実施例1における運転支援制御装置は、トルクコンバータと前後進切替機構とバリエータと終減速機構により構成されるベルト式無段変速機を搭載したエンジン車(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「定速走行制御システムの構成」、「定速走行制御処理構成」、「駆動力制御処理構成」に分けて説明する。
[全体システム構成]
図1は、実施例1の車両の運転支援制御装置が適用されたエンジン車の駆動系と制御系を示す。以下、図1に基づいて全体システム構成を説明する。
エンジン車の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。
ここで、ベルト式無段変速機CVTは、トルクコンバータ2と前後進切替機構3とバリエータ4と終減速機構5を図外の変速機ケースに内蔵することにより構成される。
エンジン1は、ドライバーによるアクセル操作による出力トルクの制御(通常制御)以外に、外部からのエンジン制御信号により出力トルクを制御可能である。このエンジン1には、点火時期リタード制御やスロットルバルブ開閉動作等によりトルクダウン制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。
トルクコンバータ2は、トルク増大機能やトルク変動吸収機能を有する流体継手による発進要素である。トルク増大機能やトルク変動吸収機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、ポンプインペラ23と、タービンランナ24と、ケースにワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
前後進切替機構3は、バリエータ4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、複数枚のクラッチプレートによる前進クラッチ31と、複数枚のブレーキプレートによる後退ブレーキ32と、を有する。前進クラッチ31は、Dレンジ等の前進走行レンジ選択時に前進クラッチ圧Pfcにより油圧締結される。後退ブレーキ32は、Rレンジ等の後退走行レンジ選択時に後退ブレーキ圧Prbにより油圧締結される。なお、前進クラッチ31と後退ブレーキ32は、Nレンジ(ニュートラルレンジ)の選択時、前進クラッチ圧Pfcと後退ブレーキ圧Prbをドレーンすることで、いずれも解放される。
バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、プーリベルト44と、を有し、ベルト接触径の変化により変速比(バリエータ入力回転とバリエータ出力回転の比)を無段階に変化させる無段変速機能を備える。
プライマリプーリ42は、バリエータ入力軸40の同軸上に配された固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bは、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriによりスライド動作する。
セカンダリプーリ43は、バリエータ出力軸41の同軸上に配された固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bは、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecによりスライド動作する。
プーリベルト44は、プライマリプーリ42のV字形状をなすシーブ面と、セカンダリプーリ43のV字形状をなすシーブ面に掛け渡されている。このプーリベルト44は、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リングと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リングに沿って挟み込みにより環状に積層して取り付けられた多数のエレメントにより構成されている。なお、プーリベルト44としては、プーリ進行方向に多数配列したチェーンエレメントを、プーリ軸方向に貫通するピンにより結合したチェーンタイプのベルトであっても良い。
終減速機構5は、バリエータ出力軸41からのバリエータ出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、減速ギヤ機構として、バリエータ出力軸41に設けられたアウトプットギヤ52と、アイドラ軸50に設けられたアイドラギヤ53及びリダクションギヤ54と、デフケースの外周位置に設けられたファイナルギヤ55と、を有する。そして、差動ギヤ機構として、左右のドライブ軸51,51に介装されたディファレンシャルギヤ56を有する。
エンジン車の制御系は、図1に示すように、油圧制御系である油圧制御ユニット7と、電子制御系であるCVTコントロールユニット8と、エンジンコントロールユニット9と、運転支援コントロールユニット14と、を備えている。
油圧制御ユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppri、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psec、前進クラッチ31への前進クラッチ圧Pfc、後退ブレーキ32への後退ブレーキ圧Prb、等を調圧するユニットである。この油圧制御ユニット7は、走行用駆動源のエンジン1により回転駆動されるオイルポンプ70と、オイルポンプ70からの吐出圧に基づいて各種の制御圧を調圧する油圧制御回路71と、を備える。
油圧制御回路71には、ライン圧ソレノイド弁72と、プライマリ圧ソレノイド弁73と、セカンダリ圧ソレノイド弁74と、セレクトソレノイド弁75と、ロックアップ圧ソレノイド弁76と、を有する。なお、各ソレノイド弁72,73,74,75,76は、CVTコントロールユニット8から出力される制御指令値によって各指令圧に調圧する。
ライン圧ソレノイド弁72は、CVTコントロールユニット8から出力されるライン圧指令値に応じ、オイルポンプ70からの吐出圧を、指令されたライン圧PLに調圧する。このライン圧PLは、各種の制御圧を調圧する際の元圧であり、駆動系を伝達するトルクに対してベルト滑りやクラッチ滑りを抑える油圧とされる。
プライマリ圧ソレノイド弁73は、CVTコントロールユニット8から出力されるプライマリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたプライマリ圧Ppriに減圧調整する。セカンダリ圧ソレノイド弁74は、CVTコントロールユニット8から出力されるセカンダリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたセカンダリ圧Psecに減圧調整する。
セレクトソレノイド弁75は、CVTコントロールユニット8から出力される前進クラッチ圧指令値又は後退ブレーキ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令された前進クラッチ圧Pfc又は後退ブレーキ圧Prbに減圧調整する。
