JP7030102B2 - ディスクブレーキ構造 - Google Patents

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本発明は、ディスクブレーキ構造に関する。
例えば特許文献1には、ディスクブレーキのブレーキパッドにおいて、ディスク回転方向の中央部を挟んだ両側(ディスク回入側とディスク回出側)で摩擦材を非対称とし、もって摩擦材の偏摩耗対策とする技術が開示されている。
国際公開第2010/137715号
ところで、一般的に、ブレーキパッドの裏金の形状は、キャリパーピストンの配置により決定されている。ブレーキパッドの摩擦材の形状は、裏金の形状に沿うように決定されている。キャリパーピストンの数が増えると、ブレーキパッドは細長い形状となる傾向がある。この場合、ブレーキ鳴きが生じやすくなるという課題がある。
すなわち、特に細長いブレーキパッドにおいて、ディスク回転方向の端部は、ディスク回転方向の外側ほどディスク径方向幅が狭い先細り形状をなすことがある。これは、ブレーキパッドの端部が、キャリパー外側のキャリパーピストンの外周形状に沿うように形成されるからである。ブレーキパッドの先細り形状部では、ディスク接触面が減少することで部分的に面圧が増加する。この面圧影響に起因して、特にディスク回入側では、いわゆるスティックスリップ現象が生じやすくなる。その結果、ディスク回入側でブレーキ鳴きが生じやすくなる。
そこで本発明は、ブレーキパッドの摩擦材のディスク回入側のブレーキ鳴きの発生を抑えることができるディスクブレーキ構造を提供する。
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、ブレーキディスク(12)と、ブレーキキャリパー(13)と、前記ブレーキキャリパー(13)に保持され、前記ブレーキキャリパー(13)の作動により前記ブレーキディスク(12)を挟圧する左右一対のブレーキパッド(20L,20R)と、を備え、左右一対の前記ブレーキパッド(20L,20R)の各々は、前記ブレーキキャリパー(13)内のキャリパーピストン(13b)を一側面に当接させる裏金(21L,21R)と、前記裏金(21L,21R)の他側面に一体形成されて前記ブレーキディスク(12)に対するディスク接触面(26)を形成する摩擦材(25L,25R)と、を備え、左右一対の前記摩擦材(25L,25R)は、互いに左右対称形状をなし、ディスク回転方向の上流側をディスク回入側(FWU)とし、ディスク回転方向の下流側をディスク回出側(FWD)とし、前記ブレーキキャリパー(13)の前記ディスク回入側(FWU)に位置する前記キャリパーピストン(13b)を回入側ピストン(13b1)としたとき、左右一対の前記摩擦材(25L,25R)の各々は、前記摩擦材(25L,25R)のディスク回入側端部(25b)が、前記回入側ピストン(13b1)のディスク回入側端部(13b2)よりも前記ディスク回出側(FWD)に位置しており、前記摩擦材(25L,25R)の前記ディスク回入側端部(25b)の端縁長さ(L3)は、前記裏金(21L,21R)のディスク回入側端部(21e)の端縁長さ(L4)よりも大きい。
この構成によれば、摩擦材のディスク回入側端部が、回入側ピストンのディスク回入側端部よりもディスク回出側に位置することで、以下の効果を奏する。すなわち、ブレーキパッドのディスク回入側の部位は、ディスク回出側ほどディスク径方向幅が狭まる先細り形状に設けられることがある。この場合も、ブレーキパッドのディスク回入側において、前記先細り形状の部位を避けて摩擦材を設けることが可能となる。これにより、摩擦材のディスク回入側において、部分的にディスク接触面の面積が減少する部位(ひいては面圧が増加する部位)が発生することを抑えることができる。また、摩擦材のディスク回入側端部の少なくともディスク接触面側の端縁長さが、裏金のディスク回入側端部の端縁長さよりも大きいことでも、摩擦材のディスク回入側での面圧増加が抑えられる。その結果、摩擦材のディスク回入側の面圧増加に起因するブレーキ鳴きを抑えることができる。
上記構成は、摩擦材のディスク回入側端部に摩擦材の残量インジケーターを設ける場合にも好適である。すなわち、ブレーキパッドのディスク回入側において、前記先細り形状の部位を避けて摩擦材を設けることで、摩擦材のディスク回入側端部の長さが確保される。その結果、摩擦材の残量インジケーターの長さを確保しやすくなり、残量インジケーターの視認性を向上させることができる。
