(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図1~図11を参照して説明する。
本実施形態においては、図1に示すように、ゲート駆動形スイッチング素子として、例えばMOSトランジスタ1を対象としている。MOSトランジスタ1を駆動制御するゲート駆動装置10は、機能ブロック構成として、電流制御部20、電圧変化検出回路30、出力電圧検出回路40を備えている。電圧変化検出回路30は第1検出回路に相当し、出力電圧検出回路40は第2検出回路に相当する。
電圧変化検出回路30および出力電圧検出回路40は、MOSトランジスタ1のターンオフのスイッチング時間Tsを検出するための回路で、ターンオン状態からの出力電圧であるドレイン電圧Vswの変化を検出する。電圧変化検出回路30は、MOSトランジスタ1のドレイン電圧Vswの立ち上がり変化を検出してタイミング信号txを電流制御部20に出力する。出力電圧検出回路40は、MOSトランジスタ1のドレイン電圧Vswの電圧がターンオフ後に直流電源VD(図2参照)に到達したタイミング信号tk(k:自然数)を電流制御部20に出力する。
電流制御部20は、機能ブロックとしてゲート駆動部21、PI制御部22、スイッチング時間設定部(以下、SW時間設定部と称する)23、スイッチング時間計測回路(以下、SW時間計測回路と称する)24および演算回路25を備えている。PI制御部22は、ピーク電流値設定部に相当する。なお、電流制御部20は、駆動ICにより一体に構成されたもので、上記構成要素の機能を実現できる構成であればアナログ回路、論理回路あるいはマイコンなどを用いた回路構成とすることができる。
電流制御部20は、電圧変化検出回路30および出力電圧検出回路40からの検出信号に基づいてMOSトランジスタ1のゲート駆動制御を行う。SW時間計測回路24は、電圧変化検出回路30からのタイミング信号txを受けた時点から出力電圧検出回路40からのタイミング信号tkを受けた時点までの時間をその時点でのMOSトランジスタ1のスイッチング時間Tsk(k:自然数)として検出し、演算回路25に出力する。
SW時間設定部23は、MOSトランジスタ1に対して予め狙いのスイッチング時間Tcとして設定するもので、加算回路25およびゲート駆動部21に出力する。狙いのスイッチング時間Tcは、ユーザにより設定したり、あるいはスペックとして予め設定するもので、MOSトランジスタ1の製造ばらつきなどにも対応して所望のスイッチング時間Tcとして設定することができるものである。
演算回路25は、狙いのスイッチング時間Tcと計測されたスイッチング時間Tskとの差分を演算し、PI制御部22に出力する。PI制御部22は、比例積分制御を行うもので、演算回路25から入力される演算結果に基づいて差分が減少するようにゲート電流Igのピーク電流値Igpk(k:自然数)の指令を演算により算出し、新たなゲート電流のピーク電流値Igpkとしてゲート駆動部21に出力する。
ゲート駆動部21は、時刻t0から流し始めたゲート電流Igaを、SW時間設定部23により設定されているスイッチング時間Tcの期間で、PI制御部22から与えられたピーク電流値Igpkに達するまで直線的に増加させ、その後直線的に減少させる。また、ゲート駆動部21は、狙いのスイッチング時間Tcの開始時点を電圧変化検出回路30から与えられるタイミング信号tkとし、狙いのスイッチング時間Tcの半分が経過した時刻tyでピーク電流値Igpkに達するように制御する。
なお、ゲート駆動部21は、MOSトランジスタ1をオン状態からオフ動作させる場合には、MOSトランジスタ1のゲートからゲート電流Igを放電させるように動作し、オフ状態からオン動作させる場合には、MOSトランジスタ1のゲートにゲート電流Igを充電させるように動作する。
図2は、図1に示したゲート駆動装置10の構成を具体回路として示している。MOSトランジスタ1は、他のMOSトランジスタ2と直列に接続した状態で、直流電源VDとグランドとの間に接続されている。MOSトランジスタ1はローサイド側、MOSトランジスタ2はハイサイド側に接続され、両者の共通接続点は、出力端子Pとして負荷であるコイル3などに給電する構成である。
制御部20は、駆動ICにより構成されており、上記したPI制御部22、SW時間設定部23、SW時間計測回路24および演算回路25は、論理回路により実現させたり、マイコンなどにより演算処理をすることで実現させている。また、ゲート駆動部21は、オン駆動回路21a、オフ駆動回路21bにより構成されており、ここではオフ駆動回路21bが上記したようなゲート電流Igの制御を実施するように構成されている。
