以下、添付図面を参照して本願の開示する作業車両の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
まず、図1を参照して実施形態に係る作業車両であるトラクタ1の全体構成について説明する。図1は、トラクタ1の説明図であり、トラクタ1の概略側面図である。
トラクタ1は、自走しながら圃場などで作業を行う農業用トラクタである。また、トラクタ1は、操縦者(作業者ともいう)が搭乗して圃場内を走行しながら所定の作業を実行することができる他、制御部である後述する制御装置40(図2参照)を中心とする制御系による各部の制御により、圃場内を自動走行しながら所定の作業を実行することができる。
すなわち、本実施形態に係るトラクタ1は、作業者がマニュアル操作で走行しつつ作業を行う「マニュアルモード」と、自動走行しながら作業を行う「自動運転モード(自動走行モード)」と、後述する情報処理端末100を用いて作業者によりトラクタ1を遠隔操作する「半自動運転モード」とを備えている。
また、以下において、トラクタ1の前後方向とは、トラクタ1の直進方向を指す。そして、トラクタ1の前進方向とは、トラクタ1の直進方向において、操縦席からステアリングホイール9へ向かう方向へ進むことであり、その反対を後進(後退)方向とする。また、トラクタ1の前後は、前進方向を基準とする。
また、左右方向とは、前後方向に対して水平に直交する方向である。ここでは、前後方向の「前」側へ向けて左右を規定する。すなわち、オペレータが操縦席に着いて前方を向いた状態で、左手側が「左」、右手側が「右」である。さらに、上下方向とは、前後方向および左右方向に対して直交する方向である。したがって、前後方向、左右方向および上下方向は、互いに3次元で直交する。
図1に示すように、トラクタ1は、走行車体2と、作業機60とを備える。走行車体2は、車体フレーム3と、前輪4と、後輪5と、ボンネット6と、エンジンEと、操縦部7と、ミッションケース10とを備える。車体フレーム3は、走行車体2のメインフレームである。
前輪4は、左右一対であり、前車軸4aに回転自在に連結されて主に操舵用の車輪(操舵輪)となる。後輪5は、左右一対であり、後車軸5aに回転自在に連結されて主に駆動用の車輪(駆動輪)となる。なお、トラクタ1は、後輪5が駆動する二輪駆動(2WD)と、前輪4および後輪5が共に駆動する四輪駆動(4WD)とを切り替え可能に構成されてもよい。この場合、駆動輪は、前輪4および後輪5の両方である。なお、走行車体2は、車輪(前輪4および後輪5)に代えてクローラ装置を備えてもよい。この場合、走行クローラが駆動輪である。
ボンネット6は、走行車体2の前部において開閉自在に設けられる。ボンネット6は、後部を回動中心として上下方向に回動(開閉)可能である。ボンネット6は、閉じた状態で、車体フレーム3上に搭載されたエンジンEを覆う。エンジンEは、トラクタ1の駆動源であり、ディーゼル機関やガソリン機関などの熱機関である。
操縦部7は、走行車体2の上部に設けられ、操縦席8やステアリングホイール9などを備える。本実施形態に係るトラクタ1の操縦部7は、走行車体2の上部に設けられたキャビン7aに覆われているが、トラクタ1は、キャビン7aの無い解放状態の操縦部7を有する構成であってもよい。
操縦席8は、操縦者の座席である。ステアリングホイール9は、操縦者により操作されることで、操舵輪である前輪4を操舵することができる。なお、操縦部7は、ステアリングホイール9の前方に、各種情報を表示する表示部(メータパネル)を備える。
また、操縦部7は、ブレーキペダル70、アクセルペダル、クラッチペダルなどの各種操作ペダルや、前後進レバー、アクセルレバー、主変速レバー、副変速レバーなどの各種操作レバーを備える。有人走行の場合、操縦者がブレーキペダル70を踏み込むことで、制動装置53(図2参照)が作動して、前輪4および後輪5の回転を停止するブレーキ操作が可能となっている。他方、自動運転モードで無人走行している場合、所定の条件を検出すると、制御装置40が制動装置53の動作を制御して前輪4および後輪5の回転を停止する。自動運転による走行中であっても、マニュアル走行時のブレーキペダル70の操作と同様にブレーキがかかるため、ダッシングによる移動距離が抑えられて安全性が向上する。
