特許法第30条第2項適用 1.平成30年5月8日 公益社団法人高分子学会発行の高分子学会予稿集 第67回(2018年)高分子学会年次大会 67巻1号 2Pa023に発表 2.平成30年5月24日 第67回高分子学会年次大会 名古屋国際会議場において文書(ポスター)をもって発表 3.平成30年6月6日 一般社団法人繊維学会発行の繊維学会予稿集 2018 73巻1号(年次大会) 2P204に発表 4.平成30年6月14日 平成30年度繊維学会年次大会 タワーホール船堀において文書(ポスター)をもって発表 5.平成30年8月29日 公益社団法人高分子学会発行の高分子学会予稿集 第67回(2018年)高分子討論会 67巻2号 3F08に発表 6.平成31年2月1日 公益社団法人高分子学会発行の高分子POLYMERS 68巻2月号(2019年) 第69~70頁に発表 7.平成31年2月1日 http://main.spsj.or.jp/c5/kobunshi/kobu2019/kobu1902.html及びhttp://main.spsj.or.jp/c5/kobunshi/kobu2019/1902.html#69に発表
[ポリ共役エステル]
本発明のポリ共役エステルは、前記式(1)で表されるハライド化合物(以降、単にハライド化合物(1)と称する場合がある)を含むハライド成分と、芳香族ジオールを含むジオール成分とを反応(又は重合、縮合)させて得られるポリマー(又は重合体、重縮合体)であり、α-(ハロメチル)アクリロイル基に対する芳香族ジオールの共役置換反応と、酸ハライドに対する芳香族ジオールのアシル置換反応とは、いずれの反応も溶媒依存性が少なく、室温、空気下、塩基の存在下で定量的に進行するため、簡便に、かつ穏和な条件で、下記式(3)で表される構成単位を有するポリ共役エステルを製造できる。
(式中、R1及びR2は水素原子又はアルキル基を示し、Wは芳香族ジオールの残基を示す)。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、ジオール成分(又はジオール)の残基とは、ジオールの2つのヒドロキシ基の水素原子を除いた部分を意味する。また、以下の記載において、「ハライド化合物(1)」、「ハライド成分」、「芳香族ジオール」及び「ジオール成分」は、それぞれ重合成分(又はモノマー)を表す他に、それぞれの重合成分に由来する単位(又はポリマーの構成単位)を表す場合がある。
(ハライド成分)
ハライド成分は、前記式(1)で表されるハライド化合物を含む。前記式(1)のX1及びX2で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。好ましいハロゲン原子は、臭素原子、ヨウ素原子、さらに好ましくはヨウ素原子である。なお、X1及びX2で表されるハロゲン原子は、同一又は異なっていてもよく、通常、同一である。
前記式(1)のR1及びR2は、水素原子又はアルキル基を示し、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられる。好ましいアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状C1-3アルキル基、さらに好ましくはメチル基、エチル基、特にメチル基である。好ましいR1及びR2は、水素原子、直鎖状又は分岐鎖状C1-3アルキル基、さらに好ましくは水素原子、メチル基であり、通常、共役置換反応(SN2’反応)の反応速度(又は反応性)の観点から、立体障害が小さい水素原子である。
代表的なハライド化合物(1)としては、R1及びR2の両方が水素原子であるα-(フルオロメチル)アクリル酸フルオリド、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド、α-(ブロモメチル)アクリル酸ブロミド、α-(ヨードメチル)アクリル酸ヨージドなどのα-(ハロメチル)アクリル酸ハライド;R1及びR2のいずれか1つがメチル基又はエチル基であるα-(クロロメチル)-β-メチルアクリル酸クロリド、α-(ブロモメチル)-β-メチルアクリル酸ブロミドなどのα-(ハロメチル)-β-メチルアクリル酸ハライド;R1及びR2の両方がメチル基であるα-(クロロメチル)-β,β-ジメチルアクリル酸クロリド、α-(ブロモメチル)-β,β-ジメチルアクリル酸ブロミドなどのα-(ハロメチル)-β,β-ジメチルアクリル酸ハライドなどが挙げられる。これらのハライド化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのハライド化合物のうち、α-(ハロメチル)アクリル酸ハライドが好ましく、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド、α-(ブロモメチル)アクリル酸ブロミド、α-(ヨードメチル)アクリル酸ヨージドがさらに好ましく、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリドが最も好ましい。
ハライド化合物(1)は、慣用の方法によって合成できる。
ハライド成分は、ハライド化合物(1)に加えて、ジカルボン酸ハライド(ジカルボン酸ジハライド)をさらに含んでいてもよい。ハライド化合物(1)とジカルボン酸ハライドとを組みあわせることによって、ハライド化合物(1)由来の共役エステル単位と、ジカルボン酸ハライド由来のエステル単位とが共重合した三元共重合体を製造できる。ジカルボン酸ハライドとしては、脂肪族ジカルボン酸ハライド(脂肪族ジカルボン酸ジハライド)、芳香族ジカルボン酸ハライド(芳香族ジカルボン酸ジハライド)などが挙げられる。
前記脂肪族ジカルボン酸ハライドには、鎖状脂肪族ジカルボン酸ハライド、環状脂肪族ジカルボン酸ハライドが含まれる。前記鎖状脂肪族ジカルボン酸ハライドとしては、コハク酸クロリド、アジピン酸クロリド、アジピン酸ブロミド、セバシン酸クロリド、デカンジカルボン酸クロリドなどのC2-12アルカン-ジカルボン酸ハライドなどが挙げられる。前記環状脂肪族ジカルボン酸ハライドとしては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸クロリドなどのシクロアルカンジカルボン酸ハライドなどが挙げられる。
前記芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、フタル酸クロリド、テレフタル酸クロリド、テレフタル酸ブロミド、テレフタル酸ヨージド、イソフタル酸クロリド、イソフタル酸ブロミド、イソフタル酸ヨージドなどの単環式芳香族ジカルボン酸ハライド;ナフタレンジカルボン酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸ブロミドなどの縮合多環式芳香族ジカルボン酸ハライド;ビフェニルジカルボン酸クロリド、ビフェニルジカルボン酸ブロミドなどのアリールアレーンジカルボン酸ハライド;2,7-ジクロロカルボニルフルオレンなどのフルオレンジカルボン酸ハライド;9,9-ビス(2-クロロカルボニルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-クロロカルボニルプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(ハロカルボニルC2-6アルキル)フルオレン;9-[1,2-ビス(クロロカルボニル)エチル]フルオレン;9-[2,3-ビス(クロロカルボニル)プロピル]フルオレンなどの9-[ビス(ハロカルボニル)C2-6アルキル]フルオレンなどが挙げられる。
