JP7033958B2 - 回転機駆動システム - Google Patents

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Description

本発明は、回転機を駆動する回転機駆動システムに関するものである。
インバータ装置によって可変速運転される回転機の効率は、一般に一定負荷条件で回転数を推移させて得られる効率カーブで表され、要求される回転範囲のうち一部の回転域で効率がピークとなる。機器の省エネ化を実現するためには、幅広い回転範囲において効率カーブを向上させ、回転機の電力損失を低減することが重要である。
しかしながら、従来回転機では、低速回転域において効率が低くなることが知られている。この要因の一つとして、従来回転機では回転範囲を拡大するためにインダクタンスが小さくなるように設計されていることが挙げられる。インダクタンスが小さい従来回転機においては、回転機に供給される略正弦波状の電流波形に対して、インバータ装置のスイッチング周波数に応じた高調波成分が重畳される。このため、回転機のコアに発生する鉄損の高調波成分や、固定子巻線の表皮効果および近接効果によって発生する交流銅損などが大きくなり、結果として回転機の効率低下を招く。
これに対して、回転機を設計段階で高インダクタンス化することで、電流値そのものを低減できるとともに高調波成分を低減できることが知られている。これによって、低速回転域での効率向上を実現することが可能となるが、一方で高速回転域の効率が低下するほか、高速回転域まで駆動できず回転子が脱調してしまう課題がある。
このような課題に対して、特許文献1のように低速回転域と高速回転域とで固定子巻線の接続を切り替える技術がある。回転機の駆動中に接続を切り替える場合、切替接点にアークが発生して接点寿命が低下する。特許文献1では、接点アークを回避する目的でトルク指令を絞り、インバータ主回路を無通電状態にした上で接続を切り替える技術が開示されている。
特開平5-3694号公報
接点アークの発生原因は、接点開閉動作の際に接点間の距離が微小となる瞬間において、当該部の電界強度が増大することで絶縁破壊に至り、過大な電流が流れることにある。このため、接点部分が無通電状態であったとしても、接点間に電位差が発生する構成で、かつ接点閉の状態で通電可能な回路が形成される構成においては、接点アークの発生を回避することはできず、接点の長寿命化を実現することは困難である。
この課題は、低速回転域と高速回転域の間を遷移する過程で巻線接続を切り替える場合においても同様である。インバータ主回路を無通電状態で巻線接続を切り替えても、回転機の界磁磁束によって誘起される線間内部電圧Vacとインバータ装置に供給される直流電圧Vdcとの間には必ず電位差が発生する。このため、接点間にも電位差が発生し、かつ接点閉の状態で通電可能な回路が形成される。したがって、回転機の加減速に応じて巻線の接続切替を行うたびに接点アークが繰り返し発生し、接点の寿命が短くなることで保守コストが増大するほか、接点溶融などの不具合リスクが高まることで駆動システムとしての信頼性が低下するといった課題がある。
なお、上述の課題を解決する手段として、切替接点を半導体スイッチング素子で構成する方法が開示されている。しかしながら、この方法では回転機の駆動時において常にスイッチング素子に通電するため、導通損が発生する。すなわち、切替接点部で新たに電力損失が発生するため、駆動システム全体のエネルギー効率向上という観点では得策とは言えない。
本発明の目的は、接点アークが発生することなく回転機の回転域を変更することである。
上記目的を達成するために、本発明は、複数の巻線を有する回転機と、前記回転機に供給される相電流を検出する相電流検出回路と、直流電源からの直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と前記相電流検出回路の検出による相電流を基に前記インバータ回路による電力変換を制御する制御装置を含み、前記回転機を可変速運転するインバータ装置と、前記制御装置からの指令により前記複数の巻線の接続を切り替える巻線切替装置と、を備え、前記制御装置は、前記回転機の回転域を変更する場合、前記インバータ回路から前記回転機への電流供給を停止し、且つ、前記回転機の界磁磁束によって誘起される線間内部電圧が、前記直流電源の直流電圧よりも小さいことを条件に、前記回転機の回転域を低速回転域から高速回転域に或いは前記高速回転域から前記低速回転域に切り替えることを特徴とする。
