
解析ソフトとしてBEL Masterを用いた。解析方法はJIS Z 8830:2013に準拠し、相対圧が高い方の測定結果から4点以上を用いて、BET多点法により比表面積Sを算出した。
芳香族ポリエーテルA-1の合成
4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンを反応させて、芳香族ポリエーテルA-1を得た。具体的には以下の方法で合成した。
撹拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管に接続した水回収容器を備えた300mlの四口フラスコに、4,4’-ジクロロベンゾフェノン41.203g(0.164モル)、ヒドロキノン17.804g(0.162モル)、炭酸カリウムk1(富士フィルム和光純薬株式会社、微細粉末)25.707g(0.186モル)及びジフェニルスルホン140.0gを入れ、窒素ガスを流通させた。
150℃に昇温した後、30分間かけて200℃に昇温し60分間保持した。次に30分間かけて250℃まで昇温して60分間保持し、更に30分間かけて300℃に昇温して2時間保持した。
反応終了後、生成物をブレンダー(ワーリング社製、7010HS)で粉砕し、アセトン、水の順に洗浄を行ってから、180℃の乾燥機で乾燥し、粉末状の芳香族ポリエーテルA-1を得た。
芳香族ポリエーテルA-2の合成
炭酸カリウムk1に代えて、炭酸カリウムk2(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)25.700g(0.186モル)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、芳香族ポリエーテルA-2を得た。
芳香族ポリエーテルA-3の合成
炭酸カリウムk1に代えて、炭酸カリウムk3(高杉製薬株式会社製、試薬特級)25.708g(0.186モル)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、芳香族ポリエーテルA-3を得た。
芳香族ポリエーテルA-4の合成
炭酸カリウムk1に代えて、炭酸カリウムk4(ジェットミル粉砕品)25.6798g(0.168モル)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、芳香族ポリエーテルA-4を得た。
炭酸カリウムk4(ジェットミル粉砕品)は、以下のようにして得た。
まず、窒素を充填したグローブボックス内で炭酸カリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、試薬特級)を乳鉢で粉砕した後、目開き500μmのメッシュを用いてふるい分けし、通過分として粗粉砕品を得た。続いて、同グローブボックス内に設置したジョットミル(アイシンナノテクノロジーズ株式会社製、ナノジェットマイザーNJ-50-C型)を用いて元圧力2MPa,処理量120g/h条件にて粗粉砕品を粉砕し、ジェットミル粉砕品を得た。
芳香族ポリエーテルA-5の合成
炭酸カリウムk1に代えて炭酸カリウムk5(Yee Fong Chemical&Industrial Co.,Ltd.製)25.4300g(0.184モル)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、芳香族ポリエーテルA-5を得た。
(1)メルトフローインデックス
実施例及び比較例で得られた芳香族ポリエーテルのメルトフローインデックスを、株式会社立山科学ハイテクノロジーズ製メルトインデクサ(L-227)を用いて、ASTM D 1238-13に準拠し、樹脂温度380℃、荷重2.16kgにおいて測定した。
濃硫酸(純度95質量%以上)に、芳香族ポリエーテルを濃度が0.1g/dlとなるように溶解して得られた溶液について、25℃においてJIS K7367-5:2000に準拠しウベローデ粘度計を用いて還元粘度ηsp/cを測定した。
表1より、本発明に係る芳香族ポリエーテルの製造方法によれば、メルトフローインデックス(MI)が低下しており、高い分子量を有する芳香族ポリエーテルが得られることがわかる。
この明細書に記載の文献、及び本願のパリ条約による優先権の基礎となる出願の内容を全て援用する。
Claims (7)
- 4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを、下記条件(A)及び(B)を満たす炭酸カリウムの存在下で反応させることを含む、芳香族ポリエーテルの製造方法。
(A)炭酸カリウムの嵩密度が1.2g/ml以下である。
(B)炭酸カリウムの平均粒子径をD(μm)、比表面積をS(m2/g)としたとき、D/S≦600を満たす。 - 4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム及びフッ化セシウムのいずれも存在しない条件で反応させる、請求項1に記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
- 4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを、ジフェニルスルホン中で反応させる、請求項1又は2に記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
- 製造される芳香族ポリエーテルのメルトフローインデックスが100g/10min以下である、請求項1~3のいずれかに記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
- 前記炭酸カリウムが、D/S<221を満たす、請求項1~4のいずれかに記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
- 4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを反応させて芳香族ポリエーテルを製造するために用いる炭酸カリウムの使用であって、前記炭酸カリウムが下記条件(A)及び(B)を満たす、炭酸カリウムの使用。
(A)炭酸カリウムの嵩密度が1.2g/ml以下である。
(B)炭酸カリウムの平均粒子径をD(μm)、比表面積をS(m2/g)としたとき、D/S≦600を満たす。 - D/S<221を満たす、請求項6に記載の炭酸カリウムの使用。
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