JP7212734B2 - 固体電解質シートおよび全固体型リチウムイオン電池 - Google Patents
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Description
リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料を含む固体電解質シートであって、
粒子状の前記無機固体電解質材料の加圧成形体であり、
ナノインデーテンション法による弾性率が0.5×109Pa以上1.0×10 12 Pa以下であり、
前記無機固体電解質材料が、構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材料を含み、
前記硫化物系無機固体電解質材料中の前記Pの含有量に対する前記Liの含有量のモル比(Li/P)が1.0以上10.0以下であり、前記Pの含有量に対する前記Sの含有量のモル比(S/P)が1.0以上10.0以下であり、
前記無機固体電解質材料の平均粒子径d 50 が1μm以上40μm以下であり、
当該固体電解質シートの平均厚みが5μm以上500μm以下である固体電解質シートが提供される。
リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料を主成分として含む固体電解質シートであって、
ナノインデーテンション法による弾性率が0.5×109Pa以上である固体電解質シートが提供される。
正極層と、固体電解質層と、負極層とがこの順番に積層された全固体型リチウムイオン電池であって、
上記固体電解質層が、上記固体電解質シートにより構成されたものである全固体型リチウムイオン電池が提供される。
はじめに、本実施形態に係る無機固体電解質材料について説明する。
本実施形態に係る無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料であって、当該無機固体電解質材料を500MPaで10分間プレス成型することにより得られる加圧成形体のナノインデーテンション法による弾性率が0.5×109Pa以上であり、好ましくは1.0×109Pa以上であり、より好ましくは2.0×109Pa以上であり、さらに好ましくは5.0×109Pa以上であり、さらにより好ましくは1.0×1010Pa以上であり、特に好ましくは2.0×1010Pa以上である。
本実施形態に係る無機固体電解質材料において、上記ナノインデーテンション法による弾性率を上記下限値以上とすることにより、得られる固体電解質シートの強度を向上でき、充放電で生じる電極の体積変化により固体電解質層に亀裂が入り、正極と負極が接触してしまうことを抑制することができる。その結果、全固体型リチウムイオン電池の電池特性を向上できる。
また、本実施形態に係る無機固体電解質材料のナノインデーテンション法による弾性率の上限値は特に限定されないが、得られる固体電解質シートの応力緩和力を向上させる観点から、例えば1.0×1012Pa以下であり、好ましくは1.0×1011Pa以下であり、より好ましくは8.0×1010Pa以下であり、さらに好ましくは5.0×1010Pa以下である。これにより、充放電で生じる電極の体積変化による固体電解質層の亀裂をより一層抑制することができ、その結果、全固体型リチウムイオン電池の電池特性をより向上できる。
なお、本実施形態では、全固体型リチウムイオン電池の電池特性とは、例えば、放電容量密度、出力特性、サイクル特性等をいう。
本実施形態に係る無機固体電解質材料や固体電解質シートを用いることにより、電池特性に優れる全固体型リチウムイオン電池が得られる理由は明らかではないが、以下の理由が考えられる。
まず、無機固体電解質材料や固体電解質シートの弾性率が低いと、充放電で生じる電極の体積変化により固体電解質層に亀裂が発生しやすくなると考えられる。この亀裂が発生すると、正極と負極が接触して短絡等が起こり、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性が悪化してしまう。
これに対し、本実施形態に係る無機固体電解質材料や固体電解質シートは、弾性率が特定の値以上であり、強度に優れている。そのため充放電時に固体電解質層に亀裂が発生し難くなると考えられる。以上の理由から、本実施形態に係る無機固体電解質材料や固体電解質シートを用いると、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性の悪化を抑制することができると考えられる。
以上から、本実施形態に係る無機固体電解質材料や固体電解質シートによれば、電池特性に優れる全固体型リチウムイオン電池を実現できる。
