JP7030589B2 - 澱粉組成物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、衣付揚げ物における衣の原材料として使用され、加水せずに具材に付着させて使用するブレダーミックスとして特に好適な澱粉組成物に関する。
表面に衣材が付着した具材を加熱調理して得られる衣付揚げ物は、衣がサクミのある独特の食感と風味を有する一方で、中身の具材が衣の内側で蒸されたように火が通っていて旨味が凝縮されているのが理想的である。このような衣付揚げ物に関する改良技術として、例えば特許文献1には、衣付揚げ物において衣が具材から剥がれるという問題の解決を図るべく、衣材に、原料澱粉と油脂類とpH調整剤とを含む混合物を加熱して得られる油脂加工澱粉を配合することが記載されており、また、該混合物の加熱温度に関し、40~130℃が好ましい旨記載されている。特許文献1記載の衣材によれば、衣と具材との結着性が向上し、衣の剥がれが抑制されるとされている。
特許文献2には、かまぼこ、ちくわなどの水畜産肉製品に用いられる加工澱粉の改良技術として、澱粉、蛋白素材、油脂及び水を混合し、その混合物を加熱処理することにより得られる加工澱粉が記載されており、また、該混合物の加熱温度に関し、40~200℃が例示されている。特許文献2記載の加工澱粉によれば、従来の水畜産肉製品で問題とされていた澱粉由来の粉っぽさ、澱粉の糊化に伴う糊感やヌメリなどが低減され、弾力及び適度な硬さを有し、肉粒感のある食感の水畜産肉製品が得られるとされている。
特開2016-174535号公報 特開2016-73262号公報
衣付揚げ物においては、製造直後から具材の水分が経時的に衣に移行し、製造後一定時間経過後に喫食する場合には、調理直後に有していた衣のサクミが失われて硬くべたついた食感となるなど、品質が著しく低下しやすいという問題がある。特に近年は、核家族化、個食化の進展などを背景に、調理済みの衣付揚げ物を冷凍したもので、電子レンジなどの加熱調理器を用いて加熱解凍するだけで簡単に喫食状態にすることが可能な、いわゆるレディトゥイートな調理済み冷凍衣付揚げ物の需要が急伸しているところ、この調理済み冷凍衣付揚げ物を電子レンジで加熱解凍すると、電子レンジのマイクロ波によって具材の水分が加熱蒸散して衣に移行しやすくなるため、前記の衣付揚げ物の品質低下の問題はより一層深刻なものとなる。このような衣付揚げ物の問題を解決し得る技術は未だ提供されていない。
本発明の課題は、電子レンジなどの加熱調理器で再加熱した場合でも、衣がサクサクと軽い食感を有し、調理直後と比べて遜色ない品質を維持し得る衣付揚げ物を製造可能な澱粉組成物を提供することである。
本発明は、澱粉と融点40℃以上の高融点油脂と蛋白素材とを含有し、該高融点油脂の含有量が0.1質量%以上、該蛋白素材の含有量が0.1~10質量%である混合物を調製し、該混合物100質量部に水5~35質量部を添加後、該混合物を該混合物の品温が80~210℃となる条件で熱処理する工程を有する、澱粉組成物の製造方法である。
また本発明は、前記の本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物を用いたブレダーミックスの製造方法であって、前記澱粉組成物と他の食品素材とを混合する工程を有し、その混合物における該澱粉組成物の含有量を1~95質量%とする、ブレダーミックスの製造方法である。
また本発明は、前記の本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物を含むブレダーミックスを、該ブレダーミックスに加水せずに具材に付着させ、加熱調理する工程を有する、衣付揚げ物の製造方法である。
本発明の製造方法によれば、電子レンジなどの加熱調理器で再加熱した場合でも、衣がサクサクと軽い食感を有し、調理直後と比べて遜色ない品質を維持し得る衣付揚げ物を製造可能な澱粉組成物が提供される。本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物、あるいは該澱粉組成物と他の食品素材(例えば熱処理されていない穀粉、加工澱粉など)との混合物は、加水せずに具材に付着させて使用するブレダーミックス、特に電子レンジ加熱調理食品用ブレダーミックスとして有用である。