請求項2に記載した発明は、前記摩擦材(25L,25R)の前記ディスク回入側端部(25b)の端縁長さ(L3)は、前記回入側ピストン(13b1)の直径(D1)と略同一である。
この構成によれば、回入側ピストンの押圧力が摩擦材に広く分散するので、摩擦材のディスク回入側での面圧増加が抑えられる。その結果、摩擦材のディスク回入側の面圧増加に起因するブレーキ鳴きを抑えることができる。
請求項3に記載した発明は、前記摩擦材(25L,25R)の前記ディスク回入側端部(25b)は、前記裏金(21L,21R)側の基層(27L,27R)の端縁(27aL,27aR)に対して、前記ディスク接触面(26)側の表層(28L,28R)の端縁(28aL,28aR)を前記ディスク回出側(FWD)にオフセットさせた段差状をなしている。

この構成によれば、摩擦材のディスク回入側端部を段差状に形成することで、以下の効果を奏する。すなわち、摩擦材の平面視の角部は、摩擦材の成形都合上、丸面取りがなされる。この丸面取りは、摩擦材のディスク回入側端部の長さへの影響が大きい。これに対し、摩擦材のディスク回入側端部に段差形状を形成するために、ディスク接触面側の表層を追加加工により切削することが好ましい。これにより、ディスク接触面側の表層の丸面取りの範囲が縮小する。したがって、摩擦材のディスク回入側端部(特に表層の端縁)の長さが確保される。その結果、摩擦材のディスク回入側端部に残量インジケーターを設ける場合にも、残量インジケーターの長さを確保しやすくなる。このため、残量インジケーターの視認性を向上させることができる。
本発明によれば、ブレーキパッドの摩擦材のディスク回入側のブレーキ鳴きの発生を抑えることができる。
本発明の実施形態における自動二輪車の前輪周りの右側面図である。 図1のII矢視図である。 図2のIII-III断面図である。 実施形態のブレーキキャリパーの後面図である。 実施形態のブレーキパッドの斜視図である。 上記ブレーキパッドをディスク接触面側から見た平面図である。 図6の要部拡大図である。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UP、が示されている。
図1、図2は、自動二輪車等の鞍乗り型車両の前輪(操舵輪)2周りを示している。前輪2は、左右一対のフロントフォーク3の下端部に支持されている。左右フロントフォーク3の上部は、不図示のステアリングステムを介して、不図示の車体フレームの前端部(ヘッドパイプ)に操舵可能に支持されている。左右フロントフォーク3の間には、前輪2の上部を覆うフロントフェンダ4が支持されている。図中符号2bは前輪2の車軸、線C1は車軸2bの中心軸線をそれぞれ示す。車軸2bの中心軸線C1に沿う方向を車軸方向と称する。図中線CLは前輪2の車軸方向中心を示す。前輪2の舵角が0度(直進位置)の状態において、車軸方向は車両左右方向(車幅方向)となる。
自動二輪車1は、液圧式(油圧式)のディスクブレーキである前輪ブレーキ10を備えている。前輪ブレーキ10は、前輪2と一体回転するブレーキディスク12と、液圧(油圧)の供給により作動するブレーキキャリパー13と、ブレーキキャリパー13内に保持され、ブレーキキャリパー13の作動によりブレーキディスク12を挟圧して摩擦制動力を発生させる左右一対のブレーキパッド20と、を備えている。図中符号はそれぞれブレーキキャリパー13には、液圧供給用に例えば二本のブレーキホース16,16aが接続される。一方のブレーキホース16は、前輪ブレーキ10の単独作動時の液圧供給に用いられる。他方のブレーキホース16aは、前後ブレーキ連動時の液圧供給に用いられる。
前輪ブレーキ10は、例えば前輪2の右側に配置されている。前輪ブレーキ10のブレーキディスク12は、車軸2bと直交する円板状をなし、中央開口を有している。ブレーキディスク12は、外周部に設けられてブレーキキャリパー13に挟圧されるディスク本体12aと、ディスク本体12aの内周側に設けられるディスクフランジ12bと、を備えている。ディスクフランジ12bは、前輪2のホイールハブ2aに締結固定される複数の締結部12cを備えている。複数の締結部12cは、ディスク周方向(前輪2の周方向)で等間隔に並んでいる。
ブレーキディスク12は、例えばディスク本体12aおよびディスクフランジ12bを面一状に一体形成している。複数の締結部12cの各々は、ホイールハブ2aに対し、車軸方向に沿う締結ボルトによって締結される。ディスク本体12aおよびディスクフランジ12bは、互いに別体であってもよい。ディスク本体12aおよびディスクフランジ12bは、互いに車軸方向でオフセットしてもよい。