測定装置としては、例えば、島津製作所製のダイナミック微小硬度計(DUH―W201)を使用し、使用圧子として三角錐の圧子(稜間角115°)を用いて、一定の試験力P(mN)による負荷-除荷試験(装置上の試験条件:MODE2)から、上記弾性率Eを測定することができる。このとき、弾性率EはE=σ/εで求められる。σは単位面積当りの力(Pa)、εは長さの変化の割合(ΔL/L0)を指す。試験条件は、例えば、試験力50mN、負荷速度4.412993mN/秒、負荷保持時間2秒、試験回数3回とすることができる。試験回数3回の平均値をナノインデーテンション法による弾性率とすることができる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ広い電圧範囲で分解等を起こさない安定性を有する点から、Li2S-P2S5材料が好ましい。ここで、例えば、Li2S-P2S5材料とは、少なくともLi2S(硫化リチウム)とP2S5とを含む混合物をメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより得られる材料を意味する。
その他のリチウム系無機固体電解質材料としては、例えば、LiPON、LiNbO3、LiTaO3、Li3PO4、LiPO4-xNx(xは0<x≦1)、LiN、LiI、LISICON等が挙げられる。さらに、これらの無機固体電解質の結晶を析出させて得られるガラスセラミックスも無機固体電解質材料として用いることができる。
ここで、本実施形態の固体電解質材料中のLi、P、およびSの含有量は、例えば、ICP発光分光分析により求めることができる。
また、本実施形態の粒子状の無機固体電解質材料の平均粒子径d50は、好ましくは1μm以上40μm以下であり、より好ましくは2μm以上30μm以下、さらに好ましくは3μm以上20μm以下である。
無機固体電解質材料の平均粒子径d50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、固体電解質シートのリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。
つづいて、本実施形態に係る無機固体電解質材料の製造方法について説明する。
以下、構成元素として、Li、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材料の製造方法を例に説明する。
本実施形態に係るLi、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材料は、例えば、原料であるLi2SおよびP2S5を特定の割合で含み、必要に応じてLi3Nをさらに含む混合物Aをガラス化し、分級して粒度分布を調整することにより得ることができる。
また、得られたガラス状態の混合物Bを加熱(熱処理とも呼ぶ)してもよい。より具体的には、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、以下の(1)および(2)の工程を含む製造方法により得ることができる。また、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の製造方法は、以下の(3)の工程をさらに含んでもよい。
(2)得られたガラス状態の混合物Bを分級して粒度分布を調整する工程
(3)ガラス状態の混合物Bを加熱することにより、上記混合物Bの少なくとも一部を結晶化する工程
以下、各工程について説明する。
はじめに、Li2SおよびP2S5を特定の割合で含み、必要に応じてLi3Nをさらに含む混合物Aを調製する。Li2S、P2S5およびLi3Nの混合割合は、所望の組成比を有する硫化物系無機固体電解質材料によって適宜設定される。
つぎに、混合物Aをガラス化する。
混合物Aをガラス化する方法としては特に限定されないが、例えば、メカノケミカル処理、溶融急冷法等によりおこなうことができる。
これらの中でも、メカノケミカル処理によりおこなうことが好ましい。常温での処理が可能であり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。また、メカノケミカル処理は、乾式メカノケミカル処理であっても、湿式メカノケミカル処理であってもよい。
メカノケミカル処理を用いると、Li2S、P2S5およびLi3Nを微粒子状に粉砕しながら混合することができるため、Li2S、P2S5およびLi3Nの接触面積を大きくすることができる。これにより、Li2S、P2S5およびLi3Nの反応を促進することができるため、より一層効率良く本実施形態に係る無機固体電解質材料を得ることができる。
つづいて、得られたガラス状態の混合物Bを分級して粒度分布を調整する。上記分級方法としては特に限定されず、篩等公知の方法を用いることができる。ここで、分級して粒度分布を調整する工程では、無機固体電解質材料の平均粒子径d50に対する粒子径d90の比(d90/d50)を2.5以下に調整することが好ましく、2.2以下に調整することがより好ましい。
これらの分級は、空気中の水分との接触を防ぐことができる点から、不活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で行うことが好ましい。
また、分級して粒度分布を調整する工程は、上記(1)の工程の前に、原料であるLi2S、P2S5およびLi3Nに対しておこなってもよいし、上記(1)の工程の後に、上記混合物Bに対しておこなってもよい。また、上記(3)の工程の後に、加熱処理後の上記混合物Bに対しておこなってもよい。
