JP6942238B2 - 自動変速機のロックアップ制御装置および制御方法 - Google Patents

自動変速機のロックアップ制御装置および制御方法 Download PDF

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Description

本発明は、車両に搭載される自動変速機のロックアップ制御装置および制御方法に関する。
従来、コースト走行中(=惰性走行中)、ロックアップ差圧の初期値を学習制御により取得しながらコースト容量学習制御を行う自動変速機のロックアップ制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
上記従来装置にあっては、ロックアップ差圧初期値として所望の学習値が取得できるようになるまでは、学習制御を繰り返し経験する必要がある、という問題があった。また、コースト容量学習制御の開始時に学習制御によるロックアップ差圧の初期値が用いられるため、コースト容量学習制御開始前の運転状態によっては初期差圧がばらつき、コースト容量学習制御の開始域にてスリップ量が変動する、という問題があった。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、コースト走行中、学習制御を行う必要なく、コーストスリップ制御の開始直後から安定したスリップ回転を保持することを目的とする。
特開平9−203462号公報
本発明は、トルクコンバータと、ロックアップクラッチと、変速機コントローラと、を備える。
変速機コントローラに、目標差回転数に基づくフィードフォワード補償と差回転数偏差に基づくフィードバック補償によりコンバータトルクを演算し、トルクコンバータへの入力トルクからコンバータトルクを差し引いて演算される目標ロックアップトルクを得るスリップ制御を実行するロックアップ制御部を設ける。
ロックアップ制御部は、アクセル足離し操作によるコースト走行中、コーストスリップ制御の開始条件が成立すると、フィードバック補償でのコンバータトルクフィードバック補償分を初期値にリセットし、コーストスリップ制御を開始する。
このように、コンバータトルクフィードバック補償分の初期値リセットによりコーストスリップ制御を開始することで、コースト走行中、学習制御を行う必要なく、コーストスリップ制御の開始直後から安定したスリップ回転を保持することができる。
実施例の自動変速機のロックアップ制御装置が適用されたエンジン車の駆動系と制御系を示す全体システム図である。 自動変速モードでの無段変速制御をバリエータにより実行する際に用いられるDレンジ無段変速スケジュールの一例を示す変速スケジュール図である。 実施例のロックアップ制御装置を示す概要構成図である。 CVTコントロールユニットのロックアップ制御部を構成する各ブロックを示すブロック構成図である。 ロックアップ制御部を構成する目標算出ブロックとトルク容量演算ブロックと実現ブロックを示す詳細構成図である。 実施例のCVTコントロールユニットのロックアップ制御部にて実行されるコーストスリップ制御処理の流れを示すフローチャートである。 実施例のCVTコントロールユニットのロックアップ制御部にて実行されるロックアップクラッチトルク容量制御処理の流れを示すフローチャートである。 比較例でのコースト走行中に実行されるコースト容量学習制御におけるアクセル開度APO・LU要求・アイドルスイッチIdle SW・フューエルカットフラグF/C flag・学習条件・エンジントルクTe・タービン回転数Nt・エンジン回転数Ne・LU指示差圧の各特性を示すタイムチャートである。 比較例でのコースト容量学習制御をコーストスリップ制御に置き換え可能かどうかを検討する際の検討動作の流れを示すフローチャートである。 実施例でのコースト走行中に実行されるコーストスリップ制御におけるアクセル開度APO・目標差回転・アイドルスイッチIdle SW・フューエルカットフラグF/C flag・コーストスリップ要求・LUトルク・LU指示差圧・タービン回転数Nt・エンジン回転数Neの各特性を示すタイムチャートである。
以下、本発明の自動変速機のロックアップ制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
実施例におけるロックアップ制御装置は、トルクコンバータと前後進切替機構とバリエータと終減速機構により構成されるベルト式無段変速機(自動変速機の一例)を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例の構成を、「全体システム構成」、「ロックアップ制御装置の構成」、「トルク容量演算ブロック等の詳細構成」、「コーストスリップ制御処理構成」、「ロックアップクラッチトルク容量制御処理構成」に分けて説明する。
[全体システム構成]
図1は、実施例の自動変速機のロックアップ制御装置が適用されたエンジン車の駆動系と制御系を示す。以下、図1に基づいて、全体システム構成を説明する。
エンジン車の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。ここで、ベルト式無段変速機CVTは、トルクコンバータ2と前後進切替機構3とバリエータ4と終減速機構5を図外の変速機ケースに内蔵することにより構成される。
エンジン1は、ドライバーによるアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号により出力トルクを制御可能である。このエンジン1は、スロットルバルブ開閉動作や燃料カット動作等によりトルク制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。例えば、アクセル足離し操作によるコースト走行時、燃料カット制御が実行される。
トルクコンバータ2は、トルク増大機能やトルク変動吸収機能を有する流体継手による発進要素である。トルクコンバータ2は、トルク増大機能やトルク変動吸収機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、ポンプインペラ23と、タービンランナ24と、ステータ26と、を構成要素とする。ポンプインペラ23は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結される。タービンランナ24は、トルクコンバータ出力軸21に連結される。ステータ26は、変速機ケースにワンウェイクラッチ25を介して設けられる。
前後進切替機構3は、バリエータ4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、複数枚のクラッチプレートによる前進クラッチ31と、複数枚のブレーキプレートによる後退ブレーキ32と、を有する。前進クラッチ31は、Dレンジ等の前進走行レンジ選択時に前進クラッチ圧Pfcにより油圧締結される。後退ブレーキ32は、Rレンジ等の後退走行レンジ選択時に後退ブレーキ圧Prbにより油圧締結される。なお、前進クラッチ31と後退ブレーキ32は、Nレンジ(ニュートラルレンジ)の選択時には、前進クラッチ圧Pfcと後退ブレーキ圧Prbをドレーンすることでいずれも解放される。
バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、プーリベルト44と、を有し、ベルト接触径の変化により変速比(バリエータ入力回転とバリエータ出力回転の比)を無段階に変化させる無段変速機能を備える。プライマリプーリ42は、バリエータ入力軸40の同軸上に配された固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bはプライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriによりスライド動作する。セカンダリプーリ43は、バリエータ出力軸41の同軸上に配された固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bはセカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecによりスライド動作する。プーリベルト44は、プライマリプーリ42のV字形状をなすシーブ面と、セカンダリプーリ43のV字形状をなすシーブ面とに掛け渡されている。このプーリベルト44は、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リングと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リングに沿って挟み込みにより環状に積層して取り付けられた多数のエレメントにより構成されている。なお、プーリベルト44としては、プーリ進行方向に多数配列したチェーンエレメントを、プーリ軸方向に貫通するピンにより結合したチェーンタイプのベルトであっても良い。
終減速機構5は、バリエータ出力軸41からのバリエータ出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、減速ギヤ機構として、バリエータ出力軸41に設けられたアウトプットギヤ52と、アイドラ軸50に設けられたアイドラギヤ53及びリダクションギヤ54と、デフケースの外周位置に設けられたファイナルギヤ55と、を有する。そして、差動ギヤ機構として、左右のドライブ軸51,51に介装されたディファレンシャルギヤ56を有する。
エンジン車の制御系は、図1に示すように、油圧制御ユニット7と、CVTコントロールユニット8と、エンジンコントロールユニット9と、を備えている。電子制御系であるCVTコントロールユニット8とエンジンコントロールユニット9は、互いの情報を交換可能なCAN通信線13により接続されている。
油圧制御ユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppri、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psec、前進クラッチ31への前進クラッチ圧Pfc、後退ブレーキ32への後退ブレーキ圧Prb、等を調圧するユニットである。この油圧制御ユニット7は、走行用駆動源であるエンジン1により回転駆動されるオイルポンプ70と、オイルポンプ70からの吐出圧に基づいて各種の制御圧を調圧する油圧制御回路71と、を備える。油圧制御回路71には、ライン圧ソレノイド弁72と、プライマリ圧ソレノイド弁73と、セカンダリ圧ソレノイド弁74と、セレクトソレノイド弁75と、ロックアップ圧ソレノイド弁76と、を有する。なお、各ソレノイド弁72,73,74,75,76は、CVTコントロールユニット8から出力される制御指令値(指示電流)によって調圧動作を行う。
ライン圧ソレノイド弁72は、CVTコントロールユニット8から出力されるライン圧指令値に応じ、オイルポンプ70からの吐出圧を、指令されたライン圧PLに調圧する。このライン圧PLは、各種の制御圧を調圧する際の元圧であり、駆動系を伝達するトルクに対してベルト滑りやクラッチ滑りを抑える油圧とされる。
プライマリ圧ソレノイド弁73は、CVTコントロールユニット8から出力されるプライマリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたプライマリ圧Ppriに減圧調整する。セカンダリ圧ソレノイド弁74は、CVTコントロールユニット8から出力されるセカンダリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたセカンダリ圧Psecに減圧調整する。
セレクトソレノイド弁75は、CVTコントロールユニット8から出力される前進クラッチ圧指令値又は後退ブレーキ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令された前進クラッチ圧Pfc又は後退ブレーキ圧Prbに減圧調整する。
ロックアップ圧ソレノイド弁76は、CVTコントロールユニット8から出力される指示電流Aluに応じ、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するロックアップ油圧Pluに調圧する。
CVTコントロールユニット8は、ライン圧制御や変速制御や前後進切替制御やロックアップ制御、等を行う。ライン圧制御では、アクセル開度等に応じた目標ライン圧を得る指令値をライン圧ソレノイド弁72に出力する。変速制御では、目標変速比(目標プライマリ回転Npri*)を決めると、決めた目標変速比(目標プライマリ回転Npri*)を得る指令値をプライマリ圧ソレノイド弁73及びセカンダリ圧ソレノイド弁74に出力する。前後進切替制御では、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する指令値をセレクトソレノイド弁75に出力する。ロックアップ制御では、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するロックアップ油圧Pluを制御する指示電流Aluをロックアップ圧ソレノイド弁76に出力する。
CVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ90、車速センサ91、セカンダリ圧センサ92、油温センサ93、インヒビタスイッチ94、ブレーキスイッチ95、タービン回転センサ96、セカンダリ回転センサ97、プライマリ圧センサ98、等からのセンサ情報やスイッチ情報が入力される。
エンジンコントロールユニット9には、エンジン回転センサ12、アクセル開度センサ14、等からのセンサ情報が入力される。CVTコントロールユニット8は、エンジン回転情報やアクセル開度情報をエンジンコントロールユニット9へリクエストすると、CAN通信線13を介し、エンジン回転数Neやアクセル開度APOの情報を受け取る。さらに、エンジントルク情報をエンジンコントロールユニット9へリクエストすると、CAN通信線13を介し、エンジンコントロールユニット9において推定演算される実エンジントルクTeの情報を受け取る。
図2は、Dレンジ選択時に自動変速モードでの無段変速制御をバリエータ4により実行する際に用いられるDレンジ無段変速スケジュールの一例を示す。
