<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態における建物について、図1~図4を用いて説明する。
(構造)
図1に示すように、本実施形態の建物10は、柱12及び梁14で構築された架構16と、架構16内に設けられた耐震壁18と、を有している。柱12及び梁14はともに鉄骨造とされており、本実施形態では一例として、梁成及び梁幅が200mm×200mm程度のH形鋼で構成されている。
耐震壁18は、図2に示すように、複数の木質板材20を繊維方向が直交するように積層接着した直交集成板(CLT、Cross Laminated Timber)で構成されており、梁幅と略同じ厚さとされている。
なお、梁14のフランジ14Aにはプレート22が接合されており、プレート22上には、建物10の床板24が架設されている。床板24は、耐震壁18と同様に直交集成板で構成されている。
図1に示すように、耐震壁18には、切欠26及び雌ネジ穴28が形成されている。切欠26は、耐震壁18の上端面及び下端面の両端、すなわち耐震壁18の四隅に形成されており、切欠26の幅は、例えば耐震壁18の幅Lの4分の1程度とされている。また、切欠26には、後に詳述する木質のくさび板30が打込まれている。
一方、雌ネジ穴28は、耐震壁18の上端面及び下端面の略中央部に複数(本実施形態では4つずつ)形成されている。梁14のフランジ14Aにおける雌ネジ穴28に対応する位置には、複数の貫通孔32が形成されており、雌ネジ穴28には、貫通孔32に挿通されたせん断力伝達部材としてのボルト34が螺合されている。
さらに、耐震壁18の上端面に形成された切欠26の下部及び下端面に形成された切欠26の上部には、耐震壁18の主面に開口する凹部36が形成されている。凹部36には、鉛直方向に延びて切欠26及び梁14のフランジ14Aを貫通する挿通孔38が形成されており、挿通孔38には、引張力伝達部材としての引きボルト40が挿通されている。
引きボルト40の頭部は凹部36内に位置しており、引きボルト40の先端部は梁14のフランジ14Aに形成された貫通孔42に挿通されてナット44で締結されている。また、引きボルト40の頭部と凹部36の壁面との間には、座金46が設けられている。
(施工方法)
本実施形態の建物10の架構16内に耐震壁18を設ける場合、図3(A)に示すように、まず、柱12及び梁14を格子状に接合して架構16を形成する。そして、直交集成板で構成された耐震壁18を、面方向から架構16内に嵌込む。このとき、耐震壁18の挿通孔38には、引きボルト40が予め収容されている。
なお、耐震壁18の外寸は架構16の内寸より僅かに小さくされているため、耐震壁18を架構16内に正面からスムーズに嵌込むことができる。また、本実施形態では、図1に示すように、建物10の複数の架構16において複数の耐震壁18が千鳥状(互い違い)となるように嵌込まれる。
次に、図3(B)に拡大図で示すように、耐震壁18の切欠26、すなわち梁14のフランジ14Aと耐震壁18との間にくさび板30を打込む。切欠26及びくさび板30は、厚さが徐々に厚くなるテーパー形状とされており、くさび板30は厚さの薄い端面側から切欠26に打込まれる。また、くさび板30における引きボルト40と干渉する位置には、スリット48が形成されている。
次に、梁14側(図3(B)における上側)から、フランジ14Aの貫通孔32にボルト34を挿通し、雌ネジ穴28にボルト34を螺合する。また、挿通孔38に収容された引きボルト40を梁14側へ引上げ(又は引下げ)、梁14のフランジ14Aの貫通孔42に挿通してナット44を締結する。
なお、引きボルト40の固定後、図2に示すように、耐震壁18の主面に設けられた凹部36の開口に木質の板材50を嵌込み、凹部36の開口を塞ぐ。上記の手順により、建物10の架構16内に耐震壁18を設けることができる。なお、上記の手順は一例であり、順序が異なっていたり、他の工程が含まれていたりしても構わない。
(作用及び効果)
ここで、図4のグラフを用いて本実施形態の架構16及び耐震壁18の耐力について説明する。なお、図4において、鉄骨造の架構16の耐力を一点鎖線で示し、鉄骨造の架構16の耐力と木質の耐震壁18の耐力とを足し合わせたものを実線で示す。
図4に示すように、地震時等に建物10に水平力が加わった場合、鉄骨造の架構16及び木質の耐震壁18によってそれぞれ地震力(水平力)を負担し、架構16及び耐震壁18の耐力を足し合わせることで、必要とされる耐力を満たすことができる。