これらのジカルボン酸ハライドは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのジカルボン酸ハライドのうち、芳香族ジカルボン酸ハライドが好ましく、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリドなどの単環式芳香族ジカルボン酸ハライドが特に好ましい。
前記ハライド化合物(1)と前記ジカルボン酸ハライドとのモル比は、目的の特性に応じ、前者/後者=100/0~1/99程度の範囲から選択できる。両者を組み合わせる場合、両者のモル比は、例えば、ハライド化合物(1)/ジカルボン酸ハライド=90/10~3/97程度であり、好ましい範囲としては、以下段階的に、70/30~5/95、50/50~7/93、30/70~8/92、20/80~10/90である。
ジカルボン酸ハライドとして芳香族ジカルボン酸ハライドを選択し、ジカルボン酸ハライドをハライド成分の主成分とすると、ポリアリレートの構成単位の一部に共役エステルを導入できる。そのため、ポリアリレートの特性を損なわず、硬化性や分解性などの機能性を導入した新規なポリマーを調製できる。
前記ハライド化合物(1)及び前記ジカルボン酸ハライドの合計割合は、全ハライド成分中、例えば50モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。なお、この割合は、モノマーの仕込み割合であってもよいが、ポリ共役エステルに導入される構成単位の割合であるのが好ましい。
(ジオール成分)
ジオール成分は、芳香族ジオールを含む。この芳香族ジオールとしては、ヒドロキノンなどのジヒドロキシアレーン、前記式(2)で表されるジオールなどが挙げられる。
前記式(2)において、環Z1及び環Z2で表されるアレーン環(芳香族炭化水素環)としては、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環、環集合アレーン環などが挙げられる。
多環式アレーン環としては、ナフタレン環などの縮合二環式アレーン環、アントラセン環、フェナントレン環などの縮合三環式アレーン環などの縮合多環式C10-14アレーン環が挙げられ、特にナフタレン環が好ましい。
環集合アレーン環としては、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環などのビC6-12アレーン環が挙げられ、特にビフェニル環が好ましい。
なお、環Z1及び環Z2の種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。
好ましい環Z1及び環Z2としては、ベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環、さらに好ましくはベンゼン環である。
Ra及びRbで表される置換基としては、ハロゲン原子;アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基;アルコキシ基;アシル基;ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基などが挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5-8シクロアルキル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルコキシ基などが挙げられる。アシル基としては、アセチル基などのC1-6アシル基などが挙げられる。置換アミノ基としては、ジアルキルアミノ基、ジアシルアミノ基が挙げられ、ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基などのジC1-4アルキルアミノ基、ジアシルアミノ基としては、ジアセチルアミノ基などのジC1-4アシルアミノ基などが挙げられる。なお、Ra及びRbで表される置換基は、同一又は異なっていてもよい。
好ましいRa及びRbは、直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基、シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基、C6-14アリール基、メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルコキシ基、さらに好ましくはメチル基、エチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-3アルキル基、特にメチル基である。
Ra及びRbの置換数p1及びp2は、0~4の整数、好ましくは0~2の整数、さらに好ましくは0又は1、特に0である。なお、置換数p1及びp2は、互いに同一又は異なっていてもよい。置換数p1、p2が2以上である場合、同一の環Z1、環Z2にそれぞれ置換する2以上のRa、Rbの種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。Ra及びRbの置換位置は、特に制限されない。
A1、A2で表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基が挙げられる。なお、A1、A2の種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一である。好ましいA1、A2は、直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2-3アルキレン基、特にエチレン基である。
オキシアルキレン基OA1及びOA2の繰り返し数(付加モル数)q1及びq2は、0又は1以上の整数であればよく、例えば0~10、好ましくは0~6、さらに好ましくは0又は1、最も好ましくは0である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「繰り返し数(付加モル数)」は、平均値(算術平均値、相加平均値)又は平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、好ましい整数の範囲と同様である。また、q1、q2が2以上の場合、2以上のオキシアルキレン基OA1、OA2は、同一又は異なっていてもよい。
前記式(2)において、基[-O-(A1O)q1-H]及び基[-O-(A2O)q2-H]の置換位置は、特に限定されず、環Z1、Z2の適当な置換位置にそれぞれ置換していればよい。基[-O-(A1O)q1-H]及び基[-O-(A2O)q2-H]の置換位置は、環Z1、Z2がベンゼン環である場合、後述のYに結合するフェニル基の2位、3位、4位のいずれか、好ましくは3位又は4位、特に4位の位置に置換している場合が多い。環Z1、Z2がナフタレン環である場合、Yに対して1位又は2位で結合するナフチル基の5~8位のいずれかの位置に置換している場合が多く、Yに対して、ナフタレン環の1位又は2位が置換し(1-ナフチル又は2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5位、2,6位の関係で置換しているのが好ましく、2,6位で置換しているのが特に好ましい。
