以下、本発明のインバータ制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。インバータ制御装置20は、図1に示すように、インバータ10と直流リンクコンデンサ4とを備える回転電機駆動装置1を制御対象とし、回転電機駆動装置1を介して回転電機80を駆動制御する。後述するように、インバータ10は、直流電源(11)にコンタクタ9を介して接続されると共に、交流の回転電機80に接続されて直流と多相交流(ここでは3相交流)との間で電力変換を行う電力変換装置であり、交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成されている。直流リンクコンデンサ4は、このインバータ10の直流側の電圧である直流リンク電圧Vdcを平滑化する。回転電機駆動装置1及びインバータ制御装置20による駆動対象の回転電機80は、例えばハイブリッド自動車や電気自動車等の車両の駆動力源となる回転電機である。車両の駆動力源としての回転電機80は、多相交流(ここでは3相交流)により動作する回転電機であり、電動機としても発電機としても機能することができる。
鉄道のように架線から電力の供給を受けることができない自動車のような車両では、回転電機80を駆動するための電力源としてニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどの直流電源を搭載している。本実施形態では、回転電機80に電力を供給するための大電圧大容量の直流電源として、例えば電源電圧200〜400[V]の高圧バッテリ11(直流電源)が備えられている。回転電機80は、交流の回転電機であるから、高圧バッテリ11と回転電機80との間には、直流と交流(ここでは3相交流)との間で電力変換を行うインバータ10が備えられている。インバータ10の直流側の正極電源ラインPと負極電源ラインNとの間の電圧は、以下“直流リンク電圧Vdc”と称する。高圧バッテリ11は、インバータ10を介して回転電機80に電力を供給可能であると共に、回転電機80が発電して得られた電力を蓄電可能である。
インバータ10と高圧バッテリ11との間には、インバータ10の直流側の正負両極間電圧(直流リンク電圧Vdc)を平滑化する平滑コンデンサ(直流リンクコンデンサ4)が備えられている。直流リンクコンデンサ4は、回転電機80の消費電力の変動に応じて変動する直流電圧(直流リンク電圧Vdc)を安定化させる。直流リンクコンデンサ4と高圧バッテリ11との間には、直流リンクコンデンサ4から回転電機80までの回路と、高圧バッテリ11との電気的な接続を切り離すことが可能なコンタクタ9が備えられている。本実施形態において、このコンタクタ9は、車両の最も上位の制御装置の1つである車両ECU(Electronic Control Unit)90からの指令に基づいて開閉するメカニカルリレーであり、例えばシステムメインリレー(SMR:System Main Relay)と称される。コンタクタ9は、車両のイグニッションキー(IGキー)がオン状態(有効状態)の際にSMRの接点が閉じて導通状態(接続状態)となり、IGキーがオフ状態(非有効状態)の際にSMRの接点が開いて非導通状態(開放状態)となる。インバータ10は、高圧バッテリ11と回転電機80との間にコンタクタ9を介して介在され、コンタクタ9が接続状態において高圧バッテリ11とインバータ10(及び回転電機80)とが電気的に接続され、コンタクタ9が開放状態において高圧バッテリ11とインバータ10(及び回転電機80)との電気的接続が遮断される。
インバータ10は、直流リンク電圧Vdcを有する直流電力を複数相(nを自然数としてn相、ここでは3相)の交流電力に変換して回転電機80に供給すると共に、回転電機80が発電した交流電力を直流電力に変換して直流電源に供給する。インバータ10は、複数のスイッチング素子を有して構成される。スイッチング素子には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC−MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC−SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN−MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などの高周波での動作が可能なパワー半導体素子を適用すると好適である。図1に示すように、本実施形態では、スイッチング素子としてIGBT3が用いられる。
例えば直流と多相交流(ここでは3相交流)との間で電力変換するインバータ10は、よく知られているように多相(ここでは3相)のそれぞれに対応する数のアームを有するブリッジ回路により構成される。つまり、図1に示すように、インバータ10の直流正極側(直流電源の正極側の正極電源ラインP)と直流負極側(直流電源の負極側の負極電源ラインN)との間に2つのIGBT3が直列に接続されて1つのアームが構成される。3相交流の場合には、この直列回路(1つのアーム)が3回線(3相)並列接続される。つまり、回転電機80のU相、V相、W相に対応するステータコイル8のそれぞれに一組の直列回路(アーム)が対応したブリッジ回路が構成される。図1及び図7等に示すように、インバータ10は、交流1相分のアームが、相補的にスイッチング制御される上段側スイッチング素子(上段側IGBT(31,33,35))と下段側スイッチング素子(下段側IGBT(32,34,36))との直列回路により構成される。
対となる各相のIGBT3による直列回路(アーム)の中間点、つまり、正極電源ラインPの側のIGBT3(上段側IGBT(上段側スイッチング素子)31,33,35:図7等参照)と負極電源ラインN側のIGBT3(下段側IGBT(下段側スイッチング素子)32,34,36:図7等参照)との接続点は、回転電機80のステータコイル8(8u,8v,8w:図7等参照)にそれぞれ接続される。尚、各IGBT3には、負極“N”から正極“P”へ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、並列にフリーホイールダイオード(FWD)5が備えられている。
図1に示すように、インバータ10は、インバータ制御装置20により制御される。インバータ制御装置20は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。例えば、インバータ制御装置20は、車両ECU90等の他の制御装置等からCAN(Controller Area Network)などを介して要求信号として提供される回転電機80の目標トルクTMに基づきインバータ10を介して回転電機80を制御する。
