A.第1実施形態:
A-1.本実施形態の壁体100の構成:
図1は、第1実施形態の壁体100のXZ断面構成を示す説明図である。図中には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている(図2以降も基本的に同様)。Z軸正方向が上方向であり、Z軸負方向が下方向である。なお、図1では、壁体100の一部のみが示されており、その他の部分の図示は省略されている。
本実施形態の壁体100は、建築物等の外壁であり、改修前の躯体10と、その表面S1に張られた改修前の複数の仕上げ材20とを備える既設壁体100E(図6のA欄を参照)が自然現象や経年により劣化した際等にアンカーピン50を用いて改修された後の構造体である。なお、以下において、便宜上、改修後の躯体10についても「躯体10」といい、改修後の仕上げ材20についても「仕上げ材20」という。
図1に示すように、壁体100は、躯体10と複数(図1では1つのみ図示)の仕上げ材20とを備えている。躯体10は、コンクリート躯体である。仕上げ材20は、タイル(より詳細には、タイル1枚の表面積が50cm2以下であるモザイクタイル)であり、躯体10の表面(X軸負方向側の表面)S1側に設けられている。各仕上げ材20は、躯体10の表面S1に塗られたタイル張り付け用モルタル30を介して躯体10に張られている。各仕上げ材20間には、モルタル等よりなる目地材40が充填されている。
壁体100は、複数のアンカーピン50を備えている。アンカーピン50は、壁体100が備える複数の仕上げ材20のうちの一部の仕上げ材20に1つずつ設けられている。なお、アンカーピン50の個数や配置は、既設壁体100Eにおける浮き(躯体10と仕上げ材20との間にできる隙間)Fの位置や程度等を考慮して適宜設定されうる。
壁体100におけるアンカーピン50が配置される各箇所には、仕上げ材20を貫通すると共に躯体10に至る孔(以下、「特定孔」という。)SHが形成されており、アンカーピン50は特定孔SHに挿入されている。特定孔SHに挿入されたアンカーピン50により、当該仕上げ材20は躯体10に固定されている。アンカーピン50(およびその周辺)の詳細構成については、後述する。
また、壁体100の特定孔SH等(後述するアンカーピン50の内部空間ISおよび開口部OP等を含む)や、浮きFを埋めるように、エポキシ樹脂や弾性を有する有機系材料等よりなる接着剤60が充填されている。これにより、躯体10、仕上げ材20、タイル張り付け用モルタル30、およびアンカーピン50等の相互間がより強固に接合されており、ひいては、仕上げ材20は、より強固に躯体10に固定されている。
なお、本実施形態の壁体100は、更に、仕上げ材20の表面(X軸負方向側の表面)S2に、本改修により新たに追加された仕上げ材(以下、「追加仕上げ材」という。)70を備えている。追加仕上げ材70は、補強効果を有する有機系材料よりなる部材であり、より詳細には、短繊維が混入された合成樹脂材料により形成されている。このような合成樹脂材料としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコーン共重合樹脂やアクリルウレタン共重合樹脂を含むアクリル共重合樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂が採用されうる。追加仕上げ材70は、複数の仕上げ材20の表面S2(および目地材40のX軸負方向側の表面S3)の略全体にわたって形成されている。
A-2.アンカーピン50およびその周辺の詳細構成:
上述したように、壁体100におけるアンカーピン50が配置される各箇所には、特定孔(仕上げ材20を貫通すると共に躯体10に至る孔)SHが形成されており、アンカーピン50は特定孔SHに挿入されている。
図2は、図1のII-IIの位置における壁体100のYZ断面構成を示す説明図である。なお、図2では、図の理解がしやすいように便宜上、特定孔SHとアンカーピン50とが離隔しているように示されているが、実際には特定孔SHとアンカーピン50とが接する部分が存在している。図3は、第1実施形態のアンカーピン50の外観構成を示す斜視図である。図4は、図3のアンカーピン50の一部(X軸負方向の先端部)を拡大して示す斜視図である。
図2に示すように、壁体100に形成された各特定孔SHは、切削用のドリル(以下、単に「ドリル」という。)により仕上げ材20および躯体10を切削することにより形成されるものであり、各特定孔SHの断面(特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に直交する断面)の形状は、円形である。なお、本実施形態では、特定孔SHは(X軸方向に)直線状に延伸する形状をなしており、特定孔SHの直径T1は特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の全長にわたって均一である。この「直径」は、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に直交する方向の直径である(以下において「直径」というときも同様)。特定孔SHの直径T1は、例えば、4.0mm以上であり、かつ、6.0mm以下であり、例えば5.1mmである。