「Dレンジ変速モード」は、車両運転状態に応じて変速比を自動的に無段階に変更する自動変速モードである。「Dレンジ変速モード」での変速制御は、車速VSP(車速センサ91)とアクセル開度APO(アクセル開度センサ14)により特定される図2のDレンジ無段変速スケジュール上での運転点(VSP,APO)により、目標プライマリ回転数Npri*を決める。そして、プライマリ回転センサ90からの実プライマリ回転数Npriを、目標プライマリ回転数Npri*に一致させるプーリ油圧制御により行われる。
即ち、「Dレンジ変速モード」で用いられるDレンジ無段変速スケジュールは、図2に示すように、運転点(VSP,APO)に応じて最Low変速比と最High変速比による変速比幅の範囲内で変速比を無段階に変更するように設定されている。例えば、車速VSPが一定のときは、アクセル踏み込み操作を行うと目標プライマリ回転数Npri*が上昇してダウンシフト方向に変速し、アクセル戻し操作を行うと目標プライマリ回転数Npri*が低下してアップシフト方向に変速する。アクセル開度APOが一定のときは、車速VSPが上昇するとアップシフト方向に変速し、車速VSPが低下するとダウンシフト方向に変速する。
[ロックアップ制御装置の構成]
図3は、実施例のロックアップ制御装置を示す。以下、図3に基づいてロックアップ制御装置の概要構成を説明する。なお、以下では、ロックアップを“LU”と略称し、フィードフォワードを“F/F”と略称し、フィードバックを“F/B”と略称する。
ロックアップ制御装置が適用される駆動系は、図3に示すように、エンジン1(走行用駆動源)と、ロックアップクラッチ20を有するトルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6と、を備えている。
ロックアップ制御装置が適用される制御系は、図3に示すように、CVTコントロールユニット8と、エンジンコントロールユニット9と、ロックアップ圧ソレノイド弁76と、を備えている。CVTコントロールユニット8には、ロックアップクラッチ20のクラッチ状態を、様々な要求に応じて締結状態/スリップ締結状態/解放状態とするロックアップ制御部80が設けられている。
ロックアップ制御部80でのロックアップ制御は、運転者の意図する目標駆動力Fd*を推定し、駆動輪6へ出力される実駆動力Fdが目標駆動力Fd*になるようにロックアップクラッチ20のスリップ制御を行う点を特徴とする。その際、スリップ制御におけるコントロール性を高めるために、目標駆動力Fd*を目標エンジン回転数Ne*に変換する。この目標エンジン回転数Ne*に実エンジン回転数Neを収束させる制御(F/F制御+F/B制御)を実行することでコンバータトルクTcnvを演算する。そして、図3に示すように、Tadj=Tcnv+Tluの関係が成り立つことで、ロックアップクラッチ20の目標LUトルクTlu*を算出し、目標LUトルクTlu*を得る指示電流Aluをロックアップ圧ソレノイド弁76に出力する。このように、目標エンジン回転数Ne*を得るようにトルクコンバータ2のトルク比を制御することで、ロックアップクラッチ20のスリップ制御中において、運転者の意図する目標駆動力Fd*を実現することができる。
図4は、CVTコントロールユニット8のロックアップ制御部80を構成する各ブロックを示す。以下、図4に基づいてロックアップ制御部80のブロック構成を説明する。
ロックアップ制御部80は、図4に示すように、駆動力デマンドブロック81と、要求調停ブロック82と、目標算出ブロック83と、トルク容量演算ブロック84と、実現ブロック85と、を有する。
駆動力デマンドブロック81は、アクセル開度APOや車速VSPに基づいて目標駆動力Fd*を演算し、エンジン全性能特性を用いて目標駆動力Fd*を目標エンジン回転数Ne*に変換することで、目標エンジン回転数Ne*のプロファイルを演算する。そして、ロックアップクラッチ20の完全解放中、クラッチスリップ制御により目標エンジン回転数Ne*のプロファイルを実現するときに締結要求フラグを出力する。一方、ロックアップクラッチ20の完全締結中、クラッチスリップ制御により目標エンジン回転数Ne*のプロファイルを実現するときに解放要求フラグを出力する。
要求調停ブロック82は、駆動力デマンドブロック81からの締結要求フラグと解放要求フラグを入力し、各種要求からロックアップ要求を演算し、要求を調停して優先順位を決める。各種要求としては、基本要求、DP要求(DPはDriving pleasureの略)、運転性要求、保護要求、FS要求(FSはFail Safeの略)、技術限界要求、ほかのシステム要求、コーストスリップ要求、等がある。
目標算出ブロック83は、要求調停ブロック82からの即解放要求フラグ・解放要求フラグ・スリップ要求フラグ・締結要求フラグを入力し、これらのLU要求から差回転目標として目標差回転数ΔN*を演算する。この目標算出ブロック83にて締結差回転目標や解放差回転目標を算出するとき、駆動力デマンドブロック81により演算された目標エンジン回転数Ne*を入力する。なお、即解放差回転目標やスリップ差回転目標については、予め設定された目標スリップ特性を用いる。
トルク容量演算ブロック84は、目標算出ブロック83から目標差回転数ΔN*と先読みタービン回転数Ntpreと実エンジン回転数Ne等を入力する。そして、補正エンジントルクTadjの演算とコンバータトルクTcnvの演算(F/F制御+F/B制御)により、目標差回転数ΔN*を実現する指示トルク(目標LUトルクTlu*)を演算する。
実現ブロック85は、トルク容量演算ブロック84から目標LUトルクTlu*を入力し、目標ロックアップトルクTlu*をロックアップ油圧Pluに変換し、さらに、ロックアップ油圧Pluを指示電流Aluに変換する。
ここで、実施例のコーストスリップ制御は、図4に示すように、実現ブロック85に配置されていたコースト容量学習制御の各機能を、要求調停ブロック82と目標算出ブロック83とトルク容量演算ブロック84とに再配置したものである。つまり、要求調停ブロック82にコーストスリップ要求機能を配置する。目標算出ブロック83にコーストスリップ制御での目標スリップ回転数である目標差回転数ΔN*(=Nt−Ne)の設定機能を配置する。トルク容量演算ブロック84にコーストスリップ制御での目標差回転数ΔN*に基づくロックアップクラッチ20のトルク容量制御機能を配置する。但し、コーストスリップ要求があると、前回までのコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を初期値にリセットする。
[トルク容量演算ブロック等の詳細構成]
図5は、ロックアップ制御部80を構成する目標算出ブロック83とトルク容量演算ブロック84と実現ブロック85を示す。以下、図5に基づいて各ブロック83,84,85の詳細構成を説明する。
目標算出ブロック83は、先読みタービン回転数算出器83aと、第1差分器83bと、を有する。
先読みタービン回転数算出器83aは、バリエータ4の先読み変速比とセカンダリ回転センサ97からのセカンダリ回転数Nsecを入力し、ロックアップ油圧制御での油圧応答遅れ分を補償する先読みタービン回転数Ntpreを算出する。なお、バリエータ4の先読み変速比は、そのときの変速比と変速比進行速度と油圧応答遅れ時間を用い、油圧応答遅れ時間を経過したときに到達するであろうと推定される変速比とする。