電圧変化検出回路30は、MOSトランジスタ1のドレイン電圧Vswが変化するタイミングでタイミング信号txを検出するもので、コンパレータ31、コンデンサ32、抵抗33および基準電源34を備える。コンデンサ32および抵抗33の直列回路が、MOSトランジスタ1のドレイン・ソース間に接続される。コンデンサ32と抵抗33の共通接続点がコンパレータ31の非反転入力端子に接続される。コンパレータ31の反転入力端子には基準電源34の基準電圧が入力される。
MOSトランジスタ1がターンオンしている状態では、ドレイン電圧Vswがほぼグランドレベルにあり、ターンオフ動作により上昇し始める。電圧変化検出回路30においては、MOSトランジスタ1のドレイン電圧Vswが立ち上がる変化タイミングでコンデンサ32の端子電圧が変化に対応して電圧が変化するので、コンパレータ31は出力が変化してハイレベルの信号をタイミング信号txとして出力する。
また、出力電圧検出回路40は、MOSトランジスタ1がターンオフしてドレイン電圧Vswが所定レベルである直流電圧VDに達した時点でタイミング信号tkを検出するもので、コンパレータ41、抵抗42、43および基準電源44を備える。抵抗42および43の直列回路が、MOSトランジスタ1のドレイン・ソース間に接続される。抵抗42と43の共通接続点がコンパレータ41の非反転入力端子に接続される。コンパレータ41の反転入力端子には基準電源44の基準電圧が入力される。
出力電圧検出回路40は、MOSトランジスタ1のドレイン電圧Vswが所定電圧である直流電圧VDに達するタイミングで非反転入力端子に入力される電圧が基準電源44の基準電圧を超えるので、コンパレータ41は出力をハイレベルに変化させる。
次に、図3から図6も参照して上記構成の作用について説明する。
図3はゲート駆動装置10によるゲート電流制御の流れを示している。ゲート駆動装置10においては、予めSW時間設定部23にMOSトランジスタ1のターンオフでの狙いのスイッチング時間Tcが設定されている。これは、ユーザが指定するもので、駆動条件に適したターンオフの狙いのスイッチング時間Tcを設定することができるように構成されている。
また、ゲート駆動装置10においては、ゲート駆動部21は、制御開始時点のステップS100で、ゲート電流のピーク電流値Igpとして、初期値Igp0を設定する。この後、ゲート駆動部21は、MOSトランジスタ1のスイッチングを開始すべく、ステップS110で、所定のゲート電流Igを出力してターンオンさせる。MOSトランジスタ1は、ターンオンの状態では、ゲート電圧Vgsが所定の電圧Vgとなっており、ドレイン電圧Vswはほぼグランドレベル(ほぼ0V)となっている。
ゲート駆動部21は、この後、オフタイミングの時刻t0になると、MOSトランジスタ1のゲートからゲート電荷を放出するために、所定のゲート電流Igaでターンオフ動作を開始する。これにより、MOSトランジスタ1のゲート電圧Vgsが低下し始めると、時刻txでミラー期間に入り、ここでゲート電圧Vgsが一定電圧Vmになる。MOSトランジスタ1は、この時刻txからドレイン電圧Vswが上昇し始める。MOSトランジスタ1のターンオフのスイッチングは時刻txから開始される。
電圧変化検出回路30は、ステップS120で、MOSトランジスタ1のドレイン電圧Vswが増加する変化状態になると、コンデンサ32で微分電圧dV/dtが発生するので、コンパレータ31は出力をハイレベルに変換し、この変化タイミングを検出してタイミング信号txをゲート駆動部21およびSW時間計測回路24に出力する。
ゲート駆動部21は、ステップS130で、MOSトランジスタ1のゲートから電荷をゲート電流Igaで放電していた状態から、タイミング信号txの時点から一定の増加率でゲート電流Igaを増加させ、ピーク電流値Igp0に達すると、一定の減少率で減少させる。このとき、ゲート駆動部21は、ゲート電流Igの増加を時刻txで開始し、時刻tyでピーク電流値Igp0に到達すると、時刻tzまでに減少させてIgaとなるように制御する。そして、ゲート駆動部21は、時刻txからtzの期間が狙いのスイッチング時間Tcとし、時刻tyは中間時点となるようにゲート電流Igの増減の制御を行っている。
なお、MOSトランジスタ1の実際のターンオフのスイッチング時間Tskは、制御開始の初期段階では狙いのスイッチング時間Tcよりも長くなる。これは、ゲート電流Igのピーク電流値Igp0の設定が最終的なピーク電流値Igpnに対して小さいことに起因している。このため、MOSトランジスタ1がターンオフとなるまでのスイッチング時間Tsを出力電圧検出回路40により検出している。