つづいて、得られたガラス状態の混合物Bを加熱することにより、上記混合物Bの少なくとも一部を結晶化する工程について説明する。
本実施形態に係る無機固体電解質材料の製造方法では、ガラス状態の混合物Bを加熱することにより、混合物Bの少なくとも一部を結晶化させてもよい。こうすることにより、より一層リチウムイオン伝導性に優れた無機固体電解質材料を得ることができる。
上記混合物Bを加熱する際の温度が上記範囲内であると、より一層優れたリチウムイオン伝導性を得ることができる。
次に、本実施形態に係る固体電解質シートについて説明する。
本実施形態に係る固体電解質シートは、前述した本実施形態に係る無機固体電解質材料を主成分として含む固体電解質シート、あるいはリチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料を主成分として含む固体電解質シートであって、ナノインデーテンション法による弾性率が0.5×109Pa以上である固体電解質シートである。
ここで、上記リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料としては、前述した本実施形態に係る無機固体電解質材料を挙げることができる。
本実施形態に係る固体電解質シートにおいて、上記ナノインデーテンション法による弾性率を上記下限値以上とすることにより、得られる固体電解質層の強度を向上でき、充放電で生じる電極の体積変化により固体電解質層に亀裂が入り、正極と負極が接触してしまうことを抑制することができる。その結果、全固体型リチウムイオン電池の電池特性を向上できる。
また、本実施形態に係る固体電解質シートのナノインデーテンション法による弾性率の上限値は特に限定されないが、得られる固体電解質シートの応力緩和力を向上させる観点から、例えば1.0×1012Pa以下であり、好ましくは1.0×1011Pa以下であり、より好ましくは8.0×1010Pa以下であり、さらに好ましくは5.0×1010Pa以下である。これにより、充放電で生じる電極の体積変化による固体電解質層の亀裂をより一層抑制することができ、その結果、全固体型リチウムイオン電池の電池特性をより向上できる。
本実施形態に係る固体電解質シートを適用した全固体型リチウムイオン電池の例としては、正極層と、固体電解質層と、負極層とがこの順番に積層されたものが挙げられる。この場合、固体電解質層が固体電解質シートにより構成されたものである。
加圧成形体とすることにより、無機固体電解質材料同士の結合が起こり、得られる固体電解質シートの強度はより一層高くなる。その結果、無機固体電解質材料の欠落や、無機固体電解質材料表面のひび割れをより一層抑制できる。
これにより、無機固体電解質材料間の接触性が改善され、固体電解質シートの界面接触抵抗を低下させることができる。その結果、固体電解質シートのリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。そして、このようなリチウムイオン伝導性に優れた固体電解質シートを用いることにより、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性を向上できる。
なお、「バインダー樹脂を実質的に含まない」とは、本発明の効果が損なわれない程度には含有してもよいことを意味する。また、固体電解質層と正極層または負極層との間に粘着性樹脂層を設ける場合、固体電解質層と粘着性樹脂層との界面近傍に存在する粘着性樹脂層由来の粘着性樹脂は、「固体電解質シート中のバインダー樹脂」から除かれる。
つぎに、本実施形態に係る固体電解質シートの製造方法について説明する。
本実施形態に係る固体電解質シートは、例えば、下記(A)、(B)および(C)の工程を含む製造方法により作製することができる。
(A)粒子状の本実施形態に係る無機固体電解質材料を多孔体の空隙に充填する工程
(B)多孔体の空隙に充填された無機固体電解質材料を金型のキャビティ表面上または基材表面上に篩い落とすことにより、金型のキャビティ表面上または基材表面上に無機固体電解質材料を膜状に堆積させる工程
(C)膜状に堆積した無機固体電解質材料を加圧する工程
以下、各工程について詳細に説明する。
上記スラリーを塗布する方法としては、ドクターブレード塗工法、浸漬塗工法、スプレー塗工法、バーコーター塗工法等の一般的に公知の方法を使用できる。
これらの方法により、多孔体の空隙内に無機固体電解質材料を連続的に充填することができる。
多孔体の形状は特に限定されないが、取り扱いのし易さの観点から、好ましくはシート状である。
多孔体の形態としては、例えば、織布、不織布、メッシュクロス、多孔性膜、エキスパンドシート、パンチングシート等から選択される一種または二種以上が挙げられる。
無機固体電解質材料は多孔体の開口部によって少量ずつ篩い落とされるため、金型のキャビティ表面上または基材表面上に成に均一な厚みで膜状に堆積することができる。
