JP7256249B2 - コグ付きvベルト - Google Patents

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Description

本発明は、摩擦伝動により動力を伝達するのに有用な摩擦伝動用のコグ付きVベルトに関し、特に大規模な農業機械などの負荷が大きな使用環境で有効に用いられる大型のコグ付きVベルトに関する。
機械装置等の動力伝達機構に用いる伝動ベルトは、動力の伝達の形態から摩擦伝動ベルトと噛み合い伝動ベルトに大別され、摩擦伝動ベルトとしては、Vベルト、Vリブドベルト、平ベルトなどが知られている。
また、Vベルトには、その一例として摩擦伝動面(V字状側面)が露出したゴム層であるローエッジタイプのベルト(ローエッジVベルト)が存在する。ローエッジタイプのベルトには、コグを設けないローエッジVベルトの他、ベルトの内周面のみにコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルトや、ベルトの内周面及び外周面の両方にコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルト(ローエッジダブルコグドVベルト)というコグ付きVベルトがある。
またVベルトには、耐側圧性や伝達力を向上する観点からは、ベルト全体の厚みを大きく(すなわち摩擦伝動面の面積を大きく)することが要求される。一方、耐屈曲疲労性や伝達効率を向上する観点からは、ベルト全体の厚みを薄くするなどして、屈曲性を良好に保つことが要求される。コグ付きVベルトのコグは、このような二律背反の要求に応えるために設けるものである。つまり、コグ山によって摩擦伝動面を大きく確保して、耐側圧性や伝達力を向上するとともに、コグ谷によって屈曲性を良好に保つ工夫がなされている。
ところで、コグ付きVベルトは、プーリへの巻き掛かり前後におけるベルトの屈曲と解放の一連の動作(屈曲変形)が連続的に繰り返される。詳しくは、プーリに巻き掛けられたベルトは、心線を中心に屈曲するため、心線より外周側では曲げ変形に伴う曲げ応力が生じ、心線より内周側では圧縮変形に伴う圧縮応力が生じた状態で歪む。そして、走行に伴ってプーリから離れるにつれて、該歪みが解放される。ベルト走行中において、この歪んだ状態(湾曲形状)と解放された状態(平面形状)とが繰り返される。この一連の動作(屈曲変形)においては、コグ谷の屈曲がコグ山の屈曲よりも大きくなる。そのため、コグ谷において繰り返し屈曲される圧縮ゴム層の疲労が大きくなり、コグ山に比べてコグ谷の圧縮ゴム層に亀裂が発生し易くなる。特に、コグ谷の底部(コグ谷の最深部を含む)は、屈曲変形に伴う応力が集中しやすく、コグ谷の底部の応力を緩和させてコグ谷の亀裂を抑制するための各種方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、コグ谷の底部の曲線が、複数の曲率の円弧が連続する曲線で形成され、複数の曲率の円弧のうちコグ谷の底部の最深部の曲線を形成する円弧の曲率が最も小さく(曲率ゼロを除く)形成されているとともに、コグ山の側面に近い曲線を形成する円弧の曲率を大きく形成したコグドベルトが開示されている。
また、特許文献2には、各コグの突出方向における先端部と、各溝部の底部とは断面円弧状の曲面で形成され、溝部底部の断面形状における曲率半径は、コグ先端部の断面形状における曲率半径よりも大きく、心線が埋設された心線埋設部と、該心線埋設部の内周面側に設けられた圧縮部と、を備え、コグ及び溝部が圧縮部に設けられているコグ付きVベルトが開示されている。
日本国特許第3733005号公報 日本国特許第6227847号公報
本発明で対象とするコグ付きVベルトは、最大規模の農業機械等の動力伝達機構(特に、ベルト式変速装置)に好適な大型サイズのコグ付きVベルトである。そのベルトのサイズは、例えば、アメリカ農業生物工学エンジニア協会(ASABE)の規格品の中で、HL~HQ(ISO3410:1989に記載の呼称)相当のベルトであって、ベルト幅(上幅)が44.5~76.2mm、ベルト厚みが19.8~30.5mmの規格品があり、また、例えばベルト厚みが36mmの規格外品もある。
このような最大規模の動力伝達機構に適用するコグ付きVベルトは、特許文献1、2で想定されている規模よりも、更に大きな規模に適用されるものであって、この用途や使用環境に応じた独自の製品設計が必要になる。そのため、特許文献1、2の設計思想を転用するだけでは、本発明で対象とするコグ付きVベルトの使用環境には適用できない。
すなわち、小型(小規模)の使用環境に属するベルト式変速装置は、径が小さいプーリへの巻き掛けに対応できることを優先して、高度な屈曲性を確保する必要がある。一方、大型(大規模)の使用環境に属するベルト式変速装置では、屈曲性は適度に確保した上で、動力伝達機構の負荷水準に耐用すべく、耐側圧性や伝達力を高度に確保する必要がある。
具体的には、大型(大規模)の使用環境に適用するコグ付きVベルトは、プーリから受ける側圧が莫大になるため、十分耐え得るだけの耐側圧性を確保するために、ベルト厚み(摩擦伝動面の面積)を大きくしたり、ゴム層を高硬度化(高弾性率化)するといった対応が必要になる。
又は、ベルトに掛かる張力も莫大になるため、ベルトの弾性率を高くするといった対応が必要になる。なお、ベルトの弾性率は、抗張体である心線によって支配されるため、ベルトの弾性率を高くするには、剛性の大きい心線が用いられる。具体的に、心線の剛性を大きくするには、例えば弾性率の高い素材を用いたり、径を太くする他、心線の周回本数を増やすため、ベルト幅を増やしたり、幅が増やせない場合には間隔を狭めて密に配列したりする。そのため、心線を埋設した部位が剛直になってしまう。
そして、いずれの対応も、ベルトの屈曲性が損なわれる方法であって、屈曲変形によって受けるコグ谷の応力は莫大なものになる。
実際に、HL~HQの最大級の大型サイズのコグ付きVベルトに対して、特許文献1や2に記載のコグ形状(例えば、コグ谷の底部の最深部の円弧R、及びコグ先端部の側面に近い曲線を形成する円弧R、及びコグ先端部の形状)を、単純に相似的に拡大して適用しても、本発明で対象とする大型(大規模)の使用環境では、亀裂抑制の効果が充分に得られない。
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、最大規模の農業機械等の動力伝達機構(特に、ベルト式変速装置)に好適な大型サイズのコグ付きVベルトにおいて、高度な耐側圧性や伝達力を確保し、かつ、屈曲変形に伴う応力が集中しやすいコグ谷の底部(コグ谷の最深部を含む)の応力を緩和させて、コグ谷の亀裂発生を抑制することができるコグ付きVベルトを提供することを目的とする。
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) ベルト長手方向に沿ってコグ山とコグ谷が交互に多数設けられたコグ部が、少なくともベルト内周側に設けられ、
ベルト厚みHが19~36mm、コグ高さHが14~19mmである、コグ付きVベルトであって、
前記ベルト長手方向の断面における前記コグ谷の断面形状は、
連続する複数の円弧が組み合わされてなる底部と、
ベルト厚み方向に対して傾斜する前記コグ谷の側壁と、を備え、
前記底部を構成する複数の円弧は、前記コグ谷の最深部から離れるにつれて、曲率半径が小さくなり、
前記複数の円弧は、前記コグ谷の最深部を通り、前記コグ谷の最深部と両側の前記側壁との3点に接する仮想円よりも大径、かつ、7~10mmの曲率半径Rを有する第1円弧を含む、
ことを特徴とするコグ付きVベルト。
この構成によれば、最大規模の農業機械等の動力伝達機構に好適な大型サイズのコグ付きVベルトにおいても、高度な耐側圧性や伝達力を確保し、かつ、屈曲変形に伴う応力が集中しやすいコグ谷の底部の応力を緩和かつ分散させて、コグ谷の亀裂発生を抑制することができる。また、底部が、コグ谷の最深部から離れるにつれて曲率半径が小さくなっている複数の円弧によって構成されているため、コグ谷の底部を曲率半径Rの第1円弧のみで形成した場合と比較して、コグ部におけるベルト長手方向の長さ(コグ幅)を広く取ることができ、プーリとの接触面積を広く確保できる。