また、変形角が大きくなっても架構16及び耐震壁18は略一定の耐力を保ち続けるため、大地震時に建物10に大きな地震力が加わった場合(変形角が大きくなった場合)であっても、必要とされる耐力を満たすことができる。
これに対し、例えば架構をRC(鉄筋コンクリート)造とした場合、RC造の架構の剛性が高いため、剛性が高い架構の方に地震力が流れ、木質の耐震壁18が十分に耐力を発揮することができない。また、RC造の架構はせん断破壊等の脆性破壊後に耐力が低下するため、大地震時に建物に大きな地震力が加わった場合(変形角が大きくなった場合)に、必要とされる耐力を満たすことができなくなる虞がある。
上述したように、本実施形態の建物10によれば、鉄骨製の柱12及び梁14によって架構16が構築され、木質板材20を繊維方向が直交するように積層接着した耐震壁18が架構16内に設けられている。
このため、建物10に加わる鉛直力を鉄骨製の架構16で支持し、建物10に加わる地震力(水平力)に対しては耐震壁18の耐力を架構16の耐力に足し合わせることができる。すなわち、耐震壁18によって架構16の耐力を補うことができるため、架構16の耐力及び剛性を大きくすることなく必要耐力を得ることができる。これにより、例えば架構や耐震壁をRC造とした場合と比較して、部材断面を小さくすることができる。
また、耐震壁18が木質とされているため、建物10の軽量化を図ることができ、地震時の揺れを低減することができる。さらに、耐震壁18が、複数の木質板材20を繊維方向が直交するように積層接着した直交集成板で構成されているため、平面2方向に対して耐力を発揮させることができる。
また、本実施形態によれば、架構16の梁14と耐震壁18とが、引張力伝達部材としての引きボルト40、及びせん断力伝達部材としてのボルト34によって固定されている。このため、引張力及びせん断力を架構16から耐震壁18、又は耐震壁18から架構16に伝達することができる。
ここで、引きボルト40及びボルト34は、耐震壁18の異なる位置にそれぞれ別部材として設けられている。このため、引張力とせん断力とを同一の伝達部材で耐震壁18に伝達する構成と比較して、耐震壁18に形成する伝達部材の取付孔、すなわち挿通孔38等の精度管理が容易となる。
さらに、本実施形態によれば、耐震壁18と架構16の梁14との間にくさび板30が打込まれている。このため、耐震壁18を架構16に圧着させることができ、架構16から耐震壁18、又は耐震壁18から架構16へ圧縮力をより伝達することができる。
なお、くさび板30が打込まれる位置において、耐震壁18に切欠26が設けられていることにより、切欠26を設けない構成と比較して、くさび板30の厚さを厚くすることができ、くさび板30の成形精度及び位置精度を高めることができる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態における建物について、図5(A)及び図5(B)を用いて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、図示及び説明を省略する。
(構造)
図5(A)及び図5(B)に示すように、本実施形態の建物60は、第1実施形態と同様に、柱62及び梁64で構築された鉄骨造の架構66と、架構66内に設けられ、複数の木質板材70を繊維方向が直交するように積層接着した耐震壁68と、を有している。
梁64のフランジ64Aの幅方向における略中央部には、架構66側に突出し、梁64の軸方向に延びるプレート72が突設されている。また、プレート72には、厚さ方向に貫通する複数(本実施形態では3つ)の貫通孔74が形成されている。
一方、耐震壁68の主面における上端部及び下端部の略中央部には、プレート72の貫通孔74に対応する位置に複数(本実施形態では3つ)の挿通孔76が形成されている。また、図5(B)に示すように、耐震壁68の上端面及び下端面には、耐震壁68の幅方向に延び、プレート72が差込まれるスリット78が形成されている。
なお、図5(A)に示すように、本実施形態では、架構66の柱62間の幅と比較して耐震壁68の幅が小さくされており、柱62と耐震壁68との間には、耐震壁68がスライド可能な隙間80が形成されている。
(施工方法)
本実施形態の建物60の架構66内に耐震壁68を設ける場合、第1実施形態と同様に、まず、柱62及び梁64を格子状に接合して架構66を形成する。そして、直交集成板で構成された耐震壁68を、梁64のフランジ64Aから突出するプレート72を避けるように、面方向から架構66内に嵌込む。
