特許法第30条第2項適用 発表した刊行物:平成29年度 日本醸造学会大会講演要旨集 発行者名:日本醸造学会 発行年月日:平成29年9月10日 発表した刊行物:日本醸造協会誌 第112巻 第11号 発行者名:公益財団法人日本醸造協会 発行年月日:平成29年11月15日 発表した刊行物:第9回 日本醸造学会若手シンポジウム 要旨集 発行者名:日本醸造学会 若手の会 発行年月日:平成29年10月12日 発表した研究集会:平成29年度 日本醸造学会大会 主催者名:日本醸造学会 開催日:平成29年10月11日~平成29年10月12日 発表日(発明を公開した日):平成29年10月12日 発表した研究集会:第9回 日本醸造学会若手シンポジウム 主催者名:日本醸造学会 若手の会 開催日:平成29年10月12日~平成29年10月13日 発表日(発明を公開した日):平成29年10月12日~平成29年10月13日 電気通信回線による発表:掲載年月日:平成29年10月5日 掲載アドレス:http://www.gekkeikan.co.jp/company/news/201710_02.html http://www.gekkeikan.co.jp/company/news/2017.html 電気通信回線による発表:掲載年月日:平成29年10月11日 掲載アドレス:http://www.gekkeikan.co.jp/RD/outline/presentation.html http://www.gekkeikan.co.jp/RD/index.html 電気通信回線による発表:掲載年月日:平成29年10月2日 掲載アドレス:https://www.jozo.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/10/b3afd297d6442aceae348769c5353c9f.pdf
<酒類>
本発明の酒類は、前述のように、デフェリフェリクリシン(以下、「Dfcy」ともいう)を含み、デフェリフェリクリシンの濃度が、50~1000mg/Lであることを特徴とする。本発明の酒類は、前記デフェリフェリクリシンの濃度が、50~1000mg/Lであればよく、その他の構成および条件は、特に制限されない。
本発明者らは、飲食品の不快臭を抑制できる物質について鋭意研究を行なった。その結果、メカニズムは不明であるが、Dfcyが、前記飲食品の不快臭、具体的には、飲食品の調理時に生じるヘキサナール(Cas登録番号:66-25-1)、オクタナール(Cas登録番号:124-13-0)、および2,3-オクタンジオン(Cas登録番号:585-25-1)のうちいずれか1つ以上の成分の発生を抑制できることを見出し、本発明を確立するに至った。本発明の酒類は、所定量のDfcyを含むため、飲食品の不快臭の発生を効果的に抑制できる。このため、本発明の酒類は、例えば、調理時に用いる酒類として好適に使用できる。前記飲食品については、後述する。
本発明において、「酒類」は、例えば、アルコール分1度(容量パーセント濃度で1%)以上の飲料を意味する。前記酒類は、例えば、発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類、混成酒類等があげられる。前記醸造酒類は、例えば、清酒があげられる。前記混成酒類は、例えば、みりん等があげられる。
本発明において、「清酒」は、例えば、米、米麹、および水を原料とし、酵母により発酵したものであり、好ましくは、日本国の酒税法における清酒である。前記「清酒」は、例えば、酒税法における合成清酒、その他の醸造酒、スピリッツ、リキュール、または雑酒に該当しない。前記酒類は、例えば、酒税法に従って、前記清酒に酢や塩を添加して飲用できなくなったものを含まない。前記清酒は、例えば、清酒の製法品質表示基準(国税庁、「清酒の製法品質表示基準」[online]、[平成30年3月9日検索]、https://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/hyoji/seishu/gaiyo/02.htm)で定める特定名称酒であってもよいし、なくてもよい。前記清酒は、例えば、吟醸酒、大吟醸酒、純米酒、純米吟醸酒、純米大吟醸酒、特別純米酒、本醸造酒、または特別本醸造酒であってもよい。なお、本願明細書において、酒税法、酒税法に基づく基準(規則、通達等)およびこれらの解釈等は、例えば、本願の出願日(平成30年3月9日)に準じるものとする。
前記酒税法における清酒は、酒税法における醸造酒類の清酒であり、具体的には、下記(1)、(2)、または(3)の酒類であり、アルコール分(アルコール度数)が1度以上、22度(22v/v%)未満のものを意味する。
(1)米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの。
(2)米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品(例えば、醸造アルコール、糖類、クエン酸を含む酸味料など)を原料として発酵させて、こしたもの。但し、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む)の重量の100分の50を超えないものに限る。
(3)清酒に清酒かすを加えて、こしたもの。
米および米麹を原料とした発酵液(「醪」ともいう)は、例えば、「こす」行為により、清酒となる。また、前記酒税法において、「こす」以降の工程では、清酒に水以外の原料添加は認められていない。前記酒税法において、前記「こす」は、「方法のいかんを問わず酒類の醪を液状部分とかす部分とに分離する全ての行為」を意味し、具体的には、醪の固液分離を意味する。前記固液分離は、濾過布等の分離膜を用いてもよいし、遠心分離等でもよい。前記固液分離は、例えば、「上槽」ともいう。なお、前記酒税法においては、みりんの製造についても、清酒と同じように扱うことが定められている。
本発明において、「みりん」は、例えば、米、米麹、および焼酎またはアルコールを原料とし、糖化および熟成させたものであり、好ましくは、酒税法におけるみりんである。前記「みりん」は、例えば、酒税法におけるスピリッツ、リキュール、または雑酒に該当しない。
前記酒税法におけるみりんは、酒税法における混成酒類のみりんであり、具体的には、下記(1)、(2)、(3)、または(4)の酒類であり、アルコール分(アルコール度数)が1度以上、15度(15v/v%)未満のもの(エキス分が40度以上のものその他政令で定めるものに限る。)を意味する。
(1)米及び米こうじにしょうちゅう又は(飲用できる醸造用の)アルコールを加えて、こしたもの。
(2)米、米こうじ及びしょうちゅう又は(飲用できる醸造用の)アルコールにみりんその他政令で定める物品を加えて、こしたもの。
(3)みりんにしょうちゅう又は(飲用できる醸造用の)アルコールを加えたもの。
(4)みりんにみりんかすを加えて、こしたもの。
酒税法におけるみりんは、前述の酒税法の清酒と同様「こす」以降の工程においては、水以外の原料添加は認められていない。また、酒税法に従って、前記みりんに酢や塩を添加して飲用できなくなったものは、みりんに該当しない。
本発明において、Dfcyは、下記式(1)で表される化合物である。
本発明の酒類に含有されるDfcyは、酒類の製造工程において産生されるDfcy、より具体的には、後述の製麹工程において、アスペルギルス オリゼが産生するDfcyに由来してもよいし、添加されたDfcyに由来してもよいが、前者が好ましい。すなわち、本発明の酒類は、Dfcyを添加しないことが好ましい。また、酒税法における清酒およびみりんの添加物として、Dfcyは、例えば、認められていない。このため、前者の場合、前記清酒およびみりんは、それぞれ、酒税法における清酒およびみりんであることが好ましい。
本発明の酒類では、例えば、Dfcyおよびアルコールが、例えば、前記不快臭抑制効果の有効成分である。このため、本発明の酒類は、例えば、不快臭抑制組成物を含み、前記不快臭抑制組成物の有効成分が、Dfcyおよびアルコールである酒類ということもできる。
本発明の酒類において、Dfcyの濃度は、50~1000mg/Lである。Dfcyの濃度の下限は、例えば、50、100、150、200、250、300、400、500、600、700、800、900、または1000mg/Lである。また、Dfcyの濃度の上限は、例えば、1000、900、800、700、600、500、400、300、250、150、または100mg/Lである。本発明において、各成分およびパラメータの上限値および下限値を例示している場合、各成分およびパラメータの数値範囲は、例えば、例示された上限値の任意の1点および例示された下限値の任意の1点により規定される数値範囲であってもよい(以下、同様)。Dfcyの濃度の範囲は、例えば、50~1000mg/L、100~900mg/L、150~800mg/L、200~700mg/L、250~700mg/L、300~600mg/L、400~500mg/Lである。Dfcyの濃度における単位「mg/L」は、例えば、「ppm」に読み替え可能である。Dfcyの濃度は、例えば、後述するアルコール度数13.5%換算におけるDfcyの濃度であることが好ましい。
Dfcyは、例えば、鉄イオン(III)(Fe3+)と結合しやすく、鉄イオン(III)と結合することによりフェリクシン(Fcy)を形成する。Fcyは、例えば、430nm近傍に吸収スペクトルを有することが知られている。本発明の酒類において、DfcyおよびFcyの総モル数に占めるFcyのモル数の割合(Fcy/(Dfcy+Fcy)%)の上限は、例えば、50、40、30、20、10、5、1、0.1、0.01、0.001、0.0001、または0.00001である。
本発明の酒類において、鉄イオン(III)の濃度の上限は、例えば、10000、5000、2000、1000、100、10、1、0.1μg/Lである。
前記Dfcyの測定方法は、公知の方法を採用できる。Dfcyの濃度の測定方法は、例えば、下記参考文献1に記載の方法があげられる。前記Dfcyの濃度は、例えば、後述の実施例6を参照し、液体クロマトグラフを用いて測定できる。
参考文献1:佐藤信ら、「清酒中の着色物質に関する研究(第5報) 清酒および米麹中のFerrichrome類化合物とその非含鉄化合物の迅速定量法」、1967年、日本醸造協会誌、第62巻、875-880頁
本発明において、前記酒類は、例えば、アルコールを含む。前記アルコールは、特に言及しない限り、エチルアルコール(エタノール)を意味する。本発明の酒類において、アルコール度数は、特に制限されない。各酒類のアルコール度数は、例えば、酒税法における各酒類のアルコール度数の定義を満たす。