前記式(2)において、Yで表されるアルキレン基としては、好ましい態様も含め、前記A1、A2で表されるアルキレン基と同様である。
シクロアルキレン基としては、1,1-シクロペンチレン基、1,2-シクロペンチレン基、1,1-シクロヘキシレン基、1,2-シクロヘキシレン基などのC5-10シクロアルキレン基などが挙げられ、好ましくはC5-8シクロアルキレン基、さらに好ましくはC5-6シクロアルキレン基、特に1,1-シクロヘキシレン基である。
式(2a)及び(2b)において、Ar1、Ar2及びAr3で表されるアレーン環は、好ましい態様も含め、環Z1及び環Z2と同様である。
Rc、Rd及びReで表される置換基は、好ましい態様も含め、Ra、Rbと同様である。Rc、Rd及びReの置換数r1、r2及びsは、好ましい態様も含め、p1、p2と同様である。
これらのジオールは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。前記式(2)で表されるジオールとしては、耐熱性や反応性などの点から、ビスフェノール類やビスナフトール類が好ましく、ビスフェノール類が特に好ましい。
具体的なビスフェノール類としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2-ビス(3-イソプロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールG)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などの前記式(2)においてYが直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、アルキレン基又はシクロアルキレン基であるビスフェノール化合物;9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(BCF)、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)などのフルオレン骨格含有ビスフェノール化合物;フェノールフタレイン、o-クレゾールフタレイン、p-キシレノールフタレインなどのフタリド骨格含有ビスフェノール化合物などが挙げられる。
これらの芳香族ジオールのうち、耐熱性や反応性などの観点から、ビスフェノールAやビスフェノールZなどの前記式(2)においてYがアルキレン基又はシクロアルキレン基であるビスフェノール化合物が好ましく、分解性が高く、穏和な条件でも容易に分解できる点から、フェノールフタレインなどの前記式(2b)で表される単位を有するビスフェノール化合物が好ましい。
ジオール成分は、前記芳香族ジオールに加えて、他のジオールを含んでいてもよい。他のジオールには、鎖状脂肪族ジオール、環状脂肪族ジオールなどが含まれる。鎖状脂肪族ジオールとしては、アルカンジオール、ポリアルカンジオールなどが挙げられ、環状脂肪族ジオールとしては、シクロアルカンジオール、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカンなどが挙げられる。
アルカンジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2-10アルカンジオールなどが挙げられる。ポリアルカンジオールとしては、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ又はトリC2-4アルカンジオールなどが挙げられる。
シクロアルカンジオールとしては、シクロヘキサンジオールなどのC5-8シクロアルカンジオールなどが挙げられ、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカンとしては、シクロヘキサンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1-4アルキル)C5-8シクロアルカンなどが挙げられる。
芳香族ジオールの割合は、全ジオール成分中、例えば50モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。なお、この割合は、モノマーの仕込み割合であってもよいが、ポリ共役エステルに導入される構成単位の割合であるのが好ましい。
(ポリ共役エステル)
本発明のポリ共役エステルは、前記ハライド成分と前記ジオール成分と重合させて得られるポリマーであり、前記式(3)で表される構成単位を少なくとも含んでいる。
本発明のポリ共役エステルの数平均分子量Mnは、1000~100000程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、3000~80000、5000~50000、7000~40000、10000~35000、20000~30000である。また、分子量分散度D(Mw/Mn)は、1~5程度の範囲から選択でき、好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2.5、最も好ましくは1~2である。なお、数平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて、標準ポリスチレン換算で測定できる。
本発明のポリ共役エステルは、熱硬化性を示す。ポリ共役エステルの硬化温度(Tcure)は、150~350℃程度の範囲から選択でき、好ましくは180~300℃、さらに好ましくは200~280℃、最も好ましくは220~260℃である。本発明では、硬化剤を用いない場合であっても、前記温度範囲で硬化できる。なお、ポリ共役エステルの硬化温度は、熱重量示差熱分析装置(TG/DTA)を用いて測定できる。
本発明のポリ共役エステルは、耐熱性が高く、10%重量分解温度(Td10)が硬化温度よりも高いため、ポリマーの分解を伴うことなく、熱硬化することができる。10%重量分解温度(Td10)は、220~400℃程度の範囲から選択でき、好ましくは240~380℃、さらに好ましくは260~350℃、最も好ましくは280~330℃である。なお、ポリマーの10%重量分解温度は、熱重量示差熱分析装置(TG/DTA)を用いて測定できる。
[ポリ共役エステルの製造方法]
本発明のポリ共役エステルは、前記ハライド成分と前記ジオール成分とを反応(重合又は縮合)させることにより製造できる。重合方法(製造方法)としては、慣用の方法、例えば、溶融重合法、溶液重合法、界面重合法が挙げられる。これらのうち、室温の空気中などの穏和な条件で重合できる点から、溶液重合法、界面重合法が好ましく、生産性などの点から、界面重合法が特に好ましい。
重合において、前記ハライド成分1モルに対する前記ジオール成分の割合(仕込み比)は、0.8~5モル程度の範囲から選択でき、好ましくは1~4モル、さらに好ましくは過剰量1.1~3モル、特に1.2~2モルである。
重合において、前記ハライド成分及び前記ジオールは、一括添加してもよく、分割して添加してもよい。ハライド成分としてハライド化合物(1)とジカルボン酸ハライドとを組み合わせて三元共重合体を製造する場合、一括添加してワンポット重合によって三元共重合体を製造してもよく、予めジカルボン酸ハライドと第1のジオール成分(一部のジオール成分)とを反応させてプレポリマーを重合した後、プレポリマーに対して、ハライド化合物(1)及び第2のジオール成分(残部のジオール成分)を反応させて鎖伸長して三元共重合体を製造してもよい。