インバータ制御装置20は、インバータ10を構成するIGBT3のスイッチングパターンの形態(電圧波形制御の形態)として、少なくともパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御と矩形波制御(1パルス制御)との2つの制御形態を有している。また、インバータ制御装置20は、ステータの界磁制御の形態として、モータ電流に対して最大トルクを出力する最大トルク制御や、モータ電流に対して最大効率でモータを駆動する最大効率制御などの通常界磁制御、及び、トルクに寄与しない界磁電流を流して界磁磁束を弱める弱め界磁制御や、逆に界磁磁束を強める強め界磁制御などの界磁調整制御を有している。
本実施形態では、回転電機80の回転に同期して回転する2軸の直交ベクトル空間(座標系)における電流ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を実行して回転電機80を制御する。電流ベクトル制御法では、例えば、永久磁石による界磁磁束の方向に沿ったd軸と、このd軸に対して電気的にπ/2進んだq軸との2軸の直交ベクトル空間において電流フィードバック制御を行う。インバータ制御装置20は、制御対象となる回転電機80の目標トルクTMに基づいてトルク指令を決定し、d軸及びq軸の電流指令を決定する。そして、インバータ制御装置20は、電流指令と回転電機80の各相のステータコイル8との間を流れる実電流との偏差を求めて比例積分制御演算(PI制御演算)や比例積分微分制御演算(PID制御演算)を行い、最終的に3相の電圧指令を決定する。この電圧指令に基づいて、スイッチング制御信号が生成される。回転電機80の実際の3相空間と2軸の直交ベクトル空間との間の相互の座標変換は、例えばレゾルバなどの回転センサ13により検出された磁極位置に基づいて行われる。また、回転電機80の回転速度(角速度)や回転数[rpm]は、回転センサ13の検出結果より導出される。回転電機80の各相のステータコイル8を流れる実電流は電流センサ12により検出される。
上述したように、インバータ10のスイッチング形態には、PWM制御モードと矩形波制御モードとがある。PWM制御は、U,V,Wの各相のインバータ10の出力電圧波形であるPWM波形が、上段側スイッチング素子がオン状態となるハイレベル期間と、下段側スイッチング素子がオン状態となるローレベル期間とにより構成されるパルスの集合で構成されると共に、その基本波成分が一定期間で略正弦波状となるように、各パルスのデューティが設定される制御である。公知の正弦波PWM(SPWM : Sinusoidal PWM)や、空間ベクトルPWM(SVPWM : Space Vector PWM)、過変調PWM制御などが含まれる。本実施形態においては、PWM制御では、直交ベクトル空間の各軸に沿った界磁電流(d軸電流)と駆動電流(q軸電流)との合成ベクトルである電機子電流を制御してインバータ10を駆動制御する。つまり、インバータ制御装置20は、d−q軸ベクトル空間における電機子電流の電流位相角(q軸電流ベクトルと電機子電流ベクトルとの為す角)を制御してインバータ10を駆動制御する。従って、PWM制御は、電流位相制御とも称される。
これに対して、矩形波制御(1パルス制御)は、3相交流電力の電圧位相を制御してインバータ10を制御する方式である。3相交流電力の電圧位相とは、3相の電圧指令値の位相に相当する。例えば、矩形波制御は、インバータ10の各スイッチング素子のオン及びオフが回転電機80の電気角1周期に付き1回ずつ行われ、各相について電気角1周期に付き1パルスが出力される回転同期制御である。矩形波制御は、3相電圧の電圧位相を制御することによってインバータ10を駆動するので、電圧位相制御と称される。
また、上述したように、インバータ制御装置20は、界磁制御の形態として、通常界磁制御と、界磁調整制御とを有している。最大トルク制御や最大効率制御などの通常界磁制御は、回転電機80の目標トルクTMに基づいて設定される基本的な電流指令値(d軸電流指令、q軸電流指令)を用いた制御形態である。これに対して、弱め界磁制御とは、ステータからの界磁磁束を弱めるために、この基本的な電流指令値の内のd軸電流指令を調整する制御形態である。また、強め界磁制御とは、ステータからの界磁磁束を強めるために、この基本的な電流指令値の内のd軸電流指令を調整する制御形態である。弱め界磁制御や強め界磁制御などに際してd軸電流を調整するための調整値を界磁調整電流と称する。
車両には、高圧バッテリ11の他に、高圧バッテリ11よりも低電圧の電源である低圧バッテリ(不図示)も搭載されている。低圧バッテリの電源電圧は、例えば12〜24[V]である。低圧バッテリと高圧バッテリ11とは、互いに絶縁されており、互いにフローティングの関係にある。低圧バッテリは、インバータ制御装置20や車両ECU90の他、オーディオシステムや灯火装置、室内照明、計器類のイルミネーション、パワーウィンドウなどの電装品や、これらを制御する制御装置に電力を供給する。車両ECU90やインバータ制御装置20などの電源電圧は、例えば5[V]や3.3[V]である。
ところで、インバータ10を構成する各IGBT3の制御端子であるゲート端子は、ドライバ回路30を介してインバータ制御装置20に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。回転電機80を駆動するための高圧系回路と、マイクロコンピュータなどを中核とするインバータ制御装置20などの低圧系回路とは、動作電圧(回路の電源電圧)が大きく異なる。このため、このため、各IGBT3に対するゲート駆動信号(スイッチング制御信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継するドライバ回路30(制御信号駆動回路)が備えられている。低圧系回路のインバータ制御装置20により生成されたIGBT3のゲート駆動信号は、ドライバ回路30を介して高圧回路系のゲート駆動信号としてインバータ10に供給される。ドライバ回路30は、例えばフォトカプラやトランスなどの絶縁素子やドライバICを利用して構成される。
上述したように、コンタクタ9は、車両のイグニッションキー(IGキー)がオン状態(有効状態)の際に接続状態となり、IGキーがオフ状態(非有効状態)の際に開放状態となる。通常動作時には、IGキーの状態に応じてコンタクタ9の開閉状態も制御される。しかし、IGキーがオン状態の際に、車両の故障や衝突等によって、コンタクタ9が開放状態となる場合がある。例えば、コンタクタ9への電源供給が遮断された場合、コンタクタ9の駆動回路に異常が生じた場合、コンタクタ9が振動・衝撃やノイズ等によって機械的に故障した場合、コンタクタ9周辺の回路に断線が生じた場合、等にコンタクタ9が開放状態となる可能性がある。コンタクタ9が開放状態となると、高圧バッテリ11からインバータ10側への電力の供給は直ちに遮断される。同様に、回転電機80からインバータ10を介して高圧バッテリ11への電力の回生もコンタクタ9によって遮断される。