第1差分器83bは、駆動力デマンドブロック81により算出された目標エンジン回転数Ne*と先読みタービン回転数算出器83aにより算出された先読みタービン回転数Ntpreの差により目標差回転数ΔN*を算出する。
トルク容量演算ブロック84は、先読み分エンジントルク算出器84aと、第1加算器84bと、ポンプ負荷トルク算出器84cと、第2差分器84dと、を補正エンジントルク演算エリア841に有する。
先読み分エンジントルク算出器84aは、アクセル開度APOと実エンジン回転数Neを入力し、エンジン全性能マップを用いて現時点のエンジントルクから油圧応答遅れ時間までに変動すると推定される先読み分エンジントルクΔTepreを算出する。なお、現時点のエンジントルクは、現時点のアクセル開度APOと実エンジン回転数Neとエンジン全性能マップにより取得される。先読み分エンジントルクΔTepreは、アクセル開度APOや実エンジン回転数Neの変化速度と油圧応答遅れ時間を用い、現時点から油圧応答遅れ時間を経過するまでのエンジントルクの変化幅(正又は負)とする。
第1加算器84bは、エンジンコントロールユニット9から取得した実エンジントルクTeと先読み分エンジントルク算出器84aからの先読み分エンジントルクΔTepreを加算することで、先読みエンジントルクTepreを算出する。
ポンプ負荷トルク算出器84cは、エンジン1により回転駆動されるときのオイルポンプ70による負荷トルクであるポンプ負荷トルクTopを算出する。
第2差分器84dは、第1加算器84bにより算出された先読みエンジントルクTepreとポンプ負荷トルク算出器84cにより算出されたポンプ負荷トルクTopの差により補正エンジントルクTadj(=Tepre−Top)を算出する。
トルク容量演算ブロック84は、F/F補償器84eと、第3差分器84fと、第4差分器84gと、F/B補償器84hと、最小値選択器84iと、第2加算器84jと、をコンバータトルク演算エリア842に有する。
F/F補償器84eは、第1差分器83bからの目標差回転数ΔN*(=目標スリップ回転数)を入力し、目標差回転数ΔN*に応じたコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffを算出する。
第3差分器84fは、エンジン回転センサ12からの実エンジン回転数Neと、先読みタービン回転数算出器83aにより算出された先読みタービン回転数Ntpreを入力する。そして、実エンジン回転数Neと先読みタービン回転数Ntpreの差により実差回転数ΔNを算出する。
第4差分器84gは、第1差分器83bからの目標差回転数ΔN*(=目標スリップ回転数)と、第3差分器84fからの実差回転数ΔN(=実スリップ回転数)を入力する。そして、目標差回転数ΔN*と実差回転数ΔNの差により差回転数偏差δを算出する。
F/B補償器84hは、第4差分器84gからの差回転数偏差δを入力し、差回転数偏差δに応じたコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を、PIフィードバック制御(P:比例、I:積分)により算出する。このF/B補償器84hは、要求調停ブロック82にてコーストスリップ制御の開始条件の成立によりコーストスリップ要求があると、前回までのコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を初期値にリセットする。
最小値選択器84iは、F/B補償器84hからのコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)と、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_maxを入力する。そして、最小値選択によりコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを出力する。
ここで、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_maxは、
Tcnv_max=Tadj−Tcnv_ff−K(K:固定値) …(1)
であらわされる式(1)、つまり、補正エンジントルクTadjとコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffに応じた可変トルク値で与える。なお、固定値Kは、ロックアップクラッチ20のスリップ締結シーンのときに目標LUトルクTlu*の上昇を促す上限トルク値Tcnv_maxになるように設定する。しかし、固定値Kを低過ぎるトルク値に設定した場合、コンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffと固定値Kの和により、トルクコンバータ2への入力トルクである補正エンジントルクTadjを超えないことがある。つまり、ロックアップクラッチ20のスリップ解放シーンのときに目標LUトルクTlu*がゼロとはならず、ロックアップクラッチ20を解放することができない。よって、固定値Kは、ロックアップクラッチ20のスリップ解放シーンを考慮し、コンバータトルクF/F補償分との和により、トルクコンバータ2への入力トルクである補正エンジントルクTadjを超え得るトルク値のうち最小域の値に設定する。
第2加算器84jは、F/F補償器84eからのコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffと最小値選択器84iからのコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを加算し、コンバータトルクTcnvを算出する。
トルク容量演算ブロック84は、補正エンジントルク演算エリア841とコンバータトルク演算エリア842の外部に第5差分器84kを有する。第5差分器84kは、第2差分器84dからの補正エンジントルクTadjと、第2加算器84jからのコンバータトルクTcnvを差し引いて目標LUトルクTlu*を算出する。
実現ブロック85は、トルク→油圧変換器85aと、油圧→電流変換器85bと、を有する。トルク→油圧変換器85aは、トルク容量演算ブロック84から入力される目標LUトルクTlu*をLU油圧Pluに変換する。油圧→電流変換器85bは、トルク→油圧変換器85aから入力されたLU油圧Pluを指示電流Aluに変換する。
[コーストスリップ制御処理構成]
図6は、実施例のCVTコントロールユニット8のロックアップ制御部80にて実行されるコーストスリップ制御処理の流れを示す。以下、実施例のコーストスリップ制御処理構成をあらわす図6の各ステップについて説明する。なお、この処理は、所定の制御周期により繰り返し処理動作が行われる。
ステップS01では、スタートに続き、コーストスリップ制御開始条件が成立しているか否かを判断する。YES(コーストスリップ制御開始条件成立)の場合はステップS02へ進み、NO(コーストスリップ制御開始条件不成立)の場合はエンドへ進む。