ロックアップ圧ソレノイド弁76は、CVTコントロールユニット8から出力されるロックアップ圧指令値に応じ、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するロックアップ制御圧PL/Uを調整する。
CVTコントロールユニット8は、ライン圧制御や変速制御や前後進切替制御やロックアップ制御やベルト滑り保護制御等を行う。ライン圧制御では、スロットル開度等に応じた目標ライン圧を得る指令値をライン圧ソレノイド弁72に出力する。変速制御では、目標変速比(目標プライマリ回転Npri*)を決めると、決めた目標変速比(目標プライマリ回転Npri*)を得る指令値をプライマリ圧ソレノイド弁73及びセカンダリ圧ソレノイド弁74に出力する。前後進切替制御では、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する指令値をセレクトソレノイド弁75に出力する。ロックアップ制御では、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するロックアップ制御圧PL/Uを制御する指令値をロックアップ圧ソレノイド弁76に出力する。ベルト滑り保護制御では、プーリベルト44が滑りそうなとき、エンジン1の出力トルクを制限するトルクダウン制御により変速機入力トルクを下げることで、ベルト滑りを抑える。
CVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ80、車速センサ81、セカンダリ回転センサ82、油温センサ83、インヒビタスイッチ84、ブレーキスイッチ85、タービン回転センサ86等からの情報が入力される。エンジンコントロールユニット9には、エンジン回転センサ12等からの情報が入力される。運転支援コントロールユニット14には、アクセル開度センサ87、定速走行選択スイッチ88等からの情報が入力される。なお、定速走行選択スイッチ88は、ドライバーの意図により通常走行モードか定速走行モードかを選択するスイッチである。
CVTコントロールユニット8とエンジンコントロールユニット9と運転支援コントロールユニット14は、CAN通信線13により情報交換可能に接続されている。
図2は、Dレンジ選択時に自動変速モードでの無段変速制御をバリエータ4により実行する際に用いられるDレンジ無段変速スケジュールの一例を示す。
「Dレンジ変速モード」は、車両運転状態に応じて変速比を自動的に無段階に変更する自動変速モードである。「Dレンジ変速モード」での変速制御は、車速VSP(車速センサ81)とアクセル開度APO(アクセル開度センサ87)により特定される図2のDレンジ無段変速スケジュール上での運転点(VSP,APO)により、目標プライマリ回転数Npri*を決める。そして、プライマリ回転センサ80からのプライマリ回転数Npriを、目標プライマリ回転数Npri*に一致させるプーリ油圧制御により行われる。
即ち、「Dレンジ変速モード」で用いられるDレンジ無段変速スケジュールは、図2に示すように、運転点(VSP,APO)に応じて最Low変速比と最High変速比による変速比幅の範囲内で変速比を無段階に変更するように設定されている。例えば、車速VSPが一定のときは、アクセル踏み込み操作を行うと目標プライマリ回転数Npri*が上昇してダウンシフト方向に変速し、アクセル踏み戻し操作を行うと目標プライマリ回転数Npri*が低下してアップシフト方向に変速する。アクセル開度APOが一定のときは、車速VSPが上昇するとアップシフト方向に変速し、車速VSPが低下するとダウンシフト方向に変速する。
[定速走行制御システムの構成]
以下、図3に基づいて定速走行制御システムの構成を説明する。
定速走行制御システムのハード構成は、図3に示すように、エンジン1(走行用駆動源)と、ベルト式無段変速機CVT(無段変速機:トルクコンバータ2、切替機構3、バリエータ4、終減速機構5)と、駆動輪6と、を備えている。
ベルト式無段変速機CVTのトルクコンバータ2は、締結によりエンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結するロックアップクラッチ20を有する。前後進切替機構3は、前進走行レンジ(Dレンジ、Lレンジ等)の選択により締結される前進クラッチ31と、後退走行レンジ(Rレンジ)の選択により締結される後退ブレーキ32と、を並列に有する。バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、両プーリ42,43に掛け渡されるプーリベルト44と、を有する。
定速走行制御システムのソフト構成は、図3に示すように、CAN通信線13により接続されるCVTコントロールユニット8(駆動力制御手段)と、エンジンコントロールユニット9(走行用駆動源コントロールユニット:駆動力制御手段)と、運転支援コントロールユニット14と、を備えている。
CVTコントロールユニット8は、運転支援コントロールユニット14からCAN通信線13を介して変速要求を入力すると、通常の変速制御(Dレンジ無段変速スケジュールを用いた無段変速制御)に優先して運転支援対応の変速制御が実行される。運転支援対応の変速制御では、バリエータ4の変速比を、変速要求による目標変速比とするアップシフト又はダウンシフトが行われる。
エンジンコントロールユニット9は、エンジン1から駆動輪6へ伝達される駆動力を制御する駆動力制御手段である。運転支援コントロールユニット14からCAN通信線13を介してトルクダウン要求を入力すると、通常のエンジン制御(アクセル開度に応じたエンジン出力制御)に優先して運転支援対応のトルクダウン制御が実行される。運転支援対応のトルクダウン制御では、エンジン1の出力トルクを、トルクダウン要求による目標トルクに制限する制御が行われる。
運転支援コントロールユニット14は、自動ブレーキ制御や自動駐車制御等のように、ドライバーによる運転操作(アクセル操作、ブレーキ操作、ステアリング操作等)の負担を軽減する各種の運転支援制御を行う。この運転支援コントロールユニット14には、目標車速が設定されると、実車速を目標車速に一致させる駆動力制御により車速を維持して走行する定速走行モードを実行する定速走行制御部14aが設けられる。
定速走行制御部14aは、走行中、ドライバーのアクセル操作によるアクセル開度が、中間アクセル開度域に設定された下側閾値αから上側閾値βまでの定速領域Cに入ると、定速領域に入った瞬間の実車速を目標車速に設定し、定速走行モードを開始する。
定速走行制御部14aは、全アクセル開度領域を、下側閾値αから上側閾値βまでのアクセル開度幅による定速領域Cと、上側閾値βより高開度の加速領域Aと、下側閾値αより低開度の減速領域Bとに分けている。そして、下側閾値αと上側閾値βを、車速上昇によるロード/ロード駆動力(以下、「R/L駆動力」という。)の上昇勾配に応じて車速VSPが高くなるほど高アクセル開度値に設定している(図5参照)。