反応は、塩基の存在下で行ってもよい。塩基には、有機塩基及び無機塩基が含まれる。
有機塩基としては、トリエチルアミンなどの第3級アミン類、ピリジン、モルホリンなどの複素環式第3級アミン、ヘキサメチレンテトラミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)などが挙げられる。
無機塩基としては、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属アルコキシドなどが挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物が挙げられる。金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩が挙げられる。金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルコキシドなどが挙げられる。
これらの塩基は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
これらの塩基のうち、トリエチルアミンなどの第3級アミン類、水酸化ナトリウムなどの金属水酸化物が好ましい。
塩基の割合は、ハライド成分1モルに対して、例えば1~5モル、好ましくは1.5~3モル、さらに好ましくは2~2.5モルである。
界面重合における反応では、塩基に加えて、相間移動触媒の存在下で行ってもよい。相間移動触媒としては、クラウンエーテル、オニウム塩、クリプタート、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。相間移動触媒は、これらの誘導体であってもよい。これらの相間移動触媒のうち、オニウム塩が好ましい。
オニウム塩としては、テトラメチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、テトラ-n-ブチルアンモニウムクロリドなどのテトラアルキルアンモニウムハライド;ベンジルトリエチルアンモニウムクロリドなどのアラルキルトリアルキルアンモニウムハライド;テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素塩などのテトラアルキルアンモニウム硫酸水素塩;テトラ-n-ブチルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムクロリドなどのテトラアリールホスホニウムハライド;トリフェニルメチルホスホニウムクロリドなどのトリアリールアルキルホスホニウムハライド;4-ジメチルアミノピリジンなどの4-ジアルキルアミノピリジニウム塩;テトラフェニルアルソニウムクロリドなどのテトラアリールアルソニムハライド;ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン]イミニウムクロリドなどのビス[トリス(ジアルキルアミノ)ホスフィン]イミニウムハライド;テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフィンイミノ]ホスホニウムクロリドなどのテトラキス[トリス(ジアルキルアミノ)ホスフィンイミノ]ホスホニウムハライドなどが挙げられる。
相間移動触媒の割合は、ハライド成分1モルに対して、例えば0.001~0.5モル、好ましくは0.01~0.4モル、さらに好ましくは0.1~0.3モルである。
反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、水及び/又は有機溶媒を利用できる。有機溶媒としては、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、スルホキシド類、アミド類などが挙げられる。
炭化水素類としては、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。
ハロゲン化炭化水素類としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類;クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類などが挙げられる。
エーテル類としては、ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類;シクロペンチルメチルエーテルなどの脂環族エーテル類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどの環状エーテル類などが挙げられる。
スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
アミド類としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。
これらの溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらの溶媒のうち、ジクロロメタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類が好ましい。
界面重合では、水及び有機溶媒の共存下で反応させてもよい。有機溶媒の割合は、水100質量部に対して10~300質量部、好ましくは20~100質量部、さらに好ましくは30~80質量部である。
溶媒の割合は、ハライド成分及びジオール成分の総量100質量部に対して、例えば100~3000質量部、好ましくは300~2000質量部、さらに好ましくは500~1500質量部である。
重合温度は、特に制限されず、0~80℃程度の範囲から選択でき、好ましくは5~70℃、さらに好ましくは10~50℃、特に20~30℃であり、通常、室温である。重合温度が高すぎると、ポリ共役エステルが分解したり、架橋反応が併発する虞がある。
反応時間は、特に制限されず、1~60時間程度の範囲から選択でき、好ましくは6~48時間、さらに好ましくは12~36時間である。
反応は、空気中又は不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。本発明では、室温の空気中でも分子量の大きいポリマーを重合できる。また、反応は、減圧下で行ってもよいが、通常、加圧下又は常圧下で行う場合が多い。反応終了後、反応生成物は、洗浄、抽出、濃縮、ろ過、再沈殿、遠心分離、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの慣用の分離精製手段や、これらを組み合わせた方法により、分離精製してもよい。
なお、ハライド化合物(1)はジアミン成分と反応できるため、ジオール成分の代わりに慣用のジアミン成分を用いることにより、ポリ共役アミドを製造することもできる。
[ポリ共役エステルの用途]
本発明のポリ共役エステルは、高分子量体であるため、そのまま各種の成形体として利用してもよい。さらに、本発明のポリ共役エステルは、塩基の存在下で共役エステル単位における転移反応によって容易に分解するため、リサイクル可能な環境に優しいプラスチック成形体としても利用できる。塩基として、例えば、チオール、アンモニア、アミンなどの弱塩基によって分解できるため、取り扱い性も高い。