次に、梁64上で耐震壁68をプレート72側(図5(A)における右側)にスライドさせて、スリット78内にプレート72を差し込み、耐震壁68の挿通孔76とプレート72の貫通孔74とが重なる位置まで耐震壁68を架構66内で移動させる。
そして、耐震壁68の主面側から、耐震壁68の挿通孔76及びプレート72の貫通孔74に、図5(B)に示すせん断力伝達部材としてのドリフトピン82を圧入し、耐震壁68とプレート72とを固定する。
なお、梁64と耐震壁68との間には、第1実施形態と同様に、図示しないくさび板が打込まれていてもよく、図示しない引張力伝達部材としての引きボルトが挿通されていてもよい。また、柱62と耐震壁68との間の隙間80は、架構66に設けられた開口として利用可能である。
(作用及び効果)
本実施形態によれば、梁64にプレート72が突設されており、プレート72が差込まれるスリット78が耐震壁68に形成されている。また、耐震壁68の幅が架構66の柱62間の幅より小さくされている。
このため、架構66に耐震壁68を嵌込んだ後で、梁64上で耐震壁68をスライドさせることにより、耐震壁68のスリット78内にプレート72を差し込むことができ、耐震壁68とプレート72とを固定することで耐震壁68を架構66に固定することができる。
また、本実施形態によれば、梁64のフランジ64Aの幅方向における略中央部にプレート72が突設され、プレート72が耐震壁68のスリット78に差込まれている。このため、架構66に耐震壁68を固定した際にプレート72が耐震壁68の主面側に露出せず、美観を損なうことを抑制することができる。
<その他の実施形態>
以上、本発明について第1、第2実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能である。また、第1実施形態及び第2実施形態の構成は、適宜組み合わせることが可能である。
第1実施形態ではボルト34によって耐震壁18にせん断力を伝達し、第2実施形態ではドリフトピン82によって耐震壁68にせん断力を伝達していたが、せん断力伝達部材はボルト34やドリフトピン82には限られない。
例えば、図6(A)に示すように、柱86と耐震壁88との間にくさび板90を打込むとともに、柱86と耐震壁88とを引きボルト92で固定することにより、耐震壁88にせん断力を伝達する構成としてもよい。
なお、梁94と耐震壁88との間には、第1実施形態と同様にくさび板30及び引張力伝達部材としての引きボルト40が設けられている。また、柱86と耐震壁88との間のくさび板90及び引きボルト92は、くさび板30及び引きボルト40と同様の構成とされている。
また、図6(B)に示すように、梁96の下部に突起98を形成し、耐震壁100の上端部に形成された凹部102に突起98を嵌合させることにより、耐震壁100にせん断力を伝達する構成としてもよい。なお、梁96と耐震壁100との間には、第1実施形態と同様にくさび板30及び引張力伝達部材としての引きボルト40が設けられている。
また、第1実施形態では、耐震壁18の上端部と梁14との間、及び耐震壁18の下端部と梁14との間にそれぞれくさび板30が打込まれていたが、耐震壁18の上端部及び下端部のどちらか一方にくさび板30が打込まれていればよい。上端部及び下端部のどちらか一方にくさび板30を打込むことで、耐震壁18の上端部及び下端部の双方を梁14に圧着させることができる。
また、第1実施形態では、引張力伝達部材としての引きボルト40、及びせん断力伝達部材としてのボルト34がそれぞれ別部材として設けられていた。しかし、例えば引きボルト40が挿通される挿通孔38を雌ネジ穴とする等の方法で引きボルト40に対する挿通孔38の寸法精度を高めることにより、引きボルト40を引張力伝達部材とせん断力伝達部材とを兼ねた伝達部材とすることが可能である。
また、第2実施形態では、柱62と耐震壁68との間に隙間80が形成され、耐震壁68の上端部及び下端部が梁64にそれぞれ固定される構成とされていたが、耐震壁は少なくとも対向する2辺が架構に固定されていればよい。このため、梁と耐震壁との間に隙間が形成され、耐震壁の左右両端部が柱にそれぞれ固定される構成とされていてもよい。
また、第2実施形態では、梁64のフランジ64Aの幅方向における略中央部にプレート72が突設され、プレート72が差込まれるスリット78が耐震壁68に形成されていた。しかし、フランジ64Aの幅方向における端部にプレートを突設し、耐震壁68を架構66に嵌込んだ際に耐震壁68の主面がプレートに当接する構成としてもよい。この構成とすることで、耐震壁68を架構66内でスライドさせることなくプレートに固定することができる。