定速走行制御部14aは、定速走行モードの実行中、ドライバーのアクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが加速領域Aに入った後、アクセル踏み戻し操作によりアクセル開度APOが定速領域Cに入ると、定速領域Cに入った瞬間の実車速に目標車速を書き替える。そして、定速走行モードの実行中、ドライバーのアクセル踏み戻し操作によりアクセル開度APOが減速領域Bに入った後、アクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが定速領域Cに入ると、定速領域Cに入った瞬間の実車速に目標車速を書き替える(図13参照)。
定速走行制御部14aは、定速走行モードの実行中、ドライバーによりアクセル踏み増し操作が行われると上側閾値βを狭めた後、徐々に上側閾値βを元に戻す。定速走行モードの実行中、ドライバーによりアクセル踏み戻し操作が行われると下側閾値αを狭めた後、徐々に下側閾値αを元に戻す(図6参照)。
定速走行制御部14aは、定速走行モードを実行中、アクセル開度APOが定速領域Cに入ったままであると、目標車速と実車速の偏差を用いる車速フィードバック制御と、目標加速度をゼロとする加速度フィードバック制御を行う。定速走行モードの実行中、ドライバーのアクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが加速領域Aに入ると、目標加速度を正とする加速度フィードバック制御を行う。定速走行モードの実行中、ドライバーのアクセル踏み戻し操作によりアクセル開度APOが減速領域Bに入ると、目標加速度を負とする加速度フィードバック制御を行う(図13参照)。
定速走行制御部14aは、加速領域Aでの加速度フィードバック制御中、実車速がそのときの目標車速を超えていると車速フィードバック制御を禁止し、実車速がそのときの目標車速以下であると車速フィードバック制御を許可する。減速領域Bでの加速度フィードバック制御中、実車速がそのときの目標車速以下であると車速フィードバック制御を禁止し、実車速がそのときの目標車速を超えていると車速フィードバック制御を許可する(図8参照)。
定速走行制御部14aは、走行負荷抵抗に対して車速VSPを維持するのに必要なR/L駆動力を推定する。そして、加速度フィードバック制御で用いられる正負の目標加速度を、R/L駆動力を基準とし、最大駆動力とゼロ駆動力を用いて算出される余剰駆動力に基づいて算出する(図9参照)。
定速走行制御部14aは、定速走行制御を実現する目標駆動力を算出し、目標駆動力を、エンジン1の回転数とトルクの関係による動作線マップを用いて目標変速比と目標トルクに配分する。そして、CVTコントロールユニット8に対して配分した目標変速比を得る変速要求を出力する。エンジンコントロールユニット9に対して配分した目標トルクを得るトルクダウン要求を出力する(図3、図9参照)。
[定速走行制御処理構成]
図4は、実施例1の運転支援コントロールユニット14の定速走行制御部14aにて実行される定速走行制御処理の流れを示す。以下、図4の各ステップについて説明する。なお、図4では、車速を“VSP”と、アクセル開度を“APO”と、車速フィードバック制御を“車速F/B”と、加速度フィードバック制御を“加速度F/B”と、略記する。
ステップS0では、スタートに続き、制御禁止条件が不成立であるか否かを判断する。YES(制御禁止条件不成立)の場合はステップS1へ進み、NO(制御禁止条件成立)の場合はリターンへと進む。
ここで、「制御禁止条件成立」とは、VDCが作動したとき、タイヤが空転したとき、Nレンジを選択したとき、システム異常があるとき、等をいう。なお、「VDC(Vehicle Dynamics Controlの略称)」とは、各輪の制動力制御や駆動力制御により車両の挙動を制御する車両挙動制御のことをいう。
ステップS1では、ステップS0での制御禁止条件不成立であるとの判断に続き、車速VSPが定速走行制御を許可する制御車速領域であるか否かを判断する。YES(VSPが制御車速領域内)の場合はステップS2へ進み、NO(VSPが制御車速領域外)の場合はリターンへと進む。
ここで、「車速VSP」の情報は、車速センサ81からの車速センサ値により取得する。「制御車速領域」は、定速走行制御を許可する制御対象車速域として予め設定される車速範囲をいう。制御車速領域としては、図5の車速軸とアクセル開度軸による二軸座標面に示すように、第1車速VSP1(例えば、40km/h程度)から第2車速VSP2(例えば、100km/h程度)をいう。
ステップS2では、ステップS1でのVSPが制御車速領域内であるとの判断に続き、アクセル開度APOが、下側閾値αより高く上側閾値βより低いか否かを判断する。YES(APOが定速領域内)の場合はステップS3へ進み、NO(APOが定速領域外)の場合はステップS9へ進む。
ここで、「アクセル開度APO」の情報は、アクセル開度センサ87からのアクセル開度センサ値により取得する。「定速領域」は、定速走行を維持するアクセル開度領域として車速VSPに応じて予め決められている中間アクセル開度範囲(例えば、10%~20%の開度範囲)をいう。
定速領域Cとしては、図5の車速軸とアクセル開度軸による二軸座標面に示すように、下側閾値αと上側閾値βの特性線を、車速上昇によるR/L駆動力の上昇勾配に一致させて車速VSPが高くなるほど高アクセル開度値に設定している。そして、全アクセル開度領域を、下側閾値αから上側閾値βまでの車速VSPの上昇により拡大するアクセル開度幅による定速領域Cと、上側閾値βより高開度の加速領域Aと、下側閾値αより低開度の減速領域Bとに分けている。よって、そのときの車速VSPによりアクセル開度軸方向に切り取ると下側閾値αと上側閾値βが決まり、下側閾値α<アクセル開度APO<上側閾値βであると、アクセル開度APOが定速領域C内に存在していると判断される。
さらに、上側閾値βは、定速走行モードの実行中、図6に示すように、ドライバーによりアクセル踏み増し操作が行われると上側閾値βを狭めた後、徐々に上側閾値βが元に戻される。下側閾値αは、定速走行モードの実行中、ドライバーによりアクセル踏み戻し操作が行われると下側閾値αを狭めた後、徐々に下側閾値αを元に戻される。
ステップS3では、ステップS2でのAPOが定速領域内であるとの判断に続き、そのときの車速VSP(=車速センサ81による実車速)を目標車速VSP*に設定し、設定した目標車速VSP*を維持する定速走行モードを実行し、ステップS4へ進む。
ステップS4では、ステップS3での定速走行モードの実行に続き、初回定速走行モードであるか否かを判断する。YES(初回定速走行モード)の場合はステップS5へ進み、NO(初回以外の定速走行モード)の場合はステップS6へ進む。
ステップS5では、ステップS4での初回定速走行モードであるとの判断に続き、定速領域Cに入った瞬間の実車速である現在の車速VSPを目標車速VSP*にセットし、ステップS6へ進む。