ミッションケース10は、トランスミッション(変速機構)を収容している。トランスミッションは、エンジンEから伝達される動力(回転動力)を適宜減速して駆動輪(ここでは後輪5)や、後述するPTO(Power Take-off)軸11へ伝達する。
走行車体2の後部には、圃場内で作業を行う作業機60が連結され、作業機60を駆動する動力を伝達するPTO軸11がミッションケース10から後方へ突出している。PTO軸11は、トランスミッションによって適宜減速された回転動力を、走行車体2の少なくとも後部に装着された作業機60へ伝達する。本実施形態における作業機60は、対地作業機であって、後述するロータリ耕耘機としている。
また、走行車体2の後部には、作業機60を昇降させる昇降装置12が設けられる。昇降装置12は、作業機60を上昇させることで、作業機60を非作業位置に移動させる。また、昇降装置12は、作業機60を下降させることで、作業機60を対地作業位置に移動させる。昇降装置12は、油圧式の昇降シリンダ121と、リフトアーム122と、リフトロッド123と、ロアリンク124と、トップリンク125とを備える。
リフトアーム122は、昇降シリンダ121に作動油が供給されると、回動支点となる軸AXまわりに作業機60を上昇させるように回動し、昇降シリンダ121から作動油が排出されると、軸AXまわりに作業機60を下降させるように回動する。なお、リフトアーム122の基部(軸AX付近)には、リフトアーム122の回動角度を検知するリフトアームセンサ26が設けられる。作業機60の高さは、リフトアームセンサ26の検知結果に基づいて算出される。
また、リフトアーム122は、リフトロッド123を介してロアリンク124に連結される。このように、昇降装置12は、ロアリンク124とトップリンク125とで、走行車体2に対して作業機60を昇降可能に連結する。
作業機60は、圃場内で作業を行う対地作業機であって、図1に示す例では、圃場において耕耘作業を行うロータリ耕耘機としている。ロータリ耕耘機である作業機60は、PTO軸11から伝達された動力によって耕耘爪61が回転することで、圃場面(土壌)を耕耘する。
かかる耕耘時に、たとえば土壌が固い場合には、耕耘爪61の回転により走行車体2を前方に押す現象、所謂ダッシングが生じる場合がある。このダッシングは、安全上においては好ましくないため、無人走行可能は本実施形態に係るトラクタ1における制御装置40(図2参照)では、後述するように、ダッシングを防止できる自動走行制御処理を行うようにしている。なお、制御装置40は、走行車体2の走行制御に加え、エンジンEおよび作業機60についても制御可能となっている。
また、トラクタ1は、自車位置を測定する測位装置として機能する位置情報取得装置30(図2参照)を備えている。位置情報取得装置30は、たとえば、GNSS(Global Navigation Satellite System)とすることができる。図1に示すように、走行車体2のキャビン7aの前部には、位置情報取得装置30の一部を構成する受信アンテナ33が設けられている。
この受信アンテナ33が、上空を周回している航法衛星300から電波を受信して自車位置情報を取得し、制御装置40と協働して測位および計時を行う。また、制御装置40は、取得した自車位置情報に基づいて走行車体2を自動走行させる走行処理を実行する。
また、トラクタ1は、作業者による情報処理端末(タブレット端末などの携帯端末)100の操作によって、特定の圃場における走行設定や各種作業の設定や、トラクタ1の遠隔操作などを行うことができる。情報処理端末100は、たとえば、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などで構成される記憶部と、タッチパネルにより構成される表示部および操作部とを備える。なお、操作部として、各種キーやボタンなどが別に設けられてもよい。
