本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る重合反応生成物(A)を含有する被覆用組成物は、例えば積層部材を得るために用いられる。積層部材は、基材と、被覆用組成物から作製され、基材を覆う被覆層とを備える。積層部材は、更に被覆層を覆う外層を備えてもよい。
重合反応生成物(A)は、飽和ポリエステル樹脂(a)とエチレン性不飽和単量体(b)とに由来する。重合反応生成物(A)は、飽和ポリエステル樹脂(a)の存在下でエチレン性不飽和単量体(b)を乳化重合させることで生成する生成物である。飽和ポリエステル樹脂(a)は、50mgKOH/g以上280mgKOH/g以下の水酸基価を有する。
重合反応生成物(A)は、飽和ポリエステル樹脂(a)と、エチレン性不飽和単量体(b)の乳化重合体との混合物であると推察される。しかし、重合反応生成物(A)を含有する被覆用組成物から作製された被覆層は、飽和ポリエステル樹脂(a)の不存在下で合成されたエチレン性不飽和単量体(b)の乳化重合体と飽和ポリエステル樹脂(a)とを含有する組成物から作製された被覆層と比べて、優れた接着性を有することができる。すなわち、重合反応生成物(A)は、エチレン性不飽和単量体(b)の乳化重合体と飽和ポリエステル樹脂(a)との単なる混合物とは異なる構造及び特性を有する。これは、エチレン性不飽和単量体(b)の乳化重合時に飽和ポリエステル樹脂(a)が乳化剤として働き、そのために重合反応生成物(A)中で飽和ポリエステル樹脂(a)とエチレン性不飽和単量体(b)とが複雑に複合化しているためであると考えられる。このため、重合反応生成物(A)の製造工程は、重合反応生成物(A)の構造又は特性を特定する要素である。しかし、発明者が赤外線吸光法及び高速液体クロマトグラフィー法で両者を分析しても、両者の分析結果の間に有意な差異は認められなかった。そのため、重合反応生成物(A)の構造又は特性を文言上特定することはできない。
重合反応生成物(A)の製造時には、上記のように乳化重合時に飽和ポリエステル樹脂(a)が乳化剤として働くことができる。そのため、乳化重合時には、飽和ポリエステル樹脂(a)以外の乳化剤を併用してもよいが、併用しなくてもよい。飽和ポリエステル樹脂(a)以外の乳化剤を併用しない場合は、被覆用組成物に飽和ポリエステル樹脂(a)以外の乳化剤を含有させないことができる。その場合、被覆層からの乳化剤のブリードアウトによる被覆層の外観及び性能の悪化を抑制できる。
重合反応生成物(A)について、更に詳しく説明する。
飽和ポリエステル樹脂(a)は、多価カルボン酸残基(a1)と多価アルコール残基(a2)とを有する。
多価アルコール残基(a2)は、例えば3価以上の多価アルコール残基(a21)及びジアルコール残基(a22)からなる群から選択される少なくとも一種の基を含有する。
多価アルコール残基(a2)は3価以上の多価アルコール残基(a21)を含有することが好ましい。この場合、飽和ポリエステル樹脂(a)は、多価アルコール残基(a21)に由来する水酸基を有することができ、このため飽和ポリエステル樹脂(a)は水酸基価を有することができる。
多価アルコール残基(a2)全体に対する3価以上の多価アルコール残基(a21)の量は、5モル%以上50モル%以下であることが好ましい。多価アルコール残基(a21)が5モル%以上であると、多価アルコール残基(a21)が飽和ポリエステル樹脂(a)に水酸基価を十分に付与できる。また、多価アルコール残基(a21)が50モル%以下であると、飽和ポリエステル樹脂(a)中の過度な架橋の存在を抑制でき、このため飽和ポリエステル樹脂(a)がより高い水溶性又は水分散性を有しうる。
3価以上の多価アルコール残基(a21)は、特に3価アルコール残基を含有することが好ましい。この場合、飽和ポリエステル(a2)中の架橋構造を抑制でき、このため飽和ポリエステル(a2)の過度な高粘度化を抑制できる。
3価以上の多価アルコール残基(a21)が、4価以上の多価アルコール残基を含有しないこと、すなわち3価以上の多価アルコール残基(a21)が3価アルコール残基のみであることが好ましい。換言すれば多価アルコール残基(a2)が4価以上のアルコール残基を含有しないことが好ましい。多価アルコール残基(a2)が4価以上のアルコール残基を含有する場合には、多価アルコール残基(a2)全体に対する、4価以上のアルコール残基の量が、1モル%以下であることが好ましい。これらの場合、飽和ポリエステル樹脂(a)内における過度な架橋の存在が抑制されるため、飽和ポリエステル樹脂(a)がより高い水溶性又は水分散性を有しうる。
3価アルコール残基は、例えばトリメチロールプロパン残基、グリセリン残基、及び1,2,4-ブタントリオール残基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含有できる。
3価以上の多価アルコール残基(a21)は、特にトリメチロールプロパン残基を含有することが好ましい。すなわち、飽和ポリエステル樹脂(a)は、トリメチロールプロパン残基を有することが好ましい。この場合、飽和ポリエステル樹脂(a)は、特に高い水溶性又は水分散性を有し、乳化剤として良好な性能を有することができる。さらに、反応生成物(A)は被覆層に特に高い接着性を付与でき、更に被覆用組成物が架橋剤を含有する場合には反応生成物(A)は架橋剤との良好な反応性を有することができる。これは、トリメチロールプロパンの有する三つの水酸基が全て一級水酸基であることから、飽和ポリエステル樹脂(a)がトリメチロールプロパンに由来する一級の水酸基を有し、この水酸基が良好な反応性を有するためであると、考えられる。