本発明の澱粉組成物の製造方法は、少なくとも澱粉、高融点油脂及び蛋白素材を含む混合物を調製する混合工程と、該混合物に加水する加水工程と、加水された該混合物を熱処理する熱処理工程とを有する。
前記混合工程で用いる澱粉は、小麦等の植物から単離された「純粋な澱粉」を意味し、小麦粉等の穀粉中に含まれる澱粉とは区別される。澱粉としては、この種の衣材として従来使用されているものを特に制限なく用いることができ、例えば、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、タピオカ澱粉等の未加工澱粉、及びこれら未加工澱粉に油脂加工、α化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の処理の1つ以上を施した加工澱粉等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの澱粉の中でも、入手及び利用が比較的容易であることから、特に小麦澱粉、コーンスターチが好ましい。加水前の前記混合物における澱粉の含有量は、該混合物の全質量に対して、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20~80質量%である。
前記混合工程で用いる高融点油脂は、本発明の製造目的物たる澱粉組成物に電子レンジ耐性を付与し、該澱粉組成物を用いた衣付揚げ物を電子レンジで再加熱した場合でも、衣がサクサクと軽い食感を有し、調理直後と比べて遜色ない品質を維持し得るようにするのに主体的な役割を果たすものの1つであり、融点が40℃以上、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは55℃以上であって、常温(25℃)で固体の食用油脂である。高融点油脂としては、例えば、硬化パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂等の植物油脂;牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物油脂;各種動植物油脂に水素添加、分別、エステル交換などの処理を施した加工油脂等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの高融点油脂の中でも、特に硬化パーム油は、前記効果に特に優れ、また容易に入手できることから好ましい。
また、高融点油脂の形態は特に制限されないが、前記混合工程の製造目的物たる混合物に高融点油脂を均一分散させる観点から、粉末状が特に好ましい。粉末状の高融点油脂としては、市販品として例えば、ユニショートK(精製パーム油極度硬化油、融点58℃、不二製油(株)製)、スプレーファットPM(硬化パーム油、融点59℃、理研ビタミン(株)製)が挙げられる。
前記混合工程の製造目的物たる混合物における高融点油脂の含有量は、該混合物の全質量に対して、0.1質量%以上である。加水前の前記混合物における高融点油脂の含有量が0.1質量%未満では、これを使用する意義に乏しく、逆に高融点油脂の含有量が多すぎると、製造コストの高騰を招く一方で、高融点油脂による効果が頭打ちとなるおそれがある。また、高融点油脂の含有量が多すぎると、前記混合物の流動性が低下するため、その後の熱処理において該混合物全体を均一に加熱することが困難となり、また、熱処理時に油分が分離して固結するおそれがある。以上を考慮すると、前記混合物における高融点油脂の含有量は、該混合物の全質量に対して、好ましくは0.1~30質量%、さらに好ましくは0.5~15質量%、より好ましくは1~10質量%である。
前記混合工程で用いる蛋白素材は、主として、製造目的物たる澱粉組成物を用いた衣付揚げ物の衣の食感を向上させる役割を担うものである。即ち、前記混合工程において澱粉と共に蛋白素材を併用することで、澱粉と蛋白素材とが複合体を形成し、その複合体を含む澱粉組成物を用いた衣付揚げ物の衣の食感は、サクサクと軽い食感となりやすい。蛋白素材としては、植物性、動物性にかかわらず、食品に使用可能なものを特に制限なく用いることができ、例えば、グルテン、グリアジン、グルテニン等の小麦蛋白;全卵、卵白、卵黄等の卵蛋白;脱脂粉乳、ホエー蛋白等の乳蛋白;大豆蛋白、ゼラチン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの蛋白素材の中でも、サクサクとした食味や風味の観点から、特に小麦グルテン、大豆粉が好ましい。小麦グルテン及び大豆粉以外の他の蛋白素材は不快な臭いの原因となり、衣付揚げ物の風味を低下させるおそれがある。