本発明によれば、接点アークが発生することなく回転機の回転域を変更することができ、結果として、インバータ装置によって可変速運転される回転機において、低速回転域から高速回転域に亘る回転範囲で効率を向上させることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
本発明の第1の実施例における回転機駆動システムの全体構成を表すブロック図。 本発明の第1の実施例における巻線切替装置の説明図。 本発明の第1の実施例における接続切替時の回路図、および回転機の内部電圧波形図。 本発明の第1の実施例における消磁制御の構成を表すブロック図。 本発明の第1の実施例における消磁制御の効果を表す説明図。 本発明の第1の実施例における接続切替シーケンスを表すフローチャート。 本発明の第2の実施例における接続切替タイミングを表す説明図。 本発明の第3の実施例における鉄道車両に用いた回転機駆動システムの構成図。
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。以下の説明では、同一の構成要素には同一の記号を付してある。それらの名称および機能は同じであり、重複説明は避ける。また、以下の説明では1Y結線と2Y結線の接続切替を対象としているが、本発明の効果はこれに限定されるものではなく、上記とは異なる並列接続数のY結線を切り替える構成や、Δ結線の並列接続数を切り替える構成や、Y結線とΔ結線を切り替える構成にも適用可能である。また、回転機は誘導機でもよいし永久磁石同期機でもよいし巻線型同期機でもよいし、シンクロナスリラクタンス回転機でもよい。また、固定子の巻線方式は集中巻でもよいし分布巻でもよい。また、固定子巻線の相数も、実施例の構成に限定されるものではない。また、インバータ装置の半導体スイッチング素子はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を対象としているが、本発明の効果はこれに限定されるものではなく、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)でもよいし、その他の電力用半導体素子でもよい。また、回転機の制御方式として、速度検出器や電圧検出器を使用しないベクトル制御を対象としているが、速度検出器や電圧検出器を使用した制御方式にも適用可能である。
以下、図1乃至図6を用いて、本発明の第1の実施例について説明する。図1は、本発明の第1の実施例における回転機駆動システムの全体構成を表すブロック図である。図2は、本発明の第1の実施例における巻線切替装置の説明図である。図3は、本発明の第1の実施例における接続切替時の回路図、および回転機の内部電圧波形図である。図4は、本発明の第1の実施例における消磁制御の構成を表すブロック図である。図5は、本発明の第1の実施例における消磁制御の効果を表す説明図である。図6は、本発明の第1の実施例における接続切替シーケンスを表すフローチャートである。
本実施例の回転機駆動システムの全体構成について、図1を用いて説明する。図1において、インバータ装置101は、直流電源102の出力による直流電力を交流電力に変換し、交流電力を回転機103に出力するインバータ回路104と、インバータ回路104に接続された回転機103に流れる電流を検出する相電流検出回路106と、相電流検出回路106で検出された相電流情報106Aを基に印加電圧指令パルス信号108Aを用いて、インバータ回路104に対するインバータ制御(電力変換制御)を行って、回転機103を可変速運転する制御装置105で構成されている。相電流検出回路106は、ホールCT(Current Transformer)等から成り、U相、V相、W相の3相の電流波形Iu、Iv、Iwを検出している。ただし、相電流検出回路106によって必ずしも3相全ての電流を検出する必要はなく、いずれかの2相を検出し、3相電流が平衡状態であると仮定して他の1相を演算により求める構成でも良い。インバータ回路104は、IGBTQ1~Q6とダイオード(還流ダイオード)D1~D6などの複数の半導体スイッチング素子から構成されたインバータ主回路141と、インバータ制御部108からの印加電圧指令パルス信号108Aに基づいてインバータ主回路141のIGBTQ1~Q6へのゲート信号を発生するゲート・ドライバ142から構成されている。
回転機103は、例えば、複数の巻線を有する誘導機で構成され、各巻線の結線を切り替えられるように一部の巻線の始端と終端が引き出され、巻線切替装置120に格納される。巻線切替装置120は、回転機103の巻線の結線を切り替え可能な回路構成を有し、巻線切替指令部110からの信号に基づいて巻線接続を切り替える。