左右フロントフォーク3は正立式であり、右フロントフォーク3のボトムケース(アウターチューブ)3aには、ブレーキキャリパー13がキャリパーブラケット15を介して支持される。ブレーキキャリパー13は、フロントフォーク3に固定されたキャリパーブラケット15に対し、車軸方向で規定量だけスライド可能に支持される。ブレーキキャリパー13は、浮動式(フローティング式、片押し式)である。図中符号15aはキャリパーブラケット15におけるフロントフォーク3への締結固定部、符号15bはキャリパーブラケット15におけるブレーキキャリパー13をスライド可能に支持するスライド支持部、をそれぞれ示す。図示都合上、締結固定部15aは締結ボルトに付番し、スライド支持部15bはスライド軸に付番する。
図3、図4を併せて参照し、ブレーキキャリパー13は、車軸方向でブレーキディスク12を跨ぐように設けられるキャリパーボディ13aを備えている。キャリパーボディ13a内には、左右一対のブレーキパッド20が支持ピン等を介して保持されている。左右一対のブレーキパッド20は、車軸方向でブレーキディスク12の両側に配置されている。実施形態では、車軸方向内側(左側)のブレーキパッド20を符号20Lで示し、車軸方向外側(右側)のブレーキパッド20を符号20Rで示すことがある。
キャリパーボディ13aの車軸方向の外側部には、軸方向を車軸方向と平行にしたキャリパーピストン13bが設けられている。キャリパーピストン13bは、ブレーキディスク12の回転方向(ディスク回転方向)で複数並んで設けられている。複数のキャリパーピストン13bは、キャリパーボディ13a内に形成された不図示のシリンダ内に、車軸方向でストローク可能に挿入されている。図中矢印FWは車両走行時のディスク回転方向(前輪2の回転方向)を示す。以下、ディスク回転方向の上流側(矢印FWの基端側)をディスク回入側FWU、ディスク回転方向の下流側(矢印FWの先端側)をディスク回出側FWDと称する。
キャリパーボディ13aは、各シリンダ内に形成された油室に液圧(油圧)が供給されると、対応するキャリパーピストン13bを車軸方向内側に移動させる。これにより、各キャリパーピストン13bが車軸方向外側のブレーキパッド20Rを押圧し、このブレーキパッド20Rのディスク接触面26をブレーキディスク12の外側面に圧接させる。
キャリパーピストン13bが車軸方向外側のブレーキパッド20を押圧すると、その反力でキャリパーボディ13aが車軸方向外側にスライドする。キャリパーボディ13aは、ブリッジ部13cを介してブレーキディスク12の車軸方向内側に配置される反力受け部13dを備えている。キャリパーボディ13aが車軸方向外側にスライドすると、反力受け部13dが車軸方向内側のブレーキパッド20Rを押圧し、このブレーキパッド20Rのディスク接触面26をブレーキディスク12の内側面に圧接させる。
以上の作用により、車軸方向内外の左右一対のブレーキパッド20が、ブレーキディスク12を車軸方向で挟圧し、もって前輪2の制動がなされる。
図1、図3を参照し、ブレーキキャリパー13が備える複数(三つ)のキャリパーピストン13bは、例えば前後連動ブレーキに対応して設けられている。ブレーキキャリパー13は、いわゆる3ポットキャリパーである。ブレーキキャリパー13は、二つのキャリパーピストン13bを備えた2ポットキャリパーに対し、ディスク回転方向に長く形成されている。
例えば、ディスク回転方向両側の二つのキャリパーピストン13bは、一般に前輪ブレーキ10の操作子である右ブレーキレバーの操作により液圧(油圧)が供給されて作動する。このとき、前輪ブレーキ10のみ作動してもよく、後輪ブレーキが連動して作動してもよい。
例えば、ディスク回転方向中央の一つのキャリパーピストン13bは、一般に後輪ブレーキの操作子であるブレーキペダル(又は左ブレーキレバー)の操作により液圧(油圧)が供給されて作動する。このとき、後輪ブレーキに連動して前輪ブレーキ10が作動する。
上記何れの場合も、ブレーキパッド20は、ディスク回転方向の中央部を挟んだ両側で対称となるように押圧される。これにより、ブレーキパッド20のディスク回入側FWUとディスク回出側FWDとで摩耗の偏りが生じ難くなる。