(2) 前記複数の円弧は、前記第1円弧、及び、前記第1円弧と前記側壁の延長線とを、それらに接するように曲線状に繋いだ第2円弧から構成され、
前記第2円弧の曲率半径Rは、1.8~2.5mmである、
(1)に記載のコグ付きVベルト。
この構成によれば、第2円弧の曲率半径Rが、第1円弧の曲率半径Rよりも小さい1.8~2.5mmであるため、屈曲時に最も応力が集中するコグ谷の最深部への応力が分散され、コグ谷の亀裂をより効果的に抑制できる。
(3) ベルト幅方向に間隔をおいて配列された心線を含む芯体層、前記芯体層のベルト外周側に積層された伸張ゴム層、及び前記芯体層のベルト内周側に積層された圧縮ゴム層を有し、
前記心線の中心部から前記コグ谷の最深部までの距離である心-谷厚みHが6~13mm、かつ、前記ベルト厚みHに対する前記心-谷厚みHの比率が20~40%である、
(1)又は(2)に記載のコグ付きVベルト。
この構成によれば、プーリと接触する接触面積(耐側圧性)と、屈曲時の応力低減との良好なバランスが得られる。
(4) 前記コグ山の側面及び頂部は、直線で形成される、
(1)~(3)のいずれかに記載のコグ付きVベルト。
この構成によれば、摩擦伝動面の面積(プーリとの接触面積)を広く確保することができ、プーリに対する耐側圧性や摩擦による伝達力が向上する。
(5) 大型農業機械のベルト式変速装置の伝動ベルトに使用される、
(1)~(4)のいずれかに記載のコグ付きVベルト。
この構成によれば、大型農業機械のベルト式変速装置の伝動ベルトに好適に使用できる。
本発明のコグ付きVベルトによれば、高度な耐側圧性や伝達力が要求される最大規模の農業機械の動力伝達機構(特に、ベルト式変速装置)などの使用環境に適用するべく、ベルトの屈曲性が損なわれるおそれのある大型サイズのコグ付きVベルトであっても、高度な耐側圧性や伝達力を確保し、かつ、屈曲変形に伴う応力が集中しやすいコグ谷の底部(コグ谷の最深部を含む)の応力を緩和させて、コグ谷の亀裂発生を抑制することができる。
図1は、本発明に係るコグ付きVベルトをベルト幅方向で切断して示す斜視図である。 図2は、図1に示すコグ付きVベルトの長手方向断面図である。 図3は、図2に示すコグ谷の形状を示す拡大図である。 図4Aは、コグ付きVベルトの3次元有限要素法の解析モデルである。 図4Bは、コグ付きVベルトに屈曲及び側圧を付加した状態を示す図である。 図4Cは、その解析結果を示す図である。 図5Aは、駆動プーリの直径より従動プーリの直径が大きい第1の2軸走行試験機の概略図である。 図5Bは、駆動プーリと従動プーリの直径が同じ大きさの第2の2軸走行試験機の概略図である。
以下、本発明に係る一実施形態のコグ付きVベルトを図面に基づいて詳細に説明する。以下においては、図1に示すように、コグ付きVベルトの長手方向をベルト長手方向、該ベルト長手方向に直交し、複数の心線が並ぶ方向をベルト幅方向、ベルト長手方向及びベルト幅方向に直交する方向をベルト厚み方向として説明する。
[1.コグ付きVベルトの基本構成]
本実施形態に係るローエッジコグドVベルト(コグ付きVベルト)10は、最大規模の農業機械の動力伝達機構(特に、ベルト式変速装置)などに使用される大型サイズのベルトである。図1に示すように、ローエッジコグドVベルト10は、ベルト本体の内周側10に、ベルト長手方向に沿ってコグ山11とコグ谷12とが交互に並んで形成されたコグ部13を有している。ローエッジコグドVベルト10は、積層構造を有しており、ベルト外周側10からベルト内周側10(コグ部13が形成された側)に向かって、補強布14、伸張ゴム層15、芯体層16及び圧縮ゴム層17が順次積層された構成を有する。すなわち、ローエッジコグドVベルト10は、芯体層16のベルト外周側10に伸張ゴム層15が積層され、芯体層16のベルト内周側10に圧縮ゴム層17が積層されている。
ベルト幅方向における断面形状は、ベルト外周側10からベルト内周側10に向かって、ベルト幅が最大となる部分である上幅Wが小さくなる台形形状となっている。さらに、芯体層16内には、芯体となる心線18が、ベルト幅方向に間隔をおいて配列された状態で埋設されており、コグ部13は、図示しないコグ付き成形型により、圧縮ゴム層17に形成されている。
なお、本実施形態に係るコグ付きVベルト10の上幅Wとベルト厚みHとの関係、すなわち、ベルト厚みHに対する上幅Wの比率(「上幅W/ベルト厚みH」又は「アスペクト比」とも言う。)については特に限定されないが、耐側圧性を確保する観点から、好ましくは1.2~3.8であり、より好ましくは1.5~2.5である。
[2.コグ付きVベルトの各部に使用可能な材料]
続いて、ローエッジコグドVベルト(コグ付きVベルト)10の各部に使用可能な材料を列記する。
<2-1.圧縮ゴム層>
圧縮ゴム層17は、第1のゴム成分を含むゴム組成物(加硫ゴム組成物)で形成されている。
(第1のゴム成分)
第1のゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴムを用いることが好ましく、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴムなど]、エチレン-α-オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。これらのゴム成分は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
これらのうち、エチレン-α-オレフィンエラストマー、クロロプレンゴムが好ましく、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性、耐候性、耐亀裂性などの耐久性を向上できる点から、エチレン-α-オレフィンエラストマー[エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)など]が特に好ましい。
第1のゴム成分がエチレン-α-オレフィンエラストマーを含む場合、第1のゴム成分中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合は、省燃費性及び耐久性を向上できる点から、50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上(特に90~100質量%)であり、100質量%(エチレン-α-オレフィンエラストマーのみ)が最も好ましい。第1のゴム成分がクロロプレンゴムを含む場合のクロロプレンゴムの割合も、上記エチレン-α-オレフィンエラストマーの割合と同様である。
(第1の短繊維)
圧縮ゴム層17を形成するゴム組成物は、第1の短繊維を更に含んでいてもよい。第1の短繊維としては、ポリアミド短繊維(ポリアミド6短繊維、ポリアミド66短繊維、ポリアミド46短繊維、アラミド短繊維など)、ポリアルキレンアリレート短繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維、ポリエチレンナフタレート短繊維など)、液晶ポリエステル短繊維、ポリアリレート短繊維(非晶質全芳香族ポリエステル短繊維など)、ビニロン短繊維、ポリビニルアルコール系短繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)短繊維などの合成短繊維や、綿、麻、羊毛などの天然短繊維、及びカーボン短繊維などの無機短繊維などが挙げられる。これら第1の短繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、アラミド短繊維、PBO短繊維が好ましく、アラミド短繊維が特に好ましい。
第1の短繊維は、繊維状に延伸した繊維を所定の長さにカットした短繊維であってもよい。第1の短繊維は、プーリからの側圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため(すなわち、耐側圧性を高めるため)、ベルト幅方向に配向して圧縮ゴム層17に埋設されることが好ましい。また、表面の摩擦係数を低下させてノイズ(発音)を抑制したり、プーリとの擦れによる摩耗を低減できるため、圧縮ゴム層17の表面より短繊維を突出させるのが好ましい。