制御装置105は、相電流検出部106で検出された相電流情報106Aを用いて印加電圧指令パルス情報108Aを算出するインバータ制御部108と、回転機103の界磁磁束によって誘起される線間内部電圧Vacを推定する内部電圧推定部109と、巻線切替装置120に接続切替の信号を与える巻線切替指令部110から構成されている。
インバータ制御部108は、回転機103に印加する交流電圧指令値や検出電流値(相電流検出部106の検出電流値)に基づき回転周波数を推定するアルゴリズムを有し、回転周波数を推定する。ただし、この方法はインバータ装置101のインバータ回路104から回転機103に電流を供給している場合のみ有効である。電流供給を停止した状態で巻線の接続切替を実施し、そのあとで電流供給を再開する場合にも対応するため、通電開始直後に瞬時に、回転機103の回転周波数を推定するための初期速度推定アルゴリズムもインバータ制御部108は有している。また、回転機103の界磁磁束の軸をd軸とし、d軸に直交するトルク電流を操作する軸をq軸と定義して、電圧、電流、磁束といった交流変化する物理量をdq軸座標系の直流量として扱う。
内部電圧推定部109は、相電流情報106Aを基にインバータ制御部108で演算される回転周波数や界磁磁束の情報を用いて、回転機103の界磁磁束によって誘起される線間内部電圧Vacを推定し、推定結果をインバータ制御部108に出力する。
続いて図2、図3を用いて、切替装置の構成とこれを用いることで本発明の目的が達成される原理を説明するとともに、接続切替時に接点アークが発生する課題と解決手段、およびその原理について説明する。
図2(a)は回転機103の固定子U相巻線150uに関して、2つの巻線150u1、150u2の始端(端子)U1・U2と終端(端子)U3・U4を引き出し、直列・並列を切り替える構成を模式的に示した図である。V相、W相については同様のため記載を省略した。図2(a)のU相巻線150uの始端U1と始端U2、終端U3と終端U4をそれぞれ切替装置120u2で並列接続し、V相、W相も同様に並列接続し、3相の中性点151をY字状に結線した構成を2Y結線と呼ぶ。他方で、図2(a)のU相巻線150u1の終端U3とU相巻線150u2の始端U2を切替装置120u1で直列接続し、V相、W相も同様に直列接続し、3相の中性点151をY字状に結線した構成を1Y結線と呼ぶ。図2(a)に示すように、並列接続(3相で見ると2Y結線)に対して直列接続(3相で見ると1Y結線)ではインダクタンスが4倍となる。したがって、直列接続とすることで、インバータ装置101から回転機103へ供給される電流の高調波成分は大幅に低減される。
従来回転機では回転範囲を拡大するためにインダクタンスが小さくなるように設計されるため、電流の高調波成分が大きくなり、図2(b)に示すように、特に低速回転域において効率が低くなる課題があった。これに対し、切替装置120を用いて低速回転域では直列接続(3相で見ると1Y結線)とし、高速回転域では並列接続(3相で見ると2Y結線)とすることで、要求される幅広い回転範囲(低速回転域から高速回転域に亘る回転範囲)での駆動を可能としつつ、幅広い回転範囲で効率カーブを向上でき、回転機103の電力損失を低減することが可能となる。また、低速回転域においては、直列接続により回転機103が高インダクタンス化されるので、インバータ装置101から回転機103に供給する電流値そのものを低減でき、インバータ装置101の電力損失を大幅に低減することが可能となる。ただし、従来技術においては、回転機の駆動中に接続を切り替える場合、切替接点にアークが発生して接点寿命が低下する課題があった。
図3は、接続切替時にインバータ主回路141から回転機103への電流供給を停止し、無通電状態とした場合においても、切替接点にアークが発生してしまう原理を模式的に示した図である。図3(a)では、回転機103の固定子U相巻線150u、V相巻線150v、W相巻線150wが、図2に示したように並列接続から直列接続へと切り替えられる状態を一例にとった。各相の巻線切替装置120u1、120v1、120w1を接点開から接点閉に切り替えて、終端U3と始端U2、終端V3と始端V2、終端W3と始端W2をそれぞれ接続することで、各相2つの巻線150u1と150u2、150v1と150v2、150w1と150w2をそれぞれ直列接続する。インバータ主回路141は、直流電源102からの電力供給を受けているが、接続切替時には、制御装置105が、IGBT(Q1~Q6)のゲートをOFFに制御して回転機103への電流供給を停止している。