本発明の酒類が清酒の場合、前記清酒のアルコール度数は、例えば、酒税法における清酒のアルコール度数を満たす。前記清酒のアルコール度数の下限は、例えば、1%、3%、5%、7%、10%、12%、または15%である。前記清酒のアルコール度数の上限は、例えば、22%未満、20%、18%、15%、13%、10%、8%または5%である。前記清酒のアルコール度数の範囲は、例えば、1%以上、22%未満、1~20%、3~20%、好ましくは、5~20%、より好ましくは7~16%、さらにより好ましくは10~15%、最も好ましくは12.5~14.5%である。前記アルコール度数は、飲料におけるエタノールの体積濃度を100分率(v/v%)で表示した割合であり、1%=1度と表すこともできる。
本発明の酒類がみりんの場合、前記みりんのアルコール度数は、例えば、酒税法におけるみりんのアルコール度数を満たす。前記みりんのアルコール度数の下限は、例えば、1%、3%、5%、7%、10%、12.5%である。前記みりんのアルコール度数の上限は、例えば、15%未満、14.5%、12%、10%、8%、6%である。前記みりんのアルコール度数の範囲は、例えば、1%以上、15%未満、1~14.5%、3~14.5%、好ましくは、10~14.5%である。前記アルコール度数は、飲料におけるエタノールの体積濃度を100分率(v/v%)で表示した割合であり、1%=1度と表すこともできる。
前記アルコール度数の測定方法は、公知の方法を採用できるが、前記アルコール度数の測定方法は、国税庁所定分析法(以下、「所定分析法」ともいう)(国税庁、[online]、<https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/sonota/kaisei070622/01.pdf>に従って測定することが好ましい。前記測定方法は、例えば、所定分析法である浮ひょうを用いる方法、水蒸気蒸留法、振動式密度計を用いる方法等があげられる。具体的な方法としては、振動式密度計(例えば、京都電子工業株式会社、DA-650)、ガスクロマトグラフ(例えば、Perkin Elmer社、Clarus500)を用いる方法があげられる。また、前記所定分析法と異なる測定方法でも、合理的かつ正確であると認められる方法(例えば、液体クロマトグラフ、酵素法等)を用いてもよい。前記アルコール度数の測定温度は、15℃である。前記測定温度が15℃以外の場合、前記アルコール度数は、得られたアルコール度数を15℃におけるアルコール度数に換算した値である。
本発明の酒類は、例えば、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸等の有機酸、リン酸等の無機酸等を含んでもよい。本発明の酒類におけるクエン酸の濃度は、特に制限されない。
本発明の酒類が清酒の場合、清酒におけるクエン酸の濃度は、特に制限されない。前記清酒のクエン酸の濃度の下限は、例えば、0.01、1、10、20、25、50、100、200、300、400、500、600、または800mg/L以上である。前記クエン酸の濃度の上限は、例えば、1000、800、600、500、400、300、200、100、または50mg/Lである。前記清酒のクエン酸の濃度の範囲は、前記上限値のうち任意の1点および下限値のうち任意の1点で規定される数値範囲であってもよく、例えば、0.01~1000mg/L、1~400mg/L、1~200mg/Lであり、酸味が抑制され、かつ不快臭を抑制できることから、好ましくは、50~800mg/Lである。
本発明の酒類がみりんの場合、前記みりんにおけるクエン酸の濃度は、特に制限されない。前記みりんのクエン酸の濃度の下限は、例えば、0.01、1、10、20、25、50、100、200、300、400、500、600、または800mg/L以上である。前記クエン酸の濃度の上限は、例えば、1000、800、600、500、400、300、200、100、または50mg/Lである。前記みりんのクエン酸の濃度の範囲は、前記上限および下限のうち任意の2点の範囲であってもよく、例えば、0.01~1000mg/L、1~400mg/L、1~200mg/Lである。
前記清酒およびみりんには、例えば、クエン酸のほか、リンゴ酸、乳酸、コハク酸等の有機酸とリン酸が含まれている。このため、前記清酒およびみりんでは、前記有機酸の総量をクエン酸換算して、前述のクエン酸濃度を満たしてもよい。具体例として、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1mLの中和には、クエン酸量(0.006404g)が必要である。そこで、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1mLの中和に必要な各有機酸またはこれら酸の総量を、例えば、前記クエン酸換算してもよい。
前記クエン酸の濃度の測定方法は、特に制限されず、液体クロマトグラフ、薄層クロマトグラフ、酵素法(例えば、J.K.インターナショナル社製、F-キット クエン酸)等の公知の方法を採用できる。前記クエン酸の濃度の測定方法は、例えば、液体クロマトグラフ(例えば、島津製作所社製、LC20AD-CTO20AC-CDD10AVP)を用いた方法等があげられる。
本発明の酒類が清酒の場合、前記清酒の日本酒度は、特に制限されない。前記清酒の日本酒度は、清酒の甘口辛口を示す目安である。前記日本酒度は、例えば、所定分析法で定める浮ひょう法または振動式密度計法によって測定できる。前記日本酒度の上限は、例えば、+30度、+20度、+10度、+5度、0度、-5度、-10度、-20度、または-30度である。前記日本酒度の下限は、例えば、-50度、-30度、-20度、-10度、-5度、0度、+5度、+10度、または+20度である。前記日本酒度の範囲は、例えば、-50度~+30度であり、好ましくは、-10度~+10度である。
本発明の酒類が清酒の場合、前記清酒の酸度は、特に制限されない。前記清酒の酸度は、例えば、所定分析法に従って測定することができ、具体例として、指示薬滴定法またはpH計による方法で測定できる。前記清酒の酸度は、例えば、コハク酸度またはクエン酸度に換算してもよい。前記酸度をコハク酸度に換算する場合、前記コハク酸度は、下記式(2)により算出できる。前記酸度をクエン酸度に換算する場合、前記クエン酸度は、下記式(3)により算出できる。所定分析法で定める酸度は、例えば、清酒検体10mLを0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定した際の滴定に要した水酸化ナトリウムの体積(mL)である。所定分析法で定める酸度の下限は、例えば、0.001、0.01、0.1、0.2、0.5、0.8、1、1.5、2、2.5、または3である。所定分析法で定める酸度の上限は、例えば、10、6、4、3、2.5、2、1.5、1、0.8、0.5または0.2である。所定分析法で定める酸度の範囲は例えば、0.001~10であり、好ましくは、0.1~6である。前記酸度の範囲は、例えば、前記コハク酸またはクエン酸で規定される係数を乗じて換算してもよい。
(コハク酸度)
コハク酸度(g/100mL)=酸度×0.059 ・・・(2)
(クエン酸度)
クエン酸(g/100mL)=酸度×0.064 ・・・(3)
本発明の酒類がみりんの場合、前記みりんの酸度は、特に制限されない。前記みりんの酸度は、例えば、所定分析法に従って測定することができる、具体例として、指示薬滴定法またはpH計による方法で測定できる。前記みりんの酸度は、例えば、コハク酸度またはクエン酸度に換算してもよい。前記酸度をコハク酸度に換算する場合、前記コハク酸度は、前記式(2)により算出できる。前記酸度をクエン酸度に換算する場合、前記クエン酸度は、前記式(3)により算出できる。所定分析法で定める酸度は、例えば、みりん検体10mLを0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定した際の滴定に要した水酸化ナトリウムの体積(mL)である。所定分析法で定める酸度の下限は、例えば、0.001、0.01、0.1、0.2、0.5、0.8、1、1.5、2、2.5、または3である。所定分析法で定める酸度の上限は、例えば、10、6、4、3、2.5、2、1.5、1、0.8、0.5または0.2である。所定分析法で定める酸度の範囲は例えば、0.001~10であり、好ましくは、0.1~6である。前記酸度の範囲は、例えば、前記コハク酸またはクエン酸で規定される係数を乗じて換算してもよい。
本発明の酒類が清酒の場合、前記清酒のアミノ酸度は、特に制限されない。前記アミノ酸度は、所定分析法によって測定することができ、具体例として、清酒検体10mLを用いて指示薬滴定法またはpH計による方法によって測定および算出できる。前記アミノ酸度の下限は、例えば、0.001、0.01、0.1、0.2、0.5、0.8、1、2、3、4、5、6、8、10または15である。前記アミノ酸度の上限は、例えば、30、20、15、10、8、6、5、4、3、2、1、または0.5である。前記アミノ酸度の範囲は、例えば、0.001~30であり、好ましくは、0.5~15である。
本発明の酒類がみりんの場合、前記みりんのアミノ酸度は、特に制限されない。前記アミノ酸度は、所定分析法によって測定することができ、具体例として、みりん検体10mLを用いて指示薬滴定法またはpH計による方法によって測定および算出できる。前記アミノ酸度の下限は、例えば、0.001、0.01、0.1、0.2、0.5、0.8、1、2、3、4、5、6、8、10または15である。前記アミノ酸度の上限は、例えば、30、20、15、10、8、6、5、4、3、2、1、または0.5である。前記アミノ酸度の範囲は、例えば、0.001~30であり、好ましくは、0.5~15である。
本発明の酒類が清酒の場合、前記清酒のグルコース濃度は、特に制限されない。前記グルコース濃度は、例えば、グルコアナライザー(アークレイ社製)等の汎用機器で簡便に測定でき、清酒100mL中に含まれるグルコースの重量(g/100mL)で表示する。前記グルコース濃度(g/100mL)の下限は、例えば、0.001、0.01、0.05、0.1、0.2、0.5、0.7、1、2、3、5、7、10である。前記グルコースの濃度の上限は、例えば、30、25、20、15、10、7、5、3、2、1、または0.5である。前記グルコース濃度(g/100mL)の範囲は、例えば、0.001~30であり、好ましくは、1~10である。