また、第1実施形態では、くさび板30が木質とされていたが、金属製等とされていてもよい。さらに、第1、第2実施形態では、1つの架構16、66に1枚の耐震壁18、68が嵌込まれていたが、1つの架構16、66に複数の耐震壁を嵌込む構成としてもよい。その他、第1、第2実施形態において、架構16、66と耐震壁18、68との隙間に図示しない充填材等が充填されていてもよい。
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る建物について説明する。なお、第1,第2実施形態と同様の構成については、図示及び説明を省略する。
(構造)
図7に示されるように、本実施形態の建物110は、鉄骨造の架構112を備えている。架構112は、一対の鉄骨柱114と、一対の鉄骨柱114に架設された上下の鉄骨梁116とを有している。鉄骨柱114は、例えば、角形鋼管によって形成されている。また、上下の鉄骨梁116は、例えば、H形鋼によって形成されている。この架構112の構面内には、木質壁120が設けられている。なお、鉄骨柱114及び鉄骨梁116は、種々の形鋼や鋼管鋼によって形成することができる。
木質壁120は、例えば、耐力壁や耐震壁とされる。この木質壁120は、例えば、前述したCLTや、LVL(Laminated Veneer Lumber)、集成材、合板等の木質面材(木質パネル材)によって形成される。この木質壁120は、正面視にて矩形状に形成されている。
木質壁120は、一対の鉄骨柱114と間隔を空けて配置されている。この木質壁120は、一対の鉄骨柱114と接合されておらず、縁が切られている。
また、木質壁120は、上下の鉄骨梁116の間に配置されており、セメント系硬化体150を介して上下の鉄骨梁116にそれぞれ接合されている。具体的には、木質壁120は、上下の鉄骨梁116と間隔を空けて配置されている。また、木質壁120と上下の鉄骨梁116との間には、セメント系硬化体150がそれぞれ設けられている。この木質壁120は、セメント系硬化体150をそれぞれ貫通するブラケット130及び複数の引きボルト140によって、上下の鉄骨梁116に接合されている。
なお、本実施形態では、木質壁120と上下の鉄骨梁116との接合構造(梁壁接合構造)が同じ構造とされている。したがって、以下では、木質壁120と上側の鉄骨梁116との接合構造について説明する。
先ず、ブラケット130について説明する。ブラケット130は、せん断力を伝達可能に木質壁120と鉄骨梁116とを接合する。具体的には、ブラケット130は、例えば、鋼材によって形成されており、鉄骨梁116の材軸方向の中央部に設けられている。このブラケット130は、セメント系硬化体150を上下方向に貫通し、鉄骨梁116と木質壁120とに亘っている。
図8に示されるように、ブラケット130は、断面T字形状に形成されている。ブラケット130は、ベースプレート部130Aと、ベースプレート部130Aから延出する接合プレート部130Bとを有している。ベースプレート部130Aは、ボルト132及びナット134によって鉄骨梁116の下のフランジ116Aに接合されている。
接合プレート部130Bは、平板状に形成されている。また、接合プレート部130Bは、ベースプレート部130Aから木質壁120側へ延出されており、木質壁120の上端面に形成されたスリット(溝部)122に挿入されている。また、接合プレート部130Bは、木質壁120及び接合プレート部130Bを厚み方向に貫通するドリフトピン136によって、木質壁120に固定されている。このブラケット130によって、木質壁120と鉄骨梁116とがせん断力を伝達可能に接合されている。なお、ブラケット130及びドリフトピン136は、せん断力伝達部材の一例である。
次に、引きボルト140について説明する。図7に示されるように、引きボルト140は、引張力を伝達可能に木質壁120と鉄骨梁116とを接合する。この引きボルト140は、ブラケット130の両側に設けられている。各引きボルト140は、セメント系硬化体150を上下方向に貫通し、鉄骨梁116と木質壁120とに亘っている。なお、引きボルト140は、引張力伝達部材及び引張線材の一例である。
木質壁120の上部(鉄骨梁116側)の表面には、複数の凹部36が幅方向に間隔を空けて形成されている。また、木質壁120の上端面(鉄骨梁116側の端面)には、複数の凹部36にそれぞれ通じる挿通孔38(図2参照)が形成されている。これらの挿通孔38に、引きボルト140が挿入されている。