また、本発明のポリ共役エステルは、共役エステル単位がラジカル重合性を有しているため、硬化性組成物や架橋剤として利用してもよい。
本発明のポリ共役エステルを硬化性組成物として利用する場合、本発明のポリ共役エステルは、熱硬化性及び光硬化性を示すため、熱硬化性組成物及び光硬化性組成物のいずれの組成物としても利用できる。
本発明の硬化性組成物は、安定性に優れるため、重合禁止剤を添加しなくても、長期間保存でき、取り扱い性に優れる。本発明の硬化性樹脂組成物は、溶媒を含んでいてもよい。
溶媒としては、ポリ共役エステルの重合で使用するための溶媒として例示された溶媒などが挙げられる。溶媒を含む硬化性組成物の固形分(又は不揮発分)濃度は、例えば0.5~50質量%、好ましくは2~40質量%、さらに好ましくは5~30質量%である。
本発明の硬化性組成物は、ラジカル重合性モノマーをさらに含んでいてもよい。ラジカル重合性モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレートなどのC1-24アルキル(メタ)アクリレート類;シクロアルキル(メタ)アクリレート類;橋架け環式(メタ)アクリレート類;ヒドロキシC2-10アルキル(メタ)アクリレート類;フェノキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル類などが挙げられる。これらのラジカル重合性モノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。ラジカル重合性モノマーは、光硬化性組成物に含まれるのが好ましい。
ラジカル重合性モノマーの割合は、ポリ共役エステル100質量部に対して100質量部以下であってもよく、例えば1~100質量部、好ましくは10~50質量部である。
本発明の硬化性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤の割合は、ポリ共役エステル100質量部に対して、例えば0.01~10質量部、好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部である。
本発明では、硬化性組成物が熱硬化性組成物の場合、熱重合開始剤を用いることなく、加熱することにより容易に熱硬化できるが、熱硬化性をより向上させるために、熱重合開始剤を含んでいてもよい。
熱重合開始剤としては、ジアルキルパーオキサイド類(ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなど)、ジアシルパーオキサイド類[ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなど]、過酸エステル類[t-ブチルパーオキシベンゾエートなどの過カルボン酸アルキルエステルなど]、ケトンパーオキサイド類、パーオキシカーボネート類、パーオキシケタール類などの有機過酸化物;アゾニトリル化合物[2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)など]、アゾアミド化合物、アゾアミジン化合物、アゾアルカン化合物、オキシム骨格を有するアゾ化合物などのアゾ化合物などが含まれる。これらの熱重合開始剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
熱硬化性組成物を硬化させるための加熱温度は、例えば80~230℃、好ましくは100~220℃、さらに好ましくは150~200℃、最も好ましくは160~180℃である。
硬化性組成物が光硬化性組成物の場合、光硬化性組成物は、ガンマー線、X線、電子線、紫外線などの光エネルギーで硬化でき、好ましくは紫外線で硬化できる。光硬化性組成物は、光重合開始剤を含んでいてもよい。
光重合開始剤としては、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンジル系化合物、アントラキノン系化合物、チオキサントン系化合物、モルフォリン系化合物などのケトン系化合物;ホスフィン系化合物;ジブチルスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ジベンジルスルフィド、デシルフェニルスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのスルフィド系化合物などが挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
本発明の硬化性組成物は、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、重合開始剤、重合禁止剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、滑剤、安定剤(抗酸化剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、可塑剤、界面活性剤、溶解促進剤、着色剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、レベリング剤、分散剤、分散助剤、流動調整剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
本発明のポリ共役エステルを架橋剤として利用する場合、オレフィン系樹脂やスチレン系樹脂などのラジカル重合性樹脂の架橋剤として利用できる。架橋剤として利用する場合は、ラジカル重合性樹脂を構成するモノマーに配合してもよく、ラジカル重合性樹脂に配合してもよい。架橋剤として利用する場合のポリ共役エステルの割合は、架橋させる対象のモノマー及び/又はポリマーの総量に対して、例えば0.1~20モル%、好ましくは0.5~15モル%、さらに好ましくは1~10モル%である。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各評価方法及び使用したモノマーは以下の通りである。
[評価方法]
(IRスペクトル)
赤外分光光度計(アジレント・テクノロジー(株)製「Cary 630 FTIR 分光光度計」)を用い、1回反射型全反射測定法にて測定した。
(NMRスペクトル)
核磁気共鳴(NMR)装置(ブルカー(株)製「AVANCE 400」および「AVANCE NEO」)を用いて26℃で測定した。測定溶媒は、重アセトニトリル又は重クロロホルムを用い、内部標準は、テトラメチルシランを用いた。
(分子量)
ポリ共役エステルの分子量(数平均分子量Mn)及び分子量分散度D(Mw/Mn)は、EXTREMAクロマトグラフ(日本分光(株)製)に40℃に加熱したサイズ排除カラム「PL-gel,Mixed C(300mm×7.5mm)」(アジレント・テクノロジー(株)製)を2本直列に装填し、溶出液としてテトラヒドロフラン(高速液体クロマトグラフ用,安定剤なし,富士フィルム和光純薬工業(株)製)を0.8mL/分で流して、紫外吸収分光計「UV-4070」(254nmで検出、日本分光(株)製)および示差屈折率計(RI-4030,日本分光)で検出したクロマトグラムを、標準ポリスチレン(東ソー(株)製,TSKゲルオリゴマーキット,Mn:1.03×106,3.89×105,1.82×105,3.68×104,1.63×104,5.32×103,3.03×103,8.73×102)による三次曲線で較正して評価した。