前記混合工程の製造目的物たる混合物における蛋白素材の含有量は、該混合物の全質量に対して、0.1~10質量%である。加水前の前記混合物における蛋白素材の含有量が0.1質量%未満では、これを使用する意義に乏しく、蛋白素材の含有量が10質量%を超えると、これを含む澱粉組成物を用いた衣付揚げ物について、食感の硬化、不快な蛋白臭の増加を招くおそれがあり、製造コストの高騰にも繋がり得る。以上を考慮すると、前記混合物における蛋白素材の含有量は、該混合物の全質量に対して、好ましくは0.3~7.5質量%、さらに好ましくは0.5~7.5質量%である。
前記混合工程では、前記成分(澱粉、高融点油脂、蛋白素材)に加えてさらに、pH調整剤を用いてもよい。前記混合工程でpH調整剤を用いる理由の1つとして、澱粉組成物を用いた衣付揚げ物の外観向上がある。即ち、衣付揚げ物に用いる具材の種類によっては、澱粉組成物のpHが所定の範囲内にないと、衣付揚げ物の衣が経時的に変色し、衣付揚げ物の外観が損なわれる場合があるので、斯かる衣付揚げ物の変色を抑制するために、前記混合工程でpH調整剤を使用し、製造目的物たる澱粉組成物のpHを、これと併用する具材との関係で変色の起こり難い範囲に調整するのである。変色防止の観点から設定すべき澱粉組成物のpHの範囲は、具材の種類等によって異なる。例えばナスにはアントシアニン類の一種である果皮色素のナスニン(delphinidin 3-p-Coumaroylrhamnosylglucoside- 5-glucoside)が含まれており、ナスを衣付揚げ物の具材として使用した場合には、具材表面(ナスの果皮)がアルカリ側であることに起因して、衣付揚げ物の外観機能としての品質不良となる緑変を起こすおそれがある。よってこの場合は、具材表面を中性及びその近傍に調整することが好ましく、そのために、前記混合工程でpH調整剤を使用して製造目的物たる澱粉組成物を弱酸性ないし中性にするのが好ましい。衣付揚げ物の衣の変色が比較的起こりやすい具材として、ナスの他には例えば、ゴボウ、イモ類がある。
前記混合工程の製造目的物たる混合物のpHを酸性側に調整する場合は、食品に使用可能な酸性剤を用いることができ、またアルカリ側に調整する場合は、食品に使用可能なアルカリ剤を用いることができる。酸性剤としては、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、フマル酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸、及びこれらの塩類等が挙げられ、これらの1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。アルカリ剤としては、例えば、かんすい、炭酸塩、重炭酸塩、リン酸塩、縮合リン酸塩、焼成カルシウム、塩基性アミノ酸等が挙げられ、これらの1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。加水前の前記混合物におけるpH調整剤の含有量は、該混合物の全質量に対して、好ましくは0.005~2質量%、さらに好ましくは0.02~1.5質量%、より好ましくは0.03~1.2質量%、特に好ましくは0.03~1質量%である。
前記混合工程では、前記成分(澱粉、高融点油脂、蛋白素材)に加えてさらに、高融点油脂以外の他の食用油脂、例えば、常温(25℃)で液状の液体油脂を用いてもよい。液体油脂としては、食品に使用可能なものを特に制限なく用いることができ、2種以上の液体油脂の混合物でもよい。また、液体油脂の添加方法は、前記混合工程の製造目的物たる混合物において液体油脂が均一分散され得る方法であればよく、例えばスプレーによる噴霧が挙げられる。また、前記混合工程を混合機によって行う場合、その混合機内に水を投入するのに先立って、予め、澱粉及び高融点油脂と共に液体油脂を投入しておくことが好ましい。加水前の前記混合物における液体油脂の含有量は、該混合物の全質量に対して、好ましくは0~5質量%である。