図2および図3に示すように、アンカーピン50は、特定孔SHの深さ方向(X軸正方向)に延伸する内部空間ISが形成された円筒状の部材であり、弾性変形する性質を有する材料により形成されている。なお、図2および図3では、特定孔SHに挿入されたときのアンカーピン50の態様が示されており、このときのアンカーピン50は弾性変形(圧縮)した状態であるが、特定孔SHに挿入される前のアンカーピン50も基本的な形状(内部空間ISが形成された円筒状である等)は同様である。
なお、ここでいう「筒状」とは、特定孔SHの深さ方向(X軸正方向)の内部空間ISが形成された部材であれば、その形状は特に限定されるものではない。また、ここでいう「円筒状」の「円」とは、アンカーピン50が特定孔SHに挿入されうる形状であれば、真円に限らず、多少の歪み等を含むものであってもよい。
アンカーピン50の材料としては、基本的には弾性変形するものであれば特に限定されるものではないが、弾性変形しやすさ等を考慮し、例えば、JIS G 4313ばね用ステンレス鋼帯に規定される「SUS304-CSP」等が特に好ましい。なお、図3に示すように、本実施形態では、特定孔SHに挿入されたアンカーピン50は(X軸方向に)直線状に延伸する形状(筒状)をなしており、アンカーピン50の直径(外径)T2はアンカーピン50における特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の全長にわたって均一である。特定孔SHに挿入されたアンカーピン50の直径T2は、例えば、2.0mm以上であり、かつ、6.1mm以下であり、例えば3.0mmである。
図2に示すように、特定孔SHに挿入されたアンカーピン50は、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向(例えばZ軸方向,Y軸方向)に弾性変形した状態である。より詳細には、特定孔SHに挿入されたアンカーピン50は、躯体10(のうち、特定孔SHを画定する壁面11)から圧縮力CFを受けることにより、弾性変形(圧縮)している。そのため、特定孔SHに挿入されたときのアンカーピン50には、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向であり、かつ、圧縮力CFとは反対の方向の復元力が発生している。アンカーピン50の当該復元力により、仕上げ材20は躯体10に固定されている。
特定孔SHに挿入されたアンカーピン50には、内部空間ISに連通し、かつ、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向(本実施形態ではZ軸方向に近い方向)に開口する開口部OPが形成されている。アンカーピン50は、特定孔SHの外周方向ODにおける一端部51および他端部52を有しており、開口部OPは、この一端部51と他端部52との間に位置し、一端部51と他端部52とにより画定されている。なお、「特定孔SHの外周方向OD」は、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)視における特定孔SHの外周方向である(以下、同様)。開口部OPは、アンカーピン50における特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の全長にわたって形成されている。
アンカーピン50の開口部OPは、特定孔SHに挿入されたアンカーピン50が弾性変形(圧縮)しやすくなる機能を果たす。開口部OPは、また、アンカーピン50の内部空間IS(ひいては開口部OP)を介して接着剤60等を浮きF等に注入する用途にも使用されうる。
図4(および図3)に示すように、アンカーピン50の一端部51は、特定孔SHの外周方向OD(X軸正方向視で反時計回りの方向、以下同様)に凹む凹部511と、その反対の方向に突出する凸部512とがX軸方向に交互に並ぶ形状をなしている。一方、アンカーピン50の他端部52は、特定孔SHの外周方向ODとは反対の方向に凹む凹部521と、その反対の方向に突出する凸部522とがX軸方向に交互に並ぶ形状をなしている。一端部51の凹部511と、他端部52の凸部522とは、特定孔SHの外周方向ODにおいて対向している。一端部51の凸部512と、他端部52の凹部521とは、特定孔SHの外周方向ODにおいて対向している。