したがって、図3(a)ではIGBTを回路構成要素として無視し、IGBTの還流ダイオードD1~D6のみを回路構成要素とみなす。なお、半導体スイッチング素子にMOSFETを使用する場合は、MOSFETの寄生ダイオード(ボディダイオード)や、MOSFETに並列接続されるショットキーバリアダイオード(SBD)が、前述の還流ダイオードと同様に回路構成要素とみなせる。なお、インバータ主回路141と直流電源102との間には、一般にフィルタリアクトルやフィルタキャパシタ、直流電源102の保護回路等が接続されるが、ここでは説明簡略化のためフィルタキャパシタCfのみを図示している。
回転機103では、U相、V相、W相それぞれに界磁磁束Φ2dによって誘起される内部電圧Viu、Viv、Viwが発生する。内部電圧Viu、Viv、Viwは、回転周波数frに依存し、図3(b)に示すように交流で変化する。以下では、図3(b)のt=t1の瞬間を例にとり、U相-W相間に線間内部電圧Vacが発生した場合について説明する。なお、内部電圧Viは、厳密には各相の各巻線150u1と150u2、150v1と150v2、150w1と150w2にそれぞれ発生するが、説明簡略化のため、図3(a)では各相1つの交流電圧要素として集約した。
すなわち、図3(b)の線間内部電圧Vacの大きさが仮に並列接続時の大きさとすると、直列接続時の線間内部電圧は2Vacとなる。しかしながら、後述するように、本実施例では、巻線の接続状態に依らず直流電圧Vdc(直流電源102の両端電圧)と線間内部電圧Vacの相対的な大小関係のみに着目することで接点アークの課題を解決する手段を見出しており、線間内部電圧の基準値を並列接続時とするか直列接続時とするかは重要ではない。したがって、接続切替の前後において線間内部電圧Vacの大きさは異なることを前提とした上で、いずれの場合においても線間内部電圧をVacと表記する。
図3(a)において、線間内部電圧Vacが直流電圧Vdcよりも大きい場合には、始端U2と終端U3、始端W2と終端W3の間にそれぞれ電位差が発生し、かつ、接点閉に切り替えることで、電流は回転機103(高電位側)からインバータ主回路141(低電位側)へと流れる。この電流の向きが還流ダイオードD1~D6の順方向と一致するため、サージ電流Isが発生し、これによって接点アークが引き起こされる。従来技術ではインバータ主回路を無通電状態にして接続を切り替えることで接点アークを回避できると考えられていたが、接続切替の前後いずれかにおいて線間内部電圧Vacが直流電圧Vdcよりも大きくなる場合には接点アークが発生する。このような状態では、回転機の加減速に応じて巻線の接続切替を行うたびに接点アークが繰り返し発生し、接点の寿命が短くなることで保守コストが増大するほか、接点溶融などの不具合リスクが高まることで回転機駆動システムとしての信頼性が低下するといった課題があった。
上述の課題を解決するため、本実施例では、直流電圧Vdcと線間内部電圧Vacの相対的な大小関係に着目した。すなわち、接続切替の前後いずれにおいても、線間内部電圧Vacが直流電圧Vdcよりも小さくなるようにすれば、接点アークを回避できると考えた。この原理について、再び図3(a)を用いて以下に説明する。線間内部電圧Vacが直流電圧Vdcよりも小さい場合には、始端U2と終端U3、始端W2と終端W3の間にそれぞれ電位差が発生するが、接点閉に切り替えたときに、電流は、インバータ主回路141(高電位側)から回転機103(低電位側)へと流れようとする。しかし、この電流の向きは還流ダイオードD1~D6に対して逆方向となるため、通電がブロックされ、無通電状態が維持される。このため接点アークは発生しない。この際、制御装置105は、回転機103の回転域を変更する場合、インバータ回路104から回転機103への電流供給を停止し、且つ、回転機103の界磁磁束によって誘起される線間内部電圧Vacと直流電源102の出力による直流電圧Vdcとを比較し、線間内部電圧Vacが、直流電圧Vdcよりも小さいことを条件に、回転機103の回転域を低速回転域から高速回転域に或いは高速回転域から低速回転域に切り替えることになる。
接続切替の前後における直流電圧Vdcと線間内部電圧Vacの大小関係の組合せと、接点アークの発生有無、ならびに各組合せで想定される低速回転域と高速回転域の遷移状態を以下の表1にまとめる。
Figure 0007033958000001
表1の遷移状態に関しては、図2(b)に示すように、低速回転域で直列接続(1Y結線)としたときに内部電圧が増加することから、#2は低速→高速の遷移時を想定したケースである。同様に#3は、高速→低速の遷移時を想定したケースである。
線間内部電圧Vacは、回転機103の回転周波数frに依存し、その大きさは、次の(1)式に示すように、界磁磁束Φ2dと回転周波数frに比例する。
Figure 0007033958000002