ブレーキキャリパー13ひいては前輪ブレーキ10は、前後連動ブレーキに対応するものに限らず、単に三つのキャリパーピストン13bを同時に作動させるものであってもよい。また、ディスク回転方向で並ぶ複数のキャリパーピストン13bは、三つに限らず二つ又は四つ以上であってもよい。
ブレーキパッド20は、ディスク回転方向に並ぶ複数のキャリパーピストン13bの押圧力を受けるため、ディスク回転方向に長く形成されている。各キャリパーピストン13bの力点(押圧中心)は、各キャリパーピストン13bの軸心位置にある。各キャリパーピストン13bの力点までの半径(ブレーキ有効径)が大きいほど、前輪ブレーキ10の制動力が大きい。ブレーキキャリパー13は、2ポットキャリパーに対して各キャリパーピストン13bを小径としている。これにより、キャリパーピストン13bの軸心位置をより外周側としてブレーキ有効径を確保するとともに、ブレーキキャリパー13全体の重量およびサイズを抑える。その結果、ブレーキキャリパー13は、キャリパーボディ13aおよびブレーキパッド20がディスク回転方向に細長く形成されている。
<ブレーキパッド構造>
以下、図3、図5~図7を参照し、車軸方向外側のブレーキパッド20Rを参照してブレーキパッド20の構成を説明する。車軸方向内側(右側)のブレーキパッド20Rは、特に記載がなければ、車軸方向外側(左側)のブレーキパッド20Lと同一構成とする。
ブレーキパッド20は、平板状をなして一側面にキャリパーピストン13bを当接させる裏金(バックプレート)21と、裏金21の他側面に一体形成されて裏金21と反対側に裏金21と平行なディスク接触面26を形成する摩擦材(ライニング)25と、を備えている。図中符号20cはブレーキパッド20のディスク回入側FWUの端部、符号20dはブレーキパッド20のディスク回出側FWDの端部をそれぞれ示す。
裏金21は、ディスク回転方向で三つのキャリパーピストン13bに渡る長さを有している。ブレーキパッド20の裏金21の平面視形状は、キャリパーボディ13aの形状に応じて決定されている。ブレーキパッド20の裏金21の平面視形状は、ディスク回転方向に長く形成されている。裏金21のディスク回入側FWUには、ディスク径方向内側の角部を切り欠く面取り状の傾斜辺部21aが形成されている。
以下、ブレーキキャリパー13における最もディスク回入側FWUに位置するキャリパーピストン13bを最回入側ピストン13b1と称する。裏金21のディスク回入側FWUは、最回入側ピストン13b1の外周形状(軸方向視の外形状)に倣うように先細りに形成されている。裏金21のディスク回入側FWUにおいて、ディスク回転方向で傾斜辺部21aが形成される範囲の部位を、ディスク回入側FWUほどディスク径方向幅が狭い先細り形状部21bと称する。車軸方向内側(左側)のブレーキパッド20Lの裏金21および摩擦材25をそれぞれ符号21L,25Lで示し、車軸方向外側(右側)のブレーキパッド20Rの裏金21および摩擦材25をそれぞれ符号21R,25Rで示すことがある。
車軸方向外側のブレーキパッド20において、裏金21のディスク回出側FWDには、キャリパーブラケット15の係止部15cにディスク径方向外側およびディスク回入側FWUから当接係合する外側パッド係止部21cが設けられている。
図4を併せて参照し、車軸方向内側のブレーキパッド20において、裏金21のディスク回出側FWDには、キャリパーブラケット15の車軸方向内側に突出するキャリパースライドピンの突出部15dにディスク回入側FWUから当接係合する内側パッド係止部21dが設けられている。
図中線C2はブレーキパッド20のディスク回転方向の中心位置を通りディスク径方向と平行な中心線を示す。中心線C2は、例えばディスク回転方向中央のキャリパーピストン13bの軸心を通る。図中符号21b1は裏金21の先細り形状部21bをディスク回出側FWDにも前記中心線C2を軸として対称に設けた場合の仮想の先細り形状部を示す。この先細り形状部21b1からはみ出した部位が前記各パッド係止部21c,21dとなる。
裏金21のディスク回出側FWDにも先細り形状部21b1を設けた場合の裏金21全体の仮想形状(各パッド係止部21c,21dを除いた形状)を符号21b2で示す。裏金21全体の仮想形状21b2に対し、摩擦材25は、全体的に小さい平面視形状に形成されている。摩擦材25のディスク接触面26側には、前記中心線C2と平行な溝(スリット)25aが複数設けられている。複数の溝25aは、摩耗粉の排出や排熱、排水等に寄与している。左右一対のブレーキパッド20において、各摩擦材25は、ブレーキディスク12を挟んで互いに左右対称の外形状を有している。