多価アルコール残基(a2)全体に対するトリメチロールプロパン残基の量は、5モル%以上50モル%以下であることが好ましい。トリメチロールプロパン残基が5モル%以上であると、トリメチロールプロパン残基が飽和ポリエステル樹脂(a)に一級水酸基を十分に付与できる。このため、飽和ポリエステル樹脂(a)は、重合反応生成物(A)の合成時に乳化剤として良好に作用できる。また、トリメチロールプロパン残基が50モル%以下であると、飽和ポリエステル樹脂(a)中の架橋構造を抑制でき、飽和ポリエステル樹脂(a)にトリメチロールプロパン残基に由来する粘着性が生じることが抑制される。また、このため飽和ポリエステル樹脂(a)は、特に高い水溶性又は水分散性を有し、乳化剤として特に良好な性能を有することができる。トリメチロールプロパン残基の量は10モル%以上であることも好ましく、40モル%以下であることも好ましい。
ジアルコール残基(a22)は、例えばエチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、トリエチレングリコール残基、テトラエチレングリコール残基、ペンタエチレングリコール残基、ヘキサエチレングリコール残基、ヘプタエチレングリコール残基、オクタエチレングリコール残基等のポリエチレングリコール残基;プロピレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、トリプロピレングリコール残基、テトラプロピレングリコール残基等のポリプロピレングリコール残基;1,3-プロパンジオール残基、1,3-ブタンジオール残基、1,4-ブタンジオール残基、1,5-ペンタンジオール残基、1,6-ヘキサンジオール残基、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール残基、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール残基、2-エチル-2-イソブチル-1,3-プロパンジオール残基、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール残基、1,2-シクロヘキサンジメタノール残基、1,3-シクロヘキサンジメタノール残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基、4,4’-ジヒドロキシビフェノール残基、4,4’-メチレンジフェノール残基、4,4’-イソプロピリデンジフェノール残基、1,5-ジヒドロキシナフタリン残基、2,5-ジヒドロキシナフタリン残基、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)残基、及びビスフェノールS残基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含有できる。
特に、ジアルコール残基(a22)は、エチレングリコール残基;ジエチレングリコール残基;プロピレングリコール残基;1,4-ブタンジオール残基等のブタンジオール残基;1,6-ヘキサンジオール残基等のヘキサンジオール残基;1,4-シクロヘキサンジメタノール残基;並びにネオペンチルグリコール残基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含有することが好ましい。この場合、飽和ポリエステル樹脂(a)の合成が容易であり、かつ飽和ポリエステル樹脂(a)が高い耐久性を有しうる。
一方、多価カルボン酸残基(a1)は、例えば3価以上の多価カルボン酸残基(a11)、金属スルホネート基を備える多価カルボン酸残基(a12)、及びこれら以外のジカルボン酸残基(a13)からなる群から選択される少なくとも一種の基を含有する。
3価以上の多価カルボン酸残基(a11)は、例えばヘミメリット酸残基、トリメリット酸残基、トリメジン酸残基、メロファン酸残基、ピロメリット酸残基、ベンゼンペンタカルボン酸残基、メリット酸残基、シクロプロパン-1,2,3-トリカルボン酸残基、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸残基、及びエタンテトラカルボン酸残基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含有する。
金属スルホネート基を備える多価カルボン酸残基(a12)は、例えば金属スルホネート基を備えるジカルボン酸残基である。より具体的には、多価カルボン酸残基(a12)は、例えば5-スルホイソフタル酸残基、2-スルホイソフタル酸残基、4-スルホイソフタル酸残基、2-スルホテレフタル酸残基、及び4-スルホナフタレン-2,6-ジカルボン酸残基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含有する。