本実施例では、内部電圧推定部109で線間内部電圧Vacを推定し、接続切替の前後いずれにおいても、線間内部電圧Vacが直流電圧Vdcよりも小さくなるような回転周波数frにおいて、巻線切替指令部110が巻線接続を切り替える指令を出すよう構成する。これによって、常に表1の#4の状態で接続切替を実施することが可能となり、接点アークを回避することが可能となる。
なお、接続切替の前後における線間内部電圧Vacは設計段階で把握できる。したがって、接続切替の前後いずれにおいても、線間内部電圧Vacが、直流電圧Vdcよりも小さくなるような回転周波数frで接続切替の指令を出すように、巻線切替指令部110を予め構成しておくことで、内部電圧推定部109がなくても、接点アークを回避することが可能である。
以上にて、接続切替時に接点アークが発生する課題と解決手段、およびその原理について説明した。
ところで、表1の#1~3に対しては、従来技術では接点アークを回避できない。一方、本実施例では、この課題を解決するために、接続切替の前後いずれにおいても、線間内部電圧Vacが、直流電圧Vdcより小さくなるような消磁制御を行う方法を見出した。これに関して図4、図5を用いて以下に説明する。
図4は消磁制御の処理構成を表す図である。図5は消磁制御によってインバータ制御部108の各操作量と界磁磁束Φ2dがどのように変化するかを模式的に表した波形図である。一例として、誘導機(回転機103)の駆動状態においては、インバータ主回路141から回転機103への電流供給を停止しても、界磁磁束Φ2dはすぐに零にはならず、回転子の二次抵抗と二次漏れインダクタンスで決定される時定数で減衰するため、磁束の消失に時間がかかる。この状態では、接続切替に膨大な時間を要するため、回転機駆動システムとしての要求仕様を満足できなくなる。
そこで本実施例では、インバータ主回路141が、回転機103への電流供給を停止する前に、内部電圧推定部109の演算結果に基づき、接続切替の前後のいずれかにおいて線間内部電圧Vacが、直流電圧Vdcより大きいと判定した場合には、界磁磁束を減少させて、線間内部電圧Vacが、接続切替の前後いずれにおいても直流電圧Vdcより小さくなるような消磁制御を行う。
具体的には、図4に示すように、インバータ制御部108では、電流指令操作処理108Aとして、励磁電流指令値Id*の過去値を記憶し、時間に対する励磁電流指令値Id*の変化分ΔIdを求める。続いて、インバータ制御部108では、ゲイン設定部108Bに設定された消磁制御ゲイン補正値KMと、時間に対する励磁電流指令値Id*の変化分ΔIdとから、消磁制御励磁電流操作量の計算108Cとして、次の(2)式により消磁制御励磁電流操作量ΔId’を計算する。
Figure 0007033958000003
ただし、KM:消磁制御ゲイン補正値
ΔId:時間に対する励磁電流指令値Id*の変化分
ここで、消磁制御励磁電流操作量ΔId’は、図5(a)に示す励磁電流指令値Id*の時間微分値であり、その波形は、図5(b)に示す通りである。消磁制御においてΔId’は負であり、次の(3)式が成り立つ。
Figure 0007033958000004
次に、インバータ制御部108では、磁束指令演算108Dとして、図5(c)に示すId*+ΔId'に対するローパスフィルタ処理を実行し、Id*+ΔId'のローパスフィルタ値を示すd軸磁束指令値Φ2d*を生成する。したがって、図5(d)に示すように、消磁制御なしの場合、d軸磁束指令値Φ2d*がゼロに収束するまで、時間t1~t4が必要である。これに対して、消磁制御ありの場合、d軸磁束指令値Φ2d*が時間t1~t3でゼロに収束した。すなわち、消磁制御の有効化によって、d軸磁束指令値Φ2d*がゼロに収束する時間は、時間t4からt3に短縮される。
以上のように、表1の#1~3の状態であっても、上述の消磁制御によって常に表1の#4の状態を短時間で作り出すことができ、その上で接続切替を実施することで確実に接点アークを回避することが可能となる。また、接続切替に要する時間を最小化できるので、回転機駆動システムとしての要求性能を維持しつつ、幅広い回転範囲で効率カーブを向上することができる。すなわち、低速回転域から高速回転域に亘って回転機103の効率を高めることができる。
以上に述べた接続切替のシーケンスを図6のフローチャートに纏める。図6において、制御装置105では、内部電圧推定部109が、相電流情報106Aを基にインバータ制御部108で演算される回転周波数や界磁磁束の情報を用いて、回転機103の界磁磁束によって誘起される線間内部電圧Vacを推定する(S1)。次に、インバータ制御部108は、内部電圧推定部109の推定結果から、直流電圧Vdcが線間内部電圧Vacよりも大きいか否かを判定する(S2)。ステップS2で、直流電圧Vdcが線間内部電圧Vacよりも大きくないと判定した場合(NO)、すなわち、直流電圧Vdcが線間内部電圧Vacよりも小さいと判定した場合、インバータ制御部108は、消磁制御を実行し(S3)、ステップS1の処理に戻り、ステップS1~S2の処理を繰り返す。