ここで、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bは、最回入側ピストン13b1の外周形状のディスク回入側FWUの端部13b2よりもディスク回出側FWDに位置している。摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bは、裏金21の先細り形状部21bよりもディスク回出側FWDに位置している。図中符号25b1は裏金21の先細り形状部21bの平面視形状に基づき決定される従来の摩擦材25の平面視形状を示す。
従来の摩擦材25の平面視形状25b1では、裏金21の先細り形状部21bと同様、ディスク回入側FWUほどディスク径方向幅が狭い先細り形状部25b2が形成される。摩擦材25のディスク回入側FWUに先細り形状部25b2があると、摩擦材25のディスク回入側FWUには、部分的にディスク接触面26の面積を減少させる部位が生じる。このため、摩擦材25のディスク回入側FWUには、部分的に面圧を増加させる部位が生じる。すると、ブレーキパッド20とブレーキディスク12との間で、摩擦面間の微細な付着と滑りとの繰り返しが生じやすくなる。これによって引き起こされる自励振動がいわゆるスティックスリップ(stick-slip)現象である。その結果、ディスク回入側FWUの面圧増加に起因するブレーキ鳴きが生じやすくなる。
図7を参照し、摩擦材25のディスク回入側FWUに先細り形状部25b2があると、摩擦材25(先細り形状部25b2)のディスク回入側FWUの端部(端縁)25bの長さL1は短くなる。摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bには、パッドウェアインジケータ(pad wear indicator:残量インジケーター)が設けられることがある。パッドウェアインジケータは、摩擦材25が使用限界(摩耗限界)の厚さにあることを目視可能とする。
図2は、ブレーキパッド20がブレーキキャリパー13とともに車体に組み付けられた状態で、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25b(パッドウェアインジケータ)が視認される様を示す。図4を併せて参照し、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25b(パッドウェアインジケータ)は、キャリパーボディ13aと反力受け部13dとの間の隙間から視認される。摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bの端縁長さL1が短いと、パッドウェアインジケータが視認され難くなる。
実施形態では、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bが、最回入側ピストン13b1のディスク回入側FWUの端部13b2よりもディスク回出側FWDに位置している。摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bは、裏金21の先細り形状部21bよりもディスク回出側FWDに位置している。摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bは、裏金21の先細り形状部21bをディスク回出側FWDに避けて設けられている。これにより、摩擦材25のディスク回入側FWUに先細り形状部25b2がある場合に比べて、摩擦材25のディスク回入側FWUに面圧増加部位が発生することが抑えられる。その結果、同部位の面圧増加に起因するブレーキ鳴きが抑えられる。
実施形態では、摩擦材25のディスク回入側FWUに先細り形状部25b2がある場合に比べて、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bの端縁長さL2が長くなる。その結果、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bにパッドウェアインジケータを設けた場合にも、ユーザーがパッドウェアインジケータを視認しやすくなる。