このため、コンタクタ9が開放状態となった場合には、インバータ10を構成するIGBT3を全てオフ状態とするシャットダウン制御(SD制御)が実施される場合がある。SD制御が実施された場合、ステータコイル8に蓄積された電力が、FWD5を介して直流リンクコンデンサ4を充電する。このため、直流リンクコンデンサ4の端子間電圧(直流リンク電圧Vdc)が短時間で上昇する可能性がある。直流リンク電圧Vdcの上昇に備えて直流リンクコンデンサ4を大容量化、高耐圧化すると、コンデンサの体格の増大につながる。また、インバータ10の高耐圧化も必要となる。その結果、回転電機駆動装置1の小型化の妨げとなり、部品コスト、製造コスト、製品コストにも影響する。
また、コンタクタ9が開放状態となった場合に、いくつかのIGBT3をオン状態にして電流を還流させるアクティブショート制御(アクティブショートサーキット制御(ASC制御))〜例えばゼロベクトルシーケンス制御(ZVS制御)〜が実行される場合もある。電流(還流電流)の有するエネルギーは、IGBT3やステータコイル8などにおいて熱などによって消費される。ASC制御では、直流リンク電圧Vdcの上昇は抑制できるが、IGBT3やステータコイル8を大電流が流れることになる。還流電流は、ステータコイル8に蓄積された電力が消費されるまで流れ続けるので、IGBT3やステータコイル8の寿命を低下させる可能性がある。また、大電流に対応した素子などを用いる必要が生じて、部品コスト、製造コスト、製品コストにも影響する可能性がある。また、大電流等によって発生する熱によって、回転電機80のロータに備えられた永久磁石が減磁し、回転電機80の耐久性が低下する可能性もある。
本実施形態のインバータ制御装置20は、回転電機80による生成電力を直流リンクコンデンサ4に充電させるコンデンサ充電モードと、直流リンクコンデンサ4を放電させるコンデンサ放電モードとを繰り返して、回生電力を抑制しつつ、回転電機80に流れる電流をゼロにする制御(回生電力抑制制御)を実行する点に特徴を有する。即ち、インバータ制御装置20は、インバータ10と高圧バッテリ11とを接続するコンタクタ9が開放状態となった際に、直流リンク電圧Vdcの上昇や、還流電流の総量を抑制しつつ、回転電機80に流れる電流をゼロにする。尚、上述したように、高圧バッテリ11とは別に、不図示の低圧バッテリが備えられており、インバータ制御装置20や車両ECU90は、低圧バッテリから電力を供給されて動作する。本実施形態においては、コンタクタ9が開放状態となっても、低圧バッテリからインバータ制御装置20や車両ECU90への電力供給は維持されているものとして説明する。
インバータ制御装置20は、回転電機80の回転中にコンタクタ9が開放状態となった場合に、コンデンサ充電モードとコンデンサ放電モードとを繰り返すように、電流位相に対する電圧位相を制御してインバータ10をスイッチング制御する充放電制御を実行する。充放電制御は、それぞれ直流リンク電圧Vdcに対して予め規定された充放電上限電圧THHと充放電下限電圧THLとの間の範囲内で実行される(図2参照)。尚、充放電制御は、予め規定された終了条件が満たされるまで実行される。具体的には、充放電制御は、直流リンク電圧Vdcが充放電上限電圧THHを越えるまで、又は、回転電機80の回転に同期して回転する2軸の直交ベクトル座標系において回転電機80の界磁磁束の方向に沿ったd軸電流が上限値である上限d軸電流を越えるまで実行される。即ち、充電制御は、電圧制御/電流制御の何れでも実行可能である。充放電制御の実行中に、これらの終了条件が成立した場合には、後述するように、充放電制御とは別の制御方式(混合ループ制御)を用いた回生電力抑制制御が引き続き実行される。
図3は、電流位相(I)及び電圧位相(V)とコンデンサ充電モード及びコンデンサ放電モードとの関係を示している。電圧位相(I)及び電圧位相(V)の振幅中心を基準とした正負の状態が排他的である時(T1及びT3)はコンデンサ充電モードとなり、正負の状態が同一である時(T2及びT4)はコンデンサ放電モードとなる。インバータ制御装置20は、電流位相(I)に対する電圧位相(V)を制御して、インバータ10を、コンデンサ充電モード又はコンデンサ放電モードでスイッチング制御し、充放電制御を実行する。上述したように、インバータ制御装置20は、電流位相制御や電圧位相制御を実行可能であり、それらの制御機能を利用して充放電制御が実行される。
図4は、電流位相と電圧位相との関係を空間ベクトルにおいて示している。“IV”は電流ベクトルを示し、“VV”は電圧ベクトルを示している。本実施形態では、電流位相に対する電圧位相を制御してインバータ10をスイッチング制御するので、“IV”は実電流の電流ベクトルに対応し、“VV”はフードバック制御における電圧指令のベクトルに対応する。具体的な電圧位相の制御についての説明に先だって、図4に示すベクトルについて説明する。
インバータ10は、6つのスイッチング素子のオン/オフ状態によって、2つのゼロベクトル及び6つの基本ベクトルを出力可能である。これらのベクトルは、UVW相のスイッチング素子のオン/オフ状態によって表現される。例えば、上段側のUVW相のスイッチング素子がそれぞれオン・オフ・オンであり、下段側のUVW相のスイッチング素子がそれぞれオフ・オン・オフである場合には、オンを“1”、オフを“0”とした6桁の2進数により“101010”と表される。但し、UVW相の各アームの上側スイッチング素子と下段側スイッチング素子とは、相補的にスイッチングされるので、6桁の2進数の上位3桁及び下位3桁は互いに排他的な値を取る。従って、上段側及び下段側の何れかのスイッチング素子のオン/オフ状態を3桁の2進数で表せばベクトルを特定することができる。図4では、UVW相の上段側スイッチング素子のオン/オフ状態で示した3桁の2進数で各基本ベクトルを表している。尚、ゼロベクトルは“000”及び“111”であり、この場合には電流は還流するため、図4では中心点に対応する。つまり、方向及び長さのないゼロベクトルとなる。
電圧指令ベクトル“VV”を実電流ベクトル“IV”に対して、30〜90度進めるとコンデンサ放電モードとなる。一方、電圧指令ベクトル“VV”を実電流ベクトル“IV”に対して、90〜150度進めるとコンデンサ充電モードとなる。実用的には、電圧指令ベクトル“VV”が実電流ベクトル“IV”に対して、60〜120度の範囲で進むように調整するとよい。この範囲で位相を調整するとq軸電流を早く減少させることができる。q軸電流を減少させることの意図については、以下図5を参照して説明する。
図5は、上述したd軸及びq軸の2相ベクトル空間(座標系)、具体的には2相電流ベクトル空間(座標系)を示している。図5において、曲線100(101〜103)は、それぞれ回転電機80が、あるトルクを出力する電機子電流Ia(Ia^2=Id^2+Iq^2)のベクトル軌跡を示す等トルク線である。等トルク線101よりも等トルク線102の方が低トルクであり、さらに等トルク線102よりも等トルク線103の方が低トルクである。曲線200(201〜204)は、定電流円を示しており、曲線300は電圧速度楕円(電圧制限楕円)を示している。定電流円は、電機子電流が一定値となるベクトル軌跡である。電圧速度楕円は、回転電機80の回転速度及びインバータ10の直流電圧(直流リンク電圧Vdc)の値に応じて設定可能な電流指令の範囲を示すベクトル軌跡である。電圧速度楕円300の大きさは、直流リンク電圧Vdcと回転電機80の回転速度(又は回転数)とに基づいて定まる。具体的には、電圧速度楕円300の径は直流リンク電圧Vdcに比例し、回転電機80の回転速度に反比例する。d軸及びq軸の電流指令は、このような電流ベクトル空間において電圧速度楕円300内に存在する等トルク線100の線上の動作点における値として設定される。