ここで、コーストスリップ制御開始条件は、走行中、アクセル足離し操作条件が成立した後、エンジン1のフューエルカット制御が開始され、フューエルカット制御の開始から所定時間が経過したことで成立と判断する。なお、コーストスリップ制御開始条件には、変速作動油温が所定温度以上という油温条件が付加される。
ステップS02では、ステップS01でのコーストスリップ制御開始条件成立であるとの判断に続き、コンバータトルク(FB)をリセットし、ステップS03へ進む。
ここで、コンバータトルク(FB)をリセットするとは、トルク容量制御処理によりそれまで計算されていたコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を初期値にリセットすることをいう。
ステップS03では、ステップS02でのコンバータトルク(FB)のリセット、或いは、ステップS04でのコーストスリップ制御終了条件不成立であるとの判断に続き、ロックアップクラッチ20のトルク容量制御(図7)を実行し、ステップS04へ進む。
ステップS04では、ステップS03でのLUクラッチトルク容量制御に続き、コーストスリップ制御終了条件が成立しているか否かを判断する。YES(コーストスリップ制御終了条件成立)の場合はエンドへ進み、NO(コーストスリップ制御終了条件不成立)の場合はステップS03へ戻る。
[ロックアップクラッチトルク容量制御処理構成]
図7は、実施例のCVTコントロールユニット8のロックアップ制御部80にて実行されるロックアップクラッチトルク容量制御処理の流れを示す。以下、実施例のロックアップクラッチトルク容量制御処理構成をあらわす図7の各ステップについて説明する。なお、この処理は、所定の制御周期により繰り返し処理動作が行われる。
ステップS1では、スタートに続き、先読みタービン回転数Ntpreを算出し、ステップS2へ進む。
ここで、先読みタービン回転数Ntpreとは、ロックアップ油圧制御での油圧応答遅れ分を補償するタービン回転数である。先読みタービン回転数Ntpreは、先読みタービン回転数算出器83aにおいて、バリエータ4の先読み変速比とセカンダリ回転センサ97からのセカンダリ回転数Nsecに基づいて算出される。
ステップS2では、ステップS1での先読みタービン回転数Ntpreの算出に続き、先読みエンジントルクTepreを算出し、ステップS3へ進む。
ここで、先読みエンジントルクTepreとは、ロックアップ油圧制御での油圧応答遅れ分を補償するエンジントルクである。先読みエンジントルクTepreは、先読み分エンジントルク算出器84aと第1加算器84bにおいて、エンジンコントロールユニット9から取得した実エンジントルクTeと先読み分エンジントルクΔTepreを加算することで算出される。
ステップS3では、ステップS2での先読みエンジントルクTepreの算出に続き、補正エンジントルクTadjを算出し、ステップS4へ進む。
ここで、補正エンジントルクTadjとは、トルクコンバータ2に入力されるエンジントルクである。補正エンジントルクTadjは、第2差分器84dにおいて、先読みエンジントルクTepreとポンプ負荷トルクTopの差により算出される。
ステップS4では、ステップS3での補正エンジントルクTadjの算出に続き、目標差回転数ΔN*に基づいて、目標差回転数ΔN*に応じたコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffを算出し、ステップS5へ進む。
ここで、「目標差回転数ΔN*」は、コーストスリップ要求の場合、コーストスリップ制御での目標スリップ回転数である目標差回転数ΔN*(=Nt−Ne:例えば、200rpm程度の微小スリップ量)が選択される。目標スリップ回転数が与えられないスリップ要求である場合、第1差分器83bにおいて、目標エンジン回転数Ne*と先読みタービン回転数Ntpreの差により算出される。コンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffは、目標差回転数ΔN*(=目標スリップ回転数)を入力するF/F補償器84eにおいて、目標差回転数ΔN*に収束させる
ロックアップトルクのF/F補償分として算出される。
ステップS5では、ステップS4でのコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffの算出に続き、差回転数偏差δに基づいて、差回転数偏差δに応じたコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を算出し、ステップS6へ進む。
ここで、「差回転数偏差δ」は、コーストスリップ要求の場合、コーストスリップ制御での目標差回転数ΔN*と実差回転数ΔN(=タービン回転数Nt−エンジン回転数Ne)の差により算出される。そして、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)は、F/B補償器84hにおいて、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を初期値にリセットし、実差回転数ΔNを目標差回転数ΔN*に一致させるコンバータトルクF/B補償分として算出が開始される。
「差回転数偏差δ」は、目標スリップ回転数が与えられないスリップ要求である場合、第4差分器84gにおいて、第1差分器83bからの目標差回転数ΔN*と、第3差分器84fからの実差回転数ΔN(=エンジン回転数Ne−先読みタービン回転数Ntpre)の差により算出される。コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)は、F/B補償器84hにおいて、実差回転数ΔNを目標差回転数ΔN*に一致させるコンバータトルクF/B補償分として算出される。
ステップS6では、ステップS5でのコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)の算出に続き、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)が、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_max以下であるか否かを判断する。YES(Tcnv_fb(c)≦Tcnv_max)の場合はステップS7へ進み、NO(Tcnv_fb(c)>Tcnv_max)の場合はステップS8へ進む。
ステップS7では、ステップS6でのTcnv_fb(c)≦Tcnv_maxであるとの判断に続き、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)とし、ステップS9へ進む。
ステップS8では、ステップS6でのTcnv_fb(c)>Tcnv_maxであるとの判断に続き、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_maxとし、ステップS9へ進む。
ここで、ステップS6〜ステップS8によるコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの選択は、最小値選択器84iにおいて行われる。