また、トラクタ1は、障害物センサ20を備える。障害物センサ20は、前方センサ21と、後方センサ22とを備える。前方センサ21は、たとえば、ボンネット6の前方に設けられたセンサ取付ステー13に取り付けられるなど、走行車体2の前部に配置され、走行車体2の前方に存在する物体(障害物)を検知する。後方センサ22は、たとえば、キャビン7aの後端部に取り付けられ、走行車体2の後方に存在する物体(障害物)を検知する。
なお、本実施形態における前方センサ21および後方センサ22は共に、中距離センサであり、好ましくは赤外線センサとする。赤外線センサは、赤外線ビームを放射し、障害物からの反射光を検知する。そして、赤外線ビームを放射した後、障害物からの反射光を検知するまでの時間を測定することで、障害物までの距離を検知することができる。なお、障害物センサ20として、赤外線センサ以外の他の中距離センサを用いることも可能であるし、さらにカメラなどのイメージセンサを用いることもできる。
次に、図2を参照して制御装置40を中心とするトラクタ1の制御系について説明する。図2は、トラクタ1の制御装置40を中心とするブロック図である。図2に示すように、制御装置40は、エンジンECU(Electronic Control Unit)41と、走行系ECU42と、作業機系ECU43とを備える。
エンジンECU41は、エンジンEの回転数などを制御する。走行系ECU42は、操舵装置51、変速装置52、制動装置53を制御することで、走行車体2(図1参照)の走行全般を制御する。作業機系ECU43は、昇降装置12を制御して作業機60の昇降制御を行う他、PTOクラッチ55を入り切りするソレノイドバルブ54を制御して、作業機60の駆動全般を制御する。
制御装置40は、電子制御によって各部を制御することが可能であり、CPU(Central Processing Unit)などを有する処理部をはじめ、自動運転モードなどのモード毎の運転プログラムを含む各種プログラムや圃場ごとに予め設定された走行車体2の予定走行経路などの必要なデータ類が記憶される記憶部などを備える。
図2に示すように、制御装置40には、上述した位置情報取得装置30や情報処理端末100が接続されている。さらに、制御装置40には、エンジン回転センサ23、車速センサ24、切れ角センサ25、障害物センサ20(前方センサ21および後方センサ22)、リフトアームセンサ26、PTOセンサ27などの各種センサ類が接続される。
エンジン回転センサ23は、エンジンEの回転数を検知する。車速センサ24は、走行車体2の走行速度(車速)を算出するためのもので、ここでは、前車軸4aや後車軸5a(図1参照)の回転数を検出し、制御装置40によって車速を算出するようにしている。切れ角センサ25は、操舵輪である前輪4の切れ角を検知する。すなわち、切れ角センサ25は走行車体2の旋回状態を検知することができる。また、PTOセンサ27は、PTO軸11の回転を検出することができる。
こうして、制御装置40には、位置情報取得装置30から圃場などにおける走行車体2の位置情報、エンジン回転センサ23からエンジンEの回転数、車速センサ24から走行車体2の走行速度、切れ角センサ25から前輪4の切れ角がそれぞれ入力される。
制御装置40は、トラクタ1を自動走行(自律走行)させる場合、切れ角センサ25の検知結果を用いて、前輪4の切れ角をフィードバックしながら、ステアリングホイール9に連結されたステアリングシリンダを制御することで、ステアリングホイール9を自動操舵する。つまり、ここでは、ステアリングホイール9、ステアリングシリンダなどにより操舵装置51が構成される。
すなわち、トラクタ1に設定された運転モードの中から「自動運転モード」が選択された場合、制御装置40は、作業機60による作業内容に応じて圃場ごとに予め定められた予定走行経路に沿って走行するように、エンジンE、操舵装置51、変速装置52、制動装置53および昇降装置12などの各部を制御する。なお、予定走行経路は、圃場の形状、大きさ、圃場内に形成された畝の幅、長さおよび本数、さらには作物の種類などに応じて設定される。
前述したように、制御装置40には、エンジンECU41がエンジンEに接続されるが、走行系ECU42が、操舵装置51、変速装置52および制動装置53に接続され、作業機系ECU43が昇降装置12およびソレノイドバルブ54に接続される。作業機系ECU43は、昇降装置12に向けて作業機昇降信号を出力し、この作業機昇降信号に基づいて、昇降装置12は作業機60を昇降駆動する。