ここで、直流リンクコンデンサ4に供給される電力(充電電力)を抑制する上では、トルクに寄与しないd軸電流については、電流量を減らすことなく、より多く流し続けて損失を増大させると好適である(いわゆる高損失制御)。例えば、現在の動作点P1からq軸電流を減少させてトルクをゼロに近づけていきながら、d軸電流を増加させる。つまり、図5にブロック矢印で示すように、現在の動作点P1から、q軸電流がゼロでd軸電流の絶対値が動作点P1よりも大きい動作点P2まで動作点を遷移させる。ここでは、動作点P2は電圧速度楕円300の中心である。動作点P2に達した後は、図5にブロック矢印で示すように、d軸電流の絶対値を減少させて動作点P0まで動作点を遷移させる。動作点P1から動作点P2を経由して動作点P0に至る制御に際しては、上述した界磁調整機能も利用されると好適である。
尚、図4を参照して上述したように、電圧指令ベクトル“VV”が実電流ベクトル“IV”に対して、60〜120度の範囲で進むように調整されるとq軸電流を早く減少させることができるので好適である。また、動作点P1から動作点P2への遷移を示すブロック矢印は波線によって示されているが、この遷移に際しては、充放電制御が実行されることを表している。後述するように、図2における時刻“t1”から時刻“t23”までの期間は、図5における動作点P1から動作点P2まで動作点を遷移させている期間である。また、時刻“t23”から時刻“t3”までの期間は、図5における動作点P2から動作点P0まで動作点を遷移させている期間である。本実施形態では、動作点P1から動作点P2まで動作点を遷移させている期間の内、図2における時刻“t1”から時刻“t2”までの期間に充放電制御が実行される。
図2に示すように、コンタクタ9が時刻“t0”において開放状態となると、直流リンク電圧Vdcが上昇し始める。インバータ制御装置20は、コンタクタ9が開放状態(コンタクタオープン)であると判定すると、回生電力抑制制御(充放電制御)を開始する(時刻“t1”)。コンタクタオープンであるとの判定は、例えば、車両ECU90からの通信に基づいて実施されても良いし、直流リンク電圧Vdcを検出する電圧センサ14の検出結果に基づいて実施されても良い。また、コンタクタオープンであるとの判定は、バッテリ電流センサ15により検出された高圧バッテリ11の電流(バッテリ電流)の急激な変化に基づいて判定されてもよい。ここでは、電圧センサ14により検出された直流リンク電圧Vdcが、回生電力抑制制御の要否を判定する判定しきい値(コンタクタ開放判定電圧(THL))を超えているか否かによって、回生電力抑制制御(充放電制御)の開始が判定されるものとする。
本実施形態では、回生電力抑制制御として、時刻“t1”より充放電制御が実行される。充放電制御は、それぞれ直流リンク電圧Vdcに対して予め規定された充放電上限電圧THHと充放電下限電圧THLとの間の範囲内で実行される。充放電上限電圧THHは、インバータ10の最大許容電圧に対して予め規定された余裕電圧(例えば最大許容電圧の10〜15[%])を減じた電圧であると好適である。また、充放電下限電圧THLは、コンタクタ9が開放状態となったことを判定する際の判定しきい値(コンタクタ開放判定電圧)であると好適である。本実施形態では、時刻“t2”において、直流リンク電圧Vdcが充放電上限電圧THHに達し、充放電制御が終了する。つまり、充放電制御は、時刻“t1”から時刻“t2”の期間(Phase1)に実行される。
インバータ制御装置20は、充放電制御の終了後、回転電機80による生成電力を直流リンクコンデンサ4に充電させるコンデンサ充電ループと、生成電力をインバータ10及び回転電機80の間で循環させる還流ループとが1つずつ形成されるように、混合ループ制御を実行する(Phase2)。換言すれば、コンデンサ充電ループが形成されるSD制御と、還流ループが形成されるASC制御とが同時に行われるように、混合ループ制御が実行される。混合ループ制御は、インバータ10を構成するスイッチング素子の内の1つ又は2つである対象スイッチング素子をオン状態とする制御である。詳細については図6〜図10を参照して後述する。
混合ループ制御では、コンデンサ充電ループが形成されるため、混合ループ制御の開始以降も時刻“t2”以降も直流リンク電圧Vdcは上昇を続ける。しかし、コンデンサ充電ループを形成する相のステータコイル8に蓄えられたエネルギーを放出した時点で、コンデンサ充電ループは解消され、直流リンク電圧Vdcの上昇は電圧“V1”で止まる(時刻“t21”)。時刻“t21”以降は、コンデンサ充電ループが解消されており、混合ループ制御は続行されているが、還流ループのみを電流が流れ続ける。混合ループ制御が実行されるPhase2の内、時刻“t2”から時刻“t21”までの期間(Phase21)は、コンデンサ充電ループと還流ループとが形成される期間である。以下に説明するように、混合ループ制御が実行されるPhase2の内、時刻“t21”から時刻“t3”までの期間(Phase22)は、還流ループのみが形成される期間である。
インバータ制御装置20は、3相の電流が全てゼロとなる際に、全ての対象スイッチング素子をオフ状態とするように制御する。本実施形態では、還流ループの電流がゼロとなる際に、対象スイッチング素子をオフ状態とするように制御するシャットダウン制御を実行する(時刻“t3”)。つまり、インバータ制御装置20は、還流ループを形成する2相のアームの電流が共にゼロとなる際に、オン状態に制御されている対象スイッチング素子をオフ状態とするように制御する。シャットダウンが実施された場合には、ステータコイル8に蓄積された電力が、FWD5を介して直流リンクコンデンサ4を充電するが、全ての相電流がゼロの状態でシャットダウンを行っているため、直流リンク電圧Vdcは上昇しない。時刻“t3”以降は、全相の電流がゼロとなる(Phase3)。尚、SD制御は、時刻“t3”において実行されると好適であるが、厳密ではなく、時刻“t3”の前後において実行されればよい。電流がゼロとなったことを検出した後では、SD制御の実行が遅れるため、例えば、SD制御は、相電流がゼロの時を予想して実行されると好適である。
発明者によるシミュレーションによれば、例えば、コンタクタオープンに応答して単純にSD制御を実行した場合と比較して、直流リンクコンデンサ4の静電容量を概ね1/2としても、直流リンク電圧Vdcの上昇電圧は2/5〜1/2程度となることが確認されている。つまり、回生電力抑制制御によって直流リンク電圧Vdcの上昇が抑制され、直流リンクコンデンサ4の小型化も可能となる。また、コンタクタオープンに応答して単純にASC制御を実行した場合と比べて、相電流の最大値は概ね2/5〜1/2程度程度に収まっている。つまり、回生電力抑制制御によって相電流も抑制されている。従って、ステータコイル8やIGBT3の消耗による寿命の低下を抑制することができる。即ち、シミュレーションによって、最大の回生電力ポイントと、インバータ10の最大電圧の条件で、定格電流と耐圧電圧とを満足することが確認されている。