ステップS9では、ステップS7又はステップS8でのコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの設定に続き、コンバータトルクTcnvを算出し、ステップS10へ進む。
ここで、コンバータトルクTcnvは、F/F補償器84eからのコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffと、最小値選択器84iからのコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを加算することで算出される。
ステップS10では、ステップS9でのコンバータトルクTcnvの算出に続き、目標LUトルクTlu*を算出し、ステップS11へ進む。
ここで、目標LUトルクTlu*は、第5差分器84kにおいて、ステップS3にて算出された補正エンジントルクTadjと、ステップS9にて算出されたコンバータトルクTcnvを差し引くことで算出する。
ステップS11では、ステップS10での目標LUトルクTlu*の算出に続き、トルク→油圧変換器85aにおいて、目標LUトルクTlu*をLU油圧Pluに変換し、ステップS12へ進む。
ステップS12では、ステップS11でのLU油圧Pluへの変換に続き、油圧→電流変換器85bにおいて、LU油圧Pluを指示電流Aluに変換し、ステップS13へ進む。
ステップS13では、ステップS12での指示電流Aluへの変換に続き、ロックアップ圧ソレノイド弁76へ指示電流Aluを出力し、エンドへ進む。
次に、実施例の作用を、「比較例でのコーストスリップ制御とその課題について」、「コースト容量学習制御とコーストスリップ制御の置き換え検討」、「実施例でのコーストスリップ制御作用」に分けて説明する。
[比較例でのコースト容量学習制御とその課題について]
図8は、比較例でのコースト走行中に実行されるコースト容量学習制御を示すタイムチャートである。以下、図8に基づいて比較例でのコースト容量学習制御とその課題について説明する。なお、比較例は、コースト走行中、実現ブロックに配置されたロックアップクラッチのコースト容量学習制御を実行するものとする。
この比較例の場合、LUクラッチ締結状態において、図8の時刻t1にてアクセル足離し操作が行われアイドルスイッチがONになると、減速を開始し、エンジントルクTe、エンジン回転数Ne、タービン回転数Ntが低下を開始する。そして、時刻t2にてエンジントルクTeが正から負へと切り替わると、エンジントルクTe、エンジン回転数Ne、タービン回転数Ntの低下勾配が、時刻t2までに比べて緩やかになる。
時刻t3にてフューエルカットフラグが立ち、エンジンの燃料供給が停止すると、前回学習値をLU指示差圧の初期値とし、コースト容量学習条件が成立し、学習開始セットとされる。時刻t3からのF/F制御によるLU指示差圧の容量上げによりタービン回転数Ntが閾値まで低下した時刻t4になると、目標スリップ回転F/B制御が開始される。
時刻t5になり、タービン回転数Ntとエンジン回転数Neとの間の実スリップ回転数が閾値以下になると、目標スリップ回転数への収束学習制御が開始される。そして、実スリップ回転数が閾値以下で所定時間経過というスリップ収束条件が成立する時刻t6になると、収束学習制御を終了し、時刻t6でのLU指示差圧を学習値として、次回に用いる学習値が更新される。
時刻t6からアクセル再踏み込み操作時刻t7までは、時刻t6でのLU指示差圧を保持することで、タービン回転数Ntとエンジン回転数Neとの間の実スリップ回転数として、微小差回転数ΔNを維持するμスリップ制御が実行される。なお、コースト状態でのスリップ差回転は、駆動輪側からの入力になることで、ドライブ状態(Ne>Nt)とは反対にタービン回転数Nt>エンジン回転数Neという関係になる。
このように、比較例にあっては、コースト容量学習制御を開始するときのLU指示差圧の初期値として所望の学習値が取得できるようになるまでは、コースト容量学習制御を繰り返して経験する必要がある。また、コースト容量学習制御の開始時に学習によるLU指示差圧学習値が初期値として用いられる。このため、コースト容量学習制御開始前の運転状態によっては初期差圧がばらつき、コースト容量学習制御の開始域(目標スリップ回転F/B制御領域等)にてスリップ量が変動する。
[コースト容量学習制御とコーストスリップ制御の置き換え検討]
比較例のコースト容量学習制御を実現ブロックに配置する理由について説明する。
ドライブ状態からコースト状態への切り替え時、ロックアップ容量が過多であるとフューエルカットへの入りショックを生じる。逆に、ロックアップ容量が不足するとエンジン回転の吹け上がりを生じる。よって、コースト時のロックアップ容量は、容量の過不足がないように、コーストトルクに相当するぎりぎりの容量まで下げたいという要求がある。
このように、コーストトルクに相当するロックアップ容量は、ハードウェア固有の物理量であるため、コースト走行経験に基づく学習制御とする。そして、学習制御では物理量を検知する必要があるため、コースト容量学習機能は実現ブロック(ハードウェア固有機能)に配置される。
次に、実現ブロックに配置されているコースト容量学習制御を、各種スリップ制御の一態様という形でコーストスリップ制御に置き換えることが可能かどうかを、図9のフローチャートに基づいて検討する。考え方は、下記の通りである。
StepAでは、コーストスリップ制御とコースト容量学習制御の要求が同じかどうかを検証する。理由は、同じ要求の機能が実装してあれば、やりたいことができることによる。
StepBでは、要求が同じであれば、両制御のメカニズム(解決原理)が同じであるかどうかを検証する。理由は、解決原理が同じであれば、同じ要求を満足できることによる。
StepCでは、要求と原理が同じであれば、この機能はコースト容量学習と同等な性能を確保できるかどうかを検討する。理由は、本当に原理が同じであれば、その制御結果は同じはずであることによる。
StepDでは、要求と原理が同じであり、かつ、同等な性能確保できるまたは達成見込みがあれば、機能置き換え可能とする。
StepEでは、コーストスリップ制御とコースト容量学習の要求が異なったり、原理が異なったり、同等な性能確保できるまたは達成見込みが無いときは、機能置き換え不可能とする。
StepAのコーストスリップ制御とコースト容量学習制御の要求が同じかどうかを検証する。基本要求は、エンジンストール耐力向上、減速引き込まれ防止、LU解除車速の下げのため、コーストスリップしたい(ぎりぎりのLU容量にしておきたい)という点で同じである。つまり、代表的なシーンである低μ路での急ブレーキシーンにおいては、応答良くLUクラッチを解放してエンジンストールを防止したいという要求がある。制御入り条件と制御抜け条件は、コースト容量学習制御をコーストスリップ制御へ機能移植しても同じである。また、トルク容量演算において目標差回転でスリップコントロールできるので、コーストスリップ制御でもコースト容量学習制御と同じことができるはずである。
上記検証によって、コーストスリップ制御とコースト容量学習制御について、要求が同じであることを確認できた。