一方、ステップS2で、直流電圧Vdcが線間内部電圧Vacよりも大きいと判定した場合(YES)、インバータ制御部108は、インバータ装置101から回転機103への電流供給停止の制御を実行し(S4)、巻線指令部110に接続切替の指令を出力する。接続切替の指令を受けた巻線切替指令部110は、巻線切替装置120に対して接続切替の指令を出力する(S5)。この結果、巻線切替装置120により回転機103の巻線の接続切替が実行される。
この後、インバータ制御部108は、インバータ装置101から回転機103への電流供給再開の制御(IGBTをスイッチング動作させる制御)を実行し(S6)、このルーチンでの処理を終了する。
ところで、回転機103の巻線の接続切替に伴い、インバータ主回路141から回転機103への電流供給を停止すると、回転機103のトルクが零となるため、回転機駆動システムの慣性のみで回転機103は回転する状態となる。また、接続切替の後に、インバータ主回路141から回転機103への電流供給を再開する場合も、回転機103のトルクを零から立ち上げるため、所望の加速性能や回転条件に到達するまでに時間を要することとなる。車両に搭載された回転機駆動システムの場合は、このような期間が存在することで乗り心地が悪化する課題がある。
そこで本実施例では、上述の消磁制御を行った後も、線間内部電圧Vacが内部電圧推定部109によって推定可能な大きさとなるように消磁レベルを制御して、界磁磁束を残す方法を見出した。これにより、接続切替が実施された後においても、インバータ制御部108は、残留している界磁磁束を基にして電流投入位相を演算しやすくなり、インバータ主回路141から回転機103への電流供給をスムーズに再開できるようにする。また、界磁磁束を残すことで、電流供給再開後の回転機3のトルク立上げ時間を最小限に止めることが可能となる。
上述の制御は、特に1C1Mのシステムにおいて、接続切替時の減速を防止する点で有効となる。
また、インバータ装置1台と回転機の少なくとも2台とを組合せて駆動される1CnM(n=2、3、4、・・・)の構成に対しても、同様の効果を得ることができるので有効である。
また、1CnM(n=1、2、3・・・)の組合せが少なくとも2群以上で構成される回転機駆動システムでは、群毎に接続切替のタイミングをずらすことで、接続切替時の減速影響をさらに低減することが可能である。
一方で、巻線の接続切替に要する時間がある程度許容される回転機駆動システムにおいては、消磁制御を行った後、線間内部電圧Vacが内部電圧推定部109によって推定できないほど十分小さくなるように消磁レベルを制御してもよい。すなわち、制御装置105は、消磁制御を行った後の線間内部電圧Vacが、相電流情報106Aを基に推定した値で見たときにゼロとなるように、消磁レベルを制御する。この際、制御装置105が、消磁制御を行った後の線間内部電圧Vacは、制御装置105が、相電流情報106Aを基にゼロと推定するほどの大きさなので、実質的にもゼロである。これによって、接点間(終端・始端間)の電位差を最小化することが可能となるので、接点の耐久性をさらに向上することができる。
本実施例では、回転機103の巻線の接続切替に伴い、回転機103の回路定数が変化するため、インバータ装置101には、接続切替の前後それぞれの巻線接続状態を表す複数の制御パラメータを記録させる。そして、インバータ主回路141から回転機103への電流供給を停止してから、次に電流供給を再開するまでの間に、内部電圧推定部109やインバータ制御部108での演算に用いられる制御パラメータの少なくとも1つが、接続切替の前における制御パラメータから、接続切替の後における制御パラメータに変更されるようにプログラムする。これによって、電流供給再開後の回転機103のトルク立上げをスムーズに実施することができる。
なお、永久磁石同期機においては、界磁磁束が永久磁石の磁化によって常時発生している。このため、表1の#1~3に対しては、永久磁石の磁化を打ち消すような電流を固定子から印加すればよく、上述の消磁制御を適用することで常に表1の#4の状態を作り出すことができ、その上で接続切替を実施することで確実に接点アークを回避することが可能となる。ただし、消磁に要するエネルギーが大きくなるため、消磁制御に伴うトルクショックが大きくなる場合がある。この点で、巻線接続の切替は誘導機で構成される回転機駆動システムで実施する方が好ましい。