尚、前記混合工程では、前記成分(澱粉、高融点油脂、蛋白素材)に加えてさらに、小麦粉などの穀粉を用いてもよいが、穀粉を用いずとも高品質の澱粉組成物を得ることは可能であり、この点は後述する実施例からも明らかである。また、本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物に別途、穀粉(熱処理穀粉)を添加して、ブレダーミックスなどの各種衣材を製造することは本発明に包含される。
前記混合工程に続いて実施される前記加水工程では、該混合工程で調製された混合物(澱粉、高融点油脂及び蛋白素材を含む混合物)100質量部に対し、水を5~35質量部添加する。前記加水工程の主たる目的は、前記混合物中の澱粉に水分を含ませ、該澱粉を膨潤させることで、該混合物中の高融点油脂による該澱粉のコーティングを促進させるためであり、これにより、本発明の所定の効果がより確実に奏されるようになる。加水量が前記混合物100質量部に対し5質量部未満では、加水する意義に乏しく、また、高融点油脂や蛋白素材などの分散性が低下するおそれがあり、加水量が前記混合物100質量部に対し35質量部を超えると、加水後の該混合物のハンドリングが悪くなるおそれがある。以上を考慮すると、前記加水工程における加水量は、前記混合物100質量部に対し、好ましくは5~30質量部、さらに好ましくは5~25質量部、より好ましくは5~20質量部である。
また、同様の観点、即ち高融点油脂による澱粉のコーティングを促進する観点から、前記加水工程を経た、加水された前記混合物(澱粉、高融点油脂、蛋白素材及び水を含む混合物)の水分含量は、該混合物の全質量に対して、好ましくは5~35質量%、さらに好ましくは8~35質量%、より好ましくは10~30質量%、特に好ましくは15~30質量%である。
前記混合工程及び前記加水工程は、公知の混合機を用いて行うことができる。典型的には、混合機内に澱粉、高融点油脂、必要に応じその他の成分を、任意の順序で投入後、最後に該混合機内に水を投入即ち加水し、しかる後、該混合機を作動させて内容物を混合攪拌することで、前記混合工程及び前記加水工程を実施することができる。混合機としては公知のものを特に制限なく用いることができ、例えば、ラボスケール(家庭用又はこれに準ずる用途)であれば、ホバートミキサー、ロボクープが挙げられ、大型混合機(業務用又はこれに準ずる用途)であれば、リボンミキサー、レーディゲミキサーなどの高速攪拌混合機が挙げられる。
前記加水工程に続いて実施される前記熱処理工程では、少なくとも澱粉、高融点油脂、蛋白素材及び水を含む混合物を熱処理する。前記熱処理はいわゆる乾熱処理であり、即ち処理対象たる前記混合物を水分無添加の条件で加熱する処理であり、処理対象中の水分を積極的に蒸発させる処理である。前記熱処理(乾熱処理)としては、焙焼小麦粉の製造において従来採用されている熱処理を利用することができ、例えば、オーブンでの加熱、焙焼窯での加熱、乾燥器を用いる加熱、熱風を吹き付ける熱風乾燥、高温低湿度環境での放置などによって実施することができる。前記熱処理は、公知の熱処理機を用いて行うことができ、熱処理機としては例えば、ラボスケール(家庭用又はこれに準ずる用途)であれば、ホットプレート、回転式炒め機が挙げられ、大型熱処理機(業務用又はこれに準ずる用途)であれば、棚式熱風乾燥機、連続式運行釜、バンドオーブン、パドルドライヤー、流動層乾燥機、振動乾燥機、ロータリーキルン式の加熱・乾燥機が挙げられる。前記熱処理が処理対象に対して均一に施されるようにし、また、前記熱処理を比較的短時間で済ませる観点から、前記熱処理は、処理対象(澱粉、高融点油脂、蛋白素材及び水を含む混合物)を攪拌しながら加熱する処理であることが好ましい。
前記熱処理工程では、前記混合工程及び前記加水工程を経た混合物を、その品温が80~210℃となる条件で熱処理する。この品温80~210℃は、前記混合物の熱処理における最高品温であることが好ましい。前記熱処理における前記混合物の品温が80℃未満では、本発明の所定の効果が奏されず、該品温が210℃を超えると、前記混合物に過度な着色や焦げが生じ、澱粉組成物の品質上好ましくないし、また、熱処理するために熱処理機に必要なエネルギーの効率の観点からも好ましくない。前記熱処理における前記混合物の品温(最高品温)は、好ましくは100~200℃である。また、前記熱処理における前記混合物の品温は、前記特定範囲にあることに加えてさらに、該混合物に含まれる高融点油脂の融点以上の温度であることが好ましい。