加圧を行えば無機固体電解質材料同士の結合が起こり、得られる固体電解質シートの強度はより一層高くなる。その結果、無機固体電解質材料の欠落や、無機固体電解質材料表面のひび割れをより一層抑制できる。
上記無機固体電解質材料を加圧する方法は特に限定されず、例えば、金型のキャビティ表面上に無機固体電解質材料を堆積させた場合は金型と押し型によるプレス、粒子状の無機固体電解質材料を基材表面上に堆積させた場合は金型と押し型によるプレスやロールプレス、平板プレス等を用いることができる。
無機固体電解質材料を加圧する圧力は、例えば、10MPa以上500MPa以下である。
無機固体電解質材料を加熱する温度は、例えば、40℃以上500℃以下である。
つぎに、本実施形態に係る全固体型リチウムイオン電池200について説明する。図1は、本発明に係る実施形態の全固体型リチウムイオン電池200の構造の一例を模式的に示した断面図である。本実施形態に係る全固体型リチウムイオン電池200はリチウムイオン二次電池であるが、リチウムイオン一次電池であってもよい。
また、実施形態に係る全固体型リチウムイオン電池200は、正極層210と、固体電解質層220と、負極層230とにより構成される単位セルを2つ以上積層させることにより、バイポーラ型リチウムイオン電池とすることもできる。
全固体型リチウムイオン電池200の形状は特に限定されず、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状が挙げられる。
正極活物質層の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
正極活物質としては特に限定されず、全固体型リチウムイオン電池の正極層に使用可能な一般的に公知の正極活物質を用いることができる。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)、固溶体酸化物(Li2MnO3-LiMO2(M=Co、Ni等))、リチウム-マンガン-ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO4)等の複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;Li2S、CuS、Li-Cu-S化合物、TiS2、FeS、MoS2、Li-Mo-S化合物、Li-Ti-S化合物、Li-V-S化合物等の硫化物系正極活物質;硫黄を含浸したアセチレンブラック、硫黄を含浸した多孔質炭素、硫黄と炭素の混合粉等の硫黄を活物質とした材料;等を用いることができる。これらの正極活物質は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、より高い放電容量密度を有し、かつ、サイクル特性により優れる観点から、硫化物系正極活物質が好ましく、Li-Mo-S化合物、Li-Ti-S化合物、Li-V-S化合物から選択される一種または二種以上がより好ましい。
また、Li-Ti-S化合物は構成元素としてLi、Ti、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるチタン硫化物と硫化リチウムをメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより得ることができる。
Li-V-S化合物は構成元素としてLi、V、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるバナジウム硫化物と硫化リチウムをメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより得ることができる。
正極活物質層中の各種材料の配合割合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
負極活物質層の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
負極活物質としては特に限定されず、全固体型リチウムイオン電池の負極層に使用可能な一般的に公知の負極活物質を用いることができる。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素質材料;スズ、スズ合金、シリコン、シリコン合金、ガリウム、ガリウム合金、インジウム、インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を主体とした金属系材料;ポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー;金属リチウム;リチウムチタン複合酸化物(例えばLi4Ti5O12)等が挙げられる。これらの負極活物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
負極活物質層中の各種材料の配合割合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
はじめに、以下の実施例、比較例における測定方法を説明する。
ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により測定し、固体電解質材料や正極活物質中の各元素の質量%をそれぞれ求め、それに基づいて、各元素のモル比をそれぞれ計算した。
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000)を用いて、レーザー回折法により、実施例および比較例で使用した無機固体電解質材料の粒度分布を測定した。測定結果から、無機固体電解質材料について、重量基準の累積分布における50%累積時の粒径(D50、平均粒子径)および重量基準の累積分布における90%累積時の粒径(D90)を求めた。
精製したアルゴンガスが充満されたステンレス製グローブボックス中で、実施例および比較例で得られた無機固体電解質材料200mgをφ14mmのプレス治具に入れ、500MPaで10分間プレス成型した。次いで、得られた円形のペレット(加圧成形体)を密閉容器に入れた。
測定装置として、島津製作所製ダイナミック微小硬度計(DUH―W201)を使用し、使用圧子として三角錐の圧子(稜間角115°)を用いた。ダイナミック超微小硬度計は、予めラミネート製簡易型グローブボックスに入れ、精製アルゴンを導入しながら乾燥を行った。
密閉容器に入れた円形のペレットをステンレス製グローブボックスから取出し、簡易型グローブボックス内のダイナミック超微小硬度計にセットし、試験力50mN、負荷速度4.412993mN/秒、負荷保持時間2秒、試験回数3回の試験条件で負荷―除荷試験を実施した。
ここで、一定の試験力P(mN)による負荷-除荷試験(装置上の試験条件:MODE2)から弾性率Eを求めることができる。このとき、弾性率EはE=σ/εで求められる。σは単位面積当りの力(Pa)、εは長さの変化の割合(ΔL/L0)を指す。試験回数3回の平均値をナノインデーテンション法による弾性率とした。
導電性銅箔導電テープ(寺岡製作所製8313 0.03、外寸法:25.0mm×25.0mm、厚み:30μm、銅箔:0.009mm、導電性アクリル系粘着剤層:0.021mm、粘着剤層面に黒鉛(日本黒鉛工業社製、CGC-20、8mg)を付着)、負極活物質層(インジウム箔、ニラコ社製、23.0mm×23.0mm、平均厚み:20μm)、実施例および比較例で得られた固体電解質シート、正極活物質層(Li14MoS9:ケッチェンブラック(KB):Li11P3S12=1:0.5:1.2(質量比)、平均厚み:30μm)、導電性銅箔導電テープ(寺岡製作所製8313 0.03、外寸法:25.0mm×25.0mm、厚み:30μm、銅箔:0.009mm、導電性アクリル系粘着剤層:0.021mm、粘着剤層面にケッチェンブラック(ライオン社製、325メッシュ、0.1mg)を付着)をこの順で積層させた。次いで、得られた積層体を320MPaで加圧して第一単位セルを作製した。ここで、第一単位セルの作製と同様の方法で、第一単位セルと同じ構成の第二単位セルを作製した。
次いで、中央に直径15mmの円形状の貫通孔を形成した粘着性樹脂層(日東電工社製、極薄両面テープNo.5600、層構成:アクリル系粘着剤層/PETフィルム基材/アクリル系粘着剤層、総厚み:5μm、外寸法:25.0mm×25.0mm)を介して、得られた第一単位セルと第二単位セルを積層して積層体を作製し、得られた積層体を80MPaで加圧した。次いで、得られた積層体をアルミラミネートフィルムで真空ラミネートし、バイポーラ型の全固体型リチウムイオン電池を得た。
次いで、得られた全固体型リチウムイオン電池について、25℃で、電流密度65μA/cm2の条件で充電終止電位4.5Vまで充電した後、電流密度65μA/cm2の条件で、放電終止電位2.0Vまで放電させる条件で充放電を35回以上行った。
ここで、1回目の放電容量を100%としたときの20回目の放電容量を放電容量変化率[%]とし、放電容量変化率が100%のものを◎、放電容量変化率が80%以上100%未満のものを〇、放電容量変化率が80%未満のものを×と評価した。
つぎに、以下の実施例、比較例において使用した材料について説明する。
アルゴン雰囲気下で、Al2O3製ポットに、MoS2(和光純薬工業社製、4.7mmol)と、Li2S(シグマアルドリッチジャパン社製、32.5mmol)と、を秤量して加え、さらにZrO2ボールを入れ、Al2O3製ポットを密閉した。
次いで、Al2O3製ポットを、ボールミル回転台に乗せ120rpmで、4日間処理を行い、混合物を得た。
得られたLi-Mo-S化合物は乳鉢により粉砕し、目開き43μmの篩により分級してLi-Mo-S化合物を得た。
Moの含有量に対するLiの含有量のモル比(Li/Mo)は14であり、Moの含有量に対するSの含有量のモル比(S/Mo)は9であった。
多孔体としては、ナイロンメッシュクロス(田中三次郎商店社製13XX‐100、厚み105μm、空隙率36%、目開き100μm)を用いた。
(1)硫化物系無機固体電解質材料の作製
硫化物系無機固体電解質材料であるLi2S-P2S5材料を以下の手順で作製した。