図2に示すように、本実施形態では、壁体100のうち、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に直交する断面において、特定孔SHの輪郭線の全体の長さに対する、特定孔SHとアンカーピン50とが接する部分の長さの割合が50%以上である(以下、「特定条件」という。)。本実施形態では、特定孔SHの輪郭線のうち、アンカーピン50の開口部OPと対向している部分を除いた略全体において特定孔SHとアンカーピン50とが接しており、特定孔SHの輪郭線の全体の長さに対する、特定孔SHとアンカーピン50とが接する部分の長さの割合は、80%以上である。換言すれば、アンカーピン50における特定孔SHの外周方向ODの略全体が特定孔SHの輪郭線に接しており、そのため、特定孔SHに挿入されたときのアンカーピン50の直径T2は、特定孔SHの直径T1と略同等である。さらに言えば、アンカーピン50における特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の全長の90%以上において、特定孔SHとアンカーピン50とが接する部分の長さの割合は、80%以上である。なお、上記特定条件を満たす壁体100(あるいは既設壁体100E)のうち、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に直交する断面は、特許請求の範囲における特定断面の一例である。
また、図1に示すように、追加仕上げ材70は、仕上げ材20の表面(X軸負方向側の表面)側に位置する基部71と、アンカーピン50の内部空間ISに位置する部分である筒内部72を有している。筒内部72は、アンカーピン50の内部空間ISを画定する壁面53に接合している。
A-3.本実施形態の壁体改修工法:
図5は、第1実施形態の壁体改修工法を示すフローチャートである。図6は、第1実施形態の壁体改修工法の概要を示す説明図である。
本実施形態の壁体改修工法は、躯体10と仕上げ材20とを備える既設壁体100E(図6のA欄を参照)を、仕上げ材20を躯体10に固定するアンカーピン50を用いて改修する工法であり、これにより上述した壁体100を実現するものである。本壁体改修工法は、例えば以下に示す工程を備える。以下、図5のフローチャートに沿って説明する。
まず、改修位置(アンカーピン50を配置する位置)を決定する(図5のST1)。
このとき、上述したように、既設壁体100Eにおける浮きFの位置や程度等を考慮して、アンカーピン50の個数や配置等が適宜設定されうる。例えば、ハンマー等を用い、仕上げ材20の剥落のおそれがある浮きFの存在を確認し、これに基づいて改修範囲を決定し、その改修範囲に基づいて、アンカーピン50の個数や配置等を決定する。
また、上述したようにアンカーピン50の復元力により仕上げ材20が躯体10に適切に固定されるように、特定孔SHの構成(直径T1等)やアンカーピン50の構成(弾性変形しやすさ等の物性、直径T2等)を設定しておく。
次に、仕上げ材20を貫通すると共に躯体10に至る特定孔SHを形成する(図5のST2)。例えばドリルを用いて仕上げ材20および躯体10を切削することにより、上述したように断面の形状が円形である特定孔SHを形成する。以下、ST2の工程を「穿孔工程」という。
このとき、特定孔SHの直径T1が予め設定しておいたもの(基本的に、挿入前のアンカーピン50の直径T2よりも小さい)となるようにする。なお、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の長さは、アンカーピン50の同方向の長さ等を考慮して適切なもの(基本的には、アンカーピン50の同方向の長さと略同等)とする。また、必要であれば適宜、特定孔SH内の清掃(切粉等を除去等)を行う。
次に、上述したような、弾性変形する性質を有するアンカーピン50を用意する(図5のST3)。以下、ST3の工程を「用意工程」という。
このとき、アンカーピン50として、上述した構成(内部空間ISが形成された円筒状である等)であり、更に、直径T2が特定孔SHの直径T1より大きく、かつ、特定孔SHの直径T1の200%以下(例えば150%)であるものを用意する。各直径T1,T2の有効数字は2桁(単位はmm)である。なお、アンカーピン50は、特定孔SHに挿入される前でも、アンカーピン50が特定孔SHの外周方向ODにおける一端部51および他端部52を有し、開口部OPが形成されている。
ところで、アンカーピン50を作製する過程でアンカーピン50に形成されるバリを、複数のアンカーピン50を容器に入れて攪拌することにより除去するという方法が取られることがあるが、アンカーピン50の開口部OPの形状によっては、アンカーピン50の開口部OPに別のアンカーピン50の端部(一端部51および他端部52)が入り込みやすく、アンカーピン50同士が絡み合いやすいことが問題となる。例えば、アンカーピン50の開口部OPが特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に延伸する直線状であるときには特に絡みやすい。これに対し、上述したようにアンカーピン50の一端部51の凹部511と他端部52の凸部522とが特定孔SHの外周方向ODにおいて対向し、かつ、一端部51の凸部512と他端部52の凹部521とが特定孔SHの外周方向ODにおいて対向している構成としたときには、複数のアンカーピン50を容器に入れて攪拌したときにアンカーピン50同士が絡みにくくなるようにすることができる。
次に、アンカーピン50を特定孔SHに挿入する(図5のST4)。このとき、特定孔SHに挿入されたアンカーピン50が特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向(例えばZ軸方向,Y軸方向)に弾性変形した状態となるように配置する。以下、ST4の工程を「ピンニング工程」という。