また、本発明の所定の効果をより確実に奏させるようにする観点から、前記熱処理は、処理対象たる前記混合物の品温が、該混合物に含まれる高融点油脂の融点未満の初期温度(通常は室温であり例えば25℃)からスタートして該融点以上に昇温し、該高融点油脂が該混合物中に均一に混合されるまで実施することが好ましく、具体的には、前記混合物の品温(最高品温)が80~210℃となる条件で、かつ総熱処理時間が2~20分間であることが好ましい。前記熱処理における前記混合物の総熱処理時間が2分未満では、熱処理が不十分となって本発明の所定の効果が奏されないおそれがあり、総熱処理時間が20分を超えると、前記混合物に過度な着色や焦げが生じ、澱粉組成物の品質上好ましくない。特に、前記混合物の品温(最高品温)が100~200℃となる条件で、かつ総熱処理時間が3~15分間であることが好ましい。尚、ここでいう「総熱処理時間」は、処理対象たる前記混合物の熱処理の開始時点から終了までの時間を意味し、前記混合物の品温(好ましくは最高品温)80~210℃が維持される時間とは必ずしも一致しない。前記混合物の品温(好ましくは最高品温)80~210℃が維持される時間は、好ましくは1分間以上である。
前記熱処理工程を経た前記混合物(澱粉、高融点油脂、蛋白素材及び水を含む混合物)は、そのまま製造目的物たる澱粉組成物となり得るものであるが、熱処理後に何等の後処理も施さずに得られた澱粉組成物は、水分含量が比較的少なく(通常5質量%以下)、それ故に保存中に吸湿しやすいことに起因して、品質や性状に変化、劣化が生じやすいことが懸念される。そこで斯かる懸念を払拭する観点から、前記熱処理工程後に、前記混合物に加水して水分含量を所定範囲に調整する調湿工程を導入することが好ましい。前記調湿工程は、例えば、混合機内に処理対象(熱処理された前記混合物)と共に水を投入して攪拌混合することで実施可能であり、該混合機としては例えば、ニーダー、リボンミキサー、ナウターミキサー、回転型混合機が挙げられる。前記調湿工程の別の実施方法として、処理対象を空中に浮遊させ、その浮遊物たる処理対象に水をスプレーで噴霧する方法が挙げられ、該方法は例えばフロージェットミキサーを用いて実施することができる。前記調湿工程において、処理対象たる熱処理された前記混合物への加水量は、加水後の該混合物の水分含量が8~16質量%、特に10~14質量%となる範囲とすることが好ましい。
また、前記熱処理工程においては通常、その処理対象たる前記混合物に含まれる澱粉、高融点油脂、蛋白素材及び水をはじめとする各成分が該澱粉の粒を核として造粒し、比較的大型の粒を形成するので、前記熱処理工程を経た前記混合物は、比較的粒子径の大きい粉体となる。そこで、澱粉組成物の用途等によっては、前記熱処理工程を経た前記混合物に対して粉砕処理を施し、粒子の大きさを小さくしてもよい。但し、前記粉砕処理の最中においては、その処理対象の品温が該処理対象に含まれる高融点油脂の融点を超えないように留意すべきである。前記粉砕処理は、前記熱処理工程の直後ではなく、前記熱処理工程後に任意で実施される前記調湿工程の後に実施してもよい。前記粉砕処理の方法は特に制限されず、例えば、ボールミル、ハンマーミル、圧延ロールなどの機械式粉砕;ジェットミルなどの衝突式粉砕を利用できる。
本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物は、衣付揚げ物全般に適用可能であり、具体的には例えば、豚カツ、牛カツ、メンチカツ、チキンカツなどのカツ類;クリームコロッケなどのコロッケ類;フライドチキン、唐揚げ、フリッター、魚介類を具材とするフライなどに適用可能である。本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物は、そのまま衣付揚げ物の衣材として用いてもよく、他の食品素材を加えた上で衣材として用いてもよい。