StepBのコーストスリップ制御とコースト容量学習制御の原理が同じかどうかを検証する。両制御のメカニズムは、微小スリップ回転を安定的に保持可能な差圧値にすることにある。これに対し、LU再構築後のコーストスリップ制御におけるトルク容量演算ブロック84でのF/B制御は、差回転を維持するように油圧をコントロールするものであり、コースト容量学習制御と同じ原理である。
上記検証によって、コーストスリップ制御とコースト容量学習制御について、原理が同じであることを確認できた。
StepCのコーストスリップ制御でコースト容量学習制御と同等な性能を確保できるかどうかを検証する。これに対しては、単板LUクラッチの実験データから、コーストスリップ制御そのものができていること、急減速時(0.6G減速)のコーストスリップ制御での解除応答性が確保できていることが確認された。そして、多板LUクラッチだから、コーストスリップ制御できないということはない。
上記検証によって、実験データからコースト容量学習制御性能と同等な性能をコーストスリップ制御により達成する見込みがあることを確認できた。
この確認手法により、図9のフローチャートにおいて、StepA→StepB→StepC→StepDへと進み、コースト容量学習制御をコーストスリップ制御へ置き換えることが可能であるとの検証結果を得た。
[実施例でのコーストスリップ制御作用]
本発明者等は、上記検証結果に基づいて、アクセル足離し操作によるコースト走行中、コーストスリップ制御の開始条件が成立すると、コンバータトルクF/B補償分を初期値にリセットし、コーストスリップ制御を開始する手段を採用した。より具体的には、実現ブロック85に配置されていたコースト容量学習制御の各機能を、要求調停ブロック82と目標算出ブロック83とトルク容量演算ブロック84とに再配置し、コースト容量学習制御をコーストスリップ制御へ置き換える構成とした。
このように、実現ブロック85に配置されていたコースト容量学習制御の各機能を再配置することで、開始条件が成立すると、コンバータトルクF/B補償分の初期値をリセットしてコーストスリップ制御が開始される。この結果、コースト走行中、学習制御を行う必要なく、コーストスリップ制御の開始直後から安定したスリップ回転を保持することができる。
図6に示すフローチャートに基づいてコーストスリップ制御処理作用を説明する。
コーストスリップ制御開始条件が成立するとS01→S02→S03→S04へと進み、コーストスリップ制御終了条件が不成立の間は、S03→S04へと進む流れが繰り返される。
ステップS02では、トルク容量制御処理により前回まで計算されていたコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)が初期値にリセットされる。つまり、積分項を含めてコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)をリセットしてコーストスリップ制御が開始される。
ステップS03では、コーストスリップ制御でのロックアップクラッチ20のトルク容量制御(図7)が実行される。このロックアップクラッチ20のトルク容量制御では、ステップS4において、「目標差回転数ΔN*」として、コーストスリップ制御用の目標スリップ回転数である目標差回転数ΔN*(=Nt−Ne)が選択される。ステップS5において、「差回転数偏差δ」として、コーストスリップ制御での目標差回転数ΔN*と実差回転数ΔN(=タービン回転数Nt−エンジン回転数Ne)の差により算出される。そして、F/B補償器84hにおいて、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)が、実差回転数ΔNを目標差回転数ΔN*に一致させるコンバータトルクF/B補償分として算出される。
その後、ステップS04のコーストスリップ制御終了条件が成立するとエンドへ進み、コーストスリップ制御が終了する。
次に、図10に示すタイムチャートに基づいて実施例でのコースト走行中に実行されるコーストスリップ制御作用を説明する。
この実施例の場合、LUクラッチ締結状態において、図10の時刻t1にてアクセル足離し操作が行われアイドルスイッチがONになると、減速を開始し、エンジントルクTe、エンジン回転数Ne、タービン回転数Ntが低下を開始する。そして、時刻t2にてエンジントルクTeが正から負へと切り替わると、エンジントルクTe、エンジン回転数Ne、タービン回転数Ntの低下勾配が、時刻t2までに比べて緩やかになる。
時刻t3にてフューエルカットフラグが立ち、時刻t3から時刻t4までのエンジントルクが燃料停止トルクに近づく所定の待ち時間が経過すると、時刻t4にてコーストスリップ制御が開始される。つまり、時刻t4にてコーストスリップ要求が出力され、コーストスリップ制御での目標差回転数が設定され、F/F制御によるLU指示差圧の容量上げによりLUトルクが少し上げられる。
時刻t4からコーストスリップ終了条件が成立するまでの時刻t5までの区間が、コーストスリップ制御区間となる。このコーストスリップ制御区間では、実差回転数ΔNをコーストスリップ制御での目標差回転数ΔN*に収束させるF/F補償とF/B補償によりLU指示差圧の容量が制御される。
このLU指示差圧の容量制御により、学習制御を行う必要なく、コーストスリップ制御の開始直後から、タービン回転数Ntとエンジン回転数Neとの微小スリップ量による差回転数ΔNが、安定的に保持されることになる。
以上説明したように、実施例のベルト式無段変速機CVTのロックアップ制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
(1) トルクコンバータ2と、ロックアップクラッチ20と、変速機コントローラ(CVTコントロールユニット8)と、を備える。
トルクコンバータ2は、走行用駆動源(エンジン1)と変速機構(バリエータ4)との間に介装される。
ロックアップクラッチ20は、トルクコンバータ2に有し、締結によりトルクコンバータ入力軸とトルクコンバータ出力軸を直結する。
変速機コントローラ(CVTコントロールユニット8)は、ロックアップクラッチ20の締結/スリップ/解放の制御を行う。
変速機コントローラ(CVTコントロールユニット8)に、目標差回転数ΔN*に基づくフィードフォワード補償と差回転数偏差δに基づくフィードバック補償によりコンバータトルクTcnvを演算し、トルクコンバータ2への入力トルク(補正エンジントルクTadj)からコンバータトルクTcnvを差し引いて演算される目標ロックアップトルクTlu*を得るスリップ制御を実行するロックアップ制御部80を設ける。
ロックアップ制御部80は、アクセル足離し操作によるコースト走行中、コーストスリップ制御の開始条件が成立すると、フィードバック補償でのコンバータトルクF/B補償分を初期値にリセットし、コーストスリップ制御を開始する。
このように、コンバータトルクF/B補償分の初期値リセットによりコーストスリップ制御を開始することで、コースト走行中、学習制御を行う必要なく、コーストスリップ制御の開始直後から安定したスリップ回転を保持することができる。即ち、コンバータトルクF/B補償分の初期値リセットにより、コーストスリップ制御の開始時において、前回までの積分項によるコンバータトルクF/B補償分のトルク値によるコーストスリップ制御への影響が排除される。