第1の短繊維の平均繊維長は、屈曲性を低下させることなく耐側圧性及び耐摩耗性を向上できる点から、例えば0.1~20mm、好ましくは0.5~15mm(例えば0.5~10mm)、更に好ましくは1~6mm(特に2~4mm)程度であってもよい。第1の短繊維の繊維長が短すぎると、列理方向の力学特性を十分に高めることができずに耐側圧性及び耐摩耗性が低下するおそれがあり、逆に長すぎると、ゴム組成物中の短繊維の配向性が低下することにより屈曲性が低下するおそれがある。
第1の短繊維の単糸繊度は、屈曲性を低下させることなく高い補強効果を付与できる点から、例えば1~12dtex、好ましくは1.2~10dtex(例えば1.5~8dtex)、更に好ましくは2~5dtex(特に2~3dtex)程度とするのがよい。単糸繊度が大きすぎると、配合量当たりの耐側圧性や耐摩耗性が低下するおそれがあり、単糸繊度が小さすぎるとゴムへの分散性が低下することにより屈曲性が低下するおそれがある。
第1の短繊維は、第1のゴム成分との接着力を高めるために、慣用の方法で接着処理(又は表面処理)されていてもよい。表面処理の方法としては、慣用の表面処理剤を含む処理液などで処理する方法などが挙げられる。表面処理剤としては、例えば、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とゴム又はラテックス(L)とを含むRFL液[例えば、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とが縮合物(RF縮合物)を形成し、前記ゴム成分、例えば、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含むRFL液]、エポキシ化合物、ポリイソシアネート化合物、シランカップリング剤、加硫ゴム組成物(例えば、表面シラノール基を含み、ゴムとの化学的結合力を高めるのに有利な含水珪酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンなどを含む加硫ゴム組成物など)などが挙げられる。これらの表面処理剤は、単独で又は二種以上組み合わせてもよく、短繊維を同一又は異なる表面処理剤で複数回に亘り順次に処理してもよい。
第1の短繊維の割合は、第1のゴム成分100質量部に対して、例えば5~50質量部、好ましくは5~40質量部(例えば8~35質量部)、更に好ましくは10~30質量部(特に20~30質量部)程度である。第1の短繊維が少なすぎると耐側圧性及び耐摩耗性が低下し、多すぎると加工性が低下したり、ベルトの屈曲性が低下することで耐久性が低下するおそれがある。
(他の成分)
圧縮ゴム層17を形成するゴム組成物は、加硫剤又は架橋剤(又は架橋剤系)(硫黄系加硫剤など)、共架橋剤(ビスマレイミド類など)、加硫助剤又は加硫促進剤(チウラム系促進剤など)、加硫遅延剤、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、補強剤(カーボンブラックや、含水シリカなどの酸化ケイ素)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、軟化剤(パラフィンオイルやナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。
<2-2.伸張ゴム層>
ローエッジコグドVベルト10は、第2のゴム成分を含むゴム組成物(加硫ゴム組成物)で形成された伸張ゴム層15を更に含んでいてもよい。
第2のゴム成分としては、第1のゴム成分で例示されたゴム成分を利用でき、好ましい態様も第1のゴム成分と同一である。第2のゴム成分は、第1のゴム成分と異なるゴム成分であってもよいが、通常、第1のゴム成分と同一である。
伸張ゴム層15を形成するゴム組成物も、耐側圧性及び耐摩耗性をより向上できる点から、第2の短繊維を含むのが好ましい。圧縮ゴム層17だけでなく、伸張ゴム層15も短繊維として第2の短繊維を含むと、耐側圧性及び耐摩耗性が更に向上する。第2の短繊維としては、第1の短繊維で例示された短繊維を利用でき、好ましい態様及び割合も第1の短繊維と同一である。第2の短繊維は、第1の短繊維と異なる短繊維であってもよいが、通常、第1の短繊維と同一である。伸張ゴム層15を形成するゴム組成物も、圧縮ゴム層17を形成するゴム組成物で例示された他の成分を更に含んでいてもよい。
<2-3.芯体層>
芯体層16に含まれる心線18は、通常、ベルト幅方向に所定の間隔で配列した撚りコードである。心線18は、ベルト長手方向に延びて配設され、ベルト長手方向に平行な複数本の心線18が配設されていてもよいが、生産性の点から、通常、ローエッジコグドVベルト10の略ベルト長手方向に平行に、所定のピッチで並列的に延びて螺旋状に配設されている。螺旋状に配設する場合、ベルト長手方向に対する心線18の角度は、例えば5°以下であってもよく、ベルト走行性の点から、0°に近いほど好ましい。また、心線18のピッチは、2.0~2.5mmの範囲に設定されることが好ましく、2.2~2.4mmの範囲に設定されることがより好ましい。
芯体層16は、配列密度が調整された心線18を含んでいればよく、心線18のみで形成されてもよいが、層間の剥離を抑制し、ベルト耐久性を向上できる点から、心線18が埋設された加硫ゴム組成物で形成された芯体層16(接着ゴム層)であるのが好ましい。
心線18が埋設された加硫ゴム組成物で形成された芯体層16は、通常、接着ゴム層35と称され、ゴム成分を含む加硫ゴム組成物で形成された層内に、心線18が埋設されている(図2を参照)。接着ゴム層35は、伸張ゴム層15と圧縮ゴム層17の間に介在して、伸張ゴム層15と圧縮ゴム層17とを接着するとともに、接着ゴム層35には心線18が埋設されている。心線18の埋設形態は、特に限定されず、その一部が接着ゴム層35に埋設されていればよく、耐久性を向上できる点から、接着ゴム層35に心線18が埋設された形態(すなわち、心線18の全体が接着ゴム層に完全に埋設された形態)が好ましい。
(心線)
心線18としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。
心線18を構成する繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2-4アルキレン-C6-14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維や、綿、麻、羊毛などの天然繊維、及び炭素繊維などの無機繊維などが汎用される。これらの繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレートなどのC2-4アルキレン-C6-12アリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、ポリアミド繊維(アラミド繊維など)などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(特に、ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、ポリアミド繊維(特に、アラミド繊維)が好ましい。
繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば2000~10000デニール(特に4000~8000デニール)程度であってもよい。マルチフィラメント糸は、例えば100~5000本程度のモノフィラメント糸を含んでいてもよく、好ましくは500~4000本、更に好ましくは1000~3000本のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。
心線18は、例えば、マルチフィラメント糸を使用した撚り(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚り)コードからなる。心線18の平均線径(撚りコードの直径)は、例えば、0.5~3.0mmであってもよく、好ましくは1.0~2.5mm、更に好ましくは1.5~2.3mm、より好ましくは1.7~2.1mm(特に1.8~2.0mm)程度であってもよい。心線18が細すぎると、屈曲性は向上するものの、ベルトの張力が低下して、最悪の場合ベルトが切断する。また心線18が太すぎると、ベルトの耐屈曲性が低下したり、これに起因してベルトが過度に発熱を起こすおそれがある。