また、制御装置40は、作業者が携行可能な情報処理端末(携帯端末)100と無線接続されている。制御装置40は、作業者の操作による情報処理端末100からの指示信号に基づいてトラクタ1の各部を制御する。また、制御装置40は、トラクタ1の機体情報データベースを保持し、型式などの情報の受け渡しを情報処理端末100などからも行うことができるように構成してもよい。
上述してきた構成において、トラクタ1は、たとえば自動運転モードで作業をしている際に、制御装置40は、走行状態の所定の変化に基づいて、ソレノイドバルブ54を制御してPTOクラッチを切断するとともに、昇降装置12を制御して作業機60を上昇させるようにしている。
ここで、走行状態の所定の変化とは、走行車体2が停止した場合、または走行車体2の実速度が理論速度よりも一定値以上高速になる速度差を検出した場合である。
走行車体2の停止についていえば、たとえば自動運転モード中に、障害物センサ20が走行車体2の前方に障害物を検出した場合、制御装置40は走行を停止させる。このとき、走行車体2が停止したことの判断は、走行車体2の車速が0になったことを検出した場合としている。具体的には、車速センサ24の検出結果から制御装置40が算出した速度が0である場合に走行車体2が停止したものとする。なお、車速0の導出は、位置情報取得装置30により取得した自車位置情報に基づいて制御装置40で算出することもできる。
また、走行車体2の停止についてさらにいえば、たとえば半自動運転モードの場合、制御装置40は、情報処理端末100から走行車体2の停車を指示する停車信号を受信した場合も制御装置40は走行を停止させる。
ところで、走行車体2の実速度とは、位置情報取得装置30(GNSS)により導出された速度であり、理論速度とは、車速センサ24の検出結果に基づいて制御装置40が算出した速度である。したがって、本実施形態において、走行車体2の実速度が理論速度よりも一定値以上高速になる速度差というのは、走行車輪4(5)の車軸4a(5a)の回転に基づく理論速度と、位置情報取得装置30により取得した自車位置情報により導出された実速度とから検出される。そして、走行車体2の実速度が理論速度よりも一定値以上高速になると、制御装置40は、制動装置53を制御して、走行車体2の走行を停止させる。
また、本実施形態に係るトラクタ1は、走行車体2を停止させた後に作業を再開する場合、制御装置40は、走行車体2を所定距離だけ後進させ、後進した位置から改めて走行を開始するようにしている。
図3は、トラクタ1の自動走行制御処理の一例を示す説明図である。図3(a)に示すように、たとえばトラクタ1が自動運転モードにおいて所定の予定走行経路を走行している際に、障害物センサ20が走行車体2の前方に障害物を検出したとする。障害物の存在を検出した制御装置40は、即座に走行車体2を停止させる。図3において、走行車体2の停止位置を符号Sで示した。なお、制御装置40による走行車体2の停止処理は、走行車体2の実速度が理論速度よりも一定値以上高速になる速度差を検出した場合にも実行される。
その後、障害物などが取り除かれたりして、自動走行による作業の再開が行われる場合、制御装置40は、図3(b)に示すように、先ず走行車体2を後進させ、図3(c)に示すように、所定位置Sから所定距離Kだけ後進した位置から前進走行を開始するように制御する。なお、この所定距離Kについては、適宜設定することができる。たとえば、車速ごとに後進距離を変えることで、作業開始(耕耘開始)時の位置を一定に保ち、整地性を損なわせることがないようにすることができる。
かかる制御により、所定位置Sから直ちに走行を開始して作業機60による耕耘を開始する場合に比べ、耕耘されない領域の発生を確実に防止することができる。