摩擦材25の裏金21側の範囲の層を基層27、ディスク接触面26側の範囲の層を表層28と称する。摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bは、基層27の端縁27aに対して表層28の端縁28aをディスク回出側FWDにオフセットさせている。これにより、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bは、段差状(階段状)に形成されている。この段差状の端部25bが、パッドウェアインジケータとして機能する。基層27および表層28は、ディスク回転方向で互いにオフセットした各端縁27a,28aの車軸方向の厚みによって規定される。基層27および表層28は、材料および成形工程が互いに同一であるが、材料および成形工程の少なくとも一方が互いに異なってもよい。
車軸方向内側(左側)のブレーキパッド20Lの基層27および端縁27aをそれぞれ符号27L,27aLで示し、車軸方向外側(右側)のブレーキパッド20Rの表層28および端縁28aをそれぞれ符号28R,28aRで示すことがある。
摩擦材25の平面視形状の角部には、ブレーキパッド20の量産工程における摩擦材25の成形性を考慮し、丸面取り29が必要となる。このままだと、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bの実質的な端縁長さL2(前記丸面取り29を除いた直線部分の端縁長さL2)は、丸面取り29分だけ短くなる。
実施形態では、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bに段差形状を形成するために、以下の対応を行っている。すなわち、摩擦材25の成形後、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bに表層28分の厚みを切削する追加加工を施している。これにより、ブレーキパッド20の量産工程における摩擦材25の成形性を維持しつつ、以下の効果を奏する。すなわち、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25b(特に表層28の端縁28a)の実質的な長さL3がより長くなる。その結果、摩擦材25のディスク回入側FWUの端部25bにパッドウェアインジケータを設ける場合にも、ユーザーがパッドウェアインジケータをより視認しやすくなる。摩擦材25の端部25bのディスク接触面26側(表層28)の端縁28aの長さL3は、裏金21のディスク回入側FWUの端部21eの端縁長さL4よりも大きい。摩擦材25の端部25bのディスク接触面26側(表層28)の端縁28aの長さL3は、最回入側ピストン13b1の直径D1と実質的に同一である。実質的に同一とは、例えば直径D1が30mm以下の場合は±1mm程度の公差内にあることとする。
以上説明したように、上記実施形態におけるディスクブレーキ構造は、ブレーキディスク12と、ブレーキキャリパー13と、前記ブレーキキャリパー13に保持され、前記ブレーキキャリパー13の作動により前記ブレーキディスク12を挟圧する左右一対のブレーキパッド20L,20Rと、を備え、左右一対の前記ブレーキパッド20L,20Rの各々は、前記ブレーキキャリパー13内のキャリパーピストン13bを一側面に当接させる裏金21L,21Rと、前記裏金21L,21Rの他側面に一体形成されて前記ブレーキディスク12に対するディスク接触面26を形成する摩擦材25L,25Rと、を備え、左右一対の前記摩擦材25L,25Rは、互いに左右対称形状をなし、ディスク回転方向の上流側をディスク回入側FWUとし、ディスク回転方向の下流側をディスク回出側FWDとし、前記ブレーキキャリパー13の前記ディスク回入側FWUに位置する前記キャリパーピストン13bを最回入側ピストン13b1としたとき、左右一対の前記摩擦材25L,25Rの各々は、前記摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25bが、前記最回入側ピストン13b1のディスク回入側端部13b2よりも前記ディスク回出側FWDに位置しており、前記摩擦材25L,25Rの前記ディスク回入側端部25bの端縁長さL3は、前記裏金21L,21Rのディスク回入側端部21eの端縁長さL4よりも大きい。