ジカルボン酸残基(a13)は、例えば芳香族ジカルボン酸残基と脂肪族ジカルボン酸残基とのうち少なくとも一方を含有する。芳香族ジカルボン酸残基は、例えばテレフタル酸残基、イソフタル酸残基、フタル酸残基、ジフェン酸残基、ナフタル酸残基、1,2-ナフタレンジカルボン酸残基、1,4-ナフタレンジカルボン酸残基、1,5-ナフタレンジカルボン酸残基、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸残基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含有する。脂肪族ジカルボン酸残基は、例えば直鎖、分岐及び脂環式のシュウ酸残基、マロン酸残基、コハク酸残基、グルタール酸残基、アジピン酸残基、ピメリン酸残基、2,2-ジメチルグルタール酸残基、スベリン酸残基、アゼライン酸残基、セバシン酸残基、ドデカン二酸残基、1,3-シクロペンタンジカルボン酸残基、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸残基、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸残基、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸残基、1,2-シクロプロパンジカルボン酸残基、1,2-シクロブタンジカルボン酸残基、ジグリコール酸残基、及びチオジプロピオン酸残基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含有する。芳香族ジカルボン酸残基のうちのテレフタル酸残基、イソフタル酸残基及び2,6-ナフタレンジカルボン酸残基、並びに脂肪族ジカルボン酸残基のうちのコハク酸残基、アジピン酸残基、セバシン酸残基、ドデカン二酸残基、及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸残基は、反応の容易性、得られる樹脂の接着性、耐候性、耐久性等の点から好適である。
多価カルボン酸残基(a1)が3価以上の多価カルボン酸残基(a11)を含有する場合、飽和ポリエステル樹脂(a)は、3価以上の多価カルボン酸残基(a11)に由来するカルボキシル基を有しうる。すなわち、飽和ポリエステル樹脂(a)は酸価を有しうる。そのため、飽和ポリエステル樹脂(a)が乳化剤としてより効果的に機能しうるとともに、飽和ポリエステル樹脂(a)が高い水溶性又は水分散性を有しうる。さらに、酸価を有しない場合と比べて、飽和ポリエステル樹脂(a)が被覆層に、より高い接着性を付与できる。
多価カルボン酸残基(a1)が3価以上の多価カルボン酸残基(a11)を含有する場合、多価カルボン酸残基(a1)全体に対する、多価カルボン酸残基(a11)の量は、1モル%以上50モル%以下であることが好ましい。この多価カルボン酸残基(a11)の量が1モル%以上50モル%以下であることで、飽和ポリエステル樹脂(a)は乳化剤として特に有効に機能するとともに、飽和ポリエステル樹脂(a)は特に高い水溶性又は水分散性を有し、更に、飽和ポリエステル樹脂(a)は被覆層に特に高い接着性を付与できる。この多価カルボン酸残基(a11)の量は、5モル%以上であればより好ましく、10モル%以上であれば更に好ましい。また、多価カルボン酸残基(a11)の量は、45モル%以下であればより好ましく、40モル%以下であれば更に好ましい。
多価カルボン酸残基(a1)が金属スルホネート基を備える多価カルボン酸残基(a12)を含有する場合、飽和ポリエステル樹脂(a)は多価カルボン酸残基(a12)に由来する極性基である金属スルホネート基を有しうる。このため、飽和ポリエステル樹脂(a)は特に高い水溶性又は水分散性を有し、更に、重合反応生成物(A)は被覆層に特に高い接着性を付与できる。
ただし、被覆層に高い耐水性を付与するためには、多価カルボン酸残基(a1)に対する、多価カルボン酸残基(a12)の量は、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であればより好ましい。
上記の通り、飽和ポリエステル樹脂(a)は、水酸基を有し、かつ50mgKOH/g以上280mgKOH/g以下の水酸基価を有する。そのため、飽和ポリエステル樹脂(a)は乳化剤として有効に機能するとともに、飽和ポリエステル樹脂(a)は特に高い水溶性又は水分散性を有し、更に、重合反応生成物(A)は被覆層に特に高い接着性を付与できる。なお、飽和ポリエステル樹脂(a)の水酸基価は、例えば多価アルコール残基(a2)に対する3価以上の多価アルコール残基(a23)の量が調整されることで、制御されうる。飽和ポリエステル樹脂(a)が乳化剤として特に有効に機能するためには、飽和ポリエステル樹脂(a)の水酸基価は、70mgKOH/g以上であることが好ましく、100mgKOH/g以上であることがより好ましい。また、この水酸基価は250mgKOH/g以下であることが好ましく、230mgKOH/g以下であることがより好ましい。
飽和ポリエステル樹脂(a)は、更に酸価を有してもよい。例えば飽和ポリエステル樹脂(a)は、10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の酸価を有してもよい。その場合、飽和ポリエステル樹脂(a)は乳化剤として特に有効に機能するとともに、飽和ポリエステル樹脂(a)は特に高い水溶性又は水分散性を有し、更に、重合反応生成物(A)は被覆層に特に高い接着性を付与できる。なお、飽和ポリエステル樹脂(a)の酸価は、例えば多価カルボン酸残基(a1)に対する3価以上の多価カルボン酸残基(a11)の量が調整されることで、制御されうる。飽和ポリエステル樹脂(a)が乳化剤として特に有効に機能するためには、飽和ポリエステル樹脂(a)の酸価は、15mgKOH/g以上であることが好ましく、20mgKOH/g以上であることがより好ましい。また、この酸価は90mgKOH/g以下であることが好ましく、80mgKOH/g以下であることがより好ましい。