すなわち、時刻tkでMOSトランジスタ1がターンオフしてドレイン電圧Vswが直流電圧VDに達すると、ステップS140にて、出力電圧検出回路40によりこれが検出されて、タイミング信号tkをSW時間計測回路24に出力する。これにより、ステップS150で、SW時間計測回路24は、図4に示しているように、ドレイン電圧Vswの立ち上がりのタイミング信号txから直流電圧VDに達した時点のタイミング信号tkまでの時間をこのときのターンオフのスイッチング時間Tskとして検出し、演算回路25に出力する。
演算回路25においては、SW時間設定部23により設定された狙いのスイッチング時間Tcの値から実際のスイッチング時間Tskを減算した差分値(Tc-Tsk)を演算し、PI制御部22に出力する。PI制御部22では、ステップS160で、演算回路25から受け取った差分値の絶対値(|Tc-Tsk|)が所定の誤差範囲C内にあるか否か、すなわち次式(1)となるか否かを判断する。
|Tc-Tsk|≦C …(1)
なお、初回は実際のスイッチング時間Tskが狙いのスイッチング時間Tcよりも長く、差分値は誤差範囲C内に入らないことが想定されるので、式(1)は成立せず、しかも、差分値(Tc-Tsk)は負の値になることが予想される。したがって、ステップS160ではNOとなり、PI制御部22は、ステップS170に移行し、差分値(Tc-Tsk)から次のピーク電流値Igpkを算出する。
ここでは、PI制御部22は、比例積分処理を行い、差分値が負である場合にはピーク電流値Igpkを差分値に応じて大きくするように演算し、差分値が正である場合には逆にピーク電流値Igpkを差分値に応じて小さくするように演算する。続いて、PI制御部22は、ステップS180で、算出したピーク電流値Igpkを新たなピーク電流値Igpとして設定し、ステップS110に戻る。
以下、上記したステップS110~S180を繰り返して実行するうちに、ステップS160でYESになると、PI制御部22は、ステップS190に進み、そのときのピーク電流値Igpkを狙いのスイッチング時間Tcに対応するピーク電流値Igpとして決定し、設定処理を終了する。
以後は、ゲート駆動部21は、決定されたピーク電流値IgpにてMOSトランジスタ1のゲート電流を制御することで、ターンオフのスイッチング時間Tsがほぼ狙いのスイッチング時間Tcとなるようにゲート駆動制御が行われるようになる。
次に、上記の制御による動作について、図5および図6を参照して電気的な作用の説明をする。図5では、先に説明したステップS190で決定されたピーク電流値Igpでゲート電流Igを制御することでターンオフのn回目のスイッチング時間Tsnが狙いのスイッチング時間Tcとほぼ一致した状態で駆動される最終形態を示している。
図5の最終形態においては、次のように動作する。ターンオン状態のMOSトランジスタ1は、時刻t0以前では、ゲートにゲート電圧Vgが印加された状態であり、出力電圧であるドレイン電圧Vswはほぼ0Vとなっている。時刻t0でゲート電流IgがIgaとしてMOSトランジスタ1のゲートから引き抜かれると、ゲート電圧Vgsが低下し始め、一定電圧に変化する時刻txでドレイン電圧Vswが上昇し始める。
この時刻txのタイミングで引き抜くゲート電流Igが増加され、時刻tyでピーク電流値Igpnに達し、この後減少されて時刻tzになるとゲート電流Igaに戻り、この後時刻tsまで保持される。時刻tzでは、ドレイン電圧Vswが直流電圧VDに達しており、ターンオフ動作が終了する。そして、時刻txからtzまでのスイッチング時間Tsnは、狙いのスイッチング時間Tcとほぼ一致している。
これにより、MOSトランジスタ1がオン状態からターンオフ動作される際に、ドレイン電圧Vswはほぼ0Vの状態から急激に変化することなく滑らかに増加するように変化し、且つ、ドレイン電圧Vswが直流電圧VDに達するときも緩やかに増加率が下がり、滑らかな波形となる。これにより、MOSトランジスタ1のゲートがS字駆動された状態となる。
上記のように最終形態で流すピーク電流Igpnを図3で示した流れに従って設定している。図6は、最初にピーク電流値Igp0でターンオフさせたときの第1形態と、その後繰り返しピーク電流値Igpkを変更設定してターンオフさせたときの第2形態を示している。なお、第1形態および第2形態では、狙いのスイッチング時間Tcに対して、実際のターンオフのスイッチング時間Tskが長い場合で示しているが、短くなる場合でも図3の流れに従った設定動作によって狙いのスイッチング時間Tcに一致させることができる。
第1形態では、初期設定によりゲート電流Igのピーク電流値Igp0が最終形態におけるピーク電流値Igpnよりも小さいので、実際のスイッチング時間Tskが長くなる。このため、狙いのスイッチング時間Tcが経過してもタイミング信号tkが得られない状態である。