より詳細には、アンカーピン50を、ハンマーで打つ等の方法により特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向に圧縮させながら、または、アンカーピン50を挟み込む機具等を用いて同方向に圧縮した状態を維持しながら、特定孔SHに挿入する。その結果、特定孔SHに挿入されたアンカーピン50が特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向に弾性変形した状態となるようにする。なお、挿入前には特定孔SHの直径T1よりも大きいアンカーピン50の直径T2は、挿入後には、変形により小さくなり、特定孔SHの直径T1と略同等となる。
次に、接着剤60をアンカーピン50の内部空間ISに注入する(図5のST5)。接着剤60としては、例えば、上述したようにエポキシ樹脂等よりなるものを用いる。
具体的には、例えば手動式注入器を用いてアンカーピン50の内部空間ISに接着剤60を注入することにより、接着剤60がアンカーピン50の内部空間ISの奥側まで流れてから、アンカーピン50と躯体10との間の空間(特定孔SHの一部)を通って逆流したり、アンカーピン50の開口部OPから浮きF等に流れ込んだりすることにより、壁体100の特定孔SH等(アンカーピン50の内部空間ISおよび開口部OP等を含む)や、浮きFを埋めるように、接着剤60が充填される。その後、接着剤60が硬化するまで適切な養生を行う。なお、ST5の工程をST4の工程の前に行ってもよい。
次に、追加仕上げ材70を仕上げ材20の表面(X軸負方向側の表面)S2に施す(図5のST6)。追加仕上げ材70としては、上述したように補強効果を有する有機系材料よりなる部材(例えばアクリル樹脂)を用いる。以下、ST6の工程を「追加仕上げ工程」という。
このとき、上述したように、追加仕上げ材70はアンカーピン50の内部空間ISに位置する部分である筒内部72を有し、筒内部72はアンカーピン50の内部空間ISを画定する壁面53に接合している、状態とする。
上述した工程ST1,ST2,…,ST6を経て、既設壁体10Eの改修が完了し、本実施形態の壁体100は完成する。
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の壁体改修工法は、躯体10と仕上げ材20とを備える既設壁体100Eを、仕上げ材20を躯体10に固定するアンカーピン50を用いて改修する工法であり、穿孔工程ST2と用意工程ST3とピンニング工程ST4とを備える。穿孔工程ST2は、仕上げ材20を貫通すると共に躯体10に至る特定孔SHを形成する工程である。用意工程ST3は、弾性変形する性質を有するアンカーピン50を用意する工程である。ピンニング工程ST4は、アンカーピン50を特定孔SHに挿入する工程であって、特定孔SHに挿入されたアンカーピン50が特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向(例えばZ軸方向,Y軸方向)に弾性変形した状態となるように配置する工程である。
本実施形態の壁体改修工法においては、弾性変形したアンカーピン50の復元力により、アンカーピン50が仕上げ材20および躯体10に固定され、これにより、仕上げ材20と躯体10とが互いに固定される。そのため、本実施形態の壁体改修工法によれば、既設壁体10Eが自然現象や経年により劣化した際等に、浮きFを抑制し、ひいては仕上げ材20(および、これに接続する目地材40等)が躯体10から剥落することを抑制することができる。
ところで、この種の工法においては、特定孔SHの直径T1が大きいほど、穿孔工程ST2においてドリルの打撃や振動が大きくなる等の理由から、改修後の壁体100において、仕上げ材20(および、これに接続する目地材40等)の浮きFが生じやすくなる。この点に鑑みると、既設壁体10Eに形成する特定孔SHの直径T1は小さいほど好ましい。なお、仕上げ材20の厚さが薄いほど、仕上げ材20の浮きFが生じやすくなり、このような問題が顕著となる。
ここで、上記特許文献1のように、先端に開脚部を有する注入口付アンカーピン50を特定孔SHに挿入し、開脚部を開脚させることにより躯体10に固定する構成では、特定孔SHの直径T1が(特定孔SHに挿入された後の)アンカーピン50の直径(外径)T2と比べて大きい構成であるため、また、確実にアンカーピン50が特定孔SHに挿入されるようにするために、当該特定孔SHの直径T1を設定する際に、ある程度のクリアランス(寸法的な余裕)を持たせる等の対応が必要となる場合もあるため、特定孔SHの直径T1を小さくすることは困難である。
これに対し、本実施形態の壁体改修工法においては、上述した構成(特に「特定孔SHに挿入されたアンカーピン50が特定孔SHの深さ方向に交差する方向に弾性変形した状態となるように配置する」点)である。そのため、本実施形態の壁体改修工法によれば、上記特許文献1の構成と比較して、特定孔SHに挿入後のアンカーピン50の直径T2と特定孔SHの直径T1との差を小さくすることができ(略同等である)、そのため、特定孔SHの直径T1をより小さくすることができる。ひいては、ある程度薄い仕上げ材20であるときでも、特定孔SHの直径T1を小さくすることにより、特定孔SHを形成する際に浮きFが生じにくい壁体100を実現することができる。