飽和ポリエステル樹脂(a)の重量平均分子量は、例えば3000~50000の範囲内であることが好ましい。この重量平均分子量が3000以上であると、被覆層が特に高い接着性を有しうる。また、この重量平均分子量が50000以下であると、飽和ポリエステル樹脂(a)が特に高い水溶性又は水分散性を有しうる。飽和ポリエステル樹脂(a)の重量平均分子量は、飽和ポリエステル樹脂(a)の合成条件を適宜設定することで、容易に調整される。なお、飽和ポリエステル樹脂(a)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定される値(ポリスチレン換算)である。
飽和ポリエステル樹脂(a)のガラス転移温度は、0℃以上100℃以下であることが好ましい。このガラス転移温度が0℃以上であることで、被覆層が過度に高いタック性を有することを抑制できる。また、このガラス転移温度が100℃以下であると、被覆用組成物から被覆層を形成する際の良好な成形性が得られる。このガラス転移温度は、10℃以上であればより好ましく、15℃以上であれば更に好ましい。また、このガラス転移温度は、90℃以下であればより好ましく、80℃以下であれば更に好ましい。
飽和ポリエステル樹脂(a)は、例えばエステル形成性官能基を備える化合物を含む反応性原料を重合させることで得られる。エステル形成性官能基とは、カルボキシル基又は水酸基と反応してエステル結合を形成しうる官能基を意味する。エステル形成性官能基の例は、カルボキシル基、水酸基、カルボキシル基のエステル形成性誘導基及び水酸基のエステル形成性誘導基を含む。カルボキシル基のエステル形成性誘導基とは、カルボキシル基に何らかの化合物が反応することにより得られ、水酸基と反応してエステル結合を形成しうる基である。カルボキシル基のエステル形成性誘導基の具体例は、カルボキシル基を無水物化して得られる基、カルボキシル基をエステル化して得られる基、カルボキシル基を酸クロライド化して得られる、及びカルボキシル基をハロゲン化して得られる基を含む。水酸基のエステル形成性誘導基とは、水酸基に何らかの化合物が反応することにより得られ、カルボキシル基と反応してエステル結合を形成しうる基である。水酸基のエステル形成性誘導基の具体例は、水酸基をアセテート化して得られる基を含む。特にエステル形成性官能基がカルボキシル基又は水酸基であることは、飽和ポリエステル樹脂(a)の製造時の反応性が良好となる点で好ましい。
反応性原料は、飽和ポリエステル樹脂(a)中の多価カルボン酸残基(a1)に対応する多価カルボン酸成分と、飽和ポリエステル樹脂(a)中の多価アルコール残基(a2)に対応する多価アルコール成分とを含有する。多価カルボン酸成分は、多価カルボン酸と、多価カルボン酸のエステル形成性誘導体とからなる群から選択される、少なくとも一種の化合物を含有する。多価カルボン酸のエステル形成性誘導体とは、多価カルボン酸中のカルボキシル基をカルボキシル基のエステル形成性誘導基に置換した化合物である。多価アルコール成分は、多価アルコールと、多価アルコールのエステル形成性誘導体とからなる群から選択される、少なくとも一種の化合物を含有する。多価アルコールのエステル形成性誘導体とは、多価アルコール中の水酸基を水酸基のエステル形成性誘導基に置換した化合物である。
反応性原料に含まれる多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とのモル比は1:1から1:2.5までの範囲内であることが好ましい。
飽和ポリエステル樹脂(a)は、反応性原料から、公知のポリエステル製造方法で合成される。例えば多価カルボン酸とグリコールとを一段階の反応で反応させる直接エステル化反応により飽和ポリエステル樹脂(a)が合成される。
多価カルボン酸成分が多価カルボン酸のエステル形成性誘導体を含有するとともに、多価アルコール成分がグリコールを含有する場合には、多価カルボン酸のエステル形成性誘導体とグリコールとのエステル交換反応である第一段反応と、第一段反応による反応生成物が重縮合する第二段反応とを経て、飽和ポリエステル樹脂(a)が合成されてもよい。第一段反応においては、反応系中に反応性原料全てが最初から含まれていてもよく、反応性原料の一部がエステル重縮合反応時に反応系に添加されてもよい。第一段反応においては、反応系中に反応性原料全てが最初から含まれている場合には、例えば反応系が窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、常圧条件下で、150℃以上260℃以下の温度まで徐々に昇温加熱されることでエステル交換反応が進行する。第二段反応は、例えば6.7hPa(5mmHg)以下の減圧下、140℃以上280℃以下の温度で進行する。
第一段反応及び第二段反応において、任意の時期に反応系中に触媒として、従来公知のチタン、アンチモン、鉛、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、マンガン、アルカリ金属化合物等が添加されてもよい。
エチレン性不飽和単量体(b)は、例えばカチオン性不飽和単量体、アニオン性不飽和単量体、及びノニオン性不飽和単量体からなる群から選択される少なくとも一種の単量体を含有する。