前記他の食品素材としては、衣付揚げ物の衣材として通常用いられるものを特に制限なく用いることができ、例えば、前記混合工程で使用可能な澱粉及び加工澱粉、穀粉、デキストリン、山芋粉、食物繊維、クラッカー、増粘剤、乳化剤、食塩、糖類、甘味料、調味料、香辛料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、膨張剤等が挙げられ、これらの1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。前記穀粉としては、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉、小麦全粒粉、デュラムセモリナ等の小麦粉;ライ麦粉、米粉、コーンフラワー、コーングリッツ等;これらの穀粉を熱処理してなる熱処理穀粉が挙げられる。前記調味料としては、例えば、食塩、糖類、粉末醤油、化学調味料、天然エキスが挙げられる。前記香辛料としては、例えば、胡椒粉末、ガーリックパウダー、ジンジャーパウダー、オニオンパウダー、唐辛子粉、香草粉末が挙げられる。前記色素としては、例えば、パプリカ色素、アナトー色素が挙げられる。前記膨張剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウムと、酸性ピロリン酸ナトリウム、α-酒石酸水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸一水素カルシウムが挙げられる。
本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物、あるいは該澱粉組成物と前記他の食品素材との混合物は、加水せずに具材に付着させて使用するブレダーミックスとして特に好適に使用できる。即ち、常温常圧で粉体である前記澱粉組成物又は前記澱粉組成物と前記他の食品素材との混合物は、これに加水せずに、その粉体の状態のままで具材に付着させて使用するブレダーミックスとして特に有用である。斯かる意味を有する「ブレダーミックス」は、同じく常温常圧で粉体ではあるが、該粉体に加水して液状としたもの(いわゆるバッター液)を具材に付着させて使用する「バッターミックス」とは明確に区別される。尚、本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物又は該澱粉組成物と前記他の食品素材との混合物をブレダーミックスとして使用する場合、該ブレダーミックスを具材に付着させるのに先立って、具材の表面に前処理を施してもよく、該前処理として例えば、打ち粉、バッター液の付着が挙げられる。
本発明には、前述した本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物を用いたブレダーミックスの製造方法が包含される。前述した本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物は、そのままブレダーミックスとして使用することができるから、本発明の澱粉組成物の製造方法は、そのまま本発明のブレダーミックスの製造方法となり得る。また、本発明のブレダーミックスの製造方法の一実施態様として、本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物と前記他の食品素材とを混合する工程を有するものが挙げられる。斯かるブレダーミックスの製造方法の一実施態様において、前記澱粉組成物と他の食品素材との混合物における前記澱粉組成物の含有量は、前記澱粉組成物による作用効果を阻害しない範囲であればよく、好ましくは1~95質量%、さらに好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~70質量%である。
また本発明には、前述した本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物を含むブレダーミックスを、該ブレダーミックスに加水せずに具材に付着させ、加熱調理する工程を有する、衣付揚げ物の製造方法が包含される。ここでいう「加熱調理」は、典型的には食用油を使用する調理であるが、食用油を使用しないいわゆるノンフライ調理も含まれる。食用油を使用する加熱調理としては、比較的少量の油を使用する焼き調理、比較的大量の油を使用する揚げ調理を例示できる。ノンフライ調理は、例えばフライパン、オーブン、コンベクションオーブンなどの加熱調理器を用いて実施することができる。