原料には、Li2S(シグマアルドリッチジャパン製、純度99.9%)、P2S5(関東化学製試薬)を使用した。Li3Nは、以下の手順で作製した。
まず、窒素雰囲気のグローブボックス中で、Li箔(本城金属社製、純度99.8%、厚み0.5mm)にステンレス製の剣山を使用しφ1mm以下の穴を多数開けた。Li箔は穴の部分から黒紫色に変化し始め、そのまま、常温で24時間放置することでLi箔すべてが黒紫色のLi3Nに変化した。Li3Nは、メノウ乳鉢で粉砕後、ステンレス製篩で篩い分けし、75μm以下の粉末を回収し無機固体電解質材料の原料とした。
つづいて、アルゴングローブボックス中で各原料をLi2S:P2S5:Li3N=67.5:22.5:10.0(モル%)になるように精秤し、これら粉末を20分間メノウ乳鉢で混合した。次いで、混合粉末2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-7)にて100rpmで1時間混合粉砕した。次いで、400rpmで15時間混合粉砕して、Li11P3S12組成のLi2S-P2S5材料を得た。得られたLi11P3S12組成のLi2S-P2S5材料を、精製したアルゴンガスが充満されたステンレス製グローブボックス中で、ナイロン製メッシュ(目開き100μm)で篩に掛け、粒子状の無機固体電解質材料(Li11P3S12)を得た。なお、前述したナノインデーテンション法による弾性率の測定におけるプレス成型は、無機固体電解質材料をステンレス製グローブボックス内から取り出さずに、このステンレス製グローブボックス内でおこなった。得られた粒子状の無機固体電解質材料(Li11P3S12)について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
ナイロンメッシュクロスの一方の面に、厚み75μmのスペーサ(厚み60μmのマスキングテープと厚み15μmのベースレス両面テープ)を介してポリエチレンテレフタレート(PET)板を貼り付けたものを作製した。なお、ナイロンメッシュクロスには25mm×25mm以外の部分の開口部を樹脂で充填し、粉末が25mm×25mmのみを通過できるようにしておいた。
次いで、ナイロンメッシュクロスとPET板の間に設けた空間部(スペーサにより確保した空間)と、ナイロンメッシュクロスの開口部(空隙)に、スキージを使用して粒子状の無機固体電解質材料(Li11P3S12)を充填した。
次いで、粒子状の無機固体電解質材料が充填されたナイロンメッシュクロスを反転してプレス金型の上に設置し、PET板を木槌で叩き、振動させることでプレス金型のキャビティ表面上に無機固体電解質材料を篩い落とすことにより、プレス金型のキャビティ表面上に無機固体電解質材料を膜状に堆積させた。ここで、無機固体電解質材料はプレス金型のキャビティ(25mm×25mm)に均一な厚みで膜状に堆積した。
次いで、油圧平板プレスを使用して、320MPaでプレスすることで固体電解質シートを得た。得られた固体電解質シートについて電池特性評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
また、Li11P3S12組成のLi2S-P2S5材料の作製方法に準じた方法により、表1に記載の組成を有する粒子状の無機固体電解質材料をそれぞれ得た。得られた粒子状の無機固体電解質材料について各評価をおこなった。得られた結果を表1にそれぞれ示す。
また、無機固体電解質材料の種類を表1に示す無機固体電解質材料とした以外は、実施例1と同様の方法で固体電解質シートをそれぞれ作製し、電池特性評価をそれぞれおこなった。得られた結果を表1にそれぞれ示す。
ナイロン製メッシュ(目開き100μm)で篩に掛ける操作をおこなわなかった以外は実施例1と同様の方法で粒子状の無機固体電解質材料および固体電解質シートを作製し、各評価をそれぞれおこなった。得られた結果を表2に示す。
ナイロン製メッシュ(目開き100μm)で篩に掛ける操作をおこなわなかった以外は、実施例2~7と同様の方法で粒子状の無機固体電解質材料をそれぞれ作製し、各評価をそれぞれおこなった。得られた結果を表2にそれぞれ示す。
また、無機固体電解質材料の種類を表2に示す無機固体電解質材料とした以外は、実施例1と同様の方法で固体電解質シートをそれぞれ作製し、各評価をそれぞれおこなった。得られた結果を表2にそれぞれ示す。
以上から、本実施形態に係る無機固体電解質材料および固体電解質シートによれば、電池特性に優れる全固体型リチウムイオン電池が得られることが確認できた。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料であって、
当該無機固体電解質材料を500MPaで10分間プレス成型することにより得られる加圧成形体のナノインデーテンション法による弾性率が0.5×10 9 Pa以上である無機固体電解質材料。
2.
1.に記載の無機固体電解質材料において、
硫化物系無機固体電解質材料を含む無機固体電解質材料。
3.
2.に記載の無機固体電解質材料において、
前記硫化物系無機固体電解質材料は構成元素として、Li、P、およびSを含む無機固体電解質材料。
4.