カチオン性不飽和単量体は、例えばアミノ基含有不飽和単量体及び第4級アンモニウム塩基含有不飽和単量体のうち少なくとも一方を含有する。アミノ基含有不飽和単量体におけるアミノ基は、1級、2級及び3級のうち、いずれでもよい。アミノ基含有不飽和単量体は、例えば(メタ)アリルアミン、アミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチルメタクリレート、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)メタアクリルアミド;及びN,N-ジメチルアミノスチレン等のアミノ基含有芳香族ビニル系単量体からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
第4級アンモニウム塩基含有不飽和単量体は、例えば、3級アミノ基含有不飽和単量体を、4級化剤を用いて4級化して得られる。4級化剤の例は、炭素数が1~12のアルキルクロライド、ジアルキル硫酸、ジアルキルカーボネート、及びベンジルクロライドを含む。より具体的には、第4級アンモニウム塩基含有不飽和単量体は、例えば(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルモルホリノアンモニウムクロライド等のアルキル(メタ)アクリレート系第4級アンモニウム塩;(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリエチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のアルキル(メタ)アクリロイルアミド系第4級アンモニウム塩;ジメチルジアリルアンモニウムメチルサルフェート;及びトリメチルビニルフェニルアンモニウムクロライドからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
アニオン性不飽和単量体は、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノアクリレート等の不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸;マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等の不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル;2-メタアクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、及びβ-カルボキシエチルアクリレート;アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-プロペノイックアシッド、3-(2-カルボキシエトキシ)-3-オキシプロピルエステル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸等のアルケンスルホン酸;α-メチルスチレンスルホン酸等の芳香族ビニル基含有スルホン酸;スルホン酸基含有(メタ)アクリルエステル系単量体、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド系単量体等の、スルホン酸基含有単量体;並びに(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート等のメタアクリロイルオキアルキルリン酸モノエステル等のリン酸基含有不飽和単量体等が挙げられる。
ノニオン性不飽和単量体は、例えば(メタ)アクリル酸エステルを含有する。より具体的には、ノニオン性不飽和単量体は、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、スチレン、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ターシャリーブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及び(メタ)アクリル酸オクチルからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。なお、「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルとのうち少なくとも一方を意味し、例えば「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステルとメタアクリル酸エステルとのうち少なくとも一方を意味する。
エチレン性不飽和単量体(b)は、特にアルコール性水酸基を有する単量体(b1)を含むことが好ましい。この場合、エチレン性不飽和単量体(b)の乳化重合体は、エチレン性不飽和単量体(b)に由来する水酸基を有することができる。そのため、重合反応生成物(A)は、特に高い水分散性及び分散安定性を有することができる。また、被覆用組成物が架橋剤を含有する場合、エチレン性不飽和単量体(b)の乳化重合体は、水酸基によって、架橋剤との良好な反応性を有することができる。
アルコール性水酸基を有する単量体(b1)は、例えば(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
エチレン性不飽和単量体(b)全体に対する、アルコール性水酸基を有する単量体(b1)の量は、1モル%以上50モル%以下であることが好ましい。この単量体(b1)の量が1モル%以上であれば、被覆層は、極性の高い基材との特に高い接着性及び極性の高い外層との特に高い接着性を有しうる。また、この単量体(b1)の量が50モル%以下であれば、重合反応生成物(A)が特に高い水分散性及び分散安定性を有しうる。この単量体(b1)の量は、30モル%以下であればより好ましい。