引きボルト140の下端部(一端部)は、凹部36内に配置されている。この引きボルト140の下端部に、座金46を介してナット44を締め込むことにより、引きボルト140の下端部が木質壁120の上部に固定されている。
一方、引きボルト140の上端部(他端部)は、セメント系硬化体150、及び鉄骨梁116の下のフランジ116Aを上下方向に貫通している。この引きボルト140の上端部にナット44を締め込むことにより、引きボルト140の上端部が鉄骨梁116に固定されている。これらの引きボルト140によって、木質壁120と鉄骨梁116とが引張力を伝達可能に接合されている。
次に、セメント系硬化体150について説明する。セメント系硬化体150は、例えば、引きボルト140及びブラケット130によって木質壁120と鉄骨梁116とを接合した状態で、木質壁120と鉄骨梁116との間にモルタルやグラウド、コンクリート等を充填することにより形成される。このセメント系硬化体150によって、鉄骨梁116の下面が耐火被覆される。
また、セメント系硬化体150の内部には、引きボルト140及び接合プレート部130Bの一部が埋設されている。つまり、引きボルト140及び接合プレート部130Bの一部が耐火被覆される。
次に、鉄骨梁116の耐火被覆構造について説明する。
図8に示されるように、鉄骨梁116は、上面耐火被覆材160と、一対の側面耐火被覆材162と、セメント系硬化体150とによって耐火被覆されている。上面耐火被覆材160及び一対の側面耐火被覆材162は、例えば、けい酸カルシウムボードや石こうボード等の耐火ボードによって形成されている。
上面耐火被覆材160は、鉄骨梁116の上側に配置されており、鉄骨梁116の上面を耐火被覆している。一方、セメント系硬化体150は、前述したように鉄骨梁116と木質壁120との間に配置されている。このセメント系硬化体150は、鉄骨梁116の下のフランジ116Aの下面を耐火被覆している。換言すると、鉄骨梁116は、木質壁120と対向する対向面を有し、この対向面がセメント系硬化体150によって耐火被覆されている。
図7に示されるように、下側の鉄骨梁116では、下面耐火被覆材164によって鉄骨梁116の下面が耐火被覆され、セメント系硬化体150によって鉄骨梁116の上面が耐火被覆される。なお、図7には、上面耐火被覆材160、一対の側面耐火被覆材162、及び下面耐火被覆材164が部分的に図示されている。
一対の側面耐火被覆材162は、鉄骨梁116の両側に配置されている。この一対の側面耐火被覆材162は、上面耐火被覆材160と木質壁120の上端部とに亘って設けられており、鉄骨梁116及びセメント系硬化体150の側面を耐火被覆している。
また、一対の側面耐火被覆材162は、鉄骨梁116の側面とセメント系硬化体150との側面とに亘って設けられている。これにより、セメント系硬化体150と側面耐火被覆材162との隙間から鉄骨梁116側への火災熱の侵入が抑制されている。
また、本実施形態では、側面耐火被覆材162の外面162Aと木質壁120の表面120Aとが略面一となるように、木質壁120の壁厚Tが鉄骨梁116及びセメント系硬化体150の幅Wよりも厚くされている。これにより、木質壁120の意匠性が高められている。なお、上面耐火被覆材160及び一対の側面耐火被覆材162は、図示しないピン等によって鉄骨梁116又はセメント系硬化体150に適宜固定されている。
ここで、本実施形態では、架構112が長期荷重(長期軸力)を負担し、木質壁120は長期荷重を負担しないように設計されている。この場合、木質壁120には、耐火被覆が不要となる。そのため、本実施形態では、木質壁120の耐火被覆を省略し、木質壁120を現しとされている。
なお、本実施形態では、鉄骨梁116の両端部の下側には、セメント系硬化体150が存在していない。そのため、鉄骨梁116の両端部の下面は、図示しない耐火被覆材によって適宜耐火被覆される。これと同様に、一対の鉄骨柱114も図示しない耐火被覆材によって適宜耐火被覆される。
(作用及び効果)
図1に示されるように、本実施形態によれば、架構112の上下の鉄骨梁116の間には、木質壁120が設けられている。また、上下の鉄骨梁116と木質壁120との間には、セメント系硬化体150がそれぞれ設けられている。この木質壁120は、セメント系硬化体150を貫通するブラケット130及び複数の引きボルト140によって上下の鉄骨梁116と接合されている。