3.に記載の無機固体電解質材料において、
前記硫化物系無機固体電解質材料中の前記Pの含有量に対する前記Liの含有量のモル比(Li/P)が1.0以上10.0以下であり、前記Pの含有量に対する前記Sの含有量のモル比(S/P)が1.0以上10.0以下である無機固体電解質材料。
5.
1.乃至4.いずれか一つに記載の無機固体電解質材料において、
当該無機固体電解質材料は粒子状であり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、前記無機固体電解質材料の平均粒子径d 50 に対する粒子径d 90 の比(d 90 /d 50 )が2.5以下である無機固体電解質材料。
6.
5.に記載の無機固体電解質材料において、
前記無機固体電解質材料の平均粒子径d 50 が1μm以上40μm以下である無機固体電解質材料。
7.
1.乃至6.いずれか一つに記載の無機固体電解質材料を主成分として含む固体電解質シート。
8.
リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料を主成分として含む固体電解質シートであって、
ナノインデーテンション法による弾性率が0.5×10 9 Pa以上である固体電解質シート。
9.
8.に記載の固体電解質シートにおいて、
前記無機固体電解質材料が硫化物系無機固体電解質材料を含む固体電解質シート。
10.
9.に記載の固体電解質シートにおいて、
前記硫化物系無機固体電解質材料は構成元素として、Li、P、およびSを含む固体電解質シート。
11.
10.に記載の固体電解質シートにおいて、
前記硫化物系無機固体電解質材料中の前記Pの含有量に対する前記Liの含有量のモル比(Li/P)が1.0以上10.0以下であり、前記Pの含有量に対する前記Sの含有量のモル比(S/P)が1.0以上10.0以下である固体電解質シート。
12.
7.乃至11.いずれか一つに記載の固体電解質シートにおいて、
粒子状の前記無機固体電解質材料の加圧成形体である固体電解質シート。
13.
7.乃至12.いずれか一つに記載の固体電解質シートにおいて、
当該固体電解質シート中のバインダー樹脂の含有量が、前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、0.5質量%未満である固体電解質シート。
14.
7.乃至13.いずれか一つに記載の固体電解質シートにおいて、
当該固体電解質シート中の前記無機固体電解質材料の含有量が、前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、98質量%以上である固体電解質シート。
15.
7.乃至14.いずれか一つに記載の固体電解質シートにおいて、
当該固体電解質シートの平均厚みが5μm以上500μm以下である固体電解質シート。
16.
7.乃至15.いずれか一つに記載の固体電解質シートにおいて、
全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられる固体電解質シート。
17.
正極層と、固体電解質層と、負極層とがこの順番に積層された全固体型リチウムイオン電池であって、
前記固体電解質層が、7.乃至16.いずれか一つに記載の固体電解質シートにより構成されたものである全固体型リチウムイオン電池。
210 正極層
220 負極層
230 固体電解質層
Claims (5)
- リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料を含む固体電解質シートであって、
粒子状の前記無機固体電解質材料の加圧成形体であり、
ナノインデーテンション法による弾性率が0.5×109Pa以上1.0×10 12 Pa以下であり、
前記無機固体電解質材料が、構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材料を含み、
前記硫化物系無機固体電解質材料中の前記Pの含有量に対する前記Liの含有量のモル比(Li/P)が1.0以上10.0以下であり、前記Pの含有量に対する前記Sの含有量のモル比(S/P)が1.0以上10.0以下であり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、前記無機固体電解質材料の平均粒子径d 50 に対する粒子径d 90 の比(d 90 /d 50 )が2.5以下であり、
当該固体電解質シートの平均厚みが5μm以上500μm以下である固体電解質シート。 - 請求項1に記載の固体電解質シートにおいて、
当該固体電解質シート中のバインダー樹脂の含有量が、前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、0.5質量%未満である固体電解質シート。 - 請求項1または2に記載の固体電解質シートにおいて、
当該固体電解質シート中の前記無機固体電解質材料の含有量が、前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、98質量%以上である固体電解質シート。 - 請求項1乃至3いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、
全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられる固体電解質シート。 - 正極層と、固体電解質層と、負極層とがこの順番に積層された全固体型リチウムイオン電池であって、
前記固体電解質層が、請求項1乃至4いずれか一項に記載の固体電解質シートにより構成されたものである全固体型リチウムイオン電池。
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