JP7020568B2 - 鋼の連続鋳造方法 - Google Patents

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Description

本発明は鋼の連続鋳造方法に関する。
本願は、2018年12月10日に日本に出願された特願2018-231136号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
近年、厚鋼板等の鉄鋼材料において、機械特性向上のため、Ti、Nb、Ni、Cu等の合金元素を含有した低合金鋼が多く製造されている。しかしながら、これら合金元素の添加に伴い、連続鋳造において製造された鋳片に表面割れ欠陥が生じ、操業上および製品の品質上の問題となっている。ここでの表面割れとは、横ひび割れといった鋳造方向でない割れ形態の総称を意味する。
連続鋳造において合金元素を含有する鋳片の表面割れを防止する方法としては、例えば、特許文献1に開示されたような方法がある。特許文献1に開示された方法は、鋳型直下の水冷ノズルについて平均水量密度を高めるとともに所定の衝突圧で冷却水を鋳片へと吹き付けることで、鋳片表面に付着したパウダーを剥離しながら鋳片の表面温度をA変態温度以下に安定的に冷却し、その後、鋳片の復熱を行って、曲げ部又は矯正部における鋳片の表面温度を脆化温度域よりも高温として鋳造を行うものである。
連続鋳造の二次冷却帯以降で発生する表面割れは鋳片表層の旧オーステナイト粒界に沿った割れであることが知られている。この割れはAlNやNbC等の析出により脆化したオーステナイト粒界や、旧オーステナイト粒界に沿って生成するフィルム状フェライトに応力が集中することで発生する。割れの形態はかかる応力の方向により異なり、横ひび割れは鋳造方向への引張応力によって生じる。特に、オーステナイトからフェライトへの相変態領域近傍の温度域において割れが発生しやすい。したがって、特許文献1に開示されているように、機械的な応力が鋳片表面にかかる曲げや矯正帯での表面温度を延性が低下する温度域(脆化温度域)から回避し、割れの発生を抑制する方法が取られる。
日本国特開2018-099704号公報
近年、機械特性向上のため様々な元素が添加された合金鋼種が増えるにつれ、鋳片表面割れ感受性が高い鋼種が増加しており、脆化温度域を回避する上記の連続鋳造方法のみでは必ずしも鋳片表面割れ発生を防止することができない。このように、従来の鋼の連続鋳造方法にあっては、目的とする冷却能力を確保しつつ鋳片表面割れを防止する点において改善の余地がある。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、鋳片表層のミクロ組織を制御でき、二次冷却不均一に起因した鋳片表面割れを抑制できるとともに、曲げ部における歪に起因した鋳片表面割れを抑制できる鋼の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様に係る鋼の連続鋳造方法では、鋳型から鋳片を鉛直方向下方に引き抜く垂直部と、前記垂直部から引き抜かれた前記鋳片を曲げる曲げ部とを備え、前記垂直部の上部側が、ロールと冷却スプレーノズルとを含み、前記ロール間の各段あたりに設置された、冷却水量を独立して制御できる前記スプレーノズルの冷却段数で決まる第1の冷却ゾーンと、前記第1の冷却ゾーンから前記曲げ部までの間に位置する第2の冷却ゾーンを備える垂直曲げ型の連続鋳造装置を用いて鋼を連続的に鋳造する方法であって、前記第1の冷却ゾーンにおいて、前記冷却スプレーノズルの一本当たりの水量R(L/min)に対する空気量A(L/min)の比である気水比A/Rを10以上とするとともに、前記冷却スプレーノズルから前記鋳片の表面に衝突する冷却水の衝突圧を12gf/cm以上とし、前記第1の冷却ゾーンにおける冷却水密度W(L/min/m)を500L/min/m以上2000L/min/m以下とし、前記鋳片が前記第1の冷却ゾーンを通過する時間t(min)との積として定義される冷却強度W×tを350以上とし、前記第1の冷却ゾーン通過後から前記曲げ部に到達するまでの前記第2の冷却ゾーンにおける冷却水密度W(L/min/m)を前記第1の冷却ゾーンと比較して低下させることで、前記鋳片の前記第2の冷却ゾーンを通過する復熱時間tを0.5min以上とする。