この構成によれば、摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25bが、最回入側ピストン13b1のディスク回入側端部13b2よりもディスク回出側FWDに位置することで、以下の効果を奏する。すなわち、ブレーキパッド20のディスク回入側FWUの部位は、ディスク回出側FWDほどディスク径方向幅が狭まる先細り形状に設けられることがある。この場合も、ブレーキパッド20のディスク回入側FWUにおいて、前記先細り形状の部位を避けて摩擦材25L,25Rを設けることが可能となる。これにより、摩擦材25L,25Rのディスク回入側FWUにおいて、部分的にディスク接触面26の面積が減少する部位(ひいては面圧が増加する部位)が発生することを抑えることができる。また、摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25bの少なくともディスク接触面26側の端縁長さL3が、裏金21L,21Rのディスク回入側端部21eの端縁長さL4よりも大きいことでも、摩擦材25L,25Rのディスク回入側FWUでの面圧増加が抑えられる。その結果、摩擦材25L,25Rのディスク回入側FWUの面圧増加に起因するブレーキ鳴きを抑えることができる。
上記構成は、摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25bに摩擦材25L,25Rの残量インジケーターを設ける場合にも好適である。すなわち、ブレーキパッド20のディスク回入側FWUにおいて、前記先細り形状の部位を避けて摩擦材25L,25Rを設けることで、摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25bの長さが確保される。その結果、摩擦材25L,25Rの残量インジケーターの長さを確保しやすくなり、残量インジケーターの視認性を向上させることができる。
また、上記実施形態におけるディスクブレーキ構造は、前記摩擦材25L,25Rの前記ディスク回入側端部25bの端縁長さL3は、前記最回入側ピストン13b1の直径D1と略同一である。
この構成によれば、最回入側ピストン13b1の押圧力が摩擦材25L,25Rに広く分散するので、摩擦材25L,25Rのディスク回入側FWUでの面圧増加が抑えられる。その結果、摩擦材25L,25Rのディスク回入側FWUの面圧増加に起因するブレーキ鳴きを抑えることができる。
また、上記実施形態におけるディスクブレーキ構造は、前記裏金21L,21Rの前記ディスク回入側FWUには、ディスク径方向で幅狭となる先細り形状部21bを備え、左右一対の前記摩擦材25L,25Rの各々は、前記摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25bが、前記先細り形状部21bよりも前記ディスク回出側FWDに位置している。
この構成によれば、摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25bが、裏金21L,21Rのディスク回入側FWUに備える先細り形状部21bよりもディスク回出側FWDに位置することで、以下の効果を奏する。すなわち、ブレーキパッド20のディスク回入側FWUにおいて、前記先細り形状部21bを避けて摩擦材25L,25Rを設けることが可能となる。これにより、摩擦材25L,25Rのディスク回入側FWUにおいて、部分的にディスク接触面26の面積が減少する部位(ひいては面圧が増加する部位)が発生することを抑えることができる。その結果、摩擦材25L,25Rのディスク回入側FWUの面圧増加に起因するブレーキ鳴きを抑えることができる。また、摩擦材25L,25Rの残量インジケーターの長さを確保しやすくなり、残量インジケーターの視認性を向上させることができる。
また、上記実施形態におけるディスクブレーキ構造は、前記摩擦材25L,25Rの前記ディスク回入側端部25bは、前記裏金21L,21R側の基層27L,27Rの端縁27aL,27aRに対して、前記ディスク接触面26側の表層28L,28Rの端縁28aL,28aRを前記ディスク回出側FWDにオフセットさせた段差状をなしている。