ステップS6では、ステップS5での目標車速セット、或いは、ステップS4での初回以外の定速走行モードであるとの判断に続き、車速F/Bを行い、ステップS7へ進む。
ここで、「車速F/B」とは、目標車速VSP*と実車速VSPの車速偏差を無くすように駆動力を増減制御する車速フィードバック制御をいう。
「車速F/B」は、例えば、PID制御(P:比例、I:積分、D:微分)とする。
ステップS7では、S6,S14,S19での車速F/B、或いは、S13,S18でのNOとの判断に続き、加速度F/Bを行い、リターンへ進む。
ここで、「加速度F/B」とは、目標加速度dV/dt*と実加速度dV/dtの加速度偏差を無くすように駆動力を増減制御する加速度フィードバック制御をいう。
「加速度F/B」は、アクセル開度領域の全域で行い、例えば、PI制御とする。
ステップS9では、ステップS2でのAPOが定速領域外であるとの判断に続き、アクセル開度APOが、下側閾値α以下であるか否かを判断する。YES(アクセル開度APO≦α)の場合はステップS10へ進み、NO(アクセル開度APO>α)の場合はステップS15へ進む。
ステップS10では、ステップS9でのアクセル開度APO≦αであるとの判断に続き、車速VSPの低下を許容する減速モードを実行し、ステップS11へ進む。
ステップS11では、ステップS10での減速モードの実行に続き、前回加速モードであるか否かを判断する。YES(前回加速モードである)の場合はステップS12へ進み、NO(前回加速モードでない)の場合はステップS13へ進む。
ステップS12では、ステップS11での前回加速モードであるとの判断に続き、減速領域Bから定速領域Cに入った瞬間の実車速である現在の車速VSPを目標車速VSP*にセットし、ステップS13へ進む。
ステップS13では、ステップS11での前回加速モードでないとの判断、或いは、ステップS12での目標車速セットに続き、車速VSPがそのときの目標車速VSP*を超えているか否かを判断する。YES(車速VSP>目標車速VSP*)の場合はステップS14へ進み、NO(車速VSP≦目標車速VSP*)の場合はステップS7へ進む。
ステップS14では、ステップS13での車速VSP>目標車速VSP*であるとの判断に続き、車速F/Bを行い、ステップS7へ進む。
ステップS15では、ステップS9でのアクセル開度APO>αであるとの判断に続き、車速VSPの上昇を許容する加速モードを実行し、ステップS16へ進む。
ステップS16では、ステップS15での加速モードの実行に続き、前回減速モードであるか否かを判断する。YES(前回減速モードである)の場合はステップS17へ進み、NO(前回減速モードでない)の場合はステップS18へ進む。
ステップS17では、ステップS16での前回減速モードであるとの判断に続き、加速領域Aから定速領域Cに入った瞬間の実車速である現在の車速VSPを目標車速VSP*にセットし、ステップS18へ進む。
ここで、ステップS12及びステップS17での目標車速VSP*のセットは、図7に示すように、アクセル開度APOと下側閾値αと上側閾値βを用いて目標車速VSP*をセットする(目標車速セット点P1~P4)。即ち、アクセル開度APOが中間開度域(α<APO<β)の定速領域Cに入った瞬間の車速VSPのみではなく、アクセル開度APOの即離しやアクセル開度APOの即踏みも考慮して上側閾値β以下、又は、下側閾値α以上となったエッジでキープする。つまり、必ずしも所定範囲内ではない。
ステップS18では、ステップS16での前回減速モードでないとの判断、或いは、ステップS17での目標車速セットに続き、車速VSPがそのときの目標車速VSP*以下であるか否かを判断する。YES(車速VSP≦目標車速VSP*)の場合はステップS19へ進み、NO(車速VSP>目標車速VSP*)の場合はステップS7へ進む。
ステップS19では、ステップS18での車速VSP≦目標車速VSP*であるとの判断に続き、車速F/Bを行い、ステップS7へ進む。
ここで、定速走行制御処理における車速F/Bと加速度F/Bの使い分けを整理すると、図8に示すようになる。即ち、定速領域C、加速領域A、減速領域Bで常に加速度F/Bをしつつ、定速領域Cで車速F/Bを許可する。但し、アクセル踏み込み操作であるにもかかわらず減速するとき追加で車速F/Bを効かせ、アクセル踏み戻し操作であるにもかかわらず加速するとき追加で車速F/Bを効かせるようにしている。
[駆動力制御処理構成]
図9は、図4の定速走行制御処理で用いる車速フィードバック制御(車速F/B)と加速度フィードバック制御(加速度F/B)による駆動力制御処理の流れを示す。以下、図9の各ステップについて説明する。
ステップS21では、スタートに続き、走行負荷抵抗にかかわらず一定車速を維持するのに必要な駆動力であるR/L駆動力Foを推定し、ステップS22へ進む。
ここで、「R/L駆動力Fo」は、図10に示すように、加速領域Aや減速領域Bでの目標駆動力F*の基準駆動力になるものであり、下記の式(1)を変形した下記の式(2)で推定できる。
m・dV/dt=F-RL …(1)
RL=F-m・dV/dt …(2)
但し、m:車重、dV/dt:加速度、F:駆動力、RL:走行抵抗等の諸々外乱駆動力である。
つまり、R/L駆動力Foは、一定速を維持(dV/dt=0)しているR/Lアクセル開度のときの駆動力F(R/L開度)であり、
Fo=F(R/L開度)=Te×変速比×ファイナルギヤ比÷タイヤ径 …(3)
Te:R/Lアクセル開度でのエンジントルク
による式(3)で算出される。なお、最終的なR/L駆動力Foは、ノイズ除去等の目的で一次遅れ演算等によるフィルタを入れる。
ステップS22では、ステップS21でのR/L駆動力Foの推定に続き、R/L駆動力Foを基準とする余剰駆動力を算出し、ステップS23へ進む。
ここで、余剰駆動力は、R/L駆動力Foを基準とする駆動力差分と割り付け係数を掛け合わせることで算出される。例えば、図10に示す加速領域Aでの余剰駆動力は、そのときのアクセル開度APOにより全開開度(8/8開度)を1としR/L開度をゼロとする加速領域分割係数を求める。そして、図11に示すアクセル全開時のMAX駆動力を1としR/L駆動力を0とする加速割り付け係数特性(平坦、降坂、登坂)を用い、加速領域分割係数から加速割り付け係数を決める。そして、駆動力差分(=MAX駆動力-R/L駆動力)と決めた加速割り付け係数を掛け合わせることで算出する。なお、減速領域Bでの余剰駆動力も、駆動力差分(=R/L駆動力-MIN駆動力)を用いて同様に算出する。
ステップS23では、ステップS22での余剰駆動力の算出に続き、余剰駆動力に基づいて目標加速度dV/dt*を算出し、ステップS24へ進む。
ここで、「目標加速度dV/dt*」は、
dV/dt*=余剰駆動力÷車重 …(4)
の式(4)により算出される。
ステップS24では、ステップ23での目標加速度dV/dt*の算出に続き、車速F/Bが許可されているか否かを判断する。YES(車速F/B許可)の場合はステップS25へ進み、NO(車速F/B禁止)の場合はステップS26へ進む。