また、本実施形態の壁体改修工法では、用意工程ST3において、(特定孔SHに挿入される前の)アンカーピン50の直径T2が特定孔SHの直径T1より大きく、かつ、特定孔SHの直径T1の200%以下である。本実施形態の壁体改修工法によれば、アンカーピン50の復元力がある程度以上となることにより、比較的強固に、仕上げ材20を躯体10に固定させることができる。
また、本実施形態の壁体改修工法では、ピンニング工程ST4において、既設壁体100Eのうち、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に直交する少なくとも一つの断面(例えば図2の断面)において、特定孔SHの輪郭線の全体の長さに対する、特定孔SHとアンカーピン50とが接する部分の長さの割合が50%以上である。本実施形態の壁体改修工法によれば、アンカーピン50の復元力が当該断面(既設壁体100Eのうち、特定孔SHの深さ方向に直交する少なくとも一つの断面)においてある程度、広範囲に作用し、これにより比較的強固に、仕上げ材20を躯体10に固定させることができる。
また、本実施形態の壁体改修工法では、ピンニング工程ST4において、アンカーピン50が特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に延伸する内部空間ISが形成された筒状である。本実施形態の壁体改修工法によれば、アンカーピン50が上記内部空間ISが形成された筒状であることにより、アンカーピン50が上記内部空間ISが形成されていない形状(例えば棒状)である構成と比較して、アンカーピン50が特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向に変形しやすいため、アンカーピン50を容易に特定孔SHに挿入することができる。更に、アンカーピン50の復元力が特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の異なる各箇所に比較的均一に作用することになり、比較的強固に、仕上げ材20を躯体10に固定させることができる。
また、本実施形態の壁体改修工法は、更に、補強効果を有する有機系材料よりなる仕上げ材である追加仕上げ材70を仕上げ材20上に施す、追加仕上げ工程ST6を備える。追加仕上げ工程ST6において、追加仕上げ材70はアンカーピン50の内部空間ISに位置する部分である筒内部72を有し、筒内部72はアンカーピン50の内部空間ISを画定する壁面53に接合している。そのため、本実施形態の壁体改修工法によれば、追加仕上げ材70とアンカーピン50との接合性が向上し、これにより追加仕上げ材70の剥落を抑制することができる。
また、本実施形態の壁体改修工法では、追加仕上げ工程ST6において、追加仕上げ材70は、短繊維が混入された合成樹脂材料により形成されている。そのため、本実施形態の壁体改修工法によれば、追加仕上げ材70の強度が特に高くなり、ひいては、より効果的に追加仕上げ材70とアンカーピン50との接合性が向上し、ひいては、より効果的に、追加仕上げ材70の剥落を抑制することができる。
また、本実施形態の壁体改修工法では、ピンニング工程ST4においては、特定孔SHに挿入されたアンカーピン50は特定孔SHの外周方向ODにおける一端部51および他端部52を有する。そのため、本実施形態の壁体改修工法によれば、上述した構成である(アンカーピン50が特定孔SHの深さ方向に延伸する内部空間ISが形成された筒状であり、かつ、特定孔SHに挿入されたアンカーピン50が特定孔SHの外周方向ODにおける一端部51および他端部52を有する)ことにより、アンカーピン50の一端部51と他端部52との相対位置が容易に可変(主には特定孔SHの外周方向ODに変化)である。そのため、本実施形態の壁体改修工法によれば、特定孔SHの直径T1についての許容範囲が特に広くなり、特に幅広い寸法(直径T1)の特定孔SHに対応することができる。
また、本実施形態の壁体改修工法では、穿孔工程ST2において、断面形状が円形である特定孔SHを形成し、ピンニング工程ST4において、アンカーピン50は内部空間ISが形成された円筒状である。そのため、本実施形態の壁体改修工法においては、アンカーピン50が円筒状であることにより、断面形状が円形である特定孔SHとアンカーピン50とが接する面積が比較的大きくなり、かつ、特定孔SHとアンカーピン50とが比較的、(特定孔SHの外周方向ODの異なる各箇所において)均一に接しやすい。そのため、本実施形態の壁体改修工法によれば、アンカーピン50の復元力が比較的、均一(かつ広範囲)に作用し、これにより比較的強固に、仕上げ材20を躯体10に固定させることができる。