また、シンクロナスリラクタンス回転機の場合は、回転子コアの残留磁化が界磁磁束源となる。この場合においても同様に消磁制御が適用可能であり、常に表1の#4の状態で接続切替を実施することで、確実に接点アークを回避することができる。
本実施例によれば、接点アークが発生することなく回転機の回転域を変更することができ、結果として、インバータ装置によって可変速運転される回転機において、低速回転域から高速回転域に亘る回転範囲で効率を向上させることができる。また、上述した効果のほかにも次のような効果がある。
内部電圧の制御のみで接点アークを回避できるので、追加の保護回路が不要となりコストがかからない。
半導体スイッチング素子を使用せずに、機械スイッチで構成するため、切替装置部分で新たな電力損失が発生しない。
図7を用いて本発明の第2の実施例について説明する。図7は、本発明の第2の実施例における接続切替タイミングを表す説明図である。
図7(a)に示すように、低速回転域から高速回転域へと遷移するときには、回転機103の端子電圧(モータ端子電圧)Vmが、インバータ主回路141から供給可能な最大電圧Vmaxに対して、0.5<Vm/Vmax又は0.5=Vm/Vmax、且つVm/Vmax<1又はVm/Vmax=1となる第1の電圧比範囲で接続切替を実施する。この理由は、一般に可変速運転される回転機103では、端子電圧Vmが最大電圧Vmaxに到達する回転数で効率が最大となるように設計されるためである。それに対して0.5倍の回転数(端子電圧は0.5Vmax)よりも高い領域であれば、接続切替の前後で効率には大差がないためである。
同様にして、図7(b)に示すように、高速回転域から低速回転域へと遷移するときには、回転機103の端子電圧(モータ端子電圧)Vmが、インバータ主回路141から供給可能な最大電圧Vmaxに対して、0<Vm/Vmax又は0=Vm/Vmax、且つVm/Vmax<0.5又はVm/Vmax=0.5となる第2の電圧比範囲で接続切替を実施する。
本実施例によれば、回転機103の回転域が低速回転域から高速回転域へと遷移するときには、第1の電圧比範囲で接続切替を実施し、回転機103の回転域が高速回転域から低速回転域へと遷移するときには、第2の電圧比範囲で接続切替を実施することで、接続切替の前後における回転機103の効率を最大にすることができる。
図8を用いて本発明の第3の実施例について説明する。図8は、本発明の第3の実施例における鉄道車両に用いた回転機駆動システムの構成図である。
鉄道車両の駆動装置は架線2から集電装置5を介して電力が供給され、電力変換装置1を経由して交流電力が回転機103に供給されることで回転機103を駆動する。回転機103は鉄道車両の車軸4と連結されており、回転機103により鉄道車両の走行が制御される。電気的なグランドはレール3を介して接続されている。ここで、架線2の電圧は直流および交流のどちらでもよい。
上記実施例によれば、これまでの実施例の回転機駆動システムを鉄道車両システムに搭載することで、鉄道車両の回転機駆動システムを高効率に運転することが可能となる。また、同様の効果は、自動車や建機などの車両においても得ることができる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば、集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、IC(Integrated Circuit)カード、SD(Secure Digital)メモリカード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に記録して置くことができる。
1:電力変換装置、2:架線、3:レール、4:車輪、5:集電装置、101:インバータ装置、102:直流電源、103:回転機、104:インバータ回路、105:制御装置、106:相電流検出回路、108:インバータ制御部、109:内部電圧推定部、110:巻線切替指令部、120:巻線切替装置、141:インバータ主回路、142:ゲート・ドライバ、150:固定子巻線、151:中性点。

Claims (12)

  1. 複数の巻線を有する回転機と、
    前記回転機に供給される相電流を検出する相電流検出回路と、
    直流電源からの直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と前記相電流検出回路の検出による相電流を基に前記インバータ回路による電力変換を制御する制御装置を含み、前記回転機を可変速運転するインバータ装置と、
    前記制御装置からの指令により前記複数の巻線の接続を切り替える巻線切替装置と、を備え、
    前記制御装置は、