第2形態では、ピーク電流値Igpkを繰り返し設定して実際のスイッチング時間Tskが狙いのスイッチング時間Tcに近くなるように制御している状態である。ここでは、第1形態の状態よりも実際のスイッチング時間Tskは狙いのスイッチング時間Tcに近づいているがまだほぼ一致する状態に至っていない。
なお、図示の状態では実際のスイッチング時間Tskが狙いのスッチング時間Tcよりも長い場合で説明しているが、実際のスイッチング時間Tskが狙いのスイッチング時間Tcよりも短くなる場合もあり、具体的には狙いのスイッチング時間Tcを中心として長くなったり、短くなったりしながら差を小さくして狙いのスイッチング時間Tcに近づいていくこともある。
次に、図7および図8を参照して、MOSトランジスタ1の狙いのスイッチング期間Tcにおけるゲート電流Igの流し方について説明する。上記した説明では、ゲート電流Igのピーク電流値Igpに達するタイミングを、時刻txからtzまでの時間すなわち狙いのスイッチング時間Tcの中間時点tyとなるように設定していた。これは、MOSトランジスタ1のゲート・ソース間の寄生容量Cgsがドレイン・ソース間電圧Vswに依存せず、一定の値となることを前提としている。
ところが、実際には、実際のMOSトランジスタ1は、ゲート・ソース間の寄生容量Cgsがドレイン間電圧Vswに依存している。図7はドレイン電圧Vswに対するゲート・ソース間の寄生容量Cgsを示している。一般に、ドレイン電圧Vswが大きくなると、寄生容量Cgsが減少する傾向にある。
この結果、同じゲート電流Igを流している状態でも、ドレイン電圧Vswが小さい領域では、寄生容量Cgsが大きいのでドレイン電圧Vswの上昇が遅く、ドレイン電圧Vswが大きい領域になると、寄生容量Cgsが小さくなるのでドレイン電圧Vswの上昇が速くなる。
したがって、ドレイン電圧Vswが低いときにゲート電流Igを早く上昇させるように、ピーク電流値Igpへの到達時間を早めて時刻tyaで達するようにすると良い。これにより、ゲート電流Igはピーク電流値Igpに達する時刻tyaまでは増加率が大きく、時刻tya以降では増加率が小さくなる。
図8は、中間時刻tyでピーク電流値Igpに達するゲート電流Igに対するドレイン電圧Vswの変化を破線で示し、時刻tyaでピーク電流値Igpに達するゲート電流Igに対するドレイン電圧Vswの変化を実線で示している。このようにピーク電流値Igpに達する時刻を早めることで、ドレイン電圧Vswの変化が立ち上がり時とVDへの到達時とで同じように変化させることができる。
なお、このようなゲート・ソース間の寄生容量Cgsのドレイン電圧Vswに対する変化の特性は、対象となるMOSトランジスタ1毎に予め測定をすることで、その素子に適合した依存度を設定することができる。したがって、使用するMOSトランジスタ1の寄生容量Cgsの特性測定結果に基づいて、ピーク電流値Igpに達する時刻tyaを設定することで、ドレイン電圧Vswをより適切な変化をさせることができるようになる。
また、MOSトランジスタ1の寄生容量Cgsの特性測定結果が、時刻tyaに変更するほどには影響が少ない場合には、中間時点tyを用いた設定で行うこともできる。
図9から図11は、上記した実施形態について、MOSトランジスタ1のターンオフ時だけでなく、ターンオン時においてもドレイン電圧VswがS字状のカーブを描くように変化させるように制御するものである。
図9に示す回路構成では、電圧変化検出回路30は、前述のターンオフの場合に加えて、ターンオンのスイッチング動作においてMOSトランジスタ1のドレイン電圧Vswが直流電源VDにほぼ等しい状態から変化するタイミングを検出してタイミング信号txを出力するように構成される。また、出力電圧検出回路40は、同じく、MOSトランジスタ1のターンオフの場合に加えて、ターンオンしてドレイン電圧Vswがほぼ0Vになるタイミングを検出してタイミング信号tkを出力するように構成される。
これにより、実際のターンオン時間Tskは時刻txからtkの間の時間として得ることができる。また、前述した図3の流れに従って、ターンオン動作についての狙いのスイッチング時間Tcとなるようにピーク電流値Igpkを繰り返し設定することで、実際のスイッチング時間TsknがTcと一致するように設定することができるようになる。
また、MOSトランジスタ1のターンオンのスイッチング動作では、駆動制御部20のゲート駆動部21のうち、オン駆動回路21aによるゲート電流IgをMOSトランジスタ1のゲートに流入させることで同様のスイッチング動作を実施する。