これにより、地震時には、ブラケット130を介して鉄骨梁116と木質壁120の間でせん断力が伝達されるとともに、引きボルト140を介して鉄骨梁116と木質壁120の間で曲げモーメントが伝達される。したがって、建物110の耐震性能が向上する。
また、引きボルト140を介して上下の鉄骨梁116と木質壁120との間で曲げモーメントが伝達される際に、セメント系硬化体150には、鉄骨梁116及び木質壁120から圧縮力が伝達される。この圧縮力にセメント系硬化体150が抵抗することにより、鉄骨梁116と木質壁120との間で曲げモーメントがより効率的に伝達される。したがって、建物110の耐震性能がさらに向上する。
さらに、鉄骨梁116と木質壁120との間にセメント系硬化体150を充填することにより、鉄骨梁116及び木質壁120の施工誤差等を吸収することができる。
ここで、本実施形態では、架構112が長期荷重を負担し、木質壁120は長期荷重を負担しないように構成されている。この場合、木質壁120の耐火被覆を省略し、木質壁120を現しにすることができる。したがって、木質壁120の意匠性を高めることができる。
一方、木質壁120の耐火被覆を省略すると、火災時に木質壁120が燃焼し易くなる。そして、木質壁120が燃焼すると、木質壁120から上下の鉄骨梁116に火災熱が伝達され、上下の鉄骨梁116の強度が低下する可能性がある。
この対策として本実施形態では、木質壁120がセメント系硬化体150を介して上下の鉄骨梁116にそれぞれ接合されている。これにより、火災時に燃焼した木質壁120から上下の鉄骨梁116に伝達される火災熱が、セメント系硬化体150によって低減される。したがって、火災時における上下の鉄骨梁116の強度低下が抑制される。
このように本実施形態では、木質壁120の耐火被覆を省略しつつ、上下の鉄骨梁116の耐火性能を高めることができる。
また、鉄骨梁116は、上面耐火被覆材160及び一対の側面耐火被覆材162によって耐火被覆されている。これにより、鉄骨梁116の耐火性能がさらに高められる。
さらに、一対の側面耐火被覆材162は、鉄骨梁116の側面とセメント系硬化体150の側面とに亘って設けられる。これにより、側面耐火被覆材162とセメント系硬化体150との隙間から鉄骨梁116側に火災熱が侵入することが抑制される。したがって、鉄骨梁116の耐火性能をさらに高めることができる。
さらにまた、一対の側面耐火被覆材162の外面162Aと木質壁120の表面120Aとは、略面一とされている。これにより、側面耐火被覆材162の外面162Aと木質壁120の表面120Aとの間に段差がある場合と比較して、意匠性を高めることができる。
しかも、一対の側面耐火被覆材162は、鉄骨梁116と木質壁120とに亘って配置されている。これにより、鉄骨梁116と木質壁120との間にセメント系硬化体150用のモルタル等を充填する際に、一対の側面耐火被覆材162を型枠として使用することができる。したがって、セメント系硬化体150の施工性が向上する。
なお、本実施形態では、側面耐火被覆材162の外面162Aと木質壁120の表面120Aとが略面一とされるが、側面耐火被覆材162の外面162Aと木質壁120の表面120Aとの間には、段差が形成されても良い。また、例えば、側面耐火被覆材162によって、木質壁120の上部の表面120Aを耐火被覆することも可能である。
また、本実施形態では、一対の側面耐火被覆材162によって、鉄骨梁116及びセメント系硬化体150の側面が耐火被覆される。しかし、一対の側面耐火被覆材によって、鉄骨梁116の側面のみを耐火被覆するように構成しても良い。この場合、セメント系硬化体150と側面耐火被覆材との隙間から鉄骨梁116側へ火災熱が侵入しないように、当該隙間を耐火材によって適宜密閉することが望ましい。
また、上面耐火被覆材160及び一対の側面耐火被覆材162は、耐火ボードに限らず、シート状の巻き付け系耐火材や、吹付けロックウール等であっても良い。また、上面耐火被覆材160及び一対の側面耐火被覆材162は、適宜省略可能である。
また、木質壁120は、ブラケット130及び引きボルト140によって鉄骨梁116と接合されるが、ブラケット130及び引きボルト140の一方は省略可能である。また、木質壁は、例えば、地震力を負担しない間仕切壁等の雑壁とされても良い。この場合、木質壁は、ブラケット130及び引きボルト140に限らず、種々の接合構造によって鉄骨梁116と接合することができる。