    前記回転機の回転域を変更する場合、前記インバータ回路から前記回転機への電流供給を停止し、且つ、前記回転機の界磁磁束によって誘起される線間内部電圧が、前記直流電源の直流電圧よりも小さいことを条件に、前記回転機の回転域を低速回転域から高速回転域に或いは前記高速回転域から前記低速回転域に切り替え
    前記回転機の回転周波数を制御すると共に、前記相電流検出回路の検出による前記相電流を基に前記線間内部電圧を推定し、推定された前記線間内部電圧が、前記直流電圧よりも小さくなる前記回転周波数において、前記巻線切替装置に対して前記複数の巻線の接続切替を指令し、
    前記インバータ回路から前記回転機への電流供給を停止する前に、前記接続切替の前後のいずれかにおいて前記線間内部電圧が、前記直流電圧より大きい場合には、励磁電流指令値を減少することで前記回転機の界磁磁束を減少させて、前記接続切替の前後いずれにおいても前記線間内部電圧が、前記直流電圧より小さくなる消磁制御を行うことを特徴とする回転機駆動システム。
  2. 請求項に記載の回転機駆動システムにおいて、
    前記制御装置は、
    前記消磁制御を行った後の前記線間内部電圧が、前記相電流検出回路の検出による前記相電流を基に推定可能な大きさに維持され、前記接続切替が実施された後に、前記相電流検出回路の検出による前記相電流から得られる位相情報を基に、インバータ主回路から前記回転機への電流供給を再開することを特徴とする回転機駆動システム。
  3. 請求項に記載の回転機駆動システムにおいて、
    前記制御装置が前記消磁制御を行った後の前記線間内部電圧は、前記制御装置が前記相電流を基に推定した値で見たときにゼロであることを特徴とする回転機駆動システム。
  4. 請求項に記載の回転機駆動システムにおいて、
    前記制御装置は、
    前記接続切替の前後それぞれの巻線接続状態を表す複数の制御パラメータを有し、
    前記電流供給を停止してから、次に前記電流供給を再開するまでの間に、前記複数の制御パラメータのうちの少なくとも1つを、前記接続切替の前における前記制御パラメータから、前記接続切替の後における前記制御パラメータに変更することを特徴とする回転機駆動システム。
  5. 請求項1~のうちいずれか1項に記載の回転機駆動システムにおいて、
    前記制御装置は、
    前記回転機の回転域を前記低速回転域から前記高速回転域へと遷移するときに、前記回転機の端子電圧Vmが、前記インバータ装置から供給可能な最大電圧Vmaxに対して、0.5<Vm/Vmax又は0.5=Vm/Vmax、且つVm/Vmax<1又はVm/Vmax=1となる電圧比の範囲で、前記接続切替を実施することを特徴とする回転機駆動システム。
  6. 請求項1~のうちいずれか1項に記載の回転機駆動システムにおいて、
    前記制御装置は、
    前記回転機の回転域を前記高速回転域から前記低速回転域へと遷移するときに、前記回転機の端子電圧Vmが、前記インバータ装置から供給される最大電圧Vmaxに対して、0<Vm/Vmax又は0=Vm/Vmax、且つVm/Vmax<0.5又はVm/Vmax=0.5となる電圧比の範囲で前記接続切替を実施することを特徴とする回転機駆動システム。
  7. 請求項1~のうちいずれか1項に記載の回転機駆動システムにおいて、
    前記巻線切替装置は、機械式のスイッチで構成されることを特徴とする回転機駆動システム。
  8. 請求項1~のうちいずれか1項に記載の回転機駆動システムにおいて、
    前記回転機は、誘導機であることを特徴とする回転機駆動システム。
  9. 請求項1~のうちいずれか1項に記載の回転機駆動システムにおいて、
    前記インバータ装置1台と前記回転機1台とを組合せて駆動される1C1Mの構成であることを特徴とする回転機駆動システム。
  10. 請求項1~のうちいずれか1項に記載の回転機駆動システムにおいて、
    前記インバータ装置1台と前記回転機の少なくとも2台とを組合せて駆動される1CnM(n=2, 3, 4, …)の構成であることを特徴とする回転機駆動システム。
  11. 請求項又は請求項10に記載の回転機駆動システムにおいて、
    前記1CnM(n=1, 2, 3, …)の組合せが少なくとも2群以上で構成されることを特徴とする回転機駆動システム。
  12. 回転機を駆動する回転機駆動システムを搭載する車両において、
    前記回転機駆動システムとして、請求項1~11のうちいずれか1項に記載の回転機駆動システムを備えることを特徴とする車両。
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