本発明の酒類は、さらに、添加物等を含んでもよい。前記酒類が清酒の場合、前記添加物は、特に制限されず、例えば、酒税法において清酒に添加することが許容されている原料および添加剤があげられる。具体例として、前記添加物は、例えば、香料、調味料、甘味料、酸味料、保存料、増粘剤、着色剤、発色剤、安定剤、漂白剤、防かび剤または防ばい剤等があげられる。本発明の清酒は、例えば、界面活性剤を含まないことが好ましい。本発明の酒類が酒税法における清酒である場合、前記清酒には、例えば、上槽前に、糖類、酸味料、醸造アルコール、焼酎、清酒または酒粕を添加してもよい。前記酒税法における清酒は、例えば、公知または市販の界面活性剤を添加せず、界面活性剤を添加しないことが好ましい。ただし、前記界面活性剤は、例えば、原料として認められている米、米麹、酵母、焼酎、清酒、醸造アルコール、酒粕等に含まれる天然由来の界面活性剤を除く。
前記酒類がみりんの場合、前記添加物は、特に制限されず、例えば、酒税法においてみりんに添加することが許容されている原料および添加剤があげられる。具体例として、前記添加物は、例えば、香料、調味料、甘味料、酸味料、保存料、増粘剤、着色剤、発色剤、安定剤、漂白剤、防かび剤または防ばい剤等があげられる。本発明のみりんは、例えば、界面活性剤を含まないことが好ましい。本発明の酒類が酒税法におけるみりんである場合、前記みりんには、上槽前に、糖類、酸味料、醸造アルコール、焼酎を添加してもよい。前記酒税法におけるみりんは、例えば、公知または市販の界面活性剤を添加せず、界面活性剤を添加しないことが好ましい。ただし、前記界面活性剤は、例えば、原料として認められている米、米麹、焼酎、醸造アルコールなどに含まれる天然由来の界面活性剤を除く。
本発明の酒類が清酒の場合、前記清酒は、例えば、容器詰めされた容器詰め清酒でもよい。また、前記容器には、例えば、ラベルが付されてもよい。前記容器は、例えば、ガラス製、プラスチック製、(例えば、酒類の格納に適した)紙パック製、陶器製の容器を使用できる。また、前記容器には、例えば、飲用よりも料理に用いることが適していること(例、料理に適した清酒等)、特に食材の臭いを抑制または改善する旨(例えば、肉または魚の臭いを抑制、またはマスキング・香味を引き立てる)が表示されていることが好ましい。
本発明のみりんは、例えば、容器詰めされた容器詰めみりんでもよい。また、前記容器には、例えば、ラベルが付されてもよい。前記容器は、例えば、ガラス製、プラスチック製、(酒類の格納に適した)紙パック製、陶器製の容器を使用できる。また、前記容器には、例えば、飲用よりも料理に用いることが適していること(例、料理に適したみりん等)、特に食材の臭いを抑制または改善する旨(例えば、肉または魚の臭いを抑制、またはマスキング・香味を引き立てる)が表示されていることが好ましい。また、ラベルには、例えば、「本みりん」に該当する旨が表示されていることが好ましい。
本発明の酒類は、例えば、後述の本発明の酒類の製造方法により製造できる。
<米麹の製造方法>
本発明の米麹の製造方法は、前述のように、米に麹菌を繁殖させることにより、米麹を製造する製麹工程を含み、得られた米麹1kgあたりのデフェリフェリクリシンの含有量が、0.1~30gであることを特徴とする。本発明の米麹の製造方法は、得られた米麹1kgあたりのデフェリフェリクリシンの含有量が、0.1~30gであることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の米麹の製造方法によれば、デフェリフェリクリシンを所定の含有量で含む米麹を製造できる。前記米麹は、例えば、酒類の製造に用いることで、前述の濃度でデフェリフェリクリシンを含む酒類を製造できる。このため、本発明の米麹の製造方法によれば、前述の本発明の酒類の製造に使用可能な米麹を製造できる。本発明の米麹の製造方法は、例えば、前記本発明の酒類の説明を援用できる。
本発明において、前記米は、特に制限されず、例えば、玄米でもよいし、精米でもよい。また、後者の場合、精米歩合は、特に制限されない、前記精米歩合の上限は、例えば、99%、90%、80%、または78%である。前記精米歩合の下限値は35%、60%、70%、78%、または85%である。前記精米歩合の範囲は、例えば、5~99%、60~92%、70~80%、72~78%である。前記精米歩合は、例えば、玄米を100%とした時の米の精白の程度を示す割合である。前記米は、例えば、うるち米でもよいし、もち米でもよい。前記米は、例えば、食用米であり、清酒に用いるのであれば酒造好適米が好ましい。また、前記米は、例えば、丸米でもよいし、破米でもよい。前記米は、例えば、前記製麹工程に先立ち、蒸きょうされていることが好ましい。すなわち、前記米は、蒸米であることが好ましい。
本発明において、前記麹菌は、例えば、Dfcyを産生できる菌であり、具体例として、アスペルギルス属(Aspergillus)があげられる。前記アスペルギルス属は、例えば、アスペルギルス オリゼ(Aspergillus
oryzae)等があげられる。前記麹菌は、例えば、Dfcyの高産生菌であることが好ましい。アスペルギルス オリゼが生産するフェリクローム類の中でも、前記Dfcyは、比較的多量に生産されるため、生産性が高い点で好ましい。前記Dfcyを高産生するアスペルギルス オリゼは、例えば、RIB40またはRIB69株(独立行政法人酒類総合研究所から入手可能<http://www.nrib.go.jp/data/asp/detail/rib40.html>、<http://www.nrib.go.jp/data/asp/detail/rib69.html>、特開2008-054580号公報に記載されたFERM P-20961で特定されるアスペルギルス オリゼ3129-7株等があげられる。また、前記麹菌は、例えば、クエン酸を高生産するアスペルギルス カワチ(Aspergillus
kawachii)を用いてもよい。この場合、前記クエン酸を高生産するアスペルギルス カワチと、前記Dfcyを高産生するアスペルギルス オリゼとを、混合して同時に使用してもよいし、個別に使用してもよいし、米麹を製造し、清酒またはみりんの原料として一部として使用してもよい。アスペルギルス カワチは、例えば、秋田今野社等から酒造用のものを購入できる。
本発明の米麹の製造方法において、前記製麹工程は、例えば、前記米と前記麹菌とを接触させた後、前記製麹工程後の米麹が所定のDfcy含有量となるように、麹室の室温、麹室の湿度、米麹の水分含有量、および米麹の品温の少なくとも1つ以上の条件を調整する。この点を除き、本発明の米麹の製造方法は、例えば、従来公知の蓋麹法、箱麹法、床麹法、機械麹法、または何らかの形で温度と湿度が管理できる装置を利用する方法(例えば、恒温恒湿器)等により実施できる。前記品温は、例えば、前記製麹工程に供する米麹の温度である。
前記製麹工程では、前記品温を所定温度となるように調整することが好ましい。これにより、本発明の米麹の製造方法は、例えば、得られた米麹におけるDfcyの含有量をさらに増加させることができる。また、前記品温を所定温度内に調整することで、得られた米麹におけるDfcyの含有量をさらに増加させることができる。前記品温は、例えば、15~50℃、20~42℃、25~35℃であり、好ましくは30~40℃であり、さらに好ましくは35度前後(33~37℃)である。前記製麹工程では、例えば、その全期間またはその一部の期間について、前記品温を所定の温度となるように調整する。前記品温は、例えば、温度計を米麹の粒の間に差し込み測定された米麹内部の温度を意味する。
前記製麹工程では、例えば、麹室の室温または湿度を調整することにより、前記品温を所定温度となるように調整するが、好ましくは、室温の調整である。本発明の米麹の製造方法は、例えば、前記室温を調整することにより、前記湿度を調整する場合と比較して、得られた米麹におけるDfcyの含有量をさらに増加させることができる。
前記製麹工程において、前記麹室の室温を調整する場合、前記室温は例えば、前記品温と略同じ温度であり、例えば、15~50℃、20~42℃、25~35℃でもよく、好ましくは30~40℃であり、さらに好ましくは35度前後(33~37℃)である。
前記製麹工程において、前記麹室の湿度を調整する場合、前記湿度は、例えば、20~100%、50~100%であり、好ましくは、75~100%であり、さらに好ましくは95%前後(90~100%)である。一時的に麹室の開閉を行い、前記麹室の湿度が大きく変化した場合、前記製麹工程では、前記麹室の湿度を、前記湿度の範囲に調整してもよい。
前記製麹工程では、前記水分含有量を、所定割合となるように調整することが好ましい。これにより、本発明の米麹の製造方法は、例えば、得られた米麹におけるDfcyの含有量をさらに増加させることができる。前記水分含有量は、例えば、10~40%、15~35%であり、好ましくは、25~35%である。前記水分含有量は、米麹の総重量に含まれる水分含量(w/w(%))と定義できる。前記水分含有量の下限は、例えば、10%、20%、または30%以上であり、その上限は、例えば、50%、45%、または40%である。このような水分含有量に設定することにより、前記製麹工程では、例えば、他の微生物による米麹の汚染を抑制できる。また、このような水分含有量に設定することにより、前記製麹工程では、例えば、前記麹菌によるDfcyの産生をさらに促進できる。前記製麹工程では、例えば、その全期間またはその一部の期間について、前記水分含有量を所定割合となるように調整する。前記水分含有量は、例えば、105℃または55℃で重量が一定になるまで乾燥させた際の前後の重量変化により測定できる。
前記製麹工程の培養時間(繁殖時間)は、特に制限されない。前記培養時間の下限は、例えば、20、40、60、80、または100時間である。前記培養時間の上限は、例えば、720、480、240、160、または120時間である。前記培養時間の範囲は、例えば、20~720、40~480、60~240、80~160、または100~120時間である。本発明の米麹の製造方法は、前記製麹工程の培養時間を長くすることにより、例えば、得られた米麹のDfcyの含有量を増加させることができる。
本発明の米麹の製造方法において、前記製麹工程は、例えば、種付け工程と、切返し工程とを含む。前記製麹工程は、例えば、さらに、盛工程と、出麹工程とを含んでもよい。前記種付け工程は、例えば、前記麹菌を蒸し米に植えつける工程である。前記切返し工程は、例えば、米麹を均一にする工程である。前記米麹は固体培養であるため、例えば、全体の培養条件がばらつくことがある。このため、前記切返し工程は、1回実施してもよいし、必要に応じて、複数回実施してもよい。前記盛工程は、例えば、米麹を放熱させるために、麹蓋等の容器に小分けする、または表面積を広げる工程である。前記盛工程は、例えば、前記米麹の品温が高くならない場合、実施しなくてもよい。前記出麹工程は、例えば、培養終了を意味する工程である。