ステップS25では、ステップS24での車速F/B許可であるとの判断に続き、ステップS22での余剰駆動力と車速F/B分の補正駆動力と加速度F/B分の補正駆動力により目標駆動力F*を算出し、ステップS27へ進む。
ここで、車速F/B分の補正駆動力は、目標車速VSP*と実車速VSPの車速偏差に応じたPID制御により求められる駆動力をいう。加速度F/B分の補正駆動力は、目標加速度dV/dt*と実加速度dV/dtの加速度偏差に応じたPI制御により求められる駆動力をいう。
ステップS26では、ステップS24での車速F/B禁止であるとの判断に続き、ステップS22での余剰駆動力と加速度F/B分の補正駆動力により目標駆動力F*を算出し、ステップS27へ進む。
ここで、ステップS24での判断において、車速F/B許可→車速F/B禁止、又は、車速F/B禁止→車速F/B許可へと移行する過渡期は、車速F/Bの繋ぎを0~1の許可係数により線形補正し、操作量の急変を避ける。つまり、PDは操作量に許可係数を掛け、Iは成分前の偏差に許可係数を掛けて、車速F/B許可/禁止を滑らかに繋ぐ。
ステップS27では、ステップS25又はステップS26での目標駆動力F*の算出に続き、目標駆動力F*のフィルタリングを行い、ステップS28へ進む。
ここで、目標駆動力F*のフィルタリングは、パワートレーン固有値を十分カットする領域で操作する。その理由は、駆動力操作によりパワートレーン固有値の振動(共振)を誘発することは避けたいことによる。
ステップS28では、ステップS27での目標駆動力のフィルタリングに続き、図12に示す動作線マップを用い、目標駆動力F*を目標変速比と目標トルクに配分するための動作点(Ne,Nt)を決定し、ステップS28へ進む。
ここで、目標駆動力F*が算出されると、図12に示す動作線マップを用いることで、目標駆動力F*と動作線との交点により、動作点であるエンジン回転数NeとエンジントルクNtが決まる。なお、図12に示す動作線は、燃費性能等により設定される。
ステップS29では、ステップS28での動作点の決定に続き、エンジン回転数Neからバリエータ4の目標変速比を設定し、CVTコントロールユニット8に対しバリエータ4の変速比を目標変速比とする変速比要求を出力し、ステップS30へ進む。
ここで、目標変速比は、動作線マップによるエンジン回転数Neをバリエータ入力回転数とする。そして、そのときのセカンダリ回転数Nsecをバリエータ出力回転数とすることで目標変速比が設定される。そして、設定された目標変速比は、ふらつかないようにフィルタがかけられる。なお、目標トルクよりも目標変速比を先に決める理由は、変速比よりもエンジントルクの方が、応答速度が速く、変速比を細かく動かすと回転変化が頻繁に発生し、違和感が出る可能性が高いことによる。
ステップS30では、ステップS29でのCVTコントロールユニット8に対する変速比要求を出力に続き、エンジンコントロールユニット9に対しエンジン1の出力トルクを目標トルクとするトルクダウン要求を出力し、リターンへ進む。
ここで、目標トルクは、目標駆動力F*とそのときのバリエータ4の変速比から計算し、目標トルクを制限トルクとしてトルクダウン要求を出力する。このとき、フルトルクコントロールができればよいが、実施例1ではトルクダウン制御のみで実現する。このため、定速領域Cのアクセル開度範囲を予め高めのアクセル開度に設定し、エンジントルクを出せる状態にしておいて、トルクダウンによりエンジントルクを抑え込んだ状態でトルクコントロールを行う。
次に、実施例1の作用を、「既存の定速走行制御技術」、「定速走行制御処理作用」、「駆動力制御処理作用」、「ワンペダル操作による定速走行制御作用」に分けて説明する。
[既存の定速走行制御技術]
アクセルペダルを踏み続けることなくセットした一定速度を維持する定速走行制御機能を発揮する既存技術として、クルーズコントロールシステム(「ASCD」や「オートクルーズシステム」と称されることもある。)が知られている。
クルーズコントロールシステムを使用すると、アクセルペダルを踏まずに走行(例えば40km/h~100km/hの車速)できるというように、運転者の疲労軽減並びに同乗者の快適性向上に寄与する。しかし、クルーズコントロールシステムを使用するためには、下記に述べるドライバーによる煩わしいスイッチ操作等を要する。
まず、クルーズコントロールシステムを作動するときは、メインスイッチを押してONにする。そして、目標車速を設定するときは、希望する車速まで加速し、セットスイッチを短く押すとディスプレイにセットインジケーターが表示され、アクセルペダルから足を離すと、定速走行モードを開始し、目標車速が維持される。そして、追い越しを行なうときはアクセルペダルを踏み込む操作をする。アクセルペダルを踏み込んだ後、アクセルペダルから足を離すと、車速は目標車速に復帰する。
クルーズコントロールシステムの作動を停止するときは、次のいずれかの操作を行う。1. キャンセルスイッチを押す。
2. セットスイッチ等を押しながらブレーキペダルを軽く踏む。
3. メインスイッチをOFFにする。
なお、車速が最低車速以下になったとき、設定車速より実車速が設定車速以上低下したとき、VDCが作動したとき、タイヤが空転したとき、Nレンジを選択したとき、システム異常があるときは、自動的にクルーズコントロールシステムの作動が停止する。
目標車速を上げるときは、次のいずれかの操作を行なう。
・アクセルペダルを踏み込み、希望の車速に達した時点でセットスイッチを短く押す。
・リジューム/アクセラレートスイッチを押し続け、希望の車速に達した時点でスイッチから手を離す。
・リジューム/アクセラレートスイッチを短く押し、希望の車速にする。なお、スイッチを押すごとに約1.0km/hずつ目標車速が高くなる。
目標車速を下げるときは、次のいずれかの操作を行なう。
・ブレーキペダルを軽く踏み、希望の速度に達した時点で、セットスイッチを短く押す。
・セットスイッチを押し続け、希望の速度まで減速した時点でスイッチから手を離す。
・セットスイッチを短く押し、希望の速度にする。なお、スイッチを押すごとに、約1.0km/hずつ目標車速が低くなる。
[定速走行制御処理作用]
実施例1は、上記のような操作をアクセルペダルのみの操作で直感的に実施することを目指した。以下、図4のフローチャートに基づいて定速走行制御処理作用を説明する。
車速VSPが定速走行制御を許可する制御車速領域であり、かつ、アクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが下側閾値αを超えて定速領域Cに入ったときは、図4のフローチャートにおいて、S0→S1→S2→S3→S4→S5へと進む。S5では、定速領域Cに入った瞬間の車速VSP(車速センサ81による実車速)が目標車速VSP*に設定され、設定された目標車速VSP*を維持する“定速走行モード”が開始される。