(熱物性)
ポリ共役エステルの硬化温度(Tcure)及び10%重量分解温度(Td10)は、熱重量示差熱分析装置(TG/DTA、リガク(株)製、「Rigaku Thermo plus II TG8120」)を用い、窒素気流下、昇温速度10℃/分で室温から500℃の範囲で測定した。
(重量膨潤度)
ポリマーの重量膨潤度は、ポリマー約200mgを精確に量り採り、クロロホルムに24時間浸漬した後、膨潤したゲルを回収し、下記式より求めた。
(重量膨潤度)=(膨潤後の質量)/(乾燥時の質量)×100%
[モノマー(又は重合成分)]
(ハライド成分)
α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド:特開2018-140941号公報の実施例に記載の方法で製造した合成品
テレフタル酸クロリド:イハラニッケイ化学工業(株)製
イソフタル酸クロリド:イハラニッケイ化学工業(株)製
(ジオール成分)
ビスフェノールA:東京化成工業(株)製
ビスフェノールZ:東京化成工業(株)製
フェノールフタレイン:富士フイルム和光純薬工業(株)製
BPF:9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
BCF:9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製。
(他の成分)
Et3N:トリエチルアミン、富士フイルム和光純薬工業(株)製
BTEAC:ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、富士フイルム和光純薬工業(株)製
BnSH:ベンジルメルカプタン、東京化成工業(株)製
プロピルアミン:富士フイルム和光純薬工業(株)製
システアミン塩酸塩:富士フイルム和光純薬工業(株)製。
実施例1
(ポリ共役エステルの合成)
アルゴン雰囲気下、ビスフェノールA 228g(1.00mmol)およびトリエチルアミン0.250g(2.47mmol)のクロロホルム(1.0mL)溶液を氷浴中で攪拌した。α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド0.139g(1.00mmol)のクロロホルム(1.0mL)溶液を滴下した。0℃で1時間,室温で23時間攪拌し、反応溶液をメタノール(40mL)へ滴下して反応を停止した。沈殿物をろ過により回収後、水で洗浄し、真空乾燥して下記の繰り返し単位を有するポリ共役エステルを白色固体として得た(0.287g,収率97%)。
得られた共役ポリエステルの1H NMRスペクトルデータを図1及び以下に示し、13C NMRスペクトルデータを図2に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3,26℃):δ7.25(dd,J1=8.7Hz,J2=2.5Hz,2H),7.15(d,J=7Hz,2H),7.05-7.02(m,2H),6.89-6.86(m,2H),6.61(s,1H),6.18(s,1H),4.82(s,2H),1.66(t,6H)ppm
また、得られたポリ共役エステルの分子量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価したところ、数平均分子量(Mn)は21000、分子量分散度(D)は1.64であった。
さらに、得られたポリ共役エステルの熱物性を評価したところ、ガラス転移温度(Tg)は観測されず、硬化温度(Tcure)は275℃、10%重量分解温度(Td10)は238℃であった。図3に得られたポリ共役エステルのTG/DTA曲線を示す。
(ポリ共役エステルの有機溶媒中での分解)
得られたポリマー66.2mgのクロロホルム(0.4mL)溶液に、ベンジルメルカプタン25.0mg(0.201mmol)およびトリエチルアミン22.6mg(0.223mmol)のクロロホルム(0.4mL)溶液を滴下し、室温で24時間攪拌して、下記式で示すように、ポリ共役エステルを分解(主鎖切断)した。
反応溶液に飽和食塩水(1mL)を加えて攪拌し、有機層を回収した。有機層を濃縮し、真空乾燥により白色固体87.9mgを得た。分解反応前後のポリ共役エステルの分子量を評価したサイズ排除クロマトグラムを図4に示す。分解前のポリ共役エステルの数平均分子量(Mn)が21000、分子量分散度(D)が1.64であるのに対して、分解後の数平均分子量(Mn)は1700、分子量分散度(D)は1.74であり、分子量が大きく低下した。さらに、分解反応前後のポリ共役エステルの1H NMRスペクトルデータを比較した結果を図5に示す。図5から明らかなように、分解反応後は、アリル基に由来するピークは消失し、ベンジル基や分解物に由来するピークが現れていた。
実施例2
(ポリ共役エステルの合成)
ビスフェノールAの代わりにビスフェノールZ670.9mg(2.50mmol)を用い、トリエチルアミンを0.558g(5.51mmol)、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリドを0.348g(2.50mmol)とする以外は実施例1と同一の方法で重合し、下記の繰り返し単位を有するポリ共役エステルを得た(収率100%)。
得られたポリ共役エステルの1H NMRスペクトルデータを図6および以下に示し、13C NMRスペクトルデータを図7に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3,25℃):δ7.30-7.26(m,2H),7.27-7.18(m,2H),7.07-7.03(m,2H),6.89-6.87(m,2H),6.59(s,1H),6.17(s,1H),4.81(s,1H),2.30-2.19(br,4H),1.15(br,6H)ppm
また、得られたポリ共役エステルの分子量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価したところ、数平均分子量(Mn)は5800、分子量分散度(D)は1.97であった。
さらに、得られたポリ共役エステルの熱物性を評価したところ、ガラス転移温度(Tg)は観測されず、硬化温度(Tcure)は231℃、10%重量分解温度(Td10)は288℃であった。図8に得られたポリ共役エステルのTG/DTA曲線を示す。
(ポリ共役エステルの有機溶媒中での分解)
得られたポリマーを実施例1と同様の方法でベンジルメルカプタンによって分解した。分解反応前後のポリ共役エステルの分子量を評価したサイズ排除クロマトグラムを図9に示す。分解前のポリ共役エステルの数平均分子量(Mn)が5500、分子量分散度(D)が1.96であるのに対して、分解後の数平均分子量(Mn)は1300、分子量分散度(D)は1.61であり、分子量が大きく低下した。
実施例3
(ポリ共役エステルの合成)
ビスフェノールAの代わりにフェノールフタレイン478mg(1.50mmol)を用い、クロロホルムの代わりにジクロロメタン1.2mLを用い、トリエチルアミンを0.334g(3.30mmol)、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリドを0.209g(1.50mmol)とする以外は実施例1と同一の方法で重合し、下記の繰り返し単位を有するポリ共役エステルを得た(収率100%)。