ここで、図4~図6を参照しながら、トラクタ1における自動走行制御処理の流れについて説明する。図4及び図5は、それぞれ、トラクタ1における自動走行制御処理の一例を示すフローチャートである。なお、図4は、障害物の発生や外部からの遠隔操作により、トラクタ1を強制的に停止させる処理が含まれる自動走行制御処理であり、図5は、走行中にダッシングが発生したと想定された場合にトラクタ1を停止させる処理が含まれる自動走行制御処理である。また、図6は、自動走行制御処理に含まれるPTOクラッチ切断確認処理を示すフローチャートである。なお、図4および図5に示す自動走行制御処理は、走行中、所定間隔で常に繰り返し実行される。
トラクタ1における自動走行制御処理では、図4に示すように、先ず、制御装置40が走行車体2が停止状態であるか否かを判定する(ステップS110)。そして、走行車体2が停止状態であると判定した場合(ステップS110:Yes)、制御装置40はPTOクラッチ55を切断する(ステップS120)。すなわち、制御装置40は、PTOクラッチ55が切り状態となるようにソレノイドバルブ54を駆動する。一方、走行車体2が停止状態ではないと判定した場合(ステップS110:No)、制御装置40は、自動走行制御処理を終了する。
PTOクラッチ55の切断処理を実行した後、制御装置40は、PTOクラッチ55が実際に切断されたか否かを判定し(ステップS130)、切断されていると判定した場合は処理をステップS140に移して作業機60を上昇させる。
PTOクラッチ55が切断されているかの確認について、制御装置40は、図6に示すように、PTOセンサ27の検出結果からPTO軸11が実際に停止しているか否かを判定する(ステップS210)。そして、PTO軸11が実際に停止している、すなわちPTOクラッチ55は切断されていると判定すると(ステップS210:Yes)、制御装置40は処理を図4のステップS140に移し、PTOクラッチ55は切断されていないと判定した場合は(ステップS210:No)、制御装置40は、現在の自動走行モード(自動運転モード)を取り消す(ステップS220)。
このように、制御装置40は、PTOクラッチ55の切断処理をするだけではなく、実際にPTO軸11の状態を確認するため、たとえば、ソレノイドバルブ54がスタックしてしまい、実際にはPTO軸11の回転が継続しており、走行車体2は停止しているはずなのにダッシングしてしまうなどの不都合が生じることがない。そして、その後に作業機60を上昇させるため、より安全性が高まる。
また、PTOクラッチ55が実際には切断されておらず、PTO軸11が回転している場合は、ソレノイドバルブ54のスタックなどが発生したと考えられるため、制御装置40が自動走行モード(自動運転モード)を取り消すことで、その後の作業の安全を確保することができる。
図4に戻り、PTOクラッチ切断確認処理を終えた後、制御装置40は、作業機60を上昇させる(ステップS140)。このときの作業機60の上昇量は、たとえばロータリ耕耘機の爪軸の高さが10~15cm程度とすることが好ましい。高く上げすぎると、次回の作業のための下降に時間を要するからである。また、本実施形態のように、自動運転モードで作業を行っている場合、作業機60の上昇位置は、予め複数位置に設定されている。その場合、上昇量としては、最低高さに設定された位置までとするとよい。
また、作業機60の上昇量の目安としては、リヤカバー62が宙に浮かない位置とすることが好ましい。浅耕している際にダッシングが生じてリヤカバー62が宙に浮いてしまうと、圃場に凹凸を生じさせて整地性が低下につながるからである。
作業機60を上昇させた後、制御装置40は、作業機60を駆動するための信号(作業機駆動信号)が出力されたか否かを判定する(ステップS150)。すなわち、自動運転モードにおいては、走行を停止させる必要のある要因(たとえば障害物の検出)が取り除かれた場合、走行および作業の再開指示がなされるように、たとえば作業機駆動信号などが出力されるようにプログラムされている。
作業機駆動信号が有る場合(ステップS150:Yes)、制御装置40は、ロータリ耕耘機の爪軸を回転させる前に、先に図2を用いて説明したように、走行車体2を所定距離だけ後進させる(ステップS160)。一方、作業機駆動信号が無いと判定した場合は(ステップS150:No)、制御装置40は、自動走行制御処理を終了する。