前記種付け工程では、前記米に前記麹菌を付着させる。前記米への前記麹菌の付着は、例えば、前記麹菌を撒布し、前記米と前記麹菌とを接触させることにより実施できる。また、前記種付け工程では、例えば、出麹した米麹を用いて種付けを行ってもよいし(いわゆる友麹法または共麹法)、液体培養した麹菌を米に塗布してもよい。そして、前記種付け工程後、前記切返し工程までの間、例えば、前記米と前記麹菌との混合物を培養する。前記種付け工程後から(最初の)切返し工程までの品温は、例えば、蒸した米に麹菌が目視で確認できる程度生育している条件であればよく、例えば、15~50℃、20~42℃、25~35℃であり、好ましくは、30~40℃であり、さらに好ましくは、35℃前後(33~37℃)である。麹室の室温は、例えば、前記品温と略同じである。具体例として、前記室温は、例えば、15~50℃、20~42℃、25~35℃であり、好ましくは、30~40℃であり、さらに好ましくは、35℃度前後(33~37℃)である。これにより、前記種付け工程後から(最初の)切返し工程において、例えば、前記品温を維持できる。前記培養時の湿度は、例えば、20~100%、50~100%、好ましくは、75~100%であり、さらに好ましくは95%前後(90~100%)である。前記培養時の水分含有量は、例えば、蒸した直後の含水量を維持していればよく、例えば、10~40%、15~35%であり、好ましくは、25~35%である。種付け工程後から(最初の)切返し工程までの時間は、例えば、10~35、15~30時間、18~28、20~26時間である。
つぎに、前記切返し工程では、例えば、前記種付け工程後の米麹を均一にする。前記切返し工程では、例えば、さらに、均一にほぐす過程で麹菌を蒸した米の表面に接触させ、麹菌の増殖させる操作を含んでもよい。前記米麹は、例えば、堆積した前記米麹を崩し、全体の品温を均一に、一部培養がすすんだ麹菌を蒸米全体に接触させ、麹菌が蒸し米全体に広がるように、かつ酸素を供給するように塊をほぐすことにより実施できる。そして、前記切返し工程後は、そのまま培養を行ってもよいし、前記切返し工程後に前記盛工程を実施し、培養を行ってもよい。前記培養では、例えば、適宜の切返しをおこなって米麹の塊をほぐしつつ均一にすることが好ましく、必要であれば盛工程を行って米麹の品温を調整し、前記米麹を培養してもよい。前記培養温度(品温・室温)、前記培養時の湿度、前記培養時の(米麹の)水分含有量は、例えば、前記種付け工程の説明を援用できる。前記室温および品温は、例えば、15~50℃、20~42℃、25~35℃であり、好ましくは、30~40℃であり、さらに好ましくは、35℃前後(33~37℃)である。前記培養時の湿度は、例えば、20~100%、50~100%であり、好ましくは、75~100%であり、さらに好ましくは、95%前後(90~100%)である。前記水分含有量は、10~40%、15~35%であり、好ましくは、25~35%である。前記水分含有量は、例えば、通気などによって低下することがあることから、例えば、前記種付け工程から起算して50時間において、20%以上、25%以上、または30%以上保持しているように調整することが好ましい。このため、前記培養において、例えば、前記米麹における麹菌の生育具合をみつつ温度を高くしながら、水分含有量を減らさないように、前記米麹の水分含有量をしてもよい。前記水分含有量の調整は、例えば、霧状の水滴またはミスト等により水分を供給することで実施してもよいし、密封状態に近い状態で水分を極力減らさずに培養することで実施してもよいし、前記米麹由来でん粉が麹菌により分解されて発生する水分で水分含有量を補う培養で実施してもよい。前記培養時間の下限は、例えば、20、40、60、80、または100時間である。前記培養時間の上限は、例えば、720、480、240、160、または120時間である。前記培養時間は、例えば、前記種付け工程から起算してもよい。なお、前記切返し工程後の前記盛工程を、例えば、自動製麹機等で実施する場合、前記切返し工程および前記盛工程は、例えば、ほぼ同時に実施してもよいし、前記米麹の一部について必要に応じて適宜実施してもよい。前記切返し工程は、例えば、5~50時間毎に実施することが好ましい。また、前記切返し工程を一度だけ行う場合、湿度は、例えば、95%前後(90~100%)、品温は、35℃前後(32~37℃)で、極力米麹を乾燥させない状態で実施することが好ましい。
さらに、温度、品温および湿度を制御するため、前記盛工程では、例えば、前記切返し工程後の米麹を複数に分割してもよいし、分割せず一つの容器で行ってもよいし、前記切返し工程と同じ容器で盛工程を行ってもよい。温度、品温および湿度は、例えば、前記切返し工程の説明を援用できる。
そして、前記出麹工程では、例えば、前記切返し工程および盛工程による培養の終了後の米麹を容器から出す。前記出麹工程は、例えば、冷却操作を含んでもよい。前記冷却は、例えば、室温(25℃)以下でもよく、15℃、7℃、4℃、または-20℃以下にしてもよい。前記冷却は、例えば、前記麹蓋を麹室外、さらには冷蔵庫のような冷却装置に移動させ、放熱させることにより実施できる。これにより、前記米麹を製造できる。また、前記米麹を日持ちさせるために、例えば、さらに通風して乾燥させる工程を含んでもよい。この場合、前記乾燥後の米麹の水分含有量は、例えば、30%、20%、または10%以下である。前記自動製麹機で、冷却および乾燥の一連の操作が行える場合、前記出麹工程を実施せずに冷却および乾燥してもよいし、出麹工程を得た米麹を一部別の装置で冷却および乾燥してもよい。
前記製麹工程が、例えば、種付け工程と、切返し工程とを含む場合、前記切返し工程後において、前記品温および水分含有量の少なくとも一方の調整、好ましくは、両者の調整を実施することが好ましい。これにより、本発明の米麹の製造方法は、例えば、得られた米麹におけるDfcyの含有量をさらに増加させることができる。前記品温および水分含有量は、例えば、前記製麹工程における説明を援用できる。前記切返し工程を複数回実施する場合、前記製麹工程では、例えば、最初の切返し工程後において、前記品温および水分含有量の少なくとも一方の調整、好ましくは、両者の調整を実施することが好ましい。
前記製麹工程で得られた米麹1kgあたりのDfcyの含有量は、0.1~30gである。前記米麹1kgあたりのDfcyの含有量の下限は、例えば、0.1、0.2、0.4、0.7、1、2、または4gである。前記米麹1kgあたりのDfcyの含有量の上限は、例えば、30、25、20、15、または10gである。前記米麹1kgあたりのDfcyの含有量の範囲は、好ましくは、1~10gである。前記米麹1kgあたりのDfcyの含有量は、出麹時のDfcyの含有量、すなわち生麹におけるDfcyの含有量であってもよいが、実質的に水分を含まない乾燥された米麹1kgあたりのDfcyの含有量であってもよい。前記米麹におけるDfcyおよびFcyの総モル数に占めるFcyのモル数の割合(Fcy/(Dfcy+Fcy)%)の上限は、例えば、1、0.1、0.01、0.001、0.0001、または0.00001である。また、前記米麹における鉄イオン(III)の濃度の上限は、例えば、1000、100、10、1、または0.1μg/Lである。
本発明の米麹の製造方法は、例えば、前記製麹工程において、前記麹菌によりDfcyを高産生できる。このため、本発明の米麹の製造方法は、例えば、前記製麹工程において、Dfcyを添加しないことが好ましい。これにより、本発明の米麹の製造方法により得られた米麹は、例えば、酒税法における清酒およびみりん等の酒類の製造に使用できる。
<米麹>
本発明の米麹は、米麹1kgあたりのデフェリフェリクリシンの含有量が、0.1~30gであることを特徴とする。本発明の米麹は、米麹1kgあたりのデフェリフェリクリシンの含有量が、0.1~30gであることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の米麹は、例えば、前記本発明の米麹の製造方法により製造できる。本発明の米麹によれば、例えば、本発明の酒類を製造できる。本発明の米麹は、例えば、前記本発明の酒類、米麹の製造方法の説明を援用できる。前記デフェリフェリクリシンの含有量は、例えば、前記本発明の米麹の製造方法におけるデフェリフェリクリシンの含有量の説明を援用できる。
<酒類の製造方法>
本発明の酒類の製造方法は、前述のように、米および米麹を用いて酒類を製造する製造工程を含み、前記酒類におけるデフェリフェリクリシンの濃度が、50~1000mg/Lであり、前記米麹が、前記本発明の米麹の製造方法により得られたことを特徴とする。本発明の酒類の製造方法は、前記米麹が、前記本発明の米麹の製造方法により得られたことが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の酒類の製造方法によれば、不快臭抑制効果の高い清酒、みりん等の酒類を製造できる。本発明の酒類の製造方法は、例えば、前記本発明の酒類、米麹の製造方法、米麹の説明を援用できる。
本発明の酒類の製造方法は、前記製造工程に先立ち、米に麹菌を繁殖させることにより、米麹を製造する製麹工程を含んでもよい。前記製麹工程は、例えば、前記本発明の米麹の製造方法における製麹工程の説明を援用できる。
前記製造工程は、前記米麹として、前記本発明の米麹の製造方法により得られた米麹を用いる以外は、製造する酒類の種類に応じて、常法により製造できる。以下、前記製造工程の具体例として、清酒を製造する清酒製造工程およびみりんを製造するみりん製造工程を例にあげて説明するが、本発明は、以下の例には、何ら制限されない。
前記清酒製造工程は、従来公知の清酒の製造方法により実施でき、例えば、米、米麹、および水を用いて清酒を製造する。具体例として、前記清酒製造工程は、米、米麹、および水を接触後、酵母により発酵させることにより、醪を製造する醪製造工程を含む。前記米は、例えば、掛米ということができる。前記掛米は、蒸きょうされることで得られた蒸米であることが好ましい。前記おける水は、例えば、仕込み水ということができる。前記醪製造工程における掛米および米麹の総量(総米)における米麹の割合(麹歩合、%)は、特に制限されない。前記麹歩合の下限は、例えば、1、5、10、15、20、30、40、50、60、80、99%である。前記麹歩合の上限は、例えば、99、80、60、50、40、30、20%である。前記清酒が特定名称酒である場合、前記麹歩合は、15%以上であることが好ましい。前記醪製造工程の総米における米麹の割合を高くすることにより、得られた清酒における、Dfcyの濃度を高くすることができる。また、前記清酒製造工程に先立ち、例えば、使用する水(例えば、製麹装置・仕込みタンク洗浄から、米の浸漬、仕込み水等)等から除鉄を行うことが望ましい。前記清酒において、DfcyおよびFcyの総モル数に占めるFcyのモル数の割合(Fcy/(Dfcy+Fcy)%)の上限は、例えば、50、40、30、20、10、5、1、0.1、0.01、0.001、0.0001、または0.00001である。また、前記清酒において、鉄イオン(III)の濃度の上限は、例えば、10000、5000、2000、1000、100、10、1、0.1μg/Lである。