ターンオフのスイッチング動作と同様にして、図10および図11に示す各形態を参照してターンオンのスイッチング動作とS字駆動の制御について説明する。図10は最終形態を示し、図11は第1形態および第2形態を示している。
まず、図11の最終形態においては、次のように動作する。ターンオフ状態のMOSトランジスタ1は、時刻t0以前では、ゲート電圧Vgは0Vであり、出力電圧であるドレイン電圧Vswは直流電源VDとほぼ等しい状態となっている。時刻t0でゲート電流IgがIgaとしてMOSトランジスタ1のゲートに与えられると、ゲート電圧Vgsが上昇し始め、一定電圧に変化する時刻txでドレイン電圧Vswが下降し始める。
この時刻txのタイミングでゲート電流Igが上昇され、時刻tyでピーク電流値Ipgnに達し、この後減少されて時刻tzになるとゲート電流Igaに戻り、この後時刻tsまで保持される。時刻tzでは、ドレイン電圧Vswがほぼ0Vに達しており、ターンオン動作が終了する。そして、時刻txからtzまでのスイッチング時間Tsnは、狙いのスイッチング時間Tcとほぼ一致している。
これにより、MOSトランジスタ1がオフ状態からターンオン動作される際に、ドレイン電圧Vswは直流電圧VDの状態から急激に変化することなく滑らかに減少するように変化し、且つ、ドレイン電圧Vswがほぼ0Vに達するときも緩やかに減少率が下がり、滑らかな波形となる。これにより、MOSトランジスタ1のゲートがS字駆動された状態となる。
上記のように最終形態で流すピーク電流Igpnを、前述した図3に示す流れと同様の趣旨で設定している。図11は、最初にピーク電流値Igp0でターンオンさせたときの第1形態と、その後繰り返しピーク電流値Igpkを変更設定してターンオンさせたときの第2形態を示している。なお、第1形態および第2形態では、狙いのスイッチング時間Tcに対して、実際のターンオフのスイッチング時間Tskが長い場合で示しているが、短くなる場合でも図3の流れに従った設定動作によって狙いのスイッチング時間Tcに一致させることができる。
第1形態では、初期設定によりゲート電流Igのピーク電流値Igp0が最終形態におけるピーク電流値Igpnよりも小さいので、実際のスイッチング時間Tskが長くなるため、狙いのスイッチング時間Tcが経過してもタイミング信号tkが得られない状態である。
第2形態では、ピーク電流値Igpkを繰り返し設定して実際のスイッチング時間Tskが狙いのスイッチング時間Tcに近くなるように制御している状態である。ここでは、第1形態の状態よりも実際のスイッチング時間Tskは狙いのスイッチング時間Tcに近づいているがまだほぼ一致する状態に至っていない。
なお、図示の状態では実際のスイッチング時間Tskが狙いのスッチング時間Tcよりも長い場合で説明しているが、実際のスイッチング時間Tskが狙いのスイッチング時間Tcよりも短くなる場合もあり、具体的には狙いのスイッチング時間Tcを中心として長くなったり、短くなったりしながら差を小さくして狙いのスイッチング時間Tcに近づいていくこともある。
このような本実施形態によれば、MOSトランジスタ1のスイッチング動作でノイズやサージを低減するために、ドレイン電圧VswがS字駆動されるようにゲート駆動制御する場合において、電流制御部20を設けて狙いのスイッチング時間Tcに合わせ込むようにゲート電流Igのピーク値Igpを複数回のスイッチング動作によって設定することができるようにした。これにより、フィードバック制御を行うことなく、適切なゲート電流Igのピーク値Igpを流すことができ、従来構成では得られないナノオーダーでのスイッチング時間を実現することができる。
(第2実施形態)
図12から図17は第2実施形態を示すもので、以下、第1実施形態と異なる部分について説明する。この実施形態では、ドレイン電圧Vswの立ち上がりタイミングtxおよび直流電圧VDに達した時点でのタイミング信号tkを、ドレイン電圧Vswではなく、MOSトランジスタ1のゲート電圧Vgsから検出するようにしたものである。
図12において、ゲート駆動装置50は、電流制御部60、電圧変化検出回路70を備えている。電圧変化検出回路70は、第1実施形態で示した電圧変化検出回路30と出力電圧検出回路40との機能を兼ね備えた回路として設けられるもので、第3検出回路に相当する。
電圧変化検出回路70は、MOSトランジスタ1のゲート電圧Vgsの変化が無くなるミラー期間に入ったタイミングを検出することで、ドレイン電圧Vswの立ち上がり時のタイミング信号txを検出して電流制御部60に出力する。また、電圧変化検出回路70は、MOSトランジスタ1のゲート電圧Vgsが再び変化するミラー期間の終了タイミングを検出することで、ドレイン電圧Vswが直流電源VDに到達したタイミング信号tk(k:自然数)を電流制御部60に出力する。