重合反応生成物(A)は、上述のように、飽和ポリエステル樹脂(a)の存在下、エチレン性不飽和単量体(b)を乳化重合させることで、合成される。
より具体的には、例えばまず飽和ポリエステル樹脂(a)と溶剤を含有する溶液を調製する。溶剤は、例えば水と親水性有機溶剤とのうち少なくとも一方を含有する。親水性有機溶剤とは、水と容易に混和する、あるいは水に容易に溶解する有機溶剤である。親水性有機溶剤は、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、及び2-ヒドロキシイソ酪酸メチルからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。溶剤に対する、飽和ポリエステル樹脂(a)の量は、例えば5質量%以上50質量%以下である。
この溶液を、例えば60℃以上100℃以下の温度に加熱するとともに撹拌しながら、溶液中に重合開始剤を入れる。更に、溶液を60℃以上100℃以下の温度に維持するとともに撹拌しながら、溶液にエチレン性不飽和単量体(b)を入れる。この溶液を例えば撹拌しながら60℃以上100℃以下の温度に60分以上300分以下の間維持することで、乳化重合を進行させる。これにより、重合反応生成物(A)を合成でき、その結果、重合反応生成物(A)と溶剤とを含有する分散液が得られる。
重合反応生成物(A)の合成時には、任意の時期に、溶液中に、重合反応生成物(A)の水分散性を向上させる成分として、カルボキシル基と水酸基の少なくとも一方を有するポリマーを添加してもよい。このポリマーは、例えばアクリル酸系ポリマー、メタクリル酸系ポリマー、スチレン-アクリル酸系ポリマー、スチレン-メタクリル酸系ポリマー、スチレン-マレイン酸系ポリマー、スチレン-無水マレイン酸系ポリマー、及びポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも一種を含有できる。
飽和ポリエステル樹脂(a)とエチレン性不飽和単量体(b)との質量比は、99:1から10:90までの範囲内であることが好ましい。この場合、重合反応生成物(A)を合成することで得られる分散液中における重合反応生成物(A)の分散性が特に高くなりうるとともに、被覆用組成物中における重合反応生成物(A)の分散性も特に高くなりうる。さらに、被覆層が特に高い透明性を有しうる。この質量比は、90:10から20:80までの範囲内であることがより好ましく、80:20から20:80までの範囲内であれば更に好ましい。
被覆用組成物の成分について説明する。被覆用組成物は、重合反応生成物(A)と、溶剤とを含有する。重合反応生成物(A)については、既に説明したとおりである。
溶剤は、重合反応生成物(A)を溶解させ又は分散させる。すなわち、溶剤は溶媒又は分散媒である。溶剤は、例えば水と親水性有機溶剤とのうち少なくとも一方を含有する。親水性有機溶剤の例は、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類;並びにシクロヘキサノン等のケトン類を含む。被覆用組成物中の溶剤は、重合反応生成物(A)を合成するために使用した溶剤そのもの、すなわち上記の分散液中の溶剤そのものであってもよく、そうでなくてもよい。
被覆用組成物は、架橋剤を更に含有してもよい。架橋剤は、例えばオキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤からなる群から選択される少なくとも一種を含有することができる。
被覆用組成物は、レベリング剤を含有してもよい。例えば被覆用組成物がアルコール、グリコールエーテル等の親水性有機溶剤を含有する場合、この親水性有機溶剤はレベリング剤として機能することができる。
被覆用組成物は、他の樹脂分散体を含有してもよい。他の樹脂分散体は、例えばウレタン樹脂分散体、アクリル樹脂分散体、ポリエステル樹脂分散体、オレフィン樹脂分散体からなる群から選択される少なくとも一種を含有することができる。
被覆用組成物は、更に消泡剤、造膜助剤、顔料、染料等の適宜の添加剤を含有してもよい。
被覆用組成物を製造する場合には、例えばまず既に説明した方法で重合反応生成物(A)を合成することで、重合反応生成物(A)と溶剤とを含有する分散液を得る。この分散液そのものが被覆用組成物であってもよい。分散液に、被覆用組成物の重合反応生成物(A)及び溶剤以外の成分を加えることで、被覆用組成物を調製してもよい。分散液に水、親水性有機溶媒等を加えることで、溶剤の組成を調整してもよい。
本実施形態に係る積層部材について説明する。積層部材は、基材と、基材上にある被覆層とを備える。被覆層は、被覆用組成物から作製される。本実施形態では、積層部材は、被覆層上にある外層を更に備える。すなわち、基材、被覆層及び外層が、この順番に積層している。
基材は、例えば板状、シート状又はフィルム状である。
基材は、例えば熱可塑性樹脂等の樹脂から作製され、又は鋼板等の金属から作製される。基材は、特に熱可塑性樹脂から作製されたフィルムであることが好ましい。熱可塑性樹脂の例は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリグリコール酸、ポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸;ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)等の脂肪族ポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-ビニルアセテート共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアリレート樹脂;並びにこれらの樹脂のうち二種以上を含む混合物を含む。