心線18は、接着ゴム層35中に埋設させる場合、接着ゴム層35を形成する加硫ゴム組成物との接着性を向上させるため、表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、前述した圧縮ゴム層17の短繊維の表面処理剤として例示された表面処理剤などが挙げられる。表面処理剤は、単独で又は二種以上組み合わせてもよく、同一又は異なる表面処理剤で複数回に亘り順次に処理してもよい。心線18は、少なくともレゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理液(RFL液)で接着処理するのが好ましい。
(接着ゴム層)
接着ゴム層35を形成する加硫ゴム組成物を構成するゴム成分としては、圧縮ゴム層17のゴム成分として例示されたゴム成分を利用でき、好ましい態様も圧縮ゴム層17のゴム成分と同様である。接着ゴム層35を形成するゴム組成物も、圧縮ゴム層17を形成するゴム組成物で例示された短繊維や他の成分を更に含んでいてもよい。
<2-4.補強布>
ローエッジコグドVベルト10において、補強布14を使用する場合、伸張ゴム層15の表面に補強布14を積層する形態に限定されず、例えば、伸張ゴム層15及び/又は圧縮ゴム層17の表面(コグ部13の表面)に補強布14を積層する形態であってもよく、伸張ゴム層15及び/又は圧縮ゴム層17に補強層を埋設する形態(例えば、日本国特開2010-230146号公報に記載の形態など)であってもよい。
補強布14は、例えば、織布、広角度織布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)などで形成でき、必要であれば、上記接着処理、例えば、RFL液で処理(浸漬処理など)したり、接着ゴムを布材に擦り込むフリクションや、前記接着ゴムと前記布材とを積層(コーティング)した後、伸張ゴム層15及び/又は圧縮ゴム層17の表面に積層してもよい。
[3.コグ付きVベルトの具体的構造]
続いて、本実施形態に係るローエッジコグドVベルト(コグ付きVベルト)10の特徴部である具体的構造について説明する。図2に示すように、コグ部13のベルト長手方向の断面形状は、ベルト幅方向に亘って同一寸法に形成されている。また、図2及び図3に示すように、コグ谷12の断面形状は、連続する複数の円弧(図2及び図3で示す実施形態では、第1円弧21及び一対の第2円弧22の3つの円弧)が組み合わされてなる底部25と、ベルト厚み方向(図2中、一点鎖線で示す方向)に対してコグ角度θ(片側)で傾斜する、コグ谷12の側壁23とを繋ぐことで形成される。
ローエッジコグドVベルト10が屈曲していない状態において、底部25を構成する複数の円弧(第1円弧21及び第2円弧22)の曲率半径は、コグ谷12の最深部Aから離れるにつれて小さくなっている。
具体的に、図3に示すように、第1円弧21は、ベルト長手方向に直交する鉛直線VL上に中心Oを有し、コグ谷12の最深部Aを通り、コグ谷12の最深部Aと両側の側壁23との3点に接する仮想円VCよりも大径の円Cによって形成される。すなわち、第1円弧21の曲率半径Rは、仮想円VCの半径Rよりも大きくなっている。
また、本実施形態における第2円弧22は、第1円弧21の曲率半径Rより小さい曲率半径Rを有する円Cによって、第1円弧21と、コグ谷12の側壁23の延長線とを、それらに接するように曲線状に繋いで形成される。
上述したように、コグ付きVベルト10は、ベルト厚みHが19~36mm、コグ高さHが14~19mmの大型サイズのベルトに適用されることから、第1円弧21の曲率半径Rは、7~10mmの範囲に設定され、好ましくは7.5~9.5mmの範囲に設定される。また、第2円弧22の曲率半径Rは、好ましくは1.5~2.8mmの範囲に設定され、より好ましくは1.8~2.5mmの範囲に設定される。これにより、コグ谷12の最深部Aの曲率が最も小さくなる(すなわち、曲率半径は最も大きくなる)ため、ベルト屈曲時にコグ谷12の最深部Aに集中する応力を低減し、かつ応力を分散させることができ、コグ谷12の最深部Aへの亀裂発生を抑制できる。
なお、心線18の中心部からコグ谷12の最深部Aまでの距離である心-谷厚みHが6~13mm、ベルト厚みHに対する心-谷厚みHの比率が20~40%となるように形成されることが好ましい。これにより、プーリと接触する接触面積(耐側圧性)と、屈曲時の応力低減との良好なバランスが得られる。
さらに、コグ部13のピッチPは、24~28mmの範囲に設定されることが好ましく、25~27mmの範囲に設定されることがより好ましい。また、コグ角度(片側)θは、5~15°の範囲に設定されることが好ましく、8~12°の範囲に設定されることがより好ましい。
一方、本実施形態において、コグ山11は、直線状の頂部24と、ベルト長手方向の両側における直線状の側面(コグ谷の側壁23)とを繋ぐことで形成される。すなわち、コグ山11の側壁23及び頂部24はいずれも直線で形成されている。これにより、摩擦伝動面の面積(プーリとの接触面積)を広く確保することができ、プーリに対する耐側圧性や摩擦による伝達力が向上する。
なお、コグ山11の側壁23と頂部24との交点には、C0.5mm~C2.0mmのC面取りや、R0.5mm~R2.0mmのR面取りを施すことが、エッジ部の欠けを防止する上で好ましい。
[4.コグ付きVベルトの製造方法]
次に、ローエッジコグドVベルト(コグ付きVベルト)10の製造方法について説明する。ローエッジコグドVベルト10の製造方法は、特に限定されず、各層の積層工程(ベルトスリーブの製造方法)に関しては、慣用の方法を利用できる。
<4-1.第1の製造方法>
例えば、少なくともベルト内周側10にコグ部13が形成されたローエッジコグドVベルト10を作製する場合、円筒状の金型として、円筒の外周側表面にコグ形状に対応する凹凸面が刻設されたコグ付き型などが利用できる。
該円筒状の金型(コグ付き型)に、予めコグ形状を形成した圧縮ゴム層用未加硫シート、第1の接着ゴム層用未加硫シート(下接着ゴム)を順次に巻き付けて積層し、芯体となる心線を螺旋状にスピニングした後、[必要に応じて、上記第1の接着ゴム層用シートと同じ第2の接着ゴム層用未加硫シート(上接着ゴム)、]伸張ゴム層用未加硫シート、外周側の補強布をこの順に巻き付けて未加硫の積層体を得る。その後、該積層体を装着した金型を、積層体の外周側からジャケットを被せた状態で加硫装置に設置して、温度120℃~200℃(特に150℃~180℃)程度で加硫を行い、各ゴム層のゴム成分が架橋して硬化するとともに、積層体が接着して一体化することで、内周側にコグ部が形成されたベルトスリーブ(加硫スリーブ)を調製する。得られた加硫スリーブを、カッターなどを用いて所定幅に切断し、更に所定のV角度が得られるように側面をV状に切断加工することで、内周側にコグ部が形成されたローエッジコグドVベルト10を形成する。
なお、コグ部の形成する手段としては、日本国特開2018-35939号公報に記載の方法のように、コグ形状に対応する凹凸面が刻設されていない平坦な円筒状金型を用いて、内周側表面にコグ部が形成されないベルトスリーブ(加硫スリーブ)を調製した後、切削工具やウォータジェット加工機などを用いて、加硫スリーブから除去加工を行ってコグ部を形成してもよい。
<4-2.第2の製造方法>
金型として、コグ形状に対応する凹凸面が刻設されていない平坦な円筒状の金型を用い、第1の製造方法とは逆の順序で、補強布、伸張ゴム層用未加硫シート、第2の接着ゴム層用未加硫シート(上接着ゴム)、心線、第1の接着ゴム層用未加硫シート(下接着ゴム)、予めコグ形状を形成した圧縮ゴム層用未加硫シートを巻き付けて、未加硫の積層体を得る。
その積層体の外周側に、コグ形状に対応する凹凸面が内周側表面に形成された円筒状のゴム母型を被せる。そして、ゴム母型の外周側からジャケットを被せた状態で加硫装置に設置して、温度120℃~200℃(特に好ましくは150℃~180℃)程度で加硫することにより、外周側にコグ形状が形成されたベルトスリーブ(加硫スリーブ)を調製する。得られた加硫スリーブをカッターなどを用いて所定幅に切断し、更に所定のV角度が得られるように側面をV状に切断加工した後、外周側と内周側とを反転させることにより、内周側にコグ部が形成されたローエッジコグドVベルト10を得る。