前記具材としては、衣付揚げ物に通常用いられるものを特に制限なく用いることができ、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉などの畜肉類;エビ、カニ、イカ、貝類などの魚介類;イモ類、カボチャ、ナス、ピーマン、レンコンなどの野菜類;シイタケなどのキノコ類が挙げられる。また、具材に前記ブレダーミックスを付着させるのに先立って、必要に応じ具材の表面に、マリネード液、打ち粉、まぶし粉、バッター液などを付着させてもよい。
本発明の衣付揚げ物の製造方法の一実施態様として、前述した本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物を含むブレダーミックスを、該ブレダーミックスに加水せずに具材に付着させ、加熱調理して調理済み衣付揚げ物を得、該調理済み衣付揚げ物を冷凍する工程を有するもの、即ち調理済み冷凍衣付揚げ物の製造方法が挙げられる。斯かる製造方法によって製造された調理済み冷凍衣付揚げ物を喫食可能な状態にするためには、該調理済み冷凍衣付揚げ物に対し、自然解凍、又は電子レンジなどの加熱調理器を用いた加熱解凍を行う必要があるが、本発明によれば、前記澱粉組成物の作用により、該調理済み冷凍衣付揚げ物にこのような解凍処理を施しても、衣がサクサクと軽い食感を有し、加熱調理直後と比べて遜色ない品質を維持し得る衣付揚げ物が得られる。
また本発明には、前述した本発明の製造方法によって製造された澱粉組成物を含むブレダーミックスを、該ブレダーミックスに加水せずに具材に付着させた後、そのブレダーミックスが付着した具材を冷凍する工程を有する、冷凍衣付揚げ物の製造方法が包含される。斯かる製造方法によって製造された冷凍衣付揚げ物を喫食可能な状態にするためには、該冷凍衣付揚げ物を加熱調理すればよい。ここでいう「加熱調理」の意味は前記の通りである。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例A1~A13、比較例A1~A3及び参考例A1~A2〕
下記表1及び2の配合で各原材料を混合し、その混合物を適宜熱処理して、澱粉組成物を製造した。使用した原材料は下記の通り。
・高融点油脂(融点68℃):硬化菜種油、理研ビタミン(株)製、商品名「スプレーファットNR-100」
・高融点油脂(融点59℃):硬化パーム油、理研ビタミン(株)製、商品名「スプレーファットPM」
・食用高融点油脂(融点45℃):精製パーム油(高融点)、金田商事(株)製
・食用油脂(融点35℃):精製パーム油、金田商事(株)製
・蛋白素材:小麦グルテン、グリコ栄養食品(株)製、商品名「A-グルG」
・pH調整剤:クエン酸、八宝商会製、商品名「クエン酸三ナトリウム」
・液体油脂(融点-5℃):べに花油、日清オイリオグループ(株)製、商品名「日清べに花油」
Figure 0007030589000001
Figure 0007030589000002
〔実施例B1~B16、比較例B1~B4及び参考例B1~B2〕
各実施例、比較例及び参考例の澱粉組成物と他の食品素材とを下記表3及び4の配合で混合して、ブレダーミックスを製造した。使用した原材料は下記の通り。
・小麦粉:薄力粉、日清製粉(株)製、商品名「フラワー」
・加工澱粉:日本食品化工(株)製、商品名「日食バッタースターチ#200N」
〔試験例〕
具材として、カットした鶏モモ肉80gを複数個用意した。鶏モモ肉をマリネーションした後、加工澱粉(日本食品化工(株)製、商品名「日食バッタースターチ#200N」)を打ち粉し、さらに下記バッター液中に浸漬した後、該鶏モモ肉の表面全体に各実施例、比較例及び参考例のブレダーミックスを付着させた。こうして下処理された鶏モモ肉を、温度175℃の食用油で2分間フライ調理し、30秒間ベンチタイムを取った後、さらに温度175℃の食用油で2分間フライ調理してフライドチキン(衣付揚げ物)を製造した。このフライドチキンを庫内温度-30℃の冷凍庫に入れて急速冷凍し、-18℃以下で冷凍保存して冷凍フライドチキン(調理済み冷凍衣付揚げ物)を得た。この冷凍フライドチキンを、電子レンジにより冷凍フライドチキン1個当たり1500Wで40秒間加熱して加熱フライドチキンを得、該加熱フライドチキンを10名のパネラーに食してもらい、その際の食感を下記評価基準(5点満点)により評価してもらった。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表3及び4に示す。