積層部材を製造する場合には、例えば基材に被覆用組成物を塗布してから、加熱することで乾燥させ、又は被覆用組成物が架橋剤を含有する場合には、加熱することで架橋反応を進行させる。これにより、基材上に被覆層を作製できる。被覆用組成物中の溶剤が水を含有する場合は、被覆用組成物から被覆層が作製される過程において、有機溶剤が揮発せず、あるいは有機溶剤の揮発量が抑制されるため、作業環境の悪化が抑制される。
基材がオリゴマー成分をブリードアウトしやすい性質を有する場合、すなわち例えば基材がポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂から作製されたフィルムである場合、被覆層は、基材からのオリゴマー成分のブリードアウトを抑制できる。これにより、被覆層は、ブリードアウトによる積層部材の白濁を抑制できる。そのため、特に積層部材が透明な部材である場合には、被覆層は積層部材を透明な状態に維持できる。
積層部材が外層を備える場合、被覆層上には、適宜の樹脂製又は金属製の外層が作製されうる。外層は、例えば写真感光層;ジアゾ感光層;マット層;磁性層;インクジェットインキ受容層;ハードコート層;塗料層;紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、印刷インキ、UVインキ等からなる層;ドライラミネート又は押し出しラミネートによる接着剤の層;金属、無機物又はそれらの酸化物からなる真空蒸着;電子ビーム蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD又はプラズマ重合で形成される薄膜層;又は有機バリアー層である。被覆層は、種々の樹脂製又は金属製の外層との高い接着性を有しうる。
(1)試料A~E、L、Nの調製
次のようにして、飽和ポリエステル樹脂を含有する分散液である試料A~E、L、Nを調製した。
攪拌機、窒素ガス導入口、温度計、精留塔、及び冷却コンデンサーを備える容量1000mlの反応容器を準備した。この反応容器内に、表1~2中の「原料成分」の欄における成分を入れて混合物を得た。これらを常圧、窒素雰囲気中で攪拌混合しながら200℃に昇温した後、4時間かけて250℃にまで徐々に昇温することで、エステル化反応及びエステル交換反応を完了させた。次に、230℃の温度下で0.67hPa(0.5mmHg)まで徐々に減圧してから、この状態で2時間保持することで重縮合反応を進行させ、飽和ポリエステル樹脂を合成した。
飽和ポリエステル樹脂と、水、イソプロピルアルコール及び25%アンモニア水のうちの一以上とを、表1~2の「試料組成」の欄に示す質量比で容器内に入れた。これらを攪拌しながら80℃以上90℃以下の温度下に2時間保持することで、飽和ポリエステル樹脂の濃度が25質量%である分散液を得た。
飽和ポリエステル樹脂の水酸基価、酸価、及びガラス転移温度は、表1~2に示す通りである。
(2)試料F~K、M、Oの調製
次のようにして、飽和ポリエステル樹脂を含有する分散液である試料F~K、M、Oを調製した。
攪拌機、窒素ガス導入口、温度計、精留塔、及び冷却コンデンサーを備える容量1000mlの反応容器を準備した。この反応容器内に、表1~2中の「飽和ポリエステル樹脂の原料成分」の欄における無水トリメリット酸を除く成分を入れて混合物を得た。これらを常圧、窒素雰囲気中で攪拌混合しながら200℃に昇温した後、4時間かけて250℃にまで徐々に昇温することで、エステル化反応及びエステル交換反応を完了させた。次に、この混合物に表1~2中の「原料成分」の欄における無水トリメリット酸を加え、200℃の温度下で0.67hPa(0.5mmHg)まで徐々に減圧してから、この状態で2時間保持することで重縮合反応を進行させ、飽和ポリエステル樹脂を合成した。
飽和ポリエステル樹脂と、水、イソプロピルアルコール及び25%アンモニア水のうちの一以上とを、表1~2の「試料組成」の欄に示す質量比で容器内に入れた。これらを攪拌しながら75℃以上85℃以下の温度下に2時間保持することで、飽和ポリエステル樹脂の濃度が25質量%である分散液を得た。
飽和ポリエステル樹脂の水酸基価、酸価、及びガラス転移温度は、表1~2に示す通りである。
(3)実施例1~17及び比較例1~4の調製
次のようにして、被覆用組成物である実施例1~17及び比較例1~4を調製した。
攪拌機、窒素ガス導入口、温度計、滴下漏斗、還流冷却器を備える容量2000mlの反応容器を準備し、この反応容器に、表3~4中の「飽和ポリエステル樹脂分散液」の欄に示す成分とイオン交換水とを入れ、これを窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら80℃に加熱した。次に、反応容器に重合開始剤として濃度5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を2質量部入れてから、反応容器の内容物を撹拌しながら反応容器内に、表3~4の「エチレン性不飽和単量体」の欄に示す成分を2時間かけて滴下した。次に、反応容器内に濃度5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を2質量部添加してから、反応容器の内容物を撹拌しながらこれを80℃の温度に3時間保持することで、重合反応生成物を含有する被覆用組成物を得た。