次いで、制御装置40は、走行車体2を前進させ(ステップS170)、同時にロータリ耕耘機の爪軸を回転させて作業機駆動を開始する(ステップS180)。なお、作業機駆動を開始するために、制御装置40は、作業機60を降下させるが、効果速度が速すぎるとダッシングしてしまうおそれがあるため、ここでの作業機60の効果速度は、通常の作業のときの効果速度よりも遅くすることが好ましい。ところで、ステップS170とステップS180とは、順序が入れ替わっても構わない。
こうして、トラクタ1は、自動走行しながら耕耘作業を行っている際に、なんらかの理由で停止し、その後に作業を再開する場合、停止した場所の近傍エリアでの耕耘もれなどを生じることがなく、整地性を向上させることができる。
次に、自動運転で作業をしているトラクタ1の走行速度の実速度が理論速度よりも一定値以上高速になった場合の処理について、図5を参照しながら説明する。なお、図5においては、ステップS120から以降の流れは図4で説明した処理の流れと同じなので、ここでの説明は省略する。
自動運転モードにおいて、トラクタ1が自動走行しながら耕耘作業を行っているとき、制御装置40は、図5に示すように、走行車体2の理論速度を導出している(ステップS111)。この理論速度の導出は、所定間隔をあけて繰り返されているものとする。
次いで、制御装置40は、位置情報取得装置30(GNSS)を利用して走行車体2の実速度を検出する(ステップS112)。なお、この実速度の導出も所定間隔をあけて繰り返されており、好ましくは理論速度の導出処理とセットで行うものとする。また、ステップS111とステップS112との処理は、順序が逆であっても構わない。
制御装置40は、理論速度と実速度とを比較し、実速度が理論速度よりも速いか否かを判定する。この判定では、実速度が理論速度よりも一定値以上高速になる速度差が検出されたか否かを判定することになる(ステップS113)。これにより、制御装置40は、トラクタ1の走行中にダッシングが発生したか否かを判定することができる。なお、ダッシングが発生したと判定した場合、制御装置40は、たとえばホーンを鳴らすなどして、周辺へ異常を報知することができる。なお、ホーンの鳴動時間は、トラクタ1が完全に停止するまでとするなど、適宜設定して構わない。
ところで、実速度が理論速度よりも一定値以上高速になるというのは、たとえば、位置情報取得装置30を用いて導出した実速度が、走行車輪4(5)の車軸4a(5a)の回転に基づく理論速度の120%程度高速である場合とすることができる。これにより、ダッシングの判断精度を向上させることができる。
そして、実速度が理論速度よりも一定値以上高速になる速度差が検出された場合(ステップS113:Yes)、制御装置40は、ダッシングが生じたと判断し、走行車体2を停止する。すなわち、制動装置53(図2参照)を駆動して前輪4および後輪5を制動する(ステップS114)。一方、実速度が理論速度よりも一定値以上高速になる速度差が検出されない場合(ステップS113:No)、制御装置40は、この処理を終了する。
なお、ダッシングが発生したと判定した場合、制御装置40は、ダッシング検出位置を記憶しておくことが好ましい。ダッシング位置を記憶しておくことで、作業を再開する場合に、停止位置からどの程度の距離(図2における所定距離Kを参照)を後進すればよいかを導出することができ、未耕耘エリアの発生を防止することができる。ダッシングが生じる圃場は硬いことが多いため、後進する所定距離Kとしては、十分な距離をダッシング検出位置から後方に設定することが好ましい。
トラクタ1が停止した後の、ステップS120~ステップS180までの処理は、図4と同様である。
上述してきたトラクタ1によれば、自動運転モードや半自動運転モード時の安全性を向上させることができる。特に、ダッシングなどの発生に伴うリスクを回避することができる。
上述してきた実施形態により、以下のトラクタ1が実現する。