(2)上記(1)に記載の鋼の連続鋳造方法においては、前記第1の冷却ゾーンにおいて、前記冷却スプレーノズルの一本当たりの水量R(L/min)を20L/min以上50L/min以下としてもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の鋼の連続鋳造方法においては、前記第1の冷却ゾーンにおいて、前記冷却水密度W(L/min/m)を500L/min/m以上2000L/min/m以下としてもよい。
)上記(1)または(2)に記載の鋼の連続鋳造方法においては、前記垂直曲げ型の連続鋳造装置が、前記第1の冷却ゾーンから前記曲げ部までの間に第2の冷却ゾーンを備えていてもよく、前記第2の冷却ゾーンにおいて、冷却水密度W(L/min/m)を0L/min/m以上50L/min/m以下とすることで前記鋳片の表面を復熱させてもよい。
)上記(1)から()のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法においては、前記第1の冷却ゾーンを通過後に前記鋳片の表面を復熱させ、前記鋳片が前記曲げ部に到達する時点で前記鋳片の表面の温度をAc点以上の温度としてもよい。
)上記(1)から()のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法においては、前記ロールが分割ロールであってもよい。
本発明の鋼の連続鋳造方法においては、垂直部に設けられた第1の冷却ゾーンにおいて高気水比かつ高衝突のミストスプレーにより鋳片を冷却している。高気水比かつ高衝突圧のミストスプレーとすることで、鋳片表面のモールドパウダーを剥離できるとともに、ロール間におけるたまり水の発生を抑制でき、鋳片に対して均一に二次冷却を行うことができるものと考えられる。
また、本発明の鋼の連続鋳造方法においては、第1の冷却ゾーンにおける冷却強度を所定以上に高めている。冷却強度を所定以上とすることで、鋳片表層のミクロ組織をより適切に制御することができるものと考えられる。
さらに、本発明の鋼の連続鋳造方法においては、第1の冷却ゾーンによる冷却後、曲げ部に到達するまでの復熱時間を所定以上としており、鋳片表面を適切に復熱させることができる。これにより、鋳片表面に微細組織を生成させることができ、曲げ部における鋳片の表面割れを抑制することができる。
以上のとおり、本発明の鋼の連続鋳造方法によれば、鋳片表層のミクロ組織を制御でき、二次冷却不均一に起因した鋳片表面割れを抑制できるとともに、曲げ部における歪に起因した鋳片表面割れを抑制できる。
本発明の鋼の連続鋳造方法を説明するための概略図である。 図1の第1の冷却ゾーン21の一部を拡大して概略的に示す図である。
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。本明細書中において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また、以下の実施形態の各要素は、それぞれの組み合わせが可能であることは自明である。
図1を参照しつつ本発明の鋼の連続鋳造方法について説明する。図1が垂直曲げ型の連続鋳造装置100における鋳型10、垂直部20、曲げ部30等の位置関係を概略的に示す図である。図1(A)においては分かりやすさのため冷却スプレーノズル等を省略して示している。図2が垂直部20の第1の冷却ゾーン21の一部を拡大して概略的に示す図であり、ロール21a及び冷却スプレーノズル21bの位置関係を概略的に示している。冷却水の水量などの条件によっては、図2に示すように、冷却スプレーノズル21bから放出された冷却水は、鋳片1とロール21aとの間にたまり水Wとして残存する。
本実施形態の鋼の連続鋳造方法は、鋳型10から鋳片1を鉛直方向下方に引き抜く垂直部20と、垂直部20から引き抜かれた鋳片1を曲げる曲げ部30とを備えるとともに、垂直部20にロール21aと冷却スプレーノズル21bとを含む第1の冷却ゾーン21を備える垂直曲げ型の連続鋳造装置100を用いて鋼を連続的に鋳造する方法であって、第1の冷却ゾーン21において、冷却スプレーノズル21bの一本当たりの水量R(L/min)に対する空気量A(L/min)の比である気水比A/Rを10以上とするとともに、冷却スプレーノズル21bから鋳片1の表面に衝突する冷却水の衝突圧を12gf/cm以上とし、第1の冷却ゾーン21における冷却水密度W(L/min/m)と、鋳片1が第1の冷却ゾーン21を通過する時間t(min)との積として定義される冷却強度W×tを350以上とし、第1の冷却ゾーン21通過後から曲げ部30に到達するまでの鋳片1の復熱時間tを0.5min以上とする。