また、本実施形態の壁体改修工法では、ピンニング工程ST4において、アンカーピン50に、内部空間ISに連通し、かつ、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向(本実施形態ではZ軸方向に近い方向)に開口する開口部OPが形成されている。そのため、本実施形態の壁体改修工法によれば、アンカーピン50が特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向に変形(圧縮)しやすいため、アンカーピン50を比較的容易に特定孔SHに挿入することができる。更には、アンカーピン50の内部空間ISおよび開口部OPを介して接着剤(例えばエポキシ樹脂)等を浮きF等に注入(図5のST5)することができる。
また、本実施形態の壁体改修工法では、ピンニング工程ST4において、アンカーピン50における特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の全長にわたって開口部OPが形成されている。そのため、本実施形態の壁体改修工法によれば、アンカーピン50における特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の一部のみに開口部OPが形成されている構成と比較して、アンカーピン50が特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向に変形(圧縮)しやすいため、アンカーピン50を比較的容易に特定孔SHに挿入することができる。また、アンカーピン50の復元力がアンカーピン50における特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の全長にわたって大きくなり、より強固に、仕上げ材20を躯体10に固定させることができる。
上述したように、本実施形態の壁体100では、アンカーピン50は、仕上げ材20を貫通すると共に躯体10に至る孔である特定孔SHに挿入され、かつ、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向に弾性変形した状態である。そのため、上述したように、本実施形態の壁体100によれば、弾性変形したアンカーピン50の復元力により仕上げ材20を躯体10に固定させることができる。更に、上記特許文献1の構成と比較して、特定孔SHに挿入後のアンカーピン50の直径T2と特定孔SHの直径T1との差を小さくすることができ(略同等である)、そのため、特定孔SHの直径T1をより小さくすることができる。
ところで、上述したように、本実施形態の壁体100によれば、アンカーピン50に開口部OPが形成されていることにより、アンカーピン50が特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向に変形(圧縮)しやすくできる。その効果は、開口部OPの特定孔SHの外周方向ODの幅、換言すれば開口部OPを画定する一端部51と他端部52との間の距離(図4のL)が大きいほど、大きくなる。これに鑑みると、開口部OPの特定孔SHの外周方向ODの幅は大きいほど、好ましい。また、仮にアンカーピン50の開口部OPが特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に延伸する直線状である構成では、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)視における開口部OPの位置(より詳細には、特定孔SHの外周方向ODの位置)は、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に直交するどの断面においても同じである。換言すれば、この構成では、特定孔SHの外周方向ODの特定の部分(開口部OP)においては、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に直交するどの断面においても、アンカーピン50が躯体10(の壁面11)に接していない。そのため、その特定の部分(開口部OP)においてはアンカーピン50の復元力が作用せず、また、これにより特定孔SHの外周方向ODにおける復元力の均一性が比較的低くなることにより、仕上げ材20を躯体10に固定させる効果も比較的低くなる。従って、単に開口部OPの特定孔SHの外周方向ODの幅が大きいとする、すなわち開口部OPを画定する一端部51と他端部52との間の距離が大きいとすると、特定孔SHの外周方向ODにおける復元力の均一性が低下し、仕上げ材20を躯体10に固定させる効果が低下することが懸念される。
これらの点に鑑み、本実施形態の壁体100では、以下の構成である。すなわち、本実施形態の壁体100では、アンカーピン50は、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に延伸する内部空間ISと、内部空間ISに連通し、かつ、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向に開口する開口部OPと、が形成された筒状であり、かつ、開口部OPを画定する一対の端部51,52の一方(上記一端部51または上記他端部52)は凸部(512または522)を有し、他方(上記他端部52または上記一端部51)は特定孔SHの外周方向ODにおいて当該凸部(512または522)に対向する凹部(521または511)を有する。このような構成である本実施形態の壁体100においては、ある断面(例えば、図4のCS1の位置における断面)では、アンカーピン50が躯体10(の壁面11)に接していない部分であっても、別の断面(例えば、図4のCS2の位置における断面)では、アンカーピン50が躯体10(の壁面11)に接している部分がある。そのため、本実施形態の壁体100によれば、開口部OPの特定孔SHの外周方向ODの幅がある程度大きいとしつつも、仕上げ材20を躯体10に固定させる効果についても比較的確保することができる。