定速走行モードの開始後、アクセル開度APOが定速領域Cに存在したままであると、S2→S3→S4→S6→S7へと進む流れが繰り返される。S6では、S5で設定された目標車速VSP*を用いた車速F/Bが許可され、S7では、目標加速度=0での加速度F/Bが実行される。
定速走行モードの実行中、アクセル開度APOが上側閾値β以上になり、定速領域Cから加速領域Aに入り、実車速VSP>目標車速VSP*であると、S2からS9→S15→S16→S18→S7へと進む。つまり、目標車速VSP*を用いた車速F/Bが禁止され、目標加速度>0での加速度F/Bが実行される。
アクセル開度APOが加速領域Aに存在し、実車速VSP>目標車速VSP*から実車速VSP≦目標車速VSP*へ移行すると、S18からS19→S7へと進む。S19では、そのときの目標車速VSP*を用いた車速F/Bが許可され、目標加速度>0での加速度F/Bが実行される。
アクセル踏み戻し操作により加速領域Aから定速領域Cに入ると、S2→S3→S4→S5→S6→S7へと進む。S6では、S5で設定された目標車速VSP*を用いた車速F/Bが許可され、S7では、目標加速度=0での加速度F/Bが実行される。
定速走行モードの実行中、アクセル開度APOが下側閾値α以下になり、定速領域Cから減速領域Bに入り、実車速VSP≦目標車速VSP*であると、S2からS9→S10→S11→S13→S7へと進む。つまり、目標車速VSP*を用いた車速F/Bが禁止され、目標加速度<0での加速度F/Bが実行される。
アクセル開度APOが減速領域Bに存在し、実車速VSP≦目標車速VSP*から実車速VSP>目標車速VSP*へ移行すると、ステップS13からS14→S7へと進む。S14では、そのときの目標車速VSP*を用いた車速F/Bが許可され、目標加速度<0での加速度F/Bが実行される。
アクセル踏み込み操作により減速領域Bから定速領域Cに入ると、S2→S3→S4→S5→S6→S7へと進む。S6では、S5で設定された目標車速VSP*を用いた車速F/Bが許可され、S7では、目標加速度=0での加速度F/Bが実行される。
このように、定速走行制御処理では、車速VSPが制御車速領域での走行中、アクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが定速領域Cに入ると、定速領域Cに入った瞬間の実車速VSPが目標車速VSP*に設定される。そして、設定された目標車速VSP*を維持する“定速走行モード”が開始される。
定速走行制御処理では、目標車速VSP*を上げるとき、アクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが加速領域Aに入る。その後、アクセル踏み戻し操作により加速領域Aから定速領域Cに入ると、定速領域Cに入った瞬間の実車速VSPが目標車速VSP*に書き替えられる。
定速走行制御処理では、目標車速VSP*を下げるとき、アクセル踏み戻し操作によりアクセル開度APOが減速領域Bに入る。その後、アクセル踏み込み操作により減速領域Bから定速領域Cに入ると、定速領域Cに入った瞬間の実車速VSPが目標車速VSP*に書き替えられる。
定速走行制御処理では、アクセル踏み込み操作により加速領域Aにいるとき、原則として車速F/Bを禁止し、目標加速度>0での加速度F/Bが実行される。しかし、加速領域Aにいるときに登坂等で直前に設定された目標車速VSP*よりも減速する場合には、車速F/Bを再開し、少なくとも直前に設定された目標車速VSP*以下にならないようにされる。
定速走行制御処理では、アクセル踏み戻し操作により減速領域Bにいるとき、原則として車速F/Bを禁止し、目標加速度<0での加速度F/Bが実行される。しかし、減速領域Bにいるときに降坂等で直前に設定された目標車速VSP*よりも加速する場合には、車速F/Bを再開し、少なくとも直前に設定された目標車速VSP*を超えないようにされる。
[駆動力制御処理作用]
以下、図9に示すフローチャートに基づいて駆動力制御処理作用を説明する。
車速F/Bが許可されているときは、図9のフローチャートにおいて、S21→S22→S23→S24→S25→S27→S28→S29→S30という流れが繰り返される。
S21では、R/L駆動力Foが推定され、S22では、R/L駆動力Foを基準とする余剰駆動力が算出され、ステップS23では、余剰駆動力に基づいて目標加速度dV/dt*が算出される。
S24での車速F/B許可であるとの判断に続く、S25では、ステップS22での余剰駆動力と車速F/B分の補正駆動力と加速度F/B分の補正駆動力により目標駆動力F*が算出される。S27では、目標駆動力F*のフィルタリングが行われ、S28では、目標駆動力F*を変速比とエンジントルクに配分するための動作点が決定される。S29では、CVTコントロールユニット8に対しバリエータ4の変速比を目標変速比とする変速比要求が出力され、S30では、エンジンコントロールユニット9に対しエンジン1の出力トルクを目標トルクとするトルクダウン要求が出力される。
車速F/Bが禁止されているときは、図9のフローチャートにおいて、S21→S22→S23→S24→S26→S27→S28→S29→S30という流れが繰り返される。
S24での車速F/B禁止であるとの判断に続く、S26では、ステップS22での余剰駆動力と加速度F/B分の補正駆動力により目標駆動力F*が算出される。
S24での判断において、車速F/B許可→車速F/B禁止、又は、車速F/B禁止→車速F/B許可へと移行するときは、車速F/Bの繋ぎを0~1の許可係数により線形補正される。
このように、駆動力制御処理では、車速F/B/加速度F/Bにより定速走行制御を実現する目標駆動力F*が算出される。目標駆動力F*が算出されると、エンジン1の回転数NeとトルクNtの関係による動作線マップを用い、目標駆動力F*が目標変速比と目標トルクに配分される。そして、CVTコントロールユニット8に対しては、配分された目標変速比を得る変速要求が出力される。エンジンコントロールユニット9に対しては、配分された目標トルクを得るトルクダウン要求が出力される。
駆動力制御処理では、車速F/Bの許可領域と車速F/Bの禁止領域とを互いに繋ぐとき、線形補完により駆動力操作量の急変を避けることで、2つの領域がスムーズに繋げられる。
[ワンペダル操作による定速走行制御作用]
図13は、定速→加速→定速→加速→定速→減速→定速へと移行する走行シーンにおける各特性を示す。図14は、加速領域での加速度フィードバック制御中に実車速が目標車速よりも低下するシーンにおける各特性を示す。以下、図13及び図14に基づいてワンペダル操作による定速走行制御作用を説明する。
図13の時刻t1までに、アクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが定速領域Cに入り、定速領域Cに入った瞬間の車速VSPが目標車速1に設定され、設定された目標車速1を維持する“定速走行モード”が開始されているとする。