(連続鋳造装置100の構成)
本実施形態に係る連続鋳造方法は、公知の垂直曲げ型の連続鋳造装置に好ましく用いることができる。鋳型10は鋳造対象である鋳片1の形状に応じた断面形状を有する。鋳型10の直下には垂直部20が設けられ、垂直部20の直下に曲げ部30が設けられる。
垂直部20の高さ(鋳型10の直下から曲げ部30に至るまでの距離)は、例えば、0.5m以上3.0m以下とすることができる。垂直部20の少なくとも上部側には第1の冷却ゾーン21が設けられる。第1の冷却ゾーン21はロール21aと冷却スプレーノズル21bとを含んで構成される。第1の冷却ゾーン21において、鋳片1の一面側をサポートするロール21aの数は、図1に示す5本に限定されるものではない。例えば1本以上7本以下とすることができる。より好ましくは一面側で6本以下(一面側と他面側との合計で12本以下)である。すなわち、第1の冷却ゾーンにおける冷却段数は、図1に示す5段に限定されず、好ましくは6段以下とする。
第1の冷却ゾーン21において、鋳造方向に隣り合う各々のロール21aの間のロールピッチ(図2のP)は例えば50mm以上300mm以下とすることができ、ロール間の間隔(図2のI)は例えば10mm以上100mm以下とすることができる。第1の冷却ゾーン21において、鋳型10と鋳型直下のロール21aとの間及び/又は鋳造方向に隣り合うロール21aの間には冷却スプレーノズル21bが備えられており、当該冷却スプレーノズル21bから鋳片1の表面へと冷却水を噴射する。各々のロール21aの間の冷却スプレーノズル21bの本数は、鋳造方向に例えば1本であり、鋳片幅方向に少なくとも1本である。
垂直部20は、第1の冷却ゾーン21と曲げ部30との間(第1の冷却ゾーン21の直下)に第2の冷却ゾーン22を備えていてもよい。第2の冷却ゾーン22において、鋳片1の一面側をサポートするロール22aの数は、例えば0本以上10本以下とすることができる。第2の冷却ゾーン22において、鋳造方向に隣接するロール21aとロール22aとの間やロール22aの間には冷却スプレーノズル(不図示)を配置してもよく、この場合、各々のロール22aの間の冷却スプレーノズルの本数は、鋳造方向に例えば1本、鋳片幅方向に少なくとも1本とすることができる。
ロール21aは、分割ロールであってもよい。分割ロールとは、ロールの軸に沿った方向において、ロール面が2以上に分けられたロールを意味する。ロール面は3面、4面、あるいは5面かそれ以上に分割されてもよい。分割ロールは、分割された複数のロール面の間に、ロール面よりも径が小さい軸部を有する。ロール21aが分割ロールではない場合には、ロールの両端部を軸受け部によって支えるが、分割ロールの場合には、このロール面間の軸部を軸受け部によって支える。
たまり水が発生しやすい鋳片1の幅方向の中央部に比べて鋳片1の端部近傍は冷却され易く、これによって生じる鋳片1の幅方向における温度差によって、鋳片1の端部近傍で表面割れが生じ易い傾向にある。ロール21aを分割ロールとすることで、複数のロール面の間の軸部からたまり水が排出されるようになり、鋳片1の幅方向における温度差が緩和され、鋳片の表面割れを抑制することができる。また、ロール21aの両端部のみならず、ロールの中間にある軸部においてロールを支えることで、ロール径が小さい場合でもロールの曲がりを抑制することができる。
ロール22aについても、上記のようなロール21aと同様の理由で分割ロールを採用してもよい。
垂直部20を経た鋳片1は、曲げ部30での曲げ及び矯正を経て、水平方向に搬送される。尚、本願にいう「曲げ部」とは、鋳片1の鋳造方向が鉛直方向から水平方向へと変化する部分をいう。曲げ部30については従来公知の構成と同様とすればよいことから、ここでは詳細な説明を省略する。
(第1の冷却ゾーン21における気水比)
冷却スプレーノズル21bからの冷却水の衝突圧を増加させるには、冷却水量を増加させるか、もしくは、冷却水量を担保した状態で空気量を増加させることが有効である。ここで、冷却水量を単に増加させた場合、ロール21aにおけるたまり水が発生し易い。たまり水を抑制しつつ冷却水の衝突圧を増加させるには、冷却水量に対する空気量の比(気水比)を増大させることが好ましい。この観点から、本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、第1の冷却ゾーン21において、冷却スプレーノズル21bの一本当たりの水量R(L/min)に対する空気量A(L/min)の比である気水比A/Rを10以上とする。気水比の上限は特に限定されるものではないが、噴霧安定性の観点から100以下とすることが好ましい。より好ましくは50以下である。