以下、充放電制御に続いて実行される混合ループ制御について、図6〜図10を参照して詳細に説明する。理解を容易にするために、ここでは、コンタクタオープンに際して直ちに混合ループ制御が実行される場合を例として説明する。即ち、ここでは、インバータ制御装置20が、回転電機80の回転中にコンタクタ9が開放状態となった場合に、回転電機80による生成電力を直流リンクコンデンサ4に充電させるコンデンサ充電ループと、生成電力をインバータ10及び回転電機80の間で循環させる還流ループとが1つずつ形成されるように、混合ループ制御を実行する場合を例として説明する。図6におけるPhase2が混合ループ制御の実行期間に相当する。
混合ループ制御は、インバータ10を構成するスイッチング素子の内の1つ又は2つである対象スイッチング素子(図7ではU相下段側IGBT32の1つ)をオン状態とする制御である。より詳細には、混合ループ制御は、インバータ10を構成するスイッチング素子の内の1つ又は2つのみである対象スイッチング素子をオン状態とする制御である。つまり、混合ループ制御は、対象スイッチング素子としての1つのスイッチング素子のみをオン状態とする制御、又は、対象スイッチング素子としての2つのスイッチング素子のみをオン状態とする制御である。コンデンサ充電ループは、例えば図7に一点鎖線で示すループであり、還流ループは、例えば図7及び図8に実線で示すループである。尚、充放電制御が実行される場合の説明と同様に、インバータ制御装置20は、さらに、混合ループ制御の開始後、還流ループの電流がゼロとなる際に、対象スイッチング素子をオフ状態とするように制御するシャットダウン制御(SD制御)を実行する(Phase3)。
図6は、コンタクタ9の開放時の制御例を模式的に示す波形図であり、図7は、時刻“t1”から時刻“t21”までの期間(Phase21)におけるIGBT3の制御例と電流の流れを示す等価回路図であり、図8は、時刻“t21”から時刻“t3”までの期間(Phase22)におけるIGBT3の制御例と電流の流れを示す等価回路図である。図6に示す時刻“t0”は、コンタクタ9が開放状態となった時刻を示している。コンタクタ9が開放状態となると、直流リンク電圧Vdcが上昇し始める。インバータ制御装置20は、コンタクタ9が開放状態(コンタクタオープン)であると判定すると、混合ループ制御を開始する(時刻“t1”)。
混合ループ制御では、対象スイッチング素子がオン状態に制御され、回転電機80による生成電力を直流リンクコンデンサ4に充電させるコンデンサ充電ループと、生成電力をインバータ10及び回転電機80の間で循環させる還流ループとが1つずつ形成される。混合ループ制御により、コンデンサ充電ループが形成されるため、時刻“t1”以降も直流リンク電圧Vdcは上昇を続ける。しかし、コンデンサ充電ループを形成する相のステータコイル8に蓄えられたエネルギーを放出した時点で、コンデンサ充電ループは解消され、直流リンク電圧Vdcの上昇は電圧“V2”で止まる(時刻“t21”)。混合ループ制御の開始からコンデンサ充電ループが解消されて直流リンク電圧Vdcの上昇が止まるまでの期間がPhase21である。
時刻“t21”以降は、コンデンサ充電ループが解消されており、還流ループのみを電流が流れ続ける。インバータ制御装置20は、3相の電流が全てゼロとなる際に、全ての対象スイッチング素子をオフ状態とするように制御する。本実施形態では、還流ループの電流がゼロとなる際に、対象スイッチング素子をオフ状態とするように制御するシャットダウン制御を実行する(時刻“t3”)。ここでは、インバータ制御装置20は、還流ループを形成する2相のアームの電流が共にゼロとなる際に対象アームにおいてオン状態に制御されているスイッチング素子をオフ状態とするように制御する。シャットダウンが実施された場合には、ステータコイル8に蓄積された電力が、FWD5を介して直流リンクコンデンサ4を充電するが、全ての相電流がゼロの状態でシャットダウンを行っているため、直流リンク電圧Vdcが後述する逆起電圧以上の場合、直流リンク電圧Vdcは上昇しない。時刻“t3”以降は、全相の電流がゼロとなる(Phase3)。
図7は、Phase21におけるIGBT3の制御例と電流の流れを示している。図7において、破線で示すIGBT3は、オフ状態にスイッチング制御されていることを示し、実線で示すIGBT3はオン状態に制御されていることを示す。また、破線で示すFWD5は非導通状態であることを示し、実線で示すFWD5は導通状態であることを示す。本実施形態では、対象スイッチング素子(後述する主対象スイッチング素子)は、U相下段側IGBT32である。ここでは、U相下段側IGBT32のみがオン状態に制御され、他のIGBT3は全てオフ状態に制御される。つまり、後述する主対象スイッチング素子のみがオン状態に制御され、他の全てのスイッチング素子はオフ状態に制御される。U相電流Iuは、W相下段側FWD56を経由する還流ループを循環する。V相電流Ivは、V相上段側FWD53及びW相下段側FWD56を経由するコンデンサ充電ループを流れて直流リンクコンデンサ4を充電する。W相下段側FWD56が還流ループとコンデンサ充電ループの双方を構成するため、W相電流Iwは、U相電流IuとV相電流Ivとを合算した大きさの電流となる。
図8は、Phase22におけるIGBT3の制御例と電流の流れを示している。上述したように、コンデンサ充電ループを形成する相(V相)のステータコイル8に蓄えられたエネルギーが放出されると、当該相電流(V相電流Iv)がゼロとなり、コンデンサ充電ループは解消される。対象スイッチング素子(U相下段側IGBT32)をオン状態とする混合ループ制御は継続しているので、還流ループは維持されている。図8に示すように、U相電流Iuは、U相下段側IGBT32を流れ、W相電流Iwは、W相下段側FWD56を流れる。V相電流Ivはゼロとなっているため、U相電流IuとW相電流Iwとは平衡する。従って、図2に示すように、U相電流IuとW相電流Iwとは同じ時刻(ここでは時刻“t3”)においてゼロとなる。インバータ制御装置20は、混合ループ制御の開始後、還流ループの電流がゼロとなる際にSD制御を実行する。つまり、対象スイッチング素子としてのU相下段側IGBT32をオフ状態とするように制御し、還流ループを解消させて、インバータ10を構成する全てのIGBT3をオフ状態としてインバータ10をシャットダウンする。シャットダウンが実施された場合には、ステータコイル8に蓄積された電力が、FWD5を介して直流リンクコンデンサ4を充電するが、相電流(Iu,Iw)がゼロの状態でシャットダウンを行っているため、直流リンク電圧Vdcは上昇しない。