(1)走行車輪4,5を備え、後部に所定の動作を行う作業機60を連結可能な走行車体2と、走行車体2に搭載され、走行車輪4,5および作業機60の駆動源となるエンジンEと、自車両の位置を示す自車位置情報を取得する位置情報取得装置30と、作業機60を昇降させる昇降装置12と、エンジンEからの動力を走行車体2の外部へ出力するPTO軸11へ伝達される動力の接続および接続解除を切り替えるPTOクラッチ55と、自車位置情報を含む所定情報に基づき走行車体2を所定の経路に沿って走行車体2を走行させる自動走行制御と、作業機60の昇降を含む動作制御を実行する制御装置40とを備え、制御装置40は、走行状態の所定の変化に基づき、PTOクラッチ55を切断するとともに、作業機60を上昇させるトラクタ1。
かかるトラクタ1によれば、PTOクラッチ55の入り切りを行うソレノイドバルブ54がたとえスタック(スティック)し、PTO軸11の回転が停止していなくても所謂ダッシングなどが生じるおそれがなくなり、自動運転モードや半自動運転モードにおける無人走行中の安全性を高めることができる。
(2)上記(1)において、走行状態の所定の変化として、走行車体2の車速が0(ゼロ)になったことを検出した場合にPTOクラッチ55を切断するとともに、作業機60を上昇させるトラクタ1。
かかるトラクタ1によれば、走行車体2が停止した場合にPTOクラッチ55を切断して作業機60を上昇させるため、上記(1)の効果に加え、停止しているのも拘わらずダッシングにより前進するようなおそれがなくなる。
(3)上記(1)において、作業機60は対地作業機であって、制御装置40は、走行状態の所定の変化として走行車体2の実速度が理論速度よりも一定値以上高速になる速度差を検出した場合にPTOクラッチ55を切断するとともに、対地作業機60を上昇させるトラクタ1。
かかるトラクタ1によれば、上記(1)の効果に加え、たとえば耕耘作業中のダッシングを防止することができ、安全性をより高めることができる。
(4)上記(3)において、制御装置40は、上記の速度差を検出した場合、走行車体2を停止するトラクタ1。
かかるトラクタ1によれば、走行車体2が停止することで、上記(3)の効果をより高めることができる。
(5)上記(4)において、前輪4および後輪5を備えるとともに、当該前輪4および後輪5を制動する制動装置53を備えており、制御装置40は、制動装置53を駆動して走行車体2を停止するトラクタ1。
かかるトラクタ1によれば、前輪4、後輪5をブレーキにより制動することで走行車体2を停止することができるため、ダッシングによる移動距離が抑えられて上記(4)の効果をより高めることができる。
(6)上記(2)、(4)または(5)において、制御装置40は、走行車体2を停止させた後に作業を再開する場合、所定距離Kだけ後進した位置から走行を開始するトラクタ1。
かかるトラクタ1によれば、上記(2)、(4)または(5)の効果に加え、作業再開時に、耕耘作業がなされない領域の発生を確実に防止することが可能となる。
(7)上記(3)から(5)のいずれかにおいて、制御装置40は、速度差を、走行車輪4(5)の車軸4a(5a)の回転に基づく理論速度と、位置情報取得装置30により取得した自車位置情報により導出された実速度とから検出するトラクタ1。
かかるトラクタ1によれば、より精度良くダッシングを防止することができ、上記(3)から(5)のいずれかの効果をより高めることができる。
(8)上記(1)から(7)のいずれかにおいて、PTO軸11の回転を検出するPTOセンサ27を備え、制御装置40は、PTOクラッチ55を切断したにもかかわらず、PTO軸11の回転が検出された場合、自動走行制御を禁止するトラクタ1。
かかるトラクタ1によれば、上記(1)から(7)のいずれかの効果に加え、PTOクラッチ55やPTOクラッチ55を駆動するソレノイドバルブ54が故障していたとしても、ダッシングを防止することができ、安全性をより高めることが可能となる。
(9)上記(1)から(8)のいずれかにおいて、作業機60の上昇量は、予め複数位置に設定された上昇位置における最低高さまでに規定されているトラクタ1。
かかるトラクタ1によれば、(1)から(8)のいずれかの効果に加えて、走行車体2が停止した後の次回の作業のために作業機60を下降させる際の時間を短縮することができ、整地性も向上する。
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。