(第1の冷却ゾーン21における水量R
冷却スプレーノズル21bの水量Rは後述する衝突圧や冷却強度を考慮して調整すればよい。特に、本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、第1の冷却ゾーン21において、冷却スプレーノズル21bの一本当たりの水量R(L/min)を20L/min以上50L/min以下とすることが好ましい。これにより、たまり水の発生をより容易に抑制しつつ、スプレーの衝突圧をより容易に増大させることができる。
(第1の冷却ゾーン21における冷却水の衝突圧)
本発明者は、高温の鋳片(例えば950℃以上)に対しミストスプレーで冷却を行う際に、冷却能力(熱伝達係数)がスプレーの衝突圧とよい相関があることを見出した。これは、遷移沸騰領域においては沸騰膜の伝熱抵抗が鋳片表面の伝熱において支配的に働くため、衝突圧の増加に伴い沸騰膜が物理的に押しのけられることによって薄くなり、結果として熱伝達係数が増加するためである。加えて、一定の衝突圧以上となると鋳片表面に固着したモールドパウダーが剥離され、スプレー冷却による幅方向の温度ムラを低減できる。この観点から、本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、第1の冷却ゾーン21において、冷却スプレーノズル21bから鋳片1の表面に衝突する冷却水の衝突圧を12gf/cm以上とする。好ましくは13gf/cm以上、より好ましくは15gf/cm以上、さらに好ましくは17gf/cm以上である。一方で、衝突圧が大きすぎると、鋳片1の凝固シェルが部分的に凹み、ロール21aと鋳片1との間から上方に冷却水が吹き上がり、ブレークアウトの虞がある。この観点から、本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、冷却スプレーノズル21bから鋳片1の表面に衝突する冷却水の衝突圧を50gf/cm以下とすることが好ましい。より好ましくは40gf/cm以下、さらに好ましくは30gf/cm以下である。
尚、鋳片1の表面に衝突する冷却水の衝突圧は、例えば、受圧センサーを用いてオフラインで測定する方法、もしくは、以下の簡易な式1により見積もることができる。
Figure 0007020568000001
上記式1において、Pc[gf/cm]:衝突圧、W[L/min/m]:水量密度、Va[m/s]:圧空吐出流速(エアー流量[Nm/s]/エアーオリフィス面積[m])、H[m]:噴射距離、A/R[-]:気水比(エアーと水の体積比)である。
(第1の冷却ゾーン21における冷却強度)
本発明者の新たな知見によると、第1の冷却ゾーン21における冷却強度(W×t)を増大させることで、鋳片表層に微細組織を生成させ、割れの発生を抑制できる。第1の冷却ゾーン21において冷却強度を増大させることで、鋳片表面をAr点以下の温度にまで適切かつ速やかに冷却することができ、鋳片表面の微細組織の制御がより容易となるためと考えられる。この観点から、本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、第1の冷却ゾーン21における冷却水密度W(L/min/m)と、鋳片1が第1の冷却ゾーン21を通過する時間t(min)との積として定義される冷却強度W×tを350以上とする。冷却強度の上限は特に限定されるものではないが、例えば1500以下とすることが好ましい。より好ましくは1200以下である。
尚、「冷却水密度W」とは、鋳片表面の単位面積(m)当たり、単位時間(min)当たりに噴射される冷却水の量(L)をいう。「冷却水密度W」は、例えば、「冷却スプレーノズル21bの一本当たりの水量R(L/min)を、鋳造方向のロールピッチP(m)と鋳片幅方向におけるスプレー噴射幅(m)との積で除したもの」として定義することができる。
冷却水密度Wは上記の気水比や衝突圧等を考慮して調整すればよい。ここで、第1の冷却ゾーン21において、二次元的に冷却されるコーナー近傍は過冷却になりやすく、また、特に高水量の場合にロールにおけるたまり水が発生し易く、鋳片表面の二次冷却が不均一となる虞がある。一方で、あまりに低水量とした場合、上記の衝突圧等を達成し難くなる。この点、本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、第1の冷却ゾーン21において、冷却水密度W(L/min/m)を500L/min/m以上2000L/min/m以下とすることが好ましい。下限がより好ましくは600L/min/m以上であり、上限がより好ましくは1750L/min/m以下である。