また、架構112の柱は、鉄骨造に限らず、例えば、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造であっても良い。
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係る建物について説明する。なお、第1~第3実施形態と同様の構成については、図示及び説明を省略する。
(構造)
図9に示されるように、本実施形態の建物170は、上下方向に連続する複数の架構172を備えている。複数の架構172は、鉄筋コンクリート造(RC造)とされている。各架構172は、一対のコンクリート柱174と、一対のコンクリート柱174に架設された上下のコンクリート梁176とを有している。上下方向に隣り合う架構172の構面内には、木質壁120がそれぞれ設けられている。つまり、木質壁120は、複数層に連続する連層壁とされている。
なお、図9には、上下のコンクリート梁176のうち、上下方向に隣り合う架構172の境界部に位置するコンクリート梁176のみが図示されている。
木質壁120は、コンクリート梁176と図示しない他のコンクリート梁との間に配置されている。また、木質壁120は、コンクリート梁176に接触されている。この木質壁120は、ブラケット180及び複数の引きボルト190によって上下のコンクリート梁176に接合されている。
先ず、ブラケット180について説明する。ブラケット180は、せん断力を伝達可能に木質壁120とコンクリート梁176とを接合する。具体的には、ブラケット180は、コンクリート梁176の材軸方向の中央部に設けられている。なお、ブラケット180は、せん断力伝達部材の一例である。
ブラケット180は、接合プレート部180Aを有している。接合プレート部180Aは、例えば、鋼材等によって平板状に形成されている。また、接合プレート部180Aの一端側には、複数のスタッド182が設けられている。この接合プレート部180Aの一端側をコンクリート梁176に埋設することにより、ブラケット180がコンクリート梁176に固定されている。
一方、接合プレート部180Aの他端側は、コンクリート梁176から木質壁120側へ延出されており、木質壁120の上端面に形成された図示しないスリットに挿入されている。また、接合プレート部180Aは、木質壁120及び接合プレート部180Aを厚み方向に貫通するドリフトピン136によって、木質壁120に固定されている。このブラケット180によって、木質壁120とコンクリート梁176とがせん断力を伝達可能に接合されている。
次に、引きボルト190について説明する。引きボルト190は、引張力を伝達可能に木質壁120とコンクリート梁176とを接合する。この引きボルト190は、ブラケット180の両側に設けられている。
図10に示されるように、引きボルト190は、コンクリート梁176を上下方向に貫通しており、コンクリート梁176の上下に配置された木質壁120に亘っている。具体的には、引きボルト190は、コンクリート梁176に形成された貫通孔に挿入され、又はコンクリート梁176に一体に埋設されている。
なお、コンクリート梁176には、梁主筋186及びせん断補強筋188が埋設されている。また、引きボルト190は、引張力伝達部材及び引張線材の一例である。
引きボルト190は、上下の木質壁120の凹部36に亘って配置されている。そして、引きボルト190の上下の端部に、座金46を介してナット44をそれぞれ締め込むことにより、引きボルト190が上下の木質壁120に固定されている。この引きボルト190によって、上下の木質壁120がコンクリート梁176を介して引張力を伝達可能に接合されている。
(作用及び効果)
図9に示されるように、本実施形態によれば、上下のコンクリート梁176の間には、木質壁120が設けられている。木質壁120は、ブラケット180及び複数の引きボルト190によって、コンクリート梁176に接合されている。
これにより、地震時には、ブラケット180を介してコンクリート梁176と木質壁120との間でせん断力が伝達されるとともに、引きボルト190を介してコンクリート梁176と木質壁120の間で曲げモーメントが伝達される。したがって、建物170の耐震性能が向上する。
ここで、第3実施形態で前述したように、設計上、木質壁120に長期荷重を負担させない場合、木質壁120の耐火被覆を省略し、木質壁120を現しにすることができる。この場合、木質壁120の意匠性を高めることができる。