以下、本発明の効果を確認するため、3次元有限要素法(FEM)による解析、及びベルト耐久走行試験を行った。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[(1)3次元有限要素法(FEM)による解析]
以下の解析では、ベルト厚みHが30mm、上幅Wが71mm(アスペクト比が2.4)の大型サイズのコグ付きVベルト10を用いて、第1円弧21の曲率半径R、第2円弧22の曲率半径R、コグ角度(片側)θを変化させた3次元モデルを作成し、コグ付きVベルト10が屈曲し、かつプーリとの接触面にかかる側圧を与えた場合に、コグ谷12に生じる応力を有限要素法解析によって、比較検証した。
コグ付きVベルト10の3次元の有限要素法解析モデルは、図4Aに示すように、伸張ゴム層15及び圧縮ゴム層17にあたるゴム部33と、心線18にあたる心線層34及び心線層34の上下に配置される接着ゴム層35で構成される芯体層16と、を有する。
このモデルは、コグ付きVベルト10の1ピッチ分をモデル化しており、その両端の面(面31及び面32)は面内に拘束されている(図4B参照)。また、ベルトの幅方向においては、幅中心に対して対称であることから、幅方向の半分のみをモデル化し、対称面は面内拘束されている。
そして、心線層34のモデルは、曲げ剛性と引っ張り剛性で、剛性に大きな差があることから、ゴム部33と接着ゴム層35とが同じソリッド要素であることに加えて、心線層34内の厚み方向における中立面においては、トラス要素を配している。これによって、曲げ剛性についてはソリッド要素に受け持たせ、引張剛性についてはトラス要素に受け持たせている。
図4Bに示すように、一方の面1(31)をその面内に固定した上で、他方の面2(32)を平面状態に保持したまま、コグ付きVベルト10が屈曲するように傾け、所定の曲率になるように(具体的には、屈曲時のプーリピッチ径(すなわち、ベルトの心線層34における巻き掛け径)が直径300mmとなるように)屈曲させる。さらに、プーリ面36(剛体)を、コグ付きVベルト10の側面に配置し、当該プーリ面36に所定の側圧(プーリのベルトへの押付け力として14000N)を与えて、コグ付きVベルト10に側圧を付与した。
ここで、解析に用いた物性値として、ソリッド要素に対しては超弾性材料モデルであるMooney-Rivlinの材料特性(C10,C01)であり、ゴム部は、C10=1.82MPa、C01=0.455MPa、接着ゴム層35は、C10=1.26MPa、C01=0.314MPa、心線層34のソリッド要素部は、C10=6.67MPa、C01=1.67MPaに設定した。
また、心線層34のトラス要素部は線形材料モデルであり、ヤング率=28929MPa、ポアソン比=0.3、モデル上の線形材料一本当たりの断面積=3.14mm(ただし、端の心線は半分の1.57mm)に設定し、FEM解析を実施して、コグ谷12の最深部Aに発生する応力をMises応力で評価した。
また、この解析により、図4Cに示すように、コグ付きVベルト10に屈曲と側圧とが同時に作用した場合、コグ山11は僅かに座屈変形を起こすことが分かった。そして、コグ谷12に発生する応力は、コグ付きVベルト10の幅方向の端部が最も低くなり、ベルト幅方向の中央部でMises応力が最大値を示すことが分かった。また、コグ付きVベルト10の側面部にプーリからの側圧がかかることによって、コグ部13もベルト幅方向に圧縮される。このコグ部13のベルト幅方向の圧縮量が大きいほど、コグ付きVベルト10の摩耗や、心線18のポップアウトといった不具合が発生しやすくなる。今回の解析評価では、このベルト幅方向の圧縮の程度を表わす指標として、ベルト幅減少率で表わすことにした。ベルト幅減少率とは、プーリからの側圧が働く前の上幅Wに対する、圧縮量の比率(いわゆる圧縮率と同義)である。
(有限要素法解析結果の合否判定基準)
以下に示す実施例及び比較例として検証した種々のコグ形状を有するコグ付きVベルト10に関して、3次元の有限要素モデルを作成して解析を行い、コグ谷12の最深部Aに発生するMises応力の最大値Xと、幅減少率の最大値Yを算出した。Mises応力の最大値X、幅減少率の最大値Yは、いずれも小さい方が優れており、以下の基準に基づいて優劣を判定した。
(Mises応力の最大値Xの判定基準)
A判定:4.0MPa以下
B判定:4.0MPa超4.5MPa以下
C判定:4.5MPa超
(ベルト幅減少率の最大値Yの判定基準)
A判定:5.6%以下
B判定:5.6%超5.8%以下
C判定:5.8%超
(有限要素法解析による検証結果)
比較検証した実施例及び比較例のコグ付きVベルト10について、各ベルトの仕様と、有限要素法解析によって算出したコグ谷12の最深部Aに発生するMises応力値の最大値X及びベルト幅減少率の最大値Yとを、総合判定結果とともに表1~表6の各上段に示す。
なお、各ベルトの仕様につき、表1~表6については、ベルト厚みH、コグ高さH、心-谷厚みH、第1円弧の曲率半径R、第2円弧の曲率半径R、仮想円の半径R、コグ角度θ及びコグピッチPを示し、表4~表6については更に、ベルト厚みに対する心-谷厚みの比率H/H(%)、ベルト上幅W、及びベルト厚みに対する上幅の比率(W/H)を示す。
表1~表6に示す総合判定は、以下の基準に基づいてAランク~Cランクに分類した。
(総合判定)
Aランク:X,Yの両方がA判定である場合
Bランク:C判定ではないが、X,Yの一方又は両方がB判定である場合
Cランク:X,Yの一方又は両方がC判定である場合
Figure 0007256249000001
Figure 0007256249000002
Figure 0007256249000003
Figure 0007256249000004
Figure 0007256249000005
Figure 0007256249000006
(表1の説明)
表1は、実施例及び比較例ともに、ベルト厚みH=30mm、コグ高さH=17mm、心-谷厚みH=9mm、コグピッチP=26.0mmのローエッジコグドVベルト10において、第1円弧21の曲率半径R、第2円弧22の曲率半径R、及びコグ角度θを変化させたときのコグ谷12の最深部Aに発生する、Mises応力の最大値X(MPa)及びベルト幅減少率Y(%)を、総合判定結果とともに示す。
表1では、Mises応力の最大値X及びベルト幅減少率の最大値Yの両方がA判定であり、総合判定でAランクとなった実施例1のベルトに対して、Rを変化させた場合の、コグ谷12の最深部Aに発生するMises応力の最大値X及びベルト幅減少率の最大値Yの解析結果を示す。第1円弧21の曲率半径Rが本発明で規定する数値範囲(R:7~10mm)を満足する、R=8.5mm(実施例2)、R=9.5mm(実施例3)の場合には、実施例1と同様に総合判定でAランクとなった。
一方、曲率半径Rが本発明で規定する数値範囲より小さい比較例1(R=6.5mm)では、Mises応力の最大値Xが大きいため、総合判定でCランクに、また、曲率半径Rが本発明で規定する数値範囲より大きい比較例2(R=10.5mm)では、ベルト幅減少率の最大値Yが大きいため、総合判定でCランクとなった。また、曲率半径Rが実施例2と同じ8.5mmであっても、曲率半径Rを設けない比較例3では、Mises応力の最大値Xが大きいため、総合判定でCランクとなった。
比較例4は、実施例2に対してき曲率半径Rを極度に小さくした例であり、コグ谷12の最深部Aが円弧状ではなく、ほぼ三角形の頂部に近い形状にした例である。比較例4では、プーリとの接触面積が大きくなるため、ベルト幅減少率(耐側圧性)の面では優れる反面、Mises応力の最大値Xが極度に大きくなったため、総合判定でCランクとなった。
比較例5は、特許文献1の実施例に記載されているローエッジコグドVベルトのコグ部の輪郭形状をそのまま維持して、本発明で対象とする大型サイズのベルト(ベルト厚みH=30.0mm)となるよう、各部寸法を相似形(厚み方向に比例計算)で拡大したローエッジコグドVベルトである。
すなわち、特許文献1の実施例に記載されているローエッジコグドVベルトは、小型サイズに分類される寸法であって、具体的には、表1に「参考」として記載した各部寸法(すなわち、ベルト厚みHが13.2mm、コグ高さHが6.8mm、心-谷厚みHが3.1mm、コグ谷の最深部における円弧の曲率半径Rが2.8mm、Rが1.0mm)を有する。
