JP3540291B2 - コンクリート構造物の補修方法および補修具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンクリート構造物の補修方法および補修具に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のコンクリート構造物のひび割れ補修方法の中では、0.2mm前後のクラックやヘアーラインに対する構造的な欠陥を補修する方法として、高価な一液性のケミカル充填材を圧入する工法が知られている。しかし、材料および施工が特殊であり、コストが高くなるため、ひび割れ幅の大きな箇所には採用されていない。mm単位以上のひび割れは、別途樹脂ペーストや樹脂モルタルの充填注入もしくは流し込み等で代用されているのが現状であるが、これらの方法では充填の確実性の面からも不十分であり、また材質的な性能面からも構造的な欠陥を補完できている状態にない。
【0003】
インフラストラクチャーのコンクリート構造物の耐久性に関して、表層部からの劣化原因に着目して検討してみれば、まず、一般的な鉄筋コンクリート構造物でも、表層面から補強鉄筋までの被り寸法間は全て無筋コンクリートであると言える。つまり、諸々の内外の原因によって発生する引っ張り応力に対しては、その性能が弱点とされるコンクリート自体の引っ張り抵抗力にのみ頼っているというのが現状である。
【0004】
したがって、地震や諸原因で引き起こされる繰り返し振動などの、動的な外部からの強制力が発生して、引っ張り補強筋が抵抗を開始する前に、全ての鉄筋コンクリート構造物は表層からひび割れが発生する。また、土木用コンクリート構造物に多い補強鉄筋量の少ないマスコンクリートの場合も含めて、コンクリートは材質的な宿命として、形状とスケールの関係からも乾燥収縮、クリープの現象としてもひび割れは発生しやすい。また材料的な原因としてアルカリ骨材反応による膨張ひび割れも増加している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これらの原因でひび割れが発生したものを放置しているため、内部鉄筋の酸化現象が促進されて、鉄筋が錆びて膨張しコンクリート表層部の破壊が進行している。さらに、環境悪化が要因とされる中性化促進と細骨材としての海砂使用の増加による塩害の発生が、鉄筋の錆を促進する要因として問題化してきている。
【0006】
さらに、過酷な環境条件下での繰り返し凍害作用や、下水処理場等のように硫化水素が発生するような場所でも、コンクリートの劣化は問題となっている。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、これらの様々な要因によるコンクリート構造物の表層部から内部に至るクラックやひび割れに対して効果的な補修、補強を行うことのできる方法および補修具を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明のコンクリート構造物の補修方法は、内部に亀裂や空洞などの欠陥部が存在するコンクリート構造物の当該欠陥部の周囲を気密シートによりシールし、前記欠陥部に通じ当該コンクリート構造物の表面に現れている異なる2箇所の孔部の一方から真空吸引し、他方から硬化樹脂を注入して前記欠陥部を前記硬化樹脂で充填硬化させることを特徴とする。欠陥部が存在するコンクリート構造物の欠陥部の周囲を気密シートによりシールすることにより、真空吸引による硬化樹脂が欠陥部に隅々まで浸透し、欠陥部は硬化樹脂により充填される。充填後は、コンクリートよりも大きな強度でコンクリート同士を結着するので、表層部の剥落は生じにくくなる。
【0009】
また、本発明のコンクリート構造物の補修具は、コンクリート構造物の表面に貼り付ける基板部と、この基板部に一体的に連設され真空吸引ノズルまたは硬化樹脂注入ノズルの先端部と結合されるノズル結合部とを有するものである。施工に際しては、少なくとも2つの補修具を用い、一方の補修具の基板部を一つの孔部の箇所に取り付け、真空吸引装置のノズルをノズル結合部に結合する。他方の補修具の基板部は別の孔部の箇所に取り付け、硬化樹脂注入ノズルをノズル結合部に結合することで、真空吸引と硬化樹脂注入作業が容易に、かつ確実に行われる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明のコンクリート構造物の補修方法の実施形態を示す斜視図、図2は要部断面図である。これらの図において、1はコンクリート構造物の一例であるコンクリート柱(鉄筋は図示を省略)、2はコンクリート柱1の欠陥部Cの周囲に貼り付ける気密シートである。気密シート2の材質としては防水布テープや包装用布粘着テープを使用することができるが、これらに限定されるものではない。気密シート2の裏面は粘着性とすることが作業上好ましい。