得られたポリ共役エステルの1H NMRスペクトルデータを図10および以下に示し、13C NMRスペクトルデータを図11に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3,25℃):δ7.96-7.89(m,1H),7.59-7.49(m,1H),7.39-7.36(m,2H),7.25-7.22(m,2H),6.90(d,J=7.3H,1H),6.62(s,1H),6.18(s,1H),4.80(s,2H)ppm
また、得られたポリ共役エステルの分子量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価したところ、数平均分子量(Mn)は5600、分子量分散度(D)は1.71であった。
さらに、得られたポリ共役エステルの熱物性を評価したところ、ガラス転移温度(Tg)は観測されず、硬化温度(Tcure)は250℃、10%重量分解温度(Td10)は316℃であった。図12に得られたポリ共役エステルのTG/DTA曲線を示す。
(ポリ共役エステルの有機溶媒中での分解)
得られたポリマーを実施例1と同様の方法でベンジルメルカプタンによって分解した。分解反応前後のポリ共役エステルの分子量を評価したサイズ排除クロマトグラムを図13に示す。分解前のポリ共役エステルの数平均分子量(Mn)が5600、分子量分散度(D)が1.71であるのに対して、分解後の数平均分子量(Mn)は600、分子量分散度(D)は1.41であり、分子量が大きく低下した。
(ポリ共役エステルの水中での分解)
得られたポリ共役エステル0.192gを水3mLに懸濁し,n-プロピルアミン29.6mg(0.501mmol)の水1mL溶液を滴下した。室温で24時間攪拌し、下記式で示すように、ポリ共役エステルを分解(主鎖切断)した。また、n-プロピルアミンの代わりに、システアミン塩酸塩50.6mg(0.500mmol)とトリエチルアミン56mg(55mmol)を用いる以外は同様にしてポリ共役エステルを分解した。
n-プロピルアミンを用いた分解反応前後のポリ共役エステルの分子量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価したサイズ排除クロマトグラムを図14に示す。分解前のポリ共役エステルの数平均分子量(Mn)が5600、分子量分散度(D)が1.71であるのに対して、分解後の数平均分子量(Mn)は1400、分子量分散度(D)は2.13であり、分子量が大きく低下した。
また、システアミン塩酸塩を用いた分解反応前後のポリ共役エステルの分子量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価したサイズ排除クロマトグラムを図15に示す。分解前のポリ共役エステルの数平均分子量(Mn)が5600、分子量分散度(D)が1.71であるのに対して、分解後の数平均分子量(Mn)は1600、分子量分散度(D)は2.77であり、分子量が大きく低下した。
実施例4
(ポリ共役エステル合成)
ビスフェノールAの代わりにBPF280mg(0.800mmol)を用い、トリエチルアミンを0.178g(1.76mmol)、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリドを0.111g(0.800mmol)用いる以外は実施例1と同一の方法で重合し、下記の繰り返し単位を有するポリ共役エステルを得た(収率44%)。
得られたポリ共役エステルの1H NMRスペクトルデータを図16および以下に示し、13C NMRスペクトルデータを図17に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3,25℃):δ7.73(q,J=53.9Hz,2H),7.36-7.29(m,4H),7.25-7.18(m,4H),7.11-7.09(m,2H),6.09-6.93(m,2H),6.78-6.76(m,2H),6.54(s,1H),6.12(s,1H),4.74(s,2H)ppm
また、得られたポリ共役エステルの分子量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価したところ、数平均分子量(Mn)は6300、分子量分散度(D)は1.85であった。
さらに、得られたポリ共役エステルの熱物性を評価したところ、ガラス転移温度(Tg)は観測されず、硬化温度(Tcure)は221℃、10%重量分解温度(Td10)は320℃であった。図18に得られたポリ共役エステルのTG/DTA曲線を示す。
実施例5
(ポリ共役エステルの合成)
BPFの代わりにBCF303mg(0.800mmol)を用いる以外は実施例4と同一の方法で重合し、下記の繰り返し単位を有するポリ共役エステルを得た(収率100%)。
得られたポリ共役エステルの1H NMRスペクトルデータを図19および以下に示し、13C NMRスペクトルデータを図20に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3,25℃):δ7.73-7.72(m,2H),7.37-7.29(m,4H),7.25-7.23(m,2H),7.06-7.01(m,2H),6.98-6.88(m,2H),6.66(d,J=8.6Hz,1H),6.57(s,1H),6.15(s,1H),2.14(s,3H),2.03(s,3H)ppm
また、得られたポリ共役エステルの分子量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価したところ、数平均分子量(Mn)は6000、分子量分散度(D)は1.97であった。
さらに、得られたポリ共役エステルの熱物性を評価したところ、ガラス転移温度(Tg)は観測されず、硬化温度(Tcure)は238℃、10%重量分解温度(Td10)は333℃であった。図21に得られたポリ共役エステルのTG/DTA曲線を示す。
実施例6
(ポリ共役エステルの合成)
ビスフェノールA0.183g(0.799mmol)とベンジルトリエチルアンモニウムクロリド(0.009g,0.040mmol)の1M水酸化ナトリウム水溶液1.6mLを激しく撹拌し、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド0.111g(0.799mmol)のクロロホルム1.6mL溶液を加えた。室温で24時間反応させた後、反応溶液の有機層を濃縮、真空乾燥して、白色固体として実施例1で得られたポリ共役エステルと同一の繰り返し単位を有するポリ共役エステルを得た(収率92%)。
得られた共役ポリエステルの1H NMRスペクトルデータを以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3,26℃):δ7.25(dd,J1=8.7Hz,J2=2.5Hz,2H),7.15(d,J=7Hz,2H),7.05-7.02(m,2H),6.89-6.86(m,2H),6.61(s,1H),6.18(s,1H),4.82(s,2H),1.66(t,6H)ppm
また、得られたポリ共役エステルの分子量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価したところ、数平均分子量(Mn)は3000、分子量分散度(D)は1.74であった。
実施例7
(ポリ共役エステルの合成)