この小型サイズのコグ付きVベルトに対して、コグ部の輪郭形状をそのまま維持(すなわち、転用)して、本発明で対象とする大型サイズのベルト(厚みH=30.0mm)となるよう、各部寸法を相似形で拡大(拡大率:30/13.2=約2.272倍)したローエッジコグドVベルトを、比較例5とした。なお、相似拡大により、R=約6.4mm,R=約2.3mmとなる。
また、コグ高さH及び心-谷厚みHについては、輪郭形状の維持に関して直接関わりはないため、相似拡大の対象とはしなかった。すなわち、コグ高さH及び心-谷厚みHは、各実施例との比較のため、各実施例と同様に、それぞれH=17mm及びH=9mmとした。さらに、コグ角度θについては、「参考」と同じく8.5°とし、コグピッチPについては各実施例と同じく26.0mmとした。また、コグ山は、特許文献1のベルトと同じく円弧で構成した。
比較例5では、Mises応力の最大値Xが多少小さくなる反面、ベルト幅減少率の最大値Yが極度に大きくなったため、総合判定でCランクとなった。比較例5は、ベルトの各部寸法が比較例1と近似しているにも係わらず、ベルト幅減少率の最大値Yの判定結果が、比較例1と大きく異なる結果となった。これは、比較例1のコグ山は直線で形成されているのに対し、比較例5のコグ山は、円弧で構成されており、摩擦伝動面の面積が小さいことによると考えられる。
(表2の説明)
表2は、実施例2のローエッジコグドVベルト10をベースにして、第1円弧21の曲率半径R=8.5mmで一定として、第2円弧22の曲率半径Rを変化させた場合のコグ谷12の最深部Aに発生するMises応力の最大値X,ベルト幅減少率の最大値Yを解析した結果を示している。
第2円弧22の曲率半径Rが1.8mmの場合(実施例5)及び2.5mmの場合(実施例6)では、いずれも、本発明で規定する好ましい数値範囲(R:1.8~2.5mm)を満足するため、Mises応力の最大値X,ベルト幅減少率の最大値Yの両方がA判定であり、総合判定でAランクとなった。
一方、曲率半径Rが1.5mmと小さい場合(実施例4)では、ベルト幅減少率の最大値Yが幾分大きくなり、B判定となったため、総合判定でBランクとなった。また、曲率半径Rが2.8mmと大きい場合(実施例7)では、Mises応力の最大値Xが幾分大きくなってB判定となったため、総合判定でBランクとなった。
(表3の説明)
表3は、実施例2のローエッジコグドVベルト10をベースにして、第1円弧21の曲率半径R及び第2円弧の曲率半径Rの両方を変化させた場合の、コグ谷12の最深部Aに発生するMises応力の最大値X,ベルト幅減少率の最大値Yを解析した結果を示している。
実施例8(曲率半径R=7.5mm,曲率半径R=1.8mm)及び実施例9(曲率半径R=9.5mm,曲率半径R=2.5mm)では、いずれも本発明で規定する数値範囲(R:7~10mm)及び本発明で規定する好ましい数値範囲(R:1.8~2.5mm)を満足するため、Mises応力の最大値X,ベルト幅減少率の最大値Yの両方がA判定であり、総合判定でAランクとなった。
(表4の説明)
表4は、実施例2のローエッジコグドVベルト10をベースにして、心-谷厚みHを変化させた場合の、コグ谷12の最深部Aに発生するMises応力の最大値X,ベルト幅減少率の最大値Yを解析した結果を示している。
実施例10(心-谷厚みH=7mm,H/H=23%)及び実施例11(心-谷厚みH=11mm,H/H=37%)では、いずれも、本発明で規定する好ましい数値範囲(H=6~13mm,H/H=20~40%)を満足するため、Mises応力の最大値X,ベルト幅減少率の最大値Yの両方がA判定であり、総合判定でAランクとなった。
(表5の説明)
表5は、心-谷厚みHを更に小さくした場合の傾向を確認するため、実施例1~11のローエッジコグドVベルト10よりも若干小型(ベルト厚みH=27mm,ベルト上幅W=44mm)のローエッジコグドVベルト10において、心-谷厚みHを変化させた場合の、コグ谷12の最深部Aに発生するMises応力の最大値X,ベルト幅減少率の最大値Yを解析した結果を示している。
実施例14(心-谷厚みH=8mm,H/H=30%)及び実施例13(心-谷厚みH=6mm,H/H=22%)では、いずれも、本発明で規定する好ましい数値範囲(H=6~13mm,H/H=20~40%)を満足するため、Mises応力の最大値X,ベルト幅減少率の最大値Yの両方がA判定であり、総合判定でAランクとなった。
一方、実施例12(心-谷厚みH=5mm,H/H=19%)では、ベルト幅減少率の最大値Yが幾分大きくなり、B判定となったため、総合判定でBランクとなった。
(表6の説明)
表6は、心-谷厚みHを更に大きくした場合の傾向を確認するため、実施例1~11のローエッジコグドVベルト10よりも大型(ベルト厚みH=36mm,ベルト上幅W=77mm)のローエッジコグドVベルト10において、心-谷厚みHを変化させた場合の、コグ谷12の最深部Aに発生するMises応力の最大値X,ベルト幅減少率の最大値Yを解析した結果を示している。
実施例15(心-谷厚みH=10mm,H/H=28%)及び実施例16(心-谷厚みH=13mm,H/H=36%)では、いずれも、本発明で規定する好ましい数値範囲(H=6~13mm,H/H=20~40%)を満足するため、Mises応力の最大値X,ベルト幅減少率の最大値Yの両方がA判定であり、総合判定でAランクとなった。
一方、実施例17(心-谷厚みH=15mm,H/H=42%)では、Mises応力の最大値Xが幾分大きくなり、B判定となったため、総合判定でBランクとなった。
したがって、有限要素法(FEM)解析による表1~表3に示す比較検証の結果から、以下のことがいえる。コグ谷12の最深部Aの円弧(第1円弧21)の曲率半径Rが7~10mm(実験データ上は7.5~9.5mm)であって、コグ谷12の最深部Aから両側に連続して繋がる円弧(第2円弧22)の曲率半径RがRより小さく、好ましくは1.8~2.5mmである場合には、ベルト屈曲時にコグ谷12の最深部Aに発生する応力が低減され、かつ耐側圧性が確保されて、ベルト幅減少率が小さくなる。
参考として示した特許文献1の小型サイズのコグ付きVベルトに対して、コグ部13の輪郭形状をそのまま維持して、単調に、各部寸法を相似形(厚み方向に比例計算)で拡大した比較例5のコグ付きVベルト10(R=6.4mm,R=2.3mm)では、コグ谷12の最深部Aに発生するMises応力の最大値Xが4.1MPaとやや小さくなる反面、ベルト幅減少率の最大値Yが7.6%と大きくなる。すなわち、比較例5のベルトは、屈曲時の応力低減の効果はあるものの、プーリとの接触面積が充分に確保できないため、大型(大規模)の使用環境での動力伝達機構の負荷の水準に耐用できるだけの耐側圧性に欠けている。
このように、大型(大規模)の使用環境への適用を想定していない特許文献1や特許文献2で記載されたコグ形状を、単調に相似的に拡大して適用するだけでは、大型(大規模)の使用環境での動力伝達機構の負荷の水準に必要な耐側圧性や伝達力が確保できない。したがって、使用環境に応じて本発明の各条件を満足する製品設計が必要であるといえる。
また、表4~表6に示す比較結果から、コグ谷12の最深部Aの円弧(第1円弧21)の曲率半径Rが7~10mmであって、コグ谷12の最深部Aから両側に連続して繋がる円弧(第2円弧22)の曲率半径RがRより小さいコグ付きVベルトにおいて、心-谷厚みHが6~13mm、かつ、ベルト厚みHに対する心-谷厚みHの比率が20~40%である場合には、特に、ベルト屈曲時にコグ谷12の最深部Aに発生する応力が低減され、かつ耐側圧性が確保されて、ベルト幅減少率が更に小さくなる。
[(2)ベルト耐久走行試験]
大型サイズ(ベルト厚みH=19~36mm)のコグ付きVベルトとして、ベルト内周側10にコグ部13が形成された、ベルト厚みH=30mmのローエッジコグドVベルトにおいて、上記[(1)3次元有限要素法(FEM)による解析]で示した各実施例及び比較例(実施例1~17及び比較例1~5)のコグ形状を有するローエッジコグドVベルトをそれぞれ作製し、各ベルトに耐久走行試験を行って耐久性を比較検証した。
以下に、ベルト耐久走行試験の実施例及び比較例で使用したベルト材料の詳細を以下に示す。