前記清酒製造工程は、例えば、さらに、前記醪における液体画分と酒粕とを分離し、前記液体画分を回収する上槽工程、回収された液体画分に対して、熱処理、おりの除去、およびろ過のいずれか1つ以上の処理を実施する処理工程等を含んでもよい。前記清酒は、例えば、前記上槽工程で得られた液体画分、またはその後の各工程で得られた液体画分として得ることができる。前記清酒は、例えば、割水により、所定のDfcyの濃度となるように、Dfcyの濃度を調整してもよい。
前記清酒製造工程における、培養温度、培養時間等の培養条件は、例えば、公知の清酒の製造方法に基づき、適宜設定できる。
本発明の清酒の製造方法において、前記清酒製造工程では、例えば、Dfcyを所定量含有する米麹を使用する。このため、本発明の清酒の製造方法は、例えば、前記清酒製造工程において、Dfcyを添加しないことが好ましい。これにより、本発明の清酒の製造方法により得られた清酒は、例えば、酒税法における清酒とできる。
前記みりん製造工程は、従来公知のみりんの製造方法により実施でき、例えば、米、米麹、および焼酎またはアルコールを用いてみりんを製造する。前記みりん製造工程は、例えば、米、米麹、および焼酎またはアルコールを接触後、糖化および熟成することにより、醪を製造する糖化熟成工程を含む。前記米は、例えば、掛米ということができる。前記米は、蒸きょうされることで得られた蒸米であることが好ましい。前記焼酎は、例えば、酒税法における焼酎である。前記アルコールは、例えば、エタノール溶液、醸造用アルコール等があげられる。前記糖化熟成工程における掛米および米麹の総量(総米)における米麹の割合(麹歩合)は、例えば、前記麹歩合の下限は、例えば、1、5、10、15、20、30、40、50、60、80、99%である。前記麹歩合の上限は、例えば、99、80、60、50、40、30、20%である。前記糖化熟成工程の総米における米麹の割合を高くすることにより、得られたみりんにおける、Dfcyの濃度を高くすることができる。また、特開2010-148436号公報には、蒸米1000gに対してアルコール740mLを加える方法が開示されているが、焼酎および醸造アルコールの量は、例えば、特開2010-148436号公報に記載の方法と比較して減らしてもよい。具体例として、前記アルコールの量は、蒸米と麹米の総量に対して重量比で50%以下、25%以下でもよい。また、前記みりん製造工程に先立ち、例えば、使用する水(例えば、製麹装置・仕込みタンク洗浄から、米の浸漬、仕込み水等)等から除鉄を行うことが望ましい。前記みりんにおいて、DfcyおよびFcyの総モル数に占めるFcyのモル数の割合(Fcy/(Dfcy+Fcy)%)の上限は、例えば、50、40、30、20、10、5、1、0.1、0.01、0.001、0.0001、または0.00001である。また、前記みりんにおいて、鉄イオン(III)の濃度の上限は、例えば、10000、5000、2000、1000、100、10、1、0.1μg/Lである。
前記みりん製造工程は、例えば、さらに、前記醪における液体画分とみりん粕とを分離し、前記液体画分を回収する上槽工程、回収された液体画分に対して、熱処理、おりの除去、およびろ過のいずれか1つ以上の処理を実施する処理工程等を含んでもよい。前記みりんは、例えば、前記上槽工程で得られた液体画分、またはその後の各工程で得られた液体画分として得ることができる。前記みりん製造工程では、例えば、デンプン部分加水分解物を使用してもよい。また、前記みりん製造工程では、例えば、酵素剤を使用してもよい。
前記みりん製造工程における、培養温度、培養時間等の培養条件は、例えば、公知のみりんの製造方法に基づき、適宜設定できる。
本発明のみりんの製造方法において、前記みりん製造工程では、例えば、Dfcyを所定量含有する米麹を使用する。このため、本発明のみりんの製造方法は、例えば、前記みりん製造工程において、Dfcyを添加しないことが好ましい。これにより、本発明のみりんの製造方法により得られたみりんは、例えば、酒税法におけるみりんとできる。
<不快臭抑制組成物>
本発明の不快臭抑制組成物は、前述のように、デフェリフェリクリシンを含むことを特徴とする。本発明の不快臭抑制組成物は、デフェリフェリクリシンを含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の不快臭抑制組成物は、前記Dfcyを含むため、例えば、飲食品の不快臭を抑制できる。本発明の不快臭抑制組成物は、例えば、前記本発明の酒類、米麹の製造方法、米麹、酒類の製造方法の説明を援用できる。
本発明において、「不快臭」とは、例えば、飲食品の不快臭であり、飲食品自体の不快臭でもよいし、加熱処理等の処理時に飲食品から生じる不快臭でもよい。前記不快臭は、例えば、ヘキサナール、オクタナール、および2,3-オクタンジオンのいずれか1つ以上の成分による不快臭である。本発明の不快臭抑制組成物によれば、例えば、ヘキサナールに起因する不快臭を効果的に防止できる。このため、本発明の不快臭抑制組成物は、例えば、ヘキサナールによる不快臭抑制組成物またはヘキサナール発生抑制組成物ということもできる。前記飲食品については、後述する。
ヘキサナール、オクタナール、および2,3-オクタンジオンの測定方法は、特に制限されず、例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)、等があげられる。前記測定方法は、例えば、後述の実施例1を参照して、GC-MSにより実施できる。
本発明の不快臭抑制組成物において、有効成分は、Dfcyである。
本発明の不快臭抑制組成物において、Dfcyは、例えば、天然物でもよいし、合成物でもよい。Dfcyの安全性は、前述のように、これまでの食の歴史によって証明されていることから、例えば、前記合成物であっても、同様である。Dfcyは、例えば、精製品、他の成分を含む部分精製品、非精製品等でもよい。
Dfcyは、天然物でもよいし、合成品でもよいが、前者が好ましい。Dfcyが天然物の場合、例えば、由来は制限されず、微生物等の生物があげられる。中でも、以下の理由から、微生物由来またはその培養物由来であることが好ましい。Dfcyは、一般的に、自然界において、微生物が生産していることが知られている。例えば、外界の鉄濃度が低い場合、多くの微生物は、必須成分の鉄を効率的に体内取り込むために、Dfcyを生産する。微生物は、培養によって、容易に増殖させることが可能であるため、微生物培養により、大量生産が可能である。前記微生物は、例えば、本来、Dfcyを生産可能な微生物、または、遺伝子工学的手法により、後発的に、Dfcyを生産可能となった微生物もしくはシデロフォアを大量生産可能となった微生物でもよい。前者の微生物は、例えば、アスペルギルス オリゼ(Aspergillus
oryzae)等のアスペルギルス属(Aspergillus)属、ニューロスポラ(Neurospora)属、ウスティラゴ(Ustilago)属等があげられる。後者の微生物は、例えば、変異株、シデロフォア合成酵素群をコードする遺伝子の組換えにより得られた形質転換体等があげられる。前記変異株は、例えば、アスペルギルス属、ニューロスポラ属、ウスティラゴ属等の変異株があげられる。また、前記形質転換体となる宿主は、特に制限されず、例えば、アスペルギルス オリゼ等のアスペルギルス属、ニューロスポラ属、ウスティラゴ属等があげられる。
Dfcyを生産する微生物は、特に制限されず、例えば、糸状菌であるアスペルギルス属、ニューロスポラ属、ウスティラゴ属等の真菌等があげられる。前記アスペルギルス属は、例えば、アスペルギルス オリゼ等があげられる。前記アスペルギルス オリゼは、麹菌として、清酒、味噌、醤油等の米醸造物の生産に使用されており、ヒトは、古くから前記米醸造物を通じて、Dfcyを摂取してきた。したがって、Dfcyは、その安全性が歴史的に確認されているため、この点で好ましい。また、前記Dfcyは、例えば、前述のような米醸造物の醸造工程を経た後においても、清酒等に含まれていることから、安定性が高い。アスペルギルス オリゼが生産するフェリクローム類の中でも、前記Dfcyは、比較的多量に生産されるため、生産性が高い点で好ましい。前記Dfcyを高産生するアスペルギルス オリゼは、例えば、RIB40またはRIB69株(独立行政法人酒類総合研究所から入手可能<http://www.nrib.go.jp/data/asp/detail/rib40.html>、<http://www.nrib.go.jp/data/asp/detail/rib69.html>、特開2008-054580号公報に記載されたFERM P-20961で特定されるアスペルギルス オリゼ3129-7株等があげられる。
生物によってDfcyを生産する場合、例えば、生物の育種方法は、特に制限されない。生物に効率よくDfcyを生産させるには、例えば、鉄の量を制限した条件下で、生物を生育することが好ましい。具体例として、微生物を培養する場合、例えば、鉄の含有量を制限した培地を使用し、前記微生物にDfcyを生産させることが好ましい。前記培地は、例えば、鉄の含有量が低濃度の培地が好ましく、より好ましくは鉄未添加の培地が好ましい。このような培地を使用することによって、3価鉄がキレートしていないDfcyを効率良く得られる。前記培地は、例えば、液体培地でもよいし、固体培地でもよく、微生物の種類によって、適宜設定できる。
微生物の培養により生産されたDfcyは、例えば、微生物、微生物の抽出物(無細胞抽出物)、培養液、培養上清等から回収できる。Dfcyは、前述のように精製品でも、非精製品でもよいが、前者が好ましい。Dfcyの精製は、例えば、公知の方法によって行うことができる。例えば、まず、培養液を、微生物画分および液体画分(上清画分)に分離する。前記微生物画分は、例えば、超音波破砕等によって、微生物を破砕し、内容物を溶媒に抽出する。そして、抽出画分について、例えば、塩析法、透析法、限外ろ過法、等電点沈澱法、ゲルろ過法、電気泳動法、クロマトグラフィー等の精製処理を施す。前記クロマトグラフィーは、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー等のアフィニティークロマトグラフィー、分子ふるいクロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等があげられる。これらの精製処理は、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を組合せて行ってもよい。他方、前記液体画分は、例えば、これらの精製処理を施す。このようにして、Dfcyを精製できる。また、Dfcyは、例えば、市販品を使用することもできる。