(第1の冷却ゾーン21通過後の復熱)
本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、第1の冷却ゾーン21を通過後に鋳片1の表面を復熱させ、鋳片1が曲げ部30に到達する時点で鋳片1の表面の温度をAc点以上の温度とすることが好ましい。これをより容易に実現すべく、本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、第1の冷却ゾーン21通過後から曲げ部30に到達するまでの鋳片1の復熱時間tを0.5min以上とする。復熱時間tを0.5min以上とすることで、第1の冷却ゾーン21においてAr点以下の温度にまで冷却された鋳片表面が、鋳片内部の顕熱によってAc点以上の温度にまで復熱され、鋳片表層が安定してγ粒界が不明瞭な微細組織となる。復熱時間tの上限は特に限定されるものではないが、好ましくは2.0min以下であり、より好ましくは1.75min以下である。
(その他)
本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、垂直曲げ型の連続鋳造装置100が、第1の冷却ゾーン21から曲げ部30までの間に第2の冷却ゾーン22を備え。ここで、本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、第1の冷却ゾーン21において鋳片表面をAr点以下の温度まで冷却し、その後二次冷却を調整して、Ac点以上の温度にまで復熱させるとよい。この場合、鋳片内部に十分な顕熱を持った状態で第1の冷却ゾーン21を通過し、機械的な歪のかかる曲げ部30までにAc点までの復熱を完了する必要がある。よって、第2の冷却ゾーン22においては、第1の冷却ゾーン21と比較して、冷却水密度を低下させる必要がある。具体的には、第2の冷却ゾーン22において、冷却水密度W(L/min/m)を0L/min/m以上50L/min/m以下とすることで鋳片1の表面を復熱させることが好ましい。
尚、本願においては、体心立方格子(bccのフェライト相)からオーステナイトの面心立方格子(fcc)に変態する温度のA点において、冷却する際のA変態(フェライト変態)する温度をAr点、加熱する際のA変態(オーステナイト変態)する温度をAc点と記載する。
上述したように、本実施形態の鋼の連続鋳造方法においては、二次冷却帯である垂直部20の上部側に設けられた第1の冷却ゾーン21において高気水比かつ高衝突圧のミストスプレーにより鋳片1を冷却することで、鋳片表層のミクロ組織を制御するとともに、二次冷却不均一に起因した鋳片表面割れを防止することができる。ここで、垂直曲げ型の連続鋳造装置100にて鋼を連続鋳造する場合、鋳型10の直下で強冷却して、鋳片表面から少なくとも2mmをAr点以下の温度まで冷却することが好ましい。その後、曲げ部30に到達するまでに鋳片表面をAc点以上の温度にまで復熱させることで、鋳片表面割れをより適切に抑制できる。
第1の冷却ゾーン21に設置する冷却スプレーノズル21bは、大流量のミストスプレーノズルかつ高気水比でも安定した噴霧が得られる設計とする必要がある。また、衝突圧を担保するため、鋳片1との距離が小さいことが望ましい。具体的には、鋳片1の表面から冷却スプレーノズル21bまでの距離(スプレー高さ)を50mm以上150mm以下とすることが好ましい。50mm以下であると冷却スプレーノズル21bと鋳片1との距離が近く、ノズルづまりの危険性が大きくなり、また、スプレーチェック等の設備保全の弊害となる虞がある。
本実施形態の鋼の連続鋳造方法において、上記以外の条件は特に限定されるものではない。対象となる鋼種に特に限定はない。より顕著な効果が得られる観点からは、Ti、Nb、Ni及びCuのうちの少なくとも一つの合金元素を含有した低合金鋼を対象とすることが好ましい。鋳造速度については、低速から高速のいずれにも対応可能である。好ましくは、鋳造速度Vcを500mm/min以上3000mm/min以下とする。本実施形態の連続鋳造方法において、曲げ部30以降の鋳造条件は従来と同様とすればよい。本実施形態の鋼の連続鋳造方法によれば、例えば、スラブを製造することができる。