表3~4の「飽和ポリエステル樹脂とエチレン性不飽和単量体の質量比」の欄には、被覆用組成物を得るために使用した飽和ポリエステル樹脂とエチレン性不飽和単量体との質量比を示す。
(4)比較例5、6の調製
次のようにして、被覆用組成物である比較例5、6を調製した。
攪拌機、窒素ガス導入口、温度計、滴下漏斗、還流冷却器を備える容量1000mlの反応容器を準備し、この反応容器に、表4に示すイオン交換水及びラウリル硫酸ナトリウムを入れ、これを窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら80℃に加熱した。次に、反応容器に重合開始剤として濃度5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液2質量部を入れてから、反応容器の内容物を撹拌しながら反応容器内に、表4の「エチレン性不飽和単量体」の欄に示す成分を、2時間かけて滴下した。次に、反応容器内に濃度5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を2質量部添加してから、反応容器の内容物を撹拌しながらこれを80℃の温度に3時間保持した。これにより、(メタ)アクリル系ポリマーの分散液を得た。
この(メタ)アクリル系ポリマーの分散液に、表4に示す試料A又は試料Gを混合して、被覆用組成物を得た。
表4の「飽和ポリエステル樹脂とエチレン性不飽和単量体の質量比」の欄には、被覆用組成物を得るために使用した飽和ポリエステル樹脂とエチレン性不飽和単量体との質量比を示す。
(5)物性試験
被覆用組成物である実施例1~17及び比較例1~6について、次の試験を行った。試験に基づく評価は表3~4に示す。
(5-1)被覆層の作製
基材としてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、品名ルミラー T60#100)を用いた。この基材の上に、被覆用組成物をバーコーターで塗布してから、120℃の熱風乾燥機内で5分間加熱した。これにより、基材上に厚み3μmの被覆
層を形成した。
(5-2)基材接着性
基材上の被覆層にセロハン粘着テープを密着させて引き剥がし、残存する被覆層の様子を観察した。その結果、被覆層の剥離が認められない場合を「A」、被覆層のごく一部で剥離が認められる場合を「B」、被覆層の一部で剥離が認められる場合を「C」、被覆層の大半の部分で剥離が認められる場合を「D」と、評価した。
(5-3)塗料層接着性
基材上の被覆層の上に、アクリル樹脂系の水性白塗料をバーコーターで塗布してから、120℃の熱風乾燥機内で5分間加熱した。これにより、プライマー層の上に厚み3μmの塗料層を形成した。この塗料層にセロハン粘着テープを密着させてから引き剥がし、残存する塗料層の様子を観察した。その結果、塗料層の剥離が認められない場合を「A」、塗料層のごく一部で剥離が認められる場合を「B」、塗料層の一部で剥離が認められる場合を「C」、塗料層の大半の部分で剥離が認められる場合を「D」と、評価した。
(5-4)アルミ蒸着層接着性
基材上の被覆層の上に、真空蒸着工程により厚み約1μmのアルミ蒸着層を形成した。このアルミ蒸着層にセロハン粘着テープを密着させてから引き剥がし、残存するアルミ蒸着層の様子を観察した。その結果、アルミ蒸着層の剥離が認められない場合を「A」、アルミ蒸着層のごく一部で剥離が認められる場合を「B」、アルミ蒸着層の一部で剥離が認められる場合を「C」、アルミ蒸着層の大半の部分で剥離が認められる場合を「D」と、評価した。
(5-5)常温タック性
基材上の被覆層に重ねる部材として、ポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーT60#100)を用いた。この部材を、被覆層に重ねた状態で、部材と被覆層とを、温度25℃、湿度60%、加圧力0.1MPa、圧着時間1時間の条件で、貼り合わせた。続いて、プライマー層と部材との間の、常温下でのタック性を確認した。その結果、プライマー層と部材との界面でタックが認められない場合を「A」、界面の一部でタックが認められる場合を「B」、界面の大半の部分でタックが認められる場合を「C」と、評価した。
(5-6)ヘイズ(高温処理前)
基材と被覆層とをあわせた部材全体のヘイズを、日本電色工業株式会社製のヘーズメーターNDH 2000を用いて測定した。
(5-7)ヘイズ(高温処理後)
基材と被覆層とを180℃の熱風乾燥機内で1時間加熱後、基材と被覆層とをあわせた部材全体のヘイズを測定した。
なお、基材であるポリエチレンテレフタレートフィルムのみの、高温処理前のヘイズは1.80であり、基材のみを高温処理した場合の基材のヘイズは16.45であった。
(5-8)架橋剤使用時の耐熱水性
実施例1~17及び比較例1~6の各々の被覆用組成物80質量部に、架橋剤としてブロックイソシアネート(Baxenden Chemicals Ltd製、品名Trixene Aqua BI200)を10質量部加えた。続いて、この架橋剤を加えた被覆用組成物を、上記(5-1)の場合と同じ基材上にバーコーターで塗布して塗膜を形成し、この塗膜を150℃の熱風乾燥機内で5分間加熱した。これにより、基材上に厚み3μmの被覆層を形成した。続いて基材と被覆層とを沸騰水中に30分間浸漬してから風乾した。これによる被覆層の外観変化を、目視にて確認した。その結果、被覆層に外観変化が認められない場合を「A」、被覆層の一部で白化が認められる場合を「B」、被覆層の大半の部分で白化が認められる場合を「C」と、評価した。