Dfcyの製造方法を一例にあげて、以下に説明する。なお、本発明は、以下の例示によって、何ら制限されない。
Dfcyは、例えば、前述のように、アスペルギルス オリゼの培養によって生産できる。使用する培地は、特に制限されず、例えば、ポテトデキストロース培地(ニッスイ社製)、Czapek-Dox最少培地、米麹等が使用できる。前記Czapek-Dox最少培地(pH6.0)の組成は、例えば、2% グルコースまたはスターチ、0.3% NaNO3、0.2% KCl、0.1% K2HPO4、0.05% MgSO4である。前記培地は、例えば、固体培地でも液体培地でもよく、前記Dfcyの回収が容易な点で、前記液体培地が好ましい。培養条件は、特に制限されず、アスペルギルス オリゼの生育可能な範囲であればよい。具体例として、温度は、例えば、25~42℃の範囲であり、培養時間は、例えば、その他の条件によって異なるが、例えば、通常、2~7日間である。
培養終了後、例えば、ろ過によって、菌体と培養上清とを分離し、前記培養上清から、Dfcyを回収する。前記Dfcyは、例えば、前述のように、前記培養上清に前記精製処理を施すことによって、精製品を回収することもできる。
Dfcyは、例えば、特開2008-054580号公報に記載の方法によって製造することもできる。
本発明の不快臭抑制組成物の形態は、特に制限されず、例えば、固体、液体、粉末、顆粒、乳液、ペースト、ゲル等があげられる。前記液体状の場合、Dfcyは、例えば、溶媒に溶解されてもよいし、分散されてもよい。前記溶媒は、例えば、水、生理食塩水、緩衝液、有機溶媒、これらの混合溶媒等があげられる。前記エマルジョンは、例えば、W/O型、O/W型、O/W/O型、W/O/W型等の複合体があげられる。前記粉末または固体は、例えば、使用時において、溶媒に、溶解または分散させて、使用することもできる。
本発明の不快臭抑制組成物は、例えば、食品への添加物として使用できる。このため、本発明の不快臭抑制組成物は、例えば、食品用組成物、不快臭抑制食品用組成物ということもできる。
本発明の不快臭抑制組成物は、例えば、前記飲食品と接触させることにより使用できる。前記飲食品との接触させる前記Dfcyの量は、特に制限されない。前記飲食品と本発明の不快臭抑制組成物との混合物におけるDfcyの濃度は、例えば、10~1000mg/L、50~750mg/L、100~500mg/Lである。前記不快臭抑制組成物として、前述の米麹そのものを利用する場合、Dfcyの濃度は、例えば、10mg/kg~10g/kgの範囲である。本発明の不快臭抑制組成物は、例えば、前記混合物におけるDfcyの濃度を高くすることにより、より効果的に不快臭を抑制できる。
本発明の不快臭抑制組成物は、例えば、他の成分を含んでもよい。前記他の成分は、例えば、クエン酸、アルコール等があげられる。前記他の成分がアルコールの場合、前記アルコールは、例えば、デキストリン等の水溶性物質中に内包されている。
<飲食品の加工方法>
本発明の飲食品の加工方法(以下、「加工方法」ともいう)は、前記本発明の清酒、前記本発明のみりん、前記本発明の米麹、または前記本発明の不快臭抑制組成物と、飲食品とを接触させる接触工程を含むことを特徴とする。本発明の飲食品の加工方法は、前記接触工程において、前記本発明の清酒、前記本発明のみりん、または前記本発明の不快臭抑制組成物と、前記飲食品とを接触させることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の飲食品の加工方法によれば、例えば、不快臭が抑制された加工食品を製造できる。このため、本発明の飲食品の加工方法は、例えば、加工食品の製造方法ということもできる。また、本発明の飲食品の加工方法によれば、例えば、飲食品の不快臭を抑制できる。このため、本発明の飲食品の加工方法は、例えば、飲食品の不快臭抑制方法ということもできる。本発明の飲食品の加工方法は、例えば、例えば、前記本発明の清酒、みりん、米麹の製造方法、米麹、清酒の製造方法、みりんの製造方法、不快臭抑制組成物の説明を援用できる。
前記飲食品は、特に制限されず、例えば、未加工の飲料もしくは食品、または加工済の飲料もしくは食品があげられる。具体例として、前記飲食品は、例えば、哺乳動物の肉、魚介類等があげられる。前記哺乳動物の肉は、例えば、牛、豚、馬、羊、山羊、鹿、猪、熊、鶏、アヒル、キジ、カモ、七面鳥等の肉あげられるが、家畜肉である牛、豚、鶏の肉が好ましい。前記魚介類は、例えば、魚類、貝類、エビ、カニ等の甲殻類、イカ、タコ等の軟体動物、クラゲ等の腔腸動物、ウニ、ナマコ等の棘皮動物、ホヤ等の原索動物等があげられる。
前記接触工程では、前記本発明の清酒、前記本発明のみりん、前記本発明の米麹、および前記本発明の不快臭抑制組成物のうち、いずれか一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記接触工程において、前記飲食品との接触させる前記Dfcyの量は、特に制限されない。前記飲食品と本発明の不快臭抑制組成物との混合物におけるDfcyの濃度は、例えば、10~1000mg/L、50~750mg/L、100~500mg/Lである。前記米麹そのものを利用する場合、Dfcyの濃度は、例えば、10mg/kg~10g/kgの範囲である。本発明の加工方法は、例えば、前記混合物におけるDfcyの濃度を高くすることにより、より効果的に不快臭を抑制できる。
本発明の加工方法は、例えば、前記接触工程後の飲食品について、加熱処理等の処理を行なってもよい。
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコルに基づいて使用した。
[実施例1]
清酒モデルを用いて、Dfcyによる不快臭抑制効果を確認した。
(1)清酒モデルの調製
まず、下記表1に示す清酒モデルを調製した。各清酒モデルは、イオン交換水(Ion Exchanged Water:IEW)に、100%エタノール(EtOH)、および2000mg/LのDfcyを添加し、総量が3mLとなるようにした。また、比較例1-1は、イオン交換水(IEW)のみとし、比較例1-2は、エタノールの終濃度が13.5%となるように、エタノールのみを添加した。
(2)官能評価試験
各清酒モデル3mLと、豚ミンチ20gとを、それぞれ混合後、得られた各混合物を平たく成形した。前記混合物をアルミホイルに包み、オートクレーブにて105℃、15分間、加熱処理した。得られたサンプルを十分に冷ました後、1~2cm片に分け、熟練した7名のパネルにより、生臭さ(n=7)、味(n=7)、および総合評価(n=6)の官能評価を行った。各評価の評価点は、下記評価基準に基づき、最高評価点を1、最低評価点を5とし、平均値を求めた。これの結果を図1(A)~(C)、および下記表2に示す。
(生臭さの評価基準)
1 全く気にならない
2 ほとんど気にならない
3 やや生臭い
4 生臭い
5 非常に生臭い
(味の評価基準)
1 非常においしい
2 おいしい
3 まあおいしい
4 あまりおいしくない
5 不味い
(総合評価の評価基準)
1 食品として非常に優れた香味を有する
2 食品として優れた香味を有する
3 食品に適した香味を有する
4 食品にあまり適さない香味を有する
5 食品として適さない香味を有する
図1は、官能試験の評価結果を示すグラフであり、(A)は、各サンプルの生臭さの評価点を示したグラフであり、(B)は、各サンプルの味の評価点を示したグラフであり、(C)は、各サンプルの総合評価点を示したグラフである。図1(A)~(C)において、縦軸は、各官能評価の評価点の平均値を示し、横軸は、エタノールおよびDfcyの濃度を示す。図1および前記表2に示すように、Dfcyを含む実施例1-1から1-5の各清酒モデルは、比較例1-2の清酒モデル、および比較例1-1のIEWと比較して、生臭さ、味、および総合評価のすべての評価において、優れた結果を示した。この結果から、本発明の清酒等は、味を損なうことなく不快臭を抑制できることがわかった。
(3)におい成分の発生抑制率の確認試験
前記各清酒モデルについて、豚肉に対するにおい成分の発生抑制率を確認した。
前記各混合物2gを容量22mLのガラスバイアルに入れ、オートクレーブを用い、105℃、15分の条件で加熱処理した。つぎに、ツイスター(GERSTEL社製)を、前記ガラスバイアルの蓋内部に固定後、3時間室温(約25℃)で静置し、前記混合物から発生するにおい成分を吸着させた。前記吸着後、前記ツイスターを、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(Gas Chromatography-Mass spectrometry:GC-MS)に供して、におい成分(ヘキサナール、オクタナール、2,3-オクタンジオン)のピーク面積から発生量を測定した。そして、比較例1-1(ブランク:IEW)における発生量を基準として、前記各清酒モデルを用いたサンプルにおけるにおい成分の発生量の抑制率を算出した。この結果を図2(A)~(C)、および下記表3に示す。
なお、ガスクロマトグラフィー-質量分析法の条件は、下記の通りとした。
使用機器:
ガスクロトマトグラフ:7980B(Agilent Technologies社製)
質量分析計:5977A MSD(Agilent Technologies社製)
カラム:InertCap FFAP(GL Sciences社製)
初期温度:35℃
昇温速度:15℃/分
昇温時間:13分
最終温度:230℃(到達後15分保持)
合計ランタイム:28.5分
図2は、におい成分の発生抑制率を示すグラフであり、(A)は、各サンプルにおけるヘキサナールの発生抑制率を示すグラフであり、(B)は、各サンプルにおけるオクタナールの発生抑制率を示すグラフであり、(C)は、各サンプルにおける2,3-オクタンジオンの発生抑制率を示すグラフである。図2の各図において、縦軸は、各におい成分の発生抑制率を示し、横軸は、エタノールおよびDfcyの濃度を示す。図2および前記表3に示すように、Dfcyを含む実施例1-1から1-5の各清酒モデルは、比較例1-2の清酒モデルと比較して、豚肉の調理に使用した際に、各におい成分(ヘキサナール、オクタナール、2,3-オクタンジオン)の発生を抑制した。この結果から、本発明の清酒等は、ヘキサナール、オクタナール、2,3-オクタンジオン等の発生により生じる不快臭を抑制できることがわかった。
[実施例2]
清酒モデルを用いて、Dfcyによる不快臭抑制効果を確認した。
下記表4に示す清酒モデルを調製した。前記表1の清酒モデルに代えて、下記表4に示す清酒モデルを用いた以外は、前記実施例1と同様にして、官能評価試験およびにおい成分の発生抑制率の確認試験を行った。また、比較例2-1は、IEW(ブランク)のみとした。下記表4に、各清酒モデルの成分および各試験の結果を示す。また、官能評価試験の結果を図3に、におい成分の発生抑制率の確認試験の結果を図4に示す。