時刻t1にてアクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが定速領域Cから加速領域Aに入ると、車速F/Bが時刻t1までのONからOFFへとスムーズに移行し、加速度F/Bが時刻t1までのG=0からG>0へと移行する。この加速度F/Bによって、車速VSPが時刻t1での車速(≒目標車速1)からドライバーの加速要求にしたがって上昇する。
時刻t2にてアクセル踏み戻し操作によりアクセル開度APOが加速領域Aから定速領域Cに入ると、まず、目標車速が、目標車速1から定速領域Cに入った瞬間の目標車速2(>目標車速1)に書き替えられる。同時に、車速F/Bが時刻t2までのOFFからONへとスムーズに移行し、加速度F/Bが時刻t2までのG>0からG=0へと移行する。この車速F/Bによって、車速VSPが時刻t2での車速(=目標車速2)をそのまま維持するように制御される。
時刻t3にてアクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが定速領域Cから加速領域Aに入ると、車速F/Bが時刻t3までのONからOFFへとスムーズに移行し、加速度F/Bが時刻t3までのG=0からG>0へと移行する。この加速度F/Bによって、車速VSPが時刻t3での車速(≒目標車速2)からドライバーの加速要求にしたがって上昇する。
時刻t4にてアクセル踏み戻し操作によりアクセル開度APOが加速領域Aから定速領域Cに入ると、まず、目標車速が、目標車速2から定速領域Cに入った瞬間の目標車速3(>目標車速2)に書き替えられる。同時に、車速F/Bが時刻t4までのOFFからONへとスムーズに移行し、加速度F/Bが時刻t4までのG>0からG=0へと移行する。この車速F/Bによって、車速VSPが時刻t4での車速(=目標車速3)をそのまま維持するように制御される。
時刻t5にてアクセル踏み戻し操作によりアクセル開度APOが定速領域Cから減速領域Bに入ると、車速F/Bが時刻t5までのONからOFFへとスムーズに移行し、加速度F/Bが時刻t5までのG=0からG<0へと移行する。この加速度F/Bによって、車速VSPが時刻t5での車速(≒目標車速3)からドライバーの減速要求にしたがって低下する。
時刻t6にてアクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが減速領域Bから定速領域Cに入ると、まず、目標車速が、目標車速3から定速領域Cに入った瞬間の目標車速4(<目標車速3)に書き替えられる。同時に、車速F/Bが時刻t6までのOFFからONへとスムーズに移行し、加速度F/Bが時刻t6までのG<0からG=0へと移行する。この車速F/Bによって、車速VSPが時刻t6での車速(=目標車速4)をそのまま維持するように制御される。
このように、アクセル開度APOの定速領域に入るアクセル踏み込み操作によって目標車速VSP*を設定し、定速走行モードを開始する。目標車速VSP*を上げる目標車速VSP*の書き替えは、アクセル踏み込み操作中にドライバーの希望する車速になったタイミングでアクセル戻し操作をすることにより行われる。さらに、目標車速VSP*を下げる目標車速の書き替えは、アクセル踏み戻し操作中にドライバーの希望する車速になったタイミングでのアクセル踏み操作をすることにより行われる。つまり、アクセルペダルに対するワンペダル操作により、定速走行モードを開始する目標車速VSP*を設定できるばかりでなく、目標車速VSP*の適宜変更を行うことができる。
加速領域での加速度フィードバック制御中に登坂路走行等による走行負荷の増大により実車速が目標車速よりも低下するシーンについて図14に基づいて説明する。
時刻t1にてアクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが定速領域Cから加速領域Aに入ると、車速F/Bが時刻t1までのONからOFFへとスムーズに移行し、加速度F/Bが時刻t1までのG=0からG>0へと移行する。この加速度F/Bによって、車速VSPが時刻t1での車速(≒目標車速)からドライバーの加速要求にしたがって上昇するが、途中で登坂路走行等に入ると、走行負荷の増大により減速を開始する。
減速を開始した後、時刻t2にて車速VSPが目標車速以下になると、車速F/Bが時刻t2までのOFFからONへとスムーズに移行し、車速F/Bの再開により車速VSPの低下が抑えられる。そして、登坂路等を抜けて時刻t3にて車速VSPが目標車速を超えると、車速F/Bが時刻t3までのONからOFFへとスムーズに移行する。このため、G>0での加速度F/Bによって、時刻t3以降において車速VSPが時刻t3での車速(≒目標車速)からドライバーの加速要求にしたがって上昇する。
このように、加速領域での加速度F/B中に減速が介入すると、G>0での加速度F/Bを維持したままで、車速F/Bが再開される。この車速F/Bの再開によって、少なくとも直前に設定された目標車速以下にならないように駆動力が制御されることで、登坂路走行等に入っても、応答良く減速状態から加速状態への復帰することができる。
以上説明してきたように、実施例1の車両の運転支援制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
(1) 走行用駆動源(エンジン1)から駆動輪6へ伝達される駆動力を制御する駆動力制御手段(CVTコントロールユニット8、エンジンコントロールユニット9)と、ドライバーによる運転操作負担を軽減する運転支援制御を行う運転支援制御手段(運転支援コントロールユニット14)と、を備える。
運転支援制御手段(運転支援コントロールユニット14)に、目標車速VSP*が設定されると、実車速VSPを目標車速VSP*に一致させる駆動力制御により車速を維持して走行する定速走行モードを実行する定速走行制御部14aを設ける。
定速走行制御部14aは、走行中、ドライバーのアクセル操作によるアクセル開度APOが、中間アクセル開度域に設定された下側閾値αから上側閾値βまでの定速領域Cに入ると、定速領域Cに入ったときの実車速VSPを目標車速VSP*に設定し、定速走行モードを開始する(図4)。
このように、定速走行モードの開始条件を、ドライバーのアクセル操作条件により与えることで、走行中、車速が安定しなくてもワンペダル操作により定速走行モードに入ることができる。なお、既存のクルーズコントロールシステムのように、アクセルペダルを踏まずに定速走行モードを維持することはできないが、走行中に車速を維持するために行われるドライバーによる細かいアクセル調整操作の負担を軽減できる。
(2) 定速走行制御部14aは、全アクセル開度領域を、下側閾値αから上側閾値βまでのアクセル開度幅による定速領域Cと、上側閾値βより高開度の加速領域Aと、下側閾値αより低開度の減速領域Bとに分ける。
下側閾値αと上側閾値βを、車速上昇によるロード/ロード駆動力(R/L駆動力)の上昇勾配に応じて車速VSPが高くなるほど高アクセル開度値に設定する(図5)。
このように、定速領域Cをロード/ロード駆動力(R/L駆動力)に沿って設定することで、走行中の車速VSPが低速域であるか高速域であるかに合わせて定速走行モードを維持できる適正な目標車速VSP*に設定することができる。