(ゴム層用シート)
圧縮ゴム層及び伸張ゴム層はゴム組成物A、接着ゴム層はゴム組成物Bを、それぞれバンバリーミキサーで混練りした後、混練りゴムをカレンダーロールに通して圧延する方法で、圧縮ゴム層用未加硫シート、伸張ゴム層用未加硫シート、接着ゴム層用未加硫シートを作製した。表7に、圧縮ゴム層、伸張ゴム層及び接着ゴム層のゴム組成物の組成を示す。
Figure 0007256249000007
[使用材料]
EPDM:ダウ・デュポン社製「NORDEL(登録商標)IP4640」、エチレン含有量55質量%、エチリデンノルボルネン含有量4.9質量%
アラミド短繊維:帝人(株)製「トワロン(登録商標)」、モジュラス88cN、繊度2.2dtex、繊維長3mm
ナフテン系オイル:出光興産(株)製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルNS-90S」
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト(登録商標)3」
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック(登録商標)AD-F」
加硫促進剤DM:大内新興化学工業(株)製「ノクセラー(登録商標)DM」
加硫促進剤TT:大内新興化学工業(株)製「ノクセラー(登録商標)TT」
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製「ノクセラー(登録商標)CZ」
シリカ:エボニックジャパン(株)製、「ULTRASIL(登録商標)VN3」、BET比表面積175m/g
(心線)
繊度1,680dtexのアラミド繊維のマルチフィラメントの束2本を引き揃えて下撚りし、これを3本合わせて下撚りとは反対方向に上撚りした総繊度10,080dtexの諸撚りコード(平均線径1.81mm)とし、更に接着処理を施した処理コードを調製した。
(補強布)
ポリエステル繊維と綿との混紡糸(ポリエステル繊維/綿=50/50質量比)の織布(120°広角織り、繊度は20番手の経糸と20番手の緯糸、経糸及び緯糸の糸密度75本/50mm、目付量280g/m)を、予め混練りしたゴム組成物Bとともに、カレンダーロールを同時に通過させ、織布にゴム組成物Bを積層密着させる方法でコーティング処理して補強布前駆体を調製した。
(コグ付きVベルトの作製)
実施例1~17及び比較例1~5のコグ形状を有するローエッジコグドVベルト10Aは、上記の各材料を用い、前述の<4-2.第2の製造方法>で記載した製造方法により作製した。
加硫は180℃で30分間行い、外周側に所定のコグ部が形成されたベルトスリーブ(加硫スリーブ)を調製し、得られた加硫スリーブをカッターで幅71mmに切断し、更にV角度28°で側面をV状に切断加工した。そして、内周側と外周側とを反転して、内周側にコグ部が形成された、周長2610mmの試供ローエッジコグドVベルト10Aを得た。
(耐久走行試験)
耐久走行試験は、以下の高負荷条件及び高熱・高速条件の2つの条件で行った。
<高負荷条件での耐久走行>
図5Aに示すように、直径275.7mmの駆動プーリ41と、直径413.5mmの従動プーリ42とで構成する2軸走行試験機を用いた。各プーリ41,42に試供ローエッジコグドVベルト10Aを掛架し、駆動プーリ41を回転数900rpmで回転させ、従動プーリ42に1191N・mの負荷を付与し、室温にてベルトを170時間走行させ、ベルト側面(プーリと接触する面)を目視で経過観察し、亀裂や心線の離脱(ポップアウト)などの異常の有無を確認した。
<高熱・高速条件での耐久走行>
図5Bに示すように、直径244.8mmの駆動プーリ43と、直径244.8mmの従動プーリ44とで構成する2軸走行試験機を用いた。各プーリ43,44に試供ローエッジコグドVベルト10Aを掛架し、駆動プーリ43を回転数1317rpmで回転させ、従動プーリ44に246N・mの負荷を付与し、雰囲気温度60℃にてベルトを380時間走行させ、ベルト側面(プーリと接触する面)を目視で経過観察し、亀裂や心線の離脱(ポップアウト)などの異常の有無を確認した。
各耐久走行試験の試験結果を、上記表1~6の各下段に示す。
まず、表1の結果について考察する。
比較例1のローエッジコグドVベルト10Aは、高負荷条件による耐久走行試験においては、コグ谷の最深部に亀裂が生じる前の24時間走行した段階で、ベルト側面(プーリと接触する面)から心線がポップアウト(離脱)し、寿命となった。また、高熱・高速条件による耐久走行試験においては、48時間走行した段階でコグ谷の最深部に亀裂が生じて寿命となった。
これらの異常は、曲率半径Rが本発明で規定する数値範囲より小さいことによる屈曲性の不足(屈曲による応力集中)が原因と考えられ、プーリへの巻き掛かり前後におけるベルトの屈曲と解放の一連の動作(屈曲変形)が連続的に繰り返される中で、コグ谷の最深部に変形応力が集中しやすい形状であると、応力が集中するコグ谷の最深部に亀裂が生じる。また、その変形に伴って生じた発熱でゴムが硬化したことが、心線とゴム層との接着界面に亀裂が入って界面剥離となって、心線ポップアウトへと繋がったと考えられる。
比較例2のローエッジコグドVベルト10Aは、高負荷条件による耐久走行試験においては、コグ谷の最深部に亀裂が生じる前の48時間走行した段階で、ベルト側面(プーリと接触する面)から心線がポップアウト(離脱)し、寿命となった。一方、高熱・高速条件による耐久走行試験においては、亀裂などの異常がなく完走した。
上記のような高負荷条件下での異常は、曲率半径Rが本発明で規定する数値範囲より大きいことにより、有限要素法解析におけるベルト幅減少率(幅方向の圧縮の程度を表わす指標)の最大値Yの判定がC判定となることで、総合判定がCランクとなったように、コグ部のベルト幅方向の圧縮量が大きくなり、側圧からの座屈変形による応力集中で、心線とゴム層との接着界面に亀裂が入って界面剥離が生じ、心線ポップアウトへと繋がったと考えられる。
比較例3のローエッジコグドVベルト10Aは、高負荷条件による耐久走行試験においては、コグ谷の最深部に亀裂が生じる前の24時間走行した段階で、ベルト側面(プーリと接触する面)から心線がポップアウト(離脱)し、寿命となった。また、高熱・高速条件による耐久走行試験においては、48時間走行した段階でコグ谷の最深部に亀裂が生じて寿命となった。
これらの異常は、曲率半径Rを設けないことによる屈曲性の不足(屈曲による応力集中)が原因と考えられ、プーリへの巻き掛かり前後におけるベルトの屈曲と解放の一連の動作(屈曲変形)が連続的に繰り返される中で、コグ谷の最深部に変形応力が集中しやすい形状であると、応力が集中するコグ谷の最深部に亀裂が生じる。また、その変形に伴って生じた発熱でゴムが硬化したことが、心線とゴム層との接着界面に亀裂が入って界面剥離となって、心線ポップアウトへと繋がったと考えられる。
比較例4のローエッジコグドVベルト10Aは、高負荷条件による耐久走行試験においては、コグ谷の最深部に亀裂が生じる前の24時間走行した段階で、ベルト側面(プーリと接触する面)から心線がポップアウト(離脱)し、寿命となった。また、高熱・高速条件による耐久走行試験においては、43時間走行した段階でコグ谷の最深部に亀裂が生じて寿命となった。
これらの異常は、コグ谷の最深部が円弧状でないことによる屈曲性の不足(屈曲による応力集中)が原因と考えられ、プーリへの巻き掛かり前後におけるベルトの屈曲と解放の一連の動作(屈曲変形)が連続的に繰り返される中で、コグ谷の最深部に変形応力が集中しやすい形状であると、応力が集中するコグ谷の最深部に亀裂が生じる。また、その変形に伴って生じた発熱でゴムが硬化したことが、心線とゴム層との接着界面に亀裂が入って界面剥離となって、心線ポップアウトへと繋がったと考えられる。
比較例5のローエッジコグドVベルト10Aは、高負荷条件による耐久走行試験においては、コグ谷の最深部に亀裂が生じる前の1時間走行した段階で、ベルト側面(プーリと接触する面)から心線がポップアウト(離脱)し、寿命となった。また、高熱・高速条件による耐久走行試験においては、1時間走行した段階でコグ谷の最深部に亀裂が生じて寿命となった。