電流制御部60は、ゲート駆動部61、PI制御部62、SW時間設定部63、ミラー期間計測回路64および演算回路65を備えている。PI制御部62は、ピーク電流値設定部に相当する。電流制御部60を構成する各回路は、第1実施形態で示した電流制御部20とほぼ同様の機能を有した駆動ICとして構成されている。
電流制御部60は、電圧変化検出回路70からの検出信号に基づいてMOSトランジスタ1のゲート駆動制御を行う。ミラー期間計測回路64は、図14に示すように、電圧変化検出回路70からのタイミング信号txを受けた時点からタイミング信号tkを受けた時点までのミラー期間の時間をスイッチング時間Tmk(k:自然数)として検出し、演算回路65に出力する。
SW時間設定部63は、MOSトランジスタ1に対する狙いのスイッチング時間Tcを設定し、加算回路65およびゲート駆動部61に出力する。演算回路65は、狙いのスイッチング時間Tcと計測されたスイッチング時間Tmkとの差を演算し、PI制御部62に出力する。PI制御部62は、比例積分制御を行ってゲート電流Igのピーク電流値Igpk(k:自然数)の指令を演算により算出し、新たなゲート電流のピーク電流値Igpkとしてゲート駆動部61に出力する。
ゲート駆動部61は、時刻t0から流し始めたゲート電流Igaを、スイッチング時間Tcの期間で、PI制御部62から与えられたピーク電流値Igpkに達するまで直線的に増加させ、その後直線的に減少させる。
図13は、図12に示したゲート駆動装置50の構成を具体回路として示している。ゲート駆動部61は、オン駆動回路61a、オフ駆動回路61bにより構成されており、それぞれが上記したようなゲート電流Igの制御を実施するように構成されている。
電圧変化検出回路70は、MOSトランジスタ1のゲート電圧Vgsからタイミング信号txおよびtkを検出するもので、コンパレータ71、コンデンサ72、抵抗73および基準電源74を備える。コンデンサ72および抵抗73の直列回路が、MOSトランジスタ1のゲート・ソース間に接続される。コンデンサ72と抵抗73の共通接続点がコンパレータ71の非反転入力端子に接続される。コンパレータ71の反転入力端子には基準電源74の基準電圧が入力される。
電圧変化検出回路70は、MOSトランジスタ1のゲート電圧Vgsが時刻t0から下降し始めてミラー期間に入って一定レベルに変化するタイミングでコンデンサ72の端子電圧が大きく変化するので、コンパレータ71は出力が変化する。また、出力電圧検出回路70は、MOSトランジスタ1のゲート電圧Vgsが再び変化する状態になるとタイミング信号tkを検出する。
次に、図15から図17も参照して上記構成の作用について説明する。
図15はゲート駆動装置50によるゲート電流制御の流れを示している。全体の流れとしては、図3に示したゲート電流制御に準じており、以下、異なる処理内容について説明する。
ゲート駆動装置50においては、ゲート駆動部61は、ステップS100で、ゲート電流のピーク電流値Igpとして初期値Igp0を設定し、この後、ステップS110で、所定のゲート電流Igを出力してMOSトランジスタ1をターンオンさせる。この状態では、MOSトランジスタ1は、ゲート電圧Vgsが所定の電圧Vgとなっており、ドレイン電圧Vswはほぼ0Vとなっている。
ゲート駆動部61は、オフタイミングの時刻t0で、所定のゲート電流Igaでターンオフ動作を開始すると、MOSトランジスタ1のゲート電圧Vgsが低下し始め、時刻txでミラー期間に入る。このタイミングtxで、MOSトランジスタ1は、ゲート電圧Vgsが一定になり、ドレイン電圧Vswが上昇し始める。
一方、電圧変化検出回路70は、MOSトランジスタ1のゲート電圧VgsがVgから下降して一定値Vmに変化するミラー期間に入ると、ステップS120で、入力電圧の下降状態から一定値への変化によってコンパレータ71は出力をローレベルに変換し、この変化タイミングを検出してタイミング信号txをゲート駆動部61およびミラー期間計測回路64に出力する。
ゲート駆動部61は、ステップS130で、前述同様にタイミング信号txの時点から一定の増加率でゲート電流Igaを増加させ、時刻tyでピーク電流値Igp0に達すると、その後一定の減少率で減少させ、時刻tzで所定のゲート電流Igaになるように制御する。
MOSトランジスタ1の実際のターンオフのスイッチング時間Tsに相当するミラー期間Tmkは、制御開始の初期段階では狙いのスイッチング時間Tcよりも長くなる。したがって、時刻tzが経過した後の時刻tkで、MOSトランジスタ1のミラー期間が終了してゲート電圧Vgsが再び低下し始める。