(2) 走行用駆動源がエンジン1である。
ロックアップ制御部80は、走行中、アクセル足離し操作条件が成立した後、エンジン1のフューエルカット制御が開始され、フューエルカット制御の開始から所定時間が経過すると、コーストスリップ制御の開始条件が成立したとする。
このように、コーストスリップ制御の開始条件に時間条件を付加し、エンジントルクが安定するのを待つことで、制御開始直後から応答良く適正なスリップ量に収束するコーストスリップ制御を実行することができる。
(3) ロックアップ制御部80は、コーストスリップ制御の開始条件が成立すると、一定値の微小スリップ回転による目標差回転数ΔN*を設定し、前回までのコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を初期値にリセットする。
このように、制御開始条件の成立により目標差回転数ΔN*の設定と初期値リセットを行うことで、コーストスリップ制御を開始する場合、コースト容量学習制御と同等にロックアップクラッチ20の滑りを早期化する制御を行うことができる。
(4) ロックアップ制御部80は、要求調停ブロック82と、目標算出ブロック83と、トルク容量演算ブロック84と、実現ブロック85と、を有する。
実現ブロック85に配置されていたコースト容量学習制御の各機能を、要求調停ブロック82と目標算出ブロック83とトルク容量演算ブロック84とに再配置する。
このように、実現ブロック85に配置されていたコースト容量学習制御の各機能を再配置することで、ロックアップ制御部80の基本構成を変更することなく、ロックアップ制御部80にコーストロックアップ制御を組み込むことができる。
以上、本発明の自動変速機のロックアップ制御装置を実施例に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例では、ロックアップ制御部80として、目標駆動力Fd*を目標エンジン回転数Ne*に変換する駆動力デマンドブロック81を有する例を示した。しかし、ロックアップ制御部としては、駆動力デマンドブロックを有さず、目標スリップ回転数特性を与えることでスリップ制御する例であっても良い。
実施例では、本発明のロックアップ制御装置を、自動変速機としてベルト式無段変速機CVTを搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明のロックアップ制御装置は、自動変速機として、ステップATと呼ばれる有段変速機を搭載した車両や副変速機付き無段変速機を搭載した車両等に適用しても良い。また、適用される車両としても、エンジン車に限らず、走行用駆動源にエンジンとモータを搭載したハイブリッド車、走行用駆動源にモータを搭載した電気自動車等に対しても適用できる。

Claims (5)

  1. 走行用駆動源と変速機構との間に介装されるトルクコンバータと、
    前記トルクコンバータに有し、締結によりトルクコンバータ入力軸とトルクコンバータ出力軸を直結するロックアップクラッチと、
    前記ロックアップクラッチの締結/スリップ/解放の制御を行う変速機コントローラと、を備え、
    前記変速機コントローラに、目標差回転数に基づくフィードフォワード補償と差回転数偏差に基づくフィードバック補償によりコンバータトルクを演算し、前記トルクコンバータへの入力トルクから前記コンバータトルクを差し引いて演算される目標ロックアップトルクを得るスリップ制御を実行するロックアップ制御部を設け、
    前記ロックアップ制御部は、アクセル足離し操作によるコースト走行中、コーストスリップ制御の開始条件が成立すると、前記フィードバック補償でのコンバータトルクフィードバック補償分を初期値にリセットし、コーストスリップ制御を開始する、
    自動変速機のロックアップ制御装置。
  2. 請求項1に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
    前記走行用駆動源がエンジンであり、
    前記ロックアップ制御部は、走行中、アクセル足離し操作条件が成立した後、前記エンジンのフューエルカット制御が開始され、前記フューエルカット制御の開始から所定時間が経過すると、コーストスリップ制御の開始条件が成立したとする、
    自動変速機のロックアップ制御装置。
  3. 請求項1又は2に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
    前記ロックアップ制御部は、コーストスリップ制御の開始条件が成立すると、一定値の微小スリップ回転による目標差回転数を設定し、前回までのコンバータトルクフィードバック補償分計算値を初期値にリセットする、
    自動変速機のロックアップ制御装置。
  4. 請求項1から3までの何れか一項に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
    前記ロックアップ制御部は、
    各種要求を調停して優先順位を決める要求調停ブロックと、
    前記要求調停ブロックからの要求フラグを入力し、差回転目標である目標差回転数を演算する目標算出ブロックと、
    前記目標算出ブロックから目標差回転数を入力し、目標差回転数を実現する目標ロックアップトルクを演算するトルク容量演算ブロックと、
    前記トルク容量演算ブロックからの目標ロックアップトルクをロックアップ油圧指示値に変換する実現ブロックと、を有し、
    前記要求調停ブロックは前記コーストスリップ制御を要求するコーストスリップ要求機能を含み、
    前記目標算出ブロックは前記コーストスリップ制御での目標スリップ回転数である目標差回転数の設定機能を含み、
    前記トルク容量演算ブロックは前記コーストスリップ制御での前記目標差回転数に基づく前記ロックアップクラッチのトルク容量制御機能を含む、
    自動変速機のロックアップ制御装置。
  5. 走行用駆動源と変速機構との間に介装されるトルクコンバータと、締結によりトルクコンバータ入力軸とトルクコンバータ出力軸を直結するロックアップクラッチと、を備えた自動変速機のロックアップ制御方法であって、
    前記ロックアップクラッチのスリップ締結の要求時に、
    目標差回転数に基づくコンバータトルクフィードフォワード補償分を演算し、
    差回転数偏差に基づくコンバータトルクフィードバック補償分を演算し、
    前記コンバータトルクフィードフォワード補償分と前記コンバータトルクフィードバック補償分とからコンバータトルクを演算し、
    前記トルクコンバータへの入力トルクを演算し、
    前記入力トルクから前記コンバータトルクを差し引いて目標ロックアップトルクを演算し、
    この目標ロックアップトルクに従ってロックアップ油圧を供給し、
    ここで、アクセル足離し操作によるコースト走行中、コーストスリップ制御の開始条件が成立すると、前記コンバータトルクフィードバック補償分を初期値にリセットし、コーストスリップ制御を開始する、
    自動変速機のロックアップ制御方法。
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