図3は、官能試験の評価結果を示すグラフであり、(A)は、各サンプルの生臭さの評価点を示したグラフであり、(B)は、各サンプルの味の評価点を示したグラフであり、(C)は、各サンプルの総合評価点を示したグラフである。図3(A)~(C)において、縦軸は、官能評価の評価点の平均値を示し、横軸は、エタノールおよびDfcyの濃度を示す。前記表4および図3に示すように、Dfcyを含む実施例2の清酒モデルは、比較例2-1および比較例2-2の清酒モデルと比較して、生臭さ、味、および総合評価のすべての評価において、優れた結果を示した。
つぎに、図4は、におい成分の発生抑制率を示すグラフであり、(A)は、各サンプルにおけるヘキサナールの発生抑制率を示すグラフであり、(B)は、各サンプルにおけるオクタナールの発生抑制率を示すグラフであり、(C)は、各サンプルにおける2,3-オクタンジオンの発生抑制率を示すグラフである。図4(A)~(C)において、縦軸は、各におい成分の発生抑制率を示し、横軸は、エタノールおよびDfcyの濃度を示す。
前記表4および図4に示すように、Dfcyを含む実施例2の清酒モデルは、比較例2-1および比較例2-2の清酒モデルと比較して、各におい成分(ヘキサナール、オクタナール、2,3-オクタンジオン)の発生を抑制した。これらの結果から、アルコール濃度が22%と高くても、本発明の清酒等は、不快臭を抑制できることがわかった。
[実施例3]
アルコール濃度によらず、Dfcyが不快臭抑制効果を示すことを確認した。
まず、下記表5に示す、Dfcy濃度が200mg/Lであり、アルコール濃度を0%から20%まで変動させた実施例3-1~3-6の清酒モデルを調製した。前記表1の清酒モデルに代えて、下記表5に示す清酒モデルを用いた以外は、前記実施例1と同様にして、官能評価試験、およびにおい成分の発生抑制率確認試験を行った。また、比較例3は、IEW(ブランク)のみとした。下記表5に、各試験の結果を示す。また、官能評価試験の結果を図5に、におい成分の発生抑制率の確認試験の結果を図6に示す。
図5は、官能試験の評価結果を示すグラフであり、(A)は、各サンプルの生臭さの評価点を示したグラフであり、(B)は、各サンプルの味の評価点を示したグラフであり、(C)は、各サンプルの総合評価点を示したグラフである。図5(A)~(C)において、縦軸は、官能評価の評価点の平均値を示し、横軸は、エタノールおよびDfcyの濃度を示す。前記表5および図5に示すように、Dfcyを含む実施例3-1から3-6の清酒モデルは、アルコール濃度に関わらず、比較例3の清酒モデルと比較して、生臭さ、味、および総合評価のすべての評価において、優れた結果を示した。
つぎに、図6は、におい成分の発生抑制率を示すグラフであり、(A)は、各サンプルにおけるヘキサナールの発生抑制率を示すグラフであり、(B)は、各サンプルにおけるオクタナールの発生抑制率を示すグラフであり、(C)は、各サンプルにおける2,3-オクタンジオンの発生抑制率を示すグラフである。図6(A)~(C)において、縦軸は、各におい成分の発生抑制率を示し、横軸は、エタノールおよびDfcyの濃度を示す。前記表5および図6に示すように、Dfcyを含む実施例3-1から3-6の清酒モデルは、アルコール濃度に関わらず、比較例3と比較して、各におい成分(ヘキサナール、オクタナール、2,3-オクタンジオン)の発生を抑制した。これらの結果から、本発明の清酒等は、アルコール濃度に関わらず、不快臭を抑制できることがわかった。
[実施例4]
クエン酸濃度と、Dfcyの不快臭抑制効果との関係性を確認した。
下記表6に示す、Dfcy濃度が200mg/Lであり、アルコール濃度が13.5%であり、クエン酸濃度を、50から1000mg/Lまで変動させた実施例4-1~4-7の清酒モデルを調製した。前記表1の清酒モデルに代えて、下記表6の清酒モデルを用いた以外は、前記実施例1と同様にして、官能評価試験を行った。また、比較例4は、IEW(ブランク)のみとした。下記表6に官能評価試験の結果を、図7に、生臭さの官能評価試験の結果を示す。
図7は、生臭さに関する官能試験の評価結果を示すグラフである。図7において、縦軸は、官能評価の評価点の平均値を示し、横軸は、クエン酸の濃度を示す。図7に示すように、クエン酸の濃度依存的に、生臭さが減少した。他方、前記表6に示すように、クエン酸濃度を1000mg/Lとすると、800mg/Lよりも酸味が強くなった。これらの結果から、Dfcyと組合せることで、クエン酸の濃度依存的に、生臭さを抑制できることがわかった。また、クエン酸濃度を50~800mg/Lとすることにより、調理に供した際に飲食品の呈味(酸味または総合的な味の評価)の変化を抑制しつつ、生臭さをより抑制しできることがわかった。
[実施例5]
Dfcyが、豚肉以外の牛肉および鶏肉に対しても、不快臭を抑制できることを確認した。
下記表7に示す、Dfcy濃度が200mg/Lであり、アルコール濃度が13.5%であり、クエン酸濃度を100mg/Lとした実施例5の清酒モデル、またはDfcy濃度0mg/L、アルコール濃度13.5%、クエン酸濃度100mg/Lとした比較例5の清酒モデルを調製した。そして、前記表1の清酒モデルに代えて、下記表7の清酒モデルを用い、豚ミンチに加え、牛ミンチ、鶏ミンチ(モモ)、および鶏ミンチ(ムネ)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、におい成分の発生抑制率の確認試験をした。また、本実施例において、におい成分の発生抑制率は、各肉類において、比較例5の清酒モデルでの発生量を基準として、実施例5の清酒モデルにおける発生量の抑制率を算出した。下記表7および図8に結果を示す。
図8は、におい成分の発生抑制率を示すグラフであり、(A)は、各肉類におけるヘキサナールの発生抑制率を示すグラフであり、(B)は、各肉類におけるオクタナールの発生抑制率を示すグラフであり、(C)は、各肉類における2,3-オクタンジオンの発生抑制率を示すグラフである。図8(A)~(C)において、縦軸は、各におい成分の発生抑制率を示し、横軸は、肉類の種類を示す。前記表7および図8に示すように、比較例5の清酒モデルと比較して、Dfcyを含む実施例5の清酒モデルは、肉の種類に関わらず、各におい成分(ヘキサナール、オクタナール、2,3-オクタンジオン)の発生を抑制した。この結果から、Dfcyは、肉の種類に関わらず、ヘキサナール、オクタナール、2,3-オクタンジオン等の発生により生じる不快臭を抑制できることがわかった。
[実施例6]
市販の料理酒およびみりんについて、Dfcyの濃度を確認した。
各サンプル500μLとメタノール500μLとを混合し、15,000rpm、5分間遠心した。前記遠心後、上清100μLと、3000mg/L FeCl3/0.1mol/Lクエン酸バッファー(pH4.0)20μLとを混合し、80℃、5分間の加熱処理によりDfcyをFcy化した。さらに、15,000rpm、5分間の遠心後、上清20μLを逆相HPLC(high performance liquid chromatography)に供し、逆相HPLCにより得られたFcyのピーク面積に基づきFcyの量を定量した。前記逆相HPLCは、下記HPLC条件により実施した。そして、得られたFcyの量をDfcyの量に分子量(747.8/800.6倍)に基づき換算し、各サンプルのDfcy濃度を求めた。この結果を下記表8に示す。
(HPLC条件)
使用機器:LC20シリーズ(株式会社島津製作所社製)
カラム温度:40℃
標準物質:フェリクリシン
試料濃度:100mg/L
カラム :Imtakt社製、Unison UK-C18
移動相 :A:0.05%ギ酸、B:メタノール
溶離条件: 時間(溶媒比(A:B))
0分:(A:B=100:0)
5分:(A:B=50:50)
となるよう、0分から5分にかけて直線的に溶媒Bの割合を増加させ、
5~6分:(A:B=0:100)
とし、溶離した。
検出器 :SPD-M20A
検出波長:430nm
流速 :1.0mL/min
前記表8に示すように、市販の加塩料理酒3種、みりん3種、および料理用清酒3種において、Dfcyの含有濃度は、検出できた範囲で、0.4~3.2mg/Lであった。また、それ以外の加塩料理酒および料理用清酒においても、Dfcyの濃度は、検出限界未満であった。これらの結果から、本発明の清酒等は、Dfcyを50から1000mg/L含有するため、市販の清酒等と比較し、十分に高濃度のDfcyを含有しているといえる。
[実施例7]
みりんを用いて、Dfcyによる不快臭抑制効果を確認した。
まず、前記表8のみりんFに、Dfcyを添加し、下記表9に示す、Dfcyの濃度を200から1000mg/Lまで変動させた実施例7-1~7-3のみりん試験液を調製した。また、比較例7-1は、IEW(ブランク)のみとし、比較例7-2は、Dfcyを未添加のもの(みりんF)とした。各みりん試験液について、前記表1の清酒モデルに代えて、下記表9のみりん試験液を使用した以外は、前記実施例1と同様にして、ヘキサナールの発生抑制率の確認試験を行った。下記表9および図9に、各試験の結果を示す。
図9は、ヘキサナールの発生抑制率を示すグラフである。図9において、縦軸は、ヘキサナールの発生抑制率を示し、横軸は、Dfcyの濃度を示す。前記表9および図9に示すように、比較例7-2のみりんと比較して、Dfcyを添加した実施例7-1~7-3のみりん試験液は、におい成分であるヘキサナールの発生抑制について、優れた結果を示した。この結果から、本発明のみりん等は、ヘキサナールの発生により生じる不快臭を抑制できることがわかった。
[実施例8]
本発明の米麹の製造方法により、本発明の米麹を製麹できることを確認した。
月桂冠株式会社が保有する麹菌ライブラリより、液体培養時のDfcy生産性を指標に麹菌(Aspergillus oryzae)の選抜を行い、Dfcyを高産生するDfcy高生産麹菌F-16株を取得した。
(1)培養温度による差異の確認
まず、F-16株を用いて米麹の培養温度について試験を行った。まず、白米600gを蒸し、得られた蒸米に、F-16株350gを種付けした。前記種付け後、室温30℃、湿度95%に設定した恒温恒湿機内で22.5時間培養し、切り返しおよび盛りを行った。前記切り返しおよび盛り後、室温を30℃、33℃、35℃、37℃、または40℃の条件に分け、種付けからの合計培養時間が98時間となるように培養した。前記培養時の湿度は、種付け~50時間までは95%、51時間~74時間までは90%、75時間~98時間(出麹)までを85%とした。前記培養後、出麹した。得られた米麹について、抽出液により、Dfcyを抽出した。前記抽出液の組成は、0.5%(w/v)塩化ナトリウムを含む10mmol/Lリン酸バッファー(pH6.0)とした。前記抽出後、フィルター(ミリポア社製、Millex-HP SLHPX13NK)により、固液分離し、液体画分を回収した。そして、前記各サンプルに代えて、前記液体画分を用いた以外は、前記実施例6と同様にして測定することによりDfcyの量を測定した。そして、得られたDfcyの重量に基づき、米麹のDfcyの生産量を算出した。この結果を図10に示す。