尚、図6において、時刻“t1”から時刻“t23”までの期間は、図5における動作点P1から動作点P2まで動作点を遷移させている期間に対応する。また、時刻“t23”から時刻“t3”までの期間は、図5における動作点P2から動作点P0まで動作点を遷移させている期間に対応する。
ところで、上述したように、混合ループ制御においては、インバータ10を構成するIGBT3の内、対象スイッチング素子としてのIGBT3がオン状態に制御される。この対象スイッチング素子は、以下のような基準で選定されると好適である。ここでは、1つの対象スイッチング素子(後述する主対象スイッチング素子)を選定する基準について説明する。図6に示すように、混合ループ制御の実行を開始する際に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも正側の場合には、当該2相の内、電流波形が下降している相の上段側スイッチング素子が対象スイッチング素子に設定されると好適である。また、混合ループ制御の実行を開始する際に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも負側の場合には、当該2相の内、電流波形が上昇している相の下段側スッチング素子が対象スイッチング素子に設定されると好適である。
例えば、図9における“A”では、混合ループ制御の実行を開始する際(時刻“t1”)に、3相の内のU相とV相の電流波形が振幅中心よりも負側であるから、U相とV相との内、電流波形が上昇しているU相の下段側スイッチング素子であるU相下段側IGBT32が対象スイッチング素子に設定される。図6から図8に例示した形態は、この選定基準に応じて対象スイッチング素子を決定したものである。
下記表1は、3相電流の波形と、各IGBT3のオン/オフ制御の状態とを表している。表1に示すように、3相電流(Iu,Iv,Iw)の波形に応じて6つの状態が存在する。これをSectorで示している。表中の“Su+,Sv+,Sw+,Su−,Sv−,Sw−”はそれぞれ、U相上段側IGBT31、V相上段側IGBT33、W相上段側IGBT35、U相下段側IGBT32、V相下段側IGBT34、W相下段側IGBT36を示している。即ち、“S”はスイッチング素子、“u,v,w”の添え字は3相各相、“+”は上段側、“−”は下段側を示している。また、表中の“0”はオフ状態を示し、“1”はオン状態を示している。
3相電流と対象スイッチング素子(主対象スイッチング素子)との関係
(後述する単相スイッチング制御における3相電流と対象スイッチング素子との関係)
上述した条件に従えば、図9に示すように、3相上下段の6つのIGBT(31〜36)がそれぞれ選択される判定フェーズ(A〜F)が、電気角60度ごとに重複することなく現れる。即ち、“A”ではU相下段側IGBT32が、“B”ではV相上段側IGBT33が、“C”ではW相下段側IGBT36が、“D”ではU相上段側IGBT31が、“E”ではV相下段側IGBT34が、“F”ではW相上段側IGBT35が対象スイッチング素子として設定される。従って、どのような状況であっても適切なIGBT3(31〜36)を対象スイッチング素子として設定することができる。
即ち、2相の内の一方の電流を還流ループに流し、他方の電流をコンデンサ充電ループに流すと好適であるから、振幅中心を挟んで2相の電流波形が存在する側から対象スイッチング素子を選択すると好適である。全てのスッチング素子がオフ状態で、2相の電流が負側を流れているとすれば、当該2相の上段側のフリーホイールダイオードが導通状態となる。この内の1相について、アームを流れる電流の方向を変えて還流させるためには、当該2相の内の一方の相の下段側スイッチング素子を導通させればよい。つまり、当該2相の内の一方の相の上段側のフリーホイールダイオードが非導通状態となるように、当該相の下段側スイッチング素子を導通させればよい。一方、全てのスッチング素子がオフ状態で、2相の電流が正側を流れているとすれば、当該2相の下段側のフリーホイールダイオードが導通状態となる。当該2相の内の一方の相の上段側スイッチング素子を導通させれば、当該1相のアームを流れる電流の方向が変わって還流する。従って、当該相の下段側のフリーホイールダイオードが非導通状態となるように、当該相の上段側スイッチング素子を導通させればよい。
具体的には、例えば、全てのIGBT3がオフ状態で、U相電流IuとV相電流Ivとの2相の電流が負側を流れているとき、U相上段側FWD51とV相上段側FWD53とが導通状態となる。これは、2つのコンデンサ充電ループが形成される状態である。ここで、U相アーム及びV相アームの一方を流れる電流の方向を変えると、1つのコンデンサ充電ループは解消され、1つの還流ループが形成される。共にFWD5を経由して電流が流れているU相アーム及びV相アームの一方を流れる電流の方向を変えるためには、上段側及び下段側の内、FWD5を経由して電流が流れている側とは反対側のIGBT3を導通させればよい。従って、U相上段側FWD51及びV相上段側FWD53が導通状態となっている場合には、U相下段側IGBT32及びV相下段側IGBT34の何れか一方を導通させればよい。
図6に例示するように、混合ループ制御が実行されると(時刻“t1”)、U相電流Iu及びV相電流Ivの増減方向が反転する。電気角60度ずつの各判定フェーズ(A〜F)の前半(0〜30度の範囲)において混合ループ制御が実行されるとすれば、コンデンサ充電ループを流れる電流が早くゼロに達するのはV相電流Ivである。各判定フェーズ(A〜F)の前半(0〜30度の範囲)において混合ループ制御が実行される場合に、直流リンク電圧Vdcの上昇を抑制できるのは、V相電流Ivをコンデンサ充電ループに流し、U相電流Iuを還流ループに流した場合である。従って、1つの態様として、U相電流Iuが還流ループを流れるように、U相下段側IGBT32を対象スイッチング素子として設定すると好適である。U相下段側IGBT32は、電流波形が振幅中心よりも負側の2相の内、電流波形が上昇している相の下段側スッチング素子である。
当業者であれば、上記の説明から推察可能であろうが、混合ループ制御の実行が開始されるタイミングによって、コンデンサ充電ループ及び還流ループを流れる電流の比率は異なる。従って、混合ループ制御の実行が開始されるタイミングによって、直流リンク電圧Vdcが上昇する大きさや、還流電流の大きさが異なる。発明者によるシミュレーションによれば、例えば、図10に示すように、混合ループ制御が実行される時刻“t1”が判定フェーズ“A”の30度の時点の場合には、15度の時点の場合と比べて、直流リンク電圧Vdcの上昇電圧は1/3〜1/4であり、相電流の最大値は1.2〜2倍であった。シミュレーションは、最大の回生電力ポイントと、インバータ10の最大電圧の条件で、定格電流と耐圧電圧とを満足するように実施されたものである。