(3) 定速走行制御部14aは、定速走行モードの実行中、ドライバーのアクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが加速領域Aに入った後、アクセル踏み戻し操作によりアクセル開度APOが定速領域Cに入ると、定速領域Cに入ったときの実車速VSPに目標車速VSP*を書き替える。
定速走行モードの実行中、ドライバーのアクセル踏み戻し操作によりアクセル開度APOが減速領域Bに入った後、アクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが定速領域Cに入ると、定速領域Cに入ったときの実車速VSPに目標車速VSP*を書き替える(図11)。
このように、目標車速VSP*の書き替えを、ドライバーのアクセル操作の変化により行うことで、定速走行モードでの走行中、ドライバーの加減速要求に合わせたワンペダル操作により、設定されている目標車速VSP*を書き替えることができる。
(4) 定速走行制御部14aは、定速走行モードの実行中、ドライバーによりアクセル踏み増し操作が行われると上側閾値βを狭めた後、徐々に上側閾値βを元に戻す。
定速走行モードの実行中、ドライバーによりアクセル踏み戻し操作が行われると下側閾値αを狭めた後、徐々に下側閾値αを元に戻す。
このように、ドライバーによるアクセル踏み増し踏み戻し操作によりアクセル開度幅による定速領域Cを狭める制御を行うことで、設定されている目標車速VSP*の書き替えをアクセル操作によるドライバーの意図に合わせて促すことができる。
(5) 定速走行制御部14aは、定速走行モードを実行中、アクセル開度APOが定速領域Cに入ったままであると、目標車速VSP*と実車速VSPの偏差を用いる車速フィードバック制御(車速F/B)と、目標加速度α*をゼロとする加速度フィードバック制御(加速度F/B)を行う。
定速走行モードの実行中、ドライバーのアクセル踏み込み操作によりアクセル開度APOが加速領域Aに入ると、目標加速度α*を正とする加速度フィードバック制御(加速度F/B)を行う。
定速走行モードの実行中、ドライバーのアクセル踏み戻し操作によりアクセル開度APOが減速領域Bに入ると、目標加速度α*を負とする加速度フィードバック制御(加速度F/B)を行う(図6)。
このように、加速領域Aと減速領域Bでは加速度フィードバック制御(加速度F/B)を行うことで、定速走行モードでの走行中、定速領域Cから加速領域Aに入った後の加速性能と定速領域Cから減速領域Bに入った後の減速性能を確保することができる。
(6) 定速走行制御部14aは、加速領域Aでの加速度フィードバック制御中、実車速VSPがそのときの目標車速VSP*を超えていると車速フィードバック制御(車速F/B)を禁止し、実車速VSPがそのときの目標車速VSP*以下であると車速フィードバック制御(車速F/B)を許可する。
減速領域Bでの加速度フィードバック制御中、実車速VSPがそのときの目標車速VSP*以下であると車速フィードバック制御(車速F/B)を禁止し、実車速VSPがそのときの目標車速VSP*を超えていると車速フィードバック制御(車速F/B)を許可する(図6)。
このように、加速領域Aでの減速や減速領域Bでの加速に対して車速フィードバック制御(車速F/B)を許可することで、加速領域Aでの減速状態から加速状態への復帰応答と減速領域Bでの加速状態から減速状態への復帰応答を高くすることができる。
(7) 定速走行制御部14aは、走行負荷抵抗に対して車速VSPを維持するのに必要なロード/ロード駆動力(R/L駆動力)を推定する。
加速度フィードバック制御(加速度F/B)で用いられる正負の目標加速度α*を、ロード/ロード駆動力(R/L駆動力)を基準とし、最大駆動力とゼロ駆動力を用いて算出される余剰駆動力に基づいて算出する(図7)。
このように、目標加速度α*をロード/ロード駆動力(R/L駆動力)を基準の余剰駆動力に基づいて算出することで、加速領域Aや減速領域Bでの駆動力の過不足を抑えた適正な駆動力制御を行うことができる。
(8) 駆動力制御手段として、駆動系に搭載された無段変速機(ベルト式無段変速機CVT)の変速比を制御するCVT制御手段(CVTコントロールユニット8)と、走行用駆動源(エンジン1)の出力トルクを制限するトルクダウン制御を行う走行用駆動源制御手段(エンジンコントロールユニット9)と、を有する。
定速走行制御部14aは、定速走行制御を実現する目標駆動力F*を算出し、目標駆動力F*を、走行駆動源(エンジン1)の回転数とトルクの関係による動作線マップを用いて目標変速比と目標トルクに配分する。
CVT制御手段(CVTコントロールユニット8)に対して配分した目標変速比を得る変速要求を出力し、走行用駆動源制御手段(エンジンコントロールユニット9)に対して配分した目標トルクを得るトルクダウン要求を出力する(図3)。
このように、駆動力制御を、変速比制御とトルクダウン制御により行うことで、既存技術である変速比制御と走行駆動源(エンジン1)のトルクダウン制御の協調制御技術を活用し、定速走行モード実行中における駆動力制御を行うことができる。
以上、本発明の車両の運転支援制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1では、定速走行制御部14aとして、定速領域Cに入った瞬間の実車速VSPを目標車速VSP*に設定する例を示した。しかし、定速走行制御部としては、定速領域に入ってから所定時間経過後の実車速を目標車速に設定するような例としても良い。
実施例1では、定速走行制御部14aとして、駆動力制御を、変速比制御とトルクダウン制御により行う例を示した。しかし、定速走行制御部としては、駆動力制御を、走行用駆動源の出力トルク制御のみにより行う例としても良い。また、駆動力制御を、変速比制御とブレーキ制御により行う例としても良い。
実施例1では、定速走行制御部14aとして、定速走行制御モードの実行中、自車両の目標車速を設定して定速走行制御を行う例を示した。しかし、定速走行制御部としては、定速走行制御モードの実行中、先行車が存在しないときは目標車速により走行し、先行車が存在するときは自車両と先行車との車間距離を確保しながら走行するというように、周知の定速走行制御を実行する例としても勿論良い。
実施例1では、本発明の運転支援制御装置を、トルクコンバータと前後進切替機構とバリエータと終減速機構により構成されるベルト式無段変速機を搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明の運転支援制御装置は、バリエータのみによるベルト式無段変速機に限らず、バリエータと副変速機が直列に連結される副変速機付きベルト式無段変速機を搭載した車両に適用しても良い。また、適用される車両としても、エンジン車に限らず、走行用駆動源にエンジンとモータを搭載したハイブリッド車、走行用駆動源にモータを搭載した電気自動車等に対しても適用できる。