この構成によれば、摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25bを段差状に形成することで、以下の効果を奏する。すなわち、摩擦材25L,25Rの平面視の角部は、摩擦材25L,25Rの成形都合上、丸面取り29がなされる。この丸面取り29は、摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25bの長さへの影響が大きい。これに対し、摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25bに段差形状を形成するために、ディスク接触面26側の表層28L,28Rを追加加工により切削することが好ましい。これにより、ディスク接触面26側の表層28L,28Rの丸面取り29の範囲が縮小する。したがって、摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25b(特に表層28L,28Rの端縁28aL,28aR)の長さが確保される。その結果、摩擦材25L,25Rのディスク回入側端部25bに残量インジケーターを設ける場合にも、残量インジケーターの長さを確保しやすくなる。このため、残量インジケーターの視認性を向上させることができる。
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、鞍乗り型車両の前輪ブレーキ10への適用に限らず、後輪ブレーキに適用してもよい。ブレーキキャリパー13は、片押し式のフローティングキャリパーに限らず、対向ピストンキャリパーであってもよい。
前記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれる。また、原動機に電気モータを含む車両も含まれる。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、実施形態の構成要素を周知の構成要素に置き換える等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
10 前輪ブレーキ(ディスクブレーキ)
12 ブレーキディスク
13 ブレーキキャリパー
13b キャリパーピストン
13b1 最回入側ピストン(回入側ピストン)
13b2 最回入側ピストンのディスク回入側端部
D1 最回入側ピストンの直径
20L,20R ブレーキパッド
21L,21R 裏金
21b 先細り形状部
21e 裏金のディスク回入側端部
25L,25R 摩擦材
25b 摩擦材のディスク回入側端部
26 ディスク接触面
27L,27R 基層
27aL,27aR 端縁
28L,28R 表層
28aL,28aR 端縁
FWU ディスク回入側
FWD ディスク回出側

Claims (3)

  1. ブレーキディスク(12)と、ブレーキキャリパー(13)と、前記ブレーキキャリパー(13)に保持され、前記ブレーキキャリパー(13)の作動により前記ブレーキディスク(12)を挟圧する左右一対のブレーキパッド(20L,20R)と、を備え、
    左右一対の前記ブレーキパッド(20L,20R)の各々は、前記ブレーキキャリパー(13)内のキャリパーピストン(13b)を一側面に当接させる裏金(21L,21R)と、前記裏金(21L,21R)の他側面に一体形成されて前記ブレーキディスク(12)に対するディスク接触面(26)を形成する摩擦材(25L,25R)と、を備え、
    左右一対の前記摩擦材(25L,25R)は、互いに左右対称形状をなし、
    ディスク回転方向の上流側をディスク回入側(FWU)とし、ディスク回転方向の下流側をディスク回出側(FWD)とし、前記ブレーキキャリパー(13)の前記ディスク回入側(FWU)に位置する前記キャリパーピストン(13b)を回入側ピストン(13b1)としたとき、
    左右一対の前記摩擦材(25L,25R)の各々は、前記摩擦材(25L,25R)のディスク回入側端部(25b)が、前記回入側ピストン(13b1)のディスク回入側端部(13b2)よりも前記ディスク回出側(FWD)に位置しており、
    前記摩擦材(25L,25R)の前記ディスク回入側端部(25b)の端縁長さ(L3)は、前記裏金(21L,21R)のディスク回入側端部(21e)の端縁長さ(L4)よりも大きいディスクブレーキ構造。
  2. 前記摩擦材(25L,25R)の前記ディスク回入側端部(25b)の端縁長さ(L3)は、前記回入側ピストン(13b1)の直径(D1)と略同一である請求項1に記載のディスクブレーキ構造。
  3. 前記摩擦材(25L,25R)の前記ディスク回入側端部(25b)は、前記裏金(21L,21R)側の基層(27L,27R)の端縁(27aL,27aR)に対して、前記ディスク接触面(26)側の表層(28L,28R)の端縁(28aL,28aR)を前記ディスク回出側(FWD)にオフセットさせた段差状をなしている請求項1又は2に記載のディスクブレーキ構造。
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