このように、混合ループ制御を開始するタイミングによって、直流リンク電圧Vdcや相電流の値は異なる。例えば、直流リンク電圧Vdcの上昇をより抑制したいような場合には、コンタクタ9が図10に示す時刻“t0”で開放状態となり、判定フェーズにおける電気角15度の時点で混合ループ制御を開始することが可能であったとしても、“delay”を設定して電気角30度の時点から混合ループ制御を開始してもよい。また、判定フェーズの終了間際、例えば電気角50度以上の時点で、コンタクタ9が開放状態となったことを判定したり、混合ループ制御を開始可能となったりした場合には、当該判定フェーズにおける判定基準ではなく、次の判定フェーズ(例えば“A”に対する“F”)の判定基準に基づいて対象スイッチング素子を設定すると好適である。
尚、図2に示すように、インバータ制御装置20は、コンタクタ9が開放状態となった後、直流と3相交流との間で電力変換を行う3相駆動制御から、SD制御やASC制御を挟むことなく充放電制御に制御方式を移行させる。従って、SD制御による直流リンク電圧Vdcの急上昇や、ASC制御による大電流の還流が抑制される。尚、3相駆動制御には、上述したPWM制御及び矩形波制御が含まれる。また、常時3相の全てが変調される必要はなく、何れか1相が固定され、他の2相が変調される状態が繰り返されるような2相変調も、3相駆動制御に含まれる。
充放電制御を実行する本実施形態のインバータ制御装置20は、コンタクタオープンに応答して、回生電力抑制制御(充放電制御)を実行する。コンタクタオープンに際してのインバータ10の制御方式には、一般的にSD制御やASC制御が知られている。SD制御、ASC制御、回生電力抑制制御(充放電制御)には、コンタクタオープンの際の回転電機80の動作状態に応じてそれぞれ適した領域が存在する。図11は、回転電機80の回転速度とトルクとによって表された動作マップ上において、それぞれの制御方式が適した領域を示している。回転速度が高い領域、図11における領域“defg”(領域“R2”)は、回転電機80による起電力(EMF:Electromotive Force)が高いため、ASC制御が適している。線“dg”は、逆起電圧(BEMF:Back Electromotive Force)が、直流リンク電圧Vdc以上となる境界を表している。回転速度が低い領域、図11における領域“0acdg”(領域“R1+R3”)は、SD制御が適している。即ち、SD制御は、直流リンク電圧Vdcが回転電機80による起電力よりも大きい場合に実行される。
このSD制御が適している領域“0acdg”の全てにおいてSD制御が可能なようにインバータ制御装置20を構築すると、当該領域における直流リンク電圧Vdcの上昇に鑑みた設計が必要となる。例えば、IGBT3などのスッチング素子に高い耐圧が求められ、直流リンクコンデンサ4にも大きな容量や高い耐圧が求められる。しかし、回転速度及びトルクが高い領域“bcd”(領域“R3”)において、直流リンク電圧Vdcの上昇を抑制できれば、それらの要求を緩和することができる。従って、上述した回生電力抑制制御(充放電制御)は、図11における領域“bcd”(領域“R3”)において適用されると好適である。
〔その他の実施形態〕
以下、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記説明においては、充放電制御の実行中に、直流リンク電圧Vdcが充放電上限電圧THHを超えた場合、インバータ制御装置20は、充放電制御を終了し、混合ループ制御を実行する形態を例示した。しかし、充放電制御の終了後に実行される制御方式は、混合ループ制御に限定されるものではなく、シャットダウン制御やアクティブショート制御、或いはそれらを組み合わせた制御方式であってもよい。
(2)上記説明においては、充放電上限電圧THHが、インバータ10の最大許容電圧に対して予め規定された余裕電圧を減じた電圧であり、充放電下限電圧THLが、コンタクタ9が開放状態となったことを判定する際のコンタクタ開放判定電圧である形態を例示した。しかし、充放電上限電圧THH及び充放電下限電圧THLは、他の基準に基づいて設定されてもよい。例えば、充放電上限電圧THHは、直流リンクコンデンサ4の静電容量や耐圧に基づいて設定されてもよい。また、充放電下限電圧THLは、コンタクタ開放判定電圧よりも低く、通常動作時の直流リンク電圧Vdcの値に基づいて設定されていてもよい。
また、コンタクタ9が開放状態となった際には、直流リンク電圧Vdcが低下することが好ましく、充放電下限電圧THLは設定されず、無制限であってもよい。また、直流リンク電圧Vdcが充放電上限電圧を越えると充放電制御が終了するので、充放電下限電圧THLも設定されていなくてもよい。つまり、上記説明においては、充放電上限電圧THHと充放電下限電圧THLとの間の範囲内で、コンデンサ充電モードとコンデンサ放電モードとを繰り返すように、電流位相に対する電圧位相を制御してインバータ10をスイッチング制御する制御方式として充放電制御を例示したが、その形態に限定されるものではない。例えば、充放電制御は、範囲を定めずにコンデンサ充電モードとコンデンサ放電モードとを繰り返すように、電流位相に対する電圧位相を制御してインバータ10をスイッチング制御する制御方式であってもよい。
(3)上記説明においては、混合ループ制御の開始後、シャットダウン制御が実行される形態を例示したが、シャットダウン制御が実行されることなく、混合ループ制御が継続されてもよい。つまり、還流ループのみを維持して部分的なアクティブショート制御が実行されてもよい。
(4)上記説明においては、混合ループ制御の実行を開始する際に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも負側の場合には、当該2相の内、電流波形が上昇している相の下段側スッチング素子が対象スイッチング素子(主対象スイッチング素子)に設定される例を示した(図6〜図8参照)。また、対象スイッチング素子(主対象スイッチング素子)を選定する基準として、図9を参照して以下の態様が好適であると説明した。即ち、混合ループ制御の実行を開始する際に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも正側の場合には、当該2相の内、電流波形が下降している相の上段側スイッチング素子が対象スイッチング素子(主対象スイッチング素子)に設定され、混合ループ制御の実行を開始する際に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも負側の場合には、当該2相の内、電流波形が上昇している相の下段側スッチング素子が対象スイッチング素子(主対象スイッチング素子)に設定されると好適であると説明した。しかし、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも正側の場合に、当該2相の内の何れかの相の上段側スイッチング素子が対象スイッチング素子(主対象スイッチング素子)に設定される形態であってもよい。例えば、電流波形が上昇している相の上段側スイッチング素子が対象スイッチング素子(主対象スイッチング素子)に設定されてもよい。同様に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも負側の場合に、当該2相の内の何れかの相の下段側スッチング素子が対象スイッチング素子(主対象スイッチング素子)に設定される形態であってもよい。つまり、電流波形が下降している相の上段側スイッチング素子が対象スイッチング素子(主対象スイッチング素子)に設定されてもよい。