(バッター液)
下記組成のバッター用組成物100gを、大豆白絞油20gと水200mlとの混合液に溶いたものをバッター液とした。ここで使用したバッター用組成物の組成は、加工澱粉78.5質量%、小麦粉20質量%、乳化剤1質量%、増粘剤0.5質量%であり、各成分の詳細は下記の通り。
・加工澱粉:日本食品化工(株)製、商品名「日食バッタースターチ#200N」
・小麦粉:薄力粉 日清製粉(株)製、商品名「フラワー」
・乳化剤:モノステアリン酸グリセリン、花王(株)製、商品名「エキセルS-95」
・増粘剤:グァーガム、DSP五協フード&ケミカル(株)製、商品名「グアパック」
(衣の食感の評価基準)
5点:サクサクとして歯脆さに富み、極めて良好。
4点:サクサクとしており、良好。
3点:ややサクサク感に欠ける。
2点:やや硬いかややネチャついており、サクサク感に乏しく、不良。
1点:硬すぎるかネチャつきが大きく、サクサク感がなく、極めて不良。
Figure 0007030589000003
表3に示す通り、各実施例は各比較例及び参考例に比して、電子レンジ再加熱後の衣付揚げ物(フライドチキン)の衣の食感に優れていた。
比較例B1は主として、ブレダーミックスが熱処理された澱粉組成物を含んでいないため、また比較例B2は主として、使用した比較例A1の澱粉組成物の製造において加水量がゼロであるため(表1参照)、また比較例B3は主として、使用した比較例A2の澱粉組成物の製造において高融点油脂を使用していないため(表1参照)、それぞれ各実施例に比して低評価となったと推察される。
参考例B1及びB2は、使用した参考例A1及びA2の澱粉組成物に焦げが発生したことから、澱粉組成物の製造時における混合物の熱処理条件は、参考例A1及びA2のそれよりも穏やかにする、即ち、混合物の品温を比較的低温にし、あるいは総熱処理時間を比較的短時間にすることが好ましいことがわかる。
Figure 0007030589000004
表4に示す通り、各実施例は比較例B4に比して、電子レンジ再加熱後の衣付揚げ物(フライドチキン)の衣の食感に優れていた。
比較例B4は主として、使用した比較例A3の澱粉組成物に含まれる高融点油脂の融点が40℃未満であるため(表2参照)、使用した澱粉組成物の基本組成が同様である実施例B14ないしB16に比して低評価となったと推察される。

Claims (5)

  1. 澱粉と融点40℃以上の高融点油脂と蛋白素材とを含有し、該高融点油脂の含有量が0.1質量%以上、該蛋白素材の含有量が0.1~10質量%である混合物を調製し、該混合物100質量部に水5~35質量部を添加後、該混合物を熱処理する工程を有し、
    前記熱処理は、前記混合物の最高品温100~210℃(但し、100~130℃を除く)が1分間以上維持され、かつ総熱処理時間が2~20分間となる条件で実施されるブレダーミックス用の澱粉組成物の製造方法。
  2. 前記蛋白素材が、小麦グルテン及び大豆粉からなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の澱粉組成物の製造方法。
  3. 前記熱処理後に前記混合物に加水して該混合物の水分含量を8~16質量%に調整する工程を有する請求項1又は2に記載の澱粉組成物の製造方法。
  4. 請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された澱粉組成物を用いたブレダーミックスの製造方法であって、
    前記澱粉組成物と他の食品素材とを混合する工程を有し、その混合物における該澱粉組成物の含有量を1~95質量%とする、ブレダーミックスの製造方法。
  5. 請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された澱粉組成物を含むブレダーミックスを、該ブレダーミックスに加水せずに具材に付着させ、加熱調理する工程を有する、衣付揚げ物の製造方法。
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