本発明の他の実施形態によれば、上述した実施形態の各構成を採用した鋼の連続鋳造装置が提供される。
以上の通り、本発明の鋼の連続鋳造方法においては、垂直部20の上部側に設けられた第1の冷却ゾーン21において高気水比かつ高衝突のミストスプレーにより鋳片を冷却し、かつ、第1の冷却ゾーン21における冷却強度を所定以上に高め、さらには、第1の冷却ゾーン21による冷却後、曲げ部に到達するまでの鋳片1の復熱時間を所定以上とすることで、鋳片表層のミクロ組織を制御でき、二次冷却不均一に起因した鋳片表面割れを抑制できるとともに、曲げ部における歪に起因した鋳片表面割れを抑制できる。
以下、実施例を示しつつ、本発明の鋼の連続鋳造方法についてより詳細に説明する。
1.実験条件
垂直曲げ型連続鋳造装置を使用して幅2200mm、厚み300mmの鋳片を製造した。鋼種は表1に示す組成(質量%)を有する割れ感受性の高い低合金鋼とした。
なお、鋼種A、BのAc点温度は、それぞれ898℃、872℃である。
Figure 0007020568000002
連続鋳造装置の二次冷却帯において、鋳型直下から1~6本目までの5段のロール間に、1段あたりミストスプレーノズルを幅方向150mmごとに15本設置し、各段の冷却水量を独立して制御できるものとした。この冷却ゾーンを「第1の冷却ゾーン」と称し、水量および空気量を適宜変更して実験を行った。加えて、第1の冷却ゾーンのロールの形状を適宜変更して実験を行った。「分割ロール1」は幅方向の大きさが100mmの軸受け部を1箇所備えた分割ロールであり、「分割ロール2」は幅方向の大きさが100mmの軸受け部を2箇所備えた分割ロールであり、一本ロールは分割箇所を備えず鋳片全幅とロールとが接触するロールである。
第1の冷却ゾーン直下から曲げ部までの冷却ゾーン(第2の冷却ゾーン)においては、平均水量密度Wと通過時間tの積が0~50(L/m)となる冷却条件として、第1の冷却ゾーン通過後、曲げ部に到達するまでに鋳片を復熱させるようにした。
下記表2にその他の鋳造条件を示す。
Figure 0007020568000003
2.評価条件
鋳片の表面割れ発生状況に関し、それぞれの鋳造条件の定常部において鋳造方向に100mm長さの全幅サンプルを鋳造方向に2箇所切り出し、鋳片表面を酸洗浄し、観察された5mm以上の長さの表面割れの個数の合計を「割れ個数」として評価した。また、同サンプルの表層から30mm、幅50mmの顕微鏡観察用のサンプルを幅方向に5つ切り出し、鋳造組織の観察も行った。なお、定常部とは、目標の鋳造速度で引き抜かれた鋳片の部位を意味する。
下記表3に、実施例及び比較例にかかる鋳造条件の詳細及び割れ個数の評価結果を示す。
Figure 0007020568000004
表3に示す結果から明らかなように、実施例1~6では、上記のような表面割れは皆無であり、実施例7~10では浅い表面割れが見られたのみであり問題なかった。また、表層の断面をナイタールエッチングし、光学顕微鏡で観察したところ、少なくとも表面から2mmにおいて50μm以下の微細なフェライト・パーライトからなる組織が幅方向に均一に生成していることが確認できた。
実施例1~6においては、鋳型直下の第1の冷却ゾーンにおいて、鋳片表面に固着したパウダーを剥離しつつ、たまり水を低減した冷却を行うことができたものと考えられ、これにより、鋳片幅方向においても安定的に鋳片表層をAr点以下の温度まで冷却することができ、その後、曲げ部に到達するまでに鋳片表面の温度をAc点以上の温度にまで復熱させることができ、割れ難い組織に制御できたものと考えられる。
実施例7~10では、表層の微細な組織に若干のムラが生じており、たまり水の影響を受けたとみられ、これが浅い割れの原因となったものと考えられる。
実施例1~10のいずれにおいても、鋳片表面に固着したパウダーおよびスケールはなく、十分な衝突圧により、これらを剥離できていることが確認できた。
一方、比較例1では冷却強度(W×t)が不十分であり、表層の微細な組織が1mm以下となる位置(鋳片の厚さ方向における組織の長さが1mm以下となる位置)において表面割れが多数発生していた。
比較例2では冷却強度(W×t)は十分であるが、復熱時間(t)が短かったことから、鋳片表面に微細組織が生成する前に曲げ部での歪を受け、表面割れが多数発生したものと考えられる。特に、二次元的に冷却されるコーナー近傍で顕著に割れが観察された。