比較例5は、特許文献1の実施例に記載されているローエッジコグドVベルトのコグ部の輪郭形状をそのまま維持して、本発明で対象とする大型サイズのベルトとなるよう、各部寸法を相似形で拡大したローエッジコグドVベルトでの結果である。有限要素法解析におけるベルト幅減少率の最大値Yの判定がC判定となることで、総合判定がCランクとなったように、直線がない円弧でコグ山が構成されるため摩擦伝動面の面積が小さいことが原因で、コグ部のベルト幅方向の圧縮量が大きくなり、側圧からの座屈変形による応力集中によって、早期に心線ポップアウトやコグ谷部最深部の亀裂へと繋がったと考えられる。
一方、コグ谷の最深部が、適度な曲率半径を有する円弧形状である実施例1~3のローエッジコグドVベルト10Aでは、有限要素法解析で総合判定がAランクとなったとおり、耐久走行試験においても亀裂や心線ポップアウトなどの異常がなく完走した。
続いて、表2~6の結果について考察する。
まず、表2に示す実施例4、及び表5に示す実施例12のローエッジコグドVベルト10Aは、高負荷条件による耐久走行試験においては、コグ谷の最深部に亀裂が生じる前の120時間走行した段階で、ベルト側面(プーリと接触する面)から心線がポップアウト(離脱)し、寿命となった。一方、高熱・高速条件による耐久走行試験においては、亀裂などの異常がなく完走した。
なお、各比較例の結果ほど短い時間で心線がポップアウトしなかったものの、高負荷条件による耐久走行試験において異常なく完走できなかったのは、有限要素法解析におけるベルト幅減少率の最大値Yの判定がB判定となることで、総合判定がBランクとなったように、コグ部のベルト幅方向の圧縮量が若干大きくなり、側圧からの座屈変形による応力集中で、心線とゴム層との接着界面に亀裂が入って界面剥離が生じ、心線ポップアウトへと繋がったと考えられる。
また、表2に示す実施例7、及び表6に示す実施例17のローエッジコグドVベルト10Aは、高負荷条件による耐久走行試験においては、コグ谷の最深部に亀裂が生じる前の120時間走行した段階で、ベルト側面(プーリと接触する面)から心線がポップアウト(離脱)し、寿命となった。また、高熱・高速条件による耐久走行試験においては、100時間走行した段階でコグ谷の最深部に亀裂が生じて寿命となった。
なお、各比較例の結果ほど短い時間で心線がポップアウトせず、かつ、コグ谷の最深部に亀裂が生じなかったものの、高負荷条件による耐久走行試験及び高熱・高速条件による耐久走行試験の双方において異常なく完走できなかったのは、有限要素法解析におけるコグ谷の最深部に発生するMises応力の最大値Xの判定がB判定となることで、総合判定がBランクとなったように、コグ谷の最深部に生じた変形応力が若干大きく、応力が集中するコグ谷の最深部に亀裂が生じたり、その変形に伴って生じた発熱でゴムが硬化したことで、心線とゴム層との界面剥離となって、心線ポップアウトへと繋がったと考えられる。
一方、実施例5、6、8~11及び13~16のローエッジコグドVベルト10Aでは、有限要素法解析で総合判定がAランクとなったとおり、耐久走行試験においても亀裂や心線ポップアウトなどの異常がなく完走した。
なお、本発明は、前述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上記実施形態では、コグ谷12の底部25は、第1円弧21及び第2円弧22で形成されていたが、本発明は、連続する複数の円弧であればよく、例えば、コグ谷12の最深部Aから離れるにつれて、曲率半径が小さくなる3つ以上の円弧で形成されていてもよい。
なお、上記第2円弧22は、コグ谷12の底部25を構成する複数の円弧のうち最も曲率半径の小さい円弧と定義される。すなわち、コグ谷12の底部25が3つ以上の円弧で構成される場合には、コグ谷12の最深部Aから最も離れた(すなわち、コグ谷12の側壁23に最も近い)位置の円弧が、第2円弧22となる。その場合において、第1円弧21及び第2円弧22以外の残りの円弧は、第1円弧21と第2円弧22の間に位置する。
また、上述の通り、コグ谷12の底部25が2つの円弧(第1円弧21及び第2円弧22)で構成される場合の第2円弧22は、第1円弧21と、コグ谷12の側壁23の延長線とを、それらに接するように曲線状に繋いで形成されていたが、コグ谷12の底部25が3つ以上の円弧で構成される場合の第2円弧22は、上記と同様、第1円弧21と、コグ谷12の側壁23の延長線とを、それらに接するように曲線状に繋いで形成されていてもよく、また、第1円弧21及び第2円弧22以外の残りの円弧と、コグ谷12の側壁23の延長線とを、それらに接するように曲線状に繋いで形成されていてもよい。
さらに、本発明は、ローエッジVベルトの内周側及び外周側の双方にコグが形成されたローエッジダブルコグドVベルトであってもよい。
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
なお、本出願は、2019年12月13日出願の日本特許出願(特願2019-225458)及び2020年2月19日出願の日本特許出願(特願2020-026205)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
10 コグ付きVベルト(ローエッジコグドVベルト)
10 内周側
11 コグ山
12 コグ谷
13 コグ部
18 心線
21 第1円弧(複数の円弧)
22 第2円弧(複数の円弧)
23 コグ谷の側壁(コグ山の側面)
24 頂部
25 コグ谷の底部
A コグ谷の最深部
H ベルト厚み
コグ高さ
心-谷厚み
P コグピッチ
第1円弧の曲率半径
第2円弧の曲率半径
VC 仮想円
W ベルト上幅
θ コグ角度

Claims (8)

  1. ベルト長手方向に沿ってコグ山とコグ谷が交互に多数設けられたコグ部が、少なくともベルト内周側に設けられ、ベルト厚みHが27~36mm、コグ高さHが14~19mmである、コグ付きVベルトであって、
    前記ベルト長手方向の断面における前記コグ谷の断面形状は、連続する複数の円弧が組み合わされてなる底部と、ベルト厚み方向に対して傾斜する前記コグ谷の側壁と、を備え、
    前記底部を構成する複数の円弧は、前記コグ谷の最深部から離れるにつれて、曲率半径が小さくなり、
    前記複数の円弧は、前記コグ谷の最深部を通り、前記コグ谷の最深部と両側の前記側壁との3点に接する仮想円よりも大径である第1円弧と、前記第1円弧と前記側壁の延長線とを、それらに接するように曲線状に繋いだ第2円弧と、から構成され、
    前記第1円弧の曲率半径Rは7.5~9.5mmの範囲にあり、
    前記第2円弧の曲率半径Rは、1.82.5mmの範囲にあり、
    前記心線の中心部から前記コグ谷の最深部までの距離である心-谷厚みH が6~13mmである、
    ことを特徴とするコグ付きVベルト。
  2. 前記コグ山の側面及び頂部は、直線で形成される、
    請求項1に記載のコグ付きVベルト。
  3. 前記ベルト厚みHに対する上幅Wの比率であるアスペクト比W/Hが、1.2~3.8である、
    請求項1又は2に記載のコグ付きVベルト。
  4. 前記圧縮ゴム層は、第1のゴム成分を含むゴム組成物及び第1の短繊維を含んでおり、
    前記第1の短繊維の割合が、前記第1のゴム成分100質量部に対して、5~50質量部である、
    請求項1~3のいずれか1項に記載のコグ付きVベルト。
  5. ベルト幅方向に間隔をおいて配列された心線を含む芯体層、前記芯体層のベルト外周側に積層された伸張ゴム層、及び前記芯体層のベルト内周側に積層された圧縮ゴム層を有する、
    請求項1~4のいずれか1項に記載のコグ付きVベルト。
  6. 前記コグ部のコグ角度(片側)θが5~15°である、
    請求項1~5のいずれか1項に記載のコグ付きVベルト。
  7. 前記コグ山の側壁と前記コグ山の頂部との交点には、C0.5mm~C2.0mmのC面取り、又は、R0.5mm~R2.0mmのR面取りが施されている、
    請求項1~6のいずれか1項に記載のコグ付きVベルト。
  8. 大型農業機械のベルト式変速装置の伝動ベルトに使用される、
    請求項1~7のいずれか1項に記載のコグ付きVベルト。
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