ところで、図7(及び図8)を参照すると、U相下段側IGBT32だけではなく、W相下段側IGBT36をオン状態としても、同様の還流ループとコンデンサ充電ループとが形成される。つまり、W相下段側FWD56が導通状態であるから、W相下段側IGBT36のオン/オフ状態に拘わらず、W相の下段側アームは導通するが、W相下段側IGBT36が導通していても問題はない。従って、図7に例示する形態の場合、W相下段側IGBT36も対象スイッチング素子として機能することができる。但し、U相下段側IGBT32は、並列接続されるU相下段側FWD52が非導通状態であるから、対象スイッチング素子としてオン状態とされることが必須であるのに対して、W相下段側IGBT36は、並列接続されるW相下段側FWD56が既に導通状態であるから、オン状態とされることが必須ではない。従って、オン状態とされることが必須のU相下段側IGBT32を主対象スイッチング素子と称し、オン状態とされることが必須ではないW相下段側IGBT36を副対象スイッチング素子と称する。
即ち、インバータ制御装置20は、回転電機80の回転中にコンタクタ9が開放状態となった場合に、回転電機80による生成電力を直流リンクコンデンサ4に充電させるコンデンサ充電ループと、生成電力をインバータ10及び回転電機80の間で循環させる還流ループとが1つずつ形成されるように、インバータ10を構成するスイッチング素子(IGBT3)の内の1つ又は2つである対象スイッチング素子をオン状態とする混合ループ制御を実行する。ここで、対象スイッチング素子は、主対象スイッチング素子と、副対象スイッチング素子とを含む。即ち、インバータ制御装置20は、混合ループ制御に際して、1つの主対象スイッチング素子、又は、1つの主対象スイッチング素子及び1つの副対象スイッチング素子の2つをオン状態とする。換言すれば、インバータ制御装置20は、混合ループ制御に際して、対象スイッチング素子として、少なくとも1つの主対象スイッチング素子をオン状態とする。また、インバータ制御装置20は、混合ループ制御に際して、主対象スイッチング素子に加えて、副対象スイッチング素子をオン状態としてもよい。即ち、インバータ制御装置20は、3相上下段のインバータ10を構成する6つのスイッチング素子の内の1つのみ(主対象スイッチング素子)をオン状態とする混合ループ制御、又は、インバータ10を構成するスイッチング素子の内の2つのみ(主対象スイッチング素子及び副対象スイッチング素子)をオン状態とする混合ループ制御を実行することができる。
下記表2は、上述した表1と同様に、3相電流の波形と、各IGBT3のオン/オフ制御の状態とを表している。表1は、混合ループ制御の実行に際して、3相上下段のインバータ10を構成する6つのスイッチング素子の内の1つのみ(主対象スイッチング素子)がオン状態とされる場合を例示している。一方、表2は、混合ループ制御の実行に際して、インバータ10を構成するスイッチング素子の内の2つのみ(主対象スイッチング素子及び副対象スイッチング素子)がオン状態とされる場合を例示している。表2中の記号については、表1と同様であるから説明を省略する。
3相電流と対象スイッチング素子(主/副対象スイッチング素子)との関係
(後述する2相スイッチング制御における3相電流と対象スイッチング素子との関係)
以上整理すると、主対象スイッチング素子は、混合ループ制御の実行を開始する際に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも正側の場合には、当該2相の何れか一方の上段側スイッチング素子に設定され、混合ループ制御の実行を開始する際に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも負側の場合には、当該2相の何れか一方の下段側スッチング素子に設定される。好適には、図9を参照して上述したように、主対象スイッチング素子は、混合ループ制御の実行を開始する際に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも正側の場合には、当該2相の内、電流波形が下降している相の上段側スイッチング素子に設定され、混合ループ制御の実行を開始する際に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも負側の場合には、当該2相の内、電流波形が上昇している相の下段側スッチング素子に設定される。また、副対象スイッチング素子は、混合ループ制御の実行を開始する際に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも正側の場合には、当該2相とは別の上段側スイッチング素子に設定され、混合ループ制御の実行を開始する際に、3相の内の2相の電流波形が振幅中心よりも負側の場合には、当該2相とは別の下段側スッチング素子に設定される。尚、主対象スイッチング素子のみがオン状態とされて実行される混合ループ制御は、単相スイッチング(Single Phase Switching)制御と称することができ、主対象スイッチング素子及び副対象スイッチング素子の2つがオン状態とされて実行される混合ループ制御は、2相スイッチング(Two Phase Switching)制御と称することができる。
(5)上述したように、コンタクタ9が開放状態となると直流リンク電圧Vdcが直ぐに上昇する。従って、インバータ制御装置20は、コンタクタ9が開放状態となったことを迅速に判定して、回生電力抑制制御を開始することが望ましい。従って、上記説明においては、一般的に通信時間を要するCANなどを利用して車両ECU90経由でコンタクタ9の状態を取得するのではなく、直流リンク電圧Vdcの検出結果に基づいて、迅速にコンタクタ9が開放状態となったことを判定できる例を示した。また、他の1つの態様として、高圧バッテリ11と直流リンクコンデンサ4との間に設けられたバッテリ電流センサ15により検出された高圧バッテリ11の電流(バッテリ電流)の急激な変化に基づいてコンタクタオープンが判定されてもよい。コンタクタ9が開放状態となると、高圧バッテリ11と、その後段の回路(直流リンクコンデンサ4、インバータ10、回転電機80等)との電気的な接続状態が急激に変化する。このため、高圧バッテリ11を出入りする電流も急激に変化する。従って、この場合も、CANなどを利用して車両ECU90経由でコンタクタ9の状態を取得するよりも、インバータ制御装置20は、高圧バッテリ11の電流の検出結果に基づいて、コンタクタ9が開放状態となったことを迅速に判定することができる。このように、コンタクタオープンによって平滑コンデンサ(直流リンクコンデンサ4)の端子間電圧(直流リンク電圧Vdc)が短時間で上昇するのを防止するためには、コンタクタオープンを迅速に検出することが特に肝要である。