ビスフェノールAの代わりにビスフェノールZ0.215g(0.799mmol)を用いる以外は実施例6と同一の方法で重合し、実施例2で得られたポリ共役エステルと同一の繰り返し単位を有するポリ共役エステルを得た(収率100%)。
得られたポリ共役エステルの1H NMRスペクトルデータを図22及び以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3,25℃):δ7.30-7.26(m,2H),7.27-7.18(m,2H),7.07-7.03(m,2H),6.89-6.87(m,2H),6.59(s,1H),6.17(s,1H),4.81(s,1H),2.30-2.19(br,4H),1.15(br,6H)ppm
また、得られたポリ共役エステルの分子量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価したところ、数平均分子量(Mn)は11000、分子量分散度(D)は2.28であった。
実施例8
(ポリ共役エステルの熱硬化)
実施例2と同様の手順で得られたポリ共役エステル449mg(Mn=4800,D=1.71)を170℃で6時間加熱し、熱硬化させた。得られた架橋ポリマーのクロロホルムに対する重量膨潤度は530%であり、架橋反応が進行していた。架橋反応前後のポリマーの赤外スペクトルを比較した結果を図23に示す。架橋反応前後のスペクトルは酷似しているため、加熱によるポリ共役エステルの分解が生じなかったことが確認できた。
実施例9
(ポリ共役エステルの分解)
実施例2と同様の手順で得られたポリ共役エステル100mg(Mn=6200,D=2.01)を5質量%濃度のアンモニア水溶液2mlに懸濁し、室温で24時間攪拌し、下記式で示すように、ポリ共役エステルを分解(主鎖切断)し、ビスフェノールZを生成させた。
分解反応開始から5分後、1時間後、7時間後、24時間後のポリ共役エステルの1H NMRスペクトル及びサイズ排除クロマトグラムを比較した結果を図24に示す。NMRスペクトルの比較結果から、24時間後には、アリル基に由来するピークが消失し、サイズ排除クロマトグラフの比較結果から、分子量が低下したことが確認できる。なお、24時間後の数平均分子量及び分子量分散度は、検量線の補外による推定値である。さらに、数平均分子量及び分子量分散度に加えて、原料ポリマーに対して反応物からクロロホルムで抽出した成分の重量比を測定した結果をまとめて表1に示す。
図24および表1の結果から明らかなように、24時間後には分解が進み、ポリ共役エステルからビスフェノールZ(質量比79.2%)を良好な収率(67.4/79.2=85.1%)で回収できた。
実施例10
(プレポリマーの合成)
アルゴン雰囲気下、ビスフェノールZ537mg(2.00mmol)とトリエチルアミン406mg(4.01mmol)のクロロホルム1.5mL溶液に、テレフタル酸クロリド183mg(0.900mmol)とイソフタル酸クロリド183mg(0.900mmol)のクロロホルム1.8mL溶液に添加して、室温で2時間攪拌し、下記の繰り返し単位を有し、かつ両末端がビスフェノールZであるプレポリマーを得た。
(高分子鎖延長反応)
プレポリマーを含む溶液に、トリエチルアミン41.7mg(0.412mmol)、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド27.9mg(0.201mmol)を添加して、室温で1時間攪拌し、プレポリマーに対して、下記の繰り返し単位を有する高分子鎖を延長して付加し、三元共重合体を合成した。反応溶液に水2mLを加えた後、これをメタノール40mLに加え、沈殿を回収、真空乾燥して三元共重合体を回収した(収率100%)。
得られた三元共重合体の1H NMRスペクトルを図25及び以下に示す。なお、図25には、プレポリマーの1H NMRスペクトルも併せて示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3,26℃):δ8.98(s,0.43H),8.42(d,J=7.7Hz,0.86H),8.30(s,1.72H,),7.65(t,J=7.7H,0.43H),7.36-7.30(m,3.44H),7.22-7.13(m,3.44H),7.13-7.04(m,0.56H),6.93-6.87(m,0.28H),6.76-6.72(m,0.28H),6.62-6.52(m,0.14H),6.36-6.14(br,0.14H),4.75(s,0.28H),2.30(br,4H),1.60-1.52(m,6H)ppm
また、得られたプレポリマー及び三元共重合体の分子量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価した結果を図26に示す。プレポリマーの数平均分子量(Mn)が4400、分子量分散度(D)は2.38であるのに対して、三元共重合体の数平均分子量(Mn)は13000、分子量分散度(D)は2.13であった。1H NMRスペクトルから,テレフタル酸クロリド由来の単位は43%、イソフタル酸クロリド由来の単位は43%、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド由来の単位は14%と見積もられ、ほぼ仕込み比通りに重合が進行したことが確認された。
実施例11
(三元共重合体のワンショット重合)
アルゴン雰囲気下、ビスフェノールZ1.07g(4.00mmol)とトリエチルアミン894mg(8.80mmol)のクロロホルム2.0mL溶液に、テレフタル酸クロリド.365mg(1.8mmol)とイソフタル酸クロリド365mg(1.8mmol)、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド55.6mg(0.400mmol)のクロロホルム0.6mLを0℃で添加した。クロロホルム3mLを追加し、室温で5時間攪拌した後、これをメタノール150mLに加え、沈殿を回収、真空乾燥して三元共重合体を回収した(収率100%)。
得られた三元共重合体の1H NMRスペクトルデータを図27及び以下に示す。
1H-NMR(400MHz,CDCl3,26℃):δ8.98(s,0.44H),8.42(d,J=7.7Hz,0.88H),8.30(s,1.84H,),7.65(t,J=7.7H,0.44H),7.36-7.30(m,3.6H),7.22-7.13(m,3.6H),7.13-7.04(m,0.44H),6.93-6.87(m,0.22H),6.76-6.72(m,0.22H),6.59(br,0.10H),6.17(br,0.10H),4.81(s,0.20H),2.30(br,4H),1.60-1.52(m,6H)ppm.
また、得られた三元共重合体の分子量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価した結果を図28に示す。三元共重合体の数平均分子量(Mn)は29000、分子量分散度(D)は1.71であった。1H NMRスペクトルから,テレフタル酸クロリド由来の単位は46%、イソフタル酸クロリド由来の単位は44%、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド由来の単位は10%と見積もられ、仕込み比通りに重合が進行したことが確認された。