B.第2実施形態:
図7は、第2実施形態の壁体100AのXZ断面構成を示す説明図である。図8は、第2実施形態のアンカーピン50Aの外観構成を示す斜視図である。
第2実施形態の壁体100Aの構成は、上述した第1実施形態の壁体100の構成と比較して、基本的な構成は同様であり、特定孔SH(仕上げ材20を貫通すると共に躯体10に至る孔)の形状、およびアンカーピン50Aの形状のみが異なっている。また、壁体改修工法については、基本的に同様である。以下では、第2実施形態の壁体100Aの構成の内、上述した第1実施形態の壁体100の構成と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
図7に示すように、意図せずに特定孔(仕上げ材20を貫通すると共に躯体10に至る孔)SHが曲がった形状となる場合がある。例えば、仕上げ材20や躯体10はある程度の硬度を有するため、ドリルにより特定孔SHを形成する際にドリルの先端の進行が曲がることがあり、これにより、特定孔SHが曲がった形状となることがある。なお、仕上げ材20と躯体10との境界などの硬度差が大きい箇所や、硬度が比較的高い躯体10内においては、特定孔SHが曲がった形状となりやすい。本実施形態の壁体改修工法は、このように特定孔SHが曲がった形状であるときに特に好適なものとして、以下の構成としたものである。
本実施形態の壁体改修工法では、図8に示すように、用意工程ST3において、アンカーピン50Aの両端部50a,50bの直径T2a,T2bが互いに異なるものを用意する。なお、本実施形態では、その一例として、奥側(仕上げ材20から遠い側)(X軸正方向側)に行くほど直径T2が小さいアンカーピン50Aを採用している。アンカーピン50Aの両端部50a,50bの直径T2a,T2bの差は、例えば、0.1mm以上であり、かつ、2.0mm以下であり、例えば0.5mmである。
更に、図7に示すように、ピンニング工程ST4において、アンカーピン50Aを、アンカーピン50Aのうち、直径T2a,T2bが短い方の端部50aが特定孔SHの奥側となるように配置する。
ところで、上述したように穿孔工程ST2において形成する特定孔(仕上げ材20を貫通すると共に躯体10に至る孔)SHが曲がった形状となることがある。特定孔SHが曲がった形状となると、見かけ上(施工者側(仕上げ材20側)から特定孔SHを直線方向に視たとき)、特定孔SHの奥側(仕上げ材20から遠い側)の直径T1が手前側(仕上げ材20に近い側)の直径T1よりも小さくなる。穿孔時にドリルが揺れ動いて進行することにより、ドリルの側面が仕上げ材20(や躯体10)のうち、特定孔SHの手前側を画定する部分に当たり、当該部分が削れることがあり、見かけ上、特定孔SHの奥側の直径T1が手前側の直径T1よりも小さくなることがある。
このようなことを考慮し、仮に第1実施形態のようにアンカーピン50Aの直径T2がその全長にわたって均一であるとする際には、アンカーピン50Aの直径T2は、特定孔SHのうち、直径T1が比較的小さい奥側(の直径T1)に合わせられ、小さく設定されることが考えられる。しかしながら、このようにアンカーピン50Aの直径T2が小さく設定すると、特定孔SHの手前側において、アンカーピン50Aの直径T2(T2b)が特定孔SHの直径T1よりも小さくなり、特定孔SH(を画定する壁面11)とアンカーピン50Aとの間に隙間が生じることがある。そのため、アンカーピン50Aの仕上げ材20(や躯体10)に対する密着力が低下し、ひいてはアンカーピン50Aの復元力が仕上げ材20(のうち、特定孔SHを画定する部分)に作用しにくくなる。
上記に鑑み、本実施形態の壁体改修工法においては、上述したようにアンカーピン50Aの両端部50a,50bの直径T2a,T2bが互いに異なり、かつ、アンカーピン50Aを、アンカーピン50Aのうち、直径T2a,T2bが短い方の端部50aが特定孔SHの奥側となるように配置する構成であることにより、アンカーピン50Aの直径T2がその全長にわたって均一である構成と比較して、特定孔SHの手前側において、アンカーピン50Aの直径T2(T2b)が大きくなる。そのため、アンカーピン50Aの仕上げ材20(や躯体10)に対する密着力が向上し、ひいてはアンカーピン50Aの復元力が仕上げ材20(のうち、特定孔SHを画定する部分)に作用しやすくなる。従って、本実施形態の壁体改修工法によれば、より強固に、仕上げ材20を躯体10に固定させることができる。
C.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