比較例3では、冷却強度(W×t)は充分であったが、気水比(A/R)が小さく、たまり水の排出が悪化したものと考えられる。これにより、幅方向に不均一に割れが多数発生した。
比較例4、5では衝突圧が不十分であり、冷却ムラによる不均一な割れが多数発生した。表層サンプルからも固着したパウダーとスケールが確認され、これらを剥離するに十分な衝突圧が与えられなかったことがわかった。
以上の結果から、垂直曲げ型連続鋳造装置を用いて鋼の連続鋳造を行う場合に発生する鋳片表面割れを防止するためには、二次冷却帯における鋳片の冷却条件を以下の通りとすることが有効といえる。
(1)垂直部の上部側に設けられた第1の冷却ゾーンにおいて、冷却スプレーノズルの一本当たりの水量R(L/min)に対する空気量A(L/min)の比である気水比A/Rを10以上とする。
(2)第1の冷却ゾーンにおいて、冷却スプレーノズルから前記鋳片の表面に衝突する冷却水の衝突圧を12gf/cm以上とする。
(3)第1の冷却ゾーンにおける冷却水密度W(L/min/m)と、鋳片が第1の冷却ゾーンを通過する時間t(min)との積として定義される冷却強度W×tを350以上とする。
(4)第1の冷却ゾーン通過後から曲げ部に到達するまでの鋳片の復熱時間tを0.5min以上とする。
本発明は、鋳片表層のミクロ組織を制御でき、二次冷却不均一に起因した鋳片表面割れを抑制できるとともに、曲げ部における歪に起因した鋳片表面割れを抑制できる鋼の連続鋳造方法を提供できるため、産業上の利用可能性が高い。
1 鋳片
10 鋳型
20 垂直部
21 第1の冷却ゾーン
21a ロール
21b 冷却スプレーノズル
22 第2の冷却ゾーン
22a ロール
30 曲げ部
100 連続鋳造装置

Claims (5)

  1. 鋳型から鋳片を鉛直方向下方に引き抜く垂直部と、前記垂直部から引き抜かれた前記鋳片を曲げる曲げ部とを備え、前記垂直部の上部側が、ロールと冷却スプレーノズルとを含み、前記ロール間の各段あたりに設置された、冷却水量を独立して制御できる前記スプレーノズルの冷却段数で決まる第1の冷却ゾーンと、
    前記第1の冷却ゾーンから前記曲げ部までの間に位置する第2の冷却ゾーンを備える垂直曲げ型の連続鋳造装置を用いて鋼を連続的に鋳造する方法であって、
    前記第1の冷却ゾーンにおいて、前記冷却スプレーノズルの一本当たりの水量R(L/min)に対する空気量A(L/min)の比である気水比A/Rを10以上とするとともに、前記冷却スプレーノズルから前記鋳片の表面に衝突する冷却水の衝突圧を12gf/cm以上とし、
    前記第1の冷却ゾーンにおける冷却水密度W(L/min/m)を500L/min/m以上2000L/min/m以下とし、
    前記鋳片が前記第1の冷却ゾーンを通過する時間t(min)との積として定義される冷却強度W×tを350以上とし、
    前記第1の冷却ゾーン通過後から前記曲げ部に到達するまでの前記第2の冷却ゾーンにおける冷却水密度W(L/min/m)を前記第1の冷却ゾーンと比較して低下させることで、前記鋳片の前記第2の冷却ゾーンを通過する復熱時間tを0.5min以上とすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
  2. 前記第1の冷却ゾーンにおいて、前記冷却スプレーノズルの一本当たりの水量R(L/min)を20L/min以上50L/min以下とすることを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
  3. 前記垂直曲げ型の連続鋳造装置が、前記第1の冷却ゾーンから前記曲げ部までの間に第2の冷却ゾーンを備え、前記第2の冷却ゾーンにおいて、冷却水密度W(L/min/m)を0L/min/m以上50L/min/m以下とすることで前記鋳片の表面を復熱させることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼の連続鋳造方法。
  4. 前記第1の冷却ゾーンを通過後に前記鋳片の表面を復熱させ、前記鋳片が前記曲げ部に到達する時点で前記鋳片の表面の温度をAc点以上の温度とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法。
  5. 前記ロールが分割ロールであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法。
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