【0011】
図3はコンクリート構造物の補修具の例を示す斜視図であり、補修具3は、基板部3aとノズル結合部3bとを有している。基板部3aはコンクリート構造物の表面に貼り付ける部分であり、コンクリート構造物、本例ではコンクリート柱1内部の欠陥部Cに通じコンクリート柱の表面に現れている孔の位置に合わせて貼り付けられる。ノズル結合部3bは外周に雄ねじが切られており、図4に示すように真空吸引ノズルまたは硬化樹脂注入ノズル4の内周の雌ねじと螺合することで、ノズル4と結合できるようになっている。
【0012】
以下、本実施形態によるコンクリート構造物の補修方法について説明する。
まず、コンクリート柱1等のコンクリート構造物に目視等によりクラックを見出したとき、クラックの近傍にドリルなどで調査用細孔を少なくとも2箇所穿孔する。次いで、マイクロスコープや内視鏡を調査用細孔に挿入し、ディスプレイで観測しながら亀裂等の欠陥部Cの存在を調査する。欠陥部Cが発見されたら、少なくとも2つの調査用細孔を利用して、一つの調査用細孔から真空吸引し、他方の調査用細孔から硬化樹脂を注入する。
【0013】
具体的には、図3に示した補修具3を調査用細孔の位置に合わせて貼り付け、補修具3のノズル結合部3bに、真空吸引ノズルと硬化樹脂注入ノズル4を結合して真空吸引および硬化樹脂注入をする。真空吸引するときの圧力は、例えば1785水柱mm程度とすることができる。
【0014】
欠陥部Cに注入する硬化樹脂としては、硬化時間をコントロールできる二液反応型硬化樹脂を使用することとする。二液反応型硬化樹脂としては、触媒硬化型の不飽和ポリエステル樹脂や、アクリル樹脂を使用することができるが、反応時間のコントロールや空気乾燥性等から常温硬化型の二液型エポキシ樹脂や二液型ポリウレタン樹脂を使用することが好ましい。
【0015】
本発明においては、コンクリートと相性の良い二液反応型硬化樹脂を用いて、以下に示す施工方法を駆使することで、劣化コンクリート構造物の補修・補強を経済的に可能とする。
【0016】
材料の特性
(1)二液反応型硬化樹脂の使用
本発明の実施の形態においては、保存時には硬化せず、混合時に硬化する二液反応型硬化樹脂溶液からなるものが用いられる。例えば、ポリエステルポリオールやポリエールポリオールからなる主剤溶液と4.4−ジフェニルメタン・ジイソシアネート成分を含有する硬化剤溶液からなる二液反応型ポリウレタン樹脂やビスフェール型液状エポキシ樹脂からなる主剤溶液とポリアミドアミンや変性ポリアミン等の成分を含有する硬化剤溶液からなる二液反応型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの主剤及び硬化剤溶液には予め主剤及び硬化剤の混合を容易にし、コンクリート構造物の劣化部に浸透・充填を容易ならしめるために、硬化反応を阻害せず、また硬化物の特性を低下させない程度にジブチルフタレートやジオクチルフタレート等の可塑剤や高沸点溶剤を添加することができる。またコンクリート面とのなじみをよくし、コンクリート構造物のアルカリ成分との化学反応による強固な結合力を得る目的で、珪酸成分を含有する溶液を主剤に混合又は単独で使用することができる。珪酸成分を含有する溶液としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム等の珪酸アルカリ金属塩を主成分とする水ガラス溶液やコロイダルシリカ、アルコキシラン等の溶液単独又はそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0017】
(2)この二液反応型硬化樹脂を使用する場合は専用(撹拌・注入)機械の活用が可能である。負圧領域はコンプレッサーや電動吸引機と周辺絶縁枠付きで、かつコンクリートと接触する面が格子又は網目面模様を形成させた溝を有する可撓性型枠を組み合わせれば、容易に作成可能である。
【0018】
(3)目的に応じて、時間コントロールが可能な材料を選択できる。使用材料は、配合成分の違いで硬化時間にも差があり、目的に応じて選択が可能である。
【0019】
(4)本体の充垣硬化反応後の物性としては、コンクリート母材の材質的引っ張り強度を上回る付着力を長時間安定的に発揮し、かつ、母材の圧縮強度を常時上回る性能を発揮し続ける。また、目的に応じて強度の選択も可能である。
【0020】
(5)本体の採用によって、上記の力学的耐久性以外の諸々の耐久性に関する諸条件に対しても欠陥をもたらさない.