電圧変化検出回路70は、ステップS140にて、タイミング信号tkをミラー期間計測回路64に出力する。これにより、ミラー期間計測回路64は、ステップS150aで、図14に示しているように、ミラー期間の開始タイミングtxと終了タイミングtkの間の時間Tmkを算出し、演算回路65に出力する。ミラー期間Tmkは、MOSトランジスタ1のターンオフのスイッチング時間Tskに相当する時間である。
演算回路65においては、SW時間設定部63により設定された狙いのスイッチング時間Tcの値から実際のスイッチング時間Tskに相当するミラー期間Tmkを減算した差分値(Tc-Tmk)を演算し、PI制御部62に出力する。PI制御部62では、ステップS160aで、演算回路65から受け取った差分値の絶対値(|Tc-Tmk|)が所定の誤差範囲C内にあるか否か、すなわち次式(2)となるか否かを判断する。
|Tc-Tmk|≦C …(2)
なお、初回はミラー期間Tmkが狙いのスイッチング時間Tcよりも長く、差分値は誤差範囲C内に入らないことが想定されるので、式(2)は成立せず、しかも、差分値(Tc-Tmk)は負の値になることが予想される。したがって、ステップS160aではNOとなり、PI制御部62は、ステップS170aに移行し、差分値(Tc-Tmk)から次のピーク電流値Igpkを算出する。
ここでは、PI制御部62は、比例積分処理を行い、差分値が負である場合にはピーク電流値Igpkを差分値に応じて大きくするように演算し、差分値が正である場合には逆にピーク電流値Igpkを差分値に応じて小さくするように演算する。続いて、PI制御部62は、ステップS180で、算出したピーク電流値Igpkを新たなピーク電流値Igpとして設定し、ステップS110に戻る。
以下、上記したステップS110~S180を繰り返して実行するうちに、ステップS160aでYESになると、PI制御部62は、ステップS190に進み、そのときのピーク電流値Igpkを狙いのスイッチング時間Tcに対応するピーク電流値Igpとして決定し、設定処理を終了する。
以後は、ゲート駆動部61は、決定されたピーク電流値IgpにてMOSトランジスタ1のゲート電流を制御することで、ターンオフのスイッチング時間Tsがほぼ狙いのスイッチング時間Tcとなるようにゲート駆動制御が行われるようになる。
図16および図17は、上記の動作において第1形態、第2形態および最終形態を示すものである。この実施形態においては、MOSトランジスタ1のターンオフのスイッチング時間Tsを直接検出するのではなく、ゲート電圧Vgsの状態によって検出している。すなわち、MOSトランジスタ1のターンオフのスイッチング時間Tsは、ゲート電圧Vgsが変化しない状態で保持されるミラー期間Tmとほぼ一致することから、図16に示すように、この期間Tmをスイッチング時間Tsとして検出する。
図16では、先に説明したステップS190で決定されたピーク電流値Igpでゲート電流Igを制御することでターンオフのn回目のミラー期間Tmnが狙いのスイッチング時間Tcとほぼ一致した状態で駆動される最終形態を示している。最終形態における動作については、第1実施形態とほぼ同じであるから省略する。
最終形態で流すピーク電流Igpnを図15で示した流れに従って設定している。図17は、最初にピーク電流値Igp0でターンオフさせたときの第1形態と、その後繰り返しピーク電流値Igpkを変更設定してターンオフさせたときの第2形態を示している。なお、第1形態および第2形態では、狙いのスイッチング時間Tcに対して、実際に検出されるミラー期間Tmkが長い場合で示しているが、短くなる場合でも図15の流れに従った設定動作によって狙いのスイッチング時間Tcに一致させることができる。第1形態および第2形態における動作については、第1実施形態とほぼ同じであるから省略する。
したがって、このような第2実施形態によっても、第1実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、電圧変化検出回路70だけを設ける構成で実現できるので、ゲート電圧の変化が確実に検出できる場合には、よりコンパクト化を図ることができる有効な構成となる。
(第3実施形態)
図18は第3実施形態を示すもので、以下、第1実施形態と異なる部分について説明する。この実施形態では、ゲート駆動部21あるいは61によるMOSトランジスタ1のゲートへのゲート電流Igの与え方の種々のパターンを示している。
第1実施形態あるいは第2実施形態においては、図18中Aタイプで示すパターンでゲート電流Igを流すように制御していた。すなわち、時刻t0で所定のゲート電流Igaを流し始め、時刻txになると狙いのスイッチング時間Tcの間にピーク電流値Igpまで上昇させた後時刻tzで所定のゲート電流Igaに戻すように制御している。