上記実施形態における壁体100,100Aの構成や壁体100,100Aを構成する各部分の構成(材質、形状等)は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
例えば、上記実施形態では、躯体10はコンクリート躯体であるが、その他の構成であってもよい。仕上げ材20はタイルであるが、その他のものであってもよい。また、仕上げ材20の個数は特に限定されるものではなく、複数でもよく、1つであってもよい。また、接着剤60は、エポキシ樹脂に限られるものではなく、セメントスラリー等であってもよい。
また、アンカーピン50は、壁体100,100Aが備える複数の仕上げ材20のうちの一部の仕上げ材20に1つずつ設けられているが、壁体100,100Aが備える複数の仕上げ材20の全てについて設けられていてもよい。1つの仕上げ材20について複数のアンカーピン50が設けられていてもよい。
また、アンカーピン50の上記一端部51および上記他端部52は上述した形状(凹部511,521や凸部512,522を有する構成)以外の形状であってもよい。例えば、アンカーピン50の上記一端部51および上記他端部52は、開口部OPが特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に延伸する直線状となるような形状であってもよい。また、アンカーピン50の上記一端部51および上記他端部52が組み合わされた(換言すれば、特定孔SHの外周方向ODに直交する方向に並列)形状であってもよい。
また、アンカーピン50,50Aの材質や形状は、特定孔SHに挿入されたアンカーピン50,50Aが特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に交差する方向(例えばZ軸方向,Y軸方向)に弾性変形した状態となるものであれば、特に限定されるものではなく、上記以外のものであってもよい。例えば、上記実施形態では、アンカーピン50は、上記内部空間ISおよび開口部OPが形成された筒状であるが、円筒でない筒状であってもよく、上記内部空間ISおよび/または開口部OPが形成されていない形状であってもよい(例えば円柱状、四角柱状)。
また、上記実施形態において、アンカーピン50における特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の全長にわたって上記特定条件を満たすものとしてよいが、アンカーピン50の当該全長の一部のみにおいて(換言すれば、壁体100,100Aのうち、いずれかの断面のみにおいて)当該条件を満たすものとしてもよい。また、上記特定条件を満たさないとしてもよい。
また、上記実施形態では、アンカーピン50の開口部OPは、アンカーピン50における特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の全長にわたって形成されているが、当該全長の一部のみに形成されていてもよい。
また、上記実施形態の壁体改修工法では、アンカーピン50として、直径T2が特定孔SHの直径T1より大きく、かつ、特定孔SHの直径T1の200%以下であるものを用意するとしているが、直径T2が特定孔SHの直径T1より大きいという条件を満たすのであれば、特定孔SHの直径T1の200%未満であるとしてもよい。
例えば、上記実施形態の壁体改修工法では、ピンニング工程ST4において、既設壁体100Eのうち、特定孔SHの深さ方向(X軸方向)に直交する少なくとも一つの断面(例えば図2の断面)において、特定孔SHの輪郭線の全体の長さに対する、特定孔SHとアンカーピン50とが接する部分の長さの割合が50%以上であるが、当該割合が50%未満であるとしてもよい。
また、上記実施形態の壁体改修工法では、特定孔SHの輪郭線のうち、アンカーピン50の開口部OPと対向している部分を除いた略全体において特定孔SHとアンカーピン50とが接しており、特定孔SHの輪郭線の全体の長さに対する、特定孔SHとアンカーピン50とが接する部分の長さの割合は、80%以上であるが、当該割合が80%未満であるとしてもよい。
また、上記実施形態の壁体改修工法では、アンカーピン50における特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の全長の90%以上において、特定孔SHとアンカーピン50とが接する部分の長さの割合は、80%以上であるが、アンカーピン50における特定孔SHの深さ方向(X軸方向)の全長の90%未満において、特定孔SHとアンカーピン50とが接する部分の長さの割合は、80%以上(なお、80%未満の値であってもよい)であるとしてもよい。
また、上記実施形態の壁体改修工法において、追加仕上げ工程ST6を備えないとし、壁体100,100Aは追加仕上げ材70を備えないとしてもよい。また、そのときに、特定孔SH(およびアンカーピン50)を埋めるように、パテ(例えば、パテ状エポキシ樹脂)を充填するとしてもよい。
また、上記実施形態における壁体100,100Aは、建築物等の外壁であるが、外壁以外の壁体(例えば内壁)に本発明を適用してもよい。