図10は、各温度における米麹のDfcyの生産量を示すグラフである。図10において、縦軸は、Dfcyの生産量を示し、横軸は、培養温度を示す。図10に示すように、F-16株を用いた米麹は、Dfcyをおよそ3.0~4.24g/kg(生麹)生産した。F-16は、特に、室温(品温)が35℃の際に、Dfcyの生産量が多くなることがわかった。
(2)品温制御法によるDfcyの生産量の差異の確認
つぎに、培養時の品温の制御方法によるDfcyの生産量の差異を確認した。製麹工程では、発酵熱により、品温が上昇する。このため、適切な品温を維持できるように、品温を制御する必要がある。切返しおよび盛工程後、出麹工程までの間、発酵熱により製麹中の品温が、33℃から37℃の範囲から外れそうになった場合の制御方法を下記制御方法AまたはBの二通りとし、米麹中のDfcyの生産量の差を確認した。品温の管理方法を変更し、温度を前述の範囲とした以外は、前記実施例8(1)と同様にして、製麹を行った。下記制御方法AおよびBにて、品温を前記範囲内に維持できない場合は、適宜手入れを行い、品温を前記範囲に維持した。具体的には、洗浄およびアルコール殺菌したゴム手袋をして手入れを行い、なるべく外気に触れる時間を少なくして、品温を維持した。また、製麹工程中は、経時的に、麹室の室温および湿度、品温、ならびに米麹の水分含有量を測定した。温度および湿度の測定は、アズワン社製測定装置(データロガーDL171)により実施した。前記水分含有量は、55℃に設定した通風乾燥機(ヤマト科学株式会社社製、DKN812)で米麹を重量変化がなくなるまで乾燥させ、乾燥前後の重量差に基づき算出した。これらの結果を図11~13に示す。
制御方法A:湿度制御(室温は35℃に維持し、湿度を70%まで落とし、麹菌の生育を抑える)
制御方法B:室温制御(湿度は95%に維持し、室温を最低25℃まで下げて品温を直接下げる)
図11は、各制御方法における製麹時の品温、室温、および相対湿度を示すグラフであり、(A)が、制御方法Aの結果を示すグラフであり、(B)が、制御方法Bの結果を示すグラフである。図11において、縦軸は、温度または相対湿度を示し、横軸は、培養時間を示す。図11に示すように、制御方法Bの室温制御は、制御方法Aの湿度制御と比べて、品温の変動が少なかった。
つぎに、図12は、各制御方法における製麹時の米麹の総重量に対する水分含有量を示すグラフである。図12において、縦軸は、水分含有量を示し、横軸は、培養時間を示す。図12に示すように、室温制御は、湿度制御と比べて、米麹の水分含有量が高かった。
図13は、各制御方法におけるDfcyの生産量の推移を示すグラフである。図13において、縦軸は、Dfcyの生産量を示し、横軸は、培養時間を示す。図13に示すように、制御方法Bの室温制御により品温を制御した場合、制御方法Aの湿度制御により品温を制御した場合と比較して、Dfcyの生産量が高くなり、培養開始後96時間において、約1.6倍となった。これは、図12に示すように、制御方法Bの室温制御では、制御方法Bの湿度制御と比較して、米麹の乾燥の進行が緩やかであり、米麹の水分含有量が多いためと推定される。ただし、この推定は、本発明を何ら制限しない。
これらの結果から、製麹工程において、麹室の室温を制御し、品温を制御することにより、麹菌のDfcy生産量を向上することができ、Dfcyを高含有する米麹を製造できることがわかった。
(3)大スケールでの製麹確認
スケールを白米100kgとした以外は、前記実施例8(2)における制御方法Bと同様にして、製麹を行った。その結果、米麹1kgあたりDfcyを4.3g含有する米麹を得られた。
この結果から、本発明の米麹の製造方法によると、大スケールの条件でもDfcyを高含有する米麹を製造できることがわかった。
[実施例9]
本発明の米麹を用いて清酒の製造を行った。
本発明の米麹の製造方法により得られた実施例の米麹を用いて清酒を製造した。実施例9の清酒の製造には、前記実施例8の方法により製麹したDfcy高含有米麹を用いた。仕込みの条件は、下記表10のとおりとし、各原料を混合後、酵母を添加し、14日間醸造した。得られた醪を上槽後、実施例9の清酒の成分について、所定分析法を用いて、日本酒度、アルコール度数、酸度、アミノ酸度、および着色を分析した。また、各米麹のDfcy含有量および清酒におけるDfcy濃度は、前記実施例6と同様にして測定した。下記表10に、米麹のDfcy濃度および上槽後の清酒の成分の分析値を併せて示す。また、図14に、醸造開始後、1日目、7日目、または14日目における清酒のDfcy濃度を示す。
図14は、清酒におけるDfcyの濃度を示すグラフである。図14において、縦軸は、Dfcyの濃度を示し、横軸は、醸造(醪)日数を示す。前記表10および図14に示すように、実施例9の清酒は、いずれの醸造日数においてもDfcyの含有量が高かった。また、実施例9の清酒では、Dfcyの含有量が高いことによる着色も見られず、官能評価においても、良好な結果が得られた。これらの結果から、本発明のDfcy高含有米麹を用いることによって、Dfcyを添加することなく、Dfcyを高含有する本発明の清酒を製造できることがわかった。
[実施例10]
他の麹菌により、本発明の米麹の製造方法により、本発明の米麹を製麹できることを確認した。
麹菌として、F-16株に代えて、前記RIB69株を用いた。米(日本晴、精米歩合72%)を蒸し、蒸米を取得した。そして、前記蒸米に前記RIB69株を種付け後、78時間培養した。前記培養において、品温は、35~40℃、湿度は、85~95%となるように、麹室の室温を調整した。前記培養中、切り返しおよび手入れは、1日あたり2~3回実施した。得られた生麹について、前記実施例6と同様にして測定することによりDfcyの量を測定した。この結果、生麹1kgあたり、Dfcyの含有量が、1.8gであった。この結果から、本発明の米麹の製造方法により、本発明の米麹を製麹できることがわかった。
[実施例11]
他の麹菌により、本発明の米麹の製造方法により、本発明の米麹を製麹できることを確認した。
麹菌として、F-16株に代えて、前記RIB40株を用いた。米(日本晴、精米歩合72%)を蒸し、蒸米を取得した。そして、前記蒸米に前記RIB40株を種付け後、98時間培養した。前記培養において、品温は、35~40℃、湿度は、約95%となるように、麹室の室温を調整した。前記培養中、切り返しおよび手入れは、1日あたり2~3回実施した。得られた生麹について、前記実施例6と同様にして測定することによりDfcyの量を測定した。この結果、生麹1kgあたり、Dfcyの含有量が、1.0gであった。この結果から、本発明の米麹の製造方法により、本発明の米麹を製麹できることがわかった。
[実施例12]
本発明の米麹の製造方法により、本発明の米麹を製麹できることを確認した。
麹菌として、F-16株を用いた。米(日本晴、精米歩合72%)を蒸し、蒸米を取得した。そして、前記蒸米に前記F-16株を種付け後、種付け後の蒸米150gを容量2Lの広口瓶に入れた。前記種付け後の蒸米を、673時間(約1ヶ月)培養した。前記培養において、品温は、30℃、湿度は、約88%となるように、麹室に対応する保温器の温度を調整した。前記培養中、切り返しおよび手入れは数回実施した。得られた生麹について、前記実施例6と同様にして測定することによりDfcyの量を測定した。この結果、生麹1kgあたり、Dfcyの含有量が、21.9gであった。なお、生麹における水分含有量は、30%であった。この結果から、本発明の米麹の製造方法により、本発明の米麹を製麹できることがわかった。
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
デフェリフェリクリシンを含み、
デフェリフェリクリシンの濃度が、50~1000mg/Lであることを特徴とする、酒類。
(付記2)
デフェリフェリクリシンの濃度が、200~1000mg/Lである、付記1記載の酒類。
(付記3)
前記酒類は、酒税法における清酒であり、
前記清酒のアルコール度数は、5度以上、22度未満である、付記1または2記載の酒類。
(付記4)
前記酒類は、酒税法におけるみりんであり、
前記みりんのアルコール度数は、5度以上、15度未満である、付記1または2記載の酒類。
(付記5)
米に麹菌を繁殖させることにより、米麹を製造する製麹工程を含み、
得られた米麹1kgあたりのデフェリフェリクリシンの含有量が、0.1~30gであることを特徴とする、米麹の製造方法。
(付記6)
前記製麹工程は、
前記米に麹菌を付着させる種付け工程と、
前記種付け工程後の米麹をほぐす切返し工程とを含み、
前記切返し工程後における品温は、25~40℃である、付記5記載の米麹の製造方法。
(付記7)
前記切返し工程後において、前記米麹における水分含有量が、25~35%となるように調整される、付記6記載の米麹の製造方法。
(付記8)
前記製麹工程において、麹室の室温を調整することにより、前記切返し工程後における品温を25~40℃に調整する、付記6または7記載の米麹の製造方法。
(付記9)
前記麹室の湿度は、75~100%に調整される、付記8記載の米麹の製造方法。
(付記10)
前記製麹工程における繁殖時間は、60時間以上である、付記5から9のいずれかに記載の米麹の製造方法。
(付記11)
米および米麹を用いて酒類を製造する製造工程を含み、
前記酒類におけるデフェリフェリクリシンの濃度が、50~1000mg/Lであり、
前記米麹が、付記5から10のいずれかに記載の米麹の製造方法により得られたことを特徴とする、酒類の製造方法。
(付記12)
前記酒類は、酒税法における清酒であり、
前記清酒のアルコール度数は、5度以上、22度未満である、付記11記載の酒類の製造方法。
(付記13)
前記酒類は、酒税法におけるみりんであり、
前記みりんのアルコール度数は、5度以上、15度未満である、付記11記載の酒類の製造方法。
(付記14)
前記製造工程において、デフェリフェリクリシンを添加しない、付記11から13記載の酒類の製造方法。
(付記15)
デフェリフェリクリシンを含むことを特徴とする、不快臭抑制組成物。
(付記16)
前記不快臭抑制組成物は、ヘキサナール発生抑制組成物である、付記15記載の不快臭抑制組成物。
(付記17)
前記不快臭抑制組成物は、不快臭抑制食品組成物である、付記15または16記載の不快臭抑制組成物。
(付記18)
付記1から4のいずれかに記載の酒類または付記15から17のいずれかに記載の不快臭抑制組成物と、飲食品とを接触させる接触工程を含むことを特徴とする、飲食品の加工方法。