また、木質壁120は、コンクリート梁176に接合されている。このコンクリート梁176は、鉄骨梁と比較して耐火性能が高い。そのため、火災時に木質壁120が燃焼しても、コンクリート梁176の強度低下が低減される。
このように実施形態では、木質壁120をコンクリート梁176に接合することにより、木質壁120の耐火被覆を省略し、木質壁120を現しにすることができる。したがって、木質壁120の意匠性を高めることができる。
また、本実施形態では、引きボルト190によって、上下の木質壁120がコンクリート梁176に接合されている。これにより、本実施形態では、別々の引きボルトによって、上下の木質壁120をコンクリート梁176に接合する場合と比較して、引きボルト190の本数を低減することができる。
なお、コンクリート梁176の所定断面内に設ける引きボルト190の本数は、適宜変更可能である。例えば、図11に示される変形例では、コンクリート梁176の梁主筋178の位置に応じて、2本の引きボルト190がコンクリート梁176の所定断面に設けられている。
また、図12に示される変形例のように、コンクリート梁176と上下の木質壁120との間に、セメント系硬化体200を充填しても良い。この場合、火災時に燃焼した木質壁120からコンクリート梁176に伝達される火災熱が、セメント系硬化体200によって低減される。したがって、火災時におけるコンクリート梁176の強度低下が抑制される。
また、図12及び図13に示される変形例では、コンクリート梁176を上下方向に貫通する通しボルト184に、ブラケット130のベースプレート部130Aがナット134によって固定されている。このブラケット130の一部及びナット134は、セメント系硬化体200に埋設されている。なお、図13には、コンクリート梁176と上下の木質壁120との間にセメント系硬化体200を充填する前の状態が示されている。
さらに、図12及び図13に示される変形例では、上側の木質壁120の引きボルト210の下端部が、コンクリート梁176を上下方向に貫通する継ぎボルト212の上端部に、長ナット(カプラ)214を介して連結されている。これと同様に、下側の木質壁120の引きボルト216の上端部が、長ナット214を介して継ぎボルト212の下端部に連結されている。
ここで、施工時には、例えば、図14に示されるように、上側の木質壁120の下端面に形成された挿通孔38に長ナット214を収納しておく。そして、長ナット214を継ぎボルト212の上方に配置する。この状態で、長ナット214を回転させながら挿通孔38から引き出し、継ぎボルト212の上端部に長ナット214を締め込む。これにより、図13に示されるように、引きボルト210の下端部と継ぎボルト212の上端部とを長ナット214を介して連結することができる。したがって、引きボルト210の施工性が向上する。
なお、長ナット214は、コンクリート梁176に形成された収納孔に引出し可能に収納しておくことも可能である。また、継ぎボルト212は、コンクリート梁176に形成された貫通孔に挿入しても良いし、コンクリート梁176に一体に埋設(定着)しても良い。
また、図12に示される変形例のように、コンクリート柱174と木質壁120との間にセメント系硬化体202を充填することも可能である。
また、上記実施形態では、上下の木質壁120が、同じ引きボルト190によってコンクリート梁176に接合されるが、上下の木質壁120は、別々の引きボルトによってコンクリート176に接合しても良い。また、木質壁120は、連層壁に限らない。例えば、図9において、コンクリート176の上の木質壁120を省略しても良い。この場合、コンクリート176と下の木質壁120とは、引きボルト等によって適宜接合される。
また、木質壁120は、ブラケット130及び引きボルト190によってコンクリート梁176と接合されるが、ブラケット130は、適宜省略可能である。
また、架構172の柱は、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造に限らず、例えば、鉄骨造であっても良い。
以上、第1~第4実施形態を説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能である。また、第1~第4実施形態、及び各種の変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
例えば、上記第1,第2実施形態のくさび板30,90を上記第3実施形態における鉄骨造の架構112や、上記第4実施形態における鉄筋コンクリート造の架構172に、適宜適用しても良い。