【0021】
このような要件を満たす二液反応型硬化樹脂としては、例えばカーボ・リス・フレックス(CarboLith Flex:ドイツCARBOTEC社商品名)を使用することができる。この二液反応型硬化樹脂は、主剤液として珪酸ナトリウム、硬化剤液としてポリウレタンプレポリマーを使用する。両溶液が反応すると、珪酸塩を含有した硬く弾性のある有機性鉱物を作る。両溶液が十分に混合されると、その結果生成される粘性のある乳濁液は水とは混和せず、また例えば周辺土壌や岩層からのいかなる水も吸収しない。
【0022】
また、他の二液反応硬化樹脂として、カーボ・リス(CarboLith:ドイツCARBOTECH社商品名)を使用することができる。この二液反応型硬化樹脂は、主剤液として珪酸ナトリウムと添加物の混合物、硬化剤液として4.4−ジフェニルメタン・ジイソシアネート基のポリイソシアネートを使用する。反応中に、ポリウレア・マスが形成されると同時に不発泡性の有機鉱物樹脂(シリケイト樹脂)を形成する。また、両溶液を互いに混合すると、その結果生じる粘性のある乳濁液はそれ以上水を吸収せず、また、水と混じることもなく、コンクリート表層から内部へ浸透する。
【0023】
なお、二液反応型硬化樹脂は、前掲の例に限定されるものではなく、他のものも使用可能であることは言うまでもない。表1は、数種類の硬化樹脂の粘度と固結時間を示す。
【0024】
【表1】
【0025】
本工法の実施に際しては、次の点に留意する。
(1)注入作業の開始以前に、充填硬化を妨げる原因を取り除き.注入材料の漏れ防止等のため、養生を行う。
【0026】
(2)硬化反応を開始する前の流れやすい液状材料を、注入機械で施工部に充填する方法に関しては、「負圧吸引注入」を採用する。亀裂深さがコンクリート表層部部分で留まったりしている場合には、補修面を負圧にして樹脂が硬化する前に微細な隙間まで行き渡らせることができる。
【0027】
(3)亀裂深さが深かったり、亀裂の径が細い場合には、圧入だけでは硬化樹脂は浸透しにくい。さらに亀裂が長い場合には、硬化樹脂が亀裂を進行している途中で固結時間に達して硬化し、それ以上は進まないことがある。そこで、真空吸引により硬化樹脂が亀裂を進行する速度を速め、また、硬化樹脂の粘度や固結時間を調整する。
【0028】
【発明の効果】
上述したように、本発明によれば次の効果を奏する。
(1)欠陥部が存在するコンクリート構造物の欠陥部の周囲を気密シートによりシールし、欠陥部に通じている異なる2箇所の孔部の一方から真空吸引し、他方から硬化樹脂を注入して欠陥部を硬化樹脂で充填硬化させることにより、真空吸引による硬化樹脂が欠陥部に隅々まで浸透し、欠陥部は硬化樹脂により充填される。これにより、充填後は、コンクリートよりも大きな強度でコンクリート同士が結着される。
【0029】
(2)コンクリート構造物の表面に貼り付ける基板部と、この基板部に一体的に連設され真空吸引ノズルまたは硬化樹脂注入ノズルの先端部と結合されるノズル結合部とを有する補修具を用いることにより、真空吸引と硬化樹脂注入作業を容易に、かつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のコンクリート構造物の補修方法の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の要部断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の補修具の例を示す斜視図である。
【図4】図3の補修具を用いたときのノズル結合の状態を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
1 コンクリート柱(コンクリート構造物)
2 気密シート
3 補修具
3a 基板部
3b ノズル結合部
4 ノズル
Claims (2)
- コンクリート構造物に目視等によりクラックを見いだしたとき、クラックの近傍に調査用細孔を少なくとも2箇所穿孔し、その調査用細孔にマイクロスコープや内視鏡を挿入し、内部の亀裂や空洞などの欠陥部の存在をディスプレイで観察しながら調査し、前記調査用細孔に通じる欠陥部が発見されたら、前記少なくとも2つの調査用細孔のそれぞれの位置に合わせて、基板部とノズル結合部とを一体に形成している補修具を貼り付け、前記欠陥部の周囲及び前記補修具の前記基板部を気密シートによりシールし、前記補修具の一方に真空吸引ノズルを、他方に硬化樹脂注入ノズルをそれぞれ結合し、前記真空吸引ノズルにより真空吸引し、前記硬化樹脂注入ノズルから、前記欠陥部の状況に応じて粘度や固結時間が調整された二液反応型硬化樹脂を注入して前記欠陥部を前記硬化樹脂で充填硬化させることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
- コンクリート構造物の表面に貼り付ける基板部と、この基板部に一体的に連設され真空吸引ノズルまたは硬化樹脂注入ノズルの先端部の雌ねじと螺合される雄ねじを形成したノズル結合部とを有する、請求項1記載のコンクリート構造物の補修方法に用いる補修具。
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