これに対して、狙いのスイッチング時間Tcの期間におけるゲート電流Igの制御を同じ状態とし、その前後のゲート電流Igを図18のB~Dタイプのパターンに示すように異なる電流値に設定することができる。これは、MOSトランジスタ1の特性や、スイッチングの繰り返し周期などの条件によって適宜変更設定することができるものである。
Bのタイプでは、時刻tz以降のゲート電流Igは、所定のゲート電流Igaとし、時刻t0からtxまでの間のゲート電流Igを変化させている。例えば、所定のゲート電流Igaに代えて、それよりも大きいゲート電流Igbあるいはピーク電流値Igpを超えるゲート電流Igcなどに設定したり、小さいゲート電流Igdに設定したりすることができる。
また、Cのタイプでは、時刻t0からtxまでのゲート電流Igは、所定のゲート電流Igaとし、時刻tzからtsまでの間のゲート電流Igを変化させている。上記と同様に、所定のゲート電流Igaに代えて、それよりも大きいゲート電流Igbあるいはピーク電流値Igpを超えるゲート電流Igcなどに設定したり、小さいゲート電流Igdに設定したりすることができる。
さらに、Dのタイプでは、BタイプとCタイプとを組み合わせたタイプで、時刻t0からtxまでのゲート電流Igおよび時刻tzからtsまでのゲート電流Igを共に変化させている。
このような第3実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
(第4実施形態)
図19および図20は第4実施形態を示すもので、以下、第1実施形態と異なる部分について説明する。この実施形態では、図19に示しているように、負荷としてコイル3に代えて抵抗4を設けた場合のゲート電流Igの制御動作について示している。
負荷が抵抗4の場合には、MOSトランジスタ1のターンオフのスイッチング動作において、ゲート電圧Vgsが一定となるミラー期間は発生しない。MOSトランジスタ1のスイッチング時間Tsは、第1実施形態で用いたドレイン電圧Vswの立ち上がりタイミングtxと直流電圧VDに達するタイミングtkにより計測することができる。また、図20に示しているように、MOSトランジスタ1のターンオフ動作のために、ゲート電流Igを時刻t0で所定のゲート電流Igaにして流すこともない。
この結果、ゲート駆動部21は、MOSトランジスタ1のゲート電流Igを、時刻txのタイミングで流し始め、時刻tzまでの狙いのスイッチング時間Tcの期間中にピーク電流値Igpに達するまで流して再びゼロに戻すように制御する。そして、図20に示す最終形態では、適切なピーク電流値Igpnを流すことでターンオフのスイッチング時間Tsnを狙いのスイッチング時間Tcと一致するように制御される。
また、前述同様に、ゲート駆動回路20により、第1形態および第2形態を経ることで、ゲート電流Igのピーク電流値Igpkを繰り返し設定した結果、上記した適切なピーク電流値Igpnを得ることができるようになる。
したがって、このような第4実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
(他の実施形態)
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能であり、例えば、以下のように変形または拡張することができる。
電圧変化検出回路や出力電圧検出回路は上記実施形態で示した構成に限らず、種々の回路により構成することができる。
第1実施形態では、ターンオフおよびターンオンの両方についてMOSトランジスタ1のドレイン電圧VswをS字状に変化させる例を示したが、ターンオフあるいはターンオンのいずれか一方だけに適用する構成を採用することもできる。
上記各実施形態では、PI制御部22、62を設けて、比例積分による演算でピーク電流値Igpkを設定する構成としたが、スイッチング時間Tskを狙いのスイッチング時間Tcに近づけるように、差分があるときには一定時間だけ増減させる設定方法など種々の方法を採用することができる。
上記各実施形態においては、ゲート駆動形スイッチング素子として、MOSトランジスタ1を用いた場合で示したが、この場合、一般的なSi(シリコン)製のものでも良いし、SiC(炭化シリコン)のような素材を用いたものでも良い。また、ゲート駆動形スイッチング素子として、MOSトランジスタに代えて、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いることもできる。
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。